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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025056
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】可変容量型圧縮機用制御弁
(51)【国際特許分類】
   F04B 27/18 20060101AFI20220202BHJP
【FI】
F04B27/18 B
F04B27/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021123149
(22)【出願日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】16/940,644
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】久米 義之
(72)【発明者】
【氏名】マシュー アール.ワレン
(72)【発明者】
【氏名】エルネスト ホセ グティエレス
【テーマコード(参考)】
3H076
【Fターム(参考)】
3H076AA06
3H076BB21
3H076BB32
3H076BB43
3H076CC20
3H076CC27
3H076CC84
3H076CC85
(57)【要約】
【課題】弁内逃がし通路の開度設定を容易に行うことができ、圧縮機内の冷媒の内部循環を効果的に低減でき、圧縮機の運転効率を効果的に向上させることのできる可変容量型圧縮機用制御弁を提供する。
【解決手段】圧縮機起動時に用いられる比較的大開度の大開度弁内逃がし通路と、圧縮機起動時と通常制御時(Pd→Pc制御時)の両方に用いられる比較的小開度の小開度弁内逃がし通路が別個の通路で形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁口が設けられた弁室と圧縮機の吸入室に連通する吸入圧力入出口とを有し、前記弁口より上流側に前記圧縮機の吐出室に連通する吐出圧力導入口が設けられるとともに、前記弁口より下流側に前記圧縮機のクランク室に連通するクランク圧力入出口が設けられた弁本体と、
前記弁口を開閉するための主弁体と、
該主弁体を弁口開閉方向に移動させるためのプランジャを有する電磁式アクチュエータと、
前記圧縮機から吸入圧力が前記吸入圧力入出口を介して導入される感圧室と、
該感圧室の圧力に応じて前記主弁体を弁口開閉方向に付勢する感圧応動部材と、
前記クランク室のクランク圧力を前記吸入圧力入出口を介して前記圧縮機の前記吸入室に逃がすための大開度弁内逃がし通路と、
前記プランジャの移動により前記大開度弁内逃がし通路を開閉する副弁体と、
前記クランク室の前記クランク圧力を前記吸入圧力入出口を介して前記圧縮機の前記吸入室に逃がし、かつ、前記大開度弁内逃がし通路より開度が小さい小開度弁内逃がし通路と、を備え、
前記小開度弁内逃がし通路は、前記プランジャの移動による前記主弁体の移動に伴って開閉されるとともに、前記副弁体により前記大開度弁内逃がし通路が開かれる前に開かれるようにされていることを特徴とする可変容量型圧縮機用制御弁。
【請求項2】
前記小開度弁内逃がし通路の開度は、前記プランジャの移動による前記主弁体の移動量に応じて可変とされていることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型圧縮機用制御弁。
【請求項3】
前記主弁体が次第に開くに伴って前記小開度弁内逃がし通路が次第に小さくされることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型圧縮機用制御弁。
【請求項4】
前記主弁体は、前記弁本体に摺動可能に嵌挿されており、
前記大開度弁内逃がし通路は、前記主弁体内を縦貫する貫通逃がし孔を含んで構成され、
前記小開度弁内逃がし通路は、前記貫通逃がし孔の一部と、前記貫通逃がし孔から前記主弁体における前記弁本体との摺動面まで延びる連通孔とを含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型圧縮機用制御弁。
【請求項5】
前記小開度弁内逃がし通路は、前記弁本体の前記主弁体との摺動面の上側に設けられた内周溝を含んで構成されていることを特徴とする請求項4に記載の可変容量型圧縮機用制御弁。
【請求項6】
前記小開度弁内逃がし通路は、前記主弁体により前記弁口が閉じられる前に開かれるようにされていることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型圧縮機用制御弁。
【請求項7】
前記電磁式アクチュエータの吸引力により前記プランジャが最下降位置から上方向に連続的に移動せしめられるとき、前記副弁体が前記大開度弁内逃がし通路を閉じたまま、前記プランジャと一緒に前記主弁体が上方向に移動せしめられて前記小開度弁内逃がし通路が開かれるとともに、前記主弁体の開度を次第に小さくする前記プランジャの移動による前記主弁体の上方向への移動に伴って前記小開度弁内逃がし通路の開度が次第に大きくされ、その後、前記主弁体により前記弁口が閉じられた後、さらに前記プランジャが上方向に移動せしめられると、前記主弁体が前記弁口を閉じたまま、前記プランジャと一緒に前記副弁体が上方向に移動せしめられて前記大開度弁内逃がし通路を開くようにされていることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型圧縮機用制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カーエアコン等に使用される可変容量型圧縮機用制御弁に係り、特に、圧縮機内の冷媒の内部循環を減らして、圧縮機の運転効率を向上させることのできる可変容量型圧縮機用制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、カーエアコン用圧縮機として、図8A及び図8Bに簡略図示されている如くの斜板式可変容量型圧縮機が使用されている。この斜板式可変容量型圧縮機100は、車載エンジンに回転駆動される回転軸101、この回転軸101に取り付けられた斜板102、この斜板102が配在されたクランク室104、前記斜板102により往復運動せしめられるピストン105、このピストン105により圧縮された冷媒を吐出するための吐出室106、冷媒を吸入するための吸入室107、クランク室104の圧力Pcを吸入室107へ逃がすための機内逃がし通路(固定オリフィス)108等を有している。
