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  • 特開-イソマルトースの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024332
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】イソマルトースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/12 20060101AFI20220202BHJP
   C12P 19/18 20060101ALI20220202BHJP
   C12P 19/20 20060101ALI20220202BHJP
   C12P 19/16 20060101ALI20220202BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20220202BHJP
   C07H 3/04 20060101ALI20220202BHJP
   C07H 15/04 20060101ALI20220202BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20220202BHJP
   C12N 9/26 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C12P19/12
C12P19/18
C12P19/20
C12P19/16
C12P19/14 Z
C07H3/04
C07H15/04 D
C12N9/10
C12N9/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122132
(22)【出願日】2020-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】397077760
【氏名又は名称】株式会社林原
(74)【代理人】
【識別番号】110003074
【氏名又は名称】特許業務法人須磨特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 徳明
(72)【発明者】
【氏名】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 光
(72)【発明者】
【氏名】西本 友之
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4C057
【Fターム(参考)】
4B050DD02
4B050DD03
4B050DD04
4B050LL02
4B050LL10
4B064AF03
4B064CA21
4B064DA10
4B064DA20
4C057AA02
4C057BB02
4C057BB03
4C057DD01
4C057JJ06
(57)【要約】
【課題】 効率的なイソマルトースの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 澱粉又は澱粉部分分解物に作用し、そのα-1,4グルカン鎖の非還元末端グルコース残基の6位水酸基にD-グルコースがα-1,6結合した分岐構造を有する分岐α-グルカンを生成する活性を有する6-α-グルコシル転移酵素と、イソプルラナーゼとを組合せ、澱粉又は澱粉部分分解物に作用させることによりイソマルトースを生成させる工程と、生成したイソマルトースを採取する工程とを含んでなるイソマルトースの製造方法を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉又は澱粉部分分解物に作用し、そのα-1,4グルカン鎖の非還元末端グルコース残基の6位水酸基にD-グルコースがα-1,6結合した分岐構造を有する分岐α-グルカンを生成する活性を有する6-α-グルコシル転移酵素と、イソプルラナーゼとを組合せ、澱粉又は澱粉部分分解物に作用させることによりイソマルトースを生成させる工程と、生成したイソマルトースを採取する工程とを含んでなるイソマルトースの製造方法。
【請求項2】
前記6-α-グルコシル転移酵素が、バチルス(Bacillus)属微生物又はアルスロバクター(Arthrobacter)属微生物由来の酵素である請求項1記載のイソマルトースの製造方法。
【請求項3】
前記イソプルラナーゼが、アスペルギルス(Aspergillus)属微生物又はオーレオバシディウム(Aureobasidium)属微生物由来の酵素である請求項1又は2記載のイソマルトースの製造方法。
【請求項4】
前記イソマルトースを生成させる工程において、さらに、澱粉枝切酵素、α-アミラーゼ、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ及びグルコアミラーゼから選ばれる1種又は2種以上の酵素を併用する請求項1乃至3のいずれかに記載のイソマルトースの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のイソマルトースの製造方法に、さらにイソマルトースを水素添加することにより還元しイソマルチトールに変換する工程と、変換されたイソマルチトールを採取する工程とを付加してなるイソマルチトールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソマルトースの製造方法、詳細には、糖転移酵素とイソプルラナーゼとを組合せた澱粉又は澱粉部分分解物からのイソマルトースの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イソマルトース(6-O-α-D-グルコシル-D-グルコース)は、D-グルコース2分子がα-1,6グルコシド結合(以下、「α-1,6結合」という。)を介して結合した構造を有する還元性二糖であり、難結晶性で優れた保湿性を有する糖質である。イソマルトースは発酵食品などに微量含まれており、従来、D-グルコース、マルトース、パノースなどとの混合物の状態で各種食品、化粧品などに利用されている。
