(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025966
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】コンバートEV
(51)【国際特許分類】
B60K 23/02 20060101AFI20220203BHJP
H02K 7/108 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
B60K23/02 L
H02K7/108
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129193
(22)【出願日】2020-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】512073873
【氏名又は名称】株式会社TGMY
(74)【代理人】
【識別番号】100123467
【弁理士】
【氏名又は名称】柳舘 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】芦田 昌和
(72)【発明者】
【氏名】芦田 隆
【テーマコード(参考)】
3D036
5H607
【Fターム(参考)】
3D036EA01
3D036EB22
3D036EB24
5H607BB01
5H607CC03
5H607DD03
5H607EE03
(57)【要約】
【課題】 コストをかけずに、しかも2ペダル方式のままで減速比の最適化を図り、かつ電池残量が少なくなったときの出力低下をカバーすることができるコンバートEVを提供する。
【解決手段】 マニュアルトランスミッションを搭載したエンジン自動車をベース車両としたコンバートEVである。前記ベース車両のマニュアルトランスミッション10を残してエンジンが取り外され、クラッチペダルが取り外される一方、取り外されたエンジンに代わって電気モータ20が搭載される。残されたトランスミッション10内のクラッチ12に対して、マスターシリンダー14を操作するための油圧ポンプ36及び油圧切替え弁51が装備されると共に、前記油圧切替え弁51を操作するためのスイッチ52が装備される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニュアルトランスミッションを搭載したエンジン自動車をベース車両とするコンバートEVであって、
前記ベース車両のマニュアルトランスミッションを残してエンジンが取り外され、クラッチペダルが取り外される一方、取り外されたエンジンに代わって電気モータが搭載されており、
残されたトランスミッション内のクラッチに対して、そのマスターシリンダーを操作するためのクラッチ操作機構が、取り外されたクラッチペダルに代わって装備されたコンバートEV。
【請求項2】
請求項1に記載のコンバートEVにおいて、前記クラッチ操作機構は、油圧ポンプ及び油圧切替え弁と、前記油圧切替え弁を操作するためのスイッチとの組み合わせであるコンバートEV。
【請求項3】
請求項2に記載のコンバートEVにおいて、前記油圧ポンプは、前記ベース車両に搭載された油圧式パワーステアリング用の油圧ポンプであるコンバートEV。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のコンバートEVにおいて、前記スイッチは、前記ベース車両のマニュアルトランスミッションのシフトレバーに取付けられた手動スイッチであるコンバートEV。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン自動車を電気自動車にコンバートしたコンバートEVに関し、より詳しくは、マニュアルトランスミッション付きでありながら2ペダル方式の利便性、使用性を備えたコンバートEVに関する。なお、本明細書においてマニュアルトランスミッションは減速機及びクラッチの両方を含む。
【背景技術】
【0002】
近年、クラシックカーを始めとする旧車の世界では、エンジン自動車を電気自動車にリノベーションするEVコンバートの手法が注目されている。これは、ベースとなるエンジン自動車のエンジンを取り外して代わりに電気モータを搭載する手法であり、旧車での最重要課題である原動機の信頼性の問題を解決することができ、合わせて税金の問題、環境問題等も解決することができる(特許文献1参照)。そして、EVコンバートを受けた自動車がコンバートEVであり、EVコンバートの典型的な手法は以下のとおりである。
【0003】
