(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023853
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】低分子RNA、並びに線維増殖性疾患及び/又は症候群の予防及び/又は治療におけるその応用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20220201BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220201BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220201BHJP
A61P 31/06 20060101ALI20220201BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220201BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220201BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220201BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220201BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220201BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220201BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220201BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20220201BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220201BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20220201BHJP
A61P 25/32 20060101ALI20220201BHJP
A61P 25/30 20060101ALI20220201BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220201BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220201BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220201BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220201BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220201BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220201BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220201BHJP
A61K 8/96 20060101ALI20220201BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20220201BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220201BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220201BHJP
A61P 37/00 20060101ALI20220201BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/63 Z
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61P31/06
A61P29/00 101
A61P9/00
A61P11/00
A61P35/00
A61P9/10
A61P9/12
A61P29/00
A61P31/12
A61P3/00
A61P3/10
A61P9/06
A61P25/32
A61P25/30
A61P1/18
A61P13/12
A61P17/00
A61P3/06
A61P7/00
A61K31/7088
A61K8/73
A61K8/96
A61Q19/08
A61P35/02
A61P27/02
A61P37/00
A61P25/28
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160557
(22)【出願日】2021-09-30
(62)【分割の表示】P 2019553481の分割
【原出願日】2017-03-30
(31)【優先権主張番号】201710219899.X
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】506032129
【氏名又は名称】中国医学科学院基礎医学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蒋 澄宇
(72)【発明者】
【氏名】杜 澗超
(72)【発明者】
【氏名】梁 竹
(72)【発明者】
【氏名】許 剣涛
(72)【発明者】
【氏名】趙 妍
(57)【要約】 (修正有)
【課題】イワベンケイ由来の低分子RNA、さらに、線維増殖性疾患及び/又は症候群を予防及び治療するためのその用途を提供する。
【解決手段】特定の配列又はその相補的配列を含むポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む又は発現する核酸発現ベクター、該ポリヌクレオチドを含む化粧品組成物、並びにポリヌクレオチドを含む肺、心血管系、肝臓、膵臓、腎臓、脾臓、眼、神経系、骨髄、皮膚等の線維増殖性疾患及び/又は症候群を予防及び又は治療するための医薬組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:8、1、2、3、4、5、6、7、9、10、11、12、13、14、15、16及び17のいずれか1つに示される配列、又はその相補的配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記配列は、SEQ ID NO:8、1、2、3、4、5、6、7、9、10、11、12、13、14、15、16及び17から選ばれる、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記配列は、SEQ ID NO:8、3、10、13及び16から選ばれる、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記配列は、SEQ ID NO:8(GUAUGUAAACAUCCUCGACUGGAAGCU)である、請求項3に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドは、DNA又はRNAである、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドは、低分子RNAである、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記ポリヌクレオチドの長さは、12~40ヌクレオチドである、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
