IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティの特許一覧

<>
  • 特開-脳損傷の予測方法 図1
  • 特開-脳損傷の予測方法 図2
  • 特開-脳損傷の予測方法 図3
  • 特開-脳損傷の予測方法 図4
  • 特開-脳損傷の予測方法 図5
  • 特開-脳損傷の予測方法 図6
  • 特開-脳損傷の予測方法 図7
  • 特開-脳損傷の予測方法 図8
  • 特開-脳損傷の予測方法 図9
  • 特開-脳損傷の予測方法 図10
  • 特開-脳損傷の予測方法 図11
  • 特開-脳損傷の予測方法 図12
  • 特開-脳損傷の予測方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023999
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】脳損傷の予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220201BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20220201BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20220201BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALN20220201BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/536 C
G01N33/536 D
G01N33/536 E
C12Q1/68
C12Q1/26
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181686
(22)【出願日】2021-11-08
(62)【分割の表示】P 2019195925の分割
【原出願日】2014-07-17
(31)【優先権主張番号】61/847,213
(32)【優先日】2013-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VISUAL BASIC
2.UNIX
(71)【出願人】
【識別番号】501335771
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100100181
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 正博
(72)【発明者】
【氏名】エヴェレット アレン ディー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン エイク ジェニファー イー
(72)【発明者】
【氏名】コーリー フレッド
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は脳損傷の分野に関する。本発明は脳損傷の診断/予後判定/評価において有用な方法および組成物を提供する。
【解決手段】どの外傷性脳損傷(TBI)患者が急性頭蓋内病態を診断するために頭部コンピューター断層撮影(CT)スキャンを必要とするか鑑別するための方法は、(a)患者から試料を入手または採取する段階、(b)患者から入手した血液試料中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを測定する段階であって、バイオマーカーがグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、S100B、メタロチオネイン3(MT3)、ニューロン特異性エノラーゼ(NSE)および細胞内接着分子5(ICAM5)を含む段階;および(c)GFAP、S100B、MT3、NSEおよびICAM5を含む1つまたはそれ以上のバイオマーカーの測定されたレベルに基づき、患者の頭部CTスキャンの要否を鑑別する段階を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の脳振盪後症状及び外傷性脳損傷(TBI)後の障害を予測するための方法であって:
a.イムノアッセイを用いて前記患者から採取した生体試料中のパネルバイオマーカーのレベルを測定する段階であって、前記バイオマーカーのパネルが脳由来神経栄養因子(BDNF)、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせを含み、前記生体試料が血液、血漿、または血清試料から選択される、前記段階;および
b.前記患者から採取した生体試料中の前記バイオマーカーのパネルの前記レベルを、持続性の脳振盪後症状を有する患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベル、TBI後の障害を有する患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベル、脳振盪後症状のない患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベル、およびTBI後の障害のない患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベルと比較する段階であって、前記事前に定義するレベルの1つとの相関が前記患者の脳振盪後症状及びTBI後の障害の予測を提供する前記段階、を含む前記方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記バイオマーカーのパネルが、メタロチオネイン3(MT3)、神経特異エノラーゼ(NSE)及び/又は細胞内接着分子5(ICAM5)を更に含む、前記方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、前記試料中のBDNFのレベルがTBIを有する患者で低下する、前記方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法であって、前記試料中のBDNFのレベルとグリア線維酸性タンパク質(GFAP)、MT3、NSE、S100B及び/又はICAM5の組合せによって、前記患者の脳振盪後症状及びTBI後の障害を予測する前記方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法であって、前記試料中のBDNFのレベルとGFAP、MT3、及び/又はNSEの組合せによって、前記患者の脳振盪後症状及びTBI後の障害を予測する前記方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法であって、前記試料中のBDNFのレベルとGFAP、MT3、及び/又はNSEの組合せによって、前記患者の脳振盪後症状及びTBI後の障害を予測し、前記試料中のBDNFのレベルがTBIを有する患者で低下する、前記方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法であって、1つまたはそれ以上のバイオマーカーがシトルリン化、グリコシル化、アセチル化、メチル化、及び/又はリン酸化から選択される翻訳後修飾型を含む、前記方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法であって、前記脳振盪後症状が長期的脳振盪後症状である、前記方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法であって、前記イムノアッセイが、サンドイッチイムノアッセイ、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光イムノアッセイ、化学発光イムノアッセイ、電子化学発光イムノアッセイ、イムノブロットアッセイ、又はウェスタンブロット(WB)アッセイから選択される、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、その全文を参照文献として本願に援用する、2013年7月17日に出願された米国特許仮出願第61/847,213号の利益を主張する。
【0002】
本発明は脳損傷の分野に関する。より具体的には、本発明は脳損傷の診断/予後判定/評価において有用な方法および組成物を提供する。
【背景技術】
【0003】
理学的検査および中枢神経系(CNS)画像診断(コンピューター断層撮影(CT)スキャンまたは磁気共鳴映像(MRI))といった臨床的手段は、主観的で、広範に利用することができず、感度または特異性が不十分で、かつすべてCNS損傷患者を鑑別するには費用が高すぎるので、偽陰性率が高い。これは、初期損傷または疾患に関わらず、生命維持または心肺バイパス、外傷、酸素喪失の状態にある者を含むことがある。CNSまたは脳の損傷を有する患者は、顕性脳卒中への進行、認知および運動欠損、認知症、および精神機能低下を発症するリスクが顕著であるので、そのような者を鑑別する大きな臨床的ニーズがある。さらに、循環バイオ-マーカーによる正確かつ感度の高いCNS損傷の鑑別は、新たな治療様式の有効性を試験および比較するための客観的な基準を提供するであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、少なくとも部分的に、バイオマーカーであるGFAP(グリア線維酸性タンパク質)、S100B、MT3(メタロチオネイン3)、NSE(ニューロン特異性エノラーゼ)、およびICAM5(細胞内接着分子5)(および/またはその翻訳後修飾型またはそのアイソフォームのいずれか)の組み合わせによって、単なる脳振盪に対して頭蓋内出血を除外するために頭部CTスキャンを必要とするのはどの外傷性脳損傷(TBI)患者か識別することができるという発見に基づく。初期対応として(例:救急科(ED)環境において)またはそれ以降(例:神経内科)に実施すれば、本発明は頭部CTスキャンの利用を減少させ、医療費および放射線被曝を低下させるであろう。
【0005】
したがって、一定の実施形態においては、救急科(ED)到着時のGFAP、S100B、MT3、ICAM5、BDNFおよび/またはNSEの血中レベルの組み合わせによって、TBIより24時間以内に受診した患者の頭部CTスキャンの必要性を予測することができる。マーカーの組み合わせによって、そのいずれかのみよりも感度が高まる。さらに、これらのマーカーの組み合わせは、損傷が発生した際に随時使用できる可能性がある(例:受傷時、救急車内、救急科、または病室)。
【課題を解決するための手段】
【0006】
具体的な実施形態においては、どの外傷性脳損傷(TBI)患者が、急性頭蓋内病態を診断するために頭部コンピューター断層撮影(CT)スキャンを必要とするか鑑別するための方法は、(a)患者から入手した生体試料を、複数のバイオマーカーと選択的に結合する複数の結合物質と、結合物質-バイオマーカー複合体を形成するのに十分な時間接触させる段階であって、複数のバイオマーカーがグリア線維酸性タンパク質(GFAP)、S100B、メタロチオネイン3(MT3)、ニューロン特異性エノラーゼ(NSE)および細胞内接着分子5(ICAM5)のうち1つまたはそれ以上を含む段階;(b)結合剤-バイオマーカー複合体を検出することにより、生体試料中のバイオマーカーの発現レベルを判定する段階;および(c)生体試料中の複数のバイオマーカーの発現レベルを事前に定める閾値と比較する段階であって、複数のバイオマーカーのうち少なくとも1つの事前に定める閾値を上回るかまたは下回る発現レベルが、頭部CTスキャンの必要性を示す段階を含む。
【0007】
他の実施形態においては、どの外傷性脳損傷(TBI)患者が急性頭蓋内病態を診断するために頭部CTを必要とするか鑑別するための方法は、(a)患者から入手した生体試料を、固形基材および基材上に固定された複数の結合物質を含む組成物と接触させる段階であって、結合物質のそれぞれが基材上の相異なる、指標となりうる位置に固定され、かつ結合物質が複数のバイオマーカーと特異的に結合する段階であって、複数のポリペプチドバイオマーカーがGFAP、S100B、MT3、NSEおよびICAM5のうち1つまたはそれ以上を含む段階;(b)複数の結合物質と複数のバイオマーカーの結合を検出することにより、生体試料中の複数のバイオマーカーの発現レベルを判定する段階;および(c)生体試料中の複数のバイオマーカーの発現レベルを事前に定める閾値と比較する段階であって、複数のバイオマーカーのうち少なくとも1つの事前に定める閾値を上回るかまたは下回る発現レベルが、頭部CTスキャンの必要性を示す段階を含む。
【0008】
本発明は、TBI患者が頭蓋内出血(ICH)を有する可能性があると診断するための方法であって、(a)患者から入手した生体試料を複数のバイオマーカーと選択的に結合する複数の結合物質と、結合物質-バイオマーカー複合体を形成するのに十分な時間接触させる段階であって、複数のバイオマーカーがGFAP、S100B、MT3、NSEおよびICAM5のうち1つまたはそれ以上を含む段階;(b)結合物質-バイオマーカー複合体を検出することにより、生体試料中のバイオマーカーの発現レベルを判定する段階;および(c)生体試料中の複数のバイオマーカーの発現レベルを事前に定める閾値と比較する段階であって、複数のバイオマーカーのうち少なくとも1つの事前に定める閾値を上回るかまたは下回る発現レベルによって、患者がICHを有する可能性が示される段階を含む方法も提供する。
【0009】
さらに他の実施形態においては、TBI患者がICHを有する可能性があると診断するための方法は、(a)患者から入手した生体試料を固形基材および基材上に固定された複数の結合物質を含む組成物と接触させる段階であって、結合物質のそれぞれが基材上の相異なる、指標となりうる位置に固定されかつ結合物質が複数のバイオマーカーと特異的に結合する段階であって、複数のポリペプチドバイオマーカーがGFAP、S100B、MT3、NSEおよびICAM5のうち1つまたはそれ以上を含む段階;(b)複数の結合剤と複数のバイオマーカーの結合を検出することにより、生体試料中の複数のバイオマーカーの発現レベルを判定する段階;および(c)生体試料中の複数のバイオマーカーの発現レベルを事前に定める閾値と比較する段階であって、複数のバイオマーカーのうち少なくとも1つの事前に定める閾値を上回るかまたは下回る発現レベルによって、患者がICHを有する可能性が示される段階を含む。
【0010】
一定の実施形態においては、複数のバイオマーカーはGFAPおよびS100B;GFAPおよびMT3;GFAPおよびNSE;GFAP、ICAM、およびS100B;GFAP、ICAM5およびMT3;GFAP、MT3およびS100B;GFAP、NSEおよびS100B;またはGFAP、ICAM5、MT3およびS100Bを含む。より具体的な実施形態においては、事前に定めるバイオマーカーの閾値はGFAP>0.04ng/mL、ICAM>17ng/mL、S100B>2ng/mL、MT3>0.95ng/mL、およびNSE<71ng/mLを含む。具体的な実施形態においては、生体試料は血液、血漿、血清または脳脊髄液(CSF)を含む群から選択される。他の実施形態においては、結合物質は抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0011】
本発明は、固形基材および複数の結合物質を含む組成物も提供する。1つの実施形態においては、組成物は固形基材、および基材上に固定された複数の結合物質であって、結合物質のそれぞれが基材上の相異なる、指標となることのできる位置に固定されかつ結合物質が複数のバイオマーカーと特異的に結合する結合物質であって、複数のバイオマーカーがGFAP、S100B、MT3、NSE、およびICAM5である結合物質を含む。さらなる実施形態においては、複数のバイオマーカーはさらに脳由来神経栄養因子(BDNF)を含む。具体的な実施形態においては、結合物質は検出可能な構成部分で標識される。検出可能な構成部分は発光物質、化学発光物質、放射性同位元素、比色物質;および酵素-基質物質からなる群から選択することができる。一定の実施形態においては、結合物質は抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0012】