【0003】
イソマルトースの製造方法としては、澱粉をβ-アミラーゼで分解して得たマルトース(麦芽糖)に麹菌(Aspergillus)由来のα-グルコシダーゼ(別名「トランスグルコシダーゼ」)を作用させ、イソマルトース、イソマルトトリオース、パノース、イソマルトテトラオースなどのイソマルトオリゴ糖を生成させ(特許文献1)、これをクロマト分画してイソマルトースを採取する方法が知られているものの、酵素反応で得られるイソマルトオリゴ糖含有糖質におけるイソマルトースの含量は、通常、固形物当たり26質量%程度に過ぎず、また、イソマルトオリゴ糖混合物からのイソマルトースの単離も容易ではない。さらに、そのイソマルトオリゴ糖含有糖質にイソマルトデキストラナーゼ(Isomaltodextranase、EC 3.2.1.94)を作用させ、イソマルトースを生成させたとしても、反応固形物中のイソマルトースの含量は、通常、40質量%未満と低い。一方、イソマルトースの別の製造方法としては、デキストランを酸で部分分解したものにイソマルトデキストラナーゼを作用させる方法(特許文献2)が知られている。しかしながらデキストランを原料とするこの方法は、イソマルトースの収率は高いものの、デキストランという特殊なα-1,6グルカンの製造、入手が容易ではないため、汎用品としてのイソマルトースは工業的に製造されるに至っていなかった。
【0004】
本願と同じ出願人は、特許文献3において、新規酵素として見出した6-α-グルコシル転移酵素(別名:α-イソマルトシルグルコ糖質生成酵素)と前記イソマルトデキストラナーゼとを組合せ、原料である澱粉又は澱粉部分分解物に同時に作用させることを特徴とするイソマルトースの効率的製造方法を確立し開示した。前記6-α-グルコシル転移酵素は、澱粉又は澱粉部分分解物に作用し、そのα-1,4グルカン鎖の非還元末端グルコース残基の6位水酸基にD-グルコースがα-1,6結合した分岐構造を有する分岐α-グルカン(別名:α-イソマルトシルグルコ糖質)を生成する活性を有する酵素であり、これを澱粉又は澱粉部分分解物に作用させて得られる分岐α-グルカンは、α-1,4グルカン鎖の非還元末端グルコース残基の6位水酸基にD-グルコースがα-1,6結合した分岐構造、すなわち、α-1,4グルカン鎖の非還元末端にイソマルトース構造を有する糖質(別名:α-イソマルトシルグルコ糖質)である。そして、これにイソマルトデキストラナーゼを作用させるとイソマルトシル基が結合したα-1,4結合を特異的に加水分解するためイソマルトースを遊離、生成させることができる。そしてこれら2種の酵素の反応が交互に繰り返されることにより、澱粉又は澱粉部分分解物から効率よくイソマルトースを生成させることができる。この製造方法によれば、6-α-グルコシル転移酵素とイソマルトデキストラナーゼを組合せた酵素反応によって澱粉部分分解物から固形物当たりイソマルトースを約63質量%含有する糖組成物が得られ、さらにこれら酵素の組合せに澱粉枝切酵素を併用すると固形物当たりイソマルトースを約70質量%含有する糖組成物が得られるため、イソマルトースの効率的製造が可能となった。しかしながら、イソマルトデキストラナーゼを用いるこの方法には、酵素反応時の原料澱粉又は澱粉部分分解物の濃度を工業的製造レベルの30質量%以上に高めると、イソマルトースの生成が低下し、澱粉枝切酵素を併用した場合であっても反応液中の固形物当たりのイソマルトース含量が55質量%以下にまで低下すること、酵素反応に多量のイソマルトデキストラナーゼを要することなどの欠点があり、実用化されるに至っていない。
【0005】
上記6-α-グルコシル転移酵素と組合せたイソマルトースの製造方法において、イソマルトデキストラナーゼと置換することができ、且つ、より優れたイソマルトース生成能を有する酵素を見出すことができれば、澱粉又は澱粉部分分解物を原料としてさらに効率よくイソマルトースが製造できると考えられた。
【0006】
前述したα-1,4グルカン鎖の非還元末端にイソマルトース構造を有する糖質の内、最も低分子の糖質はパノース(6-O-α-D-グルコシル-マルトース)である。前記イソマルトデキストラナーゼは、パノースをイソマルトースとD-グルコースとに加水分解する酵素であるが、この反応を触媒する酵素としては、イソマルトデキストラナーゼの他にはイソプルラナーゼ(Isopullulanase,EC 3.2.1.57、非特許文献1)が公知であるものの、特許文献3に開示されているのはイソマルトデキストラナーゼのみであり、イソプルラナーゼを活用した製造方法は全く試みられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61-219345号公報
【特許文献2】特開昭63-216493号公報
