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特開2022-25184自然重合が抑制されたスチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液及び自然重合を抑制する方法
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  • 特開-自然重合が抑制されたスチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液及び自然重合を抑制する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025184
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】自然重合が抑制されたスチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液及び自然重合を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 309/29 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
C07C309/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127849
(22)【出願日】2020-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】尾添 真治
(72)【発明者】
【氏名】重田 優輔
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB46
4H006AB48
4H006AB68
4H006BB31
4H006BE21
(57)【要約】
【課題】低濃度の重合禁止剤あるいは重合禁止剤を添加することなく、自然重合が抑制され、安定化されたスチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液を提供する。
【解決手段】スチレンスルホン酸リチウムに対して100.0~200.0モル%の水分と10.0モル%以下の臭化リチウムを含む、自然重合が抑制されたスチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液及び、これを用いた極性有機溶剤中でのスチレンスルホン酸リチウムの自然重合を抑制する方法を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンスルホン酸リチウムに対して100.0モル%~200.0モル%の水分と10.0モル%以下の臭化リチウムを含む、自然重合が抑制されたスチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液。
【請求項2】
スチレンスルホン酸リチウムに対して30ppm以下の有機系重合禁止剤を更に含む請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
自然重合によるポリマー分の含有量が5.0wt%以下である請求項1又は2に記載の溶液。
【請求項4】
前記極性有機溶剤がN-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれる1以上の有機溶剤である請求項1~3のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項5】
前記スチレンスルホン酸リチウムの含有量が35.0wt%~45.0wt%である請求項1~4のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項6】
前記有機系重合禁止剤が、フェノール系重合禁止剤、セミヒンダードフェノール系重合禁止剤及びヒンダードフェノール系重合禁止剤からなる群から選ばれる1以上の重合禁止剤である請求項2に記載の溶液。
【請求項7】
前記フェノール系重合禁止剤が、2-メトキシハイドロキノン、ハイドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール及び4-tert-ブチルカテコールからなる群から選ばれる1以上の重合禁止剤である請求項6に記載の溶液。
【請求項8】
スチレンスルホン酸リチウムに対する水分を100.0モル%~200.0モル%、臭化リチウム分を10.0モル%以下に制御することによって、極性有機溶剤中でのスチレンスルホン酸リチウムの自然重合を抑制する方法。
【請求項9】
スチレンスルホン酸リチウムに対し、30ppm以下の有機系重合禁止剤を含む請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度の重合禁止剤を含むことなく、効率的に自然重合が抑制されたスチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレンスルホン酸塩は水溶性の機能性モノマーであり、界面活性とカチオン交換能を有することから、乳化重合用の反応性乳化剤の他、水系レオロジー制御剤、水系分散剤、水系洗浄剤、水系帯電防止剤、導電性ポリマー水性コロイドのドーパントを製造するための原料モノマーとして、古くから利用されている。工業的に広く利用されているのはスチレンスルホン酸ナトリウムだが、有機溶剤への溶解性に乏しい課題がある。
