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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025419
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】マーキングペン用インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20220203BHJP
【FI】
C09D11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020128229
(22)【出願日】2020-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】520282546
【氏名又は名称】株式会社ミルキーファーマシー
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100126963
【氏名又は名称】来代 哲男
(72)【発明者】
【氏名】岸 正二郎
(72)【発明者】
【氏名】松山 善範
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB03
4J039AB12
4J039AD10
4J039AD16
4J039AD18
4J039BA35
4J039BC02
4J039BC03
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039EA16
4J039EA18
4J039EA38
4J039EA43
4J039GA21
(57)【要約】
【課題】被筆記面に霜及び薄氷等が存在したり、或いは流水下にあっても、筆記性及び固着性に優れたマーキングペン用インキ組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係るマーキングペン用インキ組成物は、任意成分としての白色顔料と、白色以外の色を呈する着色顔料と、ガラス転移温度(Tg)が30℃以下の粘着性樹脂と、軟化点が100℃以上の固着用樹脂と、溶剤と、を少なくとも含むことを特徴とし、例えば、筆記具用のマーキングペン(ペイントマーカー)やサインペンに搭載するインキに含有させて用いられる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意成分としての白色顔料と、
白色以外の色を呈する着色顔料と、
ガラス転移温度(Tg)が30℃以下の粘着性樹脂と、
軟化点が100℃以上の固着用樹脂と、
溶剤と、
を少なくとも含むマーキングペン用インキ組成物。
【請求項2】
前記着色顔料は、有機顔料がヒマシ油により表面処理された顔料である請求項1に記載のマーキングペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記着色顔料は、有機顔料がラノリンにより表面処理された顔料である請求項1又は2に記載のマーキングペン用インキ組成物。
【請求項4】
前記固着用樹脂がテルペンフェノール樹脂である請求項1~3の何れか1項に記載のマーキングペン用インキ組成物。
【請求項5】
前記溶剤が少なくともイソパラフィン系溶剤を含む請求項1~4の何れか1項に記載のマーキングペン用インキ組成物。
【請求項6】
前記溶剤がさらにキシレンを含む請求項5に記載のマーキングペン用インキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーキングペン用インキ組成物に関し、被筆記面に霜及び薄氷等が存在したり、或いは流水下にあっても、良好な筆記性及び固着性を示すマーキングペン用インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、魚市場等にある大型冷蔵庫内には、加工処理された魚等の商品が入れられた段ボールが多数保管されている。また、保管されている段ボールは同一種類のものが多い。そのため、商品の鮮度を考慮して先入れ先出しを行うなど、一定の管理が行われている。しかし、種類や数量が多いため商品管理は十分とはいえない。そこで、霜が付着したり薄く氷が張り付いた段ボールに対しても、直接筆記が可能なマーキングペンの開発が求められていた。
【0003】
また、例えば、冬季の屋外では、コンクリートや錆びた鉄板などにも霜や薄氷が付着する場合がある。しかし、従来のマーキングペンや墨ツボでは、霜等が付着したコンクリート等に直接筆記が困難なことから、建築作業や工事の現場でも、その様な被筆記面に対し筆記が可能なマーキングペンの開発が望まれていた。
【0004】