さらに他の実施形態においては、どの外傷性脳損傷(TBI)患者が急性頭蓋内病態を診断するために頭部コンピューター断層撮影(CT)スキャンを必要とするか鑑別するための方法は、(a)患者から試料を入手または採取する段階、(b)患者から入手した血液試料中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを測定する段階であって、バイオマーカーがグリア線維酸性タンパク質(GFAP)、S100B、メタロチオネイン3(MT3)、ニューロン特異性エノラーゼ(NSE)および細胞内接着分子5(ICAM5)を含む段階;および(c)GFAP、S100B、MT3、NSEおよびICAM5を含む1つまたはそれ以上のバイオマーカーの測定されたレベルに基づき、患者が頭部CTスキャンを必要とするかまたは必要としないか鑑別する段階を含む。バイオマーカーはさらにBDNFを含むことができる。試料は血液、および末梢血、血清、血漿、脳脊髄液、尿、唾液、糞便および関節液を含むがこれに限定されない他の生体由来液状試料を含む任意の適切な生体試料とすることができる。具体的な実施形態においては、試料は血液である。代替的な実施形態においては、試料は血清である。他の具体的な実施形態においては、試料はCSFである。
【0013】
具体的な実施形態においては、タンパク質スプライシング変異体(アイソフォーム)、多形、分解およびシトルリン化、グリコシル化、アセチル化、リン酸化などを含む他の翻訳後修飾型を含むバイオマーカーの変異体を用いることができる。一定の実施形態においては、測定する段階はバイオマーカーの修飾型および非修飾型を測定することを含むことができる。鑑別段階において量または量の比率の分析を用いることができる。より具体的には、一定の実施形態において、測定段階は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を用いて実施することができる。他の実施形態においては、質量分析法を使用する。一定の実施形態においては、鑑別段階においてロジスティック回帰モデルを用いる。
【0014】
他の実施形態においては、1つまたはそれ以上のバイオマーカーはGFAPおよびS100B、GFAPおよびMT3、GFAPおよびNSE、GFAPおよびICAMおよびS100B、GFAPおよびICAM5およびMT3、GFAPおよびMT3およびS100B、GFAPおよびNSEおよびS100B、およびGFAPおよびICAM5およびMT3およびS100Bを含む。より具体的な実施形態においては、バイオマーカーのカットオフ値はGFAP>0.04ng/mL、ICAM>17ng/mL、S100B>2ng/mL、MT3>0.95ng/mL、およびNSE<71ng/mLを含む。
【0015】
本発明の他の具体的な実施形態においては、TBI患者が頭蓋内出血(ICH)を有する可能性があると診断するための方法は、(a)患者から血液試料を入手する段階;(b)ELISAを用いて患者から入手した血液中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを測定する段階であって、バイオマーカーがGFAP、S100B、MT3、NSEおよびICAM5を含む段階;および(c)GFAP、S100B、MT3、NSEおよびICAM5を含む1つまたはそれ以上のバイオマーカーの測定レベルに基づいて、患者がICHを有する可能性があると鑑別する段階を含む。方法は、ICHの診断を確認するために頭部CTスキャンを実施する段階をさらに含むことができる。具体的な実施形態においては、1つまたはそれ以上のバイオマーカーはGFAPおよびS100B、GFAPおよびMT3、GFAPおよびNSE、GFAPおよびICAMおよびS100B、GFAPおよびICAM5およびMT3、GFAPおよびMT3およびS100B、GFAPおよびNSEおよびS100B、およびGFAPおよびICAM5およびMT3およびS100Bを含む。一定の実施形態においては、バイオマーカーのカットオフ値はGFAP>0.04ng/mL、ICAM>17ng/mL、S100B>2ng/mL、MT3>0.95ng/mL、およびNSE<71ng/mLを含む。具体的な実施形態においては、鑑別段階においてロジスティック回帰モデルを用いる。
【0016】
また本発明は、血液(血清/血漿および他の体液の可能性もある)中の循環脳由来神経栄養因子(BNDF、およびまたはそのプロセシングまたは翻訳後修飾型または変異体)濃度単独で、またGFAP(および/または修飾変異体)と組み合わせるとさらにより顕著に、外傷性脳損傷を有する患者とそうでない患者を識別することができ、短期的な(数週間)神経学的転帰、職務復帰を、また介入の成功の指標として予測することができるという発見にも基づく。
【0017】
他の実施形態においては、BDNFの血中レベルはTBIを有するED患者において低下し、脳振盪性脳損傷のバイオマーカーとなっている。このマーカーは、損傷が発生した際に随時使用することができる(例:受傷時、救急車内、救急科、または病室)。さらなる実施形態においては、GFAPと組み合わせたBDNFの血中レベルは脳振盪後の症状および障害を予測する。
【0018】
他の態様においては、本発明は患者がTBIを有すると鑑別するための方法を提供する。具体的な実施形態においては、方法は(a)患者から入手した生体試料を、BDNFと選択的に結合する結合物質と、結合物質-BDNF複合体を形成するのに十分な時間接触させる段階;(b)結合物質-BDNF複合体を検出することにより、生体試料中のBDNF発現レベルを測定する段階;および(c)対照と比較したBDNF測定レベルに基づいて患者がTBIを有すると鑑別することを含む。より具体的な実施形態においては、受信者動作特性曲線下面積分析を用いて患者がTBIを有すると鑑別する。他の実施形態においては、ロジスティック回帰モデルを用いて患者がTBIを有すると鑑別する。
【0019】
他の実施形態においては、患者がTBIを有すると診断するための方法は、(a)患者から入手した生体試料を、固形基材および基材上に固定された複数の結合物質を含む組成物と接触させる段階であって、結合物質のそれぞれが相異なる、指標となりうる基材上の位置に固定されかつ結合物質が複数のバイオマーカーと特異的に結合する段階であって、複数のポリペプチドバイオマーカーがBDNFとニューログラニン(NRGN)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、PAD-2、チューブリンβ-4B鎖、チューブリンα-1IB鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン-7、伸長因子1-α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、アストロタクチン1(ASTN1)、脳血管新生阻害物質3(BAI3);カルノシンジペプチダーゼ1(CNDP1);ERMIN;代謝型グルタミン酸受容体3(GRM3);ケルヒ様タンパク質32(KLH32);メラノーマ抗原ファミリーE,2(MAGE2);ニューレグリン3(NRG3);オリゴデンドロサイトミエリン糖タンパク質(OMG);溶質輸送体ファミリー39(亜鉛輸送体);レティキュロン1(RTN1);およびペプチジルアルギニンデイミナーゼ(1~4および6型)(PAD)のうち1つまたはそれ以上を含む段階;(b)複数の結合物質と複数のバイオマーカーとの結合を検出することにより、生体試料中の複数のバイオマーカーの発現レベルを判定する段階;および(c)生体試料中の複数のバイオマーカーの発現レベルを事前に定める閾値と比較する段階であって、複数のバイオマーカーのうち少なくとも1つの事前に定める閾値を上回るかまたは下回る発現レベルによって患者がTBIを有することが示される段階を含む。
【0020】
さらに他の実施形態においては、患者のTBIを診断するための方法は、(a)患者から試料を採取すること;(b)質量分析法またはELISAを用いて患者から採取した試料中のパネルバイオマーカーのレベルを測定する段階であって、バイオマーカーのパネルがBNDF、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせを含む段階;および(c)バイオマーカーのパネルのレベルを、TBIを有する患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベル、およびTBIのない患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベルと比較する段階であって、事前に定義するレベルの1つとの相関が診断を提供する段階を含む。本発明は、患者の短期的および長期的脳振盪後症状およびTBI後障害を予測するための方法であって、(a)患者から試料を採取すること;(b)質量分析法またはELISAを用いて患者から採取した試料中のパネルバイオマーカーのレベルを測定する段階であって、バイオマーカーのパネルがまたBNDF、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせを含む段階;および(c)バイオマーカーのパネルのレベルを持続性の脳振盪後症状を有する患者と相関する同じバイオマーカーの事前に定義するレベル、障害を有する患者と相関する同じバイオマーカーの事前に定義するレベル、脳振盪後症状のない患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベル、および障害のない患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベルと比較する段階であって、事前に定義するレベルの1つとの相関が診断を提供する段階を含む方法も提供する。
【0021】
具体的な実施形態においては、患者のTBIを診断するための方法は、(a)患者から試料を採取すること;(b)質量分析法またはELISAを用いて患者から採取した試料中のパネルバイオマーカーのレベルを測定する段階であって、バイオマーカーのパネルが脳由来神経栄養因子(BNDF)、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせを含む段階;および(c)バイオマーカーのパネルのレベルを、TBIを有する患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベルおよびTBIのない患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベルと比較する段階であって、事前に定義するレベルの1つとの相関が診断を提供する段階を含む。
【0022】
本発明は、患者の短期的および長期的脳振盪後症状およびTBI後障害を予測するための方法であって、(a)患者から試料を採取すること;(b)質量分析法またはELISAを用いて患者から採取した試料中のパネルバイオマーカーのレベルを測定する段階であって、バイオマーカーのパネルがGFAPおよびBNDF、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせを含む段階;および(c)バイオマーカーのパネルのレベルを、持続性の脳振盪後症状を有する患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベル、障害を有する患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベル、脳振盪後症状のない患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベル、および障害のない患者と相関する同じバイオマーカーのパネルの事前に定義するレベルと比較する段階であって、事前に定義するレベルの1つとの相関が診断を提供する段階を含む方法も提供する。
【0023】
他の態様においては、本発明はキットも提供する。1つの実施形態においては、キットはGFAP、S100B、MT3、NSE、ICAM5およびBDNF、そのアイソフォーム、その翻訳後修飾型、または前述のいずれかの組み合わせを含む1つまたはそれ以上のヒトバイオマーカーのレベルを測定するための手段を含む。一定の実施形態においては、キットはバイオマーカーレベルを測定するイムノアッセイを実施するための抗体を含む。他の実施形態においては、アプタマーを使用する。さらなる実施形態においては、キットは患者から試料を採取するための基材を含む。
【0024】
さらに他の実施形態においては、本発明は(a)外傷性脳障害を有すると疑われるヒト患者に由来する生体試料内の複数のバイオマーカーと特異的に結合することのできる複数のバイオマーカー結合物質であって、バイオマーカーがGFAP、S100B、MT3、NSE、ICAM5およびBDNFを含む複数のバイオマーカー結合物質;および(b)1つまたはそれ以上のバイオマーカーに対する結合物質の結合を示すことのできる検出試薬または検出装置を含むキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1:TBI症例および対照におけるGFAPレベル。図2:TBI症例および対照におけるBNDFレベル。図3:TBI症例および対照におけるICAM5レベル。図4:TBI症例および対照におけるS100Bレベル。図5:TBI症例および対照におけるNSEレベル。図6:TBI症例および対照におけるMT3レベル。
図2図7:GFAP、S100BおよびNSEを含むロジスティック回帰モデルの受信者動作特性曲線。このタンパク質の組み合わせについてのROC曲線下面積は0.95である。
図3図8:BDNFの受信者動作曲線。BDNFについてのROC曲線下面積は0.9292である。
図4図9:TBI症例および対照におけるBNDFレベル。
図5図10:TBI/ICH症例および対照におけるBNDFレベル。
図6図11:TBI症例および非TBI対照におけるBNDFの分布。
図7図12:TBI症例と非TBI対照を識別するためのBDNFの識別能力。
図8図13:BDNF五分位点別のTBI症例および非TBI対照の分布。
図9図14:TBI症例の臨床的特性別のBDFN値の分布。
図10】15:受診より48時間以内に反復測定したTBI患者18例の連続BDNF値。
図11図16:被験集団の誘導。
図12図17:TBIカテゴリー別の4℃で試料を保存した時間とBDNF濃度の関係。
図13図18:全TBI症例についての試料を4℃で保存した時間とBDNF濃度の関係。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願に記載された具体的な方法および構成要素等は変更しうるので、本発明はこれらに限定されないことが理解される。本願で用いる用語は具体的な実施形態を記載することのみを目的として使用され、本発明の範囲を限定することを意図していないことも理解すべきである。本願および付属の請求項に用いられる単数形「1つの」、「1つの」および「その」は、文脈がそうでないことを明確に指示しない限り、複数形の内容を含むことに留意しなければならない。したがって、たとえば1つの「タンパク質」への言及は1つまたはそれ以上のタンパク質への言及であり、かつ当業者に既知の同等物その他を含む。
【0027】
本願で用いられるすべての技術用語および学術用語は、特に定義しない限り、本発明が属する技術に精通する当業者に共通して理解されるものと同じ意味を有する。具体的な方法、機器、および材料が記載されるが、本願に記載されたものと同様または同等の任意の方法および材料を本発明の実践または試験に用いることができる。
【0028】
本願に引用されたすべての公表文献は、すべての雑誌記事、書籍、マニュアル、公開特許明細書、および発行された特許を含めて、その全文を本願に参照文献として援用する。さらに、明細書、実施例および付属の請求項に使用される一定の語句の意味が提供される。定義は限定性格であることを意図せず、かつ本発明の一定の態様のより明確な理解を提供する役割を果たす。
【0029】
(I.定義)
