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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025043
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】凍結卵培養装置及び凍結卵の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20220202BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20220202BHJP
【FI】
C12M3/00
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122191
(22)【出願日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2020127635
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】若山 照彦
(72)【発明者】
【氏名】若山 清香
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智美
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 千秋
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC01
4B029GB04
4B065AA90X
4B065BC07
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】熟練した技術者でなくても凍結卵を融解、洗浄し、培養することができる凍結卵培養装置及び凍結卵の培養方法の提供。
【解決手段】容器入り凍結卵を収容する収容部と、液体注入部と、液体排出部と、前記容器入り凍結卵と、前記液体注入部及び前記液体排出部との間に位置する卵流出防止部とを備える凍結卵培養装置、前記凍結卵培養装置を用いる凍結卵の培養方法である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器入り凍結卵を収容する収容部と、
液体注入部と、
液体排出部と、
前記容器入り凍結卵と、前記液体注入部及び前記液体排出部との間に位置する卵流出防止部とを備えることを特徴とする凍結卵培養装置。
【請求項2】
前記卵流出防止部が前記収容部に配置され、
前記収容部の前記容器入り凍結卵が配置された側と、前記液体注入部及び前記液体排出部側とを隔てている請求項1に記載の凍結卵培養装置。
【請求項3】
前記容器入り凍結卵の容器の正面視したときの形状が、V字型である請求項1から2のいずれかに記載の凍結卵培養装置。
【請求項4】
前記凍結卵が、哺乳類の凍結卵である請求項1から3のいずれかに記載の凍結卵培養装置。
【請求項5】
前記収容部に密着防止手段を有する請求項1から4のいずれかに記載の凍結卵培養装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の凍結卵培養装置を用いることを特徴とする凍結卵の培養方法。
【請求項7】
凍結卵を融解する融解工程と、
前記融解した卵を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄した卵を培養する培養工程と、を含む請求項6に記載の凍結卵の培養方法。
【請求項8】
前記洗浄工程を少なくとも2回行う請求項7に記載の凍結卵の培養方法。
【請求項9】
CO濃度を3~6%とした培養液を用いる請求項6から8のいずれかに記載の凍結卵の培養方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結卵(凍結受精卵又は凍結未受精卵)を培養する、凍結卵培養装置及び凍結卵の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マウスなどの哺乳類の凍結卵の融解、洗浄、培養は、図1に示したようにして開放系で行われている。具体的には、クライオチューブなどの容器に入れられた凍結卵は、液体窒素中で保存される。保存された凍結卵の融解、洗浄は、クライオチューブなどの容器に第1の融解液を加え、次いで、ピペッティングにより全量を培養皿に移し、その後、培養皿上に別途配置された3つの第2の融解液に、キャピラリで卵(受精卵又は未受精卵)を順に移しながら洗浄することにより、行われている。そして、洗浄後の卵は、培養液に移して培養される。100μm程度の小さな卵を扱うこの作業は、熟練した技術者によって初めて実施できる作業であり、誰にでも行うことができる作業ではない。
【0003】
凍結卵の融解、洗浄、培養の技術は、不妊治療のクリニック、実験動物施設、畜産分野など様々な分野で用いられる技術であることから、熟練した技術者でなくても容易に確実に凍結卵を融解、洗浄し、培養することができる技術を開発することができれば、これらの分野の発展に大いに貢献することができる。
【0004】
これまでに、生殖細胞を中空糸に包含させて凍結する生殖細胞凍結保存方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。前記提案によれば、生殖細胞を簡易に凍結保存することができるとされている。しかしながら、前記提案のデバイスは、生殖細胞を凍結保存するものであり、同一デバイス中で、生殖細胞を融解、洗浄、培養するものではない。
【0005】
また、凍結細胞の解凍時の熱伝導を妨げる虞がなく、凍結容器から漏洩した貴重な生体細胞を容易に回収可能にするための技術として、包装体内部の空気を排出するための排気用ポートを設けた、凍結細胞を収容した凍結容器を覆う包装体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、前記提案の包装体は、凍結細胞解凍用バッグであり、解凍した細胞を同一容器内で洗浄、培養するものではない。
【0006】
また、複数のポートを有する密封型培養容器を構成要素として備える抗原特異的細胞傷害性T細胞の調製キットが提案されている(例えば、特許文献3参照)。前記提案によれば、簡便な操作で抗原特異的細胞傷害性T細胞を調製することができるとされている。しかしながら、前記提案は、抗原特異的細胞傷害性T細胞を調製するためのものであり、凍結卵を、融解、洗浄、培養する技術に関するものではない。
【0007】
したがって、熟練した技術者でなくても凍結卵を融解、洗浄し、培養することができる技術は、未だ提供されていないのが現状である。
【0008】
また、宇宙における生命現象の解明や生殖の可能性は、ロケットが開発された当初から実施されている関心の高いテーマであり、近年では宇宙環境における哺乳類の早期ライフステージに注目が集まってきている。しかしながら、宇宙では、無重力であるため、地上で行うような胚操作ができないと考えられることに加え、液体窒素を使用することができないなどの条件的な制約や、そもそも高度な技術を要する凍結卵の融解、洗浄、培養といった作業を宇宙飛行士が行うことが困難であるといった技術的な制約もあり、宇宙において受精卵を培養する実験は未だ実現されていないのが現状である。
【0009】
そのため、宇宙実験を行うことを可能にするためという観点からも、熟練した技術者でなくても凍結卵を融解、洗浄し、培養することができる技術の開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-148218号公報
【特許文献2】特開2001-070402号公報
