(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025045
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】香料組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 9/01 20060101AFI20220202BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20220202BHJP
C11D 3/50 20060101ALI20220202BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20220202BHJP
A61K 8/96 20060101ALI20220202BHJP
A61Q 15/00 20060101ALI20220202BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20220202BHJP
D06M 13/00 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
A61L9/01 Q ZNA
C11B9/00 Z
C11D3/50
A61Q13/00 101
A61K8/96
A61Q15/00
A61Q19/10
D06M13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122346
(22)【出願日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2020127591
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020174788
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000169466
【氏名又は名称】高砂香料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】三原 尚
(72)【発明者】
【氏名】桑原 裕香理
(72)【発明者】
【氏名】村井 正人
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
(72)【発明者】
【氏名】石田 賢哉
【テーマコード(参考)】
4C083
4C180
4H003
4H059
4L033
【Fターム(参考)】
4C083AC122
4C083AC242
4C083AC352
4C083AC422
4C083AC472
4C083AC482
4C083AC532
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4C180EB14X
4C180EC01
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4C180FF05
4H003AB03
4H003AB22
4H003AC03
4H003AC05
4H003AC13
4H003BA12
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4H003FA26
4H059BA12
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4H059BC23
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4H059EA35
4L033AB04
4L033AC02
4L033BA00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】悪臭原因物質に対して応答性を示す嗅覚受容体を用いて試験物質の中から悪臭抑制素材の候補物質をスクリーニングすることで得られる、悪臭の不快さを低減する悪臭抑制効果を有する香料組成物を提供する。
【解決手段】OR2L3、及びOR2L3が有するアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ悪臭原因物質に対して応答性を示すポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種の嗅覚受容体ポリペプチドの前記悪臭原因物質に対する応答強度を抑制する香料成分を含有する香料組成物。本発明の好ましい態様によれば、糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、及びカビ臭からなる群より選ばれる少なくとも1種の悪臭に起因する不快さを低減することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
OR2L3、及びOR2L3が有するアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ悪臭原因物質に対して応答性を示すポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種の嗅覚受容体ポリペプチドの前記悪臭原因物質に対する応答強度を抑制する香料成分を含有する香料組成物。
【請求項2】
スカトール、インドール、α-ターピネオール、4-ターピネオール、及びp-メチルアセトフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種の悪臭原因物質から構成される悪臭を抑制する、請求項1に記載の香料組成物。
【請求項3】
前記悪臭が糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、及びカビ臭からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の香料組成物。
【請求項4】
スカトール臭、インドール臭、α-ターピネオール臭、4-ターピネオール臭、及びp-メチルアセトフェノン臭からなる群より選ばれる少なくとも1種の抑制用である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の香料組成物。
【請求項5】
香料成分が下記A群からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の香料組成物。
A群:メチルフェンコール、3-メルカプト-2-メチル酪酸エチル、ジメチル-2-(1-フェニルエチル)シクロプロピルメタノール、5-シクロヘキサデセノン、1-(2,2,6-トリメチルシクロヘキシル)ヘキサン-3-オール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-ブテン-1-オール、p-メンタ-8-チオール-3-オン、カルダモン油、クラリーセージ油、マンダリン油、スペアミント油
【請求項6】
香料成分が、さらに下記B群からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項5に記載の香料組成物。
