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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024524
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】抗菌消毒性担持体及びその製造法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/12 20060101AFI20220202BHJP
   A01N 25/08 20060101ALI20220202BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220202BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
A01N59/12
A01N25/08
A01P3/00
A01P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127168
(22)【出願日】2020-07-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)2020年1月21日 日本経済新聞 令和2年1月21日付電子版にて公開した (2)2020年1月22日 日本経済新聞 令和2年1月22日付朝刊、第31面(北関東経済)にて公開した (3)2020年2月21日 日本農業新聞 令和2年2月21日付第9面にて公開した
(71)【出願人】
【識別番号】000126609
【氏名又は名称】株式会社エーアンドエーマテリアル
(71)【出願人】
【識別番号】000140627
【氏名又は名称】株式会社化研
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 孝一
(72)【発明者】
【氏名】蓼沼 克嘉
(72)【発明者】
【氏名】木名瀬 欽章
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011AA04
4H011BA01
4H011BB18
4H011BC18
4H011DF03
4H011DG16
(57)【要約】
【課題】抗菌、抗ウイルス作用に優れたヨウ素担持材料を提供すること
【解決手段】無機ヨウ素化合物が火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体に担持された抗菌消毒性担持体であって、前記抗菌消毒性担持体がpH2~5で、酸化還元電位が酸化状態にあり、かさ密度0.4~1.5であることを特徴とする抗菌消毒性担持体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ヨウ素化合物が火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体に担持された抗菌消毒性担持体であって、前記抗菌消毒性担持体がpH2~5で、酸化還元電位が酸化状態にあり、かさ密度0.4~1.5であることを特徴とする抗菌消毒性担持体。
【請求項2】
酸化還元電位が+300mV~+800mVである請求項1記載の抗菌消毒性担持体。
【請求項3】
前記火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体が、pH4~7、酸化還元電位+100mV~+400mV、かさ密度0.4~1.5の火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体である請求項1又は2記載の抗菌消毒性担持体。
【請求項4】
前記火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体が、軽石、軽石粉砕物、軽石又は軽石粉砕物の成形体、軽石又は軽石粉砕物の充填体から選ばれるものである請求項1~3のいずれか1項記載の抗菌消毒性担持体。
【請求項5】
前記無機ヨウ素化合物が、担持体中でヨウ素、三ヨウ化物イオン、ヨウ素酸イオン及び過ヨウ素酸イオンから選ばれる1種又は2種以上の状態で存在する請求項1~4のいずれか1項記載の抗菌消毒性担持体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の抗菌消毒性担持体の製造法であって、火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体に、前記無機ヨウ素化合物を担持させることを特徴とする抗菌消毒性担持体の製造法。
