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特開2022-24205ビリルビンオキシダーゼの保存方法、ビリルビンオキシダーゼ製品、および染毛剤
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  • 特開-ビリルビンオキシダーゼの保存方法、ビリルビンオキシダーゼ製品、および染毛剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024205
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】ビリルビンオキシダーゼの保存方法、ビリルビンオキシダーゼ製品、および染毛剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/06 20060101AFI20220202BHJP
   A61Q 5/10 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 8/66 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 8/9728 20170101ALI20220202BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20220202BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20220202BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C12N9/06
A61Q5/10
A61K8/66
A61K8/98
A61K8/9728
A61K8/49
A61K8/9794
A61K8/9789
A61K8/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018228206
(22)【出願日】2018-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000204686
【氏名又は名称】大関株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】加戸 悠
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】坪井 宏和
(72)【発明者】
【氏名】坊垣 隆之
(72)【発明者】
【氏名】仙波 弘雅
(72)【発明者】
【氏名】幸田 明生
(72)【発明者】
【氏名】橋本 一俊
(72)【発明者】
【氏名】植田 萌
(72)【発明者】
【氏名】辻野 義雄
【テーマコード(参考)】
4B050
4C083
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050DD03
4B050DD05
4B050KK01
4B050KK03
4B050KK07
4B050KK11
4B050KK12
4B050KK14
4B050KK15
4B050KK18
4B050KK20
4B050LL03
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA071
4C083AA072
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC851
4C083AC852
4C083AD471
4C083AD472
4C083BB60
4C083CC36
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ビリルビンオキシダーゼ(BOD)による酸化反応を阻害することがなく、かつ、BODを安定的に保存することができる、新規のBODの保存方法を提供すること。
【解決手段】本発明のBODの保存方法は、BODおよび特定の安定化剤を含むBOD溶液を、脱酸素雰囲気下において保存する方法であって、安定化剤は、ABTS初発吸光度(A436)減少率(%)が0.10%以上であり、かつ、DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)が0.80%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビリルビンオキシダーゼおよび安定化剤を含むビリルビンオキシダーゼ溶液を、脱酸素雰囲気下において保存することを特徴とする、ビリルビンオキシダーゼの保存方法:
ここで、上記安定化剤は、ABTS初発吸光度(A436)減少率(%)が0.10%以上であり、かつ、DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)が0.80%以下である。
【請求項2】
容器内にビリルビンオキシダーゼおよび安定化剤が含まれ、
上記容器内は脱酸素雰囲気であり、
上記安定化剤は、ABTS初発吸光度(A436)減少率(%)が0.10%以上であり、かつ、DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)が0.80%以下であることを特徴とする、ビリルビンオキシダーゼ製品。
【請求項3】
上記ビリルビンオキシダーゼおよび安定化剤は溶液状態である、請求項2に記載のビリルビンオキシダーゼ製品。
【請求項4】
請求項2または3に記載のビリルビンオキシダーゼ製品を含むことを特徴とする、染毛剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビリルビンオキシダーゼの安定的な保存方法に関する。また本発明は、長期間安定で、かつビリルビンオキシダーゼの酸化反応を阻害しないビリルビンオキシダーゼ製品、および当該ビリルビンオキシダーゼ製品を含む染毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビリルビンオキシダーゼ(以下、適宜「BOD」と略記する。)は、ビリルビンをビリベルジンに酸化させる反応を触媒する酵素であり、例えば、臨床検査の分野において、生体試料中のビリルビンの濃度を測定するために用いられている。またBODは、インドール類縁体を酸化する性質から、染毛剤への応用が期待されている。
【0003】
現在商業的に供給されているBOD製品は、酵素反応に好適なpHを与える緩衝剤、必要に応じて界面活性剤等の反応条件を制御する成分を含み、糖類や不活性タンパク質などの一般的な賦形剤などとともに凍結乾燥させた状態で流通されている。乾燥状態のBODは、使用時に界面活性剤や緩衝剤を含む指定の溶媒に溶解して使用される。製品に含まれるBODは乾燥状態では比較的安定であるが、いったん溶解した溶液状態では失活しやすいという問題点がある。たとえば、市販されているBOD試薬を、Tris-HSO(pH8.5)緩衝液中、5℃で保存した場合、96時間安定であるに過ぎない。