B群:メチル-2-ノニノエート、p-メンタ-1,8-ジエン-7-アール、2-フェニルプロパナール、エチルアミルケトン、シス-2-メチル-4-プロピル-1,3-オキサチアン、ヘキサン酸エチル、2-メチル吉草酸エチル、テトラヒドロ-4-メチル-2-(2-メチルプロペニル)-2H-ピラン、(2S,4R)-テトラヒドロ-4-メチル-2-(2-メチルプロペニル)-2H-ピラン、ヘキサン酸アリル、酢酸イソアミル、3-メチル-2-(シス-2-ペンテニル) -2-シクロペンテン-1-オン、酢酸シス-3-ヘキセニル、酢酸プレニル、2-メトキシナフタレン、シス-3-ヘキセン-1-オール、イソ吉草酸エチル、グレープフルーツ油、カモミール油、ライム油、ガルバナム油、シトロネラ油、ペパーミント油、ユーカリプタス油、ナツメグ油、コリアンダー油
【請求項7】
A群の香料成分を0.000001~50質量%、及びB群の香料成分を0.0001~50質量%含有する、請求項6に記載の香料組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の香料組成物を0.01~100質量%含有する製品。
【請求項9】
糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、及びカビ臭からなる群より選ばれる少なくとも1種の悪臭に対して、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の香料組成物を適用して悪臭を抑制することを含む、糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、及びカビ臭からなる群より選ばれる少なくとも1種の悪臭の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪臭を抑制する香料成分を含む香料組成物に関する。また本発明は、該香料組成物を含む製品及び悪臭抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好性の多様化や生活環境の多様化に応じて、身の回りの臭気・悪臭に対して敏感な人が増えている。
生活空間における不快臭の代表的な原因物質として、体臭、糞便臭、腐敗臭などに含まれるスカトールやインドールが挙げられる(特許文献1)。
【0003】
これら悪臭の選択的な消臭技術として、特定のにおい物質に応答する嗅覚受容体を探索し、その活性化を特定物質で抑制するアンタゴニズムメカニズムに基づく消臭方法の可能性が明らかになってきている。悪臭原因物質であるスカトール又はインドールに応答する嗅覚受容体として、OR2W1、OR5P3、OR5K1、OR8H1が開示され、これらの嗅覚受容体の応答を抑制することによって、スカトール臭やインドール臭を抑制できることが記載されている(特許文献2)。
【0004】
この従来の手段では、スカトールまたはインドールに応答する嗅覚受容体を、特定の匂い分子で阻害することで悪臭の認識を特異的に抑制すると言われている。しかしながら、その消臭効果は感覚的には不十分であった。さらに哺乳動物中には多くの嗅覚受容体が存在するため、匂い分子に対する嗅覚受容体の特定が継続的に望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-036434号公報
【特許文献2】特開2012-250958号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature Communications 10:209 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スカトールやインドールへの応答が開示されている嗅覚受容体の多くはBroadly Tuned嗅覚受容体であり、悪臭認識を特徴づけている嗅覚受容体がどれであるかは不明確であり知られていなかった。また、α-ターピネオール、4-ターピネオール及びp-メチルアセトフェノンに明確に応答する嗅覚受容体は、これまでに知られていなかった。このような状況の下、スカトール、インドール、α-ターピネオール、4-ターピネオール及びp-メチルアセトフェノンに代表される悪臭原因物質に応答する嗅覚受容体を探索し、該悪臭抑制素材の候補物質を効率的にスクリーニングする方法、該悪臭の不快さを低減する悪臭抑制効果を有する香料組成物を提供することが望まれている。
好ましい態様によれば、本発明は、スカトール臭、インドール臭、α-ターピネオール臭、4-ターピネオール臭、及びp-メチルアセトフェノン臭からなる群より選ばれる悪臭の抑制素材をスクリーニングする方法、及び糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、カビ臭の少なくともいずれか一つの不快さを低減する悪臭抑制組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行ったところ、スカトール、インドール、α-ターピネオール、4-ターピネオール、p-メチルアセトフェノンのそれぞれに応答する嗅覚受容体を新たに同定することに成功した。本発明者はさらに検討を進め、これらの嗅覚受容体を用いることで、嗅覚受容体アンタゴニストのマスキング効果による糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、又はカビ臭抑制素材の評価及び選択が可能であることを見出し、OR2L3の応答を抑制するアンタゴニスト候補化合物群に、優れた糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、又はカビ臭の少なくともいずれか一つの不快さの抑制効果を見出した。さらに驚くべきことに、OR2L3の応答の抑制効果を示さない香料群の中の特定成分を併用することで、さらに優れた糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、又はカビ臭の少なくともいずれか一つの抑制効果を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に示す香料組成物、該香料組成物を含有する製品及び悪臭抑制方法を提供するものである。
[1]OR2L3、及びOR2L3が有するアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ悪臭原因物質に対して応答性を示すポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種の嗅覚受容体ポリペプチドの前記悪臭原因物質に対する応答強度を抑制する香料成分を含有する香料組成物。
[2]スカトール、インドール、α-ターピネオール、4-ターピネオール、及びp-メチルアセトフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種の悪臭原因物質から構成される悪臭を抑制する、前記[1]に記載の香料組成物。
[3]前記悪臭が糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、及びカビ臭からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記[1]又は[2]に記載の香料組成物。
