(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026089
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】磁気記録情報処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/09 20060101AFI20220203BHJP
G11B 5/02 20060101ALI20220203BHJP
G11B 20/10 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
G11B5/09 321D
G11B5/02 Y
G11B5/02 Z
G11B20/10 321Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129382
(22)【出願日】2020-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】二村 史彦
【テーマコード(参考)】
5D044
5D091
【Fターム(参考)】
5D044BC01
5D044CC08
5D044FG07
5D091AA11
5D091BB06
5D091HH08
5D091HH13
(57)【要約】
【課題】磁気カードから磁気情報を読み取る際に、自動利得制御を用いることなくAD変換器として高分解能のものも必要とせずに、磁気ヘッドから出力される磁気再生波形の振幅の大小によらずに高いS/N比で良好に復調できるようにする。
【解決手段】磁気ヘッド10から出力される磁気再生波形を第1増幅率で増幅した信号を出力する増幅器11と、磁気再生波形を第1増幅率よりも大きな第2増幅率で増幅した信号を出力する増幅器12と、増幅器11,12から出力された信号をそれぞれ第1出力値及び第2出力値として出力するAD変換部21,22と、第2出力値が所定の飽和判定値以内であれば第2出力値を用いそうでないときには第1出力値を用いて磁気再生波形におけるピーク位置を検出する制御部23と、を設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体に記録された磁気情報を取得して磁気再生波形を出力する磁気ヘッドと、
前記磁気再生波形を第1増幅率で増幅した信号を出力する第1増幅手段と、
前記磁気再生波形を前記第1増幅率よりも大きな第2増幅率で増幅した信号を出力する第2増幅手段と、
前記第1増幅手段から出力された前記信号をデジタル信号に変換して第1出力値として出力する第1AD変換部と、
前記第2増幅手段から出力された前記信号をデジタル信号に変換して第2出力値として出力する第2AD変換部と、
前記第2出力値が所定の飽和判定値以内であるときには前記第2出力値を用いて前記磁気再生波形におけるピーク位置を検出し、前記第2出力値が前記飽和判定値以内ではないときには前記第1出力値を用いて前記ピーク位置を検出する制御部と、
を有する磁気記録情報処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ピーク位置を検出したときに、そのときの前記第1出力値を使用して、前記磁気再生波形における次のピーク位置を前記第1出力値に基づいて検出するときに用いる閾値を決定する、請求項1に記載の磁気記録情報処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2出力値を用いて前記ピーク位置を検出したときに、当該第2出力値を使用して、前記磁気再生波形における次のピーク位置を前記第2出力値に基づいて検出するときに用いる閾値を決定する、請求項1または2に記載の磁気記録情報処理装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1出力値を用いて前記ピーク位置を検出したときに、前記磁気再生波形における次のピーク位置を前記第2出力値に基づいて検出するときに用いる閾値を、前記飽和判定値に基づいて決定する、請求項1または2に記載の磁気記録情報処理装置。
【請求項5】
前記制御部は、検出された前記ピーク位置に基づいて前記磁気情報を復調する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気記録情報処理装置。
【請求項6】
磁気記録媒体に記録された磁気情報を磁気ヘッドによって読み取って得た磁気再生波形を第1増幅率で増幅しデジタル信号に変換して第1出力値とし、
前記磁気再生波形を前記第1増幅率よりも大きな第2増幅率で増幅しデジタル信号に変換して第2出力値とし、
前記第2出力値が所定の飽和判定値以内であるときには前記第2出力値を用いて前記磁気再生波形におけるピーク位置を検出し、前記第2出力値が前記飽和判定値以内ではないときには前記第1出力値を用いて前記ピーク位置を検出する、磁気記録情報処理方法。
【請求項7】
