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特開2022-23748ハンドリング性が改善されたビスマレイミド化合物を含む熱硬化性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023748
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】ハンドリング性が改善されたビスマレイミド化合物を含む熱硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 222/40 20060101AFI20220201BHJP
   C08L 33/24 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
C08F222/40
C08L33/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020138283
(22)【出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000199681
【氏名又は名称】川口化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】酢谷 麻紀
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 良二
(72)【発明者】
【氏名】大貫 毅
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BH021
4J002DA016
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
4J100AM55P
4J100AM55Q
4J100BC45Q
4J100CA04
(57)【要約】
【課題】ハンドリング性が改善されたビスマレイミド化合物を含む熱硬化性樹脂組成物の提供。
【解決手段】2-メチルペンタン-1,5-ビスマレイミドと既存のビスマレイミド化合物を含み、その他少なくとも既存のビスフェノール化合物が含有された熱硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1で表されるビスマレイミド化合物と既存のビスマレイミド化合物を30~70wt%含み、その他少なくとも既存のビスフェノール化合物が含有された熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
【請求項2】
併用されたビスマレイミド化合物中に、化1で表されるビスマレイミド化合物が10~60wt%含まれる請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2を満たす請求項1の熱硬化性樹脂組成物を硬化させた熱硬化性樹脂。
【請求項4】
請求項2を満たす請求項1の熱硬化性樹脂組成物とガラス繊維または炭素繊維からなるプリプレグ。
【請求項5】
請求項4のプリプレグより得られた複合ガラス繊維材料または複合炭素繊維材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱硬化性樹脂の製造分野に関し、特にFRPを構成するマトリックス樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維や炭素繊維等の基材にマトリックス樹脂を含侵させたプリプレグを、熱などで硬化させて得られるFRP材料は、軽量、且つ強度に優れていることから日用品やスポーツ用品を始め、工業用途にまで広く使用されている。
【0003】
FRPの特性はマトリックス樹脂の組成に影響され、ビスマレイミド化合物とビスフェノール化合物を炭素繊維に含侵させて製造されたCFRP材料は、耐熱性に優れることから航空産業や宇宙産業に応用されつつある。
【0004】
ビスマレイミド化合物は、その剛直な構造により耐熱性に優れる利点があるものの、既存の主なビスマレイミド化合物は、融点が比較的高く、マトリックス樹脂を作製する際に溶融混合させることが難しく、ハンドリングの面で課題を残している。
【0005】
特に4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミドは、現在市販されている最も一般的なビスマレイミド化合物であるが、融点が150℃以上と高融点であり、マトリックス樹脂へBMIを含有すると、樹脂の粘度が高まりハンドリング性を低下させる要因になる。
【0006】
一方、マトリックス樹脂組成物中のビスマレイミド化合物の含有度を上げれば、得られた硬化物の耐熱性は向上する。しかし、既存のビスマレイミド化合物は他のマトリックス樹脂組成物との相溶性に乏しく、無理にビスマレイミド化合物の含有度を上げると、ビスマレイミド化合物が析出(再結晶化)するので、ビスマレイミド化合物の含有量が制限される。
