(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024507
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】リシン調積層塗膜の形成方法およびリシン調積層塗膜
(51)【国際特許分類】
B05D 5/06 20060101AFI20220202BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220202BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220202BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220202BHJP
C09D 7/41 20180101ALI20220202BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20220202BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220202BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220202BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20220202BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
B05D5/06 104C
C09D5/00 D
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/41
B32B27/20 A
B32B27/00 101
B32B27/30 A
B05D1/36 Z
B05D7/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127137
(22)【出願日】2020-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592084071
【氏名又は名称】大橋化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129104
【弁理士】
【氏名又は名称】舩曵 崇章
(72)【発明者】
【氏名】安田 裕俊
(72)【発明者】
【氏名】中間 康博
(72)【発明者】
【氏名】清水 良平
(72)【発明者】
【氏名】松山 恩
(72)【発明者】
【氏名】人見 勲
(72)【発明者】
【氏名】朝野 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】坂元 志郎
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075CA03
4D075CA32
4D075CA38
4D075CB28
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4F100AK01A
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4J038CG141
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4J038PA06
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4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】下地への追従性、防水性および耐候性に優れたリシン調積層塗膜の形成方法およびリシン調積層塗膜を提供することなどを目的とする。
【解決手段】外壁などの被塗装面の表面に下塗り塗料を塗布して成膜する下塗り塗膜成膜工程と、この下塗り塗膜成膜工程によって成膜された下塗り塗膜の表面に上塗り塗料を塗布して成膜する上塗り塗膜成膜工程と、を備えており、前記下塗り塗料は、第一の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、着色顔料を20~200重量部、平均粒子径1~100μmの体質顔料を50~800重量部、含み、前記上塗り塗料は、第二の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、骨材を200~1200重量部、着色ゲル粒子を50~800重量部、含む、リシン調積層塗膜の形成方法とした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁などの被塗装面の表面に下塗り塗料を塗布して成膜する下塗り塗膜成膜工程と、この下塗り塗膜成膜工程によって成膜された下塗り塗膜の表面に上塗り塗料を塗布して成膜する上塗り塗膜成膜工程と、を備えており、
前記下塗り塗料は、
第一の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、
着色顔料を20~200重量部、
平均粒子径1~100μmの体質顔料を50~800重量部、含み、
前記上塗り塗料は、
第二の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、
骨材を200~1200重量部、
着色ゲル粒子を50~800重量部、含む、
リシン調積層塗膜の形成方法。
【請求項2】
上塗り塗膜成膜工程の前に、
上塗り塗料のベースとなる塗料であって骨材を含有していない上塗りベース塗料に、骨材と、水性分散媒と、を混合撹拌して上塗り塗料とする上塗り塗料骨材配合工程を備えた、
請求項1に記載のリシン調積層塗膜の形成方法。
【請求項3】
上塗り塗料に含まれる着色ゲル粒子が、
第三の水系エマルション樹脂と、着色顔料と、ハイドロゲルと、を含む、
請求項1又は2に記載のリシン調積層塗膜の形成方法。
【請求項4】
上塗り塗料に含まれる着色ゲル粒子が、
第三の水系エマルション樹脂と、着色顔料と、ハイドロゲル構成材と、を含有する着色ゲル原料組成物を、ハイドロゲル不溶化剤を含む水溶液に添加して得られたものであり、
前記着色ゲル原料組成物中のハイドロゲル構成材の含有量は、第三の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、固形分で5~90重量部である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のリシン調積層塗膜の形成方法。
【請求項5】
下塗り塗料に含まれる第一の水系エマルション樹脂、上塗り塗料に含まれる第二の水系エマルション樹脂、および上塗り塗料に含まれる着色ゲル粒子の第三の水系エマルション樹脂のうち少なくとも一種が、アクリルシリコーン系樹脂エマルションである、