本願で用いる用語「抗体」は、特定の抗原と反応する任意の免疫グロブリン分子に関して用いられる。当該用語は、任意の発生源(例:ヒト、げっ歯類、ヒト以外の霊長類、ヤギ、ウシ、ウマ、ヒツジなど)から入手した任意の免疫グロブリン(例:IgG、IgM、IgA、IgE、IgDなど)を包含することが意図されている。抗体の具体的な種類/例はポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、キメラ、ヒト、またはそれ以外の様式でヒトに適した抗体を含む。「抗体」は、本願に記載する任意の抗体の任意のフラグメントまたは誘導体も含む。
【0030】
本願で用いる用語「抗原」は、全般的に抗体と反応することのできる任意の物質に関して用いられる。より具体的には、本願で用いる用語「抗原」は合成ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、またはポリペプチドまたはタンパク質のフラグメント、または対象において抗体応答を誘発するか、または抗体によって認識されかつこれと結合する他の分子を指す。
【0031】
本願で用いる用語「バイオマーカー」は、生体変化と定量的または定性的に関連する分子を指す。バイオマーカーの例はポリペプチド、タンパク質、またはポリペプチドまたはタンパク質のフラグメント;および遺伝子産物、RNAまたはRNAフラグメントなどのポリヌクレオチド;または他の身体代謝物を含む。一定の実施形態においては、「バイオマーカー」は、第1の表現型を有する(例:疾患または状態を有する)対象または対象群に由来する生体試料中に、第2の表現型を有する(例:疾患または病状がないかまたは疾患または状態の重症度が低い)対象または対照群に由来する生体試料と比較して識別的に存在する(すなわち上昇または低下している)化合物を意味する。バイオマーカーは任意のレベルで識別的に存在しうるが、一般的に少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%またはそれ以上上昇したレベルで存在するか;または一般的に少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または100%(すなわち存在しない)低下したレベルで存在する。バイオマーカーは、好ましくは統計的に有意なレベルで識別的に存在する(例:ウェルチのt検定またはウィルコクソンの順位和検定を用いてp値0.05未満および/またはq値0.10未満と判定される)。
【0032】
用語「脳損傷」は、ある事象によって引き起こされた損傷によって脳が障害される状態を意味する。本願で用いる「損傷」は、細胞的または分子的完全性、活性、レベル、堅牢性、状態の変質、またはある事象に起因するその他の変質である。たとえば、損傷は物理的性質、機械的性質、化学的性質、生物学的性質、機能的性質、感染的性質、または他の細胞または分子モジュレーターの性質を含む。1つの事象が、単回または反復衝突(衝撃による)などの物理的な外傷、または血管の遮断または漏出のいずれかによる脳卒中などの生物学的異常を含むことがある。事象は感染因子による感染であってもよい。当業者は、用語損傷または事象によって包含される数多くの同等の事象を認識する。
【0033】
より具体的には、用語「脳損傷」は、その病態生理学的基盤とは無関係に、中枢神経系障害をもたらす状態を意味する。「脳損傷」の最も頻度の高い原因には脳卒中および外傷性脳損傷(TBI)がある。「脳卒中」は出血性および非出血性に分類される。出血性脳卒中の例は脳出血、くも膜下出血および大脳動脈奇形に続発する頭蓋内出血である一方、非出血性脳卒中の例は脳梗塞を含む。
【0034】
用語「外傷性脳損傷」または「TBI」は、物理的な外傷が脳障害を引き起こす際に発生する脳に対する外傷性の損傷を指す。TBIは、たとえば非開放性頭部損傷または穿通性頭部損傷によって発生する。「非外傷性脳損傷」は、虚血または機械的外力の関与しない脳損傷を指す(例:とりわけ脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、脳出血、脳感染症、脳腫瘍)。
【0035】
用語「脳損傷」は無症候性脳損傷、脊髄損傷および無酸素性虚血性脳損傷も意味する。用語「無症候性脳損傷」(SCI)は脳損傷の顕在的臨床的エビデンスを伴わない脳損傷を指す。実際に脳損傷が存在する時に脳損傷の臨床的エビデンスがない理由は、損傷の程度、損傷の種類、意識レベル、薬物、特に鎮静剤および麻酔剤などである可能性もある。
【0036】
「脊髄損傷」は、脊髄が脊椎骨折または脱臼による圧迫/挫滅を受けて機能障害を引き起こす状態を指す。本願で用いる用語「無酸素性虚血性脳損傷」は、脳機能の損傷を引き起こす脳組織への酸素供給の遮断を意味し、脳低酸素症を含む。たとえば、無酸素性虚血性脳損傷は巣状脳虚血、全脳虚血、低酸素性低酸素症(すなわち、いずれもこの種の脳低酸素症のリスクが高いダイバー、パイロット、登山家および消防士の場合のように、環境中の酸素が限られているために脳の機能が低下する)、肺の閉塞(例:窒息、絞扼、気管の圧挫による低酸素など)を含む。
【0037】
用語「脳損傷バイオマーカー」(BIB)、「脳損傷バイオマーカータンパク質」、「脳損傷バイオマーカーペプチド」、脳損傷バイオマーカーポリペプチド」などは、本願に記載のものを含む、たとえば患者の脳損傷を診断するなどの、本発明の方法において用いることができるタンパク質を指す。脳損傷バイオマーカータンパク質はGFAP、S100B、MT3、ICAM5、BDNFおよび/またはNSEを含むが、これに限定されない。該用語は、ニューログラニン(NRGN)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、PAD-2、チューブリンβ-4B鎖、チューブリンα-1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン-7、伸長因子1-α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、アストロタクチン1(ASTN1)、脳血管新生阻害物質(BAI3);カルノシンジペプチダーゼ1(CNDP1);ERMIN;代謝型グルタミン酸受容体3(GRM3);ケルヒ様タンパク質32(KLH32);メラノーマ抗原ファミリーE,2(MAGE2);ニューレグリン3(NRG3);オリゴデンドロサイトミエリン糖タンパク質(OMG);溶質輸送体ファミリー39(亜鉛輸送体);レティキュロン1(RTN1);およびペプチジルアルギニンデイミナーゼ(1~4および6型)(PAD)を含む当技術分野で既知である他の脳損傷バイオマーカーも含む。
【0038】
さらに、用語「脳損傷バイオマーカー」は前述のいずれかのアイソフォームおよび/またはその翻訳後修飾型も含む。本発明は、非修飾および修飾(例:シトルリン化または他の翻訳後修飾)タンパク質/ポリペプチド/ペプチドの両者、さらには前述のいずれかに対する自己抗体の検出、測定、定量、判定などを意図する。一定の実施形態においては、バイオマーカーの検出、測定、判定などについての言及は、タンパク質/ポリペプチド/ペプチド(修飾および/または非修飾)の検出を指すことが理解される。他の実施形態においては、バイオマーカーの検出、測定、判定などについての言及は、タンパク質/ポリペプチド/ペプチドの自己抗体の検出を指すことが理解される。
【0039】
本願で用いる用語「比較する」または「比較」は、患者に由来する試料中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在が、標準または対照試料中の対応する1つまたはそれ以上のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在とどのように関係するか評価することを指す。たとえば、「比較する」は、患者に由来する試料中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在が、標準または対照試料中の対応する1つまたはそれ以上のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在と同じであるか、またはこれより多いかまたは少ないか、または異なるか評価することを指すことがある。より具体的には、該用語は、患者に由来する試料中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在が、たとえば脳損傷を有する患者、脳損傷のない患者と対応する事前に定義するバイオマーカーレベル/比率の割合、レベルまたは細胞内局在と同じであるか、またはこれより多いかまたは少ないか、これと異なるか、またはそれ以外の様式でこれと対応するか(否か)、脳損傷に対する治療に反応しているか、脳損傷に対する治療に反応していないか、特定の脳損傷治療に反応する可能性がある/ないか、または他の疾患または状態を有しているか/いないか評価することを指すこともある。具体的な実施形態においては、用語「比較する」は、患者に由来する試料中の本発明の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルが、対照試料中の同じバイオマーカーのレベル/比率(例:未感染者、標準脳損傷レベル/比率などと相関する事前に定義するレベル/比率)と同じであるか、これより多いかまたは少ないか、他と異なるか他の様式でこれと対応するか(否か)評価することを意味する。
【0040】
他の実施形態においては、用語「比較する」または「比較」は、患者に由来する試料中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在が、同じ試料中の他のバイオマーカーの割合、レベルまたは細胞内局在とどのように関係するか評価を行うことを指す。たとえば、同じ患者試料に由来する1つのバイオマーカーの、他のバイオマーカーに対する比率を比較することができる。他の実施形態においては、試料中の1つのバイオマーカー(例:翻訳後修飾されたバイオマーカータンパク質)のレベルを、該試料中の同じバイオマーカーのレベル(例:非修飾バイオマーカータンパク質)と比較することができる。修飾:非修飾バイオマーカータンパク質の比率を、同じ試料中の他のタンパク質の比率、または事前に定義する参照または対照比率と比較することができる。
【0041】
本願で用いる、たとえば患者に由来する試料中のモジュレートされた割合、レベル、または細胞内局在などのパラメーターについての用語「示す」または「相関する」(または文脈によっては「示すこと」または「相関すること」または「指示」または「相関」)は、患者が脳損傷を有するかまたは他の形態の神経変性を患っていることを意味することもある。具体的な実施形態においては、パラメーターは本発明の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを含むことがある。具体的な1つまたはそれ以上のバイオマーカーの量の群またはパターンは、患者が脳損傷を有することを示すことがある(すなわち脳損傷を有する患者と相関する)。他の実施形態においては、相関は翻訳後修飾タンパク質の非修飾タンパク質に対する比率の指示である可能性のある(または比率の経時変化または参照/対照比率と比較された)患者が脳損傷を有することを意味する可能性もある)。
【0042】
他の実施形態においては、特定の1つまたはそれ以上のバイオマーカーの量の群またはパターンは、非罹患患者と相関しうる(すなわち患者が脳損傷を有していないことを示す)。一定の実施形態においては、本発明にしたがって用いる「示すこと」または「相関すること」は、診断の評価、脳損傷または脳損傷の進行の予測、臨床治療の効果の評価、特定の投与法または薬剤に反応しうる患者の特定、治療の経過のモニタリング、およびスクリーニング測定の状況においては抗脳損傷治療の特定を目的とした標準、対照または比較対象数値に対するバイオマーカーのレベル/比率間の関係を定量する、任意の線形的または非線形的方法によることもある。
【0043】
用語「患者」、「個人」または「対象(被験者)」は、本願では互換的に用いられ、かつ哺乳類、具体的にはヒトを意味する。患者は軽度か、中等度か、または重度の疾患または状態を有する可能性がある。患者は治療を必要とする個人か、または具体的な症状または家族歴による診断を必要とする個人の可能性もある。一部の症例においては、該用語は、実験動物、獣医学的用途、およびマウス、ラットおよびハムスターを含むげっ歯類および霊長類を含むがこれに限定されない疾患についての動物モデルの開発における治療を指すこともある。
【0044】
用語「測定すること」および「判定すること」は全体を通して互換的に用いられ、かつ患者試料を入手または提供することおよび/または試料中のバイオマーカーのレベルを検出することを含む方法を指す。1つの実施形態においては、該用語は患者試料を入手または提供することおよび試料中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを検出することを指す。他の実施形態においては、用語「測定すること」および「判定すること」は患者試料中の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを検出することを意味する。用語「測定すること」は、全体を通じて「検出すること」とも互換的に用いられる。一定の実施形態においては、該用語は「定量する」とも互換的に用いられる。
【0045】
用語「試料」、「患者試料」、「生体試料」などは、患者、個人または対象から入手される多様な試料の種類を包含し、かつ診断またはモニタリング測定法において用いることができる。患者試料は健康対象から入手されることもあれば、脳損傷罹患患者またはその随伴症状を有する患者から入手されることもある。さらに、患者から入手した試料は分割することが可能であり、また一部のみを診断に用いてもよい。さらに、試料またはその一部は、後で分析するために試料を維持する条件下で保存することができる。該定義は、具体的には、血液および他の生物学的由来の液状試料(末梢血、血清、血漿、臍帯血、羊水、脳脊髄液、尿、唾液、糞便および滑液を含むがこれに限定されない)、生検検体または組織培養、またはこれに由来する細胞およびその子孫などの固形組織試料を包含する。一定の実施形態においては、試料は脳脊髄液を含む。具体的な実施形態においては、試料は血液試料を含む。他の実施形態においては、試料は血漿試料を含む。さらに他の実施形態においては、血清試料を使用する。
【0046】
「試料」の定義は、その取得後に、遠心分離、濾過、沈殿、透析、クロマトグラフィー、試薬による処理、洗浄または一定の細胞集団の濃縮といった任意の様態で操作された試料も含む。当該用語はさらに臨床試料を包含し、かつ培養細胞、細胞上清、組織試料、器官なども含む。試料は、臨床または病理生検より調製した、病理分析または免疫組織化学による試験のために調製したブロックなどの新鮮凍結および/またはホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックも含みうる。
【0047】
本発明の多様な方法論は、数値、レベル、性質、特徴、特性等を、本願において「適切な対照」、「対照試料」、「参照品」、または単純に「対照」と互換的に呼ばれる「適当な対照」と比較することを包含する段階を含む。「適当な対照」、「適切な対照」、「対照試料」、「参照品」または「対照」は、比較の目的にとって有用な、当業者に周知の任意の対照または標品である。バイオマーカーの「参照レベル」は、特定の疾患状態、表現型、またはその欠如、さらには疾患状態、表現型またはその欠如の組み合わせを示すバイオマーカーのレベルを意味する。バイオマーカーの「陽性」参照レベルは、特定の疾患状態または表現型を示すレベルを意味する。バイオマーカーの「陰性」参照レベルは、特定の疾患状態または表現型の欠如を示すレベルを意味する。たとえば、バイオマーカーの「脳損傷陽性参照レベル」は、対象における脳損傷の診断陽性を示すバイオマーカーのレベルを意味し、バイオマーカーの「脳損傷陰性参照レベル」は、対象における脳損傷の診断陰性を示すバイオマーカーのレベルを意味する。バイオマーカーの「参照レベル」は、バイオマーカーの絶対的または相対的な量または濃度、バイオマーカーの存在または欠如、バイオマーカーの量または濃度の範囲、バイオマーカーの量または濃度の最小値および/または最大値、バイオマーカーの量または濃度の平均、および/またはバイオマーカーの量または濃度の中央値であってもよく;またさらに、バイオマーカーの組み合わせの「参照レベル」は、2つまたはそれ以上のバイオマーカーの絶対的または相対的な量または濃度の相互比率であってもよい。特定の疾患状態、表現型、またはその欠如についての、バイオマーカーの適切な陽性および陰性参照レベルは、1例またはそれ以上の該当する対象において、所望のバイオマーカーのレベルを測定することによって判定してもよく、またそのような参照レベルは、特定の対象集団に対して個別に調整してもよい(例:参照レベルは、ある年齢の対象に由来する試料中のバイオマーカーレベルと、ある年齢集団における特定の疾患状態、表現型、またはその欠如についての参照レベルの間で比較できるよう、年齢マッチングすることができる)。そのような参照レベルは、使用する特定の技術(例:LC-MS、GC-MS、ELISA、PCR)によってバイオマーカーのレベルが異なることがある場合、生体試料中のバイオマーカーのレベルを測定するために用いる特定の方法に個別に調節することもある。