【請求項7】
前記無機ヨウ素化合物が、ヨウ素酸及びヨウ素酸塩から選ばれる1種又は2種以上である請求項6記載の抗菌消毒性担持体の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗菌、抗ウイルス作用などを有するヨウ素系抗菌消毒性担持体及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素は、体内で甲状腺ホルモンを合成するのに必要であり、ヒトにとって必須元素である。一方、ヨウ素及びヨウ素化合物は、殺菌作用、抗ウイルス作用を有し、消毒薬として用いられている。例えば、ヨウ素のアルコール溶液、ヨウ素とヨウ化カリウムのグリセリン溶液、ヨウ素とポリビニルピロリドンの錯化合物は、消毒液として広く用いられている。
また、ヨウ素のオキソ酸であるヨウ素酸(HIO)も抗菌、抗ウイルス作用を有することから殺菌剤として使用されており、例えば塩化ヨウ素水溶液に塩酸及び硝酸を添加して、ヨウ素イオンとヨウ素酸を含有する殺菌洗浄剤組成物も報告されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、ヨウ素は、元素状ヨウ素やヨウ素酸の状態であれば殺菌力は保持されるが、水中で拡散すればその殺菌力は減損されてしまうため、鳥インフルエンザウイルス対策など長期間にわたり効果を持続させることができなかった。
そこで、本出願人らは、ヨウ素が空気中又は水中に放出しないように活性炭や繊維など吸着性のある素材に担持させ、さらにヨウ素を担持させるときにヨウ素酸イオンが生成されないように酸性に調整したヨウ素担持素材(特許文献2)を報告した。また、素材が活性炭の粉末であると空気中又は水中に分散してしまうので、ケイ酸カルシウム等の素材の表層にヨウ素酸塩を形成することで抗菌・消臭機構が付与された材料(特許文献3)も報告した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3423971号公報
【特許文献2】特願2019-019044号
【特許文献3】特許第6644325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ケイ酸カルシウム等を含む水硬性無機材料は、常温・常圧で水と反応して硬化する材料であるが、(弱)アルカリ性を示すものが多く、屋外散布後に酸性土壌、紫外線、気候変化などにより劣化が進行するなど耐久性が不十分であり、またヨウ素酸塩の形成に適した酸性の素材を常温・常圧で安価に作ることが難しいことから、安価で使い勝手が良く消毒効果の持続するヨウ素系抗菌消毒性担持体の開発が望まれていた。
したがって、本発明の目的は、優れた抗菌、抗ウイルス作用を有するヨウ素系抗菌消毒性担持体及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、無機ヨウ素系化合物を種々の材料に担持させて、その抗菌作用を検討してきたところ、火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体に無機ヨウ素化合物を担持させ、当該担持体のpH、酸化還元電位及びかさ密度を一定の範囲にすれば、抗菌活性が格段に向上すると共に広い環境における使用性も良好な材料になることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の[1]~[7]を提供するものである。
[1]無機ヨウ素化合物が火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体に担持された抗菌消毒性担持体であって、前記抗菌消毒性担持体がpH2~5で、酸化還元電位が酸化状態にあり、かさ密度0.4~1.5であることを特徴とする抗菌消毒性担持体。
[2]酸化還元電位が+300mV~+800mVである[1]記載の抗菌消毒性担持体。
[3]前記火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体が、pH4~7、酸化還元電位+100mV~+400mV、かさ密度0.4~1.5の火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体である[1]又は[2]記載の抗菌消毒性担持体。
[4]前記火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体が、軽石、軽石粉砕物、軽石又は軽石粉砕物の成形体、及び軽石又は軽石粉砕物の充填体から選ばれるものである[1]~[3]のいずれかに記載の抗菌消毒性担持体。
