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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025853
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】加工方法および加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/361 20140101AFI20220203BHJP
   B23K 26/02 20140101ALI20220203BHJP
   B23K 26/066 20140101ALI20220203BHJP
【FI】
B23K26/361
B23K26/02 A
B23K26/066
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020128981
(22)【出願日】2020-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】504007202
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクファインシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中須 信昭
(72)【発明者】
【氏名】小坂 淳也
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 幹男
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD05
4E168CA06
4E168CB23
4E168DA60
4E168EA19
4E168JA17
4E168KA17
(57)【要約】
【課題】複数層からなる複合部材に対する加工精度を向上させる。
【解決手段】複数層からなる加工対象物の加工を行う加工方法であって、(a)加工対象層(バリ43)と、加工対象層の下層である下地層(B部材51B)との間に遮蔽板21を挿入する工程、(b)加工対象層にレーザを照射し、加工対象層を加工する工程、を有する。そして、加工対象層の加工領域の第1方向の長さは、レーザの1回の照射領域の第1方向の長さより大きく、遮蔽板21の第1方向の長さは、レーザの照射領域の第1方向の長さより大きく、加工対象層の加工領域の第1方向の長さより小さい。このように、レーザの1回の照射領域より大きな領域の加工を行う際、レーザの1回の照射領域と対応させて遮蔽板21を用いることで、下地層の損傷を防止しつつ、上層の加工を行うことができる。また、切断線をU字状とし、重ね合わせることで、連続した切断線を設けることができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層からなる加工対象物の加工を行う加工方法であって、
(a)加工対象層と、前記加工対象層の下層である下地層との間に遮蔽板を挿入する工程、
(b)前記加工対象層にレーザを照射し、前記加工対象層を加工する工程、
を有する、加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加工方法において、
前記(b)工程は、前記加工対象層に切断線を設ける工程である、加工方法。
【請求項3】
請求項1に記載の加工方法において、
前記加工対象層の加工領域の第1方向の長さは、前記レーザの1回の照射領域の前記第1方向の長さより大きく、
前記遮蔽板の前記第1方向の長さは、前記レーザの照射領域の前記第1方向の長さより大きく、前記加工対象層の加工領域の第1方向の長さより小さい、加工方法。
【請求項4】
請求項1に記載の加工方法において、
前記加工対象層にレーザを照射する位置を第1方向にずらしつつ、前記(a)工程および前記(b)工程を繰り返し行う、加工方法。
【請求項5】
請求項1に記載の加工方法において、
前記レーザの1回の照射領域における切断線を複数重ねて設けることにより連続した切断線を設け、
前記切断線は、両端に湾曲部を有するU字状であり、前記湾曲部において隣の切断線と交差する、加工方法。
【請求項6】
請求項1に記載の加工方法において、
前記加工対象層にレーザを照射する位置を走査しつつ、前記レーザを照射する位置と同期して前記遮蔽板を走査する、加工方法。
【請求項7】
複数層からなる加工対象物の加工を行う加工装置であって、
レーザ照射部と、
遮蔽板と、
制御ユニットと、を有し、
前記制御ユニットは、切断線の加工条件を設定し、
