IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2022-25863異常検知装置、異常検知方法及びプログラム
<>
  • -異常検知装置、異常検知方法及びプログラム 図1
  • -異常検知装置、異常検知方法及びプログラム 図2
  • -異常検知装置、異常検知方法及びプログラム 図3
  • -異常検知装置、異常検知方法及びプログラム 図4
  • -異常検知装置、異常検知方法及びプログラム 図5
  • -異常検知装置、異常検知方法及びプログラム 図6
  • -異常検知装置、異常検知方法及びプログラム 図7
  • -異常検知装置、異常検知方法及びプログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025863
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】異常検知装置、異常検知方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
G05B23/02 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129001
(22)【出願日】2020-07-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・2020年2月20日、https://ncsp.jp/registration/proc.htmlにて、異常検知装置、異常検知方法及びプログラムに関する研究について公開した。 ・2020年2月28日~3月2日、RISP International Workshop on Nonlinear Circuits,Communications and Signal Processing 2020にて、異常検知装置、異常検知方法及びプログラムに関する研究について公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井指 諒亮
(72)【発明者】
【氏名】古川 輝
(72)【発明者】
【氏名】内藤 孝昌
(72)【発明者】
【氏名】速水 悟
(72)【発明者】
【氏名】朝日 翔太
(72)【発明者】
【氏名】松井 彩華
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA11
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB02
3C223FF22
3C223FF26
3C223GG01
3C223HH03
(57)【要約】
【課題】異常検知の精度が高い異常検知装置を提供する。
【解決手段】異常検知装置は、発生する時系列の波形が正常時と異常時とにおいて異なることを利用して異常を検知する。この異常検知装置は、変換部1、機械学習部2A,2B、及び判断部3を備えている。変換部1は波形を時間成分と周波数成分を有するグラフ化した多次元画像に変換する。機械学習部2Aは、変換部1において正常時の波形を変換して得られた変換画像Y1の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更した画像X1を変換画像Y1に戻すように学習する。判断部3は、変換部1において評価対象の波形を変換して得られた評価画像Y2の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更した画像X2を学習済みの機械学習部2Bに入力して出力される予測画像Zと、評価画像Y2とを比較して異常を判断する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生する時系列の波形が正常時と異常時とにおいて異なることを利用して異常を検知する異常検知装置であって、
前記波形を時間成分及び周波数成分を有するグラフ化した多次元画像に変換する変換部と、
前記変換部において正常時の前記波形を変換して得られた変換画像の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更した画像を前記変換画像に戻すように学習する機械学習部と、
前記変換部において評価対象の前記波形を変換して得られた評価画像の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更した画像を学習済みの前記機械学習部に入力して出力される予測画像と、前記評価画像とを比較して異常を判断する判断部と、
を備えている異常検知装置。
【請求項2】