[5]前記無機ヨウ素化合物が、前記担持体中でヨウ素、三ヨウ化物イオン、ヨウ素酸イオン及び過ヨウ素酸イオンから選ばれる1種又は2種以上の状態で存在する[1]~[4]のいずれかに記載の抗菌消毒性担持体。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の抗菌消毒性担持体の製造法であって、前記火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体に、前記無機ヨウ素化合物を担持させることを特徴とする抗菌消毒性担持体の製造法。
[7]前記無機ヨウ素化合物が、ヨウ素酸及びヨウ素酸塩から選ばれる1種又は2種以上である[6]記載の抗菌消毒性担持体の製造法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗菌消毒性担持体は、pHが酸性側にあり、酸化還元電位が酸化状態にあることにより、ヨウ素やヨウ素酸塩を持続的に放出可能な状態で火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体に十分量担持されており、鳥インフルエンザ対策などの外部環境対策だけでなく抗菌消毒建材などとしても利用できる。
また火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体として硬い粒体を用いたとき、高い含水率でも未乾燥でも硬度が低下しないため、積載貯蔵、運搬、機械散布が可能であり、使い勝手が良い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】抗ウイルス作用を示す図である。
図2】日向土を用いた抗菌消毒性担持体の細菌阻止円(ハロー)結果を示す図である。
図3】鹿沼土を用いた抗菌消毒性担持体の細菌阻止円(ハロー)結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の抗菌消毒性担持体は、無機ヨウ素化合物が火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体に担持された抗菌消毒性担持体であって、前記抗菌消毒性担持体がpH2~5で、酸化還元電位が酸化状態にあり、かさ密度0.4~1.5であることを特徴とする。
【0011】
本発明の抗菌消毒性担持体のpHは、2~5であるのが好ましく、3~5がより好ましく、4~5が更に好ましい。pHがこの範囲にあることにより、安全性が高く、担持された無機ヨウ素化合物による高い抗菌活性が得られる。
【0012】
本発明の抗菌消毒性担持体に用いられる火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体のpHは2~7である。pHが2未満では、抗菌消毒性担持体の製造装置の金属部分が劣化し易くなる恐れがある。一方、前記特許文献3記載のケイ酸カルシウムのようにpHが7を超えると、担持された無機ヨウ素化合物の抗菌活性が低下する傾向にあり、好ましくない。
好ましいpHは、2~7であり、より好ましくは3~6であり、更に好ましくは4~6であり、より更に好ましくは4~5である。
ここで、pHは、抗菌消毒性担持体又はシリカ系無機多孔質体を室温で50mlの水に対して10g混合し、60分振とう処理した後の溶液を用いてpHメーターにより測定することができる。
【0013】
本発明の抗菌消毒性担持体の酸化還元電位は、酸化状態にある。当該酸化還元電位が酸化状態にあることにより、担持された無機ヨウ素化合物による優れた抗菌活性が得られる。この酸化還元電位が還元側にあると、担持された無機ヨウ素化合物による抗菌活性は低下する傾向にある。
好ましい酸化還元電位は、優れた抗菌活性を得る観点から+100mV~+800mVであり、+200mV~+800mVがより好ましく、+300mV~+800mVが更に好ましい。
【0014】
用いられるシリカ系無機多孔質体の酸化還元電位は、本発明抗菌消毒性担持体の酸化還元電位を酸化状態にし、当該担持体中に担持された無機ヨウ素化合物による優れた抗菌活性を得る点から、酸化側にあることが必要であり、好ましくは0mV~+400mVであり、より好ましくは+100mV~+400mVであり、更に好ましくは+200mV~+400mVである。この酸化還元電位が還元側にあると、担持された無機ヨウ素化合物による抗菌活性は低下する傾向にある。
