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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024267
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】銀合金及び銀合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 5/06 20060101AFI20220202BHJP
   C22F 1/14 20060101ALI20220202BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20220202BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20220202BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C22C5/06 Z
C22F1/14
C23C26/00 B
C22C13/00
C22F1/00 613
C22F1/00 614
C22F1/00 630C
C22F1/00 640A
C22F1/00 650A
C22F1/00 650Z
C22F1/00 651Z
C22F1/00 661A
C22F1/00 673
C22F1/00 675
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120417
(22)【出願日】2020-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】507025641
【氏名又は名称】株式会社ミスティー・コレクション
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【弁理士】
【氏名又は名称】江森 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】宗形 正美
(72)【発明者】
【氏名】宗形 幸太郎
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA06
4K044AB10
4K044BA06
4K044BA08
4K044BB01
4K044BC02
4K044BC06
4K044BC09
4K044BC14
4K044CA07
4K044CA15
4K044CA18
4K044CA64
(57)【要約】
【課題】銀含有量が99重量%以下において、高いビッカース硬度や低体積抵抗率を長期間にわたって示す銀合金及びそのような銀合金の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】銀合金及びそのような銀合金の効率的な製造方法において、銀含有量が、全体量に対して99重量%以下であって、ビッカース硬度を75HV以上の値とし、かつ、XRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピークの高さをh1とし、2θ=44°±0.4°のピークの高さをh2としたとき、h2/h1の値を0.2以上とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀含有量が、全体量に対して99重量%以下であって、ビッカース硬度を75HV以上の値とし、かつ、XRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピークの高さをh1とし、2θ=44°±0.4°のピークの高さをh2としたとき、h2/h1の値を0.2以上とすることを特徴とする銀合金。
【請求項2】
前記銀合金のビッカース硬度を100HV以上とし、かつ、
前記銀合金の、XRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピークの高さをh1とし、2θ=44°±0.4°のピークの高さをh2としたとき、h2/h1の値を1.0以上とすることを特徴とする請求項1に記載の銀合金。
【請求項3】
前記銀合金上に、さらにメッキ層を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の銀合金。
【請求項4】
前記銀合金のビッカース硬度をHvとし、前記銀合金のXRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=44°±0.4°のピークの半値幅をW2としたときに、Hv×W2の値を20以上の値とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の銀合金。
【請求項5】
前記銀合金のビッカース硬度をHvとし、前記銀合金のXRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピークの半値幅をW1とし、2θ=44°±0.4°のピークの半値幅をW2としたときに、Hv×(W1/W2)の値を50以上とすることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の銀合金。
【請求項6】
体積抵抗率が2μΩ・cm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の銀合金。
【請求項7】
前記銀合金が、電極部材、伝熱製品、回路部材、半田代替材、反射材、医療器具、装身具、装飾品、銀粘土のいずれか1つであることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の銀合金。
【請求項8】
銀含有量が、全体量に対して、99重量%以下の銀合金の製造方法であって、下記工程(1)~(2)を含むことを特徴とする銀合金の製造方法。
(1)所定形状を有する銀合金を準備する工程
(2)所定形状を有する銀合金を磁気バレル処理、プレス加工、及びメッキ処理の少なくとも一つの表面処理により加工硬化させて、所定形状を有する銀合金のビッカース硬度を75HV以上とし、かつ、銀合金のXRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピークの高さをh1とし、2θ=44°±0.4°のピークの高さをh2としたとき、h2/h1の値を0.2以上とする工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀合金及び銀合金の製造方法に関する。
特に、銀含有量が、全体量に対して99重量%以下において、高いビッカース硬度や低体積抵抗率を長期間にわたって示す銀合金(但し、一部合金化されていない部分を含む場合もある。以下、同様である。)及びそのような銀合金の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀宝飾品等の銀合金には、92.5重量%の銀と、7.5重量%の銅とからなる銀合金であるSV925を用いることが主流であった。
このSV925は、高硬度を付与する観点から、所定量の銅等を含むため、ピアスやリング等の銀合金が直接皮膚に触れた際の、金属アレルギーの発生や金属腐食、あるいは変色の原因となっていた。
