(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023684
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】イヌ間葉系幹細胞培養用培地、イヌ間葉系幹細胞の培養方法及びイヌ間葉系幹細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20220201BHJP
C07K 14/50 20060101ALN20220201BHJP
【FI】
C12N5/0775 ZNA
C07K14/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126793
(22)【出願日】2020-07-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム 社会還元加速プログラム(SCORE) 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】枝村 一弥
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065BB19
4B065BB32
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA01
4H045FA10
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】動物から得られた血清の機能を代替する物質(血清代替物)を含有し、化学的組成が明らかである、イヌ間葉系幹細胞培養用培地、イヌ間葉系幹細胞の培養方法及びイヌ間葉系幹細胞の製造方法を提供する。
【解決手段】血清代替物を含有し、化学的組成が明らかである、イヌ間葉系幹細胞培養用培地。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清代替物を含有し、
化学的組成が明らかである、
イヌ間葉系幹細胞培養用培地。
【請求項2】
イヌ以外の動物に由来する成分を含まない、請求項1に記載のイヌ間葉系幹細胞培養用培地。
【請求項3】
以下の(a)~(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質を含み、
前記タンパク質は、イヌ線維芽細胞に対する増殖促進能を有する、請求項1又は2に記載のイヌ間葉系幹細胞培養用培地。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列;
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のイヌ間葉系幹細胞培養用培地でイヌ間葉系幹細胞を培養する工程を含む、イヌ間葉系幹細胞の培養方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のイヌ間葉系幹細胞培養用培地でイヌ間葉系幹細胞を培養する、イヌ間葉系幹細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌ間葉系幹細胞培養用培地、イヌ間葉系幹細胞の培養方法、及び、イヌ間葉系幹細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、疾患を治療する新たな手法として、培養したヒト幹細胞を投与する再生・細胞医療が実施されている。また、イヌの疾患を治療するために、培養したイヌの幹細胞を対象のイヌに投与する治療方法が試みられている。
【0003】
投与する幹細胞としては、動物の成体において比較的容易に採取することができる、間葉系幹細胞が注目されている。間葉系幹細胞は、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞等、間葉系に属する細胞への分化能をもつ細胞である。
【0004】
間葉系幹細胞をイヌに投与する場合、イヌの間葉系幹細胞が用いられる。しかし、イヌの間葉系幹細胞を培養する培地には、ウシ胎仔血清(FBS)等のイヌ以外の動物に由来する血清成分が用いられることが多い。例えば、特許文献1には、ヒトの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、ウシ胎仔血清(FBS)を含む培地が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ウシ胎仔血清等の血清含有培地は、化学的組成が明らかではなく、ロット間で組成に差があるため、血清含有培地を用いて培養した細胞は品質にばらつきが生じる場合がある。
また、動物から採取された血清にはウイルスが混入している場合があり、そのような血清を含む培地で培養した細胞を投与されたイヌは、ウイルスに感染するおそれがある。さらに、イヌ以外の動物の血清にはイヌにとっては未知のウイルスが混入している可能性がある。
また、ヒト由来タンパク質等のイヌ以外の動物に由来する成分を含む培地で培養した細胞を投与されたイヌは、予期せぬ免疫反応を起こすおそれがある。