シリカ系無機多孔質体の酸化還元電位は、無機ヨウ素化合物を担持させることにより、+100mV~+400mV程度、好ましくは+200mV~+400mV程度、より好ましくは+300mV~+400mV程度上昇する。
ここで、酸化還元電位は、室温で50mlの水に対して無機多孔質体又は抗菌消毒性担持体を10g混合し、60分間振とうした後の溶液を用いて酸化還元電位計により測定することができる。
【0015】
シリカ系無機多孔質体及び抗菌消毒性担持体のかさ密度は、担持体の抗菌活性、強度、原料及び製品の搬送や混合処理などに要する設備損耗負荷の軽減、生産及び運搬に掛かるエネルギーコストの削減、原料からの発塵防止、粒状形態で人力または動力散布を行う時の作業容易性の点から、0.4~1.5であるのが好ましく、0.55~1.5であるのがより好ましく、0.6~1.5であるのが更に好ましい。
ここで、無機多孔質体及び抗菌消毒性担持体のかさ密度は、当該多孔質体及び担持体が粒子や粉体の場合は、ゆるめかさ密度であり、成形体の場合は板状試験片のかさ密度である。
粉粒体におけるゆるめかさ密度は、500mlのメスシリンダーに当該多孔質体又は担持体を圧縮したり、揺すったり振動させたりしないように自重で充填して体積を求め、充填に用いた当該多孔質体又は担持体の重量を体積で除する方法により測定できる。
成形体におけるかさ密度は、JIS A 5430 8.5かさ密度試験に準拠した方法により測定できる。
【0016】
前記の性質を有する無機多孔質体としては、火山性鉱物由来のシリカ系無機物質であって、多孔質体である。ここで、特許文献3で用いられているケイ酸カルシウムは、シリカ系無機物であるが、前記のpH、酸化還元電位の点で、本発明のシリカ系無機多孔質体ではない。また、珪藻土は、かさ密度が0.1~0.2と小さい点で、本発明のシリカ系無機多孔質体ではない。
このような火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体の具体例としては、軽石、軽石粉砕物、軽石又は軽石粉砕物の成形体、及び軽石又は軽石粉砕物の充填体から選ばれるものが挙げられる。
【0017】
軽石とは、発泡して多孔質で主に白っぽい色を呈する火山砕屑岩であり、パミスとも呼ばれる。
軽石に含まれる鉱物としては、パミス、デイサイト、流紋岩、斜長石、紫蘇輝石、普通輝石、角閃石、石英、クリストバル石、燐灰石、珪長質岩、玄武岩、安山岩、黒雲母、斜方輝石、単斜輝石、黒曜石、磁鉄鉱、シラス、石英、カンラン石、火山ガラス、長石、スコリヤ、凝灰岩、含礫軽石凝灰岩、花崗岩、安山岩、石英安山岩、花崗閃緑岩、軽石火山礫凝灰岩、浮石、ハロイサイト、アロフェン、イモゴライト、ギプサイト、火山角礫岩、凝灰角礫岩、凝灰集塊岩、岩滓凝灰岩、はんれい岩、閃緑岩、斑岩、カリ長石、沸石、斧石、蛍石、ひん岩(ひんがん)、熔結凝灰岩、レティキュライト、酸性白土、珪石、珪華、蛇紋岩等が挙げられる。
従って、これらの鉱物を主成分とし、かつ前記のpH、酸化還元電位及びかさ密度を満たす多孔質の石又は岩石がすべて、本発明の軽石に含まれる。
【0018】
このような軽石の具体例としては、鹿沼土、今市土、宮土、アワ土(アワ砂)、日向土、蝦夷砂、富士砂、赤玉土、桐生砂、霧島御池ボラ、桜島大正ボラ、ボラ、コラ、灰石、バラス、ウズラ、ザレ、アカホヤ、クロボク、クロニガなどが挙げられる。
【0019】
これらの火山性鉱物は、降灰や造山活動により日本国土の広範囲にわたって堆積しているため、地表に近い地層から簡易な採掘設備を用いて容易に安定入手が可能である。また降灰物由来の火山性鉱物は、噴火と共に風選作用をうけているため、粒径が揃った鉱物を得やすい。さらに、海底や湖沼底において有機物が堆積して形成する泥岩などに比べ、火山性鉱物には有機物が少ないことから、ヨウ素系化合物の抗菌消毒作用を担持体の有機物で低下させ難い利点がある。
【0020】
前記シリカ系無機多孔質体には、軽石、軽石粉砕物、軽石又は軽石粉砕物の成形体、軽石又は軽石粉砕物の充填体が挙げられる。軽石粉砕物としては、前記軽石1種の粉砕物でもよいし、2種以上の軽石の粉砕物であってもよい。また、軽石又は軽石粉砕物の成形体及び軽石又は軽石粉砕物の充填体としては、建材として使用できる形状、例えば板状体、壁材、矩形ブロック体、4角錘台状の間知石、ペレット、球形、円筒状、立柱体、板状体に嵌合部を設けて複数組み合わせた立体形体、割石状、スポンジ状、円盤形状、櫛型、数珠形状、ガラスシートや金属シートあるいはプラスチックフィルムなどのシート状材料に多孔質体を片面または両面に固定したシート体、樹脂や金属の網で作られた袋に多孔質体を充填した充填体、開口部を持つ箱状容器に充填して開口部から多孔質体を露出させたパネル体、樹脂紐に多孔質体を定着させた紐状体、フレキシブルコンテナに多孔質体を充填して積み重ねて壁面や床面を形成する大型充填体などが挙げられる。