前記ピーク位置を検出したときに、そのときの前記第1出力値を使用して、前記磁気再生波形における次のピーク位置を前記第1出力値に基づいて検出するときに用いる閾値を決定する、請求項6に記載の磁気記録情報処理方法。
【請求項8】
前記第2出力値を用いて前記ピーク位置を検出したときに、当該第2出力値を使用して、前記磁気再生波形における次のピーク位置を前記第2出力値に基づいて検出するときに用いる閾値を決定する、請求項6または7に記載の磁気記録情報処理方法。
【請求項9】
前記第1出力値を用いて前記ピーク位置を検出したときに、前記磁気再生波形における次のピーク位置を前記第2出力値に基づいて検出するときに用いる閾値を、前記飽和判定値に基づいて決定する、請求項6または7に記載の磁気記録情報処理方法。
【請求項10】
検出された前記ピーク位置に基づいて前記磁気情報を復調する、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の磁気記録情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体から磁気情報として記録されたデータを読み出すときに用いられる磁気記録情報処理方法と情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気カードなどの磁気記録媒体では、その磁性面における磁化の方向を反転させることによって情報の記録が行われる。磁気記録媒体から情報を読み出すときは、磁気記録媒体を磁気ヘッドに近接させた状態で磁気ヘッドに対して磁気記録媒体を一定方向に搬送する。すると、磁性面での磁化の方向の反転に対応してピークとなるように磁気ヘッドに誘起電圧が発生し、磁気ヘッドは磁気再生波形の信号を出力する。磁気ヘッドからの出力信号を増幅ののち、アナログ/デジタル変換(AD変換)を行い、得られたデジタル信号に対してピーク検知処理を行うことによって、磁気記録媒体から磁気情報の読み出しを行うことができる。
【0003】
ところで磁気ヘッドから出力される磁気再生波形の大きさは、磁気記録媒体における磁化の強さにも依存し、減磁しているカードと発行直後で磁気状態が良好なカードとでは、磁気ヘッドから出力される信号波形の振幅に10倍以上の差がある。磁気再生波形の振幅はカードの移動速度にも比例するが、手でカードを動かすことによって磁気ヘッドに対してカードを相対的に移動させるディップ式の磁気カードリーダの場合、カードの移動速度は低速の場合には50mm/秒程度であり、高速の場合には2000mm/秒程度にもなる。磁気ヘッドとAD変換器との間に挿入される増幅器を設計する場合、減磁していないカードが高速で動かされたときの磁気再生波形の振幅に合わせて増幅率を設定すると、低速でカードが動かされたときや減磁しているカードを対象とするときに、磁気ヘッドから出力される磁気再生波形の振幅が小さくなりすぎ、AD変換器の分解能を下回ってしまったり、信号対雑音比(SN比)が悪化して復調が困難になったりする。特許文献1は、磁気ヘッドとAD変換器の間に増幅器が設けられている磁気ヘッド装置において、AD変換器が出力するデジタル信号の出力値を規定の出力基準値と比較し、比較結果に基づいて増幅器のゲイン(利得)を変化させることを開示している、
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control)技術を適用することにより、磁気ヘッドからの磁気再生波形の振幅によらずにカードからの情報の読み出しを良好に行おうとするものである。しかしながら、利得を外部から制御可能とする増幅器は構成が複雑であり、コスト上昇につながる。AD変換器として高分解能のものすなわちビット幅が広いものを用いることによって磁気再生波形の振幅の大小に対応する方法も考えられるが、高分解能であるAD変換器は高価であるともにビット幅が広いデジタル信号に対する信号処理は演算負荷が大きく、また、ノイズが重畳するので意図したほどの成果を得ることができない。
【0006】
本発明の目的は、自動利得制御を用いることなくAD変換器として高分解能のものも必要とせずに、磁気ヘッドから出力される磁気再生波形の振幅の大小によらずに磁気情報を高いS/N比で良好に復調するために用いられる磁気記録情報処理装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁気記録情報処理装置は、磁気記録媒体に記録された磁気情報を取得して磁気再生波形を出力する磁気ヘッドと、磁気再生波形を第1増幅率で増幅した信号を出力する第1増幅手段と、磁気再生波形を第1増幅率よりも大きな第2増幅率で増幅した信号を出力する第2増幅手段と、第1増幅手段から出力された信号をデジタル信号に変換して第1出力値として出力する第1AD変換部と、第2増幅手段から出力された信号をデジタル信号に変換して第2出力値として出力する第2AD変換部と、第2出力値が所定の飽和判定値以内であるときには第2出力値を用いて磁気再生波形におけるピーク位置を検出し、第2出力値が飽和判定値以内ではないときには第1出力値を用いてピーク位置を検出する制御部と、を有する。