そこで、本発明は、動物から得られた血清の機能を代替する物質(血清代替物)を含有し、化学的組成が明らかである、イヌ間葉系幹細胞培養用培地、イヌ間葉系幹細胞の培養方法及びイヌ間葉系幹細胞の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]血清代替物を含有し、化学的組成が明らかである、イヌ間葉系幹細胞培養用培地。
[2]イヌ以外の動物に由来する成分を含まない、[1]に記載のイヌ間葉系幹細胞培養用培地。
[3]以下の(a)~(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質を含み、前記タンパク質は、イヌ線維芽細胞に対する増殖促進能を有する、[1]又は[2]に記載のイヌ間葉系幹細胞培養用培地。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列;
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列
[4][1]~[3]のいずれかに記載のイヌ間葉系幹細胞培養用培地でイヌ間葉系幹細胞を培養する工程を含む、イヌ間葉系幹細胞の培養方法。
[5][1]~[3]のいずれかに記載のイヌ間葉系幹細胞培養用培地でイヌ間葉系幹細胞を培養する、イヌ間葉系幹細胞の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、動物から得られた血清の機能を代替する物質(血清代替物)を含有し、化学的組成が明らかである、イヌ間葉系幹細胞培養用培地、イヌ間葉系幹細胞の培養方法及びイヌ間葉系幹細胞の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例及び比較例の各培地において、3日間、培養した間葉系幹細胞の写真である。
【
図2】実施例及び比較例の各培地において、7日間、培養した間葉系幹細胞の写真である。
【
図3】実施例及び比較例の各培地に細胞を播種して7日後の細胞数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[培地]
本発明は、一実施形態において、血清代替物を含有し、化学的組成が明らかである、イヌ間葉系幹細胞培養用培地を提供する。本実施形態に係る培地は、イヌ間葉系幹細胞の培養のために用いることができる。以下、「本実施形態に係るイヌ間葉系幹細胞培養用培地」を単に「本実施形態に係る培地」と称する場合がある。
【0011】
本実施形態に係る培地は、動物から採取された血清等の組成が不明な成分を含有せず、化学的組成が明らかであるため、培地のロット間の成分の変動を低減することができ、培養された細胞の品質のばらつきを低減することができる。
【0012】
(イヌ間葉系幹細胞)
本実施形態の培地で培養されるイヌ間葉系幹細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、肝細胞、神経細胞等に分化可能な幹細胞の一種である。
【0013】
本実施形態に係る培地で培養されるイヌ間葉系幹細胞としては、例えば、イヌから採取した間葉系幹細胞であってもよい。イヌ間葉系幹細胞は、例えば、イヌの脂肪細胞等から公知の方法により単離することができる。また、イヌ間葉系幹細胞は、イヌの多能性幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞)から、分化誘導されたものであってもよい。イヌ多能性幹細胞からのイヌ間葉系幹細胞の分化誘導には、公知の方法を用いることができる。本実施形態に係る培地で培養されるイヌ間葉系幹細胞は、好ましくは、イヌiPS細胞又はイヌES細胞から分化した間葉系幹細胞である。
【0014】
イヌ間葉系幹細胞であることは、表面抗原マーカーの発現等により確認することができる。間葉系幹細胞のポジティブマーカー(間葉系幹細胞で発現する表面抗原)としては、例えば、CD44、CD73、CD90、CD105等が挙げられる。また、イヌ間葉系幹細胞のネガティブマーカー(間葉系幹細胞で発現しない表面抗原)としては、例えば、CD45、CD34、CD14、CD11b、CD79、CD19等が挙げられる。
【0015】
(血清代替物)
本実施形態に係る培地は、血清代替物を含有する。
血清代替物とは、血清と類似した成分を含む組成物であり、これを培地に添加することにより、血清非存在下でも細胞の増殖が可能となる。
本実施形態に係る培地に含まれる血清代替物は、化学的組成が明らかなものである。化学的組成の明らかな血清代替物は、例えば、血清が含有していることが既知である物質若しくは当該物質と類似の機能を有する物質を混合することにより作製することができる。また、それらの物質に加えて、適宜、間葉系幹細胞の増殖に寄与する物質等を加えてもよい。準備した組成物が血清代替物として機能するか否かは、例えば、血清含有培地における血清に替えて当該組成物を培地に添加し、イヌ間葉系幹細胞を培養することにより確認することができる。当該培地でイヌ間葉系幹細胞が増殖できる場合、当該組成物はイヌ間葉系幹細胞用の血清代替物として機能すると判断することができる。血清代替物に用いる物質は、イヌ以外の動物に由来する物質でないことが好ましい。なお、本明細書において、「イヌ以外の動物に由来する物質」とは、イヌ以外の動物の生体内に存在し、イヌの生体内には存在しない生体物質を意味する。「イヌ以外の動物に由来する物質」は、イヌ以外の動物から単離された生体物質、及び、イヌ以外の動物の生体内に存在し、イヌの生体内には存在しない、人工的に合成された生体物質を包含する。
