(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024909
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】ガスセル、原子発信器、及び、それらの製造方法
(51)【国際特許分類】
H03L 7/26 20060101AFI20220202BHJP
H01S 1/06 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
H03L7/26
H01S1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127742
(22)【出願日】2020-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】519368965
【氏名又は名称】株式会社多摩川ホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】西野 仁
【テーマコード(参考)】
5J106
【Fターム(参考)】
5J106CC07
5J106GG02
5J106LL10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡単な構造で小型化することができるガスセル、原子発信器及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】ガスセル1は、側部を囲むように形成され両端が開口された中空状の側面部材1aと、側面部材1aの両端にそれぞれ配設された一対の透明部材1b、1cと、側面部材1aと一対の透明部材1b、1cとにより囲まれた1つの内部空間1dと、内部空間1dに封入されたアルカリ金属ガス1eと、内部空間1dの内面に形成された緩和防止膜1fとを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側部を囲むように形成され両端が開口された中空状の側面部材と、
この側面部材の両端にそれぞれ配設された一対の透明部材と、
前記側面部材と前記一対の透明部材とにより囲まれた1つの内部空間と、
前記内部空間に封入されたアルカリ金属ガスと、
前記内部空間の内面に形成された緩和防止膜と
を備えたことを特徴とするガスセル。
【請求項2】
レーザー素子によりアルカリ金属ガスを封入したガスセルに光を照射し、前記ガスセルを透過した光を受光素子により検出することにより、2種類の共鳴光による量子干渉効果による光吸収特性により変調周波数を制御する原子発振器であって、請求項1に記載のガスセルを用いたことを特徴とする原子発信器。
【請求項3】
第1の開口部、第2の開口部、及び、第3の開口部が仕切り部により仕切られて設けられ、周縁部に前記第1の開口部、第2の開口部、及び、第3の開口部の全体を囲む囲み部が形成され、かつ、前記囲み部は前記仕切り部よりも高さが高く、一面側において前記仕切り部よりも突出して設けられた本体基板を形成する工程と、
前記本体基板の他面側において、前記仕切り部及び前記囲み部と第1の透明基板とを接合する工程と、
前記第2の開口部にアルカリ金属発生材料を設置する工程と、
前記第3の開口部に緩和防止膜形成材料を設置する工程と、
前記本体基板の一面側において、前記囲み部と第2の透明基板とを接合する工程と、
前記アルカリ金属発生材料よりアルカリ金属ガスを発生させ、前記仕切り部と前記第2の透明基板との間を通して、前記アルカリ金属ガスを前記第1の開口部に拡散させる工程と、
前記緩和防止膜形成材料より緩和防止膜形成材料ガスを発生させ、前記仕切り部と前記第2の透明基板との間を通して、前記緩和防止膜形成材料ガスを前記第1の開口部に拡散させて、第1の開口部の内面及び前記第2の透明基板の内面に緩和防止膜を形成する工程と、
前記本体基板の一面側において、前記仕切り部と前記第2の透明基板とを接合する工程と
を含むことを特徴とするガスセルの製造方法。
【請求項4】
前記本体基板は、シリコン基板に前記第1の開口部、前記第2の開口部、及び、前記第3の開口部を形成し、一面側の周縁部に誘電体層を形成することにより囲み部を形成することを特徴とする請求項3記載のガスセルの製造方法。
【請求項5】
