(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024899
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】同軸蒸発装置およびそれを用いた蒸発システム
(51)【国際特許分類】
B01D 1/22 20060101AFI20220202BHJP
【FI】
B01D1/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127731
(22)【出願日】2020-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】390006264
【氏名又は名称】関西化学機械製作株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 有希
(72)【発明者】
【氏名】山路 寛司
(72)【発明者】
【氏名】高石 晃
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 涛
【テーマコード(参考)】
4D076
【Fターム(参考)】
4D076AA03
4D076AA22
4D076AA24
4D076BA18
4D076CB05
4D076CD04
4D076CD07
4D076CD22
4D076CD27
4D076CD35
4D076DA10
4D076DA25
(57)【要約】
【課題】 粘性の高低に関わらず原料液から、揮発成分と濃縮液との分離かつ回収を行うことができる同軸蒸発装置およびそれを用いた蒸発システムを提供すること。
【解決手段】 本発明の同軸蒸発装置は、上流に原料液の供給口を有し、かつ下流に原料液から揮発成分が蒸発して得られた濃縮液の排出口を有する筒体;筒体内に加熱面と第1の間隙を空けて配置されている回転部であって、筒体内で軸周りに回転可能な回転軸、ならびに外側表面と内側表面とを備え、回転軸の軸周りに内側表面と第2の間隙を空けて回転軸に固定され、かつ外側表面および内側表面を貫通する複数の蒸気口と外側表面上で遠心方向に延びる遠心翼とを有する中空回転体を有する回転部;を備える。ここで、中空回転体は外側表面上かつ遠心翼よりも下流に配置された順方向スクリュー翼を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発成分を含む原料液を供給して該原料液から該揮発成分を蒸発させるための同軸蒸発装置であって、
内周に加熱面を備え、上流に該原料液の供給口を有し、かつ下流に該原料液から該揮発成分が蒸発して得られた濃縮液の排出口を有する、筒体;
該筒体内に該加熱面と第1の間隙を空けて配置されている、回転部であって、
該筒体内で軸周りに回転可能な回転軸、ならびに
外側表面と内側表面とを備え、該回転軸の軸周りに該内側表面と第2の間隙を空けて該回転軸に固定されており、かつ該外側表面および該内側表面を貫通する複数の蒸気口と該外側表面上で遠心方向に延びる遠心翼とを有する中空回転体、
を有する、回転部;
を備え、
該中空回転体の該第2の間隙が該筒体の上流に配置された揮発成分出口と連絡し、
該中空回転体が、該外側表面上かつ該遠心翼よりも下流に配置された順方向スクリュー翼を有する、同軸蒸発装置。
【請求項2】
前記筒体が水平方向に沿って配置されている、請求項1に記載の同軸蒸発装置。
【請求項3】
前記順方向スクリュー翼が、前記中空回転体の前記外側表面上で、前記筒体の前記排出口が設けられた位置に対応して配置されている、請求項1または2に記載の同軸蒸発装置。
【請求項4】
前記順方向スクリュー翼が、前記中空回転体の前記外側表面上で、該順方向スクリュー翼の最下流端部が前記筒体における前記排出口が設けられた位置と略同じであるか、または下流に位置するように配置されている、請求項3に記載の同軸蒸発装置。
【請求項5】
前記中空回転体において、前記遠心翼の最上流端部から最下流端部までの軸方向長さ(LE)と、前記順方向スクリュー翼の最上流端部から最下流端部までの軸方向長さ(LJ)との比(LE/LJ)が1/1~20/1である、請求項1から4のいずれかに記載の同軸蒸発装置。
【請求項6】
