IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立医薬品食品衛生研究所長の特許一覧 ▶ 学校法人都築学園の特許一覧

<>
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図1
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図2
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図3
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図4
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図5
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図6
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図7
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図8
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図9
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図10
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図11
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図12
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図13
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図14
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図15
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図16
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図17
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図18
  • 特開-新規化合物及び医薬組成物 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025029
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】新規化合物及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/55 20170101AFI20220202BHJP
   C07D 401/14 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220202BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20220202BHJP
   C12N 9/00 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
A61K47/55
C07D401/14 CSP
A61K31/506
A61K31/496
A61P37/08
A61P17/04
A61P11/06
A61P11/02
A61P27/16
A61P27/02
A61P21/04
A61P21/00
A61P9/00
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P25/00
A61P1/04
A61P11/00
A61P43/00 112
A61P43/00 111
A61P43/00 121
C12N9/02
C12N9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115706
(22)【出願日】2021-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2020122534
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021016808
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】597128004
【氏名又は名称】国立医薬品食品衛生研究所長
(71)【出願人】
【識別番号】509346689
【氏名又は名称】学校法人都築学園
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出水 庸介
(72)【発明者】
【氏名】柴田 識人
(72)【発明者】
【氏名】内藤 幹彦
(72)【発明者】
【氏名】有竹 浩介
(72)【発明者】
【氏名】横尾 英知
【テーマコード(参考)】
4B050
4C063
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4B050DD11
4B050LL01
4C063AA05
4C063BB09
4C063CC10
4C063CC29
4C063DD04
4C063DD10
4C063EE01
4C076CC01
4C076CC03
4C076CC10
4C076CC11
4C076CC15
4C076CC16
4C076CC18
4C076EE59
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC50
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA33
4C086ZA34
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZA61
4C086ZA68
4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZA96
4C086ZB13
4C086ZB15
4C086ZC01
4C086ZC12
4C086ZC41
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】造血器型プロスタグランジンD合成酵素を標的とした分解誘導剤としての新規化合物を提供する。
【解決手段】E3ユビキチンリガーゼのリガンドと、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドと、接続したことを特徴とする。E3ユビキチンリガーゼのリガンドは例えばポマリドミドであり、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドは例えばTFC-007である。筋ジストロフィー性心筋炎症モデルマウスにおいて心肥大や心筋障害を抑制する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
E3ユビキチンリガーゼのリガンドと、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドと、を接続した新規化合物。
【請求項2】
E3ユビキチンリガーゼのリガンドと、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドとを、リンカーを介さずに接続した請求項1記載の新規化合物。
【請求項3】
E3ユビキチンリガーゼのリガンドと、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドと、をリンカーで接続した請求項1記載の新規化合物。
【請求項4】
前記E3ユビキチンリガーゼのリガンドは、ポマリドミドであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の新規化合物。
【請求項5】
前記造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドは、N-(4-(4-(モルホリン-4-カルボニル)ピペリジン-1-イル)フェニル)-2-フェノキシピリミジン-5-カルボキサミドであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の新規化合物。
【請求項6】
下記化学式で示されることを特徴とする請求項2に記載の新規化合物。
【化1】
【請求項7】
下記化学式で示されることを特徴とする請求項2に記載の新規化合物。
【化2】
【請求項8】
前記リンカーは、ポリエチレングリコールリンカーであることを特徴とする請求項3に記載の新規化合物。
【請求項9】
下記化学式で示されることを特徴とする請求項8に記載の新規化合物(nは1~10である。)。
【化3】
【請求項10】
下記化学式で示されることを特徴とする請求項9に記載の新規化合物。
【化4】
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の新規化合物を有効成分とすることを特徴とする、アレルギー疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
【請求項12】
前記アレルギー疾患は、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎、又は、アレルギー性結膜炎の何れかであることを特徴とする請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の新規化合物を有効成分とすることを特徴とする、炎症性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
【請求項14】
前記炎症性疾患は、筋ジストロフィー、筋肉炎、慢性閉塞性動脈性疾患、関節リウマチ、変形性関節症、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、過敏性肺炎、又は、好酸球性肺炎の何れかであることを特徴とする請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
下記化学式で示されることを特徴とする、造血器型プロスタグランジンD合成酵素を標的とした分解誘導剤。
【化5】
【請求項16】
下記化学式で示されることを特徴とする、造血器型プロスタグランジンD合成酵素を標的とした分解誘導剤。
【化6】
【請求項17】
下記化学式で示されることを特徴とする、造血器型プロスタグランジンD合成酵素を標的とした分解誘導剤。
【化7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物、及び、その新規化合物を有効成分とする医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロオキシゲナーゼ(COX)の作用によりアラキドン酸から産生されるプロスタグランジンH2(PGH2)は、各種PG合成酵素の作用により、PGD2やPGE2等のプロスタノイドへと変換される。中でもPGD2は、血小板凝集や睡眠誘導等さまざまな生理作用を有するだけでなく、さらなる代謝を受けて、シクロペンテノン構造を有するJ2型PG類へと変換されることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
プロスタグランジンD2(PGD2)の過剰な産生は、アレルギー疾患、睡眠障害、デュシェンヌ筋ジストロフィー等様々な疾患に関連しており、造血器型プロスタグランジンD合成酵素(Hematopoietic prostaglandin(PG)D synthase: H-PGDSと記載することがある。)はPGD2を産生する酵素の一つである(非特許文献2~5)。食物アレルギーの主役となるマスト細胞は、炎症を引き起こすヒスタミンやセロトニンといった生理活性物質とともに、H-PGDSを強く発現しており、大量のPGD2を産生している。また、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの骨格筋では、H-PGDSによりPGD2が活発に産生され、DP1あるいはDP2受容体を介した二次的炎症により筋壊死が拡大し、集団的筋壊死が起こる。
【0004】
H-PGDSは上記疾患の創薬ターゲットとして注目されており、H-PGDSを標的とした阻害剤はアレルギー反応及び炎症反応の治療のために有用であることが報告されている(非特許文献6)。しかしながら、臨床試験では患者の病態により望む治療効果が得られない等の問題が報告されていることから(非特許文献7)、新たな作用機序による薬剤開発が求められている。
【0005】
近年、細胞内のユビキチン-プロテアソームシステム(UPS)を利用して標的タンパク質を分解誘導できる革新的な分子標的薬が国内外で開発されている。これらの薬物はPROTAC(Proteolysis targeting chimeras)(非特許文献8)及びSNIPER(specific and non-genetic inhibitor of apoptosis protein-dependent protein erasers)(非特許文献9)と呼ばれており、標的タンパク質リガンド(X)とユビキチンリガーゼリガンド(Y)をリンカー(-)で繋いだキメラ分子(X-Y)である。PROTACやSNIPERは、標的タンパク質とユビキチンリガーゼを物理的に近づけることで、標的タンパク質がポリユビキチン化されプロテアソームにより分解誘導を受ける。また、PROTACやSNIPERは従来の阻害剤と比較して、標的タンパク質により引き起こされる細胞応答を持続的に抑制できることも報告されている(非特許文献10)。PROTACやSNIPERは創薬モダリティのひとつとして期待されており、特に、がんに関連するタンパク質を標的とした開発が盛んである。しかしながらH-PGDSを標的とした分解誘導剤は未だ報告されておらず、H-PGDSを標的としたRROTACやSNIPERの有効性も実証されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shibata, T., Kondo, M., Osawa, T., Shibata, N., Kobayashi, M., & Uchida, K. (2002) 15-deoxy-delta 12,14-prostaglandin J2. A prostaglandin D2 metabolite generated during inflammatory processes. J. Biol. Chem., 277, 10459-10466
【非特許文献2】Lewis,R. A.,Soter,N. A.,Diamond,P. T.,Austen,K. F.,Oates, J. A. and Roberts, L. J., 2nd (1982) Prostaglandin D2 generation after activation of rat and human mast cells with anti-IgE. J. Immunol. 129, 1627-1631.
【非特許文献3】Matsuoka, T., Hirata, M., Tanaka, H., Takahashi, Y., Murata, T., Kabashima, K., Sugimoto, Y., Kobayashi, T., Ushikubi, F., Aze, Y., Eguchi, N., Urade, Y., Yoshida, N., Kimura, K., Mizoguchi, A., Honda, Y., Nagai, H. and Narumiya, S. (2000) Prostaglandin D2 as a mediator of allergic asthma. Science 287, 2013-2017.
