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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023735
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】加工果菜及び加工果菜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20220201BHJP
【FI】
A23L19/00 Z
A23L19/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126883
(22)【出願日】2020-07-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2020-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】520279029
【氏名又は名称】株式会社ビオ・フローズン
(74)【代理人】
【識別番号】100218280
【弁理士】
【氏名又は名称】安保 亜衣子
(74)【代理人】
【識別番号】100108914
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 壯兵衞
(74)【代理人】
【識別番号】100173864
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 健治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】棟方 莉紗
(72)【発明者】
【氏名】黒田 和瑚
【テーマコード(参考)】
4B016
【Fターム(参考)】
4B016LE03
4B016LG01
4B016LG05
4B016LP11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】所望の形状の実現及び維持が容易で、美観を備える加工果菜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】加工果菜10は、果菜の薄片からなる複数の主チップ11,13,15が、中心軸の周りに互いに隣接して配列された、凍結状態の第1配列体と、主チップの厚さより薄い果菜の薄片からなる複数の副チップ21,23,25が、第1配列体の配列に沿って配置された、凍結状態の第2配列体を含む。最外周を第1配列体が囲む、第1及び第2配列体がなす巻状体が花冠状の形状をなし、互いに隣接する複数のチップ同士の少なくとも一部が互いに接触する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
果菜の薄片からなる複数の主チップのそれぞれが、中心軸の周りに、互いに一部を重畳するように配列された、凍結状態の第1配列体と、
前記主チップの厚さより薄い前記果菜の薄片からなる複数の副チップのそれぞれが、前記第1配列体の配列に沿って配置された、凍結状態の第2配列体と、
を含み、最外周を前記第1配列体が囲む、前記第1及び第2配列体がなす巻状体が花冠状の形状をなすことを特徴とする加工果菜。
【請求項2】
前記主チップの厚さが前記副チップの厚さの2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の加工果菜。
【請求項3】
前記主チップ及び前記副チップをそれぞれ構成する複数の前記薄片のそれぞれは、直線部分を底部とした半円形を、3次元空間で湾曲させた立体形状であり、底部から頂部に向かって、前記中心軸の外側方向に傾斜して配列されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の加工果菜。
【請求項4】
前記果菜がりんごであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の加工果菜。
【請求項5】
複数の前記薄片がそれぞれ、前記りんごの果梗から反対側の窪みに向かう方向に対して垂直に切断した水平カット面を含むことを特徴とする請求項4に記載の加工果菜。
【請求項6】
果菜を平行に薄切りし、複数の主チップを得る工程と、
前記果菜を平行に薄切りし、前記主チップの厚さよりも薄い複数の副チップを得る工程と、
前記複数の主チップを、隣接する主チップとの間で重畳部分を有するように、同間隔で一方向に並置し、シート状の第1配列体を得る工程と、
前記複数の副チップを、前記第1配列体の上に、隣接する副チップとの間で重畳部分を有するように、前記一方向に並置してシート状の第2配列体を構成し、前記第1配列体の上に前記第2配列体が積層された積層体を得る工程と、
前記積層体を、長手方向の一端から中心軸を包み込むように他端まで巻き、前記複数の主チップの配列と前記複数の副チップの配列により花冠状の形状をなす巻状体を得る工程と、
前記巻状体を、前記中心軸を鉛直方向と平行にして冷凍する工程と
を含むことを特徴とする加工果菜の製造方法。
【請求項7】
果菜の薄片からなる複数の主チップのそれぞれが、中心軸の周りに、互いに一部を重畳するように配列され、冷凍処理後に加熱成形された第1配列体と、
前記主チップの厚さより薄い前記果菜の薄片からなる複数の副チップのそれぞれが、前記第1配列体の配列に沿って配置され、冷凍処理後に加熱成形された第2配列体と、
を含み、最外周を前記第1配列体が囲む、前記第1及び第2配列体がなす巻状体が花冠状の形状をなすことを特徴とする加工果菜。
【請求項8】
果菜を平行に薄切りし、複数の主チップを得る工程と、
前記果菜を平行に薄切りし、前記主チップの厚さよりも薄い複数の副チップを得る工程と、
前記複数の主チップを、隣接する主チップとの間で重畳部分を有するように、同間隔で一方向に並置し、シート状の第1配列体を得る工程と、
前記複数の副チップを、前記第1配列体の上に、隣接する副チップとの間で重畳部分を有するように、前記一方向に並置してシート状の第2配列体を構成し、前記第1配列体の上に前記第2配列体が積層された積層体を得る工程と、