前記中空回転体が、前記外側表面上に前記順方向スクリュー翼よりも下流に配置された逆方向スクリュー翼を有する、請求項1から5のいずれかに記載の同軸蒸発装置。
【請求項7】
前記遠心翼が櫛歯状の形態を有する、請求項1から6のいずれかに記載の同軸蒸発装置。
【請求項8】
蒸発システムであって、
請求項1から7のいずれかに記載の同軸蒸発装置と、
該同軸蒸発装置の該供給口に接続された原料液収容槽と、
該同軸蒸発装置の該揮発成分出口に接続された揮発成分回収槽と
を備える、蒸発システム。
【請求項9】
前記揮発成分出口を通じて前記筒体の内部を減圧するための減圧手段を備える、請求項8に記載の蒸発システム。
【請求項10】
前記揮発成分出口から得られた前記揮発成分を凝縮して前記揮発成分回収槽に供給するコンデンサを備える、請求項8または9に記載の蒸発システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸蒸発装置およびそれを用いた蒸発システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、食品工業や化学工業の分野において、夾雑物や不純物を含む原料液からの溶媒(揮発成分)の回収または当該原料液の濃縮を行うための薄膜蒸発装置が使用されている。
【0003】
ここで、揮発成分を蒸発させた後の残渣(「濃縮液」ともいう)が例えば0.8Pa・sを超えるような高粘度のものとなる場合には、原料液と接触して揮発成分の蒸発を促す加熱面を備える筒体を横向きに配置し、筒体内に配置した回転体を軸方向に回転させることにより当該蒸発を行うとともに、当該筒体からの濃縮液の排出を促す同軸蒸発装置が採用される(例えば、特許文献1)。
【0004】
図6は、特許文献1に記載されるような従来の同軸蒸発装置を表す一部切欠断面図である。
【0005】
従来の同軸蒸発装置600は、筒体602の内部にモーター604に軸方向に回転可能に接続された回転部606を備える。回転部606は、回転軸608と当該回転軸608と所定の間隙を空けて配置された中空回転体610で構成されている。回転軸608と中空回転体610とは少なくとも一部で固定されており、モーター604の駆動によって回転軸608と中空回転体610とが一緒に回転可能である。中空回転体610の外側表面612には、複数枚の遠心翼614が中空回転体610の軸方向に沿って一列に配置されており、そのような遠心翼614の列が中空回転体610の外側表面に例えば複数列により形成されている。中空回転体610はまた、外側表面612と内側表面616とを貫通する蒸気口618が設けられており、回転軸608と中空回転体610の内側表面616との間の間隙は、筒体602の上流に設けられた揮発成分出口620と連絡している。
【0006】
ここで、筒体602の外周に取り付けられたジャケット622の熱媒導入口623から蒸気などの熱媒が導入されると、筒体602の内周に位置する加熱面624が加熱される。この状態で、筒体602の上流に設けられた原料液の供給口626から筒体602に揮発成分を含有する原料液を供給すると、筒体602に導入された原料液は、下流に向かって流動する。その際、モーター604を駆動すると、筒体602内の原料液は、回転部606(すなわち、回転軸608および中空回転体610)の回転により遠心翼614と接触し、遠心力によって遠心翼614の回転方向外側に向かって移動して、最終的に筒体602の加熱面624に衝突する。そして、加熱面624上で原料液中の揮発成分は蒸発して気化し、中空回転体610の蒸気口618から回転軸608と中空回転体610の内側表面616との間の間隙および揮発成分出口620を通って外部に排気される。一方、加熱面624上で当該揮発成分が蒸発した後の原料液は、濃縮液としてそのまま筒体602内を移動し、筒体602の下流に設けられた排出口628から排出される。
【0007】
このようにして、従来の同軸蒸発装置600は、揮発成分を含有する原料液から、揮発成分と残渣となる濃縮液とを分離かつ回収することができる。
【0008】
