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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024034
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】ピロリジン化合物の結晶
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/14 20060101AFI20220201BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20220201BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
C07D401/14 CSP
A61P43/00 111
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P19/06
A61P1/04
A61P17/00
A61P17/06
A61P43/00 105
A61P7/00
A61P37/02
A61P35/00
A61P17/14
A61P29/00
A61P25/04
A61P9/10
A61P25/28
A61P1/16
A61P31/04
A61P13/12
A61P37/06
A61P31/18
A61P9/00
A61P27/02
A61P31/00
A61P1/14
A61K31/454
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183553
(22)【出願日】2021-11-10
(62)【分割の表示】P 2020562542の分割
【原出願日】2019-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2018247437
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002956
【氏名又は名称】田辺三菱製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】上田 直子
(72)【発明者】
【氏名】長田 裕臣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 琢紘
(57)【要約】      (修正有)
【課題】メラノコルチン受容体1(MC1R)作動活性(アゴニスト活性)を有する特定のピロリジン化合物又はその薬理的に許容しうる塩の安定性を高めることと、これら化合物を有効成分として含有する有用な医薬組成物を提供する。
【解決手段】等モル量の1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸とリン酸を含む結晶を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等モル量の1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸とリン酸を含む結晶。
【請求項2】
等モル量の1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸とリン酸からなる、請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸とリン酸の共結晶である請求項1又は2のいずれかに記載の結晶。
【請求項4】
粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで示される回折角度として5.7°、11.5°、13.9°、19.0°及び21.9°(それぞれ±0.2°)にピークを示す請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項5】
示差走査熱量測定分析で230℃~240℃に吸熱ピークを有する請求項1~4のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項6】
1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸、リン酸および良溶媒の混合物に種晶を加えることにより得られる、請求項1~5のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項7】
1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸、リン酸および良溶媒の混合物に貧溶媒を加え、種晶を加えた後、さらに貧溶媒を加えることにより得られる、請求項1~6のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の結晶を有効成分として含有するメラノコルチン受容体1作動薬。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の結晶と製薬上許容される添加剤を含有する医薬組成物。
【請求項10】
メラノコルチン受容体1の活性化により病態の改善が見込まれる疾患を予防又は治療するための請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
疾患が関節リウマチ、痛風性関節炎、変形性関節症、炎症性腸疾患、全身性強皮症、乾癬、線維症、プロトポルフィリン症、全身性エリテマトーデス、黒色腫、皮膚癌、白斑症、脱毛、疼痛、虚血/再かん流傷害、脳の炎症性疾患、肝炎、敗血症/敗血症性ショック、腎炎、移植、HIV疾患の増悪、血管炎、ブドウ膜炎、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、微生物感染、セリアック病、ネフローゼ症候群およびメラノーマ浸潤から選ばれる1つ以上の疾患である請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載の結晶の有効量を患者に投与することを含む、メラノコルチン受容体1の活性化により病態の改善が見込まれる疾患を予防又は治療する方法。
【請求項13】
メラノコルチン受容体1の活性化により病態の改善が見込まれる疾患を予防又は治療するための医薬の製造における、請求項1~7のいずれか1項に記載の結晶の使用。
【請求項14】
メラノコルチン受容体1の活性化により病態の改善が見込まれる疾患を予防又は治療するための、請求項1~7のいずれか1項に記載の結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸(以下、「ピロリジン化合物A」又は「化合物A」と称することがある。)とリン酸を含む結晶に関する。より詳細には、医薬品原薬として優れた性質を有した、等モル量のピロリジン化合物Aとリン酸を含む結晶(以下、「本発明結晶」と称することがある。)及びこれを有効成分として含有する医薬組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開WO2015/182723号パンフレット(以下、特許文献1)にはメラノコルチン受容体1(MC1R)作動活性(アゴニスト活性)を有するピロリジン化合物又はその薬理的に許容しうる塩、並びにこれら化合物及びこれら化合物を有効成分として含有する医薬組成物はMC1Rの活性化により病態の改善が見込まれる様々な疾患の治療又は予防に有用であることが開示されており、実施例19にピロリジン化合物Aの塩酸塩が記載されている。しかしながら、特許文献1にはピロリジン化合物Aの結晶に関する記載や示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2015/182723号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は医薬品原薬として使用可能な一定の品質を有するピロリジン化合物Aの結晶を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ピロリジン化合物Aの塩酸塩は結晶化せず、潮解性があり、医薬品の原薬としては適さないことが判明した。そこで、本発明者らはピロリジン化合物Aについて、医薬品原薬として使用可能な一定の品質を有する結晶を得るために1000を超える条件で結晶化を試みた。その結果、純度、熱的安定性、吸湿性、潮解性、化学的安定性及び安全性の観点から、等モル量のピロリジン化合物Aとリン酸を含む結晶が医薬品原薬として使用可能な一定の品質を有する結晶であることを見出し、本発明を完成するに至った。
