(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025176
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】天敵生物の増殖方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/033 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
A01K67/033 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127827
(22)【出願日】2020-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃一
(72)【発明者】
【氏名】大朝 真喜子
(57)【要約】
【課題】天敵生物の個体数を維持または増加させる方法を提供する。
【解決手段】天敵生物の捕食する害虫の代替えの餌となるコナダニ類に「にがり成分」を使用して増殖することにより、コナダニ類を安定して捕食できることで天敵生物の餓死や逃亡を抑制し、天敵生物の個体数を維持または増加させる方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天敵生物及び天敵生物の餌となるコナダニ類の増殖方法であって、「にがり成分」を含む補水液を使用することを特徴とする、前記増殖方法。
【請求項2】
前記「にがり成分」が、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カルシウム及び硫酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記「にがり成分」が、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記「にがり成分」が、塩化マグネシウムである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記天敵生物が、カブリダニ類、アザミウマ類、コウチュウ類、ハチ類、ハエ類及びカメムシ類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記カブリダニ類が、ミヤコカブリダニ、チリカブリダニ、スワルスキーカブリダニ、ケナガカブリダニ、ククメリスカブリダニ、リモニカスカブリダニ、モンティカブリダニ(Typhlodromips montdorensis)、ディジェネランスカブリダニ、アンダソニカブリダニ、フツウカブリダニ、キイカブリダニ、ヘヤカブリダニ、トウヨウカブリダニ及びコウズケカブリダニからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アザミウマ類が、アカメガシワクダアザミウマ、アリガタシマアザミウマ、ヤマノイモハナクダアザミウマ、シナクダアザミウマ及びハダニアザミウマからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記カメムシ類が、タバコカスミカメ、タイリクヒメハナカメムシ及びナミヒメハナカメムシからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記コナダニ類が、サトウダニ、サヤアシニクダニ、ケナガコナダニ、ヒョウヒダニ、アシブトコナダニ、ムシクイコナダニ、ネッタイチビコナダニ及びムギコナダニからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記コナダニ類が、サトウダニ、サヤアシニクダニ及びケナガコナダニからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天敵生物及び天敵生物の餌となるコナダニ類の増殖を「にがり成分」を含む補水液によって促し、天敵生物の個体数を維持又は増加させる方法に関する。本発明により増殖した天敵生物は、農園芸分野において作物害虫防除の目的で使用される。
【背景技術】
【0002】