【非特許文献4】Urade, Y. and Hayaishi, O. (2000) Biochemical, structural, genetic, physiological, and pathophysiological features of lipocalin-type prostaglandin D synthase. Biochim. Biophys. Acta 1482, 259-271.
【非特許文献5】Takeshita, E., Komaki, H., Shimizu-Motohashi,Y., Ishiyama, A., Sasaki, and M., Takeda, S. (2018) A phase I study of TAS-205 in patients with Duchenne muscular dystrophy. Ann. Clin. Transl. Neurol. 5, 1338-1349.
【非特許文献6】Aritake, K., Kado, Y., Inoue, T., Miyano, M., and Urade, Y. (2006) Structural and functional characterization of HQL-79, an orally selective inhibitor of human hematopoietic prostaglandin D synthase. J. Biol. Chem. 281, 15277-15286.
【非特許文献7】Rittchen, S., and Heinemann, A. (2019) Therapeutic Potential of Hematopoietic Prostaglandin D2 Synthase in Allergic Inflammation Cells 8, 619.
【非特許文献8】Lai, A. C., and Crews, C. M. (2017) Induced protein degradation: an emerging drug discovery paradigm. Nat. Rev. Drug Discov. 16, 101-14.
【非特許文献9】Ohoka, N., Shibata, N., Hattori, T., and Naito, M. (2016) Protein Knockdown Technology: Application of Ubiquitin Ligase to Cancer Therapy. Curr. Cancer Drug Targets 16, 136-146.
【非特許文献10】You, I., Erickson, E. C., Donovan, K. A., Eleuteri, N. A., Fischer, E. S., Gray, N.S., and Toker, A. (2020) Discovery of an AKT Degrader with Prolonged Inhibition of Downstream Signaling. Cell Chem. Biol., 27, 66-73.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、H-PGDSを標的とした分解誘導剤としての新規化合物及びその新規化合物を有効成分とする医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる新規化合物は、E3ユビキチンリガーゼのリガンドと、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドとを、接続したことを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる医薬組成物は、本発明にかかる新規化合物を有効成分とし、アレルギー疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物である。
【0010】
本発明にかかる医薬組成物は、本発明にかかる新規化合物を有効成分とし、炎症性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、H-PGDSを標的とした分解誘導剤としての新規化合物が得られる。またその新規化合物を有効成分とする医薬組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明にかかる新規化合物を説明する図である。
図2】PROTAC(H-PGDS)-1を用いたH-PGDSの分解誘導の検討結果を示す図である。
図3】シクロヘキシミド(CHX)を用いたH-PGDSタンパク質のターンオーバーの検討結果を示す図である。
図4】PROTAC(HPGDS)-1を添加した際のKU812細胞中のH-PGDS mRNAの発現量を示す図である。
図5】H-PGDSに対するTFC-007及びポマリドミドの効果を検討する図であり、そのうち(a)はPROTAC(H-PGDS)-1によるH-PGDSの分解に関して、TFC-007及びポマリドミドをコンジュゲートすることの必要性を示す図であり、(b)は過剰量のポマリドミド(10 μM)を共添加した際のPROTAC(H-PGDS)-1によるH-PGDSタンパク質減少への影響を示す図であり、(c)はKU812細胞にてプロテアソーム阻害剤(MG132)又はユビキチン活性化酵素阻害剤(MLN7243)共添加におけるPROTAC(H-PGDS)-1によるH-PGDSタンパク質減少への影響を示す図である。
図6】PROTAC(H-PGDS)-1又はPROTAC(H-PGDS)-2のH-PGDSへの結合活性又はH-PGDSタンパク質の分解活性を評価する図であり、そのうち(a)は各化合物のH-PGDSへの結合親和性を蛍光偏光アッセイにより評価した図であり、(b)各化合物のH-PGDS分解活性を評価した図である。
図7】化合物のリンカー長とH-PGDS分解活性の関係を示す図である。
図8】PROTAC(H-PGDS)-10によるH-PGDS分解活性評価を示す図である。
図9】PROTAC(H-PGDS)-7によるH-PGDSの分解に対するリガンド接続の必要性を示す図である。
図10】過剰量のポマリドミド(1μM)を共添加した際のPROTAC(H-PGDS)-7によるH-PGDSタンパク質減少への影響を評価する図である。
図11】KU812細胞にてプロテアソーム阻害剤(MG132,10 μM)またはユビキチン活性化酵素阻害剤(MLN7243,10 μM)共添加におけるPROTAC(H-PGDS)-7によるH-PGDSタンパク質減少への影響を評価する図である。
図12】蛍光偏光アッセイによるH-PGDSへの結合評価を示す図である。
図13】PROTAC(H-PGDS)-8によるH-PGDS分解活性評価を示す図である。
図14】蛍光偏光アッセイによるH-PGDSへの結合評価を示す図である。
図15】PROTAC(H-PGDS)-9によるH-PGDS分解活性評価を示す図である。
図16】PROTAC(H-PGDS)-7によるPGD2産生抑制評価を示す図である。
図17】デュシェンヌ型筋ジストロフィーモデルマウス(mdxマウス)におけるPROTAC(H-PGDS)-7による心肥大抑制効果を示す図である。
図18】デュシェンヌ型筋ジストロフィーモデルマウス(mdxマウス)におけるPROTAC(H-PGDS)-7による血漿中の心筋トロポニンI(cTnI)低下効果を示す図である。
図19】デュシェンヌ型筋ジストロフィーモデルマウス(mdxマウス)におけるPROTAC(H-PGDS)-7によるTNF-α,TGF-β,及びCD11bのmRNAの発現量抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0014】
本発明にかかる新規化合物は、図1(a)に示されるように、E3ユビキチンリガーゼのリガンドと、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドとを、リンカーで接続したものである。
【0015】
細胞内のUPSを利用して標的タンパク質を分解誘導できる薬物はPROTACやSNIPERと呼ばれており、標的タンパク質リガンド(X)とユビキチンリガーゼリガンド(Y)をリンカー(-)で繋いだキメラ分子(X-Y)である。PROTACは、標的タンパク質とユビキチンリガーゼを物理的に近づけることで、標的タンパク質がポリユビキチン化されプロテアソームにより分解誘導を受ける。本件発明者は、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンド(X)とE3ユビキチンリガーゼのリガンド(Y)とをリンカー(-)で接続した新規化合物(X-Y)を合成し、かかる新規化合物がH-PGDSタンパク質を効率的に分解することを新知見として見出し、かかる事実に基づいて本件発明を完成させた。
【0016】
また本発明にかかる新規化合物は、図1(b)に示されるように、E3ユビキチンリガーゼのリガンドと、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドとを、リンカー介さずに接続したものである。
【0017】
標的タンパク質リガンド(X)とユビキチンリガーゼリガンド(Y)をリンカーを介さずに繋いだキメラ分子(XY)である。本件発明者は、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンド(X)とE3ユビキチンリガーゼのリガンド(Y)とをリンカーを介さずに接続した新規化合物(XY)を合成し、かかる新規化合物がH-PGDSタンパク質を効率的に分解することを新知見として見出し、かかる事実に基づいて本件発明を完成させた。
【0018】
H-PGDSは、ヒトでは胎盤、肺、胎児肝、及びリンパ節に多く発現し、脳、胸腺、心臓、脾臓、及び骨髄にも発現が認められる。H-PGDSにより合成されるPGD2がアレルギー反応の進展に密接に関与していることが示唆されている。またアレルギー反応以外については、デュシェンヌ型筋ジストロフィーや多発性筋炎患者の壊死筋、外傷性脳損傷により活性化されたミクログリア細胞においてH-PGDSの誘導が観察されている。
【0019】
造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドは、造血器型プロスタグランジンD合成酵素に対して特異的な結合作用を有する物質を用いることが好ましい。ここで、特異的とは、造血器型プロスタグランジンD合成酵素に対して結合作用を有し、リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素に対しては実質的に結合作用を有していないことである。造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドは、H-PGDSに対して阻害作用を有する化合物候補をスクリーニング手法にて取得することができる。
