(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025144
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節する方法、システム、および装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20220202BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20220202BHJP
A61M 21/02 20060101ALI20220202BHJP
G02C 7/10 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/22
A61M21/02 B
G02C7/10
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021184451
(22)【出願日】2021-11-12
(62)【分割の表示】P 2020130453の分割
【原出願日】2015-07-22
(31)【優先権主張番号】14/338,182
(32)【優先日】2014-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504260058
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデイション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100117640
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 達己
(72)【発明者】
【氏名】ブレア,スティーヴン・エム
(72)【発明者】
【氏名】カッツ,ブラッドリー・ジェイ
【テーマコード(参考)】
2H006
2H148
【Fターム(参考)】
2H006BE05
2H148CA05
2H148CA14
2H148GA11
2H148GA33
2H148GA61
(57)【要約】 (修正有)
【課題】被術者における光の影響を制御する。より詳細には、羞明反応の頻度および/または程度を低減する方法、システム、および装置を提供する。
【解決手段】光学フィルタは、特定の波長における第1の光量未満の光を透過させることと、視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた第2の光量を上回る光を透過させることとを行うように構成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長約590nmを含む光への人の目における細胞の暴露を制御することにより羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節する装置であって、
波長約590nmにおいて第1の光量未満の光を透過させることと、視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた第2の光量を上回る光を透過させることとを行うように構成された光学フィルタ、
を備える装置。
【請求項2】
前記第1の光量が、前記波長約590nmにおける光の略全体であり、
前記第2の光量が、前記視覚応答スペクトルにわたって重み付けされた、前記波長約590nmの外における光の略全体である、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の光量が、約560nmから620nmの間のショートパスフィルタ波長を上回る光の実質的にすべてであり、
前記第2の光量が、前記ショートパスフィルタ波長未満の波長を含む前記視覚スペクトル応答にわたるすべての光である、
請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第2の光量が、前記波長約590nm未満または前記波長約590nmを上回る波長を含む第3の光量を含む、
請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第2の光量が、約590nm未満の波長を含む第3の光量と、約590nmを上回る波長を含む第4の光量とを含む、
請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第1の光量が、被術者の受容細胞により受ける前記波長約590nmにおける光量(D
rec,590)であり、
前記第2の光量が、前記視覚応答スペクトルにわたって受ける光量(D
vis)であり、
前記第1の光量と前記第2の光量とを含む比が、性能指数(FOM:figure of merit)として定義され、
前記性能指数が、
【数1】
により決定され、
式中、D
rec,590(T=1)が、光学フィルタがない場合の前記第1の光量であり、D
vis(T=1)が、光学フィルタがない場合の前記第2の光量である、
請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記光学フィルタの前記性能指数が、約1である、約1より大きい、約1.3より大きい、約1.5より大きい、約1.8より大きい、約2.75より大きい、約3より大きい、または約3.3より大きい、
請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記光学フィルタが、多層誘電体、ナノ粒子埋設被膜、色フィルタ、着色、共振導波モードフィルタ、ルゲートフィルタ、およびそれらのあらゆる組み合わせを含む、
請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記ナノ粒子埋設被膜が、金属ナノ粒子、誘電体ナノ粒子、半導体ナノ粒子、量子ドット、磁気ナノ粒子、またはコアにおけるコア材料とシェルとして機能するシェル材料とを有するコアシェル粒子の少なくとも1つを含む、
請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記少なくとも金属ナノ粒子が、Al、Ag、Au、Cu、Ni、Pt、または他の金属ナノ粒子の少なくとも1つを含み、
前記誘電体ナノ粒子が、TiO2、Ta2O5、または他の誘電体ナノ粒子の少なくとも1つを含む、
請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記半導体ナノ粒子または前記量子ドットが、Si、GaAs、GaN、CdSe、CdS、または他の半導体ナノ粒子の少なくとも1つを含む、
請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記ナノ粒子埋設被膜における埋設されたナノ粒子の形状が、球形、楕円形、または別の形状である、
請求項9に記載の装置。
【請求項13】
波長約590nmの光と人の目の視覚スペクトル応答とを使用して羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または、概日周期を調節する方法であって、
何らかの光量を受けるステップと、
請求項1に記載の装置を使用して、前記波長約590nmにおける第1の光量未満の光を透過させるステップと、
請求項1に記載の装置を使用して、前記視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた第2の光量を透過させるステップと、
を含む方法。
【請求項14】
波長約590nmの光と人の目の視覚スペクトル応答とを使用して、光への前記人の目における細胞の暴露を制御することにより、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節するシステムであって、
基材と、
前記基材上に配置された第1の層であって、高屈折率材料を含む第1の層と、
前記第1の層に隣接して配置された第2の層であって、低屈折率材料を含む第2の層と、
を備えるシステム。
【請求項15】
前記第1の層の高屈折率材料が、TiO2であり、
前記第2の層の前記低屈折率材料が、SiO2であり、
TiO2とSiO2との1つまたは複数の追加的な交互に配置された隣接した層をさらに備え、
最初の追加的な層が、前記第2の層に隣接し、
最後の追加的な層が、MgF2、SiO2またはTiO2であり得、外側の層に隣接している、
請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
約590nmと約480nmとの波長を含む光への人の目の暴露を制御することにより、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節する装置であって、
約590nmと約480nmとにおける波長範囲にわたって重み付けされた第1の光量未満の光を透過させることと、視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた第2の光量を上回る光を透過させることとを行うように構成された複合光学フィルタ、
を備える装置。
【請求項17】
光学フィルタが、多層誘電体被膜、ナノ粒子埋設被膜、色フィルタ、着色、共振導波モードフィルタ、ルゲートフィルタ、またはそれらのあらゆる組み合わせの少なくとも1つを含む、
請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記ナノ粒子埋設被膜が、金属ナノ粒子、誘電体ナノ粒子、半導体ナノ粒子、量子ドット、磁気ナノ粒子、またはコアにおけるコア材料とシェルとして機能するシェル材料とを有するコアシェル粒子の少なくとも1つを含む、
請求項16に記載の装置。
【請求項19】
少なくとも前記金属ナノ粒子が、Al、Ag、Au、Cu、Ni、Pt、または他の金属ナノ粒子の少なくとも1つを含み、
前記誘電体ナノ粒子が、TiO2、Ta2O5、または他の誘電体ナノ粒子の少なくとも1つを含む、
請求項18に記載の装置。
【請求項20】
人の目のメラノプシン細胞の活動電位スペクトルと人の目の視覚スペクトル応答とを使用して、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または、概日周期を調節する方法であって、
何らかの光量を受けるステップと、
請求項16に記載の装置を使用して、メラノプシンのアイソフォームの吸収スペクトルにわたって優先的に光を減衰させるステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本出願は、2014年7月22日に出願された、発明の名称を「METHODS,SYSTEMS,AND APPARATUS FOR REDUCING THE FREQUENCY AND/OR SEVERITY OF PHOTOPHOBIC RESPONSES OR FOR MODULATING CIRCADIAN CYCLES(羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節する方法、システム、および装置)」とする米国特許出願第14/338,182号に基づく優先権および利益を主張する。前述のすべての出願が、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002]羞明すなわち光過敏症は、いくつかの神経学的症状を特徴付ける、光に対する有害応答を表す。本発明は、被術者への光の影響を制御することに関する。より詳細には、本発明は、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節する方法、システム、および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]目の網膜は、様々な光受容細胞を含む。これらの光受容細胞は、桿状体(白黒と微光時との視覚に関与する)と、錐状体(日中の視覚と色覚とに関与する)と、メラノプシン神経節細胞とを含む。
【0004】
[0004]メラノプシン神経節細胞は、光感受性をもつ。この光感受性は、脳の痛みの伝達経路を通して痛みを伝達し得る。これらの伝達経路は、全体が参照により本明細書に組み込まれる、Nosedaらの、A Neural Mechanism for Exacerbation of Headache by Light(光による頭痛の憎悪における神経機構)、Nat Neurosci.2010年2月;13(2):239-45 PMID20062053により詳しく説明されている。偏頭痛と良性特発性眼瞼痙攣とを含む光過敏性の神経学的症状の治療において、眼鏡の着色により環境光を調節することが効果的であり得ることは、以前から実証されている。これらの有益な効果についての説明は、共に全体が参照により本明細書に組み込まれる、Goodらの、The Use of Tinted Glasses in Childhood Migraine(小児偏頭痛における着色ガラスの使用)、Headache.1991年9月;31(8):533-6PMID1960058と、Blackburnらの、FL-41 Tint Improves Blink Frequency Light Sensitivity and Functional Limitations in Patients with Benign Essential Blepharospasm(FL-41着色が良性特発性眼瞼痙攣の患者のまばたき頻度光過敏症と機能制限とを改善)、Ophthalmology.2009年5月;116(5):997-1001 PMID19410958とから理解され得る。メラノプシン神経節細胞は、痛みの伝達経路に加えて視交叉上核にも結合しており、視交叉上核においてメラノプシン神経節細胞が概日リズムの同調に関与する。これらの結合は、全体が参照により本明細書に組み込まれる、Hannibal J.の、Roles of PACAP-containing retinal ganglion cells in circadian timing(概日タイミングにおけるPACAP含有網膜神経節細胞の役割)、Int Rev Cytol.2006;251:1-39.Review.PubMed PMID:16939776により詳しく説明されている。
【0005】