前記異なる画像は所定の輝度の画像である請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記所定の輝度は、前記所定の輝度に変更する前の前記領域内の輝度の平均値である請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記機械学習部は、前記異なる画像に変更する一箇所の領域の位置、大きさ、形状、及び数のうち少なくとも一つをランダムに変更する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の異常検知装置。
【請求項5】
発生する時系列の波形が正常時と異常時とにおいて異なることを利用して異常を検知する異常検知方法であって、
前記波形を時間成分と周波数成分を有するグラフ化した多次元画像に変換する変換工程と、
前記変換工程を実行し、正常時の前記波形を変換して得られた変換画像の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更した画像を前記変換画像に戻すように機械学習部に学習させる学習工程と、
前記変換工程を実行し、評価対象の前記波形を変換して得られた評価画像の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更した画像を学習済みの前記機械学習部に入力して出力される予測画像と、前記評価画像とを比較して異常を判断する判断工程と、
を備えている異常検知方法。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の異常検知装置における各部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異常検知装置、異常検知方法及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の異常検知装置を開示している。この異常検知装置は入力される画像データに表示されている判定対象物の異常を判定する。この異常検知装置は、正常画像データ群から抽出される特徴量から再構成画像データを生成し、生成した再構成画像データと入力した画像データとの差異情報に基づいて異常判定を行う。特徴量は、ニューラルネットワークモデルの一つであるオートエンコーダを利用して取得することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-5773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、一般的にオートエンコーダは入力画像と出力画像とが同じになるように学習させるため、入力される正常画像と異常画像との大部分が似ていると、オートエンコーダを利用して取得した特徴量から生成した再構成画像データと入力した画像データとの差異が出づらい。このため、一般的な学習モデルのオートエンコーダを利用した場合、特許文献1の異常検知装置は異常検知の精度が出づらい。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、異常検知の精度が高い異常検知装置、異常検知方法及びプログラムを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の異常検知装置は、発生する時系列の波形が正常時と異常時とにおいて異なることを利用して異常を検知する。この異常検知装置は、変換部、機械学習部、及び判断部を備えている。変換部は波形を時間成分と周波数成分を有するグラフ化した多次元画像に変換する。機械学習部は、変換部において正常時の波形を変換して得られた変換画像の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更した画像を変換画像に戻すように学習する。判断部は、変換部において評価対象の波形を変換して得られた評価画像の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更した画像を学習済みの機械学習部に入力して出力される予測画像と、評価画像とを比較して異常を判断する。
【0007】
本発明の異常検知方法は、発生する時系列の波形が正常時と異常時とにおいて異なることを利用して異常を検知する。この異常検知方法は、変換工程、学習工程、及び判断工程を備えている。変換工程は波形を時間成分と周波数成分を有するグラフ化した多次元画像に変換する。学習工程は、変換工程を実行し、正常時の波形を変換して得られた変換画像の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更した画像を変換画像に戻すように機械学習部に学習させる。判断工程は、変換工程を実行し、評価対象の波形を変換して得られた評価画像の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更した画像を学習済みの機械学習部に入力して出力される予測画像と、評価画像とを比較して異常を判断する。
