(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025205
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】プレス成形方法及びプレス成形金型
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
B21D22/26 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127880
(22)【出願日】2020-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】簑手 徹
(72)【発明者】
【氏名】玉城 史彬
(72)【発明者】
【氏名】石渡 亮伸
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA08
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA25
4E137CA26
4E137CB01
4E137GA03
4E137GA06
4E137GA08
4E137GB04
(57)【要約】
【課題】平面視において二股に分岐する形状を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部を備えたプレス成形品を成形する際において、分岐部中央部に形成される縦壁部の先端と、分岐部両側部における曲げ戻した部分ともに、同時に割れを防止することができるプレス成形方法及びプレス成形金型を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形方法は、天板部1と、縦壁部3の基端側となる中間縦壁部9と、屈曲部11と、棚部13を張り出し成形する張り出し成形工程S1と、棚部13から不要部を除去してフランジ部25を形成するトリム工程S3と、屈曲部11を曲げ戻して、中間縦壁部9とフランジ部25に相当する部位からなる縦壁部3を成形するリストライク工程S5とを備え、張り出し成形工程S1は、屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径が、該分岐部中央部の曲げ稜線方向両側の部分(分岐部両側部)の曲げ半径よりも小さくなるように成形することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視において二股に分岐する形状を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部を備えたプレス成形品をプレス成形するプレス成形方法であって、
金属板をパッドでパンチに押し付けた状態で、前記天板部と、該天板部に連続し前記縦壁部の基端側となる中間縦壁部と、該中間縦壁部に連続する屈曲部と、該屈曲部に連続する棚部を、前記パンチとダイが協働して張り出し成形する張り出し成形工程と、
前記棚部から不要部を除去してフランジ部を形成するトリム工程と、
前記屈曲部を曲げ戻して、前記中間縦壁部と前記フランジ部に相当する部位からなる前記縦壁部を成形するリストライク工程とを備え、
前記張り出し成形工程は、前記屈曲部における分岐部中央部の曲げ半径が、該分岐部中央部の曲げ稜線方向両側の部分の曲げ半径よりも小さくなるように成形することを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
請求項1記載のプレス成形方法を実現するためのプレス成形金型であって、
前記天板部と、該天板部に連続し前記縦壁部の基端側となる中間縦壁部と、該中間縦壁部に連続する屈曲部と、該屈曲部に連続する棚部を有する中間成形品を成形する第1金型と、
前記棚部から不要部を除去してフランジ部を成形する第2金型と、
前記屈曲部を曲げ戻して、前記中間縦壁部と前記フランジ部に相当する部位からなる前記縦壁部を成形する第3金型とを備え、
前記第1金型は、前記天板部を成形する天板部成形面部を有するパンチと、該パンチと対向して配置され金属板を前記パンチに押し付けるパッドと、前記中間縦壁部を成形する中間縦壁部成形面部、前記屈曲部を成形するダイ肩部及び前記棚部を成形する棚部成形面部を有するダイとを有し、
