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特開2022-24407液圧装置、液圧装置の制御方法、および液圧装置の制御プログラム
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  • 特開-液圧装置、液圧装置の制御方法、および液圧装置の制御プログラム 図1
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  • 特開-液圧装置、液圧装置の制御方法、および液圧装置の制御プログラム 図10
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024407
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】液圧装置、液圧装置の制御方法、および液圧装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/06 20060101AFI20220202BHJP
【FI】
F04B49/06 321A
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126971
(22)【出願日】2020-07-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】394007849
【氏名又は名称】株式会社堀内機械
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】特許業務法人 クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸波 照喜
(72)【発明者】
【氏名】辻本 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】真下 和昌
【テーマコード(参考)】
3H145
【Fターム(参考)】
3H145AA03
3H145AA24
3H145AA42
3H145BA02
3H145BA19
3H145BA20
3H145CA03
3H145CA09
3H145DA07
3H145DA08
3H145DA47
3H145EA13
3H145EA17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】片ロッド式液圧シリンダの駆動速度を押し方向と引き方向で同一とし、かつ、液圧ポンプの実吐出量の理論吐出量からの低下を補償することのできる液圧装置、液圧装置の制御方法および制御プログラムを提供することにある。
【解決手段】液圧シリンダ170と液圧ポンプ90とモータ100と制御装置140とを備える液圧装置200において、コントローラ140の発生する押し方向と引き方向の回転数指令信号周波数の比をピストン10のピストン側受圧面積とロッド側受圧面積との比と等しくするとともに、液圧ポンプ90からの液体の漏出による実吐出量の理論吐出量からの低下を補償するために、コントローラ140の発生する回転数指令信号周波数に補正係数を乗算するための補正器130を設ける。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧シリンダと液圧発生源と管路とを備える液圧装置であって、
前記液圧シリンダは、シリンダチューブと、前記シリンダチューブ内を往復動するピストンと、前記ピストンに連結されたピストンロッドと、前記ピストンロッドが貫通する貫通部を有するとともに前記シリンダチューブの一端を閉塞するロッド側カバーと、前記シリンダチューブの他端を閉塞するピストン側カバーとを備え、前記ピストンにより前記シリンダチューブ内がピストン側液室とロッド側液室とに区画され、
前記液圧発生源は、回転数指令信号周波数を発生してモータを駆動する制御装置と前記回転数指令信号周波数に基づいて回転数を変更する前記モータと前記モータにより駆動される液圧ポンプとを備え、
前記液圧装置は、前記液圧シリンダと前記液圧発生源とを前記管路により接続して、前記液圧シリンダの前記ピストン側液室に液体を供給して前記ピストンロッドを押し方向に駆動するか、または、前記液圧シリンダの前記ロッド側液室に液体を供給して前記ピストンロッドを引き方向に駆動し、
前記制御装置は、前記液圧シリンダを押し方向に駆動する第1の回転数指令信号周波数と引き方向に駆動する第2の回転数指令信号周波数との比を、前記ピストンロッドの押し方向の速度と引き方向の速度とが等しくなるよう制御する、液圧装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1の回転数指令信号周波数と前記第2の回転数指令信号周波数との比と、前記ピストンのピストン側受圧面積とロッド側受圧面積との比とを等しくすることで、前記ピストンロッドの押し方向の速度と引き方向の速度とが等しくなるよう制御する、請求項1に記載の液圧装置。
【請求項3】
さらに、前記制御装置の前記回転数指令信号周波数に第1の補正係数Xを乗算する補正器を備え、
前記制御装置の前記回転数指令信号周波数が小さい場合、前記制御装置の前記回転数指令信号周波数が大きい場合に比べて、前記第1の補正係数Xの値を増加させる、請求項2に記載の液圧装置。
【請求項4】
さらに、前記ピストン側液室の液圧を検出する検出器および前記ロッド側液室の液圧を検出する検出器と、
前記制御装置の前記回転数指令信号周波数に第2の補正係数Yを乗算する補正器と、を備え、
前記ピストン側液室の液圧と前記ロッド側液室の液圧との差が大きい場合、前記ピストン側液室の液圧と前記ロッド側液室の液圧との差が小さい場合に比べて、前記第2の補正係数Yの値を増加させる、請求項2に記載の液圧装置。
【請求項5】
さらに、前記ピストン側液室の液圧を検出する検出器および前記ロッド側液室の液圧を検出する検出器を備え、
前記補正器の補正係数は前記第1の補正係数Xと第2の補正係数Yとの積であって、
前記ピストン側液室の液圧と前記ロッド側液室の液圧との差が大きい場合、前記ピストン側液室の液圧と前記ロッド側液室の液圧との差が小さい場合に比べて、前記第2の補正係数Yの値を増加させる、請求項3に記載の液圧装置。
【請求項6】
さらに、前記ピストン側液室の液圧を検出する検出器および前記ロッド側液室の液圧を検出する検出器と、
前記制御装置の前記回転数指令信号周波数に第3の補正係数Zを乗算する補正器と、を備え、
