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特開2022-25828昇降機異常状態検知方法及び昇降機異常状態検知装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025828
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】昇降機異常状態検知方法及び昇降機異常状態検知装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20220203BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
B66B5/02 S
B66B3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020128935
(22)【出願日】2020-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宋 彦舟
【テーマコード(参考)】
3F303
3F304
【Fターム(参考)】
3F303BA01
3F303CB01
3F303CB07
3F303CB41
3F303CB46
3F303DC34
3F304BA01
3F304BA07
3F304CA11
3F304EA01
3F304EA05
3F304EA22
3F304ED01
3F304ED05
3F304ED13
(57)【要約】
【課題】昇降機が発生する音のうち異常音を含む音データから、その発生箇所と発生部品及び発生原因を特定する。
【解決手段】まず、音センサーと位置センサーにより昇降機の走行時の音データと走行位置データを取得し、異常を含む音データの発生時の昇降機の走行位置と、この音データの発生位置を算出する。次に、異常音を含む音データ発生時の走行位置と発生位置における昇降機の部品の材質情報を抽出し、異常音を含む音データを学習させて、この異常音を含む音データを発する材質を有する部品を算出する。そして、昇降機の部品の材質情報と、異常音を含む音データを発する材質とを比較し、比較の結果に基づいて異常音を含む音データの発生原因を特定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機の異常状態を検知する昇降機異常状態検知方法であって、
前記昇降機の走行時の音データを音センサーにより取得するステップと、
前記昇降機の走行位置データを位置センサーにより取得するステップと、
前記音センサーにより取得された音のうち異常音を含む音データと、前記位置センサーにより取得された前記昇降機の走行位置から、前記異常音を含む音データの発生音源の位置を算出するステップと、
前記異常音を含む音データの発生時の前記昇降機の走行位置と前記異常音を含む音データの発生音源の位置から前記昇降機の部品の材質情報を抽出するステップと、
前記異常音を含む音データを学習させて、学習データに基づいて前記異常音を含む音データを発する材質を有する部品を算出するステップと、
前記昇降機の部品の材質情報と、算出した前記異常音を含む音データを発する材質とを比較するステップと、
前記比較の結果に基づいて、前記異常音を含む音データの発生原因を特定するステップと、を含む
昇降機異常状態検知方法。
【請求項2】
前記音センサーは、異なる方向を向いた少なくとも2個を備えており、少なくとも2個の前記音センサーにより検出される音圧の大きさの違いから、前記異常音を含む音データを発生する音源の方向を検出する、
請求項1に記載の昇降機異常状態検知方法。
【請求項3】
前記位置センサーは、気圧センサーまたは加速度センサーであり、気圧センサーによりエレベーターかごの高さが検出され、加速度センサーにより前記エレベーターかごの移動速度が検出される
請求項1に記載の昇降機異常状態検知方法。
【請求項4】
さらに、前記昇降機で発生される前記異常音を含む音データの発生部位、発生原因および是正方法を含む故障レポートを表示データ生成部で作成するステップと、
前記表示データ生成部で作成した前記故障レポートを表示部に表示するステップを、含む
請求項1に記載の昇降機異常状態検知方法。
【請求項5】
さらに、前記昇降機に設置される材質センサーにより、前記昇降機の走行中の各部品の材質情報を検出して、部品データベースに保存するステップを、含む
請求項1~4のいずれか一項に記載の昇降機異常状態検知方法。
【請求項6】
昇降機の位置を検出する位置センサーからの信号により前記昇降機の位置を取得する位置情報取得部と、
前記昇降機が発する異常音を検出する音センサーと、