近年、化学農薬による環境リスクや抵抗性問題を回避するため、病害虫の発生を抑制する耕種的防除や、天敵や微生物を利用した生物的防除と化学農薬とを組み合わせた総合的病害虫管理(IPM)の手法が注目されている。特に各種作物に寄生するハダニ類やアザミウマ類のような害虫に対しては、それらの天敵であるミヤコカブリダニ、スワルスキーカブリダニ、ククメリスカブリダニ等のカブリダニ類、アカメガシワクダアザミウマ、タバコカスミカメやタイリクヒメハナカメムシのような多食性の天敵生物を利用した防除が盛んに行われている。これら天敵生物は作物の栽培期間全体を通して害虫防除に必要な個体数を維持することが望ましいが、餌となる前記害虫が存在しないか、少ない場合、餓死や逃亡などにより防除に必要な個体数の維持が困難となる。そこで、サトウダニやサヤアシニクダニ等のコナダニ類を餌として大量増殖した天敵生物を大量に放飼して防除する方法が一般的である。一方、前記天敵生物はサトウダニやサヤアシニクダニ等のコナダニ類を捕食して増殖することが可能であり、これらコナダニ類を防除対象の作物上へ放飼することで必要な個体数を維持できることが知られている。しかしながら、コナダニ類は、通常、砂糖、チョコレート、パン粉、小麦粉や干し魚等の食品中で大量発生することはあるものの、作物上で自然発生することはないため、作物の栽培期間を通して天敵生物の個体数を維持することは困難であった。
【0003】
特許文献1には、乾燥条件に耐性が無い天敵生物、例えばカブリダニ類の1種であるククメリスカブリダニは、天敵生物放飼用袋内に、ククメリスカブリダニの他に担体の小麦外皮と餌となるケナガコナダニとを同時に入れ、さらに水を含んだ高分子吸収体からなる保湿剤を前記袋内に収納すれば、乾燥した環境下にあっても生存率が高まるだけでなくククメリスカブリダニが増殖できることが開示されているが、餌となるケナガコナダニの増殖方法に関する記載は無い。
【0004】
特許文献2には、保湿剤、水、天敵昆虫、天敵昆虫の餌となる餌昆虫、餌昆虫の餌となるカビを培養するための培地及び天敵昆虫の産卵基質を包括する容器で構成された天敵昆虫増殖装置を使用してククメリスカブリダニ、ケナガカブリダニ、ミヤコカブリダニやスワルスキーカブリダニがハダニ類やアザミウマ類を防除できることが記載されているが、保湿剤と餌昆虫の増殖との関係に関する記載は無い。
【0005】
特許文献3には、パン酵母を含有する培地を使用して培養したサトウダニやケナガコナダニ等のコナダニ類を餌としてスワルスキーカブリダニを飼育できることが記載されているが、コナダニ類への給水に関する記載はない。
【0006】
特許文献4~6には、徐放湿性の保水材を使用して天敵昆虫の餌となる餌ダニの増殖を維持することにより、天敵昆虫の定住性を向上させた天敵昆虫保護装置が開示されているが、保水材に含ませる水に関する記載は無い。
【0007】
「にがり」は海水から食塩を精製する際に得られる塩化マグネシウムを主成分とする食品添加物であり、食品衛生法では「粗製海水塩化マグネシウム」という名称が使用されている。「にがり」には塩化マグネシウム以外に塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウムや硫酸マグネシウム等も含まれている。「にがり」は主に豆腐の凝固剤として使用され、昆虫、特に天敵生物やコナダニ類の増殖に影響するとの知見はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-185222号公報
【特許文献2】特開2007-325541号公報
【特許文献3】特表2008-526199号公報
【特許文献4】特開2017-127301号公報
【特許文献5】特開2018-29591号公報
【特許文献6】特開2018-29589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
天敵生物が通常捕食する害虫が減少したときに備え、代替えの餌となるコナダニ類を安定して生産、供給する方法に関する。また、前記方法により供給したコナダニ類を捕食することで天敵生物の餓死や逃亡を抑制し、天敵生物の個体数を維持または増加させる方法にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題について種々検討を行った結果、「にがり成分」を含む補水液(以下、本発明の補水液ともいう)を使用すると、意外なことに、天敵生物及びコナダニ類の産卵数が増加し、天敵生物及びコナダニ類の増殖率が大幅に向上するという知見を得て、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0011】