しかし、従来の同軸蒸発装置600は、原料液の種類によって上記揮発成分と濃縮液との分離かつ回収を円滑に行うことができないことがあった。例えば、原料液が比較的粘性の高いものであったような場合には、筒体602内での揮発成分と濃縮液との分離によって、濃縮液の粘性がさらに高まり、筒体602内の移動が妨げられるためである。このため、従来の同軸蒸発装置600は使用可能な原料液に一部制限があり、こうした制限を解放する点でさらなる技術改良が所望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、粘性の高低に関わらず原料液から、揮発成分と濃縮液との分離かつ回収を行うことができる同軸蒸発装置およびそれを用いた蒸発システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、揮発成分を含む原料液を供給して該原料液から該揮発成分を蒸発させるための同軸蒸発装置であって、
内周に加熱面を備え、上流に該原料液の供給口を有し、かつ下流に該原料液から該揮発成分が蒸発して得られた濃縮液の排出口を有する、筒体;
該筒体内に該加熱面と第1の間隙を空けて配置されている、回転部であって、
該筒体内で軸周りに回転可能な回転軸、ならびに
外側表面と内側表面とを備え、該回転軸の軸周りに該内側表面と第2の間隙を空けて該回転軸に固定されており、かつ該外側表面および該内側表面を貫通する複数の蒸気口と該外側表面上で遠心方向に延びる遠心翼とを有する中空回転体、
を有する、回転部;
を備え、
該中空回転体の該第2の間隙が該筒体の上流に配置された揮発成分出口と連絡し、
該中空回転体が、該外側表面上かつ該遠心翼よりも下流に配置された順方向スクリュー翼を有する、同軸蒸発装置である。
【0012】
1つの実施形態では、上記筒体は水平方向に沿って配置されている。
【0013】
1つの実施形態では、上記順方向スクリュー翼は、上記中空回転体の上記外側表面上で、上記筒体の上記排出口が設けられた位置に対応して配置されている。
【0014】
さらなる実施形態では、上記順方向スクリュー翼が、上記中空回転体の上記外側表面上で、該順方向スクリュー翼の最下流端部が上記筒体における上記排出口が設けられた位置と略同じであるか、または下流に位置するように配置されている。
【0015】
1つの実施形態では、上記中空回転体において、上記遠心翼の最上流端部から最下流端部までの軸方向長さ(LE)と、上記順方向スクリュー翼の最上流端部から最下流端部までの軸方向長さ(LJ)との比(LE/LJ)は1/1~20/1である。
【0016】
1つの実施形態では、上記中空回転体は、上記外側表面上に上記順方向スクリュー翼よりも下流に配置された逆方向スクリュー翼を有する。
【0017】
1つの実施形態では、上記遠心翼は櫛歯状の形態を有する。
【0018】
本発明はまた、蒸発システムであって、
上記同軸蒸発装置と、
該同軸蒸発装置の該供給口に接続された原料液収容槽と、
該同軸蒸発装置の該揮発成分出口に接続された揮発成分回収槽と
を備える、蒸発システムである。
【0019】
1つの実施形態では、本発明の蒸発システムは、上記揮発成分出口を通じて上記筒体の内部を減圧するための減圧手段を備える。
【0020】
1つの実施形態では、本発明の蒸発システムは、上記揮発成分出口から得られた上記揮発成分を凝縮して上記揮発成分回収槽に供給するコンデンサを備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、原料液の種類に関わらず、揮発成分と濃縮液との分離かつ回収を効率良く行うことができる。特に粘性の高い原料液を使用したとしても、濃縮液を装置の外部に強制的に排出することができ、装置内で濃縮液の移動が停滞する可能性を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の同軸蒸発装置の一例を表す軸方向の一部切欠断面図である。
【
図2】
図1に示す本発明の同軸蒸発装置を構成する回転部の模式図であって、(a)は当該回転部の側面図であり、(b)は(a)に示す回転部のB-B方向拡大断面図である。
【
図3】
図1に示す本発明の同軸蒸発装置のA-A方向断面図である。
【
図4】本発明の同軸蒸発装置の他の例を表す軸方向の一部切欠断面図である。
【
図5】
図1に示す本発明の同軸蒸発装置を含む蒸発システムの構成を模式的に表す図である。