【0008】
この異常検知装置及び異常検知方法は、変換部及び変換工程において、正常時の波形を変換して得られた変換画像の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更した画像を変換画像に戻すように機械学習部が学習する。このように、機械学習部が学習する問題を難しくさせることによって、この異常検知装置及び異常検知方法は、学習モデルの精度を向上させることができる。これによって、この異常検知装置及び異常検知方法は、判断部における予測画像と評価画像との比較において、正常時と異常値との差を明確にすることができる。このため、この異常検知装置及び異常検知方法は、判断部における評価基準を簡略化することができる。また、この異常検知装置及び異常検知方法は、異常検知の精度を高くすることができる。
【0009】
本発明の異常検知装置及び異常検知方法において、異なる画像は所定の輝度の画像であり得る。この場合、機械学習部において学習する問題を容易に難しくすることができる。
【0010】
本発明の異常検知装置及び異常検知方法における異なる画像の所定の輝度は、所定の輝度に変更する前の領域内の輝度の平均値であり得る。この場合、機械学習部において学習する問題を適度に難しくすることができる。
【0011】
本発明の異常検知装置及び異常検知方法における機械学習部は、異なる画像に変更する一箇所の領域の位置、大きさ、形状、及び数のうち少なくとも一つをランダムに変更し得る。この場合、機械学習部において学習する問題の偏りをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1の異常検知装置における学習する段階の学習方法を示すブロック図である。
図2】実施形態1の異常検知装置における異常を検知する段階の異常検知方法を示すブロック図である。
図3】チェーンの状態を示す概念図である。
図4】正常時の加速度データを示すグラフである。
図5】異常時の加速度データを示すグラフである。
図6】比較例1の異常度を示すグラフである。
図7】実施例1の異常度を示すグラフである。
図8】実施例2の異常度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の異常検知装置及び異常検知方法を具体化した実施形態1について、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
<実施形態1>
実施形態1の異常検知装置は、図1及び図2に示すように、変換部1、機械学習部2A,2B、及び判断部3を備えている。変換部1は加速度データをスペクトログラムY1,Y2に変換する。スペクトログラムY1,Y2は、横軸方向に時間成分、縦軸方向に周波数成分を有し、色を使用して各周波数帯域のパワーを表すグラフ化した多次元画像である。機械学習部2Aが学習する段階(以下、「学習段階」という。)において、変換部1で変換されたスペクトログラムY1は変換画像に相当する。異常検知装置が異常を検知する段階(以下、「異常検知段階」という。)において、変換部1で変換されたスペクトログラムY2は評価画像に相当する。また、変換部1は加速度データをマスクしたスペクトログラムX1,X2に変換する。「マスクしたスペクトログラムX1,X2」とは、変換部1で変換されたスペクトログラム(変換画像Y1及び評価画像Y2)の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更したスペクトログラムである。つまり、「マスクをする」とはスペクトログラムY1,Y2の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更することである。「少なくとも一箇所」とは、一箇所に限らず複数箇所であっても良いことである。
【0015】
学習段階における異常検知装置は、図1に示すように、機械学習部2AがマスクしたスペクトログラムX1を元のスペクトログラムY1に戻す学習をする。機械学習部2Aに入力される「マスクしたスペクトログラム」は、正常時の加速度データを変換部1においてマスクしたスペクトログラムX1に変換したものである。機械学習部2Aに入力される「元のスペクトログラム」は、正常時の加速度データを変換部1においてスペクトログラムY1に変換したものであり、変換画像に相当する。このように、機械学習部2Aは、正常時の加速度データのマスクしたスペクトログラムX1を正常時の加速度データのスペクトログラムY1(変換画像)に戻すように学習する。この機械学習部2Aは、オートエンコーダ(以下「AE」という。)の一種であり、深い畳み込みエンコーダ/デコーダアーキテクチャを備えている。
