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特開2022-25732運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025732
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/05 20210101AFI20220203BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20220203BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20220203BHJP
   B60K 28/06 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61B5/05 A
A61B5/16 110
A61B5/16 130
A61B5/02 310V
B60K28/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020128768
(22)【出願日】2020-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】519062764
【氏名又は名称】スピンセンシングファクトリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 静似
(72)【発明者】
【氏名】藤原 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】サブリ チャキル
(72)【発明者】
【氏名】福島 隼人
【テーマコード(参考)】
3D037
4C017
4C038
4C127
【Fターム(参考)】
3D037FA09
3D037FB10
3D037FB12
4C017AA09
4C017AB04
4C017AC40
4C017BC11
4C017BC20
4C017BC21
4C017EE01
4C017FF15
4C017FF17
4C038PP03
4C038PP05
4C038PQ03
4C038PS00
4C038VA15
4C127AA10
(57)【要約】
【課題】導入コストを低減することができ、運転時に邪魔にならず安全に測定可能な運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法を提供する。
【解決手段】磁石11が、車両を運転する運転者1の脈波または心拍変動により振動するよう設けられている。磁気センサ12が、磁石11の振動による磁場の変化を測定可能に、車両に設けられている。推定手段が、磁気センサ12の測定データに基づいて、運転者1の状態を推定するよう構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を運転する運転者の脈波または心拍変動により振動するよう設けられた磁石と、
前記磁石の振動による磁場の変化を測定可能に、前記車両に設けられた磁気センサと、
前記磁気センサの測定データに基づいて、前記運転者の状態を推定する推定手段とを、
有することを特徴とする運転者の状態推定装置。
【請求項2】
前記磁石は、前記車両が走行する路面に対して平行な振動成分を有するよう設けられ、
前記磁気センサは、前記磁石の前記振動成分を測定可能に設けられていることを
特徴とする請求項1記載の運転者の状態推定装置。
【請求項3】
前記磁石は、前記車両を運転する前記運転者に圧力をかけた状態で設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の運転者の状態推定装置。
【請求項4】
前記磁石は、前記運転者の体表面のうち、心臓の近傍、みぞおち、背中、胸部、こめかみ、頸動脈の近傍、手首、くるぶし、臀部、太もも、消化器官の近傍、または顔に固定可能に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の運転者の状態推定装置。
【請求項5】
前記磁石は、前記車両の運転席のシートベルト、座面、背もたれ、もしくは、ヘッドレスト、または、前記車両のハンドルに設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の運転者の状態推定装置。
【請求項6】
前記推定手段は、前記運転者の状態として、前記運転者が眠気またはストレスを有している状態であるかを推定するよう構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の運転者の状態推定装置。
【請求項7】
前記磁石は複数から成り、それぞれ前記車両を運転する前記運転者の血管の伸張方向に沿って、間隔をあけて配置されており、
前記磁気センサは、各磁石の振動による磁場の変化を測定可能であり、
前記推定手段は、前記磁気センサの測定データに基づいて、前記運転者の脈波伝搬速度を求め、その脈波伝搬速度に基づいて、前記運転者の状態を推定することを
特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の運転者の状態推定装置。
【請求項8】
前記車両を運転する前記運転者から離れた位置で前記車両に設けられた参照用磁石と、
前記参照用磁石の磁場を測定可能に設けられた参照用磁気センサとを有し、