前記積層体を、長手方向の一端から中心軸を包み込むように他端まで巻き、前記複数の主チップの配列と前記複数の副チップの配列により花冠状の形状をなす巻状体を得る工程と、
前記巻状体を、前記中心軸を鉛直方向と平行にして冷凍して冷凍加工果菜を得る工程と、
前記冷凍加工果菜を熱処理により加熱成形する工程と
を含むことを特徴とする加工果菜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工果菜及び加工果菜の製造方法に係り、特に果菜の薄切チップを用いた冷凍加工果菜及び加熱成形野菜、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、清涼飲料やアルコール飲料等の飲料全般において、単に水から製造された氷を用いるのではなく、例えば保冷剤が内蔵され、様々な形状、色、模様等で装飾されたプラスチック製の擬似氷、いわゆる融けない氷が用いられることがある。擬似氷により美観をプラスし、飲料自体の魅力を向上させる効果がある。この擬似氷は再利用可能という利点はあるが、使用の都度よく洗浄しなければならないし、破損して欠片が飲料に混入する場合や、保冷剤が飲料に溶け出す場合があり、安全性の面では通常の氷に及ばない。
【0003】
氷代わりとして、キューブ状にカットした果物の冷凍品を用いる場合もあり、擬似氷よりは安全性の面では優れている。そもそも果物や野菜を冷凍するのは、特許文献1に記載のように、保存が主な目的である。よって、果物や野菜のほとんどの冷凍品は、そのまま食用又は調理できるようにした、まるごと又は一片ずつの形態である。しかし、キューブ状にカットした果物の冷凍品を用いると、飲料の冷却において時間がかかる上、飲料に接している部分から先に解凍され、果物の組織が一部飲料に溶け出す等、飲料が十分に冷却されるまでに飲料全体の見た目と食味が悪くなる、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平01-285151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題に着目してなされたものであって、所望の形状の実現及び維持が容易で美観を備える加工果菜及び加工果菜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、(a)果菜の薄片からなる複数の主チップのそれぞれが、中心軸の周りに、互いに一部を重畳するように配列された、凍結状態の第1配列体と、(b)主チップの厚さより薄い果菜の薄片からなる複数の副チップのそれぞれが、第1配列体の配列に沿って配置された、凍結状態の第2配列体とを含み、(c)最外周を第1配列体が囲む、第1及び第2配列体がなす巻状体が花冠状の形状をなすことを特徴とする加工果菜であることを要旨とする。
【0007】
本発明の第2の態様は、(a)果菜を平行に薄切りし、複数の主チップを得る工程と、(b)果菜を平行に薄切りし、主チップの厚さよりも薄い複数の副チップを得る工程と、(c)複数の主チップを、隣接する主チップとの間で重畳部分を有するように、同間隔で一方向に並置し、シート状の第1配列体を得る工程と、(d)複数の副チップを、第1配列体の上に、隣接する副チップとの間で重畳部分を有するように、一方向に並置してシート状の第2配列体を構成し、第1配列体の上に第2配列体が積層された積層体を得る工程と、(e)積層体を、長手方向の一端から中心軸を包み込むように他端まで巻き、複数の主チップの配列と複数の副チップの配列により花冠状の形状をなす巻状体を得る工程と、(f)巻状体を、中心軸を鉛直方向と平行にして冷凍する工程とを含むことを特徴とする加工果菜の製造方法であることを要旨とする。
【0008】
本発明の第3の態様は、(a)果菜の薄片からなる複数の主チップのそれぞれが、中心軸の周りに、互いに一部を重畳するように配列され、冷凍処理後に加熱成形された第1配列体と、(b)主チップの厚さより薄い果菜の薄片からなる複数の副チップのそれぞれが、第1配列体の配列に沿って配置され、冷凍処理後に加熱成形された第2配列体とを含み、(c)最外周を第1配列体が囲む、第1及び第2配列体がなす巻状体が花冠状の形状をなすことを特徴とする加工果菜であることを要旨とする。
【0009】
本発明の第4の態様は、(a)果菜を平行に薄切りし、複数の主チップを得る工程と、(b)果菜を平行に薄切りし、主チップの厚さよりも薄い複数の副チップを得る工程と、(c)複数の主チップを、隣接する主チップとの間で重畳部分を有するように、同間隔で一方向に並置し、シート状の第1配列体を得る工程と、(d)複数の副チップを、第1配列体の上に、隣接する副チップとの間で重畳部分を有するように、一方向に並置してシート状の第2配列体を構成し、第1配列体の上に第2配列体が積層された積層体を得る工程と、(e)積層体を、長手方向の一端から中心軸を包み込むように他端まで巻き、複数の主チップの配列と複数の副チップの配列により花冠状の形状をなす巻状体を得る工程と、(f)巻状体を、中心軸を鉛直方向と平行にして冷凍して冷凍加工果菜を得る工程と、(g)冷凍加工果菜を熱処理により加熱成形する工程とを含むことを特徴とする加工果菜の製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所望の形状の実現及び維持が容易で美観を備える加工果菜及び加工果菜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係る加工果菜(冷凍加工果菜)の斜視図である。
図2図2(a)は縦半分に切ったりんごの一方の断片を示す斜視図であり、図2(b)は図2(a)の状態から下側を切断した状態を示す斜視図である。
図3図3(a)は水平カット面(第1主チップ)の正面図であり、図3(b)は垂直カット面の正面図である。
図4図4(a)は第1実施形態に係る加工果菜の製造方法における成形工程の第1配列体を示す図であり、図4(b)は図4(a)の状態から第1副チップを並置した図であり、図4(c)は成形工程の積層体を示す図であり、図4(d)は積層体を巻き始めた状態を示す図であり、図4(e)は積層体の巻き終わりに近い状態を示す図である。
図5】第1実施形態に係る加工果菜の製造方法のフローチャートである。
