(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025202
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】継目板の傾き測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/26 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
G01B11/26 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127875
(22)【出願日】2020-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】古川 侑里
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA37
2F065AA52
2F065CC35
2F065DD06
2F065FF04
2F065FF07
2F065FF09
2F065GG04
2F065GG16
2F065HH05
2F065HH13
2F065JJ03
2F065JJ26
2F065MM07
2F065MM14
2F065MM24
2F065PP22
2F065QQ13
(57)【要約】
【課題】車両に搭載された距離センサの計測値に基づいて、継目板ボルトの破損に繋がる継目板の傾きを測定することができる継目板の傾き測定方法を提供する。
【解決手段】鉄道軌道に敷設されているレールの腹部に取り付けられている継目板の傾きを、距離センサを備えた車両が走行しながら取得した軌道材料の距離画像データに基づいて測定する継目板の傾き測定方法において、前記距離画像データに基づいて、継目板の下縁部上面の傾きとレールの底部上面の傾きをそれぞれ算出し、算出された前記継目板の下縁部上面の傾きと前記レールの底部上面の傾きとの差を継目板のレールに対する傾きとして求めるようにした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道軌道に敷設されているレールの腹部に取り付けられている継目板の傾きを、距離センサを備えた車両が走行しながら取得した軌道材料の距離画像データに基づいて測定する継目板の傾き測定方法であって、
前記距離画像データに基づいて、前記継目板の下縁部上面の傾きと前記レールの底部上面の傾きをそれぞれ算出し、
算出された前記継目板の下縁部上面の傾きと前記レールの底部上面の傾きとの差を前記継目板の前記レールに対する傾きとすることを特徴とする継目板の傾き測定方法。
【請求項2】
鉄道軌道に敷設されているレールの腹部に取り付けられている継目板の傾きを、距離センサを備えた車両が走行しながら取得した軌道材料の距離画像データに基づいて測定する継目板の傾き測定方法であって、
前記距離画像データより、前記継目板の画像領域を検出して継目板およびレール底部を含む所定範囲の距離画像データを抽出する第1ステップと、
前記第1ステップで抽出された前記距離画像データに基づいて、前記継目板の一端から他端までの全行について隣接するピクセル間の輝度の差分を算出する第2ステップと、
前記輝度の差分が予め設定されたしきい値範囲に入っているか判定することで、前記継目板の下縁部の上面領域の境界を検出する第3ステップと、
前記輝度の差分が予め設定されたしきい値範囲入っているか判定することで、前記レールの底部の上面領域の境界を検出する第4ステップと、
前記第3ステップで検出された前記継目板の下縁部の上面領域の境界に基づいて、抽出された前記距離画像データから前記継目板の下縁部上面の距離画像データを特定し、当該継目板の下縁部上面の傾きを算出する第5ステップと、
前記第4ステップで検出された前記レール底部の上面領域の境界に基づいて、抽出された前記距離画像データから前記レールの底部上面の距離画像データを特定し、当該レールの底部上面の傾きを算出する第6ステップと、
前記第5ステップで算出された前記継目板の下縁部上面の傾きと前記第6ステップで算出された前記レールの底部上面の傾きとの差をとることで、前記継目板の前記レールに対する傾きを算出する第7ステップと、
を含むことを特徴とする継目板の傾き測定方法。
【請求項3】
前記第5ステップにおいては、前記第3ステップで検出された前記継目板の下縁部の上面領域の境界に基づいて、抽出された前記距離画像データから前記継目板の下縁部上面の距離画像データを抽出し、当該継目板の長手方向に沿った輝度の平均値を算出し、算出された輝度の平均値に基づいて前記継目板の下縁部上面の傾きを算出し、