レーザー素子によりアルカリ金属ガスを封入したガスセルに光を照射し、前記ガスセルを透過した光を受光素子により検出することにより、2種類の共鳴光による量子干渉効果による光吸収特性により変調周波数を制御する原子発振器の製造方法であって、
請求項3又は請求項4に記載のガスセルの製造方法により前記ガスセルを作製する工程と、
前記レーザー素子により前記ガスセルに光を照射し、前記ガスセルを透過した光を前記受光素子により検出するように、前記レーザー素子、前記ガスセル、及び、前記受光素子を設置する工程と
を含むことを特徴とする原子発振器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属が封止されたガスセル、及び、それを用いた原子発信器、並びに、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長期的に安定な発振特性が得られている発振器として、ルビジウム(Rb)やセシウム(Cs)等のアルカリ金属原子のエネルギー遷移に基づいて発信する原子発振器、もしくは、原子時計が知られている。中でも、CPT(Coherent Population Trapping)共鳴効果を利用した方式の原子時計では、小型化が期待できるため、近年、移動通信機器等に搭載することが期待される。
【0003】
一般に、CPT共鳴のような量子干渉効果を利用した原子時計では、気体状態のアルカリ金属原子を封入したガスセルと、ガスセル中のアルカリ金属原子を共鳴させるための光源と、ガスセルを通過した光を検出する光検出器とを備えている。ガスセルとしては、例えば、シリコンウエハに形成された貫通孔の開口がガラス基板により封鎖され、内部にアルカリ金属と緩衝ガスが封入されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、近年では、原子発振器の小型化に伴いガスセルの小型化が求められているが、ガスセルが小型になるほど、気体状のアルカリ金属がガスセルの内面に衝突したときにエネルギー状態が変化し、それに起因して発振特性の低下が顕著になることが知られている。そこで、ガスセルの内面にアルカリ金属のエネルギー状態の変化を低減する緩和防止膜を形成することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7400207号明細書
【特許文献2】特開2018-11100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のガスセルは、構造が複雑であり、大きさも大きく、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて製造することが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、簡単な構造で小型化することができるガスセル、原子発信器、及び、それらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガスセルは、側部を囲むように形成され両端が開口された中空状の側面部材と、この側面部材の両端にそれぞれ配設された一対の透明部材と、側面部材と一対の透明部材とにより囲まれた1つの内部空間と、内部空間に封入されたアルカリ金属ガスと、内部空間の内面に形成された緩和防止膜とを備えたものである。
【0009】
本発明の原子発振器は、レーザー素子によりアルカリ金属ガスを封入したガスセルに光を照射し、ガスセルを透過した光を受光素子により検出することにより、2種類の共鳴光による量子干渉効果による光吸収特性により変調周波数を制御するものであて、本発明のガスセルを用いたものである。
【0010】
本発明のガスセルの製造方法は、第1の開口部、第2の開口部、及び、第3の開口部が仕切り部により仕切られて設けられ、周縁部に第1の開口部、第2の開口部、及び、第3の開口部の全体を囲む囲み部が形成され、かつ、囲み部は仕切り部よりも高さが高く、一面側において仕切り部よりも突出して設けられた本体基板を形成する工程と、本体基板の他面側において、仕切り部及び囲み部と第1の透明基板とを接合する工程と、第2の開口部にアルカリ金属発生材料を設置する工程と、第3の開口部に緩和防止膜形成材料を設置する工程と、本体基板の一面側において、囲み部と第2の透明基板とを接合する工程と、アルカリ金属発生材料よりアルカリ金属ガスを発生させ、仕切り部と第2の透明基板との間を通して、アルカリ金属ガスを第1の開口部に拡散させる工程と、緩和防止膜形成材料より緩和防止膜形成材料ガスを発生させ、仕切り部と第2の透明基板との間を通して、緩和防止膜形成材料ガスを第1の開口部に拡散させて、第1の開口部の内面及び第2の透明基板の内面に緩和防止膜を形成する工程と、本体基板の一面側において、仕切り部と第2の透明基板とを接合する工程とを含むものである。