【特許文献3】特開2010-130999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、熟練した技術者でなくても凍結卵を融解、洗浄し、培養することができる凍結卵培養装置及び凍結卵の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、容器入り凍結卵を収容する収容部と、液体注入部と、液体排出部と、前記容器入り凍結卵と、前記液体注入部及び前記液体排出部との間に位置する卵流出防止部とを備える凍結卵培養装置とすることで、凍結卵に触れることなく、密封容器内(閉鎖系(外気と隔てられた系))であっても、凍結卵を融解、洗浄、培養することができ、そのため、受精卵又は未受精卵の操作を一度も行ったことがないような初心者であっても、トレーニングをせずに、凍結卵を融解、洗浄、培養することができることを見出した。
【0013】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 容器入り凍結卵を収容する収容部と、
液体注入部と、
液体排出部と、
前記容器入り凍結卵と、前記液体注入部及び前記液体排出部との間に位置する卵流出防止部とを備えることを特徴とする凍結卵培養装置である。
<2> 前記<1>に記載の凍結卵培養装置を用いることを特徴とする凍結卵の培養方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、熟練した技術者でなくても凍結卵を融解、洗浄し、培養することができる凍結卵培養装置及び凍結卵の培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、従来の凍結卵の融解、洗浄方法を説明するための図である。
図2A図2Aは、凍結卵培養装置の一例の一方の面の模式図である。
図2B図2Bは、前記図2Aの凍結卵培養装置の他方の面の模式図である。
図2C図2Cは、前記図2Aの凍結卵培養装置を撮影した図である。
図3図3は、凍結卵保存容器の一例を撮影した図である。
図4図4は、凍結卵培養装置にシリンジ等を接続した状態の一例を示す図である。
図5図5は、本発明の凍結卵培養装置を用いて凍結受精卵を培養した結果の一例を表す図である。
図6図6は、凍結卵保存容器の一例を示す図である。
図7A図7Aは、実施例2-1の密着防止手段を有さない凍結卵培養装置を用いて凍結受精卵を培養した結果の一例(発生した胚が変形しているものが多い)を示す図である。
図7B図7Bは、実施例2-2の密着防止手段を有する凍結卵培養装置を用いて凍結受精卵を培養した結果の一例(発生した胚が丸い形を保っているものが多い)を示す図である。
図8A図8Aは、密着防止手段を有さない凍結卵培養装置を用いた場合における培養液等の排出の際の想定される収容部の断面の模式図である。
図8B図8Bは、密着防止手段を有する凍結卵培養装置を用いた場合における培養液等の排出の際の想定される収容部の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(凍結卵培養装置)
本発明の凍結卵培養装置は、容器入り凍結卵を収容する収容部と、液体注入部と、液体排出部と、卵(受精卵及び未受精卵)流出防止部とを少なくとも有し、必要に応じて更にその他の構成を有する。
【0017】
<凍結卵>
本発明において、凍結卵とは、凍結受精卵又は凍結未受精卵のことをいう。また、受精卵には、受精直後のものだけではなく、初期胚も含まれる。また、凍結卵の培養とは、凍結卵を解凍(融解)し、培養することをいう。
前記凍結卵の種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、哺乳類が好ましい。前記哺乳類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、海獣などが挙げられる。
前記凍結卵の調製方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0018】
<容器入り凍結卵を収容する収容部>
前記収容部は、容器入り凍結卵を収容する部分である。
前記収容部の形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0019】
-容器入り凍結卵-
前記凍結卵は、凍結卵を収容する容器(以下、「凍結卵保存容器」と称することがある)に収容されている。
前記凍結卵保存容器としては、特に制限はなく、公知の凍結卵保存用容器を適宜選択することができ、例えば、クライオチューブ、ホローストローや、これらを加工したものなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記凍結卵保存容器の形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、前記収容部の大きさや前記収容部に収容する容器入り凍結卵の数などに応じて適宜選択することができる。
【0021】
前記凍結卵保存容器の深さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、凍結卵の解凍、洗浄時に、凍結液や融解液を除去し易い点で、5mm~15mmが好ましい。前記深さは、最も深い部分の長さのことをいう。
【0022】
前記凍結卵保存容器としてクライオチューブを用いる場合の形状としては、例えば、図6に例示した形状などが挙げられる。前記図6中、「a」はクライオチューブそのままの形状であり、「b」はクライオチューブの上部をカットした形状であり、「c」はクライオチューブの底部の正面視したときの形状がV字型の部分とその周りのスカート部からなる形状であり(「M型」と称することがある)、「d」は、前記「M型」のスカート部分を取り除いた形状(「コマ型」と称することがある)であり、「e」はクライオチューブの底部の正面視したときの形状がV字型の部分のみからなる形状(「V字型」と称することがある。)である。これらの中でも、凍結卵の解凍、洗浄時に、凍結液や融解液を除去し易く、また、胚盤胞の回収率を高くすることができる点で、V字型の形状が好ましい。
前記正面視したときの形状とは、前記凍結卵保存容器の開放部を上側として平面に置き、垂直方向に切断した際の断面の形状のことをいう。
【0023】
前記凍結卵保存容器の材質としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリプロピレンやポリエチレンなどが挙げられる。
【0024】
前記凍結卵保存容器の製造方法としては、特に制限はなく、公知の手段を適宜選択して製造することができる。
【0025】
<液体注入部>
前記液体注入部は、前記収容部に液体を注入する際に使用される部分である。
前記液体注入部の配置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記凍結卵培養装置の端部に設けることが好ましい。
前記液体注入部の数は、1つであってもよいし、2つ以上であってもよいが、操作が容易である点で、1つが好ましい。
【0026】
<液体排出部>
前記液体排出部は、前記収容部内の液体を排出する際に使用される部分である。
前記液体排出部の配置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記液体注入部が配置された前記凍結卵培養装置の端部と同一の端部に設けることが好ましい。
前記液体排出部の数は、1つであってもよいし、2つ以上であってもよいが、操作が容易である点で、1つが好ましい。
【0027】
前記液体注入部と、前記液体排出部との配置間隔としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