[0005]すべての動物は、その動物たちを地球の24時間の明/暗周期に同期させる内因性の「時計」をもつ。この時計は、約(「概(circa)」)1日(「日(dian)」)の内的リズムを確立する。この現象は、全体が参照により本明細書に組み込まれる、Czeisler CA、Gooley JJ.の、Sleep and circadian rhythms in humans(人の睡眠と概日リズム)、Cold Spring Harb Symp Quant Biol.2007;72:579-97.Review.PubMed PMID:18419318により説明されている。しかし、暗/明周期と最適に同期され続けるように、体内時計が毎日リセットされなければならない。共に全体が参照により本明細書に組み込まれる、Czeisler CAの、The effect of light on the human circadian pacemaker(人の概日ペースメーカーに対する光の効果)、Ciba Found Symp.1995;183:254-90;discussion 290-302.Review.PubMed PMID:7656689と、Duffy JF、Wright KP Jr.の、Entrainment of the human circadian system by light(光による人の概日系の同調)、J Biol Rhythms.2005年8月;20(4):326-38.Review.PubMed PMID:16077152との説明によると、メラノプシン神経節細胞により周辺環境における光が吸収されて、体の「主時計」として機能する脳の部分である視交叉上核に信号が伝達されたときに、この同調が発生する。
【0006】
[0006]ロドプシンは、目の桿状体と錐状体とにおける光感受性分子である。ロドプシンは、活性状態と不活性状態とを含む2つの準安定な異性体を含む。ロドプシンは、光に暴露されたとき、不活性なアイソフォームに異性化する。ロドプシンの不活性なアイソフォームは、レチノイドサイクルにおいて回復され得る。レチノイドサイクル中、ロドプシンは、光受容体を離れて網膜色素上皮に入る。活性アイソフォームに回復された後、ロドプシンは、光受容体に戻る。メラノプシン神経節細胞のメラノプシンは、全体が参照により本明細書に組み込まれる、Mure LS、Cornut PL、Rieux C、Drouyer E、Denis P、Gronfier C、Cooper HMの、Melanopsin bistability:a fly’s eye technology in the human retina(メラノプシン双安定:人の網膜におけるハエの目の技術)、PLoS One.2009年6月24日;4(6):e5991.PubMed PMID:19551136において説明されるプロセスと同様のプロセスを経ると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[0007]したがって、被術者における光の影響を制御することが望まれる。より詳細には、羞明反応の頻度および/または程度を低減する方法、システム、および装置を提供することが望まれる。概日周期を調節する方法、システム、および装置を提供することも望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[0008]メラノプシン神経節細胞は、480nm付近の光の波長に対して感受性をもち、人における痛みの伝達経路に関係するので、特定の種類の光により発生する痛みを伴う影響を制御することが望ましい。例えば、メラノプシン神経節細胞の刺激は、羞明反応の頻度および/または程度に影響し得るので、状況によっては、これらの細胞の直接的な光刺激を低減すること、または、他の状況においては、これらの細胞の刺激に直接関係しない光への暴露量を低減することが有益であり得る。これらの羞明反応は、偏頭痛と、振盪または外傷性脳損傷に関係した光過敏症と、光過敏性てんかんと、良性特発性眼瞼痙攣に関
係した光過敏症とを含む。メラノプシン神経節細胞は、概日周期にも関係する。したがって、メラノプシン神経節細胞または目の他の部位の光への暴露を制御することにより、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、および/または、概日周期を調節する方法、システム、および装置が提供される。
【0009】
[0009]羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または、概日周期を調節する一実施形態の装置について説明する。本装置は、メラノプシンの双安定アイソフォームの吸収スペクトルにわたって重み付けされた第1の光量未満の光を透過させるように、および、視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた第2の光量を上回る光を透過させるように構成された光学フィルタを含む。例示として、メラノプシンの活性アイソフォームの吸収スペクトルに関係した光スペクトルは、480nm付近の波長であり、メラノプシンの不活性アイソフォームの吸収スペクトルに関係した光スペクトルは、590nm付近の波長である。
【0010】
[0010]いくつかの実施形態において、第1の光量が、メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトルにわたって重み付けされた光の約50%であり、第2の光量が、視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた光の約75%以上である。他の実施形態において、第1の光量が、メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトルにわたって重み付けされた光の約25%であり、第2の光量が、視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた光の約60%以上である。別の実施形態において、第1の光量が、メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトルにわたって重み付けされた光の略全体である。異なる別の実施形態において、第2の光量が、メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトル外の、および/または、視覚応答スペクトルにわたって重み付けされた、メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトル外のスペクトルにわたって重み付けされた、光の略全体である。さらなる別の実施形態において、視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた第2の光量の減衰に対する、メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトルにわたって重み付けされた第1の光量の減衰の比が、1を上回る。
【0011】
[0011]いくつかの実施形態において、第1の光量が、メラノプシン神経節細胞の活動電位スペクトル内におけるロングパスフィルタの波長未満の光の実質的にすべてであり、第2の光量が、ロングパスフィルタの波長を上回る波長を含む視覚スペクトル応答にわたるすべての光である。別の実施形態において、第1の光量が、590nm付近のショートパスフィルタ波長を上回る光の実質的にすべてであり、第2の光量が、ショートパスフィルタ波長未満の波長を含む視覚スペクトル応答にわたる光の実質的にすべてであり得る。
【0012】
[0012]いくつかの実施形態において、第2の光量が、メラノプシン神経節細胞の活動電位スペクトルの最大相対応答未満の波長、および/または、約590nmを上回る波長を含む第3の光量を含む。他の実施形態において、第2の光量は、メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトルの最大相対応答より大きな波長を含む第3の光量を含む。別の実施形態において、第2の光量は、メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトルの最大相対応答未満の波長を含む第3の光量と、メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトルの最大相対応答より大きな第4の光量とを含む。
【0013】
[0013]いくつかの実施形態において、第1の光量が、(すなわち、メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトルにわたって)目の中の細胞-被術者の網膜神経節細胞または他の細胞-により受ける光量(D
rec)であり、第2の光量が、視覚応答スペクトルにわたって受ける光量(D
vis)であり、第1の光量と第2の光量とを含む比が、性能指数(FOM:figure of merit)として定義され、性能指数が、次式により算出される。
【数1】
【0014】
[0014]式中、Drec(T=1)は、光学フィルタがない場合の第1の光量であり、Dvis(T=1)は、光学フィルタがない場合の第2の光量である。いくつかの実施形態において、光学フィルタの性能指数は、約1、約1を上回る、約1.3を上回る、約1.5を上回る、約1.8を上回る、約2.75を上回る、約3を上回る、約3.3を上回る値を含み得る。他の実施形態において、他の性能指数が使用され得る。
【0015】
[0015]いくつかの実施形態において、第1の光量は、メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトルの中央値において中央値をとるスペクトル幅を定義する。別の実施形態において、第1の光量と第2の光量とは、環境光の特性に基づいて決定される。異なる別の実施形態において、第1の光量と第2の光量とは、遷移、-光互変性、または電気着色型の染料、色素または被膜により選択的に調整可能である。
【0016】
[0016]いくつかの実施形態において、光学フィルタは、受ける光の入射角の影響を最小化または低減するように構成された少なくとも1つの層を含む。別の実施形態において、光学フィルタは、含浸による、または被膜による着色を含む基材をさらに備える。
【0017】
[0017]羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節する一実施形態のシステムについて説明する。システムは、基材と、基材上に配置された第1の層と、第1の層に隣接して配置された第2の層とを含む。第1の層は、高屈折率材料を含む。第2の層は、低屈折率材料を含む。
【0018】
[0018]別の実施形態において、システムは、追加的な層および/または材料の種類を含み得、材料が協働して、メラノプシン神経節細胞の活動電位スペクトルにわたって重み付けされた第1の光量未満の光を透過させ、視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた第2の光量を上回る光を透過させる。いくつかの実施形態において、光学フィルタにおける層数を増加させることは、活動電位スペクトル外における光の透過率を増加させる。
【0019】
[0019]羞明反応の頻度および/または程度を低減する光学フィルタを製造する一実施形態の方法について説明する。本方法は、適切な光スペクトルを決定するステップを含む。被術者におけるメラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方により受ける第1の光量が決定される。視覚応答スペクトルに関係した第2の光量が決定される。第1の光量と第2の光量とを使用して、光学フィルタが製造される。
【0020】
[0020]いくつかの実施形態において、人のメラノプシン神経節細胞の活動電位スペクトルが決定される。別の実施形態において、光学フィルタは、人のメラノプシン神経節細胞に基づいて第1の光量を減衰させるように構成される。異なる別の実施形態において、光学フィルタは、視覚応答スペクトル特性に基づいて製造される。
【0021】
[0021]いくつかの実施形態において、光学フィルタは、ノッチフィルタである。別の実施形態において、ノッチフィルタは、非垂直入射角で照射する光を遮蔽するように構成される。異なる別の他の実施形態において、ノッチフィルタは、複数の傾斜した入射角に対
して最適化されたフィルタを含む。さらなる別の実施形態において、ノッチフィルタは、わずかな赤方偏移を伴うように設計される。さらに別の実施形態においてノッチフィルタは、あるスペクトル幅にわたって光を減衰させるフィルタノッチを含む。
【0022】
[0022]いくつかの実施形態において、光学フィルタを製造することは、多層誘電体、ナノ粒子埋設被膜、色フィルタ、着色、共振導波モードフィルタ、ルゲートフィルタ、およびそれらのあらゆる組み合わせを使用することを含む。別の実施形態において、ナノ粒子埋設被膜は、金属ナノ粒子、誘電体ナノ粒子、半導体ナノ粒子、量子ドット、磁気ナノ粒子、またはコアにおけるコア材料とシェルとして機能するシェル材料とを有するコアシェル粒子の少なくとも1つを含む。異なる別の他の実施形態において、少なくとも金属ナノ粒子が、Al、Ag、Au、Cu、Ni、Pt、または他の金属ナノ粒子の少なくとも1つを含み、誘電体ナノ粒子が、TiO2、Ta2O5、または他の誘電体ナノ粒子の少なくとも1つを含む。さらなる別の実施形態において、半導体ナノ粒子または量子ドットはSi、GaAs、GaN、CdSe、CdS、または他の半導体ナノ粒子の少なくとも1つを含む。さらに別の実施形態において、ナノ粒子埋設被膜における埋設されたナノ粒子の形状は、球形、楕円形、または別の形状である。いくつかの実施形態において、埋設されたナノ粒子の消衰スペクトルは、ミー散乱理論を利用して決定される。
【0023】
[0023]羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または、概日周期を調節する一実施形態の方法について説明する。本方法は、何らかの光量を受けるステップを含む。メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトルにわたって重み付けされた第1の光量未満の光が透過される。視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた第2の光量を上回る光が透過される。メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の吸収スペクトルにわたって重み付けされた光の減衰は、メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の異性化を妨害する。
【0024】
[0024]図面は、本明細書の一部を構成し、様々な形態で具現化され得る本発明の例示的な実施形態を含む。いくつかの例では、本発明の理解を容易にするため、本発明の様々な態様が誇張または拡大して示され得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】[0025]単位量に正規化されたメラノプシン細胞の例示的な測定活動電位スペクトルと、測定データ点に対するガウシアンフィッティングとを示す図である。
【
