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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024997
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】触媒粒子
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/745 20060101AFI20220202BHJP
   C01G 49/06 20060101ALI20220202BHJP
   C01G 49/02 20060101ALI20220202BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20220202BHJP
   C01B 3/30 20060101ALI20220202BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20220202BHJP
【FI】
B01J23/745 Z
C01G49/06 A
C01G49/02 A
C01G49/00 A
C01B3/30
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087662
(22)【出願日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2020127710
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】片山 美和
(72)【発明者】
【氏名】河合 一誠
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 俊介
【テーマコード(参考)】
4G002
4G140
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G002AA03
4G002AA05
4G002AA06
4G002AE05
4G140DA03
4G140DB02
4G140DC02
4G146AA01
4G146AB01
4G146BA12
4G146BC03
4G146BC32B
4G146BC33B
4G146BC44
4G146DA02
4G146DA13
4G146DA14
4G146DA27
4G169AA02
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB05A
4G169BB05B
4G169BC10B
4G169BC16B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169CB35
4G169CC07
4G169CC31
4G169DA08
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EB18Y
4G169EC27
4G169FB64
4G169FB67
4G169FC02
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】粒子を炉内で流動させて行う反応において、触媒粒子の炉内への付着を低減できるようにし、所望の生成物の製造効率を向上できるようにする。また、そのような触媒粒子を用いて、効率良く反応を進行させることにある。
【解決手段】本発明の触媒粒子は、炉内で流動されながら加熱され、炉内に導入された原料ガスを転化する用途で用いられる触媒粒子であって、粉体XRDにおいて鉄酸化物相、鉄水酸化物相、スピネル型フェライト相、およびFe含有層状複水酸化物相のうち少なくとも一つ以上を示し、崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下、且つスパチュラ角が61.5°以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内で流動されながら加熱され、炉内に導入する原料ガスを転化する用途で用いられる触媒粒子であって、
粉体XRDにおいて鉄酸化物相、鉄水酸化物相、スピネル型フェライト相、およびFe含有層状複水酸化物相のうち少なくとも一つ以上を示し、
崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下、且つスパチュラ角が61.5°以下であることを特徴とする触媒粒子。
【請求項2】
前記鉄酸化物相は、ヘマタイトであることを特徴とする請求項1に記載の触媒粒子。
【請求項3】
前記鉄水酸化物相は、ゲーサイトであることを特徴とする請求項1に記載の触媒粒子。
【請求項4】
