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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026061
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20220203BHJP
   A47C 31/02 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
B60N2/58
A47C31/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129342
(22)【出願日】2020-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】下西 孝一
(72)【発明者】
【氏名】遠地 淳司
(72)【発明者】
【氏名】礒田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】平野 真弘
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087DE03
(57)【要約】
【課題】高い作業性をもってクッションパッドに対してトリムを固定することができる構造を有するシートを提供する。
【解決手段】シートは、クッションパッドとトリム12とクリップ13とを有する。クッションパッドは、裏面11cに露出する硬質パッド111を有する。硬質パッド111には、溝部11dが設けられている。トリム12は、溝部11dの近傍に配された端縁部12aを有する。トリム12の端縁部12aは、クリップ13のトリム固定部13aに固定された固定部12cを有する。クリップ13は、ベース部13bと押圧部13cが溝部11dに挿入される。トリム12は、トリム固定部13aの端部13iの近傍に、作業者の指500aが挿通可能である窓部12dを有する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座者を支持する支持領域と、当該支持領域を除く領域であって厚み方向に穴部が設けられた他領域とを有するクッションパッドと、
前記クッションパッドにおける前記支持領域を覆う被覆領域と、前記穴部の近傍に配された端縁部とを有するトリムと、
前記トリムの前記端縁部が固定されるトリム固定部と、前記穴部に挿入される挿入部とを有するクリップと、
を備え、
前記トリム固定部は、平板形状を有するとともに、前記穴部に前記挿入部を挿入した状態で、当該穴部の周辺における前記クッションパッドの外面に沿うように配され、
前記トリムの前記端縁部は、前記トリム固定部の端部の一部を包み込み可能な包み込み部を有する、
シート。
【請求項2】
請求項1に記載のシートにおいて、
前記トリムは、前記端縁部が前記トリム固定部の厚み方向における前記クッションパッドとは反対側に固定されているとともに、前記トリム固定部の前記端部またはその近傍に、C字形のスリットにより形成された開閉可能な窓部を有し、
前記窓部が前記包み込み部である、
シート。
【請求項3】
請求項2に記載のシートにおいて、
前記トリム固定部と前記挿入部とは、ともに平面視で矩形状を有し、
前記トリム固定部は、前記穴部に前記挿入部を挿入した状態で、当該穴部から離間した一端部と、前記穴部側で前記挿入部と連続する他端部とを有し、
前記トリム固定部の前記端部は、前記一端部であって、
前記トリムの前記窓部は、前記トリム固定部の前記一端部に沿い、且つ、互いに離間した状態で少なくとも2つ設けられている、
シート。
【請求項4】
請求項3に記載のシートにおいて、
前記クッションパッドは、前記トリム固定部の前記一端部およびその近傍領域において、当該クッションパッドの厚み方向に凹入されてなる凹部を有する、
シート。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のシートにおいて、
前記トリム固定部を平面視する場合に、
当該トリム固定部は、前記一端部および前記他端部の端同士を繋ぐ側端部を有し、
前記トリムの前記端縁部は、前記トリム固定部の前記側端部を超えて前記トリム固定部から外方に延設され、且つ、前記側端部を包み込み可能な側端被覆部を有し、
前記窓部と前記側端被覆部とが前記包み込み部である、
シート。
【請求項6】
請求項1に記載のシートにおいて、
前記トリム固定部は、前記穴部に前記挿入部を挿入した状態で、当該穴部から離間した一端部と、前記穴部側で前記挿入部と連続する他端部と、前記一端部および前記他端部の端同士を繋ぐ側端部とを有し、
前記トリム固定部の前記端部は、前記側端部であって、
