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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025915
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】医療用縫合針
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/06 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
A61B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129098
(22)【出願日】2020-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】390003229
【氏名又は名称】マニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】特許業務法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松谷 和彦
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160BB12
4C160BB18
4C160BB30
(57)【要約】
【課題】視認性を確保しつつ繰り返し曲げに対する強度を向上させた医療用縫合針を提供する。
【解決手段】組織を刺し通す針先を有する針先部と該針先部に続く胴部と縫合糸を接続する機能を有し該胴部に続く元部とを有する医療用縫合針Aであって、針先部1から元部3にかけて、対向する二つの緩斜面6によって浅く構成された溝5が形成された胴部2を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織を刺し通す針先を有する針先部と該針先部に続く胴部と縫合糸を接続する機能を有し該胴部に続く元部とを有する医療用縫合針であって、
針先部から元部にかけて、対向する二つの緩斜面によって浅く構成された溝が形成された胴部を有することを特徴とする医療用縫合針。
【請求項2】
前記溝を構成する緩斜面どうしのなす角度が120度以上であることを特徴とする請求項1に記載した医療用縫合針。
【請求項3】
前記溝は、深さが胴部の太みの20%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載した医療用縫合針。
【請求項4】
前記溝が形成された胴部の断面に於いて、該溝を構成する部分の接線の最大角度差が120度以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載した医療用縫合針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術を行う際に持針器による把持すべき範囲と刺通方向の目視による確認を容易とし、且つ繰り返し曲げに対しても高い抵抗を発揮することができる医療用縫合針に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用縫合針は、組織を刺し通す針先部と縫合糸を取り付ける元部と、針先部と元部の間の胴部とを有して構成されている。そして、持針器によって医療用縫合針を把持し、この持針器を操作することで縫合手術を行っている。
【0003】
持針器によって医療用縫合針を把持する際に、針先部や元部を把持した場合、医療用縫合針が破損したり刺通性が損なわれて操作性が劣ることがあるという問題や、曲げに対する強度が低下するという問題、更に縫合糸が離脱して縫合手術が不能になるという問題を生じることがあるため、針先部と元部の間に形成されている胴部を確実に把持することが必要となる。
【0004】
特に、持針器による胴部の把持を確実なものとして手術の安定化を図るために、従来より図4に示すように、針先部51と元部52の間に構成された胴部53に溝54が形成された医療用縫合針50が提供されている。この医療用縫合針50は、胴部53の断面が略正方形であり、該胴部53に於ける長手方向に2条の溝54を設けて隣接する2条の溝54の間に突条55が形成されている。
【0005】
上記の如く構成された医療用縫合針50では持針器によって強固に把持することが可能であり、確実に施術者の力を伝えることができる。更に、溝54の間隔や形状を持針器の把持面に形成された凹凸の間隔や形状と対応させることで、手術中に医療用縫合針50が回転するようなこともない。
【0006】
一方、医療用縫合針によって組織を縫合する際に、この医療用縫合針には持針器による把持部分を基点として曲げ力が作用する。このため、医療用縫合針には繰り返し曲げに対する強度が必要とされる。