加工対象層と、前記加工対象層の下層である下地層との間に遮蔽板を挿入した状態で、前記加工対象層にレーザを照射し、前記加工対象層に切断線を形成する、加工装置。
【請求項8】
請求項7に記載の加工装置において、
前記加工対象層の加工領域の第1方向の長さは、前記レーザの1回の照射領域の前記第1方向の長さより大きく、
前記遮蔽板の前記第1方向の長さは、前記レーザの照射領域の前記第1方向の長さより大きく、前記加工対象層の加工領域の第1方向の長さより小さい、加工装置。
【請求項9】
請求項7に記載の加工装置において、
前記制御ユニットは、
前記加工対象層にレーザを照射する位置を第1方向にずらしつつ、
(a)前記加工対象層と、前記下地層との間に遮蔽板を挿入する工程、および、
(b)前記加工対象層にレーザを照射し、前記加工対象層を加工する工程、を繰り返し行う制御を行う、加工装置。
【請求項10】
請求項7に記載の加工装置において、
前記制御ユニットは、
前記レーザの1回の照射領域における切断線を複数重ねて設けることにより連続した切断線を設けるよう制御を行い、
前記切断線は、両端に湾曲部を有するU字状であり、前記湾曲部において隣の切断線と交差する、加工装置。
【請求項11】
請求項7に記載の加工装置において、
前記制御ユニットは、
前記加工対象層にレーザを照射する位置を走査しつつ、前記レーザを照射する位置と同期して前記遮蔽板を走査する制御を行う、加工装置。
【請求項12】
請求項7に記載の加工装置において、
前記加工対象層の形状を撮影する撮影部を有し、
前記制御ユニットは、前記撮影部の映像に基づき前記加工対象層における加工位置を特定する、加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工方法および加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生産の効率化や部材の高機能化に伴い、加工装置により、複数の材料で構成される複合部材が製造されるようになっている。複合部材を製造する際、バリ等の不具合が発生することがある。バリが残された複合部材をそのまま正常品として出荷することはできないため、複合部材に対してバリを除去する工程が行われる。
【0003】
例えば特許文献1には、感光性導電フィルムを用いて2層積層する構成において、これらの間に近赤外遮蔽材を含有する感光性導電フィルムを配置することで、上層側の感光性導電フィルムをレーザ光でパターン形成する際、下層側の感光性導電フィルムにダメージを与えることなく上層側の感光性導電フィルムを選択的にパターン形成する技術が開示されている。
【0004】
例えば特許文献2にはレーザ光源を含み、複数のレーザ光を出力するレーザ出力手段と、複数のレーザ光をそれぞれ、長尺かつ長尺側発散光である長尺ビームに整形する光学系と、長尺ビームをマスキングして所定の形状で透過させる複数のマスクスリットと、レーザ光が照射される被照射物の上面と平行な2次元方向に、マスクスリットを移動させるマスクスリット移動手段とを備えるレーザ加工装置が開示されている。そして、このレーザ加工装置においては、長尺ビームを互いに一部を重複させて、長尺方向に連結させることにより線状ビームが合成され、長尺方向の照射強度分布が連結された区間内で均一となるように照射強度分布が調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-54125号公報
【特許文献2】特開2010-105012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複合部材は、特性の異なる複数種類の材料が積層された構成となっているため、特定層の一部を除去する加工を行う際、別の材料で構成される特定層以外の層を傷つけてしまうというリスクがあった。
【0007】
そこで、本発明は、複数層からなる複合部材に対する加工精度を向上させる加工方法および加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0009】
本発明の代表的な実施の形態による加工方法は、複数層からなる加工対象物の加工を行う加工方法であって、(a)加工対象層と、前記加工対象層の下層である下地層との間に遮蔽板を挿入する工程、(b)前記加工対象層にレーザを照射し、前記加工対象層を加工する工程、を有する。
【0010】
本発明の代表的な実施の形態による加工装置は、複数層からなる加工対象物の加工を行う加工装置であって、レーザ照射部と、遮蔽板と、制御ユニットと、を有し、前記制御ユニットは、切断線の加工条件を設定し、加工対象層と、前記加工対象層の下層である下地層との間に遮蔽板を挿入した状態で、前記加工対象層にレーザを照射し、前記加工対象層に切断線を形成する。