【0048】
1つの実施形態においては、「適当な対照」または「適切な対照」は、たとえば、正常な形質などを示す対照または正常細胞、器官または患者などの、細胞、器官、または患者において判定される数値、レベル、性質、特徴、特性などである。たとえば、本発明のバイオマーカーは非罹患者(UI)または正常対象者(NC)(本願では両用語を互換的に用いる)に由来する試料中のレベル/比率について測定しうる。たとえば、「適当な対照」または「適切な対照」は、患者に対して治療法(例:脳損傷治療)を実施する前に判定される数値、レベル、性質、特徴、特性、比率など、または損傷の前に判定される(例:ベースライン検査)数値、レベル、性質、特徴、特性、比率などである。さらに他の実施形態においては、転写速度、mRNAレベル、翻訳速度、タンパク質レベル/比率、生物学的活性、細胞の特徴または特性、遺伝型、表現型などを、細胞、器官または患者に治療法を施行する前、施行中、または施行後に判定することができる。さらなる実施形態においては、「適当な対照」または「適切な対照」は、事前に定義する数値、レベル、性質、特徴、特性、比率などである。「適当な対照」は、患者試料をこれと比較することのできる脳損傷と相関する本発明の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベル/比率のプロフィールまたはパターンとすることができる。患者試料は陰性対照、すなわち脳損傷がないことと相関するプロフィールと比較することもできる。
【0049】
本願で用いる用語であるバイオマーカーの「事前に定める発現の閾値」は、正常、または健康な対象、すなわち脳損傷のない対象から入手した対応する対照/正常試料または対照/正常試料群における、概バイオマーカーの発現レベル(たとえばng/mLで表示)を指す。さらに、試料におけるバイオマーカーの「発現レベルの変化」という用語は、概バイオマーカーについて事前に定める発現閾値を下回るかまたは上回るレベルを意味し、したがって高(上昇)または低(下降)発現レベルを包含する。
【0050】
用語「と特異的に結合する」、「に特異的である」および関連する文法的な変化型は、共有結合的または非共有結合的相互作用、または共有結合的および非共有結合的相互作用の組み合わせによって媒介されうる、酵素/基質、受容体/作動物質、抗体/抗原およびレクチン/炭水化物といった対となる分子種間に発生するその結合を意味する。2つの分子種間の相互作用が非共有結合複合体を生成するとき、発生する結合は典型的には静電、水素結合、または親油性相互作用の結果である。したがって、「特異的結合」は、抗体/抗原または酵素/基質相互作用の特徴を有する結合複合体を生成する、2つの間に相互作用のある対となる分子種の間に発生する。具体的には、特異的な結合は、対の一方の構成物が特定の分子種と結合し、かつ結合する構成物と対応する構成物が属する化合物ファミリー内の他の分子種とは結合しないことによって、特徴付けられる。したがって、たとえばある抗体は、典型的には単一のエピトープと結合し、かつ該タンパク質ファミリーの他のエピトープとは結合しない。一部の実施形態においては、抗原と抗体の間の特異的な結合は少なくとも10-6Mの結合親和性を有するであろう。他の実施形態においては、抗原と抗体は少なくとも10-7M、10-8Mから10-9M、10-10M、10-11M、または10-12Mの親和性で結合するであろう。本願で用いる用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、抗体とタンパク質またはペプチドの相互作用に関して用いる場合、概相互作用がタンパク質上の特定の構造(すなわちエピトープ)の存在に依存することを意味する。
【0051】
本願で用いる用語「に特異的な結合物質」または「と特異的に結合する結合物質」は、バイオマーカーと結合し、無関係な化合物と有意に結合しない物質を指す。開示された方法において有効に使用することのできる結合物質の例は、タンパク質とモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの抗体、またはその抗原結合フラグメントを含むが、これに限定されない。一定の実施形態においては、結合物質は、たとえば1×10-6Mまたはそれ以上の親和性定数でバイオマーカー(例:ポリペプチドバイオマーカー)と結合する。
【0052】
(II.脳損傷バイオマーカーの検出)
(A.イムノアッセイによる検出)
他の実施形態においては、本発明のバイオマーカーは、イムノアッセイによって検出および/または測定することができる。イムノアッセイは、バイオマーカーを捕捉するために、抗体などの生体特異的捕捉試薬/結合物質を必要とする。多くの抗体が市販されている。抗体は、たとえば動物をバイオマーカーによって免疫することなどの、技術上周知の方法によっても生成することができる。バイオマーカーは、その結合特性に基づいて試料より分離することができる。代替的に、ポリペプチドバイオマーカーのアミノ酸配列が既知である場合は、ポリペプチドを合成し、さらに技術上周知の方法によって抗体を生成するために用いることができる。
【0053】
本発明は、たとえばELISAを含むサンドイッチイムノアッセイまたは蛍光イムノアッセイ、イムノブロット、ウェスタンブロット(WB)、さらには他の酵素免疫測定法などを含む、従来のイムノアッセイを意図している。比濁法は、抗体が溶液となっている液相において実施する測定法である。抗原の抗体との結合によって吸光度が変化し、これを測定する。SELDIイムノアッセイでは、バイオマーカーの生体特異的捕捉試薬を、事前に活性化させたプロテインチップアレイなどのMSプローブの表面に結合させる。その後、この試薬によってバイオマーカーをバイオチップ上に特異的に捕捉し、さらに捕捉したバイオマーカーを質量分析法で検出する。
【0054】
一定の実施形態においては、本願で使用するバイオマーカーの発現レベルは、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)などのイムノアッセイで定量される。具体的な実施形態においては、バイオマーカーの発現レベルは、バイオマーカーと選択的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントと生体試料を接触させ;抗体またはその抗原結合フラグメントとバイオマーカーの結合を検出することによって判定される。一定の実施形態においては、開示された方法および組成物において使用される結合物質は、検出可能な構成部分で標識される。
【0055】
たとえば、試料中のバイオマーカーレベルは、標的バイオマーカーと選択的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント(捕捉分子または抗体または結合物質と呼ばれる)に生体試料を接触させ、抗体またはその抗原結合フラグメントとバイオマーカーの結合を検出することによって、測定することができる。検出は、その標的バイオマーカーと複合体化した捕捉抗体と結合する二次抗体を用いて、実施することができる。標的バイオマーカーはタンパク質の全長、または変異体またはその修飾型とすることができる。本願に記載するバイオマーカーの検出のためのキットは、プレコーティングストリッププレート、ビオチン化二次抗体、標準液、対照、バッファー、ストレプトアビジン-セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、テトラメチルベンジジン(TMB)、反応停止試薬、および標準物質の試験を含めた試験を遂行するための詳細な指示書を含めることができる。
【0056】
本開示は、対象における脳損傷を診断するなどして、どの脳損傷患者が頭部CTを必要とするのか特定するための方法であって、生体試料中のバイオマーカーの発現レベルを同時に判定する方法も提供する。たとえば、1つの実施形態において、提供される方法は(a)対象から入手した生体試料を、本願に開示する複数のバイオマーカーと選択的に結合する複数の結合物質と、結合物質-バイオマーカー複合体を形成するのに十分な時間接触させること;(b)結合物質と複数のバイオマーカーの結合を検出することにより、生体試料中のバイオマーカーの発現レベルを判定すること;および(c)生体試料中の複数のバイオマーカーの発現レベルを事前に定める閾値と比較することであって、複数のポリペプチドバイオマーカーのうち少なくとも1つの事前に定める閾値を上回る発現レベルによって、たとえば、対象における脳損傷が示されるか、頭部CTの必要性が示されるか、患者がICHを有する可能性があると示されるか、または短期的および長期的脳振盪後症状およびTBI後の障害の可能性が示されることを含む。そのような方法において有効に使用することのできる結合物質の例は、抗体またはその抗原結合フラグメント、アプタマー、レクチンなどを含むが、これに限定されない。
【0057】
さらなる実施形態においては、本開示は開示された方法において使用できる組成物を提供する。一定の実施形態においては、そのような組成物は固形基材および基材上に固定された複数の結合物質を含み、結合物質のそれぞれが基材上の相異なる、指標となることのできる位置に固定されかつ結合物質が本願に開示された複数のバイオマーカーと選択的に結合する。具体的な実施形態においては、位置は事前に定められている。1つの実施形態においては、結合物質はGFAP、S100B、MT3、ICAM5、BDNFおよび/またはNSEを含む複数のバイオマーカーと選択的に結合する。他の実施形態においては、そのような組成物は他の脳損傷バイオマーカーと選択的に結合する結合物質を追加的に含む。そのような組成物において使用することのできる結合物質は、抗体またはその抗原結合フラグメント、アプタマー、レクチンなどを含むが、これに限定されない。
【0058】
関連する態様においては、対象における脳損傷の存在を診断するための方法であって、そのような方法が:(a)対象から入手した生体試料を、本願に開示する組成物と、結合物質-ポリペプチドバイオマーカー複合体を形成するのに十分な時間接触させること;(b)複数の結合物質と複数のポリペプチドバイオマーカーの結合を検出することにより、生体試料における複数のポリペプチドバイオマーカーの発現レベルを判定すること;および(c)生体試料中の複数のポリペプチドバイオマーカーの発現レベルを、事前に定める閾値と比較することであって、複数のポリペプチドバイオマーカーのうち少なくとも2つの事前に定める閾値を上回る発現レベルによって、対象における脳損傷の存在が示されることを含む方法が提供される。
【0059】
さらに他の実施形態においては、本開示は固形基材および基材上に固定された、本願に開示の複数のポリペプチドバイオマーカーを含む組成物であって、ポリペプチドバイオマーカーのそれぞれが基材上の相異なる、指標となることのできる位置に固定される組成物を提供する。一定の実施形態においては、複数のポリペプチドバイオマーカーはGFAP、S100B、MT3、ICAM5、BDNFおよび/またはNSEを含む。他の実施形態においては、複数のポリペプチドバイオマーカーは、NRGN、MBP、PAD-2、チューブリンβ-4B鎖、チューブリンα-1B鎖、CNPアーゼ、PPIA、セプチン-7、伸長因子1-α2、TPPP、TPPP3、エルミンアイソフォーム2、NDRG2アイソフォーム2、ASTN1、BAI3;CNDP1;ERMIN;GRM3;KLH32;MAGE2;NRG3;OMG;溶質輸送体ファミリー39(亜鉛輸送体);RTN1;およびPADからなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドバイオマーカーをさらに含む。
【0060】
抗体はその広汎な特性付けにより有用であるものの、上記のイムノアッセイにおける抗体の代わりに、本発明のバイオマーカーと特異的に結合する他の任意の適当な試薬(例:ペプチド、アプタマー、または低分子量有機分子など)が任意に用いられる。たとえば、バイオマーカーおよび/または1つまたはそれ以上の、その分解生成物と特異的に結合するアプタマーを用いることもあるかもしれない。アプタマーは特定のリガンドと結合する核酸ベースの分子である。特定の結合特異性を有するアプタマーを作成する方法は、米国特許第5,475,096号;第5,670,637号;第5,696,249号;第5,270,163号;第5,707,796号;第5,595,877号;第5,660,985号;第5,567,588号;第5,683,867号;第5,637,459号;第6,011,020号に詳述されるように既知である。
【0061】
具体的な実施形態においては、生体試料に対して実施する測定法は、生体試料を1つまたはそれ以上の捕捉物質(例:抗体、ペプチド、アプタマーなど、その組み合わせ)と接触させてバイオマーカー:捕捉物質複合体を形成させることを含むことができる。複合体は、その後検出および/または定量される。その後、本願の記載に従い、検出/定量/測定されたバイオマーカーのレベルと、1つまたはそれ以上の参照対象の比較に基づき、対象が脳損傷を有すると鑑別することができる。
【0062】
1つの実施形態においては、目的のバイオマーカーと特異的に結合する抗体などの第1の、または捕捉結合物質は、適当な固相基材または担体上に固定される。次に、被験生体試料を捕捉抗体と接触させ、所望の時間インキュベートする。次に、洗浄して遊離物質を除去した後、バイオマーカー上の異なる重複しないエピトープと結合する第2の検出抗体を用いて、ポリペプチドバイオマーカーと捕捉抗体の結合を検出する。検出抗体は、好ましくは、検出可能な構成部分と直接的または間接的にコンジュゲート化される。そのような方法において使用することのできる検出可能な構成部分の例は、化学発光および発光物質;フルオレセイン、ローダミンおよびエオシンなどの蛍光体;放射性同位元素;比色物質;およびビオチンなどの酵素基質標識を含むが、これに限定されない。
【0063】
他の実施形態においては、測定法は競合的結合測定法であって、標識バイオマーカーを標識検出抗体の代わりに使用し、かつ標識バイオマーカーと被験試料に存在する任意の非標識バイオマーカーが捕捉抗体との結合について競合する測定法である。捕捉抗体と結合するバイオマーカーの量は、検出された標識バイオマーカーの割合に基づいて判定される。
【0064】
そのような測定法において有効に使用することのできる固相基材または担体は、当業者に周知であり、またたとえば96ウェルマイクロプレート、ガラス、紙、およびたとえばニトロセルロース、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、酢酸セルロース、混合セルロースエステルおよびポリカーボネートなどから構成される微孔質膜等を含む。適切な微孔質膜は、たとえば米国特許出願第2010/0093557A1号に記載のものを含む。イムノアッセイの自動化のための方法は、当技術分野において周知であり、たとえば米国特許第5,885,530号、第4,981,785号、第6,159,750号および第5,358,691号に記載のものを含む。
【0065】
