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特開2022-24079原子燃料棒に耐腐食性障壁被膜を施すためのスプレー法
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  • 特開-原子燃料棒に耐腐食性障壁被膜を施すためのスプレー法 図1
  • 特開-原子燃料棒に耐腐食性障壁被膜を施すためのスプレー法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024079
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】原子燃料棒に耐腐食性障壁被膜を施すためのスプレー法
(51)【国際特許分類】
   G21C 3/06 20060101AFI20220201BHJP
【FI】
G21C3/06 210
G21C3/06 312
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186642
(22)【出願日】2021-11-16
(62)【分割の表示】P 2018567917の分割
【原出願日】2016-10-03
(31)【優先権主張番号】62/365,632
(32)【優先日】2016-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】390023641
【氏名又は名称】ウイスコンシン アラムナイ リサーチ ファウンデーシヨン
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ラホーダ、エドワード、ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】シュウ、ペン
(72)【発明者】
【氏名】カラタス、ゼゼス
(72)【発明者】
【氏名】ミドルバーグ、サイモン
(72)【発明者】
【氏名】レイ、サミット
(72)【発明者】
【氏名】スリドハラン、クマー
(72)【発明者】
【氏名】マイアー、ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン、グレッグ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】水冷式原子炉に使用される構成機器の基材に耐腐食性障壁となる被膜を施す方法を説明する。
【解決手段】この方法は、ジルコニウム合金基材を提供し、金属酸化物、金属窒化物、FeCrAl、FeCrAlYおよび高エントロピー合金から成る群より選択した粒子によって当該基材に被膜を施すステップから成る。被膜材料として選択する金属合金に応じて、コールドスプレー法またはプラズマアーク溶射法を用いることにより、さまざまな粒子を基材に付着させることができる。Zr合金基材と耐腐食性障壁層との間に、Mo、Nb、Ta、Wのような遷移金属や高エントロピー合金などのそれらとは異なる材料の中間層を設けることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水冷式原子炉に使用される構成機器の基材上に耐腐食性障壁を形成する方法であって、
ジルコニウム合金基材を提供するステップと、
当該ジルコニウム合金基材上にMo、Nb、Ta、W又はそれらの組み合わせから成る中間層を形成するステップと、
Cr粒子とY粒子を用いるプラズマ溶射法によって当該中間層に被膜を施すことにより、所望の厚さの均質な耐腐食性障壁を当該中間層上に形成するステップと
から成り、
当該中間層は当該基材と当該耐腐食性障壁との間に配置される
方法。
【請求項2】
前記所望の厚さが5~100ミクロンの範囲内である、請求項1の方法。
【請求項3】
前記粒子の平均直径が20ミクロン以下である、請求項1の方法。
【請求項4】
前記中間層は、直径100ミクロン以下のMo粒子を用いて前記基材に被膜を施すことによって形成する、請求項1の方法。
【請求項5】
前記中間層は熱的付着法によって形成する、請求項1の方法。
【請求項6】
前記熱的付着法はコールドスプレー法である、請求項5の方法。
【請求項7】
前記コールドスプレー法は、
加圧されたキャリアガスを200~1000℃の温度に加熱するステップと、
当該加熱されたキャリアガスに中間層材料の粒子を添加するステップと、
当該キャリアガスおよび同伴粒子を800~4000フィート/秒(約243.84~1219.20メートル/秒)の速度でスプレーするステップと