【0003】
そこで、有機溶剤への溶解性が高いスチレンスルホン酸リチウムが開発され(例えば、特許文献1参照)、高分子電解質膜(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)や電子回路基板用の特殊コーティング用途などで実用化されている。
スチレンスルホン酸リチウムは、β-ブロモエチルベンゼンスルホン酸と水酸化リチウムを水媒体中で反応晶析させた後、濾過により回収した湿潤結晶を強制乾燥して製造される(例えば、特許文献1参照)。市販のスチレンスルホン酸リチウムには、通常、臭化リチウム、水酸化リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム及びスチレンスルホン酸リチウム重合物などの不純物が微量含まれている。高分子電解質膜や電子回路基板用の特殊コーティングを製造する場合、スチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液を調製し、上記不純物を濾別した後、ジビニルベンゼンなどのコモノマーや重合開始剤などを添加し、重合することによって製造される。
【0004】
しかしながら、スチレンスルホン酸リチウムをジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒に溶解する際に、しばしばスチレンスルホン酸リチウムが自然重合(溶液の粘度が増大)する課題があった。濾過後のスチレンスルホン酸リチウムの重合速度、製品ポリマーの分子量、上記したコモノマーとの共重合、及びこれらの再現性を考慮すると、可能な限り低濃度の重合禁止剤もしくは重合禁止剤を添加することなく、効率的に自然重合を抑制する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-164911号公報
【特許文献2】特許第5673922号公報
【特許文献3】特表2019-533061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の背景及び課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、可能な限り低濃度の重合禁止剤もしくは重合禁止剤を添加することなく自然重合が抑制され、安定化されたスチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが検討した結果、市販のスチレンスルホン酸リチウムは水溶液中では極めて安定で自然重合し難いが、特にジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどの塩基性の極性有機溶媒中では本質的に自然重合(無触媒重合あるいは自発重合とも呼称される)し易いこと、さらに自然重合はラジカル機構で進行し、空気又は窒素などの不活性ガス何れの雰囲気下でも重合することが判明した。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、スチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液が、高濃度の重合禁止剤を含まなくても、特定濃度の水分と臭化リチウムを含む場合には、スチレンスルホン酸リチウムの自然重合が効率的に抑制されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は以下に係る。
[1]スチレンスルホン酸リチウムに対して100.0モル%~200.0モル%の水分と10.0モル%以下の臭化リチウムを含む、自然重合が抑制されたスチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液。
[2]スチレンスルホン酸リチウムに対して30ppm以下の有機系重合禁止剤を更に含む前記[1]に記載の溶液。
[3]自然重合によるポリマー分の含有量が5.0wt%以下である上記[1]又は[2]に記載の溶液。
[4]前期極性有機溶剤がN-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれる1以上の有機溶剤である前記[1]~[3]のいずれかに記載の溶液。
[5]スチレンスルホン酸リチウムの含有量が35.0wt%~45.0wt%である前記[1]~[4]のいずれかに記載の溶液。
[6]前記有機系重合禁止剤が、フェノール系重合禁止剤、セミヒンダードフェノール系重合禁止剤及びヒンダードフェノール系重合禁止剤からなる群から選ばれる1以上の重合禁止剤である前記[2]に記載の溶液。
[7]前記フェノール系重合禁止剤が、2-メトキシハイドロキノン、ハイドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール及び4-tert-ブチルカテコールからなる群から選ばれる1以上の重合禁止剤である前記[6]に記載の溶液。
[8]スチレンスルホン酸リチウムに対する水分を100.0モル%~200.0モル%、臭化リチウム分を10.0モル%以下に制御することによって、極性有機溶剤中でのスチレンスルホン酸リチウムの自然重合を抑制する方法。