天敵生物の捕食対象害虫が少ない状況であっても、本発明によって増加したコナダニ類を餌として捕食することにより、また、本発明の補水液の使用により、天敵生物の個体数を維持又は増加させることができ、作物の栽培期間全体を通じて安定的に天敵生物による害虫防除が行える。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、天敵生物及び天敵生物の餌となるコナダニ類の増殖方法であって、「にがり成分」を含む補水液を使用することを特徴とする、前記増殖方法に関する。また本発明は、圃場における天敵生物の個体数を維持又は増加させる方法であって、(1)天敵生物の餌となるコナダニ類を「にがり成分」を含む補水液の存在下に増殖させること、及び/又は(2)天敵生物に「にがり成分」を含む補水液を与えること、を特徴とする前記方法に関する。
【0013】
本発明において、「にがり成分」とは、海水から食塩を精製する際に得られる成分であって、例えば、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどが挙げられ、好ましくは塩化マグネシウム及び塩化カルシウムであり、より好ましくは塩化マグネシウムである。
【0014】
本発明における天敵生物とは、作物の害虫を捕食する生物であって、例えば、ミヤコカブリダニ、スワルスキーカブリダニ、ククメリスカブリダニ、チリカブリダニ、コウズケカブリダニ、ケナガカブリダニ、ニセラーゴカブリダニ、フツウカブリダニ,ケブトカブリダニ、ナガヒシダニ、ディジェネランスカブリダニ、リモニカスカブリダニ、モンティカブリダニ(Typhlodromips montdorensis)、アンダソニカブリダニ、フツウカブリダニ、キイカブリダニ及びヘヤカブリダニのようなカブリダニ類、カベアナタカラダニのようなタカラダニ科のダニ類、アカメガシワクダアザミウマ、アリガタシマアザミウマ、ヤマノイモハナクダアザミウマ、シナクダアザミウマ及びハダニアザミウマのようなアザミウマ類、タバコカスミカメ、タイリクヒメハナカメムシ、ナミヒメハナカメムシ及びツヤヒメハナカメムシのようなカメムシ類、ヒメカノコテントウ、ナナホシテントウ、ヒメアカホシテントウ、アカホシテントウ及びナミテントウのようなコウチュウ類、チャバラアブラコバチ、オンシツツヤコバチ、ギフアブラバチ、ハモグリミドリヒメコバチ、イサエアヒメコバチ、サバクツヤコバチ及びコレマンアブラバチのようなハチ類、ショクガバエ、メスグロハナレメイエバエのようなハエ類などが挙げられ、好ましくはミヤコカブリダニ、ケナガカブリダニ、コウズケカブリダニ、スワルスキーカブリダニ及びククメリスカブリダニであり、より好ましくはミヤコカブリダニ、ケナガカブリダニ、コウズケカブリダニ及びスワルスキーカブリダニである。
【0015】
本発明におけるコナダニ類としては、食品などに付着して容易に繁殖できるものであれば良く、例えば、ケナガコナダニ、ムギコナダニ、アシボソケナガコナダニ、アシブトコナダニ、ムシクイコナダニ、ネダニ、チビコナダニ、ネッタイチビコナダニ及びコウノホシカダニのようなコナダニ科のダニ類、サヤアシニクダニ、イエニクダニ、チリニクダニ及びキナコダニのようなニクダニ科のダニ類、ヒョウホンコナダニのようなヒョウホンダニ科のダニ類、サトウダニのようなサトウダニ科のダニ類、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニのようなチリダニ科のダニ類、イエササラダニのようなイエササラダニ科のダニ類、ミナミツメダニ、クワガタツメダニのようなツメダニ科のダニ類、及びナミホコリダニのようなホコリダニ科のダニ類などが挙げられ、好ましくはケナガコナダニ、サヤアシニクダニ、サトウダニ及びムシクイコナダニである。
【0016】
本発明において、コナダニ類の餌を用いてもよい。コナダニ類の餌としては、例えば、かつお節類、砂糖、味噌、唐辛子類、昆布類、小麦粉、きな粉、パン粉、乾燥果実、チーズやチョコレートなどのような長期保存食品、ふすま(小麦外皮ともいう)、小麦胚芽、米ぬか、わら、乾燥酵母、花粉、カビ類などが挙げられ、好ましくはふすま、乾燥酵母、花粉及びカビ類である。