前記第6ステップにおいては、前記第4ステップで検出された前記レールの底部上面領域の境界に基づいて、抽出された前記距離画像データから前記レールの底部上面の距離画像データを抽出し、当該レールの長手方向に沿った距離画像データの平均値を算出し、算出された輝度の平均値に基づいて前記レールの底部上面の傾きを算出することを特徴とする請求項2に記載の継目板の傾き測定方法。
【請求項4】
前記第5ステップにおいては、継目板の長手方向に沿った前記継目板の下縁部上面の前記輝度の平均値に基づいて行方向にそれぞれ差分をとり、前記継目板の下縁部上面の差分の順序統計量を代表値として決定し、決定された前記代表値に基づいて前記継目板の下縁部上面の傾きを算出し、
前記第6ステップにおいては、レールの長手方向に沿ったレールの底部上面の前記輝度の平均値に基づいて行方向にそれぞれ差分をとり、前記レールの底部上面の差分の中央値を代表値として決定し、決定された前記代表値に基づいて前記レールの底部上面の傾きを算出することを特徴とする請求項3に記載の継目板の傾き測定方法。
【請求項5】
前記第5ステップおよび前記第6ステップにおいては、前記距離画像データのピクセルの大きさをrで表わし、前記代表値としての差分をΔHとしたとき、前記継目板の下縁部上面の傾きαおよび前記レールの底部上面の傾きβを、tan-1(ΔH/r)なる式を用いてそれぞれ算出することを特徴とする請求項4に記載の継目板の傾き測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道軌道に敷設されたレールの腹部に設けられた継目板の傾き測定方法に関し、特に列車に搭載された軌道材料までの距離を計測する距離センサにより取得したデータに基づいて継目板の傾きを測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道軌道においては、レールとレールとの接続部にレール同士を接続する継目板がレールの腹部に設けられており、継目板が外れると輸送障害を引き起こすおそれがあるので、継目板の異常の検出は軌道の保守において極めて重要である。
一般に、継目板はボルトによってレールの両腹部に取り付けられており、ボルトが折損することが継目板の脱落の一番の原因である。そこで、継目板ボルトの折損を、目視もしくはカメラで撮影した画像により発見して交換する事後保全的な管理を行っているのが現状である。しかし、目視による継目板ボルトの折損の発見は多くの人手と労力を必要とするため、省力化が望まれている。画像による継目板ボルトの折損の検出は省力化が可能であるが、継目板ボルトの破損を予測することは困難である。
【0003】
そのため、人手を要することなく、継目板ボルトが破損する前に緩み等の異常をいち早く検出することが求められている。なお、通常はレールRの左右に取り付けられる一対の継目板J1,J2は、
図6に点線で示すように平行に設置されるが、継目板J1,J2に傾き(鉛直方向に対する偏角)が生じていると、実線で示すように左右の継目板J1,J2の平行度が損なわれ、継目板ボルトBが折損し易くなることが報告されている。
従って、継目板J1,J2の傾きまたは平行度を測定できれば、ボルトBが折損に至る前に予防保全を行うことができるので有効であるが、継目板の傾きや平行度を測定する装置は実用化されておらず、1つ1つ人手で行う必要があり、非常に多くの労力を要するため継目板の傾き(平行度)を検出して管理を行うに至っていない。
【0004】
なお、従来、レール継目板の検出を容易かつ確実に行えるようにするための継目板検出装置に関する発明が提案されている(特許文献1参照)。また、レール締結装置や継目板、軌道パッドの異常を検出するため、営業車に搭載して軌道部品の3次元形状データを取得することにより、劣化トレンドを観測してメンテナンスタイミングを的確に予測したり、3次元形状データを距離画像に変成して表示することにより軌道部品の異常を発見したりできるようにした発明も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-332324号公報
【特許文献2】特開2011-214933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の発明の検出装置にあっては、レール継目板の有無を検出することはできるものの、継目板の傾きを測定することはできない。また、特許文献2の発明にあっては、軌道部品に関する距離画像を表示することはできるものの、継目板の傾きを測定することはできない。仮に、継目板が傾いた距離画像を表示できたとしても、継目板ボルトの緩みにつながる傾きであるか否かは人が見て判断しなければならいないため、充分な省力化が達成されていないという課題がある。
【0007】