【
図6】従来の同軸蒸発装置を表す軸方向の一部切欠断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明について添付の図面を参照して説明する。
【0024】
(同軸蒸発装置)
図1は、本発明の同軸蒸発装置の一例を表す軸方向の一部切欠断面図である。本発明の同軸蒸発装置100は、筒体102および回転部106を備える。
【0025】
筒体102は、例えば円筒または少なくとも内周が円柱状に切り欠かれた形態を有する。筒体102は、上流側から下流側にかけて偏ることなく、好ましくは略均一に内壁に薄膜を形成することができるという理由から、水平方向に沿って配置されている。筒体102の内周は加熱面124を構成し、後述するジャケットなどの加熱手段を通じて筒体102の外周から伝達される熱を放出することができる。筒体102の上流には、揮発成分を含有する原料液を内部に供給するための供給口126が設けられている。他方、筒体102の下流には、原料液から揮発成分が蒸発して得られる濃縮液を当該筒体102の外部に排出するための排出口128が設けられている。
【0026】
筒体102は、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの金属およびこれらの組合せのいずれかでなる材料から構成されている。筒体102の内周の大きさについては必ずしも限定されるものではないが、軸方向の長さは好ましくは10cm~200cmであり、直径方向の長さは好ましくは10cm~200cmである。筒体102がこのような大きさを有していることにより、たとえ粘性の高い原料液であったとしても、当該原料液からの揮発成分と濃縮液との分離かつ回収を効率良く行うことができる。
【0027】
筒体102の内壁(すなわち、加熱面124)は、耐薬品性を高めるためにテフロン(登録商標)やゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0028】
本発明において、筒体102の外周には、所定温度に加熱された熱媒(例えば、水蒸気、熱水、熱媒油、熱媒油蒸気等を包含する)によって、筒体102の外周および内周を加熱するジャケット122のような加熱手段が設けられていてもよい。あるいは、加熱手段は、ジャケット122に代えて電熱コイルのようなものであってもよい。
【0029】
図1において、まず熱媒が水蒸気以外のものである場合について説明すると、ジャケット122の下流には、例えば熱媒をジャケット122内に流すための熱媒導入口123が設けられている。他方、ジャケット122の上流には、例えばジャケット内に導入された熱媒をジャケット122の外に排出するための熱媒排出口125が設けられている。熱媒は、図示しない当業者に公知の供給手段を用いて、熱媒導入口123からジャケット122内に例えば連続的に導入され、かつ熱媒排出口125から連続的に排出され得る。これにより、ジャケット122は筒体102を連続的に加熱することができる。あるいは、熱媒が水蒸気である場合は、熱媒導入口と熱媒排出口とが反対に設けられていてもよい。すなわち、例えば125が熱媒導入口であり、123が熱媒排出口となってもよい。
【0030】
回転部106は、その外側表面112と上記筒体102内の加熱面124との間に所定の間隔(「第1の間隔」ともいう)を空けて配置されており、筒体102内で軸周りに回転可能である。回転部106は、回転軸108および中空回転体110を備える。
【0031】
回転軸108は、筒体102内で軸周りに回転可能である。
図1において、回転軸108は筒体102の下流に配置されたモーター104と回転可能に接続されている。回転軸108は、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの剛性を有する金属で構成されたシャフトであり、例えば、円柱状または円筒状の形態を有する。回転軸108の平均直径は特に限定されないが、例えば2cm~100cmである。
【0032】
回転軸106の表面は、耐薬品性を高めるためにテフロン(登録商標)やゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0033】