前記音センサーが検出する音のうち異常音を含む音データと、異常音を含まない正常音との判別を行うとともに、前記音センサーが検出する音の特徴パターンを学習して判定するためのデータを予め保存する学習データベースと、
前記昇降機が備える部品の位置情報及び材質情報を予め保存する部品データベースと、
前記音センサー、前記位置情報取得部、前記学習データベース及び前記部品データベースから入力されるデータを処理し、機械学習によって前記学習データベースに保存されたデータを用いて、前記異常音を含む音データにおける音の特徴パターンを判別する処理部と、
前記部品データベースに保存された前記昇降機の前記部品の前記位置情報及び前記材質情報と前記処理部で得た前記音の特徴パターンとを比較する比較部と、
前記比較部にて算出した前記異常音を含む音データの発生部位、前記異常音を含む音データの発生原因、及び是正方法を含む故障レポートを作成して、表示部に表示する表示データ生成部と、を備える
昇降機異常状態検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機異常状態検知方法及び昇降機異常状態検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にエレベーターの異常診断では、学習データと診断データを比較することで、エレベーターの異常が発生する機器または部品等の検出を行っている。
特許文献1には、正常と診断されるセンサデータを用いて、外れ値の影響を抑制できるように学習データを更新し、経年劣化に追従できる診断システム及びエレベーターが記載されている。
【0003】
すなわち、特許文献1に記載の技術は、診断対象の機器に設置されたセンサーからのセンサデータと、診断用学習データとに基づいて、診断対象機器の状態を診断する。そして、正常と診断されたときのセンサデータを、予め保持している蓄積学習データ群に加え、蓄積データ群の中心とそれに近いものだけを残して、遠いものを蓄積データ群から削除し、蓄積データ群を更新している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-35118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、経年劣化による学習データを更新する点では一定の作用効果を奏するものの、突発の故障、例えば異常音の発生箇所、発生機器の特定ができないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、経年変化等による昇降機が発生する異常音を含む音データから、異常音の発生箇所と発生部品及び異常音の発生原因を特定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、本発明は、昇降機の異常状態を検知する昇降機異常状態検知方法であって、以下(a)~(g)のステップを含む。
(a)昇降機の走行時の音データを音センサーにより取得するステップ、
(b)昇降機の走行位置データを位置センサーにより取得するステップ、
(c)音センサーにより取得された音のうち異常音を含む音データと、位置センサーにより取得された昇降機の走行位置から、異常音を含む音データの発生音源の位置を算出するステップ、
(d)異常音を含む音データの発生時の昇降機の走行位置と異常音を含む音データの発生音源の位置から昇降機の部品の材質情報を抽出するステップ、
(e)異常音を含む音データを学習させて、学習データに基づいて異常音を含む音データを発する材質を有する部品を算出するステップ、
(f)昇降機の部品の材質情報と、算出した異常音を含む音データを発する材質とを比較するステップ、
(g)比較の結果に基づいて、異常音を含む音データの発生原因を特定するステップ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の昇降機異常状態検知方法及び昇降機異常検知装置によれば、エレベーターの所定位置にある部品の材質と、音データから取得した材質情報を比較して、異常音を含む音データの発生原因を特定できるので、作業者に対して異常音に対する対処方法を提示することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係わる昇降機異常状態検知システムの全体構成を説明するための概要図である。
図2】本発明の一実施形態に係わる昇降機異常状態検知システムのハードウェア構成を説明する図である。
