IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンアプロ株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧 ▶ ニチコン株式会社の特許一覧

特開2022-24430防食コーティング用光硬化性組成物およびその硬化被膜
<>
  • 特開-防食コーティング用光硬化性組成物およびその硬化被膜 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024430
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】防食コーティング用光硬化性組成物およびその硬化被膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/00 20060101AFI20220202BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C09D4/00
C09D5/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127026
(22)【出願日】2020-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000106139
【氏名又は名称】サンアプロ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 匡章
(72)【発明者】
【氏名】木村 秀基
(72)【発明者】
【氏名】白石 篤志
(72)【発明者】
【氏名】中川 勝
(72)【発明者】
【氏名】伊東 駿也
(72)【発明者】
【氏名】中坊 徹
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DL002
4J038FA021
4J038FA031
4J038FA041
4J038HA026
4J038HA066
4J038HA166
4J038HA266
4J038JA03
4J038JA07
4J038JA17
4J038JA20
4J038JA25
4J038JA32
4J038JA34
4J038JA55
4J038JA64
4J038JB01
4J038JB16
4J038JC01
4J038JC17
4J038JC30
4J038JC35
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA09
4J038KA12
4J038NA03
4J038PA17
4J038PB05
4J038PB07
4J038PB08
4J038PB09
(57)【要約】
【課題】改善された耐酸性、耐塩化物イオン性を示す防食コーティング用光硬化性組成物、およびその硬化被膜の提供。
【解決手段】光重合開始剤が、ヨードニウム化合物もしくはスルホニウム化合物からなる光カチオン開始剤であり、当該組成物中に含有される重合性化合物の総重量の35重量%以上が、炭素原子と水素原子のみからなるエチレン性不飽和結合を含むカチオン重合性炭化水素化合物であり、下記式(1)で示される、上記光硬化性組成物のヘテロ原子含有百分率が6.0以下である。
ヘテロ原子含有百分率=100×Σ(Nhi×Mi)/Σ{(Nhi+Nci)×Mi} (1)
[式中、Nh:光硬化性組成物中の各成分に含まれるヘテロ原子の数、Nc:光硬化性組成物中の各成分に含まれる炭素原子の数、M:光硬化性組成物に占める各成分の物質量の分率、ΣM=1、i:光硬化性組成物に含まれる成分の種類の数を表し、1以上の整数を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合開始剤と重合性化合物とを含有する防食コーティング用光硬化性組成物であって、
(a)上記光重合開始剤が、ヨードニウム化合物もしくはスルホニウム化合物からなる光カチオン重合開始剤(A)であり、
(b)上記重合性化合物の総重量に対して35重量%以上が、炭素原子および水素原子のみからなるエチレン性不飽和結合を含むカチオン重合性炭化水素化合物(B)であり、さらに、
(c)下記の式(1)に基づき計算される、上記光硬化性組成物に含まれるヘテロ原子の割合を表したヘテロ原子含有百分率:
ヘテロ原子含有百分率=100×Σ(Nhi×Mi)/Σ{(Nhi+Nci)×Mi} (1)
[式中、Nhは光硬化性組成物中の各成分に含まれるヘテロ原子の数であり(但し、ここでいうヘテロ原子とは、炭素原子および水素原子を除いた全ての原子である)、Ncは光硬化性組成物中の各成分に含まれる炭素原子の数であり、Mは光硬化性組成物に占める各成分の物質量の分率を示し、ΣM=1であり、i は光硬化性組成物に含まれる成分の種類の数を表し、1以上の整数を示す。]
が6.0以下である
ことを特徴とする防食コーティング用光硬化性組成物。
【請求項2】
さらに光増感剤、界面活性剤、重合禁止剤、酸化防止剤、密着性付与剤からなる群から選ばれる1種類以上の添加剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の防食コーティング用光硬化性組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の防食コーティング用光硬化性組成物を硬化させた硬化被膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された耐酸性、耐塩化物イオン性を示す新しい防食コーティング用光硬化性組成物、およびその硬化被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、周辺環境からの酸素、水、酸、塩化物イオンなどの腐食性イオンに耐性をもつコーティング組成物が、さまざまな技術分野で使われている。例えば、車や橋梁などの金属構造物の下地材においては、美観を保ち金属腐食を防ぐことを目的として、エポキシ樹脂やゾル‐ゲル膜などが一般的に使用されている(例えば特許文献1、2、3参照)。
さらに、液晶表示装置、有機EL表示装置、半導体デバイス、タッチパネル、MEMS等の基板コーティング剤や、これらの電子デバイスの作製プロセスにおけるウェットエッチング用レジストとしても腐食性イオンに耐性をもつコーティング組成物が使用されている。基板コーティング剤の例としては、ポリシロキサン樹脂(例えば特許文献4参照)などが挙げられ、またウェットエッチング用レジストとしては、エッチング液に耐性があり、光照射によって微細なパターンを形成することができる、ノボラック樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などが開示されている(例えば特許文献5、6、7参照)。
【0003】
しかしながら、従来のコーティング組成物は、樹脂の分子構造中に、酸素原子などのヘテロ原子に由来する極性基を多数含有するため、酸や塩化物イオンなどに対する耐性が十分でなく、とりわけ硬化被膜の厚さが薄い場合において、高濃度の塩化物イオンに対する防食性は未だ満足されるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2020―507638号公報