前記ポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖である、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記ポリヌクレオチドは、一本鎖である、請求項8に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記ポリヌクレオチドは、合成された又はヒト人工染色体ベクターで発現されたものである、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む又は発現する核酸発現ベクター。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、化粧品組成物。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、線維増殖性疾患及び/又は症候群を予防及び又は治療するための医薬組成物。
【請求項14】
前記線維増殖性疾患及び/又は症候群は、肺、心血管系、肝臓、膵臓、腎臓、脾臓、眼、神経系、骨髄及び皮膚の線維増殖性疾患及び/又は症候群から選ばれる請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記線維増殖性疾患及び/又は症候群は、珪肺症、石綿肺及び炭鉱夫塵肺を含む無機粉塵職業病、農夫肺、空調肺、加湿器肺、鳥飼育者肺及び砂糖きび肺を含む有機粉塵・過敏性肺炎;抗生物質、非ステロイド性抗炎症薬、心血管薬、抗腫瘍薬、経口血糖降下薬、及びモルヒネ系薬物から選ばれる医薬/治療関連疾患;結核、ウイルス性肺炎、感染性肺嚢胞などの感染症;心不全、先天性心疾患、成人呼吸窮迫症候群、慢性心不全、移植拒絶反応に関連する肺疾患を含む続発性肺疾患;特発性間質性肺炎、器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎、肺リンパ管平滑筋腫を含む原発性肺疾患;全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、進行性全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合性結合組織病に関連する肺疾患を含むコラーゲン血管疾患に関連する肺疾患;びまん性肺胞出血症候群、肺胞蛋白症、好酸球性肺炎、肺血管炎、リンパ球性間質性肺炎、壊死性結節性肉芽腫、家族性肺線維症を含む肺胞充填性病変;
心筋梗塞後の代替性及び反応性線維化を含む虚血性心疾患;高血圧性心疾患;ウイルス性心筋炎を含む炎症性心筋症;ヘモクロマトーシス型心筋症、アミロイドーシス型心筋症、グリコーゲン蓄積性心筋症、糖尿病性心筋症を含む代謝性心筋症;ケシャン病;拡張型心筋症;肥大型心筋症、制限型心筋症;不整脈原性右室心筋症;
B型、C型、及びD型ウイルス性肝炎を含むウイルス性肝硬変;住血吸虫性肝硬変;アルコール性肝硬変;原発性胆汁性肝硬変、続発性肝内胆石症、門脈周囲の炎症を含む胆汁性肝硬変;肝レンズ核変性症、ヘモクロマトーシスを含む代謝性肝硬変;有機リン中毒、四塩化炭素中毒、肝毒性薬剤例えばイソニアジド、テトラサイクリン、クロルプロマジン中毒を含む中毒性肝硬変;栄養失調性肝硬変;慢性うっ血性心不全を含む心原性肝硬変;
急性膵炎;膵管閉塞;慢性アルコール中毒;Oddi括約筋機能異常;膵虚血;
高血圧を含む血管腎線維増殖性疾患及び/又は症候群;糸球体腎炎、全身性エリテマトーデス、強皮症、腎移植拒絶を含む免疫腎線維増殖性疾患及び/又は症候群;腎盂腎炎、腎結石などの感染性腎線維増殖性疾患及び/又は症候群;高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、高カルシウム尿症を含む代謝性腎線維増殖性疾患及び/又は症候群;
脾臓線維増殖性疾患;
眼の外傷・術後の眼線維増殖性疾患及び/又は症候群、増殖性糖尿病網膜線維症;
脊髄外傷後の線維増殖性疾患及び/又は症候群、脳卒中瘢痕形成、アルツハイマー病;特発性・薬物誘発性骨髄線維症、真性赤血球増加症、慢性骨髄性白血病及びホジキン病;
粘膜線維症、瘢痕、ケロイド、及び皮膚肥厚を含む皮膚線維増殖性疾患及び/又は症候群から選ばれる、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
さらに、他の抗線維化剤を含有する請求項13~15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
皮膚若返り美容法であって、それを必要とする対象に請求項1~10のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項11に記載のベクター、請求項12に記載の化粧品組成物、又は請求項13~16のいずれか1項に記載の医薬組成物を投与する、美容法。
【請求項18】
細胞を請求項1~10のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項11に記載のベクター、請求項12に記載の化粧品組成物、又は請求項13~16のいずれか1項に記載の医薬組成物と接触させることを含む、α-SMA、フィブロネクチン、COL1A1及びPAI-1から選択される、1つ又は複数の線維化関連遺伝子の発現を阻害する方法。
【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本出願は、2017年3月29日に中国特許庁へ提出された、発明の名称が「低分子RNA並びに線維増殖性疾患及び/又は症候群の予防及び/又は治療におけるその応用」である中国特許出願(出願番号201710219899.X)に基づき優先権を主張し、その全内容は、援用により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、イワベンケイ由来の低分子RNAに関し、さらに、線維増殖性疾患及び/又は症候群の予防及び/又は治療におけるその用途に関する。
【背景技術】
【0003】
線維化は、線維芽細胞の増殖及び炎症性損傷、組織構造破壊を伴う大量の細胞外マトリックスの凝集を特徴とする一連の疾患の末期変化であり、つまり、正常組織が損傷された後の異常な修復により構造の異常をもたらすことである。肺線維症は、有害物質、自己免疫疾患、医薬品の副作用、感染症、重篤な外傷などの多種の異なる原因によって引き起こされる肺炎、肺泡の持続性損傷、細胞外マトリックスの破壊-修復-再構築の繰り返し及び過剰沈着により、正常な肺組織の変化、機能の喪失を引き起こす病気である。現在、線維化(肺線維症を含む)は、特異的、安全で効果的な治療法が依然として発見されていない。