この様なニーズに対し、例えば、特許文献1では、溶剤極性が0.60以下の溶剤、当該溶剤に可溶な結合剤樹脂、着色顔料及び疎水性シリカ微粒子が配合されてなるマーキングペン用インキ組成物が提案されている。このマーキングペン用インキ組成物によれば、水に濡れた物品の表面に筆記しても、水をペン先で弾いて退けながら筆記できるとされている。
【0005】
しかし、従来の前記マーキングペン用インキ組成物でも、例えば、表面が凹凸で水分が存在する様なコンクリート等や、流水下にある様な被筆記面に対しては、筆記面で当該インキ組成物が滲んだり流される等して鮮明な筆跡を得ることが困難である。また、筆記後の筆記面に流水を接触させた場合には、インキ組成物の塗膜が剥離して流れ落ちるという問題もある。さらに、被筆記面に霜や薄氷等が付着していると、乾燥後のインキ組成物の塗膜の固着性(定着性)も悪く、塗膜が剥離するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-291304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点を考慮してなされたものであり、その目的は、被筆記面に霜及び薄氷等が存在したり、或いは流水下にあっても、筆記性及び固着性に優れたマーキングペン用インキ組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るマーキングペン用インキ組成物は、前記の課題を解決するために、任意成分としての白色顔料と、白色以外の色を呈する着色顔料と、ガラス転移温度(Tg)が30℃以下の粘着性樹脂と、軟化点が100℃以上の固着用樹脂と、溶剤と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0009】
前記の構成に於いて、前記着色顔料は、有機顔料がヒマシ油により表面処理された顔料であることが好ましい。
【0010】
また前記の構成に於いて、前記着色顔料は、有機顔料がラノリンにより表面処理された顔料であってもよい。
【0011】
さらに前記の構成に於いては、前記固着用樹脂がテルペンフェノール樹脂であることが好ましい。
【0012】
また前記の構成に於いては、前記溶剤が少なくともイソパラフィン系溶剤を含むことが好ましい。
【0013】
また、前記溶剤がさらにキシレンを含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べる効果を奏する。
即ち、本発明のマーキングペン用インキ組成物は、ガラス転移温度が30℃以下の粘着性樹脂を含有するので、被筆記面に対するインキ組成物の密着性を付与する。これにより、例えば、流水下にある被筆記面に筆記しても当該インキ組成物が流されるのを防止し、滲みなく鮮明な筆跡を得ることができ、筆記性に優れる。また、筆記後の筆記面に流水を接触させても、インキ組成物の塗膜が剥離して流れ落ちるのを低減又は防止することができ、良好な耐水性及び定着性を示す。さらに、筆記面を屈曲させても筆記面にヒビ等が発生するのを抑制又は防止することができる。また、本発明のインキ組成物は、軟化点が100℃以上の固着用樹脂を含有することで塗膜形性能を向上させることができる。これにより、例えば、霜や薄氷等が付着した被筆記面に筆記しても、鮮明な描線が得られる。また、塗膜の強度も向上させるため、乾燥後のインキ組成物の塗膜は、優れた固着性(定着性)を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態に係るマーキングペン用インキ組成物(以下、「インキ組成物」という。)について、以下に説明する。
【0016】
本実施の形態のインキ組成物は、任意成分としての白色顔料、着色顔料、粘着性樹脂、固着用樹脂及び溶剤を少なくとも含むものであり、例えば、筆記具用のマーキングペン(ペイントマーカー)やサインペンに搭載するインキに含有させて用いられる。
【0017】
白色顔料は、隠蔽剤として機能する。白色顔料としては可視光に対し隠蔽性を示すものであれば特に限定されない。その様な白色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アンチモン、水酸化チタン、水酸化亜鉛、水酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫化亜鉛、燐酸アルミニウム、燐酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸鉛、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。これらの白色顔料は1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、白色顔料の市販品としては、例えば、CR-50(酸化チタン、ルチル型、石原産業株式会社製)、TITONE(登録商標)R-650(酸化チタン、堺化学株式会社製)、タイピュア(登録商標)R900(酸化チタン、デュポン株式会社製)等が挙げられる。
