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特開2022-25967NTCP中和抗体、医薬組成物及びNTCP検出キット
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  • 特開-NTCP中和抗体、医薬組成物及びNTCP検出キット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025967
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】NTCP中和抗体、医薬組成物及びNTCP検出キット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220203BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220203BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61P31/20
A61P1/16
A61P35/00
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129195
(22)【出願日】2020-07-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、日本医療研究開発機構、B型肝炎創薬実用化等研究事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】立花 太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊原 寛一郎
(72)【発明者】
【氏名】下遠野 邦忠
(72)【発明者】
【氏名】西辻 裕紀
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、NTCP中和活性を有する抗体を提供することにある。
【解決手段】NTCP中和抗体は、NTCPをブロックすることでHBV侵入を防止するHBV感染阻害作用を利用して、B型肝炎の予防及び/又は治療等が可能となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウロコール酸ナトリウム共輸送ポリペプチド(NTCP)中和抗体。
【請求項2】
配列番号1又は配列番号2に示すアミノ酸配列の第3位のアミノ酸残基を含むエピトープに特異的に結合する、請求項1に記載のNTCP中和抗体。
【請求項3】
以下の重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変領域:
(1-1)配列番号3~配列番号6のいずれかに示すアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、
(1-2)配列番号7~配列番号10のいずれかに示すアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域2(HCDR2)、及び
(1-3)配列番号11又は配列番号12に示すアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域3(HCDR3)
並びに
以下の軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変領域:
(2-1)配列番号13~配列番号15のいずれかに示すアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、
(2-2)配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列若しくはLys-Valを有する軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)、及び
(2-3)配列番号18又は配列番号19に示すアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)
を含む、請求項1又は2に記載のNTCP中和抗体。
【請求項4】
以下の重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変領域:
(1-1-i)配列番号3~配列番号6のいずれかに示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(1-1-ii)配列番号3~配列番号6のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(1-1-iii)配列番号3~配列番号6のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域1(HCDR1);
(1-2-i)配列番号7~配列番号10のいずれかに示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(1-2-ii)配列番号7~配列番号10のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(1-2-iii)配列番号7~配列番号10のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域2(HCDR2);及び
(1-3-i)配列番号11又は配列番号12に示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(1-3-ii)配列番号11又は配列番号12に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(1-3-iii)配列番号11又は配列番号12に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域3(HCDR3)
並びに
以下の軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変領域:
(2-1-i)配列番号13~配列番号15のいずれかに示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(2-1-ii)配列番号13~配列番号15のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(2-1-iii)配列番号13~配列番号15のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域1(LCDR1);
(2-2-i)配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(2-2-ii)配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(2-2-iii)配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域2(LCDR2);及び
(2-3-i)配列番号18又は配列番号19に示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(2-3-ii)配列番号18又は配列番号19に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(2-3-iii)配列番号18又は配列番号19に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)
を含む、請求項1又は2に記載のNTCP中和抗体。
【請求項5】
モノクローナル抗体である、請求項1~4のいずれかに記載のNTCP中和抗体。
【請求項6】
キメラ抗体又はヒト化抗体である、請求項1~5のいずれかに記載のNTCP中和抗体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のNTCP中和抗体をコードするDNA。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のNTCP中和抗体を含有する、医薬組成物。
【請求項9】
B型肝炎の予防及び/又は治療に用いられる、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
肝硬変及び/又は肝細胞癌の予防及び/又は治療に用いられる、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
ヒト又はマウスに用いられる、請求項8~10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~7のいずれかに記載のNTCP中和抗体を含有する、NTCP検出キット。
【請求項13】
マウスNTCPの検出に用いられる、請求項12に記載のNTCP検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NTCP中和抗体、医薬組成物及びNTCP検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎は、世界で最も多く見られる肝臓の感染症で、肝臓を攻撃して傷つけるB型肝炎ウイルス(HBV)を原因として発症する。全世界では、20億人がB型肝炎の罹患歴があり、そのうち2億5,700万人は慢性感染者であり、ウイルスを取り除くことができていない(非特許文献1)。
【0003】
慢性のB型肝炎は、肝硬変や肝細胞癌の発症リスクを高める主要な問題となっている。このため、HBVへの対策が公衆衛生上の急務であり、HBVを治療又は予防する医薬品の開発が強く求められている。
【0004】
HBVの治療法として、HBVを中和するヒトモノクローナル抗体が開発されており、この抗体が、HBV感染マウスで治療的に作用し、HBV予防および慢性HBV感染症の治療の新規臨床候補として示唆されることが報告されている。しかしながら、HBVをターゲットにした治療薬は、ウイルスが変異する性質に鑑みると、ウイルス変異に伴って効力を失うこととなる。
【0005】
一方で、HBVの感染メカニズムが明らかになっている。具体的には、タウロコール酸ナトリウム共輸送ポリペプチド(NTCP)がHBVの侵入標的として働くことが報告されている(非特許文献2)。受容体であるNTCPはHBVと異なり変異しないため、抗HBV薬の標的として理想的である。このような観点から、NTCPを標的とするモノクローナル抗体が作製されている(非特許文献3)。しかしながら、このモノクローナル抗体にはNTCPの中和活性は無い。つまり、NTCPの中和活性を有する抗体の作製は未だ成功されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“一般的情報”、[online]、2020年、HEPATITIS B FOUNDATION、[令和年6月4日検索]、インターネット<URL:https://www.hepb.org/languages/japanese/general/>
【非特許文献2】Inhibitors of hepatitis B virus attachment and entry.Lempp FA, Urban S. Intervirology. 2014;57(3-4):151-7. doi: 10.1159/000360948.
