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特開2022-25558miR-96-5pインヒビターとそれを含有する医薬組成物
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  • 特開-miR-96-5pインヒビターとそれを含有する医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025558
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】miR-96-5pインヒビターとそれを含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20220203BHJP
   A61K 31/7125 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K31/7125
A61P43/00 111
A61P25/28
A61P23/02
A61P25/16
A61P21/02
C12N15/11 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020128453
(22)【出願日】2020-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】中木 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】青山 晃治
(72)【発明者】
【氏名】木下 千智
(72)【発明者】
【氏名】松村 暢子
(72)【発明者】
【氏名】内海 計
(72)【発明者】
【氏名】杉山 亨
(72)【発明者】
【氏名】森谷 俊介
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA02
4C084ZA16
4C084ZA94
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA02
4C086ZA16
4C086ZA94
(57)【要約】
【課題】miR-96-5pに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドよりも有効な新規のmiR-96-5pインヒビターを提供すると共に、それを含有する新規の医薬組成物を提供する。
【解決手段】前記miR-96-5pインヒビターは、miR-96-5pに相補的な塩基配列を含むペプチド核酸部分を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
miR-96-5pに相補的な塩基配列を含むペプチド核酸部分を含む、miR-96-5pインヒビター。
【請求項2】
前記ペプチド核酸部分のN末端及び/又はC末端に1~数個のアミノ酸からなるペプチド部分が付加された、請求項1に記載のmiR-96-5pインヒビター。
【請求項3】
前記ペプチド核酸部分が、miR-96-5pに相補的な塩基配列のみからなる、請求項1又は2に記載のmiR-96-5pインヒビター。
【請求項4】
miR-96-5pに相補的な塩基配列が、配列番号1で表される塩基配列である、請求項1~3のいずれか一項に記載のmiR-96-5pインヒビター。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のmiR-96-5pインヒビターを有効成分として含む、医薬組成物。
【請求項6】
神経細胞内グルタチオン量の低下が認められる神経変性疾患の予防または治療用である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、又は筋委縮性側索硬化症である、請求項5又は6に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、miR-96-5pインヒビターとそれを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患では神経細胞内のグルタチオンが減少することが知られている。グルタチオンは神経系の主要な抗酸化物質である。本発明者らは、神経細胞内グルタチオン濃度を調節する上で、マイクロRNA96-5p(miR-96-5p)は鍵となる分子であり、miR-96-5pはグルタチオン量を抑制する作用があること、更に脳内miR-96-5pの作用を阻害することにより神経細胞内のグルタチオン量が増加することを生きたマウスで示すことができた(非特許文献1)。また、本出願人は、ヒトmiR-96-5pのアンチセンスオリゴヌクレオチドを有効成分として含有する神経変性疾患に対する予防または治療用の医薬組成物に関する特許(特許文献1)を取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6342288号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kinoshita, C. et al. Rhythmic oscillations of the microRNA miR-96-5p play a neuroprotective role by indirectly regulating glutathione levels. Nat. Commun. 