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特開2022-26225延性金属製部品の破断面処理方法、及びその破断面処理装置
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  • 特開-延性金属製部品の破断面処理方法、及びその破断面処理装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026225
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】延性金属製部品の破断面処理方法、及びその破断面処理装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/361 20140101AFI20220203BHJP
   B23K 26/042 20140101ALI20220203BHJP
【FI】
B23K26/361
B23K26/042
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129590
(22)【出願日】2020-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000139687
【氏名又は名称】株式会社安永
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小林 宜充
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD05
4E168CB18
4E168DA26
4E168DA32
4E168JB04
(57)【要約】
【課題】破断した延性金属製部品の破断面に付着する破断粉を、破断面への物理的な接触を低減しつつ、効率的に除去する。
【解決手段】破断面処理方法は、延性金属製部品(コネクティングロッド100)を破断方向に破断することにより分割した各破断部品(ロッド側大端部102b,キャップ側大端部102c)を、それぞれの破断面(ロッド側破断面102d,キャップ側破断面102e)の全体が開放された状態でそれぞれ保持する保持工程と、保持工程において保持された各破断部品の各破断面にそれぞれレーザー光を照射する照射工程とを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
延性金属製部品を破断方向に破断することにより分割した各破断部品のそれぞれの破断面を処理する延性金属製部品の破断面処理方法であって、
前記各破断部品を、それぞれの前記破断面の全体が開放された状態でそれぞれ保持する保持工程と、
前記保持工程において保持された前記各破断部品の前記各破断面にそれぞれレーザー光を照射する照射工程と、を含むことを特徴とする延性金属製部品の破断面処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の延性金属製部品の破断面処理方法において、
前記照射工程は、レーザー光の光軸が破断方向に対して斜めになるように、該レーザー光を前記各破断面に照射する工程であることを特徴とする延性金属製部品の破断面処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の延性金属製部品の破断面処理方法において、
前記照射工程の前及び前記照射工程中の少なくとも一方の期間に、前記各破断部品を破断方向と交差する方向に振動させる振動工程を更に含むことを特徴とする延性金属製部品の破断面処理方法。
【請求項4】
延性金属製部品を破断方向に破断することにより分割した各破断部品のそれぞれの破断面を処理する延性金属製部品の破断面処理装置であって、
前記各破断部品を、それぞれの前記破断面の全体が開放された状態でそれぞれ保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記各破断部品の前記各破断面にそれぞれレーザー光を照射するレーザー光照射部と、を備えることを特徴とする延性金属製部品の破断面処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の延性金属製部品の破断面処理装置において、
前記レーザー光照射部は、レーザー光の光軸が破断方向に対して斜めになった状態で、該レーザー光を前記各破断面に照射することを特徴とする延性金属製部品の破断面処理装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の延性金属製部品の破断面処理装置において、
