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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024897
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】単結晶製造装置及び単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 13/00 20060101AFI20220202BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C30B13/00
C30B29/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127728
(22)【出願日】2020-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】輿 公祥
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BB10
4G077CD07
4G077EC03
4G077EC04
4G077EG12
4G077EG15
4G077EG19
4G077EG25
4G077EG26
(57)【要約】
【課題】坩堝を使用せずに大型の単結晶を製造することのできる単結晶製造装置、及びその装置を用いた単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】種結晶20から上方に単結晶21を成長させる単結晶製造装置であって、装置外の空間から断熱された断熱空間10と、断熱空間10の外側に設置された誘導加熱用コイル11と、単結晶21を育成するための結晶育成領域103を含む第1の空間101とその上の第2の空間102とに断熱空間10を区画し、結晶育成領域103の上方に孔121を有する断熱板12と、誘導加熱用コイル11を用いた誘導加熱により発熱し、断熱空間10内を加熱する、第2の空間102に設置された加熱体13と、種結晶20を上下方向に移動可能に下側から支持するための支持軸19と、を備えた、単結晶製造装置1を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶から上方に単結晶を成長させる単結晶製造装置であって、
前記単結晶製造装置の外の空間から断熱された断熱空間と、
前記断熱空間の外側に設置された誘導加熱用コイルと、
前記単結晶を育成するための結晶育成領域を含む第1の空間と前記第1の空間の上の第2の空間とに前記断熱空間を区画し、前記結晶育成領域の上方に孔を有する断熱板と、
前記誘導加熱用コイルを用いた誘導加熱により発熱し、前記断熱空間内を加熱する、前記第2の空間に設置された加熱体と、
前記種結晶を上下方向に移動可能に下側から支持するための支持軸と、
を備えた、単結晶製造装置。
【請求項2】
前記第1の空間に、前記結晶育成領域を囲むように断熱材が設置された、
請求項1に記載の単結晶製造装置。
【請求項3】
前記第1の空間に、前記誘導加熱用コイルを用いた誘導加熱により発熱する第2の加熱体が設置された、
請求項1又は2に記載の単結晶製造装置。
【請求項4】
前記断熱板の厚さが、前記単結晶の上面の外周部の温度をその内側の領域の温度よりも高くするための分布を有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
【請求項5】
前記断熱空間の上側の、前記支持軸の中心の真上に、前記単結晶の原料の供給口が設けられた、
請求項1~4のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
【請求項6】
前記断熱板の前記孔の内側に設置される、開口領域の形状で前記単結晶の断面形状を制御することができる環状の部材を備えた、
請求項1~5のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
【請求項7】
前記単結晶の原料融液を前記単結晶の上面に滴下するための漏斗を備えた、
請求項1~6のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
【請求項8】
孔を有する断熱板によって第1の空間と前記第1の空間の上の第2の空間とに区画された断熱空間の、前記第1の空間の前記孔の下方に種結晶を設置する工程と、
前記第2の空間に設置された加熱体を誘導加熱して、前記加熱体から発せられる熱により前記種結晶の上面を溶融させる工程と、
前記第2の空間と前記断熱板の前記孔を通して、溶融した前記種結晶の上面に、単結晶の原料融液を供給する工程と、
前記原料融液の供給を続けながら、前記種結晶を下方へ移動させ、前記種結晶から上方に前記単結晶を成長させる工程と、
を含む、単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記単結晶の原料融液を供給する工程において、原料棒の下端を前記第2の空間の熱で溶かすことにより得られる前記原料融液を滴下させる、
請求項8に記載の単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記単結晶の原料融液を供給する工程において、中空原料棒の下端を前記第2の空間の熱で溶かし、かつ前記中空原料棒の内部に投下する粉末又は顆粒状の原料を前記中空原料棒の下端において前記第2の空間の熱で溶かすことにより得られる前記原料融液を滴下させる、
請求項8に記載の単結晶の製造方法。
【請求項11】