そこで、本発明者らは、列車に搭載されている軌道材料モニタリング装置に、軌道材料までの距離を検出するプロファイルカメラ(レーザーを使用した距離計)が設けられていることに着目して、継目板までの距離測定値に基づいて継目板の傾きを算出することを検討した。しかし、曲線部(カーブ箇所)の軌道にはカントと呼ばれる高低差が設けられており、レールに対する車体側のレーザー距離計(距離センサ)の傾きが平坦な箇所での傾きとは異なってしまうため、軌道のカーブ箇所では継目板の傾きを正確に測定することが困難であるという課題があることが明らかになった。
【0008】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、車両に搭載された距離センサの計測値に基づいて、継目板ボルトの破損に繋がる継目板の傾きを測定することができる継目板の傾き測定方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、軌道のカーブ箇所においても継目板の傾きを正確に測定することができる継目板の傾き測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、この発明は、
鉄道軌道に敷設されているレールの腹部に取り付けられている継目板の傾きを、距離センサを備えた車両が走行しながら取得した軌道材料の距離画像データに基づいて測定する継目板の傾き測定方法において、
前記距離画像データに基づいて、前記継目板の下縁部上面の傾きと前記レールの底部上面の傾きをそれぞれ算出し、
算出された前記継目板の下縁部上面の傾きと前記レールの底部上面の傾きとの差を前記継目板の前記レールに対する傾きとするようにしたものである。
【0010】
上記の方法によれば、距離センサにより取得した輝度データに基づいて継目板の傾きを算出することができるため、多くの労力を要することなく継目板ボルトの破損に繋がる継目板の傾きを発見することができる。また、レールに対する継目板の相対的な傾きを求めることができるため、レールに対する距離センサの検出軸の傾きが平坦な箇所と異なる軌道のカーブ箇所においても、継目板の傾きを正確に測定することができる。
【0011】
より具体的には、鉄道軌道に敷設されているレールの腹部に取り付けられている継目板の傾きを、距離センサを備えた車両が走行しながら取得した軌道材料の距離画像データに基づいて測定する継目板の傾き測定方法において、
前記距離画像データより、前記継目板の画像領域を検出して継目板およびレール底部を含む所定範囲の距離画像データを抽出する第1ステップと、
前記第1ステップで抽出された前記距離画像データに基づいて、前記継目板の一端から他端までの全行について隣接するピクセル間の輝度の差分を算出する第2ステップと、
前記輝度の差分が予め設定されたしきい値範囲に入っているか判定することで、前記継目板の下縁部の上面領域の境界を検出する第3ステップと、
前記輝度の差分が予め設定されたしきい値範囲入っているか判定することで、前記レールの底部の上面領域の境界を検出する第4ステップと、
前記第3ステップで検出された前記継目板の下縁部の上面領域の境界に基づいて、抽出された前記距離画像データから前記継目板の下縁部上面の距離画像データを特定し、当該継目板の下縁部上面の傾きを算出する第5ステップと、
前記第4ステップで検出された前記レール底部の上面領域の境界に基づいて、抽出された前記距離画像データから前記レールの底部上面の距離画像データを特定し、当該レールの底部上面の傾きを算出する第6ステップと、
前記第5ステップで算出された前記継目板の下縁部上面の傾きと前記第6ステップで算出された前記レールの底部上面の傾きとの差をとることで、前記継目板の前記レールに対する傾きを算出する第7ステップと、を含むようにする。
【0012】
かかる方法によれば、継目板の上縁部の境界とレールの底部の境界情報を取得して、距離センサにより取得した距離画像データの中から、継目板の上縁部上面の輝度データとレールの底部上面の輝度データを抽出することができる。そのため、それぞれの輝度データから継目板の上縁部上面の傾きとレールの底部上面の傾きを算出して、レールに対する継目板の相対的な傾きを正確に求めることができる。
【0013】
また、望ましくは、前記第5ステップにおいては、前記第3ステップで検出された前記継目板の下縁部の上面領域の境界に基づいて、抽出された前記距離画像データから前記継目板の下縁部上面の距離画像データを抽出し、当該継目板の長手方向に沿った輝度の平均値を算出し、算出された輝度の平均値に基づいて前記継目板の下縁部上面の傾きを算出し、
前記第6ステップにおいては、前記第4ステップで検出された前記レールの底部上面領域の境界に基づいて、抽出された前記距離画像データから前記レールの底部上面の距離画像データを抽出し、当該レールの長手方向に沿った距離画像データの平均値を算出し、算出された輝度の平均値に基づいて前記レールの底部上面の傾きを算出するようにする。
【0014】