さらに、当該等モル量のピロリジン化合物Aとリン酸を含む結晶は結晶化しにくいことが判明した。そこで、本発明者らは再現性よく、短い時間で、十分な純度を有する結晶を得るための条件を検討した。晶析温度、晶析溶媒の組成によっては不純物の増加、析出の遅延、結晶の微細化による撹拌流動性および濾過性の悪化といった課題が認められた。これらの課題を解決するため、本発明者らは結晶化に用いる試薬や溶媒の種類や量、比率などに加え、結晶化の手順なども鋭意検討し、不純物が少なく、ろ過などの操作性も良い医薬品原薬に適した品質の結晶を効率よく取得する方法を見出した。
【0006】
本発明は以下に関する。
[1]
等モル量の1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸とリン酸を含む結晶。
[2]
等モル量の1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸とリン酸からなる、[1]に記載の結晶。
[3]
1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸とリン酸の共結晶である[1]または[2]のいずれかに記載の結晶。
[4]
粉末X線回折スペクトルにおいて、2θで示される回折角度として5.7°、11.5°、13.9°、19.0°及び21.9°(それぞれ±0.2°)にピークを示す[1]~[3]のいずれか1つに記載の結晶。
[5]
示差走査熱量測定分析で230℃~240℃に吸熱ピークを有する[1]~[4]のいずれか1つに記載の結晶。
[6]
1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸、リン酸および良溶媒の混合物に種晶を加えることにより得られる、[1]~[5]のいずれか1つに記載の結晶。
[7]
1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸、リン酸および良溶媒の混合物に貧溶媒を加え、種晶を加えた後、さらに貧溶媒を加えることにより得られる、[1]~[6]のいずれか1つに記載の結晶。
[8]
[1]~[7]のいずれか1つに記載の結晶を有効成分として含有するメラノコルチン受容体1作動薬。
[9]
[1]~[7]のいずれか1つに記載の結晶と製薬上許容される添加剤を含有する医薬組成物。
[10]
メラノコルチン受容体1の活性化により病態の改善が見込まれる疾患を予防又は治療するための[9]に記載の医薬組成物。
[11]
疾患が関節リウマチ、痛風性関節炎、変形性関節症、炎症性腸疾患、全身性強皮症、乾癬、線維症、プロトポルフィリン症、全身性エリテマトーデス、黒色腫、皮膚癌、白斑症、脱毛、疼痛、虚血/再かん流傷害、脳の炎症性疾患、肝炎、敗血症/敗血症性ショック、腎炎、移植、HIV疾患の増悪、血管炎、ブドウ膜炎、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、微生物感染、セリアック病、ネフローゼ症候群およびメラノーマ浸潤から選ばれる1つ以上の疾患である[10]に記載の医薬組成物。
[12]
[1]~[7]のいずれか1つに記載の結晶の有効量を患者に投与することを含む、メラノコルチン受容体1の活性化により病態の改善が見込まれる疾患を予防又は治療する方法。
[13]
メラノコルチン受容体1の活性化により病態の改善が見込まれる疾患を予防又は治療するための医薬の製造における、[1]~[7]のいずれか1つに記載の結晶の使用。
[14]
メラノコルチン受容体1の活性化により病態の改善が見込まれる疾患を予防又は治療するための、[1]~[7]のいずれか1つに記載の結晶。
【0007】
本発明は以下にも関する。
[15]
1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸、リン酸および良溶媒の混合物に種晶を加えることを含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載の結晶の製造方法。
[16]
1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸、リン酸および良溶媒の混合物に貧溶媒を加え、種晶を加えた後、さらに貧溶媒を加えることを含む、[15]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
等モル量のピロリジン化合物Aとリン酸を含む結晶は、結晶を得る際に使用した溶媒が残留することがなく、熱的安定性に優れ、湿度に対して重量変化が少なく安定であり、潮解せず、化学的安定性に優れ、安全性の観点から生体へ悪影響を及ぼす可能性のある化合物を含まない結晶であり、該結晶を再現性よく工業的に適した方法で得られることから、医薬品原薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明結晶の粉末X線回折測定を行った結果を示す図である。
図2図2は本発明結晶の示差走査熱量測定を行った結果を示す図である。
図3図3は本発明結晶中の分子の単結晶X線回折測定に基づくオルテップ図を示す図である。
図4図4は本発明結晶中の分子の単結晶X線回折測定に基づくパッキング図(a軸投影図)を示す図である。
図5-1】図5-1は実験例7において条件1で得られた結晶の粒子サイズ分布を示す図である。
図5-2】図5-2は実験例7において条件3で得られた結晶の粒子サイズ分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は等モル量の下記式で示されるピロリジン化合物Aとリン酸を含む結晶、及びこれを有効成分として含有する医薬組成物などに関する。
【化1】
【0011】
本発明結晶におけるピロリジン化合物A及び/又はリン酸は、同位元素(例えば、H、13C、14C、15N、18F、32Pなど)などで標識された化合物及び重水素変換体を包含する。
【0012】
本発明において、等モル量のピロリジン化合物Aとリン酸を含む結晶は、結晶を得る際に使用した溶媒などの他の分子が残留しておらず、ピロリジン化合物Aとリン酸が1:1のモル比で結晶を構成している、すなわち、ピロリジン化合物Aに対してリン酸が1モル当量含まれている。
【0013】