[9]スチレンスルホン酸リチウムに対し、30ppm以下の有機系重合禁止剤を含む前記[8]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液は、高濃度の重合禁止剤を含まないにも関わらず極めて安定であり、従来の課題だった自然重合が抑制されているため、高分子電解質膜や電子回路基板用の特殊コーティングなどを安定且つ高い再現性で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】比較例1におけるGPC測定の溶出曲線(拡大図)であり、図中の数字は60℃での加熱時間を示し、X軸(横軸)は溶出時間(単位は分)を示し、Y軸(縦軸)はUV(230nm)吸収ピーク面積(単位は%)を示す。
図2】比較例3におけるGPC測定の溶出曲線(拡大図)であり、X軸(横軸)は溶出時間(単位は分)を示し、Y軸(縦軸)はUV(230nm)吸収ピーク面積(単位は%)を示す。
図3】実施例1におけるGPC測定の溶出曲線(拡大図)であり、X軸(横軸)は溶出時間(単位は分)を示し、Y軸(縦軸)はUV(230nm)吸収ピーク面積(単位は%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
スチレンスルホン酸リチウム(以下、LiSSと略記する)はスチレンスルホン酸ナトリウムよりも高価ながら、メタノール、エタノール、エチレグリコール、酢酸、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒に溶解するため、スチレンスルホン酸ナトリウムでは対応できない高分子電解質膜や電子回路基板向け特殊コーティング用途等で利用されている。しかし、上記したように、LiSSを極性有機溶媒、特に塩基性の極性有機溶媒に溶解し、濾過する工程で、しばしば自然重合し、その結果、溶液粘度が増大してトラブルが発生し、その解決法が求められていた。
【0012】
一般にスチレンスルホン酸塩の重合性は、重合溶媒の誘電率に強く影響されることが知られている(例えば、V.F.Kurenkovら,European Polymer Journal,vol.15,849-862頁,1979年参照)。即ち、溶媒中、ラジカル開始剤を用いてスチレンスルホン酸ナトリウムをラジカル重合する場合、重合速度と生成ポリマーの分子量は水溶媒中で最も大きく、水よりも誘電率が低いジメチルスルホキシド溶媒中、ジメチルスルホキシド/水混合溶媒中あるいはジオキサン/水混合溶媒中では重合速度が遅く、生成ポリマーの分子量も小さくなる。実際に本発明者らがLiSSとラジカル開始剤を各種溶媒に溶解し、不活性ガス雰囲気下で重合した結果、報告されているスチレンスルホン酸ナトリウムと同様、重合速度と生成ポリマーの分子量は水中で大きく、水よりも誘電率が低いジメチルスルホキシドやN-メチルピロリドンなどの有機溶媒中では何れも明らかに小さかった。
有機溶剤中でのスルホン酸モノマーの自然重合(無触媒重合、自発重合とも呼称される)に関する報告はないが、水中での自然重合については報告例がある。例えば、スチレンスルホン酸は水中で極めて不安定であり、自然重合し易いこと(J.C.Salamone;Polymer Letters Edition,15巻、487-491頁、1971年)、ビニルスルホン酸ナトリウムが水中で自然重合すること(小川幸大;高分子論文集、74巻、2号、134~138頁、2017年)が知られている。開始種は不明だが、ビニルスルホン酸ナトリウムの自然重合はラジカル機構と結論されている。
本明細書においては、後述の実施例にも記載の通り、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析による、ポリマー分の存在比率により、自然重合性を把握することができる。本発明の自然重合が抑制されたスチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液及び自然重合を抑制する方法によれば、温度と存置する時間によってポリマー分の生成量が変動する。例えば60℃で4時間加熱したときに、ポリマー分が好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.2%以下である。すなわち、自然重合が抑制されることで、ポリマー分の生成量が抑制されることになる。
【0013】
本発明者らが、市販のLiSSを各種溶媒に溶解し(重合開始剤は添加せず)、自然重合性について詳しく調べた結果、上記の現象とは全く逆に、LiSSは水溶媒中では極めて安定であり、自然重合し難いが、極性有機溶媒、特に、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどの塩基性の極性有機溶媒中では、空気又は窒素などの不活性ガス何れの雰囲気下でも本質的に自然重合し易いことが判明した。さらに極性有機溶媒中での自然重合は、亜硝酸ナトリウムや亜硝酸リチウムなどの一般的な無機系重合禁止剤では抑制できないが、ハイドロキノンモノメチルエーテルなどの有機系重合禁止剤では抑制できることが判明した。このことは有機系重合禁止剤と極性有機溶剤との親和性が高いことが関係していると推測される。