から成る請求項6の方法。
【請求項8】
前記キャリアガスは、水素(H)、窒素(N)、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、ヘリウム(He)およびそれらの組み合わせから成る群より選択される、請求項7の方法。
【請求項9】
水冷式原子炉に使用される被覆管であって、
当該被覆管はジルコニウム合金から成り、請求項1乃至8の何れかに記載の方法により形成された耐腐食性被膜を有することを特徴とする被覆管。
【請求項10】
前記粒子の平均直径が100ミクロン以下である、請求項1の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、参照によって本願に組み込まれる2016年7月22日出願の米国仮特許出願第62/365,632号に基づく優先権を主張する。
【0002】
政府の権利に関する陳述
本発明は、エネルギー省との契約第DE-NE0008222号に基づく政府支援の下でなされたものである。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有している。
【0003】
本発明は、原子燃料棒被覆管向けの耐腐食性被膜に関し、具体的には、基材に耐腐食性障壁層を付着させるためのスプレー方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ジルコニウム合金は、1100℃以上になると蒸気と急速に反応して酸化ジルコニウムと水素を発生させる。原子炉の環境では、この反応の進行により水素が原子炉を劇的に加圧し、格納容器または原子炉建屋内へ漏洩して爆発性雰囲気を形成するようになると、水素爆発により核分裂生成物が格納容器建屋の外へ拡散するおそれがある。核分裂生成物を封じ込める境界を維持することは非常に重要である。
【0005】
水素の大量発生を避けるために、蒸気とジルコニウム被覆管との反応速度を劇的に下げる必要がある。核分裂生成物を封じ込めるために、蒸気とジルコニウム被覆管との反応速度を劇的に下げる必要がある。
【発明の概要】
【0006】
本願で説明する方法は、原子炉内で蒸気とジルコニウムが反応する可能性に付随する問題に対処する。本願の方法は、ジルコニウム基材の上に耐腐食性障壁としての被膜を形成するものである。
【0007】
さまざまな局面において、水冷式原子炉に使用する構成機器の基材上に耐腐食性障壁を形成する本願の方法は、ジルコニウム合金基材を提供するステップと、金属酸化物、金属窒化物、FeCrAl、FeCrAlYおよび高エントロピー合金から成る群より選択した粒子によって基材に所望の厚さの被膜を施すステップとから成る。当該粒子の平均直径は100ミクロン以下である。
【0008】
或る特定の局面において、FeCrAl、FeCrAlYおよび高エントロピー合金から成る群より粒子を選択した場合、スプレーはコールドスプレー法により行う。或る特定の局面において、FeCrAlおよび高エントロピー合金から成る群より粒子を選択した場合、スプレーはコールドスプレー法により行う。当該粒子は、さまざまな局面において平均直径が100ミクロン以下であり、好ましくは20ミクロン以下である。
【0009】
この方法に使用される高エントロピー合金は、Zr-Nb-Mo-Ti-V-Cr-Ta-WおよびCu-Cr-Fe-Ni-Al-Mnから成る系から選択した、原子濃度が0~40%で、いずれの1元素も優勢的でない元素を4つ以上組み合わせたものである。そのような組み合わせによって形成される高エントロピー合金の例として、Zr0.5NbTiV、Al0.5CuCrFeNiおよびMoNbTiVが挙げられる。
【0010】
或る特定の局面において、粒子が金属酸化物または金属窒化物の場合、スプレーはプラズマアーク溶射法を用いて行うことができる。金属酸化物粒子は、TiO、Y、Crまたはそれらの任意の組み合わせでもよい。さまざまな局面において、金属酸化物粒子は、TiO、Yまたはそれらの任意の組み合わせでよい。金属窒化物粒子は、TiN、CrN、ZrNまたはそれらの任意の組み合わせでもよい。
【0011】
さまざまな局面において、本願の方法は、水冷式原子炉に使用される円筒形または管状のジルコニウム(Zr)合金基材に被膜を施すために使用することができる。この方法は、円筒形の表面を有するZr合金基材を得ることと、窒素(N)、水素(H)、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)またはヘリウム(He)ガスを用いるコールドスプレー法によって、鉄-クロム-アルミナ(FeCrAl)粉末、鉄-クロム-アルミナ/イットリウム(FeCrAl/Y)およびさまざまな高エントロピー合金粉末から成る群より選択した被膜を当該Zr合金基材に付着させることから成る。被膜は任意所望の厚さにするのが可能であり、厚さ約5~100ミクロンの非限定的な例がある。