【0008】
本発明の磁気記録情報処理装置では、増幅率が異なる2つの増幅手段と、2つのAD変換部と、を設け、これらの増幅手段とAD変換部とによって磁気再生波形を2通りにデジタル化する。そして、増幅率が大きい方の磁気再生波形では飽和のおそれがあるときには増幅率が小さい方の磁気再生波形を用いてピーク検知を行う。その結果、磁気ヘッドから出力される磁気再生波形の振幅が大きく異なる場合であっても、自動利得制御技術を用いることなく、高いS/N比で良好にピーク位置の検出を行うことができる。ピーク位置を良好に検出できれば、それを用いて磁気情報を高いS/N比で良好に復調することが可能になる。この磁気記録情報処理装置において、2つのAD変換部の各々は高分解能のものである必要はない。例えばサンプルホールド回路を2つ設けるのであれば、単一のAD変換回路を切り替えて使用することにより、2つのAD変換部を実現することができる。
【0009】
本発明の磁気記録情報処理方法は、磁気記録媒体に記録された磁気情報を磁気ヘッドによって読み取って得た磁気再生波形を第1増幅率で増幅しデジタル信号に変換して第1出力値とし、磁気再生波形を第1増幅率よりも大きな第2増幅率で増幅しデジタル信号に変換して第2出力値とし、第2出力値が所定の飽和判定値以内であるときには第2出力値を用いて磁気再生波形におけるピーク位置を検出し、第2出力値が飽和判定値以内ではないときには第1出力値を用いてピーク位置を検出する、
【0010】
本発明の磁気記録情報処理方法では、磁気ヘッドから出力される磁気再生波形を2通りの増幅率で増幅してからデジタル信号に変換し、飽和のおそれがあるときは増幅率が小さい方に対応するデジタル信号を用いてピーク検知を行う。その結果、磁気ヘッドから出力される磁気再生波形の振幅が大きく異なる場合であっても、アナログ/デジタル変換における分解能を高くすることなく、また、自動利得制御技術を用いることなく、高いS/N比で良好にピーク検知を行うことができ、検出されたピーク位置を用いることによって、磁気情報を高いS/N比で良好に復調することが可能になる。
【0011】
第1出力値及び第2出力値にはオフセット成分とノイズとが含まれている。ノイズの影響を除去するために、ピーク位置の検出では各出力値に対して閾値を適用することが好ましく、オフセット成分の変動に対応するためには、ピーク位置を検出するたびにそのときの出力値を使用して閾値を再計算することが好ましい。例えば、ピーク位置を検出したときに、そのときの第1出力値を使用して、磁気再生波形における次のピーク位置を第1出力値に基づいて検出するときに用いる閾値を決定するようにすればよい。このように構成すれば、第1出力値を用いてピーク位置を検出するときに用いる閾値におけるオフセットの影響を除去することができる。
【0012】
第2出力値に対する閾値は、第2出力値の飽和の可能性の有無によってその求め方を変える必要がある。例えば、第2出力値を用いてピーク位置を検出したときに、その第2出力値を使用して、磁気再生波形における次のピーク位置を第2出力値に基づいて検出するときに用いる閾値を決定することができる。すなわち、飽和の可能性がないときは、第1出力値に対する閾値と同様に第2出力値に対する閾値を決定することができる。一方、第1出力値を用いてピーク位置を検出したときには、磁気再生波形における次のピーク位置を第2出力値に基づいて検出するときに用いる閾値を、飽和判定値に基づいて決定することができる。飽和の可能性があるときは、そのときの第2出力値を用いて閾値を決定することは妥当ではないが、飽和判定値を用いることにより、次のピーク位置の検出に用いる閾値を適切に決めることが可能になる。
【0013】
本発明では、検出されたピーク位置に基づいて磁気情報を復調することができる。上述のようにして検出されたピーク位置に基づくことにより、磁気情報をより良好に復調することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、自動利得制御を用いることなくAD変換器として高分解能のものも必要とせずに、磁気ヘッドから出力される磁気再生波形の振幅の大小によらずに磁気情報を高いS/N比で良好に復調できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の一形態の処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】処理装置の構成の別の例を示すブロック図である。
【
図3】ピーク検知処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の一形態の磁気記録情報処理装置(以下、単に「処理装置」と呼ぶ)を示すブロック図である。この処理装置は、磁気カードなどの磁気記録媒体に記録された磁気情報を読み取ってデータとして出力するものである。