前記層状複水酸化物相は、ハイドロタルサイトであることを特徴とする請求項1に記載の触媒粒子。
【請求項5】
前記粒子は、鉄含有量が5%以上80%以下であることを特徴とする請求項1に記載の触媒粒子。
【請求項6】
前記原料ガスは、C2a+b(aは4以下の正の整数、bは-2、0、2のいずれか)を含むことを特徴とする請求項1に記載の触媒粒子。
【請求項7】
前記炉は、ロータリーキルンであることを特徴とする請求項1に記載の触媒粒子。
【請求項8】
前記原料ガスの転化は、飽和炭化水素を水素と固体炭素に熱分解させる反応であることを特徴とする請求項1に記載の触媒粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素の熱分解または転化用の触媒粒子に関し、特に、流動状態における加熱反応に適したFe含有触媒粒子およびそれを用いた水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、気体や固体等の被処理物に加熱処理を施して、所望の生成物を得るために種々の炉が用いられている。例えば特許文献1には、炉として保持器によって支持された触媒層を収容する反応容器を含む連続式固定床触媒反応装置を用いて、反応容器内で炭化水素含有ガスを加熱することで水素、一酸化炭素およびメタン等を製造することが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、回転炉内に触媒粒子と共にエチレン等の炭化水素を含有する原料ガスを導入し、触媒粒子を回転により流動させながら加熱することにより、触媒粒子上にカーボンナノチューブを生成させることについて記載されている。さらに、特許文献3には、炉としてスクリューフィーダを反応容器内に備えたスクリュー式触媒反応装置を使用して、メタンを改質して、ナノ炭素および水素を製造する方法が記載されている。
【0004】
上記特許文献2および3では、回転炉内に触媒粒子および原料ガスを連続的に導入する一方で、触媒に堆積されたカーボンナノチューブ又はナノ炭素を反応容器内から連続的に排出している。特にこのような生成物が触媒に堆積するような反応の場合、触媒における原料ガスとの接触面積が次第に低減して反応効率が低減するが、特許文献2および3では、生成物が堆積された触媒粒子の排出と共に、新鮮な触媒が導入されるため、連続的に高効率の反応を維持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-166106号公報
【特許文献2】特表2013-518015号公報
【特許文献3】特開2011-116656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2および3のような反応の場合、触媒粒子を炉の回転やスクリューにより流動させてはいるものの、触媒粒子が炉の内壁やスクリューの羽根に付着することが起こり得る。そうすると、触媒粒子およびそれに堆積した生成物が排出されないまま維持され、その結果、全体として反応効率が低減し、所望の生成物の製造効率が低減することとなる。
【0007】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、触媒粒子を炉内で流動させて行う反応において、触媒粒子の炉の内壁への付着を低減できるようにし、所望の生成物の製造効率を向上できるようにすることにある。また、そのような触媒粒子を用いて、効率良く反応を進行させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明では、触媒粒子を適度な流動性を有し、且つ炉の内壁に付着し難い構成とした。
【0009】
具体的に、本発明に係る触媒粒子は、炉内で流動されながら加熱され、炉内に導入する原料ガスを転化する用途で用いられる触媒粒子であって、粉体XRDにおいて鉄酸化物相、鉄水酸化物相、スピネル型フェライト相、およびFe含有層状複水酸化物相のうち少なくとも一つ以上を示し、崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下、且つスパチュラ角が61.5°以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る触媒粒子によると、粒子の流動性の指標の一つである崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下、且つスパチュラ角が61.5°以下であるため、炉内で流動されながら用いられる場合に粉が適度に炉内で流動し、且つ炉の内壁に付着し難い。このため、連続的に炉内への触媒粒子の導入および炉外への触媒粒子の排出を行う場合に、触媒粒子が炉内に付着して留まることを防止できる。また、上記の通り適度な流動性を有するため、炉内における原料ガスとの接触性を向上できて、所望の生成物を得るための反応を効率良く促進することができる。