【特許文献2】特開2019―122956号公報
【特許文献3】特許第6204565号公報
【特許文献4】特許第4186071号公報
【特許文献5】特許第4190834号公報
【特許文献6】特許第6361191号公報
【特許文献7】特許第6379404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、改善された耐酸性、耐塩化物イオン性を示す新しい防食コーティング用光硬化性組成物、およびその硬化被膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記問題点を解決すべく鋭意研究した結果、改善された耐酸性、耐塩化物イオン性を示す新しいコーティング用光硬化性組成物、およびその硬化被膜を見出すに至った。具体的には、下記手段<1>または<3>に記載の手段によって上記課題は解決された。好ましい実施態様である<2>とともに、以下に記載する。
<1> 光重合開始剤と重合性化合物とを含有する防食コーティング用光硬化性組成物であって、
(a)上記光重合開始剤が、ヨードニウム化合物もしくはスルホニウム化合物からなる光カチオン重合開始剤(A)であり、
(b)上記重合性化合物の総重量に対して35重量%以上が、炭素原子および水素原子のみからなるエチレン性不飽和結合を含むカチオン重合性炭化水素化合物(B)であり、さらに、
(c)下記の式(1)に基づき計算される、上記光硬化性組成物に含まれるヘテロ原子の割合を表したヘテロ原子含有百分率:
ヘテロ原子含有百分率=100×Σ(Nhi×Mi)/Σ{(Nhi+Nci)×Mi} (1)
[式中、Nhは光硬化性組成物中の各成分に含まれるヘテロ原子の数であり(但し、ここでいうヘテロ原子とは、炭素原子および水素原子を除いた全ての原子である)、Ncは光硬化性組成物中の各成分に含まれる炭素原子の数であり、Mは光硬化性組成物に占める各成分の物質量の分率を示し、ΣM=1であり、i は光硬化性組成物に含まれる成分の種類の数を表し、1以上の整数を示す。]
が6.0以下である
ことを特徴とする防食コーティング用光硬化性組成物。
<2> さらに光増感剤、界面活性剤、重合禁止剤、酸化防止剤、密着性付与剤からなる群から選ばれる1種類以上の添加剤を含有することを特徴とする、<1>に記載の防食コーティング用光硬化性組成物。
<3> <1>または<2>に記載の防食コーティング用光硬化性組成物を硬化させた硬化被膜。
【発明の効果】
【0007】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物は、光に感光して酸を発生させ、カチオン重合により硬化させることができ、耐酸性、耐塩化物イオン性に優れた硬化被膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)は、実施例8における濃塩酸暴露試験中の硬化膜の状態を示す写真であり、(b)は、実施例8における硬化膜除去後の基板の表面状態を示す写真であり、(c)は、比較例3における濃塩酸暴露試験中の硬化膜の状態を示す写真であり、(d)は、比較例3における硬化膜除去後の基板の表面状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明
は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実
施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「~」とはその前後に記載
される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0010】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物に含まれる光重合開始剤は、ヨードニウム化合物もしくはスルホニウム化合物からなる光カチオン重合開始剤(A)であり、光カチオン重合開始剤(A)としては、公知のヨードニウム化合物もしくはスルホニウム化合物を任意に用いることができる。
【0011】
ヨードニウム化合物およびスルホニウム化合物は、光を吸収して分解反応を起こすカチオン部と、酸の発生源となるアニオン部の組み合わせとして見なすことができ、吸収する光の波長、防食コーティング用光硬化性組成物への溶解性、発生する酸強度などの観点で、公知のヨードニウムまたはスルホニウムカチオン部、およびアニオン部の中から選択することができる。
【0012】
例えば、好ましいヨードニウムカチオン部の具体例としては、ジフェニルヨードニウムカチオン、ジ-p-トリルヨードニウムカチオン、4-イソプロピルフェニル(p-トリル)ヨードニウムカチオン、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムカチオン、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウムカチオン、ジ-4-イソプロピルフェニルヨードニウムカチオン、ビス(2,4-ジイソプロピルフェニル)ヨードニウムカチオン、4-ヘキシルフェニル(p-トリル)ヨードニウムカチオン、4-シクロヘキシルフェニル(p-トリル)ヨードニウムカチオン、ビス(4-ドデシルフェニル)ヨードニウムカチオン、ビス(4-メトキシフェニル)ヨードニウムカチオン、ビス(4-デシルオキシフェニル)ヨードニウムカチオン、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシ)フェニルフェニルヨードニウムカチオン等が挙げられる。
【0013】
例えば、好ましいスルホニウムカチオン部の具体例としては、トリフェニルスルホニウムカチオン、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムカチオン、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド、4-ヒドロキシフェニルメチルベンジルスルホニウムカチオン、トリス(4-クロロフェニル)スルホニウムカチオン、トリス(4-フルオロフェニル)スルホニウムカチオン、4-tert-ブチルフェニルジフェニルスルホニウムカチオン、ジフェニルフェナシルスルホニウムカチオン等が挙げられる。
【0014】
例えば、好ましいアニオン部の具体例としては、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモナート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、テトラキス(2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、トリフルオロメチルペンタフルオロホスフェート、ビス(トリフルオロメチル)テトラフルオロホスフェート、トリス(トリフルオロメチル)トリフルオロホスフェート、ペンタフルオロエチルペンタフルオロホスフェート、ビス(ペンタフルオロエチル)テトラフルオロホスフェート、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ビス(n-ヘプタフルオロプロピル)テトラオロホスフェート、トリス(n-ヘプタフルオロプロピル)トリフルオロホスフェート、トリス(ヘプタフルオロイソプロピル)トリフルオロホスフェート、n-ノナフルオロブチルペンタフルオロホスフェート、ビス(n-ノナフルオロブチル)テトラフルオロホスフェート、トリス(n-ノナフルオロブチル)トリフルオロホスフェート、トリス(ノナフルオロイソブチル)トリフルオロホスフェート等が挙げられる。