前記各破断部品を破断方向と交差する方向に振動させる振動装置を更に備え、
前記振動装置は、前記レーザー光照射部がレーザー光を照射する前及びレーザー光を照射中の少なくとも一方の期間において、前記各破断部品を振動させることを特徴とする延性金属製部品の破断面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、延性金属製部品を破断方向に破断することにより分割した破断部品のそれぞれの破断面を処理する延性金属製部品の破断面処理方法、及び該延性金属製部品の破断面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、延性金属製部品を破断方向に破断することにより分割して形成される半割の部品を再度組み合わせて1つの製品とする方法が知られている。延性金属製部品を破断方向に破断することにより分割したときには、破断面に破断粉が付着する。このため、このような製品においては、破断粉を取り除くための破断面処理が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の破断面処理方法では、破断方向に破断して分割した破断部品をそれぞれ保持する工程と、各破断部品の少なくとも1つに振動を付与する工程と、振動を付与した状態で各破断部品の破断面同士を接離させる工程とを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-63910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、破断部品同士を、破断面同士を突き合わせるように再度組み合わせて1つの製品とすれば、破断面同士のズレが非常に少なくなるという利点がある。破断面同士のズレを少なくするには、破断粉を取り除く際に出来る限り破断面に傷などのダメージが入らないことが求められる。このため、破断面に対する物理的な接触を減らしつつ、破断粉を効率的に除去したいという要求がある。
【0006】
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするとこは、破断した延性金属製部品の破断面に付着する破断粉を、破断面への物理的な接触を低減しつつ、効率的に除去することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術では、延性金属製部品を破断方向に破断することにより分割した各破断部品のそれぞれの破断面を処理する延性金属製部品の破断面処理方法を対象として、前記各破断部品を、それぞれの前記破断面の全体が開放された状態でそれぞれ保持する保持工程と、前記保持工程において保持された前記各破断部品の前記各破断面にそれぞれレーザー光を照射する照射工程と、を含む、という構成とした。
【0008】
この構成によると、破断面にレーザー光を照射することで、破断面に付着した破断粉の温度が急上昇する。これにより、破断粉が昇華して除去される。また、母材は破断粉と比較して熱容量がかなり大きいため、ほとんど温度上昇せず熱変形し難い。したがって、破断面への物理的な接触を低減しつつ、破断粉を効率的に除去することができる。
【0009】
前記延性金属製部品の破断面処理方法において、前記照射工程は、レーザー光の光軸が破断方向に対して斜めになるように、該レーザー光を前記各破断面に照射する工程である、という構成でもよい。
【0010】
すなわち、レーザー光を斜めに照射すれば、破断方向と平行にレーザー光を照射する場合と比較して、レーザー光の照射面積を大きくすることができる。これにより、破断粉をより効率的に除去することができる。尚、本明細書でいう「破断方向」とは、実際に破断された際の方向に限らず、破断面が向いている方向のことをいう。例えば、破断面が上側を向いているときには、上下方向が前記破断方向に相当する。
【0011】
前記延性金属製部品の破断面処理方法において、前記照射工程の前及び前記照射工程中の少なくとも一方の期間に、前記各破断部品を破断方向と交差する方向に振動させる振動工程を更に含む、という構成でもよい。
【0012】
この構成によると、比較的大きな破断粉は、振動により破断面から転がって、自重により破断面から落下して除去される。そして、転がりにくい比較的小さな破断粉は、レーザー光により昇華して除去される。これにより、破断粉をより効率的に除去することができる。
【0013】
