(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025657
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】量子コンピュータ用半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/322 20060101AFI20220203BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220203BHJP
【FI】
H01L21/322 L
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020128609
(22)【出願日】2020-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】竹野 博
(57)【要約】
【課題】3HD特性に優れた量子コンピュータ用半導体装置を製造できる、量子コンピュータ用半導体装置の製造方法を提供すること
【解決手段】半導体基板と、前記半導体基板上に形成された量子コンピュータ用素子と、前記半導体基板上に形成され且つ前記量子コンピュータ用素子に接続された周辺回路とを具備し、量子コンピュータとして使用する量子コンピュータ用半導体装置の製造方法であって、前記半導体基板上に前記量子コンピュータ用素子及び前記周辺回路を形成する工程と、前記半導体基板のうち少なくとも量子コンピュータ用素子形成部及び周辺回路形成部に粒子線を照射することにより、半導体基板中のキャリアを不活性化する工程とを含むことを特徴とする量子コンピュータ用半導体装置の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、前記半導体基板上に形成された量子コンピュータ用素子と、前記半導体基板上に形成され且つ前記量子コンピュータ用素子に接続された周辺回路とを具備し、量子コンピュータとして使用する量子コンピュータ用半導体装置の製造方法であって、
前記半導体基板上に前記量子コンピュータ用素子及び前記周辺回路を形成する工程と、
前記半導体基板のうち少なくとも量子コンピュータ用素子形成部及び周辺回路形成部に粒子線を照射することにより、半導体基板中のキャリアを不活性化する工程と
を含むことを特徴とする量子コンピュータ用半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記粒子線の照射により、前記半導体基板の前記量子コンピュータ用素子形成部及び前記周辺回路形成部の抵抗率を3000Ω・cm以上にすることを特徴とする請求項1に記載の量子コンピュータ用半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記半導体基板上に前記量子コンピュータ用素子及び前記周辺回路を形成する前に、前記半導体基板のうち少なくとも前記量子コンピュータ用素子形成部及び前記周辺回路形成部に前記粒子線を照射することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の量子コンピュータ半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記半導体基板上に前記量子コンピュータ用素子及び前記周辺回路を形成した後に、前記半導体基板のうち少なくとも前記量子コンピュータ用素子形成部及び前記周辺回路形成部に前記粒子線を照射することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の量子コンピュータ用半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記粒子線として電子線を照射することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の量子コンピュータ用半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子コンピュータ用半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5Gを迎え、端末は幅広い周波数帯域に対応することが必要となりフィルタ等、数多くの高周波部品が必要となってきている。例えば特許文献1に記載されているように、無線通信装置では、無線周波数帯域で使用する素子がシリコン基板などの半導体基板上に搭載されている。
【0003】
一方で、従来のコンピュータでは現実的な時間で解くことができない計算を解くことができるコンピュータとして、重ね合わせや量子もつれといった量子効果を利用する量子コンピュータに期待が集まっており、この量子コンピュータの実用化のための研究が盛んに行なわれている。量子コンピュータ用途で使用する素子も、例えばシリコン基板などの半導体基板上に搭載され得る。