【0015】
好ましいヨードニウム化合物の具体例としては以下のものが挙げられる。
【0016】
【化1】
【0017】
好ましいスルホニウム化合物の具体例としては以下のものが挙げられる。
【0018】
【化2】
【0019】
【化3】
【0020】
上記の光カチオン重合開始剤(A)の含有量は、防食コーティング用光硬化性組成物中に含まれる重合性化合物((B)+(C))100重量部に対して0.2~10重量部が好ましく、0.4~5重量部がより好ましく、0.6~4重量部がさらに好ましい。
光カチオン重合開始剤(A)の含有量が多すぎると、低照射量の露光量時も過剰な量のカチオンが発生してしまい、反応性を制御することが困難となることがある。逆に、含有量が少なすぎると、重合性化合物を反応させるのに十分な量のカチオンを発生させることが困難となり、硬化不良を招くおそれがある。これらの光カチオン重合開始剤(A)は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。2種以上を併用する場合は、その合計量が上記の範囲となることが好ましい。
【0021】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物に含まれる重合性化合物は、当該重合性化合物の総重量に対して35重量%以上が、炭素原子および水素原子のみからなるエチレン性不飽和結合を含むカチオン重合性炭化水素化合物(B)である。カチオン重合性炭化水素化合物(B)としては、例えば炭素数4~35の脂肪族不飽和炭化水素化合物(B1)や炭素数6~18の芳香族化合物にエチレン性不飽和基を置換した炭化水素化合物(B2)等を使用できる。
【0022】
炭素数4~35の脂肪族不飽和炭化水素化合物(B1)のうち、不飽和基を1つ有する化合物(B11) としては、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、ビニルシクロペンタン、3,3-ジメチル-1-ペンテン、ビニルシクロヘキサン、1-オクテン、2-オクテン、2,4,4-トリメチル-1-ペンテン、ビニルノルボルナン、1-デセン、カンフェン、α-ピネン、β-ピネン、ビニルアダマンタン等が挙げられる。
不飽和基を2つ以上有する化合物(B12)としては、ブタジエン、1,4-ペンタジエン、シクロペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2,5-ノルボリナジエン、ジシクロペンタジエン、4-ビニル-シクロへキセン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、あるいはこれらをディールスアルダー反応により生成される縮合多環不飽和炭化水素等が挙げられる。
【0023】
炭素数6~18の芳香族化合物にエチレン性不飽和基を置換した炭化水素化合物(B2)とは、エチレン性不飽和基(ビニル基、アリル基等)を1つ以上置換した、炭素数6~18(芳香族化合物に置換した置換基の炭素数は含まない)の芳香族炭化水素化合物をいう。また1つのエチレン性不飽和基に複数の芳香族炭化水素化合物が置換したものもこれに含有する。
炭素数6~18の芳香族化合物としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、ピレニル等単環および多環芳香族炭化水素化合物が挙げられる。
アリール基としては、以上の他に、アリール基中の水素原子の一部が炭素数1~18のアルキル基や、炭素数6~18の(アルキル)アリール基等で置換されていてもよい。
【0024】
炭素数6~18の芳香族化合物にエチレン性不飽和基を置換した炭化水素化合物(B2)のうち、不飽和基を1つ有する化合物(B21)の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、3-プロピルスチレン、4-イソプロピルスチレン、3-ブチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、4-ヘキシルスチレン、4-オクチルスチレン、3-(2-エチルヘキシル)スチレン、4-(2-エチルヘキシル)スチレン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、2-イソプロペニルナフタレン、9-ビニルアントラセン、1-ビニルアントラセン等が挙げられる。
不飽和基を2つ以上有する化合物(B22)の具体例としては、1,3-ジビニルベンゼン、1,4-ジビニルベンゼン、1,3-ジイソプロペニルベンゼン、1,4-ジイソプロペニルベンゼン、1,4-ジビニルナフタレン、1,5-ジビニルナフタレン、1,4-ジイソプロペニルナフタレン、9,10-ジビニルアントラセン、アリルスチレン、イソプロペニルスチレン、ブテニルスチレン、オクテニルスチレン等が挙げられる。
【0025】
これらのカチオン重合性炭化水素化合物(B)の中でも、脂環式化合物もしくは芳香族化合物は、剛直な分子構造に由来する高耐久性の硬化被膜が得られるため好ましい。
また、これらのカチオン重合性炭化水素化合物(B)は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。2種以上を併用する場合は、その合計量が重合性化合物の総重量に対して35重量%以上となるようにする。カチオン重合性炭化水素化合物(B)の含有量が上記の範囲内では、防食コーティング用光硬化性組成物の親水性が大きく低下し、硬化させて得られる硬化被膜内部への塩化物イオンの浸透を防ぐことができる。
【0026】
本発明では、上記光硬化性組成物中のヘテロ原子の割合を表したヘテロ原子含有百分率が6.0以下となる範囲、好ましくは0.9~6.0の範囲で、上記(B)のほか、ヘテロ原子含有カチオン重合性化合物(C)をさらに併用することができる。ヘテロ原子含有百分率が上記の範囲内においては、防食コーティング用光硬化性組成物の親水性が大きく低下し、硬化させて得られる硬化被膜内部への塩化物イオンの浸透を防ぐことができる。
但し、ここでいう光硬化性組成物のヘテロ原子含有百分率とは、下記の式(1)に基づき計算される。
ヘテロ原子含有百分率=100×Σ(Nhi×Mi)/Σ{(Nhi+Nci)×Mi} (1)
【0027】
式(1)中、Nhは光硬化性組成物中の各成分に含まれるヘテロ原子の数であり(但し、ここでいうヘテロ原子とは、炭素原子および水素原子を除いた全ての原子である)、Ncは光硬化性組成物中の各成分に含まれる炭素原子の数であり、Mは光硬化性組成物に占める各成分の物質量の分率を示し、ΣM=1である。なお、i は光硬化性組成物に含まれる成分の種類の数を表し、1以上の整数を示す。