【0004】
肺線維症患者の大多数は、原因不明(特発性肺線維症)であり、これらの一連の疾患は、特発性間質性肺炎(IIP)、間質性肺疾患の1類である。肺線維症は、人間の呼吸機能に深刻な影響を及ぼし、乾性咳嗽、進行性呼吸困難(意識的に息が吸えなくなる)として現れ、且つ病気及び肺損傷の重症度に従って、患者の呼吸機能が悪化する。特発性肺線維症の発生率及びの死亡率は年々増加し、診断後の平均生存期間はわずか2.8年である。
【0005】
肺線維症患者は、肺胞が徐々に繊維状物質に置き換えられ、肺組織の硬化・肥厚をもたらし、肺のガス交換能が徐々に失われ、患者の異なる程度の低酸素による呼吸困難を生じ、最終的に呼吸不全で死亡する。肺線維症は、呼吸器疾患の4つの主要な疾患の1つであり、病因が複雑で、発症メカニズムが不明で、現在、既知の肺線維症の治療用医薬品及び方法は非常に限られており、且つ治療効果が不十分であり、予後が非常に悪く、5年生存率がわずか50%である。
【0006】
現在、肺線維症の治療では、主に糖質コルチコイド、免疫抑制剤、例えば、プレドニゾン、シクロホスファミド、コルヒチンなどを採用する。近年の臨床実践により、臓器線維症に対して糖質コルチコイド、抗生物質及び免疫抑制剤を使用することで肺胞の早期炎症を軽減し、臨床症状を軽減できるが、線維症の発症が抑制されなく、ホルモン及び抗生物質の長期高用量投与は、深刻な合併症を引き起こすだけでなく、線維症の進行を促進させることが確認されている。酸素投与が含まれる他の治療法は、緩和作用を奏すだけであり、根本的に問題を解決することはできない。さらに、極端な場合の肺移植は、多くの適用条件によっても制限され、特に末期肺疾患の患者において移植成功率が非常に限られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
病因及び発症メカニズムは不明であるため、線維化の治療は、ずっと医薬分野の難しい問題の1つであり、新たな医薬品が研究・開発されているが、満足できる治療又は予防用医薬品及び有効な治療法が発見されていない。
従って、効果的な線維化治療又は予防用医薬品に対する大きなニーズは、依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、イワベンケイ由来の幾つかのsRNAが細胞モデルにおける線維化関連遺伝子発現を効果的に阻害し、及び/又は動物モデルにおけるマウスの肺線維症を効果的に軽減できることを意外に見出した。本発明は、この知見をもとになされたものである。
【0009】
一態様では、本発明は、
A)SEQ ID NO:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16及び17のいずれか1つに示される配列、又はその相補的配列、
B)線維化を予防/治療するための能力をもつ、A)に示される配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%又は98%の同一性を有する配列、
C)線維化を予防/治療するための能力をもつ、ストリンジェントな条件下でA)に示される配列とハイブリダイズする配列、
D)線維化を予防/治療するための能力をもつ、A)に示される配列において1つ又は複数のヌクレオチドが付加、欠失、置換された配列、又は
E)線維化を予防/治療するための能力をもつ、A)、B)、C)又はD)に示される配列の前駆体または修飾された変異体、を含むポリヌクレオチドを提供する。
【0010】
別の態様では、本発明は、上記の第1の態様に記載のポリヌクレオチドを含む、又は発現する核酸発現ベクターを提供する。
【0011】
第3の態様では、本発明は、上記の第1の態様に記載のポリヌクレオチド又は第2の態様に記載の核酸発現ベクターを含む医薬組成物を提供する。
【0012】
第4の態様では、本発明は、線維増殖性疾患及び/又は症候群を予防及び/又は治療する方法において、それを必要とする対象に本発明の第1の態様に記載のポリヌクレオチド、第2の態様に記載のベクター、第3の態様に記載の医薬組成物、及び/又は生体内での本発明に係るポリヌクレオチドの発生を内因的に活性化させるエリシターを投与する、ことを含む方法を提供する。1つの実施形態において、前記方法は、生体内で内因的に活性化させて本発明の第1の態様に記載のポリヌクレオチドを発生させる。それに対応して、本発明は、さらに、前記用途に用いられるポリヌクレオチド、ベクター、医薬組成物、及び内因性エリシター、並びに線維増殖性疾患及び/又は症候群を予防及び/又は治療するための医薬品の製造におけるそれらの用途を提供する。
【0013】
さらに、それに対応して、第5の態様では、本発明は、さらに生体内での本発明に係るポリヌクレオチドの発生を内因的に活性化させるエリシターを提供する。
【0014】
第6の態様では、本発明は、本発明の第1の態様に記載のポリヌクレオチドを製造する方法において、本発明に係るポリヌクレオチドを合成する、及び/又は核酸発現ベクターから発現させること、及び/又はその能力を持つ細胞の本発明のポリヌクレオチの発現を内因的に活性化すること、を含む製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
以上のいずれか1つの態様によれば、本発明は、mRNA及び/又はタンパク質レベルでの1つ又は複数の線維化関連遺伝子の発現の効果的に阻害すること、及び/又は線維増殖性疾患及び/又は症候群の効果的に予防及び/又は治療すること、及び/又は以上の效果の1つ又は複数を達成できるポリヌクレオチドを提供すること、の少なくとも1つの効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1及び
図2は、TGF-β1誘導性MRC-5線維化細胞モデルにおけるイワベンケイ由来のsRNA(HJT sRNA)によるα-SMA、フィブロネクチン、COL1A1及びPAI-1の4つの線維化関連遺伝子のmRNA発現レベルのスクリーニング結果を示す。
図1及び
図2は、それぞれ、48時間前にNC sRNA及びHJT sRNAをトランスフェクトし、MRC-5をTGF-β1で刺激し、48時間後、関連指標を検出する実験(予防群)、並びにMRC-5をTGF-β1で刺激し、3時間後、NC sRNA及びHJT sRNAをトランスフェクトし、TGF-β1刺激後72時間で関連指標を検出する実験(治療群)の結果を示す。
【0017】
図3~
図6は、TGF-β1刺激によるMRC-5線維化細胞モデルにおいて、選ばれる4つのイワベンケイ由来のsRNAがいずれもα-SMA、フィブロネクチン、COL1A1、PAI-1、TGF-β及びSMAD4のmRNA発現レベルを効果的に低減させることができる。具体的には、
図3~
図6は、MRC-5線維化細胞モデルにおけるHJT-sRNA-m7、HJT-sRNA-a2、HJT-sRNA-h3及びppe-miR-169cの抗線維化効果を順に示す。
【0018】
図7~
図9は、ブレオマイシン誘発マウス肺線維症モデルにおいて、選ばれる4つのイワベンケイsRNAがいずれもマウスの死亡率を効果的に低下させ、マウスの体重減少の傾向を大幅に遅らせ、マウス肺線維化の症状を軽減させることができる結果を示す。