前記推定手段は、前記参照用磁気センサの測定データを利用して、前記磁気センサの測定データに含まれるノイズを軽減するよう構成されていることを
特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の運転者の状態推定装置。
【請求項9】
前記磁石は複数から成り、向きを揃えて所定の範囲内に配置されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の運転者の状態推定装置。
【請求項10】
前記所定の範囲は、12cm×12cm以下の範囲であることを特徴とする請求項9記載の運転者の状態推定装置。
【請求項11】
車両を運転する運転者の脈波または心拍変動により振動するよう磁石を取り付け、その磁石の振動による磁場の変化を磁気センサにより測定し、その測定データに基づいて、前記運転者の状態を推定することを特徴とする運転者の状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両を運転する運転者の状態を推定する装置として、カメラにより撮影された動画から、運転者の眼のまばたき動作に係る情報を検出し、その情報を利用して、眠気や疲労、緊張度などの状態を推定するもの(例えば、特許文献1または2参照)や、運転者の指先に取り付けたセンサにより、心拍に関するデータを取得し、そのデータを利用して眠気等の状態を推定するものがある(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
なお、心臓は、人間の意識とは関係なく、電位的に心臓各部の心筋が収縮を起こし、血液を身体全体へ送っており、心電図では、ピークを示すR波や、心房筋が収縮したときに発生するP波などが認められる。心拍数は、1分間にR波が出現した回数であり、心拍変動(拍動)は、R波同士の間隔(RR間隔;RRI;R-R Interval)の変動である。心拍は、自律神経系の支配を受けているため、心拍変動を周波数解析することにより、自律神経系の活動に関する指標を抽出することができる。例えば、心拍変動の高周波成分HF(High Frequency)と、低周波成分LF(Low Frequency)とを用いて、眠気やストレスの推定が行われている(例えば、特許文献3または4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-122446号公報
【特許文献2】特開2013-202273号公報
【特許文献3】特開2018-202130号公報
【特許文献4】特開2006-150065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に記載の運転者の状態を推定する装置では、車両に運転者を撮影するカメラを設置すると共に、まばたき動作を検出する画像解析ソフト等が必要であり、材料費などの導入コストが嵩むという課題があった。特許文献3に記載の運転者の状態を推定する装置では、指先に取り付けたセンサが運転の邪魔になることがあり、非常に危険であるという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、導入コストを低減することができ、運転時に邪魔にならず安全に測定可能な運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る運転者の状態推定装置は、車両を運転する運転者の脈波または心拍変動により振動するよう設けられた磁石と、前記磁石の振動による磁場の変化を測定可能に、前記車両に設けられた磁気センサと、前記磁気センサの測定データに基づいて、前記運転者の状態を推定する推定手段とを、有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る運転者の状態推定方法は、車両を運転する運転者の脈波または心拍変動により振動するよう磁石を取り付け、その磁石の振動による磁場の変化を磁気センサにより測定し、その測定データに基づいて、前記運転者の状態を推定することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る運転者の状態推定方法は、本発明に係る運転者の状態推定装置により好適に実施することができる。本発明に係る運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法は、運転者の脈波(血流変化)または心拍変動による磁石の振動による磁場の変化を、磁気センサにより測定することにより、例えば、測定された脈波から求められる心拍変動のRR間隔、または、直接測定された心拍変動のRR間隔の高周波成分HFや低周波成分LFなどを用いて、運転者が眠気やストレスを有しているかどうかなどの、運転者の状態を推定することができる。本発明に係る運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法は、磁石および磁気センサの比較的簡易な構成により、運転者の脈波または心拍変動を測定することができるため、動画を撮影するカメラや高価な画像解析ソフトなどが不要であり、材料費などの導入コストを低減することができる。また、磁石および磁気センサを運転の邪魔にならない場所に取り付けることができ、安全に測定することができる。
【0010】