図6】第1実施形態に係る加工果菜の各薄切チップ(薄片)の配置を表す模式的な上面図である。
図7】複数の第1実施形態に係る加工果菜を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、図面を参照して、本発明の第1及び第2実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各部材の大きさの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚み、寸法、大きさ等は以下の説明から理解できる技術的思想の趣旨を参酌してより多様に判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0013】
又、以下に示す本発明の第1及び第2実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための物や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、本発明の第1及び第2実施形態で記載された内容に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明特定事項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る加工果菜10は、図1に示すように、凍結状態の複数の果菜の薄片(薄切チップ)、即ち、第1主チップ11、第2主チップ13、第3主チップ15を含む第1配列体(11,13,15)と、第1副チップ21、第2副チップ23及び第3副チップ25を含む第2配列体(21,23,25)を組み合わせて構成される、花冠状の冷凍加工果菜である。「花冠」とは、複数の花弁から成る花の器官のことを言うが、「花冠状」の「状」は、「花冠」に似た円弧の組み合わせからなる形状を意味し、花の器官の形状に限定されるものではない。「状」としたのは、厳密には「花冠」にそっくりである必要はなく、キャベツの一玉を水平にカットしたときに現れる内部構造に似たような円弧の組み合わせ形状等であってもよく、美観を呈する形状であればよい。第1主チップ11、第2主チップ13及び第3主チップ15のそれぞれの厚さは同一の「第1の厚さ」を有する。第1副チップ21、第2副チップ23及び第3副チップ25のそれぞれの厚さは同一であり、第1の厚さよりも薄い「第2の厚さ」を有する。第1の厚さは、第2の厚さの2倍以上であることが好ましい。第1主チップ11、第2主チップ13、第3主チップ15、第1副チップ21、第2副チップ23及び第3副チップ25は、鉛直方向に仮想的に定義される中心軸41を包み込むようにそれぞれ湾曲し、少なくとも1つの隣接する果菜の薄切チップ(薄片)と互いに一部において接触(重畳)する。
【0015】
本明細書中において「果菜」という用語は、一般的な意味のひとつである「果物と野菜」の意味で用いており、特に果物と野菜の総称の意味で用いている。よって、「複数の果菜の薄片」は、1種類の果物又は野菜の複数の薄片(薄切チップ)であってもよいし、複数の果物又は野菜の複数の薄片であってもよい。図1においては、第1実施形態に係る加工果菜10として、果物の「りんご」を用いたものを例示している。
【0016】
図1に示すように、第1実施形態に係る加工果菜10は、中心軸に関して渦巻き状に配列された第1配列体(11,13,15)と、第1配列体(11,13,15)に沿って配列された第2配列体(21,23,25)がなす外観が花冠状を成す。第2配列体(21,23,25)も第1配列体(11,13,15)の配列に沿って、渦巻き状に配列されるが、第2配列体(21,23,25)の最外周側に位置する第3副チップ25は第1配列体(11,13,15)よりも内側に位置する。即ち第1配列体(11,13,15)の最外周は花冠状の構造の最外周に位置する。「花冠状」の「状」の意味は上述したが、図1に示す第1実施形態に係る加工果菜10の「花冠状」の「花冠」は、花弁1枚1枚が、それぞれ独立している「離弁花冠」の場合を例示している。しかしこれに限らず、第1実施形態に係る加工果菜10の花冠は、花弁どうしが連結・連続した「合弁花冠」の形状であっても、第1実施形態に係る加工果菜の技術的思想を応用することにより形成可能である。
【0017】
又、図1に示すように、第1実施形態に係る加工果菜10の花冠は、バラの咲き方のうちの「カップ咲き」に近い形状を一例として示している。バラのカップ咲きには、浅めの「シャロー・カップ」、深めの「ディープ・カップ」、花弁どうしがやや開き気味の「オープン・カップ」等、様々な種類があるが、図1に示す第1実施形態に係る加工果菜10の花冠は、「オープン・カップ」に近いカップ咲きの形状を例示している。ただしこれに限らず、第1実施形態に係る加工果菜10の花冠は、シャロー・カップやディープ・カップ等でもよく、中心部分がやや高く盛り上がった「高芯咲き」のバラの形状でもよいし、その他の形状でも構わない。図1に示すように、第1実施形態に係る加工果菜10の花冠は、下部(底部)から上部(頂部)に向けて開いた構造である。
【0018】
又、第1実施形態に係る加工果菜10の第1主チップ11、第2主チップ13、第3主チップ15、第1副チップ21、第2副チップ23及び第3副チップ25のそれぞれは、花弁の形状として表現すると、全体が丸みを帯びた「丸弁」の場合を例示している。しかし図1に例示する態様に限らず、第1実施形態に係る加工果菜10の複数の果菜の薄片のそれぞれの形状は、縁が波打った「波状弁」であってもよいし、剣の切先のように尖った部分を有する「剣弁」であっても、その他の形状であってもよい。
【0019】
第1実施形態に係る加工果菜10の花冠は、図1においては、第1副チップ21が最も内側に配置しているように見える。図1においては一見、第1副チップ21を包み込むように第2副チップ23が湾曲して配置され、更に外側に順に、第1主チップ11、第3副チップ25、第2主チップ13及び第3主チップ15がそれぞれ湾曲して配置しているように見える。第1主チップ11、第2主チップ13、第3主チップ15、第1副チップ21、第2副チップ23及び第3副チップ25の実際の配置は複雑に入り組んでいるが、詳細については図6を用いて後述する。第1実施形態に係る加工果菜10においては、図1のように複数の果菜の薄片が花冠を形成している場合に、概して、相対的に外側の方に「主チップ」、相対的に内側の方に「副チップ」が位置するものとする。少なくとも、第1実施形態に係る加工果菜10の最も内側に位置する果菜の薄切チップ(薄片)は第1副チップ21である。