【0017】
処理装置は、磁気記録媒体に記録された磁気情報を読み取って磁気再生波形をアナログ信号として出力する磁気ヘッド10と、磁気再生波形に対してアナログ/デジタル変換(AD変換)を行って磁気再生波形をデジタル信号に変換し、このデジタル信号に対して信号処理を行って磁気情報を復調しデータとして出力するプロセッサ20と、第1増幅器11と,第2増幅器12とを備えている。プロセッサ20には、2つの入力端子IN1、IN2が設けられている。磁気ヘッド10の出力が第1増幅器11に入力し、第1増幅器11の出力は、プロセッサ20の入力端子IN1に供給されるとともに、第2増幅器12にも入力する。他方の増幅器12の出力は、プロセッサ20の入力端子IN2に供給されている。
【0018】
プロセッサ20は、例えば組み込み用のマイクロプロセッサあるいはCPU(中央処理装置)によって構成されるものであり、2個のAD変換部すなわち第1AD変換部(ADC1)21及び第2AD変換部(ADC2)22と、制御部23とを論理的に備えている。第1AD変換部21は、入力端子IN1に供給されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、第2AD変換部22は、入力端子IN2に供給されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。2個のAD変換部21,22は、実際に物理的な2個のAD変換回路から構成されていてよいし、2つの入力に対応して設けられた2個のサンプルホールド回路と1個の入力切り替えスイッチと1個のAD変換回路とからなる回路ブロックを用いてスイッチの周期的な切り替えにより論理的に2個のAD変換部21,22として扱えるように構成されたものであってもよい。第1AD変換部21及び第2AD変換部22からの出力は、制御部23に入力する。
【0019】
第1増幅器11、第2増幅器12、第1AD変換部21及び第2AD変換部22が上記のように接続されていることにより、第1増幅器11は、磁気ヘッド10から出力される磁気再生波形を第1増幅率で増幅した信号を出力し、この信号は、第1AD変換部21によってデジタル信号に変換されて第1出力値として制御部23に入力する。第1出力値は、磁気再生波形を第1増幅率で増幅したのちの波形をデジタル値として表したものである。同様に、第2増幅器12は、磁気再生波形を第2増幅率で増幅した信号を出力し、この信号は、第2AD変換部22によってデジタル信号に変換されて第2出力値として制御部23に入力する。第2増幅率は第1増幅率よりも大きい。第2出力値は、磁気再生波形を第2増幅率で増幅したのちの波形をデジタル値として表したものであって、波形として、第1出力値よりも大きくなっている。制御部23は、第1出力値及び第2出力値に基づき、磁気再生波形におけるピーク位置(すなわちピークとなるタイミング)を検知し、検知結果に基づいて磁気情報を復調してデータを出力する。ピーク位置を検出した後の復調処理は、従来の磁気カードリーダなどにおいて実行されている処理と同様のものであるので、復調処理についての具体的な処理内容の説明は省略する。制御部23が行うピーク検知処理については後述する。
【0020】
本発明に基づく処理装置において、第1増幅器11及び第2増幅器12の配置は
図1に示したものに限定されるものではない。
図2は、本実施形態の処理装置の別の例の構成を示している。この処理装置は、磁気ヘッド10が出力する磁気再生波形が、第1増幅率を有する第1増幅器11と、第1増幅率よりも大きな第2増幅率を有する第2増幅器12とに対して並列に供給されている点で、
図1に示すものと異なっている。第1増幅器11及び第2増幅器12の出力は、それぞれ、プロセッサ20の入力端子IN1,IN2に供給されている。
図2に示す処理装置でのプロセッサ20の構成及び動作は、
図1を用いて説明した処理装置と同じである。
図2に示す処理装置は、第2増幅器12に関して
図1に示すものよりも大きな増幅率(すなわち高いゲイン)を必要とするが、その代わり、増幅器をカスケードに接続しないので、S/N比を良好に保つ点では有利である。
【0021】
次に、制御部23におけるピーク検知処理について説明する。
図1に示す処理装置でも
図2に示す処理装置でもピーク検知処理自体は同一である。制御部23には、同じ磁気再生波形を異なる増幅率で増幅した上でAD変換を行って得た第1出力値及び第2出力値が入力する。本実施形態の処理装置では、第1出力値及び第2出力値のうちピーク検知により適したものを動的に選択し、選択された出力値に基づいてピーク検知を行う。
図3は、制御部23が行うピーク検知処理を示している。
図3において、第1AD処理部21は「ADC1」と記載され、第2AD処理部22は「ADC2」と記載されている。また、以下では、磁気情報の読み出しの対象となる磁気記録媒体が磁気カードであるものとして説明を行う。