本発明において、光硬化性組成物に含まれるヘテロ原子の割合を表したヘテロ原子含有百分率を計算する際に考慮される成分は、光カチオン重合開始剤(A)、カチオン重合性炭化水素化合物(B)、ヘテロ原子含有カチオン重合性化合物(C)および光増感剤(D)だけであるが、これは、この他の成分である界面活性剤(E)や重合禁止剤(F)等は添加量が少なく、計算上無視できるからである。
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物および、当該光硬化性組成物を硬化させた硬化被膜は、それぞれの元素分析を行って判明する各元素の重量百分率からヘテロ原子含有百分率を算出することができる。
【0028】
ヘテロ原子含有カチオン重合性化合物(C)としては、例えば、上記(B)のうち、水素原子や炭素原子の一部をヘテロ原子やヘテロ原子含有官能基で置き換えた化合物(C1およびC2)や、エポキシ化合物(C3)等が挙げられる。
【0029】
水素原子や炭素原子の一部をヘテロ原子やヘテロ原子含有官能基で置き換えた化合物とは、例えば、炭化水素化合物の水素原子を、アルコキシ基、アシル基、ハロゲン原子等に置き換えた化学構造や、炭化水素化合物の炭素原子(とその炭素原子に結合した水素原子)を、酸素原子、窒素原子等に置き換えた化学構造と同一である化合物のことをいう。
【0030】
本発明で用いられるヘテロ原子含有カチオン重合性化合物(C1)は、上記脂肪族不飽和炭化水素化合物(B1)の水素原子や炭素原子の一部をヘテロ原子やヘテロ原子含有官能基で置き換えた化合物のことをいい、例としては、4-メトキシ-1-ブテン、4-クロロ-1-ブテン、5-ジメチルアミノ-1-ペンテン、4-メトキシ-1-ペンテン、5-エトキシ-1-ペンテン、4-n-ブトキシ-1-ペンテン、4-tert-ブトキシ-1-ペンテン、2-ビニルシクロヘキサノン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、n-ノニルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、4-メチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ジシクロペンテニルビニルエーテル、2-ジシクロペンテノキシエチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、n-ブトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、エトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、クロロブチルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、エチル-1-プロペニルエーテル、tert-ブチル-1-プロペニルエーテル、2-エチルヘキシル-1-プロペニルエーテル、ノニル-1-プロペニルエーテル、ドデシル-1-プロペニルエーテル、ラウリル-1-プロペニルエーテル、シクロヘキシル-1-プロペニルエーテル、シクロヘキシルメチル-1-プロペニルエーテル、ヘキサンジオールジプロペニルエーテル、トリメチロールエタントリプロペニルエーテル、トリメチロールプロパントリプロペニルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラプロペニルエーテル、グリセリントリプロペニルエーテル等が挙げられる。
【0031】
本発明で用いられるヘテロ原子含有カチオン重合性化合物(C2)は、上記芳香族不飽和炭化水素化合物(B2)の水素原子や炭素原子の一部をヘテロ原子やヘテロ原子含有官能基で置き換えた化合物のことをいい、例としては、4-n-オクチロキシスチレン、4-アセトキシスチレン、4-メトキシスチレン、3-メトキシスチレン、3-tert-ブトキシスチレン、4-クロロシスチレン、3-クロロスチレン、3,5-ジクロロスチレン、3-ブロモスチレン、4-ニトロスチレン、4-ビニルフェニルアセテート、2-ビニルピリジン、2-ビニルチオフェン、2-ビニルフラン、N-ビニルカルバゾール、3-tert-ブトキシ-1,5-ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0032】
本発明で用いられるエポキシ化合物(C3)としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2-ブチレンオキサイド、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2-エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド等単官能エポキシ化合物や、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-メタ-ジオキサン、ビス(3,-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンオキサイド、4-ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル-3’,4’-エポキシ-6’-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールジ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,1,3-テトラデカジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、1,2,7,8-ジエポキシオクタンおよび1,2,5,6-ジエポキシシクロオクタン等の多官能エポキシ化合物が挙げられる。
【0033】
これらのヘテロ原子含有カチオン重合性化合物(C)のうち、脂環式化合物もしくは芳香族化合物は、剛直な分子構造に由来する高耐久性の硬化被膜が得られるため好ましい。
また、これらのヘテロ原子含有カチオン重合性化合物(C)は、光硬化性組成物のヘテロ原子含有百分率が6.0以下となる範囲で、単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。
【0034】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物は、照射された光を吸収し、得られたエネルギーを開始剤に受け渡すことで開始剤の光分解を促すことができる光増感剤(D)をさらに含んでいてもよい。
【0035】