【0011】
本発明の原子発信器の製造方法は、レーザー素子によりアルカリ金属ガスを封入したガスセルに光を照射し、ガスセルを透過した光を受光素子により検出することにより、2種類の共鳴光による量子干渉効果による光吸収特性により変調周波数を制御する原子発振器を製造するものであって、本発明のガスセルの製造方法によりガスセルを作製する工程と、レーザー素子によりガスセルに光を照射し、ガスセルを透過した光を受光素子により検出するように、レーザー素子、ガスセル、及び、受光素子を設置する工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、側面部材と一対の透明部材とにより囲まれた1つの内部空間の内面に緩和防止膜を形成し、アルカリ金属ガスを封入するようにしたので、簡単な構造で小型化することができる。
【0013】
また、第1の開口部、第2の開口部、及び、第3の開口部を設けた本体基板の他面側に第1の透明基板を接合し、第2の開口部にアルカリ金属発生材料を設置すると共に、第3の開口部に緩和防止膜形成材料を設置して、本体基板の一面側において、囲み部と第2の透明基板とを接合したのち、アルカリ金属ガスを第1の開口部に拡散させると共に、緩和防止膜形成材料ガスを第1の開口部に拡散させて緩和防止膜を形成し、本体基板の一面側において、仕切り部と第2の透明基板とを接合するようにしたので、本発明のガスセルを容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るガスセルの構成を表すものである。
【
図2】
図1に示したガスセルの製造方法における一工程を表すものである。
【
図3】
図2に示した工程における各工程を表すものである。
【
図5】
図1に示したガスセルを用いた原子発信器の構成を表すものである。
【
図6】本発明の第2の実施の形態に係るガスセルの製造方法における工程を表すものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1は、本実施の形態に係るガスセル1の構成を表すものである。このガスセル1は、原子発振器等に好ましく用いることができるものであり、側部を囲むように形成され両端が開口された中空状の側面部材1aと、この側面部材1aの両端にそれぞれ配設された一対の透明部材1b,1cと、これら側面部材1aと一対の透明部材1b,1cとにより囲まれた1つの内部空間1dとを備えている。内部空間1dには、アルカリ金属ガス1eが封入されて、内部空間1dの内面には、緩和防止膜1fが形成されている。なお、図面では、アルカリ金属ガス1eを小丸で概念的に示している。
【0017】
側面部材1aは、例えば、半導体又は金属により構成され、中でも、シリコン(Si)により構成することが好ましい。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)加工プロセスに対応することができ、また、アルカリ金属元素がシリコンと反応をしないためである。側面部材1aの高さ(開口の対向方向における長さ)は、例えば、0.3mmから10mmとすることが好ましい。側面部材1aの端面形状及び開口形状は、例えば、四角形や円形などどのような形状でもよい。透明部材1bは、例えば、ガラスにより構成され、中でも、ホウケイ酸ガラスにより構成されることが好ましい。側面部材1aと透明部材1bとは、例えば、陽極接合により接合されていることが好ましい。
【0018】
内部空間1dには、アルカリ金属ガス1eと共に、緩衝ガスが封入されていることが好ましい。緩衝ガスとしては、不活性ガスが好ましく挙げられる。不活性ガスは、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)等の希ガス類元素、又は、窒素(N2)である。アルカリ金属ガス1eとしては、RbやCs等が挙げられる。緩和防止膜1fは、内部空間1dの内面にアルカリ金属ガス1eが衝突した再の挙動の変化を低減するためのものである。緩和防止膜1fは、例えば、フッ素系樹脂、シロキサン系化合物、又は、鎖式飽和炭化水素を含むことが好ましい。より高い効果を得ることができると共に、化学的安定性に優れるからである。緩和防止膜1fの厚みは、例えば、20nmから20μmであることが好ましい。