被験試料中の数種類の異なるポリペプチドバイオマーカーの存在は、マルチプレックスELISA等のマルチプレックスアッセイを用いて同時に検出することができる。マルチプレックスアッセイは高いスループット、試料の必要量が少ない、および幅広い濃度ダイナミックレンジにわたって異なるタンパク質を検出する能力という利点を提供する。
【0066】
一定の実施形態においては、そのような方法はアレイであって、多数のバイオマーカーに対して特異的な多数の結合物質(たとえば捕捉抗体)を膜などの基材に固定し、捕捉物質のそれぞれが特定の事前に定める基材上の場所に位置するアレイを使用する。そのようなアレイを使用する測定法を実施するための方法は、たとえばその開示を本願に参照文献として特に援用する、米国特許出願第2010/0093557A1号および第2010/0190656A1号に記載されたものなどを含む。
【0067】
たとえばフローサイトメトリー、化学発光、または電子化学発光技術などの利用に基づく、数種類の異なるフォーマットのマルチプレックアレイは、当技術分野において周知である。フローサイトメトリーマルチプレックスアレイは、ビーズマルチプレックスアレイとも呼ばれ、いずれもフローサイトメトリーで識別可能なビーズセットを使用する、BDバイオサイエンス(マサチューセッツ州ベッドフォード)のサイトメトリックビーズアレイ(CBA)システム、およびルミネックス社(テキサス州オースチン)の多分析物プロファイリング(xMAP.RTM.)技術を含む。各ビーズセットは特異的捕捉抗体でコーティングされる。蛍光またはストレプトアビジン標識検出抗体が、ビーズセット上に形成された特異的捕捉抗体-バイオマーカー複合体と結合する。ビーズセットの差によって多数のバイオマーカーを認識しかつ測定することが可能であり、フローサイトメトリー分析を用いて色素生成または蛍光発光が検出される。
【0068】
代替的なフォーマットにおいては、Quansys Biosciences(ユタ州ローガン)のマルチプレックスELISAが、96ウェルマイクロプレート上の同一ウェル内の多数のスポットに、多数の特異的捕捉抗体をコーティングする(1抗体1スポット)。次に、化学発光技術を用いて、プレート上の対応するスポットにおいて多数のバイオマーカーを検出する。
【0069】
(B.ポリメラーゼ連鎖反応による検出)
一定の実施形態においては、本発明のバイオマーカーはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって検出/測定/定量することができる。一定の実施形態においては、本発明は、GFAP、S100B、MT3、ICAM5、BDNFおよび/またはNSEを含む、本願に記載の1つまたはそれ以上のバイオマーカーの定量を意図する。1つまたはそれ以上のバイオマーカーは定量することが可能であり、また発現を参照レベルと比較することができる。バイオマーカーに応じて、参照と比較した過剰発現または発現低下が損傷を示す。PCRは、定量型リアルタイムPCR(シングルプレックスとマルチプレックスの両者)などの定量型PCRを含むことができる。具体的な実施形態において、定量段階は、定量型リアルタイムPCRを用いて進められる。当業者は、本願に記載の1つまたはそれ以上のバイオマーカーと特異的に結合し、これを増幅するプライマーを、その公表された配列を用いて設計することができる。
【0070】
より具体的な実施形態においては、対象から入手した生体試料に対して実施される測定法は、生体試料から核酸を抽出することを含みうる。測定法は、本願に記載の1つまたそれ以上のバイオマーカーと特異的に結合する、1つまたはそれ以上のプライマーに核酸を接触させ、プライマー:バイオマーカー複合体を形成することを、さらに含むことができる。測定法は、プライマー:バイオマーカー複合体を増幅する段階を、さらに含むことができる。その後増幅された複合体を検出/定量し、1つまたはそれ以上のバイオマーカーの発現レベルを判定することができる。その後、本願の記載に従い、検出/定量/測定した本願に記載の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルと、1つまたはそれ以上の参照対象との比較に基づき、対象が脳損傷を有すると鑑別することができる。対象は、その後損傷の等級/程度に基づいて適切に治療することができる。測定法は、生体試料から抽出されたmRNAに対して実施することができる。
【0071】
(C.質量分析法による検出)
1つの実施形態においては、本発明のバイオマーカーは、気相イオンを検出する質量分析器を使用する方法である質量分析法によって検出しうる。質量分析法の例は、飛行時間型、磁気セクター、四極子フィルター、イオントラップ、イオンサイクロトロン共鳴、オービトラップ、前述の混成または複合等である。
【0072】
具体的な実施形態においては、本発明のバイオマーカーは選択反応モニタリング(SRM)質量分析技術を用いて検出される。選択反応モニタリング(SRM)は、三重四極子様機器上で実施され、かつ選択性を高める手段として衝突誘発解離を用いる、非スキャニング質量分析技術である。SRM実験においては、選択された前駆体イオンの特定のフラグメントイオンをモニタリングするために、静的質量フィルターとして、2台の質量分析装置を用いる。選択した前駆体およびフラグメントイオンに関連付けた質量電荷比(m/z)の数値の特定の対を「転移」と呼び、親m/z→フラグメントm/z(例:673.5→534.3)と記述することができる。一般的なMSベースプロテオミクスと異なり、SRM分析では質量スペクトルを記録しない。その代わり、検出器が、選択した転移と適合するイオンの計数装置として働き、これにより経時的強度分布を返す。異なる前駆体/フラグメント対間で迅速に切り替えることにより、クロマトグラフィーの時間スケール上の同じ実験内で、多重SRM転移を測定することができる(時に多重反応モニタリング、MRMと呼ばれる)。典型的には、三重四極子機器は一連の転移の周期を実施し、各転移のシグナルを溶出時間の関数として記録する。方法は、所与の分析物について、多重転移のクロマトグラフィーにおける共溶出をモニタリングすることにより、さらなる選択性を考慮する。用語SRM/MRMは、特定の前駆体イオンがフラグメント化した後に、当該前駆体に特異的なフラグメントイオンに集中して、または全般的に衝突セル内でのフラグメント化が選択性を高めるための手段として用いられる実験において、MS2モードで狭い質量範囲をスキャンする、三重四極子以外の質量分析計(例:捕捉装置)を用いた実験を記載するためにも、時として用いられる。用語SRMおよびMRMまたはSRM/MRMは、いずれも同じ質量分析計操作原理を意味するので、本願においては互換的に用いることができる。明確さを期すため、本文を通して用語MRMを用いるが、該用語はSRMおよびMRMの両者、さらには任意の種類の質量分析計上で実施され、かつ/または、たとえばCAD(衝突活性化解離(CIDまたは衝突誘導性解離とも呼ばれる)、HCD(高エネルギーCID)、ECD(電子捕獲解離)、PD(光解離)、またはETD(電子伝達解離)などの他の任意のフラグメント化法を用いてペプチドをフラグメント化する、たとえば高選択性反応モニタリング、hSRM、LC-SRMまたは任意の他のSRM/MRM様またはSRM/MRMを模倣した手法などの、任意の類似した技術を含む。
【0073】
他の具体的な実施形態においては、質量分析法はマトリクス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI-TOF MSまたはMALDI-TOF)を含む。他の実施形態においては、方法はMALDI-TOFタンデム質量分析法(MALDI-TOF MS/MS)を含む。さらに他の実施形態において、質量分析法は、当業者が意図することのできる他の適切な方法と組み合わせることができる。たとえば、本願に記載するように、MALDI-TOFは、トリプシン消化およびタンデム質量分析法と共に利用することができる。
【0074】
代替的実施形態においては、質量分析法は、たとえば米国特許6,225,047号および第5,719,060に記載された表面増強レーザー脱離イオン化すなわち「SELDI」を含む。簡単に説明すると、SELDIは、分析物(本願においては1つまたはそれ以上のバイオマーカー)が、SELDI質量分析計プローブの表面に捕捉される脱離/イオン化気相イオンスペクトル分析(例:質量分析)の方法を意味する。親和性捕捉質量分析法(表面増強親和性捕捉(SEAC)とも呼ばれる)、およびプローブの表面に化学結合したエネルギー吸収分子を含むプローブ(SENDプローブ)の使用を包含する表面増強ニート脱離(SEND)を含むが、これに限定されない、SELDIのいくつかのバージョンを利用することができる。他のSELDI法は、表面増強感光性付着および放出(SEPAR)と呼ばれ、これは分析物と共有結合することのできる表面と結合する構成部分であって、その後たとえばレーザー光などに露光した後に、該構成部分の感光性結合の回裂によって分析物を放出することのできる表面と結合する構成部分を有するプローブの使用を包含する(米国特許第5,719,060号を参照)。SEPARおよび他の形態のSELDIは、本発明に準拠して、バイオマーカーまたはバイオマーカーパネルを検出するよう、容易に適合化することができる。
【0075】
他の質量分析法においては、バイオマーカーは、バイオマーカーと結合するクロマトグラフィー的特性を有するクロマトグラフィー樹脂上に、まず捕捉することができる。たとえば、CM Ceramic HyperD F樹脂などの陽イオン交換樹脂上にバイオマーカーを捕捉し、樹脂を洗浄し、バイオマーカーを溶出し、MALDIによって検出することも可能である。代替的に、この方法に先立ち、陽イオン交換樹脂への適用前に陰イオン交換樹脂上で試料を分画化することも可能である。他の代替法においては、陰イオン交換樹脂上で分画化してMALDIで直接検出することも可能である。さらに他の方法においては、バイオマーカーを、バイオマーカーと結合する抗体を含む免疫クロマトグラフィー樹脂上で捕捉し、樹脂を洗浄して未結合の物質を除去し、樹脂よりバイオマーカーを溶出し、さらに溶出したバイオマーカーをMALDIまたはSELDIで検出することも可能である。
【0076】
(D.電気化学発光分析による検出)
いくつかの実施形態においては、本発明のバイオマーカーはメソスケールディスカバリー(メリーランド州ゲッサーズバーグ)によって開発されたエレクトロケミカルミネッセント(電気化学発光)測定法によって検出しうる。電気化学発光検出は、電気化学的に刺激されたときに発光する標識を用いる。刺激メカニズム(電気)はシグナル(光)からデカプリングするため、バックグラウンドシグナルは最小である。標識は安定で、非放射性でありかつ簡便な結合化学特性の選択を提供する。約620nmの光を発し、カラークエンチングの問題を解消する。米国特許第7,497,997号;第7,491,540号;第7,288,410号;第7,036,946号;第7,052,861号;第6,977,722号;第6,919,173号;第6,673,533号;第6,413,783号;第6,362,011号;第6,319,670号;第6,207,369号;第6,140,045号;第6,090,545号;および第5,866,434号を参照されたい。米国特許出願公開第2009/0170121号;第2009/006339号;第2009/0065357号;第2006/0172340号;第2006/0019319号;第2005/0142033号;第2005/0052646号;第2004/0022677号;第2003/0124572号;第2003/0113713号;第2003/0003460号;第2002/0137234号;第2002/0086335号;および第2001/0021534号も参照されたい。
【0077】
(E.バイオマーカーを検出するその他の方法)
本発明のバイオマーカーは、他の適当な方法で検出することができる。この目的のために用いることのできる検出パラダイムは、光学的方法、電気化学的方法(ボルタメトリー法および電流滴定法)、原子間力顕微鏡、およびたとえば多極共鳴分光法などの高周波法を含む。光学的方法の例示は、共焦点および非共焦点顕微鏡に加えて、蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射率、透過率、および複屈折または屈折率(例:表面プラスモン共鳴法、偏光解析法、共振ミラー法、回折格子結合器導波管法または干渉法)である。
【0078】
さらに、試料はバイオチップによって分析してもよい。バイオチップは一般に固形基材を含みかつ一般に平面状の表面を有し、そこに捕捉試薬(吸着剤またはアフィニティ試薬とも呼ばれる)が結合する。バイオチップの表面は、それぞれがそこに結合する捕捉試薬を有する、複数のアドレスを指定できる位置を含むことが多い。プロテインバイオチップは、ポリペプチドの捕捉に適合化されたバイオチップである。当技術分野では多くのプロテインバイオチップが記載されている。これらは、たとえばサイファージェンバイオシステムズ社(カリフォルニア州フリーモント)、インビトロジェン社(カリフォルニア州カールズバッド)、アフィメトリクス社(カリフォルニア州フレモング)、Zyomyx(カリフォルニア州ヘイワード)、R&Dシステムズ社(ミネソタ州ミネアポリス)、Biacore(スウェーデン、ウプサラ)およびProcognia(英国、バークシャー)によって製造されるプロテインバイオチップを含む。このようなプロテインバイオチップの例は、以下の特許または公開特許明細書に記載されている:米国特許第6,537,749号、米国特許第6,329,209号、米国特許第6,225,047号、米国特許第5,242,828号、PCT国際公開第00/56934号、およびPCT国際公開第03/048768号。
【0079】
(III.患者の脳損傷状態の判定)
本発明は、脳損傷を診断し、患者が頭部CTを必要としているか判定し、TBI患者がICHを有する可能性があると鑑別し、かつ/または短期的および長期的な脳振盪後症状およびTBI後の障害を予測するためのバイオマーカーの使用に関する。簡潔さを期すために、用語「脳損傷」は、本願を通して用いられることが理解されるが、本願に記載の方法およびバイオマーカーは、神経変性を診断する状況において適用されることが理解される。より具体的には、本発明のバイオマーカーは、個人、対象または患者において、たとえば脳損傷などを診断するためなどに、脳損傷または状態を判定、認定、および/または評価するための診断検査において用いることができる。具体的な実施形態においては、脳損傷状態は患者の脳損傷状態を判定すること、またはたとえば個人、対象または患者の脳損傷を診断するためなどに、脳損傷状態を判定することを含むことができる。より具体的には、脳損傷(例:無症候性または外傷性脳損傷)を診断する際に検出しようとするバイオマーカーはGFAP、S100B、MT3、ICAM5、BDNF、および/またはNSEを含むが、これに限定されない。関連技術分野において既知である他のバイオマーカーを、本願に記載のバイオマーカーと組み合わせて用いうる。本発明は、非修飾および修飾(例:シトルリン化または他の翻訳後修飾)タンパク質/ポリペプチド/ペプチドの両者、さらには前述のいずれかに対する自己抗体の検出、測定、定量、判定などをさらに意図し、患者の脳損傷を判定する。本願に記載の方法および組成物は、脳損傷を診断するためだけでなく、患者が頭部CTを必要としているか判定し、TBI患者がICHを有する可能性があると鑑別し、かつ/または短期的および長期的な脳振盪後症状およびTBI後の障害を予測することを含めて、損傷状態/病状にある他の脳を診断するために用いることができることが理解される。
【0080】
(B.バイオマーカーパネル)
本発明のバイオマーカーは、患者の脳損傷状態を評価、判定、および/または認定(本願では互換的に使用される)するための診断検査において用いることができる。語句「脳損傷状態」は、脳損傷を有していないことを含めた、状態の任意の判別可能な発現を含む。たとえば、脳損傷状態は、患者の脳損傷の有無、脳損傷を発症するリスク、脳損傷の病期または重症度、脳損傷の進行(例:経時的な脳損傷の進行)、脳損傷の治療の有効性またはこれに対する反応(例:治療後の脳損傷の臨床的経過観察および監視など)、患者が頭部CTを必要とするか、TBI患者がICHを有する可能性があるか、および/または短期的および長期的な脳振盪後症状およびTBI後障害を予測することを制限なく含む。この状態に基づき、追加的な診断検査または治療手技またはレジメンを含むさらなる手順を指示しうる。