【特許文献3】国際公開第2002/088374号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】坂野ら、バイオケミストリー・ジャーナル(Biochem.J.)323巻、757-764頁(1997年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、効率的なイソマルトースの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、イソマルトースの製造に有用な酵素として、パノースに対しイソマルトデキストラナーゼと同様の作用を有するイソプルラナーゼに着目し、特許文献3に開示されたイソマルトースの製造方法において、イソマルトデキストラナーゼをイソプルラナーゼに置き換えて試験したところ、意外にも、イソマルトデキストラナーゼを用いる方法よりも顕著に効率よくイソマルトースを製造できることを見出し、6-α-グルコシル転移酵素とイソプルラナーゼとを組合わせて用いるイソマルトースの製造方法を確立して本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、澱粉又は澱粉部分分解物に作用し、そのα-1,4グルカン鎖の非還元末端グルコース残基の6位水酸基にD-グルコースがα-1,6結合した分岐構造を有する分岐α-グルカンを生成する活性を有する6-α-グルコシル転移酵素と、イソプルラナーゼとを組合せ、澱粉又は澱粉部分分解物に作用させることによりイソマルトースを生成させる工程と、生成したイソマルトースを採取する工程とを含んでなるイソマルトースの製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のイソマルトースの製造方法によれば、澱粉又は澱粉部分分解物を原料としてイソマルトースを効率よく製造することができ、工業的規模でのイソマルトースの生産が可能となる。また、このイソマルトースの製造方法の確立により、イソマルトースの還元物であるイソマルチトールの製造も容易となることから、イソマルトース、イソマルトース高含有糖質、イソマルチトールをより安価に市場に供給できることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のイソマルトース製造方法におけるイソマルトース生成反応の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、澱粉又は澱粉部分分解物に作用し、そのα-1,4グルカン鎖の非還元末端グルコース残基の6位水酸基にD-グルコースがα-1,6結合した分岐構造を有する分岐α-グルカンを生成する活性を有する6-α-グルコシル転移酵素(別名:α-イソマルトシルグルコ糖質生成酵素)とイソプルラナーゼとを組合せ、澱粉又は澱粉部分分解物に作用させることによりイソマルトースを生成させる工程と、生成したイソマルトースを採取する工程とを含んでなるイソマルトースの製造方法に係るものである。
【0015】
本発明のイソマルトース製造方法におけるイソマルトース生成反応の概要を模式図として図1に示した。この方法は、本願と同じ出願人が特許文献3に開示した、6-α-グルコシル転移酵素(別名:α-イソマルトシルグルコ糖質生成酵素)とイソマルトデキストラナーゼとを組合せたイソマルトース製造方法において、イソマルトデキストラナーゼに替えてイソプルラナーゼを用いたものである。イソマルトデキストラナーゼは、イソマルトトリオースを加水分解しイソマルトースとD-グルコースとを生成する活性、α-1,6グルカンであるデキストランを非還元末端からイソマルトース単位で加水分解しイソマルトースを生成する活性、パノースをイソマルトースとD-グルコースとに加水分解する活性、及び、プルランを加水分解しイソパノース(6-O-α-マルトシル-D-グルコース)を生成する活性を有しているのに対し、本発明のイソマルトースの製造方法で用いるイソプルラナーゼは、パノースをイソマルトースとD-グルコースとに加水分解する活性、及び、プルランを加水分解しイソパノースを生成する活性を有している点ではイソマルトデキストラナーゼと同じであるものの、α-1,6結合を加水分解しないためイソマルトトリオースを加水分解する活性、及び、デキストランを加水分解する活性を有さない点で、イソマルトデキストラナーゼと決定的に相違する酵素である。6-α-グルコシル転移酵素とイソプルラナーゼとを組合せ澱粉又は澱粉部分分解物に作用させると、6-α-グルコシル転移酵素の作用により、α-1,4グルカン鎖の非還元末端グルコース残基の6位水酸基にD-グルコースがα-1,6結合した分岐構造を有する分岐α-グルカン、すなわち、α-1,4グルカン鎖の非還元末端にイソマルトース構造を有する糖質(別名:α-イソマルトシルグルコ糖質)が生成し、次いで、その末端のイソマルトシル基が結合したα-1,4結合をイソプルラナーゼが特異的に加水分解することによりイソマルトースが生成する。そして、この反応が繰り返されることにより、反応液中にイソマルトースが蓄積することとなる。
【0016】
