(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024772
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】二軸延伸ポリアミドフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20220202BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220202BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20220202BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K3/22
C08K3/34
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127553
(22)【出願日】2020-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】313016820
【氏名又は名称】興人フィルム&ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 里帆
(72)【発明者】
【氏名】高峯 翔
(72)【発明者】
【氏名】石川 誠
(72)【発明者】
【氏名】大山 敏勝
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA54
4F071AB18
4F071AB30
4F071AD06
4F071AF28
4F071AF30
4F071AH04
4F071BB09
4F071BC01
4F071BC12
4J002CL001
4J002CL011
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE096
4J002DJ007
4J002DJ017
4J002DJ037
4J002DJ047
4J002FB087
(57)【要約】
【課題】フィルム製造時や加工時にモノマーの生成量が少なく、かつ高湿度下の滑り性及び透明性に優れたポリアミドフィルムを形成可能なポリアミド樹脂組成物から得られる二軸延伸ポリアミドフィルムの提供。
【解決手段】ポリアミド樹脂と高アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子とを特定量含むポリアミド樹脂組成物から形成された二軸延伸ポリアミドフィルム、並びに、ポリアミド樹脂と高アスペクト比の不活性無機粒子と低アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子とを特定量含むポリアミド樹脂組成物から形成された二軸延伸ポリアミドフィルムを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂と、平均アスペクト比が20~100のアルカリ土類金属化合物粒子とを、該ポリアミド樹脂100質量部:該粒子0.10質量部超0.50質量部以下の比にて含むポリアミド樹脂組成物から形成された二軸延伸ポリアミドフィルム。
【請求項2】
ポリアミド樹脂と、平均アスペクト比が1~10のアルカリ土類金属化合物粒子と、平均アスペクト比が15~100の不活性無機粒子とを、該ポリアミド樹脂100質量部:該アルカリ土類金属化合物粒子0.03~0.15質量部:該不活性無機粒子0.05~1.00質量部の比にて含むポリアミド樹脂組成物から形成された二軸延伸ポリアミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルム製造時や加工時の操作性・加工性に優れる二軸延伸ポリアミドフィルムに関し、詳細には、フィルム製造・加工時にモノマーの再生成が抑制され、かつ高湿度下における滑り性に優れ、透明性にも優れる二軸延伸ポリアミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリアミドフィルムは、ガスバリア性、強靭性、耐ピンホール性、耐熱性等の諸特性が優れているために、包装用の単層フィルムあるいはラミネートフィルムの基材として、また、他樹脂との共押出による多層フィルムの構成基材として使用されている。
【0003】
ポリアミドフィルムはアミド結合に特徴的な高い吸湿性により、湿度環境の変化によってフィルム物性が変化することが知られている。例えば、常態(23℃、50%RH)に比べ、吸湿状態におけるフィルムの滑り性の低下が認められ、滑り性の低下は、フィルムロールにおけるシワの発生や二次加工適正の低下を引き起こす。このような吸湿はポリアミドフィルムの非晶領域で発生するため、フィルムの結晶化度を上げるべく、フィルム製造条件、すなわち延伸前のベースフィルム成形条件、延伸条件、熱処理条件等の種々の条件が検討されている。これらの選択により、ポリアミドフィルムの吸湿性に多少の改善は認められるものの、上記製造条件の選択のみでは限界がある。
