(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025327
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】地震時の揺れデータ取得装置及び被災度評価システム
(51)【国際特許分類】
G08B 25/10 20060101AFI20220203BHJP
G08B 21/10 20060101ALI20220203BHJP
G01V 1/00 20060101ALI20220203BHJP
G01V 1/28 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
G08B25/10 D
G08B21/10
G01V1/00 D
G01V1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020128087
(22)【出願日】2020-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】松本 行平
(72)【発明者】
【氏名】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】巽 誉樹
【テーマコード(参考)】
2G105
5C086
5C087
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105MM01
5C086AA13
5C086BA13
5C086CA16
5C086CA21
5C086CA22
5C086CA25
5C086EA31
5C087AA02
5C087BB03
5C087BB11
5C087BB18
5C087BB74
5C087DD02
5C087DD20
5C087DD33
5C087FF01
5C087FF02
5C087GG06
5C087GG30
5C087GG36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】地震に伴う建造物の揺れを的確に把握できるようにするデータ取得装置を提供する。
【解決手段】被災度評価システム30において、地震時の揺れデータ取得装置10は、上下方向に複数のフロアを有する建造物A内に存在する複数の移動体通信端末Sが加速度センサを介して取得した揺れに関する情報を移動体通信端末Sから受信する情報受信部11と、揺れに関する情報を送信した移動体通信端末Sが存在するフロアを特定するフロア情報を取得するフロア情報取得手段12と、揺れに関する情報又は揺れに関する情報から得られる情報とフロアとを連携させる位置特定手段14と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に複数のフロア(F)を有する建造物(A)内に存在する複数の移動体通信端末(S)が加速度センサ(G)を介して取得した揺れに関する情報(3)を前記移動体通信端末(S)から受信する情報受信部(11)と、
前記揺れに関する情報(3)を送信した前記移動体通信端末(S)が存在する前記フロア(F)を特定するフロア情報(2)を取得するフロア情報取得手段(12)と、
前記揺れに関する情報(3)又は前記揺れに関する情報(3)から得られる情報と前記フロア(F)とを連携させる位置特定手段(14)と、
を備える地震時の揺れデータ取得装置。
【請求項2】
前記フロア情報取得手段(12)は、前記移動体通信端末(S)が備える気圧高度計(I)の情報に基づいて前記フロア情報(2)を取得するものである請求項1に記載の地震時の揺れデータ取得装置。
【請求項3】
前記フロア情報取得手段(12)は、前記移動体通信端末(S)が接続した無線LANへの接続先(L)の情報に基づいて前記フロア情報(2)を取得するものである請求項1に記載の地震時の揺れデータ取得装置。
【請求項4】
前記情報受信部(11)が受信する前記揺れに関する情報(3)は、前記加速度センサ(G)が検出した加速度情報(1)を他の物理量又は前記建造物(A)の揺れを評価する指標に変換したものを含んでいる請求項1から3のいずれか一つに記載の地震時の揺れデータ取得装置。
【請求項5】
前記情報受信部(11)が受信する前記揺れに関する情報(3)は、前記加速度センサ(G)が検出した加速度情報(1)であり、
前記揺れに関する情報(3)から得られる情報は、前記加速度情報(1)を他の物理量又は前記建造物(A)の揺れを評価する指標に変換したものを含んでいる請求項1から3のいずれか一つに記載の地震時の揺れデータ取得装置。
【請求項6】
前記揺れに関する情報(3)又は前記揺れに関する情報(3)から得られる情報は、前記加速度センサ(G)が取得した互いに直交するx軸方向、y軸方向及びz軸方向の前記加速度情報(1)を、それぞれ東西方向(x’)、南北方向(y’)及び鉛直方向(z’)の加速度に変換したものを含んでいる請求項4又は5に記載の地震時の揺れデータ取得装置。
【請求項7】
前記揺れに関する情報(3)又は前記揺れに関する情報(3)から得られる情報は、前記加速度センサ(G)が取得したx軸方向、y軸方向、z軸方向の前記加速度情報(1)のそれぞれから得られる値を組み合わせて算出したものを含んでいる請求項4又は5に記載の地震時の揺れデータ取得装置。
【請求項8】
一つの前記フロア(F)に複数の前記揺れに関する情報(3)があると認識する場合に、複数の前記揺れに関する情報(3)に基づいて前記フロア(F)の代表値を決定する請求項4から7のいずれか一つに記載の地震時の揺れデータ取得装置。
【請求項9】
前記揺れに関する情報(3)又は前記揺れに関する情報(3)から得られる情報は、前記加速度情報(1)から得られた加速度波形又は速度波形に対して基線補正を行い、フィルタ処理により0.5Hz未満及び10Hz以上の帯域を減衰したものを含んでいる請求項4から8のいずれか一つに記載の地震時の揺れデータ取得装置。
【請求項10】
上下方向に複数のフロア(F)を有する建造物(A)内に存在しそれぞれ加速度センサ(G)を備える複数の移動体通信端末(S)と、
複数の前記移動体通信端末(S)が前記加速度センサ(G)を介して取得した揺れに関する情報(3)を前記移動体通信端末(S)から受信する情報受信部(11)と、前記揺れに関する情報(3)を送信した前記移動体通信端末(S)が存在する前記フロア(F)を特定するフロア情報(2)を取得するフロア情報取得手段(12)と、前記揺れに関する情報(3)又は前記揺れに関する情報(3)から得られる情報と前記フロア(F)とを連携させる位置特定手段(14)と、
を備える地震時の揺れデータ取得装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一つに記載の地震時の揺れデータ取得装置(10)と、地震時の揺れデータ取得装置(10)が取得した前記フロア(F)別の前記揺れに関する情報(3)を用い、前記建造物(A)に設定された基準値との比較により前記建造物(A)の状態を評価する評価手段(20)とを有する被災度評価システム。