図3】本発明の一実施形態に係わる昇降機異常状態検知システムの処理手順を示すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態に係わる昇降機異常状態検知システムにおける、異常音発生時の位置データと音データの処理方法を説明するフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態に係わる昇降機異常状態検知システム位置情報と音データを同期する方法を説明する図である。
図6】本発明の一実施形態に係わる音パターンの解析手法を説明する概略図である。
図7】本発明の一実施形態に係わる故障レポートの表示例を示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係わる部品の位置情報と材質情報を説明するための表である。
図9】本発明の一実施形態に係わる音データの特徴群を説明するための表である。
図10】本発明の第二の実施形態に係わる昇降機異常状態検知システムの全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一の実施形態例>
以下、本発明の一実施形態例に係わる昇降機異常状態検知方法及び昇降機異常状態検知装置の具体例を図1図7を参照して説明する。
図1は、本実施形態の昇降機異常状態検知装置の全体構成を示す。
本実施形態の昇降機異常状態検知装置は、本体である計測装置1、履歴データベース(以下、「履歴DB」と称する)2、位置センサー3及び情報処理装置4から構成されている。
【0011】
そして、計測装置1は、制御部11、音センサー12、位置情報取得部13、学習データベース(以下、「学習DB」と称する)14、処理部15、比較部16、部品データベース(以下、「部品DB」と称する)17、表示データ生成部18、通信部19及び表示部20を備える。
【0012】
本実施形態において、制御部11は、音センサー12を制御する。音センサー12は、少なくとも2つ以上の音センサーを有する。例えば、音センサー12は、少なくとも2個以上の、20Hz~15000Hzの音を測定できるマイクロホンである。なお、音センサー12を少なくとも2個設けるのは、図5で後述するように、2個の音センサー12が検出する音圧の違いにより、異常音が発生する方向を検知するためである。
ここで、異常音とは、昇降機の故障による正常音と異なる音だけではなく、逆に故障による音ではないことを確認する必要がある音や、昇降機のメンテナンスを行う必要がある音を含む広義の音をいう。
【0013】
制御部11は、ケーブルまたは無線で音センサー12と接続されており、マイクロホンで測定した音の録音の開始または停止を制御する。また、制御部11は、音センサー12に対して、録音した音データを処理部15に送るための制御信号を送信する。
【0014】
位置情報取得部13は、位置センサー3からのデータを取得する。ここで、位置センサー3は、例えば加速度センサー、気圧センサー、超音波センサー、ミリ波センサーなどで構成される位置情報を取得するためのセンサーである。例えば、気圧センサーからは昇降機の高さがわかり、加速度センサーからは昇降機の移動速度を検出することができる。
なお、位置センサー3に代えて、昇降機の配電盤に設けられる昇降機回路(制御回路)を用いて、エレベーターの位置検出とエレベーターの走行状態を取得することもできる。
【0015】
情報処理装置4は、昇降機を構成する機器または部品等に関する情報を事前に測定して、処理部15に供給する。情報処理装置4からの上述の情報は、学習DB14にも蓄積される。
【0016】
学習DB14は、機械学習によって昇降機の機器または部品等に関するデータが予め蓄積されるデータベースである。この学習DB14に蓄積されたデータを用いて、昇降機内で発生する異常音と正常音の判別がなされ、また音の特徴パターンの判定がなされる。すなわち、学習DB14には、機械学習によって、異常音か正常音かの判定、及び音の特徴パターンの判定を行うための教師データが予め保存されている。
【0017】
処理部15は、音センサー12、位置情報取得部13、学習DB14から入力されたデータを処理する。すなわち、処理部15は、少なくとも以下(1)~(5)の処理を行う。
(1)音センサー12からの音データに対する高速フーリエ変換処理
(2)音センサー12から音データのスペクトログラムに対する周波数分析処理
(3)学習DB14のデータを用いて、機械学習により音センサー12からの音データの正常または異常を判別する処理
(3)学習DB14のデータを用いて、機械学習により音センサー12からの音データの音の特徴パターンを判別する処理
(4)位置情報取得部13で取得した位置センサー3のデータから位置情報を算出する処理
(5)音センサー12からの音データと位置センサー3からの位置情報データの時間軸を同期する処理
【0018】
