(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024193
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】改変クモ糸フィブロイン繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/02 20060101AFI20220202BHJP
D01F 4/02 20060101ALI20220202BHJP
C08L 89/00 20060101ALI20220202BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220202BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20220202BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C08J3/02 B CFG
D01F4/02 ZNA
C08L89/00
C08K3/04
C08K7/00
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018185291
(22)【出願日】2018-09-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、内閣府、革新的研究開発推進プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100200540
【弁理士】
【氏名又は名称】望月 祐子
(72)【発明者】
【氏名】シャファ-ト オリバ- セイエッド
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4F070AA62
4F070AC04
4F070AC36
4F070AC38
4F070AC40
4F070AC45
4F070AC47
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4F070AD01
4F070AD02
4F070AD03
4F070AE28
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4F070CB05
4F070CB12
4J002AD031
4J002DA026
4J002DA036
4J002FA016
4J002FA041
4J002GK01
4J002GK03
4J002HA05
4L035AA04
4L035BB02
4L035BB07
4L035BB09
4L035BB11
4L035DD13
4L035FF01
4L035FF05
4L035JJ03
(57)【要約】
【課題】本発明は、簡便な方法によって、細径のフィブロイン繊維を提供することを目的とする。
【解決手段】改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含み、前記炭素材料が一層又は二層以上の平面状グラフェンである、炭素材料分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含み、
前記炭素材料が一層又は二層以上の平面状グラフェンである、炭素材料分散液。
【請求項2】
前記極性溶媒が、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、N-メチルモルホリンN-オキシド、ギ酸、エチレングリコール、テトラヒドロフラン及び水からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記平面状グラフェンが、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、機能化酸化グラフェン及び還元型機能化酸化グラフェンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の分散液。
【請求項4】
改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含み、
前記炭素材料がカーボンブラックナノパーティクルであり、
前記極性溶媒が、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、N-メチルモルホリンN-オキシド、ギ酸、エチレングリコール、テトラヒドロフランからなる群から選ばれる少なくとも1種である、炭素材料分散液。
【請求項5】
前記炭素材料の含有量が、前記改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して25質量部以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の分散液。
【請求項6】
ドープ液である、請求項1~5のいずれか一項に記載の分散液。
【請求項7】
改変クモ糸フィブロインと、一層又は二層以上の平面状グラフェン及びカーボンブラックナノパーティクルから選択される炭素材料と、を含み、平均繊維径が3μm以下である、改変クモ糸フィブロイン繊維。
【請求項8】
前記炭素材料の含有量が、前記改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して1質量部以下である、請求項7に記載の改変クモ糸フィブロイン繊維。
【請求項9】
前記平面状グラフェンが、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、機能化酸化グラフェン及び還元型機能化酸化グラフェンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項7又は8に記載の改変クモ糸フィブロイン繊維。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の改変クモ糸フィブロイン繊維を含む、製品。
【請求項11】
前記製品が、繊維、糸、布帛、編み物、組み物、不織布、紙、及び綿からなる群から選択される、請求項10に記載の製品。
【請求項12】
改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含む分散液であって、前記炭素材料が一層又は二層以上の平面状グラフェンである分散液を準備する工程と、
前記分散液から原繊維を形成させる工程と、
を備える改変クモ糸フィブロイン繊維の製造方法。
【請求項13】
前記原繊維を形成させる工程において、乾式紡糸法によって原繊維を形成させる、請求項12に記載の改変クモ糸フィブロイン繊維の製造方法。
【請求項14】
改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含む分散液であって、前記炭素材料がカーボンブラックナノパーティクルである分散液を準備する工程と、
前記分散液から乾式紡糸法によって原繊維を形成させる工程と、
を備える改変クモ糸フィブロイン繊維の製造方法。
【請求項15】
前記原繊維を形成させる工程が、前記分散液から原繊維を引き出すことを含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の改変クモ糸フィブロイン繊維の製造方法。
【請求項16】
改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含む分散液であって、前記炭素材料が一層又は二層以上の平面状グラフェンである分散液を準備する工程と、
前記分散液から原繊維を形成させる工程と、
前記原繊維又は前記原繊維から製造された改変クモ糸フィブロイン繊維を絡合させる工程と、
を備える改変クモ糸フィブロイン不織布の製造方法。
【請求項17】
前記原繊維を形成させる工程において、乾式紡糸法によって原繊維を形成させる、請求項16に記載の改変クモ糸フィブロイン不織布の製造方法。
【請求項18】
改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含む分散液であって、前記炭素材料がカーボンブラックナノパーティクルである分散液を準備する工程と、
前記分散液から乾式紡糸法によって原繊維を形成させる工程と、
前記原繊維又は前記原繊維から製造された改変クモ糸フィブロイン繊維を絡合させる工程と、
を備える改変クモ糸フィブロイン不織布の製造方法。
【請求項19】
改変クモ糸フィブロインと、前記改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して25質量部以下の炭素材料と、極性溶媒と、を混合する工程を含み、
前記炭素材料が、一層又は二層以上の平面状グラフェンである、炭素材料の分散方法。
【請求項20】
改変クモ糸フィブロインと、前記改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して25質量部以下の炭素材料と、極性溶媒と、を混合する工程を含み、
前記炭素材料が、カーボンブラックナノパーティクルであり、
前記極性溶媒が、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、N-メチルモルホリンN-オキシド、ギ酸、エチレングリコール、テトラヒドロフランからなる群から選ばれる少なくとも1種である、炭素材料の分散方法。
【請求項21】
改変クモ糸フィブロインを含む、炭素材料を極性溶媒に分散させるための分散補助剤であって、前記炭素材料が一層又は二層以上の平面状グラフェンである、分散補助剤。
【請求項22】
改変クモ糸フィブロインを含む、炭素材料を極性溶媒に分散させるための分散補助剤であって、
前記炭素材料がカーボンブラックナノパーティクルであり、
前記極性溶媒が、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、N-メチルモルホリンN-オキシド、ギ酸、エチレングリコール、テトラヒドロフランからなる群から選ばれる少なくとも1種である、分散補助剤。
【請求項23】
一層又は二層以上の平面状グラフェン及びカーボンブラックナノパーティクルから選択される炭素材料を含む、細径化された改変クモ糸フィブロイン繊維を製造するための細径化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変クモ糸フィブロイン繊維及びその製造方法に関する。本発明はまた、上記改変クモ糸フィブロイン繊維の製造に用いることのできる分散液にも関する。本発明はまた、上記改変フィブロイン繊維を含む製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業分野において、将来的に利用価値の高い新素材としてフィブロイン繊維に関心が寄せられている。フィブロイン繊維として、従来から再生絹フィブロイン繊維やクモ糸フィブロイン繊維が知られている。細径のフィブロイン繊維の製造方法も多数報告されている。
【0003】
細径のフィブロイン繊維の製造方法としては、例えば、精錬後の蚕絹フィブロインを透析して濃縮した蚕絹フィブロイン水溶液に、2-モルホリノエタンスルホン酸-トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液と塩化カルシウム水溶液を添加して作製した紡糸原液(ドープ液)を、シリンジに接続した毛細管から気中に吐出させて、繊維を形成させた後、さらにアルコール水溶液中で繊維を延伸及び含浸処理することで、直径5.7μmの繊維を得る方法(非特許文献1)が報告されている。
【0004】
また、例えば、上述のドープ液を、マイクロ流体装置を用いて繊維形成させ、さらにアルコール水溶液中で繊維を延伸及び含浸処理することで、直径2μmの繊維を得る方法(非特許文献2)が報告されている。
【0005】
また、例えば、クモ糸フィブロインのドープ液を、電圧をかけた口金からエレクトロスピニングにより吐出させることで、平均直径が1μm以下の繊維を得る方法(特許文献1)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Wei wei et al.,Journal of Material Resarch,26巻,9号,2011年5月14日,p.1100-1106
【非特許文献2】J.Luo et al.,International Journal of Biological Macromolecules,66巻,2014年,p.319-324
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記先行技術文献に開示される製造方法は、十分に細径のフィブロイン繊維を得るために特殊な器具又は装置を必要としたり、多くの工程を必要としたりする。
【0009】
したがって、本発明は、簡便な方法によって、細径のフィブロイン繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた。その結果、改変クモ糸フィブロインと、一層又は二層以上の平面状グラフェン及びカーボンブラックナノパーティクルから選択される炭素材料と、極性溶媒とを含む分散液を用いることで、特殊な器具又は装置、及び多くの工程を必要とせず簡便に、細径を有するフィブロイン繊維が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含み、
上記炭素材料が一層又は二層以上の平面状グラフェンである、炭素材料分散液。
[2]
上記極性溶媒が、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、N-メチルモルホリンN-オキシド、ギ酸、エチレングリコール、テトラヒドロフラン及び水からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載の分散液。
[3]
上記平面状グラフェンが、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、機能化酸化グラフェン及び還元型機能化酸化グラフェンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の分散液。
[4]
改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含み、
上記炭素材料がカーボンブラックナノパーティクルであり、
上記極性溶媒が、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、N-メチルモルホリンN-オキシド、ギ酸、エチレングリコール、テトラヒドロフランからなる群から選ばれる少なくとも1種である、炭素材料分散液。
[5]