また、SV925のビッカース硬度は70Hv程度であって、宝飾品用途を含む多用途において、銀合金の硬度としては未だ不十分であって、所望範囲に制御しにくいという問題も見られた。
【0003】
また、金属腐食の発生等の低下を目的として、純銀や99.9重量%以上の純度を有する銀合金であるSV999から形成されてなる銀合金も提案されている。
しかしながら、純銀やSV999は、そのビッカース硬度(以下、単に、Hvと称する場合がある。)が25~30Hv程度とさらに低く、かつ、加工性が悪いばかりでなく、その形状を長時間にわたって維持することが困難であるといった問題があった。
【0004】
そのため、99.9重量%以上の純度を有するSV999に、微小量のAlを配合し、鋳造して鋳物とした後、再度溶融して成形することにより、所定以上のビッカース硬度を有するAg合金の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
より具体的には、99.9重量%以上の純度を有する銀(Ag)100重量部と、微小量のアルミニウム(Al)を溶解炉に入れて、鋳造して鋳物とした後、再度溶融して成形することにより、微小量のAlをAgで被覆してなる、ビッカース硬度を50Hv以上とするAg合金の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6302780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された銀合金等においては、99.9重量%以上の純度を有するAg100重量部に対して、微小量のAlをAgで被覆して鋳造し、鋳物とした後、再度溶解して成形する必要があった。
そのため、Alの均一分散が困難となったり、製造コストが高くなって、経済的にも不利になったりするという問題が見られた。
また、得られるAg合金のビッカース硬度が50Hv以上であって、より具体的には、Alの配合量が0.05重量%において、約63Hvであり、Alの配合量が0.09重量%であっても、約83Hvであった。
したがって、それぞれビッカース硬度としては未だ不十分であり、しかも、所望範囲に長時間にわたって制御することが困難であった。
その上、得られるAg合金においては、0.05重量%や0.09重量%等のAlを含有していることから、体積抵抗率が増加したり、金属腐食が生じたり、さらには、変色が生じたりするなどの問題点が見られた。
【0007】
そこで、本発明の発明者らは、鋭意検討した結果、所定濃度の銀含有量である銀合金において、Al等を実質的に配合することなく、所定の結晶構造に調整することにより、高いビッカース硬度や低い体積抵抗率が長期間にわたって得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は、ビッカース硬度や体積抵抗率を、所望範囲に制御し、高温条件においても、長期間にわたって維持できる銀合金、及びそのような銀合金の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、銀含有量が、全体量に対して、99重量%以下であって、ビッカース硬度を75HV以上の値とし、かつ、XRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピークの高さをh1とし、2θ=44°±0.4°のピークの高さをh2としたとき、h2/h1の値を0.2以上とすることを特徴とする銀合金が提供され、上述した問題を解決することができる。
すなわち、本発明の銀合金によれば、銀含有量が所定量であって、かつ、所定の結晶構造を有する銀合金から形成してあることから、各種用途に対応して、ビッカース硬度や体積抵抗率を容易に所望範囲に制御することができ、高温条件等においても、長期間にわたって維持することができる。
【0009】
また、本発明の銀合金を構成するにあたり、銀合金のビッカース硬度を100HV以上の値とし、かつ、銀合金のXRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピークの高さをh1とし、2θ=44°±0.4°のピークの高さをh2としたとき、h2/h1の値を1.0以上とすることが好ましい。
このように構成することで、例えば、銀合金がプレス処理され、さらに、メッキ処理された銀合金の地金に由来し、所定のバレル処理等を施された場合に、相当高いビッカース硬度や体積抵抗率を、高温条件であっても長期間にわたって所望範囲に制御することができる。
【0010】
また、本発明の銀合金を構成するにあたり、当該銀合金上に、さらにメッキ層を有することが好ましい。
このように構成することにより、メッキ層を備えた銀合金において、銀合金の結晶構造に対応して、メッキ層においても同様の結晶構造が生成され、さらに高いビッカース硬度を得ることができる。
その上、メッキ層が、銀合金の表面の凹凸に入り込むため、その後、表面研磨処理を実施することにより、光沢度や平滑度がさらに高い銀合金を得ることができる。
【0011】
また、本発明の銀合金を構成するにあたり、銀合金のビッカース硬度をHvとし、銀合金のXRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=44°±0.4°のピークの半値幅をW2としたときに、Hv×W2の値を20以上の値とすることが好ましい。
このように銀合金の結晶構造を示すピークの半値幅まで考慮して、結晶構造を制御することにより、銀合金の結晶構造がより好適な状態となって、銀合金のビッカース硬度や体積抵抗率を、さらに精度良く制御し、高温条件等においても、長期間にわたって、所望範囲に維持することが出来る。
【0012】
また、本発明の銀合金を構成するにあたり、銀合金のビッカース硬度をHvとし、銀合金のXRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピークの半値幅をW1とし、2θ=44°±0.4°のピークの半値幅をW2としたときに、Hv×(W1/W2)の値を50以上とすることが好ましい。
このように銀合金の結晶構造を示す複数ピークの半値幅の比まで考慮して、結晶構造を制御することにより、銀合金の結晶構造がさらに好適な状態となって、銀合金のビッカース硬度や体積抵抗率を、さらに精度良く制御し、高温条件等においても、長期間にわたって、所望範囲に維持することが出来る。
【0013】
また、本発明の銀合金を構成するにあたり、体積抵抗率を2μΩ・cm以下の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、加工後の銀合金の導電性をより高めることができ、ひいては、各種導電製品の全体又は一部として、良好な導電性や帯電防止性を発揮することができる。
【0014】
また、本発明の銀合金を構成するにあたり、当該銀合金が、電極部材、伝熱製品、回路部材、半田代替材、反射材、医療器具、装身具、装飾品、銀粘土のいずれか1つであることが好ましい。
すなわち、本発明の銀合金であれば、所定の結晶構造を有することから、銀合金の硬化性を容易に制御することができ、ひいては加工後において、優れた加工性を維持したまま、さらには金属腐食が少ない電極部材や回路部材等を得ることができる。