【0020】
造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドは、特に限定されるものではないが、例えば、下記に示すものが挙げられ、好ましくはTFC-007である。
・TFC-007・・・N-(4-(4-(モルホリン-4-カルボニル)ピペリジン-1-イル)フェニル)-2-フェノキシピリミジン-5-カルボキサミド
・TAS-204・・・(N-メトキシ-N-メチル)-4-(5-ベンゾイルベンゾイミダゾール-2-イル)-3,5-ジメチルピロール-2-カルボキサミド塩酸塩
・TAS-205・・・4-(1-メチル-1H-ピロール-2-カルボニル)-N-(4-(4-(モルホリン-4-カルボニル)ピペリジン-1-イル)フェニル)ピペラジン-1-カルボキサミド
・4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(3-(1,2,3-トリアゾール-1-イル)-プロピル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(3-モルホリノ-3-オキソプロペン-1-イル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(3-モルホリノ-3-オキソプロ
ピル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・6-(4-(4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-1-ピペラジンカルバモイル)-ピペリジン-1-イル)-ニコチン酸
・4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(5-(4-モルホリニルカルボニル)ピリジン-2-イル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・4-((1-エチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-モルホリノエチルカルバモイル)フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・4-((1-エチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・4-(4-(4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-1-ピペラジンカルバモイル)ピペリジン-1-イル)-安息香酸
・4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(ピリジン-3-イルメチルカルバモイル)フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-モルホリノエチルカルバモイル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(4-モルホリニルカルボニル)フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(1-ピペリジニルカルボニル)フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(1-ピロリジニルカルボニル)フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(2-(1,2,3-トリアゾール-1-イル)-エチル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(3-(1,2,4-トリアゾール-1-イル)-プロピル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
・4-((1-メチルピロール-2-イル)-カルボニル)-N-(1-(4-(3-(3,5-ジメチル-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-プロピル)-フェニル)-ピペリジン-4-イル)-1-ピペラジンカルボキサミド
ユビキチン化は、ユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)、ユビキチンリガーゼ(E3)の3種類の酵素の働きにより、基質のリシン残基にユビキチンのC末端のグリシンをイソペプチド結合する反応である。これらの酵素のうちで、どの基質にユビキチンを付加するのかを決めるのはE3ユビキチンリガーゼである。
【0021】
E3ユビキチンリガーゼは、特に限定されるものではないが、例えば、セレブロン(CRBN)、MDM2、APC、UBR5、SOCS、LNX1、BIRC2、BIRC3、BIRC4、CBX4、CBLL1、HACE1、HECTD1、HECTD2、HECTD3、HECTD4、HECW1、HECW2、HERC1、HERC2、HERC3、HERC4、HERC5、HERC6、HUWE1、ITCH、NEDD4、NEDD4L、PPIL2、PRPF19、PIAS1、PIAS2、PIAS3、PIAS4、RANBP2、RNF4、RBX1、SMURF1、SMURF2、STUB、TOPORS、TRIP12、UBE3A、UBE3B、UBE3C、UBE3D、UBE4A、UBE4B、UBOX5、UBR5、WWP1、WWP2、又は、Parkin等が挙げられ、好ましくはセレブロン(CRBN)である。
【0022】
E3ユビキチンリガーゼのリガンドは、ポマリドミド、リナリドミド、サリドマイド、又は、インジスラム等が挙げられ、好ましくはポマリドミドである。
【0023】
リンカーは、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンドとE3ユビキチンリガーゼのリガンドとを接続できるものであれば特に限定されるものではなく、例えばポリエチレングリコールリンカー又はアルキルリンカー等が挙げられ、好ましくはポリエチレングリコールリンカーである。リンカーの構成単位数は、特に限定されるものではなく、例えば1乃至10ある。
【0024】
本発明にかかる新規化合物は、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンド(X)がTFC-007で、E3ユビキチンリガーゼのリガンド(Y)がポマリドミドで、リンカー(-)の構成単位がポリエチレングリコールリンカーの場合、下記にて示される。ここでポリエチレングリコールリンカーの構成単位数は、特に限定されるものではなく、例えばnは1~10であり、好ましくは1~5であり、より好ましくは1又は2であり、最も好ましくは1である。
【0025】
【化1】
【0026】
n=1の場合、PROTAC(H-PGDS)-6と記載することがあり、下記にて示される。
【0027】
【化2】
【0028】
n=2の場合、PROTAC(H-PGDS)-5と記載することがある。
【0029】
n=3の場合、PROTAC(H-PGDS)-4と記載することがある。
【0030】
n=4の場合、PROTAC(H-PGDS)-3と記載することがある。
【0031】
n=5,N-methyl pomalidomideの場合、PROTAC(H-PGDS)-2と記載することがある。
【0032】
n=5の場合、PROTAC(H-PGDS)-1と記載することがあり、下記にて示される。
【0033】
【化3】
【0034】
本発明にかかる新規化合物は、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンド(X)がTFC-007で、E3ユビキチンリガーゼのリガンド(Y)がポマリドミドで、リンカーを介さずに接続する場合、下記にて示される(本明細書において、下記化合物をPROTAC(H-PGDS)-7と記載することがある。)。
【0035】
【化4】
【0036】
本発明にかかる新規化合物は、造血器型プロスタグランジンD合成酵素のリガンド(X)がTAS-205で、E3ユビキチンリガーゼのリガンド(Y)がポマリドミドで、リンカーを介さずに接続する場合、下記にて示される(本明細書において、下記化合物をPROTAC(H-PGDS)-10と記載することがある。)。
【0037】
【化5】
【0038】
本発明においては、標的タンパク質であるH-PGDSとユビキチンリガーゼを物理的に近づけることで、H-PGDSがポリユビキチン化されプロテアソームにより分解誘導を受ける。具体的には、H-PGDSを発現している細胞に、PROTAC(H-PGDS)-1、PROTAC(H-PGDS)-7又はPROTAC(H-PGDS)-10を添加すると、細胞内でPROTAC(H-PGDS)-1又はPROTAC(H-PGDS)-7構造中のTFC-007部位がH-PGDSタンパク質へ結合し、又は、PROTAC(H-PGDS)-10構造中のTAS-205部位がH-PGDSタンパク質へ結合する。そして、ポマリドミド部位が細胞内に存在している酵素であるユビキチンリガーゼ(セレブロン)へ結合する。これによりH-PGDSとユビキチンリガーゼ(セレブロン)とが近接し、H-PGDSがポリユビキチン化され、プロテアソームによって分解される。即ち、本発明にかかる新規化合物は、H-PGDSを標的とした分解誘導剤として機能する。
【0039】
本発明にかかる医薬組成物は、本発明にかかる新規化合物を有効成分とする、アレルギー疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物である。アレルギー疾患は、特に限定されるものではなく、例えばアトピー性皮膚炎、気管支喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎、又は、アレルギー性結膜炎等が挙げられる。
【0040】
本発明にかかる医薬組成物は、本発明にかかる新規化合物を有効成分とする、炎症性疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物である。炎症性疾患は、特に限定されるものではなく、例えば筋ジストロフィー、筋肉炎、慢性閉塞性動脈性疾患、関節リウマチ、変形性関節症、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、過敏性肺炎、又は、好酸球性肺炎等が挙げられる。筋ジストロフィーには、例えば顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、又は、ベッカー型筋ジストロフィーが含まれ、好ましくはデュシェンヌ型筋ジストロフィーである。