【非特許文献3】Development of a cell-based assay to identify hepatitis B virus entry inhibitors targeting the sodium taurocholate cotransporting polypeptide. Miyakawa K et al., Oncotarget. 2018 May 4;9(34):23681-23694. doi: 10.18632/oncotarget.25348.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、NTCP中和活性を有する抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、これまでNTCPの中和活性を有する抗体は作製することができなかった理由を、NTCPが複数回膜貫通型タンパク質であるため構造が複雑で、その細胞外領域が狭いことにあると考えた。そして、このようなNTCPの構造的特徴のため、抗原をマウスに免疫するような通常の抗体作製方法ではNTCP中和活性を有する抗体を得ることができないと考えた。そこで、本発明者が鋭意検討した結果、ヒトNTCPをコードするcDNAをマウスに免疫し、マウス体内でヒトNTCPを発現させることを利用して抗体を産生させること、及び人工のレポーターHBVを用いた独自の感染実験系によってスクリーニングすることで、NTCP和活性を有する抗体の取得に初めて成功した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. タウロコール酸ナトリウム共輸送ポリペプチド(NTCP)中和抗体。
項2. 配列番号1又は配列番号2に示すアミノ酸配列の第3位のアミノ酸残基を含むエピトープに特異的に結合する、項1に記載のNTCP中和抗体。
項3. 以下の重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変領域:
(1-1)配列番号3~配列番号6のいずれかに示すアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、
(1-2)配列番号7~配列番号10のいずれかに示すアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域2(HCDR2)、及び
(1-3)配列番号11又は配列番号12に示すアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域3(HCDR3)
並びに
以下の軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変領域:
(2-1)配列番号13~配列番号15のいずれかに示すアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、
(2-2)配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列若しくはLys-Valを有する軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)、及び
(2-3)配列番号18又は配列番号19に示すアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)
を含む、項1又は2に記載のNTCP中和抗体。
項4. 以下の重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変領域:
(1-1-i)配列番号3~配列番号6のいずれかに示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(1-1-ii)配列番号3~配列番号6のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(1-1-iii)配列番号3~配列番号6のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域1(HCDR1);
(1-2-i)配列番号7~配列番号10のいずれかに示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(1-2-ii)配列番号7~配列番号10のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(1-2-iii)配列番号7~配列番号10のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域2(HCDR2);及び
(1-3-i)配列番号11又は配列番号12に示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(1-3-ii)配列番号11又は配列番号12に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(1-3-iii)配列番号11又は配列番号12に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域3(HCDR3)
並びに
以下の軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変領域:
(2-1-i)配列番号13~配列番号15のいずれかに示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(2-1-ii)配列番号13~配列番号15のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(2-1-iii)配列番号13~配列番号15のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域1(LCDR1);
(2-2-i)配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(2-2-ii)配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(2-2-iii)配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域2(LCDR2);及び
(2-3-i)配列番号18又は配列番号19に示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(2-3-ii)配列番号18又は配列番号19に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(2-3-iii)配列番号18又は配列番号19に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)
を含む、項1又は2に記載のNTCP中和抗体。
項5. モノクローナル抗体である、項1~4のいずれかに記載のNTCP中和抗体。
項6. キメラ抗体又はヒト化抗体である、項1~5のいずれかに記載のNTCP中和抗体。
項7. 項1~6のいずれかに記載のNTCP中和抗体をコードするDNA。
項8. 項1~7のいずれかに記載のNTCP中和抗体を含有する、医薬組成物。
項9. B型肝炎の予防及び/又は治療に用いられる、項8に記載の医薬組成物。
項10. 肝硬変及び/又は肝細胞癌の予防及び/又は治療に用いられる、項8に記載の医薬組成物。
項11. ヒト又はマウスに用いられる、項8~10のいずれかに記載の医薬組成物。
項12. 項1~7のいずれかに記載のNTCP中和抗体を含有する、NTCP検出キット。
項13. マウスNTCPの検出に用いられる、項12に記載のNTCP検出キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、NTCP中和活性を有する抗体を提供することができる。このため、当該抗体がNTCPをブロックすることでHBV侵入を防止するHBV感染阻害作用を利用して、B型肝炎の予防及び/又は治療等が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】レポーターHBVを用いたNTCP中和抗体の感染試験結果を示す。
図2】野生型HBVを用いたNTCP中和抗体の感染試験結果を示す。
図3】NTCP断片の発現試験結果を示す。
図4】NTCP断片について、mycタグ抗体及び5A9C6を用いた発現試験結果を示す。
図5】ヒトNTCPとマウスNTCPをHepG2について、5A9C6を用いた発現試験結果を示す。
図6】NTCP断片の変異体について、mycタグ抗体及び5A9C6との結合能を試験した結果を示す。
図7】NTCP断片の変異体のうちA3Mについて、レポーターHBVを用いた感染試験結果を示す。
図8】5A9C6を用いたNTCPの蛍光検出結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.NTCP中和抗体