【0016】
血清代替物が含有する物質としては、例えば、アルブミン、アミノ酸(例えば非必須アミノ酸)、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、抗酸化成分(例えば2-メルカプトエタノール、3’チオールグリセロール、還元型グルタチオン等)、無機塩類(例えばAgNO3、AlCl3・6H2O、Ba(C2H3O2)2、CdSO4・8H2O、CoCl2・6H2O、Cr2(SO4)3・1H2O、GeO2、Na2SeO3、H2SeO3、KBr、KI、MnCl2・4H2O、NaF、Na2SiO3・9H2O、NaVO3、(NH4)6Mo7O24・4H2O、NiSO4・6H2O、RbCl、SnCl2、ZrOCl2・8H2O、亜セレン酸ナトリウム等)が挙げられる。
【0017】
血清代替物は、市販のものを用いてもよい。市販されている血清代替物としては、例えば、KnockOutTM Serum Replacement(Thermo Fisher Scientific)、Chemically Defined Lipid Concentrate(Thermo Fisher Scientific)、XerumFree(TNCBIO)等が挙げられる。
血清代替物は、一種を用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
(化学的組成が明らかな培地)
本実施形態に係る培地は、化学的組成が明らかである。
本明細書において、培地の「化学的組成が明らかである」とは、培地に含まれる物質、及び、その物質の含有量が明らかであることを意味する。なお、「培地に含まれる物質」とは、培地の作製のために意図的に培地に配合した物質を意味し、培地作製の過程で混入し得る微量の混入物は含まない。
【0019】
動物から採取された血清等は、その組成の全てが明らかではなく、ロットにより成分組成が変化し得る。また、動物から単離されたタンパク質等の生体物質は、意図しない成分が除去できていない可能性がある。そのため、本実施形態に係る培地は、動物から採取された血清、生体物質等を含まない。
【0020】
本実施形態に係る化学的組成が明らかな培地は、上記血清代替物と、イヌ間葉系幹細胞の生育に必要な物質を適宜混合して作製することができる。前記物質としては、間葉系幹細胞の培養に従来用いられている公知の物質が挙げられる。
そのような物質としては、例えば、水、塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の無機塩、ピルビン酸ナトリウム等の有機塩等)、アミノ酸(例えば必須アミノ酸、非必須アミノ酸等)、ビタミン(例えばリボフラビン、ビオチン、シアノコバラミン、アスコルビン酸等)、微量元素(例えばセレン、鉄、亜鉛、銅等)、炭素源(例えばD-グルコース等)、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ポリアミン類(例えばプトレシン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、還元剤(例えば2-メルカプトエタノール等)、ステロイド(例えばβ-エストラジオール、プロゲステロン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等、脂質類(例えばリノール酸等)、核酸類(例えばチミジン等)が挙げられる。
【0021】
本実施形態に係る培地は、例えば、化学的組成が明らかな基礎培地に、血清代替物を添加したものであってもよい。「基礎培地」とは、培養対象の細胞の生育に必要な物質を含む培地であり、培養対象が動物細胞である場合、通常、基礎培地に血清成分を添加した培地が用いられる。動物細胞用の基礎培地は、各種提案されている。
基礎培地としては、例えば、BME、BGJb、CMRL1066、Glasgow’s MEM、Improved MEM Zinc Option、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199、Eagle MEM、α-MEM、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10、ハムF12、ハムF12K、RPMI-1640、Fischer、ATCC-CRCM30、DM-160、DM-201、McCoy’5A、Leibovitz’s L-15、RITC80-7、MCDB105、MCDB107、MCDB131、MCDB153、MCDB201、NCTC109、NCTC135、Waymouth’s MB752/1、CMRL-1066、Williams’ medium E、Brinster’s BMOC-3、E8等が挙げられる。