上記炭素材料の含有量が、上記改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して25質量部以下である、[1]~[4]のいずれか一に記載の分散液。
[6]
ドープ液である、[1]~[5]のいずれか一に記載の分散液。
[7]
改変クモ糸フィブロインと、一層又は二層以上の平面状グラフェン及びカーボンブラックナノパーティクルから選択される炭素材料と、を含み、平均繊維径が3μm以下である、改変クモ糸フィブロイン繊維。
[8]
上記炭素材料の含有量が、上記改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して1質量部以下である、[7]に記載の改変クモ糸フィブロイン繊維。
[9]
上記平面状グラフェンが、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、機能化酸化グラフェン及び還元型機能化酸化グラフェンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[7]又は[8]に記載の改変クモ糸フィブロイン繊維。
[10]
[7]~[9]のいずれか一に記載の改変クモ糸フィブロイン繊維を含む、製品。
[11]
上記製品が、繊維、糸、布帛、編み物、組み物、不織布、紙、及び綿からなる群から選択される、[10]に記載の製品。
[12]
改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含む分散液であって、上記炭素材料が一層又は二層以上の平面状グラフェンである分散液を準備する工程と、
上記分散液から原繊維を形成させる工程と、
を備える改変クモ糸フィブロイン繊維の製造方法。
[13]
上記原繊維を形成させる工程において、乾式紡糸法によって原繊維を形成させる、[12]に記載の改変クモ糸フィブロイン繊維の製造方法。
[14]
改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含む分散液であって、上記炭素材料がカーボンブラックナノパーティクルである分散液を準備する工程と、
上記分散液から乾式紡糸法によって原繊維を形成させる工程と、
を備える改変クモ糸フィブロイン繊維の製造方法。
[15]
上記原繊維を形成させる工程が、上記分散液から原繊維を引き出すことを含む、[12]~[14]のいずれか一に記載の改変クモ糸フィブロイン繊維の製造方法。
[16]
改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含む分散液であって、上記炭素材料が一層又は二層以上の平面状グラフェンである分散液を準備する工程と、
上記分散液から原繊維を形成させる工程と、
上記原繊維又は上記原繊維から製造された改変クモ糸フィブロイン繊維を絡合させる工程と、
を備える改変クモ糸フィブロイン不織布の製造方法。
[17]
上記原繊維を形成させる工程において、乾式紡糸法によって原繊維を形成させる、[16]に記載の改変クモ糸フィブロイン不織布の製造方法。
[18]
改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含む分散液であって、上記炭素材料がカーボンブラックナノパーティクルである分散液を準備する工程と、
上記分散液から乾式紡糸法によって原繊維を形成させる工程と、
上記原繊維又は上記原繊維から製造された改変クモ糸フィブロイン繊維を絡合させる工程と、
を備える改変クモ糸フィブロイン不織布の製造方法。
[19]
改変クモ糸フィブロインと、上記改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して25質量部以下の炭素材料と、極性溶媒と、を混合する工程を含み、
上記炭素材料が、一層又は二層以上の平面状グラフェンである、炭素材料の分散方法。
[20]
改変クモ糸フィブロインと、上記改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して25質量部以下の炭素材料と、極性溶媒と、を混合する工程を含み、
上記炭素材料が、カーボンブラックナノパーティクルであり、
上記極性溶媒が、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、N-メチルモルホリンN-オキシド、ギ酸、エチレングリコール、テトラヒドロフランからなる群から選ばれる少なくとも1種である、炭素材料の分散方法。
[21]
改変クモ糸フィブロインを含む、炭素材料を極性溶媒に分散させるための分散補助剤であって、上記炭素材料が一層又は二層以上の平面状グラフェンである、分散補助剤。
[22]
改変クモ糸フィブロインを含む、炭素材料を極性溶媒に分散させるための分散補助剤であって、
上記炭素材料がカーボンブラックナノパーティクルであり、
上記極性溶媒が、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、N-メチルモルホリンN-オキシド、ギ酸、エチレングリコール、テトラヒドロフランからなる群から選ばれる少なくとも1種である、分散補助剤。
[23]
一層又は二層以上の平面状グラフェン及びカーボンブラックナノパーティクルから選択される炭素材料を含む、細径化された改変クモ糸フィブロイン繊維を製造するための細径化剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の分散液を用いることによって、特殊な器具又は装置、及び多くの工程を必要とせず、細径のフィブロイン繊維を簡便に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】クモ糸フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図2】クモ糸フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図3】クモ糸フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図4】実施例7で得られた改変クモ糸フィブロイン繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
【
図5】実施例8で得られた改変クモ糸フィブロイン繊維の不織布の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
〔炭素材料分散液〕
本実施形態の炭素材料分散液は、改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒とを含み、炭素材料は、一層又は二層以上の平面状グラフェンである。本明細書において、「分散液」とは、目視において沈降物、凝集物、又は沈降物及び凝集物がなく、少なくとも7日間静置後においても目視において沈降物、凝集物、又は沈降物及び凝集物がない状態の溶液をいう。本発明の炭素材料分散液は、炭素材料の分散性に優れ、炭素材料の凝集及び沈殿を充分に抑制することができ、操作性に優れている。本実施形態の分散液は、そのまま、あるいは適宜濃縮又は希釈して、改変クモ糸フィブロイン繊維を製造するための、紡糸原液(ドープ液)として用いることができる。また、本実施形態の炭素材料分散液は分散性がよく、操作性に優れていることから、本発明の改変クモ糸フィブロイン繊維の原料以外の用途にも、好適に用いることが可能である。例えば、炭素材料を含む複合材料の製造にも好適に用いることができる。
【0016】
〔平面状グラフェン〕
本実施形態において、「平面状グラフェン」とは、含まれる炭素原子同士で2次元シート状の分子構造を形成するグラフェン及びグラフェン類縁体を意味する。したがって、炭素原子同士で筒状構造を形成するカーボンナノチューブ類及び球状構造を形成するフラーレン類は、「平面状グラフェン」から除かれる。「平面状グラフェン」は、その分子構造の一部に2次元シート状構造を有していればよく、その分子構造の全部が平面状でなくてもよい。平面状グラフェンは、2次元シート状の分子構造が一層であってもよいし、二層以上であってもよい。
【0017】
平面状グラフェンとしては、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、機能化酸化グラフェン、還元型機能化酸化グラフェン等が挙げられる。これらの中でも酸化グラフェンが好ましい。
【0018】
酸化グラフェンの酸化度には、特に制限はなく、公知の酸化グラフェンを用いることができる。酸化グラフェンの酸化度は、例えば、4~55%であってよく、4~50%であってよく、4~45%であってよく、4~40%であってよく、4~35%であってよく、4~30%であってよく、4~25%であってよく、4~20%であってよく、4~15%であってよく、4~10%であってよい。
【0019】
機能化酸化グラフェンは、酸化グラフェンの酸素含有官能基の一部が、他の官能基等によって化学修飾された構造を有する。公知の機能化酸化グラフェンを用いることができる。機能化酸化グラフェンとしては、例えば、アルキルアミン機能化酸化グラフェン、アンモニア機能化酸化グラフェン、アミン機能化酸化グラフェン、チオール機能化酸化グラフェン、アルキン機能化酸化グラフェン、グルコース機能化酸化グラフェン等が挙げられる。
【0020】
還元型酸化グラフェンの炭素/酸素比には、特に制限はなく、公知の還元型酸化グラフェンを用いることができる。還元型酸化グラフェンの炭素/酸素比は、例えば、90/10であってよく、75/35であってよい。
【0021】
機能化還元型酸化グラフェンは、還元型酸化グラフェンの酸素含有官能基の一部が、他の官能基等によって化学修飾された構造を有する。公知の機能化還元型酸化グラフェンを用いることができる。機能化還元型酸化グラフェンとしては、例えば、アミン機能化還元型酸化グラフェン、オクタデシルアミン機能化還元型酸化グラフェン、ピペラジン機能化還元型酸化グラフェン、テトラエチレンペンタアミン機能化還元型酸化グラフェン、グルコース修飾還元型酸化グラフェン等が挙げられる。
【0022】
本実施形態には、粉末、シート、液体等の形態の平面状グラフェンを用いることができる。これらの中でも粉末又は液体の形態の平面状グラフェンを用いることが好ましい。また、グラフェンを用いる際は、液体の形態の平面状グラフェンを用いることが好ましい。液体の形態の平面状グラフェンとして、溶媒又は分散媒に平面状グラフェンを溶解又は分散させたグラフェンインクを用いることができる。
【0023】
〔極性溶媒〕
本実施形態の炭素材料分散液に使用する極性溶媒は、改変クモ糸フィブロインを分散又は溶解し得るものであれば、いずれも使用することができる。極性溶媒としては、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン(DMI)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトニトリル、N-メチルモルホリンN-オキシド(NMO)、ギ酸、エチレングリコール、及びテトラヒドロフラン(THF)等の有機溶媒、及び水等が挙げられる。
【0024】
改変クモ糸フィブロインの溶解性をより良好にする観点からは、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジメチルスルホキシド及びギ酸がより好ましく、ジメチルスルホキシド及びギ酸がさらに好ましい。これらの有機溶媒は、水を含んでいてもよい。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0025】
〔カーボンブラックナノパーティクル〕
本実施形態の炭素材料分散液には、炭素材料として、平面状グラフェンの代わりに、又は平面状グラフェンとともに、カーボンブラックナノパーティクルを用いることができる。カーボンブラックナノパーティクルは、炭素で形成される微粒子である。カーボンブラックナノパーティクルとして、本実施形態には、平均粒子径が3μm未満の微粒子を用いることが好ましく、2μm未満の微粒子を用いることがより好ましく、1μm未満の微粒子を用いることがさらに好ましい。カーボンブラックナノパーティクルの製造方法には、特に制限はなく、例えば、ファーネス法、チャンネル法、アセチレン法、油煙法、及び松煙法等の公知の製造方法により製造されたカーボンブラックナノパーティクルを用いることができる。カーボンブラックナノパーティクルを炭素材料として用いる場合は、炭素材料分散液に使用する極性溶媒として、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、N-メチルモルホリンN-オキシド、ギ酸、エチレングリコール、テトラヒドロフランを挙げることができる。これらの溶媒を1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0026】
本実施形態の炭素材料分散液は、改変クモ糸フィブロインと炭素材料と極性溶媒を用いて調製する。分散液は、例えば、炭素材料と、極性溶媒とを混合分散機(例えば、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター、デゾルバーテ、ペイントシェーカー等)を用いて混合した後、改変クモ糸フィブロインを添加することで調製することができる。分散液は、改変クモ糸フィブロインと極性溶媒とを混合分散機を用いて混合した溶液に、炭素材料を添加して調製してもよく、炭素材料と極性溶媒とを混合分散機を用いて混合した溶液と、異なる極性溶媒に改変クモ糸フィブロインを溶解させた溶液とを混合して調製してもよい。本実施形態の炭素材料分散液は、液体形状であってもよく、ペースト又はゲルのような半固形状であってもよいが、液体形状であることが好ましい。
【0027】
本実施形態の炭素材料分散液における炭素材料の含有量の上限値は、改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して、25質量部以下であってよく、20質量部以下であってよく、15質量部以下であってよく、10質量部以下であってよく、5質量部以下であってよく、4質量部以下であってよく、3質量部以下であってよく、1質量部以下であってよい。
【0028】
本実施形態の炭素材料分散液における炭素材料の含有量の下限値は、改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して、0.01質量部以上であってよく、0.03質量部以上であってよく、0.05質量部以上であってよく、0.06質量部以上であってよく、0.07質量部以上であってよく、0.08質量部以上であってよく、0.09質量部以上であってよい。
【0029】