請求項3又は4に記載のリシン調積層塗膜の形成方法。
【請求項6】
上塗り塗料に含まれる着色ゲル粒子が、1色である、
請求項1~5のいずれか1項に記載のリシン調積層塗膜の形成方法。
【請求項7】
上塗り塗料に含まれる着色ゲル粒子が、2色以上である、
請求項1~5のいずれか1項に記載のリシン調積層塗膜の形成方法。
【請求項8】
上塗り塗料は、
第二の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、
アクリルビーズを10~80重量部含む、
請求項1~7のいずれか1項に記載のリシン調積層塗膜の形成方法。
【請求項9】
外壁などの被塗装面の表面に下塗り塗料を塗布して成膜した下塗り塗膜と、この下塗り塗膜の表面に上塗り塗料を塗布して成膜した上塗り塗膜と、からなり、
前記下塗り塗膜は、
第一の樹脂100重量部に対して、
着色顔料を20~200重量部、
平均粒子径1~100μmの体質顔料を50~800重量部、含み、
前記上塗り塗膜は、
第二の樹脂100重量部に対して、
骨材を200~1200重量部、
着色ゲル粒子の乾燥物を30~500重量部、含む、
リシン調積層塗膜。
【請求項10】
上塗り塗膜に含まれる着色ゲル粒子の乾燥物が、
第三の樹脂と、着色顔料と、ハイドロゲルの乾燥物と、を含む、
請求項9に記載のリシン調積層塗膜。
【請求項11】
上塗り塗膜に含まれる着色ゲル粒子の乾燥物は、
第三の樹脂100重量部に対して、ハイドロゲルの乾燥物を5~90重量部含む、
請求項9または10に記載のリシン調積層塗膜。
【請求項12】
下塗り塗膜に含まれる第一の樹脂、上塗り塗膜に含まれる第二の樹脂、および着色ゲル粒子の乾燥物に含まれる第三の樹脂のうち少なくとも一種が、アクリルシリコーン系樹脂である、
請求項10又は11に記載のリシン調積層塗膜。
【請求項13】
上塗り塗膜に含まれる着色ゲル粒子の乾燥物が、1色である、
請求項9~12のいずれか1項に記載のリシン調積層塗膜。
【請求項14】
上塗り塗膜に含まれる着色ゲル粒子の乾燥物が、2色以上である、
請求項9~12のいずれか1項に記載のリシン調積層塗膜。
【請求項15】
上塗り塗膜は、
第二の樹脂の固形分100重量部に対して、
アクリルビーズを10~80重量部含む、
請求項9~14のいずれか1項に記載のリシン調積層塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リシン調積層塗膜の形成方法およびリシン調積層塗膜に関する。詳細には、下塗り塗料と上塗り塗料を用いたリシン調積層塗膜の形成方法およびリシン調積層塗膜に関する。
【0002】
建築物などには様々な塗装が施される。例えば、内装や外装において、各種の塗料を塗布して塗膜を形成することで、躯体の保護や意匠性の向上を図ることが頻繁に行われている。
【0003】
このような被塗装面の表面塗装としてリシン系の塗料を用いたものがある。リシン系の塗料は、一般的に、合成樹脂と、粒状材料(天然石、セラミック、骨材等)と、着色顔料と、を含む塗料である。
【0004】
このようなリシン系の塗料を用いると艶を抑えた落ち着きのある外観となる。また、リシン系の塗料を用いると透湿性の高い塗膜となるため、家屋の木材劣化などを抑えることが出来るという特徴もある。さらに、一般に安価であり、塗装工事費を抑えられるという特徴もある。
このような優れた特長があるリシン系の塗料は、従来から用いられてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には「(a)平均粒子径0.05μ以下のヒドロキシル樹脂・・・l00重量部(固形分)(b)着色材・・・10~200重量部 (c)骨材・・・200~1000重量部 (d)充填材・・・100~500重量部 (e)水・・・100~600重量部及び(f)チタンカップリング剤からなり、(f)成分量が(b)成分、(c)成分及び(d)成分の総量100重量部に対し0.1~10重量部であることを特徴とする外装用リシン塗料」が記載されており、これによって「チョーキングした素地にもよく密着し、塗膜形成後優れた美観を呈し、しかも耐候性の良好な水系外装用リシン塗料を完成」したとある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭和56‐99266号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された塗料も含め、従来のリシン系の塗料には、下地への追従性が悪く割れやすい、防水性が低い、耐候性が低いなどといった欠点があった。
【0008】
特に近年、ライフサイクルコストへの意識が高まっており、塗料においても塗料単価だけでなく、改修サイクルを延ばし塗装工事の回数を減らすことが出来る高耐候性塗料へのニーズが増えている。その中でリシン系の塗料は、他の塗料で代えがたい艶を抑えた特徴的な外観を有するものの耐候性が低いなどといった欠点があるため、特に近年は敬遠されるきらいがあった。
【0009】
そこで、リシン系の塗料において耐候性を確保するために、追加工程でクリヤーを塗装することが考えられるが、コストアップになるばかりか、外観に光沢が出てしまいリシン系の塗料特有の落ち着いた艶消し感が損なわれていた。
【0010】
本発明は、上述の事柄に留意してなされたものであって、下地への追従性、防水性および耐候性に優れたリシン調積層塗膜の形成方法およびリシン調積層塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、外壁などの被塗装面の表面に下塗り塗料を塗布して成膜する下塗り塗膜成膜工程と、この下塗り塗膜成膜工程によって成膜された下塗り塗膜の表面に上塗り塗料を塗布して成膜する上塗り塗膜成膜工程と、を備えており、前記下塗り塗料は、第一の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、着色顔料を20~200重量部、平均粒子径1~100μmの体質顔料を50~800重量部、含み、前記上塗り塗料は、第二の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、骨材を200~1200重量部、着色ゲル粒子を50~800重量部、含む、リシン調積層塗膜の形成方法とした。
【0012】
このリシン調積層塗膜の形成方法では、下塗り塗膜によって、下地追従性と防水性を確保するとともに、上塗り塗膜によって、リシン調の艶消し外観と高耐候性を確保する。
詳細には、下塗り塗料が、水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、平均粒子径1~100μmの体質顔料を50~800重量部含むことで、塗布適性が向上するとともに下地追従性と防水性が確保される。