[4]スカトール臭、インドール臭、α-ターピネオール臭、4-ターピネオール臭、及びp-メチルアセトフェノン臭からなる群より選ばれる少なくとも1種の抑制用である、前記[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の香料組成物。
[5]香料成分が下記A群からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、前記[1]乃至[4]のいずれか一項に記載の香料組成物。
A群:メチルフェンコール、3-メルカプト-2-メチル酪酸エチル、ジメチル-2-(1-フェニルエチル)シクロプロピルメタノール、5-シクロヘキサデセノン、1-(2,2,6-トリメチルシクロヘキシル)ヘキサン-3-オール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-ブテン-1-オール、p-メンタ-8-チオール-3-オン、カルダモン油、クラリーセージ油、マンダリン油、スペアミント油
[6]香料成分が、さらに下記B群からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、前記[5]に記載の香料組成物。
B群:メチル-2-ノニノエート、p-メンタ-1,8-ジエン-7-アール、2-フェニルプロパナール、エチルアミルケトン、シス-2-メチル-4-プロピル-1,3-オキサチアン、ヘキサン酸エチル、2-メチル吉草酸エチル、テトラヒドロ-4-メチル-2-(2-メチルプロペニル)-2H-ピラン、(2S,4R)-テトラヒドロ-4-メチル-2-(2-メチルプロペニル)-2H-ピラン、ヘキサン酸アリル、酢酸イソアミル、3-メチル-2-(シス-2-ペンテニル) -2-シクロペンテン-1-オン、酢酸シス-3-ヘキセニル、酢酸プレニル、2-メトキシナフタレン、シス-3-ヘキセン-1-オール、イソ吉草酸エチル、グレープフルーツ油、カモミール油、ライム油、ガルバナム油、シトロネラ油、ペパーミント油、ユーカリプタス油、ナツメグ油、コリアンダー油
[7]A群の香料成分を0.000001~50質量%、及びB群の香料成分を0.0001~50質量%含有する、前記[6]に記載の香料組成物。
[8]前記[1]乃至[7]のいずれか一項に記載の香料組成物を0.01~100質量%含有する製品。
[9]糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、及びカビ臭からなる群より選ばれる少なくとも1種の悪臭に対して、前記[1]乃至[7]のいずれか一項に記載の香料組成物を適用して悪臭を抑制することを含む、糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、及びカビ臭からなる群より選ばれる少なくとも1種の悪臭の抑制方法。
【0010】
また本発明は、一実施態様として、以下に示す香料組成物及びそれを含有する製品及び悪臭抑制方法を提供するものである。
[1]OR2L3及びこれとアミノ酸配列において少なくとも80%の同一性を有する群より選択される少なくとも1種の嗅覚受容体ポリペプチドに対する応答強度を抑制する香料成分を含有することを特徴とする香料組成物。
[2]スカトール、インドール、α-ターピネオール、4-ターピネオール、p-メチルアセトフェノンから選ばれる少なくとも1種から構成される悪臭を抑制する、[1]に記載の香料組成物。
[3]前記悪臭が糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、カビ臭から選ばれる少なくとも1種である、[2]に記載の香料組成物。
[4]スカトール臭、インドール臭、α-ターピネオール臭、4-ターピネオール臭、p-メチルアセトフェノン臭から選ばれる少なくとも1種の抑制用である、[1]に記載の香料組成物。
[5]香料成分が下記A群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載の香料組成物。
A群:メチルフェンコール、3-メルカプト-2-メチル酪酸エチル、ジメチル-2-(1-フェニルエチル)シクロプロピルメタノール、5-シクロヘキサデセノン、1-(2,2,6-トリメチルシクロヘキシル)ヘキサン-3-オール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-ブテン-1-オール、p-メンタ-8-チオール-3-オン、カルダモン油、クラリーセージ油、マンダリン油、スペアミント油
[6][5]に記載の香料組成物に加え、さらに下記B群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする香料組成物。
B群:メチル-2-ノニノエート、p-メンタ-1,8-ジエン-7-アール、2-フェニルプロパナール、エチルアミルケトン、シス-2-メチル-4-プロピル-1,3-オキサチアン、ヘキサン酸エチル、2-メチル吉草酸エチル、テトラヒドロ-4-メチル-2-(2-メチルプロペニル)-2H-ピラン、(2S,4R)-テトラヒドロ-4-メチル-2-(2-メチルプロペニル)-2H-ピラン、ヘキサン酸アリル、酢酸イソアミル、3-メチル-2-(シス-2-ペンテニル) -2-シクロペンテン-1-オン、酢酸シス-3-ヘキセニル、酢酸プレニル、2-メトキシナフタレン、シス-3-ヘキセン-1-オール、イソ吉草酸エチル、グレープフルーツ油、カモミール油、ライム油、ガルバナム油、シトロネラ油、ペパーミント油、ユーカリプタス油、ナツメグ油、コリアンダー油
[7][5]に記載のA群を0.0001~50質量%、[6]に記載のB群を0.001~50質量%含有することを特徴とする香料組成物。
[8][1]乃至[7]のいずれかに記載の香料組成物を0.01~30質量%含有することを特徴とする製品。
[9]糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、カビ臭から選ばれる少なくとも1種の悪臭に対して、[2]乃至[7]のいずれかに記載の香料組成物を使用することを特徴とする糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、カビ臭から選ばれる少なくとも1種の悪臭の抑制方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法を用いることにより、スカトール臭、インドール臭、α-ターピネオール臭、4-ターピネオール臭、p-メチルアセトフェノン臭抑制素材の候補物質をスクリーニングすることができる。本発明のスクリーニング方法は、スカトール臭、インドール臭、α-ターピネオール臭、4-ターピネオール臭、p-メチルアセトフェノン臭抑制素材の開発に貢献できるものと期待される。
また、新しい香料素材を開発するために多数の候補物質の匂いを人間の嗅覚のみで評価することは、嗅覚疲労や個人差の問題があり、適切に候補物質を選択することに困難を伴う場合があるが、本発明の方法によれば、このような問題を解消または軽減することができる。
