(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024337
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】オーステナイト系Fe基耐熱合金
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220202BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20220202BHJP
C22C 38/48 20060101ALI20220202BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20220202BHJP
C21D 8/00 20060101ALN20220202BHJP
C22F 1/10 20060101ALN20220202BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C30/00
C22C38/48
C22C19/05 C
C21D8/00 D
C22F1/10 H
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 684C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122366
(22)【出願日】2020-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】000221786
【氏名又は名称】東邦亜鉛株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鉄井 利光
(72)【発明者】
【氏名】平城 智博
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 英人
(72)【発明者】
【氏名】三上 慎太郎
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA12
4K032AA13
4K032AA22
4K032AA25
4K032AA37
4K032CA02
4K032CB00
4K032CF03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶解、鋳造又は鍛造、圧延法等の汎用的な方法で部材としての加工や製造が可能であり、室温において十分な延性を有するとともに、高温での強度が十分に高い、新規なFe基耐熱合金を提供する。
【解決手段】原子%で、Al:10~21%、Ni:25~40%、Cr:5~16%、Nb:2~5%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる、オーステナイト系Fe基耐熱合金。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子%で、
Al:10~21%、
Ni:25~40%、
Cr:5~16%、
Nb:2~5%
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる、オーステナイト系Fe基耐熱合金。
【請求項2】
さらに、原子%で、
W:1~3%
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる、請求項1に記載のオーステナイト系Fe基耐熱合金。
【請求項3】
原子%で、
Al:11~19%、
Ni:26~38%、
Cr:5~15%、
Nb:2~5%、
W:1~3%
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる、オーステナイト系Fe基耐熱合金。
【請求項4】
室温での引張試験において、伸び5%以上の延性を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の合金。
【請求項5】
700℃での引張試験において、引張強度450MPa以上の高温強度を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種エンジン及びタービン等の高温回転部品、並びに高温耐食部材等として用いるのに好適な、室温延性と高温強度が良好なオーステナイト系Fe基耐熱合金に関する。
【背景技術】
【0002】
各種エンジン及びタービン等の高温回転部品では、燃料消費量の低減や二酸化炭素排出量の削減の要請を受け、さらなる高温化や高回転化が求められている。このような部品及び装置等に適した材料として、高温化や高回転化に十分に耐え得る性能を有するとともに、汎用的な製造方法で比較的安価に製造し得る材料が求められている。