5:3823 doi: 10.1038/ncomms4823 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、従来公知のmiR-96-5pインヒビターである、miR-96-5pに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドよりも有効な新規のmiR-96-5pインヒビターを提供すると共に、それを含有する新規の医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、以下の本発明により、解決することができる:
[1]miR-96-5pに相補的な塩基配列を含むペプチド核酸部分を含む、miR-96-5pインヒビター。
[2]前記ペプチド核酸部分のN末端及び/又はC末端に1~数個のアミノ酸からなるペプチド部分が付加された、[1]のmiR-96-5pインヒビター。
[3]前記ペプチド核酸部分が、miR-96-5pに相補的な塩基配列のみからなる、[1]又は[2]のmiR-96-5pインヒビター。
[4]miR-96-5pに相補的な塩基配列が、配列番号1で表される塩基配列である、[1]~[3]のいずれかのmiR-96-5pインヒビター。
[5][1]~[4]のいずれかのmiR-96-5pインヒビターを有効成分として含む、医薬組成物。
[6]神経細胞内グルタチオン量の低下が認められる神経変性疾患の予防または治療用である、[5]の医薬組成物。
[7]前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、又は筋委縮性側索硬化症である、[5]又は[6]の医薬組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明のmiR-96-5pインヒビターは、骨格部分がペプチド核酸であり、ヌクレアーゼによる分解を受けないため、神経変性疾患という慢性疾患の治療薬として、PNAのmiR-96-5p阻害作用は、従来公知のアンチセンスオリゴヌクレオチドよりも長く持続すると期待できる。従って、投与回数も、従来公知のアンチセンスオリゴヌクレオチドよりも少なくて済むため、有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のmiR-96-5pインヒビターのmiR-96-5p阻害作用をルシフェラーゼレポーターアッセイにより検討した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《本発明のmiR-96-5pインヒビター》
本発明のmiR-96-5pインヒビター(以下、単に本発明のインヒビターとも称する)は、miR-96-5pに相補的な塩基配列を含むペプチド核酸部分を少なくとも含み、miR-96-5p活性に対する阻害作用(以下、miR-96-5p阻害作用と称する)を有する限り、前記ペプチド核酸部分に共有結合で結合する付加的部分を含むことができる。
本発明のインヒビターは、例えば、前記ペプチド核酸部分のみからなることもできるし、あるいは、前記ペプチド核酸部分と前記付加的部分とからなることもできる。
【0010】
miR-96-5pは、種々の生物、例えば、ヒト、ブタ、マウス、ラット等に存在することが知られており、特に限定されるものではないが、好ましくはヒトである。
【0011】
【表1】
【0012】
本明細書において「miR-96-5pに相補的な塩基配列」とは、miR-96-5p阻害作用を示す塩基配列であって、且つ、miR-96-5pの全体配列またはその連続する部分配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは100%の塩基が相補的であることを意味する。なお、前記の連続する部分配列は、miR-96-5pの全体配列に対して、例えば、末端の3塩基(両端の場合は両端の合計として)が欠失した配列、好ましくは末端の2塩基が欠失した配列、より好ましくは末端の1塩基が欠失した配列を挙げることができる。
【0013】
本明細書において「ペプチド核酸」とは、PNA(Peptide Nucleic Acid)とも呼ばれる人工的に化学合成された核酸類似物である。五単糖とリン酸から構成される核酸の基本骨格を、グリシンを単位とする電荷の無いポリアミド骨格に置換した構造をもつ。より詳細には、核酸の糖-リン酸骨格をN-(2-アミノエチル)グリシンを単位とする骨格に置き換え、メチレンカルボニル結合で塩基を結合させた化合物である。相補的な塩基配列を有する核酸に対してDNAやRNAよりも特異的、かつ強力に結合する。一方で、化学合成物質であることから核酸ポリメラーゼやヌクレアーゼが作用しない性質を有する。