【請求項12】
地震発生の情報の入力を受けて、前記加速度センサ(G)を介して取得した前記揺れに関する情報(3)を記録し、請求項1から10のいずれか一つに記載の地震時の揺れデータ取得装置(10)へ前記揺れに関する情報(3)を送信する指令を行うように前記移動体通信端末(S)に記憶される移動体通信端末用プログラム。
【請求項13】
上下方向に複数のフロア(F)を有する建造物(A)内に存在しそれぞれ加速度センサ(G)を備える複数の移動体通信端末(S)が地震発生の情報の入力を受けて前記加速度センサ(G)を介して揺れに関する情報(3)を取得し、
複数の前記移動体通信端末(S)がそれぞれ送信した前記揺れに関する情報(3)を受信し、
前記揺れに関する情報(3)を送信した前記移動体通信端末(S)が存在する前記フロア(F)に関するフロア情報(2)を取得し、
前記揺れに関する情報(3)と前記フロア(F)とを連携させる地震時の揺れデータ取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地震時に建造物に生じた揺れに関するデータを取得する揺れデータ取得装置、及び、その揺れデータ取得装置を用いた被災度評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物の地震被害を判定する技術として、例えば、特許文献1に記載された地震被害判定装置がある。この特許文献1では、対象とする建物に地震計を設置して、地震が発生した際の建物の揺れの波形を計測し、その計測された波形に基づいて建物における複数種類の物理量を算出している。算出した物理量と予め記憶した対応する閾値との比較を行うことで、建物に損傷が発生したか否かを判定している。地震の波形から算出される物理量とは、建物に生じた水平方向の揺れの強さを示す加速度、加速度に応じて建物の各階毎に生じる最大変形量を外壁の垂直方向に対する角度で表したもの(最大層間変形角)、固有振動数の低下率等とされている。また、地震計は、地盤に接している地上1階と、地上2階以上の何れかの階に設置している。
【0003】
また、特許文献2は、建物診断モニタリングシステムであり、建物の複数の階に設置された複数の加速度センサからの検出データにより、各階の揺れの加速度を推定するとともに、この各階の加速度から各階変位を推定してそこから層間変形角を算定している。また、各階の最大加速度または層間変形角が設定値を超えた時に剛性変化の算定を行い、剛性の低下割合と層間変形角とにより被災の算定を行っている。
【0004】
さらに、特許文献3は、被災度判定システムであり、建物の各階の柱脚に加速度センサを用いた傾斜計を配置している、傾斜計は、地震発生前を含む常時、震度を計測する地震計の機能を有している。また、傾斜計は、地震発生前後における鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角を直接計測して出力している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-090534号公報
【特許文献2】特開2013-254239号公報
【特許文献3】特開2019-203713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1~3は、いずれも建物の複数の階に、予め地震の揺れを検知するセンサが設置されていることを前提とするシステムである。しかし、建物にセンサを設置することは、その建物の所有者や使用者との合意の下に行う必要がある。このため、建物によっては必要な合意が得られずに、センサの設置ができない場合もある。また、地震の揺れを検知するセンサは、いつ発生するかわからない将来の地震に備えて、長期間に亘って継続して建物に設置しておく必要がある。このため、経年によるセンサの老朽化や、センサ設置後の長年に亘る技術の進歩によってセンサの性能が時代に合わなくなる、いわゆる技術の陳腐化の問題が生じ得る。したがって、これらのセンサでは、地震時に建物等の各種建造物の揺れを的確に把握できないという問題が生じ得る。
【0007】
そこで、この発明の課題は、地震に伴う建造物の揺れを的確に把握できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明は、上下方向に複数のフロアを有する建造物内に存在する複数の移動体通信端末が加速度センサを介して取得した揺れに関する情報を前記移動体通信端末から受信する情報受信部と、前記揺れに関する情報を送信した前記移動体通信端末が存在する前記フロアを特定するフロア情報を取得するフロア情報取得手段と、前記揺れに関する情報又は前記揺れに関する情報から得られる情報と前記フロアとを連携させる位置特定手段と、を備える地震時の揺れデータ取得装置を採用した。
【0009】
ここで、前記フロア情報取得手段は、前記移動体通信端末が備える気圧高度計の情報に基づいて前記フロア情報を取得するものである構成を採用することができる。
【0010】
また、前記フロア情報取得手段は、前記移動体通信端末が接続した無線LANへの接続先の情報に基づいて前記フロア情報を取得するものである構成を採用することができる。
【0011】
これらの各態様において、前記情報受信部が受信する前記揺れに関する情報は、前記加速度センサが検出した加速度情報を他の物理量又は前記建造物の揺れを評価する指標に変換したものを含んでいる構成を採用することができる。
【0012】
あるいは、前記情報受信部が受信する前記揺れに関する情報は、前記加速度センサが検出した加速度情報であり、前記揺れに関する情報から得られる情報は、前記加速度情報を他の物理量又は前記建造物の揺れを評価する指標に変換したものを含んでいる構成を採用することができる。
【0013】
このとき、前記揺れに関する情報又は前記揺れに関する情報から得られる情報は、前記加速度センサが取得した互いに直交するx軸方向、y軸方向及びz軸方向の前記加速度情報を、それぞれ東西方向、南北方向及び鉛直方向の加速度に変換したものを含んでいる構成を採用することができる。
【0014】
また、前記揺れに関する情報又は前記揺れに関する情報から得られる情報は、前記加速度センサが取得したx軸方向、y軸方向、z軸方向の前記加速度情報のそれぞれから得られる値を組み合わせて算出したものを含んでいる構成を採用することができる。
【0015】
また、一つの前記フロアに複数の前記揺れに関する情報があると認識する場合に、複数の前記揺れに関する情報に基づいて前記フロアの代表値を決定する構成を採用することができる。
【0016】