前記トリムの前記端縁部は、前記トリム固定部の前記側端部を超えて前記トリム固定部から外方に延設され、且つ、前記側端部を包み込み可能な側端被覆部を有し、
前記側端被覆部が前記包み込み部である、
シート。
【請求項7】
請求項3から請求項6の何れかに記載のシートにおいて、
前記トリムは、前記トリム固定部の前記一端部を超えて前記トリム固定部の外方に延設され、前記被覆領域に続くように形成されている、
シート。
【請求項8】
請求項3から請求項7の何れかに記載のシートにおいて、
前記トリムは、前記トリム固定部に対して、当該トリム固定部の前記一端部に沿って線状に延びる部分で固定されている、
シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに関し、特にクッションパッドに対して固定するトリムの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用シートなどのシートには、着座者の臀部を支持するシートクッションや着座者の背中を支持するシートバックにおいて、樹脂材料などからなるクッションパッドが皮革やビニールレザーなどからなるトリムによって覆われた構造が採用されている。クッションパッドに対するトリムの固定は、クッションパッドの裏面(臀部や背中が当たる側とは反対側の面)でなされる。
【0003】
特許文献1には、クッションパッドの裏面において、クッションパッドと一体成形されたシートフレームに対して、トリムの端縁部をオームクリップを用いて固定してなる構造が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、クッションパッドの裏面において、クッションパッドに設けられた穴部に対して、先端が鏃形状をし、トリムの端縁部が固定された留め具を押し込むことでクッションパッドにトリムを固定してなる構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09-276091号公報
【特許文献2】特許第6107460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に開示の構造では、高い作業性をもってクッションパッドにトリムを固定することが困難である。具体的に、特許文献1に開示の構造では、シートフレームに対してオームクリップを取り付ける際にホックリンガーを用いる必要があるが、ホックリンガーは重いため作業性がよくない。
【0007】
また、特許文献2に開示の構造では、上記鏃形状をした部分を穴部に挿入した際に、クッションパッドにおける穴部周辺の部分に沿い、トリムの皺防止のための延出部が留め具に設けられており、クッションパッドに対してトリムを固定する際には、作業者は延出部の側端部を指で持ちながら作業を行うことになる。このため、作業者が上記のような作業を繰り返し行う場合には、手の疲労が蓄積することで作業性が低下することが考えられる。
【0008】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、高い作業性をもってクッションパッドに対してトリムを固定することができる構造を有するシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るシートは、着座者を支持する支持領域と、当該支持領域を除く領域であって厚み方向に穴部が設けられた他領域とを有するクッションパッドと、前記クッションパッドにおける前記支持領域を覆う被覆領域と、前記穴部の近傍に配された端縁部とを有するトリムと、前記トリムの前記端縁部が固定されるトリム固定部と、前記穴部に挿入される挿入部とを有するクリップと、を備え、前記トリム固定部は、平板形状を有するとともに、前記穴部に前記挿入部を挿入した状態で、当該穴部の周辺における前記クッションパッドの外面に沿うように配され、前記トリムの前記端縁部は、前記トリム固定部の端部の一部を包み込み可能な包み込み部を有する。
【0010】
上記態様に係るシートでは、予め端縁部が固定されたクリップの挿入部をクッションパッドに設けられた穴部に押し込むという簡易な作業で、クッションパッドにトリムを固定することができるため、クッションパッドへのトリムの固定に際して、上記特許文献1に開示の技術のように重いホックリンガーを用いる必要はない。
【0011】
また、上記態様に係るシートにおいて、作業者は、包み込み部で包み込まれたトリム固定部の端部の一部を支持し、当該状態で穴部にクリップの挿入部を挿入することができる。即ち、包み込み部は、クリップにおける端部と作業者の指との間に介挿されて緩衝材として機能することになるので、作業者が作業を繰り返し行う場合においても、上記特許文献2に開示の技術のような手の疲労蓄積が防がれ、作業性の低下が抑制される。
【0012】