【0004】
また乾燥状態のBODは、使用の度に必要量を溶解する操作が必要であるため、使用時の工程数の増加、および、使用時にBODの粉体が飛散することによる作業者へのBODの暴露、などの問題点もある。またBOD製品は、流通コストの観点から常温で流通されることが望ましい。
【0005】
上記の事情に鑑み、BOD製品(特に溶液状態)のBODを安定的に保存する方法が検討されている。例えば、特許文献1では、還元剤(チオ硫酸ナトリウム)を用いたBODの安定化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-42869号公報(1998年2月17日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来技術は、用いた還元剤(チオ硫酸ナトリウム)がBODによる酸化反応を阻害する、という問題があった。本発明の一実施形態は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、BODによる酸化反応を阻害することがなく、BODを安定的に保存することができる、新規のBODの保存方法を提供することである。
【0008】
また本発明は、長期間安定で、かつBODの酸化反応を阻害しないBOD製品、および当該BOD製品を含む染毛剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、BODおよび特定の物質(後述する「安定化剤」)を含むBOD溶液を、脱酸素雰囲気下において保存することによって、上述した課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕ビリルビンオキシダーゼおよび安定化剤を含むビリルビンオキシダーゼ溶液を、脱酸素雰囲気下において保存することを特徴とする、ビリルビンオキシダーゼの保存方法:ここで、上記安定化剤は、ABTS初発吸光度(A436)減少率(%)が0.10%以上であり、かつ、DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)が0.80%以下である。
〔2〕容器内にビリルビンオキシダーゼおよび安定化剤が含まれ、上記容器内は脱酸素雰囲気であり、上記安定化剤は、ABTS初発吸光度(A436)減少率(%)が0.10%以上であり、かつ、DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)が0.80%以下であることを特徴とする、ビリルビンオキシダーゼ製品。
〔3〕上記ビリルビンオキシダーゼおよび安定化剤は溶液状態である、〔2〕に記載のビリルビンオキシダーゼ製品。
〔4〕上記〔2〕または〔3〕に記載のビリルビンオキシダーゼ製品を含むことを特徴とする、染毛剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、BODによる酸化反応を阻害することがなく、BODを安定的に保存することができるという効果を奏する。
【0012】
さらに驚くべきことに本発明の一実施形態によれば、BODの比活性が保存前よりも向上するという効果が得られた。これは本発明による、当業者が予期せぬ有利な効果に他ならない。
【0013】
また、本発明の一実施形態に係るBOD製品によれば、長期間安定で、かつBODの酸化反応を阻害しないため、当該BOD製品を含む染毛剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)および(b)は、本発明の範囲外の保存方法、または本発明の一実施形態に係る保存方法を用いてBODを保存した場合の、BODの残存活性をコントロールに対する相対値として示すグラフであり、(c)は、本発明の一実施形態に係る保存方法、または本発明の範囲外の保存方法を用いてBODを保存した場合のBODの残存活性を示す表である。
図2】本発明の一実施形態に係る安定化剤または比較物質によるABTS初発吸光度(A436)減少率(%)を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る安定化剤または比較物質によるDMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る染毛剤、または本発明の範囲外の染毛剤、による染毛試験を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0016】
本明細書中において、本発明の一実施形態に係るX(Xは任意の固有名詞、例えば保存方法、酵素溶液、BOD、安定化剤、など)を、単に「本X」と称する場合もある。
【0017】
〔1.本発明の概要〕
従来、BODの失活の原因は酸化に因るものと考えられており、BODを安定的に保存するためには還元剤が用いられていた。そして還元剤としては、還元力の比較的強い還元剤が好ましく用いられる傾向にあった。
【0018】
BODはビリルビンの濃度測定の用途以外にも種々の用途に用いられ得る。BODの用途の一例には、毛髪などのケラチン繊維を染色するための酸化染料に含まれる酸化触媒、としての用途が挙げられ、これは、BODがインドール類縁体を酸化する性質を利用している。本発明者らは、従来の方法によって保存されたBOD(すなわち還元剤を含んでいるBOD)を上記酸化触媒として用いた場合には、酸化染料にBODと共に添加された還元剤によって、BODのインドール類縁体に対する酸化が阻害され、その結果当該酸化染料の染毛性が阻害される、という問題点があることを初めて見出した。本発明者らは、かかる問題点を解決するために鋭意検討した。その結果、ABTS初発吸光度(A436)減少率(%)およびDMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)が特定の範囲内である物質を使用し、かつ、脱酸素雰囲気下にすることによって、BODを安定的に保存できるという新知見を見出し、本発明を完成させた。
【0019】
〔2.保存方法〕
本保存方法は、BODおよび安定化剤を含むBOD溶液を、脱酸素雰囲気下において保存する方法である。ここで、上記安定化剤は、ABTS初発吸光度(A436)減少率(%)が0.10%以上であり、かつ、DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)が0.80%以下である。
【0020】
本保存方法は上記構成を有することにより、BODが触媒する酸化反応を阻害することなく、溶液状態のBODを安定的に保存することが可能である。すなわち、本保存方法は、本保存方法で保存されたBOD溶液を様々な用途に使用した場合であっても、BODによる酸化反応は阻害されないという利点を有する。
【0021】
本明細書において特に言及しない限り「BOD溶液」は、少なくともBODおよび安定化剤を含んでいる溶液を意図する。なお、BOD溶液には、BODおよび安定化剤以外の物質が含まれていてもよい。