光増感剤(D)としては、例えば、特開平11-279212号および特開平09-183960号等に開示されている公知の光増感剤等が使用でき、具体例としては、ナフタレン(1-ナフトール、2-ナフトール、1-メトキシナフタレン、2-メトキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレンおよび4-メトキシ-1-ナフトール等);ベンゾキノン{1,4-ベンゾキノン、1,2-ベンゾキノン等};ナフトキノン{1,4-ナフトキノン、1,2-ナフトキノン等};アントラキノン{2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン等};アントラセン{アントラセン、9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジメトキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン、9,10-ジプロポキシアントラセン等};ピレン;1,2-ベンズアントラセン;ペリレン;テトラセン;コロネン;チオキサントン{チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントンおよび2,4-ジエチルチオキサントン等};フェノチアジン{フェノチアジン、N-メチルフェノチアジン、N-エチルフェノチアジン、N-フェニルフェノチアジン等};キサントン;クマリン{7-(ジエチルアミノ)4-(トリフルオロメチル)クマリン、3,3'-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、10-アセチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H,-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン、10-(2-ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H,-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン等};ケトン{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、4’-イソプロピル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルフィド、ビス(4,4’-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンおよびビス(4,4’-ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等};カルバゾール{N-フェニルカルバゾール、N-エチルカルバゾール、ポリ-N-ビニルカルバゾールおよびN-グリシジルカルバゾール等};クリセン{1,4-ジメトキシクリセンおよび1,4-ジ-α-メチルベンジルオキシクリセン等};フェナントレン{9-ヒドロキシフェナントレン、9-メトキシフェナントレン、9-ヒドロキシ-10-メトキシフェナントレンおよび9-ヒドロキシ-10-エトキシフェナントレン等}等が挙げられる。
特に、本発明では、光重合開始剤として含有されるヨードニウム化合物もしくはスルホニウム化合物の電子受容性の観点から、ナフトキノン系、ベンゾフェノン系、キサントン系、アントラキノン系、チオキサントン系の光増感剤を使用したときに、高い増感効果が得られるため、好ましい。
【0036】
これら光増感剤(D)の含有量は特に限定されないが、重合性化合物(B)+(C)100重量部に対して通常0.005~10重量部、好ましくは0.01~5重量部、より好ましくは0.02~4重量部である。また、光増感剤(D)は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。2種以上を併用する場合は、その合計量が上記の範囲となることが好ましい。
【0037】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物には、基板への塗布性を向上させるために一般的に使用される界面活性剤(E)を含むことができる。
本発明で用いることができる界面活性剤(E)としては、硬化被膜表面が親水性になることを避けるために、非イオン性(ノニオン系)の界面活性剤が好ましい。
非イオン性(ノニオン系)の界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等が挙げられる。例えば、フッ素系界面活性剤としては、FC4432、同4430(スリーエム ジャパン社製)、S-242、同243、同431(AGCセイミケミカル社製)等を挙げることができ、シリコーン系界面活性剤としては、KP-341(信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0038】
これら界面活性剤(E)の含有量は特に限定されないが、重合性化合物(B)+(C)100重量部に対して0.001~5重量部、好ましくは0.002~4重量部、さらに好ましくは0.005~3重量部である。界面活性剤(E)は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。2種以上の界面活性剤を用いる場合はその合計重量が上記記載の範囲にあることが好ましい。
【0039】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物には、継時保存安定性を向上させるために一般的に使用される重合禁止剤(F)を含むことができる。本発明で用いられる重合禁止剤(F)としては、例えば、芳香族ポリオール系化合物(4-tert-ブチルカテコール、4-メトキシフェノール、4-メトキシ-1-ナフトール等)、キノン系化合物(ナフトキノン、ベンゾキノン等)、ヒンダードフェノール系化合物(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール等)等を用いることができる。
【0040】
本発明において、これら重合禁止剤(F)の含有量は特に限定されないが、重合性化合物(B)+(C)100重量部に対して0.001~1重量部、好ましくは0.002~1重量部、さらに好ましくは0.003~1重量部である。重合禁止剤(F)は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。2種以上の重合禁止剤を用いる場合はその合計重量が上記記載の範囲にあることが好ましい。
【0041】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物には、酸化防止剤(G)を含むことができる。酸化防止剤は、酸素ラジカルをトラップする能力を有し、熱、光照射、各種酸化性ガス(例えば、オゾン、活性酸素など)等による退色を抑制するものである。本発明で用いられる酸化防止剤(G)としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン社製Irganox1010、同1035、同1076等)、ヒンダードアミン系酸化防止剤(BASFジャパン社製Tinuvin PA 144、同765等)、チオエーテル系酸化防止剤(ADEKA社製アデカスタブ AO-412S、同AO-503等)などを挙げることができる。
【0042】
本発明において、これら酸化防止剤(G)の含有量は特に限定されないが、重合性化合物(B)+(C)100重量部に対して0.001~1重量部、好ましくは0.002~1重量部、さらに好ましくは0.003~1重量部である。酸化防止剤(G)は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。2種以上の重合禁止剤を用いる場合はその合計重量が上記記載の範囲にあることが好ましい。