【0020】
第1実施形態に係る加工果菜10は冷凍品であり、常温でもしばらくは図1の凍結状態の花冠の形状を保持する。例えば、第1副チップ21は、詳細は後述するが、隣接する果菜の薄切チップ(薄片)である第2副チップ23及び第1主チップ11のいずれか一方又は両方と、互いの一部において接触した状態で凍結され、その接触箇所で互いに固定されている。その他の切片である第1主チップ11、第2主チップ13、第3主チップ15、第2副チップ23及び第3副チップ25においても、それぞれ少なくとも1つの隣接する薄片と、互いの一部において接触した状態で凍結され、それぞれその接触箇所で互いに固定されている。即ち、第1実施形態に係る加工果菜10の花冠の各花弁となる複数の果菜の薄片は、凍結状態においては離脱することはない。
【0021】
第1実施形態に係る加工果菜10の原材料としては、図1においては「りんご」を例示しているが、梨や桃、ぶどう等の樹木性の果実も用いることができ、いちごやメロン、スイカ等の果実的野菜も素材として採用可能である。又、第1実施形態に係る加工果菜10の原材料としては、大根やニンジン、キュウリ等の野菜も用いることができる。第1実施形態に係る加工果菜10の原材料として「りんご」を用いる際は、花冠の上部、即ち、各花弁の縁に果皮が位置するようにしてもよい。又、第1実施形態に係る加工果菜10の原材料として「りんご」の一品種である『栄紅』を用いた場合、果皮のすぐ内側近辺の果肉が果皮同様に赤く、中心に向かうにつれ色味のグラデーションがついているため、花冠を形成した際により特別な美観を備えさせることができる。
【0022】
(第1実施形態の製造方法)
第1実施形態に係る加工果菜10は、図5のフローチャートに表すように、ステップS101で示す薄切り工程(第1工程)、ステップS103で示す成形工程(第2工程)及びステップS105で示す冷凍工程(第3工程)の3段階で製造することができる。以下、第1実施形態に係る加工果菜10の原材料として「りんご」の『栄紅』(品種登録番号:25149、直径8~9cm程度、高さ約10cm)を用いた場合で製造方法を説明する。
【0023】
図5のステップS101において、まず原材料となるりんごを軽く水洗いし、りんごの芯をくり抜く。りんごの種類と大きさにもよるが、りんごのつる(果梗)が位置していた方の窪み(梗窪)から反対側の窪みまで貫通孔を開ける。説明の便宜上、梗窪のある方をりんごの「上部」、反対側をりんごの「下部」と定義する。貫通孔は1.5~2.5cmの直径の正円の孔であることが好ましい。その後、貫通孔を開けたりんごを、貫通孔の長手方向に沿うように、上部から下部にかけて約半分に切る。貫通孔を開ける工程と半分に切る工程とは、順番が入れ替わってもよいものとする。
【0024】
図2(a)に示すように、半分に切ったりんご30は、半円状の断面を有する溝であるくり抜き部31、第1垂直カット面(左側カット面)33a及び第2垂直カット面(右側カット面)33bを有する。りんご30の果皮39以外の部分、即ち、くり抜き部31、第1垂直カット面33a及び第2垂直カット面33bにおいては果肉が露出している状態である。半分に切ったりんご30の下部側1~2cm程度を切り落とすと、図2(b)に示す状態となり、下部側が切り落とされたりんご30cには新たに水平カット面35cが生じている。図2(b)におけるくり抜き部31c、第1垂直カット面上部33ac、第2垂直カット面上部33bc及び水平カット面35cでは果肉が露出している。
【0025】
次に、図2(b)に示す水平カット面35c側から、包丁又はスライサー等を用い、水平カット面35cに平行に連続的に薄切りにしていき、それぞれ一様の厚さの複数の果菜の薄片を得る。この複数の果菜の薄片は、第1の厚さを有する複数の主チップ及び第1の厚さよりも薄い第2の厚さを有する複数の副チップを含む。第1実施形態に係る加工果菜10の原材料として「りんご」を用いた場合、例えば第2の厚さが0.5mm程度である場合、第1の厚さは1.0mm程度以上であることが好ましい。
【0026】
図5のステップS101で得られた複数の果菜の薄片はそれぞれ、図3(a)に示す第1主チップ11に水平カット面を例示するように、半円状の切欠きを有する半円形のカット面となる。図3(a)に示す水平カット面の正面図に現れる半円状の切欠き部分は、図2(b)におけるくり抜き部31cに相当する部分である。図3(a)に示す水平カット面の正面図に現れる弧Rの部分は、図2(b)における果皮39が位置する部分である。図3(a)に示す切欠きの両側に位置する水平方向の2本の直線は、図2(b)における第1垂直カット面上部33ac及び第2垂直カット面上部33bcに相当する部分であり、向かって左側の線分(直線)の左端から向かって右側の線分(直線)の右端までの距離は、図3(a)に示す第1主チップ11の半円形の直径に等しい。以降、本明細書において、図3(a)に示す第1主チップ11の2本の直線の方向を、第1主チップ11の「特定水平カット面」の直径方向と定義する。図3(a)においては第1主チップ11で例示したが、その他の複数の果菜の薄片の水平カット面においても同様に、特定水平カット面の直径方向が定義される。図3(a)に示す第1主チップ11に例示する複数の果菜の薄片は、りんごの水平方向のカット面を含む薄片であるので「水平チップ」とも表現することができる。
【0027】