本実施形態の炭素材料分散液における炭素材料の含有量は、例えば、改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して、0.01質量部以上25質量部以下であってよく、0.05質量部以上25質量部以下であってよく、0.01質量部以上20質量部以下であってよく、0.05質量部以上20質量部以下であってよく、0.01質量部以上15質量部以下であってよく、0.05質量部以上15質量部以下であってよく、0.01質量部以上10質量部以下であってよく、0.05質量部以上10質量部以下であってよく、0.01質量部以上5質量部以下であってよく、0.05質量部以上5質量部以下であってよく、0.01質量部以上4質量部以下であってよく、0.05質量部以上4質量部以下であってよく、0.01質量部以上3質量部以下であってよく、0.05質量部以上3質量部以下であってよく、0.01質量部以上2質量部以下であってよく、0.05質量部以上2質量部以下であってよく、0.01質量部以上1質量部以下であってよく、0.05質量部以上1質量部以下であってよい。
分散液における炭素材料の含有量が上述の範囲であれば、炭素材料の分散性が良く、また操作性にも優れている。
【0030】
本実施形態の炭素材料分散液をそのままドープ液(紡糸原液)として用いる場合、ドープ液における炭素材料の含有量の上限値は、改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して、1質量部以下であることが好ましく、0.95質量部以下であってよく、0.9質量部以下であってよく、0.8質量部以下であってよく、0.7質量部以下であってよく、0.6質量部以下であってよく、0.5質量部以下であってよく、0.4質量部以下であってよく、0.3質量部以下であってよく、0.2質量部以下であってよい。また、ドープ液における炭素材料の含有量の下限値は、改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して、0.01質量部以上であってよく、0.03質量部以上であってよく、0.05質量部以上であってよく、0.06質量部以上であってよく、0.07質量部以上であってよく、0.08質量部以上であってよく、0.09質量部以上であってよい。また、ドープ液における炭素材料の含有量は、改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上1質量部以下であることが好ましく、0.01質量部以上1質量部未満であることがより好ましく、0.03質量部以上1質量部未満であることがさらに好ましく、0.05質量部以上1質量部未満であることが特に好ましく、0.05質量部以上0.95質量部以下であってよく、0.05質量部以上0.9質量部以下であってよく、0.05質量部以上0.8質量部以下であってよく、0.05質量部以上0.7質量部以下であってよく、0.05質量部以上0.6質量部以下であってよく、0.05質量部以上0.5質量部以下であってよく、0.05質量部以上0.4質量部以下であってよく、又は0.05質量部以上0.3質量部以下であってよく、0.05質量部以上0.2質量部以下であってよい。
【0031】
本実施形態の炭素材料分散液における改変クモ糸フィブロインの濃度は、分散液全量を100質量%としたとき、1~40質量%であってよく、1~35質量%であってよく、1~30質量%であってよく、1~25質量%であってよく、1~20質量%であってよく、1~15質量%であってよく、1~10質量%であってよく、1~5質量%であってよく、1~3質量%であってよく、1~2質量%であってよい。改変クモ糸フィブロインの濃度が1質量%以上であると、炭素材料の分散性を充分に向上させることができる。改変クモ糸フィブロインの濃度が40質量%以下であると、粘度の著しい増大による炭素材料の分散性の低下を避けることができる。
【0032】
本実施形態の炭素材料分散液をそのままドープ液(紡糸原液)として用いる場合には、改変クモ糸フィブロインの濃度は、ドープ液全量を100質量%としたとき、10~40質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましく、12~35質量%であることがより好ましく、15~35質量%であることがより好ましく、15~30質量%であることがより好ましく、20~35質量%であることがさらに好ましく、20~30質量%であることが特に好ましい。改変クモ糸フィブロインの濃度が10質量%以上であると、紡糸口金からドープ液をより一層安定的に吐出させることができ、生産性が向上する。改変クモ糸フィブロインの濃度が40質量%以下であると、紡糸口金からドープ液を吐出する際に紡糸口金の孔が閉塞するのを避けることができ、生産性が向上する。
【0033】
分散液は、溶解を促進するために、ある程度の時間撹拌又は振とうしてもよい。その際、分散液は必要により、使用する改変クモ糸フィブロイン及び極性溶媒に応じて溶解可能な温度に加熱してもよい。分散液は、例えば、30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、又は、90℃以上に加熱してもよい。加熱温度の上限は、例えば、極性溶媒の沸点以下である。
【0034】
本実施形態の分散液の粘度は、適宜設定してよい。分散液をドープ液(紡糸原液)として用いる場合には、乾式紡糸が可能な粘度であればよく、特に限定されないが、生産性の観点から、25℃において、3000~50000mPa・secであってよく、5000~50000mPa・secであってよく、5000~40000mPa・secであってよく、5000~30000mPa・secであってよく、5000~20000mPa・secであってよく、5000~15000mPa・secであってよく、5000~12000mPa・sec等であってよい。紡糸原液の粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名「EMS粘度計」を使用して測定することができる。
【0035】
〔無機塩〕
本実施形態の分散液は、無機塩を更に含有するものであってよい。無機塩は、極性溶媒に対する改変クモ糸フィブロインの溶解促進剤として用いることができる。無機塩は、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩であってよい。ルイス塩基としては、例えば、ハロゲン化物イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン等が挙げられる。無機塩としては、例えば、アルカリ金属ハロゲン化物、及びアルカリ土類金属ハロゲン化物等が挙げられる。アルカリ金属ハロゲン化物の具体例としては、塩化リチウム、臭化リチウム等が挙げられる。アルカリ土類金属ハロゲン化物の具体例としては、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。これらの無機塩の中でも、塩化リチウム及び塩化カルシウムが特に好ましい。分散液が無機塩を含有することにより、分散液の調製がより容易になり得る。
【0036】
無機塩の含有量は、分散液全量に対して、0.1質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、20質量%以下、16質量%以下、12質量%以下、又は9質量%以下であってよい。
【0037】
〔各種添加剤〕
分散液は、必要に応じて、各種の添加剤を更に含有していてよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、レベリング剤、架橋剤、結晶核剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、フィラー、合成樹脂が挙げられる。添加剤の含有量は、紡糸原液中の改変フィブロイン全量100質量部に対して、50質量部以下であってよい。
【0038】
〔改変クモ糸フィブロイン〕
原料となる改変クモ糸フィブロインは、特に限定されるものではなく、遺伝子組換え技術により微生物等で製造したフィブロインであってもよく、合成により製造されたフィブロインであってもよい。ただし、改変クモ糸フィブロインから、天然由来のクモ糸フィブロインは除かれる。
【0039】
本明細書において「改変クモ糸フィブロイン」とは、天然由来のクモ糸フィブロインとは異なるアミノ酸配列を有するクモ糸フィブロインを意味し、本明細書において「天然由来のクモ糸フィブロイン」とは、天然由来のクモ糸フィブロインと同一のアミノ酸配列を有するクモ糸フィブロインを意味する。
【0040】
天然由来のクモ糸フィブロインとしては、例えば、大吐糸管しおり糸タンパク質、横糸タンパク質、及び小瓶状腺タンパク質等のクモ類が産生するクモ糸フィブロインが挙げられる。大吐糸管しおり糸は、結晶領域と非晶領域(無定形領域とも言う。)からなる繰り返し領域を持つため、高い応力と伸縮性を併せ持つ。クモ糸の横糸は、結晶領域を持たず、非晶領域からなる繰り返し領域を持つという特徴を有する。横糸は、大吐糸管しおり糸に比べると応力は劣るが、高い伸縮性を持つ。
【0041】
大吐糸管しおり糸タンパク質は、クモの大瓶状腺で産生され、強靭性に優れるという特徴を有する。大吐糸管しおり糸タンパク質としては、例えば、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する大瓶状腺スピドロインMaSp1及びMaSp2、並びに二ワオニグモ(Araneus diadematus)に由来するADF3及びADF4が挙げられる。ADF3は、ニワオニグモの2つの主要なしおり糸タンパク質の一つである。ADF3に由来するクモ糸タンパク質は、比較的合成し易く、また、強伸度及びタフネスの点で優れた特性を有する。
【0042】
横糸タンパク質は、クモの鞭毛状腺(flagelliform gland)で産生される。横糸タンパク質としては、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する鞭毛状絹タンパク質(flagelliform silk protein)が挙げられる。
【0043】
クモ類が産生するクモ糸フィブロインの更なる例として、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。
【0044】
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0045】
本実施形態にかかる改変クモ糸フィブロインは、例えば、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であってもよい。本実施形態にかかる改変クモ糸フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0046】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16であってもよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、10~300の整数であってもよい。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0047】
改変クモ糸フィブロインは、例えば、天然由来のクモ糸フィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のクモ糸フィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のクモ糸フィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0048】
改変クモ糸フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ糸フィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0049】
改変クモ糸フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変クモ糸フィブロイン(第1の改変クモ糸フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減された改変クモ糸フィブロイン(第2の改変クモ糸フィブロイン)、(A)nモチーフの含有量が低減された改変クモ糸フィブロイン(第3の改変クモ糸フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変クモ糸フィブロイン(第4の改変クモ糸フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変クモ糸フィブロイン(第5の改変クモ糸フィブロイン)、及びグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変クモ糸フィブロイン(第6の改変クモ糸フィブロイン)が挙げられる。
【0050】
クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変クモ糸フィブロイン(第1の改変クモ糸フィブロイン)としては、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変クモ糸フィブロインは、式1中、nは3~20の整数が好ましく、4~20の整数がより好ましく、8~20の整数が更に好ましく、10~20の整数が更により好ましく、4~16の整数が更によりまた好ましく、8~16の整数が特に好ましく、10~16の整数が最も好ましい。第1の改変クモ糸フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10~200残基であることが好ましく、10~150残基であることがより好ましく、20~100残基であることが更に好ましく、20~75残基であることが更により好ましい。第1の改変クモ糸フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0051】
第1の改変クモ糸フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列である、タンパク質であってもよい。
【0052】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0053】
第1の改変クモ糸フィブロインのより具体的な例として、(1-i)配列番号4で示されるアミノ酸配列、又は(1-ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変クモ糸フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0054】