比較部16は、部品DB17に保存された昇降機の各部品の位置情報及び材質情報を、処理部15で得た音の特徴パターンの詳細情報と比較する。そして、処理部15は、この比較結果に基づいて、昇降機の部品等の異常状態と、その発生原因を算出する。
【0019】
表示データ生成部18は、比較部16にて算出した昇降機部品の異常状態の発生原因に基づいて、異常状態を解決するための対処方法となる故障レポート(図7で後述)を生成する。この表示データ生成部18で作成された対処方法を含む故障レポートは表示部20に表示される。
【0020】
通信部19は、表示データ生成部18で作成され、表示部20に表示された故障レポートを履歴DB2に送信する。また、通信部19は、処理部15にて取得された音センサー12、情報処理装置4、位置センサー3からの各種データを履歴DB2に送信する。したがって、履歴DB2には、通信部19から送信された、昇降機に関する故障レポート及び各種データが保存される。
【0021】
<昇降機異常状態検知システムに用いられる計測装置のハードウェア構成>
図2は、本例の昇降機異常状態検知システムに用いられる計測装置1のハードウェア構成を示す図である。
図2に示すように、計測装置1は、バス21に接続されたCPU(Central Processing Unit)22、ROM(Read Only Memory)23、RAM(Random Access Memory)24、不揮発性ストレージ25から構成される。
【0022】
CPU22は、計測装置1の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM23から読み出して演算処理を実行する。RAM24には、CPU22で行われる演算処理の途中で発生した変数等が一時的に書き込まれる。CPU22は、ROM23に記録されているプログラムコードを実行することにより、図1で説明した計測装置1の機能を実現する。
【0023】
不揮発性ストレージ25は、SSD(Solid State Drive)等の不揮発性のメモリで構成される。この不揮発性ストレージ25には、CPU22が動作するために必要なプログラムやデータ等が格納される。この不揮発性ストレージ25には、図1で説明した学習DB14、部品DB17及び履歴DB2等の記憶エリアが設けられている。
【0024】
また、計測装置1は、入力部27と出力部28を備える。入力部27は、音センサー12からの音データ及び位置センサー3からの位置情報データを入力する。出力部28は、昇降機に関する異常状態の発生原因と対処方法に基づいて作成された故障レポートを出力する。なお、この故障レポートは、既に述べたように、図1に示す表示データ生成部18で生成され、表示部20に表示される。したがって、図2の出力部28は、図1の表示部20に相当すると考えてよい。
【0025】
また、計測装置1は、通信インタフェース(通信部IF)26を備える。通信インタフェース26としては、例えば、NIC(Network Interface Card)等が用いられる。この通信インタフェース26は、図1の通信部19に相当するハードウェアである。
【0026】
<第一の実施形態例の昇降機異常音検知方法の処理手順>
以下、図3図9を参照し、本発明の一実施形態である昇降機異常音検知方法に係わる処理フローを説明する
図3は本発明の一実施形態の昇降機異常音検知方法に係わる処理フローを説明するためのフローチャートである。
まず、情報処理装置4は、測定の準備作業として、対象昇降機に関する機器及び部品等の情報を処理部15に入力する(ステップS1)。
【0027】
次に、昇降機のかご内に設置された計測装置1により、昇降機の位置情報データと昇降機の各部から発生される音データを取得し、昇降機の走行状態を測定する(ステップS2)。
計測装置1の処理部15は、ステップS2の走行状態の測定の際に得た音データを、学習DB14に保存されているデータと照合し、昇降機からの音データの中に異常音があるか否かを判別する(ステップS3)。
【0028】
ステップS3で、異常音があると処理部15が判定した場合(ステップS3のYES)、処理部15は、ステップS2にて取得した、位置センサー3からの位置情報データと音センサー12からの音データを用いて、異常音が発生したときの走行位置と計測装置1からみた異常音の発生位置を算出する(ステップS4)。
【0029】
ここで、異常音が発生したときの走行位置とは、異常音が発生したときのエレベーターかごの位置である。そして、処理部15は、異常音が発生したときの走行位置を位置情報D1として出力する。なお、異常音の発生位置の算出方法については、図4(a)及び図5で後述する。
【0030】