【0017】
前記コナダニ類の餌は、単独又は混合して給餌しても良く、例えば、砂糖と、乾燥酵母又はふすまの混合餌が挙げられ、好ましくは砂糖と乾燥酵母である。
【0018】
コナダニ類の産卵及び生育に適した環境として、例えば、温度は通常15℃~35℃であり、好ましくは20℃~30℃であり、より好ましくは20℃~25℃であり、相対湿度は通常60%~95%であり、好ましくは70%~95%であり、より好ましくは85%~95%であり、産卵時の光条件としては、通常昼夜の区別があれば良く、16時間光にあたればより好ましい。
【0019】
「にがり成分」を含む補水液の施用量は、例えば、天敵生物並びにコナダニ類を導入する場所に、通常5~500μl/cm2であり、好ましくは10~200μl/cm2であり、より好ましくは20~100μl/cm2である。
【0020】
本発明の補水液の「にがり成分」の濃度としては、例えば、塩化マグネシウムとして、通常0.1~150ppmであり、好ましくは1~100ppmであり、より好ましくは2~50ppmであり、塩化カルシウムとして、通常1~100ppmであり、好ましくは20~50ppmである。
【0021】
本発明の補水液は、補水材又は保湿剤に含ませて使用することができ、補水材又は保湿剤は吸水性の高い素材であって、例えば、綿状パルプ、高吸水性樹脂及び高吸水性繊維などが挙げられる。高吸水性樹脂は、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム製及びポリアクリル酸カリウムなどが挙げられ、好ましくはポリアクリル酸ナトリウムである。具体的には、サンウェット(商品名;三洋化成工業社製)、アクアキープ(商品名;住友精化社製)、アロンザップ(商品名;東亜合成社製)及びアクアリック CA(商品名;日本触媒社製)などが挙げられる。高吸水性繊維は、外層にポリアクリル酸ナトリウムのような高吸水性樹脂を持つ繊維である。具体的には、ランシール(商品名;日本エクスラン社製)及びベルオアシス(商品名;帝人フロンティア社製)などが挙げられる。また、前記素材は、例えば、不織布や透湿性防水フィルムなどで包んで使用することができる。透湿性防水フィルムの具体例としては、エクセポール(商品名;ポリオレフィン系微多孔質フィルム、三菱化学社製)、ブリーズテックス(商品名;ポリエステル製非多孔質フィルム、オージーフィルム社製)などが挙げられる。
【0022】
本発明の補水液は、前記天敵生物、天敵生物の産卵基質、前記コナダニ類、及びコナダニ類の餌を保持することができる保護容器と組み合わせて使用できる。前記保護容器としては、例えば、放飼袋、防護カバー、増殖装置及び保護装置などが挙げられ、これらは天敵生物の隠れ場所、産卵場所を提供すると共に、気温や湿度の変化、さらに薬剤散布の影響を緩和する効果を持つため、天敵生物を長期間保護、増殖させることができる。特に、本発明の補水液を前記補水材又は保湿剤に含ませて保護容器内に設置すると、保護容器内に水滴が発生し難くなると共に、保護容器内の湿度が安定化し、天敵生物並びにコナダニ類の生育に適した環境となるため、天敵生物の放出数が増加する。
【0023】
本発明の補水液は、市販の天敵生物殺虫剤に添加することができる。天敵生物殺虫剤の有効成分がカブリダニ類の具体例としては、スパイカルEX、スパイカルプラス(商品名;有効成分ミヤコカブリダニ、アリスタライフサイエンス社製)、チリガブリ(商品名;有効成分チリカブリダニ、石原産業社製)、スパイデックス(商品名;有効成分チリカブリダニ、アリスタライフサイエンス社製)、チリトップ(商品名;有効成分チリカブリダニ、住化テクノサービス社製)、チリカ・ワーカー(商品名;有効成分チリカブリダニ、小泉製麻社製)、スワルスキー、スワルスキープラス、スワルスキープラスUM(商品名;有効成分スワルスキーカブリダニ、アリスタライフサイエンス社製)、スワマイト(商品名;有効成分スワルスキーカブリダニ、出光興産社製)、システムミヤコくん(商品名;有効成分ミヤコカブリダニ、石原産業社製)、ミヤコトップ(商品名;有効成分ミヤコカブリダニ、アグリ総研社製)、ミヤコスター(商品名;有効成分ミヤコカブリダニ、住化テクノサービス社製)、システムスワルくん(商品名;有効成分スワルスキーカブリダニ、石原産業社製)、リモニカ(商品名;有効成分リモニカスカブリダニ、アリスタライフサイエンス社製)、ククメリス(商品名;有効成分ククメリスカブリダニ、アリスタライフサイエンス社製)及びメリトップ(商品名;有効成分ククメリスカブリダニ、アグリ総研社製)などが挙げられ、前記補水液を添加することにより、天敵生物殺虫剤の有効成分であるカブリダニ類の放出数が増加する。