前記単結晶の原料融液を供給する工程において、漏斗内に投入した粉末又は顆粒状の原料を前記第2の空間の熱で溶かすことにより得られる前記原料融液を滴下させる、
請求項8に記載の単結晶の製造方法。
【請求項12】
前記単結晶の原料融液を供給する工程において、前記粉末又は顆粒状の原料を金属と酸素ガスを反応させて形成する、
請求項10又は11に記載の単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶製造装置及び単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、坩堝を使用せずに単結晶を製造する装置が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の単結晶製造装置においては、原料融液を種結晶の上面に形成される融液中に供給して混合融液とし、その混合融液から固体を単結晶として析出させ、単結晶を製造する。種結晶の上面の融液は、種結晶の上面に赤外線照射装置から赤外線を照射することにより形成される。
【0003】
坩堝を使用しない単結晶製造装置によれば、坩堝に含まれる成分の混入による、単結晶の純度の低下のおそれがない。また、坩堝を使用する場合、製造する単結晶の種類によっては、坩堝の材料が非常に高価である場合も少なくないため、坩堝を使用しない装置を用いることにより、設備費用を大きく低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6607651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の単結晶製造装置においては、赤外線の進入経路を確保するためと考えられるが、成長する単結晶の上面の周囲の空間が広く開放されている。このため、材料の融点が高い場合は、結晶成長に悪影響を及ぼすほど結晶成長面からの放熱量が多くなり(放射エネルギーは物体温度の4乗と周囲温度の4乗の差に比例する)、大型の単結晶の製造が困難になる。具体的には、シリコンの融点より高い、例えば融点が1500℃以上の材料の製造は困難であると考えられる。
【0006】
本発明の目的は、坩堝を使用せずに大型の単結晶を製造することのできる単結晶製造装置、及びその装置を用いた単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[7]の単結晶製造装置、[8]~[12]の単結晶の製造方法を提供する。
【0008】
[1]種結晶から上方に単結晶を成長させる単結晶製造装置であって、前記単結晶製造装置の外の空間から断熱された断熱空間と、前記断熱空間の外側に設置された誘導加熱用コイルと、前記単結晶を育成するための結晶育成領域を含む第1の空間と前記第1の空間の上の第2の空間とに前記断熱空間を区画し、前記結晶育成領域の上方に孔を有する断熱板と、前記誘導加熱用コイルを用いた誘導加熱により発熱し、前記断熱空間内を加熱する、前記第2の空間に設置された加熱体と、前記種結晶を上下方向に移動可能に下側から支持するための支持軸と、を備えた、単結晶製造装置。
[2]前記第1の空間に、前記結晶育成領域を囲むように断熱材が設置された、上記[1]に記載の単結晶製造装置。
[3]前記第1の空間に、前記誘導加熱用コイルを用いた誘導加熱により発熱する第2の加熱体が設置された、上記[1]又は[2]に記載の単結晶製造装置。
[4]前記断熱板の厚さが、前記単結晶の上面の外周部の温度をその内側の領域の温度よりも高くするための分布を有する、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
[5]前記断熱空間の上側の、前記支持軸の中心の真上に、前記単結晶の原料の供給口が設けられた、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
[6]前記断熱板の前記孔の内側に設置される、開口領域の形状で前記単結晶の断面形状を制御することができる環状の部材を備えた、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
[7]前記単結晶の原料融液を前記単結晶の上面に滴下するための漏斗を備えた、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
[8]孔を有する断熱板によって第1の空間と前記第1の空間の上の第2の空間とに区画された断熱空間の、前記第1の空間の前記孔の下方に種結晶を設置する工程と、前記第2の空間に設置された加熱体を誘導加熱して、前記加熱体から発せられる熱により前記種結晶の上面を溶融させる工程と、前記第2の空間と前記断熱板の前記孔を通して、溶融した前記種結晶の上面に、単結晶の原料融液を供給する工程と、前記原料融液の供給を続けながら、前記種結晶を下方へ移動させ、前記種結晶から上方に前記単結晶を成長させる工程と、を含む、単結晶の製造方法。
[9]前記単結晶の原料融液を供給する工程において、原料棒の下端を前記第2の空間の熱で溶かすことにより得られる前記原料融液を滴下させる、上記[8]に記載の単結晶の製造方法。
[10]前記単結晶の原料融液を供給する工程において、中空原料棒の下端を前記第2の空間の熱で溶かし、かつ前記中空原料棒の内部に投下する粉末又は顆粒状の原料を前記中空原料棒の下端において前記第2の空間の熱で溶かすことにより得られる前記原料融液を滴下させる、上記[8]に記載の単結晶の製造方法。
[11]前記単結晶の原料融液を供給する工程において、漏斗内に投入した粉末又は顆粒状の原料を前記第2の空間の熱で溶かすことにより得られる前記原料融液を滴下させる、上記[8]に記載の単結晶の製造方法。