【0003】
一方、上記可変容量型圧縮機に用いられる制御弁1’は、圧縮機100の吐出室106から吐出圧力Pdが導入されるとともに、その吐出圧力Pdを圧縮機100の吸入圧力Psに応じて調圧することによりクランク室104の圧力Pcを制御するようになっており、基本構成として、弁口が設けられた弁室及び圧縮機100の吸入室107に連通するPs入出口を有し、前記弁口より上流側に圧縮機100の吐出室106に連通するPd導入口が設けられるとともに、前記弁口より下流側に前記圧縮機100のクランク室104に連通するPc入出口が設けられた弁本体と、前記弁口を開閉するための主弁体と、該主弁体を弁口開閉方向に移動させるためのプランジャを有する電磁式アクチュエータと、前記圧縮機100から吸入圧力Psが前記Ps入出口を介して導入される感圧室と、該感圧室の圧力に応じて前記主弁体を弁口開閉方向に付勢する感圧応動部材と、を備え、前記クランク室104の圧力Pcを前記Ps入出口を介して前記圧縮機100の吸入室107に逃がすための弁内逃がし通路16’が前記主弁体内に設けられるとともに、該弁内逃がし通路16’を開閉する副弁体が設けられ、前記電磁式アクチュエータの吸引力により前記プランジャが最下降位置から上方向に連続的に移動せしめられるとき、前記プランジャと一緒に前記副弁体が前記弁内逃がし通路16’を閉じたまま上方向に移動するとともに、該副弁体に追従するように主弁体が上方向に移動せしめられ、前記主弁体により前記弁口が閉じられた後、さらに前記プランジャが上方向に移動せしめられると、前記副弁体が前記弁内逃がし通路16’を開くようにされており、前記主弁体と前記弁口とで図8A及び図8Bにおいて符号11’で示される主弁部が構成され、前記副弁体と前記弁内逃がし通路とで符号12’で示される副弁部が構成される(例えば特開2013-130126号公報等を参照)。
【0004】
このような構成の制御弁1’においては、通常制御時(Pd→Pc制御時)には、電磁式アクチュエータのコイル、ステータ及び吸引子等からなるソレノイド部が通電されると、吸引子にプランジャが引き寄せられ、これに伴い、プランジャと一体に副弁体が上方向に移動するとともに、この副弁体の動きに追従して、主弁体が閉弁ばねの付勢力により閉弁方向に移動せしめられる。一方、圧縮機100からPs入出口を介して導入された吸入圧力Psは、入出室からプランジャの横孔等を介して感圧室に導入され、感圧応動部材(例えばベローズ装置)は感圧室の圧力(吸入圧力Ps)に応じて伸縮変位(吸入圧力Psが高いと収縮、低いと伸張)し、該変位(付勢力)が主弁体に伝達され、それによって、弁口に対して主弁体の主弁体部が昇降して主弁部11’の弁開度が調整される。すなわち、弁開度は、ソレノイド部によるプランジャの吸引力と、感圧応動部材の伸縮変位による付勢力(伸縮力)と、プランジャばね(開弁ばね)及び閉弁ばねによる付勢力と、主弁体に作用する開弁方向の力と閉弁方向の力とによって決定され、その弁開度に応じて、クランク室104の圧力Pc(以下、クランク室圧力Pcあるいは単に圧力Pcと呼ぶことがある)が制御される。この場合、主弁体は閉弁ばねの付勢力により常に上向きに付勢されているとともに、副弁体は開弁ばねの付勢力により常に下向きに付勢されているので、副弁部12’が閉弁となり、弁内逃がし通路16’は主弁体内で遮断され、弁内逃がし通路16’を通じてクランク室圧力Pcが吸入室107に逃がされることはない。
【0005】
それに対し、圧縮機起動時には、ソレノイド部が通電されて、吸引子にプランジャが引き寄せられ、このプランジャと一緒に副弁体が上方向に移動するとともに、この副弁体の上方向移動に追従して、主弁体が閉弁ばねの付勢力により閉弁方向に移動せしめられ、主弁体の主弁体部により弁口が閉じられた後、さらにプランジャが上方向に移動せしめられ、これによって副弁体が弁内逃がし通路16’を開くようにされている。
【0006】
このように、上記従来の制御弁1’では、圧縮機起動時において、クランク室圧力Pcが機内逃がし通路108と弁内逃がし通路16’の二つの通路を通じて吸入室107に逃がされることになるため、吐出容量が大きくなるまでに要する時間を短縮することができる。また、通常制御時(Pd→Pc制御時)には、弁内逃がし通路16’が副弁体により閉じられているため、圧縮機100の運転効率が低下することはない。
【0007】
また、上記した可変容量型圧縮機用制御弁1’は、通常制御時(Pd→Pc制御時)に、弁内逃がし通路16’が副弁体により閉じられるものであるが、通常制御時(Pd→Pc制御時)において、クランク室圧力Pcを機内逃がし通路(固定オリフィス)とともに弁内逃がし通路(補助連通路)を通じて吸入室に若干逃がすようにしたものも既に開発されている(例えば特許第5167121号公報、国際公開第2018/043186号等を参照)。かかる構成の制御弁では、システム構成等によっては、機内逃がし通路(固定オリフィス)の通路面積(開口面積)を小さくでき、圧縮機内の冷媒の内部循環を低減できるため、圧縮機の運転効率を向上させられる場合がある。
【0008】
ところで、上記した如くに、通常制御時(Pd→Pc制御時)にクランク室圧力Pcを弁内逃がし通路を通じて吸入室に補助的に逃がすようにした制御弁においては、圧縮機起動時や弁を流れる冷媒の容量が大きい時には、弁内逃がし通路の通路面積(つまり、Pc-Ps流路面積)は大きい方が望ましく、通電オフ時や弁を流れる冷媒の容量が小さい時には、弁内逃がし通路の通路面積(つまり、Pc-Ps流路面積)は小さい方が望ましい。