【0016】
異常検知段階における異常検知装置は、図2に示すように、評価対象の加速度データを変換部1においてスペクトログラムY2に変換する。このスペクトログラムY2は評価画像に相当する。また、異常検知段階における異常検知装置は、評価対象の加速度データを変換部1において、マスクしたスペクトログラムX2に変換する。マスクしたスペクトログラムX2は評価画像Y2の少なくとも一箇所の領域を異なる画像に変更したスペクトログラムである。異常検知装置は、マスクしたスペクトログラムX2を学習済みの機械学習部2Bに入力する。
【0017】
判断部3は、学習済みの機械学習部2Bから出力される予測画像Zと、評価画像Y2とを比較する。判断部3は、予測画像Zと評価画像Y2との差が所定の閾値よりも小さい場合、正常と判断し、大きい場合、異常と判断する。この判断を行うにあたって、ピーク信号対雑音比(以下、「PSNR」という。)によって得られた重み付きの移動分散を異常度として利用する。PSNRは予測画像Zと評価画像Y2とから計算される。重み付けされた移動分散は、PSNRを順番に並べ替えることによって計算される。重み付けのウィンドウサイズは161フレームであり、シフトは1フレームである。外れ値を除外するために各フレームの上部と下部の3%をフレームから削除する。分散はフレームのPSNRから取得される。
【0018】
PSNRは2つの画像の同じピクセルの輝度値の差分の2乗をみる指標値である。PSNRの値が高いほど、二つの画像の類似度は高い。m×nの画像Iと画像Kにおいて、PSNRの式を式1に示し、平均二乗誤差の式を式2に示す。MAXは輝度地の最高値(ここでは255)である。
【0019】
【数1】
【0020】
このような異常検知装置を利用した異常検知方法は、正常時の加速度データを利用して機械学習部2Aを学習する(学習段階)。その後、学習済みの機械学習部2Bを利用して評価対象の加速度データの正常及び異常を判断する(異常検知段階)。
【0021】
<学習段階>
図1に示すように、変換部1において複数の正常時の加速度データをマスクしたスペクトログラムX1とスペクトログラムY1に変換する変換工程を実行する。次に、正常時の加速度データから変換したマスクしたスペクトログラムX1を同じ正常時の加速度データから変換した評価画像であるスペクトログラムY1に戻すように機械学習部2Aに学習させる学習工程を実行する。学習工程は複数の正常時の加速度データから変換したマスクしたスペクトログラムX1及びスペクトログラムY1に対して所定のエポック数を繰り返し実行する。
【0022】
<異常検知段階>
機械学習部2Aが学習を終えた後、図2に示すように、変換部1において評価対象の加速度データをマスクしたスペクトログラムX2とスペクトログラムY2に変換する変換工程を実行する。次に、以下に示す判断工程を実行して、加速度データの正常及び異常を判断する。判断工程は、まず、評価対象の加速度データから変換したマスクしたスペクトログラムX2を学習済みの機械学習部2Bに入力する。次に、機械学習部2Bから出力される予測画像Zと評価画像であるスペクトログラムY2とを判断部3において比較して異常を判断する。
【0023】
上述した異常検知装置において異常検知方法を実行する各部の機能はコンピュータによって実現する。異常検知装置は、ドライブ装置、メモリ装置、CPU、及びインターフェース装置等を有する。異常検知装置における各部として機能させるプログラムは、CD-ROM等の記録媒体によって提供される。プログラムを記憶した記録媒体がドライブ装置にセットされると、プログラムが記録媒体からドライブ装置を介してメモリ装置にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。CPUは、メモリ装置に格納されたプログラムに従って異常検知装置における各部の機能を実行する。インターフェース装置は、ネットワークに接続するためのインターフェースとして用いられる。異常検知装置はインターフェース装置を介して加速度データを取得する。
【0024】
以上説明した異常検知装置は、機械装置の振動データの異常な挙動を検出して、機械装置の故障の対策に利用することができる。この異常検知装置を利用してチェーンコンベアを備えた機械装置の異常検知を行った場合(実施例1及び実施例2)と、通常のAEの学習モデルによって学習した機械学習部2Bを利用して異常検知を行った場合(比較例1)との異常度を比較した。通常のAEの学習モデルとは、入力画像と出力画像とが同じになるように学習するモデルのことである。また、比較例1では、学習段階における機械学習部2Aに入力する画像及び異常検知段階における学習済み機械学習部2Bに入力する画像は、マスクをしていないスペクトログラムである。つまり、比較例1では、元のスペクトログラムを機械学習部2A,2Bの入力画像と出力画像の両方として使用する。以下に実施例1、実施例2及び比較例1について説明する。
