IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本エクスラン工業株式会社の特許一覧

特開2022-25041アスファルト舗装補修材およびアスファルト舗装の補修方法
<>
  • 特開-アスファルト舗装補修材およびアスファルト舗装の補修方法 図1
  • 特開-アスファルト舗装補修材およびアスファルト舗装の補修方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025041
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】アスファルト舗装補修材およびアスファルト舗装の補修方法
(51)【国際特許分類】
   E01C 23/00 20060101AFI20220202BHJP
【FI】
E01C23/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121482
(22)【出願日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2020127009
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 孝郎
【テーマコード(参考)】
2D053
【Fターム(参考)】
2D053AA11
2D053AD03
(57)【要約】
【課題】従来からアスファルト舗装の亀裂を補修するための補修材として様々なものが考案されている。しかし、これらはそれぞれ、施工時にバーナーなどの火気を必要とする、補修材同士で付着しやすい、施工直後の補修材の厚みが厚く走行性を低下させる、あるいはひび割れに直接流し込んでもひびが埋まらず染み込みによる無駄が多いなどの課題を有するものであった。本発明の目的は、これらの課題を解消することのできるアスファルト舗装補修材を提供することにある。
【解決手段】吸水性繊維基材にアスファルト乳剤を含有させたアスファルト舗装補修材であって、前記吸水性繊維基材が、1.0倍以上の吸水倍率または1.0mmol/g以上のカチオン交換性基を有するものであることを特徴とするアスファルト舗装補修材。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性繊維基材にアスファルト乳剤を含有させたアスファルト舗装補修材であって、前記吸水性繊維基材が、1.0倍以上の吸水倍率または1.0mmol/g以上のカチオン交換性基を有するものであることを特徴とするアスファルト舗装補修材。
【請求項2】
吸水性繊維基材がカチオン交換性基を有する吸水性繊維を含有していることを特徴とする請求項1に記載のアスファルト舗装補修材。
【請求項3】
アスファルト乳剤がカチオン系アスファルト乳剤であることを特徴とする請求項1または2に記載のアスファルト舗装補修材。
【請求項4】
200g/m以上の骨材を含有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のアスファルト舗装補修材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のアスファルト舗装補修材による補修対象部の被覆工程および乾燥工程を含むアスファルト舗装の補修方法。
【請求項6】
被覆工程が、補修対象部にアスファルト乳剤を付与すること及び付与されたアスファルト乳剤の上に吸水性繊維基材を設置することを含むことを特徴とする請求項5に記載のアスファルト舗装の補修方法。
【請求項7】
被覆工程が、補修対象部に吸水性繊維基材を設置すること及び設置された繊維基材の上にアスファルト乳剤を付与することを含むことを特徴とする請求項5に記載のアスファルト舗装の補修方法。
【請求項8】
被覆工程が、さらに骨材を添加することを含むことを特徴とする請求項6または7に記載のアスファルト舗装の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト舗装面に発生した亀裂、新設のアスファルト舗装と既設のアスファルト舗装のジョイント部に発生する亀裂、橋脚上のアスファルト舗装と橋脚端部とのジョイント部に発生する亀裂等、または、亀裂が進行し表層のアスファルト舗装が剥がれたポットホール等のアスファルト舗装の補修に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なアスファルト舗装は、路盤上にアスファルトによる基層を施工し、基層上にアスファルトの表層を施工して完成する。これらの施工には押圧、養生などの労力と時間が必要である。しかし、完成したアスファルト舗装は、加熱と冷却の繰り返しによる熱応力や、通過車両の重量による繰り返し応力により、時間と共に亀裂が生じる。その亀裂をそのまま放置すると、そこから侵入した水がやがて床盤に達し、深層の損傷を引き起こす。その結果、最終的には、道路全体の補修を行わなければならなくなる。この既設道路の補修は、新設の舗装道路の施工に近い労力と時間が必要となる。