図2(a)の半分に切ったりんご30の状態から、第1垂直カット面33a又は第2垂直カット面33bの側を、くり抜き部31を含む位置において、第1垂直カット面33a又は第2垂直カット面33bに平行に薄切りにして90°回転すると、図3(b)に示すような回転カット面37が得られる。図3(b)に示す回転カット面37を含む薄片は、図3(a)の「水平チップ」に対し、「垂直チップ」と表現することができる。回転カット面37には、図3(a)の「水平チップ」が有するような半円状の切欠きはなく、やや扁平な蒲鉾のような形状である。りんごにおいては、回転カット面37の弧R部分の平均曲率半径は、弧Rの定義面に直交する方向に定義される、図3(a)の第1主チップ11の弧R部分の平均曲率半径より大きいのが通常である。この互いに直交する面に定義される平均曲率半径の違いにより、図3(b)の回転カット面37を含む薄片より図3(a)の第1主チップ11の方が、複数用いて花冠状に成形した際に、より丸みのある花弁を有する花冠のような外観となる。より丸みのある花弁の形状を用いることができるので、第1実施形態に係る加工果菜10の外観としてより好適となりやすい。
【0028】
図3(a)の「水平チップ」の形状を定義する第1主チップ11の弧R部分の平均曲率半径は、りんごの一品種である『栄紅』を用いた場合、個体差やカット面の作製位置にもよるが、おおよそ30~42mmの範囲である。一方の図3(b)に示す「垂直チップ」の形状を定義する回転カット面37の弧R部分の平均曲率半径は、りんごの一品種である『栄紅』を用いた場合、個体差やカット面の作製位置にもよるが、おおよそ50~60mmの範囲となる。水平チップ及び垂直チップのそれぞれの弧の平均曲率半径の範囲は、『栄紅』とは別の品種のりんご、又は、りんごとは別の果菜を用いた際には当然異なってくる。
【0029】
図5のステップS101の全体を通じて、りんごの酸化防止、かつ、衛生面の観点から、手には手袋を装着し、切断や薄切りを行う包丁やスライサー等はセラミック製のものを用いることが好ましい。又、同様にりんごの酸化防止、かつ、衛生面の観点から、複数の果菜の薄片は直ちに殺菌済みの液体に浸漬し、次のステップS103で用いるまで浸漬しておく等の処理を行うことがより好ましい。浸漬に用いる殺菌済みの液体としては、逆浸透膜等で不純物を取り除いた水であることが好ましい。
【0030】
図5のステップS103においては、まず、図4(a)に示すように、複数の主チップを構成する第1主チップ11、第2主チップ13及び第3主チップ15を、隣接する主チップとの間で重畳部分を有するように、同間隔で一方向に水平に並置する。ここで「一方向」とは、薄片を順に並置していく方向が、左方向あるいは右方向の一方であることを意味するのであり、特定水平カット面の直径方向の向きが同一方向に揃っていることを意味するのではない。具体的には右方向に一方向に並置する、即ち、第1主チップ11の右端に第2主チップ13の左端を重ねて置き、第2主チップ13の右端に第3主チップ15の左端を重ねて置く。第1主チップ11、第2主チップ13及び第3主チップ15は水平に並置するため、この段階では、第1主チップ11が最も下側に、第3主チップ15が最も上側に位置する。このように同間隔で一方向に水平に並置された第1主チップ11、第2主チップ13及び第3主チップ15で、シート状の「第1配列体(11,13,15)」が形成される。
【0031】
図5のステップS103においては、次に、図4(b)に示すように、複数の副チップのうちの第1副チップ21を、第1副チップ21の右端側が第1主チップ11の左端側に重なるように、第1主チップ11の上に置く。図4(b)においては、第1副チップ21の特定水平カット面の直径方向(以下において単に「直径方向」と略記する。)は、第1主チップ11、第2主チップ13及び第3主チップ15の直径方向、即ち、第1配列体(11,13,15)の長手方向に対して平行ではない。第1副チップ21は、後述する巻状体の成形の際の巻き始めとなる都合上、第1配列体(11,13,15)の長手方向に対して、直径方向を傾けて、下側にやや突出させて配置するのが好ましい。第2副チップ23は、図4(c)に示すように、第2副チップ23の左端を第1副チップ21の右端に重ねるように置く。第2副チップ23の直径方向は、第1主チップ11、第2主チップ13及び第3主チップ15の直径方向と平行であるのが好ましく、一致するのがより好ましい。第3副チップ25は、図4(c)に示すように、第3副チップ25の左端を第2副チップ23の右端に重ねるように置く。第1副チップ21、第2副チップ23及び第3副チップ25は、一方向である右方向に、水平に並置されることとなる。第3副チップ25の直径方向は、第1主チップ11、第2主チップ13及び第3主チップ15の直径方向と平行であるのが好ましく、一致するのがより好ましい。第3副チップ25の直径方向は、第2副チップ23の直径方向と平行であるのが好ましく、一致するのがより好ましい。図4(c)に示すように、第2副チップ23は、第1主チップ11から第2主チップ13に跨るように位置し、第3副チップ25は、第2主チップ13から第3主チップ15に跨るように位置するのが好ましい。第3副チップ25を置き終わったところで、第1主チップ11、第2主チップ13、第3主チップ15、第1副チップ21、第2副チップ23及び第3副チップ25とで、第1配列体(11,13,15)の上にシート状の第2配列体(21,23,25)が積層された「積層体(11,13,15;21,23,25)」が構成される。この積層体(11,13,15;21,23,25)は、図1に示す第1実施形態に係る加工果菜10の、言わば「展開図」である。
【0032】
図5のステップS103においては、次に、積層体(11,13,15;21,23,25)を巻き始める。まず、巻くための仮想的な中心軸を想定し、その中心軸を包み込むように、積層体(11,13,15;21,23,25)を図4(c)及び図4(d)の矢印方向に向かって巻いていく。まず、積層体(11,13,15;21,23,25)の長手方向に沿って定義される擬似的な長辺(包絡線)の一端、即ち図4(c)の左端に示された第1副チップ21から、図4(c)の矢印方向に向かって巻いていく。この時、仮想的な中心軸は第1副チップ21の直径方向と垂直の関係である。図4(c)の矢印方向は第1副チップ21の直径方向と一致するのが好ましい。第1副チップ21の半円形の半径分の長さで約1周巻くようにすると、図4(d)の状態となる。図4(d)の状態からは、図4(d)の矢印方向、即ち、第1副チップ21以外の複数の果菜の薄片の直径方向に向かって、仮想的な中心軸を包み込むように巻いていく。