また、下塗り塗料が、水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、平均粒子径1~100μmの体質顔料を50~800重量部含むことで、骨材を多量に含む上塗り塗料の、下塗り塗膜への塗布適性が向上し、より防水性が高くなる。
さらに、上塗り塗料が、水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、骨材を200~1200重量部含むことで、リシン調の意匠が確保される。このように、骨材リッチとすることで、リシン調の意匠を実現できるものの、従来は耐候性が犠牲になることがあった。しかしながら、本願発明者は、骨材リッチな配合であっても、驚くべきことに、着色ゲル粒子を、水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、50~800重量部含むことで、耐候性が大幅に改善することを見いだしたのである。本発明はこのような知見に基づく。
【0013】
上塗り塗膜成膜工程の前に、上塗り塗料のベースとなる塗料であって骨材を含有していない上塗りベース塗料に、骨材と、水性分散媒と、を混合撹拌して上塗り塗料とする上塗り塗料骨材配合工程を備えた、リシン調積層塗膜の形成方法とすることができる。
【0014】
このリシン調積層塗膜の形成方法では、工場などで製造された上塗りベース塗料を塗布現場などまで運送し、上塗り塗膜成膜工程の前(塗布作業の前)に、上塗りベース塗料に骨材と水性分散媒とを混合撹拌する。ここで、上塗りベース塗料の製造工程において骨材を混合撹拌しないため製造コスト(工数など)が低減され、上塗り塗料自体のコストも低減される。なお、骨材は塗布作業の前に上塗りベース塗料と混合撹拌されるが、そもそも塗布作業の前に塗料を撹拌均一化することは当然に行われており、この作業の一環として骨材の混合撹拌作業を行えば塗布などにおいて大きな作業負担にはならないと考えられる。
また、上塗りベース塗料に骨材が配合されていないことから、上塗りベース塗料における水性分散媒の量を大幅に低減できるため、上塗りベース塗料の容量や重量が上塗り塗料よりも低減され、輸送コストも大きく削減できる。なお、上塗りベース塗料に対して骨材とともに加える水性分散媒は、例えば塗布現場などで上水等を調達して用いることができる。
【0015】
上塗り塗料に含まれる着色ゲル粒子が、第三の水系エマルション樹脂と、着色顔料と、ハイドロゲルと、を含む、リシン調積層塗膜の形成方法とすることもできる。
【0016】
このリシン調積層塗膜の形成方法は、より耐候性の高いリシン調積層塗膜を形成することができる。
【0017】
上塗り塗料に含まれる着色ゲル粒子が、第三の水系エマルション樹脂と、着色顔料と、ハイドロゲル構成材と、を含有する着色ゲル原料組成物を、ハイドロゲル不溶化剤を含む水溶液に添加して得られたものであり、前記着色ゲル原料組成物中のハイドロゲル構成材の含有量は、第三の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、固形分で5~90重量部である、リシン調積層塗膜の形成方法とすることもできる。
【0018】
このリシン調積層塗膜の形成方法は、柔軟性に優れた着色ゲル粒子となり、これを上塗り塗料に用いることで、上塗り塗料骨材配合工程などにおいて骨材を配合攪拌する際に、着色ゲル粒子が細かく潰れにくくなる。
【0019】
ここで、下塗り塗料に含まれる第一の水系エマルション樹脂、上塗り塗料に含まれる第二の水系エマルション樹脂、および上塗り塗料に含まれる着色ゲル粒子の第三の水系エマルション樹脂のうち少なくとも一種が、アクリルシリコーン系樹脂エマルションである、リシン調積層塗膜の形成方法とすることができる。
【0020】
アクリルシリコーン系樹脂エマルションは耐候性に優れており、より耐候性に優れた塗膜を形成することができる。
【0021】
上塗り塗料に含まれる着色ゲル粒子が、1色である、リシン調積層塗膜の形成方法とすることもできるし、上塗り塗料に含まれる着色ゲル粒子が、2色以上である、リシン調積層塗膜の形成方法とすることもできる。
【0022】
上塗り塗料は、第二の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、アクリルビーズを10~80重量部含む、リシン調積層塗膜の形成方法とすることもできる。
【0023】
このリシン調積層塗膜の形成方法では、アクリルビーズのつや消し効果によって、より艶を抑えた落ち着きのあるリシン調の外観となる。
【0024】
また、上記課題は、外壁などの被塗装面の表面に下塗り塗料を塗布して成膜した下塗り塗膜と、この下塗り塗膜の表面に上塗り塗料を塗布して成膜した上塗り塗膜と、からなり、前記下塗り塗膜は、第一の樹脂100重量部に対して、着色顔料を20~200重量部、平均粒子径1~100μmの体質顔料を50~800重量部、含み、前記上塗り塗膜は、第二の樹脂100重量部に対して、骨材を200~1200重量部、着色ゲル粒子の乾燥物(固形分)を30~500重量部、含む、リシン調積層塗膜によっても解決される。
第一の樹脂は、下塗り塗料に含まれる第一の水系エマルション樹脂の乾燥物(固形分)であり、第二の樹脂は、上塗り塗料に含まれる第二の水系エマルション樹脂の乾燥物(固形分)である。
【0025】
ここで、上塗り塗膜に含まれる着色ゲル粒子の乾燥物が、第三の樹脂と、着色顔料と、ハイドロゲルの乾燥物(固形分)と、を含む、リシン調積層塗膜とすることができる。
第三の樹脂は、着色ゲル粒子に含まれる第三の水系エマルション樹脂の乾燥物(固形分)である。
【0026】
上塗り塗膜に含まれる着色ゲル粒子の乾燥物は、第三の樹脂100重量部に対して、ハイドロゲルの乾燥物を5~90重量部含む、リシン調積層塗膜とすることもできる。
【0027】
下塗り塗膜に含まれる第一の樹脂、上塗り塗膜に含まれる第二の樹脂、および着色ゲル粒子の乾燥物に含まれる第三の樹脂のうち少なくとも一種が、アクリルシリコーン系樹脂である、リシン調積層塗膜とすることもできる。
【0028】
上塗り塗膜に含まれる着色ゲル粒子の乾燥物が、1色である、リシン調積層塗膜とすることもできるし、上塗り塗膜に含まれる着色ゲル粒子の乾燥物が、2色以上である、リシン調積層塗膜とすることもできる。
【0029】
上塗り塗膜は、第二の樹脂の固形分100重量部に対して、アクリルビーズを10~80重量部含む、リシン調積層塗膜とすることもできる。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、下地への追従性、防水性および耐候性に優れたリシン調積層塗膜の形成方法およびリシン調積層塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、リシン調積層塗膜の形成方法を例示説明する。リシン調積層塗膜の形成方法は、下塗り塗膜成膜工程と、上塗り塗膜成膜工程と、を備えている。以降、工程毎に詳説するが、本発明は以下の実施形態などに限定されるものではない。