従って、上記態様に係るシートでは、クッションパッドに対してトリムを固定する際の高い作業性を実現することができる。
【0013】
上記態様に係るシートにおいて、前記トリムは、前記端縁部が前記トリム固定部の厚み方向における前記クッションパッドとは反対側に固定されているとともに、前記トリム固定部の前記端部またはその近傍に、C字形のスリットにより形成された開閉可能な窓部を有し、前記窓部が前記包み込み部である、ことにしてもよい。
【0014】
上記のように、トリムに包み込み部としての窓部を有する構成を採用する場合には、作業者は窓部に指を挿通させ、挿通させた指でトリム固定部の端部を押さえて穴部にクリップの挿入部を挿入することができる。このように窓部を挿通させた指でトリム固定部の端部を支持する場合には、トリムの一部である窓部を間に挟んだ状態でトリム固定部を直に支持することができることとなり、作業者が作業を繰り返し行う場合においても、上記特許文献2に開示の技術のような手の疲労蓄積が防がれ、作業性の低下が抑制される。
【0015】
上記態様に係るシートにおいて、前記トリム固定部と前記挿入部とは、ともに平面視で矩形状を有し、前記トリム固定部は、前記穴部に前記挿入部を挿入した状態で、当該穴部から離間した一端部と、前記穴部側で前記挿入部と連続する他端部とを有し、前記トリム固定部の前記端部は、前記一端部であって、前記トリムの前記窓部は、前記トリム固定部の前記一端部に沿い、且つ、互いに離間した状態で少なくとも2つ設けられている、ことにしてもよい。
【0016】
上記のように、互いに離間した状態で少なくとも2つの窓部を設けることとすれば、作業者は2本の指でクリップを支持することが可能となり、1本の指にかかる力を軽減することができる。よって、作業者が作業を繰り返し行う場合においても、手の疲労蓄積をより確実に防ぐことができ、作業性の低下を抑制するのに更に優位である。
【0017】
上記態様に係るシートにおいて、前記クッションパッドは、前記トリム固定部の前記一端部およびその近傍領域において、当該クッションパッドの厚み方向に凹入されてなる凹部を有する、ことにしてもよい。
【0018】
上記のように、クッションパッドにおけるトリム固定部の上記一端部およびその近傍領域に相当する部分に凹部を設けることにより、作業者が窓部を挿通させた指を凹部に差し込んでクリップのトリム固定部をクッションパッドの外面から離間させることができる。このようにトリム固定部をクッションパッドの外面から離間させることで、トリム固定部の他端部で連続する挿入部を傾けて穴部の側壁面から離間させ、クッションパッドからクリップを容易に取り外すことが可能となる。よって、トリムの張替えなどに際してクッションパッドからトリムを取り外そうとする際の高い作業性を確保するのに優位である。
【0019】
上記態様に係るシートにおいて、前記トリム固定部を平面視する場合に、当該トリム固定部は、前記一端部および前記他端部の端同士を繋ぐ側端部を有し、前記トリムの前記端縁部は、前記トリム固定部の前記側端部を超えて前記トリム固定部から外方に延設され、且つ、前記側端部を包み込み可能な側端被覆部を有し、前記窓部と前記側端被覆部とが前記包み込み部である、ことにしてもよい。
【0020】
上記のように、トリム固定部の側端部を被覆する側端被覆部を包み込み部として設けるようにすれば、作業者は、側端被覆部を間に挟んでトリム固定部の側端部を把持することが可能となる。この場合にも、トリムの側端被覆部が、作業者の指とトリム固定部の側端部との間で緩衝材として機能することになるので、作業者が作業を繰り返し行う場合においても、手の疲労の蓄積を抑制することができ、作業性の低下が抑制される。
【0021】
なお、作業者がクッションパッドにトリムを固定しようとする場合に、作業者は、トリム固定部の端部だけを支持してもよいし、トリム固定部の側端部だけを把持してもよいし、両部分に指を添えて作業を行ってもよい。即ち、上記のようにトリムに側端被覆部も設けることにより、窓部と側端被覆部のうち、作業者が作業し易い方を支持・把持することが選択可能となる。この点からも、作業者の疲労を軽減することができ、作業性の低下を抑制するのに優位である。
【0022】
上記態様に係るシートにおいて、前記トリム固定部は、前記穴部に前記挿入部を挿入した状態で、当該穴部から離間した一端部と、前記穴部側で前記挿入部と連続する他端部と、前記一端部および前記他端部の端同士を繋ぐ側端部とを有し、前記トリム固定部の前記端部は、前記側端部であって、前記トリムの前記端縁部は、前記トリム固定部の前記側端部を超えて前記トリム固定部から外方に延設され、且つ、前記側端部を包み込み可能な側端被覆部を有し、前記側端被覆部が前記包み込み部である、ことにしてもよい。
【0023】