本発明は、タウロコール酸ナトリウム共輸送ポリペプチド(NTCP)中和抗体である。つまり、本発明のNTCP中和抗体は、複数回膜貫通型タンパク質であるNTCPに対して特異的に結合する特異的結合能と共に、NTCPがB型肝炎ウイルス(HBV)を侵入させる機能を阻害する中和能を有することを特徴とする。
【0013】
本発明のNTCP中和抗体は、ヒトNTCPに対して中和能を有するが、好ましくはマウスNTCPに対しても中和能を有する。
【0014】
ヒトNTCPは配列番号1で表される、349アミノ酸残基からなる膜タンパク質である。本発明のNTCP中和抗体は、配列番号1の細胞外ドメインにおける第3位(アラニン残基)に特異的に結合することができる。つまり、本発明のNTCP中和抗体は、配列番号1の第3位を含むエピトープに特異的に結合することができる。
【0015】
マウスのNTCPは配列番号2で示される、362アミノ酸残基からなる膜タンパク質である。本発明のNTCP中和抗体は、配列番号2の細胞外ドメインにおける第3位(アラニン残基)に特異的に結合する。つまり、本発明のNTCP中和抗体は、配列番号2の第3位を含むエピトープに特異的に結合する。
【0016】
本発明のNTCP中和抗体のエピトープは、配列番号1又は2の第3位のアミノ酸残基を含んでいればよく、具体的な例として、配列番号1又は2の第3位のアミノ酸残基を含む連続する3個、4個、又は5個のアミノ酸配列からなる線状エピトープが挙げられる。例えば、エピトープが配列番号1又は2の第3位を含む連続する3個のアミノ酸配列からなる線状エピトープである場合、当該線状エピトープの具体的な配列としては、配列番号1又は2の第1位~第3位、第2位~第4位、又は第3位~第5位を構成するアミノ酸配列が挙げられる。
【0017】
また、本発明のNTCP中和抗体のエピトープは、好ましくは、配列番号1又は2の第3位のアミノ酸残基を含み、且つ、配列番号1又は2の第6位のアミノ酸残基を含まない。この場合において、本発明のNTCP中和抗体のエピトープの具体的な配列としては、列番号1又は2の第1位~第4位、第2位~第5位、又は第1位~第5位を構成するアミノ酸配列が挙げられる。
【0018】
本発明のNTCP中和抗体のCDR(相補性決定領域)は、当該技術分野で知られている任意の方法を使用して定義することができる。具体的には、CDRを定義する方法として、Kabat番号付けプログラム(Bioinformatics, 32, 298-300 (2016))、IMGTシステム(Dev Comp Immunol. 27,55-77 (2003))、及びParatomeアルゴリズム(Nucleic Acids Res. 40 (Web Server issue): W521-4 (2012). doi: 10.1093/nar/gks480及びPLoS Comput Biol.8(2):e1002388 (2012))等が挙げられる。好ましくは、Kabat番号付けプログラム、IMGTシステム、及びParatomeアルゴリズムを組み合わせ(Kabat/IMGT/Paratome)、これら3つの方法で定義される配列をすべて網羅するようにCDRを決定することができる。
【0019】
本発明のNTCP中和抗体の具体的なCDRを下記表に示す。下記表において、配列番号3、7、11、13、16及び18に示すアミノ酸配列は、Kabat/IMGT/Paratomeの組み合わせにより定義されるものであり;配列番号4、8、12、13、17及び18に示すアミノ酸配列は、Kabatにより定義されるものであり;配列番号5、9、11、14、Lys-Val、及び18に示すアミノ酸配列は、IMGTにより定義されるものであり;配列番号6、10、11、15、16及び19は、Paratomeにより定義されるものである。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明のNTCP中和抗体の好適な態様として、以下の(1-1)~(1-3)の重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変領域と、以下の(2-1)~(2-3)の軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変領域とを含むものが挙げられる。
【0022】
(1-1)配列番号3~配列番号6のいずれかに示すアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、
(1-2)配列番号7~配列番号10のいずれかに示すアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域2(HCDR2)、及び
(1-3)配列番号11又は配列番号12に示すアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域3(HCDR3);並びに
(2-1)配列番号13~配列番号15のいずれかに示すアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、
(2-2)配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列若しくはLys-Valを有する軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)、及び
(2-3)配列番号18又は配列番号19に示すアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)
を含む軽鎖可変領域。
【0023】
また、本発明のNTCP中和抗体は、以下の(1-1-i)~(1-1-iii)のいずれかの重鎖相補性決定領域、以下の(1-2-i)~(1-2-iii)のいずれかの重鎖相補性決定領域、及び以下の(1-3-i)~(1-3-iii)のいずれかの重鎖相補性決定領域を含む重鎖可変領域と、(2-1-i)~(2-1-iii)のいずれかの軽鎖相補性決定領域、以下の(2-2-i)~(2-2-iii)のいずれかの軽鎖相補性決定領域、及び以下の(2-3-i)~(2-3-iii)のいずれかの軽鎖相補性決定領域を含む軽鎖可変領域を含むものであってもよい。
【0024】
(1-1-i)配列番号3~配列番号6のいずれかに示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(1-1-ii)配列番号3~配列番号6のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(1-1-iii)配列番号3~配列番号6のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域1(HCDR1);
(1-2-i)配列番号7~配列番号10のいずれかに示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(1-2-ii)配列番号7~配列番号10のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(1-2-iii)配列番号7~配列番号10のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域2(HCDR2);及び
(1-3-i)配列番号11又は配列番号12に示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(1-3-ii)配列番号11又は配列番号12に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(1-3-iii)配列番号11又は配列番号12に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖相補性決定領域3(HCDR3)。
【0025】
(2-1-i)配列番号13~配列番号15のいずれかに示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(2-1-ii)配列番号13~配列番号15のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(2-1-iii)配列番号13~配列番号15のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域1(LCDR1);
(2-2-i)配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(2-2-ii)配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(2-2-iii)配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域2(LCDR2);及び
(2-3-i)配列番号18又は配列番号19に示すアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列と、