【0004】
また、一般に、溶融重合もしくは溶融重縮合により製造されたポリアミド樹脂(チップ)中には未反応のモノマーやオリゴマーが含まれており、通常これらモノマー等の除去工程を経て種々の製品に成形加工される。しかし、この除去工程を行っても、成形品の製造時にチップを再溶融する際、モノマーやオリゴマーが再生成し、例えばフィルム製膜時にモノマーが生成するとフィルム切れ等を生じ得、品質低下につながることとなる。また生成したモノマーは、これらが金型や製造機器等に汚れとして付着し、結果、フィルム等をはじめとする成形品の品質低下につながるなどの問題があった。
【0005】
上述のポリアミドフィルムの滑り性を改善させるべく、従来、不活性無機粒子(例えば、シリカ、カオリン、タルク等)の配合が検討され、その配合量を増やす、あるいは粒径を調整することにより、滑り性の向上を図っている(例えば特許文献1等)。しかし、これらの配合量を増やすことによって、常態及び高湿下の滑り性は向上するものの、フィルムの透明性を大きく低下させるとともに、ダイリップ出口に発生する樹脂熱劣化物の発生周期が短くなる傾向があった。
またフィルム中のモノマー存在の問題に関しても、種々の方法が試みられてきた。例えば、特許文献2では、水酸化マグネシウムの混晶の配合により、製膜時や成形時等のモノマーの生成抑制を図った提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-53177号公報
【特許文献2】特許第3964498号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したポリアミドフィルムの吸湿による滑り性の低下と、フィルム加工時等におけるモノマーの再生成という二つの課題を解決するためには、それぞれの課題に対して効果がある添加剤を両方配合することなどが考えられるが、これら添加剤の総添加量が大きくな
るために、透明性の急激な低下が懸念される。
【0008】
本発明は、高湿下で優れた滑り性を有し、製膜時のモノマー生成量が少なく、透明性を確保できる二軸延伸ポリアミドフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を解決するための研究の結果、ポリアミド樹脂に高アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子を特定量配合することにより、透明性の過度な低下を伴わずに、成形加工時のモノマー生成量の抑制と高湿下でのフィルムの滑り性改善という課題を解決できることを見出した。
さらに本発明者らは検討を行った結果、高アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子の代わりに高アスペクト比の不活性無機粒子を用いた場合においても、これと低アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子とを適切な配合量にて組み合わせることにより、上記の課題を同様に解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の物を提供する。
[1]ポリアミド樹脂と、平均アスペクト比が20~100のアルカリ土類金属化合物粒子とを、該ポリアミド樹脂100質量部:該粒子0.10質量部超0.50質量部以下の比にて含むポリアミド樹脂組成物から形成された二軸延伸ポリアミドフィルム。
[2]
ポリアミド樹脂と、平均アスペクト比が1~10のアルカリ土類金属化合物粒子と、平均アスペクト比が15~100の不活性無機粒子とを、該ポリアミド樹脂100質量部:該アルカリ土類金属化合物粒子0.03~0.15質量部:該不活性無機粒子0.05~1.00質量部の比にて含むポリアミド樹脂組成物から形成された二軸延伸ポリアミドフィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶融・押出時のモノマー再生成を抑制でき、フィルム製造時や二次加工時に発現し得るモノマー由来物等による品質低下が抑えられた二軸延伸ポリアミドフィルムとすることができ、かつ、高湿下での滑り性が改善された二軸延伸ポリアミドフィルムであるため、二次加工適正に優れ、多くの分野の包装材料として好適に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、ポリアミド樹脂に対して、特定数値範囲の高アスペクト比を有するアルカリ土類金属化合物粒子を特定量にて含むポリアミド樹脂組成物から形成された態様であるか、或いは、特定数値範囲の低アスペクト比を有するアルカリ土類金属化合物粒子と特定数値範囲の高アスペクト比を有する不活性無機粒子をそれぞれ特定量にて含むポリアミド樹脂組成物から形成された態様であることを特徴とする。