何れにせよ、開始種等は定かではないが、自然重合は、上記した水溶液中のビニルスルホン酸ナトリウムと同様、ラジカル機構で進行していると考えられ、極性有機溶媒中でのLiSS分子の集合状態が関与していると推測される。LiSS分子の集合状態は、リチウムカチオンに対する極性有機溶媒の配位が関与していると推測される。LiSSの極性有機溶剤溶液を濾過した後の重合、即ち、重合速度や製品ポリマーの分子量への影響、コモノマーとの共重合及び重合の再現性を考慮すると、可能な限り重合禁止剤の添加は少ないか、もしくは添加しない方が好ましい。
そこで本発明者らがさらに検討した結果、LiSSの極性有機溶剤溶液が、高濃度の重合禁止剤を含まなくても、特定濃度の水分と臭化リチウムを含む場合には、LiSSの自然重合が効率的に抑制されることを見出した。
【0014】
ここで特定濃度の水分とは、LiSSに対して100モル%~200モル%(100×水のモル数/LiSSのモル数)の水分である。メカニズムは定かではないが、LiSSに対して100モル%以上の水分により、極性有機溶媒中でのLiSS分子の集合状態が崩れるものと推測される。水分の上限は、コモノマーや重合開始剤など、油溶性原料の溶解性が損なわれない範囲であれば良く、好ましくは200モル%以下である。
【0015】
一方、特定濃度の臭化リチウムとは、LiSSに対して10.0モル%以下(100×臭化リチウムのモル数/LiSSのモル数)の臭化リチウムである。臭化リチウムは、元々、市販のLiSSに含まれる不純物であり、ラジカル重合の抑制能があるとも言われているが(新井幸三ら、繊維学会誌、23巻、12号、595~601頁、1967年)、上記したメトキシハイドロキノンと比較すると重合禁止能は極めて弱い。
臭化リチウムは、上記用途においては不要な不純物でしかないため、高濃度で含まれるのは好ましくないが、特定濃度の水分が存在する場合には、極性有機溶媒中でのLiSSの自然重合がより抑制されるため、LiSSに対して10.0モル%以下(100×臭化リチウムのモル数/LiSSのモル数)であれば良く、さらに好ましくは0.1モル%~10.0モル%、特に好ましくは0.1モル%~7.5モル%である。
また重合開始剤を加えてLiSSを重合、あるいは上記したコモノマーと共重合する際に、重合速度、目標ポリマー分子量、共重合性及びこれらの再現性に影響を及ぼすため、重合禁止剤の添加は可能な限り少ない方が好ましい。
【0016】
重合禁止剤を添加する場合には、LiSSに対して30ppm以下(100万×重合禁止剤のモル数/LiSSのモル数)が好ましく、さらに好ましくは20ppm以下、特に好ましくは5ppm~20ppmである。
重合禁止剤としては、極性有機溶媒中でLiSSの重合を抑制するものであれば制限はなく、フェノール系重合防止剤、セミヒンダードフェノール系重合防止剤、ヒンダードフェノール系重合防止剤、フェノチアジン、安定ニトロキシルラジカルなどが使用できる。
フェノール系重合防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(大内新興社製:ノクラック(登録商標)200)、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール(AccuStandard社製:NaugardR PS-35)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール(三菱ケミカル株式会社製:ヨシノックス(登録商標) 250)、4-sec-ブチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール(AccuStandard社製:Isonox(登録商標) 132)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)(AccuStandard社製:EthanoxR 702)、2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)メシチレン(ADEKA社製:アデカスタブ(登録商標) AO-330)、2,2’,6,6’-テトラ-tert-ブチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル(住友化学社製:スミライザー(登録商標)BP-76)、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル(ADEKA社製:アデカスタブ(登録商標) AO-50)、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート](BASFジャパン社製:Irganox(登録商標)259)、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート](BASFジャパン社製:Irganox(登録商標)1010)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、N,N’-(ヘキサン-1,6-ジイル)ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド(BASFジャパン社製:Irganox(登録商標)1098)、ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸][オキサリルビス(アザンジイル)]ビス(エタン-2,1-ジイル)(AccuStandard社製:Naugard(登録商標)R