【0015】
また、本発明の別の態様は、銀含有量が、全体量に対して、99重量%以下の銀合金の製造方法であって、下記工程(1)~(2)を含むことを特徴とする銀合金の製造方法である。
(1)所定形状を有する銀合金を準備する工程
(2)所定形状を有する銀合金を磁気バレル処理、プレス加工、及びメッキ処理の少なくとも一つの表面処理により加工硬化させて、所定形状を有する銀合金のビッカース硬度を75HV以上とし、かつ、銀合金のXRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピークの高さをh1とし、2θ=44°±0.4°のピークの高さをh2としたとき、h2/h1の値を0.2以上とする工程
すなわち、本発明の銀合金の製造方法によれば、磁気バレル処理等によって、所定の結晶構造を形成してあることから、各種用途に対応して、高いビッカース硬度や低体積抵抗率を所望範囲に制御することができる。
そして、高温条件等においても、長期間にわたって、所定硬度や体積抵抗率を維持する銀合金を効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(a)は、銀合金(実施例1相当)のXRD分析によって得られるX線回折チャートであり、図1(b)は、銀合金(比較例1相当)のバレル処理前のXRD分析によって得られるX線回折チャートである。
図2図2は、銀合金のビッカース硬度(初期値)と、XRD分析によって得られるX線回折チャートの所定ピークの高さ(h1、h2)の比率(h2/h1)との関係性を示す図である。
図3図3(a)~(b)は、メッキ処理、及びプレス処理をしていない銀合金に対するバレル処理による加工時間を変えた場合の、銀合金のビッカース硬度(初期値)の変化と、銀合金のビッカース硬度(エージング後)の変化と、を示す図である。
図4図4(a)~(b)は、メッキ処理、及びプレス処理を施した銀合金に対するバレル処理による加工時間を変えた場合の、銀合金のビッカース硬度(初期値)の変化と、銀合金のビッカース硬度(エージング後)の変化と、を示す図である。
図5図5(a)~(c)は、銀合金に対するバレル処理による加工時間(0、5、10、30、45、60分)を変えた場合の、銀合金のX線回折チャートの所定ピークにおける半値幅変化(W1、W2)及びそれらの比率変化(W2/W1)を示す図である。
図6図6(a)~(b)は、銀合金に対するバレル処理による加工時間を変えた場合の、Hv×W2の値の変化、及びHv×(W1/W2)の値の変化を示す図である。
図7図7は、銀合金に対するバレル処理による加工時間を変えた場合の、銀合金(線状物)の体積抵抗率の変化を示す図である。
図8図8(a)~(c)は、それぞれメッキ層を有する銀合金を説明するために供する図である。
図9図9は、バレル装置の構成を説明するために示す概略図である。
図10図10(a)~(b)は、加工後の銀合金の用途を説明するための一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、銀含有量が、全体量に対して、99重量%以下の銀合金であって、当該銀合金のビッカース硬度を75HV以上の値とし、かつ、銀合金のXRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピーク(S1)の高さをh1とし、2θ=44°±0.4°のピーク(S2)の高さをh2としたとき、h2/h1の値を0.2以上とすることを特徴とする銀合金である。
なお、図1(a)は、実施例1に基づくXRD分析によって得られるX線回折チャートであって、図1(b)に示すのは、比較例1に基づくXRD分析によって得られるX線回折チャートである。
また、図2は、銀合金のビッカース硬度(初期値)と、XRD分析によって得られるX線回折チャートの所定ピーク(S1、S2)の高さ(h1、h2)の比率(h2/h1)との関係性を示す図である。
【0018】
1.純度
第1の実施形態の銀合金は、各種用途に応じて銀含有量を変更することができるが、銀含有量を、全体量に対して、99重量%以下の銀合金から形成されることを特徴とする。
すなわち、銀含有量が所定量以下であって、高いビッカース硬度を有し、かつ、電圧印加等した場合に、低体積抵抗率であって、金属腐食や変色の発生が少ないことから、電極部材、回路部材、伝熱製品等に好適に使用される、比較的高純度の銀合金として、80重量%超~99重量%の範囲内の銀含有量とすることが好ましい。
したがって、比較的高純度の銀合金として、銀含有量としては、全体量に対して、85~98重量%の範囲内の値であることがより好ましく、90~95重量%の範囲内の値であることがさらに好ましい。
【0019】
一方、所望のさらに高い硬度を有し、かつ、それなりに低い体積抵抗率であっても良い場合には、比較的低純度の銀合金の銀含有量を、全体量に対して、50重量%超~80重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
したがって、比較的低純度の銀合金として、銀含有量としては、全体量に対して、55~75重量%の範囲内の値であることがより好ましく、60~70重量%の範囲内の値であることがさらに好ましい。
さらに、鉛フリーハンダのように、融点(溶融点)を400℃以下とするような場合には、銀含有量としては、全体量に対して、1~20重量%の範囲内の値であることがより好ましく、3~10重量%の範囲内の値であることがさらに好ましい。
【0020】
また、銀合金が上述した銀含有量からなる場合の、銀以外の残余成分としては、金(Au)や、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、銅(Cu)、セレン(Se)、アンチモン(Sb)、パラジウム(Pd)、インジウム(In)、ゲルマニウム(Ge)等の少なくとも一つを含むことが好ましい。
例えば、歯科用銀合金であって、ハイシルバーと呼ばれる銀合金があるが、耐変色性に優れ、収縮が少なく、配合組成の一例は、Ag63重量%、インジウム20重量%、銅10重量%、亜鉛6重量%、パラジウム1重量%である。
また、鉛フリーハンダとして、Sn-Ag-Cu系が知られているが、配合組成の一例は、Sn95重量%、Ag3.5重量%、銅0.7重量%、及び残余金属である。
【0021】
その上、銀合金は、硫化物を形成しやすい銅の配合量が比較的多かったり、あるいは、硫化物を形成しやすい環境で用いられたりする場合、変色の可能性がある。
したがって、そのような場合には、銀合金の周囲に、窒化酸化シリコン層やシリコン層を備えた態様も、本願発明の銀合金に含める場合がある。
いずれの場合も、含有される銀の結晶構造を制御することによって、ビッカース硬度や体積抵抗率を所望範囲に維持することができる。
【0022】
なお、用途によっては、銀以外の残余成分として、アルミニウム(Al)、鉛(Pb)、ハンダ等を少量であれば含むこともできるが、その場合であっても、全体量に対して、アルミニウム等の各含有量を0.05重量%未満の値にすることが好ましく、0.01重量%未満の値にすることがさらに好ましい。