軽石や軽石粉砕物は、鳥インフルエンザ対策としての養鶏場の防疫などの外部環境に使用する場合に有用である。一方、板状体、壁材などの成形体は、建築物の防疫などに有用である。
【0021】
前記シリカ系無機多孔質体に担持される無機ヨウ素化合物としては、抗菌、抗ウイルス作用を有する無機ヨウ素化合物であれば、特に制限されない。具体的な無機ヨウ素化合物としては、ヨウ素、三ヨウ化物、ヨウ素酸、過ヨウ素酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、ヨウ素酸及びヨウ素酸塩から選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
本発明の抗菌消毒性担持体中において、これらの無機ヨウ素化合物は、ヨウ素、三ヨウ化物イオン、ヨウ素酸イオン及び過ヨウ素酸イオンから選ばれる1種又は2種以上の状態で存在するのが好ましい。
【0022】
これらの無機ヨウ素化合物の本発明抗菌消毒性担持体への担持量は、抗菌作用や抗ウイルス作用を示す量であればよく、特に制限されないが、抗菌消毒性担持体量に対して0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下が更に好ましい。
【0023】
本発明の抗菌消毒性担持体は、火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体に無機ヨウ素化合物を担持させることにより製造できる。より具体的には、前記シリカ系無機多孔質体に、溶媒に溶解又は分散させた無機ヨウ素化合物を混合、塗布、噴霧又は含浸により反応させることにより製造できる。
用いられる無機ヨウ素化合物としては、ヨウ素、三ヨウ化物、ヨウ素酸、過ヨウ素酸及びこれらの塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、ヨウ素酸及びヨウ素酸塩から選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
溶媒としては、水又は極性溶媒が好ましく、水がより好ましい。混合、塗布、噴霧又は含浸の操作は、常温(通常5~35℃)で行うのが好ましく、乾燥が必要な場合は、常温~120℃程度で行うのが好ましい。
用いられる無機ヨウ素化合物量は、前記の担持させる量を考慮して決定される。
【0024】
前記のようにして得られる本発明の抗菌消毒性担持体の中には、原料として用いるシリカ系無機多孔質体の特性に応じて、硬度が高いものと低いものが存在する。例えば、シリカ系無機多孔質体として日向土を用いた場合は、高い硬度を有する抗菌消毒性担持体粒子が得られる。一方、シリカ系無機多孔質体として鹿沼土を用いた場合は、硬度の低い抗菌消毒性担持体粒子が得られる。日向土を用いて得られた抗菌消毒性担持体は、そのまま又は成形体や充填体とすることにより、環境消毒用材料として使用可能である。一方、鹿沼土を用いて得られた抗菌消毒性担持体は、成形体や充填体とすることにより、建材などに使用可能である。ここで、高い硬度を有するシリカ系無機多孔質体の硬度は、20~70Nであるのが特に好ましい。なお、硬度は、粒子1粒をランダムに選び、圧縮荷重を加えて圧砕されたときの荷重値として求めることができる。
【0025】
本発明の担持体は、担持されている無機ヨウ素化合物の作用により、持続的に抗菌作用、抗ウイルス作用、防カビ作用を示す。図1に本発明の担持体による作用についての説明図を示す。
抗菌作用は、種々の細菌の増殖阻止又は静菌作用である。対象となる細菌としては、種々の病原性細菌が挙げられ、グラム陰性菌及びグラム陽性菌が含まれる。
抗ウイルス作用は、ウイルスの毒性を減弱させる作用(消毒作用)であり、対象となるウイルスとしては、インフルエンザウイルス、エイズウイルス、鳥インフルエンザウイルス、豚コレラウイルス、ウシコロナウイルス、ウシヘルペスウイルス、SARSウイルス、MERSウイルス、新型コロナウイルスを含むコロナウイルス、ニューカッスル病ウイルス、口蹄疫などが挙げられる。
防カビ作用は、種々のカビ、糸状菌の増殖阻止又は静菌作用である。防カビ作用によれば、壁材の防カビ作用により、カビの胞子に起因する喘息などのアレルギーの予防になる。
本発明における「消毒性」には、抗ウイルス作用及び防カビ作用が含まれる。
【0026】