さらに、前記揺れに関する情報又は前記揺れに関する情報から得られる情報は、前記加速度情報から得られた加速度波形又は速度波形に対して基線補正を行い、フィルタ処理により0.5Hz未満及び10Hz以上の帯域を減衰したものを含んでいる構成を採用することができる。
【0017】
また、上下方向に複数のフロアを有する建造物内に存在しそれぞれ加速度センサを備える複数の移動体通信端末と、複数の前記移動体通信端末が前記加速度センサを介して取得した揺れに関する情報を前記移動体通信端末から受信する情報受信部と、前記揺れに関する情報を送信した前記移動体通信端末が存在する前記フロアを特定するフロア情報を取得するフロア情報取得手段と、前記揺れに関する情報又は前記揺れに関する情報から得られる情報と前記フロアとを連携させる位置特定手段と、を備える構成を採用することができる。
【0018】
これらの各態様からなる地震時の揺れデータ取得装置と、地震時の揺れデータ取得装置が取得した前記フロア別の前記揺れに関する情報を用い、前記建造物に設定された基準値との比較により前記建造物の状態を評価する評価手段とを有する被災度評価システムを採用することができる。
【0019】
また、地震発生の情報の入力を受けて、前記加速度センサを介して取得した前記揺れに関する情報を記録し、これらの各態様からなる地震時の揺れデータ取得装置へ前記揺れに関する情報を送信する指令を行うように前記移動体通信端末に記憶される移動体通信端末用プログラムを採用することができる。
【0020】
さらに、上記の課題を解決するために、この発明は、上下方向に複数のフロアを有する建造物内に存在しそれぞれ加速度センサを備える複数の移動体通信端末が地震発生の情報の入力を受けて前記加速度センサを介して揺れに関する情報を取得し、複数の前記移動体通信端末がそれぞれ送信した前記揺れに関する情報を受信し、前記揺れに関する情報を送信した前記移動体通信端末が存在する前記フロアに関するフロア情報を取得し、前記揺れに関する情報と前記フロアとを連携させる地震時の揺れデータ取得方法を採用することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、地震に伴う建造物の揺れを的確に把握できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の一実施形態を示し、建造物内に存在する移動体通信端末の分布のイメージ図
【
図3】揺れデータ取得装置及び被災度評価システムの構成図
【
図4A】移動体通信端末による処理のフローチャート(第1の例)
【
図4B】移動体通信端末による処理のフローチャート(第2の例)
【
図5A】データ取得装置による処理のフローチャート(第1の例)
【
図5B】データ取得装置による処理のフローチャート(第2の例)
【
図10】揺れに関する情報とフロア情報とを連携させる例を示すグラフ図
【
図11】揺れに関する情報とフロア情報とを連携させる例を示すグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態は、地震時に建造物Aに生じた揺れに関するデータを取得する地震時の揺れデータ取得装置10、及び、そのデータの取得方法である。また、その地震時の揺れデータ取得装置10と、それによって得られた情報を用いて地震に伴う被災度を評価する評価手段20を備えた被災度評価システム30についても説明する。
【0024】
地震時の揺れデータ取得装置10(以下、データ取得装置10と称する)は、
図1に示すように、建造物A内の人々が使用中のフィーチャーフォン、スマートフォンやタブレット端末、ノートパソコン等の移動体通信の機能を有する端末(以下「移動体通信端末S」と称する)が行った、地震時における建造物Aの揺れの観測によって、地震の揺れに関するデータを取得する。移動体通信端末Sの使用者は、建造物A内の各フロアFに存在している。なお、地震発生時に、或るフロアFに移動体通信端末Sの使用者が1人だけ存在している場合もあるし、同一のフロアFに移動体通信端末Sの使用者が複数人存在している場合もある。また、或るフロアFに移動体通信端末Sの使用者が1人も存在しない場合もある。
図1では、1Fから8Fまでの8つのフロアFを示しているが、フロアFの数はこの例には限定されず、フロアFの数が異なる建造物Aにおいても、この発明を適用できる。
【0025】
移動体通信端末Sが取得する揺れに関する情報3として、その移動体通信端末Sが備える加速度センサGが検出する揺れの加速度情報1がある。加速度情報1は、加速度センサGが取得した互いに直交するx軸方向、y軸方向、z軸方向へのそれぞれの加速度の値である。加速度の単位は、例えばgal(cm/s
2)で表すことができる。微小な時間に設定された所定の観測周期(例えば100Hz(1/100秒))毎に加速度の値が検出されるので、この加速度情報1によれば、
図6に示すように、x軸方向、y軸方向、z軸方向のそれぞれに対して波形データを取得することができる。
【0026】
ここで、
図2のように、移動体通信端末Sのデバイスがスマートフォンである場合を例に説明すると、x軸方向とは、板状を成すスマートフォンの面方向(画面の面方向)のうち、画面の左右を結ぶ方向に設定されている。また、y軸方向とは、画面の頂部と底部とを結ぶ方向に設定されている。z軸方向は、スマートフォンの面方向(画面の面方向)に直交する方向、すなわち、x軸方向、y軸方向に直交する方向に設定されている。静止状態にあるスマートフォンを、x軸方向に沿って一方の向きに動かすとx軸方向プラスの加速度が、他方の向きに動かすとx軸方向マイナスの加速度が検出される。また、y軸方向、z軸方向についてもそれぞれ同様である。加速度情報1の波形データは、加速度情報1の数値情報に基づいて移動体通信端末Sの機能によって生成することもできるし、後述のデータ取得装置10の機能によって生成することもできる。
【0027】
移動体通信端末Sが備える加速度センサGは、単位時間当たりの速度変化(加速度)を測定する慣性センサであり、その測定値の中には重力加速度が含まれるとともに、その移動体通信端末Sを持つ人の動きや振動、衝撃も測定できる。また、ジャイロセンサJは、基準軸に対して移動体通信端末Sの角度が単位時間当たり何度変化しているかを検知するものであり、これにより移動体通信端末Sの回転運動の様子を把握できる。このため、ジャイロセンサJによれば、加速度センサGでは検知できない移動体通信端末Sの回転運動を測定できる。
【0028】
移動体通信端末Sは、加速度センサGのほかに、位置情報を取得するGPS装置(Global Positioning System)H、高度情報を取得する気圧高度計I、回転や向きの情報を取得するジャイロセンサJ、東西南北の方角情報を取得する磁気センサK等を備えている。また、移動体通信端末Sには、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等が実装されている。さらに、移動体通信端末Sには、移動体通信及びその他の無線通信に関わる処理を行う無線通信装置、ディスプレイやタッチパネル等の操作に関わる操作装置、これらの装置に電力を供給するバッテリが備えられている。