【0018】
本発明に於いて、白色顔料は任意成分である。従って、例えば、着色顔料として隠蔽性を有するものを用いる場合には、白色顔料の含有を省略することができる。
【0019】
インキ組成物が白色顔料を含有する場合、白色顔料の含有量は、インキ組成物の全質量に対し10質量%~40質量%であることが好ましく、15質量%~30質量%であることがより好ましく、20質量%~25質量%であることが特に好ましい。白色顔料の含有量を10質量%以上にすることにより、可視光に於ける隠蔽性の維持が図れる。これにより、例えば、段ボールや錆びた鉄板など、色相が黒みがかった被筆記面に筆記した場合に、高い隠蔽性を有する筆跡を得ることができる。その結果、被筆記面を隠蔽しながら、着色顔料により筆跡の発色性を向上させることができる。その一方、白色顔料の含有量を40質量%以下にすることにより、インキ組成物中の固形分濃度を抑制し、インキ組成物の流動性が低下するのを抑制することができる。
【0020】
着色顔料としては白色以外の色を呈する有機顔料であれば特に限定されない。有機顔料としては特に限定されず、例えば、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、インジゴ系顔料、チオインジゴ系顔料等が挙げられる。例えば、アゾ系顔料としては特に限定されず、モノアゾイエロー、モノアゾレッド、ジスアゾイエロー、ジスアゾオレンジ、金属錯塩アゾイエロー、縮合アゾ顔料等が挙げられる。また、フタロシアニン系顔料としては特に限定されず、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン、コバルトフタロシアニンブルー、塩素化フタロシアニングリーン、臭素化フタロシアニングリーン等が挙げられる。さらに、キナクリドン系顔料としては特に限定されず、無置換キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等が挙げられる。これらの有機顔料は1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
また本実施の形態の着色顔料としては、有機顔料がヒマシ油により表面処理されたものを用いるのが好ましい。ヒマシ油で有機顔料の表面処理を行うと、当該有機顔料の表面に、ヒマシ油の主成分であるリシノール酸を吸着させることができる。リシノール酸はヒドロキシル基を有しているため、当該表面処理を行うことにより、着色顔料の表面の水に対する親和性が向上する様に表面改質をすることができる。ここで、酸化チタン等の白色顔料の表面には、ヒドロキシル基が存在している。そのため、ヒマシ油により表面処理された着色顔料は、白色顔料に対し親和性を発揮する。その結果、白色顔料で隠蔽された筆記面に対し着色顔料の定着性を向上させることができる。また、被筆記面に霜等の水分が存在する場合にも、着色顔料が水に浮き、被筆記面に定着できなくなるのを抑制又は低減することができる。
【0022】
前記ヒマシ油としては特に限定されず、例えば、ヒマシ油、水添ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を併用することができる。また、ヒマシ油の市販品としては、例えば、精製ヒマシ油(伊藤製油株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
また本実施の形態の着色顔料としては、有機顔料がラノリンにより表面処理されたものを用いてもよい。ラノリンは極めて多種類の脂肪酸とアルコールの工ステルからなり、また約2倍量の水を吸収する抱水性を有している。そのため、ラノリンにより表面処理された着色顔料は、白色顔料に対し親和性を発揮する。その結果、白色顔料で隠蔽された筆記面に対し着色顔料の定着性を向上させることができる。また、被筆記面に霜等の水分が存在する場合にも、着色顔料が水に浮き、被筆記面に定着できなくなるのを抑制又は低減することができる。さらに、ラノリンは白色顔料に対し顔料分散性を付与する。そのため、インキ組成物の低粘度化も図れる。
【0024】
前記ラノリンとしては特に限定されず、例えば、液状ラノリン、硬質ラノリン、還元ラノリン、精製ラノリン等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を併用することができる。また、ラノリンの市販品としては、例えば、ラノリンR、工業用液状ラノリン(何れも日本精化株式会社製)等が挙げられる。