本発明では、上述の構成を備える二軸延伸ポリアミドフィルムにおいて、低ヘーズ値を維持したまま特に高湿度下における滑り性を改善でき、また上記アルカリ土類金属化合物粒子や不活性無機粒子を含まないポリアミド樹脂と比べて、フィルム製造・加工時におけるモノマー生成を抑制できるという効果を有する。
【0013】
本発明の特徴は、添加剤として高アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子を使用する点にある。本発明者らは、高湿度下での滑り性を実現するために、高アスペクト比の添加剤が有用であることを見出した。そしてモノマー再生成の抑制に有効な成分として同様にアスペクト比が高い添加剤が採用できれば、そして特にこれらが同一の添加剤である場合には、添加剤の総添加量の増加による透明性の低下を生じることなく、上記滑り性実現とモノマー再生成抑制を両立できる可能性に着目した。そしてこれらの課題を実現できる添加剤として高アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子を特定量配合することによっ
て、透明性が維持され、且つ、モノマーの生成が抑制され、高湿度下の滑り性が改善された二軸延伸ポリアミドフィルムを得ることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
また本発明者らは上記の検討を進める上で、高アスペクト比の添加剤同士だけでなく、低アスペクト比の添加剤との組み合わせにも着目した。すなわち、上記の性能を実現するべく高アスペクト比の添加剤を選択したとき、低アスペクト比の添加剤の併用によって、透明性、モノマーの生成抑制、滑り性を実現できる可能性を検討した。一般に複数の添加剤を併用する場合、総添加量が増加することによってフィルムの透明性は失われる傾向にある。また添加剤の併用により、単独配合では実現できた性能が、同じ添加量であっても、別の添加剤の存在により、その性能改善が阻害されることもある。本発明者らは、驚くべきことに、高アスペクト比の不活性無機粒子と低アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子とをそれぞれ特定量配合することにより、上記高アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子を特定量配合する場合と同様の効果が得られることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明で用いられるポリアミド樹脂は、アミド結合を有する高分子であり、脂肪族系ポリアミド樹脂、芳香族系ポリアミド樹脂、あるいはこれらの混合物のいずれでもよい。
上記ポリアミド樹脂として、例えば、3員環以上のラクタム、重合可能なω-アミノ酸、二塩基酸とジアミンなどの重縮合によって得られるポリアミド樹脂を挙げることができる。
具体的には、ε-カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸、9-アミノノナン酸、α-ピロリドン、α-ピペリドンなどの重合体、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミンなどのジアミンと、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバチン酸、ドデカン二塩基酸、グルタール酸などのジカルボン酸との塩を重縮合せしめて得られる重合体またはこれらの共重合体、例えば、ナイロン4、6、7、8、11、12、4・6、6・6、6・10、6・11、6・12、6T、6/6・6、6/12、6/6T、6I/6Tなどが挙げられる。これらの中でも、機械的特性や熱的特性に優れる点から、また加工性の良さや経済性の観点から、本発明で用いられるポリアミド樹脂としてはナイロン6を主成分とする構成が好適である。
例えば、ナイロン6等のポリアミド樹脂において、その数平均分子量は10,000~30,000のものを使用することができ、また22,000~24,000のものを使用することができる。数平均分子量が10,000以上のポリアミド樹脂を使用することで、二軸延伸後のナイロンフィルムの衝撃強度や引張強度を十分なものとすることができる。また数平均分子量が30,000以下のポリアミド樹脂は、分子鎖の絡み合いが適度なものとなり、延伸加工における過度なひずみ発生を抑え、延伸加工時に破断やパンクを抑制でき、二軸延伸フィルムの安定的な生産につながる。
【0015】
本発明の一態様において、二軸延伸ポリアミドフィルムは、平均アスペクト比が20~100と高アスペクト比に分類される後述するアルカリ土類金属化合物粒子を、上記ポリアミド樹脂100質量部に対して0.10質量部超0.50質量部以下の比にて含むポリアミド樹脂組成物から形成される。