【0007】
上記の如く胴部53に長手方向の溝54を形成した医療用縫合針50では持針器による把持が安定するものの、繰り返し曲げ回数の増加に伴って突条部分にマイクロクラックが発生することがあり、耐久性に劣るという問題が生じる虞がある。しかし、この問題は図5に示すように、胴部56に溝を形成していない医療用縫合針57を利用することで解決することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記医療用縫合針57の場合、繰り返し曲げに対して高い耐久性を発揮することができるものの、胴部56が平坦な表面を有することから、該胴部56と針先部58、元部59の境界を視認することができない。即ち、胴部56の範囲を明確に視認することができないという問題が生じている。
【0009】
特に、一部のユーザーの間では、持針器によってどの部位を把持すれば良いかの判断が困難であるという問題や、縫合手術の際の医療用縫合針の移動方向が明確でないという問題が提起されている。そして、このようなユーザーの間では、胴部に溝が形成された縫合針に対する根強い需要がある。
【0010】
このため、視認性の確保と、繰り返し曲げに対する耐久性の確保を両立させた医療用縫合針の開発が要求されているのが実情である。
【0011】
本発明の目的は、視認性を確保しつつ繰り返し曲げに対する強度を向上させた医療用縫合針を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本件発明者は、胴部に溝が形成された従来の医療用縫合針を解析して前述の要求を満足し得る医療用縫合針の開発を行った。
【0013】
即ち、胴部に溝が形成されている医療用縫合針が要求される要件が施術者の視認性にある。即ち、胴部に於ける持針器によって把持し得る範囲の確認、運動方向(刺通方向)の確認などにある。このため、溝を対向する二つの斜面によって構成したとき、二つの斜面のなす角度の如何に関わらずこの溝を視認し得るか否かを把握した。また、胴部に溝を形成した縫合針の繰り返し曲げに対する耐久性について確認した。
【0014】
先ず、図4に示す従来の医療用縫合針50の胴部53に形成されている溝54の形状を調査すると共に繰り返し曲げに対する耐久性を確認した。医療用縫合針50の場合、対向する二つの斜面のなす角度は80度のものが多いものの、略90度~70度の範囲であり、溝54の数は2条~4条であった。これらの溝の間には夫々溝の角度と等しい角度を有する突条が形成されていた。
【0015】
このため、後述するように、対向する二つの斜面のなす角度が80度の溝を有する縫合針のテストピースを製作して90度の繰り返し曲げテストを行った。このテストピースは、直径が0.6mmのSUS302の線材をプレスして、断面形状が鼓の胴部(鼓胴部)、断面形状が正方形の胴部(正胴部)、断面形状が縦長の長方形の胴部(長胴部)を形成し、夫々の胴部に対向する二つの斜面のなす角度が80度の溝を2条形成した。2条の溝の間には頂部の角度が80度の突条が形成されている。
【0016】
上記したテストピースによる90度の繰り返し曲げテストの結果、鼓胴部の場合2回の曲げで破断し、正胴部の場合は1.8回、長胴部の場合は1.2回で破断した。破断したテストピースの状態について検討したところ、突条の頂部にマイクロクラックが発生していた。マイクロクラックの発生は繰り返し曲げに伴う応力の集中に起因しており、このマイクロクラックを起点として破断が生じたものと思われる。
【0017】
上記結果と、溝のない胴部が充分な曲げ強度を有するという点から、繰り返し曲げに対する耐久性を確保するには、溝を構成する二つの斜面のなす角度を大きくすることで、一方の斜面と胴部の表面とのなす角度、溝どうしの間に形成された突条の頂部の角度を大きくすることが有効である。即ち、溝を対向する二つの緩斜面によって浅く構成することによって、胴部に溝が形成された医療用縫合針の曲げ強度の向上をはかることが可能である、との推論を得るに至った。
【0018】
また、胴部に溝が形成されている医療用縫合針では、胴部に於ける持針器によって把持し得る範囲の確認、運動方向(刺通方向)の確認が充分に可能であることが判明した。
【0019】
そして、施術者が視認することが可能で、且つ繰り返し曲げに対し充分な耐久性を有するような溝を形成した胴部を有する医療用縫合針を得るに至ったのである、即ち、本発明に係る代表的な医療用縫合針は、組織を刺し通す針先を有する針先部と該針先部に続く胴部と縫合糸を接続する機能を有し該胴部に続く元部とを有する医療用縫合針であって、針先部から元部にかけて、対向する二つの緩斜面によって浅く構成された溝が形成された胴部を有するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る医療用縫合針(以下単に「縫合針」という)では、胴部に形成された溝が対向する二つの緩斜面によって形成されることから、緩斜面と胴部の表面とのなす角度、或いは二つの溝の間に形成された突条の頂部の角度が大きくなる。このため、曲げが作用したときに集中する応力を小さくすることができ、繰り返し曲げに対する強度を大きくすることができる。