中空回転体110は、外側表面112と内側表面116とを備え、回転軸110の軸周りに内側表面116との間で所定の間隔(「第2の間隔」ともいう)を空けて回転軸110に固定されている。これにより、中空回転体もまた筒体102内で軸周りに回転可能である。中空回転体110は、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの剛性を有する金属で構成されている。中空回転体110の平均内径は特に限定されないが、例えば3cm~300cmである。
【0034】
図2は、
図1に示す本発明の同軸蒸発装置100を構成する回転部106の模式図である。
【0035】
図2の(a)に示すように、中空回転体110の外側表面112には複数の蒸気口118が配置されている。蒸気口118は、中空回転体110の外側表面112と内側表面116とを貫通し、中空回転体110の外側表面112の側に存在する物質(例えば、原料液に含まれる揮発成分が蒸発して得られる気体)を中空回転体110の内側表面116の側に通過させることが可能である。このような蒸気口118は、例えば、外側表面112上で略一定の間隔を空けて中空回転体110の軸方向に一列に整列され、このような一列の蒸発口118が複数列組み合わされて中空回転体110の外側表面112上に配置されている。蒸気口118の形状は特に限定されないが、例えば円形、楕円形、矩形のような任意の形状であってよい。蒸気口118の大きさもまた特に限定されないが、例えば円形の蒸発口である場合、その開口部分の平均直径は好ましくは10mm~50mmである。
【0036】
さらに、蒸気口118は、中空回転体110の幅方向において回転軸108を中心として略均等な角度で設けられていることが好ましい(
図2の(b))。これにより、原料液に含まれる揮発成分の気体が中空回転体110の外側表面112の側の任意の方向に存在していたとしても、効率良く中空回転体110の内側表面116の側に通過させることができる。
【0037】
再び
図1を参照すると、中空回転体110の外側表面112上には、中空回転体110の遠心方向に延びる遠心翼114が設けられている。遠心翼114は、中空回転体110の外側表面112上に配置された原料液を、中空回転体110の回転による遠心力で中空回転体110の遠心方向(すなわち、中空回転体110の外側表面112から筒体102の内周の加熱面124の方向)に押し出して、加熱面124上に原料液の薄膜を形成することができる。遠心翼114はまた、原料液が加熱面124に衝突した際に生じる飛沫をその回転を通じて回収し、遠心力によって再び加熱面124に押し出すことができる。さらに遠心翼114は、筒内102と中空回転体110との間の間隙(第1の間隙)に存在する原料液が均一に撹拌し、加熱面124に衝突する原料液の厚みを略一定に保持することができる。
【0038】
図1に示す実施形態では、遠心翼114は例えば、薄板状の形態を有し、外側表面112上で略一定の間隔を空けて中空回転体110の軸方向に一列当たり2枚の遠心翼114が整列され、かつこれが複数列となって中空回転体110の外側表面112上に配置されている。遠心翼114は、中空回転体110の幅方向において、例えば回転軸108を中心として略均等な角度で(すなわち、回転軸108と中心軸として対称となるように)設けられていることが好ましい(
図2の(b)参照)。中空回転体110が回転する際の異常振動の発生を防止するためである。
【0039】
本発明において、遠心翼114はまた、中空回転体110の遠心方向の端部が櫛歯状の形態に切り欠かれていることが好ましい。遠心翼114が櫛歯状の形態を有することにより、遠心翼114が中空回転体110内を回転移動に伴って遠心翼114の櫛歯を構成する種々の角および辺によって、存在する原料液に複雑な乱流を提供することができ、結果として遠心翼114の周囲に存在する原料液の更新を促進することができる。
【0040】
本発明の同軸蒸発装置100では、中空回転体110の内側表面116と回転軸108の間に形成される間隙(第2の間隙)が筒体102の上流に配置された揮発成分出口120と連絡している。
【0041】