【0004】
量子コンピュータ用途で使用する素子は、超電導体を使用したジョセフソン効果を利用したものや、電子スピン(ESR)を利用して、量子効果を電気信号に変換することで、書き出しや読み込みを行っている。
【0005】
また、量子効果は等価回路ではコイルとコンデンサー(LC回路)で書かれることが多く、必然的に書き出し及び読み出しの電気信号は高周波となってくる。
【0006】
たとえば、シリコン基板を使用して電子スピンを利用した素子では、磁場中においた電子スピンを、マイクロ波を照射して周波数を掃引して共鳴させることで、量子効果を読み出すことが可能になる。この例からもわかるように量子コンピュータ用素子を動作させるためには高周波回路が必要となってくる(非特許文献1参照)。
【0007】
このように、量子コンピュータ用素子といえども、アナログ的な半導体技術が必要であり、実際に基板材料としてはシリコンが使用されている例が多い。
【0008】
このようなことから、量子コンピュータ用素子に使用されているシリコン基板は高周波を扱うことが前提となっており、例えばノンドープのシリコン基板が用いられている。
【0009】
このような量子コンピュータ用の基板の高周波特性として、基板上に絶縁膜を形成し、且つ該絶縁膜上にAl電極を
図10及び11に示すようなCo-Planar Waveguide(CPW)5を形成して測定する3次高調波(3HD)特性がある。
【0010】
CPW5は、
図10及び
図11に示す一例のように、金属電極50aを隙間を開けて並列に並べて、その隙間の中央にこれら金属電極50aと並列に線状の中央金属電極50bを形成した構造を持ち、中央金属電極50bから
図11における左右両側の金属電極50a及び半導体基板10内部に向かう方向の電界50cと、半導体基板10内部において中央金属電極50bを囲む方向の磁界50dによって電磁波を伝送する構造の素子5をいう。
【0011】
なお、量子コンピュータ用の基板としては、通常はシリコンのみの構造で使用されるが、3HD特性評価を簡便に行うために、絶縁膜を形成して、さらにこの上にCPWを形成して、3HD特性を評価する。
図11では絶縁膜の図示を省略している。
【0012】
ここで、高調波とは、元となる周波数の整数倍の高次の周波数成分のことで、元の周波数を基本波、2倍の周波数(2分の1の波長)を持つものが2HD、3倍の周波数(3分の1の波長)を持つものが3HDと定義されている。高周波回路では高調波による混信を避けるために高調波の小さい基板が必要とされる。これらのうち、量子コンピュータ用素子用の基板評価としては、3次高調波特性を利用することが好ましい。高周波信号ひずみの評価手法としては、2次高調波特性が信号強度も強く利用されることが多いが、この2次高調波は主にフィルタやスイッチなどの受動素子やその基板特性を評価する際に用いられることが多い。一方、量子コンピュータ用素子用の基板評価として好ましく用いられるのは、アンプなどに代表されるアクティブ素子の評価指標であるIMD3(Third Intermodulation Distortion:3次相互変調ひずみ)と等価である3次高調波(3HD)である。IMD3とは、2つの隣接する周波数の異なる信号を入れたときに、この信号の近傍に生成するいわゆるノイズである。IMD3は主信号の近傍に生成するために、フィルタ等で除去することが困難であり、素子作製時にあらかじめ十分低減しておく必要がある。なお、一方の2HDは、主信号の2倍の周波数位置に出現し、またパッシブデバイスでの信号であり、容易に除去が可能である。
【0013】
例えば非特許文献2に記載されているように、3HDは、このIMD3と以下の関係式のように相関づけられていることが分かっている。
【0014】
IMD3 = 3 × 3HD (線形表示した場合) = 3HD +10dB (dB表現した場合)
(注) 上記の10dBは正確には+9.54dB = 2 × Log3である。
【0015】
上記の関係から、本発明では、3HD特性を利用して、IMD3特性を確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特表2020-507230号公報
【特許文献2】特開2005-93939号公報
【特許文献3】特開平10-93107号公報
【特許文献4】特開昭51-93666号公報
【特許文献5】特開昭51-93684号公報
【特許文献6】特開昭51-100644号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Rosenberg, D., Kim, D., Das, R. et al. 3D integrated superconducting qubits. npj Quantum Inf 3, 42 (2017).