また、前記液体注入部及び前記液体排出部の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述する液体注入手段及び液体排出手段をそれぞれ接続することができるような、ルアーロックタイプ、針刺しポート、膜チューブなどの形態が好ましい。
前記液体注入部及び前記液体排出部の端部は、外部との接触をさけるためにキャップなどの部材を設けてもよい。
【0029】
<卵流出防止部>
前記卵流出防止部は、卵(受精卵及び未受精卵)の流出を防止するために使用される部分である。
【0030】
前記卵流出防止部の配置としては、前記容器入り凍結卵と、前記液体注入部及び前記液体排出部との間に位置する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0031】
前記卵流出防止部の配置の具体的な態様としては、例えば、前記液体注入部及び前記液体排出部の前記収容部側の開口部(出入口)を覆うように配置する態様、前記容器入り凍結卵を収容する袋状にして前記収容部に配置する態様、前記収容部に配置され、前記収容部の前記容器入り凍結卵が配置された側と、前記液体注入部及び前記液体排出部側とを隔てている(前記収容部の前記容器入り凍結卵が配置された側と、前記液体注入部及び前記液体排出部を有する端部側とを分断するように壁状に配置する(例えば、図2A及び図2B参照))態様などが挙げられる。
【0032】
前記壁状に配置する態様は、卵流出防止部を形成する部材を2つ折りにし、前記2つ折りの開口部が前記容器入り凍結卵が配置された側に位置するように配置することで、壁状とすることができる。
【0033】
前記卵流出防止部の大きさとしては、特に制限はなく、前記凍結卵を収容した容器の大きさや、前記収容部の大きさなどに応じて適宜選択することができる。
前記卵流出防止部を壁状に配置する場合、前記卵流出防止部は、前記収容部の一方の端部から他方の端部までにわたって配置する。
【0034】
前記卵流出防止部の材質としては、卵に対する毒性が低いものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ナイロンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
前記卵流出防止部の構造としては、卵は通過せず、凍結液、融解液、洗浄液などの液体を通過することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メッシュ構造などが挙げられる。
前記メッシュの目開きとしては、卵は通過せず、凍結液などの液体を通過することができる限り、特に制限はなく、卵の大きさなどに応じて適宜選択することができ、例えば、マウスの卵であれば40μmなどが挙げられる。前記卵流出防止部は、単層であってもよいし、2層以上の複層であってもよい。
【0036】
<その他の構成>
前記その他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、密着防止手段、保冷容器などが挙げられる。
【0037】
<<密着防止手段>>
前記密着防止手段は、前記収容部内の液体を排出する際に、前記収容部の上面と下面とが密着することを防止する手段である。前記収容部に前記密着防止手段を有することで、前記収容部内の液体を排出する際に、前記収容部の上面と下面との間に空間を形成する(維持する)ことができ、胚の回収率を向上したり、胚の変形を抑制したりすることができる。そのため、前記凍結卵培養装置は、前記収容部の前記容器入り凍結卵が配置される領域に、前記密着防止手段を有することが好ましい。なお、前記密着防止手段は、空間維持手段、潰れ防止手段と称することもある。
【0038】
前記収容部の上面と下面との間の空間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記収容部内の液体を排出する際の前記上面と下面との間の長さ(厚み)が、2~7mm程度が好ましい。
【0039】
前記密着防止手段は、1個であってもよいし、複数であってもよい。前記密着防止手段の形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、前記上面と下面との間の厚みを考慮して、適宜選択することができる。
【0040】
前記密着防止手段の配置場所としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記密着防止手段を複数用いる場合の配置例としては、前記収容部の前記収容部の前記容器入り凍結卵が配置される領域の4隅、4隅と中央などが挙げられる。前記複数の密着防止手段は、等間隔で配置されてもよいし、等間隔でない場所に配置されてもよい。
【0041】
前記密着防止手段は、配置した場所に固定してもよいし、固定しなくてもよい。
【0042】
前記密着防止手段が固定したものである場合、予め前記収容部の前記収容部の前記容器入り凍結卵が配置される領域に隔壁として設けることもできる。
【0043】
前記密着防止手段が固定しないものである場合の前記密着防止手段の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状等の平面形状、湾曲した板状、球状、管状等の立体形状などが挙げられる。これらの中でも、胚の回収率向上、胚の変形抑制効果が優れる点で、立体形状が好ましく、湾曲した板状、球状がより好ましい。
【0044】
前記密着防止手段が固定しないものである場合の前記密着防止手段の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、卵を傷つけることを抑制できる点で、横1mm×縦1mmより大きいものが好ましく、横約3mm×縦約10mm程度のものが好ましい。
【0045】
前記密着防止手段が固定しないものである場合の前記密着防止手段は、前記収容部の前記容器入り凍結卵が配置される領域に均一に分散して存在させることが好ましい。
【0046】
前記密着防止手段の前記収容部の前記容器入り凍結卵が配置される領域に占める面積としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、30~50%程度などが挙げられる。前記密着防止手段の前記収容部の前記容器入り凍結卵が配置される領域に占める面積とは、前記凍結卵培養装置を平面に置いて平面視した際の面積のことをいう。
【0047】
前記密着防止手段は、胚や装置へのダメージを防ぐために、面取り加工や、滑面加工などが施されているものが好ましい。
【0048】
前記密着防止手段の材質としては、胚への毒性がないものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0049】
<<保冷容器>>
前記保冷容器を用いることにより、前記凍結卵培養装置の凍結卵に融解液を入れるまでの、急激な温度変化を防止することができ、凍結卵の生存率を上げることができる。
前記保冷容器の大きさとしては、特に制限はなく、前記凍結卵培養装置の大きさなどに応じて適宜選択することができる。
前記保冷容器の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、袋状などが挙げられる。前記凍結卵培養装置全体を収容することができる大きさの袋状とすることにより、急激な温度変化をより防止することができる。
前記保冷容器の材質としては、液体窒素下で使用可能な材質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ナイロンメッシュや小粒のアルミニウムなどが挙げられる。