【0003】
そのため、路面に亀裂が入った段階で、速やかに補修するための補修材、及び補修方法が多種発案されている。例えば、特許文献1では、紐状部材にアスファルトを付着させた紐状アスファルト補修材、及びそれを用いた補修方法が開示されている。これは舗装面に発生した亀裂に沿って、補修材を充填し、その後、加熱することで、亀裂をアスファルトで埋めるものである。
【0004】
一方、特許文献2では、貼付型舗装用補修材が開示されている。石油アスファルトを構成材として含有し、骨材を含まないシート状をなす貼付型舗装用補修材で、補修材の補修対象面にプライマーを塗布し、補修箇所に貼付する。本補修材を構成するアスファルトは、通過車両の重量等に対する耐久力はなく、時間の経過とともに損耗することにより、その一部が亀裂の隙間に入り込み亀裂を塞ぎ、水などの侵入を防ぎ、補修対象面の損傷を防止するものである。
【0005】
また、特許文献3では、常温で施工後に水を供給することにより、固化し強度を発現することを特徴とする常温施工型加熱アスファルト混合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-53497号公報
【特許文献2】特開2013-23949号公報
【特許文献3】特許5583978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の補修材は、亀裂にアスファルトを追従させるため、付着させたアスファルトの粘度が高い。そのため、付着させたアスファルト同士やアスファルトと他のものが付着しやすく、作業性が低下する。また、補修部に該補修材を貼付するには、加熱が必要となり、バーナーなどの火気を用いるため、大変危険である。このような作業上の問題点は、紐状以外の形状の補修材でも同様である。
【0008】
一方、特許文献2の補修材は、加熱が不要であるものの、補修対象面に貼付された補修材が、その上に通過する車両の重量により亀裂の隙間に入り込み亀裂を塞ぐことを想定しているため、補修材の厚みが2~4mm程度と厚く、隙間に入り込むまでの間は、舗装面から補修材が突出しており、道路の走行性を低下させる。特許文献3の補修材は、従来ほどの加熱は要らないものの、依然として60℃程度での施工が必要である。
【0009】
また、従来から使用されているアスファルト乳剤は常温施工が可能であるが、濃度が低く、粘度も低いため、ひび割れに直接流し込んでもひびが埋まらず、不要な場所への染み込みによる無駄も多い。また、乳剤の分解に時間がかかるため、施工後に雨が降ると乳剤が流れ出す恐れがある。このため、そのままでは補修材としては使用することはできない。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は、施工時に加熱することなく常温での施工が可能で、温度管理の必要や、火傷や火災等の危険がないアスファルト舗装補修材を提供することにある。加えて、本発明のさらなる目的は、補修材同士や他のものへの付着がなく、作業性が良好で、補修対象部の大きさや形状に関わらず使用することができ、補修直後でも車両の走行性を低下させることがないアスファルト舗装補修材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、吸水性を有する繊維基材とアスファルト乳剤を混合し、該繊維基材上にアスファルトを担持させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1) 吸水性繊維基材にアスファルト乳剤を含有させたアスファルト舗装補修材であって、前記吸水性繊維基材が、1.0倍以上の吸水倍率または1.0mmol/g以上のカチオン交換性基を有するものであることを特徴とするアスファルト舗装補修材。
(2) 吸水性繊維基材がカチオン交換性基を有する吸水性繊維を含有していることを特徴とする(1)に記載のアスファルト舗装補修材。