XL-1)、イソシアヌル酸トリス(3,5-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)(ADEKA社製:アデカスタブ(登録商標) AO-20)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル(BASFジャパン社製:Irganox(登録商標)1222)、2,2-チオジエチルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート(BASFジャパン社製:Irganox(登録商標)1035)等が挙げられる。
これらの内、少量添加で有効な、比較的分子量が小さい2-メトキシハイドロキノン、ハイドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、4-tert-ブチルカテコールがより好ましい。
【0017】
極性有機溶剤溶液中のLiSSの濃度は特に制限はないが、高分子電解質膜を製造するためには、一般に可能な限り高濃度が好ましいが(例えば、特開2016-033204号公報)、溶解性を考慮すれば35.0wt%~45.0wt%が好ましい。LiSSを各種溶媒へ溶解する際、水への溶解は速いが、極性有機溶媒への溶解には時間を要するため、50℃~60℃程度で加熱溶解するケースが多い。本発明は、高濃度の重合禁止剤を添加することなく、溶解工程でのLiSSの自然重合を抑制するものである。
【実施例0018】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0019】
<使用薬剤>
LiSS:スチレンスルホン酸リチウム(東ソー・ファインケム株式会社製)
(純度88.6%、臭化リチウム1.5wt%、水酸化リチウム0.13%、硫酸リチウム0.3wt%、水分6.9wt%、ポリマー分0.06wt%)
LiBr:無水臭化リチウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)
LiNO:亜硝酸リチウム(本庄ケミカル株式会社製、40wt%水溶液)
NMP:N-メチルピロリドン(富士フィルム和光純薬株式会社製、超脱水グレード)
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド(富士フィルム和光純薬株式会社製、超脱水グレード)
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド(富士フィルム和光純薬株式会社製、超脱水グレード)
DMSO:ジメチルスルホキシド(富士フィルム和光純薬株式会社製、超脱水グレード)
MEHQ:2-メトキシハイドロキノン(富士フィルム和光純薬株式会社製)
BHT:2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(川口化学工業株式会社製)
TBC:4-tert-ブチルカテコール(富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0020】
<ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリマー分の分析>
東ソー株式会社製HLC-8320を用いてポリマー分の定量を行った。LiSSの溶液を採取し、水で希釈して1.0wt%溶液を調製し、以下の条件でGPC測定を行った。ポリスチレンスルホン酸リチウムを用いて作成した検量線から、ポリマー分を算出した。
カラム:ガードカラムAW-H+TSK AW-6000+TSK AW-3000+TSK AW-2500
溶離液:硫酸ナトリウム水溶液(0.2M)/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液
流速・注入量・カラム温度:0.6ml/min、注入量:10μl、カラム温度:40℃
検出器:UV検出器(波長230mn)
検量線(ポリスチレンスルホン酸リチウムの分子量計算)
:標準ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(創和科学製)
尚、上記したポリスチレンスルホン酸リチウムは、市販のLiSSを水中でラジカル重合し、アセトンでポリマーを回収後、真空乾燥して調製した。
また、図1図3に示される通り、Y軸(縦軸)のUV(230nm)吸収ピーク面積(単位は%)とは、GPCチャートから導かれるピークの合計面積における、符号1,2,3の各ピークの相対的な面積%を示す。
さらに、符号1で示されるピークは溶出時間9分~12分の間のピークはポリスチレンスルホン酸リチウム由来(すなわち帰属)、符号2で示されるピークは溶出時間14分~16分の間のピークはパラスチレンスルホン酸リチウムの異性体由来、符号3で示されるピークは溶出時間16分~18分の間の主ピークはパラスチレンスルホン酸リチウム由来を表す。
従って、実施例においては、溶出時間14分までにピークがあればそれはポリマー分を意味することになる。例えば図2図3では溶出時間9分~12分に認められるピークをポリマー分として算出した。