前記保冷容器の構造としては、液体窒素下で使用可能な構造であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、袋状としたナイロンメッシュなどのメッシュ素材の中に小粒のアルミニウムを含有させた態様などが挙げられる。
【0050】
<凍結卵培養装置の製造方法>
前記凍結卵培養装置の製造方法としては、特に制限はなく、公知の材料を適宜選択して、上記構成となるように公知の手段を用いて製造することができる。例えば、フローズバッグ(ニプロ株式会社)などの凍結保存が可能な容器を基にして、卵流出防止部を取り付けるなどにより、製造することができる。
【0051】
前記凍結卵培養装置の形状、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0052】
前記凍結卵培養装置の構造としては、内容物の卵に悪影響のない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガス透過性を有するものであってもよいし、ガス透過性を有さないものであってもよい。
【0053】
前記凍結卵培養装置がガス透過性を有するものである場合、COインキュベーターなどの公知の胚培養用インキュベーターを用いて培養することができる。
【0054】
前記凍結卵培養装置がガス透過性を有さないものである場合、密閉された容器(閉鎖系)であるため、温度さえコントロールすれば、どこでも培養することができる。なお、前記密閉とは、培養時において密閉であることをいう。
本発明において、ガス透過性を有さないとは、前記凍結卵培養装置を構成する外側の部材(例えば、前記凍結卵培養装置が袋状の場合には、前記袋を構成する材料)の酸素ガス透過度として、5mL/m/day/MPa以下であることをいう。なお、本発明において、酸素ガス透過度は、JIS K 7126-2準拠のプラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法に従って、温度25℃、湿度80%RHにて、測定した値である。
【0055】
前記ガス透過性を有さない部材としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、公知の部材を目的に応じて適宜選択することができるが、低温に耐えうる耐寒性合成樹脂が好ましく、例えば、超高分子量ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、ポリイミドなどが挙げられる。
【0056】
本発明の凍結卵培養装置によれば、液体窒素ではなく、ドライアイスで保存した後に融解、洗浄し、培養することも可能であり、凍結卵の運搬等の取扱いも容易になる。
【0057】
(凍結卵の培養方法)
本発明の凍結卵の培養方法としては、上記した本発明の凍結卵培養装置を用いる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、融解工程と、洗浄工程と、培養工程とを少なくとも含み、必要に応じて受精工程や、凍結工程、回収工程、培養後の胚を凍結する再凍結工程などのその他の工程を含むことが好ましい。
【0058】
<融解工程>
前記融解工程は、前記凍結卵培養装置内の凍結卵を融解する工程である。
前記融解工程に用いる融解液としては、特に制限はなく、公知の凍結卵の融解方法に用いられる融解液を適宜選択することができる。例えば、高浸透圧である第1の融解液、低浸透圧である第2の融解液を用いて、前記凍結卵を融解するなどが挙げられる。
【0059】
<洗浄工程>
前記洗浄工程は、前記融解工程後の融解した卵(受精卵又は未受精卵)を洗浄する工程である。
前記洗浄工程に用いる洗浄液としては、特に制限はなく、公知の卵の洗浄方法に用いられる洗浄液を適宜選択することができ、例えば、後述する培養工程で用いる培養用培養液、受精工程で用いる受精用培養液などが挙げられる。
【0060】
前記各培養液の種類としては、特に制限はなく、受精卵の培養又は未受精卵の受精に用いることができる公知の培地を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、CZB培地などが挙げられる。
【0061】
前記凍結卵培養装置がガス透過性を有するものである場合、前記各培養液は、通常用いられる方法で用いることができる。
【0062】
前記凍結卵培養装置がガス透過性を有さないものである場合、前記各培養液は、該培養液におけるCO濃度を最適化した培養液を用いる。
前記CO濃度を最適化した培養液におけるCO濃度としては、卵を培養することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3~6%が好ましく、4~5%がより好ましい。前記好ましい範囲であると、発生率がより高くなる点で、有利である。
【0063】
前記各培養液におけるCO濃度を最適化する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、37℃のCOインキュベーター内で一定時間静置する方法などが挙げられる。前記一定時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、24時間などが挙げられる。また、例えば、アネロパウチという炭酸ガス発生剤に4時間程度作用させ、前記各培養液におけるCO濃度を4~5%とすることもできる。
前記CO濃度の最適化を行う時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記洗浄工程を行う1~2日前などが挙げられる。
【0064】
前記融解工程及び前記洗浄工程の方法としては、上記した本発明の凍結卵培養装置を用いる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0065】
例えば、前記凍結卵培養装置の前記液体注入部を通じて、前記融解液及び前記洗浄液を注入するために、注射器などの注入手段に前記融解液及び前記洗浄液をそれぞれ吸入する。
前記注入手段は、操作を簡便に間違いなく、速やかに行う観点から、針付きチューブなどの前記液体注入部と接続するための部材を有する三方活栓のコネクターに取り付けることが好ましい。
【0066】
また、前記凍結卵培養装置の前記液体排出部を通じて、前記収容部内の液体を排出するために、注射器などの排出手段に、針付きチューブなどの前記液体排出部と前記排出手段とを接続するための部材を取り付ける。
【0067】
次いで、保存していた前記凍結卵培養装置の前記液体注入部に前記注入手段を接続し、前記液体排出部には前記液体排出手段を接続する。
なお、前記凍結卵培養装置を前記保冷容器に入れて保存していた場合には、前記保冷容器から、少なくとも前記凍結卵培養装置の液体注入部及び液体排出部を取り出し、それぞれ前記液体排出部には前記液体排出手段を接続する。
【0068】
その後、前記液体注入部を通じて、前記融解液を前記収容部に注入する。
次いで、前記液体排出部を通じて、前記融解液を前記収容部から排出する。
前記融解液を複数種用いる場合には、上記作業をそれぞれの融解液について行う。
【0069】
前記融解液の注入は、全量を一度に入れてもよいし、全量を複数回に分けて(注入と排出を繰り返して)入れてもよい。
前記融解液として、上記した高浸透圧である第1の融解液と、低浸透圧である第2の融解液とを用いる場合には、前記第1の融解液は全量を一度に入れ、前記第2の融解液は、全量を半量ずつ2回に分けて入れることが、発生率及び胚盤胞の回収率が高まる点で、好ましい。
【0070】