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1~13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0055】
(1-i)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0056】
グリシン残基の含有量が低減された改変クモ糸フィブロイン(第2の改変クモ糸フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変クモ糸フィブロインは、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0057】
第2の改変クモ糸フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0058】
第2の改変クモ糸フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0059】
第2の改変クモ糸フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0060】
第2の改変クモ糸フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0061】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列を含むクモ糸フィブロイン(改変クモ糸フィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、
図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)
nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
【0062】
第2の改変クモ糸フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0063】
第2の改変クモ糸フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ糸フィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のクモ糸フィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のクモ糸フィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0064】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0065】
第2の改変クモ糸フィブロインのより具体的な例として、(2-i)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、又は(2-ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変クモ糸フィブロインを挙げることができる。
【0066】
(2-i)の改変クモ糸フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のクモ糸フィブロインに相当する配列番号10で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
【0067】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のクモ糸フィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8~11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.3%である。
【0068】
(2-i)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0069】
(2-ii)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-ii)の改変クモ糸フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0070】
(2-ii)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0071】
第2の改変クモ糸フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変クモ糸フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0072】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0073】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0074】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変クモ糸フィブロインを精製することができる。
【0075】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変クモ糸フィブロインを回収することもできる。
【0076】
タグ配列を含む第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-iii)配列番号13、配列番号11、配列番号14若しく配列番号15で示されるアミノ酸配列、又は(2-iv)配列番号13、配列番号11、配列番号14若しく配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変クモ糸フィブロインを挙げることができる。
【0077】
配列番号16、配列番号17、配列番号13、配列番号11、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号18、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0078】
(2-iii)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0079】
(2-iv)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-iv)の改変クモ糸フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0080】
(2-iv)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0081】
第2の改変クモ糸フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0082】
(A)nモチーフの含有量が低減された改変クモ糸フィブロイン(第3の改変クモ糸フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0083】
第3の改変クモ糸フィブロインは、天然由来のクモ糸フィブロインから(A)nモチーフを10~40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0084】
第3の改変クモ糸フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1~3つの(A)nモチーフ毎に1つの(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0085】
第3の改変クモ糸フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)nモチーフの欠失、及び1つの(A)nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0086】
第3の改変クモ糸フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0087】
第3の改変クモ糸フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0088】
x/yの算出方法を
図1を参照しながら更に詳細に説明する。
図1には、クモ糸フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)
nモチーフ-第1のREP(50アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第2のREP(100アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第3のREP(10アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第4のREP(20アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第5のREP(30アミノ酸残基)-(A)
nモチーフという配列を有する。
【0089】
隣合う2つの[(A)
nモチーフ-REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)
nモチーフ-REP]ユニットが存在してもよい。
図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0090】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0091】
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの組を実線で示した。以下このような比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの組は破線で示した。
【0092】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)
nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。
図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0093】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0094】
第3の改変クモ糸フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9~11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8~3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0095】
第3の改変クモ糸フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変クモ糸フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0096】
第3の改変クモ糸フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ糸フィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ糸フィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のクモ糸フィブロインのアミノ酸配列から(A)nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0097】
第3の改変クモ糸フィブロインのより具体的な例として、(3-i)配列番号18、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、又は(3-ii)配列番号18、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0098】
(3-i)の改変クモ糸フィブロインについて説明する。配列番号18で示されるアミノ酸配列は、天然由来のクモ糸フィブロインに相当する配列番号10で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号18で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
【0099】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のクモ糸フィブロインに相当)のギザ比率1:1.8~11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号18で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.3%である。配列番号10、配列番号18、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0100】
(3-i)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0101】
(3-ii)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-ii)の改変クモ糸フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0102】
(3-ii)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3(ギザ比率が1:1.8~11.3)となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0103】
第3の改変クモ糸フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0104】
タグ配列を含む第3の改変クモ糸フィブロインのより具体的な例として、(3-iii)配列番号17、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列、又は(3-iv)配列番号17、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変クモ糸フィブロインを挙げることができる。
【0105】
配列番号16、配列番号17、配列番号13、配列番号11、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号18、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0106】