【0019】
具体的には、
図7は、HJT-sRNA-a2がブレオマイシンによるマウスの死亡率を効果的に低減させるとともに、マウス体重の減少を遅らせ(
図7Aを参照)、HJT-sRNA-h3がブレオマイシンによるマウスの死亡率を効果的に低減させるとともに、マウス体重の減少を遅らせ(
図7Bを参照)、ppe-miR-169cがブレオマイシンによるマウスの死亡率を効果的に低減させるとともに、マウス体重の減少を遅らせた(
図7Cを参照)ことを示す。
【0020】
図8は、ブレオマイシン誘発マウス肺線維症モデルにおけるHJT-sRNA-m7の役割を示す。
【0021】
図9は、ブレオマイシンによる肺線維症マウスモデルにおいて、HJT-sRNA-m7が肺組織線維化の症状を有効的に軽減させ、コラーゲン、フィブロネクチン及びα-SMAの発現を減少させることを示す。具体的には、
図9Aは、マウス右肺のヒドロキシプロリン含有量(μg/右肺)を示し、
図9Bは、マウス肺組織に対するヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)を示し、
図9Cは、マッソン染色によるα-SMA、フィブロネクチン(fibronectin)及びCOL3A1の免疫組織化学的染色を施した結果を示し、
図9Dは、
図9Cに対応する病理統計学的分析結果を示す。
【0022】
図10~
図12は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイの結果を示す。具体的には、
図10は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイによるHJT-sRNA-m7の標的遺伝子の検証を示し、
図11は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイによるHJT-sRNA-a2の標的遺伝子の検証を示し、
図12は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイによるHJT-sRNA-h3の標的遺伝子の検証を示す。
【0023】
図13~
図14は、TGF-β1で刺激されたMRC-5線維化細胞モデルにおけるα-SMA、フィブロネクチンの2つの線維化関連遺伝子のタンパク質発現レベルのイワベンケイ由来のsRNA(HJT sRNA)によるスクリーニング結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明を何ら限定するものではなく、本発明の示唆に基づくいずれかの変更も本発明の保護範囲に含まれる。
【0025】
通常、siRNA、miRNA、及び他の低分子ノンコーディングRNAは、区別せずに低分子RNA(sRNA)と呼ばれる。特に明記しない限り、本明細書では、「低分子RNA(sRNA)」という用語は、siRNA及びmiRNAを含む各種の低分子ノンコーディングRNAを指す。
【0026】
本明細書では、低分子RNAは、非天然型であってもよく、例えば、合成された、又は人工染色体ベクターで発現されたものである。「非天然型」という用語は、標的物質が自然環境で天然に存在しないことを意味し、これは、前記非天然型の物質が天然に存在する物質と同じ構造及び/又は組成を有することを排除しない。
【0027】
「線維化」という用語は、組織/器官での、線維性結合組織が増加し、実質細胞が減少するプロセス及び状態を指し、複数種の組織/器官で発生する可能性があり、継続的に進行すれば、器官の構造的損傷及び機能退化、さらには臓器不全をもたらし、人間の健康と生命への深刻な脅威につながる。
【0028】
「線維化を予防/治療するための能力」という用語は、標的物質自体が線維化を予防/治療できること、或いはそれに基づいて線維化を予防/治療可能な物質を生成できることを示す。つまり、この能力は、標的物質自体によって直接実現される必要はなく、その標的物質の結果の更なる応用であってもよい。
【0029】
「阻害」という用語は、特定の処置を経て目的とする生理活性を少なくとも一部低下させるか、又は完全に消失させることを意味する。
【0030】
「含む」、「含まれる」、「含有する」という用語は、挙げられた特徴的な要素の以外は、他の特徴的要素を追加してもよい。特に、挙げられた特徴的な要素のみで構成することもできる。
【0031】
1つの態様では、本発明は、
A)SEQ ID NO:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16及び17のいずれか1つに示される配列、又はその相補的配列、
B)線維化を予防/治療するための能力をもつ、A)に示される配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列、
C)線維化を予防/治療するための能力をもつ、ストリンジェントな条件下でA)に示される配列とハイブリダイズする配列、
D)線維化を予防/治療するための能力をもつ、A)に示される配列において1つ又は複数のヌクレオチドが付加、欠失、置換された配列、又は
E)線維化を予防/治療するための能力をもつ、A)、B)、C)又はD)に示される配列の前駆体または修飾された変異体、を含むポリヌクレオチドを提供する。
【0032】
1つの実施形態において、A)に示される配列がSEQ ID NO:3、10、13及び16から選ばれる、本発明に係るポリヌクレオチド。
【0033】
他の実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、DNA又はRNAであり、例えば、RNAであり、好ましくは低分子RNAである。具体的には、前記ポリヌクレオチドの長さは、10~50ヌクレオチド、12~40ヌクレオチドであり、例えば、16~35又は18~30ヌクレオチドであり、より具体的には、上記ポリヌクレオチドの長さは、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49又は50ヌクレオチドである。
【0034】
1つの具体的な実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖であり、好ましくは、一本鎖である。他の具体的な実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、非天然型であり、例えば、合成された又は人工染色体ベクターで発現されたものである。
【0035】
第2の態様では、本発明は、上記の第1の態様に記載のポリヌクレオチドを含む、又は発現する核酸発現ベクターを提供する。例えば、具体的には、前記核酸発現ベクターは、DNAであってもよいが、発現されたポリヌクレオチドは、RNA、例えば、sRNAであってもよい。
【0036】
第3の態様では、本発明は、第1の態様に記載のポリヌクレオチド、又は第2の態様に記載の核酸発現ベクターを含む医薬組成物を提供する。
【0037】