前記融解液の使用量としては、特に制限はなく、凍結卵の量(凍結剤を含む量、以下、「内容物」と称することがある)に応じて適宜選択することができ、例えば、前記内容物の3倍量程度とすることが好ましい。
【0071】
その後、前記液体注入部を通じて、前記洗浄液を前記収容部に注入する。
次いで、前記液体排出部を通じて、前記洗浄液を前記収容部から排出する。
【0072】
前記洗浄液の注入は、全量を一度に入れてもよいし、全量を複数回に分けて注入と排出を繰り返して)入れてもよいが、全量を半量ずつ2回に分けて入れることが、発生率及び胚盤胞の回収率が高まる点で、好ましい。
【0073】
前記洗浄工程は、少なくとも2回以上行うことが、発生率及び胚盤胞の回収率が高まる点で、好ましい。本発明において、洗浄工程を少なくとも2回以上行うとは、1回洗浄工程を行い、一定時間経過後に再度洗浄工程を行うことをいう。
前記一定時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30分間~3時間が好ましく、1時間~2時間がより好ましい。前記好ましい範囲内であると、凍結液をより除去することができ、発生率及び胚盤胞の回収率がより高まる点で、有利である。
前記一定時間中の温度等の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、20~40℃、遮光条件下とするなどが挙げられる。
【0074】
前記洗浄液の使用量としては、特に制限はなく、凍結卵の量(凍結剤を含む量、以下、「内容物」と称することがある)に応じて適宜選択することができる。
【0075】
前記融解工程及び前記洗浄工程における各処理を行う時間、温度としては、特に制限はなく、発生率や胚盤胞率の回収率などに応じて適宜選択することができる。
【0076】
<受精工程>
前記凍結卵として凍結未受精卵を用いる場合には、前記洗浄工程の後であって、後述する培養工程の前に、受精工程を設ける。
前記受精工程は、前記未受精卵を含む前記凍結卵培養装置内に精子を入れ、受精させる工程である。
【0077】
前記凍結卵培養装置内に精子を入れる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記した融解工程及び洗浄工程と同様にして、前記凍結卵培養装置の前記液体注入部を通じて、前記精子を含有する液を注入する方法が挙げられる。
【0078】
前記精子は、未凍結の精子(新鮮精子)を用いてもよいし、凍結した精子を融解した精子を用いてもよい。
前記精子の使用量としては、特に制限はなく、前記未受精卵の量などに応じて適宜選択することができる。
【0079】
前記受精工程の温度、時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、37℃で4~6時間などが挙げられる。
【0080】
前記受精工程を設けることで、凍結未受精卵の融解、洗浄、受精、及び培養を、前記凍結卵培養装置を用いて行うことができる。
【0081】
<培養工程>
前記培養工程は、前記洗浄工程で洗浄した受精卵、又は前記受精工程で受精した受精卵を培養する工程である。
【0082】
前記培養の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、37℃程度などが挙げられる。
前記培養の期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、3~4日間程度などが挙げられる。
本発明では、前記凍結卵培養装置がガス透過性を有さないものである場合、前記培養液にCO濃度を最適化したものを用いる。この場合、完全に密閉した容器の中で受精卵培養が可能であり、温度のコントロールさえできれば、場所を選ばずに受精卵を培養することができる。
【0083】
前記培養後の培養物は、前記凍結卵培養装置を開封し、回収することができる。
【0084】
本発明の凍結卵培養装置によれば、融解から培養までを同一装置内で行うことができ、凍結卵から胚盤胞を得ることができる。また、本発明により得られた胚盤胞は、移植すると産仔が得られることも確認されている。
【0085】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凍結工程、固定化工程などが挙げられる。
【0086】
<<凍結工程>>
前記凍結工程は、前記凍結卵保存容器に受精卵又は未受精卵を凍結する工程である。
前記受精卵又は未受精卵の凍結の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、受精卵又は未受精卵を低浸透圧の凍結液に浸した後、高浸透圧の凍結液を入れた前記凍結卵保存容器に前記受精卵又は未受精卵を移し、液体窒素中で急速凍結する方法が挙げられる。
【0087】
前記凍結卵は、前記凍結卵保存容器ごと前記凍結卵培養装置の開放部を通じて前記収容部に収容し、次いで、前記開放部をヒートシールなどによりシートすることで、凍結卵入り保存容器を収容部に収容した凍結卵培養装置とすることができる。
【0088】
前記凍結卵培養装置はそのまま保存してもよいし、前記保冷容器に入れて保存してもよい。
前記保存の温度としては、特に制限はなく、凍結液の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、液体窒素温度から-30℃までの間とすることができる。
【0089】
<<固定化工程>>
前記固定化工程は、前記培養後の胚を化学固定する工程である。
前記固定化工程は、不妊治療や畜産の分野では、特に必要な処理ではない。一方で、基礎生物学分野では詳細な観察のために、宇宙実験を行う場合には、長期間の保存が必要となるために、胚の固定化が必要となる。
【0090】
前記固定化の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができるが、宇宙実験を考慮すると、1%未満のパラホルムアルデヒドで固定化することが好ましい。
【0091】
前記固定化は、前記融解工程や洗浄工程と同様にして、前記凍結卵培養装置中で行うことができる。前記固定化工程後、必要に応じて洗浄処理を行い、冷蔵又は冷凍で、長期間保存することができる。また、従来はマウスピースなどを使って化学固定するため有毒な固定液が口に入る危険性があったが、本発明の凍結卵培養装置によれば、そのような危険はなく、安全性に優れる。
【実施例0092】
以下、本発明の製造例及び実施例について詳細に説明するが、本発明は、下記の製造例及び実施例により限定されるものではない。
【0093】
(製造例1:凍結卵培養装置の製造)
フローズバッグF-050(容量250mL、ニプロ株式会社)を改変し、凍結卵培養装置を製造した。前記凍結卵培養装置(符号:1)の模式図を図2A及び図2Bに示した。
【0094】
図2Aは前記凍結卵培養装置の一方の面の模式図であり、図2Bは前記凍結卵培養装置の他方の面の模式図である。図2A及び図2B中、符号2は容器入り凍結卵を収容する収容部、符号3は液体注入部、符号4は液体排出部、符号5は卵流出防止部を表す。
【0095】
前記液体注入部及び前記液体排出部は、前記フローズバッグF-050の端部に備えられているポートである。
【0096】
前記卵流出防止部は、縦40mm、横50mmの大きさとしたナイロンメッシュ(330メッシュ、目開き40μm、アズワン株式会社)を縦方向に25mmの場所で2つ折りにし、横方向の端部をヒートシーラー(P-300、富士インパルス株式会社)を用いて前記フローズバッグF-050に固定した。前記フローズバッグF-050への前記ナイロンメッシュの固定場所は、縦方向は前記フローズバッグF-050のポートが供えられた端部とは反対側の端部から25~50mmの部分で、横方向は前記フローズバッグF-050の横方向の端部から5mmの位置とし、壁状に配置した。なお、前記ナイロンメッシュは、前記2つ折りの開口部が前記液体注入部及び前記液体排出部の反対側に位置するように配置した。前記ナイロンメッシュは、受精卵及び未受精卵は通過しないが、凍結液、融解液、培養液などの液体は通過する。