【0021】
また、溝が緩斜面によって構成されるため、胴部の表面に照射された光は、胴部表面からと溝の緩斜面からとで互いに異なる方向に反射することとなり、充分に溝を視認することができる。このため、施術者は持針器によって把持し得る範囲を視認することができ、且つ縫合針の運動方向を視認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施例に係る縫合針の模式斜視図と胴部の断面図である。
図2】繰り返し曲げ試験に用いたテストピースの胴部の断面形状を説明する図である。
図3】繰り返し曲げ試験を説明する図である。
図4】従来の医療用縫合針の模式斜視図と胴部の断面図である。
図5】従来の医療用縫合針の模式斜視図と胴部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明に係る縫合針の実施例について図1図3を用いて説明する。本実施例に係る縫合針Aは、針先部1と、針先部1に連続した胴部2と、胴部2に連続した元部3とを有しており、胴部2には2条の溝5が構成されている。本実施例に係る縫合針Aは、針先部1から元部3にかけて全体が湾曲して形成された湾曲針として構成されている。縫合針Aに於ける湾曲形状や太みは予め複数種のものが規格化されており、縫合すべき部位に対応させて最適な規格のものを選択して用いている。
【0024】
縫合針Aを構成する材料は特に限定するものではなく、鋼線やマルテンサイト系ステンレス鋼或いはオーステナイト系ステンレス鋼等の中から選択的に用いることが可能である。鋼線やマルテンサイト系ステンレス鋼の場合、熱処理による硬化を期待することが可能であるものの、錆の発生を排除することが困難である。オーステナイト系ステンレス鋼の場合、熱処理による硬化を期待し得ないものの、錆が発生する虞はない。このように、錆の発生の点を考慮するとオーステナイト系ステンレス鋼を用いることが好ましい。
【0025】
本実施例では、オーステナイト系ステンレス鋼の線を予め設定された減面率で冷間線引き加工を施すことで、高い硬度を実現すると共にオーステナイト組織をファイバー状に伸張させることで曲げに対する強度を向上させた材料を用いている。
【0026】
針先部1は、先端に組織を刺通するために尖端として形成された針先1aが形成されており、この針先1aから胴部2にかけて太みが太くなるように形成されている。針先部1の長さは胴部2の太みの約6倍から約12倍の寸法を有するのが一般的であるが、縫合針の使用目的に対応させて前記した以外のものも提供されている。そして、針先部1の長さは胴部2の太みが大きくなるのに伴って長くなるように構成されている。
【0027】
胴部2は持針器によって把持される部分であり、太みは0.025mm~2.00mmの範囲内に設定されている。そして、縫合すべき患部に応じて施術者が最適な太みを持った縫合針Aを選択して用いている。
【0028】
胴部2の断面形状は特に限定するものではなく、三角形や対向する2面が平坦面として形成された鼓形、4面が平坦面として形成された四角形であって良い、本実施例では、断面が、略正方形に形成されている。また、本実施例では縫合針Aは湾曲針として形成されているが、直針であっても良い。
【0029】
また胴部2の対向する面2aには、縫合針Aの長手方向に2条の溝5が形成されており、これらの溝5の間に突条7が形成されている。溝5は対向する二つの緩斜面6どうしのなす角度が120度以上で且つ浅く構成されている。溝5は、溝として視認し得るものであれば良い。即ち、対向する二つの緩斜面どうしのなす角度は120度以上であって、上限は溝として認識し得る角度であれば良い。この上限の角度としては170度程度である。
【0030】
溝5は胴部2の断面に於いて、該溝5を構成する部分の接線の最大角度差が120度以上で構成されている。即ち、溝5は、該溝5の底面に垂線を立てたとき、この垂線と夫々の緩斜面6とのなす角度が等しいことは必要ではなく、夫々の緩斜面6の接線の最大の角度の差が120度以上であれば良い。
【0031】
このように、溝5が二つの対向する緩斜面6によって構成されるため、2条の溝5の間に形成された突条7の頂部の角度が大きくなる。このため、縫合針Aに繰り返し曲げが作用した場合、この曲げに対する耐久性を向上させることが可能となる。
【0032】
また、溝5の深さは胴部2の太みの20%以下の寸法で形成されている。即ち、溝5の深さが20%よりも大きくなると、胴部2の曲げに対する耐久性に悪影響を与える虞がある。溝5の深さは、胴部2の太みの20%よりも小さいほど耐久性の低下を招くことがないが、施術者に対する視認性が劣る虞が生じるため、深さの大きさに関わらず溝5は必須である。