この時、仮想的な中心軸は第1主チップ11等の直径方向と垂直の関係へと変化する。第1副チップ21の左端側を巻いた時とは仮想的な中心軸の方向が異なるため、第1主チップ11、第2副チップ23、……、と順次巻いていくと、図4(e)に示すように、第1副チップ21の一部を図4(e)の紙面下側に突出させ、かつ、図4(e)の紙面上側に向かって広がった全体形状となる。図4(e)の状態から、積層体(11,13,15;21,23,25)の長手方向の他端である第3主チップ15の右端まで巻き終えると、巻状体が得られる。巻状体は、巻き始めから約5~6回の巻き数で形成することができる。この巻状体も、図示は省略するが、図4(e)の紙面上側に向かってやや広がった全体形状となる。積層体(11,13,15;21,23,25)において、第1副チップ21の直径方向を他の直径方向と平行にせず、左端をやや下側に突出させて配置させておくことで、第1副チップ21の巻き始めを花冠における「芯」とすることができ、巻状体の形成を安定的に行うことができ、巻状体の形状保持に役立てることができる。
【0033】
図5のステップS105においては、まず、ステップS103で得られた巻状体を、巻くための仮想的な中心軸を鉛直方向と平行にし、冷凍時の形状保持容器に収納する。形状保持容器は、例えば、りんごの『栄紅』を用いる場合、間口が約3~4cm四方、深さが約2~3cmのカップ状の容器であり、それぞれのカップが連結していてもよい。この場合、カップの底部は約2~3cm四方の平面であってもよいし、下にやや凸の形状であってもよく、又、穴が開いていてもよい。形状保持容器の素材は問わず、プラスチック製でも金属製であってもよいが、弾性を有するシリコン樹脂が好ましい。巻状体の複数の果菜の薄片のそれぞれの弧を鉛直方向上側にして形状保持容器のカップ内に静置する。静置した後、巻状体の複数の果菜の薄片の上側を開き、凍結した際に全体形状が花冠に見えるように調整する。その後、巻状体を形状保持容器ごとマイナス35℃程度に予冷した冷凍装置内に格納し、マイナス35℃程度で約10~20分で第1実施形態に係る加工果菜(冷凍加工果菜)を得る。
【0034】
図5のステップS103及びS105を通して、ステップS101と同様にりんごの酸化防止、かつ、衛生面の観点から、手には手袋を装着し作業することが好ましい。
【0035】
第1実施形態に係る加工果菜10は、図6に例示するように、上から見ると複数の果菜の薄片である第1主チップ11、第2主チップ13、第3主チップ15、第1副チップ21、第2副チップ23及び第3副チップ25が、複雑に入り組んだ構成となる。図6は、説明の便宜上、第1主チップ11、第2主チップ13、第3主チップ15、第1副チップ21、第2副チップ23及び第3副チップ25のそれぞれの弧部分のみを表した模式的な上面図である。図6においては、仮想的な中心軸41を包み込むように渦巻き状に第1副チップ21が巻かれ、第1副チップ21の渦巻き状の内部に一部入り込むように第2副チップ23が配置されている。第2副チップ23もまた、第1副チップ21ごと仮想的な中心軸41を包み込むように渦巻き状に巻かれている。第2副チップ23の渦巻き状の内部に一部入り込むように、第1主チップ11及び第3副チップ25が配置されている。第1主チップ11は、第1副チップ21ごと仮想的な中心軸41を包み込むように巻かれている。第3副チップ25は、第1副チップ21及び第1主チップ11ごと仮想的な中心軸41を包み込むように巻かれている。第1主チップ11の巻きの内部に一部入り込むように、第2主チップ13が配置されている。第2主チップ13は、第1副チップ21及び第2副チップ23ごと仮想的な中心軸41を包み込むように巻かれている。第2主チップ13の巻きの内部に一部入り込むように、第3主チップ15が配置されている。第3主チップ15は、第1主チップ11、第1副チップ21及び第3副チップ25ごと仮想的な中心軸41を包み込むように巻かれている。内側の薄片ほど何重にも巻いた渦巻き状を呈し、外側の薄片ほど巻きが緩くなり、C字型に近い形状となる。ステップS105においては、ステップS103で得られた巻状体について各薄片の上側において、中心から放射方向にそれぞれの間を広げ、図6に例示する花冠状に調整する。
【0036】
第1副チップ21は、隣接する薄片である第2副チップ23及び第1主チップ11のいずれか一方又は両方と、互いの一部において接触した状態で凍結され、その接触箇所で互いに固定されている。図6においては花冠の上側である果菜の各薄片の弧の部分しか図示していないが、花冠の下側においては上側程は開いておらず、第1副チップ21は第2副チップ23及び第1主チップ11のいずれか一方又は両方と互いの一部において接触している状態である。その他の薄片である第1主チップ11、第2主チップ13、第3主チップ15、第2副チップ23及び第3副チップ25においても、それぞれ少なくとも1つの隣接する果菜の薄片と、互いの一部において接触した状態で凍結され、それぞれその接触箇所で互いに固定されている。
【0037】
第1実施形態に係る加工果菜10の全体形状は、図1又は図6の配置や形状に限定されない。第1実施形態に係る加工果菜10の全体形状については、少なくとも第1副チップ21が仮想的な中心軸41を包み込むように、花冠状の最も内側で1周以上渦巻き状に巻かれている必要がある。更に、第1副チップ21を含む複数の果菜の薄片のそれぞれが仮想的な中心軸41を直接的又は間接的に擁するように湾曲して巻かれて連結体を構成し、連結体の巻きの内側に少なくとも1つの隣接する果菜の薄片の端部が入り込むように配置している必要がある。第1実施形態に係る加工果菜のこの全体形状は、上述したステップS101~S105、特にステップS103で示す成形工程(第2工程)を経て形成することが可能である。
【0038】
果菜は自然物であるために外形に個体差があり、かつ、個体内においても部位により歪な部分があり、図2及び図3等のように左右均等な外観を有するものは稀である。よって、第1実施形態に係る加工果菜10の製造において、例えば連続して薄切りを作製したとしても、複数の薄片の形状は対称形でないものが多く、大きさも互いに異なることが多い。図4(a)~(e)に示す6枚の果菜の薄片は、それぞれが左右対称であり、互いに同一形状であるもので模式的に示したが、実際の第1実施形態に係る加工果菜の製造においては、必ずしも図4(a)~(e)に示すような複数の薄片が得られないことに留意が必要である。