(3) アスファルト乳剤がカチオン系アスファルト乳剤であることを特徴とする(1)または(2)に記載のアスファルト舗装補修材。
(4) 200g/m以上の骨材を含有することを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のアスファルト舗装補修材。
(5) (1)~(4)のいずれかに記載のアスファルト舗装補修材による補修対象部の被覆工程および乾燥工程を含むアスファルト舗装の補修方法。
(6) 被覆工程が、補修対象部にアスファルト乳剤を付与すること及び付与されたアスファルト乳剤の上に吸水性繊維基材を設置することを含むことを特徴とする(5)に記載のアスファルト舗装の補修方法。
(7) 被覆工程が、補修対象部に吸水性繊維基材を設置すること及び設置された繊維基材の上にアスファルト乳剤を付与することを含むことを特徴とする(5)に記載のアスファルト舗装の補修方法。
(8) 被覆工程が、さらに骨材を添加することを含むことを特徴とする(6)または(7)に記載のアスファルト舗装の補修方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の補修材においては、吸水性繊維基材とアスファルト乳剤を混合されているため、吸水性繊維基材がアスファルト乳剤の水分を吸収するにつれてアスファルト乳剤の分解が起こり、繊維基材上にアスファルトが担持され、アスファルト舗装補修材が形成される。吸水性繊維基材の形態を適宜選択することで、シート状や紐状、団子状などのあらゆる形態にすることができ、結果、幅の大きい亀裂から小さい亀裂、放射状の亀裂、ポットホールのような多種多様な形状の補修対象部に対応することが可能である。このため、施工後に凹凸等が発生しにくく車両の通行性に悪影響を及ぼしにくい。加えて、本発明の補修材はアスファルト乳剤を用いるため、加熱することなく常温での施工が可能で、温度管理の必要や、火傷や火災等の危険性を低減させることができる。そして、本発明の補修材が補修対象部に被覆されることで、アスファルト舗装面の亀裂やポットホールへの水の侵入を防ぎ、舗装面下における損傷を防止できる。なお、アスファルト乳剤の分解とは、アスファルト乳剤がアスファルトと水に分離(分解)して粘結性が生じることを言う。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ポットホールへ施工した実施例11のアスファルト舗装補修材の耐久試験後の状態を示す写真である。
図2】線状亀裂へ施工した実施例12のアスファルト舗装補修材の耐久試験後の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の補修材は、吸水性繊維基材にアスファルト乳剤を含有させたものである。かかる本発明の補修材においては、吸水性繊維基材がアスファルト乳剤の水分を吸収するにつれて、アスファルト乳剤の分解が起こり、繊維基材上にアスファルトが被覆し担持される。このため、シート状、紐状、団子状等の繊維基材の形態に合わせたアスファルト層を持つ補修材とすることができる。従って、本発明の補修材に用いる吸水性繊維基材は、アスファルト乳剤の分解を発生しうる吸水性を有しておかなければならない。
【0016】
また、アスファルト乳剤を、吸水性繊維基材に含有させる量は、使用する吸水性繊維基材の吸水倍率や組成、使用するアスファルト乳剤中のアスファルト含有量にもよるが、吸水性繊維基材の重量に対して、5~100倍であることが好ましい。5倍未満であると、アスファルト乳剤が繊維基材全体に広がらず、アスファルトに被覆されない箇所ができることがある。また、アスファルト乳剤を均等に含有させることができた場合でも、アスファルトが吸水性繊維基材に担持される量が少なくなり、アスファルト舗装補修材として十分な耐久性が得られないことが多い。一方、100倍を超えるアスファルト乳剤を含有させると、吸水性繊維基材に担持されることなく、吸水性繊維基材から漏れたり、垂れたりするアスファルト乳剤が多くを占め、作業性やコスト面で不利になりやすい。
【0017】