上記のように、トリム固定部の側端部を被覆する側端被覆部を包み込み部として設けるようにすれば、作業者は、側端被覆部を間に挟んでトリム固定部の側端部を把持することが可能となる。この場合にも、トリムの側端被覆部が、作業者の指とトリム固定部の側端部との間で緩衝材として機能することになるので、作業者が作業を繰り返し行う場合においても、手の疲労の蓄積を抑制することができ、作業性の低下が抑制される。
【0024】
上記態様に係るシートにおいて、前記トリムは、前記トリム固定部の前記一端部を超えて前記トリム固定部の外方に延設され、前記被覆領域に続くように形成されている、ことにしてもよい。
【0025】
上記のように、トリムがトリム固定部の上記一端部を超えてトリム固定部の外方に延設され、当該延設部分が被覆領域に続くという構成を採用する場合には、作業者がトリム固定部の一端部または側端部を把持してクリップを穴部が設けられた部分まで移動させるという作業により、トリムに張力をかけることができる。このため、被覆領域に皺を生じ難くしながら、高い作業性を確保するのに優位である。
【0026】
上記態様に係るシートにおいて、前記トリムは、前記トリム固定部に対して、当該トリム固定部の前記一端部に沿って線状に延びる部分で固定されている、ことにしてもよい。
【0027】
上記のように、トリム固定部におけるトリムの固定箇所が、上記方向に線状に延びるようにすれば、トリムの引っ張り度合いにムラを生じ難い。具体的に、上記特許文献1に開示の構造では、トリムがオームクリップを用いてシートフレームに固定されている。そして、シートフレームへの固定箇所は互いに間隔を空けて配された点でトリムが固定される。よって、上記特許文献1に開示の構造では、トリムの引っ張り度合いにムラが生じるため、皺が発生することが考えられる。
【0028】
これに対して、上記のように、トリム固定部におけるトリムの固定箇所を線状に延びるようにすれば、トリムの引っ張り度合いにムラが生じ難くなり、皺の発生が抑制される。
【発明の効果】
【0029】
上記の各態様に係るシートでは、高い作業性をもってクッションパッドに対してトリムを固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第1実施形態に係るシートの構成を示す展開図である。
図2】クッションパッドにおける裏面の構成を示す斜視図である。
図3図2のIII-III線断面を示す断面図である。
図4】硬質パッドに設けられた溝部に対してクリップが係合された状態を示す断面図である。
図5】クリップの構成を示す斜視図である。
図6】クリップのトリム固定部にトリムを固定した状態を示す平面図である。
図7図6のVII-VII線断面を示す断面図である。
図8】クッションパッドへのトリムの取り付け方法を示す断面図である。
図9】第2実施形態に係るシートの構成の内、クリップとトリムとを示す平面図である。
図10図9のX-X線断面を示す断面図である。
図11】クッションパッドへのトリムの取付方法を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一例であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0032】
[第1実施形態]
1.シート1の概略構成
本実施形態に係るシート1は、自動車等の乗物用シートであって、後部座席を一例として採用している。
【0033】
シート1の概略構成について、図1から図3を用いて説明する。なお、本明細書に添付の各図においては、シート1の構成の内、シートクッション10のみを図示し、シートバックの図示を省略している。
【0034】
図1に示すように、シート1のシートクッション10は、クッションパッド11と、トリム12とを備える。クッションパッド11は、オモテ面11aで着座者における臀部を支持する。即ち、クッションパッド11のオモテ面11aが「支持領域」に該当し、それ以外の領域が「他領域」に該当する。
【0035】
図3に示すように、クッションパッド11は、相対的に硬質な硬質パッド111と、相対的に軟質な軟質パッド112とが積層されてなる。軟質パッド112は、クッションパッド11におけるオモテ面11aと前面11bとにおいて、硬質パッド111を覆うように積層されている。硬質パッド111は、クッションパッド11における裏面11c側において、外部に露出している。
【0036】
なお、硬質パッド111は、軟質パッド112に対して相対的に硬質であり、軟質パッド112は、硬質パッド111に対して相対的に軟質である。具体的に、硬質パッド111はビーズ発泡体から構成され形状保持性を有し、軟質パッド112は発泡ウレタン樹脂から構成され弾力性を有する。
【0037】