前記ピストン側液室の液圧と前記ロッド側液室の液圧との差をΔP、前記回転数指令信号周波数をh、第1の所定の正の定数をa、第2の所定の正の定数をαとするとき、前記第3の補正係数Zは次の数式1により算出される、請求項2に記載の液圧装置。
【数1】
【請求項7】
前記αは1より大きく、前記aと前記αとは前記液圧ポンプの特性に基づいて決定される請求項6に記載の液圧装置。
【請求項8】
前記モータは両方向回転モータであり、前記液圧ポンプは両方向回転液圧ポンプである、請求項1から7のいずれか1項に記載の液圧装置。
【請求項9】
前記モータは片方向回転モータであり、前記液圧ポンプは片方向回転液圧ポンプであって、前記液圧発生源はさらに方向切換弁を備える、請求項1から7のいずれか1項に記載の液圧装置。
【請求項10】
液圧シリンダと、制御装置とモータと液圧ポンプとを備える液圧発生源と、前記液圧シリンダと前記液圧発生源とを接続する管路とを備える液圧装置の制御方法であって、前記液圧装置の制御方法は、
前記液圧シリンダのピストンロッドの速度に基づいて前記モータの回転数指令信号周波数を決定する回転数指令信号周波数決定工程と、
前記液圧ポンプ内での液体の漏出に伴う実吐出量と吐出量の理論値との差分を補償するための補正係数Zを前記回転数指令信号周波数に乗算する補正係数乗算工程と、
前記補正係数乗算工程の出力である、補正された回転数指令信号周波数で前記モータを駆動するモータ駆動工程と、
前記モータの出力で前記液圧ポンプを駆動する液圧ポンプ駆動工程と、
前記液圧ポンプの吐出する液体で前記液圧シリンダを駆動する液圧シリンダ駆動工程と、を含み、
前記液圧シリンダのピストン側液室の液圧とロッド側液室の液圧との差をΔP、前記回転数指令信号周波数をh、第1の所定の正の定数をa、第2の所定の正の定数をαとするとき、前記補正係数Zは次の数式1により算出される、液圧装置の制御方法。
【数1】
【請求項11】
液圧シリンダと、制御装置とモータと液圧ポンプとを備える液圧発生源と、前記液圧シリンダと前記液圧発生源とを接続する管路とを備える液圧装置の制御プログラムであって、
前記液圧シリンダのピストンロッドの速度に基づいて前記モータの回転数指令信号周波数を決定する回転数指令信号周波数決定手段と、
前記液圧ポンプ内での液体の漏出に伴う実吐出量と吐出量の理論値との差分を補償するための補正係数Zを前記回転数指令信号周波数に乗算する補正係数乗算手段と、
前記補正係数乗算手段の出力である、補正された回転数指令信号周波数で前記モータを駆動するモータ駆動手段と、
前記モータの出力で前記液圧ポンプを駆動する液圧ポンプ駆動手段と、
前記液圧ポンプの吐出する液体で前記液圧シリンダを駆動する液圧シリンダ駆動手段と、を含み、
前記液圧シリンダのピストン側液室の液圧とロッド側液室の液圧との差をΔP、前記回転数指令信号周波数をh、第1の所定の正の定数をa、第2の所定の正の定数をαとするとき、前記補正係数Zは次の数式1により算出される、液圧装置の制御プログラム。
【数1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧シリンダと液圧発生源とを備えた液圧装置、液圧装置の制御方法、および液圧装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
液圧シリンダと液圧発生源とを備えた液圧装置に関しては、多くの発明が出願されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2004-308736号公報)には、回転数指令信号周波数に基づいて回転数を変更するサーボモータと、該サーボモータにより駆動される液圧ポンプと、該液圧ポンプから吐出される高圧流体を供給ポートに導入し弁開度指令信号に基づいて弁開度を変更して制御ポートからの流量及び圧力を制御する制御弁を備え、該制御弁の制御ポートからの流路に該流路を開閉する切換弁を設けたことを特徴とする液圧装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2(特開2004-301188号公報)には、アクチュエータの液圧駆動を行うポンプと、その回転駆動を行う電動機と、その回転制御を行う電子制御装置と、前記液圧駆動に関する位置を検出する位置検出手段と、前記液圧駆動に関する力を検出する力検出手段と、前記液圧駆動に関する速度を検出する速度検出手段とを備え、前記電子制御装置が、前記位置検出手段の検出値を位置指令に追従させるフィードバック制御の演算を行って位置制御量を算出し、前記力検出手段の検出値を力指令に追従させるフィードバック制御の演算を行って力制御量を算出し、前記速度検出手段の検出値を速度指令に追従させるフィードバック制御の演算を行って速度制御量を算出し、それらの制御量のうち絶対値の最も小さいものを選択して前記電動機の回転制御を行うものである液圧制御システムが開示されている。
【0005】
また、特許文献3(特開2006-194325号公報)には、片ロッド形液圧シリンダを固定容量液圧ポンプにより駆動する液圧駆動装置であって、前記固定容量液圧ポンプは、タンクに接続された第1の固定容量液圧ポンプと、正逆反転自在の第2の固定容量液圧ポンプとを備え、第2の固定容量液圧ポンプを正逆反転した場合における前記固定容量液圧ポンプからの流体の吐出量比を、前記片ロッド形液圧シリンダのピストンのロッド側とその反対側との受圧面積比と同等になるように構成したことを特徴とする液圧駆動装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献4(実開平05-024970号公報)には、回転軸と一体的に回転するシリンダブロックのボア内にピストンを収容し、シリンダブロックの後端面に摺接する弁板及び同弁板を受承するエンドカバーに貫設された作動油の吸入通路又は吐出通路にシリンダブロックのボアを連通すると共に、回転軸上にピボットをスライド可能かつ相対回転不能に設け、このピボット及びシューリテーナを介したバネの作用によって、ピストンの先端部に設けられたシューを斜板に常時押接し、回転軸の回転に連動したピストンの往復動に基づいて作動油の吸入及び吐出を行う斜板式ピストンポンプにおいて、
シリンダブロックに形成された回転軸挿通孔の後部にてシリンダブロックと回転軸とを嵌合すると共に、回転軸挿通孔の前部にピボットの一部をスライド可能に嵌入し、回転軸挿通孔内には一端がピボットを他端がシリンダブロックを押圧するバネを介在し、シリンダブロックと回転軸との嵌合部及びシリンダブロックとピボットとの嵌合部の少なくとも一方に相対回転阻止手段を介在した斜板式ピストンポンプが開示されている。