本発明結晶の好ましい態様として、ピロリジン化合物Aとリン酸が塩を形成しておらず、ピロリジン化合物Aとリン酸が1:1のモル比で非イオン結合及び/又は非共有結合で結びついている共結晶を挙げることができる。1つの態様では、本発明結晶は図1に示される粉末X線回折パターンを示し、特徴的なピークは2θで示される回折角度で5.7°、11.5°、13.9°、19.0°及び/又は21.9°(それぞれ±0.2°)を挙げることができ、より詳細には2θで示される回折角度で5.7°、11.5°、13.9°、17.4°、19.0°、20.4°及び/又は21.9°(それぞれ±0.2°)にピークを有し、さらに詳細には2θで示される回折角度で5.7°、7.4°、11.5°、12.3°、13.9°、17.4°、19.0°、20.4°及び/又は21.9°(それぞれ±0.2°)にピークを有し、とりわけ詳細には2θで示される回折角度で後記表2に記載のピークを有する(以下、これらピークを有する結晶をB形結晶またはリン酸B形結晶と称することがある。)。また他の1つの態様では、上記B形結晶は図2に示される示差走査熱量分析(以下、DSCと表記することがある。)曲線を示し、230℃~240℃に吸熱ピークを有する。
【0014】
本発明結晶は、残留溶媒が、医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use:以下、ICHと称する。)が定める基準値以下である結晶である点に有利な効果を有する。また、他の利点として、有機不純物、無機不純物、残留金属、残留溶媒、遺伝毒性不純物等が、ICHのガイドラインで定められた基準値以下である結晶であることが挙げられる。
【0015】
また、本発明の結晶としては、これを、非凝集結晶のモード径が7μm以上である結晶として製造することが好ましく、より好ましくは7~15μm、特に好ましくは8~12μmである結晶として製造することが挙げられる。モード径とは、粒子サイズ分布の体積%が極大値を取るときの粒子径である。本発明の結晶の製造方法において、全体の結晶のうち少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の結晶をこのようなモード径とすることにより、結晶のろ過のしやすさなど、操作性が向上する。
【0016】
本発明結晶は、例えば、特許文献1の実施例19として記載されている方法に準じて製造することができるピロリジン化合物A 1モルに対して、リン酸を1~10モル、好ましくは1~5モルを反応させることにより得ることができる。この他、後述の実施例に示すような方法によっても製造することができる。
【0017】
本発明結晶を得るために用いる溶媒は適宜選択することができるが、例えば、良溶媒または貧溶媒を単独でまたは適切に組み合わせて用いることができる。良溶媒としてはピロリジン化合物Aの溶解度が高い溶媒である限り限定されるものではなく、例えば、ケトン(例えば、アセトン、2-ブタノンなど)、エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸メチルなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、i―プロパノールなど)、およびこれら溶媒の混合物が挙げられる。貧溶媒としてはピロリジン化合物Aの溶解度が低い溶媒である限り限定されるものではなく、例えば、水、アルカン(例えば、ヘキサン、ヘプタンなど)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、エーテル(例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなど)、およびこれら溶媒の混合物が挙げられる。
【0018】
本発明結晶を得る方法のある1つの態様として、ピロリジン化合物Aと良溶媒の混合物にリン酸を加え、得られた混合物に種晶を加え、ろ過する方法が挙げられる。好ましくは、ピロリジン化合物Aを良溶媒に溶解し、リン酸を加え、得られた混合物に種晶を加えた後にろ過する方法が挙げられる。さらに好ましくは、ピロリジン化合物Aを酢酸エチルまたはエタノールに溶解し、リン酸を加え、得られた混合物に種晶を加えた後にろ過する方法が挙げられる。
【0019】
また、他の1つの態様として、ピロリジン化合物Aと良溶媒の混合物にリン酸を加え、得られた混合物に貧溶媒を加え、ろ過する方法が挙げられる。好ましくは、ピロリジン化合物Aを良溶媒に溶解し、リン酸を加え、得られた混合物に貧溶媒を添加した後に種晶を添加し、ろ過する方法が挙げられる。より好ましくは、ピロリジン化合物Aを良溶媒に溶解し、リン酸を加え、得られた混合物に貧溶媒を添加した後に種晶を添加し、さらに貧溶媒を添加し、ろ過する方法が挙げられる。さらに好ましくは、ピロリジン化合物Aを良溶媒に溶解し、リン酸を加え、得られた混合物に水を添加した後に種晶を添加し、さらに水を添加してろ過する方法が挙げられる。
【0020】
良溶媒と貧溶媒を組み合わせて用いる場合の好適な組み合わせと比率としては、例えばエタノール:トルエン=1:9、エタノール:ジイソプロピルエーテル=3:7、アセトン:トルエン=3:7などが挙げられる。良溶媒と水を組み合わせて用いる場合の好適な良溶媒の例としては、酢酸エチルやエタノールなどが挙げられる。良溶媒と貧溶媒、具体的には水を組み合わせて用いる場合であって、水を種晶の添加前と添加後に2回添加する場合、種晶の添加前に添加する水(1度目の水の添加)の量はピロリジン化合物Aの重量に対して体積比で3倍、種晶の添加後に添加する水(2度目の水の添加)の量はピロリジン化合物Aの重量に対して体積比で4.5倍が好ましい。他の1つの態様として、添加する水の量がピロリジン化合物Aの重量に対して体積比で5~10倍であり、種晶の添加の前後に分けて添加する方法が挙げられる。より好ましくは、水の量がピロリジン化合物Aの重量に対して体積比で6~9倍、より好ましくは7.5倍である。また、他の1つの態様として、1度目の水の添加の量と2度目の水の添加の量の体積比が1:1~1:2、好ましくは2:3である例が挙げられる。他の1つの態様としては、種晶を添加した後の水の添加前に、70%以上、好ましくは80%以上の結晶が析出している程度に、種晶の添加の前に水を加える例が挙げられる。また、種晶を添加する際の温度は、28~32℃、好ましくは30℃に設定する例が挙げられる。これらの温度も、種晶を添加した後の水の添加前で、70%以上、好ましくは80%以上の結晶が析出している温度を選択することが好ましい。
【0021】
本発明結晶の種晶は後述の実施例3、実験例2又は実験例3に記載の方法で得ることができる。また、これらの方法により得られた結晶を本発明結晶の種晶として用いて、例えば実施例1または2に記載の方法又は実施例1または2に記載の方法に準じた方法によっても種晶を得ることができる。
【0022】
本発明結晶はヒトMC1Rアゴニスト活性を有しているので、メラノコルチン受容体1作動薬の有効成分として用いることができ、また、本発明結晶及びこれを有効成分として含有する医薬組成物はMC1Rの活性化により病態の改善が見込まれる様々な疾患の治療又は予防のために有用である。このような疾患としては、例えば、関節リウマチ、痛風性関節炎、変形性関節症、炎症性腸疾患、全身性強皮症、乾癬、線維症、プロトポルフィリン症(例えば、赤芽球性プロトポルフィリン症など)、全身性エリテマトーデス、黒色腫、皮膚癌、白斑症、脱毛、疼痛、虚血/再かん流傷害、脳の炎症性疾患、肝炎、敗血症/敗血症性ショック、腎炎、移植、HIV疾患の増悪、血管炎、ブドウ膜炎、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、微生物感染、セリアック病、ネフローゼ症候群、及びメラノーマ浸潤から選ばれる1つ以上の疾患などが挙げられる。とりわけ、全身性強皮症、乾癬、プロトポルフィリン症、黒色腫、皮膚癌、白斑症、脱毛、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、及びネフローゼ症候群から選ばれる1つ以上の疾患などの治療又は予防のために有用である。特に、全身性強皮症、プロトポルフィリン症、黒色腫、白斑症、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、及びネフローゼ症候群から選ばれる1つ以上の疾患などの治療又は予防のために有用である。