【0009】
しかしながら、例えば特許第5167121号公報、国際公開第2018/043186号に所載の従来の制御弁では、次のような解決すべき課題がある。
【0010】
すなわち、特許第5167121号公報に所載の制御弁では、通常制御時(Pd→Pc制御時)の全部において、弁内逃がし通路の通路面積で規定される一定量の冷媒が吸入室へ流れてしまい、通常制御時(Pd→Pc制御時)における圧縮機の運転効率の悪化を招くおそれがあった。
【0011】
また、国際公開第2018/043186号に所載の制御弁では、特許第5167121号公報に所載の制御弁に対し、弁内逃がし通路の通路面積を可変とすることで、通常制御時(Pd→Pc制御時)における弁内逃がし通路の通路面積(Pc-Ps流路面積)の最小面積を小さくできるものの、圧縮機起動時に用いられる弁内逃がし通路と通常制御時(Pd→Pc制御時)に用いられる弁内逃がし通路が基本的に共通の(一つの)通路で形成されているため、弁内逃がし通路の通路面積(Pc-Ps流路面積)の設計自由度が低く、上述したような弁内逃がし通路の開度設定が難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたもので、例示的な実施形態は、弁内逃がし通路の開度設定を容易に行うことができ、圧縮機内の冷媒の内部循環を効果的に低減でき、圧縮機の運転効率を効果的に向上させることのできる可変容量型圧縮機用制御弁を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本開示の実施形態に係る可変容量型圧縮機用制御弁は、基本的に、弁口が設けられた弁室と圧縮機の吸入室に連通するPs入出口とを有し、前記弁口より上流側に前記圧縮機の吐出室に連通するPd導入口が設けられるとともに、前記弁口より下流側に前記圧縮機のクランク室に連通するPc入出口が設けられた弁本体と、前記弁口を開閉するための主弁体と、該主弁体を弁口開閉方向に移動させるためのプランジャを有する電磁式アクチュエータと、前記圧縮機から吸入圧力Psが前記Ps入出口を介して導入される感圧室と、該感圧室の圧力に応じて前記主弁体を弁口開閉方向に付勢する感圧応動部材と、前記クランク室の圧力Pcを前記Ps入出口を介して前記圧縮機の前記吸入室に逃がすための大開度弁内逃がし通路と、前記プランジャの移動により前記大開度弁内逃がし通路を開閉する副弁体と、前記クランク室の圧力Pcを前記Ps入出口を介して前記圧縮機の前記吸入室に逃がし、かつ、前記大開度弁内逃がし通路より開度が小さい小開度弁内逃がし通路と、を備え、前記小開度弁内逃がし通路は、前記プランジャの移動による前記主弁体の移動に伴って開閉されるとともに、前記副弁体により前記大開度弁内逃がし通路が開かれる前に開かれるようにされている。
【0014】
ある態様では、前記小開度弁内逃がし通路の開度は、前記プランジャの移動による前記主弁体の移動量に応じて可変とされる。ある別の態様では、前記主弁体の開度が次第に大きくなるに伴って前記小開度弁内逃がし通路が次第に小さくされる。これにより、通路の小開度が固定面積である場合より主弁体の開度が小さくなるため、冷媒の内部循環が低減する。
【0015】
ある態様では、前記主弁体は、前記弁本体に摺動可能に嵌挿されており、前記大開度弁内逃がし通路は、前記主弁体内を縦貫する貫通逃がし孔を含んで構成され、前記小開度弁内逃がし通路は、前記貫通逃がし孔の一部と、前記貫通逃がし孔から前記主弁体における前記弁本体との摺動面まで延びる連通孔とを含んで構成される。
【0016】
ある態様では、前記小開度弁内逃がし通路は、前記弁本体の前記主弁体との摺動面の上側に設けられた内周溝を含んで構成される。
【0017】
ある態様では、前記小開度弁内逃がし通路は、前記主弁体により前記弁口が閉じられる前に開かれるようにされる。
【0018】
ある態様では、前記電磁式アクチュエータの吸引力により前記プランジャが最下降位置から上方向に連続的に移動せしめられるとき、前記副弁体が前記大開度弁内逃がし通路を閉じたまま、前記プランジャと一緒に前記主弁体が上方向に移動せしめられて前記小開度弁内逃がし通路が開かれるとともに、前記主弁体の開度を次第に小さくする前記プランジャの移動による前記主弁体の上方向への移動に伴って前記小開度弁内逃がし通路の開度が次第に大きくされ、その後、前記主弁体により前記弁口が閉じられた後、さらに前記プランジャが上方向に移動せしめられると、前記主弁体が前記弁口を閉じたまま、前記プランジャと一緒に前記副弁体が上方向に移動せしめられて前記大開度弁内逃がし通路を開くようにされる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、圧縮機起動時に用いられる比較的大開度の大開度弁内逃がし通路と、圧縮機起動時と通常制御時(Pd→Pc制御時)の両方に用いられる比較的小開度の小開度弁内逃がし通路を別個の通路で形成できるので、それらが基本的に共通の(一つの)通路で形成される従来のものと比べて、大開度及び小開度弁内逃がし通路の開度設定を容易に行うことができ、圧縮機内の冷媒の内部循環を効果的に低減でき、圧縮機の運転効率を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示に係る可変容量型圧縮機用制御弁の一実施形態の主弁:全開、副弁:閉、補助副弁:閉の状態(通常制御時(通電オフ時))を示す縦断面図。
図2】本開示に係る可変容量型圧縮機用制御弁の一実施形態の主弁:開、副弁:閉、補助副弁:開の状態(通常制御時(通電オン時))を示す縦断面図。
図3】本開示に係る可変容量型圧縮機用制御弁の一実施形態の主弁:閉、副弁:閉、補助副弁:開の状態(圧縮機起動移行時)を示す縦断面図。