本発明に用いる吸水性繊維基材においては、吸水性が高いほどアスファルトの複合量を多くできるので、亀裂やポットホール等の多種多様な補修対象部に対応することが可能となる。かかる吸水性を表す指標としては、吸水倍率が用いられる。吸水倍率とは、繊維基材重量当たり吸水することができるイオン交換水の重量のことをいう。本発明に用いる吸水性繊維基材の吸水倍率は、上記の理由から好ましくは1.0倍以上、より好ましくは10倍以上である。1.0倍未満では、ポットホールなどの比較的多量のアスファルトの充填が必要となる補修対象部によっては、アスファルトの複合量が不十分となり、繊維基材が表面に表れたり、また、亀裂を充分にアスファルトで覆うことができなかったりして、補修材としての効果が充分得られない場合がある。また、吸水倍率の上限としては、作業性の観点から100倍以下であることが好ましい。100倍を超えると、吸水性繊維基材の高い吸水性のために、アスファルト乳剤と吸水性繊維基材が最初に接触した箇所でアスファルトが局所的に凝集して担持してしまい、吸水性繊維基材全体にアスファルト乳剤が行き渡らないことがある。
【0018】
また、本発明に用いる吸水性繊維基材においては、繊維基材に高い吸水性を付与するため、更には、一般的に多く用いられているカチオン性アスファルト乳剤の分解を促進させるため、好ましくは1.0mmol/g以上、より好ましく2.0mmol/g以上のカチオン交換性基を有することが望ましい。カチオン交換性基量が1.0mmol/g未満の場合、アスファルトの複合量が不十分となる場合がある。また、カチオン交換性基量の上限としては、15mmol/g以下であることが好ましい。15mmol/gを超えると、カチオン交換性基の作用によるアスファルト乳剤の分解が速くなりすぎて、アスファルト乳剤と吸水性繊維基材が最初に接触した箇所でアスファルトが局所的に凝集して担持してしまい、吸水性繊維素材全体にアスファルト乳剤が行き渡らないことがある。
【0019】
ここで、上記のカチオン性交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基およびこれらが造塩したもの等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0020】
なお、本発明においては、上述した吸水倍率の範囲とカチオン性交換基量の範囲の両者を満たすことが好ましいが、いずれか一方を満たすのみであっても本発明の目的とする効果を得られる。
【0021】
また、かかる吸水性繊維基材の形状としては、適当な長さに切断された短繊維状、長繊維状、紡績糸、撚糸、不織布、織物、編物等あらゆる形態を採用することができ、補修対象部の形状に合わせて適宜選択することができる。例えば、補修対象部が幅の小さい亀裂の場合は、不織布、織物、編物等のシート状を選択すれば車両の走行性を妨げないため好ましい。これらの目付としては、20g/m以上300g/m以下のものが好ましい。20g/m未満の場合、アスファルト乳剤を含浸させた際、アスファルト乳剤の重みで吸水性繊維基材が変形したり、変形しなかった場合でも、吸水性繊維基材に複合するアスファルト量が不足してアスファルト舗装補修材としての耐久性が低下したりすることがある。一方、300g/mを超えると、補修材の厚みが増し、補修後の走行性を悪化させることがある。また、幅の広い亀裂部やポットホールのようなアスファルトの充填を必要とする補修対象部の場合は、短繊維状や紡績糸、撚糸などの紐状の形状を選択することが好ましい。このような形状であれば、補修材を補修対象部の形状に合わせて充填することができる。
【0022】
吸水性繊維基材を構成する繊維としては、繊維基材として上述した吸水性を有するようにできるものであれば特に限定されるものではなく、たとえば、ポリエステル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリプロピレン、ビニロン、アクリル、ポリ塩化ビニル、レーヨン、コットン、ウール、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等、種々のものが用いられる。特に、カチオン交換性基を有する吸水性繊維が好ましい。
【0023】
かかるカチオン交換性基を有する吸水性繊維としては、芯鞘構造を有しており、鞘部にカチオン交換性基を有するものであることが望ましい。かかる構造の吸水性繊維は、鞘部が高い吸水性を有するとともに、芯部が繊維物性の低下を抑制するため、多くのアスファルトを複合することができる能力を繊維基材に与えるだけでなく、アスファルト乳剤との混合により吸水した後も、繊維形態を維持できるため、短繊維状を維持したまま用いることができるだけでなく、紡績糸、撚糸、ヤーン、不織布、織物、編物等においても形態が崩れることなく補修材として用いることができる。その結果、多種多様の補修対象部に用いることができ、本発明に用いる吸水性繊維基材を構成する繊維として非常に適している。このような吸水性繊維としては、日本エクスラン工業製のランシール(登録商標)を挙げることができる。