基礎培地は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
混合培地としては、例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等が挙げられる。
基礎培地は、動物細胞用に販売されている市販のものを用いてもよい。市販の基礎培地としては、例えば、ADSC-1、ADSC-2(KOHJIN BIO)、Fibro Assist(KOHJIN BIO)等が挙げられる。本実施形態に係る培地に用いる基礎培地としては、これらの市販の基礎培地を用いることが好ましい。
【0022】
基礎培地は、化学的組成が明らかであることに加えて、イヌ以外の動物に由来する物質を含まないことが好ましい。
【0023】
本実施形態に係る培地は、動物細胞用の基礎培地に、血清代替物を添加して作製することができる。前記基礎培地には、化学的組成が明らかなものを用いる。基礎培地に対する血清代替物の割合は、特に限定されないが、例えば、5~15体積%とすることができる。市販の血清代替物を用いる場合、製造者のガイドラインに従い、血清代替物の使用量を決定することができる。
【0024】
本実施形態に係る培地は、イヌ以外の動物に由来する成分を含まないことが好ましい。本実施形態に係る培地は、イヌ以外の動物に由来する成分を含まないことで、この培地で培養されたイヌ間葉系幹細胞をイヌの生体内に移植しても、免疫反応が起こるリスクを低減することができる。
【0025】
例えば、間葉系幹細胞の培養培地には、通常、bFGFが用いられている。イヌ間葉系幹細胞の培地にもbFGFが用いられるが、従来のイヌ間葉系幹細胞培地には、ヒト間葉系幹細胞用の培地と同様に、ヒトbFGFが用いられてきた。しかしながら、ヒトbFGFは、ヒト由来のものであり、イヌの生体物質ではないため、ヒトbFGFを含む培地で培養されたイヌ間葉系幹細胞をイヌに移植した場合、イヌ間葉系幹細胞に混入するヒトbFGFにより予期せぬ免疫反応が起こるリスクがある。そのため、bFGFは、イヌbFGFを用いることが好ましい。また、bFGF以外のタンパク質を用いる場合も、イヌ由来のタンパク質を用いることが好ましい。
【0026】
<タンパク質>
本実施形態に係る培地は、化学的組成が明らかな、増殖因子等のタンパク質を含有してもよい。前記タンパク質は、イヌにおいて発現が確認されているタンパク質と同等の機能を有する。前記タンパク質は、イヌ等の動物から採取されたものではないことが好ましい。
【0027】
本実施形態に係る培地が含有するタンパク質は、以下の(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列からなり、イヌにおいて発現が確認されているタンパク質と同等の機能を有する。
(1)イヌにおいて発現が確認されているタンパク質のアミノ酸配列;
(2)イヌにおいて発現が確認されているタンパク質のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列;
(3)イヌにおいて発現が確認されているタンパク質のアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列
【0028】
本実施形態の培地が含み得る、イヌにおいて発現が確認されているタンパク質としては、例えば、イヌ繊維芽細胞成長因子(FGF)、イヌ上皮成長因子(EGF)、イヌ血小板由来成長因子(PDGF)、イヌインスリン、イヌインスリン様成長因子(IGF)等が挙げられる。
イヌFGFとしては、例えば、イヌbFGFが挙げられる。
【0029】
イヌbFGFとしては、例えば、以下の(a)~(c)のいずれかのアミノ酸配列からなり、イヌ線維芽細胞に対する増殖促進能を有するタンパク質が挙げられる。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列;
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列
【0030】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、イヌbFGFのアミノ酸配列であり、Genbankのアクセッション番号:XP_003432529として開示されている。
【0031】
前記(b)のアミノ酸配列において、欠失、置換、若しくは付加されてもよいアミノ酸の数としては、1個以上10個以下が好ましく、1個以上5個以下がより好ましく、1個以上3個以下がさらに好ましい。
【0032】