次に、計測装置1の処理部15は、異常音を含む音データを用いて、スペクトログラムを出力しこのスペクトログラムと学習DB14に保存されているスペクトログラムと照合して、波形パターンを判定する(ステップS5)。そして、処理部15は、波形パターンに対応する発生源の材質情報D2を出力する。なお、ステップS5における波形パターンの判定方法については、図4(b)及び図5で後述する。
【0031】
次に、部品DB17から予め記憶されている当該昇降機の部品の位置情報D1’と材質情報D2’を抽出する(ステップS6)。
そして、計測装置1の比較部16は、ステップS6で抽出された昇降機の部品の位置情報D1’を、ステップS4で算出された位置情報D1と比較することにより、位置情報D1と整合可能な部品群を特定する(ステップS7)。
【0032】
また、比較部16は、ステップS6で抽出された昇降機部品の材質情報D2’を、ステップS5の波形パターンの判定から得られた材質情報D2と比較し、異常音発生の原因部品を特定する(ステップS8)。
【0033】
すなわち、比較部16は、ステップS7で特定された可能な部品群の中から、ステップS8で特定された原因部品を特定し、故障の推定結果と故障の是正方法を提示する(ステップS9)。すると、表示データ生成部18は、比較部16から提示された故障の推定結果と故障の是正方法に基づいて、故障レポート(図7で後述)を自動生成して、表示部20に表示するとともに、通信部19経由で履歴DB2に保存する(ステップS10)。
【0034】
なお、ステップS3で、異常音がないと処理部15が判定した場合(ステップS3のNO)には、処理部15は、正常であると判定して(ステップS11)、処理を終了する。
これにより、本実施形態の昇降機異常状態検知方法の一連の処理手順が終了する。
【0035】
図4(a)は、図3のステップS4における発生位置の算出処理の手順を示すフローチャートである。
まず、計測装置1の処理部15は、図3のステップS2にて取得した昇降機の位置情報データ(位置センサー3からのデータ)と音データ(音センサー12からのデータ)を読取り、それぞれの時間軸を同期させる(ステップS41)。
次に、処理部15は、異常音発生時の音データとそのときの位置データを時間軸から抽出する(ステップS42)。
【0036】
そして、処理部15は、異常音発生時刻の位置データから、エレベーターのかごの位置を算出する(ステップS43)。ここで、かごの位置の算出に際しては、例えば、階層情報、速度、スタート位置との相対距離などが用いられる。
【0037】
また、処理部15は、複数の音センサー12が記録した音データの波形情報から、音センサー12の位置と音源の位置関係を算出する(ステップS44)。
以上のステップS41~S44の処理を通して、図3のステップS4における異常音発生の位置情報D1が算出される。
【0038】
図4(b)は、図3のステップS5における異常音発生の波形パターンの算出処理の手順を示すフローチャートである。
図3のステップS5では、抽出された異常音の波形パターンの判定が行われるが、図4(b)では、まず、処理部15は、抽出した異常音を含む音データの高速フーリエ変換を行い、異常音を含む音データのスペクトログラムを作成する(ステップS51)。
【0039】
そして、ステップS51で作成されたスペクトログラムに基づいて、処理部15は、各周波数域の音圧特徴、スペクトログラム上の異常音波形の幾何的特徴(波形特徴)、異常音の発生周期特徴を算出し、学習DB14空間の座標情報に変換する(ステップS52)。後述する図6に示すデータAの座標軸上の位置がステップS52で変換された座標情報に当たる。
【0040】
次に、処理部15は、ステップS52で変換された座標情報を、図1に示す学習DB14の予め記憶されたデータ群(図6のデータ群G1、G2、G3参照)と比較し、該当するデータ群に対応する材質情報と接触状態を算出する(ステップS53)。
以上のステップS51~S53の処理を通して、図3のステップS5における異常音発生の材質情報D2が算出される。
なお、ステップS53の異常音発生の材質情報D2の算出方法については、図6で後述する。
【0041】
<異常音発生位置と発生方向の特定方法>
図5は、位置センサー3から得られるエレベーターかごの位置データと音センサー12から得られる音データの時間軸を合わせて示した図である。
図5の上段には、位置データとしてエレベーターかごが存在する高さと、エレベーターの移動速度が示されている。
【0042】
図5の上段に示すように、エレベーターかごの高さは1階から最上階までが示されており、移動速度としては1階の運転開始から最上階での運転停止までの速度が示されている。
エレベーターかごの高さは、位置センサー3として圧力センサーを使用することにより計測することができ、エレベーターの移動速度は、位置センサー3として加速度センサーを使用することにより計測することができる。