1つの実施形態において、前記医薬組成物は、さらに、他の抗線維化剤を含む。具体的には、前記他の抗線維化剤は、例えば、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、ベクロメタゾンのような糖質コルチコイド、例えば、シクロホスファミド、アザチオプリン、メトトレキサートのような免疫抑制剤、例えば、アセチルシステイン、カルボシステインのような抗酸化剤、例えば、低分子量ヘパリンのような抗凝固薬、コルヒチン、インターフェロン、ACEI及びスタチン系薬剤のいずれか1つ種又は複数種を選択してもよい。
【0038】
第4の態様では、本発明は、線維増殖性疾患及び/又は症候群を予防及び/又は治療する方法において、それを必要とする対象に本発明に係る第1の態様に記載のポリヌクレオチド、第2の態様に記載のベクター、第3の態様に記載の医薬組成物、及び/又は生体内での本発明に係るポリヌクレオチド的発生を内因的に活性化させるエリシターを投与する、ことを含む方法を提供する。1つの実施形態において、前記方法は、生体内で内因的に活性化させて本発明に係る第1の態様に記載のポリヌクレオチドを発生する。それに対応して、本発明は、さらに、第4の態様の用途に用いられるポリヌクレオチド、ベクター、医薬組成物、及び内因性エリシター、並びに線維増殖性疾患及び/又は症候群を予防及び/又は治療するための医薬品の製造におけるそれらの用途を提供する。
【0039】
1つの実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチド、ベクター、医薬/化粧品組成物は、非侵襲的投与(例えば、表面投与)及び/又は注射投与のために製剤化され、例えば、経消化管、経気道及び/又は注射投与のため、例えば、経口、吸入及び/又は注射投与のために製剤化されている。場合によっては、侵襲的投与経路(例えば、筋肉内、皮下、静脈内、動脈内、腹腔内、標的組織内注射を含む注射による投与)を使用することが好ましく、他の場合には、非侵襲的投与途径を使用することが好ましい。
【0040】
他の実施形態において、前記線維増殖性疾患及び/又は症候群は、肺、心血管系、肝臓、膵臓、腎臓、脾臓、眼、神経系、骨髄及び皮膚の線維増殖性疾患及び/又は症候群から選ばれる。
【0041】
1つの具体的な実施形態において、前記線維増殖性疾患及び/又は症候群は、
珪肺症、石綿肺及び炭鉱夫塵肺を含む無機粉塵職業病;農夫肺、空調肺・加湿器肺、鳥飼育者肺及び砂糖きび肺を含む有機粉塵及び過敏性肺炎;抗生物質、非ステロイド性抗炎症薬、心血管薬、抗腫瘍薬、経口血糖降下薬、及びモルヒネ系薬物から選ばれる医薬/治療関連疾患;結核、ウイルス性肺炎、感染性肺嚢胞などの感染症;心不全、先天性心疾患、成人呼吸窮迫症候群、慢性心不全、移植拒絶反応に関連する肺疾患を含む続発性肺疾患;特発性間質性肺炎、器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎、肺リンパ管平滑筋腫を含む原発性肺疾患;全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、進行性全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合性結合組織病に関連する肺疾患を含むコラーゲン血管疾患に関連する肺疾患;びまん性肺胞出血症候群、肺胞蛋白症、好酸球性肺炎、肺血管炎、リンパ球性間質性肺炎、壊死性結節性肉芽腫、家族性肺線維症を含む肺胞充填性病変;
【0042】
心筋梗塞後の代替性・反応性線維化を含む虚血性心疾患;高血圧性心疾患;ウイルス性心筋炎を含む炎症性心筋症;ヘモクロマトーシス型心筋症、アミロイドーシス型心筋症、グリコーゲン蓄積性心筋症、糖尿病性心筋症を含む代謝性心筋症;ケシャン病;拡張型心筋症;肥大型心筋症、制限型心筋症;不整脈原性右室心筋症;
【0043】
B型、C型、及びD型ウイルス性肝炎を含むウイルス性肝硬変;住血吸虫性肝硬変;アルコール性肝硬変;原発性胆汁性肝硬変、続発性肝内胆石症、門脈周囲の炎症を含む胆汁性肝硬変;肝レンズ核変性症、ヘモクロマトーシスを含む代謝性肝硬変;有機リン中毒、四塩化炭素中毒、肝毒性薬剤例えばイソニアジド、テトラサイクリン、クロルプロマジン中毒を含む中毒性肝硬変;栄養失調性肝硬変;慢性うっ血性心不全を含む心原性肝硬変;
【0044】
急性膵炎;膵管閉塞;慢性アルコール中毒;Oddi括約筋機能異常;膵虚血;
【0045】
高血圧を含む血管腎線維増殖性疾患及び/又は症候群;糸球体腎炎、全身性エリテマトーデス、強皮症、腎移植拒絶を含む免疫腎線維増殖性疾患及び/又は症候群;腎盂腎炎、腎結石などの感染性腎線維増殖性疾患及び/又は症候群;高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、高カルシウム尿症を含む代謝性腎線維増殖性疾患及び/又は症候群;
【0046】
脾臓線維増殖性疾患;
眼の外傷・術後の眼線維増殖性疾患及び/又は症候群、増殖性糖尿病網膜線維症;
【0047】
脊髄外傷後の線維増殖性疾患及び/又は症候群、脳卒中瘢痕形成、アルツハイマー病;
【0048】
特発性・薬物誘発性骨髄線維症、真性赤血球増加症、慢性骨髄性白血病及びホジキン病;
【0049】
口腔粘膜線維症、瘢痕、ケロイド、及び皮膚肥厚を含む皮膚線維増殖性障害及び/又は症候群、からなる群から選ばれる。
【0050】
他の実施形態において、前記方法は、さらに、それを必要とする対象に時間及び/又は空間で別々に及び/又は一緒に他の抗線維化剤を投与することを含む。具体的には、前記他の抗線維化剤は、例えば、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、ベクロメタゾンのような糖質コルチコイド、例えば、シクロホスファミド、アザチオプリン、メトトレキサートのような免疫抑制剤、例えば、アセチルシステイン、カルボシステインのような抗酸化剤、例えば、低分子量ヘパリンのような抗凝固薬、コルヒチン、インターフェロン、ACEI及びスタチン系薬剤のいずれか1種又は複数種を選択してもよい。
【0051】
他の実施形態において、前記方法は、生体内での本発明に係る第1の態様に記載のポリヌクレオチドの発生を内因的に活性化させることを含む。そのために、本発明は、さらに、生体内での前記ポリヌクレオチドの発生を内因的に活性化させるエリシターを提供する。
【0052】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象に本発明に係るポリヌクレオチド、ベクター、医薬/化粧品組成物、及び/又は生体内で本発明に係るポリヌクレオチドの発生を内因的に活性化させるエリシターを投与することを含む皮膚若返り美容法を提供する。1つの実施形態において、前記物質は、非侵襲的手段、例えば、表面投与によって投与される。
【0053】
別の態様では、本発明は、本発明の第1の態様に記載のポリヌクレオチドを、合成する及び/又は核酸発現ベクターから発現させる、ことを含む第1の態様に係るポリヌクレオチドの製造方法を提供する。
【実施例0054】
以下の実施例は、図面と組み合わせて列挙されて本明細書に開示される発明を説明するためのものだけであるが、いかなる場合にも、添付の特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