また、比較的小さな破断粉がレーザー光により除去されればよいため、レーザー光の出力を出来る限り抑えることができる。これにより、破断面への影響を出来る限り小さくすることができる。
【0014】
ここに開示された技術の他の態様は、延性金属製部品を破断方向に破断することにより分割した各破断部品のそれぞれの破断面を処理する延性金属製部品の破断面処理装置を対象とする。具体的には、延性金属製部品の破断面処理装置は、前記各破断部品を、それぞれの前記破断面の全体が開放された状態でそれぞれ保持する保持部と、前記保持部に保持された前記各破断部品の前記各破断面にそれぞれレーザー光を照射するレーザー光照射部と、を備える。
【0015】
この構成であっても、破断面にレーザー光を照射することで、破断面に付着した破断粉が昇華して除去される一方で、破断面そのものはほとんど熱変形しない。したがって、破断面への物理的な接触を低減しつつ、破断粉を効率的に除去することができる。
【0016】
前記延性金属製部品の破断面処理装置において、前記レーザー光照射部は、レーザー光の光軸が破断方向に対して斜めになった状態で、該レーザー光を前記各破断面に照射する、という構成でもよい。
【0017】
この構成でも、レーザー光の光軸が破断方向に平行である場合と比較して、レーザー光の照射面積を大きくすることができる。これにより、破断粉をより効率的に除去することができる。また、装置全体をコンパクトな構成にすることができる。
【0018】
前記延性金属製部品の破断面処理装置において、前記各破断部品を破断方向と交差する方向に振動させる振動装置を更に備え、前記振動装置は、前記レーザー光照射部がレーザー光を照射する前及びレーザー光を照射中の少なくとも一方の期間において、前記各破断部品を振動させる、という構成でもよい。
【0019】
この構成でも、振動による破断粉の除去と組み合わせることで、破断粉をより効率的に除去することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、破断した延性金属製部品の破断面に付着する破断粉を、破断面への物理的な接触を低減しつつ、効率的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】例示的な実施形態1に係る破断面処理装置により処理される破断面を有するコネクティングロッドの概略図である。
図2】破断面処理装置を概略的に示す側面図である。
図3】破断面処理装置を上側から見た平面図である。
図4】レーザー光の照射による破断粉の除去過程を示す図である。
図5】制御装置による破断面処理制御のフローチャートである。
図6】実施形態2に係る破断面処理装置を概略的に示す図である。
図7】実施形態3に係る破断面処理装置を概略的に示す図である。
図8】実施形態3に係る破断面処理装置において、制御装置による破断面処理制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
(実施形態1)
〈延性金属製部品〉
図1は、延性金属製部品としてのコネクティングロッド100(以下、コンロッド100という)と、該コンロッド100に取り付けられたピストン110とを示す。コンロッド100は、エンジンにおいて、ピストン110とクランク軸(図示省略)とを連結するものであって、ピストン110から前記クランク軸までの爆発荷重の伝達経路を構成する荷重伝達部材である。
【0024】
コンロッド100は、ピストン110が取り付けられる小端部101と、前記クランク軸に連結される大端部102と、小端部101と大端部102とを連結する棒状のロッド部103とを有する。小端部101には、小径ピン孔101aが形成されており、この小径ピン孔101aに挿入されるピストンピン(図示省略)を介して、ピストン110がコンロッド100に取り付けられる。大端部102には、大径ピン孔102aが形成されており、この大径ピン孔102aに前記クランク軸のクランクピンが挿通されることで、コンロッド100と前記クランク軸とが連結される。大端部102は、ロッド部103側のロッド側大端部102bとロッド部103とは反対側のキャップ側大端部102cとに分割されている。大端部102は、ロッド側大端部102bとキャップ側大端部102cを突き合わせて、これら両者を2つのボルト104により締結固定することで一体化される。
【0025】
本実施形態1では、コンロッド100は、所謂かち割りコンロッドである。具体的には、コンロッド100の大端部102は、大径ピン孔102aが形成されるように一体で形成した後、破断してロッド側大端部102bとキャップ側大端部102cとに分割されて、エンジンに配置する際に、破断面同士を突き合わせて再度一体化されるようになっている。ロッド側大端部102b及びキャップ側大端部102cは破断部品の一例である。