(3-iii)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0107】
(3-iv)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-iv)の改変クモ糸フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0108】
(3-iv)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0109】
第3の改変クモ糸フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0110】
グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変クモ糸フィブロイン(第4の改変クモ糸フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変クモ糸フィブロインのドメイン配列は、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変クモ糸フィブロインは、上述したグリシン残基の含有量が低減された改変クモ糸フィブロイン(第2の改変クモ糸フィブロイン)と、(A)nモチーフの含有量が低減された改変クモ糸フィブロイン(第3の改変クモ糸フィブロイン)の特徴を併せ持つ改変クモ糸フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変クモ糸フィブロイン、及び第3の改変クモ糸フィブロインで説明したとおりである。
【0111】
第4の改変クモ糸フィブロインのより具体的な例として、(4-i)配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、(4-ii)配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変クモ糸フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む改変クモ糸フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0112】
局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変クモ糸フィブロイン(第5の改変クモ糸フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0113】
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2~4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
【0114】
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
【0115】
第5の改変フィブロインは、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0116】
第5の改変クモ糸フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ糸フィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ糸フィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のクモ糸フィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0117】
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0118】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
【0119】
【0120】
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1~4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
【0121】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4-1=7。「-1」は重複分の控除である。)。例えば、
図2に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、
図2に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)
nモチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。
図2の場合28/170=16.47%となる。
【0122】
第5の改変クモ糸フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0123】
第5の改変クモ糸フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ糸フィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ糸フィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0124】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0125】
第5の改変クモ糸フィブロインの具体的な例として、(5-i)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列、又は(5-ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変クモ糸フィブロインを挙げることができる。
【0126】
(5-i)の改変クモ糸フィブロインについて説明する。配列番号22で示されるアミノ酸配列は、天然由来のクモ糸フィブロインの(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つになるよう欠失したものである。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号22で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、かつ配列番号22で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号23で示されるアミノ酸配列は、配列番号22で示されるアミノ酸配列に対し、各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつ配列番号22で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号23で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号23で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0127】
(5-i)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0128】
(5-ii)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-ii)の改変クモ糸フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0129】
(5-ii)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0130】
第5の改変クモ糸フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
【0131】
タグ配列を含む第5の改変クモ糸フィブロインのより具体的な例として、(5-iii)配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列、又は(5-iv)配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変クモ糸フィブロインを挙げることができる。
【0132】
配列番号24、配列番号25及び配列番号26で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0133】
(5-iii)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0134】
(5-iv)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-iv)の改変クモ糸フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0135】
(5-iv)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0136】
第5の改変クモ糸フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0137】
グルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変クモ糸フィブロイン(第6の改変クモ糸フィブロイン)は、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
【0138】
第6の改変クモ糸フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
【0139】
第6の改変クモ糸フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
【0140】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むクモ糸フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
【0141】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、クモ糸フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0142】
図3は、クモ糸フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。
図3を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、
図3に示したクモ糸フィブロインのドメイン配列(「[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、
図3のフィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0143】
第6の改変クモ糸フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
【0144】
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ-REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むクモ糸フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0145】
第6の改変クモ糸フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0146】
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
【0147】
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
【0148】
第6の改変クモ糸フィブロインは、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
【0149】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ-REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むクモ糸フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0150】
第6の改変クモ糸フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ糸フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0151】
第6の改変クモ糸フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ糸フィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ糸フィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0152】
第6の改変クモ糸フィブロインのより具体的な例として、(6-i)配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33若しくは配列番号43で示されるアミノ酸配列を含む、改変クモ糸フィブロイン、又は(6-ii)配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33若しくは配列番号43で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変クモ糸フィブロインを挙げることができる。
【0153】
(6-i)の改変クモ糸フィブロインについて説明する。
【0154】
配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)は、天然由来のフィブロインであるNephila clavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つにする等の生産性を向上させるためのアミノ酸の改変を行ったものである。一方、Met-PRT410は、グルタミン残基(Q)の改変は行っていないため、グルタミン残基含有率は、天然由来のフィブロインのグルタミン残基含有率と同程度である。
【0155】
