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特開2022-26167反応性官能基を有するポリオレフィン樹脂を含む粉体塗料組成物、該組成物により形成される塗膜、および、該塗膜を備える物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026167
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】反応性官能基を有するポリオレフィン樹脂を含む粉体塗料組成物、該組成物により形成される塗膜、および、該塗膜を備える物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 167/00 20060101AFI20220203BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20220203BHJP
   C09D 123/00 20060101ALI20220203BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220203BHJP
【FI】
C09D167/00
C09D5/03
C09D123/00
C09D7/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129507
(22)【出願日】2020-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】北野 真友香
(72)【発明者】
【氏名】吉田 拓弥
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB022
4J038CB081
4J038CB082
4J038CB141
4J038DD001
4J038GA03
4J038GA06
4J038JB12
4J038KA03
4J038NA01
4J038NA03
4J038PA02
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】低光沢な外観の塗膜を与えることができ、かつ、塗装作業性が高く焼付時の塗料のタレが抑制された、ポリエステルを主成分とする粉体塗料組成物を提供すること。
【解決手段】ポリエステル樹脂(A)、硬化剤(B)およびポリオレフィン(C)を含有する粉体塗料組成物であって、ポリオレフィン(C)が反応性官能基を有する、前記組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)、硬化剤(B)およびポリオレフィン(C)を含有する粉体塗料組成物であって、ポリオレフィン(C)が反応性官能基を有する、前記組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)がカルボキシ基またはヒドロキシ基を有する、請求項1に記載の粉体塗料組成物。
【請求項3】
硬化剤(B)がβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物、イソシアネート化合物またはエポキシ化合物である、請求項1または2に記載の粉体塗料組成物。
【請求項4】
ポリオレフィン(C)がカルボキシ基、ヒドロキシ基またはイソシアネート基と反応しうる基を反応性官能基として有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物。
【請求項5】
ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)との総量100質量部に対して、ポリオレフィン(C)を0.5~20質量部含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物。
【請求項6】
体質顔料をさらに含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物。
【請求項7】
ポリオレフィン系粒子をさらに含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物。
【請求項8】
ポリオレフィン系粒子のメルトボリュームフローレイトが100cm/10min以下である、請求項7に記載の粉体塗料組成物。
【請求項9】
ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)との総量100質量部に対して、ポリオレフィン系粒子を1~30質量部含有する、請求項7または8に記載の粉体塗料組成物。
【請求項10】
ポリオレフィン(C)100質量部に対して、ポリオレフィン系粒子を10~150質量部含有する、請求項7~9のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物。
【請求項11】
180℃および20分の条件で厚さ60μmの塗膜を形成したとき、入射角60°における塗膜の光沢度が60以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の粉体塗料組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物により形成される、塗膜。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の粉体塗料組成物により形成された塗膜を備える、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性官能基を有するポリオレフィン樹脂を含む粉体塗料組成物、該組成物により形成される塗膜、および、該塗膜を備える物品に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体塗料は、金属製品の塗装などに広く使用されている。粉体塗料には、溶剤系塗料と比較していくつかのメリットがあり、盛んに開発が行われている。また、粉体塗料は塗装時に有機溶剤を大気中に揮散しないことから、近年、環境性能の点で注目を集めている。
さらに、特殊な意匠性が求められる塗装に対しては、一態様として、特定の添加剤を添加するか、または、特定の樹脂とコポリマーとを混合することによって、低光沢な外観の塗膜を与える粉体塗料が使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1および2には、体質顔料とポリオレフィンワックスとを含有し、低光沢な外観の塗膜を与える粉体塗料組成物が記載されている。
また、特許文献3には、エポキシ樹脂とエチレン/アクリル酸コポリマーとが所定量混合された、低光沢な外観の塗膜を与える粉体塗料組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/168917号
【特許文献2】特開2000-119561号公報