【0043】
また、図5の下段に示すように、音センサーAと音センサーBからなる複数の音センサー12は、同じ時間に異常音を含む音データを抽出している。音センサーAは方向C1を向いており、音センサーBは方向C2を向いている。縦軸は異常音の大きさ(音圧)を示す。音センサーAと音センサーBから出力される音データの音圧情報の差と、音センサーA及び音センサーBの向きの違いから、異常音を発生する音源とそれぞれの音センサーA、Bの位置関係を算出することができる。これにより異常音を発生する音源の位置を特定することが可能になる。
【0044】
<音パターンの解析手法>
図6は、ステップS53で算出された該当データ群G1、G2、G3に対応する材質情報と接触状態を出力する際の音パターンの解析手法を説明するための図である。
図6には、学習DB14空間の3次元の座標軸、すなわち音圧特徴の座標軸、波形特徴の座標軸及び発生周期特徴の座標軸が示されている。
【0045】
音圧特徴の座標軸は異常音を含む音データの各周波数の音圧変動状況の違いを示している。また、波形特徴の座標軸はスペクトログラム上の異常音波形の幾何的特徴つまり波形パターンを示し、発生周期特徴の座標軸は異常音が発生する周期、すなわち所定時間当たりの重複回数を示している。
【0046】
図6に示すデータAは、音センサー12で観測された異常音を含む音データAの位置を、音圧特徴、波形特徴、発生周期特徴の3つの座標軸上でプロットしたものである。ここで、データ群G1(〇)、データ群G2(△)及びデータ群G3(□)は、波形パターンの特徴が異なる音データのデータ群を表している。すなわち、各データ群の中の図形〇、△、□は、それぞれのデータ群の波形パターンの形状の違いを示している。
【0047】
この図6において、異常音を含む音データAの位置と各データ群G1、G2、G3の中心位置との距離L1、L2、L3を算出する。そして、距離L1、L2、L3のうちの最も小さい距離、例えばL1を選択する。この最小となる距離L1から異常音を含む音データAがデータ群G1に属する異常音データであると判定する。
【0048】
<表示部20に表示される故障レポート>
図7は、表示データ生成部18で作成され、表示部20に表示される故障レポートの例である。
図7に示すように、この故障レポートは「異常音故障調査レポート」として、表示部20に表示される。異常音故障調査レポートには、作成時間、昇降機の号機番号、異常音波形、異常音の発生位置、発生部位、発生原因、対処方法、及び是正状態が表示される。
【0049】
具体的には、図7に示すように、上段部に故障レポートの「作成時間:2020/07/10 12・00:00」と、「昇降機号機:12345678」が表示される。そして、中段部に異常音の音圧波形と、異常音の周波数波形と、異常音が発生した位置(高さ)が表示される。ここで、音圧波形は、図5の下段部に示した波形と同じものであり、周波数波形は、異常音が発生した時間に高い周波数が発生していることを示している。また、高さ波形から、この故障レポートでは3階で異常音が発生したことが分かる。
【0050】
また、下段部には、発生部位がケーブル(ゴム)とかご(金属)の接触部であることが示され、異常音の発生原因として、塔内ケーブルとかごの衝突が表示されている。さらに、この異常音に対する対処方法(是正方法)として、ケーブルの固定状態を確認したことが表示され、是正したことを示す「是正状態:完了」が表示される。
そして、故障レポートを作成した「作成者:〇〇〇〇」と、是正されたことを顧客が確認したことを示す「顧客確認:××××」が表示されている。
【0051】
<部品データベース17に格納されるデータ構造>
図8は、機種コード0001の昇降機における部品DB17に保存されるデータ構造の一例を示している。機種コード0001は、図3のステップS1にて入力される対象昇降機のコード番号である。
図8に示すように、部品DB17は、部品フィールド、位置フィールド、材質フィールド、図面番号フィールド、寸法フィールド、及び接触・隣接部品フィールドを有する。
【0052】
部品フィールドの欄には、エレベーターに用いられる部品、例えばレール、バッファ、リミットスイッチ、頂部プーリ、ケーブル、フェッシャープレート等が格納されている。これらの部品は、例えば異常音が発生される可能性がある部品である。
位置フィールドの欄には、部品フィールドの部品に対応して、それぞれの部品
が存在する位置、例えばピット、最上階、最下階、頂部等が格納されている。なお、レール部品については、全ての階層に関係するので、位置情報ではなく「走行中」と格納されている。