図1に示す実施形態では、筒体102の上流には、揮発成分出口120を有する揮発成分移動区画130が筒体102と物理的に隔離して設けられており、中空回転110の上流側端部132が揮発成分移動区画130内で回転可能に挿入されている。
【0042】
筒体102に供給された原料液は以下のようにして揮発成分および濃縮液に分離することができる。
図3を用いて説明する。
【0043】
図3に示すように、中空回転体110の回転(
図3の実線矢印)により遠心翼114を通じて筒体102の加熱面124に移動(
図3の白抜き矢印)して衝突した原料液は、その構成成分である揮発成分が当該加熱面124上で蒸発し、揮発成分の気体となる。ここで、
図1の揮発成分出口120を通じて同軸蒸発装置100の中空回転体110内を減圧すると、この揮発成分の気体が中空回転体110の蒸発口118を介して、中空回転体110の内側表面116と回転軸108の間に形成される当該第2の間隙に移動する(
図3の破線矢印)。このようにして第2の間隙に移動した揮発成分は、
図1に示す揮発成分出口120から取り出すことができる。
【0044】
一方、
図1を参照すると、筒体102と揮発成分移動区画130とが物理的に隔離されているので、筒体102の加熱面124と衝突した際に原料液の飛沫を生じたとしても、当該飛沫は遠心翼114に衝突して遠心力で124に戻されて中空回転体110の蒸発口118から第2の間隙を通って揮発成分移動区画130に入ることを回避できる。これにより、上記飛沫が、揮発成分出口120から揮発成分の気体と一緒に取り出され、原料液から分離された揮発成分に所望でない原料液の飛沫が不純物として混入することを防止できる。
【0045】
本発明の同軸蒸発装置100はまた、中空回転体110の外側表面112上かつ上記遠心翼114よりも下流に配置された順方向スクリュー翼134を有する。ここで、本明細書中において用語「スクリュー」と一緒に用いられる用語「順方向」とは、回転部106(回転軸108および中空回転体110)の回転により原料液または濃縮液が筒体102の上流から下流に向かって移動可能となる方向を指していう。また、本明細書中において用語「スクリュー」と一緒に用いられる用語「逆方向」とは、回転部106(回転軸108および中空回転体110)の回転により原料液または濃縮液が筒体102の下流から上流に向かって移動可能となる方向を指していう。
【0046】
順方向スクリュー翼134は、中空回転体110の周りに一枚またはそれ以上が連続または断続的に設けられている。順方向スクリュー翼134は、筒体102の特に下流近傍に存在する原料液や濃縮液をさらに下流に効率的に押し出すことができる。これにより、順方向スクリュー翼134は、例えば上記第1の間隙に粘性の高い原料液、または原料液から揮発成分が蒸発したことにより粘性がさらに高められた濃縮液が存在していたとしても、筒体102のさらに下流への移動を促すことができる。
【0047】
特に本発明の同軸蒸発装置100では、順方向スクリュー翼134は、中空回転体110の外側表面112上で、筒体102の排出口128が設けられた位置に対応して配置されていることが好ましい。具体的には、順方向スクリュー翼134は、中空回転体110の外側表面112上で、当該順方向スクリュー翼134の最下流端部136が筒体102における排出口128が設けられた位置と略同じであるか、または下流に位置するように配置されていることがより好ましい。順方向スクリュー翼134がこのように配置されていることにより、排出口128近傍または排出口128よりも上流で、粘性が高められた濃縮液の流動が筒体102内で停滞して、排出口128からの排出を妨げることを回避できる。
【0048】