【発明の効果】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0012】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、複数層からなる複合部材に対する加工精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】加工対象となる複合部材およびその加工の様子を示す図である。
図2】バリとB部材との間に遮蔽板を挿入した状態を示す図である。
図3】レーザの照射状態を示す図である。
図4】レーザのスキャン状態を示す図である。
図5】レーザのスキャン動作を示すフロー図である。
図6】複数のレーザの照射において設けられる切断線の重なりを示す図である。
図7】複数のレーザの照射において設けられる切断線の重なりを示す他の図である。
図8】応用例1の遮蔽板の形状を示す図である。
図9】A部材の端部において部分的なバリが複数箇所に生じている状況を示す図である。
図10】A部材の端部において部分的なバリが複数箇所に生じている場合のレーザの照射状況を示す図である。
図11】応用例2のレーザ加工を示すフロー図である。
図12】応用例3のレーザ発振器の走査状態を示す図である。
図13】応用例3のレーザ発振器の走査工程を示すフロー図である。
図14】応用例3の他のレーザ発振器の走査工程を示す図である。
図15】レーザ加工を行うレーザ加工部とその周辺の構成を例示する図である。
図16】遮蔽板駆動機構の構成例を示す図である。
図17】ナイフ加工部の構成を示す図である。
図18】ナイフの駆動動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下で説明する各実施の形態は、本発明を実現するための一例であり、本発明の技術範囲を限定するものではない。なお、以下の実施の形態において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は、特に必要な場合を除き省略する。
【0015】
(実施の形態1)
本実施の形態においては、複数層からなる複合部材に対する加工について説明する。図1は、加工対象物となる複合部材およびその加工の様子を示す図である。図1(A)に示す複合部材は、材料BからなるB部材51Bと、B部材51Bの外周に設けられた材料AからなるA部材51Aと、A部材51Aの端部に設けられたバリ43とを有する。例えば、A部材51Aは、B部材51Bの端部に組み込まれた金型に溶融樹脂を流し込むことにより形成される。例えば、このような製法によれば、A部材51Aの端部に沿ってバリ43が生じ得る。このA部材51Aの端部に沿った領域が加工領域となる。
【0016】
このバリ43をレーザ加工により除去する。図1(B)に示すように、Y方向に延在するA部材51Aの端部に沿って、レーザ加工によりバリ43に切れ目(切断線)を入れた後、バリ43を剥がすことにより、バリ43を除去する。バリ43に切れ目(切断線)を入れる際、バリ(加工対象層)43の下層(下地層)であるB部材51Bを傷つけてしまわないように遮蔽板21を用いる。
【0017】
図2は、バリとB部材の間に遮蔽板を挿入した状態を示す図であり、図3は、レーザの照射状態を示す図である。それぞれ、(A)は、斜視図であり、(B)は、上面図である。
【0018】
遮蔽板21は、先端(差込側)に位置する長さL21の第1部と、後端に位置する第2部とを有する。第1部の端部は、その厚みが先端にかけて小さくなる刃先部(ナイフエッジ)となっている。遮蔽板21を差し込み、しならせることで、第1部がB部材51Bの表面に接触し、第2部がB部材51Bの表面から角度φ21で離間する(図2(A))。B部材51Bの表面と接触する長さL21は、5mm以上とすることが好ましく、また、角度φ21は、5°~20°とすることが好ましい。このように、遮蔽板21の撓みを利用し、しならせた状態で差し込むことによって、A部材51Aが持ち上がり、バリ43の加工形状が変化することを防止できる。
【0019】
例えば、バリの幅(X方向の長さ)は1~2mm程度であり、その長さは、A部材51AのY方向の長さ(例えば、50cm~150cm)にわたる。遮蔽板21の第2部の厚さT21は、0.2mm~0.4mmとすることが好ましい。
【0020】