(2-3-ii)配列番号18又は配列番号19に示すアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列と、
(2-3-iii)配列番号18又は配列番号19に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列と、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)。
【0026】
上記(1-1-i)、(1-2-i)、(1-3-i)、(2-1-i)、(2-2-i)、(2-3-i)の、1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入された重鎖及び/又は軽鎖相補性決定領域(HCDR及び/又はLCDR;以下においてまとめてCDRとも記載する)配列を含むNTCP中和抗体は、NTCPに対する中和活性が改変前のCDR配列を含むNTCP中和抗体と同等又同等以上であることが望ましい。置換、欠失、付加及び/又は挿入されるアミノ酸の数は特に限定されないが、好ましくは1つのCDRにつき1~3個、更に好ましくは1~2個、特に好ましくは1個が挙げられる。また、本発明のNTCP中和抗体において、CDR配列の中で、1つのアミノ酸配列に対して置換、欠失、付加及び/又は挿入されていてもよく、2以上のアミノ酸配列に対して置換、欠失、付加及び/又は挿入されてもよい。
【0027】
また、前記CDRのアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換に関しては、類似アミノ酸による置換(即ち保存的アミノ酸置換)は、抗体の中和活性に変化をもたらさないことが予測されるため好適である。具体的には、アミノ酸側鎖の性質に基づいて、次のような分類が確立している。
塩基性アミノ酸:リジン、アルギニン、ヒスチジン
酸性アミノ酸:グルタミン酸、アスパラギン酸
中性アミノ酸:グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、バリン、グルタミン、アスパラギン、プロリン
更に、前記中性アミノ酸は、極性側鎖を有するもの(アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するもの(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、アミド含有側鎖を有するもの(アスパラギン、グルタミン)、硫黄含有側鎖を有するもの(メチオニン、システイン)、芳香族側鎖を有するもの(フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)、水酸基含有側鎖を有するもの(セリン、トレオニン、チロシン)、脂肪族側鎖を有するもの(アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン)等に分類することもできる。
【0028】
1又は数個のアミノ酸残基を目的の他のアミノ酸に置換する方法については、例えば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh T. et al.,Gene, Vol.152,p.271-275(1995); Zoller MJ. et al.,Methods Enzymol.Vol.100,p.468-500(1983)、Kramer W. et al.,Nucleic Acids Res.Vol.12,p.9441-9456(1984); Kramer W. et al.,Methods. Enzymol.Vol.154,p.350-367(1987); Kunkel TA.,Proc Natl Acad Sci USA.,Vol.82,p.488-492(1985)等)が知られており、当該部位特異的変異誘発法を用いてCDRのアミノ酸配列にアミノ酸置換を行うことができる。また、他のアミノ酸に置換する方法としては、WO2005/080432に記載されているライブラリー技術が挙げられる。
【0029】
上記(1-1-ii)、(1-2-ii)、(1-3-ii)、(2-1-ii)、(2-2-ii)、(2-3-ii)の、80%以上の相同性を有するCDR配列を含むNTCP中和抗体は、NTCPに対する中和活性が改変前のCDR配列を含むNTCP中和抗体と同等又同等以上であることが望ましい。配列同一性は、80%以上であればよいが、好ましくは85%以上又は90%以上、更に好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、又は98%以上、特に好ましくは99%以上が挙げられる。ここで、配列番号3~配列番号19に示すアミノ酸配列に対する配列同一性とは、配列番号3~配列番号19に示すアミノ酸配列と比較して算出される配列同一性である。
【0030】
また、「配列同一性」とは、BLAST PACKAGE[sgi32 bit edition,Version 2.0.12;available from National Center for Biotechnology Information(NCBI)]のbl2seq program(Tatiana A.Tatsusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,Vol.174,p247-250,1999)により得られるアミノ酸配列の同一性の値を示す。パラメーターは、Gap insertion Cost value:11、Gap extension Cost value:1に設定すればよい。
【0031】
上記(1-1-iii)、(1-2-iii)、(1-3-iii)、(2-1-iii)、(2-2-iii)、(2-3-iii)における「ストリンジェントな条件下」とは、0.5%SDS、5×デンハルツ〔Denhartz’s、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400〕および100μg/mlサケ精子DNAを含む6×SSC(1×SSCは、0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)中で、50℃~65℃で4時間~一晩保温する条件をいう。
【0032】
ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションは、具体的には、以下の手法によって行われる。即ち、DNAライブラリー又はcDNAライブラリーを固定化したナイロン膜を作成し、6×SSC、0.5% SDS、5×デンハルツ、100μg/mlサケ精子DNAを含むプレハイブリダイゼーション溶液中、65℃でナイロン膜をブロッキングする。その後、32Pでラベルした各プローブを加えて、65℃で一晩保温する。このナイロン膜を6×SSC中、室温で10分間、0.1%SDSを含む2×SSC中、室温で10分間、0.1%SDSを含む0.2×SSC中、45℃で30分間洗浄した後、オートラジオグラフィーをとり、プローブと特異的にハイブリダイズしているDNAを検出することができる。
【0033】
本発明のNTCP中和抗体において、可変領域中のフレームワーク領域は、NTCPに対する中和活性に実質的な影響を及ぼさない限り、特に限定されない。本発明のNTCP中和抗体の具体的な配列としては、重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号20、軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号21が挙げられる。また、本発明のNTCP中和抗体において、定常領域のアミノ酸配列も、NTCPに対する中和活性に実質的な影響を及ぼさない限り、特に限定されない。
【0034】
配列番号3~配列番号19に示すCDRのアミノ酸配列は、マウス抗体由来であり、本発明のNTCP中和抗体は、マウス抗体であってもよいが、好ましくはキメラ抗体及びヒト化抗体が挙げられる。
【0035】
キメラ抗体とは、互いに由来の異なる領域同士を連結した抗体である。本発明のNTCP中和抗体をキメラ抗体にする場合、医薬組成物や各種疾患の治療剤として用いる場合には、マウス抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域から構成されるマウス-ヒトキメラ抗体であることが好ましい。また、NTCPの検出用キットに用いられる場合には、マウス-ヒトキメラ抗体、マウス抗体由来の可変領域とウサギ抗体由来の定常領域から構成されるマウス-ウサギキメラ抗体やマウス抗体由来の可変領域とヤギ抗体由来の定常領域から構成されるマウス-ヤギキメラ抗体も使用できる。
【0036】