図2】[0026]メラノプシンの「実効活動電位スペクトル」にわたる、例示的な「FL-41 35」フィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図3】[0027]可視光スペクトルにわたる、例示的な「FL-41 35」フィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図4】[0028]メラノプシンの「実効活動電位スペクトル」にわたる例示的な「FL-41 55」フィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図5】[0029]可視光スペクトルにわたる例示的な「FL-41 55」フィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図6】[0030]屈折率の異なる多層誘電体薄膜を使用した例示的なフィルタの図である。
【
図7】[0031]可視光スペクトルの青緑色領域における光を散乱させるように設計されたナノ粒子埋設被膜を使用した例示的なフィルタの図である。
【
図8】[0032]メラノプシン細胞による光吸収を妨げる光学フィルタを設計する例示的な方法を示す図である。
【
図9】[0033]メラノプシンの「実効活動電位スペクトル」にわたる、一実施形態のフィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図10】[0034]可視光スペクトルにわたる、
図9に示す実施形態のフィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図11】[0035]メラノプシンの「実効活動電位スペクトル」にわたる、他の一実施形態のフィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図12】[0036]メラノプシンの「実効活動電位スペクトル」にわたる、別の実施形態のフィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図13】[0037]メラノプシンの「実効活動電位スペクトル」にわたる、異なる別の実施形態のフィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図14】[0038]可視光スペクトルにわたる、
図13に示す実施形態のフィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図15】[0039]メラノプシンの「実効活動電位スペクトル」にわたる、垂直入射光に対してフィルタの中心が485nmに位置する、さらに別の実施形態のフィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図16】[0040]メラノプシンの「実効活動電位スペクトル」にわたる、入射角を15度とする
図15に示す実施形態の測定透過スペクトルを示す図である。
【
図17】[0041]メラノプシンの「実効活動電位スペクトル」にわたる、低屈折率MgF
2層を除いた、さらなる別の実施形態のフィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図18】[0042]
図18Aは、約480nmを中心とする一実施形態のフィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
図18Bは、約620nmを中心とする一実施形態のフィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図19】[0043]様々な着色度合いの、約480nmを中心とする複数の実施形態のフィルタの測定透過スペクトルを示す図である。
【
図20】[0044]
図19に示す実施形態のフィルタの後側反射スペクトルを示す図である。
【
図21】[0045]光学フィルタを製造する方法の例示的な実施形態を示す図である。
【
図22】[0046]羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または、概日周期を調節する方法の例示的な実施形態を示す図である。
【
図23】[0047]2つの波長範囲を優先的に減衰させるように構成された一実施形態の複合フィルタを示す図である。
【
図24】[0048]複合光学フィルタを製造する方法の一実施形態を示す図である。
【
図25】[0049]複合フィルタを使用して、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または、概日周期を調節する方法の一実施形態を示す図である。
【
図26】[0050]
図26Aは、480nmを中心とする、灰色に着色されたレンズ被膜の透過スペクトルを示す図である。
図26Bは、620nmを中心とする、灰色に着色されたレンズ被膜の透過スペクトルを示す図である。
【
図27】[0051]双安定色素の循環的な異性化を概略的に示す図である。
【
図28】[0052]目における活性メラノプシンと不活性メラノプシンとの応答スペクトルを示す図である。
【
図29】[0053]メラノプシンの双安定アイソフォームの一方または両方の異性化を妨害する方法の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[0054]本発明の実施形態の詳細な説明を本明細書で提供する。しかし、本発明が様々な形態で具現化され得ることが理解される。したがって、本明細書に開示される具体的な詳細事項は、限定とは解釈されず、むしろ、事実上あらゆるシステム、構造、または方法において本発明をどのように利用するかについて当業者に教示するための代表的な根拠として解釈される。
【0027】
[0055]本発明は、被術者に対する光の影響を制御することに関する。本発明のいくつかの適用例は、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節する
方法、システム、および装置に関する。
【0028】
[0056]様々な人が、様々な態様で羞明反応を経験する。光に対する有害反応を引き起こす波長と、それに伴う伝達経路とは、患者に応じて異なり得る。しかし、他より一般的に羞明反応に関係した何らかの共通の波長がある。例えば、目におけるメラノプシン神経節細胞は、波長約480nmの光に対して感受性をもつ。人によっては、これは、その人の光過敏性の神経学的症状に関連し得る。波長480nm付近の光への暴露を制御することは、これらの人に利点があり、その人の光過敏性の神経学的症状を低減または予防し得る。代替的に、または、それに加えて、その同じ光への暴露を調整することは、人の概日リズムを制御することの補助にもなり得る。同じ人または他の人において、波長620nm付近または他の波長の光への目の暴露を調整することは、光過敏性の神経学的症状を低減または予防すること、または人の概日リズムを制御することにおいても利点になり得る。以下の例は、480nm付近の波長を含む光の減衰と、480nm付近の同じ光へのメラノプシン神経節細胞の暴露とを参照するが、同様のフィルタと方法とが、他の波長の、目における他の細胞により受容される光を減衰させるのに使用され得ることが理解されよう。例えば、同様のフィルタと方法とが、620nmまたは約620nmにおいて光を減衰させるのに使用され得る。他の例において、同様のフィルタと方法とが、590nmまたは約590nmの光を減衰させるのに使用され得る。
【0029】
[0057]メラノプシン神経節細胞が、多くの羞明患者における羞明と偏頭痛の発症との原因だといわれているので、可視スペクトルのうち、これらの細胞を活性化する部分の少なくとも一部を遮蔽することが望ましい。羞明は、偏頭痛と良性特発性眼瞼痙攣と外傷性脳損傷(TBI:traumatic brain injury)とを含む光過敏性の神経学的症状に関係する。
図1は、例示的な単位量に正規化されたメラノプシン細胞の測定活動電位スペクトルと、測定データ点に対するガウシアンフィッティングとを示す。このガウシアンフィッティングは、少なくとも一実施形態のフィルタ設計に使用され得るが、活動(活性化)電位スペクトルのより正確な測定値が利用可能となり得るので、このガウシアンフィッティングは、最適なフィルタのためのスペクトルの基準と解釈されてはならない。この正確な測定値は、本明細書で説明するプロセスに従った、または、同様のプロセスを介した、別のフィルタ設計または方法を誘導し得る。活動電位スペクトルのより正確な測定値に基づく、本明細書で説明する方法、システム、および装置の最適化が意図される。
【0030】
[0058]いくつかの実施形態において、可視スペクトルのゆがみを最小化しながら、羞明の予防に適した特定の波長範囲にわたって光が遮蔽(すなわち、減衰)され得る。他の実施形態において、本出願で説明する方法、システム、および装置は、体の概日系を操作するためにも使用され得る。
【0031】
[0059]これらの羞明反応を発症および/または悪化させると疑われる光学スペクトルの特定の部分を遮蔽する光学フィルタの実施形態について説明する。これらのフィルタは、アイウェア(眼鏡、ゴーグル、クリップオン、または他のアイウェアなど)、レンズ(コンタクトレンズを含む)、コンピュータスクリーン、窓、車のフロントガラス、照明基材、電球(白熱電球、蛍光灯、CFL、LED、ガス蒸気など)、または、何らかの他の光学素子に適用され得る。これらの光学フィルタは、クラウンガラス(BK7を含む)、フリントガラス(BaF8を含む)、SiO2、プラスチック(ポリカーボネート、CR-39、およびtrivexなど)、他の基材、および、それらの組み合わせに適用され得る。
【0032】
[0060]説明の大部分は、羞明の予防に焦点をあてるが、本明細書で説明するシステム、方法、および装置は、概日リズムを調節することにも適用可能である。例えば、これらの
フィルタは、異なる時間帯の間で移動する、事業家、運動競技者、その他の人、または、体の概日系を操作することを望む人によって体の概日系の操作に使用され得る。一例において、被術者は、その被術者が移動する場所の明/暗周期にその被術者を適応させるのに役立つ、本明細書で説明する少なくとも1つのフィルタを装着する。他の例において、本明細書で説明する少なくとも1つのフィルタは、睡眠障害の患者におけるメラノプシン神経節細胞の励起を制限するためにも使用可能である。この用途において、被術者は、これらのフィルタを装着することにより、晩における人工光へのその被術者の暴露を制限し、目覚めている時間だとその被術者の体内時計が判断することを防止する。加えて、被術者は、日の出前の光への暴露を増加させることにより、その被術者の明/暗周期を調整し得る。
【0033】
[0061]さらに、620nm付近の波長も、特定の人における羞明作用に寄与することが、最近、臨床的に実証された。神経学的効果に対する正確な伝達経路が、今のところ十分には理解されていないが、同様に、620nm付近の波長を含む光を優先的に減衰させることにより利点が達成され得る。
【0034】
[0062]メラノプシンは、各々が固有の吸収スペクトルを示す双安定アイソフォームを含む。アイソフォームは、活性アイソフォームと不活性アイソフォームとであり得る。活性アイソフォームは、生理的に活性であり得る。不活性アイソフォームは、生理的に不活性であり得る。各アイソフォームの吸収スペクトルに基づく光の吸収は、メラノプシンの異性化をもたらし得る。590nmまたは約590nmの光を減衰させることによりメラノプシンの異性化を妨害、制限、または防止することにより、利点が達成され得る。
【0035】
[0063]FL-41レンズ着色が、偏頭痛患者に対して施されることもある。FL-41着色は、広い波長範囲を(吸収により)遮蔽する。これらの波長は、メラノプシン吸収に関係する波長を含む。FL-41の染料は、特定の種類のプラスチック眼鏡レンズに浸透され得る。浸透される染料の量は、全体として、遮蔽される光の強さの程度を決定する。「FL-41 35」着色は、屋内環境で多くの患者に効果的である。しかし、例えば、屋外環境に移動することにより、光源が強度を増した場合、「FL-41 35」は、同程度まで効果的ではない場合があり得る。
【0036】
[0064]
図2は、「FL-41 35」の測定透過スペクトルを示す。
図2は、さらに、「実効活動電位スペクトル」と呼ばれるメラノプシンの活動電位スペクトルに対する「FL-41 35」フィルタの効果を示す。「FL-41 35」着色は、その着色がなければメラノプシン神経節細胞により吸収される光の約55%を遮蔽し、または減衰させる。さらに、
図3に示すように、FL-41着色は、メラノプシンに関係しない可視スペクトルの大部分を遮蔽して、視覚応答スペクトルにわたって約47%減衰させる。可視応答スペクトルをさらに遮蔽することは、不利益をもたらし得る。例えば、可視応答スペクトルを遮蔽することは、通常の視力に悪影響を及ぼし得る。他の例において、可視応答スペクトルを遮蔽することは、気が散るものか、または装着者にあまり望ましくないものであり得る好ましくない配色を生成し得る。
【0037】
[0065]屋外環境などの光が明るい状況では、「FL-41 55」など、より大きなレベルのスペクトルの減衰を伴う着色が使用され得る。このフィルタの透過スペクトルと、活動電位スペクトルに対するそのフィルタの効果とを、
図4(メラノプシンの「実効活動電位スペクトル」にわたる)と
図5(可視光スペクトルにわたる)とに示す。このフィルタは、フィルタがなければメラノプシン細胞により吸収される光の約89%を減衰させるが、さらに、視覚応答スペクトルの約81%を減衰させる。このさらなるスペクトルの減衰は、さらに、微光レベルまたは他の状況における視力を損ない得る。
【0038】
[0066]総合的には、FL-41の一般的な欠点は、ばら色の外観と、色覚のゆがみと、適用範囲の限定(すなわち、特定のプラスチックにのみ適用され得、ガラスレンズ、コンピュータスクリーン、窓、車のフロントガラス、照明基材、電球、または他の光学素子に適用されない可能性がある)と、着色プロセスに対する品質管理の低さ(着色可能な硬い被膜層における変動に部分的に起因する)とを含む。FL-41は、特定の用途において効果的であり得るが、メラノプシン神経節細胞の刺激と脳の痛みの中枢へのそれらの結合とを下方制御するように設計されない。これらの理由により、他の実施形態のフィルタを開発することが望ましい場合があり得る。
【0039】
[0067]光過敏症の治療のためのより望ましい光学フィルタの一例は、ロングパスフィルタを含み得る。波長約480nmに対するメラノプシン神経節細胞の暴露を調整するため、ロングパスフィルタは、約500nmまたは520nmより長い波長を多く透過し得る一方で、約500nmまたは520nmより短い波長において光を減衰させる。同様に、約620nmの波長に対する人の目における細胞の暴露を調整するため、ショートパスフィルタは、600nmまたは約580nmより短い波長を多く透過し得る一方で、約600nmまたは約580nmより長い波長の光を減衰させる。
【0040】