【0043】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物には、硬化被膜の外観や物性を制御するために一般的に使用される他の添加剤(H)を含むことができる。その他の添加剤(H)としては、着色剤(Ha)、金属酸化物粒子(Hb)および金属粒子(Hc)等が含まれる。
本発明における着色剤(Ha)としては、従来、塗料およびインキ等に使用されている無機顔料および有機顔料等の顔料ならびに染料が使用できる。
【0044】
無機顔料としては、黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、ベンガラ、アルミナ、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイトおよびチタンブラック等が挙げられる。
【0045】
有機顔料としては、β-ナフトール系、β-オキシナフトエ酸系アニリド系、アセト酢酸アニリド系、ピラゾロン系等の溶性アゾ顔料、β-ナフトール系、β-オキシナフトエ酸系、β-オキシナフトエ酸系アニリド系、アセト酢酸アニリド系モノアゾ、アセト酢酸アニリド系ジスアゾ、ピラゾロン系等の不溶性アゾ顔料、銅フタロシニンブルー、ハロゲン化銅フタロシアニンブルー、スルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、イソシンドリノン系、キナクリドン系、ジオキサンジン系、ペリノン系およびペリレン系等の多環式または複素環式化合物が挙げられる。
【0046】
具体的に、イエロー染料としては、カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロン類、ピリドン類もしくは開鎖型活性メチレン化合物類を有するアリールまたはヘテリルアゾ染料、カップリング成分として開鎖型活性メチレン化合物を有するアゾメチン染料、ベンジリデン染料およびモノメチンオキソノール染料等のメチン染料、ナフトキノン染料およびアントラキノン染料等のキノン系染料等、キノフタロン染料、ニトロ、ニトロソ染料、アクリジン染料ならびにアクリジノン染料等が挙げられる。
【0047】
マゼンタ染料としては、カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロン類、ピリドン類、ピラゾロトリアゾール類、閉環型活性メチレン化合物類もしくはヘテロ環(ピロール、イミダゾール、チオフェンおよびチアゾール誘導体等)を有するアリールまたはヘテリルアゾ染料、カップリング成分としてピラゾロン類またはピラゾロトリアゾール類を有するアゾメチン染料、アリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料およびオキソノール染料等のメチン染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料およびキサンテン染料等のカルボニウム染料、ナフトキノン、アントラキノンおよびアントラピリドン等のキノン系染料並びにジオキサジン染料等の縮合多環系染料等を挙げられる。
【0048】
シアン染料としては、インドアニリン染料およびインドフェノール染料等のアゾメチン染料、シアニン染料、オキソノール染料およびメロシアニン染料等のポリメチン染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料およびキサンテン染料等のカルボニウム染料、フタロシアニン染料、アントラキノン染料、カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピロロピリミジノンもしくはピロロトリアジノン誘導体を有するアリールまたはヘテリルアゾ染料(C.I.ダイレクトブルー14等)並びにインジゴ・チオインジゴ染料を挙げられる。
【0049】
着色剤(Ha)の粒子径は、塗膜の鮮映性の観点から、平均粒子径として0.01μm~2.0μmが好ましく、0.01μm~1.0μmがさらに好ましい。ただし、着色剤(Ha)の粒子径は、塗膜の膜厚を超えると塗膜の防食性が悪化するので、塗膜の膜厚を超えない範囲で選択される。
着色剤(Ha)の添加量は特に限定されないが、防食コーティング用光硬化性組成物の合計重量に基づいて1~20重量%であることが好ましい。
【0050】
顔料を用いる場合は、その分散性および防食コーティング用光硬化性組成物の保存安定性を向上させるために顔料分散剤を添加することが好ましい。
顔料分散剤としては、ビックケミー・ジャパン社製顔料分散剤(Anti-Terra-U、Disperbyk-101,103、106、110、161、162、164、166、167、168,170、174、182、184または2020等)、味の素ファインテクノ社製顔料分散剤(アジスパーPB711、PB821、PB814、PN411およびPA111等)、ルーブリゾール社製顔料分散剤(ソルスパーズ5000、12000、32000、33000および39000等)が挙げられる。これらの顔料分散剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。顔料分散剤の添加量は特に限定されないが、防食コーティング用光硬化性組成物中に0.1~10重量%の範囲で用いることが好ましい。
【0051】
本発明における金属酸化物粒子(Hb)としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、酸化ニオブおよびチタン酸ジルコン酸鉛等が挙げられ、好ましいのはチタン酸バリウムである。また、酸化アルミニウムや酸化ケイ素、酸化チタン等は基材の保護のためのコーティング層形成の際に使用される。
金属酸化物粒子(Hb)の粒子径は、誘電率の観点から、平均粒子径として0.01μm~2.0μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.01μm~1.0μmである。ただし、金属酸化物粒子(Hb)の粒子径は、塗膜の膜厚を超えると塗膜の防食性が悪化するので、塗膜の膜厚を超えない範囲で選択される。
【0052】
本発明における金属粉末(Hc)としては、パラジウム、ニッケル、銅、銀および金等が挙げられ、好ましいのはパラジウム、ニッケルおよび銅である。
金属粉末(Hc)の平均粒子径は、0.01μm~10μmであることが好ましい。ただし、金属粉末(Hc)の粒子径は、塗膜の膜厚を超えると塗膜の防食性が悪化するので、塗膜の膜厚を超えない範囲で選択される。
【0053】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物は、必要により溶剤および密着性付与剤(例えばシランカップリング剤)等を含有することができる。