【0039】
本発明の第1実施形態に係る加工果菜10によれば、複数の薄片から成る冷凍加工果菜であるため、表面積が広く、飲料に用いると迅速に冷却可能である。しかも、薄片同士がばらばらに離間せず、まとまった形の花冠状であるため、美観をも備える。第1実施形態に係る加工果菜10は、飲料等の冷却に使用しても、強くかき混ぜる等を行わない限り花冠状の形状を保持し、美観を維持する。第1実施形態に係る加工果菜10は食品であるために安全に氷代わりとして使用でき、飲料に用いた場合、その飲料と共に食すこともできる。図7に示すように、第1実施形態に係る加工果菜10を複数個同時に用いることも可能である。複数個用いた場合は、1個の場合よりも冷却能力が高まる。図7に示すように、第1実施形態に係る加工果菜10を隣接して配置させた状態で、例えば、飲料の入ったグラスに入れ、飲料の表面に浮かべて使用することができる。
【0040】
本発明の第1実施形態に係る加工果菜10の製造方法によれば、花冠の花弁として、平均曲率半径が相対的に小さい弧を有する果菜の薄片を用いることができるため、所望の形状としての花冠状の形状を、より「花」のように擬態化して形成することが容易となり、美観性をより向上させることができる。平均曲率半径が相対的に大きい弧を有するカット面である図3(b)の回転カット面37を含む薄片を花冠形成に用いると、花弁の縁の高低差がなく、全体的にのっぺりとした印象となり、美観性向上にはつながりにくい。
【0041】
りんごを原材料とする本発明の第1実施形態に係る加工果菜10の製造方法によれば、複数の薄片のそれぞれに半円状の切欠きを設けているため、花冠状を形成する際に巻きやすく、かつ、花冠の上側を開きやすく、更に、巻状体を冷凍した際にも果菜の薄片が割れにくいという利点を有する。複数の薄片の切欠きに角がある場合は、その部分で割れやすく、かつ、花冠状を形成する際に巻きにくい。
【0042】
本発明の第1実施形態に係る加工果菜10の製造方法によれば、複数の薄片のうち、第1の厚さよりも薄い第2の厚さを有する副チップを巻き始めとしているため、果菜の薄片を破損せずにスムーズに巻いていくことが容易となる。又、第1実施形態に係る加工果菜10は、厚さの異なる複数の薄片を有するため、所望の形状としての「見た目」としての躍動感やダイナミックな美観を生じさせやすく、意匠性やデザイン性をより向上させることができる。
【0043】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る加工果菜は、図1に示す第1実施形態に係る加工果菜(冷凍加工野菜)10を加熱成形して製造される加熱成形果菜であり、図1に示す第1実施形態に係る加工果菜10の外観とほぼ同様である。即ち、第2実施形態に係る加工果菜は、図1に示す第1主チップ11、第2主チップ13、第3主チップ15、第1副チップ21、第2副チップ23及び第3副チップ25を組み合わせて構成される、花冠状の加熱成形果菜である。第1の厚さを有する複数の主チップ及び第1の厚さよりも薄い第2の厚さを有する複数の副チップは、鉛直方向の仮想的な中心軸を包み込むようにそれぞれ湾曲し、少なくとも1つの隣接する果菜の薄片と一部において接触する。
【0044】
第2実施形態に係る加工果菜(加熱成形果菜)は、図1に示す第1実施形態に係る加工果菜(冷凍加工野菜)10から熱処理して製造されるため、採用し得る花冠の全体形状、花弁となる果菜の各薄片の形状及び配置、果菜の種類等については第1実施形態に係る加工果菜10と同様の考え方のため、説明は省略する。第2実施形態に係る加工果菜は、第1実施形態に係る加工果菜10から熱処理して製造されるために、全体サイズや果菜の各薄片の厚さは第1実施形態に係る冷凍加工果菜10とはやや異なるが、概して第1実施形態に係る冷凍加工果菜10と相似形となる。しかし、第2実施形態に係る加工果菜の複数の薄片の第1及び第2の厚さの相対的な厚さの関係については、第1実施形態に係る冷凍加工果菜10と同様の考え方であり、第1の厚さは第2の厚さの2倍以上であることが好ましい。
【0045】
第2実施形態に係る加工果菜は加熱成形品であり、常温でも図1のような状態の花冠の形状を保持する。例えば、第1副チップ21は、第1実施形態に係る加工果菜10と同様に、隣接する果菜の薄片である第2副チップ23及び第1主チップ11のいずれか一方又は両方と、互いの一部において接触した状態で熱処理され、その接触箇所で互いに固定されている。その他の薄片である第1主チップ11、第2主チップ13、第3主チップ15、第2副チップ23及び第3副チップ25においても、それぞれ少なくとも1つの隣接する果菜の薄片と、互いの一部において接触した状態で熱処理され、それぞれその接触箇所で互いに固定されている。即ち、第2実施形態に係る加工果菜の花冠において、各薄片が離脱することはない。
【0046】
(第2実施形態に係る製造方法)
第2実施形態に係る加工果菜は、第1実施形態に係る加工果菜10を製造した後に、加熱成形工程(第4工程)を経て完成する。即ち、第2実施形態に係る加工果菜は、図5のステップS101で示す薄切り工程(第1工程)、ステップS103で示す常温成形工程(第2工程)、ステップS105で示す冷凍工程(第3工程)に加え、加熱成形工程(第4工程)の4段階で製造することができる。第1実施形態に係る加工果菜10を製造するステップS101~S105の3段階は上述しているため、説明を省略する。第1実施形態に係る加工果菜10と同様に、第2実施形態に係る加工果菜の果菜として「りんご」を用いた場合で加熱成形工程を説明する。
【0047】
加熱成形工程においては、まず、図5のステップS105で示す冷凍工程(第3工程)で得られた加工果菜(冷凍加工果菜)を、複数の薄片のそれぞれの弧を鉛直方向上側にしてシリコンケースに1つずつ静置し、100℃に予熱したオーブンで1時間熱処理する。次に、上下逆にシリコンケースに1つずつ静置し直してオーブンに再度入れ、100℃で1時間熱処理する。その後、オーブンから取り出して30分間常温で静置する。最後に、100℃に予熱したオーブンで30分間熱処理し、第2実施形態に係る加工果菜を得る。加熱成形工程(第4工程)における熱処理温度や熱処理時間はりんごを用いた場合の一例であり、果菜の種類によっても異なる。