ここで、遮蔽板21の幅(Y方向の長さ)W21は、A部材51AのY方向の長さより小さい(図2(B))。また、レーザの照射領域の幅(Y方向の長さ)W4は、例えば、5cm~15cm程度であり、A部材51AのY方向の長さより小さく、また、W4<W21の関係がある(図3(B)参照)。
【0021】
遮蔽板21は遮蔽板駆動機構(図示せず)により駆動される。遮蔽板駆動機構は、加工部(ここでは、バリ43)とB部材51Bとの間に遮蔽板21を挿入するための機構である。遮蔽板21は、照射するレーザ光でB部材51Bが加工されてしまう等、B部材51Bにレーザ光3を照射できない場合に使用される。遮蔽板21は、例えば、カッターの刃のような金属材料よりなる。遮蔽板21の構成材料としては、熱伝導率が10[W/m・k]以上の材料を用いることが好ましい。例えば、鋼(熱伝導率55)、アルミニウム(熱伝導率210)、銅(熱伝導率370)、ステンレス(熱伝導率16)などの材料を用いることができる。なお、遮蔽板21にペルチェ素子や冷却エアなどを接触させることで、レーザ照射時の放熱性を高めてもよい。
【0022】
図3(A)に示すレーザ加工部(レーザ照射部)は、レーザ発振器1から発せられたレーザ光3を、ミラーやレンズ等の光学機器を含むレーザ光路変更器2と、偏光状態を変える偏光器(図示せず)とを介して加工部(ここでは、バリ43)へ照射することで、加工部(ここでは、バリ43)に切断線4を入れる。
【0023】
レーザ光路変更器2は、レーザ光の照射位置を微調整するだけでなく、レーザ光を照射する角度の調整や、レーザ光を走査させる速度を調整することが可能である。
【0024】
偏光器は、レーザ光の偏光状態を変える機器である。偏光器は、例えば、レーザ光の偏光状態を円偏光にすることで(図3(B)参照)、走査方向によって加工条件が変化することを防止することが可能である。また、偏光器は、ガラスなどの透明体にレーザ光を照射する際、偏光状態をS偏光にしたレーザ光を斜め方向から照射することで、レーザ光を透過させずに透明体のダメージを低減させることが可能である。このときのレーザ照射角度は、60~80度であることが望ましい。なお、図3(B)においては、切断線4として、円形のレーザスポットを並べて表示したが、個々のレーザスポットの一部が重なるようにレーザ照射を行ってもよい。また、切断線4はレーザスポットを複数回走査させることにより設けてもよい。この複数回の走査には、前述したレーザ光路変更器2が用いられる。
【0025】
図4は、レーザのスキャン状態を示す図であり、図5は、レーザのスキャン動作を示すフロー図である。図4に示すように、レーザ発振器1をガイド11に沿って、Pos1の位置→Pos2の位置→Pos3の位置→Pos4の位置→Pos5の位置→Pos6の位置に順次移動させ、遮蔽板21の挿入と、バリ43に対するレーザ照射を繰り返し行う。
【0026】
このようなレーザのスキャンを図5に示すフローに基づき行うことができる。図5に示すようにレーザ加工を開始し(Start)、レーザ発振器をPos1の位置に移動する(St1、ステップ1)。次いで、遮蔽板を挿入する(St2)。次いで、レーザ位置決めを行い(St3)、レーザ照射(St4)を行う。次いで、遮蔽板を引き抜き(St5)、あらかじめ定められた回数(所定回数)の加工を行ったか否かを判断し(St6)、noの場合は、次の位置に移動後(St7)、(St2)に戻る。また、所定回数の加工を終了した後(yesの場合)は、加工を終了する(End)。
【0027】
ここで、各位置において、レーザの照射領域の幅(Y方向の長さ)W4が重なるように処理を行うことで、A部材51AのY方向の長さ(例えば、50cm~150cm)にわたって形成されたバリ43に長い切断線4を入れることができる。
【0028】
図6は、複数のレーザの照射において設けられる切断線の重なりを示す図である。図6に示すように、1回のレーザの照射において設けられる切断線の始点部と終点部とにおいて、切断線(レーザスポット)をA部材51Aから離れる方向に湾曲させた湾曲部を設ける。別の言い方をすれば略U字状の切断線4とする。このような切断線とすることで、各切断線の重なりが確保され、長く連続した切断線4を設けることができる。
【0029】
一方、1回のレーザの照射において設けられる切断線4を直線状とした場合には、位置決め誤差により各切断線4がずれた場合、重なりを設けていても連続した切断線とならず、剥離により切断線に不自然な段差や突起が生じ得る。
【0030】
これに対し、本実施の形態においては、例えば、図7に示すように、各切断線4がずれた場合においても、連続した切断線となり、剥離後の切断部においても不自然な段差や突起が生じない。図7は、複数のレーザの照射において設けられる切断線の重なりを示す他の図である。なお、バリ43の除去後において、例えば、A部材51Aから幅0.1~0.2mmの範囲でバリ43が残存していてもよく、切断線4とA部材51Aとの距離(最短距離)が、0.1~0.2mmの範囲でずれることは許容される。