溶剤としては、グリコールエーテル類(エチレングリコールモノアルキルエーテルおよびプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノン等)、エステル類(エチルアセテート、ブチルアセテート、エチレングリコールアルキルエーテルアセテートおよびプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、メシチレンおよびリモネン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ゲラニオール、リナロールおよびシトロネロール等)およびエーテル類(テトラヒドロフランおよび1,8-シネオール等)が挙げられる。これらは、単独で使用しても2種以上を併用しても良い。
本発明における溶剤の含有量は特に限定されないが、防食コーティング用光硬化性組成物の合計重量に基づいて0~99重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0~95重量%、特に好ましくは0~90重量%である。
【0054】
また、密着性付与剤としては、ビス(トリメチルシリル)アミン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、尿素プロピルトリエトキシシラン、トリス(アセチルアセトネート)アルミニウムおよびアセチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。上記の密着性付与剤の含有量は特に限定されないが、防食コーティング用光硬化性組成物の合計重量に基づいて0~20重量%が好ましく、1~15重量%がより好ましく、5~10重量%が特に好ましい。
【0055】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物は、さらに、防食コーティング剤としての性情を損なわない範囲で、無機微粒子、分散剤、消泡剤、レベリング剤、チクソトロピー性付与剤、スリップ剤、難燃剤、帯電防止剤および紫外線吸収剤等を含有することができる。
【0056】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物は、ヨードニウム化合物もしくはスルホニウム化合物からなる光カチオン重合開始剤(A)、炭素原子および水素原子のみからなるエチレン性不飽和結合を含むカチオン重合性炭化水素化合物(B)、必要により用いるヘテロ原子含有カチオン重合性化合物(C)、必要により用いる光増感剤(D)、必要により用いる界面活性剤(E)、必要により用いる重合禁止剤(F)、必要により用いる酸化防止剤(G)、必要により用いる着色剤(Ha)、必要により用いる金属酸化物粒子(Hb)、必要により用いる金属粒子(Hc)、必要により用いる溶剤および密着性付与剤を、公知の撹拌混合装置(撹拌機の付属した混合容器およびペイントシェーカー等)を用いて均一混合する方法および公知の混練機(ボールミルおよび3本ロールミル等)を用いて混練する方法等で得られる。なお、前記光硬化性組成物を調製する際の均一混合温度および混練温度は通常10℃~40℃、好ましくは20℃~30℃である。
【0057】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物を塗布する基材としては、鉄、銅,アルミニウム、ニッケル等の金属基板の他、用途により木材、紙、石英ガラス、シリコン、有機樹脂フィルム等を種々選択することができる。
【0058】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物の基材への塗布方法としては、用途に応じてスピンコート、ロールコートおよびスプレーコート等の公知のコーティング法、平版印刷、カルトン印刷、金属印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷およびグラビア印刷といった公知の印刷法、および刷毛を用いた塗布やディップ塗布等を適用できる。また、微細液滴を連続して吐出するインクジェット方式の塗布にも適用できる。
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物を用いて硬化被膜を形成する際、硬化後に得られる塗膜の膜厚を適宜選択することができるが、0.1μm~100μmの範囲であることが好ましく、1μm~50μmがより好ましく、3μm~30μmが特に好ましい。この際、0.1μm未満であると、添加剤の粒子径を下回る膜厚となって防食性が劣化する恐れがあり、逆に100μmを超えると、光照射による光酸発生剤からの酸発生が膜厚方向で不均一となり、光カチオン重合反応に斑が生じて、防食性が落ちる恐れがあるので好ましくない。
【0059】
また、本発明では、硬化により形成される硬化被膜と基板との間の密着性を向上させる目的で、基板上に密着層を設けてもよい。このような密着層の形成には、例えば上記の密着性付与剤を用い、加熱蒸着や塗布-加熱工程により基板上に密着層を設けることができる。
【0060】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物を用いて硬化被膜を形成する際には、一般的に使用されている高圧水銀灯の他、超高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプおよびハイパワーメタルハライドランプ、アルゴンイオンレーザー、ヘリウムカドミウムレーザー、ヘリウムネオンレーザー、クリプトンイオンレーザー、各種半導体レーザー、キセノンランプあるいはLED光源が使用できる。
【0061】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物は、光を照射することによって強酸を発生させ、カチオン重合による硬化反応を促進させて、硬化被膜を得ることができる。したがって、このような硬化被膜の製造方法としては、光源となる光の波長に応じた光増感剤(D)を選択し、該防食コーティング用光硬化性組成物に含有させたものを用いて光を照射するか、用いた光増感剤(D)が有する吸収波長に該当する光源を用いて光を照射する工程を含むことが好ましい。また、硬化反応の際には必要に応じて加熱してもよい。加熱温度は、通常、30℃~150℃であり、好ましくは35℃~120℃、さらに好ましくは40℃~100℃である。
【0062】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物を用いて硬化被膜を形成する際、通常窒素ガス雰囲気下、空気雰囲気下で行うことができる。ラジカル重合で問題となる酸素阻害を受けないので、空気雰囲気下で行うことが簡便で好ましく、水分による硬化の影響を避けるため乾燥空気雰囲気下で行うことがより好ましい。
【0063】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物を用いて得られる硬化被膜は、海水(塩化物イオン濃度:19g/L)や濃塩酸(塩化物イオン濃度:425g/L)に対して特に優れた耐性を示す。海水に対する耐性は、車や橋梁などの金属構造物の防食用下地材等として有用であり、濃塩酸に対する耐性は、ウェットエッチング用レジスト等として有用である。
【実施例0064】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0065】