前記ダイにおける前記分岐部中央部を成形するダイ肩Rが、該分岐中央部の曲げ稜線方向両側の部分を成形するダイ肩Rよりも小さく設定されていることを特徴とするプレス成形金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属素板から自動車部品等の部材をプレス成形するプレス成形方法及びプレス成形金型に関し、特に、ロアアームのような、平面視において二股に分岐する形状を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部を備えたプレス成形品のプレス成形方法及びプレス成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形品では、例えば、自動車の足回り部品であるロアアームのように、平面視において二股に分岐する形状を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部を備えたものがある。このようなプレス成形品の一例について、
図6を用いて説明する。
図6に示すプレス成形品5は、平面視において二股に分岐する形状を有する天板部1と、天板部1に連続する縦壁部3を有している。以下、このようなプレス成形品1における二股に分岐した部分を分岐部23という。
【0003】
図6のような二股に分岐する形状を有する天板部1に縦壁部3を形成する際、天板部1の屈曲した部分(分岐部中央部)に形成される縦壁部3は伸びフランジ変形となるため、縦壁部3の先端(図中の破線円で囲んだo部)に伸びフランジ割れが発生しやすい。
【0004】
上記のような伸びフランジ割れを回避するため、一般的にこのようなプレス成形品5は以下に述べるような複数の工程で製造されている。
まず、ブランク(金属板)をパッドで押さえたフォーム成形等により、
図7に示すような、天板部1と、天板部1に連続し縦壁部3の基端側となる中間縦壁部9と、中間縦壁部9に連続する屈曲部11と、屈曲部11に連続する棚部13を有する中間成形品7を張り出し成形する(張り出し成形工程)。
【0005】
次に、
図8に示すように、所定のトリムラインにそってパネルをトリムし、中間成形品7の棚部13から不要部(図中斜線で示した部分)を除去してフランジ部25を形成する(トリム工程)。そして、屈曲部11を曲げ戻してフランジ部25を立てること(リストライク)により、中間縦壁部9とフランジ部25に相当する部位からなる縦壁部3を成形し(リストライク工程)、
図6に示したプレス成形品5を製造する。
図6において図中グレーで示した部分は、リストライク工程で曲げ戻した屈曲部11に相当する部分である。
【0006】
上述した方法では、張り出し成形によって成形する中間成形品7を介在させることで、その後のリストライク工程時の変形量を低減している。さらに、中間成形品7に余肉部(トリム工程で除去する部分)を設けたことから、張り出し成形時に
図6に示したo部に相当する部分(
図7の状態では破線円で示す部分)では材料流れが抑えられるので、リストライク工程時にo部に生じる伸びフランジ割れを抑止することができる。
このようなプレス成形方法として、張り出し成形とトリムを同一工程で実施する例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らは、種々の形状を持つロアアーム等のプレス成形品について、有限要素法による成形解析やプレス成形実験を実施し、分岐部23の形状によっては、分岐部中央部に形成される縦壁部3の先端(o部)だけでなく、分岐部中央部の近傍におけるリストライク工程で曲げ戻した部分(図中の破線円で囲んだa部、b部、曲げ稜線方向における分岐部中央部の両側の部分、以下、単に「分岐部両側部」という)にも、成形中に割れが発生することを明らかにした。a部及びb部に割れが発生する理由について、
図6、
図9を用いて説明する。
【0009】
図9(a)は、
図8に示した中間成形品7のA´-A´断面図であり、
図9(b)は、
図6に示したプレス成形品5のA-A断面図である。A´-A´断面図及びA-A断面図は、中間成形品7及びプレス成形品5におけるa部に相当する部分の断面を示すものである。
張り出し成形工程及びトリム工程によって形成された中間縦壁部9、屈曲部11及びフランジ部25(
図9(a)参照)は、リストライク工程によって屈曲部11が曲げ戻されることで、
図9(b)に示すように、縦壁部3となる。このとき、曲げ戻された屈曲部11に相当する部分には加工硬化が生じるため、図中矢印で示す部分の板厚が減少する。
さらに、伸びフランジ変形によって材料不足が生じやすいo部が近傍にあることで(