図4】本開示に係る可変容量型圧縮機用制御弁の一実施形態の主弁:閉、副弁:開、補助副弁:開の状態(圧縮機起動時)を示す縦断面図。
図5】本開示に係る可変容量型圧縮機用制御弁に用いられる主弁体の外観斜視図。
図6】本開示に係る可変容量型圧縮機用制御弁の一実施形態の動作説明に供される図。
図7】本開示に係る可変容量型圧縮機用制御弁の一実施形態の動作における、電磁式アクチュエータの電流値(プランジャリフト量)とPd-Pc流路及びPc-Ps流路の流路面積との関係を示す図。
図8A】従来例における圧縮機と制御弁との間の冷媒圧力流通状況を示す図であり、通常制御時を示す図。
図8B】従来例における圧縮機と制御弁との間の冷媒圧力流通状況を示す図であり、圧縮機起動時を示す図。
図9図1図4のプランジャの底部を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1図4は、それぞれ本開示に係る可変容量型圧縮機用制御弁の一実施形態を示す縦断面図であり、図1は主弁:全開、副弁:閉、補助副弁:閉の状態(通常制御時(通電オフ時))、図2は主弁:開、副弁:閉、補助副弁:開の状態(通常制御時(通電オン時))、図3は主弁:閉、副弁:閉、補助副弁:開の状態(圧縮機起動移行時)、図4は主弁:閉、副弁:開、補助副弁:開の状態(圧縮機起動時)を示している。なお、図2は、(図1の状態から)通電制御時において電磁式アクチュエータ30への通電励磁(通電オン)によって弁口22の弁開度が(全開状態から)調整された状態(弁開度:小の状態)を示している。
【0023】
なお、本明細書において、上下、左右、前後等の位置、方向を表わす記述は、説明が煩瑣になるのを避けるために図面に従って便宜上付けたものであり、実際に本開示の制御弁が圧縮機に組み込まれた状態での位置、方向を指すとは限らない。
【0024】
また、各図において、部材間に形成される隙間や部材間の離隔距離等は、本開示の理解を容易にするため、また、作図上の便宜を図るため、各構成部材の寸法に比べて大きくあるいは小さく描かれている場合がある。
【0025】
図示実施形態の制御弁1は、基本的に、弁口22が設けられた弁本体20と、弁口22を開閉するための主弁体10と、該主弁体10を弁口開閉方向(上下方向)に移動させるための電磁式アクチュエータ30と、感圧応動部材としてのベローズ装置40とを備えている。
【0026】
電磁式アクチュエータ30は、ボビン38、該ボビン38に外装された通電励磁用のコイル32、コイル32の内周側に配在されたステータ33及び吸引子34、ステータ33及び吸引子34の下端部外周(段差部)にその上端部が溶接により接合された案内パイプ35、吸引子34の下方で案内パイプ35の内周側に上下方向に摺動自在に配在された有底円筒状のプランジャ37、前記コイル32に外挿される有底穴付き円筒状のハウジング60、取付板39を介してハウジング60の上側に取り付けられたコネクタ部31、及び、ハウジング60の下端部(底部穴)と案内パイプ35の下端部との間に配在されてそれらを弁本体20(の本体部材20A)の上部に固定するためのホルダ29を備えている。本例においては、円筒状のステータ33の下部内周に、該ステータ33の内径より小径の挿通穴34aがその中央に(軸線Oに沿って)形成された円筒状の吸引子34が一体成形されている。また、ハウジング60の上端部(薄肉部)は、シール材としてのOリング31Aを挟んでコネクタ部31の外周に設けられた環状溝31aにかしめ固定されている(かしめ部61)。ここでは、電磁式アクチュエータ30のうちの、プランジャ37を除いた、コイル32、ステータ33、及び吸引子34等からなる部分をソレノイド部30Aと称する。
【0027】
前記ステータ33の上部には、短円柱状の固定子65が圧入等により固着せしめられ、ステータ33の内周側における前記固定子65と吸引子34との間には、圧縮機の吸入圧力Psが導入される感圧室45が形成され、この感圧室45には感圧応動部材としての、ベローズ41、逆凸字状の上ストッパ42、逆凹字状の下ストッパ43、及び圧縮コイルばね44からなるベローズ装置40が配在されている。さらに、ベローズ装置40の下側には、推力伝達部材としての段付き棒状のプッシュロッド46が軸線Oに沿って配在されている。このプッシュロッド46の中央やや上側の部分は大径(大径部46b)とされ、下ストッパ43の凹部内には前記プッシュロッド46の上端部46dが嵌挿されて支持され、吸引子34の挿通穴34aに前記プッシュロッド46の大径部46bが(若干の隙間34bを持って)内挿されている。また、前記プッシュロッド46の下部は、後述する断面凹状の副弁体17の凹穴17bに内挿され、その下端部46aが、凹穴17bの底部中央に形成された凹状の嵌挿穴17cに嵌め込まれている。
【0028】
プランジャ37には、前記吸引子34の挿通穴34aと略同径の凹穴17bを有する断面凹状の副弁体17が圧入等により内挿固定されており、副弁体17とプランジャ37とが一緒に上下動するようになっている。この副弁体17は、その上端部がプランジャ37の上端部と位置合わせされ(言い換えれば、その上端部がプランジャ37の上端部内周に位置決めされ)、その下端部がプランジャ37の底部と隙間を持った状態で(後で詳述するが、主弁体10の鍔状係止部10kが若干の上下動可能に配置される隙間を持った状態で)、前記プランジャ37に内嵌されている。副弁体17の凹穴17bの底部中央には、前記プッシュロッド46の下端部46aが嵌挿される凹状の嵌挿穴17cが形成されている。
【0029】
プッシュロッド46の大径部46bの上部に形成される段差部(下向きの環状の段丘面)46cとプランジャ37に内嵌された副弁体17の凹穴17bの底部(における嵌挿穴17c周りの上向きの面)との間には、円筒状の圧縮コイルばねからなるプランジャばね(開弁ばね)47が縮装されている。このプランジャばね47(の圧縮力)により、副弁体17を介してプランジャ37が下方(開弁方向)に付勢されるとともに、プッシュロッド46を介して前記ベローズ装置40が感圧室45内で保持されている。また、このプランジャばね47(の圧縮力)により、副弁体17は後述する大開度弁内逃がし通路16(貫通逃がし孔16A)を閉じる方向に付勢されており、この副弁体17の下端部(平坦面)は、大開度弁内逃がし通路16を開閉する副弁体部17aとされている(後で詳述)。