筒体102における、中空回転体110に設けられた遠心翼114を構成する部分の長さと、順方向スクリュー翼134を構成する部分の長さとの割合もまた、原料液からの揮発成分の蒸発効率と、それにより得られる濃縮液の排出効率にも影響を及ぼし得る。中空回転体110において、遠心翼114の最上流端部144から最下流端部142までの軸方向長さLEと上記順方向スクリュー翼134の最上流端部138から最下流端部136までの軸方向長さLJとの比(LE/LJ)は、好ましくは2/1~20/1、より好ましくは2/1~10/1である。上記比(LE/LJ)が2/1を下回ると、LEに比較してLJが短くなりすぎることにより、筒体102内で得られた濃縮液の粘性によっては排出口128まで移動することが困難となり、結果として原料液からの揮発成分と濃縮液との分離を効率良く行うことができない場合がある。上記比(LE/LJ)が20/1を上回ると、LJに比較してLEが短くなりすぎることにより、供給口126から供給される原料液に含まれる揮発成分が遠心翼114を通じて加熱面124で十分に蒸発する前に原料液が順方向スクリュー翼134に移動することになり、結果として排出口128から揮発成分が十分に取り除かれていない状態の濃縮液(または原料液)が排出される場合がある。
【0049】
本発明の同軸蒸発装置100は、例えば原料液から得られる濃縮液が比較的高い粘性を有していたとしても、筒体102内で停滞することなく、筒体102の排出口128から当該濃縮液を適切に排出することができる。これにより、本発明の装置100は得られる濃縮液の粘性の高低に関わらず、様々な原料液からの揮発成分と濃縮液との分離を行うことができる。
【0050】
図4は、本発明の同軸蒸発装置の他の例を表す軸方向の一部切欠断面図である。なお、
図4において、本発明の同軸蒸発装置200を構成する各要素は、上記
図1に示す同軸蒸発装置100を構成するものと同一のものには同一符号が付されている。
【0051】
図4に示す同軸蒸発装置200は、筒体102および回転部206を備える。回転部206は、その外側表面212と上記筒体102内の加熱面124との間に所定の間隔(第1の間隔)を空けて配置されており、筒体102内で軸周りに回転可能である。回転部206は、回転軸108および中空回転体210を備える。
【0052】
同軸蒸発装置200では、中空回転体210は、外側表面212上に順方向スクリュー翼134よりも下流に配置された逆方向スクリュー翼214を有する。
【0053】
逆方向スクリュー翼214は、中空回転体210の周りに一枚またはそれ以上が連続または断続的に設けられている。中空回転体210における逆方向スクリュー翼214の向きは、順方向スクリュー134の向きと正反対であり、筒体102の最下流部分216近傍に移動した濃縮液を順方向スクリュー翼134の最下流端部136近傍まで効率的に押し戻すことができる。これにより、
図4に示す同軸蒸発装置200では、逆方向スクリュー214および順方向スクリュー翼134により、例えば上記第1の間隙に粘性の高い原料液、または原料液から揮発成分が蒸発したことにより粘性がさらに高められた濃縮液が存在していたとしても、当該濃縮液は順方向スクリュー翼134の最下流端部136近傍への移動が促される。その結果、粘性が高められた濃縮液の流動が、筒体102の例えば中央部分や最下流部分216で停滞し、排出口128からの排出を妨げることを回避できる。
【0054】
筒体102における、中空回転体110に設けられた順方向スクリュー翼134を構成する部分の長さと逆方向スクリュー翼214を構成する部分の長さとの割合もまた、原料液からの揮発成分の蒸発効率と、それにより得られる濃縮液の排出効率にも影響を及ぼし得る。中空回転体110において、順方向スクリュー翼134の最下流端部136から、逆方向スクリュー翼214の最下流端部に相当する筒体102の最下流端部216までの軸方向長さL
Gと、順方向スクリュー翼134の最上流端部138から最下流端部136までの軸方向長さL
Jとの比(L
G/L
J)は、好ましくは1/1~1/5、より好ましくは1/2~1/3である。このような比(L
G/L
J)の範囲を満足することにより、筒体102内の濃縮液は、順方向スクリュー翼134の最下流端部136近傍(すなわち
図4に示す排出口128の近傍)に集まり易くなり、排出口128からの濃縮液の排出をより効率的に行うことができる。
【0055】
本発明の同軸蒸発装置200は、例えば原料液から得られる濃縮液が比較的高い粘性を有していたとしても、筒体102内、特に筒体102の最下流部分216で滞留することなく、筒体102の排出口128から当該濃縮液を一層適切に排出することができる。
【0056】
(蒸発システム)
図5は、