【0024】
また、本発明に使用するアスファルト乳剤は、特に限定されるものではない。レーキアスファルト等の天然アスファルト、ストレートアスファルトやブローンアスファルト、セミブローンアスファルト等の石油アスファルト、重油、タール、ピッチ等の1種または2種以上を混合した瀝青物を、各種界面活性剤やクレー(例えばベントナイト)などの乳化剤を用い、更にはアルカリ、酸、分散剤、保護コロイドなどを必要に応じて添加して、コロイドミル、ホモジナイザー等の適当な乳化機によって、水中に乳化させたものを挙げることができる。
【0025】
ここで上記乳化剤としては、カチオン系、ノニオン系、アニオン系のいずれも用いることができる。本発明においては、使用する乳化剤の種類に応じて、それぞれカチオン系アスファルト乳剤、ノニオン系アスファルト乳剤、アニオン系アスファルト乳剤と表現する。道路舗装用としてはカチオン系アスファルト乳剤が使用されることが多い。
【0026】
本発明で使用できるカチオン系乳化剤としては、長鎖アルキル基を有する脂肪族あるいは脂環族のモノアミン、ジアミン、トリアミン、アミドアミン、ポリアミノエチルイミダゾリン、長鎖ヒドロキシアルキルジアミン、ロジンアミン、これらアミン類の酸化エチレン付加物、アミンオキサイド、または、これらのアミン系界面活性剤に塩酸、スルファミン酸、酢酸等の酸を作用させた水溶性ないし水分散性の塩、更には、これらのアミン系界面活性剤の第四級アンモニウム塩等が挙げられる。また、これらの界面活性剤と共に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマーなどのノニオン系界面活性剤を併用することもできる。
【0027】
本発明で使用できるアニオン系乳化剤としては、高級アルコール硫酸エステル、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、αオレフィンスルホン酸塩、高級アルコールエトオキシレート、高級アルコールエトオキシレートサルフェート、石鹸、ナフタリンスルホン酸塩及びホルマリン変性物、アルカリリグニン塩、リグニンスルホン酸塩、カゼインのアルカリ塩、ポリアクリル酸塩等が挙げられる。
【0028】
本発明で使用できるノニオン系乳化剤としては、アルキルフェノール、モノおよび多価アルコール酸、脂肪族類、脂肪族アミン類、脂肪族アミド類、エタノールアミン類等のアルキレンオキシドの付加物などが挙げられる。
【0029】
また、本発明に使用されるアスファルト乳剤に用いることのできる分散剤や保護コロイドとしては、ナフタリンスルホン酸ソーダ、カゼイン、アルギン酸、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ソーダ、リグニンスルホン酸塩、ニトロフミン酸塩等が挙げられる。
【0030】
本発明に使用されるアスファルト乳剤においては、上記乳化分散される瀝青物に、天然ゴムまたは各種合成ゴムを単独あるいは併用の形で用いてもよい。合成ゴムとしては、クロロプレンゴム、スチレン・イソプレン共重合体ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム等の各種合成ゴムが、単独あるいは併用の形で用いられる。特に、クロロプレンゴム、スチレン・イソプレン共重合体ゴムを用いた場合には、高温並びに低温における特性が改善されて好ましい。
【0031】
また、本発明に使用されるアスファルト乳剤には、瀝青物にゴムの他に下記ポリマーを添加して改質アスファルトとし、これを乳化してアスファルト乳剤としたものも含まれる。すなわち、添加されるポリマーとしては、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチルアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸、ポリ塩化ビニルなどの合成高分子、クマロン樹脂、石炭酸樹脂、キシレン樹脂、尿素ホルマリン樹脂、アルキッド樹脂などの合成樹脂、ロジン、テルペン樹脂などの天然樹脂などが挙げられる。
【0032】