【0026】
〈破断面処理装置〉
図2及び図3は、ロッド側大端部102b及びキャップ側大端部102cの破断面を処理する破断面処理装置1を概略的に示す。この破断面処理装置1は、破断装置(図示省略)により破断された大端部102の破断面に対して所定の処理(後述の破断粉除去処理)を実行する装置である。
【0027】
破断面処理装置1は、基台2と、基台2に載置されかつロッド側大端部102bを保持するロッド側保持部10と、基台2に載置されかつキャップ側大端部102cを保持するキャップ側保持部20を有する。
【0028】
ロッド側保持部10は、基台2に載置されるロッド側支持プレート11を有する。ロッド側支持プレート11は、基台2上を水平面内で平行移動可能である。ロッド側支持プレート11には、大径ピン孔102aに挿入されるロッド側マンドレル12と、小径ピン孔101aに挿入される小端部ガイドピン13とが設けられている。ロッド側マンドレル12は、半円柱状をなしている。図2に示すように、ロッド側マンドレル12の径方向の中心には、大端部102を破断させる際に楔が挿入される挿入孔16の半割が形成されている。挿入孔16は、後述するキャップ側マンドレル22がロッド側マンドレル12と突き合わされることで、1つの孔を構成する。小端部ガイドピン13は、大端部102を破断させる際に小端部101の位置決めをする部分である。
【0029】
ロッド側保持部10は、ロッド側大端部102bを保持するための一対のロッド側クランパ17を有する。各ロッド側クランパ17は、ロッド側大端部102bを破断方向に押圧する押圧部17aと、各押圧部17aを作動させる油圧シリンダ17bとそれぞれを有する。各油圧シリンダ17bを作動させて、各押圧部17aをロッド側大端部102bに向かって移動させると、ロッド側大端部102bは、ロッド側マンドレル12に押し付けられる。これにより、ロッド側大端部102bが保持されて、ロッド側大端部102bが支持プレートに対して相対移動しにくくなる。
【0030】
キャップ側保持部20は、基台2に載置されるキャップ側支持プレート21を有する。キャップ側支持プレート21は、基台2上を水平面内で平行移動可能である。キャップ側支持プレート21には、大径ピン孔102aに挿入されるキャップ側マンドレル22が設けられている。キャップ側マンドレル22は、半円柱状をなしている。図2に示すように、キャップ側マンドレル22の径方向の中心には、大端部102を破断させる際に楔が挿入される挿入孔16の半割が形成されている。
【0031】
キャップ側保持部20は、キャップ側大端部102cを保持するためのキャップ側クランパ27を有する。キャップ側クランパ27は、キャップ側大端部102cを破断方向に押圧する一対の押圧部27aと、各押圧部27aを作動させる油圧シリンダ27bとを有する。一対の押圧部27aは、キャップ側大端部102cに接触する部分とは反対側の端部同士が、連結部27cにより連結されている。油圧シリンダ27bの連結部27cと接続されている。油圧シリンダ27bにより連結部27cが押されると、各押圧部27aがキャップ側大端部102cをロッド側大端部102bに向かって押圧する。これにより、キャップ側大端部102cは、キャップ側マンドレル22に押し付けられる。油圧シリンダ27bの力は、連結部27cを介して各押圧部27aに伝えられるため、一対の押圧部27aからキャップ側大端部102cに入力される力は均一化される。これにより、キャップ側大端部102cがキャップ側マンドレル22に沿って回転するのを抑制することができる。この結果、キャップ側大端部102cが保持されて、キャップ側大端部102cが支持プレートに対して相対移動しにくくなる。
【0032】
破断面処理装置1において、ロッド側及びキャップ側マンドレル12,22よりも上側には、ロッド側大端部102bの破断面102d(以下、ロッド側破断面102dという)及びキャップ側大端部102cの破断面102e(以下、キャップ側破断面102eという)に対して、レーザー光Lを照射するレーザー光照射部3が配置されている。レーザー光照射部3は、各破断面102d,102eにレーザー光Lを照射して破断面に存在する破断粉Pを除去するためのものである。
【0033】
レーザー光照射部3は、本体部3aと、本体部3aに支持されたヘッド部3bとを有する。本体部3aは、移動しないようにレールに固定されている。ヘッド部3bは、水平面内を360°回転変位できるように(鉛直軸周りに360°回転変位できるように)本体部3aに支持されている。これにより、各破断面102d,102eに対するレーザー光Lの照射位置を移動させることができるようになっている。