1.実験関連方法及びプロセス
【0055】
1.1 イワベンケイ由来RNAの抽出及び精製
新鮮なイワベンケイに由来する低分子RNAの抽出は、miRNeasy Mini Kit(QIAGEN#217004)の製造元によって提供される取扱説明書に従って行う。
汁液RNAの抽出は、
(1)イワベンケイの汁液200μlには、CTABライセート1mlを加え、さらに20μlβ-メルカプトエタノールを加え、激しく振盪するステップと、
(2)65℃、30minで、渦巻きを発生させながら連続的に振盪するステップと、
(3)12,000rpm、4℃で7min遠心させた後、上清800μlを採取し、エタノール 380μlを加え、均一に混合するステップと、
(4)4℃で20min放置するステップと、
(5)12,000rpm、4℃で15min遠心し、上清800μlを採取し、0.8倍の体積のクロロホルムを添加し、均一に激しく混合するステップと、
(6)10min放置し、12,000rpm、4℃で15min遠心するステップと、
(7)上清600μlを採取し、予備冷却されたイソプロパノール600μlを加え、均一に混合した後、-20℃で20min放置させるステップと、
(8)12,000rpm、4℃で10min遠心し、上清を捨てた後、沈殿物を75%エタノールで2回洗浄するステップと、
(9)DEPCで処理されたH2OでRNAを溶解させるステップと、を含む。
【0056】
1.2 ヒト血液、マウス肺及び細胞トータルRNAの抽出及びハイスループットシーケンス
(1)細胞にTRIzolライセートを加え、室温で5分間放置し、十分に溶解させる(マウス肺組織の場合、組織100mgにTRIzolライセート1.0mlを加え、ホモジナイザーで研磨させ、12,000rpm、4℃で10min遠心し、よくホモジナイズされていない組織沈殿物を除去する)ステップと、
(2)12,000rpm、4℃で5min遠心し、沈殿物を捨てるステップと、
(3)200μl/ml TRIzolの割合でクロロホルムを加え、十分に振盪してよく混合させ、室温で15min放置するステップと、
(4)12,000rpm、4℃で15min遠心し、上層の水相を吸い取り、別の遠心管に入れるステップと、
(5)ステップ(4)を繰り返し、上層の水相と同じ量のクロロホルムを加え、よく混合した後、室温で10min放置し、12,000rpm、4℃で15min遠心するステップと、
(6)上層の水相を吸い取り、別の新たなEPチューブに0.5ml/ml TRIzolでイソプロパノールを加えてよく混合し、室温で5~10min放置するステップと、
(7)12,000rpm、4℃で10min遠心し、上清を捨てるステップと、
(8)75% エタノールを1ml加え、遠心管を温和に振盪させ、沈殿物を懸濁させるステップと、
(9)8000g、4℃で5min遠心し、上清をできるだけ捨てるステップと、
(10)室温で5~10min乾燥させ、DEPC 50μlで処理されたH2OでRNAサンプルを溶解させるステップと、を含む。
【0057】
1.3 RT-qPCRの検出
1)sRNAをcDNAに逆転写し、逆転写キット(High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kits、Applied Biosystems、cat.no.4368813)で、ステムループ法(Stem-loop法)によりsRNAをcDNAに逆転写し、逆転写系は、テンプレートRNA(150ng/μl)10μl、10X RT Buffer 2.0μl、25X dNTP Mix(100mM)0.8μl、U6RTプライマー(10μM)2.0μl、HJT-sRNA-m7RTプライマー(10μM)2.0μl、MultiScribeTM逆転写酵素1.0μl、RNase阻害剤1.0μl、Nuclease-free H2O 1.2μl、一過性遠心分離後、PCR機器にセットし反応させ、反応条件は、(1)25℃、10min、(2)37℃、120min、(3)85℃、5min、(4)4℃で反応を終了させることである。反応終了後、RNase Free dH2O 20μlを加え、最終的な容量が40μlになるように補充する。使用したプライマー配列は、以下の通りであり、
ヒトU6RT:GTCGTATCCAGTGCAGGGTCCGAGGTATTCGCACTGGATACGACAAAAATATG(配列番号18)、
HJT-sRNA-m7RT:GTCGTATCCAGTGCACGCTCCGAGGTATTCGCACTGGATACGACGCTTACAA(配列番号19)。
2)定量PCR増幅反応は、qPCR反応系の全容量が10μlであり、2×SYBR Green Master Mix 5μL、フォワードプライマー(10μM)0.5μl、リバースプライマー(10μM)0.5μl、逆転写されたcDNA 1μl、RNase Free dH2O 3μlを含む。LightCycler 480リアルタイムPCR装置を使用し、PCR反応条件は、95℃で5min予備変性し、PCR増幅サイクルを開始させ、(1)95℃、10s、(2)55℃、10s、(3)72℃、20s、合計40サイクルを行い、最後、40℃で10s維持して降温させる。増幅反応のフォワードプライマー及びリバースプライマーは、いずれも北京ケイ科新業生物技術有限公司(TsingkeBiologicalTechnologyCo.,Ltd,Beijing)によって設計、合成されたものである。使用したプライマー配列は、以下の通りであり、
ヒトU6F:GCGCGTCGTGAAGCGTTC(配列番号20)、
ヒトU6R:GTGCAGGGTCCGAGGT(配列番号21)、
HJT-sRNA-m7F:TCGCGCTGAGGTAGTAGGTT(配列番号22)、
HJT-sRNA-m7R:GTGCACGCTCCGAGGT(配列番号23)。
3)ΔΔCt法によって相対発現量を計算する。
【0058】
1.4 タンパク質サンプルの収集及びBCA法による濃度の測定
(1)培地を捨て、PBSバッファーで2回洗浄し、適量の予冷されたRIPAライセートを加え、細胞をピペットチップでこそげ遠心管に移し、氷上で20min溶解する。
(2)BCA試薬A及びB(50:1、v/v)を十分に混合し、BCAワーキング試薬を調製する。
(3)新鮮に調製されたBSA標準液及び被験サンプルを25μlずつ採取し、96ウェルプレートに加え、1ウェル当たりBCAワーキング試薬200μlを加え、よく混合する。
(4)37℃で30minインキュベートした後、室温まで冷却し、又は室温で2h放置する。
(5)紫外可視分光光度計(Synergy 4マルチファンクションマイクロプレートリーダー)を使用し、562nmでその吸光度を測定し、サンプル中のタンパク質濃度を標準曲線から計算する。
(6)RIPAライセートでサンプルの濃度を調整し、各サンプルの濃度の一貫性を確保する。
【0059】
1.5 ウェスタンブロット法による検出(Western blot)
(1)ゲルの作製:濃度が10%の分離ゲル(下層ゲル)及び濃度が5%の濃縮ゲル(上層ゲル)、15ウェルのコームで構成されるレーンを採用し、各レーン当たりタンパク質サンプルのサンプルロード量が等しくなる。