【0025】
また本実施の形態の着色顔料としては、ヒマシ油により表面処理された有機顔料と、ラノリンにより表面処理された有機顔料とを併用したものであってもよい。この場合、表面が凹凸で霜や薄氷等の水が存在する被筆記面に対して、一層明瞭な筆記が可能になり、筆記性をさらに向上させることができる。
【0026】
着色顔料の含有量は、インキ組成物の全質量に対し、1質量%~30質量%であることが好ましく、5質量%~20質量%であることがより好ましく、8質量%~15質量%であることが特に好ましい。着色顔料の含有量を1質量%以上にすることにより、筆記面における発色性の低下を抑制することができる。その一方、着色顔料の含有量を30質量%以下にすることにより、インキ組成物の粘度が過度に高くなり過ぎ、インキ組成物の流動性が低下するのを抑制することができる。
【0027】
着色顔料として、ヒマシ油により表面処理された有機顔料と、ラノリンにより表面処理された有機顔料とを併用する場合、これらの有機顔料の配合割合は、(ヒマシ油により表面処理された有機顔料):(ラノリンにより表面処理された有機顔料)=1:1~2:1の範囲が好ましく、1:1~3:2の範囲がより好ましい。
【0028】
粘着性樹脂としてはガラス転移点(Tg)が30℃以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは-10℃以下のものであれば特に限定されない。Tgが30℃以下の粘着性樹脂を含有させることで被筆記面に対する密着性を向上させることができる。その結果、例えば、流水下にある被筆記面に筆記しても当該インキ組成物が流されるのを防止し、滲みなく鮮明な筆跡を得ることができる。また、筆記後の筆記面に流水を接触させても、インキ組成物の塗膜が剥離して流れ落ちるのを低減又は防止することができる。さらに、筆記面を屈曲させても、当該塗膜にヒビ等が発生するのを防止又は低減することができる。
【0029】
粘着性樹脂としては具体的には、例えば、アクリル樹脂等が挙げられる。また、粘着性樹脂の市販品としては、例えば、アクリディック(登録商標)WNN-153(商品名、Tg:30℃)、同WNN-276(商品名、Tg:30℃)(以上は、DIC株式会社製)、アクリベース(登録商標)LS-701(商品名、Tg:17℃)、同LKG-1402(商品名、Tg:-45℃)(以上は、藤倉化成株式会社製)等が挙げられる。
【0030】
粘着性樹脂の含有量は、インキ組成物の全質量に対し、1質量%~10質量%であることが好ましく、2質量%~8質量%であることがより好ましく、3質量%~5質量%であることが特に好ましい。粘着性樹脂の含有量を1質量%以上にすることにより、インキ組成物の定着性が過度に低下するのを抑制することができる。その一方、粘着性樹脂の含有量を10質量%以下にすることにより、インキ組成物の粘度が過度に高くなり過ぎ、インキ組成物の流動性が低下するのを抑制することができる。
【0031】
固着用樹脂は、白色顔料及び着色顔料を被筆記面に定着又は固着させる機能を有する。固着用樹脂としては軟化点が100℃以上、好ましくは100℃以上150℃以下、より好ましくは110℃以上130℃以下のものであれば、特に限定されない。軟化点が100℃以上の固着用樹脂を含有させることで、インキ組成物の塗膜形性能を向上させることができる。その結果、例えば、霜や薄氷等が付着した被筆記面に筆記しても、鮮明な描線が得られる。また、軟化点が100℃以上の固着用樹脂は塗膜の強度も向上させるため、乾燥後のインキ組成物の塗膜は、優れた固着性(定着性)を発揮する。
【0032】
固着用樹脂としては具体的には、例えば、テルペンフェノール樹脂、石油系樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。例示した固着用樹脂は1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、固着性樹脂の市販品としては、例えば、タマノル(登録商標)803L(商品名、軟化点:145℃~160℃)、同901(商品名、軟化点:125℃~135℃)(以上は、荒川化学工業株式会社製)、DERTOPHENE T 115(商品名、軟化点:120℃)、DERTOOHENE T(商品名、軟化点:149℃)(以上は、DRT Chemical Company製)等が挙げられる。
【0033】