【特許文献3】特開平2-140260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、低光沢な外観の塗膜を与える粉体塗料組成物を得る方法はいくつか知られている。しかしながら、特許文献1および2に記載された粉体塗料組成物は、焼付時の塗料のタレが発生するため塗装作業性が低く、特許文献3に記載された粉体塗料組成物は使用する樹脂が限られるため、耐候性等の課題があった。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものである。つまり、低光沢な外観の塗膜を与えることができ、かつ、塗装作業性が高く焼付時の塗料のタレが抑制された、ポリエステルを主成分とする粉体塗料組成物の提供を、本発明の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記知見などを踏まえ、粉体塗料組成物の設計について様々な検討・試行錯誤を重ねた。その結果、ポリエステル樹脂(A)、硬化剤(B)およびポリオレフィン(C)を含有する粉体塗料組成物であって、ポリオレフィン(C)が反応性官能基を有する粉体塗料組成物とすることで、低光沢な外観の塗膜を与えることができ、かつ、塗装作業性が高く焼付時の塗料のタレが抑制されることを見出し、さらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1] ポリエステル樹脂(A)、硬化剤(B)およびポリオレフィン(C)を含有する粉体塗料組成物であって、ポリオレフィン(C)が反応性官能基を有する、前記組成物。
[2] ポリエステル樹脂(A)がカルボキシ基またはヒドロキシ基を有する、前記[1]に記載の粉体塗料組成物。
[3] 硬化剤(B)がβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物、イソシアネート化合物またはエポキシ化合物である、前記[1]または[2]に記載の粉体塗料組成物。
【0008】
[4] ポリオレフィン(C)がカルボキシ基、ヒドロキシ基またはイソシアネート基と反応しうる基を反応性官能基として有する、前記[1]~[3]のいずれか一つに記載の粉体塗料組成物。
[5] ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)との総量100質量部に対して、ポリオレフィン(C)を0.5~20質量部含有する、前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の粉体塗料組成物。
[6] 体質顔料をさらに含有する、前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の粉体塗料組成物。
【0009】
[7] ポリオレフィン系粒子をさらに含有する、前記[1]~[6]のいずれか一つに記載の粉体塗料組成物。
[8] ポリオレフィン系粒子のメルトボリュームフローレイトが100cm/10min以下である、前記[7]に記載の粉体塗料組成物。
[9] ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)との総量100質量部に対して、ポリオレフィン系粒子を1~30質量部含有する、前記[7]または[8]に記載の粉体塗料組成物。
[10] ポリオレフィン(C)100質量部に対して、ポリオレフィン系粒子を10~150質量部含有する、前記[7]~[9]のいずれか一つに記載の粉体塗料組成物。
【0010】
[11] 180℃および20分の条件で厚さ60μmの塗膜を形成したとき、入射角60°における塗膜の光沢度が60以下である、前記[1]~[10]のいずれか1つに記載の粉体塗料組成物。
[12] 前記[1]~[11]のいずれか一つに記載の粉体塗料組成物により形成される、塗膜。
[13] 前記[1]~[11]のいずれか一つに記載の粉体塗料組成物により形成された塗膜を備える、物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低光沢な外観の塗膜を与え、かつ、塗装作業性が高く焼付時の塗料のタレが抑制された粉体塗料組成物を提供することができる。また、本発明による粉体塗料組成物は、塗膜に高い耐候性を与えることができるポリエステル樹脂を主成分とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、さらに詳しく説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタアクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0013】
<粉体塗料組成物>
本発明の粉体塗料組成物は、ポリエステル樹脂(A)、硬化剤(B)およびポリオレフィン(C)を含有する粉体塗料組成物であって、ポリオレフィン(C)が反応性官能基を有する(以下、前記「ポリオレフィン(C)」を、「反応性官能基を有するポリオレフィン(C)」ともいう)。
かかる構成を採用することにより、低光沢な外観の塗膜を与え、かつ、塗装作業性が高く焼付時の塗料のタレが抑制される理由は必ずしも明らかではないが、以下の理由が考えられる。
【0014】
粉体塗料組成物が、ポリエステル樹脂よりも極性が低いポリオレフィンを含有すると、塗膜形成時に、ポリオレフィンが表面に配向する。それによって、塗膜表面に凹凸が形成され、艶消し効果が得ることができる。
しかしながら、ポリオレフィンには粉体塗料組成物の溶融粘度を下げる働きがあるため、焼付時のタレが生じ、塗装作業性が悪化する傾向がある。
【0015】
ポリオレフィンに代えて、反応性官能基を有するポリオレフィンを使用すると、溶融・硬化時の比較的温度が低い段階では、塗膜表面に配向して塗膜の光沢が下げる効果が得られる一方、溶融した粉体塗料組成物の粘度低下は依然として生じる。そして、さらに温度が上昇すると、反応性官能基を有するポリオレフィンがポリエステル樹脂や硬化剤と反応することで、溶融した粉体塗料組成物の粘度が上昇する。これにより、塗膜の低光沢な外観を保ちつつ、焼付時のタレが抑制され、塗装作業性が向上すると考えられる。
【0016】
なお、念のため述べておくが、上記説明は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0017】
組成物が含有するまたは含有してよい成分や、組成物の性状、物性などについてより詳細に説明する。
【0018】
[ポリエステル樹脂(A)]
本発明の粉体塗料組成物は、ポリエステル樹脂(A)を含有する。ポリエステル樹脂(A)は、塗膜に高い耐候性を与えることに寄与する。
本発明の粉体塗料組成物は、ポリエステル樹脂(A)を1種のみ含んでもよく、あるいは、2種以上を含んでもよい。
【0019】
ポリエステル樹脂(A)の一態様として、入手容易性、コストおよび性能のバランスの観点から、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂およびヒドロキシ基含有ポリエステル樹脂がより好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂(A)がヒドロキシ基を含む場合、その水酸基価は10~100mgKOH/gであることが好ましく、25~50mgKOH/gであることがより好ましい。