配列番号27で示されるアミノ酸配列(M_PRT888)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVLに置換したものである。
【0156】
配列番号28で示されるアミノ酸配列(M_PRT965)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。
【0157】
配列番号29で示されるアミノ酸配列(M_PRT889)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0158】
配列番号30で示されるアミノ酸配列(M_PRT916)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。
【0159】
配列番号31で示されるアミノ酸配列(M_PRT918)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0160】
配列番号34で示されるアミノ酸配列(M_PRT525)は、Met-PRT410(配列番号7)に対し、アラニン残基が連続する領域(A5)に2つのアラニン残基を挿入し、Met-PRT410の分子量とほぼ同じになるよう、C末端側のドメイン配列2つを欠失させ、かつグルタミン残基(Q)13箇所をセリン残基(S)又はプロリン残基(P)に置換したものである。
【0161】
配列番号32で示されるアミノ酸配列(M_PRT699)は、M_PRT525(配列番号34)中のQQを全てVLに置換したものである。
【0162】
配列番号33で示されるアミノ酸配列(M_PRT698)は、M_PRT525(配列番号34)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0163】
配列番号43で示されるアミノ酸配列(Met-PRT966)は、配列番号9で示されるアミノ酸配列(C末端に配列番号42で示されるアミノ酸配列が付加される前のアミノ酸配列)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0164】
配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号43で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
【0165】
【0166】
(6-i)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0167】
(6-ii)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-ii)の改変クモ糸フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0168】
(6-ii)の改変クモ糸フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-ii)の改変クモ糸フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0169】
第6の改変クモ糸フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変クモ糸フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0170】
タグ配列を含む第6の改変クモ糸フィブロインのより具体的な例として、(6-iii)配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6-iv)配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変クモ糸フィブロインを挙げることができる。
【0171】
配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号43で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
【0172】
【0173】
(6-iii)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0174】
(6-iv)の改変クモ糸フィブロインは、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-iv)の改変クモ糸フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0175】
(6-iv)の改変クモ糸フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-iv)の改変クモ糸フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0176】
第6の改変クモ糸フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0177】
改変クモ糸フィブロインは、第1の改変クモ糸フィブロイン、第2の改変クモ糸フィブロイン、第3の改変クモ糸フィブロイン、第4の改変クモ糸フィブロイン、第5の改変クモ糸フィブロイン、及び第6の改変クモ糸フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変クモ糸フィブロインであってもよい。
【0178】
改変クモ糸フィブロインは、親水性改変クモ糸フィブロインであってもよく、疎水性改変クモ糸フィブロインであってもよい。疎水性改変クモ糸フィブロインとは、改変クモ糸フィブロインを構成する全てのアミノ酸残基の疎水性指標(HI)の総和を求め、次にその総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が0以上である改変クモ糸フィブロインである。疎水性指標は表1に示したとおりである。また、親水性改変クモ糸フィブロインとは、上記の平均HIが0未満である改変クモ糸フィブロインである。
【0179】
疎水性改変クモ糸フィブロインとしては、例えば、上述した第6の改変フィブロインを挙げることができる。疎水性改変クモ糸フィブロインのより具体的な例としては、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列を含む改変クモ糸フィブロインが挙げられる。
【0180】
親水性改変クモ糸フィブロインとしては、例えば、上述した第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、及び第5の改変フィブロインを挙げることができる。親水性クモ糸タンパク質のより具体的な例としては、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む改変クモ糸フィブロインが挙げられる。
【0181】
上述した改変クモ糸フィブロインは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0182】
改変クモ糸フィブロインは、例えば、当該改変クモ糸フィブロインをコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0183】
改変クモ糸フィブロインをコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、改変クモ糸フィブロインをコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等で増幅しクローニングする方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したクモ糸タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)等で自動合成したオリゴヌクレオチドをPCR等で連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、改変クモ糸フィブロインの精製及び/又は確認を容易にするため、N末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなる改変クモ糸フィブロインをコードする核酸を合成してもよい。
【0184】
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、目的とする改変クモ糸フィブロインを発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0185】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、改変クモ糸フィブロインをコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0186】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0187】
細菌等の原核生物を宿主として用いる場合は、発現ベクターは、原核生物中で自立複製が可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、改変クモ糸フィブロインをコードする核酸、及び転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0188】
原核生物としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する微生物を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0189】
原核生物を宿主とする場合、改変クモ糸フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0190】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0191】
真核生物を宿主とする場合、改変クモ糸フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0192】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0193】
改変クモ糸フィブロインは、例えば、形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に改変クモ糸フィブロインを生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。形質転換された宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0194】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、該宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、該宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0195】
炭素源としては、該宿主が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。
【0196】
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。
【0197】
無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0198】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0199】
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0200】
形質転換された宿主により生産された改変クモ糸フィブロインは、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法で単離及び精製することができる。例えば、改変クモ糸フィブロインが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0201】
上記クロマトグラフィーとしては、フェニル-トヨパール(東ソー)、DEAE-トヨパール(東ソー)、セファデックスG-150(ファルマシアバイオテク)を用いたカラムクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
【0202】
また、改変クモ糸フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変クモ糸フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変クモ糸フィブロインの不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変クモ糸フィブロインの精製標品を得ることができる。
【0203】
改変クモ糸フィブロインが細胞外に分泌された場合には、培養上清から改変クモ糸フィブロインを回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0204】
〔改変クモ糸フィブロイン繊維の製造方法〕
本実施形態に係る改変クモ糸フィブロイン繊維の製造方法は、上述した改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含む分散液を準備する工程と、当該分散液から原繊維を形成させる工程と、を少なくとも備える。
【0205】
本明細書において、「原繊維」とは、紡糸原液(ドープ液)として用いる分散液から、分散液の冷却、溶媒の蒸発(気化)、化学反応等により形成された繊維状の固体のことをいう。分散液から原繊維を形成させる工程は、上述した分散液を吐出させることを含んでいてもよく、上述した分散液から原繊維を引き出すことを含んでいてもよく、分散液を吐出させること及び分散液から原繊維を引き出すことの両方を含んでいてもよい。分散液から形成させた原繊維を、そのまま改変クモ糸フィブロイン繊維として任意の用途に用いてもよいし、後述する延伸等の加工を原繊維に対して施したものを改変クモ糸フィブロイン繊維としてもよい。
【0206】
本実施形態に係る改変クモ糸フィブロイン繊維の製造方法は、紡糸原液(ドープ液)として用いる分散液を脱泡する工程(脱泡工程)をさらに備えていてもよい。
【0207】
〔分散液からの原繊維の引き出し〕