【0034】
レーザー光照射部3は、レーザー光Lの光軸が破断方向に対して斜めになった状態で、該レーザー光を各破断面102d,102eに照射するように構成されている。本実施形態では、レーザー光照射部3は、各破断面102d,102eに対して、スポットでレーザー光Lを照射するよう構成されている。尚、レーザー光照射部3は、ライン状にレーザー光を照射するように構成されていてもよいし、面状にレーザー光を照射するように構成されていてよい。また、レーザー光のレーザー源としては、例えば、固体レーザー、半導体レーザー、ガスレーザーなどの種々のレーザーを採用することができる。
【0035】
レーザー光照射部3のヘッド部3bの向き及びレーザー光Lの出力は後述する制御装置50により調整される。レーザー光Lの出力は、制御装置50により、各破断面102d,102eに付着している破断粉を除去することができかつ母材(ここでは、ロッド側大端部102b及びキャップ側大端部102c)に影響を与えない程度の出力に調整される。
【0036】
図4は、レーザー光Lを照射することにより、破断粉Pを除去する過程を示す。図4において、(a)は、レーザー光Lを照射する前の破断面の状態を示し、(b)は、レーザー光Lを照射している時の破断面の状態を示し、(c)は、レーザー光Lを照射した後の破断面の状態を示す。また、図4において、破断面としてはロッド側破断面102dを例示している。図4(a)に示すように、破断直後のロッド側破断面102dには複数の破断粉Pが付着した状態となっている。ここに、図4(b)に示すようにレーザー光Lを照射すると、破断粉Pとロッド側大端部102bとはレーザー光Lにより加熱される。破断粉Pは、母材であるロッド側大端部102bと比較して熱容量がかなり小さいため、レーザー光Lが照射されることで急激に温度が上昇して昇華する。一方で、ロッド側大端部102bは、ほとんど温度上昇することがないため、ロッド側破断面102dはほとんど熱変形しない。これにより、図4(c)に示すように、ロッド側破断面102dの形状にはほとんど影響を与えることなく、破断粉Pがロッド側破断面102dから除去される。尚、熱容量は、母材の材質により異なるため、コンロッド100の材質に応じて適宜レーザー光の出力を調整することが好ましい。
【0037】
制御装置50は、破断面処理装置1の総合的な制御を行う装置であり、CPUを有するプロセッサ、複数のモジュールが格納されたメモリ等を有する。メモリは、ROMやRAMにより構成されている。制御装置50は、ロッド側及びキャップ側支持プレート11,21、ロッド側及びキャップ側クランパ17,27、及びレーザー光照射部3と通信的に接続されている。制御装置50は、前記の各デバイス(レーザー光照射部3等)のそれぞれに、制御信号を送るとともに、それぞれのデバイスからの電気信号を受信するように構成されている。また、図示は省略するが、制御装置50は、破断装置の制御も実行可能な構成となっており、特に大端部102を破断する際の楔の動作を制御できるように構成されている。
【0038】
次に、制御装置50が実行する破断面処理制御について図5のフローチャートを参照しながら説明する。
【0039】
ステップS11において、制御装置50は、破断装置により大端部102をロッド側大端部102bとキャップ側大端部102cとに破断させる。破断処理のプロセスとしては、まず、大端部102の大径ピン孔102aの内周面における破断予定位置に切欠きを形成する。次に、ロッド側支持プレート11とキャップ側支持プレート21とを突き合わせて、楔の挿入孔16が形成されるようにロッド側マンドレル12とキャップ側マンドレル22とを突き合わせる。次いで、大端部102を突き合わせられたロッド側及びキャップ側マンドレル12,22に配置するとともに、小端部101を小端部ガイドピン13にセットする。続いて、ロッド側クランパ17で大端部102のロッド側を保持し、キャップ側クランパ27で大端部102のキャップ側を保持する。そして、挿入孔16に楔を打ち込むことで、ロッド側マンドレル12とキャップ側マンドレル22とが互いに離れる方向に力が発生して、前記切欠きから亀裂が生じて、大端部102がロッド側大端部102bとキャップ側大端部102cとに破断される。このとき、ロッド側支持プレート11及びキャップ側支持プレート21は、大端部102の破断に合わせて破断方向に移動する。尚、破断方法は、前述の方法に限らず種々の方法を採用することができる。