【0003】
従来、高温環境下で使用される各種製品用材料として、SUS321H、SUS347H等の18-8系オーステナイト系耐熱鋼が使用されてきた。しかし、近年、高温環境下における部品及び装置等の使用条件が一段と過酷になり、それに伴って使用される材料に対する高温強度等の要求性能が厳しさを増していることから、従来の18-8系オーステナイト系耐熱鋼材料に代わる優れた耐熱鋼が必要とされている。
【0004】
従来の18-8系オーステナイト系耐熱鋼に代わる耐熱鋼の候補として、例えば、特許文献1(特開2001-011583)には、重量比でC:0.01~0.10%、Si:≦1.50%、Mn:≦1.50%、P:≦0.030%、S:≦0.015%、Ni:25.00~35.00%、Cr:19.00~29.00%、Mo+W:≦3.0%、V:≦0.5%、Co:≦5.0%、Al:≦0.15%、Ti:≦0.15%、Nb+Ta:≦1.0%、N:0.1~0.35%を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなることを特徴とする耐熱性合金が開示されている。
【0005】
特許文献2(特開2003-041347)には、重量%で、Cr:12~15%、Ni:20~30%、Ti:0.20~0.50%、Nb:0.10~0.30%、P:0.025~0.08%、V:0.2~0.4%、残部がFeからなることを特徴とするオーステナイト系耐熱鋼が開示されている。
【0006】
特許文献3(特開2012-001749)には、質量%で、C:0.01~0.12%、Si:0.2~1.0%、Mn:1.0~2.5%、Ni:10.0~28.0%、Cr:18.0~26.0%、Al:0.001~0.050%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、N:0.09~0.30%、Nb+V:0.25~0.70%、Mo+0.5W:1.5~4.0%、W/Mo:3~16、を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、1180~1250℃で固溶化処理することを特徴とするオーステナイト系耐熱鋼が開示されている。
【0007】
しかしながら、上記のいずれの文献に記載された耐熱鋼も、高温強度の向上にはさらなる改善の余地があり、また、室温付近での環境下において必要なその他の特性、例えば室温延性を具備しているか否かについて必ずしも明らかではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-011583号公報
【特許文献2】特開2003-041347号公報
【特許文献3】特開2012-001749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の背景技術の項で説明した従来の問題点を解消するためになされたものであって、溶解、鋳造又は鍛造、圧延法等の汎用的な方法で部材としての加工や製造が可能であり、室温において十分な延性を有するとともに、高温での強度が十分に高い新規なFe基耐熱合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の文献に記載されている従来のオーステナイト系Fe基耐熱合金とは異なる組成比の合金について、特にB2型金属間化合物に着目して仮説を構築しつつ、鋭意検討を進めた結果、意外なことに、Al含有比を特定の組成範囲で含有し、且つ、Ni、Cr及びNbをそれぞれ特定の組成範囲とし、残部をFe及び不可避不純物からなる合金とした場合に、室温での高い延性と高温での高い強度という一見して相反し得る重要な特性の両立が図られることを見出すに至り、上記課題を解決し得る手段として本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 原子%で、Al:10~21%、Ni:25~40%、Cr:5~16%、Nb:2~5%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる、オーステナイト系Fe基耐熱合金。
[2] さらに、原子%で、W:1~3%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる、上記[1]に記載のオーステナイト系Fe基耐熱合金。