また、ヒト化抗体とは、非ヒト由来のCDR配列をヒト抗体のフレームワーク領域上に移植したものであり、非ヒト由来抗体のCDRとヒト抗体由来のフレームワーク領域とヒト抗体由来の定常領域とから構成される抗体である。ヒト化抗体は、ヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明のNTCP中和抗体を医薬用途に使用する場合に好適である。
【0037】
キメラ抗体は、例えば、前記各CDRのアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を有するマウス抗体の定常領域をヒト抗体の定常領域に置換することにより作製することができる(例えば、Morrison et al.,Proc. Natl. Acad. Sci.,Vol.81,p.6851-6855(1984); Neuberger et al.,Nature,Vol.312,p.604-608(1984); Takeda et al.,Nature,Vol.314,p.452-454(1985)等)。ヒト抗体の定常領域については公知のものを用いることができる。具体的には、以下の方法により、マウス-ヒトキメラ抗体を作製することができる。
【0038】
まず、所定のアミノ酸配列を有するCDRを含むマウス重鎖可変領域をコードするDNAを、化学合成、生化学的切断、再結合等により作製する。得られた重鎖可変領域をコードするDNAを、ヒト重鎖定常領域をコードするDNAとライゲーションして発現用ベクターに組込むことにより重鎖発現ベクターを作製する。同様の方法で、軽鎖発現ベクターを作製する。得られた重鎖発現ベクター及び軽鎖発現ベクターを用いて、HEK293細胞株、CHO細胞、SP2/0細胞等の宿主細胞を共形質転換する。形質転換体を培養した後、形質転換体の培養液から目的のキメラ抗体を分離する。また、マウス-ヒトキメラ抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域中のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.etal.,Cancer Research,Vol.53,p.851-856(1993))。
【0039】
また、ヒト化抗体は、例えば、前記各アミノ酸配列を含むCDRをヒト抗体のフレームワーク領域上に移植することにより作製できる(例えば、Jones et al.,Nature,Vol.321,p.522-525(1986);Riechmann et al.,Nature,Vol.332,p.323-327(1988);Verhoeyen et al.,Science,Vol.239,p.1534-1536(1988))。CDR配列のうち、HCDR1(配列番号3)をコードするDNAの塩基配列を配列番号22に示し、HCDR2(配列番号7)をコードするDNAの塩基配列を配列番号23に示し、HCDR3(配列番号11)をコードするDNAの塩基配列を配列番号24に示す。LCDR1(配列番号13)をコードするDNAの塩基配列を配列番号25に示し、LCDR2(配列番号16)をコードするDNAの塩基配列を配列番号26に示し、LCDR3(配列番号18)をコードするDNAの塩基配列を配列番号27に示す。また、CDR配列のうち、配列番号4、5、6は配列番号3の一部の配列で構成され、配列番号8、9、10は配列番号7の一部で構成され、配列番号12は配列番号11の一部の配列で構成され、配列番号17及びLys-Valは配列番号16の一部の配列で構成され、配列番号19は配列番号18の一部の配列で構成されているから、これら配列番号4、5、6、8、9、10、12、14、15、17、Lys-Val及び配列番号19をコードするDNAの塩基配列は、配列番号22~27に示す配列の一部で構成される配列として決定することができる。具体的には、以下の方法により、ヒト化抗体を作製することができる。
【0040】
所定のアミノ酸配列を有するCDRと、4つのヒト抗体由来のフレームワーク領域を所定の順に連結した重鎖可変領域をコードするDNAを、化学合成、生化学的切断、再結合等により作製する。ここで、ヒト化抗体の各CDRが適切な抗原結合部位を形成できるようにフレームワーク領域のアミノ酸を置換、欠失及び/又は付加等の変異を加えていてもよい(Sato, K.et al.,Cancer Research,Vol.53,p.851-856(1993))。得られた重鎖可変領域をコードするDNAを、ヒト重鎖定常領域をコードするDNAとライゲーションして発現用ベクターに組込むことにより重鎖発現ベクターを作製する。同様に、軽鎖重鎖発現ベクターを作製する。得られた重鎖発現ベクター及び軽鎖発現ベクターを用いて、FreeStyle293細胞株(Life Technologies社)、CHO細胞、SP2/0細胞等の宿主細胞を共形質転換する。形質転換体を培養した後、形質転換体の培養液から目的のヒト化抗体を分離する。なお、ヒト抗体の定常領域については公知のものを用いることができる。
【0041】
また、本発明のNTCP中和抗体のアイソタイプについては特に制限されないが、例えば、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgA(IgA1、IgA2)、IgM、IgD、及びIgEが挙げられる。これらの中でも、IgGが好適である。
【0042】
本発明のNTCP中和抗体の形態は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよいが、好ましくは、モノクローナル抗体であることが好ましい。モノクローナル抗体の作製方法は特に限定されないが、例えば、“Kohler G,
Milstein C., Nature. 1975 Aug 7;256(5517):495-497.”に掲載されているようなハイブリドーマ法;米国特許第4816
567号に記載されているような組換え法;“Clackson et al., Na
ture. 1991 Aug 15;352(6336):624-628.”、又は
“Marks et al., J Mol Biol. 1991 Dec 5;22
2(3):581-597.”に記載されているようなファージ抗体ライブラリーから単
離する方法、“タンパク質実験ハンドブック, 羊土社(2003):92-96.”に
掲載されている方法等により作製することができる。
【0043】
また、本発明のNTCP中和抗体には、前記の抗原結合領域を含む限り、全長抗体(Fab領域とFc領域を有する抗体)のみならず、断片抗体も包含される。このような断片抗体として、Fv抗体、Fab抗体、Fab'抗体、F(ab')2抗体、scFv抗体、dsFv抗体、ダイアボディ、ナノボディ等が挙げられる。また、本発明のNTCP中和抗体には、前記の抗原結合領域を含む限り、多価特異性抗体(例えば二重特異性抗体)も包含する。これらの断片抗体及び多重特異性抗体は、従来公知の方法に従って作製することができる。
【0044】
本発明のNTCP中和抗体は、ポリエチレングリコール、放射性物質、トキシン等の各種化合物と結合したコンジュゲート抗体又はコンジュゲート抗体断片であってもよい。また、本発明のNTCP中和抗体は、必要に応じて、結合している糖鎖が改変されていてもよいし、他のタンパク質が融合していてもよい。
【0045】
2.DNA
本発明のDNAは、上記のNTCP中和抗体をコードしているDNAである。本発明のDNAは、例えば、上記のNTCP中和抗体をコードしているDNAを鋳型として、少なくともNTCP中和抗体をコードしている領域をPCR等によって取得することにより得ることができる。また、本発明DNAは、遺伝子の合成法によって人工合成することもできる。
【0046】
また、DNAの塩基配列の特定の部位に特定の変異を導入する場合、変異導入方法は公知であり、例えばDNAの部位特異的変異導入法等が利用できる。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば、市販のキットを用いて行うこともできる。
【0047】
塩基配列に変異を導入したDNAは、DNAシーケンサーを用いて塩基配列を確認することができる。一旦、塩基配列が確定されると、その後は化学合成、クローニングされたプローブを鋳型としたPCR、又は当該塩基配列を有するDNA断片をプローブとするハイブリダイゼーションによって、前記NTCP中和抗体をコードするDNAを得ることができる。
【0048】
また、部位特異的突然変異誘発法等によって前記NTCP中和抗体をコードするDNAの変異型であって変異前と同等の機能を有するものを合成することができる。なお、前記NTCP中和抗体をコードするDNAに変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法、メガプライマーPCR法等の公知の手法によって行うことができる。
【0049】
本発明のDNAの塩基配列については、当業者であれば、本発明のNTCP中和抗体の上記CDRの配列に従って適宜設計可能である。
【0050】
例えば、本発明のDNAに含まれる重鎖可変領域をコードする塩基配列として、配列番号28に示す塩基配列(配列番号20で示される重鎖可変領域をコードする塩基配列)、及び軽鎖可変領域をコードする塩基配列として配列番号29に示す塩基配列(配列番号21で示される軽鎖可変領域をコードする塩基配列)が挙げられる。