【0024】
天敵生物殺虫剤の有効成分がアザミウマ類の具体例としては、アリガタ(商品名;有効成分アリガタシマアザミウマ、琉球産経社製)及びアカメ(商品名;有効成分アカメガシワクダアザミウマ、石原産業社製)などが挙げられ、前記補水液を添加することにより、アザミウマ類の放出数が増加する。
【0025】
天敵生物殺虫剤の有効成分がコウチュウ類の具体例としては、テントップ(商品名;有効成分ナミテントウ、アグリ総研社製)、カメノコS(商品名;有効成分ヒメカノコテントウ、住化テクノサービス社製)及びチャバラ(商品名;有効成分チャバラアブラコバチ、住化テクノサービス社製)などが挙げられ、前記補水液を添加することにより、コウチュウ類の放出数が増加する。
【0026】
天敵生物殺虫剤の有効成分がハチ類の具体例としては、ツヤトップ、ツヤトップ25(商品名;有効成分オンシツツヤコバチ、アグリ総研社製)、エンストリップ (商品名;有効成分オンシツツヤコバチ、アリスタライフサイエンス社製)、ツヤパラリ(商品名;有効成分オンシツツヤコバチ、石原産業社製)、コレトップ(商品名;有効成分コレマンアブラバチ、アグリ総研社製)、アフィパール(商品名;有効成分コレマンアブラバチ、アリスタライフサイエンス社製)、コレパラリ(商品名;有効成分コレマンアブラバチ、石原産業社製)、エルカード(商品名;有効成分サバクツヤコバチ、アリスタライフサイエンス社製)、ギフパール(商品名;有効成分ギフアブラバチ、アリスタライフサイエンス社製)、ミドリヒメ(商品名;有効成分ハモグリミドリヒメコバチ、アリスタライフサイエンス社製)、イサパラリ(商品名;有効成分イサエアヒメコバチ、石原産業社製)及びヒメトップ(商品名;有効成分イサエアヒメコバチ、アグリ総研社製)などが挙げられ、前記補水液を添加することにより、ハチ類の放出数が増加する。
【0027】
天敵生物殺虫剤の有効成分がカメムシ類の具体例としては、リクトップ(商品名;有効成分タイリクヒメハナカメムシ、アグリセクト社製)、タイリク(商品名;有効成分タイリクヒメハナカメムシ、アリスタライフサイエンス社製)及びオリスタ―A(商品名;有効成分タイリクヒメハナカメムシ、住化テクノサービス社製)などが挙げられ、前記補水液を添加することにより、カメムシ類の放出数が増加する。
【0028】
本発明により防除できる害虫としては、例えば、ミカンハダニ、リンゴハダニ、オウトウハダニ、カンザワハダニ及びナミハダニのようなハダニ類、チャノホコリダニ及びスジブトホコリダニのようなホコリダニ類、ミカンサビダニ、ニセナシサビダニ及びトマトサビダニのようなサビダニ類、ミカンキイロアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ、チャノキイロアザミウマ、ネギアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、ダイズウスイロアザミウマ、クロゲハナアザミウマ、クロトンアザミウマ、ハナアザミウマ及びトラフアザミウマのようなアザミウマ類、オンシツコナジラミ、タバココナジラミ(バイオタイプB、バイオタイプQ、バイオタイプJpL、バイオタイプNauru)、シルバーリーフコナジラミ及びツツジコナジラミのようなコナジラミ類、ワタアブラムシ、モモアカアブラムシ、イチゴネアブラムシ、ダイコンアブラムシ、クロサワアブラムシ、キククギケアブラムシ、タイワンクギケアブラアムシ、ゴボウクギケアブラムシ、キイロヒメヒゲナガアブラムシ、ヨモギヒメヒゲナガアブラムシ、キクヒメヒゲナガアブラムシ、ムギヒゲナガアブラムシ、ジャガイモヒゲナガアブラムシ及びナシアブラムシのようなアブラムシ類などが挙げられる。
【0029】