なお、(b)における「置換」は、アミノ酸配列中の任意のアミノ酸を、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換するものであることが好ましい。例えば、アミノ酸は、側鎖の種類により、酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン、アルギニン及びヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン及びトレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン及びメチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン及びグルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン)等に分類することができる。一般的に起こり得るアミノ酸の置換としては、例えば、アラニン/セリン、バリン/イソロイシン、アスパラギン酸/グルタミン酸、トレオニン/セリン、アラニン/グリシン、アラニン/トレオニン、セリン/アスパラギン、アラニン/バリン、セリン/グリシン、チロシン/フェニルアラニン、アラニン/プロリン、リシン/アルギニン、アスパラギン酸/アスパラギン、ロイシン/イソロイシン、ロイシン/バリン、アラニン/グルタミン酸、アスパラギン酸/グリシン等が挙げられる。
【0033】
前記(c)のアミノ酸配列からなるタンパク質は、前記(a)のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質であるためには95%以上の配列同一性を有する。係る配列同一性としては、97%以上が好ましく、99%以上がより好ましい。
【0034】
ここで、基準アミノ酸配列に対する、対象アミノ酸配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列をアラインメントする。ここで、各アミノ酸配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列において、一致したアミノ酸の数を算出し、下記式にしたがって、配列同一性を求めることができる。
【0035】
「配列同一性(%)」 = [一致したアミノ酸の数]/[対象アミノ酸配列のアミノ酸の総数]×100
【0036】
前記イヌbFGFは、無細胞タンパク質合成系により得られたもの、又は化学合成により得られたものであることが好ましい。無細胞タンパク質合成系により得られるイヌbFGFは、イヌ線維芽細胞に対する増殖促進能を有し、イヌbFGFとして機能する。そのため、無細胞タンパク質合成系により得られるイヌbFGFを本実施形態に係る培地に用いることにより、イヌ間葉系幹細胞の増殖促進が期待できる。
【0037】
無細胞タンパク質合成系としては、例えば、コムギ胚芽、酵母、昆虫細胞、大腸菌等から得られた細胞抽出液を利用した合成系;翻訳に必要な因子を再構成した合成系等が挙げられる。無細胞タンパク質合成系としては、公知の方法を用いることができる(例えば、特開2019-083825号公報を参照)。上述の無細胞タンパク質合成系は、翻訳の過程に加えて、転写の過程を含む合成系であってもよい。無細胞タンパク質合成系としては、コムギ胚芽無細胞合成系を用いることが好ましい。コムギ胚芽無細胞合成系を用いたイヌbFGFの製造方法は、より具体的には、例えば、(1)転写鋳型を調製する工程、(2)転写反応液と転写鋳型を混合し、転写反応を行う工程、(3)転写反応産物であるmRNAを含む転写溶液を、タンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液に添加して、翻訳反応溶液を調製させた後、翻訳反応基質溶液を当該翻訳反応溶液に重層させて、翻訳反応を行う工程により、実施することができる。
【0038】
上記(1)の工程において、「転写鋳型」とは、インビトロ転写反応の鋳型分子として使用し得る核酸を意味し、適当なプロモーター配列の下流に上記組換えタンパク質をコードする塩基配列を少なくとも有する。適当なプロモーター配列とは、転写反応において使用されるRNAポリメラーゼが認識し得るプロモーター配列をいい、例えば、SP6プロモーター、T7プロモーター等が挙げられる。上記組換えタンパク質をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号2に示される塩基配列等が挙げられる。なお、配列番号2に示される塩基配列は、「(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列」からなるタンパク質をコードするものである。前記組換えタンパク質をコードするDNAをPCR法によって増幅及び合成した反応産物を精製することなくそのまま転写鋳型として用いることができる。
上記組換えタンパク質をコードするDNAは、例えば、発現ベクターに挿入された形態であってもよい。ここで用いられる発現ベクターとしては、用いる宿主や目的等に応じて適宜選択することができ、例えば、プラスミド、ファージベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。例えば、宿主が大腸菌である場合には、コムギ無細胞タンパク質合成系で合成効率を最大限に発揮するために最適化された発現ベクターであるpEU等のプラスミドベクターを用いることができる。