[12]前記単結晶の原料融液を供給する工程において、前記粉末又は顆粒状の原料を金属と酸素ガスを反応させて形成する、上記[10]又は[11]に記載の単結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、坩堝を使用せずに大型の単結晶を製造することのできる単結晶製造装置、及びその装置を用いた単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る単結晶製造装置の垂直断面図である。
図2図2は、単結晶製造装置の断熱空間周辺を拡大した垂直断面図である。
図3図3(a)~(c)は、単結晶の成長過程を示す垂直断面図である。
図4図4(a)は、ネッキングを行わずに肩広げのみを行う場合の成長過程の単結晶の形状を示す垂直断面図であり、図4(b)は、ネッキングと肩広げのいずれも行わない場合の成長過程の単結晶の形状を示す垂直断面図である。
図5図5(a)、(b)は、第1の空間における結晶育成領域の周りの領域に、結晶育成領域を囲む環状の断熱材が設置された構造を示す垂直断面図である。図5(c)は、第1の空間における結晶育成領域の周りの領域に加熱体が設置された構造を示す垂直断面図である。
図6図6(a)、(b)は、厚みの分布を有する断熱板が設置された構造を示す垂直断面図である。図6(c)は、環状の加熱体の径を小さくした構造を示す垂直断面図である。
図7図7(a)は、単結晶の形状を制御するための形状制御用部材が設置された構造を示す垂直断面図である。図7(b)は、環状の底面の幅を大きくした形状制御用部材が設置された構造を示す垂直断面図である。
図8図8(a)は、原料棒を用いて原料融液を供給する様子を模式的に示す垂直断面図である。図8(b)は、中空原料棒を用いて原料融液を供給する様子を模式的に示す垂直断面図である。図8(c)は、漏斗を用いて原料融液を供給する様子を模式的に示す垂直断面図である。
図9図9は、粉末、顆粒、又は液状の金属を酸素ガスと反応させて、酸化物である原料を得る様子を模式的に示す垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施の形態〕
(製造装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る単結晶製造装置1の垂直断面図である。図2は、単結晶製造装置1の断熱空間10周辺を拡大した垂直断面図である。単結晶製造装置1は、坩堝を用いず、種結晶20の上面に原料を供給し、種結晶20から上方に単結晶21を成長させる装置である。
【0012】
単結晶製造装置1は、装置外の空間から断熱された断熱空間10と、断熱空間10の外側に設置された誘導加熱用コイル11と、第1の空間101と第1の空間101の上の第2の空間102とに断熱空間10を区画する断熱板12と、誘導加熱用コイル11を用いた電磁誘導により誘導電流が流れて発熱し、断熱空間10内を加熱する、第2の空間102に設置された加熱体13と、種結晶20を上下に移動可能に下側から支持するための支持軸19と、を備える。なお、本実施の形態における上下方向は、鉛直方向に沿った、又はほぼ沿った方向を指すものとする。
【0013】
断熱空間10の第1の空間101は、単結晶21を育成するための領域である結晶育成領域103を含む。結晶育成領域103は、後述する基体18の孔181の真上の領域に含まれる。断熱板12は、結晶育成領域103の上方に位置する孔121を有する。このため、単結晶21の原料を、第2の空間102と断熱板12の孔121を通して、種結晶20の上面又は種結晶20の上に成長した単結晶21の上面に供給することができる。
【0014】
また、単結晶製造装置1は、断熱空間10の側壁となる断熱材14と、断熱空間10の上壁となる断熱材15と、断熱材15の上に設置された断熱材16と、断熱材14、15、16の周りを囲む外壁17と、断熱材14、15、16及び外壁17の土台となる基体18と、を備える。これらの部材は、単結晶21の融点近傍の温度に耐えられる耐熱性を有する材料からなる。
【0015】
例えば、単結晶21が酸化ガリウム系単結晶である場合は、断熱材14は、例えば、多孔質ジルコニア又はジルコニアファイバーボードからなる。断熱材15は、例えば、多孔質ジルコニア又はジルコニアファイバーボードからなる。断熱材16は、例えば、アルミナファイバーボードからなる。外壁17は、例えば、アルミナファイバーボードからなる。基体18は、例えば、アルミナボードからなる。
【0016】
なお、断熱材15はその形状や配置位置から最も変形しやすいため、硬化処理を施したジルコニアファイバーボード、硬化処理を施した多孔質アルミナ、硬化処理を施した緻密質ジルコニア、硬化処理を施した緻密質アルミナ、ジルコニアセメントのコーティングを施したジルコニアファイバーボードを断熱材15として用いることが好ましい。なお、上記のジルコニアファイバーボードなどの硬化処理には、使用前の高温アニール、例えば、1700~1900℃での高温アニールを用いる。なお、このような、事前の高温アニールによりジルコニアファイバーボードなどが硬化し、高温環境下での変形が抑えられることは、本発明者により初めて見出されたことである。
【0017】
なお、断熱材15は、単結晶製造装置1以外にも、結晶育成炉、焼成炉、アニール炉などの各種の高温加熱する装置において、最も温度が高くなる発熱体周辺の断熱材として使用することができる。いずれの場合も、変形や変形による割れを防ぐことができるため、炉内温度を安定化させることができる。また、断熱材15が長寿命であるため、装置の維持費用などを低減することができる。
【0018】