[0068]より望ましい光学フィルタの他の例は、メラノプシンにより吸収される光のスペクトルまたは他の特定の波長のみを遮蔽する一方で、光スペクトルの残りの部分を全体的に透過させ、フィルタのスペクトル透過率応答がノッチの形をとる、帯域消去フィルタまたはマイナスフィルタとも呼ばれることがあるフィルタを含み得る。メラノプシンの場合、ノッチの中心位置は、メラノプシン伝達経路の吸収最大波長(約480nm)に近い位置であり得るが、他の位置が効果的であり得る。ノッチのスペクトル幅は、約50~60nmである活動電位スペクトルの幅に概ね一致し得るが、他の幅も考えられる。
【0041】
[0069]染料混合物を含む着色、多層誘電体(一例を
図6に示す)、ナノ粒子埋設被膜(一例を
図7に示す)、共振導波路フィルタなどの他のフィルタ技術、または、その組み合わせなどの光学フィルタ技術が、本開示に従ったフィルタを形成するために使用され得る。本開示に従った光学フィルタに使用される得るナノ粒子被膜は、金属ナノ粒子(例えば、Al、Ag、Au、Cu、Ni、Pt)、誘電体ナノ粒子(例えば、TiO
2、Ta
2O
5など)、半導体ナノ粒子または量子ドット(例えば、Si、GaAs、GaN、CdSe、CdSなど)、磁気ナノ粒子、コアにおける1つの材料とシェルとして機能する他の材料とからなるコアシェル粒子、他のナノ粒子、またはその組み合わせを含み得る。これらの粒子の形状は、球形、楕円体、他の形、またはその組み合わせであり得る。母材は、ポリマー、ゾルゲル、他の母材、またはその組み合わせを含み得る。これらのナノ粒子の消衰スペクトルは、ミー散乱理論またはその派生理論を使用して計算され得る。
【0042】
[0070]
図6に示す一実施形態の多層フィルタ600は、基材602と第1の層604と第2の層606とを含む。図に示すように、第1の層604は、高屈折率材料を含み得、第2の層606は、低屈折率材料を含み得る。他の実施形態において、第1の層604は、低屈折率材料を含み得、第2の層は、高屈折率材料を含み得る。さらに、第1の層604は、基材602に隣接して示される。他の実施形態において、第1の層604は、基材602と第1の層604との間に他の層(例えば、第2の層606および/または他の層)を含み得る。別の層も示される(ただし、符号なし)。基材602は、本明細書で説明するいずれの基材も使用し得る。例えば、基材602は、第1の層604および第2の層606と同じ側および/または反対側(すなわち、基材の前側および/または後側)に着色層(図示せず)を含み得る。他の例において、基材602自体が、色を浸透され得る。例示的な着色技術と着色量について以下で説明する。他の実施形態の多層フィルタについて、本明細書でさらに説明する。
【0043】
[0071]
図7に示すフィルタ700は、基材702と母材層704と複数のナノ粒子706とを含む。母材層704は、基材702に隣接して示される。他の実施形態において、母材層704は、基材702と母材層704との間に他の層(例えば、
図6に示す第2の層606および/または他の層)を含み得る。しかしナノ粒子706は、球形かつ一様な大きさとして示されるが、上述のように、さらに、他の形状と寸法とが考えられる。
図6の多層フィルタを使用する場合と同様に、様々な基材、着色、他の特徴、またはその組み合わせが、ナノ粒子フィルタ700と共に使用され得る。他の実施形態のナノ粒子フィルタについて本明細書で説明する。
【0044】
[0072]使用され得る他の種類のフィルタは、色フィルタ(有機染料および半導体)、共振導波モードフィルタ、ルゲートフィルタ、またはその組み合わせを含み得る。ルゲートフィルタは、その厚さにわたる正弦関数的な屈折率変化を利用する。真の正弦関数は、入手可能ではない場合があり得、多くの場合、2つ以上の材料の混合物を使用した階段状の屈折率近似によって近似される。
【0045】
[0073]これらの様々なフィルタの種類に加えて、さらなる検討事項は、桿状体と錐状体との光反応によって定まる、設計されたフィルタによる視覚応答スペクトルへの影響を考慮し得る。検討事項の1つは、スペクトルのゆがみを最小化することを含み得る。軸外の照射に対して発生するフィルタ応答の青方偏移を考慮して、ノッチの中心を約480nmからわずかに赤方偏移させるように設計することにより、例えば、メラノプシン神経節細胞に向かう480nm付近の光を減衰させるときに、多層誘電体を使用して補償され得る、角感度を考慮することなどの最適化方法を含む、追加的または他の制約をフィルタ設計に追加することが考慮され得る。減衰される波長に応じて、赤方偏移または青方偏移の程度が変化し得る。最適化は、さらに、フィルタのスペクトル幅を広げて非垂直入射角を補償すること、および/または、追加的なフィルタ層の使用により入射角を補償することを含み得る。後側反射の可能性が、検討事項であり得る。これらの検討事項の1つまたは複数は、何らかの形態の着色を施したフィルタを組み合わせることにより対処され得る。
【0046】
[0074]メラノプシン細胞による光吸収を妨げる光学フィルタを製造する方法の一実施形態について本明細書で説明する。メラノプシン細胞が受ける光量Dは、次式のように表され得る。
D
melan=∫L(λ)T(λ)M(λ)dλ (1)
式中、Lは、(強度、出力、光子/秒などに関する)光スペクトルであり、Tは、光源と目との間に位置するフィルタのスペクトル透過率であり、Mは、現時点で
図1から480nmを中心とした、半値全幅を52nmとするガウス関数と推定される、メラノプシンの正規化された活動電位応答スペクトルである。一般化するため、説明をいずれかの特定の光源に限定しないように、L=1と仮定するが、スペクトルの知られたあらゆる光源に対して分析が実施され得る。
【0047】
[0075]視覚応答スペクトルと関係して、同様の光量が計算され得る。
Dvis=∫L(λ)T(λ)V(λ)dλ (2)
式中、Vは、正規化された視覚応答スペクトルを表す。
【0048】
[0076]FL-41着色などの光学フィルタの効果は、例えば次式のように、フィルタを使用しない場合の光量に対する、フィルタを使用して計算された光量の比をとることにより、説明されるように光量を低減することである。
【数2】
【0049】
[0077]光量の「減衰」は、例えば、次式のように表記され得る。
【数3】
【0050】
[0078]メラノプシン応答の遮蔽を視覚応答スペクトルの遮蔽と比較する性能指数(FOM)も定義され得る。
【数4】
この式は、可視スペクトルにわたる光の減衰に対するメラノプシンスペクトルにわたる光の減衰の比を表し、式中、FOM値>1が望ましい場合があり得る。FL-41着色の場合、FOMは約1である。
【0051】
[0079]
図8は、メラノプシン細胞による光吸収を妨げる光学フィルタを設計する方法800の一実施形態を示し、方法800は、ステップ802に示すように、メラノプシン細胞が受ける光量Dを(例えば、式(1)を使用して)決定するステップを含み得る。ステップ804に示すように、視覚応答スペクトルにわたって受ける光量は、(例えば、式(2)を使用して)決定され得る。ステップ806に示すように、性能指数(FOM)は、メラノプシン細胞が受ける光量と、視覚応答スペクトルにわたって受ける光量と、に関連して決定され得る。他の実施形態において、視覚応答スペクトルにわたる光量は、低減または分離され得る。例えば、視覚応答スペクトルの1つまたは複数の部分のみが使用され得るか、または、視覚応答スペクトル外の波長が考慮され得る。性能指数は、羞明反応を低減および/または予防するように光学素子を設計するために使用され得る。
【0052】
[0080]本明細書で説明する多くの実施形態は、屈折率の異なる多層誘電体薄膜を使用する。これらの層は、(本明細書に記載しているように)多くの光学素子に適用され得る。例示として、どのような観点からも限定する意図なく、本開示の光学フィルタ設計の実施形態は、屈折率が約1.5で、後面(すなわち、ユーザの目に最も近い面)に付加された反射防止被膜をもつ眼鏡レンズなどの一般的な透明基材を想定する。したがって、他の屈折率をもつ他の基材、および、後面の反射防止被膜をもつ、または、もたない他の基材も考えられる。異なる基材の材料、および/または、それらの基材上の異なる被膜を補償するため、フィルタ設計における軽微な変更が必要であり得る。さらなる設計の最適化を必要とし得る様々な薄膜材料と様々な基材の材料との親和性、およびレンズ基材の曲率などの、さらなる検討事項が対処されることが必要であり得る。基材は、基材または基材上の層といずれかのさらなる被膜との間に、接着層(例えば、クロムの薄層)を含み得る。
【0053】
[0081]使用され得る多層ロングパスフィルタとノッチフィルタとへの多数の設計手法がある。例えば、薄膜光学フィルタの設計に、ソフトウェアと他の設計ツールとが利用可能である。これらのツールは、最適化中に多くの制約を考慮して、同じ光遮蔽特性を実現する、または同じ生理学的な結果を生成する場合でも、いずれか2つのフィルタ設計が同一となる可能性を低減し得る。いくつかの例のみが本明細書に現れるが、限定する意図はまったくない。同様の結果を達成するため、他の手法がとられ得ることに加え、より理想的な特性を提供するため、または、より少ない数の層で同様の特性を提供するため、本開示に従ってさらなる最適化が実施され得る。
【0054】
[0082]加えて、多層被膜と他の被膜とが、着色レンズまたは基材に適用され得る。この組み合わせが望ましい場合があり得る複数の理由がある。1つの理由は、着色のスペクトル特性が、薄膜フィルタに対する設計制約を緩和し得ることを含み得る。例えば、FL-41の「基礎着色」を薄膜ノッチフィルタと組み合わせることは、治療結果を生成するために必要なノッチの深さを低減するように機能し得る。ノッチ設計において着色の透過率のスペクトル変化を考慮することが望ましい場合があり得る。この設計上の調整は、例えば、ノッチの中心波長を偏移させて、着色スペクトル応答の局所的な傾きを補償することにより実現され得る。基礎着色を使用する他の理由は、レンズの後側を通って入る光のあらゆる望ましくない反射を低減することであり得る。この場合、それ自体の配色を何も導入しない「平坦な」すなわち中性の着色を使用することが望ましい場合があり得る。
【0055】
[0083]例えば、(例えば、所望の波長を反射させてユーザから遠ざけることにより)ある波長範囲の光がレンズの前を通らないように遮蔽するように設計された一実施形態のフィルタにおいて、レンズの後側に入る光(遮蔽される波長の光を含む)は、ユーザの目に反射されて戻り得る。言い換えると、前から遮蔽される光(多層フィルタの場合は反射により)は、その時、後側から反射され得る。これは、主に被術者の前に単一光源がある場合、懸念事項にはならない場合があり得る。しかし、例えば、非常に明るい光が観測される場合、または複数の光源がある場合、この後方反射は、ユーザに有害であり得る。
【0056】
[0084]ロングパスフィルタまたはノッチフィルタを生成する例示的な手法は、高屈折率材料と低屈折率材料との交互に配置した層を使用するステップを含む。例示的な低屈折率誘電体材料は、MgF2およびSiO2を含む。一般的に、MgF2は、単層反射防止被膜と多層反射防止被膜とで使用される。例示的な高屈折率材料は、TiO2、Ti3O5、ZrO2、およびTa2O5などの金属酸化物、ならびにSi3N4を含む。ポリマー層を含む多くの他の適切な材料が使用され得る。
【0057】
[0085]480nm、620nm、または他の特定の波長などの様々な波長付近の光を減衰させる光学フィルタが、同様の設計に従い得る。一実施形態の光学フィルタ設計と、実効(および減衰した)活動電位を生成するメラノプシン細胞を照射する光のスペクトルに対する、本実施形態のフィルタの効果とを
図9と
図10とに示す。この設計は、メラノプシン細胞により吸収される光の55%が遮蔽すなわち減衰されるという点で、FL-41
35被膜と同様に臨床的に効果的であることが目標とされ、この設計は、視覚応答にわたって18%のみの減衰を伴い、視覚のゆがみがかなり少ない状態で、FL-41被膜と同じように偏頭痛(または光過敏性)の症状の軽減をもたらさなければならない。本実施形態では、低屈折率材料がSiO
2であり、高屈折率材料がTiO
2であり、MgF
2が、最外層として使用され、合計11層が使用される。例示的な層と材料とを、最外層(MgF
2)から基材に隣接する最内層(厚さ165nmのTiO
2)まで次の表に列記する。このフィルタは、FOM≒3である。
【表1】
【0058】
[0086]ノッチフィルタの中心のスペクトル位置は、ノッチフィルタの各層の厚さにより決定され得る。しかし、本明細書の多くの実施形態は、ノッチのスペクトル位置が約480nmであると仮定するが、他のスペクトル位置も考えられる。例えば、メラノプシン伝達経路の活動電位スペクトルに関するより多くの情報がよく知られているので、スペクトル位置は、新情報に従って、例えば、620nmに偏移され得る。そうでなければ、他の例において、スペクトル位置は、特定の結果を達成するように、例えば、メラノプシン伝達経路の活動電位スペクトルの波長以外の波長を減衰させるように配置され得る。
【0059】
[0087]ノッチの幅は、異なる層の屈折率における差により決定され得る。ノッチの深さは、層数により決定され得る。ノッチ領域外の透過率は、追加的な層を含めることにより増加および平坦化され得、さらに、後側反射を低減するため、レンズの後面に付加された単層反射防止被膜または多層反射防止被膜を含める可能性もある。メラノプシン細胞の励起をさらに抑制し得るノッチの深さを増加させるために、さらなる設計最適化が使用され得るが、視覚応答スペクトルへの影響を考慮しなければならない。多くの場合に役立つように、全体的な抑制は、患者ごとに、または、1つまたは複数の一般的な等級のフィルタを設計することにより調整され得る。
【0060】
[0088]実効メラノプシン活動電位スペクトルのより大きな減衰は、フィルタノッチを深くすることと広げることとのいずれか、または、その両方の組み合わせにより実現され得る。
図11と
図12とは、それぞれ、19個の誘電体層と15個の誘電体層とを使用した、2つの例示的な手法の実施形態を示す。両方とも、メラノプシンスペクトルにわたり約70%の減衰をもたらすが、わずかに異なる視覚応答スペクトル特性をもつので、2つの間の最終的な選択は、装着者の嗜好に基づいて行われ得る。19層フィルタは、視覚応答スペクトルの約21%を減衰させ、15層フィルタは、視覚応答スペクトルの約25%を減衰させる。両方のフィルタが、2.75より大きなFOM値をもち、19層フィルタは、約3.3のFOM値をもつ。
【0061】
[0089]様々な設計が、メラノプシン活動電位スペクトルにわたって大幅な減衰を達成し得る。
図13と
図14とは、約3のFOM値をもち、19個の誘電体層を使用して、光の約89%を遮蔽するが、視覚応答スペクトルの約29%のみを遮蔽する、FL-41 55フィルタと同様の、メラノプシン活動電位の減衰をもたらす一実施形態のノッチフィル
タ設計を示す。例示的な層と材料とを、最外層(MgF
2)から基材に隣接する最内層(厚さ160.3nmのTiO
2)まで次の表に列記する。
【表2】
【0062】