【0022】
本明細書において、「BODを安定的に保存する」とは、BODおよび特定の物質を含むBOD溶液の脱酸素雰囲気下の保存において、特定の物質を含まないBOD溶液を脱酸素雰囲気下にて保存したときと比較して、BODの活性をより高く維持した状態でBODを保存することをいう。本明細書において、上記特定の物質を、「安定化剤」という。なお、BODの活性は、当該BODを含む組成物の質量に対する活性(活性/質量)で表されることが多く、それ故に、活性を「比活性」と称する場合もある。
【0023】
本保存方法では、BODを長期間、安定的に保存することが好ましい。本保存方法では、安定化剤を含まないBOD溶液を保存したときと比較して、BODの活性をより高く維持した状態で、14日以上BODを保存することが好ましく、18日以上BODを保存することがより好ましく、21日以上BODを保存することがより好ましく、33日以上BODを保存することがさらに好ましく、35日以上BODを保存することが特に好ましい。
【0024】
本保存方法において、BODを保存するときの温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは20℃以下、特に好ましくは10℃以下である。
【0025】
本明細書において、BODの活性は、簡潔には、以下のように評価する。ABTS基質を含む溶液に対してBODを添加した後、37℃で反応させる。当該反応中、当該溶液の波長436nmにおける吸光度の増加量を経時的に測定することによって、評価する。具体的な測定および評価方法は後述する試験例において説明する。
【0026】
(2-1)BOD
本保存方法を適用可能なBODとしては、(1)任意の生物から得られる、公知のすべてのBOD(非組換えBOD)、(2)任意のBODをコードする遺伝子を生物体内または試験管内で発現させて得ることができる組換えBOD、(3)任意のBODのアミノ酸配列の置換、挿入および欠失等の変異によって得られる変異BOD、ならびに(4)BODの安定化およびBODの酵素活性の向上を目的とした、任意の担体で修飾したBOD、などを挙げることができる。上記生物としては、例えば、ミロセシウム属(例えばミロセシウム・ベルカリア)、ペニシリウム・ジャンシネラム、バチルス・リフェニフォルミス、コリネバクテリウム・グルタミカム、エシェリヒア・コリ、アガリカスビスポラス菌茸、スエヒロタケ、エビタケ、キク科植物、アルファルファ、シゾサッカロミセス・ポンベ、ピキア・パストリス、およびアスペルギルス属、などが挙げられるが、これらに限定されない。また、BODをコードする遺伝子の由来となる生物と、BODを得るために当該遺伝子を導入し、発現させる生物とは、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0027】
BODは、ミロセシウム属に由来するBODをコードする遺伝子を、生物体内または試験管内で発現させて得られた組換えBODであってもよい。例えば、組換えBODは、任意のBODをコードする遺伝子をアスペルギルス属に導入し、アスペルギルス属にて発現させて得られたBODであってもよい。より具体的には、組換えBODは、ミロセシウム属に由来するBODをコードする遺伝子を、アスペルギルス属に導入し、アスペルギルス属にて、発現させて得られたBODであることが好ましい。
【0028】
本保存方法において用いられるBODの濃度は、特に限定されず、当該BODの用途に応じて適宜設定され得る。
【0029】
(2-2)安定化剤
本安定化剤は、脱酸素雰囲気下にてBODを安定的に保存するために用いられる物質であり、安定化助剤ともいえる。本安定化剤は、ABTS初発吸光度(A436)減少率(%=波長436nmの吸光度の1分間あたりの減少率)が0.10%以上であり、かつ、DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)が0.80%以下である物質である限り、特に限定されるものではなく、任意の化合物、混合物、または組成物などを使用可能である。
【0030】
本安定化剤としては、天然由来の、無機塩類、炭水化物、アミノ酸、脂肪酸、脂質、タンパク質、およびペプチドなどからなる群から選択される少なくとも一つ以上の物質であることが好ましい。また、本安定化剤は、上述した群に列挙された物質の任意の組み合わせであってもよい。
【0031】
このような安定化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、(a)尿酸、グリオキシル酸などの無機物、および(b)ペプトン類(カゼインペプトン、獣肉ペプトン、心筋ペプトン、ゼラチンペプトン、および大豆ペプトンなど)、エキス類(肉エキス、魚エキス、植物エキス、麦芽エキス、および酵母エキス)、オリゴペプチド、コーンスティープリカー、大豆粉、小麦ふすまなどの有機物、からなる群から選択される少なくとも一つ以上の物質が挙げられる。
【0032】
上記無機物としては、例えば和光純薬社などから入手したものを使用できる。また、上記有機物としては、例えば、極東製薬工業社製麦芽エキス、極東製薬工業社製魚粉末エキス、極東製薬工業社製粉末酵母エキス、極東製薬工業社製極東ペプトン、極東製薬工業社製ペプトンA、極東製薬工業社製パティケース、極東製薬工業製ポテトペプトンCP、アサヒグループ食品社製の酵母エキス(例えばミーストP1GおよびイーストックS-Pd)、オリエンタル酵母工業社製のコーンスティープリカー(略して「CSL」ともいう。)、日本製薬社製のHipolypepton、不二製油社製の大豆オリゴペプチドであるハイニュートAM、昭和産業社製の大豆粉88、日本BD社製のTryptone、および日本BD社製Yeast Extract、などからなる群から選択される少なくとも一つ以上の物質が挙げられるが、これらに限定されない。本安定化剤が上記群から選択される少なくとも一つである場合には、当該安定化剤は、BODによる酸化反応を阻害することがなく、かつ、本保存方法は、BODを長期間安定的に保存することができる。本明細書中で列挙した種々の安定化剤は、単独で使用してもよく、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
また、本保存方法において、BOD溶液に含まれる安定化剤の最適な濃度は、BOD溶液中のBODの濃度、安定化剤の種類等によって変動し得る。このため、BOD溶液に含まれる安定化剤の最終濃度は、本発明の効果が得られる範囲で適宜設定すればよい。
【0034】
(2-3)脱酸素雰囲気
本保存方法においては、BODの酸化を防止する為に、BODが存在する雰囲気中にできるだけ酸素が存在しない状態(すなわち脱酸素雰囲気)であることが好ましい。このため、本保存方法においては、BODおよび安定化剤を含むBOD溶液が「脱酸素雰囲気」で保存される。本保存方法において「脱酸素雰囲気」とは、BOD溶液が保存される雰囲気における酸素濃度が、自然状態(換言すれば常温および常圧)で存在する酸素濃度よりも低い状態を意図する。