また、外壁17には、内面にアルミナブランケットを貼り付けたアルミナファイバーボードを用いることが好ましい。この場合、アルミナブランケットのクッション性を利用し、断熱材16が膨張した際の外壁17の割れを抑えることができる。アルミナファイバーボードの内面に貼り付けるアルミナブランケットには、アルミナブランケット側に設置する断熱材16の膨張分を緩衝できる程度の厚みを有することが求められる。しかし、高温環境下の断熱材の膨張量を計測することは困難であるため、十分に効果が得られると推測される厚み、例えば、5mm以上、好ましくは10mm以上の厚みのアルミナブランケットを用いることが好ましい。また、アルミナブランケットが張り付けられるアルミナファイバーボードは、ハンドリングのし易さを考慮すれば、10mm以上の厚みを有することが好ましい。なお、外壁17は、単結晶製造装置1以外にも、結晶育成炉、焼成炉、アニール炉などの各種の高温加熱する装置において用いることができる。なお、このような、アルミナファイバーボードの内面にアルミナブランケットを貼り付けることにより、隣接する部材の膨張を吸収する方法は、本発明者により初めて見出されたものである。
【0019】
上記のジルコニアファイバーボードは、ジルコニアファイバーを真空成型することにより得られる繊維質の断熱材である。また、アルミナファイバーボードは、アルミナファイバーに無機および有機バインダーを添加して成型することにより得られる繊維質の断熱材である。また、アルミナブランケットは、アルミナファイバーにニードル加工を施してマット状に加工することにより得られる繊維質の断熱材である。
【0020】
誘導加熱用コイル11は、外壁17の外側から加熱体13を囲む位置に設置されている。誘導加熱用コイル11に電流を流すことにより誘導加熱用コイル11の周囲に生じる磁界が環状の加熱体13の内側を通ると、加熱体13に誘導電流が流れ、加熱体13の有する電気抵抗により加熱体13が発熱する。
【0021】
加熱体13は、単結晶21の融点近傍の温度に耐えられる耐熱性を有する導体からなる。例えば、単結晶21が酸化ガリウム系単結晶である場合は、加熱体13の材料としてイリジウムや、白金ロジウム、又はジルコニアコーティングしたイリジウムや白金ロジウムが用いられる。加熱体13の形状は環状であり、典型的には、図1に示されるような円筒状である。加熱体13は、断熱板12の上に、結晶育成領域103の真上の空間を囲むように設置される。
【0022】
断熱板12は、単結晶21の融点近傍の温度に耐えられる耐熱性を有する材料からなり、例えば、多孔質のジルコニアからなる。また、変形を抑えるために、硬化処理を施したジルコニアファイバーボードなどの上記の断熱材15に用いられる材料を断熱板12の材料に用いることが好ましい。断熱板12は、単結晶21の成長面となる種結晶20の上面又は単結晶21の上面を選択的に溶融させるために用いられる。
【0023】
第1の空間101の結晶育成領域103には、加熱体13から発せられる輻射が断熱板12の孔121を通って直接達する。一方で、第1の空間101の結晶育成領域103の周りの領域104には、加熱体13から発せられる輻射が断熱板12により弱められて到達する。このため、結晶育成領域103中の種結晶20及び単結晶21は、側方からよりも上方から強く加熱される。これにより、単結晶21の成長面となる種結晶20の上面又は単結晶21の上面を選択的に溶融させることができる。
【0024】
断熱板12は、第1の空間101の温度分布の対称性を確保するため、図1に示される様に、表面が水平になるように設置されることが好ましい。また、結晶成長面の外周部の温度の低下を抑えるため、断熱板12が結晶成長面の外周部を覆わないように、孔121の輪郭が単結晶21の輪郭の外側にあることが好ましい。孔121の直径は、例えば、単結晶21の直径に10mm加えた値に設定される。
【0025】
支持軸19は、図示されない駆動機構により、基体18を上下方向に貫通する軸孔181の中を上下に移動することができる。そして、支持軸19は、第1の空間101の結晶育成領域103及びその下方の軸孔181内を上下に移動させることができる。また、支持軸19は、上記駆動機構により、その中心軸を回転軸とした回転が可能であってもよい。この場合、支持軸19に支持された種結晶20及び種結晶20から成長した単結晶21を回転させることができる。
【0026】
また、支持軸19は、支持軸19を上下方向に貫通する孔191を有していてもよい。孔191を介して熱電対や放射温度計により種結晶20及び単結晶21の温度を測定することができる。支持軸19は、単結晶21の融点近傍の温度に耐えられる耐熱性を有する材料からなり、例えば、単結晶21が酸化ガリウム系単結晶である場合は、ジルコニアファイバーボード、アルミナファイバーボード、多孔質ジルコニア、多孔質アルミナ、又はそれらの組み合わせからなる。また、支持軸19の単結晶21と接触する部分192は、単結晶21の融点近傍の温度に耐えられる耐熱性を有し、かつ、単結晶21の材料と反応しない材料からなり、例えば、多孔質アルミナ、緻密質アルミナ、サファイア、イリジウムからなる。支持軸19は、例えば、図1に示されるように、上下方向に連結される複数のブロックから構成される。
【0027】
断熱空間10の上壁である断熱材15は、断熱材15を上下方向に貫通する貫通孔151を有する。また、断熱材15上の断熱材16は、断熱材16を上下方向に貫通する貫通孔161を有する。貫通孔151と貫通孔161は連続しており、断熱空間10と単結晶製造装置1の外部の空間とをつなげている。このため、貫通孔151、161を介して単結晶21の原料を断熱空間10内へ供給することができる。貫通孔151、161の直径は、例えば、5~30mmである。