ベースとなるエンジン自動車は、通常は旧車であるので、マニュアルトランスミッションを搭載しており、ペダルはクラッチ、ブレーキ、アクセルの3ペダル方式である。一方、電気自動車は、原動機として電気モータを搭載したものであり、その電気モータのトルクが一定で大きいので、トランスミッションは搭載せず、ペダルはブレーキとアクセルの2ペダル方式が一般的である。このため、EVコンバートの手法としても、エンジンをトランスミッション及びガソリンタンクと共に取り外すと共に、これらを取り外した場所に電気モータ及び電池を搭載するのが一般的である。また、当然のことながら、トランスミッションの取り外しに伴ってクラッチペダルも取り外されて、2ペダル化が図られる。
【0004】
このようにして完成したコンバートEVは、通常のEVと同様に高速走行が可能となり、原動機の信頼性も向上する。更に2ペダル方式であるから、オートマ限定免許での運転も可能となる。しかしながら、その一方で次のような問題がある。
【0005】
EVコンバートの要望は1車種ごとの単品製作であることが多いので、ベースとなるエンジン自動車をEVコンバートする際の情報が極めて少ないのが普通である。特に問題なのは、電気モータと駆動輪との間の減速比についてのデータが少ないことである。すなわち、この減速比は、EVでは固定(一定)が主流となるため、最適に設定することが重要となるが、EVコンバートは単品製作であるため、減速比を設定するための比較走行試験を行うことができず、最適設定のための必要なデータを取得することができないのである。その結果、設定された減速比が必ずしも最良であるとは限らず、燃費(EV界では電費と呼ばれる)性能の低下や走行フィーリングの低下を招く懸念が生じる。
【0006】
別の問題として、電池の残量が少なくなったときの出力低下がある。これはEVに特有の弱点でもあり、帰宅途中に家の近くの急坂を登れなくなって帰宅が叶わなくなったという話もある。この弱点を取り除くためには、変速比が通常より小さい所謂スーバーローを設定することが有効とされているが、当然のことながら専用のトランスミッションが必要となり、車両コストの増大を招くだけでなく、クラッチペダルが必要になり、2ペダル方式の利点が失われる結果になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、これらの諸問題を包括的に解決するものであって、コストをかけずにしかも2ペダル方式のままで、減速比の最適化を図り、かつ電池残量が少なくなったときの出力低下をカバーすることができるコンバートEVを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のコンバートEVは、マニュアルトランスミッションを搭載したエンジン自動車をベース車両とするコンバートEVであって、
前記ベース車両のマニュアルトランスミッションを残してエンジンが取り外され、クラッチペダルが取り外される一方、取り外されたエンジンに代わって電気モータが搭載されており、
残されたトランスミッション内のクラッチに対して、そのマスターシリンダーを操作するためのクラッチ操作機構が、取り外されたクラッチペダルに代わって装備されたものである。
【0010】
前記クラッチ操作機構は、クラッチペダル以外で前記マスターシリンダーを操作する後付け機構であり、スイッチにより操作される電動シリンダーなどの電気式でもよいが、典型的には応答速度の速い油圧系であり、具体的には油圧ポンプ及び油圧切替え弁と、前記油圧切替え弁を操作するためのスイッチとの組み合わせである。
【0011】
前記油圧ポンプはエンジンが存在しないために電動式となる。この油圧ポンプは新設でもよいが、ベース車両に油圧式パワーステアリングが搭載されている場合はその油圧式パワーステアリング用の油圧ポンプを流用するのが合理的で望ましい。前記スイッチは運転者の足で操作するフットスイッチでもよいが、足を使わない手動スイッチのほうが操作性の点から望ましく、なかでもベース車両のマニュアルトランスミッションのシフトレバーに取付けた手動スイッチが、シフト操作との同時操作が可能になるので、より望ましい。
【0012】
本発明のコンバートEVにおいては、クラッチは常時「接」で使用される。より具体的には、マニュアルトランスミッションのなかの最適なギアが常時選択された状態で、通常のEVと同様に2ペダル操作でモータ走行を行う。
【0013】
電池の残量が少なくなって電気モータの出力が低下したときは、前記スイッチを操作してクラッチを一時的に「断」状態に切替え、この間にマニュアルトランスミッションのシフトレバーを操作して、最適なギアより低いギアを選択して出力低下を補う。