本発明により保護できる作物としては、農業上有用なものであれば特に制限はなく、例えば、イネ、コムギ、オオムギ、エンバク、ライムギ、トウモロコシ及びサトウキビのようなイネ科作物、ダイズ、インゲンマメ、サヤインゲン及びアズキのようなマメ科作物、キャベツ、ハクサイ、ダイコン、カブ、ブロッコリー、カリフラワー及びナバナのようなアブラナ科作物、レタス、シュンギク、食用菊及びゴボウのようなキク科作物、ナス、トマト、ピーマン、タバコ及びバレイショのようなナス科作物、キュウリ、メロン、スイカ及びカボチャのようなウリ科作物等、ネギ、ニラ、ラッキョウ及びニンニクのようなネギ科作物、パセリ、セルリー及びニンジンのようなセリ科作物、ユリ、チューリップ及びアスパラガスのようなユリ科作物、ホウレンソウ及びテンサイのようなアカザ科作物、ブドウのようなブドウ科作物、バラ、イチゴ、リンゴ、ナシ、洋ナシ、モモ、ビワ、オウトウ及びアーモンドのようなバラ科作物、ミカン、レモン及びオレンジのようなミカン科作物、カキのようなカキノキ科作物、マンゴーのようなウルシ科作物、チャのようなツバキ科作物、サツマイモのようなヒルガオ科作物、ソバのようなタデ科作物、ミョウガ及びショウガのようなショウガ科作物、オオバ(シソ)のようなシソ科植物、キク、バラ、カーネーション、ガーベラのような花き類などが挙げられる。
【0030】
本発明の望ましい態様を以下に記載する。
(1)天敵生物及び天敵生物の餌となるコナダニ類の増殖方法であって、「にがり成分」を含む補水液を使用することを特徴とする、前記増殖方法。
(2)前記「にがり成分」が、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カルシウム及び硫酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)に記載の方法。
(3)前記「にがり成分」が、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記「にがり成分」が、塩化マグネシウムである、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)前記天敵生物が、カブリダニ類、アザミウマ類、コウチュウ類、ハチ類、ハエ類及びカメムシ類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)前記カブリダニ類が、ミヤコカブリダニ、チリカブリダニ、スワルスキーカブリダニ、ケナガカブリダニ、コウズケカブリダニ、リモニカスカブリダニ、モンティカブリダニ(Typhlodromips montdorensis)、ディジェネランスカブリダニ、アンダソニカブリダニ、フツウカブリダニ、キイカブリダニ、ヘヤカブリダニ、トウヨウカブリダニ及びククメリスカブリダニからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)前記アザミウマ類が、アカメガシワクダアザミウマ、アリガタシマアザミウマ、ヤマノイモハナクダアザミウマ、シナクダアザミウマ及びハダニアザミウマからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
(8)前記カメムシ類が、タバコカスミカメ、タイリクヒメハナカメムシ及びナミヒメハナカメムシからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
(9)前記コナダニ類が、サトウダニ、サヤアシニクダニ、ケナガコナダニ、ヒョウヒダニ、アシブトコナダニ、ムシクイコナダニ、ネッタイチビコナダニ及びムギコナダニからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(10)前記コナダニ類が、サトウダニ、サヤアシニクダニ及びケナガコナダニからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
【0031】
(11)(5)~(8)に記載の天敵生物、前記天敵生物の産卵基質、(9)又は(10)に記載のコナダニ類、前記コナダニ類に適した餌、及び補水材を保持する容器であって、
補水材に(1)~(4)に記載の補水液を含むことを特徴とする、天敵生物の増殖容器又は保護容器。