なお、本明細書において「平均粒子径」は、重量累積粒度分布の50%径であり、粒度分布の測定には、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製 HRAマイクロトラック)を用いた。
【0032】
[下塗り塗膜成膜工程]
下塗り塗膜成膜工程は、外壁などの被塗装面の表面に下塗り塗料を塗布して成膜する工程である。まず、本工程で用いる下塗り塗料から説明する。
【0033】
1.下塗り塗料
下塗り塗料は、第一の水系エマルション樹脂と、着色顔料と、体質顔料と、を含む。以下、各材料について詳説する。
なお、下塗り塗料に含まれる各材料の含有量に関して、第一の水系エマルション樹脂の固形分100重量部を基準としたものについては、下塗り塗膜についても同様の含有量であり、このとき「第一の水系エマルション樹脂の固形分100重量部」を「第一の樹脂100重量部」と読み替える。
【0034】
a)第一の水系エマルション樹脂
下塗り塗料の樹脂成分は、水系エマルション樹脂(第一の水系エマルション樹脂)である。水系エマルション樹脂は、乳化剤によって親水化され、水の中に分散した状態で存在している微粒子状の樹脂である。
第一の水系エマルション樹脂の樹脂成分は、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、エチレン‐アクリル樹脂、酢酸ビニル‐アクリル樹脂、スチレン‐アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ウレタン‐アクリル樹脂、シリコン‐アクリル樹脂等公知の合成樹脂を用いることができる。なかでも、耐候性の面から、アクリル樹脂、特にアクリルシリコーン系樹脂を用いることが好ましい。例えば、アクリルシリコーン樹脂やセラミック変性アクリルシリコーン樹脂は好適である。
【0035】
アクリルシリコーン樹脂エマルションとして、例えば、旭化成株式会社製「ポリデュレックスG‐624」が挙げられる。
【0036】
b)着色顔料
下塗り塗料は着色顔料を含む。着色顔料としては、例えば、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄(酸化第二鉄:ベンガラ)、フタロシアニンブルー、オーカー、群青、カーボンブラックなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。白色の下塗り塗料とする場合には、白色顔料としての酸化チタンを用いる場合が多い。
【0037】
下塗り塗料における着色顔料の配合量は、第一の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、20~200重量部である。
【0038】
着色顔料の配合量は、第一の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、好ましくは25~150重量部、より好ましくは30~120重量部、さらに好ましくは35~90重量部、最も好ましくは40~80重量部である。
【0039】
c)体質顔料
下塗り塗料は平均粒子径1~100μmの体質顔料を含む。体質顔料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、珪藻土、含水微粉珪酸、タルク、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、シリカ粉、水酸化アルミニウムを用いることができる。
【0040】
下塗り塗料における体質顔料の配合量は、第一の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、50~800重量部である。
【0041】
下塗り塗料における体質顔料の含有量は、第一の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、好ましくは200~700重量部、より好ましくは300~600重量部、さらに好ましくは350~550重量部、最も好ましくは400~500重量部である。
【0042】
また、下塗り塗料における体質顔料の平均粒子径は、好ましくは1~60μm、より好ましくは5~50μm、さらに好ましくは10~30μm、最も好ましくは15~25μmである。
【0043】
第一の水系エマルション樹脂、着色顔料および体質顔料を混合攪拌して下塗り塗料を得ることができる。このとき、必要に応じて、骨材や各種添加剤など(例えば、界面活性剤、防腐剤、増粘剤)を加えることができる。
【0044】
2.下塗り塗料の塗布方法など
下塗り塗料が塗布される被塗装面は特に限定されない。例えば、建築物の外壁や内壁に塗布することができる。被塗装面の材質も、特に限定されない。例えば、磁器、タイル、コンクリート、ALCパネル、モルタル、サイディングボード、押出成形板、石膏ボード、及びプラスティックボードを用いることができる。
また、新築された建造物の被塗装面だけでなく、既存の建造物の被塗装面を塗り替える際にも用いることができる。
【0045】
被塗装面の表面に下塗り塗料を塗布する方法は特に限定されない。例えば、吹き付け塗装やローラー塗装で塗布することができる。下塗り塗料を塗布した後、塗料が乾燥しないうちに、コテなどを用いて表面を平滑に押えることができる。下塗り塗料を塗布などした後、乾燥させて成膜する。成膜後は、一日程度の養生期間を設けることが好ましい。
【0046】
成膜された下塗り塗膜は、第一の水系エマルション樹脂の乾燥物(固形分)である第一の樹脂100重量部に対して、着色顔料を20~200重量部、平均粒子径1~100μmの体質顔料を50~800重量部含んでいる。
以下、次工程の上塗り塗膜成膜工程について説明する。
【0047】
[上塗り塗膜成膜工程]
上塗り塗膜成膜工程は、前記下塗り塗膜成膜工程によって成膜された下塗り塗膜の表面に、上塗り塗料を塗布して成膜する工程である。まず、本工程で用いる上塗り塗料から説明する。
【0048】
1.上塗り塗料
上塗り塗料は、第二の水系エマルション樹脂と、骨材と、着色ゲル粒子と、を含む。以下、各材料について詳説する。
なお、上塗り塗料に含まれる各材料の含有量に関して、第二の水系エマルション樹脂の固形分100重量部を基準としたものについては、上塗り塗膜についても同様の含有量であり、このとき「第二の水系エマルション樹脂の固形分100重量部」を「第二の樹脂100重量部」と読み替える。
【0049】
a)第二の水系エマルション樹脂
上塗り塗料の樹脂成分も、下塗り塗料と同様、水系エマルション樹脂である。