【0041】
本明細書において「予防」には疾患の発症を抑えること及び遅延させることが含まれ、疾患になる前の予防だけでなく、治療後の疾患の再発に対する予防も含まれる。一方、「治療」には、症状を治癒すること、症状を改善すること及び症状の進行を抑えることが含まれる。
【0042】
本発明にかかる医薬組成物は、公知の方法に従って製剤化し、投与する薬剤とすることができる。例えば、そのまま液剤として又は適当な剤型の薬剤として、ヒト又は哺乳類に対して経口的又は非経口的に投与することができる。ヒトに対する投与量は、特に限定されるものではないが、例えば0.01 mg/kg~50 mg/kgとすることが可能である。
【0043】
薬剤は、微生物の増殖を抑制する防腐剤又はpHを許容範囲に保つのに役立つ緩衝剤を含んでもよい。防腐剤は、アジ化ナトリウム、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチル若しくはベンジルアルコール、メチル若しくはプロピルパラベン等のアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、及びm-クレゾール等である。緩衝剤は、リン酸、クエン酸、及びその他の有機酸である。
【0044】
また、薬剤は、例えば、賦形剤、安定剤、EDTA等のキレート化剤、塩、又は抗菌剤を含んでもよい。他にも、アスコルビン酸及びメチオニン等の酸化防止剤、ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、若しくは非特異的免疫グロブリン等のタンパク質、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、若しくはリジン等のアミノ酸、グルコース、マンノース、若しくはデキストリン等の単糖類、二糖類、及びその他の炭水化物、スクロース、マンニトール、トレハロース、若しくはソルビトール等の糖類を含むことが可能である。
【実施例0045】
1.PROTAC(H-PGDS)-1及びPROTAC(H-PGDS)-2の合成
下記合成手順に従い、ポリエチレングリコールリンカーを介して、H-PGDSのリガンドであるTFC-007とユビキチンリガーゼリガンド(ポマリドミド)を結合させたPROTAC(H-PGDS)-1を合成した。
【0046】
【化6】
【0047】
上記合成手順において、化合物1及び化合物3は既出の手法にて合成した。
【0048】
化合物2の合成では、化合物1(1.51 g, 5.99 mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液に、N-Bocピペラジン(1.69 g, 8.99 mmol)、EDCI(1.40 g, 7.19 mmol)、HOBt・H2O(1.02 g, 6.59 mmol)を加えて、室温で6時間撹拌した。その後、反応液を水に注ぎ、得られた固体を濾取し、乾燥して黄色固体を得た。得られた固体は精製せずにエタノール(60 ml)に溶解させ、パラジウム炭素(91.2 mg)を加え、水素雰囲気下、一晩撹拌した。反応液をセライトろ過し、赤褐色固体2(2.14 g, 92%)を得た。
【0049】
化合物4の合成では、化合物2(2.10 g, 5.40 mmol)、化合物3(1.17 g, 6.49 mmol)、EDCI(1.25 g, 6.49 mmol)、HOBt・H2O(1.02 g, 6.59 mmolをN,N-ジメチルホルムアミド(20 mL)に溶解させた後、室温で6時間撹拌した。その後、反応液を水に注ぎ、得られた固体を濾取し、真空乾燥させ、灰色固体4(1.14 g, 36%)を得た。
【0050】
化合物5の合成では、化合物4(20.7 mg, 0.0352 mmol)のCH2Cl2 溶液(1 mL)に、トリフルオロ酢酸(TFA, 40.2 mg, 0.352 mmol)を加えて室温で2時間撹拌した。反応液を減圧留去し、得られた固体をNHシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH=10/1)により精製し、無色透明のオイル状化合物5(19.3 mg, quant.)を得た。
【0051】
PROTAC(HPGDS)-1の合成では、化合物5(21.2 mg, 0.0436 mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(2.5 mL)に、市販の化合物6(21.9 mg, 0.0371 mmol), EDCI(12.0 mg, 0.0653 mmol)、DIPEA(11.0 mg, 0.0653 mmol)、HOBt (11.0 mg, 0.0872 mmol) を加えて室温で2日間撹拌し、反応液をHPLC(0.1% TFA MeCN/H2O = 15 : 85から50 : 50、40 min)により精製し, 白色固体PROTAC(HPGDS)-1 (2.88 mg, 2.78 μMmol, 7.5%) を得た。
【0052】
また、下記合成手順に従い、ネガティブコントロールとして、ユビキチンリガーゼに結合できないN-Methylated pomalidomideを導入したPROTAC(H-PGDS)-2を合成した。
【0053】
【化7】
【0054】
上記合成手順において、化合物8の合成では、化合物5(56.7 mg, 0.119 mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(2.0 ml)に、市販の化合物7(36.2 mg, 0.108 mmol)、EDCI(64.2 mg, 0.324 mmol)、DIPEA(49.2 mg, 0.324 mmol)を加えて、室温で1.5時間撹拌した。その後、反応液を減圧留去した後、飽和重曹水を加えて酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過した後、減圧留去して得られた固体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH = 10/1)により精製し、白色固体8 (23.7 mg, 25%)を得た。
【0055】
化合物9の合成では、化合物8(23.7 mg, 0.0295 mmol)をメタノール(4 ml)に溶解させた後、パラジウム炭素(6.9 mg)を加え、水素雰囲気下で24時間撹拌した。反応液をセライトろ過し、濾液を減圧留去し、白色固体9 (20.3 mg, 66%)を得た。
【0056】
PROTAC(HPGDS)-2の合成では、化合物9(28.9 mg, 0.0276 mmol)のジメチルスルホキシド溶液(1 mL)に、化合物10(9.7 mg, 0.0308 mmol)、DIPEA(15.6 mg, 0.0772 mmol)を加えて90 °Cで30分間撹拌し、反応溶液を冷却し、室温で6時間撹拌した。得られた固体をHPLC(0.1% TFA MeCN/H2O = 10 : 90から90 : 10、40 min)により精製し、白色固体PROTAC(HPGDS)-2 (1.2 mg, 4.2%)を得た。
【0057】
2.上記化合物のH-PGDS分解活性評価とメカニズム解析
H-PGDS発現細胞であるヒトKU812細胞にPROTAC(H-PGDS)-1(1~1000 nM)を添加し、37℃で3~24時間インキュベートした後、H-PGDSタンパク質量をウェスタンブロットにより評価した。その結果、PROTAC(H-PGDS)-1は濃度依存的且つ時間依存的にH-PGDSタンパク質を減少させることが明らかとなった。
【0058】
結果を図2に示す。図2は、PROTAC(H-PGDS)-1を用いた分解誘導の検討結果であり、KU812細胞をPROTAC(H-PGDS)-1(0、1、10、100、1000 nM)で処理し、3/6/24時間培養したものである。H-PGDSのタンパク質量を内部標準であるβ-Actinのタンパク質量で補正し、DMSOコントロールを100とした相対値で評価した。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。
【0059】
次いで、PROTAC(H-PGDS)-1で処理したH-PGDSの減少のメカニズムを検討することとした。まず、PROTAC(H-PGDS)-1を処理した後のH-PGDSのターンオーバーを検討した。KU812細胞をタンパク質合成阻害剤であるCHXで処理すると、コントロールの細胞では6時間までH-PGDSタンパク質の量が保持される一方で、PROTAC(H-PGDS)-1を添加した細胞では6時間以内にH-PGDSタンパク質量が劇的に減少した。結果を図3に示す。図3は、CHXを用いたH-PGDSタンパク質のターンオーバーの検討結果であり、KU812細胞をCHX(10 μg/ml)存在下、PROTAC(H-PGDS)-1(0、100 nM)で処理し、0/1/2/4/6時間培養したものである。H-PGDSとcyclin-B1のタンパク質量を内部標準であるβ-Actinのタンパク質量で補正し、処理時間0での値を100とした相対値で評価した。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。
【0060】
さらに、KU812細胞におけるH-PGDSのmRNAレベルを検討したところPROTAC(H-PGDS)-1の添加による影響は観測されなかったことから、PROTAC(H-PGDS)-1はH-PGDSタンパク質の分解剤であることが明らかとなった。結果を図4に示す。図4は、PROTAC(HPGDS)-1を添加した際のKU812細胞中のH-PGDS mRNAの発現量を示すものであり、KU812細胞をPROTAC(H-PGDS)-1(0、1、10、100、1000 nM)で処理し、6時間培養したものである。H-PGDSのタンパク質量を内部標準であるβ-Actinのタンパク質量で補正し、DMSOコントロールを100とした相対値で評価した。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。スチューデントのt-検定(両側検定)にて有意差を評価し、*はコントロールと比べP<0.01のものを表す。
【0061】
続いて、H-PGDSタンパク質に対するTFC-007とポマリドミドの効果を検討するために、TFC-007とポマリドミドの混合物(1 μM)を添加したところ、H-PGDSタンパク質の減少は観測されなかった。結果を図5(a)に示す。図5(a)は、KU812細胞をPROTAC(H-PGDS)-1(1 μM)又はTFC-007/ポマリドミド混合物(Ligand mixと記載。各1 μMずつ)で処理し、6時間培養したものである。これにより、2つのリガンド(TFC-007とポマリドミド)をコンジュゲートした本件新規化合物がH-PGDSタンパク質の分解にとって重要であることが明らかとなった。