[0090]他の設計の検討事項は、非垂直入射角で照射する光を遮蔽することを含み得る。例えば、薄膜フィルタの角度を傾けることは、フィルタ応答において青方偏移をもたらす傾向がある。これは、例えば、入射角の影響を最小化または低減するため、わずかな赤方偏移を伴うようにフィルタを意図的に設計することと、追加的な層を付加してフィルタの幅を広げることとのいずれかにより、または、その組み合わせにより適応され得る。
【0063】
[0091]
図15は、一実施形態における10層のフィルタ設計を示し、垂直入射光に対してノッチの中心が485nmに位置する。垂直入射において、本実施形態のフィルタは、メラノプシンスペクトルに対して光量の約61%を遮蔽し、視覚応答スペクトルに対して光の約21%のみを減衰させ、その結果、約2.9のFOM値をもたらす。
【0064】
[0092]
図16は、
図15に示す実施形態のフィルタの効果を示すが、入射角は約15度である。本実施形態で、この入射角において、メラノプシンへの光量の遮蔽は約61%であり、視覚応答スペクトルの約20%の遮蔽を伴い、その結果、約3.1のFOM値をもたらす。
【0065】
[0093]本実施形態のフィルタは、最外層(MgF
2)から最内層(厚さ127nmのTiO
2)まで、次の表に列記した後述の層特性をもつ。
【表3】
【0066】
[0094]
図8~
図15に関連して説明される実施形態のフィルタでは、低屈折率MgF
2層が使用された。他の実施形態が、この材料を必要としない場合があり得る。例えば、
図17は、メラノプシン活動電位スペクトル(または光量)の約73%と、可視応答の光量の約21%とを遮蔽し、FOM値を約3.5とする一実施形態のフィルタ設計を示す。
図17に示すフィルタ設計の層特性を、最外層から最内層まで、次の表に列記する。
【表4】
【0067】
[0095]前述の通り、後側(すなわち、ユーザの目に最も近い側)からユーザの目の中に反射される光量を低減することが望ましい場合があり得る。これは、薄膜被膜が着色レンズまたは基材に付加され得る他の一実施形態のフィルタ設計により実現され得る。他の実施形態において、基材は、含浸、被膜、他の着色技術、またはその組み合わせにより着色され得る。薄膜被膜/着色基材の組み合わせを通した光の透過率は、薄膜被膜の透過率と着色基材の透過率との積として表記され得る。
T(λ)=Tfilm(λ)Ttint(λ) (4)
薄膜被膜は、基材の前面にのみ付加されると仮定し、反射防止被膜(T≒1である)は、基材の後面に付加されると仮定する。
【0068】
[0096]基材の後面に入る光の場合、それは、まず、着色部を通り、基材の前面における薄膜フィルタにより反射され、その後、ユーザの目を照射する前に再度着色部を通る。この場合、反射光は、次式のように表記され得る。
【数5】
【0069】
[0097]あらゆる特定の波長において、透過された光と反射された光との割合は、薄膜被膜と着色部との透過率により設定され得る。例えば、所望の波長(この例では約480nm)において約20%の透過率が所望される場合、薄膜の透過率と着色部の透過率の特定の組み合わせのみが使用され得る。さらに、約10%の反射が所望される場合、薄膜の透過率と着色部の透過率との1つの組み合わせのみが許容される。これらの関係は、次式のように説明され得る。
【数6】
【数7】
【0070】
[0098]ユーザの目の中への後方反射光に起因してメラノプシン細胞が受ける光量Dは、式(1)に示される透過光に起因したメラノプシン細胞が受ける光量と同様に表記され得る。
D
R-melan=∫L(λ)R(λ)M(λ)dλ (8)
式中、Lは、(強度、出力、光子/秒などに関する)光スペクトルであり、Rは、スペクトル後方反射率であり、Mは、現時点で
図1から480nmを中心とした、半値全幅を52nmとするガウス関数と推定される、メラノプシンの正規化された活動電位応答スペクトルである。一般化するため、説明をいずれかの特定の光源に限定しないようにL=1と仮定するが、分析は、あらゆる光源のよく知られたスペクトルに対して実施され得る。
【0071】
[0099]メラノプシン細胞が受ける後方反射光による正規化された光量は、次式により計算され得る。
【数8】
【0072】
[00100]同様の光量と正規化された光量とが、視覚応答スペクトルに関係して計算され
得る。
D
R-vis=∫L(λ)R(λ)V(λ)dλ (10)
【数9】
式中、Vは、正規化された視覚応答スペクトルを表す。理想的には、後方反射率は、これらの光量値がゼロの近くになるように低減される。
【0073】
[00101]メラノプシン伝達経路の活動電位スペクトルに対する後方反射光の光量は、式
(8)を使用して決定され得る。視覚スペクトルに対する後方反射光の光量は、式(9)を使用して決定され得る。後方反射光の光量は、光学フィルタを設計することと製造することとを行うために使用され得る。例えば、適切なレベルの着色は、メラノプシン伝達経路の活動電位スペクトルにわたるか、視覚スペクトルにわたるか、またはその両方であるかにかかわらず、後方反射光の最大所望光量に基づいて選択され得る。メラノプシン細胞が受ける光量と、後方反射光の正規化された光量との低減は、羞明ユーザが患う症状を低減し得る。
【0074】
[00102]以下の表は、例えば、約480nmにおける特定の透過率と後側反射率とをも
たらす、いくつかの考えられ得るノッチと着色部との透過率の組み合わせを使用した、追加的な実施形態のフィルタ設計を示す。ノッチ応答に起因して、ノッチ外における光の透過率は、ノッチ内における光の透過率より大きくなり、その結果、後方反射光の量は、ノッチの中心において発生する量未満となることに注意されたい。しかし、これらの例は、480nm付近を中心とするノッチに特有であるが、本明細書に記載しているように、他の波長が選択され得る。
【0075】
[00103]表5(Table 1)は、特定の波長(例えば、約480nm)または波長範囲において固定の10%の後側反射率を維持しながら、前側を通る透過率が異なる例を提供する。この値の後側反射率は、例えば、光が上部、底部、および/または側部からレンズを照射することにより、レンズの後側に入って前側の薄膜被膜からユーザの目の中まで反射することが許容される「オープン」形式の眼鏡フレームにおいて使用され得る治療レンズの場合に望ましい場合があり得る。他の形式の眼鏡フレーム(例えば、スポーツグラス、ラップアラウンドサングラス、または他の形式のフレーム)の場合、他の量の後側反射が望ましい場合があり得る。
【表5】
【0076】
[00104]表6(Table 2)は、より大きな後側反射率が許容される別の実施形態を提供する。
これらの設計は、レンズの前側を通る光以外の光が目に入ることを防ぐ「ラップ」形式の眼鏡フレームまたはスポーツフレームの場合に、より適切であり得る。
【表6】
【0077】
[00105]他の実施形態のフィルタは、所与の後側反射率値を提供するため、ノッチの透
過率を固定することと、着色部の透過率を調整することとを含み得る。これらの実施形態の例を、次の表7(Table 3)に示す。
【表7】
【0078】
[00106]本明細書で説明するR値は、後方反射光の最大量を決定するために使用され得
る。例えば、約0.10のR値が、メラノプシン伝達経路の活動電位スペクトル、視覚スペクトル、またはその両方にわたって重み付けされた所望の後方反射光の量として使用され得る。R値は、減衰させる所望の波長に基づいているので、他の波長の光は、上記の表に従った値以下のR値を達成するように設計されたフィルタに基づいて減衰され得る。例えば、約0.10のR値をとる約480nmの波長の場合、波長約470nmまたは49
0nmの場合のR値は、0.10未満、例えば、約0.09であり得る。一般的に、R値は、所望のノッチ中心波長から離れた波長において減少する。明確にするため、本明細書の表は、R値を小数値として列記しているが、これらの値は、パーセントでも表記され得る。
【0079】
[00107]これらの例は、本開示のための適切な組み合わせを限定することは意図されて
おらず、治療効果に適切であり得るいくつかの考えられ得る組み合わせを実証するためにのみ提供される。任意数の他の組み合わせが想定され、ユーザの様々なレベルの光過敏症に、様々な病気に、様々な用途に、および、様々な種類の着色(例えば、灰色、FL-41など)に、ならびに、様々なフレーム形式に適切であり得る。
【0080】
[00108]製造における検討事項も、フィルタ設計を実施するときに考慮され得る。例え
ば、典型的には、材料の堆積は、スパッタリング、蒸着、または化学蒸着技術を使用して実現される。堆積条件は、薄膜材料の応力を最小化するために最適化され得る。多くの場合、高温熱アニーリングは、堆積された材料内の応力を緩和するため堆積後に実施され得るが、多くの場合、アニーリングは、プラスチックレンズに適用できない。眼鏡レンズは、湾曲した基材を意味するので、堆積中に一定の膜厚を達成することは困難であり得る。一定の膜厚を実現するため、堆積システム内での対象と供給源との位置関係の変更が使用され得る。プラスチックレンズの場合、低温堆積が使用され得るが、これは低応力の膜を生成するために最適化され得る。
【0081】
[00109]以下の実施例は、試験された光学フィルタ設計とその結果とを説明する。試験
ノッチ被膜は、傷防止被膜の付いたポリカーボネートまたはCR-39プラノレンズ上に生成された。Crの薄層は、薄膜の積み重ねにおける接着層として機能するように、基材上に堆積された。例示的な被膜付きレンズを通した透過スペクトルを
図18Aに示す。ノッチの中心は、約482.9nmにあり、約55.5nmの幅をもち、約24.5%の最小透過率をもつ。本実施形態のフィルタは、メラノプシン活動電位スペクトルの約58%を遮蔽し、可視スペクトルにわたって約23%を遮蔽し、約2.6のFOM値をとる。対称的に、
図18Bは、620nmのノッチフィルタを使用した、被膜付きレンズの透過スペクトルを示す。
【0082】
[00110]予備臨床試験において、偏頭痛患者は、
図18Aの治療ノッチ被膜を含む眼鏡
を装着するように依頼された。参加者は、2週間、治療レンズを装着した。試験に参加するにあたって、すべての参加者が、1か月あたり15日を超えて頭痛がすると定義される慢性頭痛を訴えた。治療レンズを装着する前と後との両方において、参加者の日常生活における頭痛の影響を評価するため、正式なアンケートであるHIT6が使用された。HIT6スコアを表形式にしたものを次の表に示す。参加者の生活の質における大幅な改善と共に、平均約6.6%の改善が見られた。
【表8】
【0083】
[00111]他の実施例において、薄膜ノッチ被膜は、FL-41着色レンズに付加された
。透過スペクトルと後側反射スペクトルとを
図19と
図20とに示す。ポリカーボネートまたはCR-39レンズ上の着色可能な傷防止層(硬い被膜とも呼ばれる)に、様々なレベルのFL-41着色が付加された。次に、各レンズの前側に多層ノッチフィルタが付加され、各レンズの後側に従来の反射防止被膜が付加された。
図19と
図20とからわかるように、FL-41着色は、後側反射を著しく低減させた。しかし、透過率において、ノッチ応答は、480nm付近におけるFL-41着色の傾きに起因して、赤方偏移される。この偏移は、わずかに青方偏移されたノッチ設計をはじめとして、補償され得る。
【0084】
[00112]次の表は、メラノプシンスペクトルと視覚応答スペクトルとにわたる遮蔽レベ
ルと、各着色レベルに対するFOM値とを列記する。BPIの「サングレー(sun gray)」などの灰色の着色などの他の着色を使用することにより、同様の結果が予想され得る。
【表9】
【0085】
[00113]本明細書で説明する被膜は、他の技術とも組み合わされ得る。例えば、フィル
タ被膜が着色レンズに付加され得るか、光互変性材料が組み込まれ得るか、偏光技術が含まれ得るか、他の技術が組み合わされ得るか、または、その組み合わせであり得る。加えて、多層薄膜被膜に重ねてナノ粒子フィルタ被膜を付加することなど、フィルタ技術の組み合わせが使用され得る。電気光学ポリマー、液晶、または他の電気光学材料を含む電気光学材料、PZTなどの圧電セラミック、または他の圧電材料を含む圧電材料、などの作用物質が使用され得る。
【0086】
[00114]
図21は、羞明反応の頻度および/または程度を低減する光学フィルタを製造
する方法2100の例示的な実施形態を示す。方法2100は、本明細書で説明する少なくとも一実施形態のフィルタを設計するために使用され得る。方法2100は、ステップ2102に示すように、適切な光スペクトルを決定するステップを含み得る。適切な光スペクトルを決定するステップは、職場環境、店舗環境、もしくは家庭環境における屋内の蛍光灯による照明および/もしくはコンピュータスクリーン、または、通常の屋外活動またはスポーツ活動に起因して受ける日光など屋外における照明などの状況における、分光光度測定値を取得することなど特定の照明状態の検討を含み得る。ステップ2104に示すように、メラノプシン細胞が受ける光量が(例えば、式(1)を使用して)決定され得る。ステップ2106に示すように、視覚応答スペクトルにわたって受ける光量が(例えば、式(2)を使用して)決定され得る。ステップ2108に示すように、第1の光量と第2の光量とを使用して、光学フィルタが設計および製造され得る。第1の光量と第2の光量とは、本明細書に記載されるように性能指数(FOM)を決定するために使用され得る。他の実施形態において、可視スペクトルの1つまたは複数の部分に関して、視覚応答スペクトルにわたる光量が考慮され得る。例えば、視覚応答スペクトルの全体より大きな範囲または小さな範囲が使用され得る。
【0087】
[00115]
図22は、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または、概日周期
を調節する方法2200の例示的な実施形態を示す。方法2200は、本明細書で説明する少なくとも一実施形態のフィルタに関連して使用され得る。方法2200は、ステップ2202に示すように、何らかの光量を受けるステップを含み得る。受ける光は、1つまたは複数の光源からの直接的または間接的な光を含み得る。ステップ2204に示すように、メラノプシン細胞の活動電位スペクトルにわたって重み付けされた第1の光量未満の光が透過され得る。ステップ2206に示すように、視覚光スペクトルにわたって重み付けされた第2の光量が透過され得る。ステップ2208に示すように、第1の光量と第2の光量とを使用して、光学フィルタが製造され得る。第1の光量と第2の光量とは、本明細書に記載しているように性能指数(FOM)を決定するために使用され得る。他の実施形態において、視覚応答スペクトルにわたる光量は、低減または分離され得る。例えば、視覚応答スペクトルの全体より大きな範囲または小さな範囲が使用され得る。
【0088】
[00116]480nm付近の光へのメラノプシン神経節細胞の暴露を調整することに加え