またこれらのアスファルト乳剤に耐熱性向上や、紫外線等による劣化防止、作業性向上、並びに接着性向上の目的で、紫外線吸収剤や、各種添加剤、粘度調整剤などを添加してもよい。
【0033】
本発明に使用されるアスファルト乳剤中の固形分の含有量は、30~80重量%の範囲が好ましい。固形分の含有量が30重量%未満では、吸水性繊維基材にアスファルトが効率よく複合できなくなり、反対に80重量%を超えると、粘性が増大して、吸水性繊維基材とアスファルト乳剤との混合が困難になる。
【0034】
また、本発明の補修材においては、従来のアスファルト補修の際と同様に骨材を含有していてもよい。骨材を含有することにより、線状の亀裂部、亀の甲状の亀裂部のような補修対象部に対しては、車両が通行する際のアスファルト付着防止や、補修材の耐久性向上に効果があると考えられる。また、補修対象部がポットホールや幅の広い線状の亀裂の時は、本補修材を補修対象部に充填するが、その際、硬度を向上させることできる。骨材としては、一般のアスファルト舗装に常用されているものが使用できる。たとえば、砕石、砂利、鉄鋼スラグ、エメリーおよびセラミック粉砕品等の無機物、硬質ゴム、熱硬化性樹脂、高融点の熱可塑性硬質樹脂などの樹脂類の粒状体が挙げられる。
【0035】
また、骨材の添加量は、耐摩耗性や硬度の持たせるため、補修材1mあたり好ましくは200g以上、より好ましくは300g以上、さらに好ましくは500g以上となるようにする。200g未満の場合、早期に補修材としての機能が低下する。
【0036】
さらに、骨材の粒径としては、亀裂、ポットホールなど補修対象部の形状やシート状、団子状などの補修材の形状などを勘案して適宜選ばれる。
【0037】
次に、上述した本発明のアスファルト舗装補修材を用いたアスファルト舗装の補修方法について説明する。かかる補修方法としては、吸水性繊維基材とアスファルト乳剤を混合したものを、補修対象部に被覆する工程と乾燥する工程を含む施工方法を挙げることができる。
【0038】
吸水性繊維基材とアスファルト乳剤を混合する方法としては、吸水性繊維基材をアスファルト乳剤に浸漬する方法や、吸水性繊維基材にアスファルト乳剤を散布、噴射、塗布する方法等がある。また、混合量は、予め所定の量より多く混合したアスファルト乳剤をローラーや吊り下げなどにより液切りして制御したり、あらかじめ所定の量のみを混合したりすることで制御することができる。
【0039】
被覆工程としては、予め上述の方法によって吸水性繊維基材とアスファルト乳剤を混合して得た本発明の補修材を補修対象部に貼付または充填する方法を採用することができる。
【0040】
また、被覆工程においては、施工時に補修対象部において本発明の補修材を形成させる方法も採用することができる。かかる方法としては、例えば、補修対象部に吸水性繊維基材を貼付または充填などにより設置した後、アスファルト乳剤を添加混合する方法や、アスファルト乳剤を補修対象部に塗布、散布、噴射、注入等をした後に、吸水性繊維基材を設置する方法を挙げることができる。これらの方法は、補修対象部の種類、規模、施工者の作業性に応じて、適宜選択すればよい。
【0041】
ここで、補修対象部にアスファルト乳剤を付与する方法としては、特に限定されるものではなく、従来の方法を用いることができ、たとえば、ディストリビューター、スプレーヤー、刷毛、ローラー等で塗布、散布、噴射、また、容器からの流し込み、スポイトなどによる充填、注入等が挙げられる。
【0042】
また、補修対象部に吸水性繊維基材を設置する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができ、たとえば、吸水性繊維基材がシート状の場合には、ローラーなどに繊維基材を予め巻いておいたものを補修対象部に敷いてから裁断する方法や、予め裁断しておいた繊維基材を補修対象部に敷く方法などが挙げられる。吸水性繊維基材が紐状の場合には、亀裂などの補修対象部に合わせた長さに切断し、亀裂に沿って埋め込む方法を挙げることができる。さらに、吸水性繊維基材が短繊維状等の場合には、亀裂やポットホールなどの補修対象部に充填する方法を挙げることができる。
【0043】
また、被覆工程においては、本発明の補修材の耐久性や強度を向上させるために、骨材を添加することもできる。
【0044】
本発明の補修方法における乾燥工程は、上述のような被覆工程の後に実施されるものであり、補修対象部を被覆した本発明の補修材を乾燥させることによって、該補修材を補修対象部に一体化させる工程である。かかる乾燥工程は、特に制限されることなく、本補修材を補修対象部に被覆後放置し自然に乾燥させればよい。可使時間を短くしたい場合は、熱風を発生させる乾燥装置を用い、乾燥させてもよい。