【0039】
上記(2)の工程は、反応系(例えば、96穴タイタープレート等の市販の容器)に、転写鋳型を含む溶液と、転写鋳型中のプロモーターに適合するRNAポリメラーゼ(例えば、SP6 RNAポリメラーゼ等)やRNA合成用の基質(4種類のリボヌクレオシド3リン酸)等の転写反応に必要な成分を含む溶液(「転写反応用溶液」ともいう)とを混合した後、20℃以上60℃以下程度、好ましくは30℃以上42℃以下程度で約30分間以上16時間以下程度、好ましくは2時間以上10時間以下程度、該混合液をインキュベートすることにより行うことができる。
【0040】
上記(3)の工程において用いられるコムギ胚芽由来の細胞抽出液としては、翻訳鋳型を翻訳して該鋳型にコードされるタンパク質を生成させ得るものであれば如何なるものであってもよい。具体的には、市販のものを用いてもよく、既知の方法、具体的には、〔Madin K et al., Proc Natl Acad Sci USA, Vol. 97, Issue 2, pp. 559-564, 2000.〕や国際公開第00/68412号に記載の方法等に準じて調製することもできる。
市販のタンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液としては、「WEPRO(登録商標、以下「登録商標」との記載を省略する)7240H Expression Kit」(商品名)(セルフリーサイエンス社製)に添付のもの(「WEPRO7240H」(商品名))等が挙げられる。さらに、調製されたタンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液である場合には、調製工程において混入した胚乳成分及び低分子のタンパク質合成阻害物質が実質的に除去されたコムギ種子胚芽抽出液が好適である。これらは従来のコムギ種子胚芽抽出液と比較して、抽出液中のタンパク質合成阻害に関与する成分及び物質が低減されているためである。
【0041】
次いで、転写溶液とタンパク質合成用コムギ胚芽由来の細胞抽出液との混合液(「翻訳反応液)に、基質となるアミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、ATP再生系、核酸分解酵素阻害剤、tRNA、還元剤、ポリエチレングリコール、3',5'-cAMP、葉酸塩、抗菌剤等の、翻訳反応に必要又は好適な成分を含有する溶液(翻訳反応基質溶液)を添加して、翻訳反応に適した温度で適当な時間インキュベートすることにより翻訳反応を行うことができる。
【0042】
翻訳反応液に対する翻訳反応基質溶液の添加の態様は、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成法に適用し得る自体公知のいずれの系であってもよく、例えば、バッチ法や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞タンパク質合成法、透析法、重層法等が挙げられる。更には、合成反応系に鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する不連続ゲル濾過法や、合成反応槽が分子篩可能な担体によって調製され、上記の合成材料等が該担体を移動相として展開され、展開中に合成反応が実行され、結果として合成されたタンパク質を回収し得る方法等を用いることができる。中でも、合成系の構造の単純化、省スペース、低コスト、ハイスループット解析に適用可能な多検体同時合成システムの提供の点から、バッチ法又は重層法が好ましく、比較的大量のタンパク質を得ることができる点で重層法が特に好ましい。重層法により翻訳反応を行う場合、例えば、国際公開第02/24939号に記載の方法を用いて行なうことができる。
【0043】
タンパク質の化学合成法としては、例えば、t-ブトキシカルボニル(t-Butoxycarbonyl:Boc)法、9-フルオレニルメトキシカルボニル(9-Fluorenylmethoxycarbonyl:Fmoc)法等をあげることができる。
【0044】
本実施形態に係る培地は、好ましくは、間葉系幹細胞の増殖培養用培地である。「間葉系幹細胞の増殖培養用培地」とは、培地中の細胞が、間葉系幹細胞に特徴的な自己複製能や分化能を維持した状態で増殖することを可能にする培地である。
【0045】
本明細書において、細胞が増殖の状態にあるとは、培養中の細胞の大部分(例えば、培地中の細胞数の総数の60%、好ましくは70%、より好ましくは80%、さらに好ましくは90%、最も好ましくは100%の細胞)が細胞周期のG1、S、G2またはM期のいずれかに属していることを意味する。
【0046】