【0014】
これらとは別に、製作されたコンバートEVの走行試験を行うときに、前記スイッチによりクラッチを操作して、トランスミッションの各ギアを選択することにより、各ギアでの燃料消費率、走行フィーリング等を調査し、通常走行に最適なギアを見つける。或いは最適な減速比を見つけ、減速歯車の設計製作に生かす。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコンバートEVは、ベースとなるエンジン自動車のマニュアルトランスミッションを残し、残されたマニュアルトランスミッションのクラッチをスイッチにより切替え操作することにより、2ペダル方式のままで、残されたトランスミッションを必要最小限活用し、これにより使用者にあっては2ペダル方式の利便性、使用性を残しつつ、電池残量減少時のギア切替え操作により出力低下をカバーすることができる。また、EV製作者にあっては各ギアによる試験走行を可能にして、減速比最適化のためのデータ取り等を行うことができる。あえてクラッチを排することもできるが、そうすると電気モータが慣性で回転している間は変速ができない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態を示すコンバートEVの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
【0018】
本実施形態のコンバートEVは、マニュアルトランスミッションを搭載したエンジン自動車をベース車両としている。ここにおけるベース車両は、ここでは1950~1970年に製造された旧車であり、直列6気筒ガソリンエンジン、4速マニュアルトランスミッション及びパワーステアリングを搭載している。
【0019】
このコンバートEVは、
図1に示すように、ベース車両に搭載されているマニュアルトランスミッション10は残してエンジンを取り外しており、そのエンジンの代わりに駆動用の電気モータ20を搭載している。また、エンジンと共に燃料タンクを取り外しており、燃料タンクを取り外したあとに走行用電池を搭載している。電気モータ20は、取り外されたエンジンと同等かそれ以下の最大トルクを示す。
【0020】
残したマニュアルトランスミッション10の減速機11にはシフトレバー13がそのまま残されており、クラッチ12にはマスターシリンダー14がそのまま残されている。マスターシリンダー14はベース車両ではクラッチペダルにより操作されるが、本コンバートEVでは前記クラッチ操作機構として新しく付加された後述の油圧操作系50により操作される。
【0021】
ベース車両に装備されたパワーステアリング30、すなわちパワーアシスト操舵系はそのまま残されており、ステアリングシャフト31の回転操舵力が、ステアリングギアボックス32を介して、左右のタイロッド33,33に直線操舵力として伝達されることにより、左右の前輪を操舵する。ここにおけるパワーステアリング30は、電動油圧式であり、ブリーザタンク35内のオイルを電動油圧ポンプ36により加圧して、油圧アシスト式の前記ギアボックス32に供給することにより、ギアボックス32での操舵力をアシストする。余分のオイルはブリーザタンク35内に戻る。電動油圧ポンプ36は、当該コンバートEVに搭載される電装用のバッテリー40により駆動される。
【0022】
前記マニュアルトランスミッション10を操作するための油圧操作系50は、前記したパワーステアリング30の油圧供給系統を利用して構成されており、具体的には、その油圧供給系統に介装されて前記クラッチ12のマスターシリンダー14を操作する、前記油圧切替え弁としての電磁三方弁51と、電磁三方弁51を操作するスイッチ52とを備えている。
【0023】
電磁三方弁51は、電動油圧ポンプ36の下流側に、ステアリングギアボックス32に対して並列な状態で接続されており、図示の第1ポジションではA-B間が「閉」状態、B-C間が「開」状態となり、第2ポジションではA-B間が「開」状態、B-C間が「閉」状態となる。電磁三方弁51の下流側には、クラッチ12のマスターシリンダー14が接続されている。
【0024】
前記スイッチ52は、通常時にオフ状態となる常時「開」の押しボタンスイッチ等であり、そのオフ状態で電磁三方弁51を第1ポジションに、オン状態で電磁三方弁52を第2ポジションに位置させる。このスイッチ52は、減速機11のシフトレバー13を操作するときに同じ手で操作するのに都合のよい位置に取付けられた手動スイッチであり、より具体的には例えばシフトレバー13のグリップ近傍に取付けられている。
【0025】