(2)サンプルの処理:サンプルを等量の2×loading befferに加え、97℃で金属浴に10分間入れた後、氷上に置いて、用意する。
(3)タンパク質の電気泳動:電気泳動用バッファーを加え、電気泳動の初期電圧が80Vであり、ブロモフェノールブルー色素が分離ゲルに到達した後、電圧を120Vに上げ、ブロモフェノールブルー色素が分離ゲルの底部に達し、又は全てゲルから泳ぎ出すまでに電気泳動を続ける。
(4)ウェット式ブロッティング:(負極)スポンジ-ろ紙-ゲル-PVDFメンブレン-ろ紙-スポンジ(正極)の順序に従って組み込まれ、説明書に従って取り付け、ブロッティング装置全体を4℃の冷室にセットし、定電流300mAで、120minブロッティングする。
(5)ブロッキング:ブロッティング終了後、3% BSAブロッキング溶液中に入れ、室温で1hブロッキングする。
(6)一次抗体のインキュベーション:ブロッキング後のPVDFメンブレンをプラスチックバッグに移し、一次抗体を含有する3% BSAブロッキング溶液(一次抗体の濃度は抗体の説明書に従って決定する)、バッグ内の気泡を取り除き、密閉後、4℃で一晩インキュベートする。
(7)メンブレンの洗浄:PVDFメンブレンを取り出し、1回10分間、TBSTでメンブレンを3回洗浄する。
(8)二次抗体のインキュベーション:TBSTを捨て、二次抗体を含有する3% BSAブロッキング溶液を加え、室温で2時間インキュベートする。
(9)メンブレンの洗浄:PVDFメンブレンを取り出し、1回10分間、TBSTでメンブレンを3回洗浄する。
(10)現像:Western現像液を調製し、調製された現像液をメンブレン結合タンパク質の側面に均一に滴下し、メンブレンをしがみつくフィルムで慎重に包み、X線撮影用暗室にセットしてシートを10~20min押し、最後に現像液、定着液を加えて観察する。
(11)スキャン及び解析:ネガフィルムをQuantity Oneにより解析・処理し、Image Jによりグレースケールを解析する。
【0060】
1.6 ブレオマイシン誘導性マウス肺線維症モデルの構築
6~8週齢で体重が20~25gの雄性C57BL/6マウスを選択し、麻酔下で気管支を介して生理食塩水で調製されたブレオマイシン溶液(3.5U/kg)100μLを投与し、対照群に100μLの生理食塩水を投与し、マウスの体重と死亡率を毎日記録し、21d日目にマウスを処理する。ヒドロキシプロリンの測定のために右肺を採取し、左肺を採取して4%パラホルムアルデヒドで固定した後、パラフィン包埋し、切片を作成し、ヘマトキシリン-エオシン染色(HE染色)、マッソントリクローム染色及び免疫細胞化学による検出を行う。組織の病理切片及び線維化指標の結果を組み合わせ、ブレオマイシン誘導性マウス肺線維症モデルの構築に成功したかどうかを評価する。
【0061】
1.7 ルシフェラーゼレポーター遺伝子による標的遺伝子の検出
実験材料
ヒト胎児腎細胞293T;10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS)を加えたDMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium);ペ
ニシリン(100U/ml)及びストレプトマイシン(100mg/ml);トランスフェクト試薬:RNAiMax(Invitrogen)及びリポソームLipofectamine 2000(Invitrogen);デュアルルシフェラーゼレポーター遺伝子システム:psiCHECK2(Promega C2081)
実験方法
(1)10%FBSを含むDMEM培地で培養した293T細胞を48ウェルプレートに1ウェルあたり約3x104個細胞で分注し、接着後、RNAiMax(Invitrogen)で100nMのNC sRNA/sRNAをトランスフェクトする。
(2)24時間後、Lipofectamine 2000(Invitrogen)でpsiCHECK2-3’-UTR又はpsiCHECK2-3’-mUTRのプラスミドをトランスフェクトする。
(3)プラスミドをトランスフェクトした8時間、14時間又は24時間後にDual-luciferase Assay System(Promega E1910)のマニュアルにおける使用方法に従って蛍光強度を検出する。
2.試験の実施例
【0062】
2.1 イワベンケイ由来のsRNAの同定
上記の項目1.1を参照すると、キット及び改良されたCTAB法を利用し、それぞれ新鮮なイワベンケイ及びイワベンケイ生薬の煎じ薬からRNAを抽出し、アガロースゲル電気泳動により、RNA断片は20nt以下の低分子RNA断片(small RNA、sRNA)であることを示した。次の試験では、イワベンケイの煎じ薬を7日連続で飲んだ後の0時間及び24時間のヒトの全血、イワベンケイ由来のRNAを3日連続で胃内投与した後の12時間、24時間及び48時間後のマウス的肺組織、並びにイワベンケイ由来のRNAを加えた後の24hのA549細胞についてはそれぞれハイスループットシーケンス(SE36、Illumina HiSeq2500)を行った。バイオインフォマティクスの方法により、次の条件に従ってマウス肺、ヒト血液又はA549細胞に進入した低分子RNA断片を識別した。即ち、(1)ヒト血液、マウス肺組織又はA549細胞に存在するイワベンケイ由来の低分子RNA、(2)ヒト又はマウスのゲノムに合わせないイワベンケイ由来の低分子RNA。上記の方法により、本発明者らは、予想外に、3つのヒト血液へ進入したイワベンケイ由来の低分子RNAを発見し(表1を参照)、ヒト血液におけるその存在比の順に応じて、HJT-sRNA-h1~3と順次に命名し、8つのマウス肺組織へ進入したイワベンケイ由来の低分子RNAを発見し(表2を参照)、マウス肺組織におけるその存在比の順に応じて、HJT-sRNA-m1~8と順次に命名し、2つのA549細胞へ進入したイワベンケイ由来の低分子RNAを発見し、A549細胞におけるその存在比の順に応じて、HJT-sRNA-a1~2と順次に命名した(表3を参照)。なお、本発明者は、さらに、イワベンケイのうち、miRbaseデータベースに合わせられる、4つの低分子RNAをスクリーニングし、後の実験を行った(表4を参照)。
【0063】
表1 ヒト血液中のイワベンケイ由来のsRNA配列及び命名
【0064】
表2 マウス肺中のイワベンケイ由来のsRNA配列及び命名
【0065】
表3 A549細胞中のイワベンケイ由来のsRNA配列及び命名
【0066】
表4 イワベンケイ由来のmiRbaseデータベースに合わせられるsRNA配列及び命名
【0067】
2.2 sRNAの抗線維化活性
2.2.1 TGF-β1で刺激されたMRC-5線維化細胞モデルにおけるイワベンケイ由来のsRNAのスクリーニング及び同定
TGF-β1 3ng/mlによりMRC-5細胞を48h(
図1)又は72h(
図2~
図6)刺激した後、RNAサンプルを採取し、RT-PCR法で線維化関連遺伝子α-SMA、フィブロネクチン(Fibronectin)、COL1A1、PAI-1、SMAD4及びTGF-βのmRNAの相対発現を検出した。