【0029】
建造物Aには、インターネットへ通じる通信機能を有する無線LAN(Wi-Fi(登録商標))が備えられているとよい。この無線LANは、建造物AのフロアF毎に無線接続用のアンテナ(接続先)Lを備えている。移動体通信端末Sの無線通信装置は送受信部を備えている。また、移動体通信端末Sのプロセッサに情報の送受信を実行させるためのプログラムがRAM又はROMに記憶され、そのプログラムに基づいて送受信部を通じて外部との情報の送受信が行われる。これにより、移動体通信端末Sは、各種情報を無線LAN及び移動体通信網を通じてデータ取得装置10へ送信することができる。
【0030】
移動体通信端末Sは、地震発生の情報の入力を受けて、加速度センサGを起動するとともに、その加速度センサGで検出した加速度の値の記録を開始する。地震発生の情報として、例えば、気象庁等が発信する緊急地震速報(警報)を採用することができる。すなわち、緊急地震速報(警報)の受信をトリガーとして、加速度センサGの起動と検出した加速度情報1の記録を開始する。また、これ以外にも、例えば、移動体通信端末S自身に作用した所定値以上の地震の揺れの加速度の入力があったことを、地震発生の情報の入力としてもよい。加速度センサGで検出した加速度の値が所定値未満になれば、加速度情報1の記録を終了する。なお、地震発生の情報の入力の有無に関わらず、加速度センサGが常時起動しているデバイスも存在するので、このような場合は、地震発生の情報の入力を受けてその起動状態を維持したまま加速度の値の記録が開始される。加速度の値の記録が終了すると、移動体通信端末Sからデータ取得装置10へ情報が送信される。
【0031】
ここで、移動体通信端末Sは、地震時に検出した加速度情報1に加え、その加速度情報1を検出した際における移動体通信端末SのGPS装置による位置情報や、気圧高度計Iによる高度情報、ジャイロセンサJや磁気センサKによる回転や向き、方角の情報、無線LANの接続先L等の付帯情報を、無線LAN及び移動体通信網を通じてデータ取得装置10へ送信する。さらには、移動体通信端末Sに加速度情報1を処理する機能(後述)が設定されている場合には、移動体通信端末Sは、その加速度情報1から得られる加速度情報1以外の他の揺れに関する情報3を、無線LAN及び移動体通信網を通じてデータ取得装置10へ送信することができる。なお、移動体通信端末Sは、これらの情報を、無線LANを経由せずに、直接、移動体通信網を通じてデータ取得装置10へ送信することもできる。移動体通信端末Sには、上記のように、地震発生の情報の入力を受けて、加速度センサGを起動して加速度情報1の記録を開始し、地震の揺れが終了あるいは弱くなった所定の時期に記録を終了するとともに、適宜のタイミングでデータ取得装置10へ情報を送信するプログラムが予めダウンロードされ、それが記憶されている。
【0032】
データ取得装置10は、CPU、RAM、ROM等を備えたサーバで構成されている。データ取得装置10は、単独のサーバで構成されていてもよいし、複数のサーバで構成されていてもよい。また、そのサーバの全部又は一部にクラウドを用いていてもよい。ここで、データ取得装置10は、揺れに関する情報3を移動体通信端末Sから受信する情報受信部11と、揺れに関する情報3を送信した移動体通信端末Sが存在するフロア情報2を取得するフロア情報取得手段12と、揺れに関する情報3を揺れに関する他の物理量や建造物Aの揺れを評価する指標に変換する情報変換手段13とを備えている。また、データ取得装置10は、揺れに関する情報3又はその揺れに関する情報3から得られた他の物理量や指標の情報と、それに対応するフロア情報2とを連携させる位置特定手段14を備えている。さらに、データ取得装置10は、外部に対して情報や信号を送信する送信部15と、受信した加速度情報1等の各種情報を記憶する記憶部16を備えている。また、情報の送受信やその他の制御に関わるプログラム等は、RAM又はROMに記憶されている。
【0033】
情報受信部11は、移動体通信端末Sから送信された揺れに関する情報3を受信する。また、情報受信部11は、揺れに関する情報3と合わせて移動体通信端末Sから送信された位置情報や高度情報、回転や向き、方角の情報、無線LANの接続先L等の付帯情報も受信する。
【0034】
情報の送信は、例えば、取得した情報を随時リアルタイムで送信する形態としてもよいし、数秒毎(例えば10秒毎)のデータをまとめて断続的に送信してもよい。この実施形態では、地震の揺れが完全に終了して所定時間経過後に、単一の地震のデータをまとめて1回で送信する形態としているので、地震の揺れの途中や地震直後における通信混乱時を避けて情報の送信が可能である。ここで、所定時間は、例えば、30分、1時間、2時間等の任意の時間に設定できる。地震の規模が大きい場合には、地震発生直後の時間帯を避けるように設定することができる。また、その情報によって建造物Aの被災度を判定する場合等、情報の取得に即時性が求められる場合は、所定時間を短く設定してもよい。
【0035】
フロア情報取得手段12は、移動体通信端末Sから受信したフロアFに関連する情報を基に、フロア情報2を取得する。フロア情報2は、情報の送信元である移動体通信端末Sが存在するフロアFを特定する情報である。
【0036】
フロア情報取得手段12の例として、移動体通信端末Sが備える気圧高度計Iの高度の情報に基づいて、フロア情報2を取得する形態が挙げられる。例えば、フロア情報取得手段12は、気圧高度計Iが検出する高度の情報が、高度(標高)20m以上24m未満である場合にはフロアFは1Fであり、高度(標高)24m以上28m未満である場合にはフロアFは2Fである、といったように取得した高度の範囲とフロアFとを連携づけることで、フロア情報2を取得することができる。フロア情報取得手段12には、建造物A毎に高度とフロアFとを連携付けるデータベースが記憶されているので、この気圧高度計Iの高度の情報(フロアFに関連する情報)とデータベースとの比較によりフロア情報2が取得できる。
【0037】
なお、移動体通信端末Sが、気圧高度計Iの高度の情報、GPS装置の位置の情報、及び、立体的な階層を有する地図データ等によって、既にその建造物A内のどのフロアFに存在しているかを把握している場合がある。このような場合、フロア情報取得手段12は、地図データ等において把握されたフロアFの情報を移動体通信端末Sから受信することで、その把握されたフロアFをそのままフロア情報2と認識することができる。
【0038】