さらに、OR2L3またはOR2L3が有するアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ悪臭原因物質に対して応答性を示すポリペプチドの応答を抑制するアンタゴニスト候補化合物群と従来から香料等として用いられている特定の化合物群とを併用することで、アンタゴニスト候補化合物群のみを用いるよりも優れた悪臭抑制効果を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】スカトールに対する嗅覚受容体OR2L3の応答の測定結果を示す図である。
【
図2】インドールに対する嗅覚受容体OR2L3の応答の測定結果を示す図である。
【
図3】α-ターピネオールに対する嗅覚受容体OR2L3の応答の測定結果を示す図である。
【
図4】4-ターピネオールに対する嗅覚受容体OR2L3の応答の測定結果を示す図である。
【
図5】p-メチルアセトフェノンに対する嗅覚受容体OR2L3の応答の測定結果を示す図である。
【
図6】グアバコア(登録商標)の添加による、スカトールに対する嗅覚受容体OR2L3の応答抑制効果を示す図である。
【
図7】デキストランバー(登録商標)の添加による、スカトールに対する嗅覚受容体OR2L3の応答抑制効果を示す図である。
【
図8】ヒンジノール(登録商標)の添加による、スカトールに対する嗅覚受容体OR2L3の応答抑制効果を示す図である。
【
図9】グアバコア(登録商標)の添加による、インドールに対する嗅覚受容体OR2L3の応答抑制効果を示す図である。
【
図10】デキストランバー(登録商標)の添加による、インドールに対する嗅覚受容体OR2L3の応答抑制効果を示す図である。
【
図11】ヒンジノール(登録商標)の添加による、インドールに対する嗅覚受容体OR2L3の応答抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明で用いたスクリーニング方法について説明した後、本発明の香料組成物及び悪臭抑制方法について具体的に説明する。
【0014】
1.スクリーニング方法
本発明で用いたスクリーニング方法は、悪臭原因物質に対して応答性を示す嗅覚受容体OR2L3を用いて、試験物質の中から悪臭抑制素材の候補物質をスクリーニングする方法であって、
(i) OR2L3、及びOR2L3が有するアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ悪臭原因物質に対して応答性を示すタンパク質(ポリペプチド)からなる群より選択される嗅覚受容体(嗅覚受容体ポリペプチド)と悪臭原因物質を接触させ、悪臭原因物質に対する嗅覚受容体の応答を測定する工程と、
(ii) 悪臭原因物質の非存在下で、工程(i)で用いた嗅覚受容体の応答を測定する工程と、
(iii) 工程(i)および(ii)における測定結果を比較して、応答性の変化値を計算して求める工程と、
(iv) 工程(i)において悪臭原因物質に試験物質を混合して、工程(iii)と同様に応答性の変化値を計算して求める工程と、
(v) 工程(iii)と比較して工程(iv)の値が低減した試験物質を、悪臭抑制素材の候補物質として選択する工程と
を含むことを特徴としている。
【0015】
上記スクリーニング方法は、嗅覚受容体OR2L3、及びOR2L3が有するアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ悪臭原因物質に対して応答性を示すタンパク質(ポリペプチド)からなる群より選択される嗅覚受容体に対する試験物質の応答性を指標として、試験物質の中から悪臭抑制素材の候補物質を選択するものである。
【0016】
一般に、1種類の匂い物質が複数の嗅覚受容体を活性化した結果、好き嫌い、誘引や忌避などの情動や行動が引き起こされることが知られており、非特許文献1(Nature Communications 10:209 (2019))によれば、一つ一つの嗅覚受容体には匂いの「質」が規定されていることが示されている。数百種類もの匂い物質に対するOR2L3応答を測定し、鋭意検討集約したところ、OR2L3に応答する物質には悪臭物質が一定数含まれることから、OR2L3は嫌いや忌避に相当する悪臭認識と関連付けられた。このことから、該嗅覚受容体OR2L3に対する試験物質の応答性を評価することによって、試験物質の中から悪臭原因物質が嗅覚受容体と結合することを妨げることができる候補物質を選択することができる。
なお、本明細書において、「試験物質」とは、特に限定するものではないが、悪臭抑制効果の調査対象をいい、化合物、組成物または混合物をいうものとする。また、本明細書において「悪臭抑制素材」とは、特に限定するものではないが、悪臭を抑制することができる化合物、組成物または混合物をいうものとする。以下、本発明で用いたスクリーニング方法の各工程について説明する。
【0017】
<工程(i)>
工程(i)では、OR2L3、及びOR2L3が有するアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ悪臭原因物質に対して応答性を示すタンパク質(ポリペプチド)からなる群より選択される嗅覚受容体と悪臭原因物質を接触させ、悪臭原因物質に対する嗅覚受容体の応答を測定する。
【0018】
嗅覚受容体としては、OR2L3、及びOR2L3が有するアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ悪臭原因物質に対して応答性を示すタンパク質(ポリペプチド)からなる群より選択される嗅覚受容体が用いられる。
OR2L3は、GenBankにNМ_001004687として登録されており、配列番号1で示される塩基配列のDNAによってコードされるアミノ酸配列(配列番号2)からなるタンパク質(ポリペプチド)である。
該嗅覚受容体OR2L3は、スカトールに代表されるある種の悪臭物質に選択的に応答することから、OR2L3を用いたスクリーニング方法は、悪臭抑制素材の開発に貢献できるものと期待される。
【0019】
嗅覚受容体として、OR2L3が有するアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ悪臭原因物質に対して応答性を示すタンパク質(ポリペプチド)からなる群より選択される嗅覚受容体を用いてもよい。なお、本明細書においてアミノ酸配列の配列同一性は、BLAST検索アルゴリズム(NCBIより公に入手できる)によって算出される。
嗅覚受容体は、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明において、悪臭原因物質は、スカトール、インドール、α-ターピネオール、4-ターピネオール又はp-メチルアセトフェノンに代表される、糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、又はカビ臭の少なくともいずれかであり、ヒトに不快感を与えるOR2L3応答性の化合物、組成物または混合物をいう。
【0021】