[3] 原子%で、Al:11~19%、Ni:26~38%、Cr:5~15%、Nb:2~5%、W:1~3%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる、オーステナイト系Fe基耐熱合金。
[4] 室温での引張試験において、伸び5%以上の延性を有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の合金。
[5] 700℃での引張試験において、引張強度450MPa以上の高温強度を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の合金。
【発明の効果】
【0012】
本発明のオーステナイト系Fe基耐熱合金は、従来の溶解、鋳造又は鍛造、圧延法等の汎用的な方法で部材としての加工や製造が可能であり、且つ、室温において十分な延性を有するとともに、高温での強度が十分に高いという優れた効果を両立し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例で作製したインゴットの外観を示す図である。
【
図2】実施例で作製した溝ロール圧延材の外観を示す図である。
【
図3】実施例における引張試験片形状を示す図である。
【
図4】合金1(比較合金)の反射電子像写真である。
【
図5】合金5(比較合金)の反射電子像写真である。
【
図6】合金20(比較合金)の反射電子像写真である。
【
図7】合金25(参考合金)の反射電子像写真である。
【
図8】合金7(発明合金)の反射電子像写真である。
【
図9】合金17(発明合金)の反射電子像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0015】
[オーステナイト系Fe基合金の各成分]
本発明のオーステナイト系Fe基合金の各成分について説明する。
<Al>
本発明のオーステナイト系Fe基板合金は、必須成分としてAlを含む。Alは、合金の基本的な構成元素である鉄(Fe)と反応し、B2型金属間化合物を形成し得る成分である。本発明のFe基合金中でB2相が適度に析出していることにより、合金の高温強度を向上するという効果を奏すると考えられ、この点が、本発明の重要な特徴の一つである。
合金作製時のAlの配合比は、原子%で、10%以上であることが好ましく、11%以上であることがより好ましく、また、21%以下であることが好ましく、19%以下であることがより好ましい。上記の下限を下回ると、Alの効果が不十分となる場合があり、上限を超えると、合金の室温での延性が低下し、この原因としてB2相の析出量が多すぎることが考えられる。
【0016】
<Ni>
本発明のオーステナイト系Fe基板合金は、必須成分としてNiを含む。Niは、合金のオーステナイト相の安定化に寄与する成分であり、これにより、合金の室温での延性を高めるという効果を示す。
合金作製時のNiの配合比は、原子%で、25%以上であることが好ましく、26%以上であることがより好ましく、また、40%以下であることが好ましく、38%以下であることがより好ましい。上記の下限を下回ると、合金の室温での延性が低下し、上限を超えると、合金の高温強度が低下する。
【0017】
<Cr>
本発明のオーステナイト系Fe基板合金は、必須成分としてCrを含む。Crは、母相の固溶強化に寄与する成分であり、これにより、合金の高温での強度を向上するという効果を示す。
合金作製時のCrの配合比は、原子%で、5%以上であることが好ましく、また、16%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。上記の下限を下回ると、Crの効果が不十分となる場合があり、上限を超えると、合金の室温での延性が低下し、この原因としてラーベス相などの脆い相の量が多くなりすぎることが考えられる。
【0018】
<Nb>
本発明のオーステナイト系Fe基板合金は、必須成分として少量のNbを含む。Nbは、析出強化に寄与する成分であり、これにより、合金の高温での強度を向上するという効果を示す。
合金作製時のNbの配合比は、原子%で、2%以上であることが好ましく、また、5%以下であることが好ましい。上記の下限を下回ると、Nbの効果が不十分となる場合があり、上限を超えると、合金の室温での延性が低下し、この原因としてラーベス相などの脆い相の量が多くなりすぎることが考えられる。
【0019】
<W>
本発明のオーステナイト系Fe基板合金は、少量のWを含むことが好ましい。Wは、Nbと同様に、析出強化に寄与する成分であり、これにより、合金の高温での強度を向上するという効果を示す。