材質フィールドの欄には、部品フィールドの部品ごとに、金属やゴム等の材質が格納されている。
【0053】
図面番号フィールドの欄には、設計図面の番号、例えば部品がレールの場合、「A0001」の番号が格納れている。
寸法フィールドの欄には、部品フィールドに格納される部品に対応する寸法(A1、A2、A3・・・)が格納されている。
【0054】
接触・隣接部品フィールドには、部品フィールの各部品が接触している部品または隣接する部品が格納されている。すなわち、異常音の発生は部品間の接触により起こることが多いので、接触・隣接部品フィールドの部品は、異常音を含む音データ発生の原因を見つける上で重要な情報になる。
【0055】
<学習データベース14に格納されるデータ構造>
図9は、本実施形態の学習DB14に保存されるデータ構造の一例を示している。
図9に示すように、学習DB14は、音データ群フィールド、代表座標フィールド、発生位置フィールド、発生方向フィールド、接触状態フィールド、材質(1)フィールド、材質(2)フィールド、及び異常状態フィールドを有する。なお、材質(1)フィールドと材質(2)フィールドの2つの材質フィールドを設けた理由は、異常音の発生が2つの部品の接触等によって引き起こされる可能性が高いからである。
【0056】
音データ群フィールドには、異なる音データ群が、データ群1、データ群2、データ群3・・・と示されている。
上記の各データ群フィールドのデータ群に対応して、代表座標、異常音の発生位置、異常音が発生する音源の方向(発生方向)、接触状態の特徴、音源の材質、異常状態が格納されている。
すなわち、代表座標フィールドには、それぞれのデータ群の代表座標(データ群1では[A1,B1,C1])が格納されている。
【0057】
また、発生位置フィールドには、階に関係なく走行中の異常音なのか、あるいは最下階や特定階で発生する異常音なのかが格納されている。
発生方向フィールドには、それぞれの音データ群における異常音が頂部で発生しているのか、あるいは下部で発生しているのかが格納される。
【0058】
接触状態フィールドには、それぞれの音データ群に対して、ベアリング等の回転による異常音なのか、引き擦れによる異常音なのか、あるいは衝突による異常音なのかが格納されている。
材質(1)フィールドには、全ての音データ群で金属が格納されており、材質(2)フィールドでは、それぞれの音データ群に関して、金属、ライニング、ゴム等が格納されている。
異常状態フィールドには、データ群1ではベアリングの劣化、データ群2ではライニング摩耗、データ群3ではケーブルとかごの衝突、データ群4ではロープと異物混入防止ゴムとの接触等、異常音発生の要因が格納されている。
【0059】
<第二の実施形態例>
図10は、本発明の第二の実施形態の昇降機異常状態検知システムの全体構成を示す。図1に示す第一の実施形態と異なる点は、材質センサー5を使用した点である。材質センサー5以外の構成は図1に記載した構成と同じなので、同一符号を付して説明は割愛する。
【0060】
図10に示す材質センサー5は、昇降機に設置されており、測定時に走行中の各部品の材質情報を検出して、部品DB17に格納する。ここで、材質センサー5としては、少なくとも物体の材質特性(例えば反射率)を測定することができるセンサーであり、また、材質を判定できるものであることが求められる。具体的には、例えば赤外線センサー、超音波センサーなどが用いられる。
【0061】
なお、本発明は前述した第一、第二の実施の形態例に限定されるものではなく、様々な変形例、応用例が含まれる。また、前述した実施の形態例は、本発明を分かりやすく説明するために説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではなく、適宜、その他の構成にも応用できる。なお、
【0062】
例えば、上述した実施形態において、音センサーは録音可能なカメラを使用してもよい。また、上述の実施形態において、計測装置1自体をエレベーターのかご内ではなく、昇降路内の特定位置(例えばピットなど)に置いて、異常音の発生時間と昇降機走行に係わる特有の音(例えばブレーキの動作音)の発生時間から昇降機の走行状態を算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1……計測装置、2……履歴データベース(DB)、3……位置センサー、4……情報処理装置、5……材質センサー、11……制御部、12……音センサー、13……位置情報取得部、14……学習DB、15……処理部、16……比較部、17……部品DB、18……表示データ生成部、19……通信部、20……表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10