て、波長約620nmの光の減衰は、光過敏症に関係した症状を軽減することにおいても改善をもたらし得ることが臨床試験により実証された。約620nmにおける光の波長は、メラノプシン神経節細胞に作用するとは考えられないが、約620nmにおける光の減衰が、光に応答した痛みまたは不快さ、ならびに、偏頭痛と他の頭痛との頻度および/または程度など、一部の人における光過敏症の症状を軽減することと、眼瞼痙攣、脳振盪後/TBI症候群、睡眠障害、てんかんの治療において、一部の人にも効果をもたらし得ることとが実証された。
【0089】
[00117]一実施形態において、約580nmから約650nmの間の光を減衰させるこ
とにより改善が実現され得る。他の実施形態において、約600nmから約640nmの間の光を減衰させることにより改善が実現され得る。さらなる他の実施形態において、半値全幅を約55nmとした実質的に波長620nmを中心とするフィルタを使用して光を減衰させることにより改善が実現され得る。
【0090】
[00118]さらに、フィルタは、複数の範囲における光の波長を減衰させ得る。例えば、
一実施形態のフィルタは、約480nmにおいて光を減衰させることに加えて、約620nmにおいて光を減衰させ得る。他の一実施形態において、フィルタは、約450nmから約510nmまでの、および、約580nmから約640nmまでの光の波長を優先的
に減衰させ得る。さらなる他の実施形態において、フィルタは、約470から約490の間、および、約610nmから約630nmの間の光を減衰させ得る。
【0091】
[00119]光学フィルタは、前述のプロセスに従って、および前述の材料を使用して製造
され得る。例えば、620nmの光学フィルタは、高域通過フィルタ、低域通過フィルタ、または光学ノッチフィルタを含み得る。光学ノッチフィルタは、誘電体材料、母材に分散または埋設されたナノ粒子、またはそれらの組み合わせの、複数の層を含み得る。加えて、前述の組み合わせのいずれかが、基材に組み込まれる染料に関連して使用され得る。例えば、ショートパスフィルタまたはノッチフィルタを生成することは、高屈折率材料と低屈折率材料との交互に配置した層を使用することを含み得る。例示的な低屈折率誘電体材料は、MgF2とおよびSiO2を含む。例示的な高屈折率材料は、TiO2、Ti3O5、ZrO2、およびTa2O5などの金属酸化物、ならびにSi3N4を含む。ポリマー層を含む多くの他の適切な材料が使用され得る。
【0092】
[00120]メラノプシン神経節細胞により吸収される波長を減衰させることが意図される
前述の実施形態と同様に、約620nmの波長を減衰させるように設計された光学フィルタは、同様のFOMに従って製造され得る。約620nmにおいて受ける光量Dは、次式のように表記され得る。
Drec,620=∫L(λ)T(λ)R620(λ)dλ (12)
式中、Lは、(強度、出力、光子/秒などに関する)光スペクトルであり、Tは、光源と目との間にあるフィルタのスペクトル透過率であり、R620は、620nmを中心とした、半値全幅を50、55または60nmとするガウス関数と推定され得る、約620nmにおける理想的な応答スペクトルであるが、他の値が想定され、治療に効果があることを示し得る。一般化するため、説明をいずれかの特定の光源に限定しないように、L=1と仮定するが、スペクトルの知られたあらゆる光源に対して分析が実施され得る。
【0093】
[00121]視覚応答スペクトルに関係して、同様の光量が計算され得る。
Dvis=∫L(λ)T(λ)V(λ)dλ (13)
式中、Vは、正規化された視覚応答スペクトルを表す。
【0094】
[00122]ナノ粒子ノッチフィルタなどの光学フィルタの効果は、例えば、次式のように
、フィルタを使用しない場合の光量に対する、フィルタを使用して計算された光量の比をとることにより、説明したように光量を低減することである。
【数10】
【0095】
[00123]光量の「減衰」は、例えば、次式のように表記され得る。
【数11】
【0096】
[00124]約620nmにおける光の遮蔽を視覚応答スペクトルの遮蔽と比較するFOM
も定義され得る。
【数12】
この式は、可視スペクトルにわたる光の減衰に対する約620nmにおける光の減衰の比を表し、式中、FOM値>1であることが望ましい場合があり得る。約620nmにおける視覚応答を推定するため前述の方法を使用するとき、より小さな半値全幅値が使用されると、比較がより厳密になる。例えば、推定に使用されるガウス分布であるR(λ)が50nmの半値全幅をもつとき、60nmの半値全幅をもつR(λ)を推定が含む場合に比べて、具体的な光学フィルタを記述する。
【0097】
[00125]光学フィルタは、メラノプシン細胞が感受性をもつ光の減衰に対して説明され
たものと同様の多層誘電体膜を含み得るか、または、光学フィルタは、ナノ粒子ベースの光学フィルタ、色フィルタ、着色、共振導波モードフィルタ、ルゲートフィルタ、またはそれらのあらゆる組み合わせを含み得る。ナノ粒子ベースの光学ノッチフィルタは、母材の表面に分散された、または母材に埋設されたナノ粒子を含み得る。したがって、このようなフィルタは、眼鏡のレンズ材料などの実質的に透明な母材において使用され得るか、または、その表面に単に付加され得る。例えば、フィルタは、眼鏡レンズの表面に配置されて、ユーザの目に近づく光を減衰させ得る。他の用途において、フィルタは、光源、例えば、コンピュータスクリーンなどの電子表示装置上、または、電球または窓などの光源上に直接配置され得る。
【0098】
[00126]ナノ粒子ベースのノッチフィルタによる光の減衰は、ナノ粒子の形状と、母材
上の、または母材内に埋設されたナノ粒子の量または密度と、ナノ粒子の組成物と、ナノ粒子の寸法と、母材の屈折率とにより調整され得る。したがって、ナノ粒子ベースの光学ノッチフィルタの減衰スペクトルは、曲線の中心を所望の波長にすることと、所望の波長値で最大減衰量となり、適切な形状と半値全幅とをもつ減衰曲線を生成することとをもたらす材料と分布とを選択することにより、特定の曲線に調整され得る。
【0099】
[00127]例えば、ナノ粒子の母材の屈折率を増加させることは、固体粒子とコアシェル
粒子とを含む、より長い粒子寸法を使用した場合および/または他の金属を使用した場合と同様に、より長い波長に向けて減衰スペクトルを偏移させ得る。減衰は、少なくとも部分的に、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:localized surface plasmonic resonance)に起因するので、減衰スペクトルが変化する。LSPRに起因した散乱は、母材の相対屈折率に比例する。したがって、母材の屈折率が増加したき、減衰スペクトルが赤方偏移するだけでなく、同様に、散乱量と、その結果として光の減衰量とが増加する。
【0100】
[00128]LSPRに起因した散乱の位置と量とは、少なくとも部分的に、粒子と母材と
の間の相対屈折率に依存する。したがって、相対屈折率は、ナノ粒子の組成を変えることによっても変更され得る。ナノ粒子は、単一の材料からなる固体か、または、第1の材料のコアと第2の材料のシェルとを含むコアシェル構成であり得る。いずれの場合も、材料は、単一元素、化合物、または合金であり得る。前述の通り、ナノ粒子は、金属ナノ粒子(例えば、Al、Ag、Au、Cu、Ni、Pt)、誘電体ナノ粒子(例えば、TiO2、Ta2O5など)、半導体ナノ粒子または量子ドット(例えば、Si、GaAs、GaN、CdSe、CdSなど)、磁気ナノ粒子、コアにおける1つの材料とシェルとして機能する他の材料とからなるコアシェル粒子、他のナノ粒子、またはその組み合わせを含み得る。例えば、Ag/Al合金固体ナノ粒子におけるAgの比率を増加させることは、そのナノ粒子に対する減衰曲線の振幅を増加させると共に、赤方偏移させ得る。
【0101】
[00129]加えて、使用されるナノ粒子は、円、楕円、長方形、六角形、八角形、または
他の多角形を含む断面をもち得る。球形粒子は、寸法変更と組成変更とを使用して最適化を可能にする単一の狭い主ピークをもつので、最も明確なスペクトルをもつ。しかし、所望のフィルタスペクトルを形成するため他形状の粒子の組み合わせを使用することが可能である。例えば、同等寸法の立方体ナノ粒子または八面体ナノ粒子を導入するだけで、40nmの球形ナノ粒子フィルタの消衰スペクトルを広げ得る。
【0102】
[00130]対照的に、コアシェルナノ粒子の減衰曲線は、コアとシェルとの相対的な厚さ
を変更することにより調整され得る。例えば、SiO2コアの寸法に対するAgシェルの厚さを減らすことは、減衰スペクトルの半値全幅を低減し得る。これらの粒子の形状は、球形、楕円体、別の形、またはその組み合わせであり得る。粒子の形状は、減衰曲線の形状と振幅とにも影響し得る。一実施形態において、光学フィルタは、球形のコアシェルナノ粒子を含む。別の実施形態において、球形のコアシェルナノ粒子は、AgシェルとSiコアとを含む。さらなる別の実施形態において、球形のAg/Siコアシェルナノ粒子は、半径方向の厚さ45nmのAgシェルと半径15nmのSiコアとを含む。
【0103】
[00131]
図23は、複合フィルタ2300を形成する多層薄膜フィルタに関連して使用
されるナノ粒子ベースの光学フィルタを示す。第1のフィルタは、第1の波長範囲において光を減衰させ得、それにより、第2のフィルタに入る光スペクトルにおいて、それらの波長を実質的に低減または除去する。図示した実施形態において、環境光2302は、薄膜フィルタ2308の表面上に配置された母材2306上に配置され得る、または母材2306内に埋設され得るナノ粒子2304を含むフィルタに入り得る。代替的に、または、それに加えて、薄膜フィルタとナノ粒子ベースのフィルタとは、眼鏡のレンズなどの、基材の両面に配置され得る。他の一実施形態において、ナノ粒子は、薄膜フィルタ内に埋設され得、薄膜の1つまたは複数の層は、ナノ粒子ベースのフィルタのための母材であり得る。ナノ粒子2304が埋設された母材2306に入る環境光2302は、日光であり得る。薄膜フィルタ2308に入る減衰された光2310は、ナノ粒子2304により減衰される範囲において低減された光量を含み得る。複合フィルタ2300を出るフィルタ後の光2312は、2つの波長範囲において減衰され得る。同様に、「2ノッチ」フィルタは、多層薄膜被膜の使用により全体が実装され得る。
【0104】
[00132]
図24は、羞明反応の頻度および/または程度を低減する複合光学フィルタを
製造する方法2400の一実施形態を示す。方法2400は、本明細書で説明する少なくとも1つの実施形態の複合フィルタを設計するために使用され得る。方法2400は、ステップ2402に示すように、適切な光スペクトルを決定するステップを含み得る。適切な光スペクトルを決定するステップは、職場環境、店舗環境、もしくは家庭環境における屋内の蛍光灯による照明および/もしくはコンピュータスクリーン、または、通常の屋外活動またはスポーツ活動に起因して受ける日光など屋外における照明などの状況において、分光光度測定値を取得することなど特定の照明状態の検討を含み得る。
【0105】
[00133]ステップ2404に示すように、被術者が受ける第1の光量が、(例えば、式
(1)を使用して)決定され得る。ステップ2406に示すように、約620nmの波長において人の目が受ける第2の光量が、(例えば、式(12)を使用して)推定され得る。ステップ2408に示すように、視覚応答スペクトルにわたって受ける第3の光量が、(例えば、式(13)を使用して)決定され得る。ステップ2410に示すように、第1の光量と第2の光量と第3の光量とを使用して、光学フィルタが設計および製造され得る。本明細書に記載しているように、それぞれの性能指数(FOM)を決定するため、第1の光量と第2の光量との各々が第3の光量と共に使用され得る。他の実施形態において、可視スペクトルの1つまたは複数の部分に対して、視覚応答スペクトルにわたる光量が考慮され得る。例えば、視覚応答スペクトルの全体より大きな範囲または小さな範囲が使用され得る。
【0106】
[00134]
図25は、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を
調節する複合フィルタを使用する方法2500の一実施形態を示す。方法2500は、本明細書で説明する少なくとも1つの実施形態の複合フィルタに関連して使用され得る。方法2500は、ステップ2502に示すように、何らかの光量を受けるステップを含み得る。受ける光は、1つまたは複数の光源からの直接的または間接的な光を含み得る。ステップ2504に示すように、メラノプシン細胞の活動電位スペクトルにわたって優先的に減衰された第1の光量が透過され得る。ステップ2506に示すように、約620nmにおける波長範囲において優先的に減衰された第2の光量が透過され得る。ステップ2508に示すように、その後、第3の光量が、人の目に透過される。他の実施形態において、視覚応答スペクトルにわたる光量が低減または分離され得る。例えば、視覚応答スペクトルの全体より大きな範囲または小さな範囲が使用され得る。
【0107】
[00135]約480nmと620nmとの付近の光を減衰させることの利点を立証する有
効性試験が実施された。予備試験は、慢性偏頭痛の治療におけるカスタマイズされた薄膜眼鏡被膜の有効性を判定する、予測される2重マスクの交差臨床試験を含んだ。被術者は、試験中、2つの異なる眼鏡を装着した。一方の被膜は、480nmにおけるノッチフィルタである。他方の被膜は、620nmにおけるノッチフィルタであった。この試験で使用された様々な被膜を含む灰色の着色レンズの典型的な透過スペクトルを、
図23Aと
図23Bとに示す。示される480nmのノッチフィルタが、メラノプシンによる光吸収の約68%を遮蔽し、可視光の42%を遮蔽する。示される620nmのノッチフィルタが、約55nmの幅をもつ620nmを中心とする光吸収の約66%を遮蔽し、可視光の約42%を遮蔽する。試験で使用した480nmフィルタは、約480nmにおける平均68±6%の遮蔽と、平均44±4%の可視遮蔽とを行う。試験で使用した620nmフィルタは、約620nmにおける平均67±2%の遮蔽と、平均43±4%の可視遮蔽とを行う。被術者と臨床コーディネーターとのいずれも、どのレンズが480nmのノッチフィルタを含むのかと、どれが620nmのノッチフィルタを含むのかと、については知らされなかった。試験における被術者は、慢性偏頭痛の診断を受けなければならず、このことは、被術者が、1か月あたり頭痛のする日が少なくとも15日であることを意味する。1か月あたり頭痛のする日が少なくとも15日である人は、最も深刻な症状の偏頭痛患者であると考えられる。
【0108】
[00136]介入の有効性を評価するため、主要評価項目測定基準として、6個の質問によ
る「頭痛インパクトテスト」(「HIT(Headache Impact Test)-6」)が選択された。HIT-6は、人の生活における頭痛の影響を評価するために設計および検証された6個の質問による手段である。スコアは、最小36から最大78までの範囲にある連続的な変量である。50未満のスコアは、頭痛が人の生活にほとんど影響を与えないことを表し、50~55のスコアは、「ある程度の影響」を表し、56~59のスコアは、「かなりの影響」を表し、60を上回るスコアは、頭痛の「非常に深刻な影響」に該当する。