図1に戻って、トリム12は、クッションパッド11のオモテ面11aおよび前面11bを少なくとも覆うように設けられている。本実施形態では、トリム12におけるオモテ面11aおよび前面11bを覆う領域が「被覆領域」に該当する。トリム12は、例えば、皮革やビニールレザーなどのシート状素材により構成されている。
【0038】
図2に示すように、クッションパッド11を裏面11c側から平面視すると、縁部分を除き硬質パッド111が外部に露出している。そして、硬質パッド111の外縁に沿った状態で、複数の溝部11dが設けられている。複数の溝部11dの各々は、長尺形状の開口を有している。
【0039】
図3に示すように、各溝部11dでは、深さ方向(Z方向)の中程部分に溝部11dの側壁面11gが断面方向外向きに窪んだ窪み部11hが設けられている。
【0040】
図2に戻って、各溝部11dに沿った状態で、且つ、各溝部11dと離間した状態で可撓用溝部11eが設けられている。なお、溝部11dが「穴部」に該当する。
【0041】
図3に示すように、可撓用溝部11eは、溝部11dと略同一の溝深さを有するように形成されている。なお、硬質パッド111における溝部11dと可撓用溝部11eとの間の領域は、外力が加えられることによりX方向に撓む。
【0042】
図2に戻って、溝部11dと可撓用溝部11eとの間の領域であって、溝部11dおよび可撓用溝部11eの開口における長手方向の両側部分には、凹部11fがそれぞれ設けられている。
【0043】
図3に示すように、凹部11fの深さは、溝部11dや可撓用溝部11eの溝深さに比べて浅く形成されている。
【0044】
2.クッションパッド11へのトリム12の固定
クッションパッド11へのトリム12の固定形態について、図4を用いて説明する。
【0045】
図4に示すように、トリム12の端縁部12aがクッションパッド11の裏面11cに位置するように配されている。トリム12の端縁部12aは、クリップ13に固定されている。クリップ13は、その一部が硬質パッド111に設けられた溝部11dに挿入されている。
【0046】
クリップ13におけるトリム12が固定された部分の端部は、硬質パッド111に設けられた凹部11f上に位置する。
【0047】
なお、クリップ13の詳細な構造については後述する。
【0048】
3.クリップ13の構造
クリップ13の構造について、図5を用いて説明する。
【0049】
図5に示すように、クリップ13は、X方向の寸法およびZ方向の寸法に比べてY方向の寸法L13が長い長尺形状を有する。クリップ13におけるY方向寸法は、例えば、50mm~150mmである。図5に示すように、クリップ13は、トリム固定部13aと、ベース部13bと、押圧部13cと、返し部13fと、が一体形成されてなる。クリップ13は、例えば、ポリプロピレンを用いて形成されている。なお、クリップ13におけるベース部13bと押圧部13cとが、「挿入部」に該当する。
【0050】
トリム固定部13aは、Z方向からの平面視において、端部13i,13jと側端部13g、13hとで4辺が画定された矩形状を有する平板である。トリム固定部13aは、端部13jでベース部13bに連続し、端部13iは自由端となっている。なお、端部13iが「一端部」に該当し、端部13jが「他端部」に該当する。
【0051】
押圧部13cは、ベース部13bの底端(図4に示すように、ベース部13dを溝部11dに挿入した際に溝底11j側となる端部)13dで当該ベース部13bに連続し、トリム固定部13a側(図5のZ方向上側)の端部(先端)13eが自由端となっている。押圧部13cは、ベース部13bの底端13dからZ方向の中程部分に向けてベース部13bから離間し、当該中程部分から先端13eに向けてベース部13bに近づくように湾曲した形状で形成されている。
【0052】
ここで、トリム固定部13aおよびベース部13bの厚みは、1~4mm(一例として、2mm)である。これに対して、押圧部13cの最大厚みは、ベース部13bの厚みよりも薄く設定されており、一例として、1.2mmである。このように押圧部13cの厚みをベース部13bの厚みよりも薄くすることにより、ベース部13bおよび押圧部13cを溝部11d内に挿入した際に、当該溝部11dの側壁面11g(図3を参照)からの反力により押圧部13cを矢印(図5を参照)で示すように確実に撓ませることができる。
【0053】
返し部13fは、ベース部13bにおける底端13dの近傍から、ベース部13bの厚み方向(X方向)における押圧部13cとは反対側(図5のX方向右側)に向けて突出し、先端が尖っている。返し部13fは、Z方向における上側の面がトリム固定部13aと略平行な平面で形成されている。返し部13fの突出量は、一例として、1.5mmである。
【0054】
4.トリム12における端縁部12aの構造
トリム12における端縁部12aの構造について、図6および図7を用いて説明する。
【0055】