図1に示す本発明の同軸蒸発装置を用いた蒸発システムの構成を模式的に表す図である。
【0057】
本発明の蒸発システム300は、同軸蒸発装置100と、同軸蒸発装置100の供給口126に接続された原料液収容槽302と、同軸蒸発装置100の揮発成分出口120に接続された揮発成分回収槽304とを備える。
【0058】
同軸蒸発装置100の熱媒導入口123には、水蒸気などの熱媒を当該同軸蒸発装置100のジャケット内に導入するための管330が接続されている。また、同軸蒸発装置100の熱媒排出口125には、当該導入された熱媒を同軸蒸発装置100の外部に排出するための管331が接続されている。
【0059】
同軸蒸発装置100の供給口126と原料液収容槽302とは管324で接続されており、管324は、図示しない送液手段(例えばポンプ)によって、原料液収容槽302に収容されている原料液を供給口126まで送液可能である。一方、同軸蒸発装置100の排出口128は、同軸蒸発装置100内で原料液から得られた濃縮液を同軸蒸発装置100の排出口128を通じて外部に排出するために、管325を通じて図示しない回収槽等に接続されていてもよい。
【0060】
同軸蒸発装置100の揮発成分出口120と揮発成分回収槽304との間には管326が設けられている。管326は点Pにて管328および管330に分岐し、管328は上方にコンデンサ340と管332を通じて減圧手段342(例えば、真空ポンプ)が配置されている。一方、管330の下流は貯留液回収槽304と接続されている。コンデンサ340には、冷却水などの冷媒を当該コンデンサ340に供給する管334と、コンデンサ340に供給された冷媒を当該コンデンサ340の外に排出する管336とが接続されている。同軸蒸発装置100内で原料液から分離された揮発成分は、同軸蒸発装置100の揮発成分出口120を通じて外部に排出可能である。
【0061】
図5に示す蒸発システム300では、例えば、管330を通じて同軸蒸発装置100の熱媒導入口123から所定の温度を有する熱媒が同軸蒸発装置100のジャケット内に導入され、同軸蒸発装置100内が加熱される。この状態で、原料液収容槽302から原料液が管324および同軸蒸発装置100の供給口126内に導入される。同軸蒸発装置100内で原料液から分離された揮発成分の気体は、減圧手段342を駆動することにより、同軸蒸発装置100の筒体の内部が減圧され、揮発成分出口120を通じて管326、点Pおよび管328を通じてコンデンサ340に導入される。ここで、揮発成分は、コンデンサ340に供給された冷媒によって気体から液体の状態に凝集する。その後、凝集した揮発成分は再び管328および点Pを通り、さらに管330を通じて揮発成分回収槽304に留出液として貯留かつ回収される。一方、同軸蒸発装置100内で原料液から得られた濃縮液は、同軸蒸発装置100の排出口128および管325を通じて外部に排出される。
【0062】
このようにして、本発明の蒸発システム300を用いて、原料液収容槽302に収容された原料液を、揮発成分および濃縮液に分離することができる。
【0063】
本発明の蒸発システムは、例えば、不純物を含有する液体(例えばメチルエステル、乳酸、魚油、油脂、グリセリンなど)の精製および濃縮;インク、塗料、化学品などの化学製品に含まれる水、エタノール、メチルエチルケトン(MEK)、N-メチルピロリドン(NMP)、ヘキサン、トルエン、アセトン、エチレングリコールなどの除去;塗料および樹脂製造分野に使用するモノマーおよびポリマーなどから揮発性の不純物の除去;において有用である。
【符号の説明】
【0064】
100,200 同軸蒸発装置
102 筒体
104 モーター
106,206 回転部
108 回転軸
110,210 中空回転体
112,212 外側表面
114 遠心翼
116 内側表面
118 蒸発口
120 揮発成分出口
122 ジャケット
123 熱媒導入口
124 加熱面
125 熱媒排出口
126 供給口
128 排出口
130 揮発成分移動区画
132 上流側端部
134 順方向スクリュー翼
214 逆方向スクリュー翼
300 蒸発システム
302 原料液収容槽
304 揮発成分回収槽
340 コンデンサ
342 減圧手段