本発明に係る運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法で、磁石は、永久磁石であっても電磁石であってもよく、電磁石の場合には、直流電磁石であっても交流電磁石であってもよい。また、磁気センサは、運転者の脈波または心拍変動による磁石の振動を測定可能な感度を有していればいかなるものであってもよく、例えば、AMRセンサ、GMRセンサ、TMRセンサ、MIセンサ、フラックスゲートセンサなど、磁場が測定可能なものであればいかなるものであってもよいが、車両に取り付けやすいよう小型のTMRセンサから成ることが好ましい。
【0011】
本発明に係る運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法で、前記磁石は、前記車両が走行する路面に対して平行な振動成分を有するよう設けられ、前記磁気センサは、前記磁石の前記振動成分を測定可能に設けられていることが好ましい。この場合、走行中の車両の上下方向の振動の影響を小さくすることができ、磁石の振動を精度良く測定することができる。
【0012】
本発明に係る運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法で、前記磁石は、前記車両を運転する前記運転者に圧力をかけた状態で設けられていることが好ましい。この場合、磁石で運転者の脈波や心拍変動を捉えやすくすることができ、運転者の脈波や心拍変動を精度良く測定することができる。
【0013】
本発明に係る運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法で、前記磁石は、車両を運転する運転者の脈波または心拍変動により振動するよう設けられていればどこに設けられていてもよく、例えば、前記運転者の体表面のうち、心臓の近傍、みぞおち、背中、胸部、こめかみ、頸動脈の近傍、手首、くるぶし、臀部、太もも、消化器官の近傍、または顔に固定可能に設けられていてもよい。また、前記磁石は、前記車両の運転席のシートベルト、座面、背もたれ、もしくは、ヘッドレスト、または、前記車両のハンドルに設けられていてもよい。例えば、車両を運転する運転者に圧力をかけた状態で磁石を設けるためには、車両の運転席のシートベルト、座面、背もたれに磁石を設ければよい。
【0014】
本発明に係る運転者の状態推定装置で、前記磁石は複数から成り、それぞれ前記車両を運転する前記運転者の血管の伸張方向に沿って、間隔をあけて配置されており、前記磁気センサは、各磁石の振動による磁場の変化を測定可能であり、前記推定手段は、前記磁気センサの測定データに基づいて、前記運転者の脈波伝搬速度を求め、その脈波伝搬速度に基づいて、前記運転者の状態を推定してもよい。この場合、例えば、脈波伝搬速度から運転者の血圧を求めることができ、その血圧に基づいて運転者の状態を推定することができる。また、例えば、求めた血圧と、心拍変動のRR間隔の高周波成分HFや低周波成分LFなどとを用いて、運転者の状態をより詳細に推定することができる。
【0015】
本発明に係る運転者の状態推定装置は、前記車両を運転する前記運転者から離れた位置で前記車両に設けられた参照用磁石と、前記参照用磁石の磁場を測定可能に設けられた参照用磁気センサとを有し、前記推定手段は、前記参照用磁気センサの測定データを利用して、前記磁気センサの測定データに含まれるノイズを軽減するよう構成されていてもよい。この場合、参照用磁石および参照用磁気センサにより、走行中の車両の振動を測定することができるため、その振動を磁気センサの測定データから差し引くことにより、磁気センサの測定データに含まれるノイズを軽減することができる。参照用磁石は、車両を運転する運転者の脈波や心拍変動により振動しない位置に設けられ、参照用磁気センサは、参照用磁石の振動のみを測定可能な位置に設けられていることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る運転者の状態推定装置で、前記磁石は複数から成り、向きを揃えて所定の範囲内に配置されていてもよい。磁石の占める範囲が小さいほど、測定される変動のピーク幅が狭くなり、心拍変動のRR間隔などを精度良く検出できるが、出力が小さくなってしまう。また、磁石の占める範囲が大いと、出力は大きくなるが、検出範囲が広くなるため、測定される変動のピーク幅が広くなってしまう。このため、出力の大きさと、測定される変動の時間軸での精度とを考慮して、最適な範囲に複数の磁石を配置して測定を行うことにより、最適な条件で運転者の状態を推定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、導入コストを低減することができ、運転時に邪魔にならず安全に測定可能な運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置の、使用状態を示す側面図である。
図2】本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置の、複数の磁石および複数の磁気センサをアレイ状に規則正しく並べて設置した変形例を示す(a)平面図、(b)側面図である。
図3】本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置に関する脈波測定実験の、磁石、磁気センサ、パルストランスデューサ、および心電図の被験者への取付状態を示す正面図である。
図4図3に示す脈波測定実験の、(a)磁気センサ(TMR)、(b)パルストランスデューサ、(c)心電図(ECG)の測定結果を示すグラフである。