第二の水系エマルション樹脂の樹脂成分は、特に限定されない。なかでも、下塗り塗料と同様、耐候性の面から、アクリル樹脂、特にアクリルシリコーン系樹脂を用いることが好ましい。例えば、アクリルシリコーン樹脂やセラミック変性アクリルシリコーン樹脂は好適である。
【0050】
上塗り塗料の樹脂成分である第二の水系エマルション樹脂として、下塗り塗料の樹脂成分である第一の水系エマルション樹脂と同じ樹脂を用いることができる。
【0051】
b)骨材
また、上塗り塗料は骨材を含む。骨材としては、例えば、寒水石、珪砂、炭酸カルシウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでも、リシン調の塗膜を形成するためには炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0052】
上塗り塗料における骨材の平均粒子径は、好ましくは100~500μm、より好ましくは150~400μm、さらに好ましくは200~350μm、最も好ましくは250~300μmである。
【0053】
上塗り塗料における骨材の配合量は、第二の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、200~1200重量部である。
【0054】
上塗り塗料における骨材の配合量は、第二の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、好ましくは400~1150重量部、より好ましくは500~1100重量部、さらに好ましくは600~1050重量部、最も好ましくは700~1000重量部である。
【0055】
c)着色ゲル粒子
また、上塗り塗料は着色ゲル粒子を含む。従来のリシン調塗料は着色顔料を含むのであるが、本発明においては着色顔料ではなく着色ゲル粒子を含むことで耐候性が確保されるのである。
着色ゲル粒子は、第三の水系エマルション樹脂と、着色顔料と、ハイドロゲルと、からなるものが好ましい。
着色ゲル粒子は、例えば、第三の水系エマルション樹脂、着色顔料およびハイドロゲル構成材(ゲル主原料)を含有するエマルション組成物(着色ゲル原料組成物と称する)を、ハイドロゲル不溶化剤(ゲル化剤)を含む水溶液に添加することで得ることができる。
【0056】
ここで、着色ゲル粒子における"粒体"には、球状、円板状、或いはそれに類似した形のものを含む。円板状 には、真円形、楕円形などの形状を有する板状物のみならず、これらに類似した形状の板状物、例えば円形に近い不定形の円板状に類似した形も含む。例えば、フレーク状のものも、「円板状の粒体」に含まれるものとする。円板状の粒体には、種々の厚さのものが含まれる。
【0057】
上塗り塗料における着色ゲル粒子の配合量は、第二の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、好ましくは75~600重量部、より好ましくは100~500重量部、さらに好ましくは150~400重量部、最も好ましくは200~300重量部である。
なお、上塗り塗膜における、着色ゲル粒子の乾燥物(固形分)の含有量については後述する。
【0058】
以下、着色ゲル粒子を構成する各材料について例示説明する。
なお、着色ゲル粒子に含まれる各材料の含有量に関して、第三の水系エマルション樹脂の固形分100重量部を基準としたものについては、着色ゲル粒子の乾燥物(固形分)についても同様の含有量であり、このとき「第三の水系エマルション樹脂の固形分100重量部」を「第三の樹脂100重量部」と読み替える。
【0059】
i.第三の水系エマルション樹脂
着色ゲル粒子は水系エマルション樹脂(第三の水系エマルション樹脂)を含む。
【0060】
第三の水系エマルション樹脂の樹脂成分は、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、エチレン‐アクリル樹脂、酢酸ビニル‐アクリル樹脂、スチレン‐アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ウレタン‐アクリル樹脂、シリコン‐アクリル樹脂等公知の合成樹脂を用いることができる。なかでも、耐候性の面から、アクリル樹脂、特にアクリルシリコーン系樹脂を用いることが好ましい。例えば、アクリルシリコーン樹脂やセラミック変性アクリルシリコーン樹脂は好適である。
【0061】
アクリルシリコーン樹脂エマルションとして、例えば、旭化成株式会社製「ポリデュレックスG‐625」が挙げられる。
【0062】
ii.着色顔料
着色ゲル粒子は着色顔料を含む。着色顔料としては、例えば、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄(酸化第二鉄:ベンガラ)、フタロシアニンブルー、オーカー、群青、カーボンブラックなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
着色ゲル粒子における着色顔料の含有量は、第三の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、好ましくは50~250重量部、より好ましくは100~200重量部である。
【0064】
iii.ハイドロゲル
ハイドロゲルは、ハイドロゲル形成物質に水が保持されてゲルを形成している構造を有する。ハイドロゲル形成物質は、ゲル中の水を保持するためのネットワーク構造を形成してゲル化作用を発現する化合物であり、ネットワーク構造の主要部となるハイドロゲル構成材(ゲル主原料)と、ネットワーク構造の継ぎ手部となるハイドロゲル不溶化剤(ゲル化剤)とが反応又は結合して形成される。
【0065】
ハイドロゲル構成材(ゲル主原料)は、ハイドロゲルを形成できるものであれば特に限定されず、有機化合物であっても無機化合物であってもよく、両者を混合して使用してもよい。
【0066】
有機化合物としては水酸基含有有機高分子が好ましい。例えば、ポリビニルアルコール、グアーガム、カラギーナン、キサンタンガム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、及びこれらの誘導体等を用いることができる。なかでも、樹脂等が良好に分散され、安定性に優れるハイドロゲルが得られる点で、ポリビニルアルコール、グアーガム、グアーガム誘導体(ヒドロキシプロピル化等の変性)が好ましい。
【0067】
無機化合物としては、水膨潤性ケイ酸塩化合物が好ましい。例えば、ヘクトライト、モンモリロナイト、ベントナイト、アタパルジャイト等の水膨潤性粘土鉱物を用いることができる。これらの水膨潤性ケイ酸塩化合物は、天然物である鉱物は勿論のこと、合成物であってもよい。
【0068】