【0028】
(単結晶の製造方法)
以下に、単結晶製造装置1を用いた単結晶21の製造方法の一例について説明する。
【0029】
まず、孔121の下方の支持軸19上に種結晶20を設置し、支持軸19の上下方向の位置を調整して、断熱空間10の第1の空間101に種結晶20を設置する。このとき、種結晶20の上面を効率よく加熱するため、種結晶20を第1の空間101内のなるべく高い位置、例えば、種結晶20の上面の高さが断熱板12の下面の高さと一致するような位置に設置することが好ましい。
【0030】
次に、誘導加熱用コイル11に電流を流すことにより、第2の空間102に設置された加熱体13を誘導加熱して、加熱体13から発せられる熱により種結晶20の上面を溶融させる。このとき、上述のように、断熱板12によって種結晶20の上面を選択的に溶融させることができる。
【0031】
次に、第2の空間102と断熱板12の孔121を通して、溶融した種結晶20の上面に、単結晶21の原料融液を供給する。単結晶21の原料融液の供給方法については後述する。
【0032】
次に、図3(a)~(c)に示されるように、単結晶21の原料融液の供給を続けながら、支持軸19を下降させて種結晶20を下方へ移動させ、融液を下方から徐々に結晶化させる。これによって、種結晶20から上方に単結晶21が成長する。単結晶21の成長速度は、例えば2~8mm/hに設定される。単結晶21を回転しながら成長させる場合は、回転速度は、例えば、3~12rpmに設定される。
【0033】
図3(a)~(c)に示される例では、単結晶21の成長過程においてネッキングを行い、また、肩広げ(増径)によって単結晶21の径を広げている。ネッキングを行うことにより、種結晶20の品質が高くない場合に単結晶21の品質を改善することができる。そして、肩広げにより、ネッキング部で小さくなった単結晶21の径を大きくすることができる。
【0034】
しかしながら、種結晶20が十分な品質を有する場合は、ネッキングを行わなくてもよい。ネッキング部の径が小さいと、成長した単結晶21の重量を支えきれなくなり、ネッキング部から折れるおそれがある。また、ネッキング部から折れるのを防ぐため、肩広げ部で結晶を支える機構を単結晶製造装置1内に設けてもよいが、それによって単結晶製造装置1の構造が複雑化してしまう。ネッキングを行わない場合には、このような問題を回避することができる。
【0035】
また、ネッキングを行わず、かつ所望の単結晶21の径とほぼ同じ径(例えば、±10%以内の差)を有する種結晶20を用いる場合は、肩広げも行わなくてよい。この場合、肩広げによって生じる双晶化などの問題を回避し、より高品質の単結晶21を得ることができる。
【0036】
図4(a)は、ネッキングを行わずに肩広げのみを行う場合の成長過程の単結晶21の形状を示し、図4(b)は、ネッキングと肩広げのいずれも行わない場合の成長過程の単結晶21の形状を示す。
【0037】
単結晶製造装置1においては、結晶成長面である種結晶20の上面又は単結晶21の上面は、加熱体13が設置された高温の第2の空間102のすぐ下に位置する。このため、結晶成長面からの放熱が抑えられ、大型の単結晶21を製造することができる。
【0038】
単結晶21の育成中の雰囲気は、加熱体13の材質によって選択することができ、例えば、加熱体13が酸化しない材料からなる場合は、酸素雰囲気を用いることができる。単結晶21が酸化ガリウム系単結晶である場合は、通常は加熱体13の材料としてイリジウムが用いられる。この場合、イリジウムの酸化を抑えるため、雰囲気中の酸素濃度は10%未満(例えば4%)であることが好ましい。イリジウムの表面がジルコニアでコーティングされている場合は、雰囲気中の酸素濃度は50%未満であることが好ましい。
【0039】
(温度分布の制御方法)
以下に、単結晶21の成長面(種結晶20の上面又は単結晶21の上面)の温度分布の制御方法について説明する。単結晶21の成長面の温度分布は、中央部と外周部の温度がほぼ等しい分布(フラットな分布)、又は、中央部が低く、外周部が高くなる分布(下凸の分布)であることが好ましい。これにより、単結晶21とその上の融液の界面(固液界面)をフラット又は上凸形状にすることができ、結晶の歪が中心に集中することによる結晶欠陥の発生を抑えることができる。
【0040】
図5(a)、(b)は、第1の空間101における結晶育成領域103の周りの領域104に、それぞれ結晶育成領域103を囲む環状の断熱材31、32が設置された構造を示す垂直断面図である。
【0041】
図5(a)に示される断熱材31は、領域104の全域に設けられる断熱材であり、図5(b)に示される断熱材32は、領域104の結晶育成領域103近傍の一部の領域に設けられる断熱材である。断熱材31、32は、単結晶21の融点近傍の温度に耐えられる耐熱性を有する材料からなり、例えば、多孔質のジルコニアからなる。
【0042】
結晶育成領域103を囲む断熱材31、32を用いることにより、単結晶21の側面からの放熱を抑え、結晶成長面の外周部の温度を上げることができる。これによって、単結晶21の成長面の温度分布をフラット又は下凸にすることが容易になる。
【0043】
また、断熱材31、32を用いることにより、単結晶21の結晶成長方向(上下方向)の温度分布のばらつきを小さくして、単結晶21の品質を向上させることもできる。なお、これらの効果は、断熱材31と断熱材32のいずれを用いた場合でも、同様に得られる。
【0044】