本発明のイソマルトースの製造方法において用いることのできる前記6-α-グルコシル転移酵素(別名:α-イソマルトシルグルコ糖質生成酵素)は、前記酵素活性を有するかぎり、特に限定されないものの、好適な酵素としては、例えば、本願と同じ出願人が国際公開第2002/010361号パンフレットに開示した、バチルス・グロビスポルス(Bacillus globisporus) C9、バチルス・グロビスポルス C11又はバチルス・グロビスポルス N75由来の酵素、及び、アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globiformis) A19又はアルスロバクター・ラモサス(Arthrobacter ramosus) S1由来の酵素が挙げられる。本発明で用いる6-α-グルコシル転移酵素は、その精製度により限定されず、目的とするイソマルトース生成反応に支障とならない限り、粗酵素、部分精製酵素及び精製酵素のいずれであってもよい。なお、バチルス・グロビスポルスは、現在では16S rDNAの塩基配列の相同性(同一性)に基づき、パエニバチルス・フィリシス(Paenibacillus filicis)に分類されている。
【0017】
本発明で用いる6-α-グルコシル転移酵素の酵素活性は、本願と同じ出願人による特許文献3に開示した、以下の方法で測定することができる。すなわち、マルトトリオースを濃度2%(w/v)となるように100mM酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解させて基質液とし、その基質液0.5mLに酵素液0.5mLを加えて、35℃で60分間酵素反応させ、その反応液を10分間煮沸して反応を停止させた後、その反応液中に主に生成するイソマルトシルマルトース(6-α-D-グルコシルマルトトリオース)とマルトースの内、マルトースを高速液体クロマトグラフィー(以下、『HPLC』と略記する。)で定量する。HPLCは、『YMC Pack ODS-AQ303』カラム(株式会社ワイ・エム・シー製)を、溶離液として脱イオン水を用い、カラム温度40℃、流速0.5mL/分の条件で行い、生成糖の検出は示差屈折計『RI-8012』(東ソー株式会社製)を用いて行なう。6-α-グルコシル転移酵素の活性1単位(U)は、上記の条件下で1分間に1μモルのマルトースを生成する酵素量と定義する。
【0018】
本発明のイソマルトースの製造方法において用いることのできる前記イソプルラナーゼは、パノースを加水分解してイソマルトースとD-グルコースとを生成する活性、及び、プルランを加水分解してイソパノースを生成する活性を有し、且つ、イソマルトトリオース及びデキストランに作用しない酵素である限り、特に給源によって限定されるものではないが、例えば、アスベルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のイソプルラナーゼは酵素剤が市販されており、本発明の製造方法において有利に用いることができる。
【0019】
また、本願と同じ出願人は、特開2004-261132号公報において、プルラン生産菌でもあるオーレオバシディウム(Aureobasidium)属微生物が培養上清中にプルランを加水分解しイソパノースを生成する「プルラン分解酵素」、すなわち、イソプルラナーゼを産生することを見出した。このオーレオバシディウム属微生物が産生するイソプルラナーゼも、本発明のイソマルトース製造方法において有利に用いることができる。
【0020】
本発明で用いるイソプルラナーゼの活性測定法は特に限定されず、イソプルラナーゼが有する上記活性に基づき、パノースを基質として用い、パノースを加水分解してイソマルトースとD-グルコースとを生成する活性を測定することも、また、プルランを基質として用い、プルランを加水分解してイソパノースを生成する活性を測定することもできる。本願明細書に記載したイソプルラナーゼの酵素活性は、基質としてのプルランを濃度1.0%(w/v)となるように濃度100mMのギ酸緩衝液(pH3.5)に溶解させて基質溶液とし、その基質溶液に同緩衝液で希釈、調製した酵素液を加えて40℃で反応させ、プルランの加水分解により生成するイソパノースの還元力をD-グルコースを標準品としてD-グルコース換算で測定した。イソプルラナーゼの活性1単位(U)は、上記の条件下で1分間に1μモルのD-グルコースに相当する還元力を生成する酵素量と定義した。
【0021】
本発明のイソマルトースの製造方法において、原料基質としては、例えば、とうもろこし澱粉、米澱粉、小麦澱粉などの地上澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉などの地下澱粉及びそれらの部分加水分解物(澱粉部分分解物)を好適に用いることができる。前記澱粉部分分解物は、通常、上記した地上又は地下澱粉を水に懸濁して、通常、濃度10質量%以上、より好ましくは、15質量%乃至65質量%、更に好ましくは、20質量%乃至50質量%の澱粉乳とし、これを加熱して糊化し、次いで、酸或いは耐熱性α-アミラーゼにより液化(部分分解)して得ることができる。液化の程度は、比較的低く設定するのがよく、通常、DE(Dextrose Equivalent、グルコース当量)15未満、好ましくは、DE10未満、より好ましくは、DE9乃至0.1の範囲とするのが望ましい。酸で液化する場合には、例えば、塩酸、燐酸、蓚酸などの酸剤により液化した後、通常、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ剤を用いて所望のpHに中和する方法を採用する。
【0022】