合金作製時のWの配合比は、原子%で、2%以上であることが好ましく、また、5%以下であることが好ましい。上記の下限を下回ると、Wの効果が不十分となる場合があり、上限を超えると、合金の室温での延性が低下し、この原因としてラーベス相などの脆い相の量が多くなりすぎることが考えられる。
【0020】
[オーステナイト系Fe基合金の特性]
本発明のオーステナイト系Fe基合金の特性について説明する。
【0021】
<室温延性>
本発明のオーステナイト系Fe基板合金は、室温での引張試験において、好ましくは伸び4.3%以上の延性を有し、より好ましくは伸び5.0%以上の延性を有し、さらに好ましくは伸び5.5%以上の延性を有し、最も好ましくは伸び6.0%以上の延性を有する。上記の延性の下限値は、使用時の安定性を確保するための目安として設定することができる。
【0022】
<高温強度>
本発明のオーステナイト系Fe基板合金は、700℃での引張試験において、好ましくは引張強度435MPa以上の高温強度を有し、より好ましくは引張強度450MPa以上の高温強度を有し、さらに好ましくは引張強度460MPa以上の高温強度を有し、最も好ましくは引張強度465MPa以上の高温強度を有する。上記の700℃での引張強度の下限値は、既知の通常のオーステナイト系耐熱鋼以上の強度を目安として設定することができる。
【0023】
[オーステナイト系Fe基合金の製造方法]
【0024】
本発明のオーステナイト系Fe基合金は、各成分元素の原料を溶解、鋳造又は鍛造、圧延法等の汎用的な方法を用いて製造することができ、その他、当該技術分野における公知、周知の方法に関する技術を適宜組み合わせて製造してもよい。また、後述する実施例の手順に沿って、アルミナるつぼを用いた高周波溶解によるインゴット作製、1100℃の加熱を用いた溝ロール圧延、及び/又は900℃で50時間の熱処理を順次行ってもよい。
本発明の必須の元素成分であるAl、Ni、Cr、Nb及び任意選択でWをオーステナイト組織中に固溶及び析出させて、Fe基合金の固溶強化及び析出強化を図るため、熱処理温度は、800~1300℃とするのが好ましく、850~1200℃とするのがさらに好ましく、900~1100℃とするのが最も好ましく、また、熱処理時間は、1~100時間とするのが好ましく、5~70時間とするのがさらに好ましく、10~50時間とするのが最も好ましい。本発明のFe基合金の製造条件は、その合金が本発明の効果を発揮し得る限り、熱処理における鋼材の酸化ロスの防止や熱処理にかかるコスト低減の観点から適宜選択することができる。
【0025】
[本発明のオーステナイト系Fe基合金の作用]
後述する実施例において、本発明のオーステナイト系Fe基合金を製造し、当該合金が有する優れた効果について実証することができたが、その詳細な全ての理由は必ずしも厳密には明らかではないものの、以下のように推測される。
本発明のオーステナイト系Fe基合金の最大のポイントは、通常のオーステナイト系Fe基耐熱合金よりもAlを多量に添加することで、FeAlを基本とするB2型金属間化合物を多く析出させ、その効果によって、合金の十分な室温延性を確保しつつ、合金の高温強度を向上させることにある。
従来のオーステナイト系Fe基耐熱合金は、固溶体合金であることから、構造強化のメカニズムは、添加元素による母相の固溶強化が基本であり、さらに添加成分による微細析出物の析出強化が意図されているが、このような手法のみでは高温強度の向上に限界があると考えられる。
これに対して、本発明のオーステナイト系Fe基耐熱合金は、固溶強化や微細析出物の析出強化に加えて、FeAlを基本とするB2型金属間化合物による析出強化をも可能としている点に特徴がある。このような複合的な構造強化の手法を採用したことにより、本発明の耐熱合金は、装置等の高温部位における耐熱材料として使用することが期待される。本発明では、FeAlを基本とするB2型金属間化合物そのものが高温で変形しにくいという特徴が生かされており、また、金属間化合物と母相との界面において界面効果による強化メカニズムも発現し得るという特徴も生かされている。これらの特徴を備えたオーステナイト系Fe基合金は、前述の先行技術文献には記載も示唆もなされておらず、本発明者らの鋭意検討によって初めて見出されたものである。
【実施例0026】
以下、実施例に基づき、本発明のオーステナイト系Fe基耐熱合金の作製及びその特性について、更に詳しく説明する。なお、これらの記載は本発明の実施形態の例示であって、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
[手順1:インゴット作製]