【0030】
プランジャ37の底部には、その外周付近から中央(軸線O上)まで直線状に延びる、主弁体10の鍔状係止部10kを通すための通し穴付きのスリット37sが形成されている。前記スリット37sの(上下方向の)高さ(つまり、プランジャ37の底部の厚さ(上下方向の高さ))は、主弁体10の上部小径部10dの高さより若干小さくされており、主弁体10は、プランジャ37に対して上下動可能となっている(後で詳述)。また、前記スリット37sの(横方向の)幅は、組立性等を考慮して、主弁体10の上部小径部10dの外径より若干大きくされるとともに、主弁体10の鍔状係止部10kの外径より小さくされており、前記プランジャ37の底部上面における前記スリット37sの外周部分が、主弁体10の鍔状係止部10kを掛止するための内鍔状掛止部37kとされている。図9は、上下方向に沿って見たスリット37s付きプランジャ37の底部を示している。この図では、このスリット37sの輪郭が、少なくとも一部分は第1円形輪郭部37saで、少なくとも一部分は楕円形輪郭部37sbで、特に第2円形輪郭部37sbで形成されてもよい。
【0031】
また、本例では、プランジャ37の外周の所定位置(図示例では、スリット37sが形成された側)に、Dカット面又は1つもしくは複数の縦溝等からなる連通溝37dが形成されており、プランジャ37の外周と案内パイプ35の内周との間に隙間36が形成されている。
【0032】
前記したプランジャ37及び副弁体17の下側に配置される主弁体10は、例えば非磁性の金属製とされ、軸線Oに沿って配置された段付きの軸状部材から形成されている。この主弁体10は、下から順に、比較的大径の主弁体部10a、下部小径部10b、上下方向に長い中間嵌挿部10c、上部小径部10d、及び鍔状係止部10kからなっており、中間嵌挿部10cの下部外周に環状溝10Aが上下二段で設けられている。
【0033】
前記のように、主弁体10の上部小径部10dは、前記スリット37sに緩く内嵌され、鍔状係止部10kは、前記プランジャ37の内側における副弁体17より下側(言い換えれば、プランジャ37の底部と副弁体17の下端部との間の空間)に緩く内嵌される。前記鍔状係止部10kは前記副弁体17より小径かつ前記スリット37sの幅より大径とされており、プランジャ37が主弁体10に対して上方向に移動せしめられるとき、前記スリット37sの外周部分からなる内鍔状掛止部37kが鍔状係止部10kに引っ掛けられて抜け止め係止されるようになっている。また、前記中間嵌挿部10cは、前記スリット37sの幅より若干大径、かつ、前記プランジャ37の外径より小径とされている。
【0034】
また、本例においては、前記主弁体10の中央部を縦方向に貫通(縦貫)するように(言い換えれば、軸線Oに沿うように)、後述する大開度弁内逃がし通路16の一部を構成する貫通逃がし孔16Aが形成されるとともに、前記中間嵌挿部10cに、前記貫通逃がし孔16Aとともに後述する小開度弁内逃がし通路15の一部を構成する横穴からなる連通孔15A、及び、該連通孔15Aの外周部分(外側開口)を通る(換言すれば、連通孔15Aと連なる)円環状凹溝からなる外周溝15Bが形成されている(図5参照)。
【0035】
一方、弁本体20は、上部中央に嵌合用の凹穴20Cが設けられるとともに下部中央に前記凹穴20Cに連なる前記凹穴20Cより若干小径の収容穴18が設けられた段付き円筒状の本体部材20Aと、前記凹穴20Cに圧入等により内挿固定される円筒状のシート部材20Bとの二分割構成とされている。
【0036】
シート部材20Bは、ステンレス(SUS)、高硬度真鍮材等から作製され、前記凹穴20Cに嵌挿される段付きの嵌挿部24の上側に(言い換えれば、嵌挿部24からPs入出室28側へ向けて突出するように)、プランジャ37の最下降位置を規定するためのストッパ部24Aが突設されている。本例では、前記シート部材20B(のストッパ部24A)の外径は、前記プランジャ37の外径より若干小径とされ、ストッパ部24Aの上端面(プランジャ37との対接面)は、円環状平坦面とされている。シート部材20B(の嵌挿部24)の下端部は、本体部材20Aの凹穴20Cと収容穴18との間の段差部(段丘部)に当接せしめられている。また、シート部材20Bの中央部には、縦方向に貫通するように(つまり、軸線Oに沿って)前記主弁体10の中間嵌挿部10cが摺動自在に嵌挿される案内孔19が形成され、この案内孔19の下端部が前記主弁体10の下端部に設けられた主弁体部10aにより開閉される弁口(弁シート部)22となっている。ここでは、主弁体部10aと弁口22とで主弁部11が構成される。
【0037】
また、本例においては、案内孔19(換言すれば、シート部材20Bの内周面)の上端部に、後述する小開度弁内逃がし通路15の一部を構成する、上下方向で所定の深さ(高さ)を有する円環状段差からなる内周溝19Aが形成されている。
【0038】
本体部材20Aは、例えばアルミニウムや真鍮、あるいは樹脂等から作製され、本体部材20Aの凹穴20Cにシート部材20B(の嵌挿部24)が内挿された状態で、前記ストッパ部24Aの外周(言い換えれば、本体部材20Aにおけるシート部材20Bの上端側)には、圧縮機の吸入圧力PsのPs入出室28が形成されるとともに、そのPs入出室28の外周側に複数個のPs入出口27が形成されている。このPs入出口27からPs入出室28に導入された吸入圧力Psは、プランジャ37の外周と案内パイプ35との間に形成される隙間36(本例では、連通溝37dにより形成される隙間)、プッシュロッド46の外周と吸引子34との間に形成される隙間34b等を介して前記感圧室45に導入される。
【0039】