【0012】
さまざまな局面において、基材に被膜を施す本願の方法は、表面を有する基材を得ることと、プラズマアーク溶射法によって基材表面に被膜を付着させることを含む。当該被膜は、金属酸化物または金属窒化物から成る。金属酸化物の例としてTiO、Y、Crおよびそれらの組み合わせがあり、金属窒化物の例としてTiO、Y、Crおよびそれらの組み合わせがある。当該基材は、Zr合金製でもよい。
【0013】
さまざまな局面において、本願の方法は、金属酸化物、金属窒化物、FeCrAl、FeCrAlYおよび高エントロピー合金から成る群より選択した厚さが最大100ミクロンの被膜を施した水冷式原子炉用ジルコニウム合金製の被覆管を製造する。
【0014】
被膜と基材との間に、被膜材料の基材への拡散を防止または減少させ、熱応力を受け容れる中間層を付着させると、拡散と熱応力の両方に対処することができる。例えば、さまざまな局面において、被膜がFeCrAl、FeCrAlYまたはそれらの組み合わせである粒子によって形成されている場合、モリブデン(Mo)は中間層材料として適当な選択肢である。一般的に、中間層材料は、ジルコニウムまたはジルコニウム合金との共晶融点がさまざまな局面では1400℃以上であり、或る特定の局面では1500℃以上であるのが好ましく、さらには、熱膨張係数および弾性係数が中間層が被覆される下層のジルコニウムまたはジルコニウム合金だけでなく中間層の上層の被膜材料と調和的である材料から選択することができる。例として、本願で説明する遷移金属および高エントロピー合金材料が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
添付の図面を参照することにより、本発明の特徴と利点の理解が深まるであろう。
図1】コールドスプレー法の概略図である。
図2】プラズマアーク法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願で使用する「a」、「an」および「the」に先導される単数形は、文脈からそうでないことが明白でない限り、複数形をも包含する。したがって、本願で使用する冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法上の、1つまたは複数の(すなわち、少なくとも1つの)対象物を指す。例として、「an element」は1つの要素または複数の要素を意味する。
【0017】
非限定的な例として、最上部、最下部、左、右、下方、上方、前、後ろ、およびそれらの変形例などの方向性を示唆する語句は、添付の図面に示す要素の方位に関連し、特段の記載がない限り、本願の特許請求の範囲を限定するものではない。
【0018】
特許請求の範囲を含み、本願では、特段の指示がない限り、量、値または特性を表すあらゆる数字は、すべての場合において「約」という用語により修飾されると理解されたい。したがって、数字と一緒に「約」という用語が明示されていない場合でも、数字の前に「約」という語があるものと読み替えることができる。したがって、別段の指示がない限り、以下の説明で記載されるすべての数値パラメータは、本発明に基づく組成物および方法が指向する所望の特性に応じて変わる可能性がある。最低限のこととして、また均等論の適用を特許請求の範囲に限定する意図はないが、本願に記載された各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数を勘案し、通常の丸め手法を適用して解釈するべきである。
【0019】
また、本願で述べるあらゆる数値範囲は、そこに内包されるすべての断片的部分を含むものとする。例えば、「1~10」という範囲は、記述された最小値1と最大値10との間(最小値と最大値を内包)のすべての断片的部分を含むことを意図している。すなわち、最小値は1以上、最大値は10以下である。
【0020】
基材の表面に粒子を付着させる改良された方法が開発された。この方法は多数の基材に使用できるが、特に原子炉の構成機器として使用される基材、具体的には、水冷式原子炉に用いる燃料棒被覆管のようなジルコニウム合金基材に被覆を施すのに好適である。
【0021】