【0051】
また、本発明のDNAに含まれる重鎖可変領域をコードする塩基配列の他の例として、上記CDRを含む重鎖可変領域をコードし、且つ、配列番号28及び配列番号29に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列も挙げられる。上記相同性として、好ましくは85%以上又は90%以上、更に好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、又は98%以上、特に好ましくは99%以上が挙げられる。また、「配列同一性」については上述の通りである。
【0052】
更に、本発明のDNAに含まれる重鎖可変領域をコードする塩基配列の更なる例として、上記CDRを含む重鎖可変領域をコードし、且つ、配列番号28及び配列番号29に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列を含むDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列も挙げられる。また、「ストリンジェントな条件下」については上述の通りである。
【0053】
本発明のDNAは、コドン利用頻度を宿主に最適化したものが好ましい。例えば、宿主として大腸菌を使用する場合であれば、コドン利用頻度を大腸菌に最適化させたDNAが好適である。
【0054】
3.組換えベクター
組換えベクターは、本発明のDNAを含む。本発明の組換えベクターは、発現ベクターに本発明のDNAを挿入することにより得ることができる。
【0055】
組換えベクターには、本発明のDNAに作動可能に連結されたプロモーター等の制御因子が含まれる。制御因子としては、代表的にはプロモーターが挙げられるが、更に必要に応じてエンハンサー、CCAATボックス、TATAボックス、SPI部位等の転写要素が含まれていてもよい。また、作動可能に連結とは、本発明のDNAを調節するプロモーター、エンハンサー等の種々の制御因子と本発明のDNAが、宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。
【0056】
発現ベクターとしては、宿主内で自律的に増殖し得るファージ、プラスミド、又はウイルスから遺伝子組換え用として構築されたものが好適である。具体的には、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET-Blue)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110)、酵母由来プラスミド(例えばpSH19)、動物細胞発現プラスミド(例えばpA1-11、pcDNA3.1-V5/His-TOPO)、λファージなどのバクテリオファージ、ウイルス由来のベクター等が挙げられる。
【0057】
4.形質転換体
形質転換体は、上記の本発明のDNA又は上記の組換えベクターを用いて宿主を形質転換することによって得られる。
【0058】
形質転換体の製造に使用される宿主としては、遺伝子の導入が可能であり、且つ自律増殖可能で本発明の遺伝子の形質を発現できるのであれば特に制限されないが、例えば、ヒト及びヒトを除く哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ウシ、サル等)の細胞、より具体的には、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、サル細胞COS-7、ヒト胎児由来腎臓細胞(例えば、HEK293細胞);昆虫細胞;植物細胞;大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属等に属する細菌;放線菌等;酵母等;糸状菌等が挙げられる。
【0059】
形質転換体は、宿主に上記の本発明のDNA又は上記の組換えベクターを導入することによって得ることができる。本発明のDNA又は組換えベクターを導入する方法は、目的の遺伝子が宿主に導入できる限り特に限定されない。また、DNAを導入する場所も、目的の遺伝子が発現できる限り特に限定されず、プラスミド上であってもよいし、ゲノム上であってもよい。本発明のDNA又は組換えベクターを導入する具体的な方法としては、例えば、組換えベクター法、ゲノム編集法が挙げられる。
【0060】
宿主に本発明のDNA又は組換えベクターを導入する条件は、導入方法及び宿主の種類等に応じて適宜設定すればよい。宿主が細菌の場合であれば、例えば、カルシウムイオン処理によるコンピテントセルを用いる方法及びエレクトロポレーション法等が挙げられる。宿主が酵母の場合であれば、例えば、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、スフェロプラスト法及び酢酸リチウム法等が挙げられる。宿主が動物細胞の場合であれば、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法及びリポフェクション法等が挙げられる。宿主が昆虫細胞の場合であれば、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法及びエレクトロポレーション法等が挙げられる。宿主が植物の場合であれば、例えば、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法及びPEG法等が挙げられる。
【0061】
5.NTCP中和抗体の製造方法
本発明のNTCP中和抗体は、前記の形質転換体を培養することによって製造することができる。形質転換体の培養条件は、宿主の栄養生理的性質を考慮して適宜設定すればよいが、好ましくは液体培養が挙げられる。得られた培養物から、適宜NTCP中和抗体を回収し、精製することができる。
【0062】
6.医薬組成物
本発明は、前記本発明のNTCP中和抗体を含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、NTCP中和抗体を有効成分として、NTCPのトランスポーター機能を効果的に阻害することで、薬理効果を奏することができる。
【0063】
本発明の医薬組成物は、前記本発明のNTCP中和抗体を有効量含んでさえいればよく、その他に、医薬的に許容される担体又は添加剤を含んでいてもよい。このような担体又は添加剤としては、例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、矯味剤等が挙げられる。
【0064】
また、本発明の医薬組成物の投与形態については、経口的又は非経口的のいずれであってもよく、具体的には、経口投与;静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、経
鼻投与、経肺投与、経皮投与、経粘膜投与、眼内投与等の非経口投与が挙げられる。
【0065】
本発明の医薬組成物の製剤形態については、採用する投与形態に応じて、その製剤形態を適宜設定することができる。例えば、経口投与で使用される場合には、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の製剤形態に調製すればよく、非経口投与で使用される場合には、液剤、懸濁液、エマルジョン、スプレー剤、坐剤、点眼剤等の製剤形態に調製すればよい。
【0066】
本発明の医薬組成物は、上記本発明のNTCP中和抗体の作用により、NTCPがHBVの細胞内侵入を媒介する機能を効果的に阻害できるため、HBVの感染を阻害する用途に有効に用いることができる。具体的には、本発明の医薬組成物は、HBVの感染予防によるB型肝炎の予防、及び/又は、HBVの感染連鎖を阻害することによる治療に用いることができる。また、これまでのNTCPを標的とする低分子化合物の中には、HBVの細胞内侵入を阻害するとともにNTCP本来の機能である肝細胞への胆汁酸取り込みを阻害するものがあったが、本発明のNTCP中和抗体は胆汁酸取り込みを阻害せずにHBVの侵入を阻害することが期待できるため、本発明の医薬組成物は、胆汁酸取り込みの副作用の回避が期待できる。
【0067】
特に、本発明の医薬組成物は、HBVワクチンが無効である患者に対する感染予防、及び免疫不全等によりHBVが活性化した患者に対する再感染予防を目的として好適に用いられる。
【0068】
さらに、本発明の医薬組成物は、HBVの感染連鎖を阻害することによりB型肝炎の憎悪及び進展に関する病態に対して予防及び/又は治療効果を示すため、肝硬変及び/又は肝細胞癌の予防及び/又は治療を目的としても好適に用いられる。
【0069】