図1は本実施例で作製したインゴットの外観を示す写真である。以下の表1に示す組成を有するインゴットを、アルミナるつぼを用いた高周波溶解によって作製した。インゴットの原料としては、塊状の電解鉄と、粒状のAl、Ni、Cr、Nb、Wを用い、合計重量を約1.5kgとした。溶解雰囲気はアルゴンガス中とした。鋳造は内径φ40mmの鋳鉄製鋳型に行い、切断は
図1に点線で示した位置で切断し、下側(長さ約90mm)を後述の溝ロール圧延に供した。
【0028】
[手順2:溝ロール圧延]
押し湯を切断して得たφ40mm×90mmのインゴットを、1100℃に加熱して溝ロール圧延を行った。溝の形状は正方形であり、サイズが異なる溝の間にインゴットを順番に通すことによって、徐々に断面積を細くした。また、およそ3回の圧延後に、再加熱を施した。加熱保持時間は約10分とした。以下に、溝ロール圧延工程の一例を、矢印記号を用いて示す(数字は溝の一辺の長さ(mm)である。):
<開始> →加熱保持→ 38.2→ 35.0→ 31.7→ 再加熱→ 28.7→ 25.9→ 23.5→ 再加熱→ 21.3→ 19.3→ 17.5→ 再加熱→ 15.8→ 14.3→ 12.9→ <終了>
本実施例では、上記工程により、
図2に示す溝ロール圧延材を得た。
【0029】
[手順3:熱処理及び組織観察]
溝ロール圧延材について、900℃で50時間の熱処理を行った後、反射電子像による組織観察を行った。合金1、5、20、25、7及び17の反射電子像組織の写真を、それぞれ
図4~
図9に示す。
【0030】
[手順4:特性評価]
熱処理後の溝ロール圧延材から、
図3に示す試験片を加工し、室温での引張試験と700℃での引張試験を行った。室温での引張試験では、室温延性の評価として伸びを測定し、700℃での引張試験では、高温強度の評価として引張強度を測定した。
測定結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0031】
表1から、特定の組成(成分比)で作製した各インゴットの溝ロール圧延材について、以下のことが判明した。
【0032】
(1)Alの好適な成分比について
合金1~5は、Al成分比を大きく変化させたグループである。このグループでは、Al並びにFe及び不可避不純物を除く成分比が、原子%で、Ni(25~40%):Cr(5~15%):Nb(2~5%):W(1~3%)の範囲内であるところ、Alが11.0%、16.0%、及び19.0%の場合(それぞれ合金1、2及び3)に、室温延性と高温強度がいずれも良好(◎)であるが、Alが9.0%と比較的少ない場合(合金1、比較合金)には高温強度が不良(×)であり、Alが22.0%と比較的多い場合(合金5、比較合金)には、室温延性が不良(×)であることがわかった。
比較合金である合金1では、Al成分比が10~20%の範囲を下回っており、反射電子像写真(
図4)から観察されるように、B2相(黒い相)の量が少ないことがわかる。このため、合金1では、Al添加による高温強度向上の効果が見られなかったものと考えられる。
一方、比較合金である合金5では、Al成分が10~20%の範囲を上回っており、反射電子像写真(
図5)から観察されるように、B2相(黒い相)の量が多すぎるため、これが原因となって室温延性が低く不良であったものと考えられる。
【0033】
(2)Niの好適な成分比について
合金6~10は、Ni成分比を大きく変化させたグループである。このグループでは、Ni並びにFe及び不可避不純物を除く成分比が、原子%で、Al(10~20%):Cr(5~15%):Nb(2~5%):W(1~3%)の範囲内であるところ、Niが26.0%、32.0%、及び38.0%の場合(それぞれ合金7、8及び9)に、室温延性と高温強度がいずれも良好(◎)であるが、Niが24.0%と比較的少ない場合(合金6、比較合金)には室温延性が不良(×)であり、Niが41.0%と比較的多い場合(合金10、比較合金)には、高温強度が不良(×)であることがわかった。
比較合金である合金6では、Nl成分比が25~40%の範囲を下回っており、このため、オーステナイト相が安定せず、室温延性が不良であったものと考えられる。
一方、比較合金である合金10では、Ni成分が25~40%の範囲を上回っており、このことが原因となって高温強度が低下したものと考えられる。
なお、発明合金である合金7では、Ni成分比が25~40%の範囲内であり、反射電子像写真(
図8)から観察されるように、B2相(黒い相)の量と析出物(白い相)の量とのバランスよく存在し、好適な条件下であるため、室温延性と高温強度が共に良好であったものと考えられる。
【0034】
(3)Crの好適な成分比について