本明細書において、培地中の細胞が、間葉系幹細胞に特徴的な自己複製能や分化能を維持した状態にあるとは、前記細胞を、特定の細胞(例えば、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞等)への分化を誘導する培地で培養することにより、当該細胞が当該特定の細胞に分化し得ることをいう。例えば、特定の細胞への分化誘導を行った際に、細胞数の総数の60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の細胞が、当該特定の細胞へと分化し得る。特定の細胞に分化したか否かは、当該特定の細胞に特異的な細胞表面マーカーの発現、細胞の形態及び機能等により確認することができる。また、間葉系幹細胞が維持されていることは、間葉系幹細胞に特異的な細胞表面マーカーにより確認してもよい。間葉系幹細胞のポジティブマーカーとしては、CD44、CD73、CD90、CD105等が挙げられ、間葉系幹細胞のネガティブマーカーとしては、CD45、CD34、CD14、CD11b、CD79、CD19等が挙げられる。
【0047】
本実施形態に係るイヌ間葉系幹細胞培養用培地は、動物から得られた生体物質を含有しないため、ウイルス等が混入することを防止することができる。
【0048】
本実施形態に係るイヌ間葉系幹細胞培養用培地は、血清を含まず、化学的組成が明らかなため、培地のロット間の成分の変動を低減することができ、培養された細胞の品質のばらつきを低減することができる。
【0049】
本実施形態に係るイヌ間葉系幹細胞培養用培地は、イヌのドナーに由来する血清を含有しないため、イヌをドナーとして用いることについての倫理的問題を回避することができる。
【0050】
[培養方法]
一実施形態において、本発明は、上述のイヌ間葉系幹細胞培養用培地でイヌ間葉系幹細胞を培養する工程を含む、イヌ間葉系幹細胞の培養方法を提供する。
【0051】
イヌ間葉系幹細胞培養用培地で培養されるイヌ間葉系幹細胞としては、例えば、イヌから採取した間葉系幹細胞であってもよいし、好ましくは、イヌiPS細胞又はイヌES細胞から分化した間葉系幹細胞である。
【0052】
本実施形態に係る培養方法に用いられる培養容器としては、間葉系幹細胞の培養が可能なものであれば特に限定されず、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトル等が挙げられる。
【0053】
培養容器は、細胞接着性であっても細胞非接着性であってもよく、目的に応じて適宜選ばれる。細胞接着性の培養容器は、培養容器の表面の細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス(ECM)等の任意の細胞支持用基質でコーティングされたものであってもよい。細胞支持用基質としては、間葉系幹細胞の接着を目的とする任意の物質であってよく、例えば、ECMを用いたマトリゲル、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチン等が挙げられる。
【0054】
その他の培養条件は、適宜設定することができる。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは約30~40℃であり、より好ましくは約37℃である。CO2濃度は、好ましくは約1~10%であり、より好ましくは約2~5%であり得る。酸素濃度は、好ましくは1~20%であり、より好ましくは1~10%である。
【0055】
[製造方法]
一実施形態において、本発明は、上述のイヌ間葉系幹細胞培養用培地でイヌ間葉系幹細胞を培養する工程を含む、イヌ間葉系幹細胞の製造方法を提供する。
【0056】
本実施形態において、培養される細胞、培養容器等は、[培養方法]において上述したものと同一である。
【0057】
本実施形態により製造されたイヌ間葉系幹細胞は、再生医療、細胞医療等に用いることができる。イヌ間葉系幹細胞培養用培地はイヌ以外の動物に由来する成分を含まないため、本実施形態により製造されたイヌ間葉系幹細胞は安全にイヌに投与することができる。
【実施例0058】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[材料及び方法]
(培地)
実施例、比較例において、材料として使用した培地は以下の通りである。
α-MEM(Invirtogen社製)
FBS(Cytiva社製)
XerumFree(TNCBIO社製)
ADSC-2(KOHJIN BIO社製)
Fibroassist(KOHJIN BIO社製)
【0060】
(イヌbFGF)
イヌbFGFは、次の手順により調製した。まず、イヌbFGFをコードするcDNA(配列番号2)をpEU-E01-MCSベクターのマルチクローニングサイトに挿入して、ベクター[pEU-E01-His-TEV-DogbFGF]を得た。ベクター[pEU-E01-His-TEV-DogbFGF]を大腸菌にトランスフォームして培養した。Plasmid Midi Kit(QIAGEN社製)を用いて大腸菌からプラスミドDNAの抽出及び精製を行った、次いで、精製したプラスミドDNAの濃度及び純度を確認した後、プラスミドDNA濃度が1.0μg/μLとなるように、TEバッファーを適量加えて、鋳型DNA溶液を得た。なお、ベクターのマルチクローニングサイトにイヌbFGFのDNAが挿入されていることは、シークエンス解析により確認した。