【0023】
本発明結晶を有効成分として含有する医薬組成物は本発明結晶と製薬上許容される添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤及び等張化剤などと混合することで得ることができる。
【0024】
本発明結晶及びこれを有効成分として含有する医薬組成物は適当な投与形態、例えば、粉末剤、注射剤、錠剤、カプセル剤及び局所外用剤などに調製した後、その投与形態に応じた適当な投与方法、例えば、静脈内投与、経口投与及び経皮投与などによって、患者に投与することができる。本発明における用語「患者」は、本発明結晶による予防又は治療の対象となる個体であり、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトである。
【0025】
投与量は患者の年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、投与方法、排泄速度、薬物の組合せ、投与時に治療されている患者の病状の程度に応じ、それらあるいはその他の要因を考慮して決められる。本発明結晶及びこれを有効成分として含有する医薬組成物は、低毒性で安全に使用することができ、その1日の投与量(すなわち有効量)は、患者の状態や体重、投与経路などによって異なるが、例えば、非経口的には約0.0001~1000mg/人/日、好ましくは約0.001~1000mg/人/日、特に好ましくは0.01~500mg/人/日投与され、また経口的には約0.0001~1000mg/人/日、好ましくは0.01~500mg/人/日投与されることが望ましい。
【0026】
本発明において、「予防」とは病気や疾患や症状を発症していない個体に対して本発明結晶又はこれを含有する医薬組成物を投与する行為を意味している。また、「治療」とは既に病気や疾患や症状を発症した個体に対して本発明結晶又はこれを含有する医薬組成物を投与する行為を意味している。従って、既に病気や疾患や症状を発症した個体に対し、症状などの悪化防止や発作防止や再発防止のために投与する行為は「治療」の一態様である。
【実施例0027】
以下、本発明を実施例及び実験例により詳細に説明するが、本発明はこれらより何ら限定されるものではない。なお、「当量」は「モル当量」を意味する。
【0028】
実施例1 本発明結晶の合成
【化2】
化合物(26.18g)をジクロロメタン(207mL)に溶解させ、そこに化合物(4.4mL)及び酢酸(3.56mL)を加えて室温下で30分間撹拌した。その後、さらに、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム(13.2g)を加えて室温下で1時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて撹拌した後、ジクロロメタンにて抽出した。得られた有機層を飽和食塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムにて乾燥し、減圧濃縮した。残渣をNHシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=75:25~55:45)、次いでシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=100:0~95:5)にて精製し、化合物(24.25g)を無色の粉体として得た(MS(ESI):m/z 690[M+H])。
【0029】
化合物(24.24g)をメタノール(240mL)に溶解させ、そこに水酸化ナトリウム水溶液(2mol/L、70.2mL)を加えて室温下で19時間撹拌した。その後、さらに、塩酸水(2mol/L、74mL)を加えた後、反応液を減圧濃縮した。濃縮残渣に水及び酢酸エチルを加えて撹拌後、酢酸エチルにて抽出した。得られた有機層をリン酸緩衝液(0.1mol/L、300mL)及び食塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=100:0~90:10)にて精製した後、酢酸エチルに溶解させ、リン酸緩衝液(0.1mol/L、200mL)を加えて室温下で撹拌し、酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮することで化合物(23.7g)を無色の粉体として得た(MS(ESI):m/z 676[M+H])。
【0030】
化合物(135mg)をエタノール(0.7mL)に溶解させ、本発明結晶を種晶として少量加えた。そこにリン酸(25mg)をエタノール(0.5mL)に溶解させたリン酸溶液を加え、さらにエタノール(0.2mL)を加えて室温下で一晩撹拌した。析出した結晶を濾取し、酢酸エチル(0.6mL)で洗浄後、50℃で4時間減圧乾燥し、112.7mgの本発明結晶を得た。1H-NMRで残留溶媒の有無を確認したが、残留溶媒は認められなかった。元素分析測定結果を以下の表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
<粉末X線回折(以下、XRPDと称することがある)測定>
粉末X線回折測定装置X’PertPro(PANalyticalB.V.社製)を用いて、以下の条件で測定した。
X線発生装置:X線管球(対陰極:銅、管電圧:45kV、管電流:40mA)
入射光学系:フォーカシング集光ミラー
受光光学系:高速半導体アレイ検出器(X-Celerator)、拡張受光側アーム
サンプルステージ:HTSサンプルステージ(X軸方向に4mm幅で振動)
積算回数:5回(それぞれ入射角を-2、-1、0、1、及び2°に変更)
測定範囲:2θ=3~40°
スキャン速度:0.668451°/秒
ステップ:0.0167°
【0033】
結果を図1に示した。2θで示される回折角度が5.7°のピーク強度を100とした時の相対ピーク強度が5以上のピークは以下の表2の通りである。
【0034】
【表2】
【0035】
<示差走査熱量(DSC)測定>
示差走査熱量測定装置X-DSC7000(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社)を用いて、以下の条件で測定した。
昇温速度:10℃/min(25℃~300℃)
雰囲気:窒素 100mL/min
結果を図2に示した。吸熱ピークが約230℃~240℃に認められた。
【0036】
<単結晶X線回折測定>
エタノール2mLにスパーテル(小)半分程度の本発明結晶を加えて溶かし、室温で4日間静置し、結晶化を行った。得られた結晶を単結晶X線回折装置R-AXIS RAPID/R(リガク社)(CuKα線)により、23℃で格子定数の決定及び回折ピーク強度の測定、続いて直接法による位相決定,フルマトリクス最小自乗法による構造精密化を行い、構造を解析した。得られた結晶学的データ及び結晶構造解析結果を表3に示した。なお、信頼度因子(R値)は3.06%であり、他の各種パラメータも本結晶構造解析が十分に信頼性の高い解析結果であることを示した。
【0037】
【表3】
【0038】
本発明結晶中の分子のオルテップ図を図3に、パッキング図を図4に示した。結晶中において、非対称単位中にピロリジン化合物Aとリン酸がそれぞれ独立に一分子ずつ存在していた。
【0039】
本発明結晶の絶対配置を検証した結果、フラックパラメータは0.02(3)であったことから、本発明結晶は図3に示す1分子の1-{2-[(3S,4R)-1-[(3R,4R)-1-シクロペンチル-3-フルオロ-4-(4-メトキシフェニル)ピロリジン-3-カルボニル]-4-(メトキシメチル)ピロリジン-3-イル]-5-(トリフルオロメチル)フェニル}ピペリジン-4-カルボン酸と1分子のリン酸を構成単位とする結晶であることを確認した。