【0035】
本保存方法では、脱酸素雰囲気下においてBOD溶液を保存することによって、BODの酸化(すなわち酵素失活)を防ぐことができ、そのため、BODを安定的に保存することができるという利点を有する。
【0036】
本保存方法では、BODを安定的に保存する観点から、BOD溶液が保存される雰囲気における酸素濃度が、0.5体積%未満であることが好ましく、0.1体積%未満が特に好ましい。
【0037】
本保存方法では、脱酸素雰囲気を達成するための方法は特に限定されない。例えば、本保存方法では、(1)BOD溶液を保存する容器に脱酸素剤を設置することによって脱酸素雰囲気を達成してもよいし、(2)脱酸素剤の成分を有する材質から作製された容器中にBOD溶液を保存することによって脱酸素雰囲気を達成してもよいし、(3)容器中の酸素を不活性気体(窒素ガスや、アルゴン等の希ガス)で置換することによって脱酸素雰囲気を達成してもよいし、(4)真空または減圧条件下でBOD溶液を保存することにより脱酸素雰囲気を達成してもよい。これら脱酸素雰囲気を達成するための方法は、単独で使用してもよく、複数の方法を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
簡便さの観点からは上記(1)の方法が好ましい。上記(1)で用いられる脱酸素剤としては、例えば、三菱ガス化学社製エージレス(登録商標)、三菱ガス化学社製エージレスオーマック(登録商標)、三菱ガス化学社製アネロパック(登録商標)、鳥繁産業社製エバーフレッシュ、パウダーテック社製ワンダーキープ(登録商標)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
なお、本保存方法では、BODをさらに安定的に保存する観点から、BODを含むBOD溶液を脱酸素雰囲気下で保存することに加え、BOD溶液中の溶存酸素濃度を低溶存酸素状態(好ましくは0.2mg/L未満であり、特に好ましくは0.04mg/L未満)にすることが好ましい。BOD溶液中の溶存酸素濃度は、BOD溶液が保存される雰囲気における上述した好ましい酸素濃度下での、溶液における飽和酸素濃度以下であることがより好ましい。なお、溶液における飽和酸素濃度は溶液の温度に依存して変動し得る。例えば、空気雰囲気の酸素濃度が0.5体積%の場合、溶液における飽和酸素濃度は、25℃で0.2mg/Lであり、0℃で0.35mg/Lである。BOD溶液中の溶存酸素濃度の好ましい態様(低溶存酸素状態)は、BOD溶液に対して公知の脱気操作を行うことにより達成される。
【0040】
(2-4)ABTS初発吸光度減少率
本明細書において、ABTSを含む溶液(ABTS溶液)の波長436nmにおける吸光度を、ABTS初発吸光度(A436)とする。本明細書において、安定化剤のABTS初発吸光度(A436)減少率(%)とは、上記ABTS溶液および上記安定化剤を含む混合液の波長436nmにおける吸光度の、ABTS初発吸光度(A436)(100%)に対する1分間当たりの減少率(%)と定義する。なお、上記ABTS溶液は、光路長1.0cmにて、波長436nmにおける吸光度(A436)が約1.3となるように、ABTSの濃度が調整された溶液とする。ここで、「約1.3」とは、小数点以下第2位を四捨五入して得られた値が1.3となる範囲の値を意図する。具体的な測定方法は後述する試験例において説明する。ABTSは、2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)の略称である。
【0041】
本保存方法において、上記安定化剤のABTS初発吸光度(A436)減少率(%)を測定する際の、測定用のABTS溶液中の安定化剤の濃度は、(a)安定化剤が単一の化合物からなるような、安定化剤の分子量が明らかである場合、1mMとし、(b)安定化剤が、分子量が不明の組成物からなるような物質である場合、窒素元素含有量を基準とし、測定用のABTS溶液100mL中における安定化剤由来の窒素元素量が0.011gとなる濃度とする。なお、上記(b)において安定化剤の窒素含有量は、ケルダール法により算定した値とする。
【0042】
本安定化剤は、ABTS初発吸光度(A436)減少率(%)が、0.10%以上であればよい。上記ABTS初発吸光度(A436)減少率(%)は、0.25%以上であることが好ましく、0.50%以上であることがより好ましく、1.00%以上であることがさらに好ましく、3.00%以上であることが特に好ましい。上記構成によれば、BODをより安定的に、より長期間保存できるという利点を有する。
【0043】
(2-5)DMBQ初発吸光度(A256)減少率
本明細書において、DMBQを含む溶液(DMBQ溶液)に安定化剤を添加直後の混合液の波長256nmにおける吸光度を、DMBQ初発吸光度(A256)とする。本明細書において、安定化剤のDMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)とは、上記DMBQ溶液および上記安定化剤を含む混合液の波長256nmにおける吸光度の、DMBQ初発吸光度(A256)(100%)に対する1分間当たりの減少率(%)と定義する。なお、上記DMBQ溶液は、光路長1.0cmにて、波長256nmにおける吸光度(A256)が約1.8となるように、DMBQの濃度が調整された溶液とする。ここで、「約1.8」とは、小数点以下第2位を四捨五入して得られた値が1.8となる範囲の値を意図する。具体的な測定方法は後述する試験例において説明する。DMBQは、2,5-ジメチル-1,4-ベンゾキノンの略称である。
【0044】
本保存方法において、上記安定化剤のDMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)を測定する際の、測定用のDMBQ溶液中の安定化剤の濃度は、(a)安定化剤が単一の化合物からなるような、安定化剤の分子量が明らかである場合、0.1mMとし、(b)安定化剤が、分子量が不明の組成物からなるような物質である場合、窒素元素含有量を基準とし、測定用のDMBQ溶液100mL中における安定化剤由来の窒素元素量が0.0011gとなる濃度とする。なお、上記(b)において安定化剤の窒素含有量は、上記(2-4)の項と同様の方法で算定した値とする。
【0045】
本安定化剤は、DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)が、0.80%以下であればよい。上記DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)は、0.70%以下であることが好ましく、0.50%以下であることがより好ましく、0.20%以下であることがさらに好ましく、本明細書における測定方法において0.00%以下、すなわち検出限界以下であることが特に好ましい。
【0046】
(2-6)溶媒