固着用樹脂の含有量は、インキ組成物の全質量に対し、1質量%~10質量%であることが好ましく、2質量%~8質量%であることがより好ましく、3質量%~5質量%であることが特に好ましい。固着用樹脂の含有量を1質量%以上にすることにより、インキ組成物の塗膜化が過度に低下するのを抑制することができる。これにより、例えば、鉄板、コンクリート、紙及び木材等の被筆記面に対する固着性を維持することができる。その一方、固着用樹脂の含有量を10質量%以下にすることにより、インキ組成物の粘度が過度に高くなり過ぎ、インキ組成物の流動性が低下するのを抑制することができる。
【0034】
溶剤としては特に限定されず、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン等のn-パラフィン系溶剤;イソヘキサン、イソヘプタン、イソオクタン、イソノナン、イソデカン、イソトリデカン、イソテトラデカン、イソペンタデカン、イソヘキサデカン等のイソパラフィン系溶剤等の炭化水素系溶剤等が挙げられる。例示した溶剤は1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、これらの溶剤のうち、極性の観点からは、イソパラフィン系溶剤が好ましい。また、溶剤の市販品としては、例えば、アイソパー(登録商標)E、同G、同H(何れも商品名、エクソンモービル株式会社製)等が挙げられる。
【0035】
溶剤の含有量は、インキ組成物の全質量に対し、40質量%~65質量%であることが好ましく、45質量%~60質量%であることがより好ましく、50質量%~55質量%であることが特に好ましい。
【0036】
また溶剤には、例示した溶剤とは別に他の溶剤を混合して用いてもよい。その様な他の溶剤としては、例えば、キシレン等が挙げられる。溶剤にキシレンを混合して用いることで、粘着性樹脂及び固着用樹脂の溶剤に対する溶解性を高めることができる。インキ組成物が他の溶剤を含有する場合、他の溶剤の含有量は、インキ組成物の全質量に対し1質量%~10質量%であることが好ましく、2質量%~8質量%であることがより好ましく、3質量%~5質量%であることが特に好ましい。他の溶剤の含有量を1質量%以上にすることにより、粘着性樹脂及び固着用樹脂の溶剤に対する溶解性を一層向上させることができる。その一方、他の溶剤の含有量を10質量%以下にすることにより、被筆記面に水が存在する場合でも良好な筆記性の維持が図れる。
【0037】
本実施の形態のインキ組成物は本発明の効果を阻害しない範囲内で、添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、顔料分散剤等が挙げられる。添加剤の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0038】
本実施の形態に係るインキ組成物の製造方法は、例えば、以下の様にして実施することができる。すなわち、先ず溶剤に所定量のヒマシ油及び/又はラノリンを添加して混合撹拌しながら、さらに所定量の着色顔料を投入して、15分間高速撹拌を行う。次に、高速撹拌後の溶液を、横型ビーズミルを用いて分散処理する。この分散処理に於いては、必要に応じて顔料分散剤を添加して行ってもよい。これにより、ヒマシ油及び/又はラノリンにより表面処理され、良好な分散性で分散する着色顔料の分散体を得ることができる。
【0039】
その一方、白色顔料を分散させた白色顔料分散体も別途作製する。具体的には、溶剤に粘着性樹脂、固着用樹脂、白色顔料及び顔料分散剤を投入し、ボールミル等を用いて撹拌混合して白色顔料分散体を作製する。続いて、当該白色顔料分散体と着色顔料分散体とを混合し、高速攪拌機で所定時間撹拌する。これにより、本実施の形態に係るインキ組成物を製造することができる。
【0040】
尚、前記の製造方法に於いては、着色顔料分散体の粘度が過度に低すぎる場合、着色顔料分散体に対して粘着性樹脂や固着用樹脂を添加して作製することも可能である。
【0041】
本実施の形態に係るインキ組成物は、例えば、従来のペイントマーカーと同様、弁付き筆記具やサインペン等に用いるインキに含有させて用いることができる。本実施の形態のインキ組成物を含むインキは、紙、布、木材等、インキに対し吸収性を示す材料からなるものの他、金属、プラスチック、ガラス、セラミック等、インキに対し非吸収性を示す材料からなるものに対しても良好な筆記性及び固着性を示す。特に、これらの被筆記面に霜や薄氷等が存在し、或いは流水が存在する状態であっても、本実施の形態のインキ組成物を含むインキは良好な筆記性及び固着性を示す。また、コンクリートやアスファルト、錆びた鉄板等、表面に凹凸を有し、かつ被筆記面に霜や薄氷、流水等が存在する状態であっても、本実施の形態のインキ組成物は良好な筆記性及び固着性を示す。
【0042】
尚、本実施の形態のインキ組成物は最終製品たるインキの形態のほか、当該インキを調製するための一成分としての形態をも包含するものである。