α-SMA、フィブロネクチン(Fibronectin)、COL1A1及びPAI-1は、4つの線維化関連遺伝子である。イワベンケイ由来のsRNAを使用してTGF-β1で刺激されたMRC-5線維化細胞モデルを処理し、上記の4つの線維化関連遺伝子のmRNAレベルの発現を検出することにより、ヒト血液、マウス肺及びA549細胞へ進入した低分子RNAについて抗線維化機能のスクリーニングを行った。結果は
図1及び2に示すように、予防及び治療の両方の試験において、多種のイワベンケイ由来のsRNAはいずれもMRC-5細胞中のmRNAレベルでの線維化関連遺伝子の発現を阻害することができる。
【0068】
HJT-sRNA-m7、HJT-sRNA-h3、HJT-sRNA-a2及びppe-miR169cの4つのsRNA配列を選択してその後の検証実験を行い、24h時間前にNC sRNA及びHJT sRNAをトランスフェクトし、TGF-β1によってMRC-5を72h刺激した後、関連指標を検出した。それぞれは、
図3~
図6に示すように、TGF-β1誘導性MRC-5線維化細胞モデルにおいて、上記の4つのsRNAは、いずれもα-SMA、フィブロネクチン、COL1A1、PAI-1、TGF-β及びSMAD4のmRNA発現レベルを効果的に低減させることができる。
本発明者らは、イワベンケイ由来のsRNA(HJT sRNA)によるTGF-β1誘導性MRC-5線維化細胞モデルにおけるα-SMA、フィブロネクチンの2つの線維化関連遺伝子のタンパク質発現レベルをスクリーニングした。
図13及び
図14は、それぞれ、24時間前にNC sRNA及びHJT sRNAをトランスフェクトし、TGF-β1でMRC-5を72時間刺激した後、関連指標(予防群)を検出した実験結果を示した。
図13及び
図14に示すように、多種のイワベンケイ由来のsRNAは、いずれもタンパク質レベルでMRC-5細胞中の線維化関連遺伝子の発現を阻害することができる。中でも、SEQ ID NO:4、5、6、8、10に対応するHJT sRNAは、フィブロネクチンのタンパク質発現レベルを大幅に低減させることができ、SEQ ID NO:3、5、6、8、10、16、17に対応するHJT sRNAは、α-SMAのタンパク質発現レベルを低減させることができる。
【0069】
2.2.2 ブレオマイシン誘導性マウス肺線維症モデルにおけるイワベンケイ由来のsRNAの作用
上記の項目1.6によれば、ブレオマイシン誘導性マウス肺線維症モデルにおいて、上記の4つのイワベンケイ由来のsRNAの、線維化に対する効果を測定した。C57BL/6Jマウスは、ブレオマイシン(BLM、Nippon Kayaku、Tokyo、Japan)を用量3.5U/kgで気管内投与するとともに、NC sRNA、HJT-sRNA-m7、HJT-sRNA-a2、HJT-sRNA-h3及びppe-miR-169cのagomir(蘇州吉瑪遺伝子株式有限会社製)を用量8mg/kg、生理食塩水で希釈された100μl全容量で気管内投与した。ブレオマイシン投与後7日目、13日目及び16日目にそれぞれNC sRNA、HJT-sRNA-m7、HJT-sRNA-a2、HJT-sRNA-h3及びppe-miR-169cのagomirを用量4mg/kgで腹腔内投与した。
図7~
図9に示すように、本発明者らは、選択された4つのイワベンケイ由来のsRNAは、いずれも驚くほどマウスの死亡率を著しく低下させ、マウスの体重減少を大幅に遅らせ、マウスの肺線維症の症状を緩和できることを見出した。
【0070】
2.2.3 ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイによる検出イワベンケイ由来のsRNAの抗線維化標的の検出
上記の項目1.7によれば、ルシフェラーゼレポーター遺伝子システムを使用してイワベンケイ由来のsRNAの細胞内標的遺伝子を検出した。
図10~
図12に示すように、HJT-sRNA-m7は、α-SMA、フィブロネクチン及びCOL3A1を直接標的とすることにより抗線維化機能を発揮することができ、HJT-sRNA-a2は、COL1A1、COL3A1、TGF-β及びSMAD4を直接標的とすることにより抗線維化機能を発揮することができ、HJT-sRNA-h3は、COL1A1及びCOL3A1を直接標的とすることにより抗線維化機能を発揮することができる。
前記線維増殖性疾患及び/又は症候群は、珪肺症、石綿肺及び炭鉱夫塵肺を含む無機粉塵職業病、農夫肺、空調肺、加湿器肺、鳥飼育者肺及び砂糖きび肺を含む有機粉塵・過敏性肺炎;抗生物質、非ステロイド性抗炎症薬、心血管薬、抗腫瘍薬、経口血糖降下薬、及びモルヒネ系薬物から選ばれる医薬/治療関連疾患;結核、ウイルス性肺炎、感染性肺嚢胞などの感染症;心不全、先天性心疾患、成人呼吸窮迫症候群、慢性心不全、移植拒絶反応に関連する肺疾患を含む続発性肺疾患;特発性間質性肺炎、器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎、肺リンパ管平滑筋腫を含む原発性肺疾患;全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、進行性全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合性結合組織病に関連する肺疾患を含むコラーゲン血管疾患に関連する肺疾患;びまん性肺胞出血症候群、肺胞蛋白症、好酸球性肺炎、肺血管炎、リンパ球性間質性肺炎、壊死性結節性肉芽腫、家族性肺線維症を含む肺胞充填性病変;
心筋梗塞後の代替性及び反応性線維化を含む虚血性心疾患;高血圧性心疾患;ウイルス性心筋炎を含む炎症性心筋症;ヘモクロマトーシス型心筋症、アミロイドーシス型心筋症、グリコーゲン蓄積性心筋症、糖尿病性心筋症を含む代謝性心筋症;ケシャン病;拡張型心筋症;肥大型心筋症、制限型心筋症;不整脈原性右室心筋症;
B型、C型、およびD型ウイルス性肝炎を含むウイルス性肝硬変;住血吸虫性肝硬変;アルコール性肝硬変;原発性胆汁性肝硬変、続発性肝内胆石症、門脈周囲の炎症を含む胆汁性肝硬変;肝レンズ核変性症、ヘモクロマトーシスを含む代謝性肝硬変;有機リン中毒、四塩化炭素中毒、肝毒性薬剤例えばイソニアジド、テトラサイクリン、クロルプロマジン中毒を含む中毒性肝硬変;栄養失調性肝硬変;慢性うっ血性心不全を含む心原性肝硬変;
急性膵炎;膵管閉塞;慢性アルコール中毒;Oddi括約筋機能異常;膵虚血;
高血圧を含む血管腎線維増殖性疾患及び/又は症候群;糸球体腎炎、全身性エリテマトーデス、強皮症、腎移植拒絶を含む免疫腎線維増殖性疾患及び/又は症候群;腎盂腎炎、腎結石などの感染性腎線維増殖性疾患及び/又は症候群;高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、高カルシウム尿症を含む代謝性腎線維増殖性疾患及び/又は症候群;
脾臓線維増殖性疾患;
眼の外傷・術後の眼線維増殖性疾患及び/又は症候群、増殖性糖尿病網膜線維症;
脊髄外傷後の線維増殖性疾患及び/又は症候群、脳卒中瘢痕形成、アルツハイマー病;特発性・薬物誘発性骨髄線維症、真性赤血球増加症、慢性骨髄性白血病およびホジキン病;
粘膜線維症、瘢痕、ケロイド、および皮膚肥厚を含む皮膚線維増殖性疾患及び/又は症候群から選ばれる、請求項12に記載の医薬組成物。