また、本体部材20Aの凹穴20Cの底部中央に、主弁体10の主弁体部10aを収容するための、案内孔19及び主弁体部10aより大径の前記収容穴18が連設されている。収容穴18の底部外周角部と主弁体10の主弁体部10aの下部外周に設けられた段差部(段丘部)10fとの間には、円錐状の圧縮コイルばねからなる閉弁ばね50が縮装され、この閉弁ばね50の付勢力により、主弁体10が閉弁方向(上向き)に付勢され、主弁体10(の鍔状係止部10kの上端部)が副弁体17(の下面)に押し付けられる。ここでは、前記収容穴18内(シート部材20Bの弁口22より下側部分)が、弁室21となっている。
【0040】
前記凹穴20Cには、圧縮機の吐出室に連通するPd導入口25が複数個開口せしめられ、そのPd導入口25の外周に、リング状のフィルタ部材25Aが配在されるとともに、前記凹穴20Cに内挿されたシート部材20Bの嵌挿部24(特に、主弁体10の中間嵌挿部10cが内挿される嵌挿部24の部分より下側の部分であって、弁口22より上流側)に、前記Pd導入口25に連通するとともに前記案内孔19に連なる複数個の横孔25sが設けられている。
【0041】
また、本体部材20Aの下端部には、フィルタとして機能する蓋状部材48が係合・圧入等により固定されており、この蓋状部材48より上側で収容穴18より下側(言い換えれば、本体部材20Aにおけるシート部材20Bの下端側であって、弁口22より下流側)が、圧縮機のクランク室に連通するPc入出室(入出口)26となっている。このPc入出室(入出口)26は、弁室21→弁口22と主弁体部10aとの間の隙間→案内孔19の下部と下部小径部10bとの間の隙間→嵌挿部24の横孔25sを介して前記Pd導入口25に連通する。
【0042】
さらに、本実施形態では、前記主弁体10の内部中央を縦方向(軸線O方向)に貫通するように、Pc入出室26とPs入出室28(Ps入出口27)とを連通するための貫通逃がし孔16Aが設けられている。
【0043】
この貫通逃がし孔16Aは、大開度弁内逃がし通路16の一部を構成するとともに、この貫通逃がし孔16Aの上端部(すなわち、主弁体10の上端部)が、前記副弁体17の下端部(副弁体部)17aが接離する副弁シート部23となっている。
【0044】
副弁体17は、前述のように、前記主弁体10の上側で前記プランジャ37に内挿固定されており、その副弁体17の外径(=プランジャ37の内径)は、前記主弁体10の鍔状係止部10kの外径より大きくされており、その副弁体17の下端部(平坦面)が、前記貫通逃がし孔16Aの上端縁部である副弁シート部(逆立円錐台面部)23に接離して前記大開度弁内逃がし通路16(貫通逃がし孔16A)を開閉する副弁体部17aとなっている。ここでは、副弁シート部23と副弁体部17aとで副弁部12が構成される。
【0045】
本実施形態では、前記のように、Pc入出室26、弁室21、前記主弁体10に設けられた貫通逃がし孔16A、プランジャ37内、Ps入出室28などで、クランク室の圧力PcをPs入出口27を介して圧縮機の吸入室に逃がすための大開度弁内逃がし通路16が構成され、貫通逃がし孔16Aの上端縁部である副弁シート部23に副弁体17の副弁体部(下端部)17aが離接することにより、前記大開度弁内逃がし通路16が開閉されるようになっている。
【0046】
さらに、本実施形態では、上記構成に加えて、前記主弁体10の中間嵌挿部10cの上部に、Pc入出室26とPs入出室28(Ps入出口27)とを補助的に連通すべく、当該主弁体10の内部に形成された貫通逃がし孔16Aから外周面(詳しくは、主弁体10の弁本体20のシート部材20Bとの摺動面)まで横方向(軸線Oに垂直な方向)に延びるとともに、前記貫通逃がし孔16Aより小径の横穴からなる連通孔15Aが設けられ、その中間嵌挿部10cの外周面に、前記連通孔15Aの外周部分(外側開口)を通る円環状凹溝からなる外周溝15Bが設けられている。つまり、本例において、前記連通孔15Aは、前記貫通逃がし孔16Aの上部から横方向に延びてその外周面(に設けられた外周溝15B)で開口せしめられている。
【0047】
また、前記主弁体10の中間嵌挿部10cが内挿される前記弁本体20のシート部材20Bの内周面(案内孔19)の上端部(つまり、主弁体10の中間嵌挿部10cとの摺動面の上側)には、上下方向で所定の深さ(高さ)を有し、Ps入出室28側(上側)が開放した円環状段差からなる内周溝19Aが設けられている。この内周溝19Aは、主弁体10が最下降位置にあるとき(電磁式アクチュエータ30(のソレノイド部30A)の通電オフ時に、プランジャ37の最下端面がストッパ部24Aに当接して最下降位置をとり、弁口22が全開となるとき)、前記連通孔15A及び外周溝15Bより上側に配在し、電磁式アクチュエータ30の吸引力によりプランジャ37が最下降位置から上方向に連続的に移動せしめられ、プランジャ37と一緒に主弁体10が上方向に移動せしめられたとき、前記連通孔15A及び外周溝15B(の上部)とラップする(連なる)位置に形成されている。
【0048】
前記主弁体10に設けられた連通孔15A及び外周溝15B、並びに、前記弁本体20に設けられた内周溝19Aは、前記貫通逃がし孔16Aと共に小開度弁内逃がし通路15の一部を構成するとともに、弁本体20に対して主弁体10が上下動し、前記連通孔15A(及び外周溝15B)の外周部分(外側開口)が弁本体20のシート部材20Bの内周面(案内孔19)に摺接して、前記小開度弁内逃がし通路15(連通孔15A)を開閉するようになっている。つまり、ここでは、連通孔15A(及び外周溝15B)の外周部分(外側開口)と弁本体20のシート部材20Bの内周面(案内孔19)とで、小開度弁内逃がし通路15における補助副弁部13が構成される。
【0049】