【0040】
次に、ステップS12において、制御装置50は、ロッド側大端部102bとキャップ側大端部102cとを破断面処理装置1におけるレーザー光照射位置まで搬送させる。このとき、ロッド側及びキャップ側大端部102b,102cは、それぞれロッド側及びキャップ側支持プレート11,21が移動することで搬送される。ロッド側及びキャップ側大端部102b,102cは、それぞれロッド側及びキャップ側破断面102d,102eの全体が開放された状態でロッド側及びキャップ側クランパ17,27により保持されたまま搬送される。
【0041】
ついで、ステップS13において、制御装置50は、レーザー光照射部3により、ロッド側及びキャップ側破断面102d,102eにレーザー光Lをそれぞれ照射する。制御装置50は、ロッド側破断面102dにレーザー光Lを照射しているときには、ロッド側支持プレート11の移動を停止させた状態で、レーザー光照射部3のヘッド部3bを変位させることで、レーザー光Lが面全体に照射されるように該レーザー光Lを走査させる。制御装置50は、キャップ側破断面102eにレーザー光Lを照射するときには、キャップ側支持プレート21の移動を停止させた状態で、ヘッド部3bを変位させる。
【0042】
次のステップS14では、制御装置50は、ロッド側破断面102dの面全体及びキャップ側破断面102eの面全体にレーザー光Lの照射が完了したか否かを判定する。この判定は、予め設定されたレーザー光Lの走査パターンが完了したか否かで判定してもよいし、操作状況を実際にカメラ等で撮影することで判定してもよい。ロッド側及びキャップ側破断面102d,102eの各面の全体にレーザー光Lの照射が完了したYESのときには、制御装置50は、破断面処理制御を終了する。ロッド側及びキャップ側破断面102d,102eの少なくとも一方の面が、面全体へのレーザー光Lの照射が完了していないNOのときには、完了していない破断面の面全体へのレーザー光Lの照射が完了するまで、レーザー光Lの照射及び走査を継続する。
【0043】
したがって、本実施形態1では、ロッド側及びキャップ側大端部102b,102cを、それぞれの破断面102d,102eの全体が開放された状態でそれぞれ保持し、保持したロッド側及びキャップ側大端部102b,102cの各破断面102d,102eにそれぞれレーザー光Lを照射する。これにより、ロッド側及びキャップ側破断面102d,102eに付着した破断粉Pの温度が急上昇するため、該破断粉Pが昇華して除去される。また、ロッド側及びキャップ側大端部102b,102cの母材は破断粉と比較して熱容量がかなり大きいため、ほとんど温度上昇せず熱変形し難い。したがって、破断面への物理的な接触を低減しつつ、破断粉を効率的に除去することができる。
【0044】
また、本実施形態では、レーザー光照射部3は、レーザー光Lの光軸が破断方向に対して斜めになった状態で、該レーザー光Lを各破断面102d,102eに照射する。これにより、レーザー光Lの光軸が破断方向に平行である場合と比較して、レーザー光Lの照射面積を大きくすることができる。この結果、破断粉Pをより効率的に除去することができる。また、レーザー光照射部3の走査機構をコンパクトにすることができるとともに、装置全体をコンパクトな構成にすることができる。
【0045】
(実施形態2)
以下、実施形態2について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明において前記実施形態1と共通の部分については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0046】
実施形態2に係る破断面処理装置201では、ロッド側保持部210、キャップ側保持部220、及びレーザー光照射部203の構成が、前記実施形態1とは異なる。具体的には、図6に示すように、ロッド側保持部210は、ロッド側大端部102bを、ロッド側破断面102dが上側を向く状態で保持するように構成されている。キャップ側保持部220は、キャップ側大端部102cを、キャップ側破断面102eが上側を向く状態で保持するように構成されている。レーザー光照射部203は、レーザー光Lの光軸が破断方向と平行になるように構成されている。
【0047】
ロッド側保持部210は、ロッド側破断面102dの全体が上側に向かって解放された状態でロッド側大端部102bを支持するための複数の支持ピン211を有する。支持ピン211は、ロッド側大端部102bが横方向に移動しないように、ロッド側大端部102bの側方を支持する2つの側方支持ピン211aと、ロッド側大端部102bの下側を支持する2つの下側支持ピン211bとを含む。また、ロッド側保持部210は、小端部101の位置決めをするためのガイドピン212を有する。