ゲル主原料と反応又は結合して、ネットワーク構造の継ぎ手部となるハイドロゲル不溶化剤(ゲル化剤)としては、リン酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩等を用いることができる。水に溶解し難い良好なハイドロゲルを形成できる点で、リン酸塩及びホウ酸塩が好ましい。ゲル主原料がヘクトライト等の水膨潤性ケイ酸塩化合物の場合はリン酸塩が特に好ましく、ゲル主原料がポリビニルアルコール、グアーガム等の水酸基含有有機高分子の場合はホウ酸塩が特に好ましい。水中で安定なハイドロゲルを形成できるからである。
リン酸塩としては、ピロリン酸ナトリウム等のリン酸ナトリウム類、ピロリン酸カリウム等のリン酸カリウム類などを用いることができ、ホウ酸塩としては五ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウム類、ホウ砂などを例示できる。
【0069】
ハイドロゲル構成材(ゲル主原料)とハイドロゲル不溶化剤(ゲル化剤)が反応又は結合し、ハイドロゲル形成物質によるネットワーク構造を形成するとき、両者が単に付加等、加算的に結合してもよく、脱水等、それらの一部の原子が脱離して結合する縮合であってもよい。
なお、ハイドロゲルについてゲル主原料とゲル化剤によるネットワーク構造で説明したが、ハイドロゲルであれば、ネットワーク構造形成とは異なる作用によるゲル形成であってもよい。
【0070】
iiii.着色ゲル粒子の製造方法
次に、着色ゲル粒子の製造方法を例示説明する。まず、第三の水系エマルション樹脂、着色顔料、ハイドロゲル構成材(ゲル主原料)、および所望により体質顔料などの任意成分を添加して均一に分散等するまで撹拌して着色ゲル原料組成物を調製する。
【0071】
着色ゲル原料組成物中における第三の水系エマルション樹脂の含有量は、樹脂固形分ベースで、好ましくは3~45重量%、より好ましくは5~30重量%、さらに好ましくは10~25重量%、最も好ましくは15~20重量%である。
【0072】
着色ゲル原料組成物中における着色顔料の含有量は、好ましくは5~50重量%、より好ましくは10~45重量%、さらに好ましくは15~40重量%、最も好ましくは20~35重量%である。
【0073】
着色ゲル原料組成物中のハイドロゲル構成材の含有量は、第三の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、好ましくは固形分で10~70重量部、さらに好ましくは固形分で15~50重量部、最も好ましくは固形分で20~30重量部である。このような範囲であれば柔軟性に優れた着色ゲル粒子となり、後述するような上塗り塗料骨材配合工程において骨材を配合攪拌する際に、着色ゲル粒子が細かく潰れにくくなる。
【0074】
つづいて、得られた着色ゲル原料組成物を、ハイドロゲル不溶化剤(ゲル化剤)を含む水溶液に添加する。このとき、ハイドロゲル不溶化剤(ゲル化剤)を含む水溶液を攪拌しながらエマルション組成物を徐々に添加し、その後も、しばらく攪拌を続けることが好ましい。
【0075】
ハイドロゲル不溶化剤(ゲル化剤)の水溶液中濃度は、好ましくは0.05~0.5重量%、より好ましくは0.1~0、4重量%、さらに好ましくは0.2~0.3重量%である。
【0076】
撹拌時間は、ハイドロゲルが形成され、ハイドロゲル中に着色顔料が均一に分散した着色ゲル粒子が得られれば特に制限はなく、通常は数分間~2時間程度でよい。また、攪拌時間などによって着色ゲル粒子の大きさが変わってくるところ、1~8mm程度の大きさになるように攪拌することが好ましい。着色ゲル粒子の大きさは、より好ましくは2~6mm、さらに好ましくは3~5mmである。
【0077】
撹拌終了後、安定したゲルを形成させるため、室温下に1時間以上、好ましくは5時間以上静置することが望ましい。形成されるゲルが平衡状態に達する点で、静置時間の上限としては通常24時間程度である。
上記製造方法によって、ネットワーク構造等を有するゲル形成物質が形成され、樹脂等が分散された水が、当該ネットワーク構造等に保持されて着色ゲル粒子が得られる。
【0078】
d)アクリルビーズ
また、上塗り塗料はアクリルビーズを含むことが好ましい。アクリルビーズの配合量は、第二の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、好ましくは10~80重量部、より好ましくは20~60重量部、さらに好ましくは30~50重量部、最も好ましくは35~45重量部である。
【0079】
アクリルビーズの粒子径は特に制限されないが、平均粒子径が好ましくは3~50μm、より好ましくは5~40μm、さらに好ましくは10~30μm、最も好ましくは15~25μmである。
【0080】
アクリルビーズとしては、例えば、積水化成品工業株式会社製「テクポリマーMBX‐20」を挙げることができる。
【0081】
第二の水系エマルション樹脂、骨材、着色ゲル粒子を混合攪拌して上塗り塗料を得ることができる。このとき、一色の着色ゲル粒子を用いることや、2色以上の着色ゲル粒子を用いることができる。着色ゲル粒子の色はこれに含まれる着色顔料の色などによって決まる。
また、上記アクリルビーズを混合攪拌することが好ましい。
さらに、必要に応じて、各種添加剤など(例えば、界面活性剤、防腐剤、増粘剤)を加えることができる。
【0082】
2.上塗り塗料の塗布方法など
前記下塗り塗膜成膜工程で成膜された下塗り塗膜の表面に上塗り塗料を塗布する方法は特に限定されない。例えば、吹き付け塗装やローラー塗装で塗布することができる。上塗り塗料を塗布などした後、乾燥させて成膜する。
【0083】
上塗り塗料を成膜して得られた上塗り塗膜は、第二の水系エマルション樹脂の乾燥物(固形分)である第二の樹脂100重量部に対して、骨材を200~1200重量部、着色ゲル粒子の乾燥物(固形分)を30~500重量部、含んでいる。
第二の樹脂100重量部に対して、着色ゲル粒子の乾燥物を30~500重量部含んでいることによって、骨材リッチな配合であっても、耐候性が大幅に改善する。上塗り塗膜における着色ゲル粒子の乾燥物の含有量は、第二の樹脂100重量部に対して、好ましくは45~400重量部、より好ましくは60~310重量部、さらに好ましくは90~250重量部、最も好ましくは120~190重量部である。
【0084】
また、上塗り塗膜に含まれる着色ゲル粒子の乾燥物は、第三の水系エマルション樹脂の乾燥物(固形分)である第三の樹脂100重量部に対して、ハイドロゲルの乾燥物を5~90重量部含んでいる。着色ゲル粒子の乾燥物は、第三の樹脂100重量部に対して、ハイドロゲルの乾燥物を好ましくは10~70重量部、より好ましくは15~50重量部、最も好ましくは20~30重量部含んでいる。
ここで、上塗り塗膜における、第三の樹脂100重量部に対するハイドロゲルの乾燥物の含有量は、着色ゲル原料組成物における、第三の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対するハイドロゲル構成材の含有量と概ね等しい。