【0007】
また、非特許文献1(流体力学の基礎知識3(内部流れ編)すきま流れ)には、静止平板間の流れ、環状すきま流れ、放射状すきまの流れなど、各種のすきまを流れる液体の圧力と流量との関係について詳しく解説されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-308736号公報
【特許文献2】特開2004-301188号公報
【特許文献3】特開2006-194325号公報
【特許文献4】実開平05-024970号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】西海孝夫著、「流体力学の基礎知識3(内部流れ編)すきま流れ」株式会社イプロス Tech Note編集部、2019年3月15日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、パルスモータまたはサーボモータ(パルス駆動)で液圧ポンプを駆動して、片ロッド式液圧シリンダの押し方向および引き方向に駆動する場合、同じ回転数指令信号周波数でモータを駆動すると液圧シリンダの駆動速度が押し方向と引き方向で異なるとの課題があった。
また、特に液媒体が水の場合、動粘度の低さから低速回転で液圧ポンプのピストンとシリンダとの間の隙間からの内部リークが増えて、液圧ポンプの容積効率(実吐出量/理論吐出量)が低下するため、低速回転域では液圧ポンプの実吐出量が理論吐出量より低下するとの課題もあった。液圧ポンプの内部リークは使用液圧値の増加に比例して増加することから、低速回転域でかつ使用圧力値が大きい場合、特に液圧ポンプの実吐出量の理論吐出量からの低下が顕著になる。
【0011】
特許文献1に記載の液圧装置では、制御ポートからの流量及び圧力を制御する制御弁を備えており、液圧ポンプの実吐出量の低下は制御弁により補正することができる。しかし、特許文献1に記載の液圧装置では、ポンプと流体利用システム(本発明の液圧シリンダに相当)との間に制御弁を備える必要があり、液圧装置としての構成が複雑になる。また、回転数Rvは、Rv=Rvo+vr×αで与えられ、αは一定であるため、片ロッド式液圧シリンダの駆動速度が押し方向と引き方向で異なるとの課題は解決されない。
【0012】
特許文献2に記載の液圧制御システムでは、位置検出値Dfと圧力検出値Pfと流量検出値Qfを用いてフィードバック制御を行っており、多くの検出器と複雑な制御アルゴリズムを備える必要がある。また、押し、引きでの制御方式は同一である。
【0013】
また、特許文献3に記載の液圧駆動装置では、第2の固定容量液圧ポンプを正逆反転した場合における前記固定容量液圧ポンプからの流体の吐出量比を、前記片ロッド形液圧シリンダのピストンのロッド側とその反対側との受圧面積比と同等になるように構成しているが、押し、引きでの速度を同一とするためには固定容量液圧ポンプが2個必要であった。また、2個の固定容量液圧ポンプを単一のモータで駆動しているため、駆動する液圧シリンダが変更され、受圧面積比が変われば、2個の固定容量液圧ポンプの容量の組合せも選定しなおさなければならないという課題があった。
【0014】
また、特許文献4に記載の斜板式ピストンポンプでは、ボア内の作動油の吐出圧が斜板に伝達され、この吐出圧によってシリンダブロックに傾動モーメントを生じさせること、そしてこの傾動モーメントによって、弁板とシリンダブロック後端面との間において一部に間隙が発生し、作動油漏れが引き起こされていたこと、そして、特許文献4に記載の発明ではこの傾動を規制してシリンダブロックと弁板との間における作動油漏れを防止し、容積効率の優れた斜板式ピストンポンプを提供することが記載されているが、作動油漏れによる容積効率の低下を補償する方法については記載されていない。
【0015】
本発明の主な目的は、パルスモータまたはサーボモータ(パルス駆動)で液圧ポンプを駆動して、片ロッド式液圧シリンダの押し方向および引き方向に駆動する場合において、液圧シリンダの駆動速度を押し方向と引き方向で同一とするためのモータの回転数指令方式を備えた液圧装置、液圧装置の制御方法、および制御プログラムを提供することにある。
本発明のさらなる目的は、低速回転域でかつ使用圧力値が大きい場合において特に顕著な、液圧ポンプの実吐出量の理論吐出量からの低下を補償するための、回転数指令信号周波数の補正器を備えた液圧装置、液圧装置の制御方法、および制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)
一局面に従う液圧装置は、液圧シリンダと液圧発生源と管路とを備える液圧装置であって、
液圧シリンダは、シリンダチューブと、シリンダチューブ内を往復動するピストンと、ピストンに連結されたピストンロッドと、ピストンロッドが貫通する貫通部を有するとともにシリンダチューブの一端を閉塞するロッド側カバーと、シリンダチューブの他端を閉塞するピストン側カバーとを備え、ピストンによりシリンダチューブ内がピストン側液室とロッド側液室とに区画され、
液圧発生源は、回転数指令信号周波数を発生してモータを駆動する制御装置と回転数指令信号周波数に基づいて回転数を変更するモータとモータにより駆動される液圧ポンプとを備え、
液圧装置は、液圧シリンダと液圧発生源とを管路により接続して、液圧シリンダのピストン側液室に液体を供給してピストンロッドを押し方向に駆動するか、または、液圧シリンダのロッド側液室に液体を供給してピストンロッドを引き方向に駆動し、
制御装置は、液圧シリンダを押し方向に駆動する第1の回転数指令信号周波数と引き方向に駆動する第2の回転数指令信号周波数との比を、前記ピストンロッドの押し方向の速度と引き方向の速度とが等しくなるよう制御する。
【0017】
液圧装置は、液圧シリンダのピストンロッドに接続される工場のプレス機、建設機械のパワーシャベルなどを駆動する。これらの用途においては、押し方向に駆動する場合のピストンロッドの速度と引き方向に駆動する場合のピストンロッドの速度とは同一とすることが望ましい場合が多い。すなわち、建設機械のように、人が操作する液圧装置においては、例えば、操作レバーの操作量と、機械のアームの動作速度が押しでも引きでも同一となることで、円滑な操作が可能となる。しかし、ピストンの片方向のみにピストンロッドが接続された液圧シリンダの場合、ピストンのピストン側受圧面積の方がロッド側受圧面積より大きくなる。したがって、ピストンロッドを押し方向に駆動する場合と引き方向に駆動する場合とで液圧シリンダに同一量の液体を供給すると、ピストン側液室に液体を供給する、すなわちピストンロッドを押し方向に駆動する場合の方が、ピストンロッドの速度が遅くなる。