【非特許文献2】Rohde & Schwarz アプリケーションノート「スペクトラム・アナライザによる高調波の測定」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
以上に説明したような3HD特性を向上させる具体的な解決策として、半導体基板の高抵抗率化がある。
【0019】
しかしながら、半導体基板の高抵抗率化は非常に難しく、例えば3000Ω・cmよりも高い電気抵抗率を得ようとすると、ノンドープとするか、またはP型のボロンの場合、3×1012atoms/cm3という極めて低いドーパント濃度とすることが必要であった。また、原料中の不純物の影響によりさらに高抵抗率化することは困難であった。
【0020】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、3HD特性に優れた量子コンピュータ用半導体装置を製造できる、量子コンピュータ用半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明では、半導体基板と、前記半導体基板上に形成された量子コンピュータ用素子と、前記半導体基板上に形成され且つ前記量子コンピュータ用素子に接続された周辺回路とを具備し、量子コンピュータとして使用する量子コンピュータ用半導体装置の製造方法であって、
前記半導体基板上に前記量子コンピュータ用素子及び前記周辺回路を形成する工程と、
前記半導体基板のうち少なくとも量子コンピュータ用素子形成部及び周辺回路形成部に粒子線を照射することにより、半導体基板中のキャリアを不活性化する工程と
を含むことを特徴とする量子コンピュータ用半導体装置の製造方法を提供する。
【0022】
このような製造方法であれば、半導体基板のうち、少なくとも、量子コンピュータ領域で使用する量子コンピュータ用素子の形成部及びこの素子に接続された周辺回路の形成部に粒子線を照射することで、半導体基板の少なくともこれらの部分に点欠陥を導入してこの点欠陥にキャリアをトラップすることでキャリアを不活性化することができる。これにより、半導体基板のうち少なくとも量子コンピュータ用素子形成部及び周辺回路形成部の抵抗率を高めることができ、その結果、製造する量子コンピュータ用半導体装置の高周波特性、特に3HD特性を改善することができる。すなわち、本発明の製造方法であれば、3HD特性に優れた量子コンピュータ用半導体装置を製造できる。
【0023】
前記粒子線の照射により、前記半導体基板の前記量子コンピュータ用素子形成部及び前記周辺回路形成部の抵抗率を3000Ω・cm以上にすることが好ましい。
【0024】
このようにすることで、3HD特性に確実に優れた量子コンピュータ用半導体装置を製造することができる。
【0025】
前記半導体基板上に前記量子コンピュータ用素子及び前記周辺回路を形成する前に、前記半導体基板のうち少なくとも前記量子コンピュータ用素子形成部及び前記周辺回路形成部に前記粒子線を照射することができる。
【0026】
或いは、前記半導体基板上に前記量子コンピュータ用素子及び前記周辺回路を形成した後に、前記半導体基板のうち少なくとも前記量子コンピュータ用素子形成部及び前記周辺回路形成部に前記粒子線を照射してもよい。
【0027】
このように、粒子線の照射は、半導体基板上に量子コンピュータ用素子及びその周辺回路を形成する前に行なってもよいし、これらの形成の後に行なってもよい。
【0028】
前記粒子線として電子線を照射することが好ましい。
【0029】
電子線の場合は、透過性が強く、基板の深さ方向にわたり均一の欠陥を形成することが可能であり、非常に有効である。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明の量子コンピュータ用半導体装置の製造方法であれば、半導体基板のうち少なくとも量子コンピュータ用素子形成部及び周辺回路形成部の抵抗率を高めることができ、その結果、製造する量子コンピュータ用半導体装置の高周波特性、特に3HD特性を改善することができる。すなわち、本発明の製造方法であれば、3HD特性に優れた量子コンピュータ用半導体装置を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の量子コンピュータ用半導体装置の製造方法で製造できる、量子コンピュータ用半導体装置の一例を示す概略斜視図である。
【
図2】実施例1及び2における電子線照射後の基板抵抗率と3HD特性との関係を示すグラフである。
【