本発明のイソマルトースの製造方法のイソマルトース生成反応において、反応液における澱粉又は澱粉部分分解物の濃度は特に限定されないものの、固形物濃度で、通常、40質量%以下、望ましくは、35質量%以下が好適であり、この条件下でイソマルトースを有利に製造できる。反応温度は6-α-グルコシル転移酵素とイソプルラナーゼによるイソマルトース生成反応が進行する温度、即ち40℃までで行えばよい。好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃付近の温度を用いる。反応pHは、通常、4.0乃至6.0の範囲、好ましくはpH5.0乃至5.5の範囲に調整するのがよい。酵素の使用量と反応時間とは密接に関係しており、目的とする酵素反応の進行により酵素の使用量と反応時間を適宜調整すればよい。
【0023】
なお、本発明のイソマルトースの製造方法の前記イソマルトースを生成させる工程においては、さらに、必要に応じて、イソアミラーゼやプルラナーゼなどの澱粉枝切酵素、α-アミラーゼ、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)及びグルコアミラーゼから選ばれる1種又は2種以上の酵素を併用することも有利に実施できる。とりわけ、澱粉枝切酵素は、原料とする澱粉又は澱粉部分分解物におけるα-1,6結合を介した分岐構造のα-1,6結合を特異的に加水分解(枝切り)する酵素であるため、併用することにより、原料基質である澱粉又は澱粉部分分解物のα-1,6分岐が分解され、澱粉又は澱粉部分分解物の非還元末端側から進行する6-α-グルコシル転移酵素とイソプルラナーゼとによるイソマルトース生成反応の効率を高め、イソマルトースの生成量を高める効果を奏する。また、α-アミラーゼ及びCGTaseは、澱粉又は澱粉部分分解物を加水分解することから、イソマルトース生成反応の反応液中に高分子の澱粉質が残存するのを抑制することができる。さらに、CGTaseは触媒する不均化反応により、6-α-グルコシル転移酵素が比較的反応し難いマルトースやマルトトリオースから、より重合度が大きく比較的反応し易いマルトテトラオースやマルトペンタオースを生成する活性を有することから、イソマルトース生成反応の効率を高め、イソマルトースの生成量をより高める効果をも奏する。
【0024】
特許文献3(国際公開第02/088374号パンフレット)には前記6-α-グルコシル転移酵素とイソマルトデキストラナーゼとを組合せたイソマルトースの製造方法が開示されているが、澱粉枝切酵素としてのイソアミラーゼも併用した製造方法において、原料澱粉部分分解物から得られる反応物の反応固形物当たりのイソマルトース含量は、基質濃度5質量%の条件下で最大約70質量%であるものの、基質濃度30質量%及び40質量%の条件下ではそれぞれ最大約55質量%及び約50質量%と、基質濃度を高めるとイソマルトースの生成が顕著に低下することが記載されている。この基質濃度が高くなるにつれてイソマルトースの生成が低下するのは、基質へのイソマルトデキストラナーゼの作用性が低下するためである。これに対し、イソマルトデキストラナーゼをイソプルラナーゼと置き換えた本発明の製造方法においては、後述する実験の項に示すとおり、イソプルラナーゼの場合も基質濃度が高くなるにつれてイソマルトースの生成が僅かに低下するものの、基質濃度30質量%以上の条件下でも反応物の固形物当たりのイソマルトース含量は70質量%以上を維持できることから、イソプルラナーゼは比較的基質濃度が高い条件下でも、イソマルトデキストラナーゼに比べ、より効率よくイソマルトースを製造することができる。
【0025】
また、本発明は、上記のイソマルトースの製造方法に、さらにイソマルトースを水素添加することにより還元しイソマルチトールに変換する工程と、変換されたイソマルチトールを採取する工程とを付加してなるイソマルチトールの製造方法に係るものでもある。上記のイソマルトースの製造方法で得られるイソマルトース又はイソマルトース含有糖質は、還元触媒下で水素添加することによって高収率でイソマルチトール又はイソマルチトール含有物に変換することができる。具体的には、例えば、固形物濃度40乃至60%のイソマルトース含有水溶液にラネーニッケル触媒を加え、これを耐圧性容器内に入れ、この容器内に水素を充填し、加圧し、温度100乃至120℃にて水素が消費されなくなるまで攪拌して水素添加する。この際、イソマルトースはイソマルチトールに還元されるとともに、イソマルトース含有糖質中に含まれる他の還元性糖質、例えば、D-グルコース、マルトース、マルトトリオース、他の還元性澱粉部分加水分解物も還元され糖アルコールとなる。得られたイソマルチトール含有溶液をラネーニッケル触媒と分離し、常法にしたがって活性炭により脱色し、H型、OH型イオン交換樹脂等で脱塩し、精製し、濃縮してシラップ状物とするか、更に、これを乾燥して粉末状物とする。必要ならば、更に、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィー、活性炭カラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーによる分画、結晶化、アルコール及びアセトンなど有機溶媒を用いる分別、膜分離法等の1種又は2種以上の方法を適宜組み合わせて精製し、高純度イソマルチトールとすることもできる。なお、イソマルチトールは結晶が知られており、結晶化することによっても、さらに高純度の製品を製造することができる。
【0026】