そして、銀の純度及び銀合金に含まれる微量成分量は、元素分析法、例えば、蛍光X線分析法(XPS)、原子吸光法(AAS)、ICP発光分光分析法等の公知の分析方法を用いて、当業者が理解できる所定測定条件下に行うことができる。
【0023】
2.形状
また、第1の実施形態の銀合金の形状や構成等は特に制限されるものではないが、例えば、電極部材、回路部材、伝熱製品、反射材、医療器具、装身具、装飾品、銀粘土等のいずれか1つであることが好ましい。
この理由は、これらの所定形状を有する銀合金であれば、金属アレルギー、金属腐食や変色の発生が少ないという効果をより享受できるためである。
さらに言えば、所定形状の銀合金であれば、硬化性を容易に制御することができ、ひいては加工後において、長期間もわたって、優れた加工性を維持したまま、金属アレルギー、金属腐食の発生や変色をより少なくすることができる。
【0024】
より具体的には、電極部材(電極部材用銀材料や接点材料を広く含む。)としては、半導体装置のバンプ、半導体装置のリードフレーム、半導体装置のワイヤボンド、液晶表示装置や有機EL素子の電極(補助電極を含む。)、半導体装置の内部配線等の少なくとも一つが挙げられる。
すなわち、銀合金の用途を説明するための一例としての示す、図12(a)においては、半導体集積回路33のリードフレーム32、及びTABテープ34のリード31を銀合金として構成することが好ましい。
【0025】
また、回路部材としては、セラミック回路基板、エポキシ樹脂回路基板、フェノール樹脂回路基板、フレキシブル回路基板等における電気配線の少なくとも一つが挙げられる。
すなわち、銀合金の用途を説明するための一例としての示す、図12(b)においては、基材37と、絶縁保護部36とに覆われた、導体35を銀合金として構成することも好ましい。
【0026】
また、伝熱製品としては、半導体装置の冷却用材料、フレキシブル回路基板に電気接続された発熱素子の冷却用材料、テープ状冷却用部材、異形状冷却用部材等にそれぞれ含まれる伝熱材料の少なくとも一つが挙げられる。
【0027】
また、半田代替材としては、鉛含有の半田の代替材であって、鉛フリー半田、Ag-Cu導電材、Ag-Cu-Sn導電材、Ag-Cu-Zn-Sn導電材の少なくとも一つが挙げられる。
【0028】
さらに、反射材や医療器具、装身具としては、腕時計やバックル、所定形状の再帰性反射シートにおける反射粒子の粒子面の一部に積層する反射部材や、外科手術用のピンセット、メス、ハサミ、鉗子などが挙げられる。
【0029】
3.ビッカース硬度
(1)初期値
第1の実施形態の銀合金は、バレル処理後におけるビッカース硬度(初期値)を75HV以上の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかるビッカース硬度の値が75HV未満になると、外部からの圧力によって容易に変形したり、あるいは、得られる製品の耐久性も不十分となったりする場合があるためである。
したがって、銀合金のバレル処理後におけるビッカース硬度を80~200HVの範囲内の値とすることが好ましく、かかるビッカース硬度を90~180HVの範囲内の値とすることがより好ましい。
【0030】
ここで、図3(a)を参照して、メッキ処理も、プレス処理を行っていない銀合金に対するバレル処理による加工時間(0、5、10、30、40、60分)を変えた場合の、銀合金のビッカース硬度(初期値)の変化を説明する。
より具体的に、図3(a)は、横軸に、バレル処理による加工時間を採って示してあり、縦軸に、メッキ処理も、プレス処理を行っていない銀合金のバレル処理後におけるビッカース硬度(初期値)を採って示してある。
そして、図3(a)中の特性曲線から判断して、バレル処理による加工時間を調節し、好適なビッカース硬度(初期値)、すなわち、75HV以上や、80~200HVの範囲内の値とすることができることが理解される。
【0031】
なお、後述するが、図4(a)に示すように、メッキ処理、及びプレス処理を施した銀合金であれば、銀合金のバレル処理後のビッカース硬度(初期値)がより高くなることから、その値を100~220HVの範囲内の値とすることがより好ましく、120~210HVの範囲内の値とすることがさらに好ましく、160~200HVの範囲内の値とすることがその上好ましいことが判明している。
【0032】
(2)エージング(80℃、48時間)後
また、第1の実施形態の銀合金は、バレル処理後、80℃、48時間でエージング処理したのちの、ビッカース硬度を75HV以上の値とすることが好ましい。
この理由は、銀合金の戻り効果等によって、かかるビッカース硬度の値が75HV未満になると、外部からの圧力によって容易に変形したり、あるいは、得られる銀合金の耐久性も不十分となったりする場合があるためである。
したがって、銀合金のバレル処理後、80℃、48時間でエージング処理したのちの、ビッカース硬度を75HV以上の値とすることが好ましく、かかるビッカース硬度を80~200HVの範囲内の値とすることがより好ましい。
【0033】
ここで、図3(b)を参照して、メッキ処理も、プレス処理を行っていない銀合金に対するバレル処理による加工時間(0、5、10、30、40、60分)を変えた場合の、銀合金のビッカース硬度(エージング後)の変化を説明する。
より具体的に、図3(b)は、横軸に、バレル処理による加工時間を採って示してあり、縦軸に、メッキ処理も、プレス処理を行っていない銀合金のバレル処理後におけるビッカース硬度(エージング後)を採って示してある。
そして、図3(b)中の特性曲線から判断して、バレル処理による加工時間を調節し、好適なビッカース硬度(エージング後)、すなわち、75HV以上や、80~200HVの範囲内の値とすることができることが理解される。
【0034】
なお、後述するが、図4(b)に示すように、メッキ処理、及びプレス処理を施した銀合金であれば、銀合金のバレル処理後のビッカース硬度(初期のみならずエージング後)も高くなることから、その値を90~220HVの範囲内の値とすることがより好ましく、100~200HVの範囲内の値とすることがさらに好ましいことが判明している。
【0035】
4.XRD分析によって得られるX線回折チャート
(1)h2/h1
第1の実施形態の銀合金は、図2に示すように、XRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピークの高さをh1とし、2θ=44°±0.4°のピークの高さをh2としたとき、h2/h1の値を0.2以上とすることを特徴とする。
この理由は、かかるピークの高さ(h1、h2)の比(h2/h1)の値を0.2以上とした場合、メッキ層があっても、なくても、銀合金の結晶構造を好適なものとすることができ、高いビッカース硬度を得やすくなるためである。
また、高いビッカース硬度を得た際に、そのビッカース硬度を長時間維持しやすくなるためである。
したがって、h2/h1の値を0.5以上とすることがより好ましく、1.0以上とすることがさらに好ましい。
なお、h2/h1の値を1.0以上とするには、銀合金に対し、上述したバレル処理だけではなく、事前にメッキ処理、及びプレス処理を施すのが好ましい。