ポリアミド樹脂100質量部に対して、高アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子の使用量を0.10質量部超とすることにより、該樹脂組成物の溶融・成形加工時におけるモノマー生成抑制効果と高湿下での滑り性改善の効果を得ることができ、また0.50質量部以下とすることにより、製膜・延伸安定性を得ることができるとともに、透明性を維持することができる。
【0016】
また別の一態様において、二軸延伸ポリアミドフィルムは、平均アスペクト比が15~
100と高アスペクト比に分類される後述する不活性無機粒子と、平均アスペクト比が1~10と低アスペクト比に分類される後述するアルカリ土類金属化合物粒子とを、上記ポリアミド樹脂100質量部に対して不活性無機粒子0.05~1.00質量部、アルカリ土類金属化合物粒子0.03~0.15質量部の比にて含むポリアミド樹脂組成物から形成される。
【0017】
本発明において、アスペクト比とは、粒子の最大長/最小長で定義される。ここで粒子の最大長とは、粒子を一組の平行な面で挟んだ際に最大となる長さを指す。また粒子の最小長とは、同様に粒子を一組の平行な面で挟んだ際に最小となる長さを指し、例えば層状或いは板状の粒子である場合はいわゆる厚さに相当する。
後述するアルカリ土類金属化合物粒子及び不活性無機粒子は、上述の特定範囲の平均アスペクト比を有する粒子であれば、その形状は特に限定されず、例えば板状(平板状、湾曲した板状、厚みが一定でない板状も含まれる)、繊維状、針状、塊状等の形状であってもよい。例えば粒子形状が板状の場合、板の面形状は、正方形、四角形、三角形、六角形、円形等のいずれの形状であってもよい。
なお本発明において、平均アスペクト比とは、各粒子の例えば10粒について、走査電子顕微鏡(SEM)観察により測定して得られたアスペクト比の算術平均をいう。本発明では、およそ15乃至20以上の平均アスペクト比を有する粒子を高アスペクト比を有する粒子として分類し、およそ10以下の平均アスペクト比を有する粒子を低アスペクト比を有する粒子として分類する。
【0018】
本発明において使用するアルカリ土類金属化合物粒子としては、特に限定されないが、例えばベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの酸化物の粒子又は水酸化物の粒子が使用でき、特に水酸化マグネシウム粒子を好ましく用いることができる。これらアルカリ土類金属化合物粒子は、単独で使用又は複数併用して使用することも可能であり、同じ種類で、平均粒子径、比表面積が異なる粒子を複数併用することもできる。
【0019】
本発明において使用する不活性無機粒子は、シリカ、タルク、カオリン、およびゼオライトなどを挙げることができる。これらは表面処理がなされていてもよい。これら不活性無機粒子は、単独で使用又は複数併用して使用することも可能であり、同じ種類で、平均粒子径、比表面積が異なる粒子を複数併用することもできる。
【0020】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、公知の方法により製造することができる。
例えば、上記ポリアミド樹脂と上記高アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子を含むポリアミド樹脂組成物、又は、上記ポリアミド樹脂と上記高アスペクト比の不活性無機粒子と上記低アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子を含むポリアミド樹脂組成物を、押出機により溶融・押出後、急冷することによりフラット状あるいは環状の未延伸フィルムとし、これをテンター法による逐次二軸延伸、同時二軸延伸や、チューブラー法による同時二軸延伸等の方法により製造することができる。
【0021】
また、上記ポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、慣用の添加剤及び改質剤を配合することができる。こうした慣用の添加剤・改質剤としては、例えば、滑剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、粘着性付与剤、シール性改良剤、防曇剤、透明性改良剤、結晶核剤、離型剤、可塑剤、架橋剤、難燃剤、着色剤(顔料、染料など)、ゲル化抑制剤、耐ピン改質剤などが挙げられる。
【0022】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムにおける延伸倍率は、MD及びTD共に例えば1.5~6倍、2~6倍、好ましくは2.5~4倍である。延伸倍率を1.5倍以上とすることで所望の強度物性を得ることができ、また6倍未満とすることで延伸の安定性確保と
フィルムの切断等のトラブルを抑制することができる。
また二軸延伸後のフィルムは寸法安定性を良くするために、必要に応じ熱処理や、コロナ放電処理をおこなってもよい。
【0023】