上記した本発明のイソマルトースの製造方法によって得られた反応物又はその還元物(水素添加物)は、そのままイソマルトース含有糖液、イソマルチトール含有液として用いることができるものの、一般的には、さらに精製して用いられる。精製方法としては、糖及び糖アルコールの精製に用いられる通常の方法を適宜採用すればよく、例えば、活性炭による脱色、H型、OH型イオン交換樹脂による脱塩、イオン交換カラムクロマトグラフィー、活性炭カラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーによる分画、アルコールおよびアセトンなど有機溶媒による分別、適度な分離性能を有する膜による分離、更には、イソマルトースやイソマルチトールを利用せず夾雑糖質を資化、分解する微生物、例えば酵母などによる発酵処理などの精製方法が適宜採用できる。
【0027】
とりわけ、大量生産における精製方法としては、イオン交換カラムクロマトグラフィーの採用が好適であり、例えば、特開昭58-23799号公報、特開昭58-72598号公報などに開示されている強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより夾雑糖類を除去し、目的物の含量を向上させたイソマルトース含有糖質、イソマルチトール含有物を有利に製造することができる。この際、固定床方式、移動床方式、擬似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
【0028】
このようにして得られたイソマルトース含有糖質、イソマルチトール含有物を含む水溶液は、通常、濃縮してシラップ状製品とすることができる。このシラップ状製品は、更に、乾燥して非晶質固状物製品又は非晶質粉末製品にすることも随意である。
【0029】
本発明の製造方法で得られるイソマルトース含有糖質、イソマルチトール含有物は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、変色防止剤、賦形剤などとして、他の成分と組合せ、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品、工業用品などの各種組成物に有利に利用できる。
【0030】
なお、上記のような各種組成物に、本発明の製造方法で得られるイソマルトース含有糖質、イソマルチトール含有物を含有させる方法としては、その製品が完成するまでの工程に含有せしめればよく、例えば、混和、混捏、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、晶析、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、通常0.1質量%以上、望ましくは1質量%以上含有せしめるのが好適である。
【0031】
以下、実験により本発明を詳細に説明する。
【0032】
<実験:6-α-グルコシル転移酵素とイソプルラナーゼを組合せた澱粉部分分解物からのイソマルトースの製造>
市販のイソプルラナーゼ酵素剤を、国際公開第2002/010361号パンフレットに開示されたバチルス・グロビスポルス(Bacillus globisporus) N75由来6-α-グルコシル転移酵素と組合せて澱粉部分分解物に作用させ、イソマルトースの製造を試みた。
【0033】
<実験1:イソマルトース生成反応における各種酵素の併用効果>
澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#100』、松谷化学工業株式会社販売)を原料基質とし、1mM塩化カルシウムを含む20mM酢酸緩衝液(pH5.5)に終濃度5質量%になるよう溶解し基質溶液とした。次いで、これに基質固形物1g当たり1Uの6-α-グルコシル転移酵素(株式会社林原調製品)、64Uの市販のイソプルラナーゼ(アスペルギルス・ニガー由来、メガザイム社販売)、1,000fuのイソアミラーゼ(株式会社林原調製品)、及び、0.5Uのシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase、株式会社林原調製品)を、それぞれ表1に示す組合せで添加し、さらに防腐剤としてヒノキチオールを終濃度60ppmになるよう添加した後、30℃で72時間反応させた。反応終了後、100℃で10分間加熱して酵素を失活させた後、各反応液の糖組成を下記条件のHPLCにて測定し、反応液の固形物当たりのイソマルトース含量を求めた。結果を表1に示す。
【0034】
<HPLC条件>
カラム;『MCIgel CK04SS』(三菱ケミカル株式会社製造)
カラム2本を直列に連結して使用;
溶離液:超純水
カラム温度:80℃
流速:0.4mL/分
検出:示差屈折計RID-10A(株式会社島津製作所製造)
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示すとおり、6-α-グルコシル転移酵素及びイソプルラナーゼをそれぞれ単独で澱粉部分分解物に作用させた場合、イソマルトースはほとんど生成しないのに対し、6-α-グルコシル転移酵素とイソプルラナーゼを組合せて作用させると、この2種の酵素の組合せのみでイソマルトースが効率よく生成し、反応液固形物当たりのイソマルトース含量は75.0質量%にまで達した。また、これら酵素の組合せに、さらに澱粉枝切酵素であるイソアミラーゼを併用すると、反応液固形物当たりのイソマルトース含量は76.3質量%と、若干増加することが分った。さらに、これら酵素の組合せにCGTaseをさらに併用すると、反応液固形物当たりのイソマルトース含量は77.1質量%と、僅かではあるがさらに増加することも判明した。イソアミラーゼ又はCGTaseの併用によるイソマルトースの増収効果は小さいものであった。