【0097】
(製造例2:凍結卵保存容器の製造)
クライオチューブ(セラムチューブ、住友ベークライト株式会社、MS-4501 1mL)の上部をカットし、正面視した際の形状がV字型状である底部のみからなる凍結卵保存容器を製造した。前記凍結卵保存容器を撮影した図を図3に示した。
【0098】
(製造例3:密着防止手段の製造)
クライオチューブを原料とし、以下のようにして密着防止手段を製造した。
クライオチューブを約5等分に縦方向(深さ方向)に切断し、クライオチューブの側面部分を切り取った。切り取ったものを更に半分に切断し、横約3~5mm、縦約10mmの湾曲状の密着防止手段を得た。なお、前記密着防止手段は、面取り加工を行った。
【0099】
(実施例1:受精卵の凍結、融解、洗浄、培養)
本実験では、マウス受精卵の凍結及び融解は、高浸透圧ガラス化法を参考にして行った。
【0100】
<マウス受精卵の調製>
本実験では、マウス受精卵として、下記のようにして卵管灌流により採卵した2細胞期の卵管灌流胚を使用した。
【0101】
-卵管灌流による採卵-
マウスには、ICR系統又はB6D2F1系統の雌雄マウスを用いた。
1mLシリンジ(テルモ株式会社)と注射針[26ゲージ](テルモ株式会社)を用いて7.5IUのPMSG(セロトロピン、あすかアニマルヘルス株式会社)を腹腔注射してから48時間前後に同様に注射器を用いて7.5IUのhCG(ゴナドトロピン、あすかアニマルヘルス株式会社)を注射することで、雌マウスに過排卵処理を行った。
上記ホルモン注射による過排卵処理を行った雌マウスを雄マウスと一晩同じゲージに入れ飼育した。翌朝、プラグ(膣栓)のチェックを行い、プラグが確認できた雌マウスを次の日に使用した。
灌流は頸椎脱臼によって安楽死させたマウスから卵管を採取し、卵管采(卵管の卵巣側の入り口)に注射針(30ゲージ)を刺し、Hepes-CZB培地(下記参照、以下、「H-CZB培地」と称することがある。)を約0.1mL流した。灌流によって回収された受精卵はCZB培地(下記参照)をミネラルオイル(M8410、シグマ社)で覆ったチャンバーで培養した。培養はインキュベーター(5%CO、37℃、100%湿度)内で行った。
【0102】
〔CZB培地〕
ガラス瓶に200mLのミリQをとり、スラーターを用いて以下の試薬をよく溶解させ、下記組成のストック液を作製した。一晩冷蔵庫で静置して、フィルターを用いて、滅菌した。
-ストック液の組成-
以下の組成は、CZB培地100mLあたりの量を表す。
・ NaCl ・・・ 476mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ KCl ・・・ 36mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ MgSO・7HO ・・・ 29mg
(ナカライテスク株式会社)
・ KHPO ・・・ 16mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ EDTA・2Na ・・・ 4mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ NaHCO ・・・ 211mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ 乳酸ナトリウム ・・・ 0.53mL
(60%シロップ)(シグマ社)
・ D-グルコース ・・・ 100mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ ペニシリンG ・・・ 5mg
(ICN Biomedicsls Inc)
・ ストレプトマイシン ・・・ 7mg
(ICN Biomedicsls Inc)
・ フェノールレッド ・・・ 適量
(10mg/ml soln.in saline)(シグマ社)
【0103】
前記CZB培地のストック液50mLに以下の試薬を加えて、一晩冷蔵庫で静置した。
以下の組成は、CZB培地100mLあたりの量を表す。
・ ピルビン酸ナトリウム ・・・ 3mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ L-グルタミン ・・・ 15mg
(シグマ社)
・ CaCl・2HO ・・・ 25mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ BSA ・・・ 500mg
(シグマ社,GIBCO AlbuMAX)
【0104】
クリーンベンチ内で0.22μmフィルター(MILLEX GV)を用いて滅菌を行い、アシストチューブに分注して、又はガラス瓶に入れ冷蔵庫で保管した。
【0105】
〔H-CZB培地〕
ガラス瓶に200mLのミリQをとり、スラーターを用いて以下の試薬をよく溶解させ、下記組成のストック液を作製した。一晩冷蔵庫で静置して、フィルターを用いて、滅菌した。
-ストック液の組成-
以下の組成は、H-CZB培地100mLあたりの量を表す。
・ NaCl ・・・ 476mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ KCl ・・・ 36mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ MgSO・7HO ・・・ 29mg
(ナカライテスク株式会社)
・ KHPO ・・・ 16mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ EDTA・2Na ・・・ 4mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ NaHCO ・・・ 211mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ Hepes・Na(basic) ・・・ 520mg
(シグマ社)
・ 乳酸ナトリウム ・・・ 0.53mL
(60%シロップ)(シグマ社)
・ D-グルコース ・・・ 100mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ ペニシリンG ・・・ 5mg
(ICN Biomedicsls Inc)
・ ストレプトマイシン ・・・ 7mg
(ICN Biomedicsls Inc)
・ フェノールレッド ・・・ 適量
(10mg/ml soln.in saline)(シグマ社)
【0106】
前記H-CZB培地のストック液50mLに以下の試薬を加えて、一晩冷蔵庫で静置した。
以下の組成は、H-CZB培地100mLあたりの量を表す。
・ ピルビン酸ナトリウム ・・・ 3mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ L-グルタミン ・・・ 15mg
(シグマ社)
・ CaCl・2HO ・・・ 25mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ PVA ・・・ 10mg
(シグマ社)
【0107】
クリーンベンチ内で0.22μmフィルター(MILLEX GV)を用いて滅菌を行い、アシストチューブに分注して冷蔵庫で保管した。
【0108】
<マウス受精卵の凍結及び凍結卵培養装置への封入>