【0011】
本発明に係る水素の製造方法は、炉内に崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下、且つスパチュラ角が61.5°以下である触媒粒子と、炭化水素を含む原料ガスを投入するステップと、前記炉内で前記触媒粒子を流動させながら前記触媒粒子および原料ガスを加熱するステップと、前記加熱により発生した水素を回収するステップとを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る水素の製造方法によると、粒子の流動性の指標の一つである崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下、且つスパチュラ角が61.5°以下である触媒粒子を用いるため、上述の通り、触媒粒子が炉内に付着して留まることを防止できる。従って、炭化水素を含む原料ガスに対する触媒粒子の接触性を向上することができるため、炭化水素の接触熱分解反応を促進することができる。その結果、水素の収率を向上することができる。
【0013】
本発明に係る触媒粒子において、鉄酸化物相は、ヘマタイトであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る触媒粒子において、鉄水酸化物相は、ゲーサイトであることが好ましい。
【0015】
本発明に係る触媒粒子において、層状複水酸化物相は、ハイドロタルサイトであることが好ましい。
【0016】
本発明に係る触媒粒子は、鉄含有量が5%以上80%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る触媒粒子において、原料ガスは、C2a+b(aは4以下の正の整数、bは-2、0、2のいずれか)を含むことが好ましい。
【0018】
本発明に係る触媒粒子において、前記炉は、ロータリーキルンであってもよい。
【0019】
本発明に係る触媒粒子は、上記の通り適度な流動性を有し、粒子の炉内における付着防止効果を良好にすることができるため、炉内に投入された粒子を回転により流動させるロータリーキルンを採用する場合に、特に有効である。
【0020】
本発明に係る触媒粒子において、原料ガスの転化は、飽和炭化水素を水素と固体炭素に熱分解させる反応であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る触媒粒子によると、触媒粒子が適度な流動性を有するため、触媒粒子の炉内への付着を低減でき、原料ガスとの接触性を向上できるため、触媒粒子が水素生成反応を効率良く促進できるので、水素の製造効率を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法又はその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
本発明の一実施形態に係る触媒粒子は、崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下、且つスパチュラ角が61.5°以下であることを特徴とし、炉内で流動されながら加熱される用途で用いられるものであり、一例として炭化水素熱分解用の触媒粒子として用いられる。崩潰角およびスパチュラ角は、粒子の流動性の指標の一つとして用いられる。崩潰角とは、山型の粒子層が衝撃によって崩れたときの、斜面(稜線)と水平面とのなす角で表される。具体的には、漏斗等を介して粒子を台の上に落下させ、山型の粒子層を形成させた後に、所定の衝撃を与えて崩れた粒子層の斜面と水平面(台の表面)とのなす角で表される。衝撃を受けた山型の粒子層は、粒子の流動性が高いほど平たく崩れるため、崩潰角が小さくなる。崩潰角の好ましい下限は10°程度であり、15°以上が好ましく、20°以上がさらに好ましい。崩潰角が10°よりも小さいと、炉の回転に伴う粉の動きが少なくなり、原料ガスとの接触性が悪くなる。また、崩潰角の好ましい上限は30°程度であり、29°以下が好ましく、28°以下がさらに好ましい。崩潰角が30°を超えると、炉壁と粉の接触時間が長くなり、付着しやすくなる。一方、スパチュラ角とは、ヘラ(スパチュラ)の上に、粒子層を積層させた後に、ヘラをゆっくりと持ち上げてヘラの上に堆積された粒子層の斜面(稜線)と水平面(ヘラの表面)とのなす角をA、その後所定の衝撃を与えて崩れた粒子層の斜面と(稜線)と水平面(ヘラの表面)とのなす角をBとした場合、(A+B)/2で表される。粒子の流動性が高いほどヘラを持ち上げた際に平たく崩れるため、スパチュラ角が小さくなる。フライトなどで炉内の粉を掻き上げる際、スパチュラ角が61.5°を超えると、持ち上げられる粉の量が多くなり、炉壁に触媒粒子が付着しやすくなる。スパチュラ角の好ましい下限は30°程度であり、35°以上が好ましく、40°以上がさらに好ましい。フライトなどで炉内の粉を掻き上げる際、スパチュラ角が30°よりも小さいと、掻き上げられる粉の量が少なくなり、原料ガスとの接触性が悪くなる。