【0019】
このガスセル1は、例えば、次のようにして製造することができる。
図2から
図4は、ガスセル1の製造工程を表すものである。まず、例えば、
図2に示したように、ガスセル1の側面部材1aを形成するための本体基板10を形成する(本体基板形成工程)。本体基板10は、第1の開口部11、第2の開口部12、及び、第3の開口部13が仕切り部14により仕切られて設けられ、周縁部に第1の開口部11、第2の開口部12、及び、第3の開口部13の全体を囲む囲み部15が形成され、かつ、囲み部15は仕切り部14よりも高さが高く、一面側において仕切り部14よりも突出して設けられたものである。
【0020】
本体基板10は、例えば、次のようにして形成することができる。まず、例えば、
図3(A)に示したように、Si(シリコン)基板16を用意する。Si基板16の厚みは、例えば、0.3mmから10mmとすることが好ましい。次いで、例えば、
図3(B)に示したように、Si基板16の表面を熱酸化し、酸化膜よりなる誘電体層17を形成する。誘電体層17の厚みは、500nmから1000nmとすることが好ましい。
【0021】
続いて、例えば、
図3(C)に示したように、誘電体層17をパターニングし、Si基板16の一面側において、周縁部の全周を囲むように誘電体層17を残し、他は除去する。これにより、Si基板16の一面側の周縁部に、誘電体層17の分だけSi基板16の他の部分よりも高さが高く、一面側に突出した囲み部15が形成される。誘電体層17のパターニングは、例えば、Si基板16の一面側の周縁部に、囲み部15に対応させてレジストパターン(図示せず)を形成し、このレジストパターンをマスクとしてフッ酸を用いて誘電体層17をエッチングしたのち、剥離材等を用いてレジストパターンを除去することにより行う。
【0022】
次に、例えば、
図2に示したように、囲み部15を形成したSi基板16にレジストパターン(図示せず)を形成し、このレジストパターンをマスクとしてSi基板16をエッチングし、囲み部15の内側に、仕切り部14により仕切られた第1の開口部11、第2の開口部12、及び、第3の開口部13を形成する。第1の開口部11は、ガスセル1の内部空間1dとなる部分であり、Si基板16を貫通して設ける。第2の開口部12は、後続の工程においてアルカリ金属発生材料を設置するためのものであり、必ずしもSi基板16を貫通して設ける必要はない。第3の開口部13は、後続の工程において緩和防止膜形成材料を設置するためのものであり、必ずしもSi基板16を貫通して設ける必要はない。第1の開口部11は、囲み部15の内側に複数設けることが好ましく、第2の開口部12及び第3の開口部13は、囲み部15の内側に1つずつ設けることが好ましい。第1の開口部11、第2の開口部12、及び、第3の開口部13の形状は、四角形や円形などどのような形状でもよい。エッチングは、例えば、水酸化カリウムや水酸化テトラメチルアンモニウム等のアルカリ溶液によるシリコンの結晶異方性ウエットエッチングや、Deep RIE(深堀反応性エッチング)等のドライエッチングが挙げられる。
【0023】
本体基板形成工程の後、例えば、
図4(A)に示したように、本体基板10の他面側において、仕切り部14及び囲み部15と、ホウケイ酸ガラス基板よりなる第1の透明基板21とを、陽極接合により直接接合する(第1の透明基板接合工程)。第1の透明基板21は、ガスセル1の透明部材1bを形成するものである。陽極接合というのは、ホウケイ酸ガラスと半導体等を接触させ、半導体側を陽極として両者の間に数百V程度の直流電圧を加えることで、介在物を用いることなく両者を直接接合する方法である。具体的には、例えば、陽極接合装置のチャンバー内において、本体基板10及び第1の透明基板21を400℃に加熱して、本体基板10の他面に第1の透明基板21を接触させ、本体基板10の側を陽極として500Vの電圧を印加し、本体基板10と第1の透明基板21との間に圧力を加えることにより接合する。
【0024】
第1の透明基板接合工程の後、例えば、