上記のようにして調製したCZB培地中のマウス受精卵を少量の培養液と共に、室温に戻した低浸透圧の凍結液1(下記参照、「EFS 20液」と称することがある)50μLに移した。
【0109】
〔凍結液1〕
-EFS 20用のFS液-
50mLの遠沈管に以下の試薬と溶液を入れ、よく混ぜて溶かした。完全に溶解してからBSA 60.0mgを上に載せ、自然に溶けるまで待ち、EFS 20液用のFS液とした。なお、PB1(BSA-)の組成等は後述した。
・ PB1(BSA-) ・・・ 14.0mL
・ フィコール ・・・ 6.0g
(GE Healthcare)
・ スクロース ・・・ 3.4g
(富士フイルム和光純薬株式会社)
【0110】
-EFS 20液-
前記EFS 20用のFS液にエチレングリコールを下記の割合で混ぜて、EFS 20液を調整した。
・ EFS 20用のFS液 ・・・ 4(v/v)
・ エチレングリコール ・・・ 1(v/v)
(富士フイルム和光純薬株式会社)
【0111】
前記受精卵を凍結液1に移して2分間経過した後に、室温に戻した高浸透圧の凍結液2(下記参照、「EFS 42.5c-d液」と称することがある)50μLを含む前記製造例2の凍結卵保存容器に前記受精卵を移した。
【0112】
〔凍結液2〕
-EFS 42.5c-d用のFS液-
50mLの遠沈管に以下の試薬と溶液を入れ、よく混ぜて溶かし、4℃の冷蔵庫で一晩静置し、EFS 42.5c-d用のFS液とした。なお、PB1(BSA-)の組成等は後述した。
・ PB1(BSA-) ・・・ 9.0mL
・ フィコール ・・・ 6.0g
(GE Healthcare)
・ スクロース ・・・ 12.0g
(富士フイルム和光純薬株式会社)
【0113】
-EFS 42.5c-d液-
前記EFS 42.5c-d用のFS液にエチレングリコールを下記の割合で混ぜて、EFS 42.5c-d液を調整した。
・ EFS 42.5c-d用のFS液 ・・・ 57.5(v/v)
・ エチレングリコール ・・・ 42.5(v/v)
(富士フイルム和光純薬株式会社)
【0114】
前記受精卵を凍結液2に移して1分間経過した後に、前記凍結卵保存容器をピンセットでつまみ、ディッシュに満たした液体窒素に投入し、そのまま5~10秒間保持して急速凍結した。
【0115】
前記凍結卵培養装置の液体注入部及び液体排出部のいずれか一方に印を付け、チューブで穴を開けた。液体窒素の気層で、前記凍結卵培養装置を冷やした。その後、凍結した受精卵を収容した前記凍結卵保存容器を前記凍結卵培養装置の収容部に入れた。次いで、前記凍結卵培養装置の開放部(前記液体注入部及び前記液体排出部を有する端部と反対側の端部)を上下熱ヒートシーラー(富士インパルス株式会社、T-130K、T230K)でシールしてパッキングし、液体窒素で冷却した。
【0116】
前記凍結卵培養装置は、液体窒素で凍結後、-80℃で保存した。
【0117】
なお、上述したPB1(BSA-)及びPB1(BSA+)の組成等は下記のとおりである。
〔PB1(BSA-/+)〕
(1) ねじ口瓶にPBSタブレット(タカラバイオ株式会社)を10粒入れ、1,000mLのミリQをとり、オートクレーブで溶解・滅菌した。これを、メスシリンダーを用いて1,000mLになるようにミリQを足し、PBSを1,000mL調整し、ねじ口瓶に戻した。
【0118】
(2) 前記(1)で調整したPBS 1,000mLに100倍濃度に調整したMgCl・6HO(富士フイルム和光純薬株式会社)10mLを溶解させた。完全に溶解したら100倍濃度に調整したCaCl・2HO(富士フイルム和光純薬株式会社)10mLを溶解させ、PBS 1,020mLを調製した。
【0119】
(3) 前記(2)で調整したPBS 1,020mLに以下の試薬をよく溶解させ、PB1(BSA-)を調整した。
<PB1(BSA-)の組成(80mLあたり)>
・ PBS ・・・ 80mL
・ ピルビン酸ナトリウム ・・・ 2.9mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
・ ペニシリンG ・・・ 5.1mg
(ICN Biomedicsls Inc)
・ D-グルコース ・・・ 80mg
(富士フイルム和光純薬株式会社)
【0120】
(4) ストレージボトル 500mL(コーニング社)に前記(3)で調整したPB1(BSA-)を400mL分注し、水面にBSA(AlbuMAX) 1,200mgを載せ、冷蔵庫で静置して自然に溶けるまで待った。その後フィルターを用いて滅菌しPB1(BSA+)を調整した。
【0121】
<凍結受精卵の融解、洗浄、及び培養>
-準備-
30mLシリンジを3本用意し、室温に戻した融解液1(高浸透圧の融解液、下記参照)、融解液2(低浸透圧の融解液、下記参照)、及び培養液(前記CZB培地)をそれぞれのシリンジに30mL吸入した。
なお、前記培養液は、ガス透過性を有する線虫バッグに入れ、インキュベーター(5%CO、37℃、湿度100%)内で24時間静置し、培養液におけるCO濃度を最適化(4~5%)したものを用いた。
【0122】
〔融解液1〕
(1) 1,000mLのストレージボトル(コーニング社)にスクロース179.7gを前記PB1(BSA-)に振盪しながら溶解させ、全量が前記ストレージボトルの700mLの目盛になるように調整した。
(2) 前記(1)で調整した0.75Mスクロース-PB1 700mLの水面にBSA2,100mgを載せ、冷蔵庫で静置して自然に溶けるまで待った。その後、フィルターを用いて滅菌し、融解液1(以下、「0.75Mスクロース-PB1(BSA+)」と称することがある)とした。
【0123】
〔融解液2〕
前記PB1(BSA+)400mLに、前記0.75Mスクロース-PB1(BSA+)200mLを混ぜ合わせた。その後、フィルターを用いて滅菌し、融解液2(以下、「0.25Mスクロース-PB1(BSA+)」と称することがある)とした。
【0124】
廃液用シリンジ(100mL)に、前記凍結卵培養装置の液体排出部と接続するための針付きチューブを取り付けた。
【0125】
三方活栓を用意し、前記凍結卵培養装置の液体注入部と接続するための針付きチューブを取り付けた。前記三方活栓の針付きチューブを取り付けた側の反対側から順に、融解液1が入ったシリンジ、融解液2が入ったシリンジ、及び培養液が入ったシリンジを取り付けた。
【0126】
-融解及び洗浄-
(1) -80℃で保存した前記凍結卵培養装置をフリーザーから取り出した。
前記凍結卵培養装置の液体排出部に前記廃液用シリンジと接続したチューブを、液体注入部に前記三方活栓と接続したチューブをそれぞれ装着した(図4参照)。
前記廃液用シリンジと接続したチューブのコックを開き、シリンジで空気を抜いた後コックを閉めた。
本工程(1)は、1分30秒間、常温で行った。
【0127】
(2) 前記凍結卵培養装置の収容部に前記融解液1を全量(30mL)入れ、コックを閉め、前記凍結卵培養装置を5回振った。
本工程(2)は、4分30秒間、常温で行った。
【0128】
(3) 前記廃液用シリンジと接続したチューブのコックを開き、注入した前記融解液1を全量抜いた後コックを閉めた。
前記凍結卵培養装置の収容部に前記融解液2を15mL入れ、コックを閉め、前記凍結卵培養装置を5回振った。
前記廃液用シリンジと接続したチューブのコックを開き、注入した前記融解液2を全量抜いた後コックを閉めた。
次いで、前記凍結卵培養装置の収容部に前記融解液2を15mL入れ、コックを閉め、前記凍結卵培養装置を5回振った。
本工程(3)は、3分間、室温で行った。
【0129】
(4) 前記廃液用シリンジと接続したチューブのコックを開き、注入した前記融解液2を全量抜いた後コックを閉めた。