【0014】
本発明のインヒビターにおける「miR-96-5pに相補的な塩基配列を含むペプチド核酸部分」は、その配列全体がペプチド核酸からなり、その塩基配列は、miR-96-5pに相補的な塩基配列を含む。従って、前記ペプチド核酸部分の塩基配列は、miR-96-5pに相補的な塩基配列のみからなることもできるし、miR-96-5pに相補的な塩基配列のN末端及び/又はC末端にペプチド核酸からなる塩基配列を付加された塩基配列(但し、miR-96-5p阻害作用を有するものとする)であることもできる。
【0015】
前記ペプチド核酸部分において、miR-96-5pに相補的な塩基配列のN末端及び/又C末端に付加される塩基配列としては、塩基配列全体(すなわち、N末端及び/又はC末端に前記塩基配列が付加されたmiR-96-5pに相補的な塩基配列)として、miR-96-5p阻害作用を有する限り、特に限定されるものではないが、例えば、塩基数(両端の場合は両端の合計として)が1~数個、好ましくは1~6個、より好ましくは1~5個、更に好ましくは1~4個、更に好ましくは1~3個、更に好ましくは1~2個、更に好ましくは1個の塩基配列を挙げることができる。
【0016】
前記ペプチド核酸部分の塩基配列としては、miR-96-5pに相補的な塩基配列のみからなることが好ましく、ヒトmiR-96-5pに相補的な塩基配列(配列番号1)のみからなることが特に好ましい。
【0017】
本発明のインヒビターにおいて、前記ペプチド核酸部分に共有結合で結合する付加的部分は、前記ペプチド核酸部分が示すmiR-96-5p阻害作用を阻害しない限り、特に限定されるものではないが、例えば、前記ペプチド核酸部分のN末端及び/又はC末端に付加することのできるペプチド、例えば、octaarginine、TAT、NLS、TP10、PDEP-P14、Penetratin、Pip2b、CLIP6を挙げることができる。
【0018】
前記ペプチド核酸部分のN末端及び/又はC末端に付加することのできるペプチドとしては、例えば、1~数個のアミノ酸からなるペプチドを挙げることができる。前記ペプチドを構成するアミノ酸残基数(両端に付加する場合は、各ペプチド当たりのアミノ酸残基数)は、例えば、1~数個、好ましくは1~6個、より好ましくは1~5個、更に好ましくは1~4個、更に好ましくは1~3個、更に好ましくは2~3個であることができる。なお、これらの下限および上限は、所望により任意に組み合わせることができる。
【0019】
ペプチド核酸部分のN末端及び/又はC末端に付加することのできる前記ペプチドは、本発明のインヒビターにおいて、ペプチド部分を構成することができる。前記ペプチドは、各ペプチド部分の電荷の総和が正電荷となるように、1以上の塩基性アミノ酸、例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファンを含むことが好ましい。ペプチド部分が正電荷を帯びていると、リン酸基により負電荷を帯びている標的マイクロRNA(負電荷)と静電的相互作用を示すことが推測されるからである。
【0020】
本発明のインヒビターは、本技術分野で周知のPNA合成方法、例えば、市販のPNAモノマーを用いて、Fmoc法による固相合成により製造することができる。
【0021】
本発明のインヒビターは、miR-96-5p阻害作用を有する。
本明細書において「miR-96-5p阻害作用」とは、miR-96-5p活性に対する阻害作用を意味する。
本明細書において「miR-96-5p活性」とは、その標的配列であるシステイントランスポーター興奮性アミノ酸キャリアー1(cysteine transporter excitatory amino acid carrier 1;EAAC1)の3’非翻訳領域(EAAC1 3’-UTR)に結合する活性、又は、その結果、標的であるEAAC1の発現を阻害する活性を意味する。
【0022】
EAAC1のmRNA発現は、本技術分野で周知の各種分析方法、例えば、in situ ハイブリダイゼーション、ノーザンブロッティング、ドットブロット、RNaseプロテクションアッセイ、RT-PCR、Real-Time PCR、qRT-PCT、DNAアレイ解析法などにより検出または定量化することができる。また、EAAC1タンパク質の発現は、本技術分野で周知の各種分析方法、例えば、in situ ハイブリダイゼーション、ウェスタンブロッティング、各種の免疫組織学的方法などにより検出または定量化することができる。
【0023】
また、miR-96-5pのEAAC1 3’-UTRに対する結合は、マイクロRNA分析で汎用される公知方法、例えば、後述する実施例で用いたルシフェラーゼレポーターアッセイにより定量化することができる。前記ルシフェラーゼレポーターアッセイでは、ルシフェラーゼレポーター遺伝子の下流にEAAC1 3’-UTRを挿入したマイクロRNAレポータープラスミドを用意し、このプラスミドを培養細胞に導入し、ルシフェラーゼ活性を測定することにより、miR-96-5pのEAAC1 3’-UTRに対する結合を定量化することができる。
【0024】