図3】実施例1における電子線照射量と電子線照射後の基板抵抗率との関係を示すグラフである。
【
図4】実施例1における電子線照射量と3HD特性との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例1における電子線照射前後での3HDの面内分布の変化を示すグラフである。
【
図6】実施例2における電子線照射量と電子線照射後の基板抵抗率との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例2における電子線照射量と3HD特性との関係を示すグラフである。
【
図8】実施例2における電子線照射前後での3HDの面内分布の変化を示すグラフである。
【
図9】実施例3におけるノンドープ基板の電子線照射前後での3HDの面内分布の変化を示すグラフである。
【
図10】3次高調波特性を評価するために用いる一例のCo-Planar Waveguide(CPW)の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
上述のように、3HD特性に優れた量子コンピュータ用半導体装置を製造できる、量子コンピュータ用半導体装置の製造方法の開発が求められていた。
【0033】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、半導体基板のうち少なくとも量子コンピュータ用素子形成部及び周辺回路形成部に粒子線を照射することにより、半導体基板のうち少なくともこれらの部分に点欠陥が導入され、基板中のキャリアがこれらの点欠陥にトラップされることで、半導体基板中のキャリアが不活性化され、それにより、半導体基板のうち少なくともこれらの部分の抵抗率を高めることができ、その結果、3HD特性に優れた量子コンピュータ用半導体装置を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0034】
即ち、本発明は、半導体基板と、前記半導体基板上に形成された量子コンピュータ用素子と、前記半導体基板上に形成され且つ前記量子コンピュータ用素子に接続された周辺回路とを具備し、量子コンピュータとして使用する量子コンピュータ用半導体装置の製造方法であって、
前記半導体基板上に前記量子コンピュータ用素子及び前記周辺回路を形成する工程と、
前記半導体基板のうち少なくとも量子コンピュータ用素子形成部及び周辺回路形成部に粒子線を照射することにより、半導体基板中のキャリアを不活性化する工程と
を含むことを特徴とする量子コンピュータ用半導体装置の製造方法である。
【0035】
なお、特許文献2では、電子線の照射等の酸化処理を行うことにより、低抵抗層を高抵抗化してサイドリーク電流を防止している。
【0036】
また、特許文献3には、高抵抗GaAs基板に荷電粒子線照射することによって部分的に高抵抗化することが記載されている。
【0037】
また、特許文献4~6には、高エネルギーの電子線の照射によって、半導体内部領域を選択的に絶縁化もしくは高抵抗化できることが記載されている。
【0038】
しかしながら、これらの文献には、量子コンピュータで用いる半導体装置の製造方法において、量子コンピュータ用素子とその周辺回路のそれぞれの形成部に粒子線を照射して、キャリアを不活性化させることは、記載も示唆もされていない。
【0039】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
まず、本発明の量子コンピュータ用半導体装置の製造方法で製造できる、量子コンピュータ用半導体装置の一例を、
図1を参照しながら説明する。ただし、本発明の製造方法で製造できる量子コンピュータ用半導体装置は、
図1に示す例に限定されるものではない。
【0041】
図1に示す量子コンピュータ用半導体装置10は、半導体基板1と、半導体基板1上に形成された量子コンピュータ用素子2及びその周辺回路3とを具備する。周辺回路3は、量子コンピュータ用素子2に接続されている。量子コンピュータ用素子2と周辺回路3との接続形態は特に限定されない。
図1では、量子コンピュータ用素子2と周辺回路3との接続の図示を省略している。
【0042】
量子コンピュータ用素子2は、量子コンピュータで使用される素子であれば特に限定されない。
【0043】
量子コンピュータ用素子2は、半導体基板1の量子コンピュータ用素子形成部12に形成されている。本明細書では、半導体基板1のうち量子コンピュータ用素子2が形成されている部分と、半導体基板1のうち量子コンピュータ用素子2が形成される予定の部分とを、まとめて、量子コンピュータ用素子形成部12と呼ぶ。