さまざまな局面において、水冷式原子炉に用いる構成機器の基材に耐腐食性境界を形成する方法は、ジルコニウム合金基材を提供するステップと、金属酸化物、金属窒化物、FeCrAl、FeCrAlYおよび高エントロピー合金から成る群より選択した平均直径100ミクロン以下の粒子により構成される所望の厚さの被膜を基材に施すステップとから成る。
【0022】
この方法に使用される金属酸化物、金属窒化物、FeCrAl、FeCrAlYまたは高エントロピー合金の粒子は、平均直径が100ミクロン以下であり、好ましくは平均直径が20ミクロン以下である。本願で使用する平均直径という用語は、当業者であれば次のように理解するであろう。粒子は球体ではないこともあり、その場合「直径」は、規則的な形状または不規則的な形状の粒子の最大寸法である。平均直径の意味するところは、任意所与の粒子の最大寸法にはバラツキがあり、100ミクロンを上回ったり下回ったりするが、被膜の形成に使用されるすべての粒子の最大寸法の平均は100ミクロン以下、好ましくは、20ミクロン以下である。
【0023】
この方法の被膜を施すステップでは、コールドスプレー法またはプラズマアーク溶射法を用いることができる。
【0024】
或る特定の局面において、FeCrAl、FeCrAlYおよび高エントロピー合金から成る群より粒子を選択した場合、コールドスプレー法によって被膜を施すのが好ましい。或る特定の局面において、FeCrAlおよび高エントロピー合金から成る群より粒子を選択した場合、コールドスプレー法によって被膜を施すのが好ましい。
【0025】
本願で使用する高エントロピー合金という用語は、いずれの1元素も優勢とは言えない4つ以上の元素を含む合金の種類を意味する。本願で使用する高エントロピー合金という用語は、Zr-Nb-Mo-Ti-V-Cr-Ta-WおよびCu-Cr-Fe-Ni-Al-Mn系の元素のうち4つ以上をそれぞれ原子濃度0~40%で組み合わせた、Zr0.5NbTiV、Al0.5CuCrFeNiおよびMoNbTiVのような合金を意味する。高エントロピー合金は、所与の用途にとって最良の性質(例えば基材と一致する熱膨張、耐腐食性、中性子断面積など)を提供するように調製することができる。
【0026】
本願の方法では、キャリアガスが加熱器に供給され、そこでノズル内での膨張後の温度が所望の値(例えば100~1200℃)に保たれるように十分な温度に加熱される。さまざまな局面において、キャリアガスは、例えば5.0MPaの圧力で200~1200℃の温度に予熱される。或る特定の局面において、キャリアガスは200~800℃の温度に予熱される。キャリアガスは、或る特定の局面では200~1000℃の温度に、別の局面では300~900℃の温度に、また、他の局面では500~800℃の温度に予熱される。この温度は、キャリアとして使用する特定のガスのジュールトムソン冷却係数による。ガスの圧力が変化して膨張または圧縮する際にガスが冷却するかどうかは、ジュールトムソン係数の値による。ジュールトムソン係数が正の値の場合、キャリアガスは冷却するので、コールドスプレー法の性能に影響を及ぼす可能性のある過度な冷却を防ぐために、キャリアガスを予熱する必要がある。当業者は、過度な冷却を防ぐために、周知の計算法を用いて加熱の程度を決めることができる。例えば、キャリアガスがNの場合、入口温度が130℃であれば、ジュールトムソン係数は0.1℃/バールである。初期圧力が10バール(約146.9psia)、最終圧力が1バール(約14.69psia)のガスを130℃で管体に衝突させる場合は、約9バール×0.1°C/バール(すなわち約0.9℃)高い130.9℃にガスを予熱する必要がある。
【0027】
例えば、キャリアガスとしてヘリウムを用いる場合のガスの温度は、圧力3.0~4.0MPaにおいて450℃であるのが好ましい。また、窒素のキャリアガスの温度は、圧力5.0MPaで1100℃であるが、圧力が3.0~4.0MPaであれば600~800℃でもよい。当業者であれば、使用する機器の種類によって温度および圧力の変数が変わり、機器を改造することによって温度、圧力および体積のパラメータを調節できることを理解するであろう。
【0028】
キャリアガスに適しているのは不活性ガスまたは非反応性ガスであり、特に、上述の粒子や基材と反応しないガスである。キャリアガスの例として、窒素(N)、水素(H)、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、およびヘリウム(He)が挙げられる。
【0029】