図2に示すように、これらの処理を行うことで、h2/h1の値が大きく上昇し、銀合金の結晶構造がより好適なものとなり、かつ、ビッカース硬度をさらに高い値に制御することができる。
【0036】
(2)Hv×W2
第1の実施形態の銀合金は、図5(a)~(c)に示すように、メッキ層がなく、プレス処理が行われず、かつ、バレル処理のみの加工において、XRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピーク(S1)の半値幅をW1とし、2θ=44°±0.4°のピーク(S2)の半値幅をW2としたとき、図6(a)に示すように、銀合金のビッカース硬度をHvとする場合、Hv×W2の値を、20以上の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるHV×W2の値を、20以上の値とした場合、銀合金の結晶構造をより好適なものとすることができ、高いビッカース硬度を得るのがより容易となるためである。
なお、図5(a)~(c)は、メッキ層がなく、プレス処理が行われず、かつ、バレル処理のみの加工を施された銀合金の、XRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピーク(S1)の半値幅をW1とし、2θ=44°±0.4°のピーク(S2)の半値幅をW2としたときの、バレル処理による加工時間と、W1、W2それぞれとの関係性を示す図である。
【0037】
(3)Hv×(W1/W2)
第1の実施形態の銀合金は、図6(b)に示すように、銀合金のビッカース硬度をHvとし、X線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピークの半値幅をW1とし、2θ=44°±0.4°のピークの半値幅をW2としたときに、Hv×(W1/W2)の値を50以上とすることが好ましい。
この理由は、かかるHv×(W1/W2)の値を、50以上とした場合、銀合金の結晶構造をより好適なものとすることができ、高いビッカース硬度を得るのがより容易となるためである。
【0038】
5.体積抵抗率
また、第1の実施形態の銀合金を構成するにあたり、体積抵抗率を2μΩ・cm以下の値とすることが好ましい。
この理由は、図7に示すように、バレル処理時間等を調整することによって、体積抵抗率を制御することにより、加工後の銀合金の導電性を良好とし、ひいては帯電防止性をより高めることができるためである。
したがって、銀合金の導電性がさらに良好になるとともに、帯電防止性やインピーダンス特性についても良好となることから、銀合金の体積抵抗率を0.001~1.8μΩ・cm範囲内の値とすることがより好ましく、0.01~1.5μΩ・cm範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0039】
なお、銀合金の体積抵抗率は、測定長さ(例えば、4点)をかえて、デジタルボルトメータを用いてなる四端子法により測定することができる。
より具体的には、四端子法により測定された、測定長さごとの抵抗を縦軸にとり、横軸に測定長さを採ってグラフ化し、それから得られる直線の傾きから算出することができる。
【0040】
6.メッキ層
また、銀合金を構成するにあたり、図8(a)~(c)に示すように、表面にメッキ層を形成することが好ましい。
この理由は、第2の実施形態で詳述するように、所定条件でメッキし、所定厚さのメッキ層を形成することにより、銀合金において、さらに高いビッカース硬度を得ることができるためである。
その上、メッキ層が、表面の凹凸を修復して、研磨処理によって、表面平滑度や光沢度がさらに高い銀合金を得ることができるためである。
【0041】
したがって、メッキ層の厚さは、ビッカース硬度の向上や、光沢度の上昇、さらには、研磨処理等の容易さを考慮して定めることができるが、通常、0.01~50μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような厚さのメッキ層であれば、通常の電解メッキ法や、無電解メッキ法により、短時間で、かつ、安定的に形成することができ、ひいては、ビッカース硬度の向上や、光沢度の上昇、さらには、研磨処理等の容易さが得られるためである。
したがって、メッキ層の厚を0.1~30μmの範囲内の値とすることがより好ましく、1~20μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、メッキ層の種類としては、銀、ロジウム、金、白金、ニッケル等の少なくとも一種が好ましく、さらには、銀合金との相性がさらに良いことから、銀メッキであることがより好ましい。
【0042】
7.表面状態
また、銀合金を構成するにあたり、表面に多角形状模様(亀甲模様と称する場合がある。)を有することが好ましい。
すなわち、表面が単に平滑であった銀合金の表面に、多角形状模様を有する銀合金の表面とすることが好ましい。
この理由は、このように多角形状模様をマーカーとして、バレル処理の程度や、加工後の銀合金のビッカース硬度を推認することができ、ひいては、ビッカース硬度が所定範囲にあることを確認することができるためである。
したがって、加工後の銀合金の硬化性を安定的に維持しつつも、加工後の銀合金の経時安定性を確実に向上させることを確認できるためである。
なお、銀合金の表面に多角形状模様を有することは、光学顕微鏡を用いて、容易に確認することができる。
【0043】
8.その他
従来、銀合金において、付属の銀付属品等がある場合に、銀合金の本体に対して、付属の銀付属品等を、銀ロウを用いて固定している場合が多かった。
この点、これらの銀合金の全体量における銀ロウの使用量は極めて少ないことから、金属アレルギー、金属腐食の発生や変色の発生は、相当少ないことが判明している。
しかしながら、金属腐食の発生や変色の発生が事実上、見られないという観点において、銀ロウに含まれる銀以外の金属、例えば、Ni、Cu、Zn、Al等の含有量を0.1ppm以下とすることが好ましく、0.01ppm以下とすることが好ましく、0.001ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0044】
また、銀合金の本体に対して、付属の銀付属品等を固定する場合、銀ロウを用いず、機械的に押圧するかしめ構造によって、ピアスの足のような付属の銀付属品を、ピアス本体に対して、固定することが好ましい。
より具体的には、一例として、円筒形の穴と、針状の銀部材を、かしめ構造とすることが好ましい。
【0045】
さらに言えば、そのような場合、銀ロウを用いず、機械的に押圧するかしめ構造及びレーザー処理によって、ピアスポストのような付属の銀付属品や、ネックレス本体の両端部の留め具等を所定場所に、強固に固定することが好ましい。
より具体的には、図10(a)~(b)に、かしめ工程を含む製造工程の一部を示す。
一例として、図10(a)に示すように、円筒形の銀部材21に設けた穴22と、針状の銀部材23を準備し、円筒形の銀部材21に設けた穴22の中に、針状の銀部材23も先端部を挿入する。
次いで、図10(b)に示すように、円筒形の銀部材21に設けた穴22の中に、針状の銀部材23を挿入した状態で、周囲から機械的圧力を付与して、かしめ構造とすることが好ましい。