なお、水酸基価は、典型的には、JIS K 0070の規定に基づき測定することができる。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)がヒドロキシ基を含み、後述する硬化剤(B)と反応することで、全体としては強固な塗膜が得られると考えられる。このことは塗膜の耐久性や剥がれにくさ等の観点から好ましい。また、ヒドロキシ基の含有量が上記の水酸基価の範囲内である場合、ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)との反応が適度に進行し、膜全体としての耐久性(機械的な強さ)が向上するため好ましい。
【0022】
ヒドロキシ基を含むポリエステル樹脂(A)としては、例えば、ヒドロキシ基末端ポリエステル樹脂を挙げることができる。また、様々な水酸基価のポリエステル樹脂が市販されているため、これらのポリエステル樹脂の中から適当な水酸基価のものを選択することもできる。
【0023】
ポリエステル樹脂(A)がカルボキシ基を含む場合、その酸価は10~100mgKOH/gであることが好ましく、20~50mgKOH/gであることがより好ましい。
酸価についても、水酸基価と同様、典型的にはJIS K 0070の規定に基づき測定することができる。
【0024】
ポリエステル樹脂(A)がカルボキシ基を含み、後述する硬化剤(B)と反応することで、全体としては強固な塗膜が得られると考えられる。このことは、塗膜の耐久性や剥がれにくさ等の観点から好ましい。また、カルボキシ基の含有量が上記の酸価の範囲内である場合、ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)との反応が適度に進行し、膜全体としての耐久性(機械的な強さ)が向上するため好ましい。
【0025】
カルボキシ基を含むポリエステル樹脂(A)としては、例えば、カルボキシ基末端ポリエステル樹脂を挙げることができる。また、様々な酸価のポリエステル樹脂が市販されているため、これらのポリエステル樹脂の中から適当な酸価のものを選択することもできる。
【0026】
ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量は特に限定されないが、例えば3000~50000、好ましくは5000~40000である。また、ポリエステル樹脂(A)の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は特に限定されないが、例えば1~10、好ましくは1.4~8である。
重量平均分子量や分散度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算の値として測定することができる。
【0027】
ポリエステル樹脂(A)の性状は特に限定されないが、粉体塗料に適用する観点からは、常温(25℃)では固体状であることが好ましい。また、ポリエステル樹脂(A)の軟化点は、一般的に環球法により測定することができ、好ましくは80~150℃であり、より好ましくは100~130℃である。この範囲に調整することで、得られる塗膜の平滑性を高めることができると考えられる。
【0028】
[硬化剤(B)]
本発明の粉体塗料組成物は、硬化剤(B)を含有する。
硬化剤(B)は、組成物を加熱したときに、少なくともポリエステル樹脂(A)と反応しうるものであれば、特に制限なく用いることができる。
【0029】
好ましい硬化剤(B)の一例として、イソシアネート化合物(ブロックイソシアネート化合物を含む)を挙げることができる。粉体塗料としての保存安定性などの点からは、ブロックイソシアネート化合物がより好ましい。
イソシアネート化合物は、多官能であること、すなわち、1分子中に2以上のイソシアネート基(ブロックされたイソシアネート基を含む)を有する化合物であることが好ましい。
イソシアネート化合物は、特に、ヒドロキシ基含有ポリエステル樹脂に対して硬化性能が良好であり、好ましく用いることができる。
【0030】
イソシアネート化合物の具体例としては、例えば、以下を挙げることができる。
【0031】
脂肪族系ジイソシアネート化合物:ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネートなど。
【0032】
脂環式系ジイソシアネート化合物:イソホロンジイソシアネート、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン-2,4-(または-2,6-)ジイソシアネート、1,3-(または1,4-)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,2-シクロヘキサンジイソシアネートなど。
【0033】
芳香族ジイソシアネート化合物:キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、(m-またはp-)フェニレンジイソシアネートなど。
【0034】
その他のポリイソシアネート類:トリフェニルメタン-4,4,4-トリイソシアネート等の3個以上のイソシアネ-ト基を有するポリイソシアネート化合物類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等のポリオールの水酸基に対してイソシアネート基が過剰量となる量のポリイソシアネート化合物を反応させてなる付加物類、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などのビューレットタイプ付加物、イソシアヌル環タイプ付加物など。
【0035】
また、上記のイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部又は全部を、ブロック剤によりブロックしたブロックイソシアネート化合物も挙げることができる。より具体的には、アルコール、フェノール、ラクタム、オキシムなどのブロック剤によってイソシアネート基がブロックされたブロックイソシアネート化合物も硬化剤として用いることができる。
【0036】
なお、ブロック剤としては、フェノール系ブロック剤またはラクタム系ブロック剤が好ましい。
フェノール系ブロック剤としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、クロロフェノール、エチルフェノール、ヒドロキシジフェニル、t-ブチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸メチル等を挙げることができる。
ラクタム系ブロック剤としては、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、β-プロピオラクタム等:オキシム系ブロック剤としては、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシム等を挙げることができる。
【0037】
その他、上記のイソシアネート化合物のイソシアネート基を互いに結合させることにより、当該イソシアネート基が保護されたウレトジオン系化合物も、硬化剤(B)として用いることができる。このような化合物としては、例えば、脂肪族、環式脂肪族、芳香族が結合したジイソシアネートからなるウレトジオンを挙げることができる。
【0038】
好ましい硬化剤(B)の別の例として、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物を挙げることができる。この化合物は、特に、カルボキシ基含有ポリエステル樹脂に対して硬化性能が良好であり、好ましく用いることができる。