【0040】
アメリカ食品医薬品局(FDA)が発行しているガイダンス(Regulatory Classification of Pharmaceutical Co-Crystals Guidance for Industry)には、共結晶は結晶格子内に2種類以上の異なる分子が含まれており、それらが非イオン結合及び/又は非共有結合で結びついている結晶と記載されている。ピロリジン化合物Aとリン酸の間に共有結合が存在していないことは上述の結晶構造解析で既に確認しているので、ピロリジン化合物Aとリン酸の間にイオン的相互作用が認められるか否かを検討した。
【0041】
リン酸はブレンステッド酸であるため、ピロリジン化合物Aとイオン的相互作用が認められる場合、ピロリジン化合物Aがブレンステッド塩基としてプロトンを受容する必要がある。ピロリジン化合物Aの場合、リン酸からプロトンを受容する可能性があるのは3箇所の窒素(N18、N19、N20)である。ここで、本発明結晶における全ての水素結合部位について表4に示した。
【0042】
【表4】
【0043】
(1)N18
N18はsp3混成の窒素であり、ピロリジン化合物Aの中で最も塩基性が高く、リン酸からプロトンを受容する可能性がある窒素である。しかしながらN18(より厳密には、N18に結合している水素原子)は隣接したピロリジン化合物A(対称演算子(symmetry operators):-X+1/2+2,-Y+2,Z+1/2)のカルボン酸の酸素(O16)との水素結合を形成しており、プロトンの授与が行われていると判断した。そのため、N18はリン酸からプロトンを受容できない。同時にN18と隣接するリン酸のいずれの酸素との原子間距離もファンデルワールス半径の和を上回ることから、イオン的相互作用が可能な距離にリン酸は存在しないと判断した。
【0044】
(2)N19
N19はsp2混成の窒素であるため、塩基性が弱く、塩を形成できないと考えた。同時にN19と最も近い距離にあるリン酸の酸素(O13)の原子間距離がファンデルワールス半径の和であることから、イオン的相互作用が可能な距離に無いと判断した。
【0045】
(3)N20
N20もsp2混成の窒素であるため、塩基性が弱く、塩を形成できないと考えた。同時にN20と隣接するリン酸のいずれの酸素との原子間距離もファンデルワールス半径の和を上回ることから、イオン的相互作用が可能な距離にリン酸は存在しないと判断した。
【0046】
以上の結果から、本発明結晶におけるピロリジン化合物Aの窒素(N18、N19、N20)とリン酸との間の結びつきはイオン的な相互作用によるものではないことが明らかとなり、ピロリジン化合物Aとリン酸は塩を形成しておらず、本発明結晶は共結晶であると判断した。本実施例にて得られた結晶を本明細書においてはB形結晶と称する。
【0047】
実施例2 本発明結晶の合成(2)
【化3】
化合物(276mg)のエタノール(1.4mL)溶液に1,2-エタンジスルホン酸水和物(38mg)を加え、室温で40分間撹拌した。結晶を濾取し、その結晶をエタノール(0.84mL)で2回洗浄した。40℃以下で乾燥して、化合物(178mg)を得た。化合物(37.1kg)の酢酸エチル(167.5kg)懸濁液に、室温で炭酸カリウム(6.5kg)の水(148.3L)溶液及び水(36.8L)を順に加え、混合物を室温で15分間撹拌した。水層を除き、有機層を水(186L)で2回洗浄し、酢酸エチル(67.2kg)を加え、不溶物をろ過した。78Lまで濃縮した後、エタノール(146.5kg)を加え、78Lまで濃縮した。エタノール(146.9kg)を加え、56Lまで濃縮した。エタノール(44kg)で希釈し、室温で24%水酸化ナトリウム水溶液(8.7kg)及び水(30.1kg)を順に加え、混合物を40℃で5時間撹拌して、化合物を得た。化合物の溶液に、30℃でリン酸(12.0kg)の水(55.7L)溶液及び水(55.7L)を順に加えた。本発明結晶を種晶(928g)として加え、14時間撹拌した。水(167.0L)を加え、4時間撹拌した後に25℃に冷却した。固体を濾取し、該固体を水(182L)で洗浄した。固体を50℃以下で乾燥して、本発明結晶(35.2kg)を得た。この結晶は、ろ過性などの操作性に優れた結晶であった。
【0048】
実験例1 ピロリジン化合物Aの結晶化検討
ピロリジン化合物Aを用いて、単一溶媒25種及び混合溶媒44種を用いた長期保存による結晶化検討、貧溶媒(Anti-solvent)2種及び良溶媒(Good-solvent)12種を用いて溶媒の混合比を変えて作成した96種の混合溶媒を用いた1か月撹拌による結晶化検討、並びに添加溶媒26種を用いたgrindingによる結晶化検討を実施した。その結果、長期保存及び1か月撹拌による結晶化検討で結晶を得ることができた。得られた結晶の粉末X線回折を測定した結果、全ての結晶でピークは一致しており、同一の結晶形であった。晶析条件を検討したが、結晶が得られる全ての条件で結晶中に溶媒が残留していた。結晶を乾燥させる工程についても検討したが、残留溶媒をICHが定める残留溶媒基準値以下にすることはできなかった。
従って、フリー体であるピロリジン化合物Aは結晶化するが、結晶を得る際に使用した溶媒が残留してしまい、また、化学的安定性も低かったので、医薬品原薬として採用することはできない。
【0049】
実験例2 ピロリジン化合物Aを含む混合物の結晶化検討(1)
約900mgのピロリジン化合物Aをテトラヒドロフラン30mLに溶解させ、96ウェルプレートの各バイアルに100μLずつ分注した(約3mg/バイアル)。また、リン酸、塩酸、L(-)-リンゴ酸、L(+)-酒石酸、マレイン酸、硫酸及びマロン酸を含む21種の酸並びに水酸化ナトリウム及びL-アルギニンを含む8種の塩基(以下、カウンター化合物と称することがある。)を後述する8種の溶媒に溶解させた0.1mol/L溶液45μL(1部の酸については、0.05mol/L溶液90μL)をそれぞれ各バイアルに分注した。1昼夜開放により溶媒を蒸散させた後、4時間減圧乾燥した。酢酸エチル、アセトン及びトルエンを含む8種の溶媒250μLを各バイアルに分注後、5分間超音波により撹拌し、密栓して、室温で6日間撹拌した。析出物のあるバイアルについては析出物を濾取し、XRPDを測定した。析出物の無いバイアルについては室温で溶媒を蒸散させ、固体の見られた場合には濾取してXRPDを測定した。XRPD測定装置及び測定条件は実施例1と同じである。
【0050】
リン酸と酢酸エチルの組合せ、L(-)-リンゴ酸とトルエンの組合せ、L(+)-酒石酸とアセトンの組合せ及びマレイン酸とトルエンの組合せのバイアルから、それぞれリン酸A形結晶、L(-)-リンゴ酸D形結晶、L(+)-酒石酸E形結晶及びマレイン酸F形結晶が得られた。なお、これら以外にもカウンター化合物のみの結晶、すなわち、結晶中にピロリジン化合物Aを含まない結晶が確認できたバイアルがあった。一方、塩酸を加えたバイアルからは8種全ての溶媒で結晶は得られなかった。また、硫酸、マロン酸及びL-アルギニンを加えたバイアルからも全ての溶媒で結晶は得られなかった。
【0051】
実験例3 ピロリジン化合物Aを含む混合物の結晶化検討(2)