本実施形態では、前記のように、Pc入出室26、弁室21、前記主弁体10に設けられた貫通逃がし孔16A、連通孔15A、外周溝15B、前記弁本体20に設けられた内周溝19A、Ps入出室28などで、クランク室の圧力PcをPs入出口27を介して圧縮機の吸入室に逃がすための小開度弁内逃がし通路15が構成され、弁本体20に対して主弁体10の上下動に伴って前記連通孔15A(及び外周溝15B)の外周部分(外側開口)が弁本体20のシート部材20Bの内周面(案内孔19)に摺接することにより、前記小開度弁内逃がし通路15が開閉されるようになっている。
【0050】
なお、前記大開度弁内逃がし通路16(貫通逃がし孔16A)や小開度弁内逃がし通路15の形成方法や形状、配置態様、前記大開度弁内逃がし通路16や小開度弁内逃がし通路15の開閉方法等は、図示例に限られないことは勿論である。
【0051】
また、上記実施形態では、弁本体20を本体部材20Aとシート部材20Bとの二部品構成としているが、例えば、前記弁本体20を一部品で形成してもよいことは当然である。
【0052】
ここで、本実施形態の制御弁1では、図1に示される如くに、プランジャ37、主弁体10、及び副弁体17が最下降位置にある状態(プランジャ37の最下端面がストッパ部24Aに当接、主弁部11は全開、副弁部12は全閉、補助副弁体13は全閉)において、主弁体10の主弁体部10aと弁口(弁シート部)22との間の上下方向の離隔距離が第1リフト量Laとされ、プランジャ37の内鍔状掛止部37kと主弁体10の鍔状係止部10kとの離隔距離は所定量Lyとされ、前記プランジャ37の最大リフト量(第2リフト量)Lb(プランジャ37の最下降位置から最上昇位置までのリフト量)は、第1リフト量La+所定量Lyとなっている。部品公差及びシートの摩耗を説明するために、プランジャ37と吸引子34の間の長さLbは、La+Ly+εに等しくてもよく、ここで、εは小さい距離である。また、このとき、主弁体10(の中間嵌挿部10c)に設けられた連通孔15A及び外周溝15Bは、弁本体20(のシート部材20B)に設けられた内周溝19Aの直下に位置せしめられている。
【0053】
次に、上記構成とされた制御弁1の動作を概説する。
【0054】
なお、図6は、本開示に係る可変容量型圧縮機用制御弁の一実施形態の動作説明に供される図であり、Pd-Pc流路及びPc-Ps流路中の冷媒の流通状態の変化を示す図である。また、図7は、本開示に係る可変容量型圧縮機用制御弁の一実施形態の動作における、電磁式アクチュエータの電流値(プランジャリフト量)とPd-Pc流路及びPc-Ps流路の流路面積との関係を示す図である。
【0055】
本例の制御弁1では、電磁式アクチュエータ30(のソレノイド部30A)の通電オフ時(弁口22の全開時)には、前記した小開度弁内逃がし通路15は主弁体10内で遮断される(換言すれば、小開度弁内逃がし通路15が閉じられる)とともに、電磁式アクチュエータ30(のソレノイド部30A)の通電オン時(弁口22の弁開度制御時あるいは閉弁時)には、主弁体10(の中間嵌挿部10c)に設けられた連通孔15A及び外周溝15Bが、弁本体20(のシート部材20B)に設けられた内周溝19Aに連通して、前記した小開度弁内逃がし通路15を通じてクランク室の圧力Pcが吸入室に逃がされる(換言すれば、小開度弁内逃がし通路15が開かれる)ようになっている。通電オフ時には、プッシュロッド46の最下端が副弁体17の嵌合面から離れてもよい。したがって、プランジャ37及びストッパ部24Aの平面接触で小開度弁内逃がし通路15が閉じられてもよい。
【0056】
詳しくは、通常制御時(Pd→Pc制御時)には、プランジャ37(及び副弁体17)のリフト量は、最大でも前記第1リフト量La強とされ、圧縮機起動時(Pc→Ps制御時)には、プランジャ37(及び副弁体17)のリフト量は、前記第2リフト量Lbとされる。
【0057】
すなわち、通常制御時(Pd→Pc制御時)には、コイル32、ステータ33及び吸引子34等からなるソレノイド部30Aが通電オフ(図1参照)から通電励磁されると、吸引子34にプランジャ37及び副弁体17が共に(上方向に)引き寄せられ、このプランジャ37及び副弁体17の動きに追従して、閉弁ばね50の付勢力により主弁体10が上方(閉弁方向)に移動せしめられる。一方、圧縮機からPs入出口27に導入された吸入圧力Psは、Ps入出室28からプランジャ37の外周と案内パイプ35との間の隙間36等を介して感圧室45に導入され、ベローズ装置40(内部は真空圧)は感圧室45の圧力(吸入圧力Ps)に応じて伸縮変位(吸入圧力Psが高いと収縮、低いと伸張)し、該変位がプッシュロッド46や副弁体17、プランジャ37を介して主弁体10に伝達され、それによって、弁開度(弁口22と主弁体部10aとの離隔距離)が調整され、その弁開度に応じて、クランク室の圧力Pcが調整される(図1図2図6、及び図7参照)。
【0058】
この場合、主弁体10は閉弁ばね50の付勢力により常に上向きに付勢されているとともに、副弁体17は開弁ばね47の付勢力により常に下向きに付勢されているので、副弁体部17aは副弁シート部23に押し付けられた状態(副弁部12が閉弁)となり、大開度弁内逃がし通路16は主弁体10内で遮断されている。そのため、大開度弁内逃がし通路16を通じてクランク室の圧力Pcが吸入室に逃がされることはない(図1図2、及び図6参照)。
【0059】
また、電磁式アクチュエータ30(のソレノイド部30A)の通電オフ時(図1参照)には、前述したように、主弁体10(の中間嵌挿部10c)に設けられた連通孔15A及び外周溝15Bが、弁本体20(のシート部材20B)に設けられた内周溝19Aより下側に配在され、前記連通孔15A(及び外周溝15B)の外周部分(外側開口)が弁本体20のシート部材20Bの内周面(案内孔19)で閉塞された状態(補助副弁部13が閉弁)となり、小開度弁内逃がし通路15も主弁体10内で遮断されている。一方、電磁式アクチュエータ30(のソレノイド部30A)が通電励磁されると、プランジャ37の移動による主弁体10の上方(閉弁方向)への移動に伴って、当該主弁体10が弁本体20に対して相対的に上方に移動(リフト)し、主弁体10(の中間嵌挿部10c)に設けられた連通孔15A及び外周溝15Bが、弁本体20(のシート部材20B)に設けられた内周溝19Aに連通せしめられ、これによって小開度弁内逃がし通路15を開くようにされ、クランク室の圧力Pcが小開度弁内逃がし通路15を通じて吸入室に逃がされる。この小開度弁内逃がし通路15の開度(通路面積、つまり、Pc-Ps流路面積)は、プランジャ37及び主弁体10の上方(閉弁方向)へのリフト量が大きくなるに従って次第に大きくなる(図1図2図6、及び図7参照)。