また、別の形態として、フロア情報取得手段12は、移動体通信端末Sが接続した無線LANへの接続先L(以下、アンテナLと称する)の情報に基づいて、フロア情報2を取得することもできる。すなわち、建造物Aには、フロアF毎に無線LANのアンテナLを備えているので、移動体通信端末Sが接続したアンテナLのアドレス(ルータのアドレス等)の情報をフロアFに関連する情報として扱い、そのアンテナLのアドレスとフロアFとを連携づけることで、フロア情報2を取得することができる。フロア情報取得手段12には、建造物A毎にアンテナLのアドレスとフロアFとを連携付けるデータベースが記憶されている。
【0039】
なお、移動体通信端末Sは、実際に存在しているフロアFではなく、上下に隣り合う別のフロアFのアンテナLに接続される場合もあると考えられる。例えば、特定のフロアFのアンテナLに接続された状態を維持したまま、別のフロアFへ移動したような場合が挙げられる。しかし、現実には、例えば、住居用ビルでは、或る移動体通信端末Sのユーザが自宅のアンテナLに接続された状態を維持したまま別のフロアFへ移動することは、自宅から外出する際や自宅へ帰宅する際、あるいは、特定の目的がある場合に限られる。また、オフィス用ビルでは、或る移動体通信端末Sのユーザが本拠とするフロアFはある程度定まっており、建造物A内では、1日の滞在時間のうち本拠となるフロアFでの滞在時間が大半を占めると考えられる。このため、仮に、上記のように実際に存在しているフロアFと、接続しているアンテナLのフロアFとが相違しているデバイスがあったとしても、情報の母集団の数が多い場合は、結果への影響は少ないと考えられる。さらに、このようなケースが発生した場合であっても、取得した加速度情報1は、共通のフロアFに存在する他の移動体通信端末Sが取得した加速度情報1の挙動や傾向とは異なることが考えられる。このため、その挙動や傾向の違いによって、実際に存在しているフロアFではなく、他のフロアFのアンテナLに接続されていたことを判別することも可能である。このような判別を行えば、実際に存在しているフロアFではなく、他のフロアFのアンテナLに接続された移動体通信端末Sの加速度情報1は、それ以降の処理対象から排除することができる。なお、一般的には、現在普及しているWi-Fiの電波は、コンクリート等の床版で遮断される特性があるため、それぞれの移動体通信端末Sは、基本的にはその移動体通信端末Sが存在するフロアFにあるアンテナLと通信を行うものと考えられる。
【0040】
ここで、移動体通信端末Sが取得する加速度情報1は、スマートフォン等のデバイスを基準とした3軸方向のデータであり、x軸方向、y軸方向、z軸方向の向きはデバイスによってまちまちな方向となっているとともに、さらにその方向は使用者の動作に応じて刻々と変化する。すなわち、加速度情報1の3軸方向は、必ずしも実際の地面の水平方向(東西方向(EW方向)、南北方向(NS方向))や上下方向(鉛直方向(UD方向))とは一対一に対応していない。このため、情報変換手段13は、互いに直交するx軸方向、y軸方向、z軸方向の時刻歴の加速度情報1を、それぞれ東西方向x’、南北方向y’、鉛直方向z’の加速度に変換する方向補正を行う。この方向補正により、東西方向x’、南北方向y’、鉛直方向z’に対応した情報を時刻歴で取得することができる。この方向補正には、ジャイロセンサJや磁気センサKによる回転や向き、方角の情報を用いる。すなわち、加速度情報1の記録と同時に、ジャイロセンサJと磁気センサKとの時刻歴を取得し、これらを用いて加速度情報1の時刻歴を3次元ベクトルによる回転補正を行うことで導出が可能である。ここで、時刻歴とは、時間の経過に伴って変化する(所定の観測周期毎の)値の集合を意味しており、波形データはその時刻歴を表す一つの形態である。
【0041】
図6は、x軸方向、y軸方向、z軸方向の加速度情報1の補正前波形データである。加速度情報1の補正前波形データによると、その波形の基線の位置が、本来あるべき加速度0(ゼロ)の位置からずれていることが理解できる。この基線のずれは、種々の要因によって生じる。例えば、移動体通信端末Sの画面の面方向が水平方向に対して傾斜している場合、加速度情報1の基準となる画面の面方向と重力加速度の作用方向とが垂直でないことによって生じ得る。このようなずれた基線を、本来あるべき加速度0の位置に補正する手法は公知である。例えば、Trifunacによる基線補正方法、
http://www4.kke.co.jp/resp/topics/mailmag/archive/019.html
が挙げられる。
図7は、x軸方向、y軸方向、z軸方向の加速度情報1に対して、基線補正を行った後の波形データ1’である。
図8の例では、符号c1が加速度情報1の波形データのずれた基線を、符号c0が補正後の基線の位置を示している。
図9に示すように、速度情報の波形データは加速度情報の波形データを1回積分することで求められ、変位情報の波形データは、速度情報の波形データを1回積分することで求められる。
図9の例では、加速度情報1から得られた波形データについて基線補正を行い、その基線補正を行った後の加速度の波形データを基に、1回の積分を行うことで速度情報を得て、さらに1回の積分を行うことで変位情報を得ている。そして、基線補正後の加速度の波形データ、それを基に得られた速度情報、変位情報の波形データから、それぞれ必要な加速度、速度、変位の代表値や震度等の指標を取得している。ここで他の例として、加速度情報1から得られた波形データから、基線補正することなく速度情報の波形データ、変位情報の波形データを取得し、その速度、変位のそれぞれの波形データに対して基線補正を行ってもよい。ただし、変位については、加速度や速度と違って、地震が終了した時点での数値が0になるとは限らないので、変位情報の波形データに対する基線補正は必要に応じて行うことが望ましい。このように、データ取得装置10が移動体通信端末Sから取得した揺れに関する情報3(この実施形態では加速度情報1)に対して、サーバ側で各種補正や演算、加工を行って得られた情報を、揺れに関する情報3から得られた情報と称する。
【0042】
図7に示す基線補正後の波形データに対し、情報変換手段13は、フィルタ処理により0.5Hz未満及び10Hz以上の帯域を減衰する補正をさらに行う。これは、0.5Hz未満の帯域は使用者の体の動き、10Hz以上の帯域はデバイスの落下等の衝撃の成分が支配的であることに基づく。このため、建造物Aの評価を行うにあたっては、0.5Hz未満及び10Hz以上の帯域を減衰させ、0.5Hz以上及び10Hz未満の帯域を採用することが望ましい。このフィルタ処理には、例えば、バンドパスフィルタを用いることができる。ここで、バンドパスフィルタでは、特定の周波数の帯域を完全に0(ゼロ)にまで除去することは難しいが、本件の場合は、地震の要素に関係が薄い0.5Hz未満及び10Hz以上の帯域を、できる限り低く減衰させることが望ましい。上記により、x軸方向、y軸方向、z軸方向の3方向、又は、方向補正を行った場合は、東西方向x’、南北方向y’、鉛直方向z’の3軸方向のフィルタ処理後の情報を取得することができる。なお、このフィルタ処理は、前述の基線補正の前に行ってもよい。また、上記の基線補正及びフィルタ処理に加えて、波形データのうち一部の期間のみを抽出する補正、例えば、地震初期におけるP波のみの揺れ(初期微動)を削除して残りの部分を抽出する部分抽出補正を行うこともできる。建造物Aの被災度の検討には、S波による揺れ(主要動)の情報のみで充分だからである。