これにより、前記スイッチ52が操作されない通常時(オフ状態)は、電磁三方弁51のA-B間が「閉」状態、B-C間が「開」状態に維持されることにより、下流側のマスターシリンダー14は無圧状態となる。前記スイッチ52が操作されてオン状態になると、電磁三方弁51のA-B間が「開」状態、B-C間が「閉」状態に維持されることにより、電動油圧ポンプ36の油圧がクラッチ12のマスターシリンダー14に付加されてクラッチ12を切る(「断」状態に移行する)。前記スイッチ52がオフ状態に戻ると、クラッチ12は通常時の無圧状態に戻る。
【0026】
すなわち、前記スイッチ52が操作されている間のみ、マニュアルトランスミッション10のクラッチ12が切れる(「断」状態に移行する)ことになる。
【0027】
このように構成された本実施形態のコンバートEVは次のように使用される。
【0028】
マニュアルトランスミッション10は4速であり、その第3速を通常走行ギアに設定する。ペダルはブレーキとアクセルの2つであり、この2つのペダルを使用して通常のEVと同様にノークラッチ運転を行う。
【0029】
EVであるので、通常走行ギアで運転の殆どをカバーすることができるが、走行用電池の残量が極端に少なくなった場合は、電気モータ20の出力が低下し、帰宅途中に家の近くの急坂を登れなくなるといった支障が生じるようになる。そうなった場合は、減速機11のシフトレバー13のグリップ近傍に取付けられたスイッチ52を手の指で押しながら、同じ手でシフトレバー13を操作して、マニュアルトランスミッション10の減速比を第3速から第2速へ切替える。すなわちシフトダウン操作を行う。これにより、家の近くの急坂も上ることができ、帰宅が可能となる。また、スイッチ52を操作することにより、クラッチ12が切れる(「断」状態に移行する)ので、減速比を切替える際の動作がスムーズになり、減速機11が保護される。
【0030】
高速走行時には必要に応じて第4速を使用することもできる。これにより、2ペダル方式のままで3速トランスミッション付きのEVとして使用することができる。後退については、マニュアルトランスミッション10の後退ギアを使用することも可能であるが、ここでは運転操作性の点から一般のEVと同じく電気モータ20を逆回転させて回転数を制限することにより行い、マニュアルトランスミッション10の後退ギアは使用しない。
【0031】
一方、コンバートEVを製作する側においては、前述した通常走行ギアの減速比を選択設定することになるが、この作業が厄介である。というのもコンバートEVは単品製作であることが多く、ベース車両も珍しいものが少なくないため、EVコンバートを行ったときの走行データが極めて少ないのが通例であり、通常は通常走行ギアの減速比を設定するための走行データを取る作業が必要になる。しかしながら、実験車両がないためそのデータ取りを行うことができず、勘と経験で通常走行ギアの減速比を設定しているのが現実であり、その結果、設定された減速比がベストであるとは限らず、走行性能、燃費性能に問題が生じることがある。
【0032】
これに対し、本コンバートEVは、既設のマニュアルトランスミッション10を使用して各ギア毎の走行性能、燃費性能を調査することができ、走行性能、燃費性能の点から最適なギア、最適な減速比を見つけ出すことができる。
【0033】
4速トランスミッションを例にとって具体的に説明すると、通常はデータ取りの結果から、直結状態かそれに近い第3速又は第4速の何れかを通常走行ギアに設定する。通常走行ギアが第3速である場合は、スーパーローとして第2速ギアを選択することができ、オーバードライブとして第4速を選択することができる利点がある。走行性能、燃費性能の点から第4速が通常走行ギアとして最適であれば、それを通常走行ギアとする。第3速、第4速のいずれも問題が残る場合、最終減速比、又は第3速か第4速の減速比を変更する。
【0034】
かくして、本コンバートEVは、単品製作車であっても、量産車に匹敵する走行フィーリング、燃費性能の高性能車両に仕上がる。しかも、ベース車両に搭載されているマニュアルトランスミッション10を活用するので、EVコンバートに要する費用を低く抑えることができる。
【符号の説明】
【0035】
10 マニュアルトランスミッション
11 減速機
12 クラッチ
13 シフトレバー
14 マスターシリンダー
20 電気モータ
30 パワーステアリング
31 ステアリングシャフト
32 ステアリングボックス
33 タイロッド
35 ブリーザタンク
36 電動油圧ポンプ
40 バッテリー
50 油圧操作系(クラッチ操作機構)
51 電磁三方弁(油圧切替え弁)
52 スイッチ