一局面に従う液圧装置では、液圧シリンダを押し方向に駆動する第1の回転数指令信号周波数と引き方向に駆動する第2の回転数指令信号周波数との比を制御することで、ピストン側液室に供給する液体の量とロッド側液室に供給する液体の量との比をピストンのピストン側受圧面積とロッド側受圧面積との比と等しくし、ピストンロッドの押し方向の速度と引き方向の速度とが等しくなるようにしている。
【0018】
(2)
第2の発明にかかる液圧装置は、一局面に従う液圧装置において、 制御装置は、液圧シリンダを押し方向に駆動する第1の回転数指令信号周波数と引き方向に駆動する第2の回転数指令信号周波数との比と、ピストンのピストン側受圧面積とロッド側受圧面積との比とを等しくすることで、ピストンロッドの押し方向の速度と引き方向の速度とが等しくなるよう制御する。
【0019】
液圧シリンダを押し方向に駆動する第1の回転数指令信号周波数と引き方向に駆動する第2の回転数指令信号周波数との比を、ピストンのピストン側受圧面積とロッド側受圧面積との比と等しくすることで、ピストン側液室に供給する液体の量とロッド側液室に供給する液体の量との比をピストンのピストン側受圧面積とロッド側受圧面積との比と等しくし、ピストンロッドの押し方向の速度と引き方向の速度とが等しくなるようにしている。
なお、ピストン側受圧面積とロッド側受圧面積との比が等しいとは、本発明の効果を奏する範囲で面積比が異なる場合など、実質的に等しい範囲を含むものである。
【0020】
(3)
第3の発明にかかる液圧装置は、第2の発明に従う液圧装置において、さらに、制御装置の回転数指令信号周波数に第1の補正係数Xを乗算する補正器を備え、制御装置の回転数指令信号周波数が小さい場合、制御装置の回転数指令信号周波数が大きい場合に比べて、第1の補正係数Xの値を増加させる。
【0021】
液圧装置の液圧ポンプとしてはアキシャルピストンポンプ、ラジアルピストンポンプなどのピストンポンプが多く用いられている。これらのピストンポンプでは、理論的には、ピストンの受圧面積とピストンのストロークとピストンの回転数の積に比例した液体が吐出される。しかし、実際には、例えばシリンダブロックとバルブプレートとのすきまなどから液体が漏出する。しかも、この液体の漏出量はピストンの回転数にはほとんど依存しない。このため、ピストンの回転数が小さく、液体の吐出量が少ない場合に、液体の漏出量の液体の吐出量に対する割合が大きくなる。
第2の発明にかかる液圧装置では、漏出による吐出量の低下を補償するために、補正器によって制御装置の回転数指令信号周波数に第1の補正係数Xを乗算するが、回転数指令信号周波数が小さい場合、すなわち液体の吐出量が少ない場合には、この、第1の補正係数Xの値を増加させる。
【0022】
(4)
第4の発明にかかる液圧装置は、第2の発明に従う液圧装置において、さらに、ピストン側液室の液圧を検出する検出器およびロッド側液室の液圧を検出する検出器と、制御装置の回転数指令信号周波数に第2の補正係数Yを乗算する補正器と、を備え、
ピストン側液室の液圧とロッド側液室の液圧との差が大きい場合、ピストン側液室の液圧とロッド側液室の液圧との差が小さい場合に比べて、第2の補正係数Yの値を増加させる。
【0023】
液圧ポンプの吐出側の圧力と吸入側の圧力の差が大きい場合、液圧ポンプの漏出量は増加する。また、この、液圧ポンプの吐出側の圧力と吸入側の圧力の差は、液圧シリンダのピストン側液室の液圧とロッド側液室の液圧との差に等しい。
第3の発明にかかる液圧装置では、漏出による吐出量の低下を補償するために、補正器によって制御装置の回転数指令信号周波数に第2の補正係数Yを乗算するが、液圧シリンダのピストン側液室の液圧とロッド側液室の液圧との差が大きい場合、液圧ポンプの漏出量が増加するため、第2の補正係数Yの値を増加させる。
【0024】
(5)
第5の発明にかかる液圧装置は、第3の発明にかかる液圧装置において、さらに、ピストン側液室の液圧を検出する検出器およびロッド側液室の液圧を検出する検出器を備え、
補正器の補正係数は第1の補正係数Xと第2の補正係数Yとの積であって、
ピストン側液室の液圧とロッド側液室の液圧との差が大きい場合、ピストン側液室の液圧とロッド側液室の液圧との差が小さい場合に比べて、第2の補正係数Yの値を増加させる。
【0025】
第5の発明にかかる液圧装置は、第3の発明の、ピストンの回転数が小さく、液体の吐出量の少ない場合に、液体の漏出量の液体の吐出量に対する割合が大きくなることによる吐出量の相対的な低下と、第3の発明の、液圧ポンプの吐出側の圧力と吸入側の圧力の差が大きい場合、液圧ポンプの漏出量が増加することによる吐出量の相対的な低下の両方の影響を考慮して、液圧ポンプの液体の吐出量が少ない場合、およびピストン側液室の液圧とロッド側液室の液圧との差が大きい場合に補正器の補正係数の値(X×Y)を増加させる。
【0026】
(6)
第6の発明にかかる液圧装置は、第2の発明に従う液圧装置において、さらに、ピストン側液室の液圧を検出する検出器およびロッド側液室の液圧を検出する検出器と、制御装置の回転数指令信号周波数に第3の補正係数Zを乗算する補正器と、を備え、
ピストン側液室の液圧とロッド側液室の液圧との差をΔP、回転数指令信号周波数をh、第1の所定の正の定数をa、第2の所定の正の定数をαとするとき、第3の補正係数Zは次の数式1により算出される。
【数1】
【0027】
液圧ポンプの漏出量を補正するための補正係数Zは、液圧ポンプの理論吐出量を実吐出量で割り算した値に相当し、実吐出量は理論吐出量から漏出量を引き算した値に相当する。
一方、非特許文献1、6頁によれば、すきまからの漏出量はすきまの両端の圧力差ΔPに比例する。また、液圧ポンプの理論吐出量は液圧ポンプの回転数Mに比例し、したがって、回転数指令信号周波数hに比例する。
これらの関係から、Z=h/(h-a×ΔP)が導き出される。これは上記数式1において、α=1の場合に相当する。
しかし、後述するように、実際の液圧ポンプで測定すると、圧力差ΔP、モータの回転数Mと、1/Zに相当する容積効率(実吐出量/理論吐出量)との関係は、α=1ではなく例えばα=1.5に近い特性を示す。これは、圧力差ΔPによって漏出するすきまの高さが変化しているためと考えられるが、このαの値およびすきまの大きさに関係するaの値は液圧ポンプによって異なるため、第5の発明では、aを第1の所定の正の定数、αを第2の所定の正の定数としている。