【0024】
本発明の一実施形態に係る触媒粒子は、崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下、且つスパチュラ角が61.5°以下であるため適度な流動性を有する。従って、炉内で流動されながら加熱される用途で用いられる場合に炉の内壁に付着し難い。このため、連続的に炉内への触媒粒子の導入および炉外への触媒粒子の排出を行う場合に、触媒粒子が炉内に付着して留まることを防止できる。また、適度な流動性を有するため、炉内において加熱された原料ガスとの接触性を向上できて、所望の生成物を得るための反応を効率良く促進することができる。
【0025】
本発明の他の実施形態は、上記特徴を有する触媒粒子を用いた水素の製造方法である。本実施形態に係る水素の製造方法は、炉内に上記特徴を有する触媒粒子と炭化水素を含む原料ガスを投入し、炉内で触媒粒子を流動させながら触媒粒子と原料ガスとを加熱し、これにより発生した水素を回収することを特徴とする。本発明に係る水素の製造方法は、上記特徴を有する触媒粒子を用いるため、炉内で触媒粒子を効率的に流動できて、原料ガスとの接触性を向上できる。その結果、触媒粒子による触媒作用を効率良く発揮させることができて、水素の収率を向上できる。
【0026】
本発明の一実施形態に係る触媒粒子および水素の製造方法で用いられる炉は、原料ガスを導入することで、触媒を介して、水素が生成されるものであり、触媒粒子を流動させることができれば、特に装置の構造および原理に限定されず選択することができる。具体的には垂直に設けられた反応管において上下に処理物を流動させることで処理する機構の流動床、水平に長い反応管を設置し、水平方向に処理物を輸送して流動させる機構のスクリュー方式の管状炉、ロータリーキルン等であって反応場で触媒粒子と原料ガスとの固気接触が促進される形態の装置が好適に用いられる。固気接触の促進は、流動床では、下から吹き上げられる原料ガスによって触媒が流動することにより、スクリュー式管状炉では、スクリューによって触媒と原料ガスが混合されることにより、ロータリーキルンでは、回転によるずり又はフライトによる触媒の掻き揚げにより行われる。また、選択する装置により、バッチ式、連続式、バッチ連続式などのいずれの方式も取り得るが、これらも特に限定されるものではない。中でも、炉内で炉壁に触媒粒子が付着する問題が存在するロータリーキルン等の回転炉を用いた場合、特に連続式、バッチ連続式のロータリーキルンを用いた場合、本発明の触媒粒子の適度な流動性により得られる効果がより高く示され得る。
【0027】
本実施形態に係る触媒粒子および水素の製造方法で用いられる原料ガスは、プロパンガス、液化天然ガス(LNG)、都市ガス、メタン、エチレン、アセチレンなどの炭化水素ガスなどが用いられるが、触媒を介して、炭化水素の熱分解により水素および固体炭素を生成するものであれば特に限定されるものではない。また、原料ガス濃度の調整や、触媒の失活を防ぐ等の目的のために、原料ガスに還元性ガスや不活性ガス、酸化性ガスが混合されていてもよい。高濃度の水素を製造するという観点では、反応場に導入するガスに含まれる原料ガスの濃度は60vol%以上が好ましく、90vol%以上がより好ましく、95vol%以上がさらに好ましい。本発明において、メタンガスを直接固体炭素と水素とに熱分解するメタン直接改質(Direct Methane Reforming:DMR)反応を利用して水素合成を行うことが好ましい。前記反応では、メタンガスを触媒と共に加熱することによりメタンが分解されて水素ガスと固体炭素が生成される。この反応では二酸化炭素等の酸化炭素ガスが発生しない点で有用である。通常、固体炭素は触媒粒子の表面に積層した形態で生成され、その形状や結晶性は触媒をはじめとする反応条件にもよるが、少なくとも一部がカーボンナノチューブなどの繊維状の結晶性炭素であることが好ましい。
【0028】
本実施形態に係る触媒粒子は、上記特徴を有するものであり、且つ、粉体XRDにおいて鉄酸化物相、鉄水酸化物相、スピネル型フェライト相、およびFe含有層状複水酸化物相のうち少なくとも一つ以上を示すものである。鉄酸化物相はヘマタイトが好ましく、鉄水酸化物相はゲーサイトが好ましく、層状複水酸化物相はハイドロタルサイトが好ましい。これらの化合物を含有することで、原料ガスの転化反応において、触媒能が高く、活性が維持しやすい点で優れる。