【0085】
[上塗り塗料骨材配合工程]
前記上塗り塗膜成膜工程の前に、上塗りベース塗料に、骨材と、水性分散媒と、を混合撹拌して上塗り塗料とする上塗り塗料骨材配合工程を設けてもよい。
以下、上塗り塗料骨材配合工程について例示説明する。
【0086】
上塗り塗料骨材配合工程は、上塗り塗膜成膜工程の前の任意工程であり、上塗りベース塗料に、骨材と、水性分散媒と、を混合撹拌して上塗り塗料とする工程である。
上塗り塗料骨材配合工程は、塗布現場などにおいて、通常は下塗り塗膜成膜工程の後に行われるが、下塗り塗膜成膜工程の前に行うこともできる。
【0087】
上塗り塗料骨材配合工程で用いる上塗りベース塗料は、上塗り塗料のベースとなる塗料であって骨材を含有していない塗料である。また、上塗りベース塗料は、骨材を含有していないため、水性分散媒の量が上塗り塗料よりも大幅に少ない。
【0088】
上塗り塗料骨材配合工程では、このような上塗りベース塗料に、骨材と、水性分散媒と、を混合撹拌して上塗り塗料とするのである。
すなわち、塗布現場などで、上塗りベース塗料に骨材と水性分散媒(水)を混合攪拌することによって、トータルでのコストダウンを図ることができるのである。
【0089】
上塗り塗料骨材配合工程では、上塗りベース塗料に骨材を混合攪拌(強撹拌)する際、上塗りベース塗料に含まれる着色ゲル粒子が破壊されてしまい、意匠性が低下する場合があった。
しかしながら、前述したように、着色ゲル粒子の製造に用いられる着色ゲル原料組成物中のハイドロゲル構成材の含有量を、第三の水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して、好ましくは固形分で10~70重量部、さらに好ましくは固形分で15~50重量部、最も好ましくは固形分で20~30重量部とすることで、着色ゲル粒子が潰れすぎにくくなり、良好な意匠性を確保可能となるのである。
【0090】
以上例示説明したような、下塗り塗膜成膜工程と、上塗り塗膜成膜工程と、(場合によっては上塗り塗料骨材配合工程と、)を経て、外壁などの被塗装面の表面にリシン調積層塗膜が形成されるのである。
【実施例0091】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中、量比などは重量に基づく値である。
【0092】
(実施例1)
i)下塗り塗料
第一の水系エマルション樹脂としてアクリル樹脂エマルションの「ポリトロンZ332」(旭化成株式会社製)、着色顔料として白色顔料であるJR‐901(テイカ株式会社製)、体質顔料として平均粒子径22μmの炭酸カルシウムであるホワイトンH(白石カルシウム株式会社製)を用い、下記表1の配合表に基づき、下塗り塗料を作成した。
なお、下塗り塗料には、上記材料のほか、水、界面活性剤および防腐剤などの添加剤を加えており、下塗り塗料全体に対する第一の水系エマルション樹脂の固形分は、概ね9~12重量%とした。
【0093】
ii)上塗り塗料
上塗り塗料に用いる着色ゲル粒子は、第三の水系エマルション樹脂としてアクリル樹脂エマルションの「ポリトロンZ332」(旭化成株式会社製)、着色顔料として白色顔料であるJR‐603(テイカ株式会社製)、体質顔料として炭酸カルシウムであるホワイトン305(白石カルシウム株式会社製)、ハイドロゲル構成材としてPVAの「エルバノール」(株式会社クラレ製)とケイ酸塩化合物の「ラポナイトRD」(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を用いて下記表2の配合表に基づき得られた着色ゲル原料組成物を、ハイドロゲル不溶化剤(ゲル化剤)としての四ホウ酸ナトリウム水溶液(0.0026%)を撹拌しながら徐々に添加することで得た。撹拌時間を調節して直径が概ね4mm程度の着色ゲル粒子を得た。
そして、得られた着色ゲル粒子、第二の水系エマルション樹脂としてアクリルシリコーン樹脂エマルションの「ポリデュレックスG‐625」(旭化成株式会社製)、骨材として平均粒子径270μmの炭酸カルシウムであるK1(三共製粉株式会社製)を用い、下記表1の配合表に基づき、上塗り塗料を作成した。
なお、上塗り塗料には、上記材料のほか、アクリルビーズとしてテクポリマーMBX‐20(積水化成品工業株式会社)を水系エマルション樹脂の固形分100重量部に対して42重量部配合するとともに、水、消泡剤、増粘剤、造膜助剤などの添加剤を加えており、下塗り塗料全体に対する第二の水系エマルション樹脂の固形分は、概ね4~7重量%とした。
【0094】
iii)リシン調積層塗膜の形成
建物外壁のALCパネルを被塗装面とし、この被塗装面に下塗り塗料を、吹き付け塗装した。塗布量は、概ね1.0kg/m2とした。塗装後、塗料が乾燥しないうちに、ローラーを用いて表面を平滑に均した。その後、乾燥させて成膜し、一日程度の養生期間を設けて下塗り塗膜を得た。
得られた下塗り塗膜の表面に前記上塗り塗料を、吹き付け塗装した。塗布量は、概ね0.5kg/m2とした。その後、乾燥させて成膜し、下塗り塗膜および上塗り塗膜からなるリシン調積層塗膜を得た。
【0095】
上記実施例のリシン調積層塗膜について、下塗り作業性、上塗り作業性、外観、下地追従性、防水性、および耐候性を評価した。評価方法は下記の通りである。
【0096】
1)下塗り作業性
下塗り作業性は、ALC塗装時のピンホールの埋まり具合で評価した。具体的には、下塗り作業を複数人で確認評価し、非常に良好な場合を◎、良好な場合を○、良好でない場合を×と評価した。
2)上塗り作業性
上塗り作業性は、吹き付け塗装時の塗装器具の詰まりの程度で評価した。具体的には、万能ガンふくべー(大塚刷毛製造株式会社製:ノズル口径5.5mm)を用いて上塗り作業を複数人で確認評価し、塗装器具の詰まりが殆ど生じない場合を◎、塗装器具の詰まりが生じにくい場合を○、塗装器具の詰まりが生じやすい場合を×と評価した。
3)外観
外観は、ALC塗装時における仕上がり外観を、一般的なリシン調塗膜と比較して複数人で評価し、一般的なリシン調塗膜と同等以上の場合を◎、一般的なリシン調塗膜とほぼ同等の場合を○、一般的なリシン調塗膜よりも劣る場合を×と評価した。
4)下地追従性
下地追従性は、JIS A6909の耐衝撃性試験を行って評価した。耐衝撃試験後の塗膜の状態を複数人で確認して評価した。
5)防水性
JIS A6909の透水試験B法を用いて評価した。24時間後の透水量が0.5ml以下を合格とした。
6)耐候性
JIS A6909の耐候性試験B法、耐候形1種で評価した。色調は全て日塗工色表番号「J19‐60C」に合わせた。
【0097】
【0098】
【0099】
実施例1について、下塗り作業性、上塗り作業性、外観、下地追従性、防水性、および耐候性の六つの評価全てにおいて、非常に良好な結果が得られた。