【0025】
実施例1、実施例2及び比較例1において、振動データはチェーンコンベアを備えた機械装置に取り付けられた加速度計によって収集した。加速度計によって収集した加速度データは、時系列の波形で示される。
【0026】
加速度データは、チェーンコンベアが故障、チェーン交換、正常に稼働した状況で収集を行った。つまり、チェーンコンベアは、データ収集中に1回故障して、応急処置をし、その後、チェーンを交換した。チェーンの交換後は、チェーンの状態が不安定になり、全長が長くなる傾向がある。このため、チェーンコンベアは、交換から少し経つとチェーンを切断して長さを調整し、その後、正常に稼働するようになった。加速度データは、図3に示すように、チェーンを切断して長さを調整した後のデータを正常とし、故障前のデータを異常とした。調整後の正常データの一部を機械学習部2Aの学習に利用した。加速度データを収集するための条件を表1に示す。正常時の加速度データを図4に示す。異常時の加速度データを図5に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例1及び実施例2において、機械学習部2A,2Bに入力されるマスクしたスペクトログラムX1,X2は、変換部1で変換されたスペクトログラム(変換画像Y1及び評価画像Y2)の一箇所を異なる画像に変更したものである。つまり、マスクしたスペクトログラムX1,X2は、変換画像Y1及び評価画像Y2の一箇所を異なる画像によってマスクしたものである。異なる画像は、所定の輝度を有している。所定の輝度は、変更される範囲内の輝度の平均値にした。
【0029】
実施例1におけるマスクしたスペクトログラムX1,X2は、スペクトログラムY1,Y2の全体の上下幅に対して、1/32の幅を有し、時間軸に平行な水平方向にスペクトログラムY1,Y2の左右幅全体に伸びた画像によってマスクされている。マスクしたスペクトログラムX1,X2は、機械学習部2A,2Bへ入力される度に、マスクする位置を上下方向にランダムに移動させる。
【0030】
実施例2におけるマスクしたスペクトログラムX1,X2は、スペクトログラムY1,Y2の全体の上下幅に対して、1/8の幅を有し、水平方向にスペクトログラムY1,Y2の左右幅全体に伸びた画像によってマスクされている。マスクしたスペクトログラムX1,X2は、機械学習部2A,2Bへ入力される度に、マスクする位置を上下方向にランダムに移動させる。
【0031】
スペクトログラムX1,X2,Y1,Y2のパラメータを表2に示し、学習パラメータを表3に示す。実施例1及び比較例1において、機械学習部2Aにおける学習のエポック数は301である。実施例2において、機械学習部2Aにおける学習のエポック数は1001である。
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
比較例、実施例1、及び実施例2において、図6図8に示すように、故障前に閾値を超える異常度を示している。閾値は異常の90%とした。これらから、比較例1、実施例1及び実施例2において、閾値を超えた後に障害が発生すると予測できる。
【0035】
比較例1における異常度は、図6に示すように、故障前に徐々に増加している。これは、故障前にチェーンコンベアの状態が徐々に悪化したことを示している。比較例1における異常度は、故障からチェーン交換まで、正常時の異常度よりも高くなっている。これは、チェーンコンベアの状態が、大まかな修理では完全に直らないことを示している。
【0036】
実施例1及び実施例2における異常度は、図7及び図8に示すように、チェーンを交換後とチェーンの長さを調整した後に異常度が一時的に増加している。これは、チェーンの交換後とチェーンの長さを調整した後の少しの間、チェーンがうまく噛み合わないことを示している。
【0037】
実施例1と実施例2の異常度のグラフを比較すると、実施例2の方が故障前の異常度が高くなっている。これによって、実施例1に比べて実施例2の方が、不明な原因による異常度の増加が相対的に小さく現れている。これは、マスク幅が大きいほど、故障前の異常度が大きくなり、未知のエラーによる値の変化が小さくなったと考えられる。また、スペクトログラムにマスクをすると、スペクトログラムの再構築が困難になり、小さな異変よりも大きな異変による影響を受けやすくなると考えられる。
【0038】