【0039】
β-ヒドロキシアルキルアミド化合物は、アミド基のβ位の炭素にヒドロキシ基が置換している化合物であれば任意のものであってよい。例えば、1分子中に、アミド基のβ位の炭素にヒドロキシ基が置換している構造を2つ以上含む化合物を用いることができる。具体的には、1分子中に、アミド基のβ位の炭素にヒドロキシ基が置換している構造を2~6個含む化合物が好ましい。
【0040】
より具体的には、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物は、1分子中に以下一般式(b1)で表される構造を2つ以上(さらに具体的には2~6個)有する化合物であることが好ましい。
【0041】
【化1】
【0042】
一般式(b1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または一価の有機基を表す。ただし、RおよびRの少なくとも一方(両方であってもよい)は、以下一般式(b2)で表される一価の有機基である。
【0043】
【化2】
【0044】
一般式(b2)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または一価の有機基を表す。
【0045】
一般式(b1)のRおよびRにおける一価の有機基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基などを挙げることができる。
アルキル基としては、直鎖又は分岐のいずれであってもよく、例えば炭素数1~20のアルキル基、好ましくは炭素数1~12個の直鎖及び分岐アルキル基を挙げることができる。
シクロアルキル基としては、例えば炭素数3~8個のシクロアルキル基を挙げることができる。
アルコキシ基としては、直鎖、分岐、環状のいずれであってもよく、例えば炭素数1~10のアルコキシ基、好ましくは、炭素数1~6の直鎖及び分岐アルコキシ基、炭素数3~8の環状アルコキシ基を挙げることができる。
【0046】
一般式(b2)のR、R、RおよびRにおける一価の有機基としては、一般式(b1)のRおよびRにおける一価の有機基と同様のものを挙げることができる。
【0047】
一般式(b1)においては、好ましくは、(i)RおよびRの一方が水素原子であり、他方が一般式(b2)で表される一価の有機基であるか、または、(ii)RおよびRの両方が一般式(b2)で表される一価の有機基である。
また、一般式(b2)においては、好ましくは、R、R、RおよびRの全てが水素原子である。
【0048】
β-ヒドロキシアルキルアミド化合物は、以下一般式(b3)で表されるものが好ましい。
【0049】
【化3】
【0050】
一般式(b3)中、nは2以上の整数(好ましくは2~6)であり、Aはn価の有機基である。なお、RおよびRの定義や具体例などは、一般式(b1)と同様である。
【0051】
Aのn価の有機基としては、任意の有機化合物からn個の水素原子を除いた基を挙げることができる。
例えばnが2の場合、-CH-や-C-などの直鎖アルキレン基、-CH-C(CH-CH-などの分岐アルキレン基、-C-O-C-などのエーテル含有基、シクロアルキレン基、脂環含有基から2つの水素原子を除いた基、フェニレン基やナフチレン基などの芳香環含有基から2つの水素原子を除いた基、複素環構造を含む基から2つの水素原子を除いた基、などを挙げることができる。これらの中でも、塗膜の柔軟性などの点から、直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基が好ましく、直鎖アルキレン基がより好ましい。
【0052】
nが3以上の場合、Aとしては、直鎖または分岐アルカンから水素原子を3つ以上取り除いた基、シクロアルカンまたは脂環含有化合物から水素原子を3つ以上取り除いた基、芳香環含有化合物から3つ以上の水素原子を除いた基、複素環含有化合物から3つ以上の水素原子を除いた基、などを挙げることができる。
【0053】
なお、Aのn価の有機基の炭素数については特に限定されないが、典型的には1~30、好ましくは2~25、より好ましくは3~20である。
また、Aのn価の有機基は、任意の置換基を有していてもよい。
【0054】
β-ヒドロキシアルキルアミド化合物は、例えば、カルボン酸やその低級アルキルエステルとβ-ヒドロキシアルキルアミンとを反応させることで製造することができる。
【0055】
好ましい硬化剤(B)のさらなる別の例として、エポキシ化合物を挙げることができる。この化合物は、特に、防錆性が良好であり、好ましく用いることができる。
【0056】
エポキシ化合物としては、その分子量、分子構造に関係なく、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を使用することが可能である。このようなエポキシ化合物の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールE型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールM型エポキシ化合物(4,4'-(1,3-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ化合物)、ビスフェノールP型エポキシ化合物(4,4'-(1,4-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ化合物)、ビスフェノールZ型エポキシ化合物(4,4'-シクロヘキシジエンビスフェノール型エポキシ化合物)などのビスフェノール型エポキシ化合物;フェノールノボラック型エポキシ化合物、臭素化フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、テトラフェノール基エタン型ノボラック型エポキシ化合物、縮合環芳香族炭化水素構造を有するノボラック型エポキシ化合物などのノボラック型エポキシ化合物;ビフェニル型エポキシ化合物;キシリレン型エポキシ化合物、ビフェニルアラルキル型エポキシ化合物などのアラルキル型エポキシ化合物;ナフチレンエーテル型エポキシ化合物、ナフトール型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ナフタレンジオール型エポキシ化合物、2官能ないし4官能エポキシ型ナフタレン化合物、ビナフチル型エポキシ化合物、ナフタレンアラルキル型エポキシ化合物などのナフタレン骨格を有するエポキシ化合物;アントラセン型エポキシ化合物;フェノキシ型エポキシ化合物;ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物;ノルボルネン型エポキシ化合物;アダマンタン型エポキシ化合物;フルオレン型エポキシ化合物、リン含有エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、脂肪族鎖状エポキシ化合物、ビスフェノールAノボラック型エポキシ化合物、ビキシレノール型エポキシ化合物、トリフェノールメタン型エポキシ化合物、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ化合物、テトラフェニロールエタン型エポキシ化合物、トリグリシジルイソシアヌレートなどの複素環式エポキシ化合物;N,N,N',N'-テトラグリシジルメタキシレンジアミン、N,N,N',N'-テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジルアニリンなどのグリシジルアミン類や、グリシジル(メタ)アクリレートとエチレン性不飽和二重結合を有する化合物との共重合物、ブタジエン構造を有するエポキシ化合物、ビスフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のグリシジルエーテル化物から選択される一種または二種以上を含むことができる。