図4(B)に示したように、本体基板10の第2の開口部12にアルカリ金属発生材料22を設置する(アルカリ金属発生材料設置工程)。アルカリ金属発生材料22としては、例えば、Rb(ルビジウム)やCs(セシウム)等のアルカリ金属原子と、Zr(ジルコニウム),Si,Ti(チタン),Al(アルミニウム)等の化合物と組み合わせたペレット状のものがある。また、本体基板10の第3の開口部13に緩和防止膜形成材料23を設置する(緩和防止膜形成材料設置工程)。緩和防止膜形成材料23としては、緩和防止膜1fを構成する材料、例えば、フッ素系樹脂、シロキサン系化合物、又は、鎖式飽和炭化水素が挙げられる。
【0025】
アルカリ金属発生材料設置工程及び緩和防止膜形成材料設置工程の後、例えば、
図4(C)に示したように、本体基板10の一面側において、囲み部15とホウケイ酸ガラス基板よりなる第2の透明基板24とを、陽極接合により直接接合する(第2の透明基板囲み部接合工程)。第2の透明基板24は、ガスセル1の透明部材1cを形成するものである。陽極接合は、第1の透明基板接合工程と同様にして行うことができるが、第2の透明基板囲み部接合工程では、緩衝ガスの制御圧力下において行う。これにより、本体基板10と第1の透明基板21と第2の透明基板24との間、すなわち、第1の開口部11、第2の開口部12、及び、第3の開口部13に緩衝ガスを封入する。緩衝ガスとしては、不活性ガスが好ましく挙げられる。不活性ガスは、アルゴン、ネオン等の希ガス類元素、又は、窒素である。
【0026】
また、この陽極接合では、囲み部15と第2の透明基板24とを接合する。囲み部15は一面側において仕切り部14よりも突出して設けられているので、囲み部15と第2の透明基板24とを選択的に接合し、仕切り部13と第2の透明基板23との間に隙間を形成することができる。すなわち、第1の開口部11と第2の開口部12、及び、第1の開口部11と第3の開口部13はこの隙間を介して連通されている。
【0027】
第2の透明基板囲み部接合工程の後、例えば、
図4(D)に示したように、アルカリ金属発生材料22よりアルカリ金属ガス1eを発生させ、仕切り部14と第2の透明基板24との間を通して、アルカリ金属ガス1eを第2の開口部12から第1の開口部11に拡散させる(アルカリ金属ガス拡散工程)。具体的には、例えば、アルカリ金属発生材料22に、YAGレーザー等の赤外線領域のレーザー、又は、紫外線を照射することによりアルカリ金属ガス1eを発生させる。
【0028】
また、第2の透明基板囲み部接合工程の後、例えば、緩和防止膜形成材料23より緩和防止膜形成材料ガスを発生させ、仕切り部14と第2の透明基板24との間を通して、緩和防止膜形成材料ガスを第3の開口部13から第1の開口部11に拡散させ、第1の開口部11の内面及び第2の透明基板24の内面に緩和防止膜1fを形成する(緩和防止膜形成工程)。具体的には、例えば、
図4(E)に示したように、常温もしくは50℃から200℃程度に加熱してプラズマ活性化処理を行い、緩和防止膜形成材料ガスを発生させて緩和防止膜1fを形成する。プラズマ活性化処理は、例えば、チャンバー内でプラズマを発生させることができる装置に入れて行う。本体基板10と第1の透明基板21と第2の透明基板24との間には、数kPa程度の圧力で不活性ガス(アルゴンや窒素などの)が封入されているため内部でプラズマが発生しやすい条件になっている。なお、この工程により、仕切り部14と第2の透明基板24との間にも緩和防止膜1fが形成されるが、後続の第2の透明基板仕切り部接合工程で加熱されることにより気体となるので除去される。
【0029】
アルカリ金属ガス拡散工程及び緩和防止膜形成工程の後、例えば、
図4(F)に示したように、本体基板10の一面側において、仕切り部14と第2の透明基板24との間に圧力を加え、仕切り部14と第2の透明基板24とを陽極接合により接合する(第2の透明基板仕切り部接合工程)。これにより、第1の開口部11にアルカリ金属ガス1eを封入する。なお、陽極接合は、第1の透明基板接合工程と同様にして行うことができる。
【0030】
第2の透明基板仕切り部接合工程の後、例えば、仕切り部14において、第1の開口部11毎に切断する(切り出し工程)。これにより
図1に示したガスセル1が得られる。
【0031】
このようにして作製したガスセル1は、原子発信器30に用いることができる。