【0022】
まず、不図示のセンサにより磁気カードの移動の開始を検知したら、あるいは不図示のモータがカードの搬送を開始したら、制御部23はピーク検知処理を開始する。まず、ステップ101において制御部21は、無信号時の第1AD変換部21及び第2AD変換部22の出力値を確認する。これは、無信号時であっても出力値が0とはならずにオフセットを有することがあり、このオフセットの影響を除去するためである。次にステップ102において制御部23は、オフセット値、すなわち無信号時の出力値に対して判定基準値を加算及び減算して1対の初期閾値を得る。初期閾値は、第1AD変換部21の出力に対して用いるものと、第2AD変換部22の出力に対して用いるものとの2種類があり、したがって判定基準値も2種類ある。閾値は、ピーク検知を行う際に、ノイズをピークとして誤認しないように磁気再生波形におけるある大きさ以上のピークのみを検出するために使用されるものである。
【0023】
磁気再生波形では、正方向のピークと負方向のピークとが交互に現れるから、ピークの判定のために、正方向のピークの検出に用いる正方向への閾値と負方向のピークの検出に用いる負方向への閾値との1対の閾値が必要となる。磁気再生波形が正方向への閾値を超えたのちに磁気再生波形の極大を検出したときに正方向のピークを検知し、負方向への閾値を下回ったのちに磁気再生波形の極小を検出したときに負方向のピークを検知したと判定する場合には、オフセット値に判定基準値を加算したものが正方向への初期閾値となり、オフセット値から判定基準値を減算したものが負方向への初期閾値となる。以下では、磁気再生波形が正方向(負方向)の閾値を上回った(下回った)のちに磁気再生波形の極大(極小)を検出したときに正方向(負方向)のピークを検知したと判定する場合(これを第1の判定方法と呼ぶ)を説明するが、ピークの判定方法はこの第1の判定方法に限定されるものではない。例えば、磁気再生波形が極大(極小)となった時刻を記憶し、その後、磁気再生波形が正方向(負方向)の閾値を下回った(上回った)ときに、先に記憶した時刻が正方向(負方向)のピークである、と判定するピーク検知方法(これを第2の判定方法)もある。このときは、オフセット値から判定基準値を減算したものが正方向への初期閾値となり、オフセット値に判定基準値を加算したものが負方向への初期閾値となる。第2の判定方法を用いる場合であっても、閾値の算出に際して第1の判定方法のときとは判定基準値の加算と減算とが逆になるだけであって、本発明を等しく適用することができる。正方向のピークを検知するために用いる閾値の算出と負方向のピークを検知するために用いる閾値の算出とは、符号が異なるだけで実質的には同一の処理であるから、ここでは閾値の算出などに関しては、正方向の閾値を算出する場合を説明する。
【0024】
初期閾値の算出後、制御部23は、ステップ103において第2AD変換部22の出力値すなわち第2出力値を取得し、ステップ104において第2出力値が飽和判定値以内かどうかを判定する。飽和判定値は正負のピークの両方に対して定められており、ここでは、第2出力値が正側の飽和判定値以下でありかつ負側の飽和判定値以上であるかが判定される。飽和判定値は予め定数として定められている。第2出力値が飽和判定値以内であるときは、増幅率の高い方の磁気再生波形を用いても信号の飽和などが起こらず、適切にピークを検知できると考えられるときであるから、制御部23は、第2AD変換部22の出力に基づいてピーク検知を行い、ステップ105において、ピークを検出できたかを判定する。ピーク検知では、第2AD変換部22の出力値が正方向の閾値を上回って極大となったときに正方向のピークを検出したとし、負方向の閾値を下回って極小となったときに負方向のピークを検出したとする。ステップ105においてピークをまだ検出できないときは、ピークの検出のために、制御部23はステップ103からの処理を繰り返す。
【0025】
ピークを検出したとステップ105において判定したときは、制御部23は、磁気情報の復調のためにそのピーク位置を記憶するとともに、ステップ106において、次のピークを第2AD変換部22の出力値から検出するときに用いる閾値を算出し、ステップ107において、次のピークを第1AD変換部21の出力値から検出するときに用いる閾値を算出する。次のピークは、ステップ105で検出したピークが正方向のピークであれば負方向のピークである。ここではステップ105において負方向のピークを検出したものとする。すると、ステップ106及びステップ107では正方向の閾値が算出される。ステップ106で算出される閾値は、例えば、今回検出したピークでの第2AD変換部22の出力値から、今回のピークとは逆方向である前回検出したピークでの第2AD変換部22の出力値を減算し、この減算結果に1/2を乗じたものに、上述した第2AD変換部22用の判定基準値を加算したものである。