本発明のインヒビターによるmiR-96-5p阻害作用は、以下に限定されるものではないが、例えば、前記のマイクロRNAレポータープラスミドを培養細胞に導入し、それと同時に、各種マイクロRNA模倣物(mimic)及び本発明のインヒビターを培養細胞内に導入することにより、評価することができる。
より具体的には、陰性対照(ネガティブコントロール)模倣物のみを導入したときのルシフェラーゼ活性を1とすると、miR-96-5p模倣物のみを導入したときのルシフェラーゼ活性は、miR-96-5p活性の作用により低下する。miR-96-5p模倣物と本発明インヒビターとを同時に導入すると、miR-96-5p模倣物単独投与により低下したルシフェラーゼ活性が、本発明インヒビターの有するmiR-96-5p阻害作用により、1まで回復する。
なお、前記の陰性対照としては、ヒト遺伝子内にターゲットがないことが確認されているmiRNA(例えば、cel-miR-39-3p)を用いることができる。
【0025】
《本発明の医薬組成物》
本発明の医薬組成物は、有効成分である本発明インヒビターを脳内に送達することのできる形態で調製することができる。例えば、国際公開第90/11092号、米国特許第5,580,859号明細書等に記載のnaked DNA導入法を用いることができる。naked DNA導入法では、取り込み効率は、生分解性のラテックスビーズを用いて改善することができる。DNAの替わりにPNAをコーティングしたPNAコーティングラテックスビーズは、エンドサイトーシス開始後にビーズによって細胞内に効率的に輸送される。この方法は、疎水性を増加させるようにこれらのビーズを処理することによって更に改善することができ、それによってエンドソームの破壊および細胞質へのPNAの放出を促進する。
【0026】
また、本発明インヒビターを細胞内に送達するための担体として、リポソームや脂質(例えば、米国特許第7,001,614号、米国特許第7,067,697号、米国特許第7,214,384号各明細書等)、合成ポリマー(例えば、米国特許第6,312,727号明細書等)を使用することもできる。
【0027】
また、本発明の医薬組成物は経鼻投与により脳内に送達することができる。経鼻投与とは、鼻粘膜に薬物を投与する方法であり、その後血管内に吸収されるか、もしくは脳脊髄液や神経細胞に直接移行する経路の存在が知られている。本発明に使用する薬物はこの投与経路を利用して脳内に到達させることができる。
【0028】
本願発明の医薬組成物は、薬学的に許容される適切な担体や希釈剤と組み合わせて、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤およびエアロゾルなどの固体、半固体、液体または気体の形態で製剤化することができる。
【0029】
投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または経鼻、口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内などの非経口投与を挙げることができ、望ましくは経口投与又は経鼻投与を挙げることができる。
【0030】
経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などが挙げられる。乳剤およびシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖などの糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造できる。カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトールなどの賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造できる。
【0031】
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤などが挙げられる。注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液あるいは両者の混合物からなる担体などを用いて調製される。座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸などの担体を用いて調製される。また、噴霧剤は受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ有効成分を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体などを用いて調製される。担体として具体的には乳糖、グリセリンなどが例示される。本発明インヒビターや用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダーなどの製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
【0032】