図6参照)、a部からo部へ向かう材料流れが生じる。この板厚減少及び材料流れの両作用によってa部に割れが発生する。また、同様の理由でb部にも割れが生じる。
【0010】
上記のような、a部、b部に生じる割れを抑制するためには、加工硬化を低減するため、中間成形品7の屈曲部11の曲げ半径を大きくするなどして、張り出し成形工程での変形量を小さくすればよいが、張り出し成形工程での変形量を小さくすると、その後のリストライク工程での変形量が大きくなり、o部に割れが生じやすくなる。
このように、従来の技術では、分岐部中央部に形成される縦壁部3の先端(o部)と、分岐部両側部における曲げ戻した部分(a部、b部)ともに同時に割れを防止することが難しいという課題があった。
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、ロアアーム等の、平面視において二股に分岐する形状を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部を備えたプレス成形品を成形する際、分岐部中央部に形成される縦壁部の先端と、分岐部両側部における曲げ戻した部分ともに、同時に割れを防止することができるプレス成形方法及びプレス成形金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係るプレス成形方法は、平面視において二股に分岐する形状を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部を備えたプレス成形品をプレス成形するものであって、金属板をパッドでパンチに押し付けた状態で、前記天板部と、該天板部に連続し前記縦壁部の基端側となる中間縦壁部と、該中間縦壁部に連続する屈曲部と、該屈曲部に連続する棚部を、前記パンチとダイが協働して張り出し成形する張り出し成形工程と、前記棚部から不要部を除去してフランジ部を形成するトリム工程と、前記屈曲部を曲げ戻して、前記中間縦壁部と前記フランジ部に相当する部位からなる前記縦壁部を成形するリストライク工程とを備え、前記張り出し成形工程は、前記屈曲部における分岐部中央部の曲げ半径が、該分岐部中央部の曲げ稜線方向両側の部分の曲げ半径よりも小さくなるように成形することを特徴とするものである。
【0013】
(2)本発明に係るプレス成形金型は、上記(1)に記載のプレス成形方法を実現するためのものであって、前記天板部と、該天板部に連続し前記縦壁部の基端側となる中間縦壁部と、該中間縦壁部に連続する屈曲部と、該屈曲部に連続する棚部を有する中間成形品を成形する第1金型と、前記棚部から不要部を除去してフランジ部を成形する第2金型と、前記屈曲部を曲げ戻して、前記中間縦壁部と前記フランジ部に相当する部位からなる前記縦壁部を成形する第3金型とを備え、前記第1金型は、前記天板部を成形する天板部成形面部を有するパンチと、該パンチと対向して配置され金属板を前記パンチに押し付けるパッドと、前記中間縦壁部を成形する中間縦壁部成形面部、前記屈曲部を成形するダイ肩部及び前記棚部を成形する棚部成形面部を有するダイとを有し、前記ダイにおける前記分岐部中央部を成形するダイ肩Rが、該分岐中央部の曲げ稜線方向両側の部分を成形するダイ肩Rよりも小さく設定されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、中間成形品を成形する張り出し成形工程において、屈曲部における分岐部中央部の曲げ半径が、該分岐部中央部の曲げ稜線方向両側の部分の曲げ半径よりも小さくなるように成形することにより、分岐部両側部における曲げ戻し部分の板厚減少を抑えつつ、分岐部中央部のリストライク工程時の変形量を抑えることができるので、分岐部中央部に形成される縦壁部の先端と、分岐部両側部における曲げ戻した部分ともに、割れを同時に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るプレス成形方法の説明図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る張り出し成形工程及びこれに用いる第1金型の説明図である。
【
図3】
図1(a)における中間成形品のP-P断面及びO-O断面を示す図であり、P-P断面における屈曲部とO-O断面における屈曲部の曲げ半径の違いを説明する説明図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係るトリム工程及びこれに用いる第2金型の説明図である。
【