キャリアガスの選択にはかなりの自由度がある。混合ガスを使用してもよい。ガスの選択は物理的特性と経済性の双方による制約を受ける。例えば、分子量の小さいガスは速度を大きくできるが、速度を最大にすると、粒子の跳ね返りによって付着する粒子数が少なくなるので避けるべきである。
【0030】
図1は、コールドスプレーアセンブリ10を示す。アセンブリ10は、加熱器12、粉末または粒子ホッパー14、ガン16、ノズル18および送出導管34、26、32、28を含む。高圧ガスは導管24によって加熱器12へ送られ、そこで実質的に瞬時に急速加熱される。ガスは、所望の温度に加熱されると、導管26を介してガン16へ差し向けられる。ホッパー14に保持された粒子は放出後、導管28を介してガン16へ差し向けられ、圧縮ガス噴流20により強制的にノズル18を通過し、基材22へ差し向けられる。スプレーされた粒子36は基材22に付着し、粒子24から成る被膜30を形成する。
【0031】
コールドスプレー法は、加熱されたキャリアガスの膨張を制御することにより粒子を基材上に推進し付着させる原理を有する。粒子は、基材または付着済みの層に衝突し、断熱せん断による塑性変形を受ける。後続の粒子の衝突が積み重なって被膜が形成される。変形を促進するには、粒子を、キャリアガスへ流入させる前に、ケルビン絶対温度スケールで粉末の融点の3分の1から2分の1の温度に温めてもよい。被膜を施す領域または材料の付着が必要な領域全体をノズルによって走査する(すなわち、ある領域の端から端まで、最上部から最下部まで線状にスプレーする)。
【0032】
基材は、被膜が施される構成機器に付随する任意の形状であってよい。基材は例えば、円筒形、曲面状、または平板状であってもよい。平面状ではない管体に被膜を施すことはこれまで難題であった。平面に被膜を施すのは易しいが、管体の表面や他の曲面に低コストで被膜を施すのは容易ではなかった。管体または円筒体に被膜を施すには、ノズルを管体または円筒体の長さ方向に移動させながら、管体を回転させる必要がある。領域を均質にカバーするように、ノズルの長さ方向の速度と管体の回転を同期させる。領域を均質にカバーするように移動と回転を同期させさえすれば、回転速度と移動速度を実質的に変えてもよい。表面の汚染物を除去して被膜の付着性と分布を改善するために、管体の表面を研削したり化学洗浄したりするような前処理が必要なことがある。
【0033】
本願の方法の粒子は中実である。粒子は、ガン16においてキャリアガスに合流して同伴状態になる。ノズル18の狭隘部は、ガスと粒子とを強制的に混合して、ノズル18から出るガス噴流20の速度を増加させる。粒子は、緻密で不浸透性または実質的に不浸透性の被膜層の形成に十分な速度でスプレーされる。さまざまな局面において、噴射スプレーの速度は800~4000フィート/秒(約243.84~1219.20メートル/秒)である。粒子24は、商業または研究レベルにおいて、被膜を施された管体を所望の速度で製造するのに十分な速度で基材表面に付着させられる。
【0034】
粒子の付着速度は、粉末の見かけ密度(すなわち、比容積における空気または空隙に対する粉末の量)と、粉末粒子のガス流への注入に用いる機械式粉末供給装置またはホッパーとに依存する。当業者は、このプロセスに使用する機器に基づいて付着速度を容易に計算可能であり、付着速度の決定因子である構成機器を変更することによって付着速度を調節できる。この方法の或る特定の局面において、粒子の付着速度は最大1000kg/時間である。許容できる付着速度は1~100kg/時間の範囲であり、さまざまな局面において10~100kg/時間の範囲であるが、これより高い速度や低い速度(例えば1.5kg/時間)も使用され、良い結果が得られている。
【0035】
付着速度が大きいと、単位時間当たりにスプレー処理できる管体の数が増えるので、付着速度は経済性の観点で重要である。粒子を次々に繰り返し衝突させると、過渡加熱の時間が長くなるので、粒子間の結合(および粒子と基材の結合)が改善される利点がある。過渡加熱は、マイクロ秒やときにはナノ秒の時間スケールで、ナノメートルの長さスケールにわたって起きる。その結果、すべての粉末および基材の表面にもともと存在する厚さがナノメートルスケールの酸化物層が破砕および除去される。スプレー処理は、基材表面の被膜が所望の厚さになるまで続けられる。さまざまな局面において、所望の厚さは数百ミクロンであり(例えば100~300ミクロン)、それより薄いこともある(例えば5~100ミクロン)。被膜は、耐腐食性障壁を形成するのに十分な厚さである必要がある。被膜による障壁は、約1000℃以上の温度において、蒸気とジルコニウムの反応および空気とジルコニウムの反応、さらには水素化ジルコニウムの形成を減少させるが、さまざまな局面においてかかる反応および水素化ジルコニウムの形成を完全に阻止することもある。