【0060】
つまり、本実施形態の制御弁1においては、通常制御時(Pd→Pc制御時)に、副弁体17により大開度弁内逃がし通路16が閉じられたままで(換言すれば、副弁体17により大開度弁内逃がし通路16が開かれる前に)、クランク室の圧力Pcが比較的小開度かつその開度(Pc-Ps流路面積)がプランジャ37及び主弁体10の上方(閉弁方向)へのリフト量に応じて可変とされた小開度弁内逃がし通路15のみを通じて吸入室に逃がされることになる。
【0061】
それに対し、圧縮機起動時には、ソレノイド部30Aが通電励磁されて、吸引子34にプランジャ37及び副弁体17が共に(上方向に)引き寄せられ、このプランジャ37及び副弁体17の上方向移動に追従して主弁体10が上方向に移動せしめられ、主弁体10の主弁体部10aにより弁口22が閉じられた後、さらにプランジャ37及び副弁体17が上方向に移動せしめられ、これによって副弁体17が大開度弁内逃がし通路16を開くようにされ、クランク室の圧力Pcが(前記した小開度弁内逃がし通路15と共に)大開度弁内逃がし通路16を通じて吸入室に逃がされる(図4図6、及び図7参照)。
【0062】
詳細には、プランジャ37(及び副弁体17)のリフト量(上方向移動量)が第1リフト量Laに達するまでは、主弁体10が閉弁ばね50の付勢力によりプランジャ37及び副弁体17の上方向移動に追従するように閉弁方向に移動し、前記上方向移動量が前記第1リフト量Laに達すると、主弁体10の主弁体部10aにより弁口22が閉じられ(図3に示す状態)、この主弁部11の閉弁状態からさらにプランジャ37及び副弁体17が前記所定量Ly分上方向に移動せしめられる(図4に示す状態)。言い換えれば、プランジャ37及び副弁体17の上方向移動量が前記第1リフト量Laに達した後、プランジャ37の内鍔状掛止部37kが主弁体10の鍔状係止部10kに係止されるまでの所定量Ly分だけ副弁体17がプランジャ37と共に吸引子34側に引き寄せられる(第1リフト量La+所定量Ly=第2リフト量Lb)。この場合、主弁体10は閉弁状態のまま不動であるので、副弁体17の副弁体部17aは、副弁シート部23から所定量Ly分リフトせしめられ、これによって大開度弁内逃がし通路16が開かれる。プランジャ37の内鍔状掛止部37kが主弁体10の鍔状係止部10kに係止されると、ソレノイド部30Aが吸引力を発生しても、プランジャ37及び副弁体17はそれ以上引き上げられない。
【0063】
つまり、本実施形態の制御弁1においては、圧縮機起動時に、クランク室の圧力Pcが比較的小開度の小開度弁内逃がし通路15と比較的大開度の大開度弁内逃がし通路16の両方を通じて吸入室に逃がされることになる。
【0064】
このように、本実施形態の制御弁1においては、圧縮機起動時に、クランク室の圧力Pcは大開度弁内逃がし通路16を通じて吸入室に逃がされることになるため、圧縮機起動時において吐出容量が大きくなるまでに要する時間を大幅に短縮することができる。また、通常制御時(Pd→Pc制御時)には、大開度弁内逃がし通路16は副弁体17により閉じられ、クランク室の圧力Pcは小開度弁内逃がし通路15のみを通じて吸入室に逃がされることになるため、圧縮機の運転効率が低下することはない。
【0065】
また、本実施形態の制御弁1においては、圧縮機起動時に用いられる比較的大開度の大開度弁内逃がし通路16と、圧縮機起動時と通常制御時(Pd→Pc制御時)の両方に用いられる比較的小開度の小開度弁内逃がし通路15を別個の通路で形成でき、それらが別個に開閉されるので、それらが基本的に共通の(一つの)通路で形成される従来のものと比べて、大開度及び小開度弁内逃がし通路の開度設定を容易に行うことができ、圧縮機100内の冷媒の内部循環を効果的に低減でき、圧縮機100の運転効率を効果的に向上させることができる。
【0066】
また、前記小開度弁内逃がし通路15の開度(Pc-Ps流路面積)は、プランジャ37の移動による主弁体10の移動量(リフト量)に応じて可変とされ、主弁体10の移動量(リフト量)が大きくなるに従って次第に大きくされるので、通常制御時(Pd→Pc制御時)における圧縮機100の運転効率をより効果的に向上させることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 可変容量型圧縮機用制御弁
10 主弁体
10a 主弁体部
10b 下部小径部
10c 中間嵌挿部
10d 上部小径部
10k 鍔状係止部
11 主弁部
12 副弁部
13 補助副弁部
15 小開度弁内逃がし通路
15A 連通孔
15B 外周溝
16 大開度弁内逃がし通路
16A 貫通逃がし孔
17 副弁体
17a 副弁体部
18 収容穴
19 案内孔
19A 内周溝
20 弁本体
20A 本体部材
20B シート部材
20C 凹穴
21 弁室
22 弁口
23 副弁シート部
24 嵌挿部
24A ストッパ部
25 Pd導入口
26 Pc入出室(入出口)
27 Ps入出口
28 Ps入出室
30 電磁式アクチュエータ
30A ソレノイド部
32 コイル
33 ステータ
34 吸引子
35 案内パイプ
37 プランジャ
37s スリット
37sa 第1円形輪郭部
37sb 楕円形輪郭部
40 ベローズ装置(感圧応動部材)
45 感圧室
46 プッシュロッド
47 プランジャばね
50 閉弁ばね
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
【外国語明細書】