上記の方法で得られる本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムの厚みは、例えば8μm~50μm、10μm~30μmである。
【0024】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、単独構成のフィルムであってもよいし、共押出やラミネートなどにより、他のフィルムを積層して使用することもできる。
【0025】
一般に、ポリアミドフィルムは、これを基材層として、ヒートシール層やガスバリア層などとラミネート加工が施され得、そして得られたポリアミドフィルムを含む積層体を製袋加工し、袋製品として使用される場合が多い。
例えば製袋時においては、ヒートシール加工のために、ヒートシール層を有する積層体(ラミネートフィルム)が間欠的に移送されることとなるが、このとき、基材であるポリアミドフィルムの摩擦係数は低いことが望まれる。
更に、ポリアミドフィルムを含む積層体(ラミネートフィルム)を供給して内容物を充填する、例えば内容物がこんにゃく、餅などの場合の充填工程では、高湿下の環境にあることが多く、基材であるポリアミドフィルムの滑りが悪いと製袋時のカットピッチ不良等の問題が発生する。例えば、23℃、湿度90%における動摩擦係数及び静摩擦係数が0.50以下であれば、高湿度下での滑り性は十分良好といえる。また、フィルムの含有モノマー量が多いと、高温でのラミネート時に異物となって発現することがある。
【0026】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、23℃、湿度90%の高湿度条件下における摩擦係数(動摩擦係数・静摩擦係数)が0.5以下であり、延伸前のベースフィルムのモノマー含有量が0.4%以下であることが好ましい。また本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムにおいて、透明性の指標となるヘーズ値は10未満が求められ、6以下であることが望ましく、特に5以下であることが好ましい。
【実施例0027】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の例における各物性の測定法は以下の通りである。
【0028】
(1)透明性(ヘーズ値)
JIS K 7105に準じて、フィルムの曇り値(ヘーズ値)を測定した。
(2)高湿下摩擦係数(静摩擦係数、動摩擦係数)
フィルムを24時間水に浸漬し、測定直前に取り出してペーパーで水滴を拭き取り、相対湿度90%RH、温度23℃の条件下で、JIS K 7125に従い、摩擦測定機((株)東洋精機製作所製 TR-2)を用いて測定した。
(3)モノマー含有量
未延伸状態のベースフィルム(後述する実施例1等にて、ポリアミド樹脂組成物を押出機にてシリンダー温度260℃の条件で押し出して製膜したフィルム)を5mm四方にカットし、メタノールで4時間還流させたのち、サンプル溶液をガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、GC-2014)を用いて分離し、モノマー含有量を定量した。なお、測定は次の条件で行った。
・カラム:GCガラスパックドカラム PEG20M 5%+KOH 1% CW HP
80/100
・OVEN 170℃×16分(INJ.DET.:230℃)
(4)外観評価
アスペクト比が大きい薄片は、規則的多重反射によりパール調の外観を示すことがあり、パール調の意匠を意図していない場合には外観不良として捉えられる。このため、後述する例3(高アスペクト比の水酸化マグネシウム(A)を使用)において、フィルム外観を目視にて観察し、肉眼で確認できるレベルの凝集物の有無やパール調の光沢の有無を確認し、以下の評価基準により評価した。
〈外観 評価基準〉
〇:フィルムに凝集物やパール調の光沢が見られない
△:フィルムに凝集物やパール調の光沢が見られるが、包材として許容できる範囲である×:フィルムに凝集物やパール調の光沢が見られ、包材として許容不可である
【0029】
また実施例・比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
ポリアミド樹脂:ε-カプロラクタムを重合して得られたポリアミド樹脂(宇部興産(株)製、1024FD31)
水酸化マグネシウム(A):協和化学工業(株)製、KISMA10A、アスペクト比:67
水酸化マグネシウム(B):協和化学工業(株)製、KISMA5B、アスペクト比:4
タルク:日本タルク(株)製、FG-15、アスペクト比:25~30
【0030】
例1
ポリアミド樹脂100質量部に対し、高アスペクト比の水酸化マグネシウム(A)を表1に示すように0.03質量部~1.00質量部となる割合にて添加し、混合調製したポリアミド樹脂組成物を、押出機にてシリンダー温度260℃の条件で押し出し、チューブラー法によりMD(縦)3.2倍、TD(横)3.0倍の延伸倍率で同時二軸延伸を行った。