【実施例0045】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的ものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。
【0046】
<評価方法>
吸水性繊維基材の評価方法について説明する。
【0047】
1)吸水倍率
吸水性繊維基材の重量(A[g])を測定する。次いで、イオン交換水に吸水性繊維基材を30分間浸漬し、その後160Gで、5分間遠心脱水する。遠心脱水後の重量(B[g])を測定し、次式によって吸水倍率を求める。
吸水倍率(倍)=(B/A)-1
【0048】
2)カチオン交換性基量
吸水性繊維基材を、0.1規定の塩酸に浸漬し、pHが2以下であることを確認し、水洗乾燥後、重量(A[g])を測定する。次に、かかる吸水性繊維基材を十分に浸漬できる量のイオン交換水に0.1規定の水酸化ナトリウムX[mL]を添加する。そこに、前述の重量測定後の吸水性繊維基材を30分間浸漬した後、吸水性繊維基材を取り除き、イオン交換水で洗浄する。洗浄水と残ったイオン交換水を混ぜ合わせ、0.1規定の塩酸で滴定する。中和点までの滴下量をY[mL]とし、次式によってカチオン交換性基量を求める。
カチオン交換性基量(mmol/g)={(0.1×X)-(0.1×Y)}/A
【0049】
3)アスファルト付着量
吸水性繊維基材の重量(A[g])を測定する。次に、該吸水性繊維基材と過剰量のアスファルト乳剤(各実施例に記載のもの)をチャック付きのポリエチレン製袋に入れて封をする。かかるポリエチレン製袋を1日間室温で放置した後、吸水性繊維基材を取り出し、流水で余分なアスファルト乳剤を洗い流す。その後3日間室温で乾燥させ、その重量(B[g])を測定する。次式によって、アスファルト付着量を求める。
アスファルト付着量(倍)=(B/A)-1
4)施工のしやすさ
アスファルト舗装補修材の補修対象部への施工(亀裂への貼付または充填)のしやすさについて以下の基準で判定する。
○:補修材同士が接触しても付着しにくい
△:補修材同士が接触すると付着してしまう
×:補修材同士の付着箇所を剥がして広げることが難しい
【0050】
5)耐久性
アスファルト舗装補修材を、自動車通行量の多いアスファルト舗装道路上に発生している補修対象部に貼付または充填し、乾燥させた後、3ヶ月後の状態を以下の基準で目視判定した。
○:補修材に亀裂または破れが発生していない
△:補修材に亀裂または破れが若干発生している
×:補修材に亀裂または破れが発生し、補修前とほぼ同様の状態に戻っている
【0051】
<実施例1>
芯部がポリアクリロニトリルで、鞘部にカルボキシル基を有する吸水部を持つ繊維(日本エクスラン工業製ランシール(登録商標)FK(繊度5.6dtex、繊維長51mm))のみを用い、ニードルパンチにて100g/mの不織布を作製し、吸水性繊維基材1とした。次に、該基材を30cm×10cmに切断して、カチオン性アスファルト乳剤(前田道路製PK-3)に浸漬し、ローラーで余分のアスファルト乳剤を搾り取ることにより、基材重量に対して30倍のアスファルト乳剤を含有させたシート状のアスファルト舗装補修材1を得た。吸水性繊維基材1およびアスファルト舗装補修材1の評価結果を表1に示す。
【0052】
<実施例2~4>
実施例1において、ランシール(登録商標)のみを用いる代わりに、前記ランシール(登録商標)とポリエステル繊維(繊度3.3dtex、繊維長51mm)を50:50の重量比で用いること(実施例2)、前記ランシール(登録商標)と前記ポリエステル繊維を25:75の重量比で用いること(実施例3)または日本エクスラン工業製モイスケア(登録商標)N38E(繊度4.4dtex、繊維長50mm)のみを用いること(実施例4)、および、アスファルト乳剤を含有させる量を基材重量に対して10倍(実施例2)または6倍(実施例3、4)に変更すること以外は同様にして、それぞれ吸水性繊維基材2~4およびシート状のアスファルト舗装補修材2~4を得た。これらの評価結果を表1に示す。なお、モイスケア(登録商標)N38Eは、カチオン交換性基であるカルボキシル基を繊維表面および内部の全体に有する繊維である。
【0053】
<実施例5、6>