図6および図7に示すように、トリム12は、端縁部12aがトリム固定部13aに対して固定されている。より具体的には、図7に示すように、トリム12の端縁部12aは、折返し部12bで折り返され、折返し部12bよりも端側の固定部12cでトリム固定部13aに固定されている。折返し部12bは、X方向における端部13iと端部13jとの中程部分に配されている。
【0056】
図6に示すように、トリム12の端縁部12aは、Y方向の幅がトリム固定部13aの幅と略同一に設定されている。そして、トリム12の固定部12cは、Y方向に線状に延びるように形成されている。換言すると、トリム固定部13aへのトリム12の固定は、点でなされるのではなく、線状になされている。これにより、トリム12の引っ張り度合いにムラが生じ難くなり、皺の発生が抑制される。
【0057】
トリム12の端縁部12aには、2つの窓部12dが設けられている。各窓部12dは、トリム固定部13aの端部13iまたはその近傍に対応する箇所に始点および終点を有するように設けられたC字形のスリットにより形成され、作業者が指を挿入することで開くようになっている。なお、窓部12dは、「包み込み部」に該当する。
【0058】
図7に示すように、窓部12dは、クッションパッド11にトリム12を固定しようとする作業者が、指を挿通させることができるサイズで設けられている。なお、2つの窓部12dは、Y方向に互いに離間した状態で設けられている。
【0059】
5.クッションパッド11へのトリム12の取り付け方法
クッションパッド11へのトリム12の取り付け方法について、図8を用いて説明する。
【0060】
図8に示すように、クッションパッド11へのトリム12の取り付けに際しては、先ず、トリム12の各固定部12cをクリップ13のトリム固定部13aに縫い付ける。なお、図8に示すように、トリム12は、窓部12dが設けられた部分よりもX方向左側に延設され、クッションパッド11のオモテ面11aや前面11bを覆う被覆領域に続いている。
【0061】
クッションパッド11へのトリム12の取り付け作業を行う作業者は、当該作業者の手500における指(図8では、親指500a)を窓部12dに差し込み、トリム固定部13aの端部13iを支持する。作業者の手500の他の指(図8では、人差し指500b)でトリム固定部13aにおける端部13j側の部分を支持する。
【0062】
作業者は、上記のようにクリップ13を保持した状態で、クリップ13のベース部13bおよび押圧部13cが溝部11dの開口付近に位置するまでクリップ13を矢印で示すように移動させる。なお、クリップ13のベース部13bおよび押圧部13cが溝部11dの開口付近にきたときに、トリム12に張力がかかり、皺がなくなる。
【0063】
作業者は、クリップ13のベース部13bおよび押圧部13cを溝部11dの開口付近まで移動させた後、人差し指500bに力をいれてベース部13bおよび押圧部13cを溝部11d内に挿入する。クリップ13の底端13dが溝部11dの溝底11jに到達するか、その手前で、押圧部13cの一部が側壁面11gに設けられた窪み部11hに嵌まり込む。これにより、作業者は、手500の感触により溝部11dへのクリップ13の挿入作業が完了したことを実感する。
【0064】
なお、クリップ13において、押圧部13cが可撓性を有するように形成しているので、溝部11d内にベース部13bとともに押圧部13cを挿入した際には、押圧部13cの可撓性により押圧部13cが側壁面11gに対して外向きの押圧力を付加し、ベース部13bが側壁面11iに対して外向きの押圧力を付加する。
【0065】
また、ベース部13bが側壁面11iに押し付けられることにより、返し部13fが側壁面11iに押し込まれてゆく。これにより、返し部13fが側壁面11iに係合し、クリップ13が溝部11dから容易に外れないようにすることができる。
【0066】
以上のように、本実施形態に係るシート1では、予め端縁部12aが固定されたクリップ13のベース部13bおよび押圧部13cをクッションパッド11の溝部11dに押し込むという簡易な作業で、クッションパッド11にトリム12を固定することができる。
【0067】
また、本実施形態に係るシート1では、作業者は、トリム12に設けられた窓部12dに親指500aを挿通させ、挿通させた親指500aでトリム固定部13aの端部13iを押さえて溝部11dにクリップ13のベース部13bおよび押圧部13cを挿入することができる。このとき、トリム12における窓部12dを構成する部分は、クリップ13の端部13iと作業者の親指500aとの間に介在し、窓部12dが緩衝材として機能することになるので、作業者が作業を繰り返し行う場合においても、手500の疲労蓄積が防がれ、作業性の低下が抑制される。
【0068】