図5図3に示す脈波測定実験の、(a)磁気センサの測定結果から求めたRR間隔(RR Interval of TMR)と、心電図の測定結果から求めたRR間隔(RR Interval of ECG)との関係を示すグラフ、(b) (a)の一部を拡大したグラフである。
図6図3に示す脈波測定実験の、磁気センサの測定結果から求めたRR間隔およびパルストランスデューサの測定結果から求めたRR間隔(RR Interval of Pulse)と、心電図の測定結果から求めたRR間隔との関係を示すグラフである。
図7図3に示す脈波測定実験の、被験者が椅子に座った状態で測定を行ったときの、磁気センサの測定結果から求めたRR間隔と、心電図の測定結果から求めたRR間隔との関係を示すグラフである。
図8】本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置に関する脈波測定実験の、(a)磁石および磁気センサの被験者への取付状態を示す側面図、(b)磁気センサの測定結果を示すグラフである。
図9】本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置に関する脈波測定実験の、(a)実験を行う4つの場合の、複数の磁石の占める範囲、および、その範囲が最も小さい5cm×5cmでの磁石の配置を示す平面図、(b)複数の磁石の占める範囲が最も大きい17cm×17cmでの磁石の配置を示す平面図である。
図10図9に示す脈波測定実験の、複数の磁石の占める範囲が異なる4つの場合での、各磁石の占める面積と平均絶対誤差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図10は、本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法を示している。
図1に示すように、本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置は、磁石11と磁気センサ12と推定手段(図示せず)とを有している。
【0020】
磁石11は、永久磁石から成り、車両を運転する運転者1の脈波または心拍変動により振動するよう設けられている。図1に示す具体的な一例では、磁石11は、車両の運転席2の座面に設けられており、車両を運転する運転者1が運転席2に座ったとき、運転者1に対して圧力をかけた状態になるように設けられている。
【0021】
なお、磁石11は、永久磁石に限らず、電磁石であってもよく、その場合には、直流電磁石であっても交流電磁石であってもよい。また、磁石11は、運転席2の座面に限らず、車両を運転する運転者1の脈波または心拍変動により振動するよう設けられていればどこに設けられていてもよく、例えば、運転者1の体表面のうち、心臓の近傍、みぞおち、背中、胸部、こめかみ、頸動脈の近傍、手首、くるぶし、臀部、太もも、消化器官の近傍、または顔に固定可能に設けられていてもよく、車両の運転席2のシートベルト、背もたれ、もしくは、ヘッドレスト、または、車両のハンドルに設けられていてもよい。磁石11は、車両を運転する運転者1に対して圧力をかけた状態にするためには、車両の運転席2のシートベルトや背もたれ等に設けられていることが好ましい。また、磁石11は、1つであってもよく、複数であってもよい。
【0022】
磁気センサ12は、磁石11の振動による磁場の変化を測定可能に、車両に設けられている。図1に示す具体的な一例では、磁気センサ12は、車両の運転席2の座面に設けられた磁石11の振動による磁場の変化を測定可能に、車両の運転席2の下方に設けられている。また、磁気センサ12は、車両に取り付けやすい小型のTMRセンサから成っている。なお、磁気センサ12は、TMRセンサに限らず、運転者1の脈波または心拍変動による磁石11の振動を測定可能な感度を有していればいかなるものであってもよく、例えば、AMRセンサ、GMRセンサ、MIセンサ、フラックスゲートセンサなどであってもよい。
【0023】
推定手段は、コンピュータから成り、磁気センサ12に接続され、磁気センサ12の測定データを受信するよう構成されている。また、推定手段は、受信した磁気センサ12の測定データに基づいて、運転者1の状態を推定するよう構成されている。図1に示す具体的な一例では、推定手段は、車両に搭載されたドライバーモニタリングシステム(DMS)に内蔵されている。また、推定手段は、磁石11および磁気センサ12で脈波を測定したときには、測定データに含まれる脈波から心拍変動のRR間隔を求めるようになっている。推定手段は、脈波から求めた心拍変動、または、測定した心拍変動のRR間隔の高周波成分HFや低周波成分LFなどを用いて、運転者1が眠気やストレスを有しているかどうかを推定するようになっている。また、推定手段は、測定データから得られる心拍数も利用して、運転者1の状態を推定するよう構成されていてもよい。なお、DMSは、推定手段で運転者1が眠気を有していると推定された場合に、音や光で運転者1に警告を発するようになっている。
【0024】
なお、車両は、一般的な車両に限らず、業務車両や自動運転車両など、いかなる車両であってもよい。また、運転者1は、健常者に限らず、身体障害者や高齢者など、いかなる運転者1であってもよい。
【0025】
次に、作用について説明する。