【0043】
ここで、
図9に示すように、使用者が手に持ったり衣服のポケットに入れて所持している移動体通信端末Sと、フロアFの床面に固定されている移動体通信端末S(S0)とでは、加速度情報1の挙動が異なる。例えば、フロアFの床面に固定されている移動体通信端末S(S0)から得られる加速度情報1は、実際の建造物(A)の揺れの挙動に近いと考えられるが、使用者が所持している移動体通信端末Sから得られる加速度情報1には、使用者の体の動き等の地震動とは別の揺れの要素が含まれている。しかし、使用者が所持している移動体通信端末Sから得られる加速度情報1に対して、上記のように基線補正を行い、且つ、0.5Hz未満10Hz以上の帯域を減衰させるフィルタ処理を施すことで、その補正後の情報は、建造物Aの躯体に実際に生じている揺れの挙動に近いことが確認できた。なお、このフィルタ処理において、減衰の対象となる周波数の帯域は適宜変更することができる。
【0044】
ところで、上記のように3軸方向への時刻歴の情報をそれぞれ方向補正することは、データ量が莫大となるため、通信容量やデータの処理能力の観点から採用できない場合がある。このため、実施形態では、より採用しやすい態様として、情報変換手段13が、x軸方向、y軸方向、z軸方向の加速度情報1を東西方向x’、南北方向y’、鉛直方向z’に変換することなく、x軸方向、y軸方向、z軸方向の3軸方向の情報を組み合わせて、必要な情報に変換する手法を採用する。この手法によれば、方向補正を伴わないので、通信容量の負担や処理能力に対する危惧が軽減される。
【0045】
x軸方向、y軸方向、z軸方向の3軸方向の情報の組み合わせには、種々の方法が考えられる。例えば、加速度、速度、変位のそれぞれの情報において、3軸方向における同一の時刻における値を組み合わせる手法(第1の手法)が挙げられる。例えば、x軸方向、y軸方向、z軸方向の各方向への時刻歴の値をx(t)、y(t)、z(t)とした場合に、時刻歴の値の二乗和平方根
√(x(t)2+y(t)2+z(t)2)
を求めることができる。代表値は、この時刻歴での二乗和平方根における最大値(絶対値)とすることができる。
【0046】
また、加速度、速度、変位のそれぞれの情報において、3軸方向におけるそれぞれの最大値(絶対値)を検出し(
図7における符号a、符号b、符号c参照)、その3軸方向の最大値a,b,cを用いて、相加平均値(a+b+c)/3や、最大値Max(a,b,c)、二乗和平方根√(a
2+b
2+c
2)を代表値とすることができる(第2の手法)。
【0047】
さらには、3軸方向の加速度情報1に基づいて、あるいは、上記の第1の手法や第2の手法等によって算出された代表値に基づいて、そのフロアFにおける揺れの震度を認定することができる(第3の手法)。加速度情報1の波形データやその情報から得られた代表値に基づいて、建造物A内の該当するフロアFの震度情報を取得することで、建造物Aの各フロアFの躯体の被災度を評価することができる。震度の算出方法は公知であり、例えば、気象庁が公開している下記手法を採用することができる。
https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/kyoshin/kaisetsu/calc_sindo.htm
【0048】
また、情報変換手段13は、同一のフロアFに複数の揺れに関する情報3が存在する場合に、複数の揺れに関する情報3に基づいてそのフロアFの採用値を決定する。例えば、同一のフロアFに存在する複数の移動体通信端末Sの加速度情報1に基づいて、それぞれ上記の第1の手法や第2の手法等による代表値を算出し、それらの複数の代表値の平均値や、複数の代表値の中の最大値を、該当するフロアFの採用値とすることができる。ここで、同一のフロアFの中で統計的に異常な数値と判定されるデータ(例えば、母集団の代表値からの残差が標準偏差の所定倍以上となるデータ等)は排除することができる。
【0049】
この発明の揺れデータ取得装置10を用いた実験例の結果を
図12に示す。
図12は、入力された特定の地震波に対して、フィルタ処理を施した後の加速度情報1の波形データを用いて、加速度・速度、震度(計測震度)を計算し、それらの各値と地震波の真値とを比較した実験結果である。ここで、前述のように、移動体通信端末Sの方向を、東西方向、南北方向、鉛直方向へ変換するのではなく、x軸方向、y軸方向、z軸方向の3成分の加速度を組み合わせた合成値(3方向への加速度の各最大値のベクトル和)と比較する。
【0050】
図12の表において、左から順に、移動体通信端末S(スマートフォン)をネックストラップ、胸ポケット、ズボンポケットに収納して所持するとともに起立した状態で測定する立位(#1~#3)、移動体通信端末Sをネックストラップ、胸ポケット、ズボンポケットに収納して所持するとともに椅子等に座った状態で測定する座位(#4~#6)、移動体通信端末Sを背丈の低いクレードルに保持、フラットな机上に直置き、背丈の高いクレードルに保持した状態で測定する机上(#7~#9)、移動体通信端末Sを床面に固定した状態で測定する床固定(#10)の結果を示している。また、最も右の欄は、地震の検測で通常用いられる振動台センサの値である。この実験では、振動台センサが検知した値を地震波の真値としている。実験は、同じ地震波の入力をNo.1~No.4まで繰り返し4回実施しており(最も左の欄の実験番号参照)、この4回の実施中に被験者を入れ替えた実験も実施している。
【0051】
#1~#10の各欄の値は、加速度については、基線補正及びフィルタ処理を行った後の波形データから、x軸方向、y軸方向、z軸方向の3成分の加速度のそれぞれの最大値を求め、その3成分の加速度の最大値の二乗和平方根(3方向への加速度の各最大値のベクトル和)としている。速度については、基線補正及びフィルタ処理後の加速度の波形データから積分により3成分の速度の波形データを求め、同じくその3成分の速度の最大値の二乗和平方根(3方向への加速度の各最大値のベクトル和)としている。また、計測震度は、前述の3成分の加速度の最大値の二乗和平方根の値から、対応する震度を算出している。一部の欄が空欄となっているのは、アプリが正常に作動せずに観測記録を取得できなかった場合である。入力した地震波は、最大で加速度で約700cm/s2、計測震度5.4(震度5強)であった。