【0057】
硬化剤(B)としては、市販の硬化剤を用いてもよい。
例えば、エボニック社のVESTAGON(登録商標)シリーズを挙げることができる。このシリーズの硬化剤は、イソシアネート化合物(ブロックイソシアネート化合物を含む)である。
また、EMS-CHEMIE AG社が供給しているPrimid(登録商標)XL-552などを用いることもできる。この硬化剤は、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物に分類される。
【0058】
本発明の粉体塗料組成物は、硬化剤(B)を1種のみ含んでもよいし、2種以上の硬化剤(B)を含んでもよい。
【0059】
また、本発明の粉体塗料組成物は、ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)との反応を促進させるための、触媒を含んでもよい。
【0060】
本発明の粉体塗料組成物における硬化剤(B)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)との総量100質量部に対して1~50質量部であることが好ましく1~40質量部であることがより好ましい。
【0061】
[反応性官能基を有するポリオレフィン(C)]
本発明の粉体塗料組成物は、反応性官能基を有するポリオレフィン(C)を含有する。
反応性官能基を有するポリオレフィン(C)は、組成物を加熱したときに、少なくともポリエステル樹脂(A)または硬化剤(B)と反応しうるものであれば、特に制限なく用いることができる。
反応性官能基を有するポリオレフィン(C)として、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基またはイソシアネート基と反応しうる基を反応性官能基として有するポリオレフィンを好ましく用いることができる。
【0062】
反応性官能基を有するポリオレフィン(C)の一態様として、入手容易性、コストおよび性能のバランスの観点から、カルボキシ基、無水カルボン酸基またはヒドロキシ基を反応性官能基として含むことがより好ましい。
【0063】
反応性官能基を有するポリオレフィン(C)が反応性官能基としてヒドロキシ基を含む場合、その水酸基価は1~50mgKOH/gであることが好ましく、1~40mgKOH/gであることがより好ましい。前記の水酸基価が、1mgKOH/g以上であれば塗装適性がより一層良好となり、他方、50mgKOH/g以下であれば塗装外観がより一層良好となるため、好ましい。
なお、水酸基価は、典型的には、JIS K 0070の規定に基づき測定することができる。
【0064】
反応性官能基を有するポリオレフィン(C)が反応性官能基としてヒドロキシ基を含み、少なくとも前述のポリエステル樹脂(A)または硬化剤(B)と反応することで、低光沢な外観の塗膜を与え、かつ、焼付時の塗料のタレが抑制される。また、ヒドロキシ基の含有量が上記の水酸基価の範囲内である場合、反応性官能基を有するポリオレフィン(C)と、少なくともポリエステル樹脂(A)または硬化剤(B)との反応が適度に進行し、膜全体としての耐久性(機械的な強さ)、ならびに、耐水性および耐薬品性(化学的な強さ)が向上するため好ましい。
【0065】
ヒドロキシ基を含むポリオレフィン(C)としては、例えば、ヒドロキシ基末端ポリオレフィンを挙げることができる。また、様々な水酸基価のポリオレフィンが市販されているため、これらのポリオレフィンの中から適当な水酸基価のものを選択することもできる。
【0066】
反応性官能基を有するポリオレフィン(C)が反応性官能基としてカルボキシ基または無水カルボン酸基を含む場合、その酸価は0.5~50mgKOH/gであることが好ましく、1~30mgKOH/gであることがより好ましく、1~15mgKOH/gであることがさらに好ましく、1~10mgKOH/gであることが最も好ましい。前記の酸価が、0.5mgKOH/g以上であれば塗装適性がより一層良好となり、他方、50mgKOH/g以下であれば塗装外観がより一層良好となるため、好ましい。
酸価についても、水酸基価と同様、典型的にはJIS K 0070の規定に基づき測定することができる。
【0067】
反応性官能基を有するポリオレフィン(C)が反応性官能基としてカルボキシ基または無水カルボン酸基を含み、少なくとも前述のポリエステル樹脂(A)または硬化剤(B)と反応することで、低光沢な外観の塗膜を与え、かつ、焼付時の塗料のタレが抑制される。また、カルボキシ基の含有量が上記の酸価の範囲内である場合、反応性官能基を有するポリオレフィン(C)と、少なくともポリエステル樹脂(A)または硬化剤(B)との反応が適度に進行し、膜全体としての耐久性(機械的な強さ)が向上するため好ましい。
【0068】
カルボキシ基または無水カルボン酸基を含むポリオレフィン(C)としては、例えば、カルボキシ基末端ポリオレフィンまたは無水カルボン酸変性ポリオレフィンを挙げることができる。また、様々な酸価のポリオレフィンが市販されているため、これらのポリオレフィンの中から適当な酸価のものを選択することもできる。
【0069】
反応性官能基を有するポリオレフィン(C)の重量平均分子量は特に限定されないが、例えば1000~100,000、好ましくは1000~50,000である。また、反応性官能基を有するポリオレフィン(C)の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は特に限定されないが、例えば1~10、好ましくは1~5である。
重量平均分子量や分散度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリオレフィン換算の値として測定することができる。
【0070】
反応性官能基を有するポリオレフィン(C)の性状は特に限定されないが、粉体塗料に適用する観点からは、常温(25℃)では固体状であることが好ましい。また、反応性官能基を有するポリオレフィン(C)の軟化点は、一般的に環球法により測定することができ、好ましくは50~200℃であり、より好ましくは60~180℃である。
また、反応性官能基を有するポリオレフィン(C)の融点は、一般的にJIS K7121の規定に基づき測定することができ、好ましくは110~200℃であり、より好ましくは120~190℃、さらに好ましくは、130~185℃、最も好ましくは、135℃~180度である。さらに、得られる塗膜の塗装適性の観点から、融点が110℃未満である反応性官能基を有するポリオレフィンを用いないことが好ましい。
上記の範囲に調整することで、得られる塗膜の塗装適性をより一層を高めることができると考えられる。