本明細書において「原繊維を分散液から引き出す」とは、分散液の液体表面に対して、針等の器具の先の尖った先端を接触させ、該器具を分散液との接触点から離れる方向に引き抜くことにより、分散液と器具の先端との接触点から液体が、器具の先端に付着したまま、細く繊維状に伸びて引き出されることを意味する。繊維状に引き出された液体が固体に変化し、この繊維状の固体が原繊維となる。原繊維を引き出すことを、空気等の気体中でおこなってもよく、液体中でおこなってもよい。液体中でおこなう場合は、該液体は、分散液とは親和性の低い液体、例えば、非極性溶媒であることが好ましい。原繊維を引き出すことを気体中でおこなう場合には、分散液と器具との接触点は、気体/分散液の界面であってもよく、原繊維を引き出すことを液体中でおこなう場合には、分散液と器具との接触点は、該液体/分散液の界面であってもよい。原繊維を引き出すことによって、原繊維の繊維径をより細くすることができる。
【0208】
分散液と接触させる器具としては、分散液との接触点を小さく形成させるために先端が尖っているものが好ましく、例えば、針、ピペットチップ、ピンセット、串、楊枝、細い棒等を挙げられるが、これらに限定されない。また、器具の材質として、プラスチック、金属、ガラス、木等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0209】
器具を分散液との接触点から離れる方向に引き抜く速度を、分散液の粘度によって調整することが好ましい。また、引き抜く速度を一定とすることが好ましい。引き抜く速度を一定とすることで、繊維のよれ、たるみ又は切れ等を防止し、また、繊維径のばらつきを抑えることができる。引き抜く速度として、例えば、0.1cm/秒以上、0.1cm/秒~15m/秒、1cm/秒~5m/秒、3cm/秒~1m/秒、5cm/秒~50cm/秒、5cm/秒~35cm/秒が挙げられる。
【0210】
分散液に器具の先端を接着させて器具を引き抜いた直後には、原繊維の先端と器具の先端とは接着しているが、原繊維がいったん引き出された後には、器具の先端と原繊維の先端とが接着していなくともよい。例えば、原繊維の長さが5cm以上形成された後には、該原繊維を引っ張り続けることにより、器具の先端と原繊維の先端とが接着していなくとも、分散液から原繊維が引き出され続ける。繊維径を一定させるためには、好ましくは器具を引き抜く速度と同じ速度で、原繊維を引っ張り続けることが好ましい。
【0211】
〔分散液の吐出〕
本明細書において「分散液を吐出させる」とは、分散液に対して圧力を加えて又は加えないで、ノズルから分散液を吐出させることを意味する。ノズルを通って細く吐出された分散液が溶媒の蒸発(気化)、化学反応等によって固体となることにより、原繊維が形成される。分散液を吐出させる先は、空気中に吐出させてもよく、液体(凝固液)中に吐出させてもよい。
【0212】
ノズルから分散液を吐出する方法に特に制限はないが、例えば、紡糸原液の送液手段として定量ポンプを用いる方法を使用することができる。吐出量は生産速度に応じて適宜調整することができる。
【0213】
分散液を吐出させるノズルとして、紡糸口金を用いてもよい。紡糸口金の口金形状、ホール形状、ホール数などは特に限定されるものではなく、所望の繊維径及び単糸本数等に応じて適宜選択できる。
【0214】
紡糸口金のホール形状が円形である場合は、紡糸口金の孔径として0.01mm以上0.6mm以下を例示できる。孔径が0.01mm以上であると、圧力損失を低減することができ設備費用を抑えることができる。孔径が0.6mm以下であると、繊維径を細くするための延伸操作の必要性を低減することができ、吐出から巻き取りまでの間で延伸切れを起こす可能性を低減することができる。
【0215】
紡糸口金を通過する際の分散液の温度、及び紡糸口金の温度は、特に限定されるものではなく、用いる分散液の濃度及び粘度、分散液に含まれる極性溶媒の種類等により適宜調整すればよい。当該温度は、改変クモ糸フィブロインの劣化等を防止するという観点から、30℃~100℃が好ましい。また、当該温度は、溶媒の揮発による圧力上昇、分散液の固形化による配管内の閉塞が発生する可能性を低減するという観点から、用いる溶媒の沸点に満たない温度を上限とすることが好ましい。これにより工程安定性が向上する。
【0216】
なお、本実施形態においては、分散液を吐出させることと原繊維を引き出すことのどちらか一方をおこなって原繊維を形成してもよく、両方をおこなってもよい。分散液を吐出させること及び原繊維を引き出すことの両方をおこなう場合には、例えば、分散液をノズルから吐出させ、吐出された分散液に対して器具の先端を接触させ、該器具を分散液から離れる方向に引き抜き、接触点から原繊維を引き出すことによって、原繊維を形成させることができる。
【0217】
〔乾式紡糸法〕
乾式紡糸法は、紡糸原液(ドープ液)中の溶媒を蒸発(気化)させることによって紡糸(原繊維を形成)する方法である。上述のように、本実施形態においては、原繊維を形成させる際に、原繊維を分散液から引き出すことを空気等の気体中でおこなってもよく、また、分散液の吐出において、分散液を吐出させる先として、空気等の気体中に吐出させてもよい。このように気体中で原繊維を形成させる際には、分散液中の溶媒を蒸発させることにより、原繊維が形成される。すなわち、本実施形態においては、原繊維を形成させる工程において、乾式紡糸法によって原繊維を形成させてもよい。溶媒を蒸発させる方法として、熱風乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、自然乾燥等の公知の乾式紡糸法に用いられる乾燥方法を挙げることができる。ただし、本実施形態においては、形成される原繊維が極めて細径であるため、熱風乾燥、加熱乾燥、送風乾燥等の積極的な乾燥を行わなくとも、自然に溶媒が蒸発し、原繊維を形成することができ、効率がよい。
特に、分散液に含まれる炭素材料としてカーボンブラックナノパーティクルを用いる場合は、乾式紡糸法によって原繊維を形成させることが好ましい。
【0218】
〔巻き取り〕
形成された原繊維は、ワインダー等の巻き取り装置で巻き取ってもよい。巻き取り装置を用いることで、繊維を連続的に製造できる。また、原繊維を引き出した後、巻き取り装置で原繊維を巻き取ることで、原繊維を引き出し続けることができる。巻き取り装置として、ワインダーを用いてもよい。ワインダーでは、適宜張力及び接圧等の巻き取り条件を調整して巻き取ることができる。ワインダーとしては、公知のワインダーを用いてもよい。ワインダーを用いることで、原繊維の繊維径をコントロールできる。具体的には、巻き取り速度を速くすることで繊維径をより細くすることができ、巻き取り速度を遅くすることで繊維径の太い繊維も製造することができる。
【0219】
〔延伸工程〕
改変クモ糸フィブロイン繊維の製造方法は、形成させた原繊維を延伸する工程(延伸工程)を更に含むものであってよい。任意の延伸倍率に原繊維を延伸し、延伸して完成された繊維を本実施形態の改変クモ糸フィブロイン繊繊として任意の用途に用いることができる。延伸方法としては、湿熱延伸、乾熱延伸等をあげることができる。
【0220】
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、又はスチーム加熱中で行うことができる。湿熱延伸の温度は50~90℃であることが好ましく、75~85℃がより好ましい。該温度が50℃以上であると、繊維中の細孔径を小さく安定させることができる。また、温度が90℃以下であると、温度設定が容易であり紡糸安定性が向上する。
【0221】
湿熱延伸における延伸倍率は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、1~30倍であってよく、1~25倍であってよく、1~20倍であってよく、1~15倍であってよく、1~10倍であってよく、2~10倍であってよく、2~8倍であってよく、2~6倍であってよく、2~4倍であってよく、2~3倍であってよい。
【0222】
乾熱延伸は、接触型の熱板、及び非接触型の炉等の熱源を備えた装置を用いて、空気中で延伸することにより行うことができるが、装置は特に限定されるものではなく、繊維を所定の温度まで昇温させ、かつ所定の倍率で延伸が可能な装置であればよい。乾熱延伸を行う温度としては、例えば、100℃~270℃であってよく、140℃~230℃であってよく、140℃~200℃であってよく、160℃~200℃であってよく、160℃~180℃であってよい。
【0223】
乾熱延伸工程における延伸倍率は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、1~30倍であってよく、1~25倍であってよく、1~20倍であってよく、1~15倍であってよく、1~10倍であってよく、2~10倍であってよく、2~8倍であってよく、2~6倍であってよく、2~4倍であってよく、2~3倍であってよい。
【0224】
延伸工程は、湿熱延伸及び乾熱延伸を、それぞれ単独で行うものであってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行うものであってもよい。すなわち、延伸工程として、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を湿熱延伸で行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
【0225】
延伸工程を経た繊維の最終的な延伸倍率の下限値は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、又は9倍のうちの何れかであってよい。延伸工程を経た繊維の最終的な延伸倍率の上限値は、例えば、40倍、30倍、20倍、15倍、14倍、13倍、12倍、11倍、又は10倍のうちの何れかであってよい。また、例えば、最終的な延伸倍率は3~40倍であってよく、3~30倍であってよく、5~30倍であってよく、5~20倍であってよく、5~15倍であってよく、5~13倍であってよい。ただし、延伸倍率は、所望する繊維の太さ、機械物性などの特性が得られる範囲であれば限定されるものではない。
【0226】
延伸工程の前又は後に、必要に応じて、繊維に対して、帯電抑制性、収束性及び潤滑性等を付与する目的で油剤を付与してもよい。付与する油剤の種類及び付与する量等は、特に限定されるものではなく、繊維を使用する用途、繊維の取扱い性等を考慮し適宜調整することができる。
【0227】
以上のようにして、本実施形態に係る改変クモ糸フィブロイン繊維を製造することができる。上述の方法は一例であり、本実施形態に係る改変クモ糸フィブロイン繊維は、上述の方法以外によって製造されたものであってもよい。
【0228】
〔改変クモ糸フィブロイン繊維〕
本実施形態に係る改変クモ糸フィブロイン繊維は、改変クモ糸フィブロインと、一層又は二層以上の平面状グラフェン及びカーボンブラックナノパーティクルから選択される炭素材料とを含む繊維である。炭素材料の含有量は、改変クモ糸フィブロインの含有量を基準として、0.01質量部以上1質量部以下であってよく、0.01質量部以上1質量部未満であってよく、0.03質量部以上1質量部未満であってよく、0.05質量部以上1質量部未満であってよく、0.05質量部以上0.95質量部以下であってよく、0.05質量部以上0.9質量部以下であってよく、0.05質量部以上0.8質量部以下であってよく、0.05質量部以上0.7質量部以下であってよく、0.05質量部以上0.6質量部以下であってよく、0.05質量部以上0.5質量部以下であってよく、又は0.05質量部以上0.3質量部以下であってよい。
【0229】
改変クモ糸フィブロイン繊維の平均繊維径は、3μm以下であってよく、2μm以下であってよく、1~3μmであってよく、2~3μmであってよく、1~2μmであってよい。上述の本実施形態にかかる炭素材料分散液を用いることによって、極めて細い繊維径を有する改変クモ糸フィブロイン繊維を簡便に製造することができる。改変クモ糸フィブロイン繊維の繊維径は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。
【0230】
〔改変クモ糸フィブロイン不織布の製造方法〕
本実施形態にかかる改変クモ糸フィブロイン不織布の製造方法は、上述した、改変クモ糸フィブロインと、炭素材料と、極性溶媒と、を含む分散液を準備する工程と、前記分散液から原繊維を形成させる工程と、前記原繊維又は前記原繊維から製造された改変クモ糸フィブロイン繊維を絡合させる工程と、を少なくとも備える。製造された改変クモ糸フィブロイン不織布は、そのまま任意の用途に用いてもよい。原繊維を形成させる工程は、上述した分散液を吐出させることを含んでいてもよく、上述した分散液から原繊維を引き出すことを含んでいてもよく、分散液を吐出させること及び分散液から原繊維を引き出すことの両方を含んでいてもよい。また、本実施形態に係る改変クモ糸フィブロイン不織布は、原繊維又は原繊維から製造した改変クモ糸フィブロイン繊維を用いて、公知の不織布の製造方法により製造してもよい。具体的には、例えば、原繊維又は改変クモ糸フィブロイン繊維を用いて、乾式法、湿式法及びエアレイド法等でウェブ(単層ウェブ、積層ウェブを含む)を形成させた後、ケミカルボンド法(浸漬法、スプレー法等)及びニードルパンチ法等によりウェブの繊維間を結合させて、不織布を得ることができる。
【0231】
不織布の製造工程は、不織布の繊維密度を調整する工程(調整工程)をさらに備えていてもよい。繊維密度(目付)は、不織布の単位面積当たりの重量で定義される値である。不織布の繊維密度の調整は、例えば、ウェブを構成する繊維量を増減することで調整することができ、積層ウェブの場合は、積層数を増減することにより調整することができる。
【0232】
〔製品〕
本実施形態に係る改変クモ糸フィブロイン繊維を含む、各種の製品を製造することができる。このような製品としては、例えば、繊維、糸、布帛、編み物、組み物、不織布、紙、及び綿を挙げることができる。繊維としては、例えば、長繊維、短繊維、モノフィラメント、又はマルチフィラメント等を挙げることができ、糸としては、紡績糸、撚糸、仮撚糸、加工糸、混繊糸、又は混紡糸等を挙げることができる。さらに、これらの繊維や糸から、織物等の布帛、編物、組み物、若しくは不織布等、紙及び綿等を製造することができる。これらの製品は、公知の方法により製造することができる。
【0233】
〔炭素材料の分散方法〕
本発明はまた、改変クモ糸フィブロインと、改変クモ糸フィブロイン100質量部に対して25質量部以下の炭素材料と、極性溶媒と、を混合する工程を含む、炭素材料の分散方法も提供する。上記炭素材料は、上述したように、一層又は二層以上の平面状グラフェン及びカーボンブラックナノパーティクルから選択される。上記特定の炭素材料及び改変クモ糸フィブロインを特定の割合で、極性溶媒と混合することにより、上記炭素材料を長い時間均一に極性溶媒中に分散させることができる。また、該方法により分散された分散液は、操作性が容易であり、上記炭素材料を原料とする各種用途に好適に使用することができる。