本保存方法では、BODは安定化剤とともに溶液中に含まれる。BOD溶液を形成するための溶媒としては、本BODおよび本安定化剤を溶解できるものであれば特に限定されず、従来公知の溶媒を使用することができる。本溶媒は、本BODおよび本安定化剤を容易に溶解できる点から好ましくは水(例えば蒸留水)である。
【0047】
本BOD溶液は、本BOD溶液を用いる用途に合わせて、任意のpHを有してもよいが、本BOD溶液は、当該BOD溶液中に含有されるBODの立体構造を安定に保つために、pH6~10のpHを有することが好ましい。本BOD溶液は、所望のpHを有するために、緩衝剤を含むことが好ましい。上記緩衝剤としては、従来公知の緩衝剤を使用可能である。また、本BOD溶液は、所望のpHを有するために、従来公知の酸またはアルカリを用いて従来公知の方法でpHが調整され得る。
【0048】
(2-7)その他
本BOD溶液は、BODによる酸化反応を阻害することがなく、かつ、BODを安定的に保存することができる限り、BOD、安定化剤、および溶媒以外の任意の物質を含んでいてもよく、例えば、緩衝剤、酸、塩基、無機塩、有機塩、金属塩、糖類、アミノ酸、不活性タンパク質、ペプチド、脂肪酸、脂質、界面活性剤、および樹脂などを含んでいてもよい。
【0049】
(2-8)用途
本保存方法によって保存されたBOD溶液は、任意の用途に用いられ得る。例えば、染毛、生体試料中のビリルビンの濃度の測定、生体試料中のビリルビンの除去、化粧品、食品加工、酵素燃料電池(例えば、酵素バイオ電池、酵素電池、等)、およびタンパク質の架橋などに用いることができる。本保存方法に用いられる安定化剤は、BODによる酸化反応を阻害することがないため、本保存方法によって保存されたBOD溶液は、上述した用途の中でも、染毛に好適に使用できる。
【0050】
〔3.BOD製品〕
本発明の別の一実施形態は、容器内にBODおよび安定化剤が含まれ、上記容器内は脱酸素雰囲気であり、上記安定化剤は、ABTS初発吸光度(A436)減少率(%)が0.10%以上であり、かつ、DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)が0.80%以下である、BOD製品を提供する。
【0051】
本BOD製品に含まれる、BODおよび安定化剤は粉末等の固体状であってもよいが、適切な溶媒によって溶解された溶液(つまりBOD溶液)であることが好ましい。BODは溶液の状態で不安定であるが、本BOD製品によればBODが溶液状態であっても安定的に保存することができる。
【0052】
なお、本BOD製品に含まれる、BOD、安定化剤、および溶媒等の説明は上記〔2.保存方法〕の項の説明を援用することができる。また、本BOD製品は、上記(2-7)その他の項で説明した任意の物質をさらに含んでいてもよい。また、本BOD製品において、容器内の脱酸素雰囲気は、上記(2-3)脱酸素雰囲気の項で説明した脱酸素雰囲気を形成するための方法によって達成され得る。
【0053】
(3-1)容器
本BOD製品において用いられ得る容器は、少なくともBODおよび安定化剤を格納することができ、その容器内を脱酸素雰囲気にすることができる容器であれば、容器の材質、形状、大きさ等は限定されるものではない。容器の材質はガラス製であっても、樹脂製であってもよい。また瓶状であっても、袋状であってもよい。袋状の容器としてはファスナー付き樹脂製袋(例えばジップロック(登録商標)等)が利用可能である。容器の大きさは、格納されるBOD溶液の体積に応じて適宜、設計すればよい。
【0054】
本容器は、脱酸素状態を容易に保つために、酸素を透過しない材料(または透過しにくい材料)から構成された容器であることが好ましい。また、本容器は、脱酸素剤の性質を有する成分を含む材料から構成されていてもよい。また、本容器は、BODを安定的に保存することを可能とするために、半密閉容器であることが好ましく、あらゆる物質を透過させることがない密閉容器であることがより好ましい。
【0055】
本BOD製品では、BODおよび安定化剤を含む容器に、溶媒を加えることにより、BODおよび安定化剤を溶解して、BOD溶液としてもよい。それ故に、本BOD製品における容器は、上記溶媒に対して耐性を有する容器であることが好ましい。
【0056】
(3-2)本BOD製品の具体的態様の一例
本BOD製品の態様は特に限定されるものではないが、例えば容器が開閉可能な蓋を有する瓶形状であり、蓋部の内側にパッケージングされた脱酸素剤を備えており、容器内部にBODおよび安定化剤が格納されているという態様(態様A)であり得る。態様Aの場合、保存されるBODは液体状であってもよく、固体状であってもよい。固体状のBODが態様Aで保存される場合には、容器に溶媒を加えてBODおよび安定化剤を溶解することによりBOD溶液とした後であっても、BODの保存に用いた容器と同じ容器を用いて、引き続きBOD溶液を脱酸素雰囲気下で安定的に保存できる。
【0057】
BODおよび安定化剤が粉末等の固体状の場合は、パッケージングされた脱酸素剤は蓋部に備えられている必要はなく、BODおよび安定化剤と共に容器内に同封されていればよい。容器内の脱酸素剤によって、容器内部が脱酸素雰囲気となる。さらに、容器内の空気は窒素等の不活性気体に置換されていてもよい。
【0058】
またファスナー付き樹脂製袋内に、BOD、安定化剤、パッケージングされた脱酸素剤が格納される態様であってもよい。
【0059】
(3-3)用途
本BOD製品は、任意の用途に用いられ得る。例えば、染毛、生体試料中のビリルビンの濃度の測定、生体試料中のビリルビンの除去、化粧品、食品加工、酵素燃料電池(例えば、酵素バイオ電池、酵素電池、等)、およびタンパク質の架橋などに用いることができる。本BOD製品に含まれる安定化剤は、BODによる酸化反応を阻害することがないため、本BOD製品は上述した各種用途に好適に使用できる。
【0060】
〔4.染毛剤〕
本発明の別の一実施形態は、上記〔3.BOD製品〕の項で説明したBOD製品を含む、染毛剤を提供する。
【0061】
本染毛剤に含まれる、BOD、安定化剤、溶媒、容器、具体的態様は、上記〔2.保存方法〕および〔3.BOD製品〕の項の説明が援用され得る。
【0062】
(4-1)染毛性
本染毛剤に含まれるBOD製品に含まれている安定化剤は、BODによる酸化反応を阻害することがないため、本染毛剤は染毛性が良好である。
【0063】
本明細書において、「染毛性が良好である」とは、BODを含みかつ安定化剤を含まない染毛剤を用いた染毛試験後の白髪の色差(ΔE*ab)に対する、本BOD製品を含む染毛剤を用いた染毛試験後の白髪の色差(ΔE*ab)の差、すなわち色差の減少率(%)が5.0%以下であることを指す。すなわち、BODを含みかつ安定化剤を含まない染毛剤を用いた染毛試験後の白髪の色差(ΔE*ab)を100%とした場合の、本BOD製品を含む染毛剤を用いた染毛試験後の白髪の色差(ΔE*ab)の相対値(%)が、95.0%以上であることを指す。