図5は原子発信器30の構成を表すものである。この原子発信器30は、CPT方式の小型原子発振器であり、例えば、レーザー素子31、コリメートレンズ32、λ/4波長板33、ガスセル1、受光素子34、制御回路35を有している。レーザー素子31は、例えば、面発光レーザー素子により構成することが好ましい。受光素子34は、例えば、フォトダイオードにより構成される。
【0032】
この原子発信器30では、例えば、レーザー素子31から出射された光をガスセル1に照射し、内部空間1dに封入したアルカリ金属の電子を励起する。ガスセル1を透過した光は受光素子34において検出され、受光素子34において検出された信号は制御回路35にフィードバックされ、制御回路35によりレーザー素子31からのレーザー光の変調周波数を調整する。この原子発信器30は、アルカリ金属の電子が二つの基底準位から励起準位に同時に励起された時に光の吸収率が低下することを利用するものであり、2種類の共鳴光による量子干渉効果による光吸収特性により変調周波数を制御するものである。
【0033】
この原子発信器30の製造方法は、例えば、本実施の形態に係るガスセルの製造方法によりガスセル1を作製する工程を含んでおり、これにより得られたガスセル1を利用して、レーザー素子31によりガスセル1に光を照射し、ガスセル1を透過した光を受光素子34により検出するように、レーザー素子31、ガスセル1、及び、受光素子34を設置する工程を含んでいる。
【0034】
このように、本実施の形態によれば、側面部材1aと一対の透明部材1b,1cとにより囲まれた1つの内部空間1dの内面に緩和防止膜1fを形成し、アルカリ金属ガス1eを封入するようにしたので、簡単な構造で小型化することができる。
【0035】
また、第1の開口部11、第2の開口部12、及び、第3の開口部13を設けた本体基板10の他面側に第1の透明基板21を接合し、第2の開口部12にアルカリ金属発生材料22を設置すると共に、第3の開口部13に緩和防止膜形成材料23を設置して、本体基板10の一面側において、囲み部14と第2の透明基板24とを接合したのち、アルカリ金属ガス1eを第1の開口部11に拡散させると共に、緩和防止膜形成材料ガスを第1の開口部11に拡散させて緩和防止膜1fを形成し、本体基板10の一面側において、仕切り部14と第2の透明基板24とを接合するようにしたので、本実施の形態に係るガスセル1を容易に実現することができる。
【0036】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係るガスセルの製造方法は、本体基板形成工程における具体的な工程が異なることを除き、他は、第1の実施の形態と同様である。よって、本実施の形態では、第1の実施の形態と異なる工程、すなわち、本体基板形成工程について説明する。なお、第1の実施の形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0037】
図6は、第2の実施の形態に係るガスセルの製造方法における本体基板形成工程の各工程を表すものである。まず、例えば、
図6(A)に示したように、Si基板16を用意し、例えば、
図6(B)に示したように、Si基板16の表面を熱酸化し、酸化膜よりなる誘電体層17を形成する。Si基板16及び誘電体層17の厚みは第1の実施の形態と同様である。
【0038】
次いで、例えば、
図6(C)に示したように、Si基板16の一面側の周縁部に、囲み部15に対応させてレジストパターン18を形成する。続いて、例えば、
図6(D)に示したように、レジストパターン18をマスクとして、フッ酸を用いて誘電体層17の表面側の一部のみをエッチングしたのち、剥離材等を用いてレジストパターン18を除去する。すなわち、レジストパターン18により覆われていない部分の誘電体層17を全てエッチングにより除去するのではなく、誘電体層17の厚みを薄くする。これにより、Si基板16の一面側の周縁部には、厚みの厚い誘電体層17が形成され、その他の部分には、厚みの薄い誘電体層17が形成される。周縁部の厚みの厚い誘電体層17が形成された部分が囲み部15となる。厚みの薄い部分の誘電体層17の厚みは、例えば、50nmから500nmとすることが好ましい。
【0039】
次に、例えば、