さらにまた、機械的押圧を用いたかしめ構造においては、固定された部位の少なくとも一部を、公知の条件でレーザー溶接することも好ましい。
これは、レーザー溶接を用いることで、銀宝飾品と、銀付属品とをより強固に固定できるためであり、周辺部位の変形等を防止できるためである。
【0046】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、銀含有量が、全体量に対して、99重量%以下の銀合金の製造方法であって、下記工程(1)~(2)を含むことを特徴とする銀合金の製造方法である。
(1)所定形状を有する銀合金を準備する工程
(2)所定形状を有する銀合金を磁気バレル処理、プレス加工、及びメッキ処理の少なくとも一つの表面処理により加工硬化させて、所定形状を有する銀合金のビッカース硬度を75HV以上とし、かつ、銀合金のXRD分析によって得られるX線回折チャートにおける2θ=38°±0.2°のピークの高さをh1とし、2θ=44°±0.4°のピークの高さをh2としたとき、h2/h1の値を0.2以上とする工程
【0047】
1.所定形状の銀合金の準備工程
銀含有量が所定量の銀合金(地銀)を準備し、それを加熱し、溶解させて、鋳型等を用いて所定形状の銀合金を準備する工程である。
また、例えば、ピアスのように、ピアス針のような付属品がある場合は、鋳型等を用いて所定形状としたピアス本体に対して、それを結合させて、所定形状の銀合金を準備することが好ましい。
なお、上述したように、メッキ処理、及びプレス処理を施した銀合金であれば、バレル処理によって、ビッカース硬度が相当高い値になることが判明している。
したがって、メッキ層を有し、かつ、プレス処理を施した銀合金であれば、バレル処理後に、高いビッカース硬度が得られることから、そのような銀合金を準備することが好ましい。
【0048】
2.加工硬化工程
(1)バレル装置
図11に、所定形状の銀合金を表面研磨等するためのバレル装置10の一例を示す。
すなわち、例えば、処理する銀合金を含むバレル液2を収容するバレル槽1、バレル材3(3a、3b)、回転磁石4、磁石ケース5、モータ6、回転軸7、外装8と、からバレル装置10が構成してあることが好ましい。
そして、図11中の矢印Aに示されるように、モータ6に連結した回転軸7が回転し、それに伴い、回転磁石4も回転して、バレル液2中の、被処理物(図示せず)及びバレル材3(3a、3b)が衝突しながら回転移動し、表面処理としてのバレル処理を行うものである。
【0049】
(2)攪拌処理時間
所定形状の銀合金に対するバレル装置による攪拌処理時間は、適宜変更することができるが、通常、1~120分の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、攪拌処理時間が過度に短く、1分未満になると、加工硬化が生じずに、所望の結晶構造とするのが困難な場合があるためである。
一方、攪拌処理時間が過度に長く、120分を超えると、一旦形成された所望の結晶構造が変化して、やはり加工硬化の効果が生じない場合があるためである。
したがって、バレル装置による攪拌処理時間を5~60分の範囲内の値とすることがより好ましく、10~30分の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0050】
(3)攪拌速度
所定形状の銀合金に対するバレル装置による攪拌速度についても、適宜変更することができるが、通常、回転数にとらえて、1~120rpmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、攪拌速度が過度に短く、1rpm未満になると、銀合金と、バレル材との表面衝突の割合が言い著しく低下し、加工硬化が生じずに、所望の結晶構造とするのが困難な場合があるためである。
一方、攪拌速度が過度に長く、120rpmを超えると、処理液が過度に泡立ったり、あるいは、一旦形成された所望の結晶構造が変化して、やはり加工硬化の効果が生じない場合があるためである。
したがって、バレル装置による攪拌速度を10~80rpmの範囲内の値とすることがより好ましく、20~60rpmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0051】
(4)バレル材
所定形状の銀合金に対する表面研磨等のために、バレル装置に用いるバレル材(メディアと称する場合もある。)についても、適宜変更することができるが、通常、ステンレス(SUS304、403等)製の球状物や針状物を用いることが好ましい。
より具体的には、一例であるが、通常、直径0.1~5mmの、ステンレスの球状バレル材と、直径0.5~5mm、直径0.005~5mmの針状の、ステンレスの針状バレル材とを、重量比で10:90~90:10の範囲で混合使用することが好ましく、20:80~80:20の範囲で混合使用することがより好ましい。
そして、球状や針状等のバレル材は、磁気バレル装置との関係で、それぞれ衝突エネルギーを増加させやすいことから、バレル材料は、上述したステンレスであっても、それが磁化されてなる磁化材料から構成されていることが好ましい。
【0052】
(5)水溶液
また、バレル装置においてバレル処理を実施するに際して、バレル液と呼ばれる溶液状態で行うことが好ましい。
そして、その場合、バレル液とするのに水道水であって良いが、蒸留水を用いるのが安全かつ安心に加工処理するため、蒸留水を使用することがより好ましい。
さらに、例えば、バレル液の温度を20~50℃、バレル液のpHを6~8の間に管理するとともに、バレル液中の不可避的な銅、鉄、アルミニウムの含有量を、それぞれ0.1ppm以下の値とすることが好ましく、0.1ppm以下の値とすることがより好ましく、0.01ppm以下の値とすることがさらに好ましい。
【0053】
3.メッキ処理工程
(1)種類
所定形状の銀合金の表面にメッキする場合、そのメッキの種類としては、銀を主体とすることが好ましいが、その他、金や白金等のメッキであっても好ましい。
メッキが、銀、金、白金等であっても、ビッカース硬度の向上や、光沢度の上昇、さらには、研磨処理等の容易さが得られるためである。
【0054】
(2)メッキ処理条件
また、メッキ処理条件としては、公知の処理条件が採用され、典型的には、無電解メッキ法や電解メッキ法等が好適である。
無電解メッキ法であれば、得られるメッキの厚膜化が、比較的時間がかかるという問題があるが、メッキ液への電界を形成する電源装置等が必要であるものの、バラツキが少なく、比較的均一な厚さを有するメッキを得ることができる。
【0055】
一方、電解メッキ法であれば、電着塗装等と同様であるから、メッキ液への電界を形成する電源装置等が必要であるものの、得られるメッキの厚さを、均一に、比較的短時間で図られるという利点を得ることができる。
したがって、電解メッキ法のメッキ条件として、メッキ槽にメッキ液を収容したのち、銀合金を一方の電極として、通常、電流値を10~200mA/cm2、電流印加時間30秒~30分の範囲内とすることが好ましい。
【0056】
その上、無電解メッキ法や電解メッキ法を適宜組み合わせて、複合メッキ法とすることも好ましい。
例えば、第1段階で、無電解メッキ法によって、銀合金の表面に対して、1μm以下の薄膜メッキ層を直接的かつ部分的に形成し、概ね平滑化しておくことが好ましい。