【0028】
なお、第3の発明乃至第6の発明において、補正器は、制御装置の回転数指令信号周波数に補正係数X、Y、X×Y、またはZを乗算する補正器としているが、補正器は制御装置の中に内蔵されてもよい。また、制御装置の機能がコンピュータプログラムとして実装されている場合は、補正係数を計算するプログラム、および回転数指令信号周波数hに補正係数を乗算するプログラムを制御装置の機能を実装するプログラムに追加してもよい。
【0029】
(7)
第7の発明にかかる液圧装置は、第6の発明にかかる液圧装置において、αは1より大きく、aとαとは液圧ポンプの特性に基づいて決定される。
【0030】
非特許文献1によれば、すきまの高さが圧力差ΔPに依存しない場合は、すきまから漏出する液体の漏出量は圧力差ΔPに比例する。しかし、液圧ポンプの構造から考えて、ΔPが大きくなるとすきまの高さも大きくなると考えられ、また、実測結果によってもαは1より大きい。
また、aとαとの値は液圧ポンプの構造、および動作に依存するため、液圧ポンプの特性を測定して、測定結果に基づいてaとαとの値を決定する必要がある。
【0031】
(8)
第8の発明にかかる液圧装置は、一局面から第7の発明にかかる液圧装置において、モータは両方向回転モータであり、液圧ポンプは両方向回転液圧ポンプである。
【0032】
両方向回転モータと両方向回転液圧ポンプを用いることによって、片ロッド式液圧シリンダのピストンロッドを押し方向と引き方向とに駆動可能な液圧装置の構成を簡単にすることができる。
【0033】
(9)
第9の発明にかかる液圧装置は、一局面から第7の発明にかかる液圧装置において、モータは片方向回転モータであり、液圧ポンプは片方向回転液圧ポンプであって、液圧発生源はさらに方向切換弁を備える。
【0034】
方向切換弁を液圧ポンプと液圧シリンダとの間に挿入することによって、片方向回転モータと片方向回転液圧ポンプとを用いて、片ロッド式液圧シリンダのピストンロッドを押し方向と引き方向に駆動可能な液圧装置を構成することができる。
【0035】
(10)
他の局面に従う液圧装置の制御方法は、液圧シリンダと、制御装置とモータと液圧ポンプとを備える液圧発生源と、液圧シリンダと液圧発生源とを接続する管路とを備える液圧装置の制御方法であって、液圧シリンダのピストンロッドの速度に基づいてモータの回転数指令信号周波数を決定する回転数指令信号周波数決定工程と、液圧ポンプからの液体の漏出に伴う実吐出量と吐出量の理論値との差分を補償するための補正係数Zを回転数指令信号周波数に乗算する補正係数乗算工程と、補正係数乗算工程の出力である、補正された回転数指令信号周波数でモータを駆動するモータ駆動工程と、モータの出力で液圧ポンプを駆動する液圧ポンプ駆動工程と、液圧ポンプの吐出する液体で液圧シリンダを駆動する液圧シリンダ駆動工程と、を含み、液圧シリンダのピストン側液室の液圧とロッド側液室の液圧との差をΔP、回転数指令信号周波数をh、第1の所定の正の定数をa、第2の所定の正の定数をαとするとき、補正係数Zは次の数式1により算出される。
【数1】
【0036】
他の局面に従う液圧装置の制御方法の発明は、第5の発明にかかる液圧装置の発明に対応する制御方法の発明であって、回転数指令信号周波数決定工程で決定した回転数指令信号周波数hに上記数式1の補正係数Zを乗算した周波数でモータを駆動することを特徴とした液圧装置の制御方法の発明である。
【0037】
(11)
さらに他の局面に従う液圧装置の制御プログラムは、液圧シリンダと、制御装置とモータと液圧ポンプとを備える液圧発生源と、液圧シリンダと液圧発生源とを接続する管路とを備える液圧装置の制御プログラムであって、液圧シリンダのピストンロッドの速度に基づいてモータの回転数指令信号周波数を決定する回転数指令信号周波数決定手段と、液圧ポンプからの液体の漏出に伴う実吐出量と吐出量の理論値との差分を補償するための補正係数Zを回転数指令信号周波数に乗算する補正係数乗算手段と、補正係数乗算手段の出力である、補正された回転数指令信号周波数でモータを駆動するモータ駆動手段と、モータの出力で液圧ポンプを駆動する液圧ポンプ駆動手段と、液圧ポンプの吐出する液体で液圧シリンダを駆動する液圧シリンダ駆動手段と、を含み、液圧シリンダのピストン側液室の液圧とロッド側液室の液圧との差をΔP、回転数指令信号周波数をh、第1の所定の正の定数をa、第2の所定の正の定数をαとするとき、補正係数Zは次の数式1により算出される。
【数1】
【0038】
(A)
さらに他の局面に従う液圧装置の制御プログラムの発明は、第5の発明にかかる液圧装置の発明に対応する制御プログラムの発明であって、回転数指令信号周波数決定工程で決定した回転数指令信号周波数hに上記数式1の補正係数Zを乗算した周波数でモータを駆動することを特徴とした液圧装置の制御プログラムの発明である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】第1の実施形態の液圧装置の構成を示す模式的ブロック図である。
図2】液圧シリンダの模式的断面図である。
図3】液圧ポンプの模式的断面図である。
図4図4は放射状すきまの流れの模式図であり、図4(a)は模式的上面図、図4(b)は図4(a)のA-A’面における模式的断面図である。
図5】第1の液圧ポンプの、圧力差ΔPをパラメータとした、ポンプ回転数Mと容積効率ηとの関係を示すグラフである。
図6】第1の液圧ポンプの、ポンプ回転数Mをパラメータとした、圧力差ΔPと容積効率ηとの関係を示すグラフである。
図7】第1の液圧ポンプの、圧力差ΔP/回転数Mと容積効率ηとの関係を示すグラフである。
図8】第1の液圧ポンプの、(圧力差ΔPの1.5乗)/回転数Mと容積効率ηとの関係を示すグラフである。
図9】第1の液圧ポンプと第2の液圧ポンプとの、(圧力差ΔPの1.5乗)/回転数Mと容積効率ηとの関係を示すグラフである。
図10】第2の実施形態の液圧装置の構成を示す模式的ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付す。また、同符号の場合には、それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さないものとする。
【0041】
[第1の実施形態]
図1は第1の実施形態の液圧装置200の構成を示す模式的ブロック図であり、図2は液圧シリンダ170の模式的断面図であり、図3は液圧ポンプ90の模式的断面図である。なお、図3の液圧ポンプ90は斜板式アキシャルピストンポンプの断面図であるが、本発明で用いられる液圧ポンプ90は斜板式アキシャルピストンポンプに限定されず、例えば、斜軸式アキシャルピストンポンプ、あるいはラジアルピストンポンプ等でもよい。