【0081】
状態を正しく予測する診断検査の検出力は、一般に測定法の感度、測定法の特異度または受信者動作特性(「ROC」)曲線下面積として測定される。感度は、検査によって陽性であると予測された真陽性の百分率である一方、特異性は検査によって陰性であると予測された真陰性の百分率である。ROC曲線は、検査の感度を関数1-特異度として提供する。ROC曲線下面積が大きければ、検査の的中度がより強力になる。検査の有用性のその他の有用な指標は陽性的中度および陰性的中度である。陽性的中度は、検査が陽性で実際に陽性である者の百分率である。陰性的中度は、検査が陰性で実際に陰性である者の百分率である。
【0082】
具体的な実施形態においては、本発明のバイオマーカーパネルは異なる脳損傷状態において少なくともp<0.05、p<10-2、p<10-3、p<10-4またはp<10-5の統計的差を示しうる。これらのバイオマーカーを用いる診断検査は、少なくとも0.6、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9のROCを示しうる。
【0083】
バイオマーカーは、UI(NCまたは非脳損傷)と脳損傷において識別的に存在することができるので、脳損傷状態の判定を支援する際に有用である。一定の実施形態においては、本願に記載の方法を用いて患者試料中のバイオマーカーを測定し、かつたとえば事前に定義するバイオマーカーレベル/比率などと比較し、かつ脳損傷状態と相関させる。具体的な実施形態においては、測定値は、次に、脳損傷陽性状態を脳損傷陰性状態と識別する、関連する診断的量、カットオフ値、または多変量モデルスコアと比較することができる。診断的量は、その値を上回るかまたは下回るときに患者が特定の脳損傷状態を有すると分類される、バイオマーカーの測定量を表す。たとえば、バイオマーカーが脳損傷時に正常値と比較してアップレギュレートされる場合、診断的カットオフ値を上回る測定量が脳損傷の診断を提供する。あるいは、バイオマーカーが脳損傷時にダウンレギュレートされるとき、診断的カットオフ値にあるかまたはこれ以下の測定量が非脳損傷の診断を提供する。当技術分野において十分に理解されているように、測定法で用いられる特定の診断カットオフ値を調節することにより、診断医の選好に応じて診断測定法の感度または特異度を高めることができる。具体的な実施形態においては、具体的な診断カットオフ値は、たとえば種々の脳損傷状態を有する患者に由来する統計的に有意な数の試料でバイオマーカーの量を測定し、所望の感度および特異度レベルに適合するようカットオフ値を選択することなどによって決定することができる。
【0084】
他の実施形態においては、翻訳後修飾されたバイオマーカーの、対応する非修飾バイオマーカーに対する比率は、脳損傷状態の判定を支援する上で有用である。一定の実施形態においては、バイオマーカーの比率は診断を示す。他の実施形態においては、バイオマーカーの比率は、同じ試料中の他のバイオマーカーの比率、または対照または参照試料からのバイオマーカーの比率の群と比較することができる。
【0085】
実際に、当業者が認識するように、検討中の診断的な問題を改善するために、2つまたはそれ以上のバイオマーカーの測定値を用いる多くの方法がある。きわめて単純であるもののしばしば有効な手法においては、検討したマーカーのうち少なくとも1つについて試料が陽性である場合、結果は陽性であると推測される。
【0086】
さらに、一定の実施形態においては、バイオマーカーパネルのマーカーについて測定した数値を数学的に組み合わせ、さらに組み合わせた数値を背景にある診断的問題と相関させる。バイオマーカーの数値は、任意の適切な最新の数学的方法によって組み合わせることができる。マーカーの複合値を疾患状態と相関させる周知の数学的方法は、判別分析(DA)(例:線形、二次、正則化DA)、判別関数分析(DFA)、カーネル法(例:SVM)、多次元尺度構成法(MDS)、ノンパラメトリック法(例:k-ニアレストネイバー分類法)、PLS(部分最小二乗法)、決定木法(例:論理回帰、CART、ランダムフォレスト法、ブースティング/バッギング法)、一般化線型モデル(例:ロジスティック回帰)、主成分法(例:SIMCA)、一般化加法モデル、ファジー論理法、ニューラルネットワークおよび遺伝的アルゴリズム法のような方法を使用する。当業者は、本発明のバイオマーカー複合値を評価する適切な方法を問題なく選択するであろう。1つの実施形態においては、たとえば脳損傷を診断するためなどに本発明のバイオマーカー複合値を相関させる際に用いられる方法は、DA(例:線形、二次、正則化判別分析)、DFA、カーネル法(例:SVM)、MDS、ノンパラメトリック法(例:k-ニアレストネイバー分類法)、PLS(部分最小二乗法)、決定木法(例:論理回帰、CART、ランダムフォレスト法、ブースティング法)、または一般化線型モデル(例:ロジスティック回帰)、および主成分分析から選択される。これらの統計学的方法に関する詳細は以下の参照文献で確認される:Ruczinski他、12 J. OF COMPUTATIONAL AND GRAPHICAL STATISTICS 475-511 (2003);Friedman, J. H., 84 J. OF THE AMERICAN STATISTICAL ASSOCIATION 165-75 (1989) ;Hastie, Trevor, Tibshirani, Robert, Friedman, Jerome『統計的学習の要素―Springer統計学シリーズ』 (2001) ;Breiman, L., Friedman, J. H., Olshen, R. A., Stone, C. J. 『分類および回帰木』California: Wadsworth (1984);Breiman, L., 45 MACHINE LEARNING 5-32 (2001); Pepe, M. S.,『分類および予測のための医学的検査の統計学的評価、オックスフォード統計科学シリーズ28』 (2003) ;およびDuda, R. O., Hart, P. E., Stork, D. G.,『パターン分類』(第2版)Wiley Interscience (2001) 。
【0087】
(C.脳損傷発症リスクの判定)
具体的な実施形態においては、本発明は患者が脳損傷を発症するリスクを判定するための方法を提供する。バイオマーカーの百分率、比率、量またはパターンは、たとえば高、中、または低などの多様なリスク状態の特徴である。脳損傷を発症するリスクは、関連バイオマーカーを測定し、その後それらを分類アルゴリズムに投入するか、または参照値、すなわち特定のリスクレベルと関連する事前に定義するバイオマーカーのレベルまたはパターンと比較することによって判定する。
【0088】
(D.脳損傷の重症度の判定)
他の実施形態においては、本発明は患者の脳損傷の重症度を判定するための方法を提供する。脳損傷の各等級または病期は、特徴的なバイオマーカーのレベルまたはバイオマーカー群の相対的レベル/比率(パターンまたは比率)を有する可能性がある。脳損傷の重症度は、関連バイオマーカーを測定し、その後それらを分類アルゴリズムに投入するか、または参照値、すなわち特定の病期と関連する事前に定義するバイオマーカーのレベルまたはパターンと比較することによって判定する。
【0089】
(E.脳損傷の予後の判定)
1つの実施形態においては、本発明は患者の脳損傷の経過を判定するための方法を提供する。脳損傷の経過は、脳損傷の進行(悪化)および脳損傷の後退(改善)を含む、脳損傷状態の経時的変化を指す。時間と共に、バイオマーカーの量または相対的な量(例:パターンまたは比率)は変化する。たとえば、バイオマーカー「X」が脳損傷に伴って増加することがある一方で、バイオマーカー「Y」が脳損傷に伴って減少することもある。したがって、脳損傷または非脳損傷に向かうこれらのバイオマーカーの経時的な増加または減少の傾向は、状態の経過を示す。このため、本方法は、患者の1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを、たとえば1回目および2回目などの少なくとも2つの測定時に測定し、かつ変化があれば比較することを包含する。脳損傷の経過はこれらの比較に基づいて判定する。
【0090】
(F.患者の管理)
脳損傷状態を認定する方法の一定の実施形態においては、方法は状態に基づいて患者の治療を管理することをさらに含む。そのような管理は、脳損傷状態を判定することに続く医師または臨床医の措置を含む。たとえば、医師が脳損傷の診断を下す場合、その後に一定のモニタリング法を実施するであろう。本発明の方法を用いた脳損傷の経過の評価は、その後一定の脳損傷治療レジメンを必要とすることもある。あるいは、非脳損傷の診断の後で、患者が罹患しているおそれのある具体的な疾患を判定するために、さらなる検査を行うこともある。また、診断検査の結果が脳損傷状態に関する結論に至らない場合は、さらなる検査を要請することもある。
【0091】
(G.医薬品の治療効果の判定)
他の実施形態においては、本発明は医薬品の治療効果を判定するための方法を提供する。これらの方法は、薬剤の臨床試験を実施する際、および薬剤を使用している患者の進行をモニタリングする際に有用である。治療法または臨床試験は、薬剤を特定のレジメンで投与することを包含する。レジメンは、薬剤の1回投与または薬剤の経時的複数回投与を包含しうる。医師または臨床研究者は、患者または被験者に対する薬剤の効果を、投与の過程に渡ってモニタリングする。薬剤が病状に対して薬理学的影響を有する場合、本発明の1つまたはそれ以上のバイオマーカーの量または相対量(例:パターン、プロフィールまたは比率)は、非脳損傷プロフィールに向かって変化しうる。したがって、投与クール中、患者における1つまたはそれ以上のバイオマーカーの経過を追跡することができる。これにより、本方法は薬物療法を受ける患者の1つまたはそれ以上のバイオマーカーを測定すること、およびバイオマーカーレベル/比率を患者の脳損傷状態と(例:種々の脳損傷状態に対応する事前に定義するバイオマーカーのレベル/比率との比較により)相関させることを包含する。本方法の1つの実施形態は、たとえば1回目および2回目など、薬物療法クール中の少なくとも2つの異なる測定時について、1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベル/比率を判定し、かつバイオマーカーのレベル/比率に変化があれば、これを比較することを包含する。たとえば、1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベル/比率は薬剤の投与の前後、または薬剤投与中の異なる2つの測定時に測定することができる。治療法の効果はこれらの比較に基づいて判定する。治療が有効である場合には、1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベル/比率は正常に向かう傾向を示す一方、治療が無効である場合には、1つまたはそれ以上のバイオマーカーレベル/比率は脳損傷に向かう傾向を示すであろう。
【0092】
(H.脳損傷状態を認定するための分類アルゴリズムの生成)
一部の実施形態においては、「既知の試料」などの試料を用いて生成したデータを、その後で分類モデルを「トレーニング」するために用いることができる。「既知の試料」とは事前に分類された試料である。分類モデルを形成するために用いるデータは「トレーニングデータセット」と呼ぶことができる。分類モデルを形成するために用いるトレーニングデータセットは、生データを含むこともあれば、または事前に処理したデータを含むこともある。分類モデルは、一旦トレーニングすれば未知の試料を用いて生成したデータにおけるパターンを認識することができる。分類モデルは、その後未知の試料を階級に分類するために用いることができる。これは、たとえば特定の生体試料が一定の生物学的状態(例:疾患対非疾患)と関連するか否か予測する際などに有用となることがある。
【0093】
分類モデルは、データ中に存在する客観的パラメーターに基づいてデータの本体を階級に区分することを試みる、任意の適当な統計学的分類または学習法を用いて形成することができる。分類法は教師付きであることも、または教師なしであることもある。教師付き分類および教師なし分類のプロセスの例は、その教示を参照文献として本願に援用するJain, “Statistical Pattern Recognition: A Review”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 22, No. 1, January 2000に記載されている。
【0094】
教師付き分類においては、既知のカテゴリーの例を含むトレーニングデータが学習メカニズムに提示され、この学習メカニズムが既知の階級をそれぞれ定義する1つまたはそれ以上の関係群を学習する。その後新規データを学習メカニズムに適用すると、学習メカニズムは学習した関係を用いて新規データを分類する。教師付き分類プロセスの例は、線形回帰プロセス(例:多重線形回帰(MLR)、部分最小二乗(PSL)回帰および主成分回帰(PCR))、二分決定木(例:CARTなどの帰納的分配プロセス)、バックプロパゲーションネットワークなどのアーティフィシャルニューラルネットワーク、判別分析(例:ベイズ分類またはフィッシャー分析)、ロジスティック分類、およびサポートベクター分類(サポートベクターマシン)を含む。
【0095】
他の教師付き分類法は帰納的分配プロセスである。機能的分配プロセスは、未知の試料から派生したデータを分類するために帰納的分配木を用いる。帰納的分配プロセスについてのさらなる詳細はPaulse他の米国特許出願第2002/0138208(A1)号「質量スペクトルを分析するための方法」に提供される。
【0096】
他の実施形態においては、作製される分類モデルは教師なし学習法によって形成することができる。教師なし分類では、そこからトレーニングデータセットが派生したスペクトルを事前に分類することなく、トレーニングデータセット中の類似性に基づいて分類の学習を試みる。教師なし学習モデルはクラスター分析を含む。クラスター分析は、そのメンバーが理想的には互いに非常に類似し、かつ他のクラスターのメンバーとは非常に異なっていなければならない「クラスター」または群へのデータの分割を試みる。次に、データ項目間の距離を測定し、かつ互いにより近いデータ項目を合わせてクラスター化する、何らかの距離測定法を用いて類似性を測定する。クラスター化法はMacQueenのK-平均アルゴリズムおよびKohonenの自己組織化マップアルゴリズムを含む。
【0097】
生物学的情報を分類する際の使用を目的として主張された学習アルゴリズムは、たとえばPCT国際出願公開第01/31580号(Barnhill他、「生物学的システムにおけるパターンを特定するための方法および装置およびその使用方法」)、米国特許出願公開第2002/0193950号(Gavin他、「方法または質量スペクトルを分析すること」)、米国特許出願公開第2003/0004402号(Hitt他、「生物学的データからの隠れたパターンに基づく生物学的状態間を識別するためのプロセス」)、および米国特許出願公開第2003/0055615号(ZhangおよびZhang、「生物学的発現データを処理するためのシステムおよび方法」)などに記載されている。
【0098】
分類モデルは、任意の適当なデジタルコンピューター上で形成し、かつ使用することができる。適当なデジタルコンピューターは、Unix、Windows(登録商標)またはLinux(登録商標)ベースのオペレーティングシステムなどの任意の標準的なまたは専用のオペレーティングシステムを用いたマイクロ、ミニまたは大型コンピューターを含む。質量分析計を利用する実施形態においては、使用するデジタルコンピューターは、目的のスペクトルを生成するために用いる質量分析計と物理的に分離していることもあれば、または質量分析計と接続していることもある。
【0099】