次いで、第2段階で、電解メッキ法を行うによって、銀合金の表面に対して、1μm越え、より好ましくは、10μm以上の厚さのメッキ層を間接的に形成し、効果的に銀合金の表面全体を平滑化することも好ましい。
【0057】
4.プレス処理工程
銀合金の製造工程においては、所定形状を得るために、プレス処理されてなることも好ましい。
この理由は、プレス処理による加工を行うことで、銀合金の材料内部まで力が加わり、より高いビッカース硬度を得やすくなるためである。
また、プレス処理による成形を行う場合、量産が容易であって、製造コストを削減できる場合があるためである。
なお、プレス処理及びメッキ処理を行う場合には、先にプレス処理を行い、それからメッキ処理を行うことが好ましい。
プレス処理において、表面が荒れたような場合でも、メッキ処理により、平坦化することができるためである。
【0058】
(1)プレス処理条件
なお、プレス処理工程においては、公知の方法を用いることができ、ローラープレスや、フリクションプレス等を適宜使用することが出来る。
また、プレス処理工程においては、ローラーの線圧として、印加する圧力を2~100N/cmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる圧力が2N/cm未満となると、銀合金としての好適な硬度が得られない場合があるためである。
一方、かかる圧力が100N/cmを超えると、ロール装置に対する負荷が過剰に高くなったり、あるいは、得られる硬度のばらつきが大きくなったりする場合があるためである。
したがって、プレス処理工程においては、ローラーの線圧として、印加する圧力を10~80N/cmの範囲内の値とすることがより好ましく、20~50N/cmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【実施例0059】
[実施例1]
1.所定形状の銀合金の準備工程
全体量に対して、銀含有量が92.5重量%の銀(SV925、残余成分は銅やNi等)を準備し、金属蒸着装置を用いて、厚さ0.5mmの強化ガラス基板上に、真空蒸着し、厚さ1μmの銀合金薄膜を形成した。
【0060】
2.バレル処理
準備した強化ガラス基板上の銀合金薄膜につき、図8に概要を示す、磁気式バレル装置、プリティックM((株)プライオイティ製)を用いて、バレル処理を行った。
すなわち、当該バレル装置内部の攪拌層に、水1000g、所定形状の銀合金(ピアス)100g、直径1mmの球状のSUS(SUS304)を磁化させた磁性材料からなるバレル材100g、光沢剤1gを投入した。
次いで、バレル装置を駆動させ、バレル処理を60rpmの回転速度で、攪拌層を水平方向/縦方向に回転させながら、バレル処理時間10分として、バレル処理を実施した。
【0061】
3.評価
(1)ピークの高さの比(h2/h1)(評価1)
バレル処理によって得られた所定形状の銀合金につき、XRD分析を行った。
次いで、得られたX線回折チャートにおける、2θ=38°±0.2°のピーク(S1)の高さ(h1)と、2θ=44°±0.4°のピーク(S2)の高さ(h2)を求め、ピークの高さの比(h2/h1)を算出した。
【0062】
(2)ビッカース硬度(初期値)(評価2)
バレル処理によって得られた所定形状の銀合金のみを、攪拌槽からすぐに取り出し、それらの表面を乾いた布で乾かした後、所定形状の銀合金の表面のJIS B2244:2009(以下、同様である。)に基づくビッカース硬度(初期値)を、ビッカース硬度計を用いて少なくとも3点測定し、それから平均値を算出した。
◎:90HV以上である。
〇:80HV以上である。
△:75HV以上である。
×:75HV未満である。
【0063】
(3)ビッカース硬度(エージング後)(評価3)
バレル処理によって得られた所定形状の銀合金のうち、Hv硬度を測定したサンプルを、80℃に保持されたオーブン中に、48時間保管した後、それらを取出した。
室温に戻した後、所定形状の銀合金の表面のビッカース硬度(エージング後)を、ビッカース硬度計を用いて少なくとも3点測定し、それから平均値を算出した。
◎:90HV以上である。
〇:80HV以上である。
△:75HV以上である。
×:75HV未満である。
【0064】
(4)Hv×W2(評価4)
バレル処理によって得られた所定形状の銀合金につき、XRD分析を行った。
次いで、得られたX線回折チャートにおける、2θ=44°±0.4°のピークの半値幅(W2)を求め、ビッカース硬度の初期値をHvとしてHv×W2の値を算出し、下記基準に沿って評価した。
◎:Hv×W2≧30である。
〇:Hv×W2≧25である。
△:Hv×W2≧20である。
×:Hv×W2<20である。
【0065】
(5)Hv×(W1/W2)(評価5)
バレル処理によって得られた所定形状の銀合金につき、XRD分析を行った。
次いで、得られたX線回折チャートにおける、2θ=38°±0.2°のピークの半値幅(W1)を求め、ビッカース硬度の初期値をHvとしてHv×(W1/W2)の値を算出し、下記基準に沿って評価した。
◎:Hv×(W1/W2)≧60である。
〇:Hv×(W1/W2)≧50である。
△:Hv×(W1/W2)≧40である。
×:Hv×(W1/W2)<40である。
【0066】
(6)体積抵抗率(評価6)
得られた強化ガラス基板上の銀合金薄膜につき、フォトエッチング処理して、巾1.0mm、スペース0.2mmの複数のライン状の銀合金薄膜とした。
次いで、四端子法を用いて、ライン状の銀合金薄膜の抵抗値を1cm間隔で、4点測定し、横軸に長さ、縦軸に抵抗値を採ってグラフ化した。
次いで、そのグラフにおける特性直線の傾きをもって、銀合金薄膜の体積抵抗率(μΩ/cm)を測定し、下記基準に沿って評価した。
◎:1.5μΩ/cm以下である。
〇:1.8μΩ/cm以下である。
△:2.0μΩ/cm以下である。
×:2.0μΩ/cm超である。
【0067】
(7)金属腐食性(評価7)
体積抵抗率を測定したのと同様のサンプルを作成し、隣接する導体間(スペース0.2mm)に25Vの電圧を、48時間連続印加し、金属腐食が発生するか、否かを目視検討し、以下の基準に沿って評価した。
◎:金属腐食の発生が全く観察されなかった。
〇:金属腐食の発生がわずかに観察された。
△:金属腐食の発生が少々観察された。
×:金属腐食の顕著な発生が観察された。
【0068】
(8)変色性(評価8)
体積抵抗率を測定したのと同様のサンプルを作成し、500リットルの容器内に収容した200gの硫化水素水に、浸漬した。
次いで、500リットルの容器内で銀合金薄膜に発生した変色を、以下の基準に沿って評価した。
◎:168時間経過しても、顕著な変色はない。
〇:168時間経過後に、わずかな変色が観察された。
△:168時間経過後に、顕著な変色が観察された。
×:168時間未満に、顕著な変色が観察された。
【0069】
[実施例2]
実施例2においては、バレル処理時間を5分とした以外は、実施例1と同様に、銀合金を得て、ビッカース硬度等を評価した。
その結果、銀含有量が92.5重量%程度の銀合金(SV925)を用い、少なくとも所定時間(5分)であってもバレル処理をすることによって、それなりに結晶構造を制御して、高い硬度や低体積抵抗率を長期間にわたって維持することが確認された。