図5(c)は、第1の空間101における結晶育成領域103の周りの領域104に、加熱体13と同様の部材である加熱体33が設置された構造を示す垂直断面図である。加熱体33は、加熱体13と同様に、誘導加熱用コイル11に電流を流すことにより誘導加熱され、発熱する。
【0045】
加熱体33は、単結晶21を側方から加熱するため、単結晶21の成長面の外周部の温度を上げることができる。これによって、単結晶21の成長面の温度分布をフラット又は下凸にすることが容易になる。
【0046】
ただし、単結晶21の上面以外の部分の溶融を抑えるため、加熱体33による加熱を加熱体13による加熱よりも弱める必要がある。このために、例えば、加熱体33と図5(b)に示される断熱材32を併用して、加熱体33から発せられる輻射を断熱材32により弱めたり、誘導加熱用コイル11を加熱体13の側方にのみ設けて、加熱体33の発熱量を低下させたり、という手段を取ることができる。
【0047】
図6(a)、(b)は、断熱板12の代わりに、厚みの分布を有する断熱板34が設置された構造を示す垂直断面図である。断熱材34においては、結晶育成領域103の周りの領域104の上方に位置する部分342の厚さが最も厚く、単結晶21の成長面の外周部の上方に位置する部分344の厚さが最も薄く、部分342の内側の部分343の厚さが、部分342の厚さよりも薄く、部分344の厚さよりも厚い。
【0048】
断熱材34の厚みが大きい部分ほど、加熱体13から発せられる輻射を大きく弱めるため、単結晶21の成長面の外周部の温度をその内側の領域の温度よりも高めて、かつ単結晶21の側面の温度を成長面の温度よりも低くすることができる。これによって、単結晶21の成長面の温度分布をフラット又は下凸にすることが容易になる。
【0049】
図6(a)に示される断熱材34は、部分342~344が一体に設けられており、図6(b)に示される断熱材34は、部分342を含む部材と部分343、344を含む部材が別体に設けられているが、いずれの形態でも同様の効果が得られる。
【0050】
なお、断熱板34は、単結晶21への原料融液の供給に必要な孔341を有するが、結晶成長面の中央部の温度の上昇を抑えるため、孔341の径を原料融液の供給に支障のない範囲でなるべく小さくすることが好ましい。
【0051】
また、断熱板34の材料として、サファイアのような高温で使用できる透明部材を用いる場合は、厚みの分布を形成する代わりに、表面の粗さの分布を形成して加熱体13から発せられる輻射の透過量に分布をもたせることにより、同様の効果を得ることができる。具体的には、例えば、部分344の表面は平滑に、部分342の表面粗さを最も大きく、部分343の表面粗さを部分342の表面粗さよりも小さくする。
【0052】
図6(c)は、環状の加熱体13の径を図2などに示されるものよりも小さくした構造を示す垂直断面図である。加熱体13の径を小さくすることにより、加熱体13と結晶成長面の中央部との距離に対する加熱体13と結晶成長面の外周部との距離の比が大きくなるため、相対的に結晶成長面の外周部の温度を上げることができる。これによって、加熱体13の径が大きい場合に結晶成長面の温度分布が上凸である場合でも、加熱体13の径を小さくすることにより、フラット又は下凸にすることができる。
【0053】
また、原料供給用の貫通孔151、161を単結晶21の成長面の中心の真上、すなわち支持軸19の中心の真上に設けることにより、成長面の中央部の温度を下げることができる。これによって、単結晶21の成長面の温度分布をフラット又は下凸にすることが容易になる。また、成長面の中央部の温度を効果的に下げるためには、貫通孔151、161の直径をある程度大きくする(例えば、単結晶21の直径の10~60%)ことが好ましい。
【0054】
また、原料供給用の貫通孔151、161とは別に、単結晶21の成長面の中央部の温度を下げるための孔を成長面の中心の真上に設けてもよい。この場合、原料供給用の貫通孔151、161が単結晶21の成長面の中心から外れたところに設けられるため、単結晶21の成長面の中心から外れたところに原料融液が滴下されるが、単結晶21を回転させながら育成すれば問題はない。また、この場合、単結晶21の成長面の中心に滴下するよりも単結晶21中の不純物の分布が緩やかになるという利点がある。
【0055】
(単結晶の断面形状の制御方法)
以下に、単結晶21の断面形状の制御方法について説明する。ここで、断面形状とは、径方向の断面の形状を意味し、例えば、円柱状の単結晶21の断面形状は円形であり、多角柱状の単結晶21の断面形状は多角形である。
【0056】
単結晶21の断面形状は、断熱板12の孔121の形状に依存する。これは、単結晶21の上面の温度分布が孔121の形状に依存し、単結晶21の上面の孔121の形状と相似な形状の領域が溶融し、結晶成長が起こるためである。例えば、孔121が円形の場合には単結晶21の断面形状は円形になり、孔121が多角形の場合には単結晶21の断面形状は角の丸められた多角形になる。
【0057】
ただし、孔121が多角形の断熱板12を用いて単結晶21の断面形状を多角形にする場合であって、単結晶21をその中心軸の周りに回転させながら成長させる場合は、単結晶21の回転に合わせて断熱板12も回転させる必要がある。
【0058】
図7(a)は、単結晶21の形状を制御するための形状制御用部材35が設置された構造を示す垂直断面図である。形状制御用部材35は、断熱板12の孔121の内側に設置される、単結晶21の上面の外周部の融液に接触する環状の部材であり、主にその融液に接触する環状の底面351の外縁の内側の領域に結晶が成長する。このため、環状の形状制御用部材35の底面351の外縁の平面形状により、単結晶21の断面形状を制御することができる。
【0059】