【0062】
また、H-PGDSタンパク質の分解に関わるセレブロンをリクルートする必要性を検討するために、PROTAC(H-PGDS)-1(100 nM)に過剰量のポマリドミド(10 μM)を共添加することにより競合阻害アッセイを行った。結果を図5(b)に示す。図5(b)は過剰量のポマリドミド(10 μM)を共添加した際のPROTAC(H-PGDS)-1によるH-PGDSタンパク質減少への影響を示すものであり、薬剤処理後にKU812細胞を6時間培養したものである。過剰量のポマリドミド存在下においては、PROTAC(H-PGDS)-1によるH-PGDSタンパク質の減少は観測されなかったことから、H-PGDSのタンパク質分解にはPROTAC(H-PGDS)-1のポマリドミド部位のセレブロンへの結合が重要であることが示唆された。
【0063】
さらに、PROTAC(H-PGDS)-1によるH-PGDSタンパク質の分解に対するUPSの関与を検討するために、プロテアソーム阻害剤(MG132)又はユビキチン活性化酵素阻害剤(MLN7243)を共添加した際のH-PGDSタンパク質の量を測定した。結果を図5(c)に示す。図5(c)は、KU812細胞にてプロテアソーム阻害剤(MG132)又はユビキチン活性化酵素阻害剤(MLN7243)共添加におけるPROTAC(H-PGDS)-1によるH-PGDSタンパク質減少への影響を示すものであり、薬剤処理後にKU812細胞を6時間培養したものである。H-PGDSのタンパク質量を内部標準であるβ-Actinのタンパク質量で補正し、コントロールを100とした相対値で評価した。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。スチューデントのt-検定(両側検定)にて有意差を評価し、*はコントロールと比べP<0.01のものを表す。各種阻害剤の添加により、PROTAC(H-PGDS)-1によって誘導されるH-PGDSタンパク質の分解が抑制されたことから、H-PGDSタンパク質の分解にはUPSが関与していることが示唆された。
【0064】
3.PROTAC(H-PGDS)-1、PROTAC(H-PGDS)-2のH-PGDSへの結合能評価
上述したように、PROTAC(H-PGDS)-1はUPSを介した強力なH-PGDSタンパク質分解誘導剤であることを明らかとしたが、PROTAC(H-PGDS)-1はH-PGDSの酵素活性を阻害するTFC-007構造を含むため、H-PGDSの酵素活性も阻害する可能性がある。今後PROTAC(H-PGDS)-1によるPGD2産生抑制効果を検討する上で分解誘導活性の寄与を評価するために有用な、TFC-007とN-Methylated pomalidomide(セレブロンへの結合活性のないポマリドミド誘導体)から構成されるPROTAC(H-PGDS)-2を使用して結合能を評価した。
【0065】
まずはPROTAC(H-PGDS)-1とPROTAC(H-PGDS)-2のH-PGDSへの結合活性、H-PGDSタンパク質の分解活性を評価した。結果を図6(a)に示す。図6(a)はProstaglandin D Synthase FP-Based Inhibitor Screening Assay Kit-Green (Cayman)を使用した蛍光偏光アッセイによるH-PGDSへの結合評価を示すものである。各化合物のH-PGDSへの結合親和性を蛍光偏光アッセイにより評価した結果、TFC-007、PROTAC(H-PGDS)-1とPROTAC(H-PGDS)-2は、H-PGDSに対して同等の親和性(0.32 μM、0.32 μM、0.30 μM)を示した(それぞれR2=0.9942, R2=0.9841, R2=0.9683, なおH-PGDSに対する特異的阻害剤であるHQL-79ではR2=0.9569)。
【0066】
また、H-PGDSタンパク質の分解を検討した。結果を図6(b)に示す。図6(b)はPROTAC(H-PGDS)-2によるH-PGDS分解活性評価を示すものであり、KU812細胞をPROTAC(H-PGDS)-1(100 nM)又はPROTAC(H-PGDS)-2(100 nM)で処理し、6時間培養したものである。H-PGDSのタンパク質量を内部標準であるβ-Actinのタンパク質量で補正し、DMSOコントロールを100とした相対値で評価した。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。スチューデントのt-検定(両側検定)にて有意差を評価し、*はコントロールと比べP<0.01のものを表す。図6(b)に示されるようにPROTAC(H-PGDS)-2はH-PGDSタンパク質の量を減少させなかった。
【0067】
以上よりPROTAC(H-PGDS)-2はH-PGDSの酵素阻害活性を持つが分解誘導活性のない化合物であることが示唆され、PROTAC(H-PGDS)-1によるPGD2産生抑制効果を検討する際のネガティブコントロール化合物になると考えられた。
【0068】
4. PROTAC(H-PGDS)-3~PROTAC(H-PGDS)-10の合成
PROTAC(H-PGDS)-1をリードとしてPEG数の異なるPROTAC(H-PGDS)-3~PROTAC(H-PGDS)-7を設計、合成した。またリンカーを持たない化合物PROTAC(H-PGDS)-7、対応するネガティブコントロールPROTAC(H-PGDS)-8を同様のルートにより合成した。またリンカーを持たない化合物PROTAC(H-PGDS)-10を合成した。更にPomalidomideとTFC-007類縁体を連結したPROTAC(H-PGDS)-9を合成した。
【0069】
【化8】
【0070】
合成手順を下記に示す。
【0071】
【化9】
【0072】
NMRはECZ600(JEOL社)を使用した。化学シフト値(δ,ppm)は残留溶媒シグナル(DMSO-d6: 2.49 for 1H NMR, 39.5 for 13C NMR)を用いて補正した。
【0073】
分析HPLCはInertsil(登録商標) WP300 C18, 5 μm, 4.6 mm × 250 mm, solvent A: 0.1% TFA/water, solvent B: 0.1% TFA/MeCN, gradient: 10-90% gradient of solvent B over 30 min, flow rate: 2 mL/min, 40°C
General Procedure A
アミン体をジメチルホルムアミドに溶解させ、化合物5 (1.5 eq)とジイソプロピルエチルアミン(1.5 eq)を加えた。マイクロ波照射下80度で40分間反応させ、50度にて42時間撹拌後、反応液を冷却し、ろ過した。HPLC (gradient 30-60% MeCN-H2O containing 0.1% TFA in 40 min)にて精製した。
【0074】
General Procedure B
アミン体をジメチルホルムアミドに溶解させ、化合物5または7 (3 eq)とジイソプロピルエチルアミン(3 eq)を加えた。マイクロ波照射下80度で2時間反応させた。反応液を冷却し、ろ過した。HPLC (gradient 30-60% MeCN-H2O containing 0.1% TFA in 40 min)にて精製した。
【0075】
PROTAC(H-PGDS)-6の合成
化合物4 (32.2 mg, 53.5 μmol)をジメチルホルムアミド(0.5 mL)に溶解させ、General Procedure Bの方法に従い、PROTAC(H-PGDS)-6を黄色固体として得た(14.5 mg, 32%)。
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) : δ 11.1 (s, 1H), 10.5 (br, 1H), 9.10 (s, 2H), 7.78-7.71 (br, 3H), 7.58 (t, J = 7.2 Hz, 1H), 7.47 (t, J = 8.4 Hz, 2H), 7.38 (br, 1H), 7.29 (t, J = 7.2 Hz, 1H), 7.25 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.13 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 7.40 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 6.57 (br, 1H), 5.05 (dd, J = 7.2, 5.4 Hz, 1H), 3.69-3.60 (m, 6H), 3.53-3.39 (m, 10H), 3.26 (br, 1H), 2.99-2.84 (m, 2H), 2.61 (br, 3H), 2.18-2.12 (m, 1H), 2.11-2.06 (m, 1H), 2.06-1.99 (m, 1H), 1.86 (br, 4H).
13C NMR (151 MHz, DMSO-d6) : δ 172.8, 172.0, 170.1, 169.0 (2C), 167.3, 165.8, 161.7, 159.8 (2C), 152.5, 146.4 (2C), 136.3 (2C), 132.1, 132.1, 129.8 (2C), 125.6, 123.9 (2C), 121.6 (2C), 121.4 (2C), 117.4 (2C), 114.6, 68.6 (2C), 66.8, 66.5, 55.0, 48.6 (6C), 41.6, 31.0 (2C), 26.9, 22.1.
HRMS (ESI) m/z calculated for C45H48N9O9[M + H]+ 858.3570 found 858.3563.
HPLC purity: >98% (tR = 13.0 min).
【0076】
PROTAC(H-PGDS)-5の合成
化合物3 (9.2 mg, 14.2 μmol)をジメチルホルムアミド(0.5 mL)に溶解させ、General Procedure Aの方法に従い、PROTAC(H-PGDS)-5を黄色固体として得た(1.2 mg, 9%)。
HRMS (ESI) m/z calculated for C47H52N9O10[M + H]+ 902.3832 found 902.3838.
HPLC purity: >93% (tR = 13.1 min).