図6(E)に示したように、誘電体層17をパターニングし、第1の開口部11、第2の開口部12、及び、第3の開口部13の形成位置に開口を設け、Si基板16を露出させる。誘電体層17のパターニングは、例えば、第1の開口部11、第2の開口部12、及び、第3の開口部13の形成位置に開口を設けたレジストパターン(図示せず)を形成し、このレジストパターンをマスクとしてフッ酸を用いて誘電体層17をエッチングしたのち、剥離材等を用いてレジストパターンを除去することにより行う。
【0040】
その後、例えば、
図6(F)に示したように、誘電体層17をマスクとして、Si基板16をエッチングし、囲み部15の内側に、仕切り部14により仕切られた第1の開口部11、第2の開口部12、及び、第3の開口部13を形成する。エッチングは、例えば、水酸化カリウムや水酸化テトラメチルアンモニウム等のアルカリ溶液によるシリコンの結晶異方性ウエットエッチングや、Deep RIE(深堀反応性エッチング)等のドライエッチングが挙げられる。
【0041】
Si基板16をエッチングしたのち、例えば、
図6(G)に示したように、誘電体層17をパターニングし、Si基板16の一面側において、周縁部の厚みの厚い部分、すなわち囲み部15の部分を残し、他は除去する。誘電体層17のパターニングは、例えば、Si基板16の一面側の周縁部に、囲み部15に対応させてレジストパターン(図示せず)を形成し、このレジストパターンをマスクとしてフッ酸を用いて誘電体層17をエッチングしたのち、剥離材等を用いてレジストパターンを除去することにより行う。
【0042】
これにより本体基板10を形成したのち、他は、第1の実施の形態と同様に、第1の透明基板接合工程、アルカリ金属発生材料設置工程、緩和防止膜形成材料設置工程、第2の透明基板囲み部接合工程、アルカリ金属ガス拡散工程、緩和防止膜形成工程、第2の透明基板仕切り部接合工程、及び、切り出し工程を行う。
【0043】
本実施の形態の製造方法により作製したガスセル1も第1の実施の形態と同様に原子発信器30に用いることができ、同様にして原子発信器30を製造することができる。また、本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0044】
(変形例1)
上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、誘電体層17として酸化膜を形成する場合について説明したが、窒化ケイ素(SiN)等の窒化膜により構成するようにしてもよい。その場合、誘電体層17は、例えば、減圧CVD(Low-Pressure Chemical Vapor Deposition:LPCVD)により形成することができる。
【0045】
(変形例2)
上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、エッチングにより、Si基板16に第1の開口部11、第2の開口部12、及び、第3の開口部13を形成する場合について説明したが、ウォータージェットを利用して加工するようにしてもよい。
【0046】
(変形例3)
上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、本体基板10を1枚のSi基板16を用いて形成する場合について説明したが、複数のSi基板を用いて形成するようにしてもよい。
【0047】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、各構成要素について具体的に説明したが、全ての構成要素を備えていなくてもよく、また、他の構成要素を備えていてもよい。また、各構成要素の具体的な構成は一例を示したものであり、異なっていてもよい。更に、上記実施の形態では、各工程について具体的に説明したが、全ての工程を備えなくてもよく、また、他の工程を備えていてもよい。また、各工程における具体的な条件は一例を示したものであり、異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…ガスセル、1a…側面部材、1b,1c…透明部材、1d…内部空間、1e…アルカリ金属ガス、1f…緩和防止膜、10…本体基板、11…第1の開口部、12…第2の開口部、13…第3の開口部、14…仕切り部、15…囲み部、16…Si基板、17…誘電体層、18…レジストパターン、21…第1の透明基板、22…アルカリ金属発生材料、23…緩和防止膜形成材料、24…第2の透明基板、30…原子発信器、31…レーザー素子、32…コリメートレンズ、33…λ/4波長板、34…受光素子、35…制御回路