形状制御用部材35は単結晶21及び融液と接触するため、これらと反応しない材料からなる。例えば、単結晶21が酸化ガリウム系単結晶である場合は、形状制御用部材35の材料としてイリジウムやサファイアが用いられる。それでも、形状制御用部材35と融液が接触するため、単結晶21(融液)の組成や形状制御用部材35の材料などによっては、形状制御用部材35からの不純物汚染が融液中に発生する場合がある。しかしながら、融液は形状制御用部材35との非接触領域から接触領域に向かって流れるため、不純物汚染は接触領域近傍に限られる。そのため、形状制御用部材35を用いる場合であっても、高純度の単結晶21を得ることができる。例えば、単結晶21をウェハ加工する際は、形状制御用部材35と接触していた外周部分を削り落とすことにより、汚染された部分を除去することができる。
【0060】
図7(b)は、環状の底面351の幅を大きくした形状制御用部材35が設置された構造を示す垂直断面図である。底面351の内縁側の一部が種結晶20の上面に接触するまで環状の底面351の幅を大きくすることにより、形状制御用部材35を単結晶21の形状制御だけでなく、肩広げ(増径)を容易にするための部材として用いることができる。単結晶21(種結晶20)の上面の融液は、単結晶21(種結晶20)と底面351の界面を、環状の底面351の外縁に向かって広がるため、成長させながら単結晶21の径をおよそ種結晶20の径から底面351の外縁の径まで広げることができる。
【0061】
なお、図7(b)に示されるような底面351の幅が大きい形状制御用部材35では、底面351と融液の接触領域が広いため、単結晶21が形状制御用部材35からの不純物汚染を比較的受けやすい。このため、まず、底面351の幅が大きい形状制御用部材35を用いて肩広げを行って径の大きい単結晶21を育成し、この単結晶21から切り出した径の大きい種結晶20を用いて、底面351の幅が大きい形状制御用部材35を用いずに新たに単結晶21を育成することにより、径が大きく、かつ高純度の単結晶21を得ることができる。
【0062】
(原料融液の供給方法)
以下に、種結晶20又は単結晶21の上面への原料融液の供給方法について説明する。
【0063】
図8(a)は、原料棒40を用いて原料融液を供給する様子を模式的に示す垂直断面図である。原料棒40は、単結晶21を構成する物質の棒状の焼結体であり、例えば、単結晶21として酸化ガリウム系半導体の単結晶を製造する場合には、酸化ガリウム系半導体の焼結体を原料棒40として用いる。
【0064】
原料供給口である貫通孔151、161に原料棒40を挿入し、その下端を第2の空間102の内側又は近傍に位置させて、第2の空間102の熱により溶かし、融液41の液溜まりを大きくして滴下させる。このとき、融液41が自重で滴下するのを待ってもよいし、原料棒40を振動させて滴下を促してもよい。滴下した融液41は、第2の空間102と断熱板12の孔121を通過して種結晶20又は単結晶21の上面に供給される。
【0065】
融液41の液滴が大きすぎると、単結晶21の上面に達したときに飛び散ったり、固液界面の形状を不安定化させたりする。そのため、原料棒40の径により液滴の大きさを調整することが好ましい。原料棒40の径と融液41の液滴の大きさの関係は融液41の比重によって異なるが、例えば、原料棒40が酸化ガリウム系半導体の焼結体である場合は、その直径を5mm以下にすることが好ましい。
【0066】
図8(b)は、中空原料棒42を用いて原料融液を供給する様子を模式的に示す垂直断面図である。中空原料棒42は、単結晶21を構成する物質の焼結体からなる中空の棒である。
【0067】
原料供給口である貫通孔151、161に中空原料棒42を挿入し、その先端を第2の空間102の内側又は近傍に位置させて、第2の空間102の熱により溶かし、融液41の液溜まりを形成する。さらに、中空原料棒42の内部を通して粉末又は顆粒状の原料43を投下して、中空原料棒42の下端において前記第2の空間の熱で溶かして融液の液溜まりを大きくする。原料43は、中空原料棒42と同様に、単結晶21を構成する物質の焼結体からなる。
【0068】
融液41が液溜まりから自重で滴下するのを待ってもよく、原料棒40を振動させて滴下を促してもよく、また、中空原料棒42の内部を通してガスを送り込んで滴下を促してもよい。滴下した融液41は、第2の空間102と断熱板12の孔121を通過して種結晶20又は単結晶21の上面に供給される。
【0069】
なお、中空原料棒42の代わりに、単結晶21の原料ではなく、原料43や融液41と反応しない材料からなる中空管を用いてもよい。この場合も、中空管の内径を十分に小さくすることにより、中空管の内部に投下した原料43を中空管の下端で溶かして液溜まりを形成することができる。
【0070】
図8(c)は、漏斗44を用いて原料融液を供給する様子を模式的に示す垂直断面図である。漏斗44は、原料43や融液41と反応しない材料からなり、例えば、酸化ガリウム系半導体からなる単結晶21を製造する場合は、漏斗44の材料としてイリジウムやサファイアを用いる。
【0071】
漏斗44は、その下端が第2の空間102内に位置するように設置される。原料供給口である貫通孔151、161を通して漏斗44内に原料43を投入すると、第2の空間102の熱により漏斗44内で原料43が溶けて融液41となる。漏斗44から滴下した融液41は、第2の空間102と断熱板12の孔121を通過して種結晶20又は単結晶21の上面に供給される。
【0072】