【0052】
表12の下段は、加速度(No.1~No.4)、速度(No.1~No.4)、計測震度(No.1~No.4)のそれぞれについて、#1~#9の各項目、及び、#1~#3平均、#4~#6平均、#7~#9平均、#1~#9平均、#10、真値のそれぞれの平均を求めたものである。
【0053】
この地震動によれば、#1~#3平均、#4~#6平均、#7~#9平均、#1~#9平均、#10、真値との比較において。各項目ともに真値との差は比較的小さかった。具体的には、床固定と真値とはほぼ同等な数値となっており、#1~#3平均、#4~#6平均、#7~#9平均、#1~#9平均の各項目と真値とも、地震による揺れを把握する上ではほぼ同等な数値と評価できる精度となっている。すなわち、#1~#9までの項目毎の平均化を実施するに際し、立位(#1~#3)、座位(#4~#6)、机上(#7~#9)の体勢毎に平均した値や、全体(#1~#9)の平均値が、それぞれ真値に近いことが分かった。これは、1つの移動体通信端末Sで観測された情報から揺れのレベルを推定するのではなく、一定の空間内に存在する複数の移動体通信端末Sで観測された情報を用いてそれらを平均化していくと、真値に近づく可能性を示唆していると思われる。人が所持している移動体通信端末Sだけでなく、机上に置いてある移動体通信端末S等、条件が異なる移動体通信端末Sの情報も活用することで、揺れのレベルをより正確に推定できると考えられる。このように、人が日常的に所持している移動体通信端末Sを利用できれば、地震計が無い場所であっても、建造物Aの揺れのレベルを的確に把握でき、また、建造物Aの被害を推定できるようになる。上記の実験では、特に、速度情報のうちx軸方向、y軸方向、z軸方向の3方向への速度のそれぞれの最大値の二乗和平方や、加速度情報に基づいて決定される震度情報は、建造物Aの躯体に実際に生じている揺れの挙動によく一致していることが確認できた。
【0054】
データ取得装置10は、これらの揺れに関する情報3又は揺れに関する情報3から得られた情報に対して対応するフロア情報2を連携させる位置特定手段14を備えている。例えば、移動体通信端末Sが、加速度情報1を、対応するフロア情報2に関連付けて送信している場合、データ取得装置10側のフロア情報取得手段12がフロア情報2をそのまま認定した後、位置特定手段14が、揺れに関する情報3から得られた情報の元データである加速度情報1に対応するフロア情報2を、対応するフロア情報2と認識する。また、移動体通信端末Sが、加速度情報1を、気圧高度計Iの高度の情報や、無線LANのアンテナLの情報等に関連付けて送信している場合、データ取得装置10側のフロア情報取得手段12がフロア情報2を特定した後、位置特定手段14が、揺れに関する情報3から得られた情報の元データである加速度情報1に関連付けられたフロア情報2を、その揺れに関する情報3から得られた情報に対応するフロア情報2と認識する。揺れに関する情報3(加速度情報1)及び揺れに関する情報3から得られた情報は、対応するフロア情報2に連携した状態で記憶部16に保存される。
【0055】
図10は、フロア情報2に連携した加速度の波形データを基に、建造物Aの躯体に生じた最大加速度をフロアF毎に演算で求め、それをグラフ化したものである。最大加速度は、例えば、
図7の波形データにおいて、x軸方向の加速度の最大値(符号a地点の瞬時値)、y軸方向の加速度の最大値(符号b地点の瞬時値)、z軸方向の加速度の最大値(符号c地点の瞬時値)に基づいて上記第2の手法で算出すれば、処理の対象となるデータ量が少なく、解析が容易である。前述のように、移動体通信端末Sのx軸方向、y軸方向、z軸方向は、東西方向x’、南北方向y’、鉛直方向z’とは異なっている。しかし、x軸方向、y軸方向、z軸方向の加速度情報1を東西方向x’、南北方向y’、鉛直方向z’に変換することなく、x軸方向、y軸方向、z軸方向の3軸方向の情報を組み合わせて必要な情報に変換したので、方向補正を伴わずデータの処理の負担が軽減されている。
【0056】
図11は、加速度の波形データを基に、建造物Aの躯体に生じた横方向の最大変位量をフロアF毎に演算で求め、それをグラフ化したものである。最大加速度の場合と同様に、x軸方向の変位量の最大値、y軸方向の変位量の最大値、z軸方向の変位量の最大値に基づいて上記第2の手法で算出すれば、処理の対象となるデータ量が少なく、解析が容易である。
【0057】
移動体通信端末Sによる処理のフローチャートを
図4Aに示す。移動体通信端末Sは、
図4Aに示すように、ステップs1で処理を開始し、ステップs2で地震発生情報の信号の入力の有無を判別する。ステップs2で地震発生の情報の入力があった場合には、地震発生があるものとして、ステップs3へ移行する。ステップs2で地震発生の情報の入力がなければ、ステップs11へ移行して処理を終了する。ステップs3では停止状態である加速度センサGを起動する。加速度センサGが常時起動している場合は、このステップs3は省略できる。続くステップs4では、加速度センサGによって検出される加速度情報1の記録を開始する。そして、ステップs5では、フロア情報2を記録する。ステップs6では、地震終了の情報の入力の有無を判別する。地震終了の情報は、例えば、移動体通信端末S自身に作用した地震の揺れの加速度が所定値未満になったことをもって、地震終了情報の入力としてよい。ステップs6で地震終了情報の信号の入力がなければ、ステップs4へ戻って処理を繰り返す。ステップs6で地震終了の情報の入力があった場合には、ステップs7で加速度情報1の記録を終了し、ステップs8でフロア情報2の記録を終了する。続くステップs10では、それらの情報、すなわち加速度情報1を含む揺れに関する情報3とフロア情報2がデータ取得装置10へ送信される。続いて、ステップs11へ移行して処理を終了する。
【0058】
つぎに、データ取得装置10のサーバ側の処理のフローチャートを
図5Aに示す。データ取得装置10は、ステップt1で処理を開始し、ステップt2で情報の受信があるかないかが判別される。ステップt2で情報の受信があった場合にはステップt3へ移行する。ステップt2で情報の受信がなければ、ステップt11へ移行して処理を終了する。なお、一般にデータ取得装置10のサーバと建造物Aとは、互いに遠く離れたエリアにある場合が多いと考えられるので、この実施形態では、移動体通信端末S側で地震発生情報を取得する態様としている。ただし、データ取得装置10の送信部15から移動体通信端末Sへ地震発生の情報を送信することも可能である。このような場合、例えば、気象庁等が発信する地震速報等に基づいて、データ取得装置10から移動体通信端末Sへ地震発生情報の信号を送信することとなる。