図5】本発明の一実施の形態に係るリストライク工程及びこれに用いる第3金型の説明図である。
【
図6】本発明の一実施の形態に係る目標形状と、該目標形状の成形過程で生ずる課題を説明する説明図である。
【
図7】従来のプレス成形方法の説明図である(その1)。
【
図8】従来のプレス成形方法の説明図である(その2)。
【
図9】
図6に示した目標形状の成形過程で割れが生ずる理由を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係るプレス成形方法は、平面視において二股に分岐する形状を有する天板部1と、天板部1に連続する縦壁部3を有するプレス成形品5(
図6参照)を成形するものであって、
図1に示すように、金属板を中間成形品7に成形する張り出し成形工程S1と、張り出し成形工程S1で成形された中間成形品7から不要部を除去するトリム工程S3と、トリム工程S3で不要部を除去した中間成形品7を目標形状に成形するリストライク工程S5とを備えたものである。
以下、各工程を説明する。なお、
図1において、目標形状及び中間成形品7を説明した
図6~
図8と同一部分及び対応する部分には同一の符号が付してある。
【0017】
<張り出し成形工程>
張り出し成形工程S1は、
図1(a)に示すような中間成形品7を成形する工程であり、中間成形品7は、天板部1と、天板部1に連続し縦壁部3の基端側となる中間縦壁部9と、中間縦壁部9に連続する屈曲部11と、屈曲部11に連続する棚部13を有している。
【0018】
このような中間成形品7を成形する張り出し成形工程S1では、
図2に示すように、天板部1を成形する天板部成形面部15aを有するパンチ15と、パンチ15と対向して配置され金属板をパンチ15に押し付けるパッド17と、中間縦壁部9を成形する中間縦壁部成形面部19a、屈曲部11を成形するダイ肩部19b及び棚部13を成形する棚部成形面部19cを有するダイ19を有する第1金型21によって行われる。
【0019】
図2(a)は、中間成形品7の分岐部中央部の断面であるO-O断面(
図1(a)の拡大図参照)、
図2(b)は、屈曲部11の曲げ稜線方向における分岐部両側部の断面であるP-P断面(
図1(a)の拡大図参照)の成形下死点の状態を示す図である。
図2(a)と
図2(b)を比較すると分かるように、屈曲部11を成形するダイ肩部19bに関し、分岐部中央部のダイ肩R
1(
図2(a))が分岐部両側部のダイ肩R
2(
図2(b))よりも小さく、すなわちR
1<R
2に設定されている。
なお、
図1(a)の拡大図に示すとおり、ダイ肩R
1とダイ肩R
2の間は、曲げ稜線方向にRが徐々に変化する形状(徐変部)となっている。
【0020】
上記のような第1金型21を用いた張り出し成形工程S1においては、パンチ15の天板部成形面部15aとパッド17で金属板を把持した状態で、ダイ19を初期位置(図示せず)から、
図2(a)、
図2(b)に示す下死点の位置まで下降させることで、天板部1と、天板部1に連続し縦壁部3の基端側となる中間縦壁部9と、中間縦壁部9に連続する屈曲部11と、屈曲部11に連続する棚部13を有する中間成形品7が成形される。
そして、中間成形品7の分岐部中央部における屈曲部11の曲げ半径を、分岐部両側部における屈曲部11の曲げ半径よりも小さくする。
また、分岐部中央部における曲げ半径が小さい屈曲部11と分岐部両側部における曲げ半径が大きい屈曲部11の間は、曲げ稜線方向に曲げ半径が中央から両側に向かって徐々に拡大する徐変部となる。
【0021】
図3は、実線が中間成形品7の分岐部中央部の断面(O-O断面)、破線が中間成形品7の分岐部両側部の断面(P-P断面)を示したものである。屈曲部11の曲げ半径の違いを分かりやすくするために、両断面を重ねて示している。
【0022】
図3に示すように、分岐部中央部の屈曲部11の曲げ半径を小さくし(O-O断面参照)、分岐部両側部の曲げ半径を大きくすることで(P-P断面参照)、O-O断面における線長(X点からY点に至る実線の距離)が長く、P-P断面における線長(X点からY点に至る破線の距離)が短くなる。したがって、張り出し成形工程S1では、分岐部中央部の変形量が、分岐部両側部よりも大きくなっている。
なお、X点、Y点は両断面を重ねたときに両断面で共通の任意の点である。
【0023】
このように中間成形品7の屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径を、分岐部両側部の曲げ半径よりも小さくして、張り出し成形工程S1において分岐部中央部の変形量を分岐部両側部よりも大きくする理由について、