【0071】
本発明の粉体塗料組成物における反応性官能基を有するポリオレフィン(C)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)との総量100質量部に対して0.5~30質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましく、0.5~10質量部であることがさらに好ましい。ポリオレフィン(C)の含有量をかかる範囲とすることにより、焼付時の塗料のタレの抑制と塗膜外観(塗膜の平滑性)とのバランスに優れるため、好ましい。
【0072】
[その他の成分]
本発明の粉体塗料組成物は、体質顔料を含んでもよい。
好ましい体質顔料の一例として、バリタ粉、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシム、石膏、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、珪藻土、タルク、炭酸マグネシウム、含水珪酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、マイカ粉を挙げることができる。
体質顔料を含有することにより、塗膜の初期の20°光沢度がさらに低下するため好ましい。初期の20°光沢度が低下すると、塗膜を正面から見た場合においても低光沢の外観が得られる。
【0073】
本発明の粉体塗料組成物が体質顔料を含有する場合、体質顔料は1種のみであってもよく、また、2種以上であってもよい。
【0074】
体質顔料の粒径は0.5~100μmであることが好ましく、0.5~50μmがより好ましく、5~40μmがさらに好ましく、10~30μmが最も好ましい。用いる体質顔料の粒径を前記範囲とすることにより、塗膜の初期の20°光沢度が一層低下する傾向があるため好ましい。
なお、粒径は、典型的には、粒度分布測定装置を用いた粒度分布測定の値から、累積分布によるメディアン径として求めることができる。粒度分布測定装置としては、例えば、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を用いることができる。
【0075】
本発明の粉体塗料組成物は、着色顔料を含んでもよい。
好ましい着色顔料の一例として、公知の無機顔料や有機顔料などの着色顔料を用いることができる。具体的には、二酸化チタン(チタン白)、亜鉛華、鉛白、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、リトポン、硫化亜鉛、アンチモン白などの白色顔料;カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、黒鉛、鉄黒(黒色酸化鉄)、アニリンブラックなどの黒色顔料;ナフトールエローS、ハンザエロー、ピグメントエローL、ベンジジンエロー、パーマネントエロー、黄鉄(黄色酸化鉄)などの黄色顔料;クロムオレンジ、クロムバーミリオン、パーマネントオレンジなどの橙色顔料;酸化鉄、アンバーなどの褐色顔料;ベンガラ(赤色酸化鉄)、鉛丹、パーマネントレッド、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール系赤顔料などの赤色顔料;コバルト紫、ファストバイオレット、メチルバイオレットレーキなどの紫色顔料;群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、インジゴなどの青色顔料;クロムグリーン、ピグメントグリーンB、フタロシアニングリーンなどの緑色顔料;アルミニウム粒子、アルミニウム箔、蒸着アルミニウム、酸化アルミニウム、塗料用アルミニウム顔料、銅、亜鉛、真ちゅう、ニッケル、ガラスフレーク、雲母粉(マイカ)、ならびに、酸化チタンおよび酸化鉄の少なくとも一方により被覆された雲母粉などの光輝顔料などが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0076】
本発明の粉体塗料組成物が着色顔料を含有する場合、着色顔料は1種のみであってもよく、また、2種以上であってもよい。
【0077】
本発明の粉体塗料組成物は、ポリオレフィン系粒子を含んでもよい。本明細書中、「ポリオレフィン系粒子」との表記は、特に断らない限り、反応性官能基を実質的に有しないポリオレフィンからなる粒子を意味する。ここで、本明細書において反応性官能基を実質的に有しないとは、ポリオレフィンの水酸基価が5mgKOH/g以下、好ましくは1mgKOH/g以下、より好ましくは0mgKOH/gであり、酸価が5mgKOH/g以下、好ましくは1mgKOH/g以下、より好ましくは0mgKOH/gであることを意味する。
【0078】
ポリオレフィン系粒子の性状は特に限定されないが、メルトボリュームフローレイト(MVR:melt volume-flow rate)が100cm/10min以下であることが好ましく、0.1~100cm/10minであることがより好ましく、1~95cm/10minであることがさらに好ましく、2~80cm/10minであることがさらに一層好ましく、2~60cm/10minであることが最も好ましい。特に、ポリオレフィン系粒子のメルトボリュームフローレイトを60cm/10min以下とした場合、摩擦による光沢度の変化がより一層小さくなり、かつ、耐摩耗性が向上するなど、一層好ましい結果が得られる。
【0079】
メルトボリュームフローレイトは、JIS K7210(プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方-第1部:標準的試験方法)に準拠した方法で測定することができる。
【0080】
ポリオレフィン系粒子は、エチレン、プロピレン、ブテン、または、さらに長鎖のアルケン由来の構成単位のうち、1種または2種以上の組み合わせを含む重合体であることが好ましく、エチレン、プロピレン、またはブテン由来の構成単位を含むことがより好ましい。前記重合体の構成単位が2種以上の場合は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい、また、そのタクティシティー、分岐量に制限はない。
このようなポリオレフィン系粒子の例として、ビスコール330-P(三洋化成製)、フローセンUF4(住友精化製)、フロービーズHE-3040N(住友精化製)、フロービーズCL-2080N(住友精化製)、フロービーズLE-1080N(住友精化製)およびミペロンXM-220(三井化学製)等を挙げることができる。
【0081】
ポリオレフィン系粒子の粒径は1~1000μmであることが好ましく、1~500μmであることがより好ましい。ポリオレフィン系粒子は、その粒径によっては、粉体の態様をとりうる。
なお、粒径は、体質顔料と同様、典型的には粒度分布測定装置を用いた粒度分布測定の値から、累積分布によるメディアン径として求めることができる。粒度分布測定装置としては、体質顔料の粒径の測定に用いるものと同様のものを用いることができる。
【0082】