約800mgのピロリジン化合物Aをテトラヒドロフラン40mLに溶解させ、96ウェルプレートの各バイアルに100μLずつ分注した(約2mg/バイアル)。また、リン酸、塩酸、L(-)-リンゴ酸、L(+)-酒石酸、マレイン酸、硫酸及びマロン酸を含む22種の酸、水酸化ナトリウム及びL-アルギニンを含む8種の塩基(以下、カウンター化合物と称することがある。)を後述する12種の溶媒に溶解させた0.1mol/L溶液30μL(1部の酸については、0.05mol/L溶液60μL)をそれぞれ各バイアルに分注した。分注後、窒素を吹付け、溶媒を蒸散させた。混合比3:7及び1:9のエタノールとトルエンの混合溶媒、混合比3:7のエタノールとジイソプロピルエーテルの混合溶媒、混合比3:7及び1:9のアセトンとトルエンの混合溶媒、及び混合比3:7の酢酸エチルとヘプタンの混合溶媒を含む12種の溶媒200μLを各バイアルに分注し、密栓して、室温で3日間撹拌した。析出物のあるバイアルについては析出物を濾取して、XRPDを測定した。析出物の無いバイアルについては室温で溶媒を蒸散させ、約1か月後に固体が認められた場合には、固体を採取してXRPDを測定した。XRPD測定装置及び測定条件は実施例1と同じである。
【0052】
結晶が得られた組合せのバイアルを以下の表5に示す。表中、-は結晶が得られていないことを示し、A及びBなどはそれぞれA形結晶及びB形結晶などが得られたことを示している。すなわち、今回得られたマレイン酸F形結晶は実験例2で得られたマレイン酸F形結晶とXRPDパターンが一致しており、今回得られたリン酸B形結晶は実験例2で得られたリン酸A形結晶とは異なる結晶であることを示している。なお、実験例2と同様に、これら以外にもカウンター化合物のみの結晶が確認できたバイアルがあった。一方、塩酸を加えたバイアルからは12種全ての溶媒で結晶は得られなかった。また、L(-)-リンゴ酸及びL(+)-酒石酸について、実験例2では結晶が得られたが、今回は12種全ての溶媒で結晶は得られなかった。
【0053】
【表5】
【0054】
実験例4 ピロリジン化合物Aを含む混合物の結晶化検討(3)
実験例2及び3で得られた結晶の中でリン酸A形結晶及びリン酸B形結晶以外について、再現性の確認を行った。その結果、L(-)-リンゴ酸D形結晶、L(+)-酒石酸E形結晶、硫酸J形結晶及びL-アルギニンK形結晶については、再度取得することはできなかった。一方、マレイン酸及びマロン酸との組み合わせにおいては再度結晶を取得することができた。
【0055】
<L(-)-リンゴ酸、L(+)-酒石酸及び硫酸>
ピロリジン化合物A約80mgをテトラヒドロフラン4mLに溶解させ、96ウェルプレートの各バイアルに100μLずつ分注した(約2mg/バイアル)。また、L(-)-リンゴ酸、L(+)-酒石酸及び硫酸を後述する溶媒に溶解させた0.1mol/L溶液30μLをそれぞれ各バイアルに分注した。分注後、窒素吹付けにより溶媒を蒸散させた後、L(-)-リンゴ酸を入れたバイアルにはトルエン、L(+)-酒石酸を入れたバイアルにはアセトン、及び硫酸を入れたバイアルには混合比3:7の酢酸エチルとヘプタンの混合溶媒を200μL各バイアルに分注し、密栓したものを各サンプルについて8つ作成した。合計24個のバイアルを室温で7日間撹拌したが、全てのバイアルで析出物は得られなかった。
【0056】
<L-アルギニン>
ピロリジン化合物Aを約65mg測り取り、エタノール0.3mL、及びトルエン2.1mLに室温で溶解させた。L-アルギニンを約19mg測り取り、エタノール0.6mL、及び水0.6mLに溶解し、前記ピロリジン化合物Aの溶液に加えた。溶液だったため、窒素吹付けにより溶媒を蒸散させたところ、一部白い粉を含む飴状物が得られた。これをエタノール0.3mLに再溶解し、ジイソプロピルエーテルを0.6mL滴下した。実験例3で得られたL-アルギニンK形結晶を種晶として加えたが溶解したため、トルエンを1.2mL加え、昼夜撹拌した。溶液だったので、窒素吹付けにより溶媒を蒸散させ、残渣をXRPD測定したところ、非晶質だった。これにヘプタン0.6mLを加え、室温で一晩撹拌した後、顕微鏡観察した。結晶成分は認められなかった。
【0057】
<マレイン酸F形結晶>
ピロリジン化合物Aを約65mg測り取り、トルエン0.5mLに室温で溶解させた。そこに、マレイン酸約13mgをエタノール75μLに溶解させたものと、先に得られたマレイン酸F形結晶を種晶として少量加えたところ、反応液がゲル状(寒天状)となり撹拌不能となった。トルエン1.0mLをさらに加え、スパーテルで激しくこすったところ、懸濁液となった。濾取した結晶を40℃で5時間減圧乾燥して、57mgのマレイン酸F形結晶が得られた。得られた結晶中には、0.1当量のトルエンが残留していたことを1H-NMRで確認した。
【0058】
<マロン酸G形結晶>
ピロリジン化合物Aを約325mg測り取り、アセトン1mLに室温で溶解させた。マロン酸55mgを測り取り、アセトン0.5mLに室温で溶解させ、前記ピロリジン化合物Aの溶液に加えた。この溶液にトルエンを6mL滴下した。後述のマロン酸I形結晶を種晶として少量を加え、2晩室温で撹拌した。全量をろ過して40℃で3.5時間減圧乾燥し、317mgの結晶を得た。得られた結晶中には、1当量のトルエンを含んでいることを1H-NMRで確認した。トルエンを水に置換することを目的に、動的水蒸気吸着測定(Dynamic Vapour Sorption:DVS)装置を用いて、25℃、70%RHの条件下で72時間保存した結果、非晶質化が認められた。
【0059】
<マロン酸H形結晶>
ピロリジン化合物Aを約65mg測り取り、混合比3:7の酢酸エチルとヘプタンの混合溶媒2mLに室温で溶解させた。マロン酸11mgを測り取り、酢酸エチル0.3mLに室温で溶解させ、前記ピロリジン化合物Aの溶液に加えた。固いガム状物が生成したため、酢酸エチル3mLを加え懸濁液とした。3日間室温撹拌した後、窒素吹付により溶媒を蒸散させ、乾固物に酢酸エチル3mLを加え撹拌し、ヘプタン1.2mLを徐々に加えた。実験例3で得られたマロン酸G形結晶を種晶として少量を加えると急激に析出物が生じた。2晩室温で撹拌後、全量をろ過して40℃で3.5時間減圧乾燥し、38mgの結晶を得た。
【0060】
<マロン酸I形結晶>
ピロリジン化合物Aを約65mg測り取り、混合比1:9のアセトンとトルエンの混合溶媒2.3mLに室温で溶解させた。マロン酸11mgを測り取り、アセトン0.1mLに室温で溶解させ、前記ピロリジン化合物Aの溶液に加えた。室温で3晩撹拌し、全量をろ過して40℃で2時間減圧乾燥し、51mgの結晶を得た。得られた結晶中には、1当量のトルエンを含んでいることを1H-NMRで確認した。この結晶はトルエン和物である可能性があるため、さらに減圧乾燥することにより溶媒を含まない結晶が得られるかを確認することを目的に、約5mgを60℃で4時間減圧乾燥したところ、トルエンが約0.5当量残留しており、結晶形に変化がないことを確認した。
【0061】
実施例3 本発明結晶の合成(3)
以下の表6に示す量のピロリジン化合物A及びリン酸を以下に示す溶媒に加え、以下に示す時間撹拌した。結果を以下の表6に示す。XRPD測定装置及び測定条件は実施例1と同じである。XRPDの結果でAは実験例2で得られたリン酸A形結晶と同じ結晶、Bは実験例3で得られたリン酸B形結晶と同じ結晶であることを示している。さらに、リン酸B形結晶は実施例1で得られた本発明結晶の結晶と同じであった。
【0062】
【表6】
【0063】
(a)法ではA形結晶とB形結晶の混合物が得られた。この結晶は元素分析の結果から1.5当量のリン酸を含んでいることが判明した。アセトン/トルエン溶媒を用いた(f)法では、新たなC形結晶が得られた。このC形結晶は元素分析の結果から2当量のリン酸を含んでいることが判明した。また、いずれの方法によってもA形結晶を単独で得ることは出来なかった。
【0064】
(a)、(b)、(c)、(e)及び(f)法において、リン酸添加直後に非晶質又は飴状物が生成したが、非晶質を7日から10日室温撹拌する、又は飴状物をスパーテルで長時間頻回にこする作業により結晶を得ることができた。また、(d)法においては、晶析開始1日後には結晶の懸濁液であったが、室温撹拌を4日間継続したところ飴状物となった。さらにこれを窒素で溶媒蒸散し、エタノール中、一晩室温で撹拌したところ、B形結晶が得られた。