【0234】
〔分散補助剤〕
本発明はまた、改変クモ糸フィブロインを含む、炭素材料を極性溶媒に分散させるための分散補助剤も提供する。上記炭素材料は、上述したように、一層又は二層以上の平面状グラフェン及びカーボンブラックナノパーティクルから選択される。改変クモ糸フィブロインにより、炭素材料の極性溶媒への分散性が向上する。すなわち、改変クモ糸フィブロインは、上記炭素材料の分散補助剤として使用することができる。
【0235】
〔細径化剤〕
本発明はまた、一層又は二層以上の平面状グラフェン及びカーボンブラックナノパーティクルから選択される炭素材料を含む、細径化された改変クモ糸フィブロイン繊維を製造するための細径化剤も提供する。上記特定の炭素材料は、改変クモ糸フィブロイン繊維を製造するにあたり、繊維径を極めて細くすることができる。すなわち、上記特定の炭素材料は、細径化された改変クモ糸フィブロイン繊維を製造するための細径化剤として使用することができる。
【実施例0236】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0237】
〔改変クモ糸フィブロインの製造〕
(1)発現ベクターの作製
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号15を有する改変クモ糸フィブロイン(以下、「PRT799」ともいう。)を設計した。なお、配列番号15で示されるアミノ酸配列は、ネフィラ・クラビペス由来のフィブロインのアミノ酸配列に対して、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施したアミノ酸配列を有し、さらにN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されている。
【0238】
次に、設計した配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する改変クモ糸フィブロインPRT799をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、それぞれタンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0239】
(2)改変クモ糸フィブロインの発現
(1)で得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0240】
【0241】
当該シード培養液を500mLの生産培地(表5)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【0242】
【0243】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、改変クモ糸フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする改変クモ糸フィブロインサイズのバンドの出現により、目的とする改変クモ糸フィブロインの発現を確認した。
【0244】
(3)改変クモ糸フィブロインの精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、改変クモ糸フィブロイン(PRT799)を得た。
【0245】
〔分散液の調製〕
(実施例1)
ギ酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)3.16gと酸化グラフェン(Sigma-Aldrich社製、製品番号:796034)1mgを混合し、超音波洗浄装置(BRANSON社製)を用いて、温度60℃で100分間超音波振動によりそれぞれ撹拌した。ただちに、上述の製造工程で得られた改変クモ糸フィブロイン(PRT799)1gを添加し、攪拌しながら40℃のアルミブロックヒーターで1時間加温して溶解させ、酸化グラフェンの分散液を調製した。改変クモ糸フィブロインの添加量は、分散液全量に対して24質量%とした。改変フィブロインに対する酸化グラフェンの割合は0.1質量%とした。
【0246】
(実施例2)
改変クモ糸フィブロインの添加量を分散液全量に対して5質量%とし、改変クモ糸フィブロインに対する酸化グラフェンの割合を0.5質量%とした他は、実施例1と同様にして分散液を調製した。具体的には、ギ酸の添加量を1.9gとし、改変クモ糸フィブロインの添加量を0.1gとし、酸化グラフェンの添加量を0.5mgとした。
【0247】
(実施例3)
改変クモ糸フィブロインの添加量を分散液全量に対して1質量%とし、改変クモ糸フィブロインに対する酸化グラフェンの割合を1質量%とした他は、実施例1と同様にして分散液を調製した。
【0248】
(実施例4)
ジメチルスルホキシド(富士フィルム和光純薬株式会社製)3.16gと酸化グラフェン1mgを混合し、超音波洗浄装置を用いて、温度60℃で100分間超音波振動によりそれぞれ撹拌した。ただちに、上記改変フィブロインの製造工程で得られた改変フィブロイン(PRT799)1gを添加し、攪拌しながら90℃のアルミブロックヒーターで3時間加温して溶解させ、酸化グラフェンの分散液を調製した。改変クモ糸フィブロインの添加量は、分散液全量に対して24質量%とした。改変フィブロインに対する酸化グラフェンの割合は0.1質量%とした。
【0249】
(実施例5)
改変クモ糸フィブロインの添加量を分散液全量に対して5質量%とし、改変クモ糸フィブロインに対する酸化グラフェンの割合を4質量%とした他は、実施例4と同様にして分散液を調製した。
【0250】
(実施例6)
改変クモ糸フィブロインの添加量を分散液全量に対して1質量%とし、改変クモ糸フィブロインに対する酸化グラフェンの割合を20質量%とした他は、実施例4と同様にして分散液を調製した。
【0251】
(比較例1)
比較例として、ギ酸単独溶媒に対する酸化グラフェンの分散性を評価した。改変クモ糸フィブロインを添加しなかった他は、実施例1と同様にして酸化グラフェン分散液を調製した。
【0252】
(比較例2)
比較例として、DMSO単独溶媒に対する酸化グラフェンの分散性を評価した。改変クモ糸フィブロインを添加しなかった他は、実施例4と同様にして酸化グラフェン分散液を調製した。
【0253】
〔分散性の評価〕
分散液における酸化グラフェンの分散性を評価した。分散性の評価は、撹拌後の分散液における酸化グラフェンの沈降物を目視で確認して行なった。表6に分散性の評価結果を示した。
分散性の評価基準は、以下のとおりである。
◎:攪拌後、1ヶ月以上静置しても分散状態を維持。
○:攪拌後、14日間以上静置しても分散状態を維持。
△:撹拌後、48時間以内に沈降。
×:撹拌後、24時間以内に沈降。
【0254】
【0255】
ギ酸単独溶媒、及びDMSO単独溶媒に酸化グラフェンを分散させた分散液(比較例1及び2)では、酸化グラフェンが48時間以内に沈降した。一方で、改変クモ糸フィブロインを添加した酸化グラフェンの分散液(実施例1~6)では、酸化グラフェンの分散状態を14日間以上維持し、非常に良好な分散性を示した。特に実施例1及び2においては酸化グラフェンの分散状態を1ヶ月以上維持し、極めて良好な分散性を示した。
【0256】
〔繊維の製造及び評価〕
(実施例7)
(1)ドープ液(紡糸原液)の調製
ギ酸3.16gと酸化グラフェン1mgを混合し、超音波洗浄装置を用いて、温度60℃で99分間超音波振動により撹拌し、酸化グラフェン/ギ酸分散液を調製した。ただちに、上記改変フィブロインの製造工程で得られた改変クモ糸フィブロイン(PRT799)1gを、酸化グラフェン/ギ酸分散液に添加し、攪拌しながら40℃のアルミブロックヒーターで2時間加温して溶解させ、ドープ液(分散液)を調製した。得られたドープ液は、粘性のある黒色の液体を呈し、25℃での粘度は6,230[mPa・sec]であった。改変クモ糸フィブロインの添加量は、ドープ液全量に対して24質量%とした。酸化グラフェンの添加量は、改変フィブロインに対して0.1質量%とした。
(2)乾式紡糸
乾式紡糸を、紡糸装置を使用して室温で行なった。調製した酸化グラフェン含有ドープ液(分散液)をシリンジに充填し、遠心分離により脱泡した。シリンジポンプを用いて、0.2mm径のモノホールノズルからドープ液を空気中に吐出させた。ノズル先端に液滴が形成されたところで、液滴の端に針の先端を接触させて、ドープ液を繊維状に引き出した。引き出した繊維をワインダーで巻き取ることで、ドラフトをかけながら連続的に繊維を形成させ、改変クモ糸フィブロイン繊維を得た。ワインダーの巻き取り速度は、最大速度の20.82m/分(34.7cm/秒)とした。
【0257】
(3)繊維径評価
上記(2)で得られた繊維を、SEM(Phenome ProX Desktop SEM、Thermo Fisher Scientific社製)を用い、加速電圧15kVの条件で、1700倍の倍率で観察した。得られたSEM画像をImageJソフトウェアのDiameterJプラグインを使用して解析することで、平均繊維径を算出した。
図4に実施例7で得られた改変クモ糸フィブロイン繊維のSEM画像を示した。表7に
図4のSEM画像の解析結果(繊維径)を示した。
なお、ImageJソフトウェアについては下記の文献に記載がある。
Schindelin, J.; Arganda-Carreras, I. & Frise, E. et al. (2012), “Fiji: an open-source platform for biological-image analysis”, Nature methods 9(7):p.676-682, PMID 22743772, doi:10.1038/nmeth.2019、
Schneider, C. A.; Rasband, W. S. & Eliceiri, K. W. (2012), “NIH Image to ImageJ: 25 years of image analysis”, Nature methods 9(7): 671-675, PMID 22930834。
また、DiameterJプラグインについては、下記の文献に記載がある。
Hotaling NA, Bharti K, Kriel H, Simon Jr. CG. DiameterJ: A validated open source nanofiber diameter measurement tool. Biomaterials 2015;61:p.327-38. doi:10.1016/j.biomaterials.2015.05.015。
【0258】
(比較例3)
(1)ドープ液の調製
比較例として、酸化グラフェンを含有しないドープ液を調製した。酸化グラフェンを添加しなかった他は、実施例7と同様の手順でドープ液を調製した。
(2)乾式紡糸
乾式紡糸を、実施例7と同様に卓上の紡糸装置を使用して室温で行なった。調製したドープ液をシリンジに充填し、遠心分離により脱泡した。シリンジポンプを用いて、0.2mm径のモノホールノズルからドープ液を空気中に吐出させた。ノズル先端に液滴が形成されたところで、液滴の端に針の先端を接触させ、ドープ液を繊維状に引き出そうと試みたが、ドープ液は液滴状のまま重力方向に落下するのみで、ドープ液を繊維状に引き出すことはできず、繊維を形成させることはできなかった。
【0259】
【0260】
表7に示すとおり、酸化グラフェンを添加していないドープ液(比較例3)においては、乾式紡糸により繊維を形成させることができなかったのに対し、酸化グラフェンを添加したドープ液(実施例7)においては、乾式紡糸により繊維を形成させることができた。さらに、得られた改変クモ糸フィブロイン繊維の平均繊維径は、2~3μmという細径であり、予想されない秀逸な結果を得ることができた。加えて、繊維径が極めて細径であったため、ドープ液から溶媒を脱離(気化)させるための加熱工程は不要であった。また、繊維の巻き取りをワインダーの最大速度で行ったが、糸切れが発生することはなかった。巻き取り速度をさらに高速にすることで、繊維の更なる細径化が可能であることが示唆された。
【0261】
〔不織布の製造及び評価〕
(実施例8)
(1)ドープ液(紡糸原液)の調製
上記実施例3と同様に、酸化グラフェン/ギ酸/改変クモ糸フィブロイン(PRT799)ドープ液を調製した。
(2)乾式紡糸
乾式紡糸は、市販のわたあめ菓子製造装置(株式会社アズマ製)を使用して行なった。装置の電源を入れ、わたあめ菓子製造装置の鍋の内部のディスク状回転部を回転させた。該ディスク状回転部とは、わたあめ菓子製造装置を用いて通常のようにわたあめを製造する際には、ザラメ等を投入する投入口の周囲の回転部のことである。調製した酸化グラフェン含有ドープ液をシリンジに充填し、遠心分離により脱泡した。シリンジポンプを用いて、0.2mm径のモノホールノズルからドープ液を空気中に吐出させ、ノズル先端に液滴が形成されたところで、該液滴をわたあめ菓子製造装置のディスク状回転部に接触させ、ディスク状回転部の回転を利用して繊維を連続的に形成させ、改変クモ糸フィブロイン不織布を得た。この製造方法により、実施例7に記載した繊維形成方法よりもより細径の繊維を得ることができた。
(3)繊維径評価
上記(2)で得られた不織布を、SEMを用い、加速電圧15kVの条件で1700倍の倍率で観察した。得られたSEM画像をImageJソフトウェアのDiameterJプラグインを使用して解析することで、平均繊維径を算出した。
図5に実施例8で得られた不織布のSEM画像を示した。表8に
図5のSEM画像の解析結果を示した。
(比較例4)
(1)ドープ液の調製
比較例として、酸化グラフェンを含有しないドープ液を調製した。酸化グラフェンを添加しなかった他は、実施例8と同様の手順でドープ液を調製した。
(2)乾式紡糸
調製したドープ液をシリンジに充填し、遠心分離により脱泡した。乾式紡糸は、実施例2と同様に、市販のわたあめ菓子製造装置を使用して行なった。装置の電源を入れ、回転鍋を回転させた。シリンジポンプを用いて、0.2mm径のモノホールノズルからドープ液を空気中に吐出させ、ノズル先端に液滴が形成されたところで、液滴をわたあめ菓子製造装置のディスク状回転部に接触させ、繊維の形成を試みたが、繊維を形成させることはできなかった。
【0262】
【0263】
表8に示すとおり、酸化グラフェンを添加していないドープ液(比較例4)においては、乾式紡糸により不織布を形成させることができなかったのに対し、酸化グラフェンを添加したドープ液(実施例8)においては、乾式紡糸により不織布を形成させることができた。さらに、得られた改変クモ糸フィブロイン不織布の平均繊維径は、1~2μmという細径であり、予想されない秀逸な結果を得ることができた。加えて、不織布の繊維径は十分に細径であったため、ドープ液から溶媒を脱離(気化)させるための加熱工程は不要であった。