【0048】
第2実施形態に係る加工果菜については、第1実施形態に係る加工果菜10と同様に、第1副チップ21は、隣接する果菜の薄片である第2副チップ23及び第1主チップ11のいずれか一方又は両方と、互いの一部において接触した状態で熱処理され、その接触箇所で互いに固定されている。図6においては花冠の上側である果菜の各薄片の弧の部分しか図示していないが、花冠の下側においては上側程は開いておらず、第1副チップ21は第2副チップ23及び第1主チップ11のいずれか一方又は両方と互いの一部において接触している状態である。その他の薄片である第1主チップ11、第2主チップ13、第3主チップ15、第2副チップ23及び第3副チップ25においても、それぞれ少なくとも1つの隣接する果菜の薄片と、互いの一部において接触した状態で熱処理され、それぞれその接触箇所で互いに固定されている。
【0049】
第2実施形態に係る加工果菜の全体形状は、第1実施形態に係る加工果菜10と同様に、図1又は図6の配置や形状に限定されない。第2実施形態に係る加工果菜の全体形状については、少なくとも第1副チップ21が仮想的な中心軸41を包み込むように、花冠状の最も内側で1周以上渦巻き状に巻かれている必要がある。更に、第1副チップ21を含む複数の薄片が仮想的な中心軸41を直接的又は間接的に擁するように湾曲して巻かれ、果菜の各薄片の巻きの内側に少なくとも1つの隣接する果菜の薄片の端部が入り込むように配置している必要がある。第2実施形態に係る加工果菜のこの全体形状は、上述したステップS101~S105、及び加熱成形工程のうち、特にステップS103で示す常温成形工程(第2工程)を経て形成することが可能である。
【0050】
本発明の第2実施形態に係る加工果菜によれば、複数の薄切りの果菜の薄片から成る一口サイズの加熱成形品であるため、食感が軽く食べやすい。しかも、薄片同士がばらばらに離間せず、まとまった形の花冠状であるため、美観をも備える。第2実施形態に係る加工果菜は、形状が固定された第1実施形態に係る加工果菜10から製造した加熱成形品であるため、熱処理中や熱処理後に形状が崩れることがなく、製造しやすい。第2実施形態に係る加工果菜は加熱成形品であるため、甘味や酸味等の食味全般が向上した加工果菜である。
【0051】
本発明の第2実施形態に係る加工果菜の製造方法によれば、花冠の花弁として、平均曲率半径が相対的に小さい弧を有する果菜の薄片を用いることにより、花冠状の加工果菜をより丸みのある「花」のように形成することが容易となり、美観性をより向上させることができる。平均曲率半径が相対的に大きい弧を有するカット面である図3(b)の回転カット面37を含む薄片を花冠形成に用いると、花弁の縁の高低差がなく、全体的にのっぺりとした印象となり、美観性向上にはつながらない。又、第2実施形態に係る加工果菜の製造方法によれば、全体にほんのり焼き色がつき、バラの花冠の外観により近づけることができる。
【0052】
本発明の第2実施形態に係る加工果菜の製造方法によれば、複数の薄片のそれぞれに半円状の切欠きを設けているため、花冠状を形成する際に巻きやすく、かつ、花冠の上側を開きやすく、更に、巻状体を冷凍したり、加工果菜(冷凍加工果菜)を熱処理したりした際にも果菜の薄片が割れにくいという利点を有する。複数の薄片の切欠きに角がある場合は、その部分で割れやすく、かつ、花冠状を形成する際に巻きにくい。
【0053】
本発明の第2実施形態に係る加工果菜の製造方法によれば、複数の薄片のうち、第1の厚さよりも薄い第2の厚さを有する副チップを巻き始めとしているため、果菜の薄片を破損せずに巻いていくことが容易となる。又、第2実施形態に係る加工果菜は、厚さの異なる複数の薄片を有するため、所望の形状としての「見た目」に躍動感を生じさせやすく、美観性をより向上させることができる。
【0054】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は第1及び第2実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替の実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0055】
例えば第1実施形態に係る加工果菜10の製造方法において、積層体(11,13,15;21,23,25)を左端から右端に向けて巻いて巻状体を形成したが、果菜の各薄片を左方向に一方向に並置していけば、積層体(11,13,15;21,23,25)を右端から左端に向けて巻いて逆回りの巻状体を形成することが可能であることは勿論のことである。この点における「左」及び「右」は、製造方法を説明するための便宜的な方位表現である。その他、明細書中の「上」及び「下」等も同様に、説明するための便宜的な方位表現である。
【0056】
更に、第1及び第2実施形態は6個の果菜の複数の薄片から構成される加工果菜を例示したが、複数の薄片の個数は特に問わない。果菜がりんごの場合、複数の薄片は4~12枚でも安定的に花冠状を形成し、加工果菜を製造することができる。
【0057】
又、本発明の第1及び第2実施形態で説明したそれぞれの技術的思想の一部を適宜、互いに組み合わせることも可能である。このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当と解釈しうる、特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0058】
10…加工果菜(冷凍加工果菜)
11、13、15…主チップ
21、23、25…副チップ
30、30c…りんご
31、31c…くり抜き部
33a、33b…垂直カット面
33ac、33bc…垂直カット面上部
35c…水平カット面
37…回転カット面
39…果皮
41…中心軸

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7