[防食コーティング用光硬化性組成物の調製]
[実施例1]
下記光カチオン重合開始剤A-1(3重量部)、下記カチオン重合性炭化水素化合物B-1(50重量部)、下記ヘテロ原子含有カチオン重合性化合物C-1(50重量部)、下記光増感剤D-1(1.5重量部)、下記界面活性剤E-1(0.01重量部)、下記重合禁止剤F-1(0.01重量部)を加えて実施例1の組成物を調製した。
【0066】
[実施例2~8]
実施例1において、上記防食コーティング用光硬化性組成物をそれぞれ下記表1記載の化合物に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~8の組成物を調製した。
【0067】
[比較例1~4]
実施例1において、上記防食コーティング用光硬化性組成物をそれぞれ下記表1記載の化合物に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例1~4の組成物を調製した。
【0068】
[硬化被膜の形成]
上記で調製した組成物(実施例1~8および比較例1~4)を、あらかじめビス(トリメチルシリル)アミンで表面処理を施したアルミニウム基板上に、スピンコーターを用いて膜厚1.5μmとなるよう塗布した。スピンコートした塗布基膜に対して、高圧水銀灯により紫外線(1J/cm)を照射させ、硬化被膜を作成した。
【0069】
[中性塩水噴霧試験]
上記で得られた硬化被膜に被覆されたアルミニウム試験片に対して、中性塩水噴霧試験(JIS Z2371)を24時間の試験時間で行った。試験後、純水によって硬化被膜表面を洗浄した後、ジクロロメタンによって硬化被膜を完全に溶解させた。硬化被膜を完全に拭い去った後、アルミニウム基板表面の腐食痕を目視で確認した。その結果を表1に示す。また評価基準は以下の通りである。
○:アルミニウム基板表面に腐食が確認されない
△:アルミニウム基板表面の一部が腐食
×:アルミニウム基板表面が完全に腐食
【0070】
[濃塩酸暴露試験]
上記で得られた硬化被膜に被覆されたアルミニウム試験片に対して、硬化被膜上に濃塩酸を1mL垂らし、23℃/50%RH条件下1時間静置する濃塩酸暴露試験を行った。試験後、純水によって硬化被膜表面を洗浄した後、ジクロロメタンによって硬化被膜を完全に溶解させた。硬化被膜を完全に拭い去った後、アルミニウム基板表面の腐食痕を目視で確認した。その結果を表1に示す。また評価基準は以下の通りである。
○:アルミニウム基板表面に腐食が確認されない
△:アルミニウム基板表面の一部が腐食
×:アルミニウム基板表面が完全に腐食
【0071】
[光カチオン重合開始剤(A)]
A-1:クミル-p-トリルヨードニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(分子量782.2、炭素原子の数22、ヘテロ原子の数20)
A-2:(4-フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(分子量816.5、炭素原子の数30、ヘテロ原子の数21)
A-3:ビス(tert-ブチルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(分子量1072.4、炭素原子の数44、ヘテロ原子の数22)
[カチオン重合性炭化水素化合物(B)]
B-1:4-tert-ブチルスチレン(分子量160.3、炭素原子の数12、ヘテロ原子の数0)
B-2:1,4-ジイソプロペニルベンゼン(分子量158.2、炭素原子の数12、ヘテロ原子の数0)
B-3:5-エチリデン-2-ノルボルネン(分子量120.2、炭素原子の数9、ヘテロ原子の数0)
[ヘテロ原子含有カチオン重合性化合物(C)]
C-1:4-tert-ブトキシスチレン(分子量176.3、炭素原子の数12、ヘテロ原子の数1)
C-2:4-メトキシスチレン(分子量134.2、炭素原子の数9、ヘテロ原子の数1)
C-3:4-n-オクチロキシスチレン(分子量232.4、炭素原子の数16、ヘテロ原子の数1)
C-4:4-クロロスチレン(分子量138.6、炭素原子の数8、ヘテロ原子の数1)
C-5:4-アセトキシスチレン(分子量162.2、炭素原子の数10、ヘテロ原子の数2)
C-6:2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジグリシジルエーテル(分子量340.4、炭素原子の数21、ヘテロ原子の数4)
[光増感剤(D)]
D-1:9,10-ジブトキシアントラセン(分子量322.4、炭素原子の数22、ヘテロ原子の数2)
[界面活性剤(E)]
E-1:KP-341(信越化学工業社製)
[重合禁止剤(F)]
F-1:4-tert-ブチルカテコール
【0072】
【表1】
【0073】
表1からわかるように、本発明の防食コーティング用光硬化性組成物は、比較品として用いた光硬化性組成物と比べて、中性塩水噴霧試験および濃塩酸暴露試験において良好な結果を示した。特に、実施例1~8では、中性塩水噴霧試験および濃塩酸暴露試験後でも硬化被膜に大きな変化が見られなかった。一方、比較例1は、カチオン重合性炭化水素化合物(B)の重合性化合物の総重量に対する割合が35重量%に満たない例であり、濃塩酸暴露試験によって硬化被膜に孔食が多数見られた。また比較例2~4は、ヘテロ原子含有百分率が6.0よりも大きい例であり、濃塩酸暴露試験により硬化被膜全体に膨潤およびヒビ割れが見られた。すなわち本発明の光硬化性組成物は、防食用途において、耐酸性、耐塩化物イオン性に優れている。
【0074】
図1(a)~(d)は、上記の濃塩酸暴露試験の結果を示す写真であり、(a)は、実施例8の組成物を用いた場合の濃塩酸暴露試験中の硬化膜の状態を示す写真である。この写真の左上にある水滴は濃塩酸水溶液であり、図1(a)から、試験中の硬化膜の表面状態には変化がないことがわかる。また、図1(b)の写真から、試験後に硬化膜を除去した後のアルミニウム基板の表面には変化がないことが確認された。
これに対し、比較例3の組成物を用いた場合には、図1(c)の写真に示されるように、濃塩酸暴露試験中に濃塩酸が硬化膜に吸収されて硬化膜が膨潤し、ヒビ割れが生じ、また、試験後に硬化膜を除去した後のアルミニウム基板の表面には、図1(d)の写真に示されるような、広範囲にわたる多数の腐食(写真において白く見える部分)が生じていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の防食コーティング用光硬化性組成物は、光照射を利用した硬化被膜形成材料として用いられ、車や橋梁などの金属構造物の下地材や、半導体集積回路基板、CSP、MEMS素子等の電子部品製造の接続端子や配線パターン形成等、レジストフィルム、半導体素子およびFPD用透明電極(ITO、IZO、GZO)等の表面保護膜、層間絶縁膜、平坦化膜等の永久膜形成、MEMS用レジスト、ホログラフ用樹脂、FPD材料(カラーフィルター、ブラックマトリックス、隔壁材料、ホトスペーサー、リブ、液晶用配向膜、FPD用シール剤等)、光学部材、光導波路材料、マイクロリアクター、ナノバイオデバイス、各種分離・分析用チップ製造、およびマイクロ光造形用材料等に好適に用いられる。
図1