【0070】
[実施例3]
実施例3においては、バレル処理時間を30分とより長くした以外は、実施例1と同様に、銀合金を得て、ビッカース硬度等を評価した。
その結果、銀含有量が92.5重量%程度の銀合金(SV925)を用い、少なくとも所定時間(30分)のバレル処理をすることによって、それなりに結晶構造を制御して、高い硬度や低体積抵抗率を長期間にわたって維持することが確認された。
【0071】
[実施例4]
実施例4においては、バレル処理時間を45分とさらに長くした以外は、実施例1と同様に、銀合金を得て、ビッカース硬度等を評価した。
その結果、銀含有量が92.5重量%程度の銀合金(SV925)を用い、少なくとも所定時間(45分)のバレル処理をすることによって、それなりに結晶構造を制御して、高い硬度や低体積抵抗率を長期間にわたって維持することが確認された。
その結果、銀含有量が92.5重量%程度の銀合金(SV925)を用い、少なくとも所定時間(60分)のバレル処理をすることによって、それなりに結晶構造を制御して、高い硬度や低体積抵抗率を長期間にわたって維持することが確認された。
【0072】
[実施例5]
実施例5においては、バレル処理時間を60分とした以外は、実施例1と同様に、銀合金を得て、ビッカース硬度等を評価した。
その結果、銀含有量が92.5重量%程度の銀合金(SV925)を用い、少なくとも所定時間(60分)のバレル処理をすることによって、それなりに結晶構造を制御して、高い硬度や低体積抵抗率を長期間にわたって維持することが確認された。
【0073】
[実施例6]
実施例6においては、実施例1の銀合金(SV925)のかわりに、銀含有量が、全体量に対して、80重量%の銀合金に由来した銀合金層を形成し、その上に、電解メッキを行い、厚さ20μmの銀メッキ層を形成し、それをバレル処理し、表面を平滑化したほかは、実施例1と同様に、銀合金を得て、ビッカース硬度等を評価した。
その結果、銀含有量が80重量%程度の銀合金を用い、少なくともバレル処理及びメッキ処理をすることによって、高い硬度や低体積抵抗率を所定範囲に制御し、かつ、それを長期間にわたって維持することが確認された。
【0074】
[実施例7]
実施例7においては、実施例1の銀合金(SV925)のかわりに、銀含有量が、全体量に対して、70重量%の銀合金に由来した銀合金層を形成し、その上に、20μm厚さの銀メッキを形成するための電解メッキ法を行った後、それをバレル処理したほかは、実施例4と同様に、銀合金を得て、ビッカース硬度等を評価した。
その結果、銀含有量が70重量%程度の銀合金を用い、少なくともバレル処理及びメッキ処理をすることによって、高い硬度や低体積抵抗率を所定範囲に制御し、かつ、それを長期間にわたって維持することが確認された。
【0075】
[実施例8]
実施例8においては、実施例1の銀合金薄膜のかわりに、銀含有量が、全体量に対して、60重量%の銀合金に由来した銀合金層を形成し、その上に、20μm厚さの銀メッキを形成するための電解メッキ法を行った後、それをバレル処理したほかは、実施例4と同様に、銀合金を得て、ビッカース硬度等を評価した。
その結果、銀含有量が60重量%程度の銀合金を用い、少なくともバレル処理及びメッキ処理をすることによって、高い硬度や低体積抵抗率を所定範囲に制御し、かつ、それを長期間にわたって維持することが確認された。
【0076】
[実施例9~13]
実施例9~13においては、実施例1~8の銀合金に対して、バレル処理前等に、金属プレスロール装置を用いて、線圧が50N/cmの条件でプレス処理を行ったほかは、実施例1~8と同様に、銀合金を得て、ビッカース硬度等を評価した。
その結果、それぞれの金属アレルギー性は、80~120℃の高温条件等においても、48時間以上の長期間にわたって、所定硬度や体積抵抗率を維持する銀合金を効率的に得ることができる。
すなわち、銀含有量が99重量%以下の銀合金を用いて、バレル処理、メッキ処理、あるいはプレス処理の少なくとも一つの処理によって、高い硬度や低体積抵抗率を所定範囲に制御し、かつ、それを長期間にわたって維持することが確認された。
【0077】
[比較例1]
比較例1においては、バレル処理を全く行わなかったほかは、実施例1と同様に、銀合金薄膜を得て、ビッカース硬度等を評価した。
【0078】
[比較例2]
比較例2においては、電解メッキ法を行い、20μm厚さの銀メッキ層を形成したものの、バレル処理を全く行わなかったほかは、比較例1と同様に、銀合金を得て、ビッカース硬度等を評価した。
【0079】
【表1】

評価1:h2/h1
評価2:ビッカース硬度(初期値)
評価3:ビッカース硬度(エージング後)
評価4:Hv×W2
評価5:Hv×(W1/W2)
評価6:体積抵抗率
評価7:金属腐食性
評価8:変色性
【0080】
【表2】

評価1:h2/h1
評価2:ビッカース硬度(初期値)
評価3:ビッカース硬度(エージング後)
評価4:Hv×W2
評価5:Hv×(W1/W2)
評価6:体積抵抗率
評価7:金属腐食性
評価8:変色性
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の、所定の銀含有量の銀合金及びそのような銀合金の製造方法によれば、バレル処理等を行うことによって、所望のビッカース硬度(Hv)や低体積抵抗率を示し、しかも、長時間にわたって所望のビッカース硬度(Hv)等を維持することが可能となった。
また、所定の銀含有量の銀合金において、所定のメッキ処理を施し、それからバレル処理等を行うことによって、さらに高い所定以上のビッカース硬度(Hv)や低体積抵抗率を示し、しかも、長時間にわたって所望のビッカース硬度(Hv)等を維持することが可能となった。
その上、所定の銀含有量の銀合金につき、プレス処理、さらには、プレス処理とメッキ処理を行い、その上、所定のバレル処理等を施すことによって、極めて高いビッカース硬度等を得ることができるようになった。
【0082】
したがって、各種用途に対応して、使用可能な銀合金をより経済的に提供することが期待される。
しかも、本発明の銀合金及び銀合金の製造方法によれば、所定条件(例えば、80~120℃、48時間)でエージングしても、結晶構造が元に戻ることなく、ビッカース硬度が低下するなどの現象も特にみられなかった。
【0083】
その他、バレル処理等を行うことによって、純銀の体積抵抗率を所定値以下に調整できることが見出されている。
したがって、本発明に由来した銀合金を構成する銀自体であれば、発熱特性が小さい導電材料の用途への使用も期待される。
【符号の説明】
【0084】
1:バレル槽
2:バレル液
3、3a、3b:バレル材、バレル材(球状)、バレル材(針状)
4:回転磁石
5:磁石ケース
6:モータ
7:回転軸
8:外装
10:バレル装置
12:無電解メッキ
13:電解メッキ
21:銀部材
22:円筒形の穴
23:銀付属品
31:リード
32:リードフレーム
33:半導体集積回路
34:TABテープ
35:導体
36:絶縁保護部
37:基材
図1
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図10