本発明の実施形態に従ったトレーニングデータセットおよび分類モデルは、デジタルコンピューターによって実行または使用されるコンピューターコードによって具現することができる。コンピューターコードは、光学または磁気ディスク、スティック、テープなどの任意の適当なコンピューター読み取り可能メディアに保存することができ、かつR、C、C++、visual basicなどを含む、任意の適当なコンピュータープログラミング言語で記述することができる。
【0100】
上記の学習アルゴリズムは、すでに発見されたバイオマーカーのための分類アルゴリズムを開発するため、および新規バイオマーカーバイオマーカーを確認するためのいずれにも有用である。一方、分類アルゴリズムの方は、単独でまたは組み合わせて用いられるバイオマーカーのための診断値(例:カットオフポイント)を提供することにより、診断検査のための基盤を形成する。
【0101】
(IV.脳損傷バイオマーカーの検出のためのキット)
他の態様においては、本発明は脳損傷状態を認定するためのキットであって、該キットが本願に記載するバイオマーカーを検出するために用いられるキットを提供する。具体的な実施形態においては、キットはGFAP、S100B、MT3、ICAM5、BDNFおよび/またはNSEを含むがこれに限定されない、本発明のバイオマーカーに対する抗体を含む、ELISAキットとして提供される。
【0102】
ELISAキットは、その上にバイオマーカー捕捉試薬が結合しているチップ、マイクロプレート(例:96ウェルプレート)、ビーズ、または樹脂などの固形支持体を含みうる。キットは、抗体などのバイオマーカーを検出するための手段、およびセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗ウサギIgGヤギ抗体などの二次抗体-シグナル複合体およびHRPの基質としてテトラメチルベンジジン(TMB)をさらに含みうる。
【0103】
脳損傷状態を認定するためのキットは、その上に抗体が固定されている膜、およびたとえば金粒子結合抗体などのような検出するための手段を含む、免疫クロマトグラフィストリップであって、膜がNC膜およびPVDF膜を含む免疫クロマトグラフィストリップとして、提供することができる。キットは、試料アプリケーションパッド、グラスファイバーフィルター上に一時的に固定された金粒子結合抗体、その上に抗体バンドおよび二次抗体バンドが固定されたニトロセルロース膜、および吸着剤パッドが、血清の連続的毛管流を維持するよう、その上に連続的な様式で配置されたプラスチックプレートを含むことができる。
【0104】
一定の実施形態においては、患者由来の血液または血清をキットに加えること、および抗体とコンジュゲート化した関連バイオマーカーを検出することによって、具体的には(i)患者から血液または血清を採取する段階;(ii)患者の血液から血清を分離する段階;(iii)患者由来の血清を診断キットに添加する段階;および、(iv)抗体とコンジュゲート化したバイオマーカーを検出する段階を含む方法によって、患者を診断することができる。この方法においては、抗体は患者の血液と接触させられる。試料中にバイオマーカーが存在すれば、抗体は試料、またはその一部分と結合するであろう。他のキットまたは診断の実施形態においては、患者より血液または血清を採取する必要はない(すなわち、それはすでに採取されている)。さらに他の実施形態においては、試料は組織試料または臨床試料を含んでもよい。
【0105】
キットは、捕捉試薬と洗浄液の組み合わせにより、固形支持体上にバイオマーカーを捕捉し、続いてたとえば抗体または質量分析などにより検出することが可能となる、洗浄液または洗浄液を作製するための指示も含むことができる。さらなる実施形態においては、キットは適切な操作パラメーターについての指示を、ラベルまたは別添の説明書の形態で含むことができる。指示は、たとえば試料の採取方法、プローブの洗浄方法または具体的な検出すべきバイオマーカーなどについての情報を、消費者に与えることもある。さらに他の実施形態においては、キットは、較正用標準物質として使用するために、バイオマーカー試料の入った1つまたはそれ以上の容器を含むことができる。
【0106】
他の具体的な実施形態においては、キットは、本願に記載の1つまたはそれ以上の核酸バイオマーカーと特異的に結合するプライマーを含む、PCRキットとして提供される。当業者は、GFAP、S100B、MT3、ICAM5、BDNFおよび/またはNSEを含む、本願に記載の標的バイオマーカーと特異的に結合し、これを増幅するプライマーを設計することができる。キットは、基材およびPCR(例:定量的リアルタイムPCR)を実施するために必要な他の試薬をさらに含むことができる。キットは、シングルプレックスまたはマルチプレックスPCRを実施するよう構成することができる。キットは、PCR反応を遂行するための指示を、さらに含むことができる。具体的な実施形態においては、対象から入手した生体試料を操作して核酸を抽出することもある。さらなる実施形態においては、核酸を標的バイオマーカーと特異的に結合するプライマーと接触させてプライマー:バイオマーカー複合体を形成させることができる。複合体は、その後増幅および検出/定量/測定され、1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルを判定することができる。その後、測定した1つまたはそれ以上のバイオマーカーのレベルと1つまたはそれ以上の参照対象との比較に基づき、対象が脳損傷を有すると鑑別することができる。
【0107】
当業者は、さらに手を加えることなく、前述の記載を用いて本発明を最も完全な程度まで利用できると考えられる。以下の実施例は例示的であるに過ぎず、いかなる様式であっても残る開示を制限していない。
【0108】
(実施例)
以下の実施例は、当業者に対し、本願に記載および主張される化合物、組成物、物品、機器、および/または方法をどのように作製および評価するかについて、完全な開示および記載を提供するために提示され、かつ純粋に例示的であることを意図し、かつ発明者がその発明と見なすものの範囲を限定することを意図していない。数値(例:量、温度など)については正確さを確保するよう努力しているが、本願では一部の誤りまたは逸脱を説明すべきである。特に指示しない場合、部は重量部であり、温度はセルシウス温度または環境温度であり、かつ圧力は大気圧またはその付近である。所望のプロセスより得られる生成物の純度および収率を最適化するために用いることのできる、たとえば成分濃度、所望の溶媒、溶媒混合物、温度、圧力およびその他の反応範囲および条件などのような、数多くの変法および反応条件の組み合わせがある。このようなプロセス条件を最適化するためには、合理的かつ常用的な実験法のみが必要であろう。
【0109】
マルチバイオマーカー法を用いて、我々は脳損傷バイオマーカーおよび/またはその変異体の特定の組み合わせが、脳内出血を予測する上で単独のバイオマーカーよりも優れていることを確認した。さらに、BDNFは持続性の脳振盪症状を優れた診断精度で予測する。同様に、GFAPは、標準的な検査である頭部CTと同等か、またはより優れた精度で短期的障害を予測する。脳振盪に伴って血流中BDNFのレベルが低下するので、BDNFは脳振盪、または競技または職務への復帰のバイオマーカーの役割を果たすことも可能である。BDNFは必須神経栄養因子であるので、BDNFまたはBDNF受容体アナログは、TBIおよび他の脳損傷または疾患(細胞死または外傷がある場合)における治療の可能性を有する。
【実施例0110】
(急性外傷性脳損傷(TBD)に対する受診時のタンパク質バイオマーカーパネルの使用)
急性頭蓋内病態を診断するための頭部コンピューター断層撮影(CT)スキャンを撮影する前の、スクリーニング検査として用いられる、タンパク質バイオマーカーおよびその変異体(タンパク質スプライシング変異体(アイソフォーム)、多形、および分解、およびシトルリン化、リン酸化、アセチル化、メチル化などを含むがこれに限定されないその他の翻訳後修飾)の組み合わせは、回避可能な頭部CTスキャンを安全に減少させることができるであろう。
【0111】
(材料と方法)
(試験デザイン)
症例対照。
【0112】
(被験集団)
TBI症例:症例は、来院より24時間以内に発生した頭部の鈍的外傷を呈し、ジョンズホプキンス病院救急科(ED)を受診した連続成人患者(18歳またはそれ以上)で、頭部CTスキャンを撮影したところ急性外傷性頭蓋内出血が証明され、さらに臨床生化学検査室で余剰の血清検体が入手できた患者であった。過去に脳手術または脳腫瘍のあった患者は除外した。
【0113】
TBI対照:TBI対照は、ED評価の一環として頭部CTスキャンを実施する必要があるとするのに十分な重大な頭部鈍的外傷を受け、受傷より5日以内にジョンズホプキンス病院EDを受診したものの、頭蓋内出血のなかった(すなわち脳振盪のみの)連続成人患者(18歳またはそれ以上)であった。さらに、臨床生化学試験室で余剰の血清検体が入手できた場合に、患者を対照として含めた。
【0114】
非TBI対照:ジョンズホプキンス救急科を受診した成人患者(18歳またはそれ以上)で、急性冠動脈症候群について評価を受け、最終的に心疾患がないと診断されて退院、帰宅した患者。これらの患者には、急性外傷または巣状神経欠損がなかった。この集団に対してはCTスキャンを実施しなかった。さらに対照患者は、研究を目的とした血液検体の採取について、書面によるインフォームド・コンセントを提供した。
【0115】
(採血のタイミング)
血清試料は救急科来院時に採取した。
【0116】
(バイオマーカー分析)
Everett博士の研究室で開発したGFAP(グリア線維性酸性タンパク質)、ICAM5(細胞内接着分子5)、S100B、MT3(メタロチオネイン3)、神経特異性エノラーゼ(NSE)およびBDNF(脳由来神経栄養因子)に対する高感度ELISA測定法を用いた。GFAP、ICAM5、S100B、NSEおよびBDNFに対するタンパク質標品は市販のものを用い、MT3についてはジョンズホプキンス大学のEverett博士の研究室で開発されたものを用いた。
【0117】
(結果)
TBI症例13例、TBI参照31例、および非TBI対照196例について、入院時に採取した初回血液をELISAにより分析した。結果より、TBI群(ICHおよび非ICH)において、GFAP(図1)およびICAM5(図3)のいずれも、S100B(図4)、MT3(図6)およびBDNF(図2)と比較して、有意に上昇することが証明された。GFAP単独は非ICHからICHを予測する能力が最も高かった(図1)。我々は、以下のバイオマーカーの組み合わせによって、頭蓋内出血(ICH)を有するTBIおよびTBI対照で撮影したCTスキャンの結果に基づき、すべてのICHを有するTBI症例を鑑別できること、すなわちICHに対する100%の感度を確認した(表1):
● GFAPおよびS100B
● GFAPおよびNSE
● GFAP、ICAM5およびS100B
● GFAP、ICAM5およびMT3
● GFAP、MT3およびICAM5
● GFAP、NSEおよびS100B
● GFAP、ICAM5、MT3およびS100B
【0118】
さらに、これらのバイオマーカーの組み合わせを頭部CT撮影前にICHのスクリーニング試験として用いることにより、急性頭蓋内所見のない頭部CTスキャンの30~50%が回避されるであろう(表1)。
【0119】
(表1:軽度外傷性脳損傷患者において頭蓋内出血と非頭蓋内出血を識別するための相異なるバイオマーカーパネルの診断精度)
【表1】
【0120】
定義:カットオフは、GFAP:GFAP>0.04ng/mL;ICAM5:ICAM5>17ng/mL;S100B:S100B>2ng/mL、MT3:MT3>0.95ng/mL;BDNF:BDNF<30ng/mL;NSE:NSE<71ng/mLについてであった。
【0121】
ロジスティック回帰モデル(表2):モデルにおいてカットオフは用いなかった。厳密なバイオマーカーレベルをモデルに入力して頭蓋内出血を有する確率を生成する。頭蓋内出血の確率が高いとみなされる場合、確率≧0.215。
【0122】
(表2:頭蓋内出血の確率についてのバイオマーカーロジスティック回帰モデル)
【表2】
【0123】
(結論)
TBIにおける頭蓋内出血を評価するために、頭部CTを撮影する前にスクリーニング検査として用いるとき、以下のタンパク質およびその変異体の組み合わせ(タンパク質スプライシング変異体[アイソフォーム]、多形、および分解およびシトルリン化、リン酸化、アセチル化、メチル化などを含むがこれに限定されないその他の翻訳後修飾型を含むバイオマーカーの変異体を含む:GFAPおよび/またはS100B;GFAPおよび/またはNSE;GFAPおよび/またはICAM5および/またはS100B;GFAPおよび/またはICAM5および/またはMT3;GFAPおよび/またはMT3および/またはICAM5;GFAPおよび/またはNSEおよび/またはS100B;GFAPおよび/またはICAM5および/またはMT3および/またはS100Bは、いかなる頭蓋内出血患者も見過ごすことなく、回避可能な頭部CTスキャンを安全に減少させるであろう。
【実施例0124】
(受診時の脳由来神経栄養因子(BDNF)およびその変異体は外傷性脳損傷(TBI)患者と非TBI患者を識別する)
受診時の脳由来神経栄養因子(BDNF)およびその変異体(そのスプライシング変異体(アイソフォーム)、多形、プロホルモン、活性型、プロホルモン不活性型開裂フラグメント、および分解およびシトルリン化、リン酸化、アセチル化、メチル化などを含むがこれに限定されないその他の翻訳後修飾、さらにはBDNF受容体)は、外傷性脳損傷患者(TBI)と非TBI患者を識別する。さらに、BDNF、その変異体または受容体はTBIの治療において治療的に用いることも可能である。
【0125】
(材料と方法)
(試験デザイン)
症例対象研究。
【0126】
(被験集団)
TBI症例:来院より24時間前以内に発生した頭部の鈍的外傷により、ジョンズホプキンス病院救急科(ED)を受診した成人患者(18歳またはそれ以上)であって、ED医師によって、頭部コンピューター断層撮影(CT)スキャンを撮影して頭蓋内出血を評価するのに十分なほど重大な外傷をするとみなされた患者。そしてさらに臨床的目的で採血を受け、かつ臨床生化学検査室で余剰の血清検体が入手できた症例を含めた。
【0127】
非外傷対照:ジョンズホプキンス大学EDを受診した成人患者(18歳またはそれ以上)で、急性冠動脈症候群の評価を受け、最終的に心疾患がないと診断されて退院、帰宅した患者。これらの患者には、急性外傷または巣状神経欠損がなかった。頭部CTスキャンは実施しなかった。さらに、対照患者は、研究を目的とした血液検体の採取について、書面によるインフォームド・コンセントを提供した。
【0128】
(採血のタイミング)
血清試料はED来院時に採取した。
【0129】
(バイオマーカー分析)
Everett博士の研究室でBDNF(脳由来神経栄養因子)のために開発された高感度ELISA分析法を用いた。BDNF用タンパク質標品は市販品を入手した。
【0130】
(結果)
症例は計44例(CTスキャンに基づく頭蓋内出血13例および非頭蓋内出血31例)、対照は196例であった。症例におけるBDNF中央値は24.1(IQR:15.6~29.6)ng/mLであり、対照におけるBDNF中央値は55.9(IQR:39.3~76.8)であった。BDNFが1ng/mL変化する毎に、TBIを有するオッズ比は13%低下する(OR:0.87[95%CI:0.83~0.91])。BDNFはAUC 0.93でTBI症例と非外傷対照を識別することができた。BDNFはICHと非ICHを識別しなかった。
【0131】
(要約)
BDNFレベルはTBIを有する者とTBIのない者を識別することができる。TBIを有しかつ頭蓋内出血のない患者は脳振盪を有するので、BDNFレベルの低下を用いて重大な脳振盪を有する者を鑑別することも可能である。これは、スポーツにおいて、選手が重大な脳振盪を有するか(すぐに競技に復帰してはならない)否か(すぐに競技に復帰してよい)判定するために、BDNFを用いうるような診断においてだけでなく、職務復帰についても幅広い適用可能性を有する。さらに、BDNF、その変異体または受容体はTBIの治療において治療的に用いることも可能である。