【0037】
<実験2:イソマルトース生成反応における基質濃度の影響>
イソマルトース生成反応に用いる基質濃度を5、10、20、30又は40質量%と変え、実験1で用いた4種類の酵素を全て作用させた以外は実験1と同じ条件で酵素反応を行い、得られた各反応液の固形物当たりのイソマルトース含量を前述したHPLC分析により測定した。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に見られるとおり、基質濃度5乃至10質量%の範囲で反応液の固形物当たりのイソマルトース含量は約78質量%に達した。基質濃度20、30及び40質量%の条件下での反応液の固形物当たりのイソマルトース含量は、それぞれ76.6、73.6及び70.0質量%と、基質濃度が高くなるにつれてイソマルトース含量は徐々に低下したものの、70質量%以上を維持していた。
【0040】
実験1及び実験2の結果は、6-α-グルコシル転移酵素とイソプルラナーゼを組合せて用いる本発明のイソマルトースの製造方法によれば、比較的基質濃度が高い条件においても、他の酵素も適宜併用することにより、固形物当たりのイソマルトース含量が70質量%以上の反応物が得られ、澱粉又は澱粉部分分解物から効率よくイソマルトースを製造できることを物語っている。
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例0042】
<澱粉からのイソマルトースの製造>
とうもろこし澱粉を濃度約30質量%の澱粉乳とし、これに炭酸カルシウム0.1質量%加え、pH6.5に調整し、耐熱性α-アミラーゼ(商品名『ターマミール60L』、ノボ社製)を澱粉当たり0.3質量%加え、95℃で15分間反応させ、次いで120℃で20分間オートクレーブし、更に約40℃まで冷却してDE約4の澱粉液化液を調製した。この澱粉液化液をpH5.5に調整し、澱粉固形物1g当たり1Uの6-α-グルコシル転移酵素(バチルス・グロビスポルス N75由来、株式会社林原調製品)、64Uのイソプルラナーゼ(アスペルギルス・ニガー由来、メガザイム社販売)、1,000fuの澱粉枝切酵素(イソアミラーゼ、株式会社林原調製品)、及び、0.5Uのシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase、株式会社林原調製品)を添加し、さらに防腐剤としてピロ亜硫酸ナトリウムを終濃度0.01質量%になるよう添加した後、40℃で72時間反応させた。反応終了後、96℃で30分間加熱して酵素を失活させた後、反応液の糖組成をHPLCにて測定したところ、D-グルコース3.8質量%、イソマルトース72.4質量%、その他のオリゴ糖23.8質量%であった。このイソマルトース含有糖液は脱色、脱塩、濃縮した後、イソマルトース高含有シラップとして、甘味料、発酵用炭素源、試薬、化学品、医薬品の原料及び中間体などとして有利に利用できる。
【実施例0043】
<澱粉部分分解物からのイソマルトースの製造>
澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#100』、松谷化学工業株式会社販売)を、1mM塩化カルシウムを含む20mM酢酸緩衝液(pH5.5)に終濃度20質量%になるよう溶解し、これに基質固形物1g当たり6-α-グルコシル転移酵素(株式会社林原調製品)を1U、オーレオバシディウム・プルランス IFO6353を常法により培養し、培養液を遠心分離して得たイソプルラナーゼ粗酵素液をイソプルラナーゼとして64U、イソアミラーゼ(株式会社林原調製品)を1,000fu、及び、CGTase(株式会社林原調製品)を0.5U添加し、さらに防腐剤としてピロ亜硫酸ナトリウムを終濃度0.01質量%になるよう添加した後、30℃で72時間反応させた。反応終了後、96℃で30分間加熱して酵素を失活させた後、冷却し、濾過して得られる濾液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮し、乾燥し、イソマルトース含量75.4質量%のイソマルトース含有粉末を得た。本品は、優れた保湿性、低甘味性、浸透圧調節性、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性、糖質晶出防止性、難醗酵性、澱粉の老化防止性等を有していることから、各種飲食品、健康食品、飼料、餌料、化粧品、医薬品、嗜好品などに有利に用いることができる。
【実施例0044】
<高純度イソマルトース>
実施例1の方法で得られたイソマルトース高含有シラップを水で希釈し、強酸性カチオン交換樹脂商品名『アンバーライトCR-1310』、Na型、オルガノ株式会社製)を用いてカラムクロマトグラフィーを行なった。即ち、前記樹脂を内径12.5cmのジャケット付きステンレス製カラム10本に充填し、これらカラムを直列接続して樹脂層全長を16mとした。カラム内温度を40℃に維持しつつ、前記希釈液を樹脂量に対して1.5%(v/v)加え、これに40℃の温水をSV0.2で流して分画し、溶出液の糖組成をHPLC法でモニターしながら、イソマルトース画分を採取し、これを精製し、イソマルトース含有液を得た。イソマルトースの固形物当たりの収率は約80%であった。本液を、常法に従って、脱色、脱塩、濃縮して、濃度約75%のイソマルトースシラップを得た。本品は、固形物当たり約96.7質量%のイソマルトースを含有していた。本品は、難結晶性で優れた保湿性、低甘味性、浸透圧調節性、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性、糖質晶出防止性、難醗酵性、澱粉の老化防止性等を有していることから、各種飲食品、健康食品、飼料、餌料、化粧品、医薬品、嗜好品などに有利に用いることができる。