【0044】
周辺回路3は、量子コンピュータ用素子2に接続されるものであれば、特に限定されない。
【0045】
周辺回路3は、半導体基板1の周辺回路形成部13に形成されている。本明細書では、半導体基板1のうち周辺回路3が形成されている部分と、半導体基板1のうち周辺回路3が形成される予定の部分とをまとめて、周辺回路形成部13と呼ぶ。
【0046】
本発明の量子コンピュータ用半導体装置の製造方法は、半導体基板1のうち少なくとも量子コンピュータ用素子形成部12及び周辺回路形成部13に粒子線を照射することにより、半導体基板1中のキャリアを不活性化する工程を含む。
【0047】
理論により縛られることを望まないが、ここでの不活性化は、粒子線を照射することで、半導体基板1、例えばシリコン基板中に点欠陥が形成され、これらがキャリアトラップとして働くことで、半導体基板1中のキャリアをトラップし、その結果、半導体基板1が高抵抗率化すると考えられる。また照射する粒子線が電子線の場合は、透過性が強く基板の深さ方向にわたり均一の欠陥を形成することが可能であり、非常に有効である。
【0048】
このようにキャリアを減少させる(高抵抗率化する)ことで、高周波を印加したときに、高周波に追従するキャリアがなくなることで、高調波が減少すると考えられる。
【0049】
限定されないが、量子コンピュータ用素子形成部12のうち能動素子形成部に電子線のような粒子線を照射することで、半導体基板1中のドーパント及び/又は原料由来の不純物等のキャリアを不活性化させることによる効果が顕著に得られる。これは、IMD3(3HDと等価)は、主信号のすぐそばで発生するために、フィルタ等で除去することは困難であり初期に所定の特性を作りこむことしかできず、初期の時点で可能な限り所定の性能を作りこんでおく必要があるからである。
【0050】
粒子線は、量子コンピュータ用素子2及びその周辺回路3を形成する半導体基板1表面の全面に照射してもよく、この場合は量子コンピュータ用素子2及び周辺回路3の形成位置を考慮せずに粒子線を照射することができるので、より簡便である。
【0051】
電子線は他の粒子線と比較して、パワーデバイスのライフタイム制御に一般的に使用されており、また透過性が高く半導体基板1の深さ方向に均一に照射できるなど利点が多い。よって、粒子線として電子線を照射することが好ましい。
【0052】
このとき、粒子線の照射により、半導体基板1の量子コンピュータ用素子形成部12及び周辺回路形成部13の抵抗率を3000Ω・cm以上にすることにより、3HD特性にさらに優れた量子コンピュータ用半導体装置10を製造することができる。
【0053】
さらに、粒子線、例えば電子線の照射は、量子コンピュータ用素子2及び周辺回路3の作製前後どちらでもよく、素子プロセスや特徴に合わせて選択することができる。すなわち、半導体基板1上に量子コンピュータ用素子2及び周辺回路3を形成する前に、半導体基板1のうち少なくとも量子コンピュータ用素子形成部12及び周辺回路形成部13に粒子線を照射することができる。或いは、半導体基板1上に量子コンピュータ用素子2及び周辺回路3を形成した後に、半導体基板1のうち少なくとも量子コンピュータ用素子形成部12及び周辺回路形成部13に粒子線を照射してもよい。
【0054】
また、電子線を照射する場合、その電子線の照射量は特に限定されない。照射量が高くなるほど抵抗率が高くなり、3HD特性が更に改善される。どのような照射量とするかは、例えば使用する半導体基板1の抵抗率(粒子線照射前の抵抗値)と目標とする3HD特性の値により決定することができる。
【0055】
例えば、電子線の照射量は1×1014~1×1016/cm2とすることができ、このような電子線を照射して、半導体基板1の量子コンピュータ用素子形成部12及び周辺回路形成部13の抵抗率を3000Ω・cm以上にすることにより、優れた3HD特性を得ることが可能となる。
【0056】
本発明によって半導体基板1のうち少なくとも量子コンピュータ用素子形成部12及び周辺回路形成部13の抵抗率を高めれば、従来よりも高調波特性、特に3HD特性の良好な半導体装置を作製することが可能なだけでなく、比較的低抵抗率の基板であっても高抵抗率化することが可能になる。また、ノンドープの基板を使用した場合は、原料由来の不純物キャリアを不活性させることで更なる高抵抗率化と結晶成長時の固液界面形状に起因して生ずる抵抗率の面内分布を改善することができる。
【0057】