本発明において嗅覚受容体と悪臭原因物質を接触させ、悪臭原因物質に対する嗅覚受容体の応答を測定する方法は特に制限されない。例えば、嗅覚受容体を発現している生体から単離された細胞上で悪臭原因物質と接触させ、嗅覚受容体の応答を測定してもよいし、嗅覚受容体を遺伝子操作により人為的に発現させた細胞上で悪臭原因物質と接触させ、嗅覚受容体の応答を測定してもよい。嗅覚受容体と悪臭原因物質を接触させる時間は、悪臭原因物質の濃度や測定方法にも依存するため一概には言えないが、接触させた直後に応答を測定してもよく、通常、レポータージーンアッセイ法においては0~4時間、好ましくは2~4時間、カルシウムイメージング法では数秒から数分程度である。
【0022】
嗅覚受容体を遺伝子操作により人為的に発現させた細胞は、嗅覚受容体をコードする遺伝子を組み込んだベクターを用いて細胞を形質転換することで作製することができる。
【0023】
本発明の好ましい態様では、嗅覚受容体と共に、ウシロドプシンのN末端20アミノ酸残基を組み込んでもよい。ウシロドプシンのN末端20アミノ酸残基を組み込むことにより、嗅覚受容体の細胞膜発現を促進することができる。
ウシロドプシンは、GenBankにNM_001014890として登録されている。ウシロドプシンは、配列番号3で示される塩基配列の第1番目から第1047番目のDNAによってコードされるアミノ酸配列(配列番号4)からなるタンパク質(ポリペプチド)である。
また、ウシロドプシンに代えて、配列番号4で示されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ嗅覚受容体の細胞膜発現を促進することができるタンパク質(ポリペプチド)を用いてもよい。
なお、嗅覚受容体の細胞膜発現を促進できるものであれば、ウシロドプシンに限らず、他のタンパク質(ポリペプチド)のアミノ酸残基を用いてもよい。
【0024】
嗅覚受容体の応答を測定する方法は特に制限されなく、当分野で用いられている任意の方法を用いることができる。例えば、香気化合物が嗅覚受容体へ結合すると、細胞内のGタンパク質を活性化し、Gタンパク質がアデニル酸シクラーゼを活性化して、ATPを環状AMP(cAMP)へと変換し、細胞内のcAMP量を増加させることが知られている。したがって、cAMP量を測定することで嗅覚受容体の応答を測定することができる。cAMP量を測定する方法としては、ELISA法やレポータージーンアッセイ法等が用いられる。中でも、ルシフェラーゼなどの発光物質を用いたレポータージーンアッセイ法により嗅覚受容体の応答を測定することが好ましい。
【0025】
<工程(ii)>
工程(ii)では、悪臭原因物質の非存在下で、工程(i)で用いた嗅覚受容体の応答を測定する。
嗅覚受容体の応答を測定する方法は、嗅覚受容体と悪臭原因物質を接触させないことを除いて、工程(i)で示した方法と同様の方法を用いることができる。例えば、嗅覚受容体を発現している生体から単離された細胞上で嗅覚受容体の応答を測定してもよいし、嗅覚受容体を遺伝子操作により人為的に発現させた細胞上で嗅覚受容体の応答を測定してもよい。工程(i)と(ii)における測定結果を適切に比較するために、工程(i)と(ii)における測定条件は、悪臭原因物質の接触の有無を除いて、同じであることが好ましい。
【0026】
<工程(iii)>
工程(iii)では、工程(i)および(ii)における測定結果を比較して、応答性の変化値を計算して求める。
本発明の一実施態様によれば、応答性の変化は、工程(i)における測定結果を、工程(ii)における測定結果で割ることで求められるFold Increase値を指標として評価してもよい。例えば、ルシフェラーゼなどの発光物質を用いたレポータージーンアッセイ法により嗅覚受容体の応答を測定する場合、Fold Increase値が好ましくは2以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは10以上となる濃度の悪臭原因物質を使用して評価することができる。
【0027】
<工程(iv)>
工程(iv)では、工程(i)において悪臭原因物質に試験物質を混合して、工程(iii)と同様に応答性の変化値を計算して求める。
【0028】
<工程(v)>
工程(v)では、工程(iii)と比較して工程(iv)の値が低減した試験物質を、悪臭抑制素材の候補物質として選択する。
本発明では、工程(iii)および(iv)における測定結果を比較して応答性の変化値の低減が見られた場合、工程(iv)で用いた試験物質を、悪臭抑制素材の候補物質として評価することができる。
【0029】
上記のようにして、試験物質の中から悪臭抑制素材の候補物質をスクリーニングすることができる。上記スクリーニング方法によれば、人間の嗅覚によって行う官能評価による嗅覚疲労や個人差などによる問題を生じることなく、多数の試験物質の中から悪臭抑制素材の候補物質を選択することができる。
選択された物質は、悪臭抑制素材の候補物質として用いることができる。選択された物質を基に必要に応じて改変等を行い、最適な匂いのする新規な化合物を開発することもできる。さらには、選択された物質を他の香料素材とブレンドして悪臭を抑制することができ、かつ最適な匂いのする香料素材を開発することも可能である。上記スクリーニング方法を用いることにより、悪臭抑制素材の新しい香料素材の開発に貢献することができる。
【0030】
2.香料組成物
上記スクリーニング方法を用いることにより悪臭原因物質に応じて適切な悪臭抑制素材を効率的に選択することができ、該悪臭抑制素材を有効成分として用いることにより目的の悪臭抑制効果を有する香料組成物(「悪臭抑制組成物」ともいう。)を得ることができる。
本発明の一実施形態において、本発明の香料組成物は、有効成分として下記(A)群から選択される少なくとも1種を含有する。
また、本発明の好ましい一実施形態において、本発明の香料組成物は、有効成分として、下記(A)及び(B)の2つの群からそれぞれ選択される少なくとも1種以上を有効成分として含有する。
ここで、(A)群は、上記スクリーニング方法により悪臭抑制素材として見い出されたOR2L3の応答を抑制するアンタゴニスト候補化合物群である。他方、(B)群は、上記スクリーニング方法においてOR2L3の応答の抑制効果を示さないが、(A)群との併用により、(A)群が有する悪臭抑制効果を高める効果を奏し得る化合物群である。
【0031】
(A)群としてはメチルフェンコール(ヒュームスエーテル(登録商標))、3-メルカプト-2-メチル酪酸エチル(グアバコア(登録商標))、ジメチル-2-(1-フェニルエチル)シクロプロピルメタノール(パンプレフィックス(登録商標))、5-シクロヘキサデセノン(アンブレトン(登録商標))、1-(2,2,6-トリメチルシクロヘキシル)ヘキサン-3-オール(デキストランバー(登録商標))、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-ブテン-1-オール(ヒンジノール(登録商標))、p-メンタ-8-チオール-3-オン(リンゴノール(登録商標))、カルダモン油、クラリーセージ油、マンダリン油、及びスペアミント油等が挙げられる。
本発明の香料組成物における(A)群の配合量は、製品や香調により制限は無いが、概ね0.000001~50質量%が好ましく、例えば、0.0001~50質量%が好ましい。(A)群の好ましい配合量は閾値によっても異なる。