このような方法によれば、使用する距離センサから得られる輝度データの高さ方向の解像度が粗い場合であっても、平均値をとることで解像度を向上させることができ、より精度の高い継目板の傾きを算出することができる。
【0015】
さらに、望ましくは、前記第5ステップにおいては、継目板の長手方向に沿った前記継目板の下縁部上面の前記輝度の平均値に基づいて行方向にそれぞれ差分をとり、前記継目板の下縁部上面の差分の中央値ないしは四分位値などの順序統計量を代表値として決定し、決定された前記代表値に基づいて前記継目板の下縁部上面の傾きを算出し、
前記第6ステップにおいては、レールの長手方向に沿ったレールの底部上面の前記輝度の平均値に基づいて行方向にそれぞれ差分をとり、前記レールの底部上面の差分の中央値を代表値として決定し、決定された前記代表値に基づいて前記レールの底部上面の傾きを算出するようにする。
【0016】
かかる方法によれば、継目板の下縁部上面の差分の中央値とレールの底部上面の差分の中央値ないしは四分位値などの順序統計量をそれぞれ代表値とし、その代表値に基づいて継目板のレールに対する傾きを算出するため、継目板の下縁部やレール底部の裾の湾曲部のデータが傾きの算出に影響しないようにすることができ、それによって精度の高い継目板の傾きを算出することができる。
さらに、前記第5ステップおよび前記第6ステップにおいては、前記距離画像データのピクセルの大きさをrで表わし、前記代表値としての差分をΔHとしたとき、継目板の下縁部上面の傾きαおよびレールの底部上面の傾きβを、tan-1(ΔH/r)なる式を用いてそれぞれ算出するようにすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の継目板の傾き測定方法によれば、車両に搭載された距離センサの計測値に基づいて、継目板ボルトの破損に繋がる継目板の傾きを測定することができる。また、軌道のカーブ箇所においても継目板の傾きを正確に測定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】列車に搭載された軌道材料モニタリング装置における距離センサの設置例を示す概略正面図である。
【
図2】測定対象の継目板とレールとの関係を示す概略図である。
【
図3】軌道材料モニタリング装置に設けられている距離センサにより取得されたレール幅方向の輝度変化の一例および隣接するピクセルの輝度値の差分の変化を示すグラフである。
【
図4】本発明の継目板の傾き測定方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】(A)は距離画像データに基づくある行の行方向の輝度の変化と列方向平均化処理後の輝度の変化を示すグラフ、(B)輝度値の差分と傾きとの関係を示す図である。
【
図6】本発明の継目板の傾き測定方法の対象となる継目板の正常と異常の状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明を、列車に搭載された軌道材料モニタリング装置に設けられている距離センサにより取得されたデータを使用して継目板の傾きを測定する場合に適用した実施形態について詳細に説明する。
なお、本発明を適用する際に用いられる距離センサは、対象物までの距離を測定できるものであれば、レーザー距離計などどのような種類のものでも良いが、本実施形態では、測定対象物までの距離を輝度値で表わした距離画像データとして出力するプロファイルカメラや深度センサもしくはデプスカメラのようなセンサを使用するものとして説明する。
【0020】
また、距離センサの取り付け方に関しては、
図1に示すように、軌道上の一対のレールR1,R2の両側部に対応して、対をなす距離センサS1,S2をそれぞれ下向きにして設けるのが望ましい。なお、
図1において、符号RCで示されているのは、レール締結装置である。
既存の営業列車には、距離を測定できるプロファイルカメラや濃淡が分かるラインセンサカメラを備えた軌道材料モニタリング装置を搭載し、走行中に軌道の状態を取得し記憶装置に記憶するものがあるので、そのような軌道材料モニタリング装置のプロファイルカメラで取得したデータを使用して継目板の傾きを測定するようにしても良い。
【0021】
実施形態の説明の前に、本発明の継目板の傾き検出方法の考え方を説明する。
前述したように、曲線部(カーブ箇所)の軌道にはカントが設けられており、レールに対する車体側の距離センサの検出軸の傾きが平坦な箇所での傾きとは異なってしまうため、軌道のカーブ箇所では継目板の傾きを正確に測定することが困難である。一方、カーブ箇所においても平坦な箇所においても、継目板がレールの腹部に正しく取り付けられている場合には、
図2に示すように、レールRの底部(下部フランジ)の上面F1の角度βと継目板Jの下縁部(下部張り出し部)の上面F2の角度αはほぼ等しく、F1に対するF2の相対的な角度は一定(ほぼ0°)である。