従って、本実施形態に係るシート1では、クッションパッド11に対してトリム12を固定する際の高い作業性を実現することができる。
【0069】
さらに、本実施形態に係るクッションパッド11には、凹部11fおよび可撓用溝部11eが設けられている。凹部11fは、溝部11dにクリップ13のベース部13bおよび押圧部13cを挿入した状態で、X方向における端部13iが位置する部分に設けられている。このような位置に凹部11fを設けることにより、クッションパッド11の溝部11dからクリップ13を取り外そうとした場合に、作業者は親指500aを窓部12dに挿通させて凹部11f内に差し込む。そして、作業者は、親指500aでトリム固定部13aをクッションパッド11の裏面11cから離間させる。これにより、溝部11d内において、ベース部13bおよび押圧部13cを撓ませることができる。
【0070】
さらに、作業者は、凹部11fに差し込んだ親指500aでクッションパッド11に対して矢印とは逆向きの力をいれ、クッションパッド11における溝部11dと可撓用溝部11eとの間の部分を撓ませる。これにより、溝部11dの開口幅を広げることができ、溝部11dからクリップ13のベース部13bおよび押圧部13cを容易に抜き出すことが可能となる。
【0071】
なお、上記のようなクッションパッド11からのクリップ13の取り外しは、例えば、トリム12の張替えなどの際に行われる。
【0072】
ここで、クッションパッド11へのトリム12の取り付け方法の他の例として、次のような方法を採用することもできる。この例では、作業者の立ち位置(作業位置)が、トリム12が延びる方向とは反対側(図8のX方向右側)を想定している。
【0073】
作業者は、トリム12に設けられた窓部12dに人差し指500bを挿通させ、挿通させた人差し指500bをトリム固定部13aの端部13iに引っ掛ける。そして、人差し指500bでトリム固定部13aの端部13iを引っ掛けた状態で、クリップ13を作業者の側(図8のX方向右側)に引き寄せるようにクリップ13を移動させて、溝部11dにクリップ13のベース部13bおよび押圧部13cを挿入することができる。
【0074】
上記のような他の例に係る方法を採用すれば、作業者の立ち位置との関係でクッションパッド11を回転させたり、作業者が移動したりすることなくトリム12をクッションパッド11に固定することができる。即ち、予めトリム12の端縁部12aが固定されたクリップ13のトリム固定部13aがベース部13bよりも作業者から遠い側にある場合においても、高い作業性をもってトリム12をクッションパッド11に固定することができる。
【0075】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係るシートについて、以下説明する。なお、本実施形態に係るシートは、トリム22の端縁部22aの形状が上記第1実施形態と異なる点であり、その他は上記第1実施形態と同じである。よって、以下では、差異点に絞って説明する。
【0076】
1.トリム22における端縁部22aの構造
トリム22における端縁部22aの構造について、図9および図10を用いて説明する。
【0077】
図9および図10に示すように、本実施形態に係るトリム22の端縁部22aについても、折返し部(図示を省略)で折り返され、固定部22bでクリップ13のトリム固定部13aに固定されている。トリム22の端縁部22aは、トリム固定部13aの側端部13g,13hよりもY方向外側に延設された側端被覆部22dを有する。なお、側端被覆部22dは、「包み込み部」に該当する。
【0078】
図10に示すように、トリム22の側端被覆部22dは、矢印Bで示すようにトリム固定部13aの側端部13g,13hを覆うように垂れ下がるように構成されている。
【0079】
2.クッションパッド11へのトリム22の取り付け方法
クッションパッド11へのトリム22の取り付け方法について、図11を用いて説明する。
【0080】
本実施形態においても、クッションパッド11へのトリム22の取り付けに際しては、先ず、トリム22の固定部22b(図10を参照)をクリップ13のトリム固定部13aに縫い付ける。なお、本実施形態でも、トリム22は、トリム固定部13aの端部13i(図5を参照)よりもX方向左側に延設され、クッションパッド11のオモテ面11aや前面11bを覆う被覆領域に続いている。
【0081】
作業者は、当該作業者の手501における親指501aをトリム固定部13aの上に載置し、人差し指501bでトリム固定部13aの側端部13g,13h(図9および図10を参照)を支持する。このとき、図10で示したように、トリム22の側端被覆部22dがトリム固定部13aの側端部13g,13hを覆うように垂れ下がるので、作業者の手501における人差し指501bと側端部13g,13hとの間に側端被覆部22dが介挿されることになる。