【0021】
<スチレンスルホン酸リチウム溶液の粘度測定>
ブルックフィールド粘度計LVDV2T(英弘精機株式会社製)を用い常温で測定した。
【0022】
<ポリマーの組成分析>
炭素、水素、窒素の定量:元素分析計にて測定した。
イオウ分:酸素フラスコ燃焼法で燃焼吸収処理した後、イオンクロマトグラフィー測定により硫酸イオンを定量し、イオウ分に換算した
金属分:乾燥物を硫酸及び硝酸で湿式分解後、ICP-AESにてリチウム分を定量した。
【0023】
比較例1
100mlのガラス製三角フラスコにLiSS21.07g、イオン交換水29.11gを採取し(LiSS純分濃度は37.2wt%)、冷却コンデンサーを取り付けた後、磁気撹拌子で内容物を攪拌しながら、60℃の湯浴で加熱した。この際、窒素置換は行わなかった。一定時間毎に内容物をガラスピペットで採取し、GPC分析を行った。
【0024】
その結果、10時間加熱攪拌してもポリマー分の増加は見られず(表1及び図1)、溶液粘度も3.2mPa・sと低かった、市販のLiSSは水溶液中で容易に自然重合することはなく、安定であることを確認した。
ここで、図1は試料をGPC測定した結果である。その結果から、溶出時間16分~18分の間の主ピークはパラスチレンスルホン酸リチウム由来であり、14分~16分の間のピークはパラスチレンスルホン酸リチウムの異性体由来のものである。図1では、溶出時間14分より前にポリマー由来のピークは見られなかった。
【0025】
比較例2
保存温度を60℃から20℃へ変更した以外は、全て比較例1と同じ条件で、LiSSの自然重合性を調べた。その結果、20℃では少なくとも72hは自然重合しないことを確認した(表1)。
【0026】
比較例1及び比較例2の結果を表1に示した。
【表1】
【0027】
比較例3
100mlのガラス製三角フラスコにLiSS17.14g、NMP23.85gを採取し(LiSS純分濃度は37.05wt%)、冷却コンデンサーを取り付けた後、磁気撹拌子で内容物を撹拌しながら、60℃の湯浴で加熱した。この際、窒素置換は行わなかった。一定時間毎に内容物をガラスピペットで採取し、GPC分析を行った。
【0028】
その結果、0.5時間の加熱で明らかにポリマー分が増加し(表2及び図2)、1時間後の溶液粘度は32mPa・sまで増大していた。GPCで検出されたピークの重量平均分子量は19.7万に相当した。当該溶液に含まれるポリマーをアセトンを用いて再沈精製し、60℃で4時間真空乾燥後、組成分析を行った結果、炭素/水素/イオウ/リチウム/窒素含量の比は、50.1/3.5/16.4/3.5/(0.3以下)wt%であり、理論値50.5/3.7/16.9/3.7/0.0wt%と良く一致しており、ポリマーがLiSSの重合物であることは明白である。
以上のことから、市販のLiSSは水溶液中では安定だが、NMP中では自然重合し易く、不安定であることが明らかである。尚、全表中の計算値とは、仕込み重量からの計算値を意味する。
ここで、図2は試料をGPC測定した結果である。その結果から、溶出時間16分~18分の間の主ピークはパラスチレンスルホン酸リチウム由来であり、14分~16分の間のピークはパラスチレンスルホン酸リチウムの異性体由来であり、9分~12分の間のピークはポリスチレンスルホン酸リチウム由来である。
【0029】
比較例4
保存温度を60℃から20℃へ変更した以外は、全て比較例3と同じ条件で、LiSSの自然重合性を調べた。その結果、20℃でも24hで0.16wt%、48hで6.68wt%、72hで24.68wt%のポリマー分が生成した。よって、市販のLiSSは水溶液中では安定だが、NMP中では20℃でも自然重合し、不安定であることが明らかである。
【0030】
比較例5~6
比較例3と同様の操作で、LiBrの添加効果を調べた。その結果、水分を加えず、LiBrのみを添加しても、自然重合は抑制できないことが明らかである(表2)。
【0031】
比較例7~8
比較例3と同様の操作で、重合禁止剤として知られているLiNO(例えば、特開平10-152465号公報)の添加効果を調べた。その結果、水分を加えず、LiNOのみを添加しても、自然重合は抑制できないことが明らかである(表2)。
【0032】
比較例9~10
比較例3と同様の操作で、一般的な重合禁止剤として知られているMEHQの添加効果を調べた。その結果、MEHQの添加によってポリマー分の生成が減少したことから、重合抑制効果は確かにあるが、水分を添加した実施例9、10と比較してその効果は小さいことが明らかである(表2)。
【0033】
比較例3及び比較例5~10の結果を表2に示した。
【表2】
【0034】
比較例11~13
有機溶媒をNMPからDMF、DMAc又はDMSOへ変更した以外は全て比較例3と同様の操作で、LiSS溶液の安定性を調べた。その結果、NMPと同様、0.5時間の加熱で明らかにポリマー分が増加した(表3)。よって、市販のLiSSは水溶液中では安定だが、DMF、DMAc及びDMSO中では自然重合し易く、不安定であることが明らかである。
【0035】
比較例14
100mlのガラス製ナス型フラスコにLiSS17.15g、NMP23.85gを採取し(LiSS純分濃度は37.06wt%)、アスピレータ減圧/窒素ガス導入の操作を10回繰り返した後、脱気冷却コンデンサーを取り付け、磁気撹拌子で内容物を攪拌しながら、60℃の湯浴で加熱した。一定時間毎に内容物をガラスピペットで採取し、GPC分析を行った。