【0036】
或る特定の局面において、粒子が、金属酸化物、金属窒化物またはそれらを組み合わせたものである場合、スプレーはプラズマアーク溶射法によるのが好ましい。金属酸化物粒子は、TiO、Y、Crまたはそれらを任意に組み合わせたものであってもよい。さまざまな局面において、粒子は、TiO、Yまたはそれらを組み合わせたものであってもよい。さまざまな局面において、粒子は、TiOとCrを組み合わせたものであってもよい。さまざまな局面において、粒子は、YとCrを組み合わせたものであってもよい。使用する金属窒化物粒子は、TiN、CrN、ZrNまたはそれらを任意に組み合わせたものであってもよい。
【0037】
プラズマ溶射法の概略図を図2に示す。プラズマトーチ40は、高温のガス噴流50を生成する。典型的なプラズマトーチ40は、ガスポート56、陰極44、陽極46および水冷式ノズル42から成り、それらはすべてハウジング60内で絶縁体48に取り囲まれている。高周波アークは、電極間、すなわち陽極46とタングステン陰極44との間で点火される。電極44、46間のポート56を流れるキャリアガスは、電離してプラズマプルームを形成する。キャリアガスは、ヘリウム(He)、水素(H)、窒素(N)またはそれらを任意に組み合わせたものであってもよい。噴流50は、電気アークが不活性ガスを加熱することによって発生する。加熱されたガスは、例えば12,000~16,000℃で作用するアークプラズマコアを形成する。ガスは、水冷式ノズル42を通る際に膨張して噴流50となる。粉末または粒子は、ポート52から高温の噴流50の中に注入されて溶融し、基材60上へ圧出されて被膜54となる。噴射速度は、例えば約450m/秒以下の粒子速度で2~10kg/時間である。プラズマアーク法などの溶射により得られる被膜の厚さは、スプレー材料により異なるが、例えば0.05~5mmの範囲にわたる。本願で説明する被膜の典型的な厚さは5~1000ミクロンであり、さまざまな局面において被膜の厚さは10~100ミクロンである。
【0038】
本願の方法は、基材22、60に被膜30、54を付着させた後、さらに被膜を焼鈍するステップを含んでもよい。焼鈍によって、被膜を施された管体の機械的性質と微細構造が改変される。焼鈍では、被膜を200~800℃で加熱し、好ましくは350~550℃で加熱する。焼鈍することによって被膜中の応力が解放され、被覆管の内圧に耐えるために必要な延性が被膜に与えられる。管体の膨張に合わせて、被膜も膨張できることが必要である。焼鈍の別の重要な効果は、例えばコールドスプレーの過程で形成される変形した粒子を再結晶させることにより、等方性および耐放射線損傷性という利点を有する、サブミクロンサイズの等軸の細粒粒子が形成されることである。
【0039】
被膜を施された基材は、被膜形成または焼鈍ステップの後、より平滑な表面に仕上げるために、研削、もみ革磨き、研磨、または他の任意公知の手法で処理してもよい。
【0040】
本願の方法のさまざまな局面において、耐腐食性障壁被膜とジルコニウム合金基材との間に、被膜材料とZrまたはZr合金との間の相互拡散を防止または減少させ、および/または熱応力を受け容れる中間材料層を設けてもよい。本願で前述のプラズマアーク付着法またはコールドスプレー法を用いると、基材に耐腐食性障壁被膜を付着させる前に、基材の外面に中間材料層の粒子を付着させて、基材と被膜との間の中間層とすることができる。一般的に、中間層の材料は、ジルコニウムまたはジルコニウム合金との共晶融点がさまざまな局面では1400℃以上であり、或る特定の局面では1500℃以上であるのが好ましく、さらには、熱膨張係数および弾性係数が中間層が被覆される下層のジルコニウムまたはジルコニウム合金だけでなく中間層の上層の被膜材料と調和的である材料から選択することができる。その例として、本願で説明する遷移金属および高エントロピー合金材料であって、基材および耐腐食性障壁被膜に使用されるものとは異なる材料が挙げられる。あらゆる遷移金属が適当であると考えられるが、例えば、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)などの遷移金属が挙げられる。
【0041】