【0082】
作業者は、上記のようにクリップ13を保持した状態で、クリップ13のベース部13bおよび押圧部13cが溝部11dの開口付近に位置するまでクリップ13を移動させた後、親指501aに力をいれてベース部13bおよび押圧部13cを溝部11d内に挿入する。
【0083】
本実施形態に係るシートでは、予め端縁部22aが固定されたクリップ13のベース部13bおよび押圧部13cをクッションパッド11に設けられた溝部11dに押し込む(挿入する)という簡易な作業で、クッションパッド11にトリム22を固定することができる。
【0084】
また、本実施形態に係るシートにおいて、作業者は、側端被覆部22dを間に挟んでトリム固定部13aの側端部13g,13hを把持することが可能となる。この場合、トリム22の側端被覆部22dが、作業者の人差し指501bとトリム固定部13aの側端部13g,13hとの間で緩衝材として機能することになるので、作業者が作業を繰り返し行う場合においても、手501の疲労蓄積を抑制することができる。
【0085】
従って、本実施形態に係るシートでも、クッションパッド11に対してトリム22を固定する際の高い作業性を実現することができる。
【0086】
[変形例]
上記第1実施形態ではトリム12に窓部12dを設け、上記第2実施形態ではトリム22に側端被覆部22dを設けることとしたが、本発明は、トリムに上記第1実施形態と同様の窓部と上記第2実施形態と同様の側端被覆部の両方を設けることとしてもよい。トリムに窓部と側端被覆部の両方を設けることとすれば、クッションパッドにトリムを取り付けようとする作業者は、自らの作業性を考慮して窓部と側端被覆部の一方、あるいは両方を使用するかを選択することが可能となる。よって、多くの作業者に対して高い作業性を実現するのに優位である。
【0087】
上記第1実施形態および上記第2実施形態では、自動車の後部座席に適用されるシート1を一例として採用したが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、前部座席に適用されるシートや、室内で用いられるシートなどに適用することも可能である。
【0088】
また、上記第1実施形態および上記第2実施形態では、着座者の臀部を支持するシートクッション10を一例としたが、本発明は、シートバックについても適用が可能である。
【0089】
上記第1実施形態および上記第2実施形態では、図2および図5で示したように、溝部11dの開口に沿った長尺形状のクリップ13を採用することとしたが、本発明は、クリップの形状を長尺形状に限定するものではない。ただし、トリム12,22の皺の発生を抑制するという観点からは、上記第1実施形態および上記第2実施形態のように長尺形状のクリップを採用し、トリム固定部13aに対して線状にトリム12,22を固定することが望ましい。
【0090】
上記第1実施形態および上記第2実施形態では、クリップ13のベース部13bと押圧部13cとをクッションパッド11の溝部11dに挿入することとしたが、本発明は、クリップにおける溝部に挿入する部分をこれらに限定するものではない。例えば、上記特許文献2に開示の留め具と同様の構造を有するクリップを溝部に挿入することとしてもよい。
【0091】
上記第1実施形態および上記第2実施形態では、クッションパッド11のオモテ面11aが着座者の臀部を支持する支持領域、裏面11cが溝部11dが設けられてなる他領域であることとしたが、本発明は、溝部を設ける領域を裏面に限定するものではない。例えば、前面の下部や後面に溝部を設けることもできる。
【0092】
上記第1実施形態では、トリム12に2つの窓部12dを設けることとしたが、本発明では、トリムに1つの窓部を設けてもよいし、3つ以上の窓部を設けてもよい。
【0093】
上記第1実施形態および上記第2実施形態では、溝部11d、可撓用溝部11e、および凹部11fを硬質パッド111に設けることとしたが、本発明では、溝部、可撓用溝部、および凹部の少なくとも一部を軟質パッドに設けることとしてもよい。
【0094】
また、本発明は、可撓用溝部や凹部がクッションパッドに設けられていない形態も包含する。
【符号の説明】
【0095】
1 シート
10 シートクッション
11 クッションパッド
11d 溝部(穴部)
11f 凹部
12,22 トリム
12a 端縁部
12d 窓部(包み込み部)
13 クリップ
13a トリム固定部
13b ベース部(挿入部)
13c 押圧部(挿入部)
13g,13h 側端部
13i 端部(一端部)
13j 端部(他端部)
22d 側端被覆部(包み込み部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11