合金11~15は、Cr成分比を大きく変化させたグループである。このグループでは、Cr並びにFe及び不可避不純物を除く成分比が、原子%で、Al(10~20%):Ni(25~40%):Nb(2~5%):W(1~3%)の範囲内であるところ、Crが5.0%、10.0%、及び15.0%の場合(それぞれ合金12、13及び14)に、室温延性と高温強度がいずれも良好(◎)であるが、Crが4.0%と比較的少ない場合(合金11、比較合金)には高温強度が不良(×)であり、Crが17.0%と比較的多い場合(合金15、比較合金)には、室温延性が不良(×)であることがわかった。
比較合金である合金11では、Cr成分比が5~15%の範囲を下回っており、固溶強化による高温強度の向上の効果が見られなかったものと考えられる。
一方、比較合金である合金15では、Cr成分が5~15%の範囲を上回っており、ラーベス相などの脆い相の量が多くなりすぎるため、これが原因となって室温延性が不良であったものと考えられる。
【0035】
(4)Nbの好適な成分比について
合金16~20は、Nb成分比を大きく変化させたグループである。このグループでは、Nb並びにFe及び不可避不純物を除く成分比が、原子%で、Al(10~20%):Ni(25~40%):Cr(5~15%):W(1~3%)の範囲内であるところ、Nbが2.0%、3.0%、及び5.0%の場合(それぞれ合金17、18及び19)に、室温延性と高温強度がいずれも良好(◎)であるが、Nbが1.0%と比較的少ない場合(合金16、比較合金)には高温強度が不良(×)であり、Nbが6.0%と比較的多い場合(合金20、比較合金)には、室温延性が不良(×)であることがわかった。
比較合金である合金16では、Nb成分比が2~5%の範囲を下回っており、析出強化による高温強度の向上の効果が見られなかったものと考えられる。
一方、比較合金である合金20では、Nb成分が2~5%の範囲を上回っており、反射電子像写真(
図6)から観察されるように、Nb添加に伴う析出物(白い相)の量が多すぎるため、これが原因となって室温延性が不良であったものと考えられる。
なお、発明合金である合金17では、Nb成分比が2~5%の範囲内であり、反射電子像写真(
図9)から観察されるように、B2相(黒い相)の量と析出物(白い相)の量とのバランスがよく存在し、好適な条件下にあるため、室温延性と高温強度が共に良好であったものと考えられる。
【0036】
(5)Wの好適な成分比について
合金21~25は、W成分比を大きく変化させたグループである。このグループでは、W並びにFe及び不可避不純物を除く成分比が、原子%で、Al(10~20%):Ni(25~40%):Cr(5~15%):Nb(2~5%)の範囲内であるところ、Wが1.0%、2.0%、及び3.0%の場合(それぞれ合金22、23及び24)に、室温延性と高温強度がいずれも良好(◎)であるが、Wが0.7%と比較的少ない場合(合金21、参考合金)には高温強度の評価が(〇)にとどまり、Wが4.0%と比較的多い場合(合金25、参考合金)には、室温延性の評価が(〇)にとどまることがわかった。
参考合金である合金21では、W成分比が1~3%の範囲を下回っており、析出強化による高温強度の向上の効果が比較的小さかったものと考えられる。
一方、参考合金である合金25では、W成分が1~3%の範囲を上回っており、反射電子像写真(
図7)から観察されるように、W添加に伴う析出物(白い相)の量が若干多すぎるため、これが原因となって室温延性の評価が(〇)にとどまったものと考えられる。
(6)総括
以上の通り、表1の測定結果及び評価結果から、Fe及び不可避不純物を除く成分比が、原子%で、Al(10~20%):Ni(25~40%):Cr(5~15%):Nb(2~5%)の範囲内にあるオーステナイト系Fe基合金が、これらの組成比の範囲外にある合金と比べて、優れた効果を両立することが示された。
また、表1の測定結果及び評価結果から、Fe及び不可避不純物を除く成分比が、原子%で、Al(10~20%):Ni(25~40%):Cr(5~15%):Nb(2~5%):W(1~3%)の範囲内にあるオーステナイト系Fe基合金が、これらの組成比の範囲外にある合金と比べて、さらに優れた効果を両立することが示された。
本発明のオーステナイト系Fe基耐熱合金は、室温において十分な延性を有するとともに、高温での強度が十分に高いので、各種エンジン及びタービン等の高温回転部品、並びに高温耐食部材等の材料として使用するのに好適である。また、本発明のオーステナイト系Fe基耐熱合金は、溶解、鋳造又は鍛造、圧延法等の汎用的な方法で部材としての加工や製造が可能なため、製造コスト的な優位性を維持しつつ、実用に供することができる。