【0029】
触媒粒子の挙動粒子径の範囲は、炉内で流動する範囲であれば特に限定しないが、メディアン径(d50)で1μm~10mmが好ましく、2.5μm~7mmが特に好ましい。
【0030】
本実施形態に係る触媒粒子の粉体特性の調整には、種々の処理方法を用いることができるが、粉砕処理装置としては、例えば、せん断応力により粉砕するカッターミル、ピンミル方式での粉砕、圧縮せん断応力により粉砕する石臼式粉砕機(グローミル、マスコロイダーなど)やサンドミル、ミックスマーラー、衝撃により粉砕するハンマーミル(ジョークラッシャー)、気流式粉砕機であるジェットミルなどによる粒度の調整および粒子性状の調整が可能である。
【0031】
以下に本発明に係る水素の製造方法の一実施形態について説明する。ここでは、炉として直径250mmの連続式ロータリーキルンを準備し、触媒粒子として酸化鉄からなり崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下、且つスパチュラ角が61.5°以下である触媒粒子を用い、炭化水素としてメタンガスを用いる。本実施形態では、ロータリーキルン内に0.01g/min~7.5g/minで連続的に触媒粒子を供給すると共に、0.5L/min~50L/minで連続的にメタンガスを供給する。ガスの投入方法については多段で投入しても構わない。供給された触媒粒子およびメタンガスは、ロータリーキルン内で400℃~800℃の温度で加熱される。これにより、炉内にて触媒を介してメタンが熱分解され、水素と固体炭素が生成される。その後、発生した水素および固体炭素が表面に積層された触媒粒子は、ロータリーキルンの一端に設けられた供給口と反対側に設けられた排出口から連続的に排出される。なお、直径150mmのバッチ式ロータリーキルンを用いる場合、前記触媒の供給量は0.01g~100g、メタンガス供給量は0.1L/min~50L/minである。連続式、バッチ連続式、バッチ式に関わらず、ロータリーキルンの反応部における回転数は、0.1rpm~60rpm程度である。
【0032】
このような、本実施形態に係る水素の製造方法では、用いる触媒粒子の崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下、且つスパチュラ角が61.5°以下であり、適度な流動性を有するため炉内に付着することが防止され、炉内での反応後にロータリーキルンの排出口から適切に排出される。また、適度に炉内で流動することによって、メタンガスとの接触性を向上でき、メタンの熱分解反応の触媒効率が向上する。それらの結果、水素および固体炭素の収率を向上することができる。
【実施例0033】
以下に、本発明に係る触媒粒子を詳細に説明するための実施例を示す。
【0034】
まず、触媒粒子の原料として、酸化鉄(ヘマタイト)粒子、Al/Mgの比率が0.4であり、AlとMgを含有量の和で13wt%含む酸化鉄を主成分とする金属酸化物粒子、ゲーサイト粒子、スピネルフェライト粒子、Fe含有層状複水酸化物を準備した。
【0035】
続いて、それらの原料を、下記表1に示す所定の処理条件(a:ハイスピードミル(タニナカO&K株式会社製)による粉砕、b:乳鉢粉砕、c:100回タッピングによる圧縮、d:押し出し成形)で粉砕又は圧縮して、以下の表1に示す実施例および比較例の触媒粒子を生成した。表1に、生成した触媒粒子の物性を示す。なお、当該物性のうち崩潰角の測定は、パウダテスタ(登録商標)(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて行なった。漏斗から台へ触媒粒子を落下させ、積もった粉の山に、付属の錘を用いて3回衝撃を加え、稜線と台とがなす角の測定を10回程度行い、その平均値を崩潰角とした。また、スパチュラ角の測定についても、パウダテスタ(登録商標)(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて行なった。バット上に静置したヘラの上に触媒粒子の山を盛ってから、ヘラを静かに持ち上げた後、ヘラ上の粉の稜線とヘラとがなす角度(A)およびその後付属の錘で1回衝撃を加えた後の角度(B)の間の値(A+B)/2を10回程度求め、その平均値をスパチュラ角とした。D50はレーザー回折散乱式粒度分布測定装置LMS-2000e(株式会社セイシン企業製)を用いて測定した。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように、崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下、且つスパチュラ角が61.5°以下のものを実施例とし、崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下であること、およびスパチュラ角が61.5°以下であることの少なくともいずれか一方を満たしていないものを比較例とした。また、原料粒子として酸化鉄(ヘマタイト)を用いたものを実施例1、5又は比較例1とし、AlおよびMgを含有する酸化鉄を用いたものを実施例2又は比較例2とし、ゲーサイト粒子を用いたものを実施例3又は比較例3、Fe含有層状複水酸化物を用いたものを実施例4又は比較例4、スピネルフェライト粒子を用いたものを実施例6とした。表1に示すように、崩潰角は、各実施例の全てで30°以下である。