【0109】
[00137]被術者は、まず、試験レンズを装着しない4週間の「事前浄化」を行った。こ
の期間は、その被術者の頭痛の基準特性を決めるのに役立った。被術者は、まず、どのレンズを装着するか、ブロック無作為化を使用して無作為に決められた。被術者は、2週間にわたって終日、眼鏡を装着するように指示を受けた。その後、被術者は、試験レンズが装着されない2週間の「浄化」期間を経験した。その後、被術者は、さらに2週間にわた
って別のレンズを装着した。最後に、被術者は、頭痛特性に対する出口の「最終地点」を決める、試験レンズが装着されない最後の「事後浄化」期間を経験した。
【0110】
[00138]頭痛の頻度と程度とにおいて、かなりの量のばらつきがある。場合によっては
、このばらつきは、同じ患者においても発生し得る。ばらつきに起因して、「事前浄化」期間と「事後浄化」期間とが追加された。試験レンズが装着されないこれらの追加的な期間は、試験の被術者における「基準変動」の影響を最小化した。
【0111】
[00139]HIT-6アンケートが、試験前と試験の各期間の後とに実施された結果、被
術者ごとに6つのアンケートが実施された。試験には、まず、48人の参加者が参加し、37人の参加者が一連の試験をやり遂げた。試験をやり遂げた37人の被術者の基準HIT-6スコアは、64.5であった。37人の被術者のうち33人(89%)が、60以上の基準HIT-6スコアを取得した。HIT-6の解釈によると、これらの33人の被術者は、被術者の生活に「非常に深刻な影響」を与える頭痛を患っている。480nmと620nmとの両方のフィルタレンズが、統計的にHIT-6値におけるかなりの低減を示した。
【0112】
[00140]試験をやり遂げた37人の参加者のうち、9人の被術者が、480nmレンズ
を装着している間に、「非常に深刻な影響」というHIT-6のカテゴリから抜けることができ、5人の被術者が、620nmレンズを装着して、このカテゴリから抜けることができ、5人の被術者が、これらのレンズのいずれかを装着して、このカテゴリから抜けることができた。10人の被術者が、480nmレンズを装着したとき、HIT-6において少なくとも6ポイントの改善を経験し、10人の被術者が、620nmレンズを装着したとき、HIT-6において少なくとも6ポイントの改善を経験し、3人の被術者が、これらのレンズのいずれかを装着したとき、HIT-6において少なくとも6ポイントの改善を経験した。この分析は、480nmと620nmとのいずれかの眼鏡レンズを装着することが、HIT-6において統計的にかなりの低減をもたらしたことを示す。しかし、480nmレンズの効果を620nmレンズと比較すると、実質的な差はなかった(p=0.195)。
【0113】
[00141]深刻な頭痛を患った日の割合と、活動が変更される必要のあった、または、被
術者が寝る必要のあった日の割合と、頓挫薬を必要とする日の割合とを含む、日誌から収集された副次評価項目は、480nmと620nmとのいずれかの眼鏡レンズに対する主要評価項目と同様の振る舞いを見せた。すなわち、被術者は、480nmと620nmとのいずれかのレンズを装着して、これらのパラメータにおいてかなりの低減を経験した。これら3評価項目のいずれの場合も、480nmレンズの効果を620nmレンズと比較すると、実質的な差はなかった。
【0114】
[00142]メラノプシン神経節細胞のメラノプシンは、双安定色素である。メラノプシン
は、特定の波長の光への暴露中、異性化され得る。
図27は、色素が異なる波長の光に対して暴露されたときの、双安定色素の循環的な異性化を概略的に示すグラフ2700である。双安定色素は、第1の吸収スペクトル2702を示す第1のアイソフォームを含み得る。第1の吸収スペクトルは、第1の波長2704を吸収する。双安定色素の第1のアイソフォームは、第1の波長2704と反応し得る。第1の波長2704は、双安定色素を異性化させ得、関連する細胞または膜における光情報伝達カスケードを誘発し得る。一実施形態において、双安定色素は、メラノプシンであり得、第1の波長2704への暴露は、メラノプシン神経節細胞における光情報伝達カスケードを誘発し得る。第1の波長への暴露は、双安定色素を第1のアイソフォームから第2のアイソフォームに異性化させ得る。第1のアイソフォームは、メラノプシンの活性11-cisアイソフォームであり得る。第2のアイソフォームは、不活性メタメラノプシンアイソフォームであり得る。活性11-cisアイソフォームの異性化は、光情報伝達カスケードをもたらし得る。
【0115】
[00143]第2のアイソフォームは、第2の吸収スペクトル2706を示し得る。第2の
吸収スペクトル2706は、第2の波長2708を吸収し得る。双安定色素の第2のアイソフォームは、第2の波長2708と反応し得る。一実施形態において、第1のアイソフォームが、双安定色素の活性アイソフォームであり得、第2のアイソフォームが、双安定色素の不活性アイソフォームであり得る。他の実施形態において、第1のアイソフォームが、双安定色素の不活性アイソフォームであり得、第2のアイソフォームが、双安定色素の活性アイソフォームであり得る。さらなる他の実施形態において、第1のアイソフォームが、メラノプシンの活性アイソフォームであり得、第2のアイソフォームが、メラノプシンの不活性アイソフォームであり得る。
【0116】
[00144]
図28は、メラノプシンの活性吸収スペクトル2802と不活性吸収スペクト
ル2804とのグラフ2800を示す。活性吸収スペクトル2802と不活性吸収スペクトル2804とが、メラノプシンの活性アイソフォームとメラノプシンの不活性アイソフォームとに、それぞれ、対応する。「活性」と「不活性」とは、色素の生理活性を指し、光を吸収する色素の能力というよりは、人の羞明反応に寄与する色素の能力と理解されなければならない。活性吸収スペクトル2802は、約484nmにおいて最大値をとり得る。不活性吸収スペクトル2804は、約587nmにおいて最大値をとり得る。
【0117】
[00145]メラノプシンの不活性アイソフォームは、不活性吸収スペクトル2804に従
った光の波長を吸収し得る。メラノプシンの不活性アイソフォームにより吸収される光は、活性形態のメラノプシンへの不活性アイソフォームの変換に寄与し得る。活性形態のメラノプシンは、人の羞明反応に寄与し得る。少なくとも1つの実施形態において、不活性アイソフォームにより吸収される光の減衰は、メラノプシンの異性化を妨害し、光に応答した痛みまたは不快さ、ならびに偏頭痛と他の頭痛との頻度および/または程度など、一部の人における光過敏症の症状を軽減し得、さらに、眼瞼痙攣、脳振盪後/TBI症候群、睡眠障害、てんかんの治療において、一部の人に効果をもたらし得る。
【0118】
[00146]480nmおよび/または620nm付近の光へのメラノプシン神経節細胞の
暴露を調整することに加えて、メラノプシンの不活性アイソフォームの場合における不活性吸収スペクトルの吸収最大値における光の減衰は、光過敏症に関係した症状を軽減することにおいても改善をもたらし得る。例えば、約590nmの波長を中心とする光学フィルタは、メラノプシンの不活性アイソフォームにより吸収される光を減衰させ得る
【0119】
[00147]一実施形態において、約560nmから約620nmの間の光を減衰させるこ
とにより改善が実現され得る。他の一実施形態において、約570nmから約610nmの間の光を減衰させることにより改善が実現され得る。さらなる他の一実施形態において、半値全幅を約50nmとした実質的に波長590nmを中心とするフィルタを使用して光を減衰させることにより改善が実現され得る。
【0120】
[00148]さらに、フィルタは、複数の範囲における光の波長を減衰させ得る。例えば、
一実施形態のフィルタは、メラノプシンの不活性アイソフォームにより吸収される光と、メラノプシンの活性アイソフォームにより吸収される光とを減衰させ得る。一実施形態において、フィルタは、約480nmにおいて光を減衰させることに加えて、約590nmにおいて光を減衰させ得る。他の一実施形態において、フィルタは、約450nmから約510nmまでと、約560nmから約620nmまでとの光の波長を優先的に減衰させ得る。さらなる他の一実施形態において、フィルタは、約470から約490の間と、約580nmから約600nmの間との光を減衰させ得る。
【0121】
[00149]前述の480nmフィルタと620nmフィルタと同様に、590nmの光を
減衰させることができる光学フィルタは、高域通過フィルタ、低域通過フィルタ、光学ノッチフィルタ、またはその組み合わせを含み得る。光学ノッチフィルタは、複数の層の誘電体材料、母材に分散または埋設されたナノ粒子、またはそれらの組み合わせを含み得る。加えて、前述の組み合わせのいずれかが、基材に組み込まれる染料に関連して使用され得る。例えば、ショートパスフィルタまたはノッチフィルタを生成することは、高屈折率材料と低屈折率材料との交互に配置した層を使用すること含み得る。例示的な低屈折率誘電体材料は、MgF2およびSiO2を含む。例示的な高屈折率材料は、TiO2、Ti3O5、ZrO2、およびTa2O5などの金属酸化物、ならびにSi3N4を含む。ポリマー層を含む多くの他の適切な材料が使用され得る。
【0122】
[00150]前述の、メラノプシンの活性アイソフォームにより吸収される波長を減衰させ
ることが意図される実施形態と同様に、約590nmの波長を減衰させるように設計された光学フィルタは、同様のFOMに従って製造され得る。約590nmにおいて受ける光量Dは、次式のように表記され得る。
Drec,590=∫L(λ)T(λ)R590(λ)dλ (15)
式中、Lは、(強度、出力、光子/秒などに関する)光スペクトルであり、Tは、光源と目との間にあるフィルタのスペクトル透過率であり、R590は、590nmを中心とした、半値全幅を50、55、または60nmとするガウス関数と推定され得る、約590nmにおける理想的な応答スペクトルであるが、他の値が想定され、治療に効果があることを示し得る。一般化するため、説明をいずれかの特定の光源に限定しないようにL=1と仮定するが、スペクトルの知られたあらゆる光源に対して分析が実施され得る。
【0123】
[00151]視覚応答スペクトルに関係して同様の光量が計算され得る。
Dvis=∫L(λ)T(λ)V(λ)dλ (16)
式中、Vは、正規化された視覚応答スペクトルを表す。
【0124】
[00152]ナノ粒子ノッチフィルタなどの光学フィルタの効果は、例えば、次式のように
、フィルタを使用しない場合の光量に対する、フィルタを使用して計算された光量の比をとることにより説明されるように、光量を低減することである。
【数13】
【0125】
[00153]光量の「減衰」は、例えば、次式のように表記され得る。
【数14】
【0126】
[00154]約590nmにおける光の遮蔽を視覚応答スペクトルの遮蔽と比較するFOM
も、次式のように定義され得る。
【数15】
この式は、可視スペクトルにわたる光の減衰に対する、約590nmにおける光の減衰の比を表し、式中、FOM値>1であることが望ましい場合があり得る。約590nmにおける視覚応答を推定する前述の方法を使用すると、より小さな半値全幅値が使用されるほど、比較がより厳密になる。例えば、推定に使用されるガウス分布であるR(λ)が50nmの半値全幅をもつとき、60nmの半値全幅をもつR(λ)を推定が含む場合に比べて、より具体的な光学フィルタを説明する。
【0127】
[00155]
図29は、羞明反応に関係した症状を軽減する方法2900を示す。方法29
00は、光を受けるステップ2902と、第1の波長を減衰させるステップ2904と、任意選択的に、第2の波長を減衰させるステップ2906とを含む。続いて、第1の波長の減衰は、
図27を参照して説明される双安定色素循環を妨害し得る(ステップ2908)。一実施形態において、第1の波長は、双安定色素の活性吸収スペクトルまたは不活性吸収スペクトルの最大値により決定され得る。他の一実施形態において、第1の波長は、
図28を参照して説明されるメラノプシンの活性吸収スペクトル2802の最大値、または、不活性吸収スペクトル2804の最大値により決定され得る。さらなる他の一実施形態において、第1の波長は、480nmであり得る。別の実施形態において、第1の波長は、590nmであり得る。
【0128】
[00156]波長を減衰させることは、可視スペクトルの他の部分に比べて、その波長また
はその波長を含む範囲を優先的に減衰させることを意味すると理解されなければならない。例えば、波長590nmを減衰させることは、可視スペクトルにおける他の光より、波長590nmまたは約590nmにおいて、より少ない光を透過させることを含み得る。他の例において、波長590nmを減衰させることは、波長590nmまたは約590nmにおける光の実質的にすべてを遮蔽することと、可視スペクトルにおける他の光を透過させることとを含み得る。
【0129】
[00157]第2の波長2906を減衰させることは、減衰される第1の波長とは異なる第
2の波長の一部を減衰させることを含み得る。一実施形態において、第2の波長は、双安定色素の活性吸収スペクトルまたは不活性吸収スペクトルの最大値により決定され得る。他の一実施形態において、第1の波長は、
図28に関連して説明されるメラノプシンの活性吸収スペクトル2802の最大値、またはメラノプシンの不活性吸収スペクトル2804の最大値により決定され得る。さらなる他の一実施形態において、第1の波長は、480nmであり得る。別の実施形態において、第1の波長は、590nmであり得る。
【0130】
[00158]第1の波長2904を減衰させることと、任意選択的に、第2の波長2906
を減衰させることとは、双安定色素循環を妨害し得る。第1の波長2904を減衰させることは、第1のアイソフォームから第2のアイソフォームへの双安定色素の異性化を抑制し得る。第1のアイソフォームは、活性アイソフォームまたは不活性アイソフォームであり得る。第2の波長2906を減衰させることは、第2のアイソフォームから第1のアイソフォームに戻る双安定色素の異性化を抑制し得る。
【0131】
[00159]波長590nmまたは約590nmの光を減衰させることができる光学フィル
タは、低域通過フィルタ、高域通過フィルタ、または光学ノッチフィルタが590nmの光を優先的に減衰させるように、前述のいずれかのプロセスにより製造および/または調整され得る。フィルタは、多層誘電体、ナノ粒子埋設被膜、色フィルタ、着色、共振導波モードフィルタ、ルゲートフィルタ、およびそれらのあらゆる組み合わせを含み得る。フィルタは、金属ナノ粒子、誘電体ナノ粒子、半導体ナノ粒子、量子ドット、磁気ナノ粒子、または、コアにおけるコア材料とシェルとして機能するシェル材料とを有するコアシェル粒子、などのナノ粒子埋設被膜をさらに含み得る。
【0132】