【0031】
図7(B)に示すように、切断線4の湾曲幅cwと、ずれ量dvとの間に、cw>dvの関係が成立する場合に、切断線が重なる。また、切断線の重なり量ovと、湾曲長さclとの間には、ov>clの関係がある。湾曲長さclは、切断線の端部の点と湾曲部の接線が基準線と交差する点との距離である。なお、基準線は、A部材51Aの端部としてもよく、またこの端部から上記許容範囲の半分までの間において定められる線であってもよい。
【0032】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、各応用例について説明する。
【0033】
(応用例1)
本応用例においては、遮蔽板の形状の変更例について説明する。図8は、本応用例の遮蔽板の形状を示す図(上面図)である。なお、実施の形態1(図2図3)と対応する箇所には、同じ符号を付け、その説明を省略する。図8に示すように、本実施の形態の遮蔽板21においては、第1部の端部である刃先部(ナイフエッジ)が、図中下から上に向かって刃先部(ナイフエッジ)がA部材51Aから離れるように後退している。このように、刃先部(ナイフエッジ)にテーパーを設けることで、遮蔽板21を図中下から上に向かって走査(移動)させる場合に、その動作をスムーズに行うことができる。また、遮蔽板21の走査(移動)が剥離動作を兼ねることとなり加工効率を向上させることができる。刃先部(ナイフエッジ)のテーパー角θは、87°~89.5°とすることが好ましい。このように、刃先部(ナイフエッジ)にテーパーを設ける場合、遮蔽板21とバリ43の幅全体が重なる部分(幅W)が実施の形態1(図3(B))の幅W21に対応することとなる。よって、この場合、幅W21の範囲内に切断線4を設ける。なお、図8においては、テーパー角θを強調した図となっているため、幅Wが小さく表示されているが、テーパー角θが87°~89.5°の場合には、幅Wは十分大きく確保することができる。
【0034】
(応用例2)
実施の形態1においては、A部材51Aの端部に沿ってバリ43が連続的に生じている場合(図1等参照)について説明したが、本応用例においては、A部材51Aの端部において部分的なバリが複数箇所に生じている場合について説明する。
【0035】
図9は、A部材の端部において部分的なバリが複数箇所に生じている状況を示す図である。図9においては、A部材51Aの端部に、バリ43A、43B、43Cが生じており、各バリにおいて、図9に示す切断線4を設け、各バリを除去することが好ましい。ここで各バリの長さ(Y方向の長さ)をW43A、W43B、W43Cとした場合、W43A<W4、W43B<W4、W43C>W4の関係がある。この場合、図10に示すように、バリ43Aに対し、1回のレーザの照射(照射範囲RA)において、切断線4Aを設ける。また、バリ43Bに対し、1回のレーザの照射(照射範囲RA)において、切断線4Bを設ける。また、バリ43Cに対し、例えば、2回のレーザの照射(照射範囲RA)で、2つのU字状の切断線が重なることで接続された切断線4Cを設ける。図10は、A部材の端部において部分的なバリが複数箇所に生じている場合のレーザの照射状況を示す図である。
【0036】
このようなレーザ加工を図11に示すフローに基づき行うことができる。図11は、本応用例のレーザ加工を示すフロー図である。図11に示すようにレーザ加工を開始し(Start)、加工部を撮影する(St11、ステップ11)。この加工部の撮影データ(映像)としては、2次元画像や3Dデータなどが取得される。次いで、加工部の画像に基づき、切断位置を抽出し(St12)、切断位置を分割する(St13)。(St12)においては、正常部(バリなし状態)との比較や、断面データに基づくアルゴリズムなどによって切断位置を抽出する。また、(St13)の切断位置の分割においては、連続した切断位置の長さが照射範囲RA以内であれば1回の加工で切断を行い、また、切断位置の長さが照射範囲RA以内であるが、複数の短い切断位置である場合には照射範囲RA内においてレーザ光のON/OFFにより部分的な切断を行い、連続した切断位置の長さが照射範囲RAより大きい場合には切断位置を分割し2回以上の加工で切断を行う。そして、切断位置毎の切断線を設定(St14、図9)、すなわち、切断位置の大きさに合わせて、切断線の長さを決定し、切断位置が、照射範囲RAの中心になるように設定する。この後、切断を実行し(St15)、加工を終了する(End)。