【0007】
また、揮発性溶媒を用いることで、ビスマレイミド化合物の溶解度を向上させることもできるが、最終的に溶媒を除去する必要がある。マトリックス樹脂中の溶媒は、完全に系外へ揮発させるのは難しく、残留溶媒による気泡の発生や、揮発した溶媒による作業環境の悪化など、安全衛生面での懸念も生じる。
【0008】
従って、溶媒を用いることなく、低粘度で、且つビスマレイミド化合物の析出性が抑えられた、マトリックス樹脂組成物および、それを構成する新たなビスマレイミド化合物が求められている。
【0009】
以前よりビスマレイミド化合物を含むマトリックス樹脂組成物のハンドリング面を改良する検討が行われている。例えばビスマレイミド化合物を直接対象としていないが、マトリックス樹脂組成に4,4’-(2-プロペニルフェノキシ)ベンゾフェノンを導入し、ビスマレイミド化合物の析出を抑える検討が行われている(特許文献1)。
【0010】
また、複数(三物質)のビスマレイミド化合物とビスフェノール化合物からなるマトリックス樹脂組成物により、ハンドリング面を改良する検討が行われている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2006-11570A1
【特許文献2】特開2018-104609
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ハンドリング性が改善されたビスマレイミド化合物を含む熱硬化性樹脂組成物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、化1で表されるビスマレイミド化合物と既存のビスマレイミド化合物を含み、その他少なくとも既存のビスフェノール化合物が含有された熱硬化性樹脂組成物を得る。
【0014】
【化1】
【発明の効果】
【0015】
本発明を遂行することにより、無溶媒系でハンドリング性に優れた複合材料用の耐熱性マトリックス樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明する。
【0017】
本発明において、化1で表されるビスマレイミド化合物(2-メチルペンタン-1,5-ビスマレイミド:以下2MPBMと略す)は必須成分であり、他の既存のビスマレイミド化合物と併用して用いられる。
【0018】
2MPBM以外の含有されるビスマレイミド化合物としては、市販されるいずれのビスマレイミド化合物を用いても良く、化学構造的に芳香族、脂肪族、脂環式ビスマレイミド類の中から選ばれるが、芳香族ビスマレイミド化合物が耐熱性の面で好ましく、代表的な化合物として4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(以下BMIと略す)が挙げられる。
【0019】
2MPBMを含むビスマレイミド化合物中の2MPBMの重量比率は10~60wt%であり、その範囲で適切な粘度になるように調整すればよい。それよりも2MPBMが少ないと粘度低減効果が得難く、それよりも多いとビスマレイミド化合物の耐析出性が低下するので、本発明の課題を解決することができない。
【0020】
また、2MPBMを除くビスマレイミド化合物が複数であっても構わないが、本発明の効果とは無関係である。
【0021】
一方、マトリックス樹脂のもう片方の主構成物質であるビスフェノール化合物は、不飽和基を有するビスフェノール化合物が好適であり、代表的な化合物として低粘度な2,2’-ジアリルビスフェノールA(以下DABPAと略す)が挙げられる。
【0022】
2MPBMを含むビスマレイミド化合物は、ビスフェノール化合物を含むその他のマトリックス樹脂組成物に対して30~70wt%含有される。2MPBMを含むビスマレイミド化合物の含有量が多くなるほど得られる硬化樹脂の耐熱性が向上するが、範囲を超えると樹脂の粘度が上昇し、ハンドリング性が損なわれる。
【0023】
本発明に即した2MPBMを含むビスマレイミド化合物とビスフェノール化合物が含まれる樹脂組成物に対し、それ以外の適切な材料を含有することができる。例えば、硬化樹脂に可撓性が必要な場合には、ガラス転移温度等の諸物性に影響が出ない範囲で可塑剤を用いても構わない。
【0024】
本発明では開始剤や促進剤を特に必要としないが、適宜添加しても構わない。
【0025】
その他、ビスマレイミドとビスフェノールの混合物と相溶する添加剤であれば、必要に応じて添加することができる。また、無機フィラーや着色剤といった粉体であっても、作業性や靭性、耐熱性などを損なわない範囲で添加しても構わない。
【0026】