【0065】
実験例5 ピロリジン化合物Aの塩酸塩の合成
【化4】
化合物(19.43g)のクロロホルム(157mL)溶液に化合物(3.3mL)および酢酸(2.7mL)を加えて室温下で30分間撹拌した後、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム(10.0g)を加えて室温下で20時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて撹拌した後、クロロホルムにて抽出した。得られた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムにて乾燥し、減圧濃縮した。残渣をNHシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=75:25~55:45)、次いでシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=100:0~95:5)およびシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=99:1~96:4)にて精製し、化合物(21.92g)を無色の粉体として得た(MS(ESI):m/z 690[M+H])。
【0066】
化合物(21.91g)のメタノール(200mL)溶液に水酸化ナトリウム水溶液(2mol/L、63.6mL)を加えて室温下で3時間撹拌した。塩酸水(2mol/L、63.6mL)を加えた後、反応液を減圧濃縮した。濃縮残渣に水および酢酸エチルを加えて撹拌後、酢酸エチルにて抽出した。得られた有機層を飽和食塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=98:2~90:10)にて精製した後、酢酸エチルに溶解し、リン酸緩衝液(0.1mol/L、300mL)を加えて室温下で3時間撹拌した。酢酸エチルで抽出後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮することで化合物(17.40g)を無色の粉体として得た(MS(ESI):m/z 676[M+H])。
【0067】
化合物(17.40g)の酢酸エチル(250mL)溶液に塩酸-酢酸エチル溶液(4mol/L、31.8mL)を加えて室温下で30分間撹拌した。溶媒を減圧留去し、ジエチルエーテルを加えて撹拌後に濾取し、減圧乾燥することで化合物の塩酸塩(17.43g)を無色の粉体として得た(MS(ESI):m/z 676[M+H])。
【0068】
実験例6 ピロリジン化合物Aの塩酸塩の非晶質、ピロリジン化合物Aの非晶質、ピロリジン化合物Aの結晶及び再現性が認められたピロリジン化合物Aを含む混合物の結晶の比較
特許文献1の実施例19に記載のピロリジン化合物Aの塩酸塩は非晶質であり、その後の検討でもピロリジン化合物Aの塩酸塩の結晶は得られていない(上記実験例2及び3を参照)ことから、非晶質のピロリジン化合物Aの塩酸塩を比較試験に用いた。また、以下に示す比較試験結果において、塩酸塩はピロリジン化合物Aの塩酸塩であり、実験例5に記載の方法により得られた化合物の結果を示した。
【0069】
以下に示す比較試験結果において、フリー体非晶質はピロリジン化合物Aのフリー体の非晶質であり、実施例1に記載の方法により得られた化合物の結果を示した。
【0070】
以下に示す比較試験結果において、フリー体結晶はピロリジン化合物Aのフリー体の結晶であり、この結晶は結晶中の残留溶媒をICHが定める基準値以下にすることができないことを実験例1で示しており、医薬品原薬として適した結晶ではないことを確認済である。
【0071】
以下に示す比較試験結果において、リン酸A形+B形結晶は実施例3に記載の(a)法により得られた結晶の結果を、リン酸B形結晶は実施例1に記載の方法により得られた本発明結晶の結果を、リン酸C形結晶は実施例3に記載の(f)法により得られた結晶の結果を、マレイン酸F形結晶は実験例4に記載の方法により得られたマレイン酸F形結晶の結果を示した。
【0072】
以下に示す比較試験結果において、マロン酸H形結晶は実験例4に記載の方法により得られたマロン酸H形結晶の結果を示した。マロン酸はH形の他にG形及びI形結晶を取得できているが、これらはいずれもトルエンを分子中に含有している。トルエンは中枢神経系などに障害を引き起こすことが知られている化合物であり、医薬品原薬中に含まれていることは安全性の観点から好ましくなく、G形及びI形結晶は医薬品原薬として適した結晶ではないことが明らかであるため、これらについては比較試験を行わなかった。
【0073】
上述した各結晶について、熱的安定性、吸湿性・潮解性、及び化学的安定性を評価した。
【0074】
<熱的安定性評価>
熱重量/示差熱同時測定装置TG/DTA7200(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社)を用いて、以下の条件で評価した。
昇温速度:10K/分
雰囲気:窒素200mL/分
【0075】
<吸湿性・潮解性評価>
水分吸着測定装置DVS-1又はDVS-intrinsic(Surface Measurement Systems Limited社)を用いて、次のようにして評価した。試料を予め風袋重量を補正したセルに取り、装置の精密天秤に吊るして測定開始時の重量を精密に測定した。段階的に湿度を変化させた時の重量変化を経時的に記録し、各湿度での平衡重量を求めた。乾燥時(0%RH)又は、別法で確認した開始時の水分量より換算した無水物を基準とし、各湿度での重量の変化率を求めた。
【0076】
<化学的安定性評価>
試料を60℃密栓状態及び60℃75%RHで1週間保存し、保存前後での類縁物質の増減を高速液体クロマトグラフ法により個々のピークの面積百分率により算出し、さらに保存後の状態を観察した。
結果を以下の表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
ピロリジン化合物A及びこれを含む混合物で再現性のある固体として、塩酸塩非晶質、フリー体非晶質、フリー体結晶、リン酸A形+B形結晶、本発明結晶の1態様であるリン酸B形結晶、リン酸C形結晶、マレイン酸F形結晶、マロン酸G形結晶、マロン酸H形結晶、及びマロン酸I形結晶が見出されている。これらの中で、フリー体結晶は残留溶媒をICHが定める基準値以下にすることができず、マロン酸G形結晶及びマロン酸I形結晶は分子内にトルエンを含有しており安全性の観点から医薬品原薬としては適した結晶ではなかった。マレイン酸F形結晶も同様に残留溶媒のトルエンを完全に除去することができなかった。一方、本発明結晶からは残留溶媒は確認されず、分子内にトルエンを含まないので安全性の観点からは問題のない結晶であると考えられる。
【0079】
また、塩酸塩非晶質、リン酸C形結晶、マレイン酸F形結晶、及びマロン酸H形結晶はいずれも潮解性が認められたが、リン酸B形結晶に潮解性は認められず、90%RHでの重量変化は1%未満、60℃75%RHで1週間保存しても類縁物質の増加は0.05%であり、湿度に対して安定であり、化学的にも大変安定な結晶であった。
【0080】
さらに、フリー体非晶質、及びリン酸A形+B形結晶は共に、130℃に加熱すると2%以上の重量変化が認められたが、リン酸B形結晶は200℃以上でも重量変化が認められず熱的安定性にも優れた結晶であった。
【0081】
実験例7 本発明結晶の析出条件検討
【化5】
【0082】
条件1