【0038】
実施例1および実施例5では、触媒の原料として、ヘマタイト粒子を用いて、前記処理条件bを行った。得られた各触媒粒子は、崩潰角とスパチュラ角の合計が80.0°、77.9°、80.0°であり、スパチュラ角がそれぞれ51.4°、52.6°、51.4°であり、走査型蛍光X線(XRF)分析装置(ZXT PrimusII、株式会社Rigaku製)を用いて測定したFe含有量が全て69.0wt%であった。
【0039】
実施例3では、触媒の原料として、ゲーサイト粒子を用いて、前記処理条件bを行った。得られた触媒粒子は、崩潰角とスパチュラ角の合計が81.1°、スパチュラ角が57.2°、走査型蛍光X線(XRF)分析装置(ZXT PrimusII、株式会社Rigaku製)を用いて測定したFe含有量が53.7wt%であった。
【0040】
実施例4では、触媒の原料として、Fe含有層状複水酸化物を用いて、前記処理条件d(実施例4-1)、処理条件a(実施例4-2)をそれぞれ行った。得られた各触媒粒子は、崩潰角とスパチュラ角の合計が72.9°、82.5°であり、スパチュラ角が44.5°、60.4°であり、走査型蛍光X線(XRF)分析装置(ZXT PrimusII、株式会社Rigaku製)を用いて測定したFe含有量が全て18.0wt%であった。
【0041】
実施例6では、触媒の原料として、スピネルフェライト粒子を用いて、前記処理条件bを行った。得られた触媒粒子は、崩潰角とスパチュラ角の合計が84.9°、スパチュラ角が58.5°、走査型蛍光X線(XRF)分析装置(ZXT PrimusII、株式会社Rigaku製)を用いて測定したFe含有量が35.9wt%であった。
【0042】
実施例1および実施例5の触媒粒子について、X線回折(XRD)(D8 ADVANCE、BRUKER製)にて構成相を確認したところヘマタイト相であることが確認できた。実施例3の触媒粒子について、XRDにて構成相を確認したところゲーサイト相であることが確認できた。実施例4の触媒粒子について、XRDにて構成相を確認したところハイドロタルサイト相であることが確認できた。実施例6の触媒粒子について、XRDにて構成相を確認したところスピネル型フェライト相であることが確認できた。
【0043】
次に、上記各実施例および比較例の触媒粒子を用いて、ロータリーキルン内で水素および固体炭素を生成した。具体的に、周長が0.63m又は0.48mの回転反応部(レトルト)を用いたバッチ式ロータリーキルンに所定量の触媒を予め投入後、不活性雰囲気で5.67rpmで回転させながら1時間程度で昇温し、所定の温度で不活性ガスから都市ガス13Aに切り替えて3時間、反応を行うことによって、水素および固体炭素を生成した。そして、各実施例および比較例の触媒粒子において、レトルトがその出口が下方に向くように45°以上傾けられた状態でロータリーキルンの回転のみで排出された固体炭素が表面に積層された触媒粒子の量、および炉壁に付着した触媒粒子に対して炉壁を叩いて衝撃を与えることで強制的に排出された触媒粒子の量とを測定し、回転のみで排出された触媒粒子の割合を算出した。各実施例および比較例における炉内への供給触媒量、設定温度、炉円周長といった条件と、上記測定および算出結果を以下の表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2に示すように、実施例1~5の触媒粒子を用いた場合、メタン熱分解反応に対して触媒作用した後の触媒粒子のうち87%以上の量をロータリーキルンの回転のみで回収することができた。一方、比較例1~4の触媒粒子を用いた場合、86%以下の触媒粒子がロータリーキルンの回転のみで回収することができた。この結果から、崩潰角とスパチュラ角の合計が85°以下、且つスパチュラ角が61.5°以下である各実施例の触媒粒子を用いれば、触媒粒子がロータリーキルンの炉壁に付着することを防止できる。
【0046】
以上から、本発明に係る触媒粒子は、適度な流動性を有するため、触媒粒子の炉内への付着を低減でき、原料ガスとの接触性を向上できるため、触媒粒子が水素生成反応を効率良く促進できるので、水素の製造効率を向上できて有用である。