【実施例0132】
(受診時に測定された血清中のグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)濃度と脳由来神経栄養因子(BDNF)濃度の組み合わせは、短期的および長期的脳振盪後症状および障害の予測の改善をもたらす)
(材料と方法)
(試験デザイン)
予測的コホート研究。
【0133】
(被験集団)
TBI症例:症例は、来院より24時間以内に発生した頭部の鈍的外傷により、ジョンズホプキンス病院救急科(ED)を受診した連続成人患者(18歳またはそれ以上)で、頭部コンピューター断層撮影CTスキャンを撮影したところ急性外傷性頭蓋内出血が証明され、さらに臨床生化学検査室で余剰の血清検体が入手できた患者であった。患者が過去に脳に対する外科的処置または脳腫瘍を有していた場合は除外した。
【0134】
TBI対照:TBI対照は、ED評価の一環として、頭部CTスキャンを実施する必要があるとするのに十分な重大な頭部鈍的外傷を受け、受傷より5日以内にEDを受診し、頭蓋内出血について陰性と解釈された連続成人患者(18歳またはそれ以上)であった。さらに、臨床生化学試験室で余剰の血清検体が入手できた場合に、患者を対照として含めた。
【0135】
(採血のタイミング)
血清試料は救急科来院時に採取した。
【0136】
(バイオマーカー分析)
Everett博士の研究室でGFAP(グリア線維性酸性タンパク質)およびBDNF(脳由来神経栄養因子)のために開発された、高感度ELISA分析法を用いた。GFAPおよびBDNF用タンパク質標品は市販品を入手した。
【0137】
(30日後転帰)
30日後転帰は、ジョンズホプキンス大学病院電子カルテの検討により確認した。臨床記録の検討に基づき、脳振盪後症状が存在したか否か判定した。さらに、拡張グラスゴー転帰尺度(GOSE)に基づいて障害を評価した(1=障害なし、4またはそれ以上=職務復帰不可能、8=死亡)。
【0138】
(結果)
現行の頭部CTスキャンのみによる診断パラダイムでは、脳振盪後症状が予測できる患者は47.6%のみであるのに対し(下記の表を参照)、GFAPおよび/またはBDNF陽性の患者のみに頭部CTという方針では、脳振盪後症状を有する患者の88.2%でこの症状を予測し、8/39例の被験者でCTスキャンが回避される。障害予測についての診断精度は表4に示し、これは頭部CTと同等であった。
【0139】
(表3:持続性脳振盪後症状の予測)
【表3】
【0140】
(表4:障害の予測(GOSEが4またはそれ以上))
【表4】
【0141】
(要約)
GFAPおよびBDNF単独またはその併用およびその変異体(タンパク質スプライシング変異体[アイソフォーム]、多形、および分解およびシトルリン化、リン酸化、アセチル化、メチル化などを含むが、これに限定されないその他の翻訳後修飾、さらにはBDNF受容体、BDNFプロホルモンおよび活性型)は、短期的および長期的脳振盪後症状およびTBI後障害を予測する。
【実施例0142】
(血清中脳由来神経栄養因子(BDNF)は外傷性脳障害を有する患者とそうでない患者を識別する)
外傷性脳損傷(TBI)の客観的診断は依然として困難である。現在、TBIを有する者とそうでない者を高い信頼性で識別する診断的検査はない。この実施例4は上記の実施例2の追跡であり、脳由来神経栄養因子(BDFN)値が、TBI症例と非外傷対象を識別できるか判定することを目的としている。以下に記載するように、我々は鈍的頭部外傷受傷から24時間以内に救急科(ED)を受診し、米国救急医学会の頭部損傷における頭部CT撮影基準を満たす患者(TBI症例)、および急性冠動脈症候群の疑いについて評価され、最終的に心疾患がないとして退院した、最近外傷を受傷していないED患者(非TBI対照)から来院時に採取した血清試料中のBDNFを測定した。BDNFはELISA測定法を用いて測定した。
【0143】
76例のTBI症例および140例の非TBI対照を検討した。TBI症例は転倒(34.2%)、運転・乗車中の衝突(27.6%)、襲撃(25.0%)、歩行中の交通事故(5.3%)、物との衝突(4%)またはその他の外傷(4%)後に受診した。BDNFレベルは非TBI対照の方がTBI症例よりも有意に高かった(それぞれ中央値60.3[IQR:41.1~78.2]および17.5[IQR:11.3~29.6]ng/mL、p<0.01)。BDNFはAUC 0.94でTBI症例と非TBI対照を識別する(95%CI:0.89~0.96)。BDNFはTBIの重症度によって有意に変化しなかった。したがって、血清BDNFはTBI症例と非外傷対象を優れた診断精度で識別し、またTBIの客観的診断のためのバイオマーカーの候補となりうる。
【0144】
(序論)
軽度外傷性脳損傷(mTBI)の検出は、大きな公衆衛生的意味を伴う特有の臨床的困難さを示す。外傷性脳損傷(TBI)は、毎年170万例が罹患する「沈黙の流行病」であり、また医学的注目を求めない多数の未知の症例である。TBI症例の約75%は軽度外傷性脳損傷(mTBI)に分類されるものの、それらの症例は重大な神経学的不全および障害を患う可能性がある。TBIおよび特にmTBIの客観的診断は依然として困難である。現在、TBI患者とTBIのない患者を識別する信頼性のある診断的検査はない。持続的mTBIが疑われるスポーツ選手、軍人、および他の者に対する現在の診断パラダイムは、主観的な患者の症状の報告および理学的検査所見に基づいている。結果として、識別されない鈍的頭部損傷患者において、TBIを客観的に識別することのできる新規診断的検査に対する、満たされない臨床的ニーズがある。TBIの客観的検出は、どのTBI疑い患者がさらなる診断的検査および画像検査を必要とするか判定し;スポーツ関連TBIの正確な急性期トリアージおよび「競技復帰」ガイドラインの策定;およびTBI後遺症のリスクのある軍人を鑑別する上で有用となる可能性がある。
【0145】
脳由来神経栄養因子(BDNF)は、ニューロンの発達、維持、シナプス可塑性、生存および再生を促進するニュートロフィンタンパク質ファミリーの1種である。成熟中枢神経系において最も豊富に発現されるニュートロフィンである。BDNFは、TBIにおける二次的損傷を低減し、神経保護をもたらし、さらに接続性を修復することに関係している。ラットモデルにおける実験的TBIの先行研究より、BDNFの発現の低下は、外傷後ニューロンに易損性をもたらす。我々が知る限り、ヒトにおけるTBIの急性期におけるBDNF値を検討した研究はない。我々は、TBI症例を非外傷対照と識別する上でのBDNFの診断精度を推定する試験を実施した。
【0146】
(材料と方法)
施設内倫理委員会の承認後に、TBI症例と非外傷対照の症例対象研究を実施した。試験は、年間65,000例の患者を診察し、1000床の三次診療大学病院に属する都市部のEDにおいて実施した。
【0147】
(対象の選択)
鈍的外傷を受傷した後に都市部の救急科(ED)を受診した患者が以下の条件を満たす場合、症例としての組入れの対象となるとみなした:受傷より24時間以内に受診し;米国救急医学会(ACEP)のTBIにおける頭部CTスキャン撮影基準を満たし;その臨床評価の一環として非造影頭部CTスキャンを受け;かつ臨床生化学検査室で余剰の血清試料が入手できる。組入れ対象症例が以下の過去の医学的状態のうち1つを有する場合は除外した:脱髄性疾患;神経変性性疾患;認知症;脳卒中;脳腫瘍;頭蓋内手術;または活動性癌。対照被験者は、急性冠動脈症候群の疑いについて評価された、現在進行中の予測的コホート研究のED患者から選択した。患者が以下の基準をすべて満たす場合に対照として含めた:最近鈍的頭部外傷を受傷していない;心臓疾患がないとみなされ、EDを退院して帰宅;GCSが15である。条件を満たす対照被験者が症例の除外基準のいずれかを満たす場合は、除外した(上記を参照)。我々は、外傷性脳損傷における転換研究および臨床所見(TRACK-TBI)試験から入手した血液試料中のBDFN値も測定した。
【0148】
(データ収集および血液試料採取)
TBI症例の人口統計学および臨床データは、BDNF値について盲検化された臨床医によってその電子カルテより要約された。ED受診時にTBI症例から採取し、4°の冷凍庫で保存した余剰の血清サンプルを、受診から1週間以内に臨床生化学検査室より入手し、-80°Fの冷凍庫で保存した。対照被験者の人口統計学および臨床データは、訓練を受けた研究助手が被験者と面接して収集した。非TBI対照被験者の血清試料は、ED来院中に採取し、処理し、-80°Fの冷凍庫で保存した。頭部CTスキャン画像は、委員会が認定した神経科医が読影し、マーシャル頭部CTスキャン分類スキームにしたがって分類した。
【0149】
(BDNFの測定)
BDNFはバッチで測定した。BDNFを測定する技師は、試料の症例または対照の分類に対して盲検化された。
【0150】
(統計分析)
記述統計を用いてデータを要約した。カテゴリー変数(臨床および人口統計学データ)は割合として要約した。割合の差はχ検定で評価した。連続変数(年齢およびBDNF)は中央値および四分位数間範囲(IQR)を用いて要約した。我々は、症例と対照の間のBDNF値分布が同じであるという帰無仮説を、クラスカル・ワリス検定を用いて検証した。我々は、BDNFが症例と対照を識別するための識別能力を、受信者動作特定曲線下面積(AUC)を用いて測定し、定量した。対照集団におけるBDNFの決定因子を理解するために、我々は単変量および多変量線形回帰モデルを構築した。モデルに含まれる変数(年齢、性別、人種、血圧、高血圧の既往、うつ病または統合失調症の既往)は、事前の文献検討に基づいて選択した。Fidalgo他30(1) J. ECT 47-61 (2014);Nieto et al, 4 FRONT. PSYCHIATRY Article 45 (2013);Golden他5 PLoS ONE e10099 (2010);およびLommatzsch他26 NEUROBIOL. AGING 115-23 (2005)を参照されたい。両側p値<0.05を統計的に有意とみなした。統計分析はSTATA/MP統計ソフトウェアバージョン11.2(Stata社、テキサス州カレッジステーション)、およびRStudio統計ソフトウェアバージョン0.97.312を用いて実施した。
【0151】
(感度分析)
我々の結果が我々の症例の定義によって影響されているか判定するために、我々は数多くの分析を実施した。我々の当初の症例の定義は、鈍的頭部外傷を有し、頭部CTを受けるためのACEP基準を満たす被験者を含んだ。これらの感度分析においては、症例を、外傷性脳損傷および心理学的健康の研究のための共通データ要素についての国際的および組織間イニシアティブの人口統計学および臨床評価作業部会によるTBIの定義を満たす被験者と再定義した。この定義を用いたところ、頭部CTを受けるためのACEP基準を満たすがTBI基準を満たさない多くの患者がいた。
【0152】
(結果)
(TBI症例と非TBI対照の識別)
我々は、2012年11月から2013年9月の間に受診した、頭部CTを受けるためのACEP基準を満たすTBI症例76例を検討した。さらに、我々は2012年1月から2013年2月に受診した非TBI対照被験者150例も検討した(追加図1)。非TBI対照被験者の方が症例よりも年齢が高く、女性およびアフリカ系アメリカ人が多かった(表5)。TBI症例の大半は転倒(34.2%)、運転・乗車中の衝突(27.6%)、または襲撃(25.0%)の後のいずれかに来院した(表5)。TBI症例のED受診から血清試料採取までの時間の中央値は1.8時間(IQR:0.9~2.9時間)であった。BDNFレベルは非TBI対照(中央値60.3[IQR:41.1~78.2]ng/mL)の方がTBI症例(17.5[IQR:11.3~29.6]ng/mL)よりも有意に高かった(p<0.01)。BDNF値はTBIの重症度によって有意に変化しなかった(図11)。BDNFはAUC 0.94でTBI症例と非TBI対照を識別する(95%CI:0.89~0.96)(図12)。BDNFの最小の四分位の被験者はほぼ全例(91.3%)がTBI症例であった。同様に、BDNFの最大の四分位の被験者はすべて非TBI対照であった(図13)。第2の四分位数(35.9ng/mL)のカットオフ上限値を用いると、TBIを検出するための感度、特異性、陽性予測値および陰性予測値はそれぞれ:85.5%、82.7%、71.4%、91.9%であった。
【0153】
(表5:被験集団の人口統計学および臨床特性)
【表5】
【0154】
61例のTBI症例がTBIの共通データ要素定義を満たした22。BDNF値は、これらのTBI症例の方が非TBI対照よりも低かった(それぞれ中央値17.8[95%CI:10.2~31.8]対60.3[95%CI:41.1~78.2]ng/mL)。BDNFは、AUC 0.93でこれらのTBI症例を非TBI対照と識別した(95%CI:0.88~0.96)。
【0155】
(非TIB対照被験者におけるBDNF値の予測因子)
非TBI対照においては、BDNFレベルの中央値は女性の方が男性よりも高かった(それぞれ中央値69.1[IQR:41.4~82.4]対52.7[IQR:38.7~71.8]ng/mL)。同様に、非TBI対象において、BDNF値は平均動脈圧の上昇と共に上昇した(平均動脈圧が10mmHg上昇する毎に2.8ng/mL上昇)。年齢、性別、人種、高血圧、糖尿病、精神病の既往および平均動脈圧で調節すると、性別および平均動脈圧のみが、非TBI対照におけるBDNFの独立予測因子として残った(表6)。
【0156】
(表6:対照集団におけるBDNFの決定因子(n=150))
【表6】
【0157】
(BDNFの安定性)
TBI症例の試料と非TBI対照の試料は採取条件が異なっているので、我々は室温(RT)および4℃におけるBDNFの安定性を48時間判定した。保存条件はBDNFの安定性にほとんど影響しなかった。したがって、BDNFを凍結する前に12~48時間保存したとき、検出の損失は最小限であり、血漿中で非常に安定であった。
【0158】
TBI試料においては、試料を4℃で保存した時間とBDNFレベルの間に統計的に有意な関連がなかった(図17~18)。4℃で48時間超保存したTBI症例を除外した後のBDFNの中央値は、TBI症例の方が対照よりも有意に低いままであった(16.6[IQR:7.3~26.1]対60.3[IQR:41.1~78.2]、p<0.01)。
【0159】
(考察)
我々が知る限り、これはヒトTBI症例と非TBI対照を識別するための、循環BDNFの診断精度の初めての報告である。数多くの理由により、BDNFはTBIを検出するためのバイオマーカーとして好ましい候補である。第1に、我々の研究結果よりBDNFとTBIの間で非常に強い関連が立証され、0.94と優れた識別能力が得られた(C統計量として測定)。第2に、BDNFは最も豊富に発現されるニュートロフィンであり、血清中で容易かつ高い信頼度で測定することができる。さらに、我々のデータより、BDNFは安定でありかつ低い分析変動性を有し、臨床的かつ厳しい条件において信頼度の高い結果が得られる可能性が高まる。第3に、BDNF発現は主として脳および脊髄組織にあり、多身体系外傷症例における擬陽性の可能性が限定される。
【0160】
我々の研究において、精神障害の既往を有する対照被験者は、精神障害の既往の無い対照被験者よりもBDNFの中央値が低かったものの、この差は統計的に有意でなかった。さらに、年齢、性別、人種、高血圧、糖尿病、および平均動脈圧で調節すると、精神障害の既往はBDNFの独立予測因子ではなくなった。しかし、平均動脈圧および性別は、対照被験者においてBDNFの独立予測因子であると確認された。これらの関連がTBI患者においても当てはまるかは不明である。しかし、性別に関する我々の所見は、性別毎のカットオフがBDNFの参照値を決定する上で重要であることを示唆する。
【0161】
(結論)
血清BDNFは、TBI症例と非外傷対照を優れた診断精度で識別し、またTBIの客観的診断のためのバイオマーカーの候補となりうる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13