化合物(15.00g)の酢酸エチル(67.75g)溶液に、炭酸カリウム水溶液(炭酸カリウム2.64g、精製水75mL)を25℃で滴下し、30分間300rpmで撹拌した。有機層を分離し、精製水で洗浄した後、減圧濃縮した。エタノール(59.03g)を加えて体積が27mLになるまで減圧濃縮する作業を二度繰り返した。
得られた濃縮混合物に、体積が45mLになるまでエタノール(24.32g)を加え、24%水酸化ナトリウム水溶液(4.79g)と精製水(12mL)を25℃で滴下し、300rpmで6時間撹拌した。反応混合物に85%リン酸水溶液(6.61g)および精製水(22.5mL、化合物の重量に対して体積比で1.5倍量)を5分間で滴下し、次いで精製水(90mL、化合物の重量に対して体積比で6.0倍量)を30分かけて滴下した。精製水の滴下終了後、30分間撹拌し、反応温度を35℃にして種晶(0.3746g、化合物の重量に対して重量比で0.025倍量)を加えた。種晶の添加から10時間後に反応温度を20℃にし、さらに30分間撹拌した後、不溶物をろ取し、減圧乾燥して本発明結晶(7.48g)を得た。
得られた結晶はろ過性が悪く、ろ過に時間がかかったうえ、乾燥前の湿体はスラリー状になって作業性が悪かった。
得られた結晶の粒子サイズを測定すると、モード径は6μm程度であった。条件1で得られた結晶の粒子サイズ分布を測定した(図5-1)。
【0083】
条件2
化合物(17.58g)のエタノール溶液(53.20g)に水酸化ナトリウム水溶液(24%、4.67g)および精製水(16.20g)を加えて40℃で3時間撹拌して化合物の溶液(73.14g)を得た。得られた化合物の溶液のうち18.28gにリン酸(1.91g、2.6当量)および精製水(7.49g、化合物の重量に対して体積比で1.5倍量)を35℃で加え、1時間撹拌した後、種晶(125mg、化合物の重量に対して重量比で0.025倍量)を加えた。種晶の添加から17時間30分後、2時間かけて精製水(30.0mL、化合物の重量に対して体積比で6.0倍)を添加した。10時間後、反応温度を20℃にし、撹拌を続けた。27時間後、固体を濾取し、該固体を精製水(25.23g、化合物の重量に対して体積比で5倍量)で洗浄した。固体を50℃で乾燥して、本発明結晶(4.01g)を得た。
種晶の添加から16時間後および21時間後にサンプリングし、HPLCにより定量して結晶の析出率を算出したところ、それぞれ4%および97%であった。
条件2のように種晶接種前の精製水量が少ない場合には、結晶析出率が極めて低くなることがわかった。すなわち、本発明結晶を析出させるためには、エタノール溶液に添加する精製水量、すなわち晶析溶媒の組成が重要であることがわかった。また、析出率が低い溶液に精製水をさらに添加すると結晶は析出したが、条件1と同様にろ過などの操作性が不良な結晶が得られた。
【0084】
条件3
化合物(26.37g)のエタノール溶液(79.82g)に水酸化ナトリウム水溶液(24%、7.01g)および精製水(24.30g)を加えて40℃で4時間30分撹拌して化合物の溶液を得た。得られた化合物の溶液に20℃にてリン酸(9.70g、2.2当量)および精製水(45.00g、化合物の重量に対して体積比で1.5倍量)を加え、さらに精製水(45.13g、化合物の重量に対して体積比で1.5倍量)を加えて30℃にて40分間撹拌した後、種晶(751mg、化合物の重量に対して重量比で0.025倍量)を加えた。16時間後、2時間かけて精製水(135mL、化合物の重量に対して体積比で4.5倍)を添加した。6時間後に温度を20℃とし、さらに1時間撹拌した。固体を濾取し、該固体を精製水(150.02g、化合物の重量に対して体積比で5倍量)で洗浄した。固体を50℃で乾燥して、本発明結晶(26.95g)を得た。
得られた結晶の粒子サイズを測定すると、モード径は10μm程度であった。得られた結晶は、ろ過などの操作性は良好であった。条件3で得られた結晶の粒子サイズ分布を測定した(図5-2)。
上記の通り、温度を30℃程度に設定し、条件3に記載した程度の量の精製水を加えてから種晶を添加し、一定程度の時間をおいて結晶を大きく成長させた後にさらに精製水を添加することによって、良好な析出率および操作性で結晶を取得した。
【0085】
【表8】
【0086】
反応装置および撹拌条件
条件1
反応装置:EasyMax(登録商標)(メトラー・トレド社)
撹拌条件:300rpm
【0087】
条件2
反応装置:OptyMax(登録商標)(メトラー・トレド社)
撹拌条件:250rpm
【0088】
HPLC測定条件
機器名:
カラム:GL Science, Inertsil ODS-3V(5μm、4.6X150mm)
流動層A:水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸=1900:100:1
流動層B:水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸=100:1900:1
【0089】
粒子トレンド測定条件
機器名:Particle Track(登録商標)MALVERN,Mastersizer 2000(湿式)
測定範囲:0.020~2000.000μm
測定時間:10秒間
測定強度範囲:3.0~20.0%
撹拌速度:約2000rpm
【0090】
上記の通り、条件2のように十分な精製水を加えてから種晶を添加し、一定程度の時間をおいて結晶を大きく成長させた後にさらに精製水を添加することによって、十分な析出量を担保しつつ、流動性やろ過性の良好なコード長の大きい結晶を多く含む結晶を得ることができた。これにより、ろ過などの操作性が改善した。
【0091】
実験例8 ヒトMC1Rアゴニスト測定
本発明結晶を用いて、特許文献1の実験例1に記載の以下の方法に準じて、細胞内cAMP濃度を測定し、EC50値を算出した。
(1)細胞の培養方法
ヒトMC1Rアゴニスト活性測定にはヒトメラノーマ細胞株HBLを用いた。HBLの培養:10%FCS、Penicillin-streptomycinを含むF-10 Nutrient Mixtureを用いて培養した。
(2)cAMPアッセイおよびデータの算出
各濃度の化合物溶液をcAMPアッセイバッファー(10mM HEPES、0.1%BSAを含むHBSS(Hank's Balanced Salt Solution))と混和し、96ウェルプレートに分注した。HBLは5×10/mLとなるように0.5mM IBMXを含むcAMPアッセイバッファーに懸濁し、上記96ウェルプレートに分注後に混和し、37℃で30分間静置後、細胞内cAMP濃度をEnvisionを用いた蛍光法により測定した(ex.320nm、em.590nm及び665nm)。得られたデータはratio値(665nm測定値/590nm測定値×10000)から、Prism 5.02を用いてcAMP濃度の定量値を算出し、induction%値(vehicleのcAMP濃度平均値を0%、αMSHの10-6MでのcAMP濃度平均値を100%としたときの各サンプルの%)を算出し、EC50値を計算した。
結果、本発明結晶はEC50値5.3nMを示し、強いヒトMC1Rアゴニスト活性を有する結晶であった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明結晶は結晶を得る際に使用した溶媒が残留することがなく、熱的安定性に優れ、湿度に対して重量変化が少なく安定であり、潮解せず、化学的安定性に優れており、安全性の観点からも生体に対して悪影響を及ぼす可能性のある化合物を含まない結晶であり、さらに該結晶を再現性よく工業的に適した方法で得られることから、医薬品原薬として優れた結晶である。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】