【実施例0043】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。尚、以下に述べる実施例及び比較例で使用した白色顔料、着色顔料、粘着性樹脂、固着用樹脂、溶剤及び分散剤の詳細は後記表1の通りである。
【0044】
【表1】
【0045】
(実施例1~15)
後記表2~表4に記載の通り、各成分を所定の添加量(質量%)にて混合し、ボールミルにて撹拌して各実施例に係るマーキングペン用インキ組成物を調製した。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
(比較例1~5)
後記表5に記載の通り、各成分を所定の添加量(質量%)にて混合し、ボールミルにて撹拌して各比較例に係るマーキングペン用インキ組成物を調製した。
【0050】
【表5】
【0051】
(霜付き段ボール及び湿潤コンクリートに対する筆記性)
実施例1~15及び比較例1~5に係る各インキ組成物について、霜付き段ボール及び湿潤コンクリートに対する筆記性を評価した。
【0052】
すなわち、各インキ組成物をそれぞれペイントマーカー用の弁付き筆記具(砲弾型ペン芯、ペン芯径4.5mm)の容器内に自由流動状態で充填し、霜が付着した段ボール、及び表面に水分が存在する湿潤コンクリートに対しそれぞれ筆記を行った。結果を表2~表5に示す。
【0053】
尚、筆記性の評価は、以下の基準に従い行った。
◎:問題なく滲まず筆記ができる。
○:描線が若干滲むが筆記ができる。
△:筆記できるが描線が滲む。
×:全く筆記ができない。
【0054】
(流水テスト)
実施例1~15及び比較例1~5に係る各インキ組成物について、筆記後の筆記面に流水を接触させ、塗膜が流水により流れ落ち剥離するか否か確認した。
【0055】
すなわち、各インキ組成物をそれぞれペイントマーカー用の弁付き筆記具(砲弾型ペン芯、ペン芯径4.5mm)の容器内に自由流動状態で充填し、厚さ2mmのステンレス板に対しそれぞれ筆記を行った。次いで、ステンレス板を水平面に対し60°傾斜させた状態で、筆記面に対し流量が2リットル/minの流水を1分間接触させた。その後、筆記面の状態を確認した。結果を表2~表5に示す。
【0056】
尚、流水テストの評価は、以下の基準に従い行った。
◎:問題なく滲まず筆記ができる。
○:描線が若干滲むが筆記ができる。
△:筆記できるが描線が滲む。
×:全く筆記ができない。
【0057】
(乾燥後の固着性(定着性))
実施例1~15及び比較例1~5に係る各インキ組成物について、厚さ2mmのステンレス板への筆記後の筆記面の固着性を評価した。
【0058】
すなわち、各インキ組成物をそれぞれペイントマーカー用の弁付き筆記具(砲弾型ペン芯、ペン芯径4.5mm)の容器内に自由流動状態で充填し、厚さ2mmのステンレス板に対しそれぞれ筆記を行った。その5分後、50℃に設定された恒温槽で1時間放置し、乾燥後の筆記面の状態を確認した。結果を表2~表5に示す。
【0059】
尚、固着性の評価は、以下の基準に従い行った。
◎:筆記面に全く変化なし。
○:筆記面に於いて目視で80%以上筆記箇所が残っていた。
△:筆記面に於いて目視で50%以上筆記箇所が残っていた。
×:筆記面の殆どで塗膜が剥離した。
【0060】
(結果)
表2~表5の結果から明らかな通り、比較例1~3のインキ組成物では、ガラス転移温度が30℃以下の粘着性樹脂を含有しないため、筆記面に流水を接触させると、塗膜が剥離し流れ落ちることが確認された。さらに、霜が付着した段ボール及び水分が存在するコンクリートに対する筆記では、筆記面が滲み筆跡が不明瞭となった。また、比較例4及び5のインキ組成物では、軟化点が100℃以上の固着用樹脂を含有しないため、乾燥後、筆記面の大部分で塗膜が剥離するのが観察された。これにより、各比較例のインキ組成物では、乾燥後のインキの固着性が不十分であることが確認された。
【0061】
その一方、実施例1~15のインキ組成物では、ガラス転移温度が30℃以下の粘着性樹脂を含有するため、筆記面に流水を接触させても、塗膜が剥離して流れ落ちるのを低減し、又は防止することができた。また、霜が付着した段ボール及び水分が存在するコンクリートに対する筆記では、歪みがなく明瞭な筆記面となった。特に、実施例4、5、9及び10のインキ組成物では、有機顔料の表面に精製ヒマシ油を吸着させた着色顔料と、ラノリンを吸着させた着色顔料を併用することで、極めて良好な筆記性を示すことが確認された。また、各実施例のインキ組成物は、軟化点が100℃以上の固着用樹脂も含有するため、乾燥後の筆記面での塗膜の剥離を低減し、又は防止できることが観察された。これにより、各実施例のインキ組成物では、乾燥後のインキの固着性が良好であることが確認された。