液圧装置200は液圧シリンダ170と、液圧発生源180と、液圧シリンダ170と液圧発生源180とを接続する管路190とから構成される。
【0042】
(液圧シリンダ170の構成)
液圧シリンダ170は、シリンダチューブ30、シリンダチューブ30内を往復動するピストン10、およびピストン10に連結されたピストンロッド20と、ピストンロッド20が貫通する貫通部を有するとともにシリンダチューブ30の一端を閉塞するロッド側カバー40と、シリンダチューブ30の他端を閉塞するピストン側カバー50とを備え、ピストン10によりシリンダチューブ30内をピストン側液室31とロッド側液室32とに区画する。
また、液圧シリンダ170はピストン側液室31とロッド側液室32との液圧を検出するために、ピストン室側液圧検出器60、ロッド室側液圧検出器70を備えている。また、ピストンロッド20の位置を検出するためのロッド位置検出器80を備えている。
【0043】
図2の液圧シリンダ170の模式的断面図において、ロッド側液室32にはピストンロッド20があり、液体はシリンダチューブ30の内部のピストンロッド20を除いた部分に充填される。一方、ピストン側液室31ではシリンダチューブ30の内部全体に液体が充填される。したがって、ピストン10のピストン側液室31からの受圧面積をA1、ロッド側液室32からの受圧面積をA2としたとき、A1>A2である。
液圧シリンダ170にはピストンロッド20を押し方向に駆動するときはピストン側液室31に単位時間当たりQ1の液体が注入され、引き方向に駆動するときはロッド側液室32に単位時間当たりQ2の液体が注入される。
ピストンロッド20の押し方向の場合の速度V1はV1=Q1/A1、引き方向の場合の速度V2はV2=Q2/A2であり、A1>A2であることから、Q1=Q2の場合はV1<V2となる。したがって、押し方向の場合の速度V1と引き方向の場合の速度V2を等しくするためには、Q2=Q1×A2/A1とする必要がある。
【0044】
(液圧発生源180の構成)
図1に示すように、本発明の液圧発生源180は、液圧ポンプ90と、液圧ポンプ90を駆動するモータ100と、モータ100の回転数制御のためのエンコーダ110と、モータ100を駆動するモータドライバ120と、回転数指令信号周波数を発生するコントローラ140と、コントローラ140への入力装置である位置、速度設定入力器150とに加えて、液圧ポンプ90の実際の吐出量Qの吐出量の理論値Q0からの低下分を補償するために回転数指令信号周波数に補正係数を乗算する補正器130を備えている。
第1の実施形態のモータ100は両方向回転モータであり、液圧ポンプ90は両方向回転液圧ポンプである。
また、液圧シリンダ170のピストン室側液圧検出器60、ロッド室側液圧検出器70、およびロッド位置検出器80の出力はコントローラ140に入力されている。なお、あとで述べるように、補正係数の計算には、ピストン室側液圧検出器60およびロッド室側液圧検出器70の出力を用いるため、図1には図示されていないが、ピストン室側液圧検出器60およびロッド室側液圧検出器70の出力は補正器130にも入力されている。
なお、本発明は、コントローラ140の制御方式として、オープンループ制御方式、セミクローズドループ制御方式、クローズドループ制御方式のいずれの制御方式にも適用可能である。
【0045】
本発明のモータ100は、ピストンロッド20の押し方向の場合は回転数指令信号周波数h1に比例した単位時間当たりの回転数M1で一方向に回転し、ピストンロッド20の引き方向の場合は回転数指令信号周波数h2に比例した単位時間当たりの回転数M2で逆方向に回転する。また、液圧ポンプ90は理論的には、単位時間当たりの回転数M1またはM2に比例した単位時間当たりの容積Q1またはQ2の液体をピストン側液室31またはロッド側液室32に吐出する。
すなわち、b,cを比例係数として、
M1=b×h1、M2=b×h2,
Q1=c×M1、Q2=c×M2である。さらに、
V1=Q1/A1、V2=Q2/A2 であるので、結局、ピストンロッド20の押し方向の場合の速度V1および引き方向の場合の速度V2は、理論的には、
V1=b×c×h1/A1
V2=b×c×h2/A2となる。
すなわち、液圧シリンダ170を押し方向に駆動する回転数指令信号周波数h1と引き方向に駆動する回転数指令信号周波数h2との比と、ピストン10のピストン側受圧面積A1とロッド側受圧面積A2との比とを等しくすることによって、ピストンロッド20の押し方向の場合の速度Vと引き方向の場合の速度V2とを等しくすることができる。
ただし、上記V1およびV2の計算式は、厳密には、液圧ポンプ90の容積効率、すなわち、実吐出量と吐出量の理論値との比が100%である場合に適用可能な式である。
【0046】
(液圧ポンプ90の構造)
本発明で用いられる液圧ポンプ90としては、斜板式アキシャルピストンポンプ、斜軸式アキシャルピストンポンプ、あるいはラジアルピストンポンプ等が使用可能である。ここでは、一例として、斜板式アキシャルピストンポンプを使用した場合について説明する。
図3に示すように、斜板式アキシャルピストンポンプ形式の液圧ポンプ90は、回転軸95、シリンダブロック94、複数のピストン91、複数のシュー97、斜板96、およびバルブプレート93を備え、回転軸95は筐体99にベアリング98を介して回転可能に支持されている。シリンダブロック94には複数のピストン室92が形成され、シリンダブロック94は回転軸95に結合され、回転軸95とともに回転する。各ピストン室92は一端側がシリンダブロック94の一端にて開口し、他端側がシリンダポートを介してシリンダブロック94の他端にて開口している。各ピストン室92には、一端側からピストン91が挿入されている。
【0047】
シリンダブロック94の一端側に斜板96が配置され、ピストン91の一端部は斜板96とシュー97を介して回動可能に結合され、回転軸95を順方向に回転させてシリンダブロック94を回転させるとピストン91も回転し、その結果、シリンダブロック94の回転に伴ってピストン91がピストン室92内で往復運動をする。
そして、ピストン91がピストン室92に押し込まれる方向(図3の右方向)に動く間は、ピストン室92の液体はシリンダポートを介してバルブプレート93の高圧ポートから吐出され、ピストン91がピストン室92から押し出される方向(図3の左方向)に動く間は、バルブプレート93の低圧ポートからシリンダポートを介してピストン室92に液体が吸引される。