【0064】
ここで、上記色差(ΔE*ab)は、無処理の白髪と染毛試験後の白髪との色の差をL*a*b*表色系を用いて表したものである。ここで、L*は明度を表す。0から100の数値があり、数値が高いほど明るいことを示す。また、a*は色彩を示す。-60~+60の数値があり、-であるほど緑を示し、+であるほど赤を示す。また、b*は色彩を示す。-60~+60の数値があり、-であるほど青を示し、+であるほど黄色を示す。色差、ΔE*abは[(ΔL)2+(Δa)+(Δb)1/2で算出される値であり、ヘアカラーの評価において一般的に使用される単位である。染毛試験については、後述する試験例で説明する。
【0065】
本発明の一実施形態では、上記色差の減少率(%)が5.0%以下であることが好ましく、4.0%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましく、2.0%以下であることが特に好ましい。
【実施例0066】
以下、実施例によって本発明の一実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例に限定されるものではない。
【0067】
本実施例で使用した本安定化剤、およびその他の物質(以下、比較物質と称する。)は以下の通りである。なお、グリオキシル酸のみ、水酸化カリウム溶液を用いて、pH7.0に調整し、本実施例にて使用した。
(安定化剤)
・尿酸(和光純薬社製)
・グリオキシル酸(和光純薬社製)
・粉末麦芽エキス(極東製薬工業社製)
・粉末魚エキス(極東製薬工業社製)
・粉末酵母エキス(極東製薬工業社製)
・CSL ソルリス095E(オリエンタル酵母工業社製)(表1~4、並びに図1、2および4ではCSLと表記)
・ミーストP1G(アサヒグループ食品社製)
・ペプトンA(極東製薬工業社製)
・大豆粉88(昭和産業社製)
・Yeast Extract(日本BD社製)
・パティケース(極東製薬工業社製)
・Hipolypepton(日本製薬社製)
・ペプトン(極東製薬工業社製)
・ハイニュートAM(不二製油社製)
(比較物質)
・尿素(和光純薬社製)
・硫酸アンモニウム(ナカライテスク社製)
・ジチオスレイトール(DTT)(和光純薬社製)
・チオグリコール酸アンモニウム(佐々木化学社製)
・システアミン塩酸塩(佐々木化学社製)
・グリセリルモノチオグリコレート(表1~3および図1~3ではGMTと表記)(佐々木化学社製)
・亜硫酸ナトリウム(和光純薬社製)
・グルタチオン(還元型)(和光純薬社製)
・L-システイン-塩酸塩(和光純薬社製)
・N-アセチル-L-システイン(和光純薬社製)
・L-アスコルビン酸(和光純薬社製)
(試験例1)本保存方法によるBODの保存
BODと、本安定化剤または比較物質と、を含むBOD溶液を一定期間、非脱酸素雰囲気下かつ5℃にて、または脱酸素雰囲気下かつ30℃にて、保存した。保存中、任意の時点でBODの残存活性を測定することにより、本保存方法によるBODの安定的な保存について評価した。
【0068】
試験例1では、BODとして、ミロセシウム・ベルカリアMT-1由来のBOD遺伝子(GenBankアクセッションナンバー:D12579.1)をアスペルギルス属に導入した後、当該アスペルギルス属で発現させた遺伝子組換えBOD(以下、単にBODとも称する)を、公知の技術を用いて精製した後、使用した。ミロセシウム・ベルカリアMT-1由来のBOD遺伝子は、アスペルギルス属の遺伝子配列に合わせてコドンの最適化を行った後、アスペルギルス属に導入した。また、BODは、当該BODの濃度が1.0mg/mLとなるように50mMグリシン-KOH(pH8.5)緩衝液に溶解し、BOD酵素溶液として使用した。
【0069】
BODの酵素活性は以下のように測定した。50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)1780μLに20mMのABTS基質溶液200μLを加えて混合溶液を作製し、当該混合溶液を37℃で1分間インキュベートした。その後、混合溶液にBODを含む溶液(具体的には後述する評価用BOD保存溶液)を20μL添加して37℃でインキュベートするとともに、評価用BOD保存溶液の添加直後(0秒)を含めて20秒間ごとに、当該混合溶液の波長436nmにおける吸光度を測定した。評価用BOD保存溶液の添加直後の混合溶液の波長436nmにおける吸光度、および評価用BOD保存溶液の添加から1分間経過後の混合溶液の波長436nmにおける吸光度から、評価用BOD保存溶液の添加後1分間あたりの、混合溶液の波長436nmにおける吸光度の増加率を算定した。当該増加率から、評価用BOD保存溶液におけるBODの活性を算出した。本明細書において、1分間あたり1μmolのABTSを酸化する酵素量を1ユニットと定義した。
【0070】
試験例1の具体的な試験方法は以下の通りである。BODを含むBOD酵素溶液に、上述した本安定化剤のうち1種を添加し、BOD保存溶液(本発明の一実施形態に係るBOD溶液である)を作製した。また、上記BOD酵素溶液に、上述した比較物質のうち1種を添加し、BOD保存溶液を作製した。さらに、上記BOD酵素溶液に安定化剤または比較物質の代わりに蒸留水を添加したBOD保存溶液を作製し、コントロール(表1および図1では無添加と表記)とした。なお、BOD保存溶液中の安定化剤または比較物質の量は、(a)安定化剤もしくは比較物質が単一の化合物からなるような、安定化剤もしくは比較物質の分子量が明らかである場合、BOD保存溶液中、安定化剤もしくは比較物質が40mMとなる量とし、(b)安定化剤もしくは比較物質が、分子量が不明の組成物からなるような物質である場合、BOD保存溶液100mL中、安定化剤もしくは比較物質由来の窒素元素量が0.44gとなる量とした。各BOD保存溶液における安定化剤または比較物質の最終濃度を、「mM」または「百分率(%)」(BOD保存溶液100mLに対する安定化剤または比較物質の量(g))として表1に示した。
【0071】
【表1】
【0072】
その後、これらBOD保存溶液の各々と脱酸素剤(三菱ガス化学社製アネロパック)とを一つの容器内に封入した後、容器を密閉し、BOD保存容器を作製した。非脱酸素雰囲気下かつ5℃にて、または脱酸素雰囲気下かつ30℃にて、当該BOD保存容器の保存を開始した。保存期間中、(a)保存開始から0、14、21および35日目に、または(b)保存開始から0、7、18および33日目に、同一のBOD保存容器からBOD保存溶液を採取し、評価用BOD保存溶液とした。ここで、評価用BOD保存溶液の採取のためにBOD保存容器を開封した後、再びBOD保存容器を密閉するとき、それまで使用していた脱酸素剤に代えて、新規の脱酸素剤をBOD保存溶液とともに封入した。
【0073】