本発明の粉体塗料組成物がポリオレフィン系粒子を含有する場合、その含有量は、ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)との総量100質量部に対して1~30質量部であることが好ましく、1~10質量部であることがより好ましい。また、ポリオレフィン系粒子の含有量の他の側面として、ポリオレフィン(C)100質量部に対して10~150質量部であることが好ましく、10~120質量部であることがより好ましい。
【0083】
本発明の粉体塗料組成物は、必要に応じて、下記に示す別のその他の成分を含んでもよい。
【0084】
本発明の粉体塗料組成物は、例えば、塗料分野で知られている、塗膜表面の平滑性を高める効果がある添加成分(表面調整剤)を、別のその他の成分として含んでもよい。表面調整剤には、塗料分野で公知の可塑剤、シリコーン化合物、ワックス、消泡剤、脱泡剤、レベリング剤、ワキ防止剤(塗装時に巻き込んだ空気を破泡する成分)などが含まれる。
表面調整剤の例としては、BASF社の「Acronal」(登録商標)シリーズ(中身は(メタ)アクリル系樹脂)共栄社化学社製の「ポリフロー」(商品名)シリーズ、ESTRON CHEMICAL社製の「レジフロー」(商品名)シリーズ、モンサント社製の「モダフロー」(商品名)シリーズ、ベンゾインなどを挙げることができる。
【0085】
また、別のその他の成分として、本発明の粉体塗料組成物は、流動性調整剤を含んでもよい。組成物が流動性調整剤を含むことで、例えば、粉体としての流動性を調整することができる。
流動性調整剤として具体的には、疎水性シリカ、親水性シリカや酸化アルミニウム等が適用できる。市販品としては、例えば、AEROSIL 130、AEROSIL200、AEROSIL300、AEROSIL R-972、AEROSILR-812、AEROSILR-812S、AlminiumOxideC(日本アエロジル社製、商品名)、カープレックスFPS-1(DSL社製、商品名)等を挙げることができる。
【0086】
さらに、別のその他の成分として、本発明の粉体塗料組成物は、顔料分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、磁性粉、帯電制御剤などを含んでもよい。
【0087】
<粉体塗料組成物の製造方法>
本発明の粉体塗料組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、以下のような手順で製造される。
【0088】
(1)各成分を必要量準備する。
(2)ヘンシェルミキサーやブレンダー等を用いて、各成分(成分(A)~(C)、およびその他の任意成分)を均一に混合して、混合物を得る。
(3)上記(2)で得られた混合物をニーダーに投入して80~140℃で溶融混練する。
(4)上記(3)で得られた混練物を50℃以下に冷却する。冷却の方法は任意の方法を採用できる。例えば、室温放置、冷却ロール、冷却コンベヤー等を挙げることができる。
(5)冷却された混練物を、粉砕機を用いるなどして粉砕する。粉砕機としては、機械式のもの、気流式のものなど特に限定されない。また、粉砕は、例えば粗粉砕及び微粉砕の2工程に分けて行ってもよい。
(6)所望の粒径となるように分級する。分級には、ふるいや気流式分級機を用いることができる。
【0089】
なお、上記では、成分全てを一度に混合して溶融混練する方法を説明したが、必ずしも成分全てを一度に混合する必要はない。
【0090】
<塗膜、塗膜を備える物品および塗膜を備える物品を製造する方法>
本発明は、上述した粉体塗料組成物により形成される塗膜および該塗膜を備える物品にも関する。塗膜は、上述した粉体塗料組成物を基材等の物品に焼き付けることで、物品の表面に形成することができる。既に述べたように、本発明の粉体塗料組成物により形成される塗膜は、低光沢な外観を有する。
【0091】
本発明の粉体塗料組成物により形成される塗膜は、180℃および20分の条件で厚さ60μmの塗膜を形成したとき、入射角60°における塗膜の光沢度が60以下であることが好ましい。光沢度が60以下であれば、実用上問題ないレベルの低光沢な外観を与えているということができる。
言い換えれば、本発明の粉体塗料組成物は、180℃および20分の条件で厚さ60μmの塗膜を形成したとき、入射角60°における塗膜の光沢度が60以下である、粉体塗料組成物であることが好ましい。
なお、塗膜の光沢度は、典型的には、光沢計を用い、所定の入半射角を設定することにより測定することができる。光沢度が低いほど、低光沢な外観を与えているということができる。
【0092】
本発明の粉体塗料組成物を物品の表面に供する方法としては、粉体塗料の分野で公知の方法を適宜用いることができる。例えば、静電粉体吹き付け法、流動浸漬法、静電流動浸漬法などを好ましく用いることができる。この時の膜厚は、例えば10~1000μmの間で適宜調整すればよい。
【0093】
本発明の粉体塗料組成物が表面に供された物品は、炉に投入されるなどして、例えば120~250℃で5~60分間加熱される。これによって塗料が溶融し、物品の表面に塗膜が形成される。
【0094】
本発明の塗膜を形成する物品は特に限定されない。典型的には鉄(鉄鋼材)等の金属材であるが、これに限定されるものではない。また、物品の形状や塗装後の用途も限定されず、各種装置の外装、自動車の部品の塗装などに適用可能である。
なお、物品の表面は、防錆性の一層の向上や密着性の向上などのために、何らかの前処理がされていてもよい。前処理としては、洗浄、脱脂、ブラスト、プライマーコート、前加熱、乾燥、皮膜形成(例えばリン酸亜鉛処理)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0096】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0097】
<実施例1>
[粉体塗料組成物の調製]
カルボキシ基末端ポリエステル樹脂 95質量部、硬化剤 5質量部、着色顔料 56質量部、その他の成分(表面調整剤、消泡剤の質量比が(2:1) 3質量部、および、ポリオレフィンA 11質量部をヘンシェルミキサーで混合した。得られた混合物を混練機(BussAG社製、商品名:ブスコニーダーPR46)に投入して、120℃で溶融混練した。得られた混練物を50℃以下に冷却し、その後、ハンマー式衝撃粉砕機(ヴァーダー・サイエンティフィック社製、商品名:超遠心粉砕機 ZM-200)で微粉砕し、150メッシュのふるいで分級することにより、粉体塗料組成物を調製した。用いた樹脂等の詳細は、下記のとおりである。
【0098】
・カルボキシ基末端ポリエステル樹脂:ダイセル・オルネクス株式会社製、商品名:CRYLCOAT 2630-2、酸価:33mgKOH/g
・硬化剤:β-ヒドロキシアルキルアミド化合物、エムスケミー・ジャパン株式会社製、商品名:Primid XL-552、水酸基価:600~725mgKOH/g
・着色顔料:二酸化チタン、石原産業株式会社製、商品名:CR-95
・表面調整剤:アクリル共重合体系の流動性付与剤、BASF社製、商品名:アクロナール4F
・消泡剤:ベンゾイン
・ポリオレフィンA(反応性官能基あり):無水カルボン酸変性ポリプロピレン、三洋化成株式会社製、商品名:ユーメックス110TS、酸価7mgKOH/g、重量平均分子量12000)、融点145℃
【0099】
[塗装適性の評価]