【0100】
なお、実施例1の上塗り塗料において、着色ゲル粒子の配合量が第二のアクリル樹脂エマルションの固形分100重量部に対して250重量部であったが、これは、上塗り塗膜の状態においては、第二のアクリル樹脂エマルションの乾燥物である第二のアクリル樹脂100重量部に対して着色ゲル粒子の乾燥物が155重量部に相当した。
【0101】
(実施例2)~(実施例5)
実施例2から実施例5は、実施例1において下塗り塗料における各配合材料(着色原料と体質顔料)それぞれの配合量を変化させた例である。本実施例においても、上記六つの評価全てにおいて、非常に良好又は良好な結果が得られた。
【0102】
(実施例6)~(実施例9)
実施例6から実施例9は、実施例1において上塗り塗料における各配合材料(骨材と着色ゲル粒子)それぞれの配合量を変化させた例である。本実施例においても、上記六つの評価全てにおいて、非常に良好又は良好な結果が得られた。
【0103】
なお、実施例1から、下塗り塗料について、着色顔料(第一のアクリル樹脂エマルション100重量部に対して60重量部)を20重量部及び200重量部とした二配合のそれぞれ、体質顔料(第一のアクリル樹脂エマルション100重量部に対して440重量部)を50重量部及び800重量部とした二配合のそれぞれについて上記六つの評価を行ったところ、四配合いずれも良好であった。同様に、実施例1から、上塗り塗料について、骨材(第二のアクリル樹脂エマルション100重量部に対して900重量部)を200重量部及び1200重量部とした二配合のそれぞれ、着色ゲル粒子(第二のアクリル樹脂エマルション100重量部に対して250重量部)を50重量部及び800重量部とした二配合のそれぞれについても上記六つの評価を行ったところ、四配合いずれも良好であった。
また、実施例1および実施例6~9において、上塗り塗膜成膜工程の前に、上塗り塗料のベースとなる塗料であって骨材を含有していない上塗りベース塗料に、骨材と、水性分散媒と、を混合撹拌して上塗り塗料とする上塗り塗料骨材配合工程を実施したところ、いずれの実施例においても着色ゲル粒子が均一に分散し優れた意匠性(外観)を確保することができた。また、表2のハイドロゲル構成材の配合量を、第三のアクリルエマルション樹脂100重量部に対して固形分で80重量部とした着色ゲル原料組成物を用いて着色ゲルを作成し、この着色ゲルを用いて同様の評価を行った場合も同様の結果が得られた。しかし、表2のハイドロゲル構成材の配合量を、第三のアクリルエマルション樹脂100重量部に対して固形分で100重量部とした着色ゲル原料組成物を用いて着色ゲルを作成し、この着色ゲルを用いて同様の評価を行ったところ、上塗り塗料骨材配合工程で、着色ゲル粒子が固くなってしまい、塗膜に隙間が多くなって、不均一となり意匠性(外観)および耐候性が悪化した。
【0104】
なお、実施例8の上塗り塗料において、着色ゲル粒子の配合量が第二のアクリル樹脂エマルションの固形分100重量部に対して75重量部であったが、これは、上塗り塗膜の状態においては、第二のアクリル樹脂エマルションの乾燥物である第二のアクリル樹脂100重量部に対して着色ゲル粒子の乾燥物が47重量部に相当した。
また、実施例9の上塗り塗料において、着色ゲル粒子の配合量が第二のアクリル樹脂エマルションの固形分100重量部に対して600重量部であったが、これは、上塗り塗膜の状態においては、第二のアクリル樹脂エマルションの乾燥物である第二のアクリル樹脂100重量部に対して着色ゲル粒子の乾燥物が373重量部に相当した。
【0105】
(比較例1)
比較例1は、実施例1において下塗り塗料における着色顔料の量をかなり減少させた例であり、外観が悪化した。そのため、下地追従性、防水性および耐候性は評価していない。
【0106】
(比較例2)
比較例2は、実施例1において下塗り塗料における着色顔料の量をかなり増加させた例であり、耐候性が悪化した。
【0107】
(比較例3)
比較例3は、実施例1において下塗り塗料における体質顔料の量をかなり減少させた例であり、下塗り作業性が悪化した。そのため、下地追従性、防水性および耐候性は評価していない。
【0108】
(比較例4)
比較例4は、実施例1において下塗り塗料における体質顔料の量をかなり増加させた例であり、下地追従性と防水性が悪化した。そのため、耐候性は評価していない。
【0109】
(比較例5)
比較例5は、実施例1において上塗り塗料における骨材の量をかなり減少させた例であり、外観が悪化した。そのため、下地追従性、防水性および耐候性は評価していない。
【0110】
(比較例6)
比較例6は、実施例1において上塗り塗料における骨材の量をかなり増加させた例であり、上塗り作業性が悪化した。そのため、下地追従性、防水性および耐候性は評価していない。
【0111】
(比較例7)
比較例7は、実施例1において上塗り塗料における着色ゲル粒子の量をかなり減少させた例であり、外観が悪化した。そのため、下地追従性、防水性および耐候性は評価していない。
なお、比較例7の上塗り塗料において、着色ゲル粒子の配合量が第二のアクリル樹脂エマルションの固形分100重量部に対して40重量部であったが、これは、上塗り塗膜の状態においては、第二のアクリル樹脂エマルションの乾燥物である第二のアクリル樹脂100重量部に対して着色ゲル粒子の乾燥物が25重量部に相当した。
【0112】
(比較例8)
比較例8は、実施例1において上塗り塗料における着色ゲル粒子の量をかなり増加させた例であり、下地追従性と防水性が悪化した。そのため、耐候性は評価していない。
なお、比較例8の上塗り塗料において、着色ゲル粒子の配合量が第二のアクリル樹脂エマルションの固形分100重量部に対して900重量部であったが、これは、上塗り塗膜の状態においては、第二のアクリル樹脂エマルションの乾燥物である第二のアクリル樹脂100重量部に対して着色ゲル粒子の乾燥物が559重量部に相当した。
【0113】
(比較例9)
比較例9は、実施例1において着色ゲル粒子の代わりに着色顔料(着色ゲル粒子に含まれる着色顔料と概ね同量)を配合した例であり、耐候性が悪化した。実施例1と本比較例の対比によって、骨材リッチな上塗り塗料に対して、着色顔料でなく着色ゲル粒子を配合することにより耐候性が大幅に改善することが理解できる。
【0114】
(比較例10)
比較例10は、一般的なリシン塗料である。下地追従性、防水性および耐候性に課題があるといえる。
【0115】
以上、特定の実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態などに限定されるものではなく、当該技術分野における熟練者等により、本出願の願書に添付された特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変更及び修正が可能である。