なお、液圧ポンプ90は回転軸95およびシリンダブロック94を逆方向に回転させることで、吐出ポートと吸引ポートを入れ替え、液体を逆方向に吐出することができる。
【0048】
(液圧ポンプ90の容積効率の低下)
液圧ポンプ90のピストン91の数をn、ピストン91の受圧面積をA3、ストローク長をD、シリンダブロック94の単位時間当たりの回転数をMとしたとき、単位時間当たりの吐出量Qの理論値Q0は、Q0=n×A3×D×M である。あるいは、シリンダブロック94の単位時間当たりの回転数Mは、回転数指令信号周波数hに比例し、M=b×hであるので、これを代入すると、Q0=n×A3×D×b×hとなる。また、液圧ポンプ90の吐出量Qの理論値Q0と回転数Mとの比例係数cは、c=n×A3×Dである。
しかしこの計算はピストン91で押し出された液体がすべて管路190を経由して液圧シリンダ170に送出されることを前提としている。例えば、先の特許文献4には、従来例において、「スプライン嵌合する回転軸とシリンダブロックの頸状突起部との間には僅かにクリアランスが存在する。また、回転軸とシリンダブロックとのスプライン嵌合長は頸状突起部の長さ分しかない。故に、前記傾動モーメントによってシリンダブロックが少なからず傾動される。そのため、弁板とシリンダブロック後端面との間において一部にすきまが発生し、作動油漏れが引き起こされていた。」(特許文献4明細書段落[0006]参照)と記載されている。すなわち、図3のシリンダブロック94とバルブプレート93との間にすきまが発生し、そこから液体が漏れていると考えられる。この、単位時間当たりの液体の漏出量をQLとすると、漏出量QLはシリンダブロック94の回転数Mには依存せず、液圧ポンプ90の吐出側と吸引側の出力の圧力差ΔPが大きくなると漏出量QLも大きくなると考えられる。
【0049】
シリンダブロック94とバルブプレート93との間隙からの液体の漏出は放射状すきまの流れに類似していると考えられる。放射状すきまの流れについては、非特許文献1、6頁(流体力学の基礎知識3、放射状すきまの流れ)に記載されている。
図4は放射状すきまの流れの模式図であり、図4(a)は模式的上面図、図4(b)は図4(a)のA-A’面における模式的断面図である。流体は中央下部の管路、および半径r1のポケット部を経て、平行平板のすきまに流入後、放射状の漏れ流れとなり、圧力p2の空間に開放される。
放射状すきまの形状を示した図4において、中央のポケット部から隙間部を通り、外周に流れ出る流量QRは、ポケット部の圧力をp1、外周の圧力をp2、外周の半径をr2、すきま部の高さをd、液体の粘性係数をμとすると、下記式2で表される。
【0050】
【数2】
【0051】
シリンダブロック94とバルブプレート93とのすきまからの液体の流出は、厳密には上記放射状すきまの流れとは形状の差等により異なるが、漏出量QLは圧力差ΔPに比例すると言える。ただし、上記検討はすきま部の高さdが圧力差ΔPに依存せず一定の場合であり、特許文献4の従来例に記載のように、斜板式アキシャルピストンポンプの場合は、吐出行程にあるボア(ピストン室92)内の作動油の吐出圧が傾斜モーメントを発生させ、そのためにすきまが発生していることから、シリンダブロック94とバルブプレート93とのすきまは一定ではなく、圧力差ΔPが大きくなるとすきま部の高さdも大きくなると考えられる。
したがって、漏出量QLは圧力差ΔPのα乗(α>1)に比例すると考えられる。すなわち、eを比例定数として、QL=e×(ΔP)αである。
実際の液圧ポンプ90の吐出量Qは吐出量の理論値Q0から漏出量QLを引いたものである。
また吐出量の理論値はQ0=n×A3×D×M=n×A3×D×b×hであるから、
実際の吐出量Q=Q0-QL=n×A3×D×b×h-e×(ΔP)αとなる。
したがって、液圧ポンプ90の容積効率ηは、η=(Q0-QL)/Q0=1-(QL/Q0)であり、a=e/(n×A3×D×b)とすると、液圧ポンプ90の容積効率ηは以下の数式3で表される。
【0052】
【数3】
【0053】
(液圧ポンプ90の容積効率ηの実測結果)
ここで、容積効率ηの低下が比較的大きい第1の液圧ポンプ90と容積効率の低下が比較的小さい第2の液圧ポンプ90とについて、容積効率ηの実測値と圧力差ΔP、ポンプ回転数Mとの関係を調べた。
図5には第1の液圧ポンプ90の、圧力差ΔPをパラメータとした、ポンプ回転数Mと容積効率ηとの関係を示すグラフを示した。図5からわかるように、ポンプ回転数Mが増加すると容積効率ηは向上する。これは、ポンプ回転数Mを増加すると単位時間当たりの吐出量Qの理論値Q0は、Q0=n×A3×D×Mの式に従って増加するが、漏出量QLはほとんど一定であるため、容積効率η=1-(QL/Q0)は100%に近づくということを表している。
図6には第1の液圧ポンプ90の、ポンプ回転数Mをパラメータとした、圧力差ΔPと容積効率ηとの関係を示すグラフを示した。図6からわかるように、圧力差ΔPが増加すると容積効率ηは低下する。これは、圧力差ΔPが増加すると漏出量QLが増加するためである。
【0054】
非特許文献1の「流体力学の基礎知識3、放射状すきまの流れ」によれば、漏出量QLは圧力差ΔPに比例する。このとき、上記数式3のαは1になる。そこで、まず、α=1と考えて、(圧力差ΔP/回転数M)と容積効率ηとの関係を調べた。図7がそのグラフである。図7からわかるように、同じ(圧力差ΔP/回転数M)であっても、圧力差ΔPが大きい方が容積効率ηが低下している。これは、圧力差ΔPが増加すると漏出量QLは圧力差ΔPの増分以上に増加することを示しており、例えば、上記「流体力学の基礎知識3、放射状すきまの流れ」に準じて考えれば、すきま部の高さdが増加していることに相当する。
そこで、今度はα=1.5と考えて、(圧力差ΔPの1.5乗/回転数M)と容積効率ηとの関係を調べた。図8がそのグラフである。図8によれば、(圧力差ΔPの1.5乗/回転数M)と容積効率ηのグラフは、圧力差1MPaの場合を除いて圧力差ΔP=0で容積効率100%を通る1本の直線になっており、圧力差ΔP、ポンプ回転数Mと容積効率ηとの関係がα=1.5とした時の数式3を満たしていると言える。なお、ΔP=1MPaで、容積効率ηが数式3の直線より低くなっているが、これは、例えば、圧力差ΔPが小さい場合にはΔPが小さくなってもすきまの間隔が小さくならない、すなわちα=1となっていることなどが考えられる。