【0037】
(応用例3)
実施の形態1(図4)においては、各位置において、遮蔽板21の挿入と、バリ43に対するレーザ照射とを繰り返し行ったが、レーザ発振器1と遮蔽板21とを同期して移動(走査)させてもよい。移動速度をvとする。図12は、レーザ発振器の走査状態を示す図であり、図13は、レーザ発振器の走査工程を示すフロー図である。このようなレーザ発振器の走査を図13に示すフローに基づき行うことができる。図13に示すようにレーザ発振器の走査を開始し(Start)、遮蔽板を挿入する(St31、ステップ31)。次いで、レーザ発振器の位置決めを行い(St32)、レーザ発振(St33)を行う。次いで、遮蔽板およびレーザ発振器を同期して移動させながら加工を行い(St34)、レーザ発振器を停止し(St35)、遮蔽板を引き抜き(St36)、加工を終了する(End)。
【0038】
また、本応用例において、A部材51Aの端部において部分的なバリが複数箇所に生じているものを加工してもよい。図14は、本応用例の他のレーザ発振器の走査工程を示す図である。図14に示すように、(A)のt=0の時点で、レーザ発振器1は、バリ43a上にあり、レーザ照射範囲および遮蔽板の差込位置はバリ43aと重なっている。そして、レーザ光3を照射しつつ、レーザ発振器1および遮蔽板を同期して速度vで移動させる。次いで、(B)のt=tの時点で、レーザ発振器1は、まだ、バリ43a上にあり、レーザ照射範囲および遮蔽板の差込位置はバリ43aと重なっている。そして、レーザ光3を照射しつつ、レーザ発振器1および遮蔽板を速度vで移動させる。次いで、(C)のt=tの時点で、レーザ発振器1は、バリ43bおよび43c上にあり、レーザ照射範囲および遮蔽板の差込位置はバリ43b、43cと重なっている。そして、レーザ光3を部分的に照射し、切断線を設けつつ、レーザ発振器および遮蔽板をバリ43dの方向に移動させる。なお、図14においては、A部材51Aの端部が湾曲した形状となっているが、上記レーザ発振器の走査によれば、このような湾曲した形状に沿うよう制御することができる。レーザ発振器の移動速度v=S/Nで示される。Nはレーザ光路変更器による走査回数であり、Sはレーザの走査速度である。
【0039】
このように、レーザ発振器と遮蔽板とを同期して移動(走査)させる場合において、遮蔽板として前述した刃先部(ナイフエッジ)にテーパーを設けた遮蔽板(図8)を用いるとより好ましい。
【0040】
(実施の形態3)
図15は、レーザ加工を行うレーザ加工部(レーザ加工機構部)とその周辺の構成を例示する図である。
【0041】
図15に示すように、レーザ加工部700は、レーザ発振器701、レーザ光路変更器702、偏光器704、遮蔽板駆動機構720、遮蔽板21を備えている。なお、レーザ加工部700には、制御ユニット601、入力部602、表示部603および通信部604が接続されている。
【0042】
加工部状態情報収集機構部として、図15に示す3次元形状測定器710、撮影器(撮影部)711、透過率測定用光源730、透過率測定用ディテクタ731、反射率測定用光源732、反射率測定用ディテクタ733、ハーフミラー734を備えている。
【0043】
レーザ加工部700および加工部状態情報収集機構部は、位置決め機構(図示は省略)により、位置を変更することが可能である。
【0044】
加工対象物は、材料AからなるA部材51Aと、材料BからなるB部材51Bで構成されており、加工対象物に対し、A部材51Aの一部分である加工部(バリ43)を除去する加工が施される。
【0045】
レーザ加工部700は、レーザ発振器701から発せられたレーザ光703を、ミラーやレンズ等の光学機器を含むレーザ光路変更器702と、偏光状態を変える偏光器704とを介して加工部(バリ43)へ照射することで、加工部(バリ43)を除去する加工を行う。
【0046】
レーザ光路変更器702は、レーザ光の照射位置を微調整するだけでなく、レーザ光を照射する角度の調整や、レーザ光を走査させる速度を調整することが可能である。
【0047】
偏光器704は、レーザ光の偏光状態を変える機器である。偏光器704は、例えば、レーザ光の偏光状態を円偏光にすることで、走査方向によって加工条件が変化することを防止することが可能である。また、偏光器704は、ガラスなどの透明体にレーザ光を照射する際、偏光状態をS偏光にしたレーザ光を斜め方向から照射することで、レーザ光を透過させずに透明体のダメージを低減させることが可能である。このときのレーザ照射角度は、60~80度であることが望ましい。