【0022】
そこで、距離センサからレールRの底部上面F1と継目板Jの下縁部上面F2までの距離を測定してそれぞれの角度を算出し、差分をとることでカントの影響をなくして継目板のレールに対する相対的な傾きを算出することとした。そのためには、距離センサの測定データから、レールRの底部上面F1と継目板Jの下縁部上面F2の部分の距離データを抽出する必要がある。
距離センサが距離を輝度として表わした距離画像データとして出力するセンサの場合、取得された距離画像データにおいて、レールRの頭部と継目板Jの上縁部(上部張り出し部)との境界#1、継目板Jの上縁部と下縁部との境界#2、継目板Jの下縁部とレールRの底部(下部フランジ)との境界#3で、輝度がそれぞれ大きく変化するため、輝度の差分にピークが表われることが予想される。
【0023】
そこで、本発明者らは、軌道材料モニタリング装置に設けられている距離センサにより取得された距離画像データから継目板領域のデータを抽出して、レール幅方向に沿ってピクセル間の輝度の差分をとってグラフとして表わしてみた。
図3にそのグラフを示す。このうち、
図3(A)は各ピクセルの輝度値の変化、
図3(B)は隣接するピクセルの輝度の差分の変化である。
図3より、各境界#1、#2、#3、#4に、輝度の差分のピークが表われていることが分かる。なお、#4はレールRの底部とレール締結装置等の部品(
図2のP)との境界である。
【0024】
さらに、本発明者らは、距離センサにより取得された他の継目板の距離画像データについても上記同様な処理をしてグラフに表してみたところ、同様にして各境界#1、#2、#3、#4に、輝度の差分のピークが表われていることが明らかになった。そして、統計処理を行なったところ、
図3(B)に示すように、しきい値LDth1,LDth2,LDth3,LDth0を設定することによって、各境界#1、#2、#3を検出できることを見出した。従って、距離センサの測定データからレールRの底部上面F1と継目板Jの下縁部上面F2の部分を抽出することができ、レールRの底部上面F1と継目板Jの下縁部上面F2のそれぞれの角度を算出し、差分をとることで継目板のレールに対する傾きを算出することができることが分かった。
【0025】
次に、上記知見を利用した本発明に係る継目板の傾き測定方法の具体的な手順の一例について、
図4のフローチャートを用いて説明する。
図4の傾き測定処理においては、先ず距離センサにより取得された距離画像データを記憶装置から読み出してレールの裾位置を検出する(ステップS1)。次に、読み出された距離画像データから継目板の領域を検出して、レール頭部のエッジ(#1)からレール底部の裾位置(#4)までの画像を抽出する(ステップS2)。続いて、継目板の上端から下端までの全行について、隣接するピクセル間の輝度の差分を算出する(ステップS3)。
【0026】
その後、継目板の上端から下端までの各行について、ステップS3で算出した輝度の差分が、
図3(B)に示されているしきい値LDth1とLDth2との間に該当するものを見つける(ステップS4)。LDth1とLDth2は、継目板の上縁部と下縁部との境界#2を見つけるためのしきい値であり、着目する行の差分データにLDth1とLDth2との間に該当するものがないということは、継目板ボルト等の陰に隠れているためと考えられるので、ステップS4で「No(ない)」と判定したときはステップS8へ移行して当該差分データを除外してステップS4へ戻り次の行について判定を実行する。
【0027】
一方、ステップS4で「Yes(ある)」と判定したときはステップS5へ進んで、しきい値LDth0とLDth1との間に該当するものを見つける。LDth0とLDth1は、継目板の下縁部とレール底部との境界#3を見つけるためのしきい値であり、着目する行の差分データにLDth0とLDth1との間に該当するものがないということは、判別が不能なデータであると考えられるので、ステップS5で「No(ない)」と判定したときはステップS8へ移行して当該差分データを除外してステップS4へ戻り次の行について判定を実行する。
【0028】
また、ステップS5で「Yes(ある)」と判定したときはステップS6へ進んで、しきい値LDth3よりも大きな差分データであるか否か判定する。ここで、しきい値LDth3よりも大きな差分データは、継目板の構造上ありえないので、ステップS6で「Yes(ある)」と判定したときは、異常値とみなしてステップS8へ移行して当該差分データを除外してステップS4へ戻り次の行について判定を実行する。
ステップS6で「No(ない)」と判定したときはステップS7へ進んで、継目板の上端から下端までの全行の差分データについて判定が終了したか否か判定し、終了していない(No)ときはステップS4へ戻って次の行について判定し、全行について終了した(Yes)ときはステップS9へ移行する。