【0055】
図9は、第1の液圧ポンプ90に加えて、第2の液圧ポンプ90についても(圧力差ΔPの1.5乗/回転数M)と容積効率ηとの関係を調べ、第1の液圧ポンプ90と第2の液圧ポンプ90のデータを同一グラフにプロットしたものである。第2の液圧ポンプ90は第1の液圧ポンプ90に比べて容積効率ηの低下の度合いが小さく、上記数式3のa、すなわち直線の傾斜が小さくなっているが、ともにα=1.5としたときの数式3を満たしている。
ただし、漏出量QLの圧力差ΔPに対する依存性を表す数式3のαの値は液圧ポンプ90の構造等によって異なり、また、図9の第1の液圧ポンプ90と第2の液圧ポンプ90の特性差からもわかるように数式3のaの値も液圧ポンプ90によって異なることから、数式3のαとaの値は、使用する液圧ポンプ90の特性を測定したうえで決定する必要がある。
【0056】
(補正器130を備えた液圧装置200の構成)
液圧装置200は図1に示す通り、液圧シリンダ170、液圧発生源180、および管路190で構成される。液圧発生源180のコントローラ140は目標となるピストンロッド20の位置とロッド位置検出器80で検出されるピストンロッド20の現在位置とからピストンロッド20の移動速度と移動時間を決定し、移動速度から、ピストンロッド20が押し方向の場合は、h1=V1×A1/(b×c)、引き方向の場合はh2=V2×A2/(b×c)により回転数指令信号周波数h1、h2を決定する。
ここで、V1、V2はそれぞれピストンロッド20の押し方向および引き方向の速度、A1、A2は、それぞれピストン10のピストン側液室31からの受圧面積およびロッド側液室32からの受圧面積である。また、bはモータ100の回転数Mと回転数指令信号周波数hとの比例係数、cは液圧ポンプ90の吐出量Qの理論値Q0と回転数Mとの比例係数である。
【0057】
液圧ポンプ90の容積効率ηが100%の場合は上記液圧ポンプ90の吐出量と回転数との比例係数cは液圧ポンプ90の圧力差および回転数によらず一定であるが、実際には液圧ポンプ90からの液体の漏出により容積効率ηが低下し、その結果、ピストンロッド20の速度が目標とする速度より遅くなってしまう。本発明の液圧装置200では、この、容積効率ηの低下によるピストンロッド20の速度低下を補償するために、図1のコントローラ140とモータドライバ120の間に補正器130を挿入し、コントローラ140の出力の回転数指令信号周波数hに、容積効率ηの逆数に相当する補正係数Zを乗算した周波数でモータドライバ120を駆動している。補正係数Zは、下記数式1で表される。
【0058】
【数1】
【0059】
なお、図1では容積効率ηの逆数に相当する補正係数Zを乗算する補正器130をコントローラ140とモータドライバ120の間に挿入しているが、補正器130をコントローラ140に内蔵してもよい。また、コントローラ140の機能がコンピュータプログラムとして実装されている場合は、補正係数Zを計算するプログラム、および回転数指令信号周波数hに補正係数Zを乗算するプログラムをコントローラ140の機能を実装するプログラムに追加してもよい。
また、液圧ポンプ90の吐出側と吸引側の出力の圧力差ΔPは、図1のピストン室側液圧検出器60とロッド室側液圧検出器70との圧力差に相当する。
【0060】
(αとaの値の算出方法)
液圧ポンプ90の容積効率ηの圧力差ΔPおよび回転数Mに対する依存性は、上記図9からも明らかなように使用する液圧ポンプ90によって大幅に異なる。したがって、本発明の液圧装置200を構成するにあたっては、以下の手順でαおよびaの値を求める。
1)使用する液圧ポンプ90の容積効率ηの圧力差ΔPおよび回転数Mに対する依存性を測定する。
2)1より大きいαの値を用いて、(圧力差ΔPのα乗/回転数M)と容積効率ηとの相関グラフを作成し、使用する圧力差ΔPと回転数Mとの範囲において相関グラフが直線になるαの値を求める。
3)上記相関グラフの直線の傾斜をgとして、式a=g/bを用いてaの値を求める。
なお、bはモータ100の回転数Mと回転数指令信号周波数hとの比、すなわちb=M/hであり、上記3)の計算は、相関グラフを回転数指令信号周波数hではなくモータ100の回転数Mを用いてグラフを作成しているためである。
【0061】
[第2の実施形態]
図10は第2の実施形態の液圧装置200の構成を示す模式的ブロック図である。第1の実施形態の液圧装置200ではモータ100は両方向回転モータであり、液圧ポンプ90は両方向回転液圧ポンプであるが、第2の実施形態の液圧装置200では、モータ100は片方向回転モータであり、液圧ポンプ90は片方向回転液圧ポンプである。そして、第2の実施形態の液圧装置200には方向切換弁85およびタンク87が追加されており、方向切換弁85の方向を切り換えることによって、液圧シリンダ170のピストンロッド20の押し方向と引き方向の動作を切り換える。その他の構成および動作は第1の実施形態の液圧装置200の構成および動作と同一である。
【0062】
本発明において、ピストン10が『ピストン』に相当し、ピストンロッド20が『ピストンロッド』に相当し、シリンダチューブ30が『シリンダチューブ』に相当し、ピストン側液室31が『ピストン側液室』に相当し、ロッド側液室32が『ロッド側液室』に相当し、ロッド側カバー40が『ロッド側カバー』に相当し、ピストン側カバー50が『ピストン側カバー』に相当し、ピストン室側液圧検出器60およびロッド室側液圧検出器70が『検出器』に相当し、液圧ポンプ90が『液圧ポンプ』に相当し、モータ100が『モータ』に相当し、補正器130が『補正器』に相当し、コントローラ140が『制御装置』に相当し、液圧シリンダ170が『液圧シリンダ』に相当し、液圧発生源180が『液圧発生源』に相当し、管路190が『管路』に相当し、液圧装置200が『液圧装置』に相当する。
【0063】
本発明の好ましい一実施の形態は上記の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0064】
10 ピストン
20 ピストンロッド
30 シリンダチューブ
31 ピストン側液室
32 ロッド側液室
40 ロッド側カバー
50 ピストン側カバー
60 ピストン室側液圧検出器
70 ロッド室側液圧検出器
90 液圧ポンプ
100 モータ
130 補正器
140 コントローラ
170 液圧シリンダ
180 液圧発生源
190 管路
200 液圧装置

図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10