【0059】
ステップt3では揺れに関する情報3を受信し、ステップt4ではフロア情報2を受信する。続いて、ステップt5では、受信の終了を判別する。受信が終了すれば、ステップt6において、受信した揺れに関する情報3とフロア情報2を保存する。続くステップt7でデータ補正を行う。ステップt7で行うデータ補正とは、受信した揺れに関する情報3(加速度情報1)を、他の物理量や建造物Aの揺れを評価する指標に変換するものである。具体的には、波形データの基線補正、フィルタ処理、部分抽出補正等の各種補正や、代表値の決定、指標の決定等のための演算、加工を行うものである。ステップt8では、これらのデータの補正によって得られた情報、すなわち、揺れに関する情報3から得られた情報の保存が行われる。ステップt9でフロア情報2によってフロアFが特定され、揺れに関する情報3あるいは、その揺れに関する情報3から得られる情報とフロアFとが連携されて、その情報が保存される。最後に、ステップt10でそれらの情報が評価手段20へ転送されて、ステップt11で処理を終了する。上記
図4A及び
図5Aのフローチャートに基づく処理を第1の例と称する。
【0060】
ここで、上記第1の例でのステップt7でのデータの処理を、移動体通信端末Sが行うこともできる。第2の例における移動体通信端末Sによる処理のフローチャートを
図4Bに示す。
図4Bにおいてステップs1’~ステップs8’は、
図4Aのステップs1~ステップs8と共通の処理であるので説明を省略する。ステップs9’において、移動体通信端末Sが取得した加速度情報1を、他の物理量や建造物Aの揺れを評価する指標に変換するデータ補正が行われる。具体的には、第1の例でデータ取得装置10の情報変換手段13が行った波形データの基線補正、フィルタ処理、部分抽出補正等の各種補正や、代表値の決定、指標の決定等のための演算、加工を行うものである。ステップs10’では、加速度情報1と、その加速度情報1に基づいて得られた他の物理量や指標等を含む揺れに関する情報3が、フロア情報2とともにサーバ側へ送信される。続いて、ステップs11’へ移行して処理を終了する。第2の例では、これらの情報の処理を行うプログラムが、移動体通信端末Sにダウンロードされ記録されている。
【0061】
つぎに、第2の例のサーバ側の処理のフローチャートを
図5Bに示す。
図5Bにおいてステップt1’~ステップt5’は、
図5Aのステップt1~ステップs5と共通の処理であるので説明を省略する。ステップt6’において、受信した揺れに関する情報3とフロア情報2が保存される。受信した揺れに関する情報3は、既に、移動体通信端末S側で加速度情報1から必要な状態に加工された情報である。このため、続くステップt9’でフロア情報2によってフロアFが特定され、揺れに関する情報3とフロアFとが連携されて、その情報が保存される。最後に、ステップt10’でそれらの情報が評価手段20へ転送されて、ステップt11’で処理を終了する。
【0062】
評価手段20は、データ取得装置10から転送された揺れに関する情報3あるいは、その揺れに関する情報3から得られる情報とフロア情報2に基づいて、地震被害状況の推定を含む建造物Aの被災度の評価を行う。評価手段20は、データ取得装置10から転送された情報を取得する受信部21と、その取得した情報を必要に応じて演算する演算部22、データ取得装置10から転送された情報や演算された結果を判定する判定部23、データ取得装置10から転送された情報や判定した情報を記憶する記憶部24等を備えている。演算部22は、受信部21で受信した揺れに関する情報3、あるいは、その揺れに関する情報3から得られる情報を基に、必要に応じて別の物理量や指標に変換することもできる。判定部23は、揺れに関する情報3、その揺れに関する情報3から得られる情報、あるいは、演算部22で得られた物理量や指標を、基準値と比較することで様々な評価を行う。
【0063】
図10のグラフでは、建造物Aの躯体に生じた最大加速度がフロアF毎に求められているので、その最大加速度をフロアF毎に入力することにより、判定部23は、建造物Aに生じた被害状況の有無やその程度を推定することができる。すなわち、建造物Aの設計段階では、設計の基準となる加速度が設定されているので、その設計上の加速度とフロアF毎の最大加速度との比較によって建造物Aの状態、すなわち建造物Aの被災度の評価が可能である。
【0064】
また、
図11のグラフでは、建造物Aの躯体に生じた横方向変位量の最大値がフロアF毎に求められているので、その変位量の最大値をフロアF毎に入力することにより、同じく判定部23は、建造物Aに生じた被害状況の有無やその程度を推定することができる。すなわち、建造物Aの設計段階では、建造物Aの躯体に許容される変形性能は予め設定されているので、その設計上の変形性能(設計上の最大変位量)とフロアF毎の変位量の最大値との比較による被災度の評価が可能である。
【0065】
さらに、また、
図10や
図11の例以外にも、例えば、特許文献1~3に記載のように、揺れに関する情報3又は揺れに関する情報3から得られた情報に基づいてフロアF毎の層間変形角を演算により導出し、その層間変形角を基準値と比較することで、建造物Aの被災度を評価することもできる。
【0066】
また、例えば、加速度の波形データにより地表あるいは建造物AのフロアF毎の床の揺れを演算で導出し、この被災度評価システム30による同一の地震に対する他の建造物Aの情報、あるいは、他のシステム、公的機関等の公開された情報と合わせてビッグデータとして統計処理することにより、広域的な地震被害状況(平面的な地震被害分布や、個々の建物被災度分布)を推定することも可能である。なお、この被災度評価システム30によれば、建造物Aの被災度評価に加えて、建造物Aの周辺や建造物Aに限らない移動体通信端末S周辺の揺れに関する情報3の把握、及び、その情報に基づいた各種の被災状況の把握も可能である。
【0067】
以上のように、この発明によれば、建造物A内で使用されているスマートフォン等の移動体通信端末からのデータを活用できるので、地震計のような常設の設備を建造物Aに固着することなく、すなわち、固定式のセンサを設置する必要がなく、地震に伴う建造物Aの揺れを的確に把握できるようになる。
【符号の説明】
【0068】
1 加速度情報
2 フロア情報
3 揺れに関する情報
10 揺れデータ取得装置
11 情報受信部
12 フロア情報取得手段
13 情報変換手段
14 位置特定手段
15 送信部
16 記憶部
20 評価手段
21 受信部
22 演算部
23 判定部
24 記憶部
30 被災度評価システム
A 建造物
F フロア
G 加速度センサ
H GPS(グローバル・ポジショニング・システム)
I 気圧高度計
J ジャイロセンサ
K 磁気センサ
L 接続先(アンテナ)
S 移動体通信端末