【0033】
例えば、胴部2の面2aの幅寸法が1mmで有効幅寸法が80%、且つ対向する緩斜面6どうしのなす角度が120度の場合、溝5の深さは約0.11mmであり、胴部2の太みの11%になる。また、面2aに1条の溝5を形成した場合、溝5の深さは約0.22mmとなり、深さの22%となるため、溝5を構成する二つの緩斜面6どうしのなす角度を120度より大きい角度、例えば140度とすることで、溝5の深さを胴部2の太みの20%よりも小さくすることが好ましい。
【0034】
元部3は縫合糸4を取り付けるための部位であり、縫合針の機能に対応させてバネ性を持った通し孔を形成した縫合針や、元部3の端面3aに止まり穴を形成した縫合針等がある。本実施例では、元部3は断面が円形に形成されており、端面3aに縫合糸4を取り付けるための穴が形成された縫合針として構成されている。
【0035】
上記の如き形状を持った縫合針Aを形成する方法としては、断面が円形の素材をプレスして四角形を形成すると共に溝5を形成する方法や、断面が円形の素材の対向する2面どうしをプレスして面2a、2b、及び溝5を形成する方法、研削やプレスによって面2a、2bを形成した後、レーザ光を照射して面2aに溝5を形成する方法等があり、何れも採用することが可能である。
【0036】
本件発明者等は、溝の角度と繰り返し曲げに対する耐久性の関係について比較実験した。
【0037】
溝の角度は、本発明に係る角度(120度、140度)、溝を有しないもの、従来の縫合針と同様の角度(80度)、比較のための角度(100度)とした。実験の結果を簡単に説明する。
【0038】
先ず、円形の素材をプレスして、図2(a)に示す断面形状が鼓の胴部(A胴部)、同図(b)に示す断面形状が正方形な胴部(B胴部)、同図(c)に示す断面形状が縦長の長方形の胴部(C胴部)を形成した。
【0039】
夫々の胴部に、対向する二つの斜面どうしのなす角度が80度(A80、B80、C80、前述した従来の縫合針に於ける代表的な溝の角度)、100度(A100、B100、C100)、120度(A120、B120、C120)、140度(A140、B140、C140)の斜面を有する溝を形成した縫合針を作製した。更に、胴部に溝を形成することのない縫合針を作製(A180、B180、C180)した。テストピースは前記した条件ごとに5本とした。
【0040】
実験は図3に示すように、個々のテストピースの胴部2に於ける針先部1側をバイス10によって保持した状態で、元部3側に駆動子11によって力を作用させて略90度の繰り返し曲げを加えた。そして、破断までの回数を測定し、各条件ごとの平均値によって判定した。縫合針としての合否の判定基準は、破断にいたる繰り返し曲げの平均回数が3以上とした。
【0041】
上記実験の結果、A80では2.0回、B80では1.6回、C80では1.2回であった。A100では3.8回、B100では2.4回、C100では2.0回であった。A120では8.8回、B120では5.2回、C120では4.8回であった。A140では9.2回、B140では5.3回、C140では5.2回であった。更に、A180では9.4回、B180では6.0回、C180では5.4回であった。
【0042】
上記試験結果から、対向する二つの斜面のなる角度が120度、140度の緩斜面を有する溝を形成した胴部を有する縫合針であると繰り返し曲げに対し充分な耐久性を発揮することが可能であるといえる。また、胴部の表面に対し、溝を構成する緩斜面が形成されていることから、胴部に照射された光は全反射することがないので、施術者は充分に溝の存在を視認することが可能であることが判明した。
【0043】
尚、前述の実施例では胴部2に2条の溝5を形成したが、この条数に限定するものではなく、3条の溝を形成しても良く、1条の溝であっても良いことは当然である。また、溝5は医師が持針器によって把持すべき範囲や縫合する際の方向を確認し得るものであれば良い。このため、必ずしも溝5を胴部2に於ける複数の面に形成することは必要なく、一つの面に形成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
上記の如く、本発明に係る縫合針Aは、持針器によって把持し得る範囲や運動方向を視認することが可能で、且つ繰り返し曲げに対して充分な耐久性を発揮することが可能である。このため、縫合針の外形形状や断面形状の如何に関わらず利用することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
A 縫合針
1 針先部
1a 針先
2 胴部
2a、2b 面
3 元部
3a 端面
4 縫合糸
5 溝
6 緩斜面
7 突条
10 バイス
11 駆動子
図1
図2
図3
図4
図5