実施例1及び実施例2の異常検知装置は、発生する時系列の波形が正常時と異常時とにおいて異なることを利用して異常を検知する。この異常検知装置は、変換部1、機械学習部2A,2B、及び判断部3を備えている。変換部1は波形を時間成分と周波数成分を有するスペクトログラムX1,X2,Y1,Y2に変換する。機械学習部2Aは、変換部1において正常時の波形を変換して得られたスペクトログラムY1(変換画像)の一箇所の領域である水平方向に左右幅全体に伸びた領域をその領域内の輝度の平均値の輝度の画像に変更したマスクしたスペクトログラムX1を元のスペクトログラムY1(変換画像)に戻すように学習する。判断部3は、変換部1において評価対象の波形を変換して得られたスペクトログラムY2(評価画像)の一箇所の領域である水平方向に左右幅全体に伸びた領域をその領域内の輝度の平均値の輝度の画像に変更したマスクしたスペクトログラムX2を学習済みの機械学習部2Bに入力して出力される予測画像Zと、元のスペクトログラムY2(評価画像)とを比較して異常を判断する。
【0039】
実施例1及び実施例2の異常検知方法は、発生する時系列の波形が正常時と異常時とにおいて異なることを利用して異常を検知する。この異常検知方法は、変換工程、学習工程、及び判断工程を備えている。変換工程は波形を時間成分と周波数成分を有するスペクトログラムX1,X2,Y1,Y2に変換する。学習工程は、変換工程を実行し、正常時の波形を変換して得られたスペクトログラムY1(変換画像)の一箇所の領域である水平方向に左右幅全体に伸びた領域をその領域内の輝度の平均値の輝度の画像に変更したマスクしたスペクトログラムX1を元のスペクトログラムY1(変換画像)に戻すように機械学習部2Aに学習させる。判断工程は、変換工程を実行し、評価対象の波形を変換して得られたスペクトログラムY1(評価画像)の一箇所の領域である水平方向に左右幅全体に伸びた領域をその領域内の輝度の平均値の輝度の画像に変更したマスクしたスペクトログラムX2を学習済みの機械学習部2Bに入力して出力される予測画像Zと、元のスペクトログラムY2(評価画像)とを比較して異常を判断する。
【0040】
この異常検知装置及び異常検知方法は、変換部1及び変換工程において、マスクしたスペクトログラムX1を元のスペクトログラムY1(変換画像)に戻すように機械学習部2Aが学習する。このように、この異常検知装置及び異常検知方法は、機械学習部2Aが学習する問題を難しくさせることによって、学習モデルの精度を向上させることができる。これによって、この異常検知装置及び異常検知方法は、判断部3における予測画像Zと評価画像Y2との比較において、正常時と異常値との差を明確にすることができる。このため、この異常検知装置及び異常検知方法は、判断部3及び判断工程における評価基準を簡略化することができる。このように、この異常検知装置及び異常検知方法は、異常検知の精度を高くすることができる。
【0041】
実施例1及び実施例2の異常検知装置及び異常検知方法において、異なる画像は、変更前の領域内の輝度の平均値である輝度を有する画像である。この場合、機械学習部2Aにおいて学習する問題を適度に難しくすることができる。
【0042】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態1に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1及び実施例2では、変更する前の領域の輝度の平均値である輝度を有した画像によってマスクしたが、マスクする画像は任意の輝度を有した画像でもよく、変更する前の領域の画像と異なる画像であればよい。
(2)実施例1及び実施例2では、変換画像及び評価画像の一箇所の領域を異なる画像に変更したが、複数箇所の領域を異なる画像に変更してもよい。
(3)実施例1及び実施例2では、変換画像及び評価画像の時間軸に平行な水平方向に伸びた領域をマスクしたが、周波数軸に平行な縦方向に伸びた領域をマスクしてもよい。
(4)実施例1及び実施例2では、機械学習部が学習段階において、マスクする領域の大きさは一定であったが、学習段階に応じてマスクする領域の大きさを変化させてもよい。この場合、学習段階の序盤はマスクする領域の大きさを小さくして簡単な問題とし、学習段階が進むにつれて、マスクする領域の大きさを大きくすることによって元の画像に戻すことが難しい問題にして学習させてもよい。
(5)実施例1及び実施例2では、異常検知装置をチェーンコンベアを備えた機械装置の異常の検知に利用したが、この異常検知装置は、発生する時系列の波形が正常時と異常時とにおいて異なるものであれば、チェーンコンベアを備えた機械装置に限らず異常を検知することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…変換部、2A,2B…機械学習部、3…判断部、X1,X2…マスクしたスペクトログラム、Y1…スペクトログラム(変換画像)、Y2…スペクトログラム(評価画像)、Z…予測画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8