評価用BOD保存溶液におけるBODの活性を上述する方法で測定した。BODの活性について、保存開始時(0日目)のBODの活性を100%としたときの、保存開始から所定の日数経過後のBODの活性の相対値を残存活性(%)として算出した。当該残存活性について、コントロールの評価用BOD保存溶液における残存活性を100%としたときの、その他の評価用BOD保存溶液における相対値(%)を図1の(a)および(b)に示した。また、保存開始時(0日目)のBODの活性(100%)、および保存開始から14日経過後のBODの残存活性(%)を、図1の(c)に示した。
【0074】
図1の(a)は、本発明の範囲外の保存方法にてBODを保存した場合、すなわち、非脱酸素雰囲気下かつ5℃においてBOD溶液を保存した場合の、BODの残存活性をコントロール(100%)に対する相対値(%)として示すグラフである。図1の(b)は、本発明の一実施形態に係る保存方法にてBODを保存した場合、すなわち、脱酸素雰囲気下かつ30℃においてBOD溶液を保存した場合の、BODの残存活性をコントロール(100%)に対する相対値(%)として示すグラフである。図1の(c)は、本発明の一実施形態に係る保存方法、または本発明の範囲外の保存方法を用いてBODを保存した場合の、BODの残存活性を示す表であり、保存開始時(0日目)および保存開始から14日経過後のBODの残存活性を示している。
【0075】
図1の(a)および(b)から、本安定化剤を含むBOD溶液を脱酸素雰囲気下にて保存した場合には、BOD溶液中のBODは、コントロール(無添加)と比較して、より高い酵素活性(残存活性)を有していることが分かった。すなわち、本保存方法は、BODを安定的に保存することができることが分かった。さらに驚くべきことに、図1の(c)に示すように、本保存方法によれば、BODの活性が保存前よりも向上することが分かった。一方、尿素、および硫酸アンモニウム、DTTおよびGMTを含むBOD溶液は、たとえ脱酸素雰囲気下で保存した場合であっても、無添加のBOD溶液とほぼ同じ残存活性を示すことが分かった。すなわち、これら尿素、および硫酸アンモニウム、DTTおよびGMTは、BODを安定的に保存できないことが分かった。
【0076】
(試験例2)安定化剤のABTS初発吸光度(A436)減少率の評価
試験例1で用いた本安定化剤および比較物質について、ABTS初発吸光度(A436)減少率(%)を評価した。
【0077】
具体的な評価方法は、以下の通りである。ABTSとしてはロシュ・ダイアグノティックス社製ABTSを用いた。ABTSの濃度が20mMとなるように、ABTSを50mMグリシン-KOH緩衝液(pH8.5)に溶解し、ABTS溶液を調製した。ABTS溶液の波長436nmにおける吸光度(ABTS初発吸光度(A436))を、分子吸光度計SpectraMax Plus384(日本モレキュラーデバイス社製)を用いて、光路長1.0cmにて測定したところ、吸光度は約1.3であった。次に、安定化剤溶液または比較物質溶液5μLを、ABTS溶液195μLに対して添加し、ABTS評価用反応溶液(以下、「反応溶液A」という。)を作製した。ここで、反応溶液A中の各安定化剤または比較物質の量は、(a)安定化剤もしくは比較物質が単一の化合物からなるような、安定化剤もしくは比較物質の分子量が明らかである場合、反応溶液A中、安定化剤もしくは比較物質が1mMとなる量とし、(b)安定化剤もしくは比較物質が、分子量が不明の組成物からなるような物質である場合、反応溶液A100mL中、安定化剤もしくは比較物質由来の窒素元素量が0.011gとなる量とした。反応溶液Aにおける安定化剤または比較物質の最終濃度を、「mM」または「百分率(%)」(反応溶液A100mLに対する安定化剤または比較物質の量(g))として表2に示した。
【0078】
続いて、反応溶液Aを25℃で1分間反応させた後に、反応溶液Aの波長436nmにおける吸光度を、ABTS溶液について使用した際と同型の分子吸光度計を用いて測定した。また、安定化剤溶液または比較物質溶液の代わりに蒸留水5μLを、ABTS溶液195μLに対して添加し、安定化剤または比較物質を含まない反応溶液Aを作製し、コントロール(表2および図2では無添加と表記)とした。以上のようにして得られた、ABTS初発吸光度(A436)と、反応溶液Aの波長436nmにおける吸光度とを比較した。ABTS初発吸光度(A436)(100%)に対する、反応溶液Aの安定化剤または比較物質を添加後の1分間当たりの吸光度減少率(%)を算定し、ABTS初発吸光度(A436)減少率(%)とした。結果を表2および図2に示した。
【0079】
【表2】
【0080】
表2は、ABTS溶液の波長436nmにおける吸光度に対する、本発明の一実施形態に係る安定化剤または比較物質を添加後の反応溶液Aの波長436nmにおける吸光度の1分間当たりの減少率(ABTS初発吸光度(A436)減少率(%))を示している。図2は、本発明の一実施形態に係る安定化剤または比較物質によるABTS初発吸光度(A436)減少率(%)、を示す図であり、具体的には、表2の結果をグラフとして示している。
【0081】
図2において、比較物質を含む反応溶液A、または安定化剤を無添加の反応溶液Aでは、ABTS初発吸光度が変化しないことが分かった。一方、本安定化剤を含む反応溶液Aは、ABTS初発吸光度減少率が0.10%以上であることが分かった。
【0082】
(試験例3)安定化剤のDMBQ初発吸光度(A256)減少率の評価
試験例1で用いた本安定化剤、および比較物質について、DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)を評価した。
【0083】
試験例3で用いた比較物質は、後述する表3および図3に記載の、安定化剤以外の物質である。試験例3で用いた、安定化剤は、尿酸、粉末麦芽エキス、粉末魚エキス、粉末酵母エキス、CSL、ミーストP1G、ペプトンA、大豆粉88、Yeast Extract、パティケース、Hipolypepton、ペプトンおよびハイニュートAMである。表3および図3において、試験例3で用いた安定化剤の各々は、「安定化剤」としてまとめて表記した。
【0084】
具体的な評価方法は、以下の通りである。DMBQとしては東京化成工業社製DMBQを用いた。まず、1mMのDMBQ溶液を作製した。1mMのDMBQ溶液の波長256nmにおける吸光度(A256)を、紫外可視分光光度計UV-160A(島津製作所社製)を用いて、光路長1.0cmにて測定したところ、吸光度は約1.8であった。次に、蒸留水890μLに、1mMのDMBQ溶液を100μL、および、安定化剤溶液または比較物質溶液を10μL添加し、DMBQ評価用反応溶液(以下、反応溶液Dとも称する)を作製した。ここで、反応溶液D中の各安定化剤または比較物質の量は、(a)安定化剤もしくは比較物質が単一の化合物からなるような、安定化剤もしくは比較物質の分子量が明らかである場合、反応溶液D中、安定化剤もしくは比較物質が0.1mMとなる量とし、(b)安定化剤もしくは比較物質が、分子量が不明の組成物からなるような物質である場合、反応溶液D100mL中、安定化剤もしくは比較物質由来の窒素元素量が0.0011gとなる量とした。反応溶液Dにおける安定化剤または比較物質の最終濃度を、「mM」または「百分率(%)」(反応溶液D100mLに対する安定化剤または比較物質の量(g))として表3に示した。また、安定化剤溶液または比較物質溶液の代わりに、蒸留水を10μL用いた反応溶液Dを作製し、コントロール(図3では無添加と表記)とした。