【実施例0045】
<結晶イソマルチトールの製造>
実施例3で得た高純度イソマルトースシラップに活性化したラネーニッケルを加え、常法により水素添加した後、ラネーニッケルを除去し、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩、精製し、固形物当たりソルビトール1.2質量%、イソマルチトール96.5質量%、その他の糖アルコールを2.3質量%含有するイソマルチトール高含有シラップを固形物当たり約90%の収率で得た。本イソマルチトール高含有シラップを濃度約75質量%に濃縮し、この濃縮液を晶析缶に入れ、種晶として結晶イソマルチトール粉末を固形物当たり0.1質量%加え、温度25℃ 、約20時間保持してイソマルチトールを晶析した。続いて、遠心分離機を用いて分蜜し、結晶イソマルチトールを回収した。イソマルチトール結晶を80℃で20時間真空乾燥して、結晶イソマルチトールを得た。本品は、固形物当たり、ソルビトールを0.2質量%、イソマルチトールを99.3質量%、その他の糖アルコールを0.5質量%含有していた。本品は、非還元性、非吸湿性、低甘味性、浸透圧調節性、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性付与性、糖質晶出防止性、難醗酵性、澱粉の老化防止性等を有していることから、各種飲食品、健康食品、健康補助食品、飼料、餌料、化粧品、医薬品、嗜好品などに有利に用いることができる。
【実施例0046】
<甘味料>
実施例2の方法により得た粉末状イソマルトース含有粉末8質量部に、トレハロース二含水結晶含有粉末(登録商標『トレハ』、株式会社林原販売)2質量部、α-グリコシルステビオシド(商品名『αGスィート』、東洋精糖株式会社販売)0.1質量部、及びL-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステル(商品名『アスパルテーム』)0.1質量部を均一に混合し、顆粒成形機にかけて顆粒状甘味料を得た。本品は、甘味の質が優れ、砂糖の約2倍の甘味度を有している。本品は、難結晶性で優れた保湿性を有するイソマルトースを含有する甘味料組成物である。又、本品は、室温保存下、変質劣化の懸念が無く、安定である。
【実施例0047】
<化粧用クリーム>
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2質量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5質量部、実施例4の方法で得た結晶イソマルチトール2質量部、α-グルコシルルチン(商品名『αGルチン』、東洋精糖株式会社販売)2質量部、流動パラフィン1質量部、トリオクタン酸グリセリン10質量部および防腐剤の適量を常法に従って加熱溶解し、これにL-乳酸2質量部、1,3-ブチレングリコール5質量部および精製水66質量部を加え、ホモジナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて撹拌混合し、化粧用クリームを製造した。本品は、抗酸化性を有し、安定性が高く、高品質の日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして有利に利用できる。
【実施例0048】
<外傷治療用膏薬>
実施例3の方法で得たシラップ状高純度イソマルトース100質量部及びマルトース300質量部に、ヨウ素3質量部を溶解したメタノール50質量部を加え混合し、更に10%(w/v)プルラン水溶液200質量部を加えて混合し、適度の延び、付着性を示す外傷治療用膏薬を得た。本品は、イソマルトースにより、ヨウ素、メタノールの揮散が防止され、経時変化の少ない商品価値の高い膏薬である。また、本品は、ヨウ素による殺菌作用のみならず、マルトースによる細胞へのエネルギー補給剤としても作用することから治癒期間が短縮され、創面もきれいに治る。
【実施例0049】
<錠剤>
アスピリン10質量部に実施例4の方法で得た粉末状の結晶イソマルチトール60質量部、コーンスターチ4質量部を充分に混合した後、常法に従って打錠機により打錠して厚さ5.25mm、1錠680mgの錠剤を製造した。本品は、結晶イソマルチトール粉末の賦形性を利用したもので、吸湿性がなく、物理的強度も充分にあり、しかも水中での崩壊はきわめて良好である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
6-α-グルコシル転移酵素とイソプルラナーゼとを組合せて用いる本発明のイソマルトースの製造法の確立は、澱粉又は澱粉部分分解物を原料とした工業的規模でのイソマルトース生産、さらにはイソマルチトール生産を可能にするものであり、製糖産業のみならず、これに関連する食品、化粧品、医薬品産業における意義が極めて大きい。
図1