例えば、グアバコア(登録商標)やリンゴノール(登録商標)の様な閾値の低い化合物は0.000001質量%以上が好ましく、0.00001~0.1質量%の範囲がより好ましく、0.00001~0.001質量%であることがさらに好ましい。例えば、0.00001質量%以上が好ましく、0.0001~1質量%の範囲がより好ましく、0.0001~0.01質量%であることがさらに好ましい。
その他のアンブレトン(登録商標)、デキストランバー(登録商標)、クラリーセージ油などは0.01質量%以上が好ましく、0.1~50質量%の範囲がより好ましく、0.1~20質量%であることがさらに好ましい。例えば、0.1質量%以上が好ましく、0.1~50質量%の範囲がより好ましく、0.1~20質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
(B)群としてはメチル-2-ノニノエート、p-メンタ-1,8-ジエン-7-アール、2-フェニルプロパナール、エチルアミルケトン、シス-2-メチル-4-プロピル-1,3-オキサチアン、ヘキサン酸エチル、2-メチル吉草酸エチル、テトラヒドロ-4-メチル-2-(2-メチルプロペニル)-2H-ピラン、(2S,4R)-テトラヒドロ-4-メチル-2-(2-メチルプロペニル)-2H-ピラン、ヘキサン酸アリル、酢酸イソアミル、3-メチル-2-(シス-2-ペンテニル) -2-シクロペンテン-1-オン、酢酸シス-3-ヘキセニル(シス-3-ヘキセニルアセテート)、酢酸プレニル、2-メトキシナフタレン、シス-3-ヘキセン-1-オール、イソ吉草酸エチル、グレープフルーツ油、カモミール油、ライム油、ガルバナム油、シトロネラ油、ペパーミント油、ユーカリプタス油、ナツメグ油、及びコリアンダー油等が挙げられる。
本発明の香料組成物における(B)群の配合量は、製品や香調により制限は無いが、概ね0.0001~50質量%が好ましく、例えば0.001~50質量%が好ましく、0.001~30質量%の範囲がより好ましく、0.01~20質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
A群とB群を併用する場合はA群がグアバコア(登録商標)のような閾値の低い化合物の場合はA群:B群(質量基準)が0.0005%:99.9995%~50%:50%であることが好ましく、1%:99%~40%:60%であることがより好ましく、10%:90%~30%:70%であることがさらに好ましい。A群がクラリーセージ油のような場合はA群:B群(質量基準)が1%:99%~99%:1%であることが好ましく、10%:90%~90%:10%であることがより好ましく、30%:70%~70%:30%であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の香料組成物は、悪臭抑制用の香料組成物として好適に用いられる。
本発明の好ましい態様によれば、上記A群及びB群を含有する香料組成物は、スカトール、インドール、α-ターピネオール、4-ターピネオール、及びp-メチルアセトフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種より構成される悪臭である糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、又はカビ臭の少なくともいずれか一つの不快さを抑制する。
【0035】
本発明の香料組成物に、下記で説明するような公知の香料あるいは慣用の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲内、すなわち糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、及びカビ臭からなる群より選ばれる少なくとも1種の悪臭に伴う不快感を解消し得る、量的、質的範囲内で配合することが可能である。
【0036】
公知の香料の例として、例えば、α-ピネン、リモネン、セドレンなどの炭化水素類;1-オクテン-3-オール、ノナノールなどの脂肪族飽和又は不飽和アルコール類;ミルセノール、テトラヒドロリナロール、ネロールなどの飽和又は不飽和鎖状テルペンアルコール;イソプレゴール、ボルニルメトキシシクロヘキサノールなどの環状テルペンアルコール;ファルネソール等のセスキテルペンアルコール;γ-フェニルプロピルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール等の芳香族アルコール;脂肪族アルデヒド、テルペン系アルデヒド、芳香族アルデヒド、イソ・イー・スーパー(7-アセチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-1,1,6,7-テトラメチルナフタレン)等の脂肪族ケトン;テルペン系環状ケトン、環状ケトン、脂肪族エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、安息香酸エステル、フェニル酢酸エステル、サリチル酸エステル、アンスラニル酸エステル等が挙げられる。これらの公知の香料の本香料組成物における配合量は、配合する香料の種類や目的等によって適宜選択することができ、特に限定されるものではない。
【0037】
本発明の香料組成物は、その形態や剤型に応じて、慣用の添加剤と共に香粧品等へ配合することができる。
【0038】
慣用の添加剤としては、例えば、公知の紫外線吸収剤;メントールやメチルサリチレート等の清涼剤;トウガラシチンキ、ノニルバニリルアミド等の皮刺激剤等を挙げることができる。これら慣用の添加剤の配合量は特に限定されるものではないが、本発明の香料組成物全体に対して、概ね0.005~5.0質量%の範囲である。
【0039】
3.香料組成物を含有する製品
本発明の香料組成物を含む製品としては、フレグランス製品、香粧品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、日焼け化粧品、薬用化粧品、ヘアケア製品、石鹸、身体洗浄剤、浴用剤、衣料用洗剤、衣料用柔軟仕上げ剤、洗浄剤、台所用洗剤、漂白剤、エアゾール剤、消臭・芳香剤、忌避剤、雑貨、などが挙げられる。
例えば、フレグランス製品としては、香水、オードパルファム、オードトワレ、オーデコロン、など;基礎化粧品としては、洗顔クリーム、バニシングクリーム、クレンジングクリーム、コールドクリーム、マッサージクリーム、乳液、化粧水、美容液、パック、メイク落とし、など;
仕上げ化粧品としては、ファンデーション、口紅、リップクリーム、など;頭髪化粧品としては、ヘアートニック、ヘアーリキッド、ヘアースプレー、など;
日焼け化粧品としては、サンタン製品、サンスクリーン製品、など;
薬用化粧品としては、制汗剤、アフターシェービングローション及びジェル、パーマネントウェーブ剤、薬用石鹸、薬用シャンプー、薬用皮膚化粧料、などを挙げることができる。
ヘアケア製品としては、シャンプー、リンス、リンスインシャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアパック、など;
石鹸としては、化粧石鹸、浴用石鹸、など;
身体洗浄剤としては、ボディソープ、ボディシャンプー、ハンドソープ、など;