3HD特性には半導体基板1の抵抗率の面内ばらつきも影響する。本発明は粒子線、例えば電子線の照射によって支持基板の抵抗率の面内ばらつきも低減することもできるので、優れた3HD特性を得ることができる。
【0058】
本発明の量子コンピュータ用半導体装置の製造方法における、半導体基板上に量子コンピュータ用素子及びその周辺回路を形成する工程は、特に限定されず、半導体基板上に形成する素子に合わせて適宜選択することができる。
【実施例0059】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
CZ法で作製した直径300mmボロンドープの高抵抗率シリコン単結晶基板(抵抗率5000Ω・cm)を準備した。この基板に電子線を基板全面に照射(加速エネルギー:2MeV、ドーズ量:1×10
14~1×10
15/cm
2)した。その後、SR(Spreading Resistance)法で基板抵抗率を測定した。測定結果を
図3に示す。
図3に示した結果から、電子線照射量が多くなるほど、基板抵抗率が高くなることがわかった。
【0061】
次に、以下の手順で評価用基板を作製した。まず、先ほどと同一抵抗率の別基板を準備した。この基板に対し、プラズマCVDにて表面に厚さが400nmの酸化膜を形成した。次いで、この基板上の中心部、半径方向の中央部(中心から半径方向に75mmの位置:4箇所)、外周部(中心から半径方向に140mmの位置:4箇所)の位置に、アルミニウム電極で
図10に示したのと同様の構造を有するCPW5(路線長:2200μm)を形成した素子を作製した。その後、これらの素子を形成した基板に電子線を照射して、実施例1の評価用基板を作製した。なお、電子線照射は、基板を回転させて、半径方向の中央部に形成した各素子に対し、照射量を1×10
14~1×10
15/cm
2まで段階的に変化させながら電子線照射を行った。基板上の中心部及び外周部に形成した各素子に対しては、照射量を1×10
15/cm
2として、電子線照射を行った。
【0062】
次に、実施例1の評価用基板の各素子の3次高調波特性(3HD特性)(周波数:1GHz、入力電力:15dBm)を測定した。測定結果を
図4に示す。その結果、基板上に形成した素子の3HD特性は電子線照射量に依存し、電子線照射量が大きくなると、3HD特性が改善できることがわかった。
【0063】
また、この基板上の中心部、半径方向の中央部、外周部に形成した5つの素子に1×10
15/cm
2の電子線を照射する前後での、3HD特性のウエーハ径方向の測定結果のばらつきを比較した。その結果を
図5に示す。
図5に示した結果から、電子線照射によって3HD特性が改善するだけでなく、面内での3HD特性のばらつきも改善されることが分かった。
【0064】
(実施例2)
CZ法で作製した直径300mmボロンドープの高抵抗率シリコン単結晶基板(抵抗率1000Ω・cm)を準備した。この基板に電子線を基板全面に照射(加速エネルギー:2MeV、ドーズ量:1×10
14~1×10
15/cm
2)した。その後、SR法で基板抵抗率を測定した。測定結果を
図6に示す。
図6に示した結果から、電子線照射量が多くなるほど、基板抵抗率が高くなることがわかった。
【0065】
次に、以下の手順で評価用基板を作製した。まず、先ほどと同一抵抗率の別基板を準備した。この基板に対し、プラズマCVDにて表面に厚さが400nmの酸化膜を形成した。次いで、この基板上の中心部、半径方向の中央部(中心から半径方向に75mmの位置:4箇所)、外周部(中心から半径方向に140mmの位置:4箇所)の位置に、アルミニウム電極で
図10に示したのと同様の構造を有するCPW5(路線長:2200μm)を形成した素子を作製した。その後、これらの素子を形成した基板に電子線を照射して、実施例2の評価用基板を作製した。なお、電子線照射は、基板を回転させて、半径方向の中央部に形成した各素子に対し、照射量を1×10
14~1×10
15/cm
2まで段階的に変化させながら電子線照射を行った。基板上の中心部及び外周部に形成した各素子に対しては、照射量を1×10
15/cm
2として、電子線照射を行った。
【0066】
次に、実施例2の評価用基板の各素子の3次高調波特性(3HD特性)(周波数:1GHz、入力電力:15dBm)を測定した。測定結果を
図7に示す。その結果、基板上に形成した素子の3HD特性は電子線照射量に依存し、電子線照射量が大きくなると、3HD特性が改善できることがわかった。
【0067】
また、この基板上の中心部、半径方向の中央部、外周部に形成した5つの素子に1×10