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重などにより異なるが、通常成人1日当たり10μg/kg~20mg/kgである。目標投与量はまた、その薬剤の投与後の最初の24~48時間以内に採血された血液試料において、本発明インヒビターの濃度が約0.1~1000μmol/L、約0.5~500μmol/L、約1~100μmol/L、または約50~50μmol/Lの範囲となるような量を設定することができる。
【0033】
本発明の医薬組成物は、有効成分である本発明インヒビターがmiR-96-5p阻害活性を有するため、miR-96-5pが関与する疾患の予防または治療に用いることができる。
miR-96-5pは、神経系の主要な抗酸化物質であるグルタチオンの神経細胞内濃度を減少させることができる。グルタチオンは、システイン、グルタミン酸、グリシンからなるトリペプチドであり、神経細胞内ではグルタミン酸及びグリシンの量は充分であるため、システインが神経細胞内グルタチオン合成の律速因子である。神経細胞内へのシステインの取り込みは、システイントランスポーター興奮性アミノ酸キャリアー1(EAAC1)により行われるため、EAAC1の発現を阻害するmiR-96-5pは、EAAC1の発現を阻害することにより、神経細胞内グルタチオンの濃度を減少させる。
グルタチオンは脳内酸化ストレスに対する重要な防御分子であり、脳内酸化ストレスに起因する神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、又は筋委縮性側索硬化症では、神経細胞内グルタチオン濃度が減少していることが確認されており、いくつかの神経変性疾患では、miR-96-5pの増加が確認されている。
従って、miR-96-5pが関与する疾患としては、脳内酸化ストレスに起因する神経変性疾患、あるいは、神経細胞内グルタチオン量の低下が認められる神経変性疾患を挙げることができ、具体的には、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、又は筋委縮性側索硬化症などを挙げることができる。
【実施例0034】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0035】
《実施例1:ヒトmiR-96-5pに対するアンチセンスPNAの合成》
本実施例では、本発明のmiR-96-5pインヒビターとして、以下の配列A、配列Bからなる2種類のヒトmiR-96-5pに対するアンチセンスペプチド核酸(PNA)誘導体を合成した。
配列Aで表されるアンチセンスペプチド核酸誘導体は、配列番号1で表される塩基配列からなるペプチド核酸部分と、そのN末端側に付加された2個のアミノ酸(Cys-Lys)からなるオリゴペプチド部分と、前記ペプチド核酸部分のC末端側に付加された3個のアミノ酸(Lys-Lys-Lys)からなるオリゴペプチド部分とからなる。
配列Bで表されるアンチセンスペプチド核酸誘導体は、配列番号1で表される塩基配列からなるペプチド核酸部分と、そのN末端側に付加された1個のアミノ酸(Lys)からなるオリゴペプチド部分(アミノ酸残基)と、前記ペプチド核酸部分のC末端側に付加された3個のアミノ酸(Lys-Lys-Lys)からなるオリゴペプチド部分とからなる。
【0036】
配列A:CysLys-AGCAAAAATGTGCTAGTGCCAAA-LysLysLys
配列B:Lys-AGCAAAAATGTGCTAGTGCCAAA-LysLysLys
【0037】
以下、アンチセンスペプチド核酸(PNA)誘導体を単に「アンチセンスPNA」と称し、ヒトmiR-96-5pに対するアンチセンスPNAを「PNA-miR-96」と略称する。
【0038】
PNA-miR-96の合成は、Avitabile, C., Moggio, L., D’Andrea, L. D., Pedone, C., Romanelli, A. (2010) Development of an efficient and low-cost protocol for the manual PNA synthesis by Fmoc chemistry. Tetrahedron Lett. 51 (29), 3716-3718.に記載の方法に準じて行った。
具体的には、市販のPNAモノマーを用いて、miR-96-5pに対するアンチセンスPNAのFmoc法による固相合成を行った。固相担体上のFmoc基をピペリジン処理で除去した後、アミノ酸とPNAモノマーを順次結合させた。それぞれの反応の完結は末端アミノ基の存在をニンヒドリン反応で検出することで確認した。最終工程の脱保護と固相単体からの切断はトリフルオロ酢酸(TFA)で行い、目的PNAオリゴマーの分析・精製はHPLC、構造はMassスペクトルで確認した。
【0039】
《実施例2:ルシフェラーゼレポーターアッセイによるアンチセンスPNAのmiR-96-5p活性の抑制効果の検討》
本実施例では、前記実施例1で合成した、配列AからなるヒトmiR-96-5pに対するアンチセンスPNA(PNA-miR-96)について、そのmiR-96-5p活性に対する抑制効果を、ルシフェラーゼレポーターアッセイを用いて検討した。