なお、上記の中空原料棒42や漏斗44を用いずに、貫通孔151、161に原料43を投下してもよい。この場合、原料43が第2の空間102の熱で落下中に溶け、融液41の状態で単結晶21の上面に供給されることが理想的である。しかしながら、溶けずに粉末又は顆粒の状態で単結晶21の上面に達し、単結晶21の上面で溶ける場合であっても、単結晶21の育成速度を遅くすれば問題にならない。
【0073】
図9は、金属47を酸素ガスと反応させて、酸化物である原料43を得る様子を模式的に示す垂直断面図である。金属47は、単結晶21の金属成分の原料となる金属であり、例えば、酸化ガリウムの単結晶を単結晶21として製造する場合には、酸化ガリウムの焼結体である原料43を得るためにGaメタルを金属47として用いる。
【0074】
金属47は、貫通孔161に連結するように断熱材16の上に設置された中空管46の内部に投下される。また、金属47の投下と同時に、中空管46の内部に酸素ガスを流入させる。中空管46の周囲には金属47を誘導加熱するための誘導加熱用コイル45が巻かれており、加熱された金属47が中空管46の内部を降下中に酸素ガスと反応し、酸化物である原料43が得られる。
【0075】
この金属47と酸素ガスを反応させて原料43を形成する方法によれば、非常に高純度の粉末又は顆粒状の原料43を得ることができる。例えば、酸化ガリウムの焼結体である原料43を形成する場合、純度7N程度の原料43が得られる。この方法により、例えば、図8(b)や図8(c)に示される原料43を形成することができる。
【0076】
Gaメタルを金属47として用いる場合、少量であれば誘導加熱の周波数(誘導加熱用コイル45に流す交流電流の周波数)は100kHz以上であることが好ましい。ここで、少量とは、例えば、一度に投入されるGaメタル全体の体積が550mm以下であることをいう。
【0077】
また、1000℃程度ではGaメタルの表面しか酸化されないため、Gaメタルの全体を酸化させるために1400℃以上の温度に加熱することが好ましい。加熱温度を1400℃以上にする場合は、Gaメタルの形態は粉末、顆粒、液体などのいずれであってもよい。なお、ナノ粒子からなる霧状のGaメタルを金属47として用いる場合は、加熱温度が1400℃に満たない場合であってもその全体を酸化させることができる。ここで、Gaメタルのナノ粒子は、例えば、Gaメタルに音波照射を行うことによって形成することができる。また、Gaメタルのナノ粒子を直接誘導加熱することは困難であるため、中空管46の内側に誘導加熱用の被加熱体を設置してその輻射熱を利用するなど、間接的にGaメタルのナノ粒子を加熱する手段が求められる。
【0078】
また、上述した高純度の粉末又は顆粒状の原料43を得る方法に基づき、下記[1]~[3]の酸化ガリウムの製造方法を提供することができる。
[1]周囲に誘導加熱用コイルが巻かれた中空管の内部に、酸素ガスを流入させ、かつGaメタルを投下する工程と、前記誘導加熱用コイルに交流電流を流すことにより生じる磁界によって、前記中空管の内部の前記Gaメタルを誘導加熱して、前記Gaメタルと前記酸素ガスを反応させて酸化ガリウムを得る工程と、を含む、酸化ガリウムの製造方法。
[2]前記誘導加熱により、前記Gaメタルを1400℃以上の温度に加熱する、上記[1]に記載の酸化ガリウムの製造方法。
[3]前記誘導加熱の周波数が100kHz以上である、上記[1]又は[2]に記載の酸化ガリウムの製造方法。
【0079】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態に係る単結晶製造装置1によれば、坩堝を使用しないため、地金の使用量が少なく、設備費用を大きく低減することができる。また、坩堝を使用しないため、坩堝に含まれる成分の混入による、単結晶21の純度の低下のおそれがない。さらに、単結晶21の成長面からの放熱が抑えられるため、大型の単結晶21を製造することができる。
【0080】
例えば、単結晶製造装置1(図7(b)に示される底面351の幅が大きい形状制御用部材35を用いる形態と、図8(c)に示される漏斗44を用いる形態を除く)により純度6Nの原料を用いて酸化ガリウムからなる単結晶21を製造した場合、ホール補償の無いキャリア濃度1×1016cm-3未満のウェハを単結晶21から切り出すことができる。また、単結晶製造装置1により純度7Nの原料を用いて酸化ガリウムからなる単結晶21を製造した場合、ホール補償の無いキャリア濃度1×1015cm-3未満のウェハを単結晶21から切り出すことができる。そして、これらのウェハを用いることにより、耐圧を確保するためのエピタキシャル層を設けることなく高耐圧デバイスを作製することができる。なお、図7(b)に示される底面351の幅が大きい形状制御用部材35を用いる形態と、図8(c)に示される漏斗44を用いる形態が除かれるのは、単結晶21が形状制御用部材35や漏斗44からの不純物汚染を受ける場合があるためである。
【0081】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0082】
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0083】
1…単結晶製造装置、 10…断熱空間、 101…第1の空間、 102…第2の空間、 103…結晶育成領域、 11…誘導加熱用コイル、 12…断熱板、 121…孔、 13…加熱体、 19…支持軸、 20…種結晶、 21…単結晶、 31、32…断熱材、 33…加熱体、 34…断熱板、 35…形状制御用部材、 40…原料棒、 41…融液、 42…中空原料棒、 43…原料、 44…漏斗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9