本発明の実施の形態の運転者の状態推定方法は、本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置により好適に実施することができる。本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法は、運転者1の脈波または心拍変動による磁石11の振動による磁場の変化を、磁気センサ12により測定することにより、運転者1が眠気やストレスを有しているかどうかなどの、運転者1の状態を推定することができる。本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法は、磁石11および磁気センサ12の比較的簡易な構成により、運転者1の脈波または心拍変動を測定することができるため、動画を撮影するカメラや高価な画像解析ソフトなどが不要であり、材料費などの導入コストを低減することができる。また、磁石11および磁気センサ12を運転の邪魔にならない場所に取り付けることができ、安全に測定することができる。
【0026】
本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法は、図1に示すように、車両を運転する運転者1に圧力をかけた状態になるよう、磁石11を設けることにより、磁石11で運転者1の脈波や心拍変動を捉えやすくすることができ、運転者1の脈波や心拍変動を精度良く測定することができる。
【0027】
なお、本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法で、磁石11の設置面積や、複数の磁石11を使用するときには各磁石11が占める範囲が小さいほど、測定される変動のピーク幅が狭くなり、RR間隔などを精度良く検出できるが、出力が小さくなってしまう。また、磁石11の設置面積や複数の磁石11が占める範囲が大いと、出力は大きくなるが、検出範囲が広くなるため、測定される変動のピーク幅が広くなってしまう。このため、出力の大きさと、測定される変動の時間軸での精度とを考慮して、最適な大きさの磁石11を用いたり、最適な範囲に複数の磁石11を配置したりすることが好ましい。
【0028】
また、本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置および運転者の状態推定方法は、車両が走行する路面に対して平行な振動成分を有するよう磁石11を設け、その磁石11の振動成分を測定可能に、磁気センサ12を設けることが好ましい。この場合、走行中の車両の上下方向の振動の影響を小さくすることができ、磁石11の振動を精度良く測定することができる。
【0029】
また、本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置で、磁石11は複数から成り、それぞれ車両を運転する運転者1の血管の伸張方向に沿って、間隔をあけて配置されており、磁気センサ12は、各磁石11の振動による磁場の変化を測定可能であり、推定手段は、磁気センサ12の測定データに基づいて、運転者1の脈波伝搬速度を求め、その脈波伝搬速度に基づいて、運転者1の状態を推定してもよい。この場合、例えば、脈波伝搬速度から運転者1の血圧を求め、その血圧に基づいて運転者1の状態を推定することができる。また、例えば、求めた血圧と、心拍変動のRR間隔の高周波成分HFや低周波成分LFなどとを用いて、運転者1の状態をより詳細に推定することができる。
【0030】
また、図2に示すように、本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置は、複数の磁石11がアレイ状に規則正しく並べて設置され、複数の磁気センサ12もアレイ状に規則正しく並べて設置されていてもよい。この場合、測定データから効率よくノイズを除去したり、S/N比を高めたりすることができ、運転者1の脈波または心拍変動を精度良く測定することができる。また、この場合、各磁石11がそれぞれ異なる固有周波数を有する電磁石から成り、各磁気センサ12も対応する測定周波数を有していてもよい。或いは、各磁石11がそれぞれ異なる固有周波数を有する電磁石から成り、その磁石11の数より少ない数の磁気センサ12が、異なる固有周波数の各磁石11からの信号を、時分割多重化(TDM)等を利用して受信するよう構成されていてもよい。これらにより、さらに測定精度を高めたり、振動源までの距離を求める等の、より詳細な解析を行ったりすることができる。
【0031】
また、本発明の実施の形態の運転者の状態推定装置は、車両を運転する運転者1から離れた位置で車両に設けられた参照用磁石11と、参照用磁石11の磁場を測定可能に設けられた参照用磁気センサ12とを有し、推定手段は、参照用磁気センサ12の測定データを利用して、磁気センサ12の測定データに含まれるノイズを軽減するよう構成されていてもよい。この場合、参照用磁石11および参照用磁気センサ12により、走行中の車両の振動を測定することができるため、その振動を磁気センサ12の測定データから差し引くことにより、磁気センサ12の測定データに含まれるノイズを軽減することができる。参照用磁石11は、車両を運転する運転者1の脈波や心拍変動により振動しない位置に設けられ、参照用磁気センサ12は、参照用磁石11の振動のみを測定可能な位置に設けられていることが好ましい。
【実施例0032】
磁石11の振動で脈波を測定可能であることを調べるために、脈波測定実験を行った。実験では、図3に示すように、直径3mmの磁石11を、被験者の鳩尾のやや左側の、心臓に近い位置にテープで貼り付け、脈波による磁石11の変動を、TMRセンサから成る磁気センサ12で測定した。磁石11と磁気センサ12との距離は、約300mmとした。また、比較のため、ECG電極パッドを、被験者の両肩付近および左脇腹付近に貼り付け、心電図(ECG)の測定を行った。また、ピエゾ素子を用いたパルストランスデューサを、被験者の左手の薬指の指先に取り付け、脈波の測定を行った。