前記凍結卵培養装置の収容部に前記培養液を15mL入れ、コックを閉め、前記凍結卵培養装置を5回振った。
前記廃液用シリンジと接続したチューブのコックを開き、前記培養液を全量抜いた後コックを閉めた。
前記凍結卵培養装置の収容部に前記培養液を15mL入れ、コックを閉め、前記凍結卵培養装置を5回振った。
【0130】
(5) 前記工程(4)を行った後、室温(25℃)又は37℃(以下、「2回目の培地交換までの温度」と称することがある)で0.5時間、1時間、又は2時間(以下、「2回目の培地交換までの時間」と称することがある)静置した。なお、静置中は、前記凍結卵培養装置にアルミホイルをかぶせた状態とした。その後、前記(4)をもう一度繰り返した。
【0131】
-培養-
前記融解及び洗浄の作業後、前記液体注入部のポートの硬い部分を持ちながら、前記三方活栓と接続されたチューブをゆっくり外し、前記液体注入部にゴム栓をした。
同様に、前記液体排出部に接続されたチューブをゆっくり外し、前記液体排出部にゴム栓をした。
次いで、前記凍結卵培養装置を37℃のインキュベーターに静置し、3日間培養した。
【0132】
前記培養後、前記凍結卵培養装置を開封し、内容物を10cmディッシュに移した。そこから回収された胚盤胞の割合などを算出した。結果を下記の表1に示す。また、顕微鏡観察した結果の一例を図5に示す。
なお、回収率、生存率、胚盤胞率は、下記の式から算出した。
回収率(%)=(回収された胚の数/供試卵数)×100
生存率(%)=(生存していた胚の数/回収された胚の数)×100
胚盤胞率(%)=(胚盤胞の数/回収された胚の数)×100
【0133】
【表1】
【0134】
表1及び図5に示されたように、本発明の凍結卵培養装置を用いることで、凍結卵を胚盤胞まで培養できることが確認された。
【0135】
また、ICRマウスをレシピエントとして使用し、前記得られた胚盤胞期胚を2.5日目の偽妊娠マウスに子宮移植したところ、産仔を得ることができ(表2参照)、本発明の凍結卵培養装置で培養して得られる胚盤胞は、産仔を得られるほどのクオリティーであることも確認された。
【0136】
【表2】
【0137】
なお、不妊治療や畜産の分野では、前記培養後の胚を固定する必要はない。しかしながら、宇宙ステーションで実験を行う場合には保存との関係で、前記培養後の胚を固定する必要がある。また、宇宙ステーションでは、取扱いの観点から、1%未満のパラホルムアルデヒド(以下、「PFA」と称することがある)の使用が好ましい。
そこで、前記培養を4日間行った後の前記凍結卵培養装置内に0.99% PFAを入れて1時間固定処理を行った後、0.1%ポリビニルアルコールを含むPBSで洗浄した。なお、固定液の注入・排出、洗浄液の注入は、前記融解、洗浄のときと同様の方法で行った。
前記凍結卵培養装置を開封し、胚盤胞を回収した。
前記回収した胚盤胞について、常法により免疫染色を行ったところ、内部細胞塊(ICM)と栄養外胚葉(TE)をきれいに染め分けることができた。また、次世代シーケンサーを使って遺伝子発現を確認したところ、細胞周期のM期に必要な遺伝子であるPttg1の発現も確認できた。
【0138】
(実施例2)
密着防止手段を有さない凍結卵培養装置と、密着防止手段を有する凍結卵培養装置との比較を行った。
【0139】
<実施例2-1:密着防止手段を有さない凍結卵培養装置(コントロール)>
実施例1において、-融解及び洗浄-における工程(5)(2回目の培地交換までの時間及び温度)を、37±1℃、1~2時間とした以外は、実施例1と同様にして、凍結卵から胚盤胞までの培養を行った。
【0140】
<実施例2-2:密着防止手段を有する凍結卵培養装置>
実施例1の<マウス受精卵の凍結及び凍結卵培養装置への封入>において、凍結卵保存容器を凍結卵培養容器の収容部に入れる際に、製造例3で製造した10個の密着防止手段を併せて前記収容部に入れ、-融解及び洗浄-における工程(5)(2回目の培地交換までの時間及び温度)を、37±1℃、1~2時間とした以外は、実施例1と同様にして、凍結卵から胚盤胞までの培養を行った。
【0141】
実施例1と同様にして算出した、回収率及び胚盤胞率の結果を下記の表2に示す。また、顕微鏡観察した結果の一例を図7A(密着防止手段を有さない凍結卵培養装置を用いた場合)及び図7B(密着防止手段を有する凍結卵培養装置を用いた場合)に示す。
【0142】
【表2】
【0143】
表2並びに図7A及び7Bに示されたように、密着防止手段を有する凍結卵培養装置を用いることで、胚の回収率を高め、かつ胚の変形を防ぐことができることが確認された。これは、図8A及び8Bの模式図に示すように、密着防止手段(13)を備えることで、培養液等の排出の際に収容部内に空間を維持することができ、収容部の上面(10)と下面(11)とが密着することを防止し、その結果、胚(12)が変形することを防げたと考えられる。
【0144】
本発明の凍結卵培養装置によれば、凍結卵に直接接することなく、融解、洗浄、培養を行うことができる。そのため、胚操作を一度も行ったことがないような人であっても、全く練習せずに、凍結卵の培養が可能となる。また、密閉系の凍結卵培養装置とすることで、温度さえコントロールすれば、場所を選ばずに凍結卵の培養を実施することができる。
したがって、不妊治療のクリニック、動物実験施設、畜産分野といった受精卵又は未受精卵を取り扱う機関で好適に用いることができ、更には、宇宙空間においてこれまで実施することが不可能であった実験が可能となる。
【0145】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 容器入り凍結卵を収容する収容部と、
液体注入部と、
液体排出部と、
前記容器入り凍結卵と、前記液体注入部及び前記液体排出部との間に位置する卵流出防止部とを備えることを特徴とする凍結卵培養装置である。
<2> 前記卵流出防止部が前記収容部に配置され、
前記収容部の前記容器入り凍結卵が配置された側と、前記液体注入部及び前記液体排出部側とを隔てている前記<1>に記載の凍結卵培養装置である。
<3> 前記容器入り凍結卵の容器の正面視したときの形状が、V字型である前記<1>から<2>のいずれかに記載の凍結卵培養装置である。
<4> 前記凍結卵が、哺乳類の凍結卵である前記<1>から<3>のいずれかに記載の凍結卵培養装置である。
<5> 前記収容部に密着防止手段を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の凍結卵培養装置である。
<6> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の凍結卵培養装置を用いることを特徴とする凍結卵の培養方法である。
<7> 凍結卵を融解する融解工程と、
前記融解した卵を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄した卵を培養する培養工程と、を含む前記<6>に記載の凍結卵の培養方法である。
<8> 前記洗浄工程を少なくとも2回行う前記<7>に記載の凍結卵の培養方法である。
<9> CO濃度を3~6%とした培養液を用いる前記<6>から<8>のいずれかに記載の凍結卵の培養方法である。
【符号の説明】
【0146】
1 凍結卵培養装置
2 収容部
3 液体注入部
4 液体排出部
5 卵流出防止部
6 シリンジ(融解液1用)
7 シリンジ(融解液2用)
8 シリンジ(培養液用)
9 シリンジ(廃液用)
10 収容部上面
11 収容部下面
12 胚
13 密着防止手段
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B