【0077】
PROTAC(H-PGDS)-4の合成
化合物2 (18.2 mg, 26.4 μmol)をジメチルホルムアミド(0.5 mL)に溶解させ、General Procedure Bの方法に従い、PROTAC(H-PGDS)-4を黄色固体として得た(3.0 mg, 12%)。
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) : δ 11.1 (s, 1H), 10.5 (br, 1H), 9.10 (s, 2H), 7.74 (br, 3H), 7.57 (t, J = 18.0 Hz, 1H), 7.47 (t, J= 7.8 Hz, 2H), 7.32 (br, 1H), 7.29 (t, J = 7.2 Hz, 1H), 7.25 (d, J= 7.2 Hz, 2H), 7.14 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.03 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 6.59 (br, 1H), 5.05 (dd, J = 7.8, 5.4 Hz, 1H), 3.68-3.63 (m, 2H), 3.62-3.34 (m, 24H), 2.90-2.84 (m, 1H), 2.61-2.55 (m, 5H), 2.04-1.99 (m, 1H), 1.84 (br, 4H).
13C NMR (151 MHz, DMSO-d6) : δ 172.8, 172.1, 170.1, 168.9 (2C), 167.3, 165.7, 161.6, 159.8 (2C), 152.5, 146.4 (2C), 136.2 (2C), 132.1, 129.8 (2C), 129.3, 125.6 , 123.9 (2C), 121.6 (2C), 121.4 (2C), 117.5 (2C), 115.2, 69.8-69.7 (5C), 68.9, 67.0, 66.7, 54.9, 48.5 (6C), 41.7, 31.0 (2C), 27.1, 22.1.
HRMS (ESI) m/z calculated for C49H56N9O11946.4094 [M + H]+ found 946.4098.
HPLC purity: >85% (tR = 13.3 min).
【0078】
PROTAC(H-PGDS)-3の合成
化合物1トリフルオロ酢酸塩 (30.5 mg, 36.0 μmol)をジメチルホルムアミド(0.5 mL)に溶解させ、General Procedure Aの方法に従い、PROTAC(H-PGDS)-3を黄色固体として得た(1.0 mg, 3%)。
HRMS (ESI) m/z calculated for C51H60N9O12[M + H]+ 990.4356 found 990.4332.
HPLC purity: >97% (tR = 13.4 min).
【0079】
PROTAC(H-PGDS)-7の合成
化合物6 (20 mg, 41.1 μmol)と化合物5を用いてGeneral Procedure Bの方法に従い、PROTAC(H-PGDS)-7を黄色固体として得た(10.7 mg, 35%)。
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) : δ 11.1 (s, 1H), 10.5 (br, 1H), 9.09 (s, 2H), 7.72 (m, 4H), 7.47 (t, J = 8.4 Hz, 2H), 7.40 (d, J = 6.6 Hz, 1H), 7.35 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.29 (t, J= 7.8 Hz, 1H), 7.25-2.22 (m, 3H), 5.10 (dd, J = 7.2, 5.4 Hz, 1H), 3.75 (br, 2H), 3.67 (br, 4H), 3.34 (br, 2H), 3.26 (br, 2H), 3.15 (br, 1H), 2.98 (br, 1H), 3.15 (br, 1H), 2.90-2.84 (m, 1H), 2.60-2.51 (m, 2H), 2.02 (br, 1H), 1.86 (br, 4H).
13C NMR (151 MHz, DMSO-d6) : δ 172.7, 169.9, 166.9, 166.3, 165.7 (2C), 161.5, 159.7 (2C), 152.5, 149.3 (2C), 135.9 (2C), 133.5, 129.7 (2C), 125.5, 123.9, 123.8 (2C), 121.5 (2C), 121.3 (2C), 116.9 (2C), 115.2, 51.1 (2C), 48.9 (2C), 48.7 (2C), 44.8, 41.0, 30.9 (2C), 27.1, 21.7.
HRMS (ESI) m/z calculated for C40H39N8O7[M + H]+ 743.2936 found 743.2939
HPLC purity: >94% (tR= 12.6 min).
【0080】
PROTAC(H-PGDS)-8の合成
化合物6 (30 mg, 61.7 μmol)と化合物7をジメチルホルムアミド(0.50 mL)に溶解させ、General Procedure Bの方法に従い、PROTAC(H-PGDS)-8を黄色固体として得た(10.7 mg, 22%)。
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) : δ 10.4 (br, 1H), 9.09 (s, 2H), 7.73 (t, J = 7.2 Hz, 1H), 7.68 (br, 2H), 7.47 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 7.40 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.36 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 7.29 (t, J = 6.6 Hz, 1H), 7.25 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.16 (br, 1H), 5.18 (dd, J = 8.4, 4.8 Hz, 1H), 3.75-3.67 (m, 8H), 3.34 (s, 2H), 3.27 (s, 2H), 3.01 (s, 3H), 2.97-2.91 (m, 2H), 2.76 (d, J = 16.2 Hz, 1H), 2.60-2.53 (m, 2H), 2.04 (br, 1H), 1.82 (br, 4H).
13C NMR (151 MHz, DMSO-d6) : δ 172.3, 170.2, 167.5, 166.9, 166.3 (2C), 161.8, 160.3 (2C), 153.1, 149.9 (2C), 136.5 (2C), 134.4, 130.3 (2C), 126.2, 124.6, 124.5 (2C), 122.2 (2C), 122.0 (2C), 117.5 (2C), 115.8, 51.7 (2C), 49.9 (2C), 45.39 (2C), 43.68, 41.6, 31.7 (2C), 27.9, 27.2, 21.7.
HRMS (ESI) m/z calculated for C41H41N3O5757.3087 [M + H]+ found 757.3090.
HPLC purity: >98% (tR = 13.9 min).
【0081】
化合物10の合成
化合物8(238 mg, 0.858 mmol)の無水DMF(4 mL)溶液に化合物9(204 mg, 0.944 mmol)、EDCI塩酸塩(181 mg, 0.944mmol)、HOBt(145 mg, 0.944 mmol)を加えた。室温にて6時間撹拌し、水を加えた。反応液をろ過し、固体を水で洗浄した。得られた固体を真空下で乾燥させて化合物10(288 mg, 71%)を灰色固体として得た。
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) : δ 10.3 (s, 1H), 9.08 (s, 2H), 7.57 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.46 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 7.29 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 7.24 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 6.96 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 3.45 (br, 4H), 3.06 (br, 4H), 1.41 (s, 9H).
13C NMR (151 MHz, DMSO-d6) : δ 165.6, 161.1, 159.6 (2C), 153.8, 152.6, 147.6, 130.8, 129.8 (2C), 125.6, 124.1, 121.6 (2C), 121.4 (2C), 116.1 (2C), 79.0, 48.6 (4C), 28.0 (3C).
HRMS (ESI): m/z calcd. for C26H30N5O4 [M+H]+476.2292 found 476.2294.
【0082】
化合物11の合成
化合物10(50 mg, 0.105 mmol)のジクロロメタン(1.5 mL)溶液にトリフルオロ酢酸(0.5 mL)加えて室温にて撹拌した。4時間後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣はアミノシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=1:0 to 9:1)にて精製し、化合物11(38.4 mg, 97%)を淡茶色固体として得た。
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) : δ 10.2 (s, 1H), 9.08 (s, 2H), 7.56 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.46 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 7.29 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 7.24 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 6.91 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 3.00 (br, 4H), 2.82 (br, 4H).
13C NMR (151 MHz, DMSO-d6) : δ 165.6, 161.0, 159.6 (2C), 152.6, 148.5, 130.2, 129.8 (2C), 125.6, 124.2, 121.6 (2C), 121.4 (2C), 115.4 (2C), 49.6 (2C), 45.6 (2C).
HRMS (ESI): m/z calcd. for C21H22N5O2 [M+H]+376.1768 found 376.1767.
【0083】
PROTAC(H-PGDS)-9の合成
化合物11(38.4 mg, 0.103 mmol)の無水DMF(1 mL)溶液に化合物5(85.1 mg, 0.307 mmol)とジイソプロピルエチルアミン(53.5μL, 0.307 mmol)を加え、マイクロ波照射しながら80度で2時間反応させ、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をHPLC(30-60% in 40min)で精製し、PROTAC(H-PGDS)-9(12.1 mg, 17%)を黄色固体として得た。
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) : δ 11.1(s, 1H), 10.3 (s, 1H), 9.09 (s, 2H), 7.73 (t, J = 7.2 Hz, 1H), 7.60 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.47 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.40 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.29 (t, J = 7.26 Hz, 1H), 7.25 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.03 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 5.11 (dd, J = 7.8 Hz, 5.4Hz, 1H), 3.39 (br, 12H).