なお、前回のピークの検出時において第2AD変換部22の出力が飽和しているとき(すなわち、第1AD変換部21の出力値を用いて前回のピークの検出を行ったとき)は、前回検出したピークでの第2AD変換部22の出力値の代わりに、例えば、飽和判定値を用いることができる。また、制御部23は、第2AD変換部22の出力値によってピークを検出したときの第1AD変換部21の出力値を記憶しており、ステップ107で算出される閾値は、例えば、今回ピークを検出したときの第1AD変換部21の出力値から前回ピークを検出したときの第1AD変換部21の出力値を減算したものに1/2を乗じ、さらに、第1AD変換部21用の判定基準値を加算したものである。このようにピークを検出するごとに閾値を再計算することにより、各AD変換部21,22の出力におけるオフセットが経時変化するような場合であっても、的確にピークを検知できるようになる。ステップ107の実行後、処理はステップ108に移行する。なお、ピークの検出に関し第1の判定方法ではなくて第2の判定方法を適用している場合には、ステップ106において、正方向の閾値は、今回検出したピークでの第2AD変換部22の出力値から、今回のピークとは逆方向である前回検出したピークでの第2AD変換部22の出力値を減算し、この減算結果に1/2を乗じたものから、上述した第2AD変換部22用の判定基準値を減算することによって算出される。同様にステップ107において算出される閾値は、今回ピークを検出したときの第1AD変換部21の出力値から前回ピークを検出したときの第1AD変換部21の出力値を減算したものに1/2を乗じ、これから第1AD変換部21用の判定基準値を減算したものである。
【0026】
ステップ104において第2出力値が飽和判定値以内ではない場合、すなわち、第2出力値が正側の飽和判定値を上回るか負側の飽和判定値を下回る場合は、第2出力値において飽和の可能性があるので、第2出力値を用いてピーク位置の検出を行うことができない。この場合は制御部23は、ステップ111において、第1AD変換部21の出力値を取得し、その後、その出力値に基づいてピーク検知を行い、ステップ112において、ピークを検出できたかを判定する。ピークの検出では、第1AD変換部21の出力値が正方向の閾値を超えて極大となったときに正方向のピークを検出したとし、負方向の閾値を下回って極小となったときに負方向のピークを検出したとする。ステップ112においてピークをまだ検出できないときは、制御部23はピーク検出の処理を繰り返す。
【0027】
ステップ112においてピークを検出したと判定したときは、制御部23は、磁気情報の復調のためにそのピーク位置を記憶するとともに、ステップ113において、ステップ107に関して説明したものと同様の手順で、次のピークを第1AD変換部21の出力値から検出するときに用いる閾値を算出し、ステップ114において、次のピークを第2AD変換部22の出力値から検出するときに用いる閾値を算出する。ステップ114では、ステップ106に関して説明したものと同様の手順で閾値を算出するが、今回のピークを検出したときに第2AD変換部22の出力値が飽和している可能性があるので、今回の第2AD変換部22の出力値の代わりに飽和判定値を使用する。ステップ114の実行後、処理はステップ108に移行する。
【0028】
ステップ108では制御部23は、磁気カードの移動あるいは搬送が終了したかを判断する。磁気カードの移動が終わっていないときは、次のピークの検出のために、制御部23は、ステップ103からの処理を繰り返す。磁気カードの移動が終了したときは、制御部23は、ピーク検知の処理を終了する。
【0029】
以上の説明では、カードリーダがディップ式であってもセンサによってカードの移動の開始を検知できるものとしているが、センサを備えないカードリーダもある。カードリーダが磁気センサを備えない場合は、カードリーダの磁気ヘッド10の出力を監視し、出力が無信号時に比べて一定以上変動したときに、カードが移動を開始したと判定することができる。例えば、カードの移動の検出の有無にかかわらず
図3に示す処理を実行し、ピークを検出したらそのピークの時刻を保存するとともに、カードが移動を開始したと判定して、ピークに基づく復調の処理などを開始することができる。
【0030】
以上説明した本実施形態の処理装置によれば、固定した増幅率の第1増幅器11及び第2増幅器12と、比較的低分解能の第1AD変換部21及び第2AD変換部22とを用いることにより、すなわち自動利得制御や高分解能のAD変換器を用いることなく、オフセットやノイズの影響を受けずに高いS/N比で磁気再生波形におけるピーク位置を良好に求めることができる。制御部23は、このようにして求めたピーク位置を使用することにより、磁気記録媒体に記録されている磁気情報を高いS/N比で良好に復調することが可能になる。
【符号の説明】
【0031】
10…磁気ヘッド;11…第1増幅器;12…第2増幅器;20…プロセッサ;21…第1AD変換部(ADC1);22…第2AD変換部(ADC2);23…制御部。