図1及び
図3に基づいて説明する。
【0024】
本実施の形態におけるプレス成形方法は、張り出し成形工程S1と、リストライク工程S5によって、分岐部23に縦壁部3を形成するものであるから、張り出し成形工程S1における変形量が大きければ、その分リストライク工程S5における変形量は小さくなる。
よって、中間成形品7の成形時に分岐部中央部の変形量を大きく(面積を大きく)成形しておくことで、リストライク工程S5時の伸びフランジ変形が緩和され、
図6に示したo部の割れが抑制される。
【0025】
一方、分岐部両側部では、中間成形品7の成形時における変形量を小さく抑えているので、屈曲部11の板厚減少が抑えられる。さらに、上記で説明したように、リストライク工程S5においてo部に生じる伸びフランジ変形も低減されているので、o部へ向かう材料流れも緩和され、
図6に示したa部の割れが抑制される。
なお、同様の理由により、
図6に示したb部の割れも抑制される。
【0026】
<トリム工程>
トリム工程S3は、張り出し成形工程S1で成形された中間成形品7の棚部13から不要部を除去してフランジ部25を形成する工程である。
【0027】
図4は、
図1(b)のB-B断面におけるトリム途中の状態を示す図である。
トリム工程S3では、
図4に示すように、上刃27と、下刃29と、板押さえ31を有する第2金型33によって行われる。上刃27及び下刃29は、協働して中間成形品7の棚部13から不要部を除去するためのものであり、それぞれ、切断するライン(トリムライン)に対応した形状のトリム刃(図示せず)を備えている。
【0028】
トリム工程S3においては、張り出し成形工程S1で成形された中間成形品7の天板部1と棚部13の一部を下刃29と板押さえ31で挟持し、例えば、上刃27を初期位置(図示せず)から下方に相対的に移動して棚部13から不要部(
図1(b)の斜線で示す部分)を切り落とすことによりフランジ部25を形成する。
【0029】
<リストライク工程>
リストライク工程S5は、トリム工程S3で不要部を除去した中間成形品7の屈曲部11を曲げ戻して縦壁部3を形成して、目標形状に成形する工程である。
【0030】
図5は、
図1(c)のC-C断面におけるリストライク下死点の状態を示す図である。
リストライク工程S5では、
図5に示すように、パンチ35と、パッド37と、ダイ39を有する第3金型41によって行われる。
パンチ35はプレス成形品5の内表面に対応した成形面を有するものであり、パッド37とともに中間成形品7の天板部1を把持する。また、ダイ39は、プレス成形品5の縦壁部3の外表面に対応した成形面を有するものであり、トリム工程S3で不要部を除去された中間成形品7の屈曲部11を曲げ戻す。
【0031】
上記のような第3金型41を用いたリストライク工程S5においては、パンチ35とパッド37で中間成形品7の天板部1を把持した状態で、ダイ39を初期位置(図示せず)から、
図5に示す下死点の位置まで下降させることで、屈曲部11を曲げ伸ばしてフランジ部25を立てて縦壁部3を形成し、
図1(c)に示すプレス成形品5を成形する。
【0032】
以上のように、本実施の形態では、張り出し成形工程S1で中間成形品7の屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径が、分岐部両側部の曲げ半径よりも小さくなるように成形し、トリム工程S3で不要部を除去してフランジ部25を形成後、リストライク工程S5において、屈曲部11を曲げ戻すと共に、伸びフランジ変形となる部位を成形している。
これにより、分岐部中央部においては、リストライク工程S5時の変形量を低減して伸びフランジ変形が抑制されるので、縦壁部3の先端に生じる割れを防止することができる。
さらに、分岐部両側部においては、曲げ戻し部分の板厚減少が抑制され、かつ、分岐部中央部の伸びフランジ変形が抑制されることで材料流れが緩和されるので、曲げ戻し部分に生じる割れを防止することができる。
【0033】
なお、上記の説明ではプレス成形を3工程に分けて実施する例を説明したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、張り出し成形工程S1のパンチ15とダイ19にそれぞれトリム刃を設けるなどして、中間成形品7を成形すると共に、不要部の除去を行うことにより、張り出し工程S1とトリム工程S3を1工程で行い、全体として2工程で行うようにしてもよい。