マトリックス樹脂の作製手法は溶融混合による一般的なものである。即ち耐腐食性のあるガラスやプラスチック、金属性の容器に各材料を入れ、所定温度で加熱・混合し、溶融混合物(マトリックス樹脂)を得るが、各構成材料の完溶とゲル化防止の観点から混合温度は80℃~130℃の範囲が好ましい。
【0027】
本発明によるマトリックス樹脂を用いたFRP作成法も一般的な手段で構わない。例えばプリプレグ法、レイアップ法、RTM法などいずれを用いても構わない。
【0028】
また、FRP化に用いる繊維類に関しても市販されているものが使用される。ガラス繊維や炭素繊維を細断したものや、繊維を集束し、織って糸やシート化したものが使用され、用途に応じて使い分けることができる。
【0029】
熱硬化過程も一般的な硬化条件で行えばよく、硬化が十分に進行すれば特に制限はない。
【実施例0030】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
2MPBMの合成例
2-メチル-1,5-ペンタンジアミン11.6g(100mmol)をDMF(200ml)に混合した。無水マレイン酸19.6g(200mmol)とDMF(100ml)を混合し、これを先のジアミン溶液に50℃以下で滴下した。その後に65℃まで昇温し、この温度で3時間攪拌を行い、室温まで冷却した。酢酸ナトリウム1.59g(19.4mmol)を添加し、さらに無水酢酸25.5g(250mmol)を添加した後に50℃まで昇温し、この温度で6時間攪拌を行った。反応混合物を減圧下にて濃縮し、残渣をトルエン(100ml)と水(50ml)で抽出をした後に有機層を水(50ml)で2回洗浄した。有機層を減圧下にて濃縮し、得られた残渣をメタノール(70ml)で再結晶することにより、2MPBMを得た。収量20.0g、収率72%であった。
H-NMR(溶媒:CDCl、内部標準物質:TMS)
6.70(s,2H),6.69(s,2H),3.49(t,J=5.9Hz,2H),3.35(m,2H),1.87(m,1H),1.68(m,1H),1.57(m,1H),1.30(m,1H),1.10(m,1H),0.85(d,J=5.4Hz,3H)
13C-NMR(溶媒:CDCl、内部標準物質:TMS)
170.14,170.70,133.96,133.88,43.57,37.71,32.13,31.03,25.69,17.14
【0032】
試験に用いた樹脂の組成およびハンドリング性評価
試験結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示す各樹脂組成物は、ポリプロピレン製容器へ各材料を所定の重量比率で計り取り、130℃で30分間攪拌混合することで各組成物が完溶し、樹脂組成物を得た。
【0034】
各樹脂組成物の粘度は、ガラス繊維リボン上に樹脂を一定量載せ、80℃で30分間加熱静置した後の状態を観察することで評価を行った。ガラス繊維上の樹脂が繊維へ染み込むほど樹脂の粘度が低く、繊維に対する含浸性も高い。繊維に対して容易に含浸したものを○、悪かったものを×とした。
【0035】
本発明に則った樹脂組成物である実施例1では、全ビスマレイミド含有量が60wt%であっても粘度が低く、繊維に対して十分な含浸性を有する。一方2MPBMが含有されていない場合は、比較例2の如く十分に含浸させるには、ビスマレイミド化合物(BMI)の含有量を30wt%まで減ずる必要があった。
【0036】
ビスマレイミドの析出性(耐再結晶性)は樹脂組成物を作製した後、室温下で2週間静置した後の状態を観察し評価したものであり、析出が起こらなかったものを○、起きたものを×とした。
【0037】
実施例1では室温下2週間静置後でも析出が起こらなかったが、比較例1では翌日には析出が起き、実施例1並みに析出を抑制させるためには、比較例2の如くBMIの含有量を30wt%まで減量させる必要があった。
【0038】
CFRPの物性試験
各樹脂組成物を用いたCFRPを作成し物性試験を行った。CFRP作製法は次の通りである。
【0039】
およそ100℃の雰囲気下で炭素繊維シート(トレカクロスCO6633B、東レ株式会社製)に各樹脂組成物を含侵させ、プリプレグを得た。これを3枚積層したものを金型で圧縮・加熱しながら180℃で90分一次硬化させた。次に金型から外し、更に熱空気下で2時間/200℃、2時間/220℃、2時間/230℃の後硬化を行った。
【0040】
得られたCFRP試験片の各物性試験結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
この結果より、実施例1はガラス転移温度を始め、いずれの物性値においてもバランスよく良好な結果が得られている。それに対して比較例1は引張強度に劣り、比較例2はガラス転移温度に劣った。
【0043】
以上より、本発明に従えば、ガラス転移温度などの諸特性を低下させることなく樹脂組成物の粘度を低下させ、無溶媒でハンドリング性に優れた樹脂組成物を得ることができる。