【0048】
遮蔽板駆動機構720は、加工部(バリ43)とB部材51Bとの間に遮蔽板21を挿入するための機構である。遮蔽板21は、照射するレーザ光でB部材51Bが加工されてしまう等、B部材51Bにレーザ光703を照射できない場合や、加工部(バリ43)がB部材51Bに張り付いているときに、B部材51Bから加工部(バリ43)をはがすためのはがし動作においても使用される。
【0049】
図16は、遮蔽板駆動機構の構成例を示す図である。図16に示す遮蔽板駆動機構は、エアシリンダ722および遮蔽板721を有する。(A)は、差込前の状態を示し、(B)は、差込後の状態を示す。このような平行リンク機構で遮蔽板721を移動でき、エアシリンダにより、遮蔽板721の差し込み(挿入)および引き抜きを行うことができる。
【0050】
上記制御ユニット601は、加工対象物の状態を示す加工部状態情報(例えば、前述の加工部状態情報収集機構部により取得される情報)等に基づき、レーザ加工部700に対する加工指示を行う(図15)。すなわち、切断線を設ける際の加工条件、例えば、前述した切断位置の分割や切断線の設定(図11)を行う。また、加工条件には、レーザの強度や、レーザの走査速度なども含まれる。
【0051】
図15に示すレーザ加工部700および上記制御ユニット601をまとめて加工システム(加工装置)とみなすことができる。
【0052】
このような加工システム(加工装置)には、レーザ加工部700以外の加工部(加工手段)を組み込んでもよい。レーザ加工部700以外の加工部(加工手段)として、例えば、ナイフ加工部を組み込むことができる。
【0053】
図17は、ナイフ加工部の構成を示す図である。図17に示すように、ナイフ801と遮蔽板21とを同期して移動させることにより、B部材51B上のバリ43に切断線を入れることができる。
【0054】
ナイフ加工部は、ナイフ801、ナイフ駆動機構802を備えている。ナイフ801は、加工部状態に応じて、角度を変更することができるように構成されていてもよい。
【0055】
ナイフ駆動機構802は、切断経路に沿ってナイフ801を移動させる機構である。ナイフ駆動機構802は、例えば、高さ測定機構で測定したB部材51Bとの距離に基づいてナイフ801の高さを調整する。高さ測定機構には、例えば、接触式、レーザ式、超音波式等の一般的な距離測定センサが用いられる。
【0056】
また、ナイフ801に掛かる力を力覚センサで測定し、ナイフ801をB部材51Bへ押し付ける力が一定となるよう制御することもできる。
【0057】
例えば、前述した加工部の撮影において取得した加工部の形状に基づき、加工部の端部(バリ43とA部材51Aとの境界)における切断経路が生成される。
【0058】
図18は、ナイフの駆動動作を示すフロー図である。このようなナイフの駆動を図18に示すフローに基づき行うことができる。図18に示すようにナイフによる加工を開始し(Start)、遮蔽板を挿入する(St81、ステップ81)。次いで、ナイフの位置決めを行い(St82)、遮蔽板およびナイフを移動しながら加工を行い(St83)、遮蔽板を引き抜き(St84)、加工を終了する(End)。
【0059】
このように、加工システム(加工装置)に、ナイフ加工部を組み込むことにより、レーザ加工部700により加工できない加工対象物と判断された場合に、この加工対象物をナイフ加工部により加工することができる。
【0060】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。なお、図面に記載した各部材や相対的なサイズは、本発明を分かりやすく説明するため簡素化・理想化しており、実装上はより複雑な形状となる場合がある。
【符号の説明】
【0061】
1…レーザ発振器、2…レーザ光路変更器、3…レーザ光、4…切断線、4A…切断線、4B…切断線、4C…切断線、11…ガイド、21…遮蔽板、43…バリ、43a~43d…バリ、43A~43C…バリ、51A…A部材、51B…B部材、601…制御ユニット、602…入力部、603…表示部、604…通信部、700…レーザ加工部、701…レーザ発振器、702…レーザ光路変更器、703…レーザ光、704…偏光器、711…撮影器、720…遮蔽板駆動機構、721…遮蔽板、722…エアシリンダ、730…透過率測定用光源、731…透過率測定用ディテクタ、732…反射率測定用光源、733…反射率測定用ディテクタ、734…ハーフミラー、801…ナイフ、802…ナイフ駆動機構、RA…照射範囲
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