本発明の医薬組成物は、B型肝炎の予防及び/又は治療に用いられる場合、HBVワクチン、B型肝炎治療薬等の、他のB型肝炎の予防及び/又は治療に用いられる薬剤と併用してもよい。また、本発明の医薬組成物は、肝硬変及び/又は肝細胞癌の予防及び/又は治療に用いられる場合、他の肝硬変及び/又は肝細胞癌の予防及び/又は治療に用いられる薬剤と併用してもよい。本発明の医薬組成物が他の薬剤と併用される場合、前記本発明のNTCP中和抗体と他の薬剤を同一の医薬組成物に含有させて製剤化してもよく、また前記本発明のNTCP中和抗体と他の薬剤を別々の医薬組成物に含有させて製剤化してもよい。
【0070】
上記本発明のNTCP中和抗体は、ヒトのNTCPだけでなくマウスのNTCPに対しても共通して中和活性を示すため、本発明の医薬組成物は、ヒト又はマウスに対して適用することができる。
【0071】
本発明の医薬組成物の投与量及び投与回数は、投与形態、患者の年齢や体重、疾患の種類や症状の程度等によって異なり、一律に規定することはできないが、例えばヒトの場合、1回の投与当たり、上記本発明のNTCP中和抗体の重量換算で120mg~480mgに相当する量を、7~30日に1回程度の頻度で投与すればよい。なお、投与回数を減らすために徐放性製剤を用いること、又はオスモティックポンプ等で長期間にわたって少量ずつ投与することもできる。これらのいずれの投与方法においても、NTCPの活性を充分に阻害する濃度になるような投与経路、投与方法を採用することが好ましい。
【0072】
7.NTCP検出キット
本発明は、上記本発明のNTCP中和抗体を利用したNTCP検出キットを提供する。本発明のNTCP検出キットは、上記本発明のNTCP中和抗体と、検体中のNTCPとの抗原抗体反応を利用して検体中のNTCPを免疫測定することができる。
【0073】
検体としては、NTCPの検出が求められるものであることを限度として特に制限されず、具体的には、肝細胞組織、幹細胞、及びこれらの抽出液等が挙げられる。
【0074】
本発明のNTCP検出キットは、サンドイッチ法、競合法、凝集法等のいずれの免疫測定に基づいていてもよい。また、免疫測定としては、標識の種類に応じて、酵素免疫測定法(ELISA)、蛍光免疫測定法、放射性同位体免疫測定法等が挙げられ、測定の簡易性及び/又は迅速性の観点から、好ましくは酵素免疫測定法が挙げられる。
【0075】
また、本発明の本発明のNTCP検出キットには、前記本発明のNTCP中和抗体以外に、更に免疫測定の測定原理や標識の種類に応じて、他の試薬や器具が含まれていてもよい。例えば、酵素免疫測定法を選択する場合、前記本発明のNTCP中和抗体以外に、測定プレート、色原性基質溶液、反応停止液、洗浄液、標準溶液等が含まれていてもよい。また、サンドイッチ法を採用する場合には、キャプチャー抗体として使用される前記本発明のNTCP中和抗体は、固相に固定化された状態で提供されてもよい。
【0076】
上記本発明のNTCP中和抗体は、ヒトのNTCPだけでなくマウスのNTCPに対しても共通して結合活性を示すため、本発明のNTCP検出キットは、マウスの実験系において好適に用いることができる。
【実施例0077】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0078】
[試験例1:DNA免疫及び腸骨リンパ節法によるモノクローナル抗体作製及び一次スクリーニング]
マウスへのDNA免疫用プラスミドを構築するため、PCRで増幅したNTCP遺伝子断片をpDNAimmu3ベクターに挿入し、pDNAimmu3-NTCPを得た。pDNAimmu3-NTCPプラスミド溶液をマウス腹側皮内に注射し、電気穿孔法にてプラスミドをマウスの皮内細胞に導入した。12週間後、pCAN-NTCPプラスミドを導入することによって293細胞NTCPを強制発現させたNTCP強制発現293細胞を、マウスの尾部に免疫し、4日後に脾臓を採取した。
【0079】
採取した脾臓からリンパ球を単離し、ポリエチレングリコールを用いてマウスミエローマ細胞株Sp2と融合させ、融合細胞(ハイブリドーマ)を得た。ハイブリドーマを96ウエルプレートに播種し、Hybridoma-SFM培地(Thermo Fisher Scientific)に、100mMヒポキサンチン(SIGMA)、0.4mMアミノプテリン(SIGMA)、16mMチミジン(Wako)を添加した培地中で培養した。
【0080】
7日後、各ハイブリドーマの培養上清を使い、NTCP強制発現293細胞との反応性をフローサイトメーター(BD FACSVerse)でスクリーニングした。その結果、NTCP強制発現細胞を認識する陽性4ウェルを得た。これら陽性4ウェルのハイブリドーマについて限界希釈法にてクローニングを行い、4クローン(1D1A2,5A9C6,6C5C8,6D10B4)のNTCP認識モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを樹立した。アイソタイピングキット(BD)を使って抗体のアイソタイプを調べたところ、1D1A2がIgG2a(k型)、5A9C6がIgG1(k型)、6C5C8がIgG2b(k型)、6D10B4がIgG2b(k型)であった。各抗体は、ハイブリドーマの培養上清からイオン交換カラムを使って精製し、後述の試験例に用いた。
【0081】
なお、5A9C6の抗体遺伝子可変領域の配列を決定するため、5A9C6産生ハイブリドーマをISOGEN(ニッポンジーン)で溶解し、total RNAを抽出した。total RNAを鋳型にマウスIgG1特異的プライマーを用いてRT-PCRを行い、重鎖および軽鎖抗体遺伝子をクローニングした。その結果、重鎖可変領域として配列番号28に示す塩基配列、軽鎖可変領域として配列番号29に示す塩基配列を決定した。
【0082】
[試験例2:レポーターHBVを用いたNTCP中和抗体のスクリーニング(二次スクリーニング)]
本試験例では、HepG2にNTCPを強制発現させたNTCP強制発現細胞(HepG2-NTCP)にNanoLuc(NL)を発現するレポーターHBVを感染させる感染実験系を用い、試験例1で得たモノクローナル抗体を添加することにより、感染阻害の如何をNL活性に基づいて評価した。
【0083】
HepG2細胞は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、10%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(ナカライテスク)、及び100U/ml非必須アミノ酸(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて培養した。
【0084】
PCRで増幅したNTCP-myc断片をpCANプラスミドに挿入し、pCAN-NTCP-mycを得た。pCAN-NTCP-mycをLipofectamine3000(インビトロジェン)でHepG2細胞に導入し、500ug/mlのG418(インビトロジェン)で1か月クローンを選択し、NTCP-mycを発現するHepG2-NTCP-mycを樹立した。
【0085】
pHBV1.2/NL(NanoLuc)及びpHBV-delta epsilonをLipofecatamin3000でHepG2細胞に導入し、1週間後、上清を0.45μmフィルターに通した。さらにPEG溶液(13% PEG6000、1.5M NaCl、1mM EDTA、pH8.0、10mM HEPS pH7.6)により、100,000gで3時間遠心し、ペレットをTNE buffer(10mM Tris-HCl、50mM NaCl、1mM EDTA)で懸濁し、500倍濃縮することによって、NLを発現するレポーターHBVを得た。
【0086】
96ウェルコラーゲンコートプレートにHepG2-NTCP-mycを5万細胞/ウェルとなるように播いて、24時間37℃、5%CO2で培養した。試験例1で得られたモノクローナル抗体(C5C8、5A9C6、1D1A2、6D10B4)、及びコントロール抗体(NTCPに結合しない抗TOMM34モノクローナル抗体(mouse IgG):ネガティブコントロール)については、6.25μg/ml、12.5μg/ml、25μg/ml、50μg/ml、100μg/ml、又は200μg/mlの濃度で、PreS1(感染阻害ペプチド:ポジティブコントロール)については0.625nM、1.25nM、2.5nM、5nM、10nM、又は20nMの濃度で、1時間、HepG2-NTCP-myc処理し、NLを発現するレポーターHBVを200μg/mlの抗体共存下で感染させた。
【0087】
感染5日後、Nano-Glo(R) Luciferase Assay System(Cat;1110、プロメガ社)を用いてNL活性を測定した結果を図1に示す。図1に示すとおり、5A9C6がウイルス感染を約50%阻害するNTCP中和抗体であることが認められた。なお、細胞毒性をCellTiter-Glo(プロメガ)で測定した結果、5A9C6に対する毒性はないことを確認した。
【0088】
[試験例3:野生型HBVを用いたNTCP中和活性の確認]
本試験例では、初代肝培養細胞(フェニックスバイオ社)及び野生型HBVを用い、試験例2で中和活性を確認した5A9C6の、野生型BHVに対する感染阻害効果を確認した。
【0089】