その結果、窒素置換しなかった比較例3と比較して明らかにポリマー分が増加した(表3)。よって、市販のLiSSはNMP中では自然重合し易いが、不活性ガス雰囲気下ではさらに自然重合し易く、不安定であることが明らかである。
【0036】
比較例11~14の結果を表3に示した。
【表3】
【0037】
実施例1
100mlのガラス製三角フラスコにLiSS17.14g、NMP23.85g、LiBrの10.00wt%NMP溶液2.00g及びイオン交換水0.30gを採取し(LiSS純分濃度は35.08wt%)、冷却コンデンサーを取り付けた後、磁気撹拌子で内容物を攪拌しながら、60℃の湯浴で加熱した。この際、窒素置換は行わなかった。一定時間毎に内容物をガラスピペットで採取し、GPC分析を行った。
【0038】
その結果、水分を加えなかった比較例5、6と比較して、明らかにポリマー分の増加が抑制された(表4及び図3)。LiSSに対して103.1モル%の水分及び6.6モル%のLiBrの相乗効果により重合が抑制されたと考えられる。
ここで、図3は試料をGPC測定した結果である。その結果から、溶出時間16分~18分の間の主ピークはパラスチレンスルホン酸リチウム由来であり、14分~16分の間のピークはパラスチレンスルホン酸リチウムの異性体由来であり、9分~12分の間のピークはポリスチレンスルホン酸リチウム由来である。
【0039】
実施例2
LiBrを添加せず、水分のみ増量した他は全て実施例1と同様の操作を行った。その結果、水分を加えなかった比較例3と比較して、明らかにポリマー分の増加が抑制された(表4)。LiSSに対して137.9モル%の水分が重合抑制に寄与していると考えられる。
【0040】
実施例3~5
NMPの代わりにDMF、DMAc又はDMSOを用い、水分を調整して実施例2と同様の操作でLiSS溶液の安定性を調べた。その結果、水分を加えなかった比較例11~13と比較して、明らかにポリマー分の増加が抑制された(表4)。LiSSに対して193.5~200.4モル%の水分が重合抑制に寄与していると考えられる。
【0041】
実施例1~5の結果を表4に示した。
【表4】
【0042】
実施例6
実施例1と同様の操作で、LiBrと水分を増量し、LiSS溶液の安定性を調べた。その結果、比較例5と比較してポリマー分の増加が大きく抑制されたが、実施例1と比較してもさらに重合が抑制された(表5)。LiSSに対して137.9モル%の水分及び8.8モル%のLiBrの相乗効果で重合が抑制されたと考えられる。
【0043】
実施例7
実施例6と同様の操作で、LiBrを増量し、LiSS溶液の安定性を調べた。その結果、比較例5、6と比較してポリマー分の増加が抑制されたが、実施例6と比較しても、さらに4時間後のポリマー分が低減した(表5)。LiSSに対して137.9モル%の水分及び9.5モル%のLiBrの相乗効果で重合が抑制されたと考えられる。
【0044】
実施例8
実施例6と同様の操作で、LiBrを減量し、水分を増量してLiSS溶液の安定性を調べた。その結果、実施例6と比較して、さらに4時間後のポリマー分が低減した(表5)。LiSSに対して191.2モル%の水分及び7.2モル%のLiBrの相乗効果で重合が抑制されたと考えられる。
【0045】
実施例9
実施例2と同様の操作で、MEHQを加えてLiSS溶液の安定性を調べた。その結果、水分を加えなかった比較例9と比較して、明らかにポリマー分の増加が抑制された(表5)。LiSSに対して137.9モル%の水分と10.1ppmのMEHQの相乗効果で重合が抑制されたと考えられる。
【0046】
実施例10
実施例9と同様の操作で、MEHQを増量してLiSS溶液の安定性を調べた。その結果、水分を加えなかった比較例10と比較して、明らかにポリマー分の増加が抑制された(表5)。LiSSに対して137.9モル%の水分と20.2ppmのMEHQの相乗効果で重合が抑制されたと考えられる。
【0047】
実施例11
100mlのガラス製ナス型フラスコにLiSS17.50g、NMP21.60g、LiBrの10.00wt%NMP溶液2.50g、イオン交換水1.60gを採取し(LiSS純分濃度は35.89wt%)、アスピレータ減圧/窒素ガス導入の操作を10回繰り返した後、脱気冷却コンデンサーを取り付け、磁気撹拌子で内容物を攪拌しながら、60℃の湯浴で加熱した。一定時間毎に内容物をガラスピペットで採取し、GPC分析を行った。
その結果、脱気操作せず空気雰囲気下で加熱した実施例8と同等の安定性が確認された(表5)。LiSSに対して191.2モル%の水分及び7.2モル%のLiBrの相乗効果で重合が抑制されたと考えられる。
【0048】
実施例6~11の結果を表5に示した。
【表5】
【0049】
比較例15
市販のLiSS300.00g、アセトン300.00gを1Lガラスセパラブルフラスコに採取し、攪拌羽根を用い常温で30分攪拌後、5Aの濾紙でヌッチェ濾過し、LiSSを回収した。LiSSを40℃で5時間真空し、精製LiSS269.47gを得た。精製LiSSの純分は92.2wt%、臭化リチウム0.25wt%、水酸化リチウム0.12wt%、硫酸リチウム分0.3wt%、水分6.7wt%、ポリマー分0.05wt%であった。