13C NMR (151 MHz, DMSO-d6) : δ 172.8,170.0,167.0,166.4,165.6, 161.1, 159.6 (2C), 152.6, 149.5, 147.6, 136.0, 133.7, 130.7, 129.8 (2C), 125.6, 124.2, 123.8, 121.6 (2C), 121.4, 116.8, 115.8, 115.1, 54.9, 50.4, 48.8 (2C), 48.6 (2C), 30.9, 29.0, 22.1.
HRMS (ESI): m/z calcd. for C34H30N7O6[M+H]+ 632.2252 found 632.2245.
【0084】
PROTAC(H-PGDS)-10の合成
下記合成手順に従いGeneral Procedure Bの方法にて、H-PGDSのリガンドであるTAS-205とユビキチンリガーゼリガンド(ポマリドミド)を結合させたPROTAC(H-PGDS)-10を合成した。
【0085】
【化10】
【0086】
1H NMR (600 MHz, CD3OD) : δ 7.68 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.60 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.47 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.42 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 7.33 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.21 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 6.83 (t, J = 1.8 Hz, 1H), 6.41 (dd J = 1.8, 3.6 Hz, 1H), 6.08 (dd, J = 3.0, 3.6 Hz, 1H), 5.08-5.10 (m, 1H), 3.17-3.80 m, 23H), 2.81-2.86 (m, 1H), 2.68-2.76 (m, 2H), 2.07-2.19 (m, 6H).
【0087】
分析HPLCはInertsil(登録商標) WP300 C18, 5 μm, 4.6 mm × 250 mm, solvent A: 0.1% TFA/water, solvent B: 0.1% TFA/MeCN, gradient: 10-90% gradient of solvent B over 30 min, flow rate: 2 mL/min, 40°C
HRMS (ESI) m/z calculated for C49H56N9O11 763.3442 [M + H]+ found 763.3462.
HPLC purity: >98% (tR = 10.8 min).
【0088】
5.上記化合物のH-PGDS分解活性評価とメカニズム解析
H-PGDS発現細胞(ヒトKU812細胞)に合成した化合物PROTAC(H-PGDS)-1,PROTAC(H-PGDS)-3~PROTAC(H-PGDS)-10を添加し、37℃で6時間インキュベートした後、H-PGDSタンパク質の量をウェスタンブロットにより評価し、化合物によるH-PGDSの分解に対するUPSの関与の検討は、プロテアソーム阻害剤(MG132)、ユビキチン活性化酵素阻害剤(MLN7243)を共添加することで評価した。さらにProstaglandin D Synthase FP-Based Inhibitor Screening Assay Kit-Green (Cayman)を使用した蛍光偏光アッセイにより、PROTAC(H-PGDS)-7~PROTAC(H-PGDS)-9H-PGDSへの結合能を評価した。
【0089】
プロスタグランジン (PG) 類(D2,E2,F2α)産生に及ぼす作用は、ヒトKU812細胞にPROTAC(H-PGDS)-7,PROTAC(H-PGDS)-8を添加し、37℃で6時間インキュベートした後、培養液中からPROTAC(H-PGDS)-7,PROTAC(H-PGDS)-8を取り除くために、洗浄操作(遠心分離後に上清を除き、ここにPROTAC(H-PGDS)-7,PROTAC(H-PGDS)-8を含まない培養液を加える)を3回繰り返した後、カルシウムイオノフォア(A23187)を添加して、PG類の産生を惹起し、10分間に培養液中に遊離されたPG類をLC-MS/MS法によって定量分析して評価した。
【0090】
In vivo評価のプロトコルは下記であった。筋ジストロフィー性拡張型心筋症の抑制効果を調べるためデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)モデルマウス(mdx マウス, C57BL/6背景,9~10週齢,雄)を用いた。Andersonらの方法[Anderson JE, Liu L, Kardami E, The effects of hyperthyroidism on muscular dystrophy in the mdx mouse : Greater dystrophy in cardiac and soleus muscle. Muscle Nerve 17(1) : 64-73.1994]に従って、mdx マウスに3,4,3'-トリヨード-L-チロニン (T3,ナカライテスク株式会社)を2 mg/kg/day の用量で2週間皮下投与して、心肥大や心尖部の線維化を伴う拡張型心筋症を発症させた。
【0091】
PROTAC(HPGDS)-7或いは、HPGDS阻害薬 (TFC-007)をT3投与開始と同時に、1日1回、2週間皮下投与した。mdx マウスへのT3投与による拡張型心筋症に及ぼす効果は、心臓の臓器重量(体重比)、心筋炎症の生化学マーカーである血漿中の心筋トロポニンI (Cardiac Troponin I, cTnI)濃度測定、定量PCRによる心臓組織中の炎症性サイトカイン (TNF-α,TGF-β)、マクロファージの浸潤マーカーのCD11βの mRNA 発現量をウェスタンブロットにより評価した。
【0092】
ヒトKU812細胞にPROTAC(H-PGDS)-1,PROTAC(H-PGDS)-3~PROTAC(H-PGDS)-7(10 pM ~ 10 nM)を添加し、37℃で6時間インキュベートした後、H-PGDSタンパク質量をウェスタンブロットにより評価した結果、PROTAC(H-PGDS)-1,PROTAC(H-PGDS)-3~PROTAC(H-PGDS)-7は濃度依存的にH-PGDSタンパク質を減少させることが明らかとなった(図7)。図7は化合物のリンカー長とH-PGDS分解活性の関係を示す図である。H-PGDSのタンパク質量を内部標準であるβ-Actinのタンパク質量で補正し、DMSOコントロールを100とした相対値で評価した。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。図7に示されるように、特にリンカー構造を持たないPROTAC(H-PGDS)-7は100 pMにおいても高いH-PGDS分解活性を有していた。
【0093】
図8は、PROTAC(H-PGDS)-10によるH-PGDS分解活性評価を示す図である。KU812細胞をPROTAC(H-PGDS)-10 (10 pM-10000 pM)で処理し、6時間培養した後、H-PGDSタンパク質量への影響を評価した。H-PGDSのタンパク質量を内部標準であるβ-Actinのタンパク質量で補正し、DMSOコントロールを100とした相対値で評価した。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。PROTAC(H-PGDS)-10は濃度依存的にH-PGDSタンパク質を減少させることが明らかとなった(図8)。従ってH-PGDSのリガンドとしてTFC-007ばかりでなく、TAS-205をポマリドミドに接続した化合物もH-PGDS分解誘導活性を示すことが分かった。
【0094】
続いてH-PGDSタンパク質に対するTFC-007とPomalidomideの効果を検討した。KU812細胞をPROTAC(H-PGDS)-7(100 pM)またはTFC-007/Pomalidomide混合物(各100 pMずつ)で処理し、6時間培養した後、H-PGDSタンパク質量への影響を評価した。図9はPROTAC(H-PGDS)-7によるH-PGDSの分解に対するリガンド接続の必要性.を示す図である。H-PGDSのタンパク質量を内部標準であるβ-Actinのタンパク質量で補正し、DMSOコントロールを100とした相対値で評価した。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。図9に示されるように、TFC-007/Pomalidomide混合物の処理ではH-PGDSタンパク質の減少は観測されなかったことから、2つのリガンド(TFC-007とPomalidomide)をコンジュゲートしたキメラ化合物がH-PGDSタンパク質の分解にとって重要であることが明らかとなった。
【0095】
またH-PGDSタンパク質の分解に関わるセレブロンをリクルートする必要性を検討した。KU812細胞をPROTAC(H-PGDS)-7(100 pM)に過剰量Pomalidomide(1 μM)を共添加することで処理し、6時間培養した後、H-PGDSタンパク質量への影響を評価した。図9は過剰量のポマリドミド(1 μM)を共添加した際のPROTAC(H-PGDS)-7によるH-PGDSタンパク質減少への影響を評価する図である。H-PGDSのタンパク質量を内部標準であるβ-Actinのタンパク質量で補正し、DMSOコントロールを100とした相対値で評価した。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。競合阻害アッセイの結果、過剰量のPomalidomide存在下においては、PROTAC(H-PGDS)-7によるH-PGDSタンパク質の減少は観測されなかった。H-PGDSのタンパク質分解にはPROTAC(H-PGDS)-7のPolmalidomide部位のセレブロンへの結合が重要であることが示唆された(図10)。