野生型HBVは、HepAD38細胞の上清からHBV genotyoeDのウイルスをPEG溶液(13% PEG6000、1.5M NaCl、1mM EDTA、pH8.0及び10mM HEPES。pH7.6)により、100,000gで3時間遠心し、ペレットをTNE buffer(10mM Tris-HCl、50mM NaCl、1mM EDTA)で懸濁し、100倍濃縮して作製した。
【0090】
5A9C6及びコントロール抗体をそれぞれ200μg/mlで1時間、初代肝培養細胞に暴露し、500ゲノム/細胞となるよう野生型HBVを200μg/mlの抗体共存下で感染させた。感染7日後、HBe抗原量をルミパルス(富士レビオ)で測定した。結果を図2に示す。図2に示す通り、コントロール抗体と比較し5A9C6は野生型HBV感染を約50%阻害するNTCP中和抗体であることが認められた。なお、細胞毒性をCellTiter-Glo(プロメガ)で測定した結果、5A9C6に対する毒性はないことを確認した。
【0091】
[試験例4:CDR解析]
本試験例では、試験例2及び3で中和活性を確認した5A9C6のCDRを、Kabat、IMGT及びParatomeを用いて解析した。その結果、上記表1に示すCDRを決定した。また、5A9C6のシグナルペプチドを、SignalP5.0を用いて解析した。その結果、重鎖可変領域のシグナルペプチドのアミノ酸配列は配列番号20に示すアミノ酸配列の1位~19位に該当する配列であり、軽鎖可変領域のシグナルペプチドのアミノ酸配列は配列番号21に示すアミノ酸配列の1位~18位に該当する配列であった。
【0092】
[試験例5:エピトープ解析]
本試験例では、試験例2及び3で中和活性を確認した5A9C6のエピトープを解析した。
【0093】
ヒトNTCP(配列番号1)にmycタグを融合し、配列番号1の第1位-第160位からなる断片、第81位-第349位からなる断片、第161位-第349位からなる断片をPCRで増幅し、それぞれ、CSII-CMV-MCS(CMVプロモーターを含むレンチウイルス構築物のバックボーンベクター)に挿入した。それぞれのベクターをHepG2細胞に導入し、その発現をウエスタンブロッティングで確認した。結果を図3に示す。図3に示す通り、それぞれのNTCP断片について、mycタグ抗体(セルシグナリングテクノロジー)により発現を確認した。5A9C6を用いて同様に発現確認を行った。結果を図4に示す。図4に示す通り、配列番号1の第1位-第160位からなるNTCP断片のみが発現を確認できた。図3及び図4の結果から、5A9C6のエピトープが配列番号1の第1位-第160位のいずれかにあることが示された。
【0094】
次に、ヒトNTCPとマウスNTCPをHepG2に発現させ、5A9C6を用いてウエスタンブロット法でその発現を検討した。結果を図5に示す。図5が示す通り、5A9C6はヒトNTCP、マウスNTCPの両方と結合できた。
【0095】
ヒトNTCPは9回膜貫通の膜タンパク質で、N末端側が細胞外ドメインとして知られている。5A9C6はHBV感染阻害効果があることから、NTCPの細胞外ドメインを認識すると考えられ、またヒトNTCPおよびマウスNTCPと結合でき、さらに配列番号1の第1位-第160位のいずれかにエピトープを有すると結論付けられた。
【0096】
上記の結論に基づくと、エピトープの候補としては、第3位のアラニン周辺、第28位のセリン周辺、第40位のロイシン周辺、第44位のシステイン周辺が示唆された。そこでこれらの部位に変異を有する変異体(A3M、S28G、V29A、I30A、L40A、S41A、C44A、T45A)を作製してHepG2に発現させ、mycタグ抗体及び5A9C6との結合能をウエスタンブロット法で検討した。結果を図6に示す。図6に示す通り、NTCP3番目のアラニンをメチオニンに変えた変異体(A3M)のみ5A9C6と結合できなかった。
【0097】
さらにA3MをHepG2細胞に発現させ(HepG2-NTCP-A3M-myc細胞)、5A9C6のHBV感染阻害効果の検討を行った。具体的には、5A9C6及びコントロール抗体をそれぞれ200μg/mlで1時間、野生型HepG2細胞又はHepG2-NTCP-A3M-myc細胞に暴露し、レポーターHBVを200μg/mlの抗体共存下で感染させた。感染5日後、NL活性を測定した結果を図7に示す。図7に示すとおり、コントロール抗体と比較し5A9C6の抗HBV阻害効果は全く観察されなかった。結果、5A9C6がNTCPの3番目のアラニンを認識するNTCP中和抗体と結論づけた。
【0098】
[試験例6:NTCP検出試験]
本試験例では、5A9C6のNTCP検出能を試験した。具体的には、チャンバー上にHepG2-NTCP-mycを播き、細胞を4%ホルムアルデヒドで10分間固定し、5%FBSでブロッキングした後、500倍希釈で5A9C6を細胞に添加し、室温で1時間反応させた。細胞を洗浄し、Alexa488-anti-mouse IgG(インビトロジェン)を500倍希釈で添加し、1時間反応させて洗浄し、共焦点レーザー顕微鏡でNTCPの発現を観察した。
【0099】
結果、NTCPの発現がないHepG2では全くシグナルは観察されなかったが、図8に示すように、HepG2-NTCPでは膜状に強いNTCPのシグナルが観察された。
【配列表フリーテキスト】
【0100】
配列番号3は、NTCP中和抗体の、kabat/IMGT/paratomeの組み合わせにより決定される重鎖相補性決定領域1の配列である。
配列番号4は、NTCP中和抗体の、kabatにより決定される重鎖相補性決定領域1の配列である。
配列番号5は、NTCP中和抗体の、IMGTにより決定される重鎖相補性決定領域1の配列である。
配列番号6は、NTCP中和抗体の、paratomeにより決定される重鎖相補性決定領域1の配列である。
配列番号7は、NTCP中和抗体の、kabat/IMGT/paratomeの組み合わせにより決定される重鎖相補性決定領域2の配列である。
配列番号8は、NTCP中和抗体の、kabatにより決定される重鎖相補性決定領域2の配列である。
配列番号9は、NTCP中和抗体の、IMGTにより決定される重鎖相補性決定領域2の配列である。
配列番号10は、NTCP中和抗体の、paratomeにより決定される重鎖相補性決定領域2の配列である。
配列番号11は、NTCP中和抗体の、kabat/IMGT/paratomeの組み合わせにより決定される重鎖相補性決定領域3の配列である。
配列番号12は、NTCP中和抗体の、kabatにより決定される重鎖相補性決定領域3の配列である。
配列番号13は、NTCP中和抗体の、kabat/IMGT/paratomeの組み合わせにより決定される軽鎖相補性決定領域1の配列である。
配列番号14は、NTCP中和抗体の、IMGTにより決定される軽鎖相補性決定領域1の配列である。
配列番号15は、NTCP中和抗体の、paratomeにより決定される軽鎖相補性決定領域1の配列である。
配列番号16は、NTCP中和抗体の、kabat/IMGT/paratomeの組み合わせにより決定される軽鎖相補性決定領域2の配列である。
配列番号17は、NTCP中和抗体の、kabatにより決定される軽鎖相補性決定領域2の配列である。
配列番号18は、NTCP中和抗体の、kabat/IMGT/paratomeの組み合わせにより決定される軽鎖相補性決定領域3の配列である。
配列番号19は、NTCP中和抗体の、paratomeにより決定される軽鎖相補性決定領域3の配列である。
配列番号20は、NTCP抗体の重鎖可変領域の配列である。
配列番号21は、NTCP抗体の軽鎖可変領域の配列である。
配列番号22は、NTCP中和抗体の、kabat/IMGT/paratomeの組み合わせにより決定される重鎖相補性決定領域1をコードするDNAの配列である。
配列番号23は、NTCP中和抗体の、kabat/IMGT/paratomeの組み合わせにより決定される重鎖相補性決定領域2をコードするDNAの配列である。
配列番号24は、NTCP中和抗体の、kabat/IMGT/paratomeの組み合わせにより決定される重鎖相補性決定領域3をコードするDNAの配列である。
配列番号25は、NTCP中和抗体の、kabat/IMGT/paratomeの組み合わせにより決定される軽鎖相補性決定領域1をコードするDNAの配列である。
配列番号26は、NTCP中和抗体の、kabat/IMGT/paratomeの組み合わせにより決定される軽鎖相補性決定領域2をコードするDNAの配列である。
配列番号27は、NTCP中和抗体の、kabat/IMGT/paratomeの組み合わせにより決定される軽鎖相補性決定領域3をコードするDNAの配列である。
配列番号28は、NTCP抗体の重鎖可変領域をコードするDNAの配列である。
配列番号29は、NTCP抗体の軽鎖可変領域をコードするDNAの配列である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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