15/cm
2の電子線を照射する前後での、3HD特性のウエーハ径方向の測定結果のばらつきを比較した。その結果を
図8に示す。
図8に示した結果から、電子線照射によって3HD特性が改善するだけでなく、面内での3HD特性のばらつきも改善されることが分かった。
【0068】
以上の実施例1及び2の結果を
図2にまとめて示す。
図2に示す結果から、電子線の照射量が多くなると抵抗率が高くなり、3HD特性が改善することが分かる。特に、電子線照射後の基板抵抗率を3000Ω・cm以上にすることにより、優れた3HD特性の素子を形成することができる。
【0069】
(実施例3)
CZ法で作製した直径300mmノンドープの高抵抗率シリコン単結晶基板(P型、抵抗率20000Ω・cm)を準備した。この基板にプラズマCVDにて表面に厚さが400nmの酸化膜を形成した。次いで、この基板上の中心部、半径方向の中央部(中心から半径方向に75mmの位置:4箇所)、外周部(中心から半径方向に140mmの位置:4箇所)の位置に、アルミニウム電極で
図10に示したのと同様の構造を有するCPW5(路線長:2200μm)を形成した素子を作製した。その後、電子線を基板全面に照射(加速エネルギー:2MeV、ドーズ量:1×10
15/cm
2)して、実施例3の評価用基板を作製した。
【0070】
この基板上の中心部、半径方向の中央部及び外周部に形成した5つの素子の3次高調波特性(3HD特性)(周波数:1GHz、入力電力:15dBm)を測定して、実施例3の評価用基板の3HD特性の面内分布を測定した。
【0071】
電子線照射後の抵抗率はSRでは測定できないので、電子線の照射量と抵抗率の関係から外挿して求めた結果、電子線照射後の評価用基板の抵抗率は約50000Ω・cmとなった。すなわち、電子線の照射により、ノンドープシリコンの抵抗率を高めることができた。
【0072】
一方、電子線照射を行わない同様の基板も準備し、この基板の3HD特性の面内分布を調べた。
図9に、電子線照射有無での、3HDの面内分布の測定結果を示す。
図9に示した結果から、電子線照射によって3HD特性が改善するだけでなく、面内での3HD特性のばらつきも改善されることがわかった。
【0073】
また、以上に示した結果から、実施例1~3の評価用基板においてCPWを含む素子を量子コンピュータ用素子及びその周辺回路に変更して作製した量子コンピュータ用半導体装置であっても、実施例1~3の評価用基板と同様に、優れた3HD特性を示すことができることが分かる。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
1…半導体基板、 2…量子コンピュータ用素子、 3…周辺回路、 5…CPW(Al電極)、 10…量子コンピュータ用半導体装置、 12…量子コンピュータ用素子形成部、 13…周辺回路形成部、 50a…金属電極、 50b…中央金属電極、 50c…電界、 50d…磁界。
半導体基板と、前記半導体基板上に形成された量子コンピュータ用素子と、前記半導体基板上に形成され且つ前記量子コンピュータ用素子に接続された周辺回路とを具備し、量子コンピュータとして使用する量子コンピュータ用半導体装置の製造方法であって、
前記半導体基板上に前記量子コンピュータ用素子及び前記周辺回路を形成する工程と、
前記半導体基板のうち少なくとも量子コンピュータ用素子形成部及び周辺回路形成部に粒子線を照射することにより、半導体基板中のキャリアを不活性化する工程と
を含むことを特徴とする量子コンピュータ用半導体装置の製造方法。
前記粒子線の照射により、前記半導体基板の前記量子コンピュータ用素子形成部及び前記周辺回路形成部の抵抗率を3000Ω・cm以上にすることを特徴とする請求項1に記載の量子コンピュータ用半導体装置の製造方法。
前記半導体基板上に前記量子コンピュータ用素子及び前記周辺回路を形成する前に、前記半導体基板のうち少なくとも前記量子コンピュータ用素子形成部及び前記周辺回路形成部に前記粒子線を照射することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の量子コンピュータ用半導体装置の製造方法。
前記半導体基板上に前記量子コンピュータ用素子及び前記周辺回路を形成した後に、前記半導体基板のうち少なくとも前記量子コンピュータ用素子形成部及び前記周辺回路形成部に前記粒子線を照射することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の量子コンピュータ用半導体装置の製造方法。