【0096】
さらにPROTAC(H-PGDS)-7によるH-PGDSタンパク質の分解に対するUPSの関与を検討するために、プロテアソーム阻害剤(MG132)またはユビキチン活性化酵素阻害剤(MLN7243)を共添加した際のH-PGDSタンパク質の量を測定した。図11は、KU812細胞にてプロテアソーム阻害剤(MG132,10 μM)またはユビキチン活性化酵素阻害剤(MLN7243,10 μM)共添加におけるPROTAC(H-PGDS)-7によるH-PGDSタンパク質減少への影響を評価する図である。H-PGDSのタンパク質量を内部標準であるβ-Actinのタンパク質量で補正し、DMSOコントロールを100とした相対値で評価した。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。各種阻害剤の添加により、PROTAC(H-PGDS)-7によって誘導されるH-PGDSタンパク質の分解が抑制されたことから、H-PGDSタンパク質の分解にはUPSが関与していることが示唆された(図11)。PROTAC(H-PGDS)-7によるH-PGDSタンパク質分解は、これまで見出したPROTAC(H-PGDS)-1と同様にプロテアソーム、ユビキチン、ユビキチンリガーゼ(セレブロン)依存的である。
【0097】
6.PROTAC(H-PGDS)-7のH-PGDSへの結合能評価
PROTAC(H-PGDS)-7はUPSを介した強力なH-PGDSタンパク質分解誘導剤であることを明らかとしたが、PROTAC(H-PGDS)-7はH-PGDSの酵素活性を阻害するTFC-007構造を含むため、H-PGDSの酵素活性も阻害する可能性がある。今後PROTAC(H-PGDS)-7によるPGD2産生抑制効果を検討する上で、分解誘導活性の寄与を評価するために有用なTFC-007とN-Methylated pomalidomide(セレブロンへの結合活性のないPomalidomide誘導体)から構成されるPROTAC(H-PGDS)-8のH-PGDSへの結合活性、H-PGDSタンパク質の分解活性を評価した。図12は、蛍光偏光アッセイによるH-PGDSへの結合評価を示す図である。各化合物のH-PGDSへの結合親和性を蛍光偏光アッセイにより評価した結果、TFC-007,PROTAC(H-PGDS)-7とPROTAC(H-PGDS)-8は、H-PGDSに対して同等の親和性(0.15 μM,0.14 μM,0.14 μM)を示した(図12)。
【0098】
また、H-PGDSタンパク質の分解を検討した。KU812細胞をPROTAC(H-PGDS)-7(10 pM-10000 pM)またはPROTAC(H-PGDS)-8(10 pM-10000 pM)で処理し、6時間培養した後、H-PGDSタンパク質量への影響を評価した。H-PGDSのタンパク質量を内部標準であるβ-Actinのタンパク質量で補正し、DMSOコントロールを100とした相対値で評価した。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。図13はPROTAC(H-PGDS)-8によるH-PGDS分解活性評価を示す図である。PROTAC(H-PGDS)-8はH-PGDSタンパク質の量を減少させなかった(図13)。PROTAC(H-PGDS)-7はH-PGDSタンパク質分解誘導活性と酵素阻害活性がある一方、PROTAC(H-PGDS)-8はH-PGDS酵素阻害活性のみ持つと考えられる。
【0099】
以上よりPROTAC(H-PGDS)-8はH-PGDSの酵素阻害活性を持つが分解誘導活性のない化合物であることが示唆され、PROTAC(H-PGDS)-7によるPGD2産生抑制効果を検討する際のネガティブコントロール化合物になると考えられる。図14は、蛍光偏光アッセイによる H-PGDSへの結合評価を示す図である。図15は、PROTAC(H-PGDS)-9によるH-PGDS分解活性評価を示す図である。KU812細胞をPROTAC(H-PGDS)-9(10 pM-10000 pM)で処理し、6時間培養した後、H-PGDSタンパク質量への影響を評価した。H-PGDSのタンパク質量を内部標準であるβ-Actinのタンパク質量で補正し、DMSOコントロールを100とした相対値で評価した。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。PROTAC(H-PGDS)-9およびそのリガンド部位である化合物11は、H-PGDSに対してTFC-007と同等の親和性を示すものの(図14)、PROTAC(H-PGDS)-9はH-PGDSタンパク質の量を減少させなかった(図15)。PROTAC(H-PGDS)-9はPROTAC(H-PGDS)-7のピペラジン部位を除いた構造を含むため、PROTAC(H-PGDS)-7のピペラジン部位が分解活性に必要であることが明らかとなった。
【0100】
KU812細胞にPROTAC(H-PGDS)-7,PROTAC(H-PGDS)-8或いはHPGDS阻害薬のTFC-007を6時間作用させ、その後培養液中の化合物を取り除いた後に、KU812細胞をカルシウムイオノフォア(A23187)刺激によりプロスタグランジン産生を惹起した。KU812細胞をA23187刺激すると、刺激していない細胞に比べて明らかなPGD2,PGE2,PGF産生が増強された。TFC-007(10-100 nM)を6時間前処置させた後、培養液からTFC-007を取り除いた細胞をA23187刺激すると、PGD2,PGE2,PGF産生は、溶媒で前処置した細胞からの産生量と変わらなかった。一方PROTAC(H-PGDS)-7(10-100 nM)を6時間前処置させた後、培養液からPROTAC(H-PGDS)-7を取り除いた細胞をA23187刺激すると、いずれの用量でもPGD2産生は有意に抑制された。一方、PGE2,PGF産生は有意に増強された(図16)。実験は3回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。
【0101】
PROTAC(H-PGDS)-8(10-100 nM)を6時間前処置させた後、培養液からPROTAC(H-PGDS)-8を取り除いた細胞をA23187刺激すると、30と100nMで前処置するとPGD2産生は有意に抑制され、PGE2,PGF産生は増強された(図16)。
【0102】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーモデルマウス(mdxマウス)に甲状腺ホルモンの3,4,3'-トリヨード-L-チロニン(T3)を2mg/kg/dayで2週間皮下投与すると、T3を投与していないmdxマウスに比べて明らかな心肥大を発症した。心肥大は、各マウスの心臓の湿重量を体重で除した値で比較した。実験は3~5回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。PROTAC(H-PGDS)-7(78mg/kg/day)或いは、TFC-007(30 mg/kg/day)をT3投与開始時から2週間皮下投与すると溶媒を投与したマウスに比べて心肥大を抑制し、PROTAC(H-PGDS)-7の抑制作用は、TFC-007と同等かそれ以上であった(図17)。
【0103】
mdxマウスにT3(2mg/kg/day)を2週間の投与し心筋炎症を発症させた。心筋障害マーカーの1つである、血漿中の心筋トロポニンI (Cardiac Troponin I, cTnI)を測定したところ、T3を投与していないmdxマウスに比べてT3を2mg/kg/dayを投与したマウスは、明らかな血漿中cTnI値の上昇を示した。PROTAC(H-PGDS)-7(78mg/kg/day)或いは、TFC-007 (30 mg/kg/day)をT3投与開始時から2週間皮下投与すると溶媒を投与したマウスに比べて、PROTAC(H-PGDS)-7は、血漿中cTnI値を低下させた(図18)。実験は3~5回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。
【0104】
T3を2mg/kg/dayで投与して、心肥大を発症させたmdxマウスの心臓中の炎症性サイトカインのTNF-α,線維化を促進するTGF-β,或いはマクロファージや単球の浸潤マーカーであるCD11bのmRNA量を定量PCR法で調べた。
【0105】
mdxマウスにT3を2mg/kg/dayで2週間投与すると、T3非投与のmdxマウスに比べて明らかに、TNF-α,TGF-β,CD11bのmRNAの発現が上昇し、心筋で単球やマクロファージの浸潤を伴う炎症や線維化が進行していることが強く示唆された。PROTAC(H-PGDS)-7(78mg/kg/day)或いは、TFC-007 (30 mg/kg/day)をT3投与開始時から2週間皮下投与すると、これらのmRNAの発現量が抑制され、その作用はPROTAC(H-PGDS)-7の方が強かった(図19)。実験は3~5回行い、棒グラフは平均±標準偏差を表す。
【0106】
以上の結果から、mdxマウスにT3を連続投与して発症させた筋ジストロフィー性の心筋症に対して、PROTAC(H-PGDS)-7は病態の進行を抑制することが明らかとなった。前述のようにPROTAC(H-PGDS)-7のみならずPROTAC(H-PGDS)-10もH-PGDS分解誘導活性を示すことが判明しており、PROTAC(H-PGDS)-10も筋ジストロフィー症に対し、特にデュシェンヌ型筋ジストロフィー症に対して有効である。
【産業上の利用可能性】
【0107】
アレルギー疾患や炎症性疾患の治療薬として利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19