冷延鋼板(規格:SPCC-SD、幅75mm×長さ15mm×厚さ0.8mm)の上に、内径12mm、厚さ2mmの円筒状の金具を設置し、該金具の中に得られた粉体塗料組成物を0.20g量りとり、粉体塗料組成物が崩れないように該金具をゆっくりと取り外した。そして、冷延鋼板に、径12mm、厚さ2mmとなるように、粉体塗料組成物を設置した。該鋼板を平置きで180℃、2分間加熱した。その後、吊り下げた状態で更に160℃、20分間加熱し、塗装適性用試験板を作成した。
塗装適性用試験板を観察し、タレの状態(塗装適性)を下記の基準により評価した。評価結果を表1に示す。
なお、評価が3以上であれば、塗装したときにタレが発生しにくく、実用上問題のないレベルである。
【0100】
-塗装適性の評価基準-
5:粉体塗料組成物を設置した点(下端)を基準としてタレが1.8cm未満
4:粉体塗料組成物を設置した点(下端)を基準としてタレが1.8cm以上2cm未満
3:粉体塗料組成物を設置した点(下端)を基準としてタレが2cm以上4cm未満
2:粉体塗料組成物を設置した点(下端)を基準としてタレが4cm以上5cm未満
1:粉体塗料組成物を設置した点(下端)を基準としてタレが5cm以上
【0101】
[塗膜の作成]
塗膜を形成する基材として、冷延鋼板(規格:SPCC-SD、幅75mm×長さ15mm×厚さ0.8mm)を準備した。これを垂直方向に吊り下げ、コロナ帯電式静電粉体塗装機(旭サナック株式会社製、商品名:PG-1型)を用いて、得られた粉体塗料組成物を鋼板上に静電塗装した(塗装電圧:-60kV)。塗装後、180℃で20分間焼き付け、その後、室温になるまで放冷した。これにより、膜厚60μm前後の塗膜を備えた鋼板(以下、「試験板」という)を得た。
【0102】
[塗膜の性能評価]
(光沢の評価)
塗膜を設けた試験板を、60°光沢度および20°光沢度を、光沢計(BYK-Gardner GmbH社製、商品名:micro-TRI-gross)を用い、入反射角を60゜または20°に設定することで、60°光沢度および20°光沢度の測定に供した。光沢度が低いほど、艶消し効果があることを示す。評価結果を表1に示す。
なお、60°光沢度が60以下であれば、艶消し効果が高く、実用上問題ないレベルである。
【0103】
(塗膜外観の評価)
得られた試験板の塗膜の表面状態を観察し、下記の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
【0104】
-塗膜外観の評価基準-
5:塗膜が平滑である。
4:塗膜に目立たない凹凸(ラウンド)があるが、塗膜が平滑である
3:塗膜に多少の凹凸(ラウンド)があり、若干平滑性に劣る
2:塗膜に凹凸(ラウンド)があり、やや平滑性に劣る
1:塗膜表面にブツ等があり、明らかに外観が不良である
【0105】
<実施例2~14、比較例1~3>
表1~2に示す分量(質量部)の原料を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、各実施例および各比較例の粉体塗料組成物を得た。用いた原料の詳細は、上述のものであるか、または下記のとおりである。
また、各実施例および各比較例の粉体塗料組成物を用いて、塗装適性の評価、塗膜の調製および塗膜の性能評価を実施例1と同様に行った。評価結果を表1~2に示す。
【0106】
・体質顔料:炭酸カルシウム、三共精粉株式会社製、商品名:エスカロン特級#3、粒径:20μm
・ポリオレフィンB(反応性官能基あり):無水カルボン酸変性ポリプロピレン、三洋化成株式会社製、商品名:ユーメックス100TS、酸価3.5mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)9000、融点136℃
・ポリオレフィンC(反応性官能基なし):ポリエチレンワックス、ビックケミー・ジャパン社製、商品名:セラフラワー 961、平均粒径5μm、MVR100cm/10min以上
・ポリオレフィンD(反応性官能基なし):ポリプロピレンワックス、ビックケミー・ジャパン社製、商品名:セラフラワー 970、平均粒径9μm、MVR100cm/10min以上
・ポリオレフィンE(反応性官能基なし):ポリエチレン粒子、住友精化製、商品名:フローセンUF4、平均粒径20μm、MVR24cm/10min
【0107】
[ポリオレフィンの特性評価]
(メルトボリュームフローレイト:MVR)
メルトボリュームフローレイトは、JIS K7210(プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方-第1部:標準的試験方法)に準拠した方法で、下記の機器および条件を用いて測定した。
・測定機器:株式会社井元製作所製、商品名:メルトフローインデックステスタMB-1型
・測定条件:測定温度190℃、荷重2.16Kg、充填量5g、測定距離25mm
(平均粒径)
レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、製品名: マイクロトラックMT3000IIシリーズ)を用いて、粒度分布の測定値から、累積分布によるメディアン径として平均粒径を求めた。
【0108】
(平均分子量)
ポリオレフィンを含む試料を5mg秤量し、この試料に対し、安定剤及び酸化防止剤としてブチルヒドロキシトルエン(BHT)を0.1%含む1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)を5mL秤量して加え、160℃から170℃に加熱しながら30分間攪拌してポリオレフィンを溶媒に溶解させた。次に、試料を溶解させた溶液から未溶解の試料といった異物を除去するため、この溶液を金属フィルターでろ過して測定用試料溶液を得た。得られた測定用試料溶液を、ゲル浸透クロマトグラフ装置(高温GPC装置 Polymer Laboratories 製 PL-220)に対し、流速を1.0mL/分、注入量0.2mL(200μL)の条件で注入して数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)を測定した。測定する際、測定溶媒としてBHTを0.1%含むTCBを用い、カラムとしてShodex製 HT-Gを1本、昭和電工株式会社製 HT-806Mを2本使用し、カラム恒温槽の温度を145℃として測定した。
(融点)
示差走査熱量測定装置(SIIナノテクノロジー社製、製品名:EXSTAR DSC 7020)を用いて、下記の測定条件により、JIS K7121の規定に基づき融点を測定した。
サンプル量:10mg
窒素流入速度:N 50ml/min
測定開始温度:10℃
測定終了温度:180℃
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
表1~2に示されるとおり、実施例1~14の粉体塗料組成物は、反応性官能基を有するポリオレフィンの種類および含有量に関わらず、60°光沢性が低く低光沢な外観の塗膜を与えることができ、かつ、焼付時の塗料のタレが抑制され、塗装作業性に優れたものであった。特に、ポリオレフィン(C)の含有量を好ましい範囲とした実施例2~4、10、13および14の粉体塗料組成物は、タレ性と外観とのバランスの点で良好な結果を示した。
【0112】
表2に示されるとおり、比較例1~3の粉体塗料組成物は、60°光沢度が低く低光沢な外観の塗膜を与えることができず、または、焼付時の塗料のタレが発生し、塗装作業性が劣るものであった。