【0033】
磁気センサ12、パルストランスデューサ、および心電図の測定結果を、図4に示す。また、磁気センサ12の測定波形のピーク位置を求め、図4(a)中に丸印で示す。図4に示すように、磁気センサ12の測定波形は、パルストランスデューサおよび心電図の波形と比べて、ノイズが多く、やや乱れているように見えるが、波形が規則的に繰り返していることが確認された。また、心臓からの距離に応じて、波形のピーク位置が、心電図、磁気センサ12、パルストランスデューサの順に移動していることも確認された。このことから、磁気センサ12により、脈波が測定されており、心拍変動のRR間隔を抽出可能であるといえる。
【0034】
図4に示す各測定結果から、それぞれのRR間隔を求めた。磁気センサ12の測定結果から求めたRR間隔(RR Interval of TMR)と、心電図の測定結果から求めたRR間隔(RR Interval of ECG)との関係を、図5に示す。図5に示すように、2つのRR間隔は非常に相関が高いことが確認された。約100回計測したときの平均絶対誤差(MAE)は、4.0msであった。
【0035】
図5(a)のグラフに、パルストランスデューサの測定結果から求めたRR間隔(RR Interval of Pulse)と、心電図の測定結果から求めたRR間隔との関係を重ねたものを、図6に示す。図6に示すように、パルストランスデューサと心電図との相関も高いが、磁気センサ12と心電図との関係の方が、やや相関が高いことが確認された。
【0036】
図4図6は、被験者がベッドに横になった状態での測定結果であるが、被験者が椅子に座った状態で測定を行ったときの、磁気センサ12の測定結果から求めたRR間隔と、心電図の測定結果から求めたRR間隔との関係を、図7に示す。図7に示すように、2つのRR間隔の関係は、図5と比べるとやや低下しているが、高い相関を有していることが確認された。約100回計測したときの平均絶対誤差(MAE)は、11.9msであった。
【実施例0037】
図8(a)に示すように、直径3mmの磁石11を、被験者の首の左側の頸動脈付近にテープで貼り付け、脈波による磁石11の変動を、被験者の首の後方に配置したTMRセンサから成る磁気センサ12で測定した。磁石11と磁気センサ12との距離は、250mm~300mmとした。磁気センサ12の測定結果を、図8(b)に示す。図8(b)に示すように、波形が規則的に繰り返しており、ピーク位置も明瞭であることが確認された。このことから、脈波が測定されており、心拍変動のRR間隔を抽出可能であるといえる。
【実施例0038】
磁石11の大きさ(磁石11の占める範囲)による脈波測定の精度の変化を調べる実験を行った。実験では、図9に示すように、16個の直径3mmの磁石11を、被験者が座るシートに、等間隔で縦4個×横4個で正方形に配置した。各磁石11は、全て同じ向きとし、同じ極が被験者側に向くように配置した。実験では、各磁石11の間隔を変えて、16個の磁石11が占める正方形の1辺が、5cm、10cm、15cm、17cmとなる4つの場合について、脈波の測定を行った。また、実験では、被験者がシートに座った状態で、脈波による各磁石11の変動を、TMRセンサから成る磁気センサ12で測定した。最も近い磁石11と磁気センサ12との距離は、約300mmとした。
【0039】
また、実験では、ECG電極パッドを、被験者の両肩付近および左脇腹付近に貼り付け、各磁石11を用いた測定と同時に、心電図(ECG)の測定も行った。各磁石11の占める範囲が異なる4つの場合について、実施例1と同様にして、磁気センサ12および心電図の測定データからそれぞれ心拍変動のRR間隔を求め、心電図の測定データから求めたRR間隔に対する、磁気センサ12の測定データから求めたRR間隔の平均絶対誤差(MAE)を求めた。
【0040】
各磁石11の占める面積と平均絶対誤差との関係を、図10に示す。図10には、各データに対する1次式による近似曲線を、破線で示している。図10に示すように、各磁石11の占める面積と平均絶対誤差との間には正の相関が認められ、各磁石11の占める面積を小さくすることにより、平均絶対誤差も小さくなることが確認された。磁石11の出力として、ある程度の大きさの出力を確保するためには、各磁石11の占める面積を小さくするのには限界があるが、図10から、例えば、平均絶対誤差を10msec以内に抑えるためには、各磁石11の占める面積を12cm×12cm(図10の×印の位置)以下にすればよいといえる。
【0041】
なお、この実験では、各磁石11として、永久磁石を用いているが、電磁石を用いることにより、あらかじめ各磁石11を広く分布させておき、必要な範囲の磁石11のみを駆動させることができる。これにより、測定条件や測定時の状況に応じて、各磁石11による出力と誤差とのバランスを調整することができ、最適な条件で測定を行って運転者の状態を推定することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 運転者
2 運転席

11 磁石
12 磁気センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10