[00160]本明細書で使用する「約(approximately)」、「約(abou
t)」、「付近(near)」、および「実質的に(substantially)」という用語は、依然として所望の機能を果たす、または所望の結果を達成する、記述された量に近い量を表す。例えば、「約(approximately)」「約(about)」、および「実質的に(substantially)」という用語は、記述された量の10%未満、5%未満、1%未満、0.1%未満、および0.01%未満の範囲の量を表し得る。
【0133】
[00161]上記の実施形態との関連において本発明が説明されるが、これらの説明は、記
載される特定の形態に本発明の範囲を限定することは意図されず、むしろ、これらの説明は、本発明の範囲内に含まれ得るような代替例、変形例、および等価なものを対象に含むことが意図されることに注意されたい。上記の実施形態のあらゆる構成要素が、上記の実施形態のいずれかの他の構成要素と組み合わされ得る。例えば、上記のあらゆる製造方法または光減衰方法が、説明される光学フィルタと関連する波長とに組み合わされ得る。そのため、本発明の範囲は、当業者に明らかとなり得る他の実施形態を完全に包含し、本発明の範囲は、付属の請求項のみにより限定される。
【手続補正書】
【提出日】2021-11-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜におけるメラノプシン神経節細胞の光への暴露を制御することにより、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節する装置であって、複合光学フィルタを備えており、前記複合光学フィルタは、
中心波長590nmおよび半値全幅50nmを有するガウス関数にわたって平均された光を透過させるように構成され、中心波長590nmを有する前記ガウス関数にわたる前記透過光が、被術者のメラノプシン神経節細胞により受ける光量(D
rec,590)であり、
中心波長480nmおよび半値全幅52nmを有するガウス関数にわたって平均された光を透過させるように構成され、中心波長480nmを有する前記ガウス関数にわたる前記透過光が、視覚応答スペクトルにわたって受ける光量(D
vis)であり、
中心波長590nmを有する前記ガウス関数にわたって平均された前記光と中心波長480nmを有する前記ガウス関数にわたって平均された前記光とを含む比が、前記光学フィルタの性能指数(FOM:figure of merit)として定義され、
前記性能指数が、
【数1】
により決定され、
式中、D
rec,590(T=1)が、光学フィルタがない場合の中心波長590nmを有する前記ガウス関数にわたる光であり、D
vis(T=1)が、光学フィルタがない場合の中心波長480nmを有する前記ガウス関数にわたる光であり、前記光学フィルタの性能指数が少なくとも1.3である、
装置。
【請求項2】
前記光学フィルタが、多層誘電体被膜、ナノ粒子埋設被膜、色フィルタ、着色、共振導波モードフィルタ、ルゲートフィルタ、またはそれらのあらゆる組み合わせの少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ナノ粒子埋設被膜が、金属ナノ粒子、誘電体ナノ粒子、半導体ナノ粒子、量子ドット、磁気ナノ粒子、またはコアにおけるコア材料とシェルとして機能するシェル材料とを有するコアシェル粒子の少なくとも1つを含む、
請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子が、Al、Ag、Au、Cu、Ni、Pt、または他の金属ナノ粒子の少なくとも1つを含み、
前記誘電体ナノ粒子が、TiO2、Ta2O5、または他の誘電体ナノ粒子の少なくとも1つを含む、
請求項3に記載の装置。
【請求項5】
可視スペクトル範囲400nmから700nmに関して、網膜における細胞の暴露を制御することにより、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節する装置であって、光学フィルタを備えており、前記光学フィルタは、
560nmと620nmとの間の第1の波長範囲にわたって平均された光を透過させるように構成され、前記第1の波長範囲にわたる透過光が、被術者の受容細胞により受ける光量(D
rec,590)であり、
450nmと510nmとの間の第2の波長範囲にわたって平均された光を透過させるように構成され、前記第2の波長範囲にわたる透過光が、被術者の受容細胞により受ける光量(D
melan)であり、
450nmより小さい、510nmと560nmとの間、および620nmより大きい可視スペクトル内の第3の波長範囲にわたって平均された光を透過させるように構成され、前記第3の波長範囲にわたる透過光が、前記可視スペクトルにわたって受ける光量(D
vis)であり、
前記第1の波長範囲にわたる光と前記第3の波長範囲にわたる光とを含む比が、前記光学フィルタの性能指数(FOM:figure of merit)として定義され、
前記性能指数が、
【数2】
により決定され、
式中、D
rec,590(T=1)が、光学フィルタがない場合の前記第1の波長範囲にわたる光であり、D
vis(T=1)が、光学フィルタがない場合の前記第3の波長範囲にわたる光であり、前記性能指数が少なくとも1.3であり、
前記第2の波長範囲にわたる光と前記第3の波長範囲にわたる光とを含む比が、前記光学フィルタの性能指数(FOM)として定義され、
前記性能指数が、
【数3】
により決定され、
式中、D
melan(T=1)が、光学フィルタがない場合の前記第2の波長範囲にわたる光であり、D
vis(T=1)が、光学フィルタがない場合の前記第3の波長範囲にわたる光であり、前記性能指数が少なくとも1.3である、
装置。
【請求項6】
可視スペクトル範囲400nmから700nmに関して、網膜におけるメラノプシン神経節細胞の光への暴露を制御することにより、羞明反応の頻度および/または程度を低減する装置であって、光学フィルタを備えており、前記光学フィルタは、
560nmと620nmとの間の波長にわたって平均され、値T
rec,590よりも小さい光透過率と、
560nmより小さく、620nmより大きい可視スペクトル内の波長にわたって平均され、値T
visよりも大きい光透過率と、
を有し、
それぞれの前記光透過率を含む比が、前記光学フィルタの性能指数(FOM:figure of merit)として定義され、
前記性能指数が、
【数4】
により決定され、
前記光学フィルタの性能指数が少なくとも1.6である、
装置。
【請求項7】
可視スペクトル範囲400nmから700nmに関して、網膜におけるメラノプシン神経節細胞の光への暴露を制御することにより、羞明反応の頻度および/または程度を低減する装置であって、光学フィルタを備えており、前記光学フィルタは、
450nmと510nmとの間の波長にわたって平均され、値T
melanよりも小さい光透過率と、
450nmより小さく、510nmより大きい可視スペクトル内の波長にわたって平均され、値T
visよりも大きい光透過率と、
を有し、
それぞれの前記光透過率を含む比が、前記光学フィルタの性能指数(FOM:figure of merit)として定義され、
前記性能指数が、
【数5】
により決定され、
前記光学フィルタの性能指数が少なくとも1.6である、
装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0133
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0133】
[00161]上記の実施形態との関連において本発明が説明されるが、これらの説明は、記載される特定の形態に本発明の範囲を限定することは意図されず、むしろ、これらの説明は、本発明の範囲内に含まれ得るような代替例、変形例、および等価なものを対象に含むことが意図されることに注意されたい。上記の実施形態のあらゆる構成要素が、上記の実施形態のいずれかの他の構成要素と組み合わされ得る。例えば、上記のあらゆる製造方法または光減衰方法が、説明される光学フィルタと関連する波長とに組み合わされ得る。そのため、本発明の範囲は、当業者に明らかとなり得る他の実施形態を完全に包含し、本発明の範囲は、付属の請求項のみにより限定される。
[形態1]
波長約590nmを含む光への人の目における細胞の暴露を制御することにより羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節する装置であって、
波長約590nmにおいて第1の光量未満の光を透過させることと、視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた第2の光量を上回る光を透過させることとを行うように構成された光学フィルタ、
を備える装置。
[形態2]
前記第1の光量が、前記波長約590nmにおける光の略全体であり、
前記第2の光量が、前記視覚応答スペクトルにわたって重み付けされた、前記波長約590nmの外における光の略全体である、
形態1に記載の装置。
[形態3]
前記第1の光量が、約560nmから620nmの間のショートパスフィルタ波長を上回る光の実質的にすべてであり、
前記第2の光量が、前記ショートパスフィルタ波長未満の波長を含む前記視覚スペクトル応答にわたるすべての光である、
形態1に記載の装置。
[形態4]
前記第2の光量が、前記波長約590nm未満または前記波長約590nmを上回る波長を含む第3の光量を含む、
形態1に記載の装置。
[形態5]
前記第2の光量が、約590nm未満の波長を含む第3の光量と、約590nmを上回る波長を含む第4の光量とを含む、
形態1に記載の装置。
[形態6]
前記第1の光量が、被術者の受容細胞により受ける前記波長約590nmにおける光量(D
rec,590)であり、
前記第2の光量が、前記視覚応答スペクトルにわたって受ける光量(D
vis)であり、
前記第1の光量と前記第2の光量とを含む比が、性能指数(FOM:figure of merit)として定義され、
前記性能指数が、
【数16】
により決定され、
式中、D
rec,590(T=1)が、光学フィルタがない場合の前記第1の光量であり、D
vis(T=1)が、光学フィルタがない場合の前記第2の光量である、
形態1に記載の装置。
[形態7]
前記光学フィルタの前記性能指数が、約1である、約1より大きい、約1.3より大きい、約1.5より大きい、約1.8より大きい、約2.75より大きい、約3より大きい、または約3.3より大きい、
形態6に記載の装置。
[形態8]
前記光学フィルタが、多層誘電体、ナノ粒子埋設被膜、色フィルタ、着色、共振導波モードフィルタ、ルゲートフィルタ、およびそれらのあらゆる組み合わせを含む、
形態1に記載の装置。
[形態9]
前記ナノ粒子埋設被膜が、金属ナノ粒子、誘電体ナノ粒子、半導体ナノ粒子、量子ドット、磁気ナノ粒子、またはコアにおけるコア材料とシェルとして機能するシェル材料とを有するコアシェル粒子の少なくとも1つを含む、
形態8に記載の装置。
[形態10]
前記少なくとも金属ナノ粒子が、Al、Ag、Au、Cu、Ni、Pt、または他の金属ナノ粒子の少なくとも1つを含み、
前記誘電体ナノ粒子が、TiO
2、Ta
2O
5、または他の誘電体ナノ粒子の少なくとも1つを含む、
形態9に記載の装置。
[形態11]
前記半導体ナノ粒子または前記量子ドットが、Si、GaAs、GaN、CdSe、CdS、または他の半導体ナノ粒子の少なくとも1つを含む、
形態9に記載の装置。
[形態12]
前記ナノ粒子埋設被膜における埋設されたナノ粒子の形状が、球形、楕円形、または別の形状である、
形態9に記載の装置。
[形態13]
波長約590nmの光と人の目の視覚スペクトル応答とを使用して羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または、概日周期を調節する方法であって、
何らかの光量を受けるステップと、
形態1に記載の装置を使用して、前記波長約590nmにおける第1の光量未満の光を透過させるステップと、
形態1に記載の装置を使用して、前記視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた第2の光量を透過させるステップと、
を含む方法。
[形態14]
波長約590nmの光と人の目の視覚スペクトル応答とを使用して、光への前記人の目における細胞の暴露を制御することにより、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節するシステムであって、
基材と、
前記基材上に配置された第1の層であって、高屈折率材料を含む第1の層と、
前記第1の層に隣接して配置された第2の層であって、低屈折率材料を含む第2の層と、
を備えるシステム。
[形態15]
前記第1の層の高屈折率材料が、TiO
2であり、
前記第2の層の前記低屈折率材料が、SiO
2であり、
TiO
2とSiO
2との1つまたは複数の追加的な交互に配置された隣接した層をさらに備え、
最初の追加的な層が、前記第2の層に隣接し、
最後の追加的な層が、MgF
2、SiO
2またはTiO
2であり得、外側の層に隣接している、
形態14に記載のシステム。
[形態16]
約590nmと約480nmとの波長を含む光への人の目の暴露を制御することにより、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または概日周期を調節する装置であって、
約590nmと約480nmとにおける波長範囲にわたって重み付けされた第1の光量未満の光を透過させることと、視覚スペクトル応答にわたって重み付けされた第2の光量を上回る光を透過させることとを行うように構成された複合光学フィルタ、
を備える装置。
[形態17]
光学フィルタが、多層誘電体被膜、ナノ粒子埋設被膜、色フィルタ、着色、共振導波モードフィルタ、ルゲートフィルタ、またはそれらのあらゆる組み合わせの少なくとも1つを含む、
形態16に記載の装置。
[形態18]
前記ナノ粒子埋設被膜が、金属ナノ粒子、誘電体ナノ粒子、半導体ナノ粒子、量子ドット、磁気ナノ粒子、またはコアにおけるコア材料とシェルとして機能するシェル材料とを有するコアシェル粒子の少なくとも1つを含む、
形態16に記載の装置。
[形態19]
少なくとも前記金属ナノ粒子が、Al、Ag、Au、Cu、Ni、Pt、または他の金属ナノ粒子の少なくとも1つを含み、
前記誘電体ナノ粒子が、TiO
2、Ta
2O
5、または他の誘電体ナノ粒子の少なくとも1つを含む、
形態18に記載の装置。
[形態20]
人の目のメラノプシン細胞の活動電位スペクトルと人の目の視覚スペクトル応答とを使用して、羞明反応の頻度および/または程度を低減する、または、概日周期を調節する方法であって、
何らかの光量を受けるステップと、
形態16に記載の装置を使用して、メラノプシンのアイソフォームの吸収スペクトルにわたって優先的に光を減衰させるステップと、
を含む方法。
【外国語明細書】