【0040】
(2-1)アッセイ系の構築
ヒトmiR-96-5pの標的配列である、システイントランスポーター興奮性アミノ酸キャリアー1(cysteine transporter excitatory amino acid carrier 1)の3’非翻訳領域(EAAC1 3’-UTR)と、ホタル(firefly)ルシフェラーゼレポーター遺伝子とを含むプラスミドは、Kinoshita, C. et al. Rhythmic oscillations of the microRNA miR-96-5p play a neuroprotective role by indirectly regulating glutathione levels. Nat. Commun. 5:3823 doi: 10.1038/ncomms4823 (2014)に記載の方法に準じて作製した。
その概略は、ヒトEAAC1 3’-UTRを、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞のcDNAから増幅した後、ホタルルシフェラーゼレポーターベクターpMIR-REPORT(Promega, Madison, WI)のホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子の下流に挿入することにより、所望のプラスミドを構築した(以下、pMIR-EAAC1 3’-UTR構築物(construct)と称する)。
【0041】
後述するエレクトロポレーションにおける導入効率を補正するためのプラスミドとして、ウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼ遺伝子を含むウミシイタケルシフェラーゼベクターpRL(Promega, Madison, WI)を用意した。
【0042】
miR-96-5p模倣物(mimic)としては、非修飾の成熟miR-96-5p配列からなるガイド(guide)鎖と、前記ガイド鎖に相補的な配列を2本に分割し、且つLNA(locked nucleic acid)修飾したRNA鎖である2本のパッセンジャー(passenger)鎖とからなる二重鎖RNA(Exiqon)を使用した。
また、陰性対照(ネガティブコントロール;NC)として、ヒト遺伝子内にターゲットがないことが確認されているmiRNAの配列に基づいて、陰性対照模倣物(Exiqon)を用意した。
【0043】
(2-2)エレクトロポレーション
SH-SY5Y細胞、pMIR-EAAC1 3’-UTR構築物(ホタルルシフェラーゼ)及びベクターpRL(ウミシイタケ)、各miRNA模倣物(miR-96-5p模倣物、NC模倣物)、各miR-96-5pインヒビターは、それぞれ、一回のエレクトロポレーション当たり、50μL、10μL、10μL、30μLの量で使用できるように適宜調製した。
なお、PNA-miR-96については、60℃で5分間の予備加熱を実施した。
【0044】
エレクトロポレーションの直前に、前記の各成分を50μL、10μL、10μL、30μLの量で混合し、ポアリングパルスは電圧150V、パルス幅2ミリ秒、パルス間隔50ミリ秒、パルス回数2回、減衰率10%、極性+の条件で、トランスファーパルスは電圧20V、パルス幅50ミリ秒、パルス間隔50ミリ秒、パルス回数±5回、減衰率40%、極性+/-の条件で、エレクトロポレーションを実施した。なお、「極性+/-」及び「パルス回数±5回」は、正極性の電圧と負極性の電圧を交互に印加し、それを5回繰り返すことを意味する。
エレクトロポレーションを実施した後の細胞は、血清含有DMEM培地で2日間培養した後、ルシフェラーゼアッセイを実施した。
【0045】
(2-3)結果
結果を図1に示す。また、図1に示す各ルシフェラーゼアッセイに用いた模倣物及びインヒビターの組み合わせを表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
陰性対照(NC)模倣物のみを導入したときのルシフェラーゼ活性を1とすると、miR-96-5p模倣物のみを導入したときのルシフェラーゼ相対活性は、miR-96-5p活性の作用により、約0.55まで低下した。miR-96-5p模倣物と本発明インヒビター(PNA-miR-96)とを同時に導入すると、miR-96-5p模倣物単独投与により低下したルシフェラーゼ活性が、本発明インヒビターの有するmiR-96-5p阻害作用により、約1まで回復した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、又は筋委縮性側索硬化症などの神経変性疾患の予防または治療薬の製造に用いることができる。
【配列表フリーテキスト】
【0049】
配列表の配列番号1で表される塩基配列は、miR-96-5pのアンチセンスPNAである。
図1
【配列表】
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