実施例1において、カチオン性アスファルト乳剤(前田道路製PK-3)の代わりに、カチオン性アスファルト乳剤(東亜道路製RSK-4)(実施例5)またはカチオン性アスファルト乳剤(東亜道路製タックファインE)(実施例6)を用いること以外は同様にして、それぞれアスファルト舗装補修材5、6を得た。これらの評価結果を表1に示す。
【0054】
<実施例7、8>
実施例2において、不織布の目付けを、100g/mから40g/m(実施例7)または150g/m(実施例8)に変更すること以外は同様にして、それぞれ吸水性繊維基材7、8およびアスファルト舗装補修材7、8を得た。これらの評価結果を表1に示す。
【0055】
<実施例9>
実施例1において、含有させるアスファルト乳剤の重量を30倍から20倍に変更すること以外は同様にして、アスファルト舗装補修材9を得た。これらの評価結果を表1に示す。
【0056】
<実施例10>
日本エクスラン工業製ランシール(登録商標)FK(繊度5.6dtex、繊維長51mm)とポリエステル繊維(繊度9dtex、繊維長51mm)を用いたスライバーを作製し、該スライバーを140dtexのポリエステルマルチフィラメントでラップすることで、ランシール(登録商標)を50%含有する1万dtexのヤーンを作製し、吸水性繊維基材10とした。次に、カチオン性アスファルト乳剤(前田道路製PK-3)に浸漬し、ローラーで余分のアスファルト乳剤を搾り取ることにより、基材重量に対して30倍のアスファルト乳剤を含有させた紐状のアスファルト舗装補修材10を得た。これらの評価結果を表1に示す。なお、ヤーンは不織布よりも繊維の拘束が強いため吸水倍率はやや低めとなった。また、作業性を確認するため、3cm幅の線状の亀裂に沿ってアスファルト舗装補修材10を10本充填する施工を実施したところ、補修材同士の強い付着がなく、作業性良好であった。
【0057】
<実施例11>
ランシール(登録商標)を繊維長約1cmにカットして吸水性繊維基材11とした。次に、該基材の重量に対して30倍のカチオン性アスファルト乳剤(前田道路製PK-3)と補修対象部の面積に対して2000g/mとなる量の4号骨材を添加混合し、骨材入りのアスファルト舗装補修材11を得た。これらの評価結果を表1に示す。また、耐久性試験後の写真を図1に示す。なお、不織布のような繊維の拘束がないため吸水倍率は非常に高くなった。
【0058】
<実施例12>
実施例1において作製したアスファルト舗装補修材1を幅1cmの線状の亀裂に貼付し、その上から4号骨材を1000g/mとなるように散布して施工し、常温乾燥後、耐久性を評価した。評価結果を表1に示す。また、耐久性試験後の写真を図2に示す。
【0059】
<実施例13>
実施例1において作製した吸水性繊維基材1を幅1cmの線状の亀裂に設置し、設置した該基材の重量の30倍のカチオン性アスファルト乳剤(前田道路製PK-3)をスプレーにより、該基材に塗布することにより施工した。かかる施工方法においては、吸水性繊維基材を補修対象部に貼付した後、直接アスファルト乳剤を塗布しているため、アスファルト乳剤が補修対象部外に流れ出したり、また、補修材同士がくっついたりすることは無く、作業性良好であった。
【0060】
<実施例14>
幅1cmの線状の亀裂である補修対象部の周囲を養生テープで60cm×10cmの大きさに囲んだ。次に、60cm×10cmの大きさとした吸水性繊維基材1の重量に対して30倍のカチオン性アスファルト乳剤(前田道路製PK-3)を養生テープで囲まれた補修対象部に斑なく噴霧した。次いで、60cm×10cmの大きさの吸水性繊維基材1を補修対象部に貼付することにより施工した。かかる施工方法においては、アスファルト乳剤を塗布後、吸水性繊維基材を貼付しているため、補修材同士がくっつくことはなく、作業性良好であった。
【0061】
<比較例1>
実施例1において、ランシール(登録商標)100重量%の代わりに、ポリエステル繊維100重量%用いること以外は同様にして、比較繊維基材1および比較補修材1を得た。これらの評価結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示されるように、各実施例の吸水性繊維基材は、比較例1の繊維基材と比較して、吸水倍率が大きい、または、カチオン交換性基量が高いものであり、多量のアスファルトを付着することができるものである。そして、かかる吸水性繊維基材を採用する各実施例のアスファルト舗装補修材は、施工しやすく、耐久性も良好なものであることが分かる。
図1
図2