浴用剤としては、入浴剤(バスソルト、バスタブレット、バスリキッド、等)、フォームバス(バブルバス、等)、バスオイル(バスパフューム、バスカプセル、等)、ミルクバス、バスジェリー、バスキューブ、などを挙げることができる。
【0040】
洗剤としては、衣料用重質洗剤、衣料用軽質洗剤、液体洗剤、洗濯石鹸、コンパクト洗剤、粉石鹸、など;
柔軟仕上げ剤としては、ソフナー、ファーニチアケアー、など;
洗浄剤としては、クレンザー、ハウスクリーナー、トイレ洗浄剤、浴室用洗浄剤、ガラスクリーナー、カビ取り剤、排水管用洗浄剤、など;
台所用洗剤としては、台所用石鹸、台所用合成石鹸、食器用洗剤、など;
漂白剤としては、酸化型漂白剤(塩素系漂白剤、酸素系漂白剤、等)、還元型漂白剤(硫黄系漂白剤、等)、光学的漂白剤、など;
エアゾール剤としては、スプレータイプ、パウダースプレー、など;
消臭・芳香剤としては、固形状タイプ、ゲル状タイプ、リキッドタイプ、など;
雑貨としては、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、などの種々の形態を挙げることができる。
【0041】
これらの製品における本香料組成物の含有量は、製品形態や目的に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、製品の質量基準で、0.01~100質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.05~50質量%、さらに好ましくは0.1~20質量%である。例えば、本香料組成物の含有量は、製品の質量基準で、0.01~30質量%の範囲であってもよい。
【0042】
本発明の香料組成物を、前記製品に使用する場合、このままの状態、或いはこれらを、例えば、アルコール類、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類に溶解した液体状態;界面活性剤、例えば、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤などを用いて可溶化或いは分散化した可溶化状態或いは分散化状態;又はカプセル化剤で処理して得られるマイクロカプセル状態など;その目的に応じて任意の形状を選択して用いられている。
【0043】
さらに、サイクロデキストリンなどの包接剤に包接して、上記香料組成物を安定化且つ徐放性にして用いることもある。これらは、最終製品の形態、例えば、液体状、固体状、粉末状、ゲル状、ミスト状、エアゾール状などに適したもので適宜に選択して用いられる。
【0044】
さらに、それ自体が着臭剤ではないが、使用/適用条件下で、上記香料組成物を放出する能力を有したプロフレグランスとして用いられる。この場合の本香料組成物の配合量は特に限定されるものではないが、製品全体に対して、概ね0.001~20.0質量%の範囲である。
【0045】
4.悪臭の抑制方法
本発明の香料組成物を用いることにより、糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、及びカビ臭からなる群より選ばれる少なくとも1種の悪臭を抑制することができる。
すなわち、本発明は、糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、及びカビ臭からなる群より選ばれる少なくとも1種の悪臭に対して、本発明の香料組成物を適用して悪臭を抑制することを含む、糞便臭、体臭、タバコ臭、口臭、及びカビ臭からなる群より選ばれる少なくとも1種の悪臭の抑制方法を提供するものである。
本発明の香料組成物を悪臭に対して適用する方法は特に限定されない。例えば、前記香料組成物を含有する製品を使用することにより、本発明の香料組成物を悪臭に対して適用することができる。使用方法は、製品の形態に応じて適宜選択することができる。
【実施例0046】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。特に記載がない限り、組成比及び希釈濃度に関する記載は質量基準で示した。
【0047】
[実施例1]
<嗅覚受容体OR2L3が悪臭原因物質に応答することの確認>
(1)嗅覚受容体遺伝子クローニング
ヒト嗅覚受容体遺伝子はGenBankに登録されている配列情報を基に、Human Genomic DNA: Female(Promega社)よりPCR法にてクローニングすることで得た。pME18SベクターにウシロドプシンのN末端20アミノ酸残基を組み込み、さらにその下流に、得られたヒト嗅覚受容体遺伝子を組み込むことで、ヒト嗅覚受容体遺伝子発現ベクターを得た。
(2)HEK293T細胞での嗅覚受容体遺伝子の発現
ヒト嗅覚受容体遺伝子発現ベクター0.05μg、RTP1Sベクター0.01μg、cAMP応答配列プロモーターを含むホタルルシフェラーゼベクターpGL4.29(Promega社)0.01μg、およびチミジンキナーゼプロモーターを含むウミシイタケルシフェラーゼベクターpGL4.74(Promega社)0.005μgをOpti-MEM I(gibco社)10μLに溶解して遺伝子溶液(1穴分)とした。HEK293T細胞を、24時間後にコンフルエントに達する細胞数で96穴プレート(Biocoat、Corning社)に100μLずつ播種し、Lipofectamine 3000の使用法に従ってリポフェクション法によって遺伝子溶液を各穴に添加して、細胞に遺伝子導入を行い、37℃、5%二酸化炭素雰囲気下で24時間培養した。
(3)ルシフェラーゼレポータージーンアッセイ
培養液を除去した後に、検体となる香気化合物を測定する濃度になる様にCD293(gibco社)培地(20μM L-グルタミン添加)で調製したものを50μLずつ添加し、3時間の刺激を行った後に、Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega社)の使用方法に従ってルシフェラーゼ活性を測定した。嗅覚受容体の応答強度は、香気化合物の刺激によって生じたルシフェラーゼ活性を、香気化合物を含まない試験系で生じたルシフェラーゼ活性で割ることで求められるFold Increase値で表現した。
(4)悪臭物質に応答する嗅覚受容体の同定
悪臭原因物質の代表例として、スカトール、インドール、α-ターピネオール、4-ターピネオール又はp-メチルアセトフェノンの嗅覚受容体OR2L3に対する応答を、ルシフェラーゼレポータージーンアッセイによって様々な濃度で測定した。結果を
図1~5にそれぞれ示す。OR2L3は各種悪臭原因物質に対して濃度依存的な応答を示した。一方で、Mock試験(OR2L3を発現させない細胞を使用)では応答が見られなかった。すなわち、OR2L3は各種悪臭原因物質に対して、特異的に応答することが示された。
【0048】
[実施例2]
<悪臭抑制素材に対するOR2L3の応答抑制効果の評価>
A群について、悪臭に対して強い応答を示した該OR2L3の応答を抑制する効果を、ルシフェラーゼレポータージーンアッセイによって測定した。ルシフェラーゼレポータージーンアッセイにおいて、検体にスカトールとグアバコア(登録商標)を混合して用い、グアバコアを混合しなかった試験でのFold Increase値を1とした際の、グアバコアを混合した試験でのFold Increase値の割合を求めた。結果を