【0061】
次いで、転写反応溶液(5×Transcription Buffer LM)に、鋳型DNA溶液(1.0μg/μL)25μLを加えて、静かにピペッティングした。次いで、37℃で6時間反応させた。転写反応後、1μLの転写産物をアガロースゲル電気誘導し、mRNAの合成を確認した。さらに、得られたmRNAについてRT-PCRを行い、イヌbFGFのcDNAを得た。このcDNAについて、コントロールとして大腸菌由来のイヌbFGFのcDNAと共にアガロースゲル電気泳動を行なったところ、同じ位置にバンドが認められた。
【0062】
次いで、得られたmRNAを用いて翻訳反応を行った。翻訳には、ヒスチジン(His)タグを付加したタンパク質の合成及び精製に至適化されたコムギ胚芽抽出液(「WEPRO(登録商標)7240H」(商品名)、セルフリーサイエンス社製)を使用した。mRNAを含む転写反応液を室温まで温度を下げ、静かにピペッティングして懸濁させた後、懸濁した転写反応液250μLをコムギ胚芽抽出液250μL、クレアチンキナーゼ1μLに加え、泡立てないように静かにピペッティングした(この混合液を以下、「翻訳反応液」と称する場合がある)。次いで、翻訳反応液全量(501μL)を、翻訳反応基質溶液(「SUB-AMIX(登録商標) SGC」(商品名))(5.5mL)の底に注意深く注ぎ入れて重層を形成し、重層反応を行った。15℃で20時間保温して翻訳反応を行った。
【0063】
翻訳反応後、反応液を静かにピペッティングし、合成タンパク質溶液の精製を行った。精製は、ニッケル樹脂を用いてHisタグが付加された組換えイヌbFGF(rc-bFGF)を吸着させ、洗浄バッファー(20mM Na-Phosphate(pH7.5)、300mM NaCl、20mM Imidazole)で樹脂を洗浄後、通常の半分量の溶出バッファー(20mM Na-Phosphate(pH7.5)、300mM NaCl、500mM Imidazole)で目的タンパク質を溶出させた。このとき、溶出バッファーの使用量を通常の半分量にすることで、溶出後の濃縮操作を不要とし、結果として濃縮操作によるイヌbFGFの損失を無くし、1mg/mLのrc-bFGFを得た。
【0064】
なお、タンパク質合成及び精製は、全自動タンパク質合成・精製機(「Protemist(登録商標) DT II」(商品名)、セルフリーサイエンス社製)により行なった。
【0065】
(培地例1)
ADSC-2+10% XerumFree
ADSC-2に、培地の総量に対して10体積%となるようにXerumFreeを添加して、培地例1を調製した。
【0066】
(培地例2)
Fibroassist
Fibroassistを培地例2として用いた。
【0067】
(培地例3)
Fibroassist+10% XerumFree
Fibroassistに、培地の総量に対して10体積%となるようにXerumFreeを添加して、培地例3を調製した。
【0068】
(参考培地例1)
α-MEM+10% FBS
α-MEMに、培地の総量に対して10体積%となるようにFBSを添加して、参考培地例1を調製した。
【0069】
(培地例4)
α-MEM+10% XerumFree
α-MEMに、培地の総量に対して10体積%となるようにXerumFreeを添加して、培地例4を調製した。
【0070】
(培地例5)
α-MEM+10% XerumFree+5ng/mL rc-bFGF
α-MEMに、培地の総量に対して10体積%となるようにXerumFreeを添加し、更に、最終濃度が5ng/mLとなるようにrc-bFGFを添加して、培地例5を調製した。
【0071】
(培養)
イヌの骨髄から細胞を分離し、培地例1~5、参考培地例1の各培地を用いて、5%CO2の雰囲気下、37℃で、イヌ間葉系幹細胞を培養した。
【0072】
(培養細胞の評価)
培地例1~5、参考培地例1の各培地でイヌ間葉系幹細胞を培養し、培養を開始してから3日後に細胞の形態を観察した。また、培養を開始してから7日後に、細胞の生存を確認した。
【0073】
図1に、細胞を播種して3日後の細胞の形態を示す。
図2に、細胞を播種して7日後の細胞の形態を示す。
図3に、細胞を播種して7日後の細胞数を示す。培地例1~3で培養した場合、細胞播種の3日後に接着細胞が存在していることが明らかになった。また、培地例1~3で培養した場合、細胞を播種して7日後に細胞が生存していることが明らかになった。
一方、培地例4、5で培養した場合、細胞を播種して3日後に接着細胞はほとんど観察されず、細胞を播種して7日後に生存細胞は確認できなかった。
本発明は、動物から得られた血清の機能を代替する物質(血清代替物)を含有し、化学的組成が明らかである、イヌ間葉系幹細胞培養用培地、イヌ間葉系幹細胞の培養方法及びイヌ間葉系幹細胞の製造方法を提供することができる。この培地を用いて培養したイヌ間葉系幹細胞は、品質が均一であり、イヌの細胞医療、再生医療に好適に用いることができる。