本発明の抗菌消毒性担持体の使用形態としては、鳥インフルエンザ、豚コレラなどの外部環境の防疫の場合には、現在汎用されている消石灰に代えて、養鶏場、豚舎などの周辺に散布する方法が挙げられる。また、壁材などとして本発明の抗菌消毒性担持体を使用すれば、建築物、建築物の内部を種々の細菌、ウイルス、カビによる感染から防止することができる。
【実施例0027】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1(日向土へのヨウ素酸塩の担持)
粒子径2~4mmの日向土60gとヨウ素化合物水溶液20ml(濃度3%)を用いて、ガラス容器内で日向土を攪拌しながら、ヨウ素酸化合物水溶液を徐々に滴下することで、ヨウ素酸化合物水溶液が残ることなく均一に担持させた。得られた抗菌消毒性担持体は、担持前の粒状形態を保っていた。
【0029】
実施例2(鹿沼土へのヨウ素酸塩の担持)
実施例1と同様の方法で粒子径4~6mmの鹿沼土40gとヨウ素化合物水溶液(濃度3%)20mlを混合した。混合した鹿沼土は粒子とやや粘性のあるペースト状の混合物となった。この鹿沼土へヨウ素酸塩を担持した担持体は、篩にかけることにより、粒状物と粉を分けることができた。
【0030】
実施例1~2で用いたシリカ系無機多孔質体及び得られた担持体のpH、酸化還元電位及びかさ密度を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例3(本発明担持体の抗菌作用)
(方法)
実施例1~2に記載した抗菌消毒性担持体を用いて細菌阻止円(ハロー)試験を行った。抗菌消毒剤を担持した粒子を、大腸菌が接種された標準寒天培地に載置し、37℃で17時間培養して阻止円を観察した。
(結果)
結果を、図2図3に示す。
図2図3より、無機ヨウ素化合物を火山性鉱物由来のシリカ系無機多孔質体に担持させた担持体であって、pH2~5、酸化還元電位が酸化状態、かさ密度0.4~1.5である担持体は、優れた抗菌作用を示すことがわかる。
【0033】
実施例4(本発明担持体の抗ウイルス作用)
(方法)
実施例1~2に記載した抗菌消毒性担持体を用いて、抗ウイルス試験を行った。ウイルスとして、鳥インフルエンザウイルスA/swan/Shimane/499/83(H5N3)株を用いた。このウイルスを10日齢発育鶏卵の尿膜腔内に接種し、35℃にて2日間培養した後、尿膜腔液を採取してウイルス液とした。なお、ウイルス液は、50%発育鶏卵感染価(EID50)を算出し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)にて約107.5EID50/0.2mLに調製した。使用鶏卵は、SPF有精卵を孵卵させ、10日齢で試験に供した。
実施例1で作成した日向土の抗菌消毒担持体を、400mg測り採り、そこにそれぞれの重量の半量のウイルス液を混合して室温にて10分間反応させた。反応後、SCDLP(レシチン・ポリソルベート80加ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト)培地を加え、10倍希釈して反応を終了させた。そして、PBSにて10倍段階希釈し、希釈段階ごとに3個の10日齢発育鶏卵尿膜腔内に0.2mLずつ接種し、35℃で2日間培養した。培養後、尿膜腔液を採取し、0.5%鶏赤血球浮遊液と反応させ、赤血球の凝集によりウイルス増殖の有無を判定した。なお、残存ウイルス力価は、Reed and Muenchの方法によりEID50を算出した。
【0034】
(結果)
結果を、表2に示す。実施例1~2の抗菌消毒性担持体は、いずれも鳥インフルエンザウイルスに対して強い抗ウイルス作用を示した。
【表2】
【0035】
実施例5(本発明に用いる粒子の硬さ)
(方法)
株式会社藤原製作所社の木屋式デジタル硬度計KHT40Nを用いて、日向土、鹿沼土の粒子を60℃で24時間乾燥した乾燥状態と、飽水状態で測定した。硬度測定は、各原料の粒子1粒をランダムに選び、圧縮荷重を加えて圧砕されたときの荷重値を求めた。試験はn=20で行った。粒子が柔らかく、硬度計の荷重値が硬度計の下限値のままで初期の粒子の大きさから半分以下の厚みまで変形した場合は、測定不能とした。
(結果)
乾燥状態の日向土の平均硬度(耐荷重)は40.5N、最大56.3N、最小28.6Nであった。湿潤状態の日向土の平均硬度(耐荷重)は38.1N、最大48.7N、最小23.8Nであった。
鹿沼土については、乾燥状態及び湿潤状態のいずれについても測定不能となった。
【0036】
【表3】
図1
図2
図3