同時二軸延伸時の延伸持続性を以下の評価基準にて評価した。結果を表1に示す。
〈延伸持続性 評価基準〉
○:延伸可能である
△:延伸可能であるが、延伸バブルの揺れが発生したり、バブル内圧が上昇したりするなど、操業トラブルに繋がり得る事象が確認される
×:パンク(バブル割れ)など頻発し、延伸が困難であるか不可能である
【0031】
【0032】
例2
ポリアミド樹脂100質量部に対し、高アスペクト比の水酸化マグネシウム(A)を表2に示すように0質量部~0.55質量部となる割合にて添加し、混合調製したポリアミド樹脂組成物を、押出機にてシリンダー温度260℃の条件で押し出し、チューブラー法で同時二軸延伸(MD:3.2倍、TD:3.0倍)を行い、その後210℃の熱処理を行うことで厚さ15μmの二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。
このフィルムについて各特性を測定した。なおモノマー含有量の測定には、押出し後、製膜したフィルム(未延伸フィルム)を用いた。結果を表2に合わせて示す。
【0033】
例3
ポリアミド樹脂100質量部に対して、低アスペクト比の水酸化マグネシウム(B)及び不活性無機粒子としてタルクを表3及び表4に示す配合量にて添加し、例2と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを製造した。
このフィルムに関する各特性の測定した。なおモノマー含有量の測定には、押出し後、製膜したフィルム(未延伸フィルム)を用いた。結果を表3及び表4に合わせて示す。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
表2に示すように、ポリアミド樹脂100質量部に対して高アスペクト比の水酸化マグネシウムを0.1質量部超0.50質量部以下の比にて配合したポリアミド樹脂組成物から形成したフィルムは、未延伸フィルムにおいてモノマー含有量が低い値に抑制できていることが確認でき、且つ、二軸延伸フィルムにおいて、高湿下における摩擦係数、ヘーズ値がそれぞれ低い値に抑えられ、フィルム外観もフィルムに凝集物やパール調の光沢が見られず、これらが見られた場合においても包材として許容できる範囲の外観であることが確認された。なお、常態(23℃、50%RH)下の摩擦係数(JIS K 7125)は、ブランク(水酸化マグネシウム(A)及び(B)並びにタルクともに非配合)のフィルムと同等であった。
一方、水酸化マグネシウムの配合量が0.1質量部以下の場合には高湿下における摩擦係数が上昇し、0.50質量部超の場合にはフィルムの外観が悪化する(凝集物やパール
調の光沢が目立つ)結果となった。
【0038】
また表3及び表4に示すように、ポリアミド樹脂100質量部に対して低アスペクト比の水酸化マグネシウムを0.03質量部~0.15質量部、タルクを0.05質量部~0.50質量部配合したポリアミド樹脂組成物から形成したフィルムは、未延伸フィルムにおいてモノマー含有量が低い値に抑制できていることが確認でき、且つ、二軸延伸フィルムにおいて、高湿下における摩擦係数が低い値に抑えられ、またタルクを0.50質量部配合した場合にはヘーズ値の上昇がややみられたものの、おおよそ低い値に抑制することができた。また、常態(23℃、50%RH)下の摩擦係数(JIS K 7125)は、ブランク(水酸化マグネシウム(A)及び(B)並びにタルクともに非配合)のフィルムと同等であった。
一方、水酸化マグネシウムの配合量を0質量部とした場合、未延伸フィルムにおけるモノマー含有量が上昇し、水酸化マグネシウムの配合量を0.15質量部超とした場合にはヘーズ値が上昇する結果となった。また、タルクの配合量を0.05質量部未満とした場合には高湿下における摩擦係数が上昇した。
【0039】
以上の通り、ポリアミド樹脂に高アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子を特定量配合することにより、高湿下で優れた滑り性を有し、製膜時のモノマー生成量が少なく、透明性を確保でき、さらには外観にも優れる二軸延伸ポリアミドフィルムを得られることが確認された。
また、高アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子の代わりに高アスペクト比の不活性無機粒子を用い、これと低アスペクト比のアルカリ土類金属化合物粒子とを適切な配合量にて組み合わせることにより、上記と同様に高湿下での優れた滑り性、モノマー生成量の抑制、そして透明性を確保できる、二軸延伸ポリアミドフィルムを得られることが確認された。
以上、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、生産・加工時のモノマー再生成を抑制し、高湿下の滑り性に優れているため、生産から加工までの使用適性に優れており、有用である。