中間層は、例えば、直径が100ミクロン以下で、平均粒径が直径20ミクロン以下のMo粒子で基材を被覆することによって形成できる。したがって、本願の方法は、さまざまな局面において、加圧されたキャリアガスを100~1200℃の温度に加熱すること、別の局面において200~1000℃の温度に加熱すること、加熱されたキャリアガスに中間層材料であるMo粒子などの粒子を添加すること、および当該キャリアガスおよび同伴粒子を基材上へ800~4000フィート/秒(約243.84~1219.20メートル/秒)の速度でスプレーすることから成る。前述のように、キャリアガスは、水素(H)、窒素(N)、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、ヘリウム(He)およびそれらの組み合わせから成る群より選択できる。高エントロピー合金組成物は、既知の手法により合金組成を変えて材料特性を制御することが可能であるため、中間層材料として十分な選択肢を提供できる。
【0042】
本願の方法は、中間層を施した後に、上述のいずれかの方法によって耐腐食性障壁被膜を追加する。その後、前述のように焼鈍し、さらに表面処理ステップを実施してもよい。
【0043】
本願の方法は、被覆された基材を製造する方法である。例示的な実施態様において、この方法は、水冷式原子炉に用いる被覆管を製造する。被覆管は、ジルコニウム合金製のことがある。管体の基材には、所望の厚さの被膜が施される。例えば、さまざまな局面において、被膜の厚さは最大100ミクロンである。さまざまな局面において、被膜の厚さは約100ミクロンから300ミクロン以上である。それより薄い、約50~100ミクロンの被膜を施すこともできる。
【0044】
被膜は、FeCrAl、FeCrAlYおよび高エントロピー合金から成る群より選択される。高エントロピー合金は、Zr-Nb-Mo-Ti-V-Cr-Ta-WおよびCu-Cr-Fe-Ni-Al-Mnから成る系から選択した、各元素の原子濃度が0~40%で、いずれの1元素も優勢的でない(すなわち50%を超える原子濃度の元素は存在しない)4つ以上の元素から成る群より選択される。したがって、一つの元素の原子濃度が40%であれば、残りの元素の原子濃度の合計は60%である。
【0045】
さまざまな局面において、基材と被膜との間には中間層がある。例えば、障壁となる被膜がFeCrAl(Y)であれば、中間層は、好ましくは厚さ5~100ミクロンのMo層である。
【0046】
本発明をいくつかの例について説明したが、いずれの例も、すべての点において限定的でなく例示的である。したがって、本発明は、実施態様の詳細な点で、通常の技量を有する当業者が本願の説明から導くことができる多くの変形例が可能である。
【0047】
本願で言及したすべての特許、特許出願、刊行物または他の開示資料は、個々の参考文献が参照により明示的に本願に組み込まれるように、その文献全体が参照により本願に組み込まれる。本願で参照により組み込まれると言及されたすべての文献および資料またはそれらの一部分は、本願に記載された既存の定義、言明または他の開示資料と矛盾しないかぎり本願に組み込まれる。したがって、本願に記載の開示事項は、必要な範囲において、それと矛盾する、参照により本願に組み込まれた資料に取って代わり、本願に明示的に記載された開示事項が決定権をもつ。
【0048】
本発明を、さまざまな例示的な実施態様を参照して説明してきた。本願に記載の実施態様は、開示された発明のさまざまな実施態様のさまざまな詳細度の例示的な特徴を示すものとして理解される。したがって、特段の指示がない限り、可能な範囲において、開示した実施態様における1つ以上の特徴、要素、構成要素、成分、材料、構造物、モジュールおよび/または局面は、本発明の範囲から逸脱することなく、当該開示された実施態様における他の1つ以上の特徴、要素、構成要素、成分、材料、構造物、モジュールおよび/または局面との間で、複合、分割、置換えおよび/または再構成が可能であることが理解される。したがって、通常の技量を有する当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、例示的な実施態様のいずれにおいてもさまざまな置換え、変更または組み合わせが可能であることを理解するであろう。当業者はさらに、本願を検討すれば、本願に記載された本発明のさまざまな実施態様に対する多くの均等物に気付くか、あるいは単に定常的な実験を用いてかかる均等物を確認できるであろう。したがって、本発明は、さまざまな実施態様の説明によってではなく、特許請求の範囲によって限定される。
図1
図2