比較例3と同様に、100mlのガラス製三角フラスコにLiSS16.10g、NMP 25.00gを採取し(LiSS純分濃度は36.12wt%)、冷却コンデンサーを取り付けた後、磁気撹拌子で内容物を攪拌しながら、60℃の湯浴で加熱した。この際、窒素置換は行わなかった。一定時間毎に内容物をガラスピペットで採取し、GPC分析を行った。
その結果、比較例3と比較して明らかにポリマーの生成量が増加した(表6)。よって、NMP溶液中の水分、臭化リチウム分が少ないと、LiSSはより自然重合し易くなることが明らかである。
【0050】
実施例12
100mlのガラス製三角フラスコに、比較例15で得た精製LiSS16.10g、NMP24.00g及びイオン交換水1.70gを採取し(LiSS純分濃度は35.51wt%)、冷却コンデンサーを取り付けた後、磁気撹拌子で内容物を攪拌しながら、60℃の湯浴で加熱した。この際、窒素置換は行わなかった。一定時間毎に内容物をガラスピペットで採取し、GPC分析を行った。
その結果、比較例15と比較して明らかにポリマーの生成量が減少した(表6)。LiSSに対して197.7モル%の水分で重合が抑制されたと考えられる。
【0051】
実施例13
100mlのガラス製三角フラスコに、比較例15で得た精製LiSS16.10g、NMP20.00g、LiBrの10.00wt%NMP溶液4.00g及びイオン交換水1.70gを採取し(LiSS純分濃度は35.51wt%)、冷却コンデンサーを取り付けた後、磁気撹拌子で内容物を攪拌しながら、60℃の湯浴で加熱した。この際、窒素置換は行わなかった。一定時間毎に内容物をガラスピペットで採取し、GPC分析を行った。
その結果、比較例15と比較して明らかにポリマーの生成量が減少し、さらに実施例12よりも重合が抑制されていることが明らかである(表6)。LiSSに対して197.7モル%の水分及び6.5モル%のLiBrの相乗効果で重合が抑制されたと考えられる。
【0052】
実施例14
100mlのガラス製三角フラスコに、比較例15で得た精製LiSS16.10g、NMP24.00g、MEHQの1.00wt%NMP溶液0.01g及びイオン交換水1.70gを採取し(LiSS純分濃度は35.50wt%)、冷却コンデンサーを取り付けた後、磁気撹拌子で内容物を攪拌しながら、60℃の湯浴で加熱した。この際、窒素置換は行わなかった。一定時間毎に内容物をガラスピペットで採取し、GPC分析を行った。
その結果、比較例9~10と比較して明らかにポリマーの生成量が減少し、実施例12よりもさらに重合が抑制されていることが明らかである(表6)。LiSSに対して197.7モル%の水分及び10.3ppmのMEHQの相乗効果で重合が抑制されたと考えられる。
【0053】
実施例15
MEHQの1.00wt%NMP溶液0.01gの代わりにBHTの1.0wt%NMP溶液0.02gを添加した他は全て実施例14と同じ条件でLiSS溶液の安定性を調べた。
その結果、比較例9~10と比較して明らかにポリマーの生成量が減少し、さらに実施例12よりも重合が抑制されていることが明らかである(表6)。LiSSに対して197.7モル%の水分及び11.6ppmのBHTの相乗効果で重合が抑制されたと考えられる。
【0054】
実施例16
100mlのガラス製三角フラスコに、比較例15で得た精製LiSS17.00g、NMP17.00g、MEHQの1.00wt%NMP溶液0.02g及びイオン交換水1.80gを採取し(LiSS純分濃度は43.76wt%)、冷却コンデンサーを取り付けた後、磁気撹拌子で内容物を攪拌しながら、60℃の湯浴で加熱した。この際、窒素置換は行わなかった。一定時間毎に内容物をガラスピペットで採取し、GPC分析を行った。
その結果、比較例9~10と比較して明らかにポリマーの生成量が減少し、重合が抑制されていることが明らかである(表6)。LiSSに対して198.0モル%の水分及び19.5ppmのMEHQの相乗効果で重合が抑制されたと考えられる。
【0055】
実施例17
MEHQの1.00wt%NMP溶液0.01gの代わりにTBCの1.0wt%NMP溶液0.01gを添加した他は全て実施例14と同じ条件でLiSS溶液の安定性を調べた。
その結果、比較例9~10と比較して明らかにポリマーの生成量が減少し、さらに実施例12よりも重合が抑制されていることが明らかである(表6)。LiSSに対して197.7モル%の水分及び7.7ppmのTBCの相乗効果で重合が抑制されたと考えられる。
【0056】
比較例15及び実施例12~17の結果を表6に示した。
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のスチレンスルホン酸リチウムの極性有機溶剤溶液は、高濃度の重合禁止剤を含まないにも関わらず極めて安定であり、従来の課題だった自然重合が抑制されているため、高分子電解質膜や電子回路基板向け特殊コーティングなどを安定且つ再現良く製造することが可能となるため、産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 溶出時間9分~12分の間のピーク
2 溶出時間14分~16分の間のピーク
3 溶出時間16分~18分の間の主ピーク
図1
図2
図3