(12)前記容器が、放飼袋、防護カバー、増殖装置及び保護装置からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(11)に記載の保護容器
(13)前記保護容器が、天敵生物の出入り口又は排水口を少なくとも1つ有する、(11)又は(12)に記載の保護容器。
(14)前記保護容器内の湿度が、85%以上である、(11)~(13)のいずれか1項に記載の保護容器。
【0032】
(15)作物の害虫を防除するための、(11)~(14)に記載の保護容器の使用。
(16)前記作物の害虫が、コナジラミ類、アザミウマ類、ダニ類又はアブラムシ類である(15)に記載の使用。
(17)前記コナジラミ類が、オンシツコナジラミ、タバココナジラミ、シルバーリーフコナジラミ、チャトゲコナジラミ又はツツジコナジラミである、(15)又は(16)に記載の使用
(18)前記アザミウマ類が、ミカンキイロアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ、チャノキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、クロゲハナアザミウマ、モトジロアザミウマ、ハナアザミウマ、クロトンアザミウマ、ネギアザミウマ又はトラフアザミウマである、(15)又は(16)に記載の使用。
(19)前記ダニ類が、ミカンハダニ、リンゴハダニ、カンザワハダニ、ナミハダニ、ミカンサビダニ、トマトサビダニ、ニセナシサビダニ又はチャノホコリダニである、(15)又は(16)に記載の使用。
(20)前記アブラムシ類が、ワタアブラムシ、モモアカアブラムシ、イチゴネアブラムシ、ダイコンアブラムシ、キクヒメヒゲナガアブラムシ、リンゴワタムシ、ナシアブラムシ又はジャガイモヒゲナガアブラムシである、(15)又は(16)に記載の使用。
(21)前記作物が、ナス、キュウリ、ピーマン、トマト、キャベツ、レタス、キク、バラ、カーネーション、ガーベラ、ダリア、リンゴ、ナシ、オウトウ、カンキツ、マンゴー、ビワ、イチゴ、メロン、スイカ、ミョウガ、オオバ(シソ)、アスパラ、サヤエンドウ又はインゲンマメである(15)に記載の使用。
【実施例0033】
以下に、本発明に係る実施例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
実施例1
サトウダニ飼育試験(給水効果)
SPLインセクトブリーディングディッシュ(SPL-310050;50mm*15mm、バイオメディカルサイエンス社製)の底面に定性黒色濾紙(131-B 100mm;アドバンテック社製)を20分割したもの(約24.6mm角)をセロハンテープで固定し、サトウダニの逃亡を防止するためにセロハンテープ上にタングルフット(商品名;天然ゴム、植物油及びワックスの混合物、Tanglefoot Company製)を塗布した。サトウダニの餌として、乾燥酵母エビオス(アサヒグループ食品社製)とスクロース(ナカライテスク製)を重量比で4:6の割合で混合したものを設置し、給水区は黒色濾紙上にミリQ(商品名;メルク社製)製の純水を120μl滴下した。1区あたりサトウダニの雌成虫を5頭導入し(5反復)、グロースチャンバー(MLR-352H、パナソニック製)で、25℃、相対湿度85%又は95%、照明下で16時間飼育してから遮光し、さらに8時間飼育した後に産卵数を調査、又は遮光したまま24時間飼育した後に産卵数を調査した。
【0034】
【0035】
実施例2
サトウダニ飼育試験(にがり成分加用効果)
実施例1と同じ装置にて、純水に天海のにがり(商品名;赤穂化成社製)、塩化マグネシウム又は塩化カルシウムを加え、所定濃度となるように調製した水溶液を黒色濾紙に120μl滴下してから、サトウダニを導入し、湿度95%、照明下で16時間飼育してから遮光し、さらに8時間飼育した後に産卵数を調査した。
【0036】
【0037】
実施例3
ダニ種別飼育試験(にがり成分加用効果)
実施例1と同じ装置で、純水に天海のにがりを加え、塩化マグネシウム濃度25ppmとなるように調製した水溶液を黒色濾紙に120μl滴下してから、サトウダニ、サヤアシニクダニ、ミヤコカブリダニ又はスワルスキーカブリダニを導入し、湿度95%、照明下で16時間飼育してから遮光し、さらに8時間飼育した後に産卵数を調査した。
【0038】