【0029】
ステップS9では、ステップS4~S6の条件を満たした継目板下縁部の範囲の行の輝度について、列方向(継目板の長手方向)の平均をとる平均化処理を行い、次のステップS10では、ステップS9で平均化した輝度の行方向の差分をとり、差分データ群の中から差分の中央値を代表値とする。輝度の列方向の平均をとるのは、使用する距離センサの高さ方向の解像度が、例えば1mm/1諧調のように粗い場合に、取得した輝度データをそのまま使用すると傾き測定精度が悪くなるためである。
【0030】
図5(A)に、ある行の行方向の輝度値と、ステップS9の平均化処理をして得られた行方向の平均輝度値の例を示す。
図5(A)において、●印はある行の行方向の輝度値をプロットしたもの、□印は平均化処理をした行方向の平均輝度値をプロットしたものである。
図5(A)より、平均化する前の行方向の輝度値は1諧調ずつ変化しているのに対し、平均輝度値は1諧調よりも狭い幅で変化することが分かる。
また、ステップS10で差分の中央値を代表値とするのは、
図2の#2-#3の範囲を見ると分かるように、継目板下縁部の終端側は湾曲しているため、この湾曲を含んで継目板下縁部の上面の傾きを算出すると誤差が生じるためである。中央値をとる代わりに、四分位値をとるようにしても良い。
【0031】
ステップS10で代表値を決定した後は、ステップS11へ進み、上記代表値を用いて画像の水平方向解像度に応じて継目板下縁部上面の傾きαを算出する。具体的には、画像の解像度をrmm/1ピクセル、輝度の差分ΔHをとすると、
図5(B)より、傾きαは、次式、α=tan
-1(ΔH/r)で表わされることが分かる。
次に、上記ステップS9~S11と同様の手順で、レール底部の範囲の輝度データを抽出して代表値を決定し、レール底部の上面の傾きβを算出する(ステップS12)。そして、ステップS11で算出した傾きαとステップS12で算出した傾きβとの差(α-β)を算出して、レールに対する継目板の相対的な傾きを求めて処理を終了する。
【0032】
上述したように、前記実施形態においては、距離センサにより取得した輝度画像データに基づいて継目板の傾きを算出することができるため、多くの労力を要することなく継目板ボルトの破損に繋がる継目板の傾きを発見することができる。また、レールに対する継目板の相対的な傾きを求めることができるため、レールに対する距離センサの検出軸の傾きが平坦な箇所と異なる軌道のカーブ箇所においても、継目板の傾きを正確に測定することができる。さらに、上記のようにして算出した傾きが所定角度以上の継目板については、傾きをなくす補修作業を行っても良いし、改めて人手による継目板の平行度の測定を行って傾きが所定角度以上の継目板に対して補修作業を行うようにしてもよい。つまり、上記測定結果をスクリーニング用のデータとして活用することができる。
【0033】
ところで、
図4に示すフローチャートに従った継目板の傾き測定は、マイクロプロセッサ(MPU)およびROM(読出し専用メモリ)やRAM(随時読出し書込み可能なメモリ)のような記憶手段を備えたコンピュータと、
図4に示す継目板の傾き測定方法の手順を記載したプログラムによって実施することができる。その場合、そのようなプログラムを備えたコンピュータは、継目板の傾き測定装置として機能することとなる。この継目板の傾き測定装置は、車上の軌道材料モニタリング装置の記憶装置に記憶された計測データが、通信あるいはCDROMやUSBメモリのような媒体を介して移管されることで継目板の傾きを算出することができる。
【0034】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、既に列車に搭載されている軌道材料モニタリング装置により取得した距離画像データに基づいて継目板の傾きを測定するようにしているが、軌道材料モニタリング装置が搭載されていない列車あるいは計測車両に、距離画像データを取得可能な距離センサを設置してデータを収集するようにしても良い。
【0035】
また、前記実施形態では、ステップS3で、継目板の上端から下端までの全行について、隣接するピクセル間の輝度の差分を算出する処理をしているが、継目板の上端から下端までの全行でなく、継目板の長手方向の中間部分の例えば1/2~1/3の範囲の行について、隣接するピクセル間の輝度の差分を算出する処理を行うようにしても良い。
さらに、本発明は、継目板ボルトの緩み等の異常の検出に限定されず、融雪装置等の部品の脱落、部分破損等の検出その他に広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
R,R1,R2 レール
J,J1,J2 継目板
B ボルト
S1,S2 距離センサ
RC レール締結装置