図6に示す。グアバコアの、スカトールに対するOR2L3の応答を濃度依存的に低減させる効果が示された。
本OR2L3の応答抑制効果の評価のグアバコアをデキストランバー(登録商標)に置き換えて同様に試験を実施した。結果を
図7に示す。デキストランバーのスカトールに対するOR2L3の応答を濃度依存的に低減させる効果が示された。同様にグアバコアをヒンジノール(登録商標)に置き換えて試験を実施した。結果を
図8に示す。ヒンジノールのスカトールに対するOR2L3の応答を濃度依存的に低減させる効果が示された。
本OR2L3の応答抑制効果の評価の悪臭をスカトールからインドールに置き換えて同様に試験を実施した。A群をそれぞれグアバコア、デキストランバー、又はヒンジノールとしたときの結果をそれぞれ
図9~11に示した。グアバコア、デキストランバー、及びヒンジノールのインドールに対するOR2L3の応答を濃度依存的に低減させる効果が示された。
本OR2L3の応答抑制効果の評価はグアバコアをその他A群に置き換え、悪臭をスカトールからα-ターピネオール、4-ターピネオール又はp-メチルアセトフェノンに置き換えた組み合わせにおいても試験を実施した。いずれもA群は各悪臭のOR2L3の応答を濃度依存的に低減させる効果が示された。
【0049】
[実施例3]
<A群の悪臭抑制能の評価>
受容体活動阻害活性を有する試験物質の悪臭抑制能を、官能評価によって確認した。悪臭としてはクエン酸トリエチルで100倍に希釈したスカトール、又は100倍に希釈したインドールを各10μL滴下、及び試験物質を1μL滴下した綿球をプラスチックボトル(竹本容器製OZO-40)に入れた。ボトルを1時間室温で静置し、匂い分子をボトル中に十分揮発させた。官能評価試験はパネル20名で行い、悪臭を単独で滴下した場合の匂いの強さを8とし、試験物質を混合した場合の悪臭の強さを0(悪臭を感じない)から10(非常に強く悪臭を感じる)として評価した。得られた数値より平均値を算出した。結果を表1に示す。
OR2L3のスカトール応答を抑制するヒュームスエーテル(登録商標)は、スカトール臭の強度を著しく抑制させた。このスカトールの抑制は、OR2L3のスカトール応答を抑制しなかった対照物質(4-t-ブチルシクロヘキサノール、サリチル酸ヘキシル)を用いた場合に比べ、顕著であった。またインドールについて調べた結果、やはりヒュームスエーテルによってスカトール臭の強度が抑制された。なお、OR2L3の応答を抑制する他の物質(グアバコア、パンプレフィックス、アンブレトン、デキストランバー、ヒンジノール、リンゴノール(いずれも登録商標)、カルダモン油、クラリーセージ油、マンダリン油、スペアミント油)についても悪臭の抑制効果を検証したところ、いずれの物質も各悪臭を抑制することが明らかとなった。
【0050】
【0051】
[実施例4]
<A群とB群の組み合わせによる悪臭抑制能の評価>
下記表2~6の処方に従い、香料1~41の香料組成物を調製した。表中のDPGはジプロピレングリコールを示す。B群は表7に示すように5つのグループに分け、それぞれBグループ1~Bグループ5とし、香料組成物へ添加した。なお、グループの分け方、グループ内の比率は任意であり、表7により何ら制限されるものではない。表2~6中のフローラルフルーティベースは表8に従い調製した。
これらの香料組成物について、悪臭抑制能を官能評価によって確認した。悪臭はスカトール、インドール、酪酸、p-クレゾール及びジメチルトリスルフィドを含むモデル糞便臭(Lin et al., Environ. Sci. Technol.,2013, 47(14),pp7876~7882)を100倍に希釈したものを10μL滴下、及び試験物質は香料1~41を1μL滴下した綿球をプラスチックボトル(竹本容器製OZO-40)に入れた。ボトルを1時間室温で静置し、匂い分子をボトル中に十分揮発させた。官能評価試験はパネル20名で行い、悪臭を単独で滴下した場合の不快さを-3とし、試験物質を混合した場合の不快さを-4(極端に不快)から+4(極端に快)として評価した。得られた数値より平均値を算出した。結果を表2~6に示す。
OR2L3の応答を抑制するヒュームスエーテル(登録商標)を含む香料組成物はモデル糞便臭の不快さを抑制した。さらにBグループ1と併用することで、より優れたモデル糞便臭の抑制効果を示すことが明らかとなった。このモデル糞便臭の抑制は、対照物質(4-t-ブチルシクロヘキサノール、サリチル酸ヘキシル)を混合した場合に比べ、顕著であった。なお、OR2L3の応答を抑制する他の物質(グアバコア、パンプレフィックス、アンブレトン、デキストランバー、ヒンジノール、リンゴノール(いずれも登録商標)、カルダモン油、クラリーセージ油、マンダリン油、スペアミント油)についても悪臭の抑制効果を検証したところ、いずれの物質も各悪臭の不快さを抑制し、さらにBグループ1と併用することで、さらなる抑制効果を有することが明らかとなった。
本検証のBグループ1をBグループ2に置き換えて同様の検証を実施した。その結果、Bグループ1を使用したときと同様、Bグループ2と併用することで、より優れたモデル糞便臭の不快さの抑制効果を示すことが明らかとなった。
Bグループ1をBグループ3、4、5に置き換えて同様の検証を実施したところ、Bグループ1を使用したときと同様、いずれもBグループと併用することで、より優れたモデル糞便臭の不快さの抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
[実施例5]
<ゲル芳香剤>
ヒュームスエーテル(登録商標)を0.01%、Bグループ1を1.5%含有するフローラルフルーティ調香料組成物(表2中香料2)を香料組成物として、下記表9の処方に従い、ゲル芳香剤を常法により製造した。なお、ヒュームスエーテルをA群のいずれかの化合物、BグループをB群のいずれかの化合物に置き換えた処方とした香料組成物でも同様にゲル芳香剤を常法により製造した。
【0060】
【0061】
[実施例6]
<ボディソープ>
グアバコア(登録商標)を0.0001%、Bグループ3を1.5%、シトラスベースを残部として含有するシトラス調香料組成物を香料組成物としてボディソープを常法により製造した。シトラスベースの処方は表10、ボディソープの処方は表11のとおりである。なお、グアバコアをA群のいずれかの化合物、BグループをB群のいずれかの化合物に置き換えた処方とした香料組成物でも同様にボディソープを常法により製造した。
【0062】
【0063】
【0064】
[実施例7]
<液体柔軟剤>
パンプレフィックス(登録商標)を0.005%、Bグループ4を5%、フローラルバルサミックベースを残部として含有するフローラルバルサミック調香料組成物を香料組成物として液体柔軟剤を常法により製造した。フローラルバルサミックベースの処方は表12、液体柔軟剤の処方は表13のとおりである。なお、パンプレフィックスをA群のいずれかの化合物、BグループをB群のいずれかの化合物に置き換えた処方とした香料組成物でも同様に液体柔軟剤を常法により製造した。
【0065】
【0066】