【0085】
【表3】
【0086】
反応溶液Dの波長256nmにおける吸光度を、(a)反応溶液Dの作製直後(すなわち、試験開始直後であり、図3の(a)では0分と表記)、および(b)反応溶液Dを25℃に放置した後10秒経過ごと、に紫外可視分光光度計UV-160Aを用いて、測定した。ここで、作製直後の反応溶液Dの波長256nmにおける吸光度をDMBQ初発吸光度(A256)とした。測定結果から、DMBQ初発吸光度(A256)(100%)に対する、反応溶液Dの安定化剤または比較物質の添加後(試験開始後)の1分間当たりの吸光度減少率(%)を算定し、DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)とした。結果を図3に示した。
【0087】
図3は、本発明の一実施形態に係る安定化剤または比較物質によるDMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)、を示す図である。具体的には、図3の(a)は、反応溶液Dの波長256nmにおける吸光度について、試験開始直後(0分)の吸光度を100%とした場合の、本発明の一実施形態に係る安定化剤または比較物質の添加後(試験開始後)の吸光度の相対的減少率(%)、を示す図である。図3の(b)は、反応溶液Dの波長256nmにおける吸光度について、試験開始直後(0分)の吸光度に対する、本発明の一実施形態に係る安定化剤または比較物質の添加後(試験開始後)の1分間当たりの吸光度減少率(%)(DMBQ初発吸光度(A256)減少率(%))、を示す図である。
【0088】
試験例3で用いた安定化剤の各々における、吸光度の相対的減少率(%)(図3(a))およびDMBQ初発吸光度(A256)減少率(%)(図3(b))の結果は全て同一であり、検出限界以下であった。
【0089】
(試験例4)
本発明の一実施形態に係る染毛剤を染毛に使用した場合の、染毛剤に含まれる安定化剤が染毛性に与える影響について、人毛白髪を用いた染毛試験を実施して評価した。対照試験として、本発明の一実施形態に係る染毛剤に代えて、L-アスコルビン酸およびBODを含む染毛剤を用いて同様の評価を行った。
【0090】
(染毛剤の調製)
POE(20)硬化ヒマシ油、乳酸、および酸化染料パラフェニレンジアミン(以下、PPDとも称する)をそれぞれ所定量の蒸留水に溶解した後、それらを混合することにより混合液を作製し、その後モノエタノールアミンを用いて当該混合液のpHをpH8.5に調整した。次に、上記混合液にL-アスコルビン酸または安定化剤、BOD酵素液、および蒸留水を加えることにより、染毛剤を調製した。また、L-アスコルビン酸または安定化剤を添加することなく染毛剤を調製し、コントロール(図4では無添加と表記)とした。
【0091】
ここで、L-アスコルビン酸は、染毛剤におけるL-アスコルビン酸の濃度が8mMとなるように、混合液に添加した。安定化剤としては、尿酸、粉末魚エキス、CSL、ミーストP1G、Yeast Extract、Hipolypeptonおよび粉末麦芽エキスを使用した。安定化剤は、染毛剤における安定化剤の濃度(染毛剤100g中の安定化剤の量(g))が表4に記載の濃度となるように、混合液に添加した。また、POE(20)硬化ヒマシ油、乳酸およびPPDは、染毛剤におけるPOE(20)硬化ヒマシ油、乳酸およびPPDの濃度が、染毛剤の100重量%に対して、それぞれ2.0重量%、1.0重量%、および0.3重量%となるように混合して用いた。
【0092】
(染毛試験)
人毛白髪(10cm、1g、ビューラックス製)(以下、毛髪ともいう)1本につき、上述のように作製した染毛剤2gを、当該毛髪に塗布した。塗布後、毛髪を30℃で10分間放置した後、毛髪を裏返して、さらに10分間毛髪を放置した。その後、毛髪を流水で水洗いし、1%SDSで洗浄したのち、流水で毛髪の1%SDSを洗い流した。洗浄後の毛髪の水分をタオルでふき取り、さらに毛髪を一晩風乾した。
【0093】
(色相評価)
色彩色差計CR-400(コニカミノルタ株式会社製)を使用し、2°視野にて、C光源を用いて測定した。測定結果に基づき、L*a*b*表色系を用いて無処理の白髪と染毛試験後の白髪との色差(ΔE*ab)を算定した。結果を図4および表4に示した。
【0094】
【表4】
【0095】
表4は、無添加の染毛剤を用いた場合の色差(ΔE*ab)を100(%)とした場合の、L-アスコルビン酸または本安定化剤を含む染毛剤を用いた場合の色差(ΔE*ab)の相対値(%)を示している。図4は、L-アスコルビン酸を含む染毛剤、または本安定化剤を含む染毛剤(すなわち本染毛剤)を用いた場合の染毛試験の結果を示している。具体的には、図4の(a)は、各種染毛剤による染毛後のサンプルの写真図である。無処理は、染毛試験が行われていない白髪である。図4の(b)は、染毛後の白髪の色相評価の結果(色差(ΔE*ab))を示している。
【0096】
図4および表4から、以下のことが分かった。無添加の染毛剤を用いた場合の色差(ΔE*ab)を100(%)とした場合の、本安定化剤を含む染毛剤を用いた場合の色差(ΔE*ab)の相対値(%)は95.0%以上であった。すなわち、本安定化剤を含む染毛剤は、染毛性をほとんど阻害しなかった。一方、無添加の染毛剤を用いた場合の色差(ΔE*ab)を100(%)とした場合の、L-アスコルビン酸を含む染毛剤を用いた場合の色差(ΔE*ab)の相対値(%)は76.0%であった。すなわち、L-アスコルビン酸は染毛阻害性が高いことが分かった。
【0097】
以上の結果より、本保存方法は、BODとともに、本発明の一実施形態に係る安定化剤を含むBOD溶液を、脱酸素雰囲気下において保存することによって、BODを安定的に保存することができる、ということが示された。また、本安定化剤を染毛剤に使用した場合、換言すれば、本BOD製品を含む本染毛剤を使用した場合、無添加の染毛剤を用いた場合と比較して、染毛試験後の白髪の色差の減少率が5%以下であった。従って、本染毛剤に含まれる本安定化剤は、染毛に影響を与えないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の一実施形態によれば、BODによる酸化反応を阻害することがなく、かつ、BODを安定的に保存することができる。従って、本発明は、染毛の分野、臨床検査の分野、化粧品の分野、酵素燃料電池(例えば、酵素バイオ電池、酵素電池、等)分野、および食品加工分野等BODを利用する広範な分野において好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4