【0034】
また、分岐部23以外の縦壁部3については、前述した3工程を実施する間に成形してもよいし、別工程で成形しても本発明の実施には差し支えない。また、天板部1の成形についても同様である。
【実施例0035】
本発明の効果確認のため、
図6に示すような、ロアアーム部品を目標形状とするプレス成形についてCAE解析を行った。
材料となる金属板は、板厚2.3mm、引張強度が780MPa級の熱延鋼板とした。
プレス成形工程は、実施の形態1で説明した、張り出し成形工程S1、トリム工程S3、リストライク工程S5の3工程とした。
また、目標形状における天板部1と縦壁部3の間の屈曲した部分(パンチ肩によって成形される部分)の曲げ半径は7mmとした。
ここで曲げ半径とは、板厚中心部分の円弧に対する半径である。
【0036】
従来例のプレス成形方法として、分岐部中央部と分岐部両側部において中間成形品7の屈曲部11の曲げ半径が同じであるものを2種類解析した。従来例における屈曲部11の曲げ半径は分岐部中央部と分岐部両側部ともに、5mm(従来例1)又は7mm(従来例2)とした。
【0037】
また、本発明例のプレス成形方法として、中間成形品7の屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径を、分岐部両側部の曲げ半径よりも小さくしたものを解析した。発明例における屈曲部11の曲げ半径は分岐部中央部を5mm、分岐部両側部(
図6のa部、b部)を7mmとした。
CAE成形解析により得られた、リストライク工程S5の下死点における、a部、b部、o部(
図6参照)の最大板厚減少率を表1に示す。
【0038】
【0039】
種々の形状のロアアームを試作した発明者らの過去の知見では、板厚2.3mm、引張強度が780MPa級熱延鋼板の場合、CAE成形解析で板厚減少率が20%を超えると割れが発生する。よって、本実施例において割れが発生する成形限界は、板厚減少率20%とした。
【0040】
表1に示すように、従来例1の場合、o部の板厚減少率は成形限界の20%以下であるが、a部、b部の板厚減少率は成形限界の20%を超えている。よって、従来例1のプレス成形方法では、o部に割れは発生しないが、a部、b部に割れが発生すると判定された。
【0041】
また、従来例2の場合、a部、b部の板厚減少率は成形限界の20%以下であるが、o部の板厚減少率は成形限界の20%を超えている。よって、従来例2のプレス成形方法では、a部、b部に割れは発生しないが、o部に割れが発生すると判定された。
【0042】
一方、発明例の場合、a部、b部、o部の全てにおいて板厚減少率は成形限界の20%以下であり、いずれの場所でも割れは発生しないと判定された。
以上、本実施例の結果から、ロアアームのような平面視において二股に分岐する形状を有するプレス成形品の分岐部中央部の縦壁部先端と、分岐部両側部の割れを同時に防止できることがわかった。
【0043】
上記の表1の従来例1は、中間成形品7の分岐部中央部(o部)と分岐部両側部(a部、b部)の曲げ半径を同じとし、分岐部中央部の板厚減少率が成形限界範囲内であるが、分岐部両側部の板厚減少率が成形限界範囲を超える例である。
また、表1の従来例2は、中間成形品7の分岐部中央部と分岐部両側部の曲げ半径を同じとし、分岐部中央部の板厚減少率が成形限界範囲を超え、分岐部両側部の板厚減少率が成形限界範囲内となる例である。
そして、従来例1からは、分岐部中央部における曲げ半径が従来例1で設定した値以下であればよいことが分かり、また、従来例2からは、分岐部両側部の曲げ半径が従来例2で設定した値以上であればよいことが分かる。
【0044】
このことから、分岐部中央部と分岐部両側部の曲げ半径の設定方法として、以下のようにすればよいことが分かる。
すなわち、中間成形品7の分岐部中央部と分岐部両側部の曲げ半径を同じとし、その値を種々変更して、リストライク下死点の板厚減少率を求めることで、分岐部中央部と分岐部両側部の曲げ半径が同じであって、分岐部中央部の板厚減少率が成形限界範囲内で分岐部両側部の板厚減少率が成形限界を超える例(A値)と、分岐部中央部の板厚減少率が成形限界範囲を超え、分岐部両側部の板厚減少率が成形限界内となる例(B値)とを予め求めておき、分岐部中央部においては成形限界範囲内となるA値以下とし、分岐部両側部では成形限界範囲内となるB値以上とし、かつ分岐部中央部の曲げ半径を分岐部両側部の曲げ半径より小さく設定する。