【0048】
キャップ側保持部220は、キャップ側破断面102eの全体が上側に向かって解放された状態でロッド側大端部102bを支持するための複数の支持ピン221とガイドピン222とを有する。支持ピン221は、キャップ側大端部102cが横方向に移動しないように、キャップ側大端部102cの側方を支持する2つの側方支持ピン221aと、キャップ側大端部102cの下側を支持する2つの下側支持ピン221bとを含む。
【0049】
レーザー光照射部203は、ロッド側及びキャップ側破断面102d,102eに上側からレーザー光Lを照射する。レーザー光Lの出力は、制御装置50により、各破断面102d,102eに付着している破断粉を除去することができかつ母材に影響を与えない程度の出力に調整されている。本実施形態2において、レーザー光照射部203は、揺動はしないように構成されていて、不図示のレールに沿って水平移動のみを行うようになっている。レーザー光照射部203は、制御装置50により、レーザー光Lが面全体に照射されるように走査される。
【0050】
本実施形態2では、ロッド側及びキャップ側大端部102b,102cを、それぞれの破断面102d,102eの全体が開放された状態でそれぞれ保持し、保持したロッド側及びキャップ側大端部102b,102cの各破断面102d,102eにそれぞれレーザー光Lを照射する。このため、破断面への物理的な接触を低減しつつ、破断粉を効率的に除去することができる。
【0051】
また、本実施形態2では、レーザー光照射部203は、レーザー光Lの光軸が破断方向と平行になるように構成されている。すなわち、破断面には細かな凹凸あり、破断粉は凹部に溜まり易い。レーザー光Lの光軸が破断方向と平行であれば、凹部にまでレーザー光Lを照射しやすいため、破断粉をより効果的に除去することができる。
【0052】
(実施形態3)
以下、実施形態3について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明において前記実施形態1及び2と共通の部分については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0053】
実施形態3に係る破断面処理装置301は、基本的な構成は前記実施形態1と同じであるが、振動装置330が設けられている点で、前記実施形態1及び2とは異なる。
【0054】
振動装置330は、図7に示すように、ロッド側及びキャップ側支持プレート11,21のそれぞれに設けられている。振動装置330は、ロッド側支持プレート11において、ロッド側マンドレル12を挟むように、一対配置されている。振動装置330は、キャップ側支持プレート21において、キャップ側マンドレル22を挟むように、一対配置されている。振動装置330は、ロッド側及びキャップ側マンドレル12,22に振動を入力することで、ロッド側及びキャップ側大端部102b,102cを振動させるように構成されている。振動装置330は、破断方向と交差する方向にロッド側及びキャップ側大端部102b,102cを振動させるように構成されている。振動装置330の振動(振幅、周波数など)は、制御装置50により制御される。尚、振動装置330は、必ずしもロッド側及びキャップ側支持プレート11,21に設けられている必要はない。例えば、ロッド側及びキャップ側支持プレート11,21と協働して、ロッド側及びキャップ側大端部102b,102cを上側から挟むように配置された振動装置であってもよい。
【0055】
破断面処理装置301は、レーザー光照射位置、すなわちレーザー光照射部3の下側の位置に、破断粉回収部304を有する。破断粉回収部304は、ロッド側支持プレート11とキャップ側支持プレート21との間に位置する。破断粉回収部304は、上側が開放された箱状をなしており、基台2に対して取り外し可能に設けられている。破断粉回収部304は、振動装置330によりロッド側及びキャップ側大端部102b,102cが振動された際に、ロッド側及びキャップ側破断面102d,102eから剥離されて落下した破断粉を回収する。
【0056】
次に、本実施形態3において、制御装置50が実行する破断面処理制御について図8のフローチャートを参照しながら説明する。
【0057】
ステップS21において、制御装置50は、破断装置により大端部102をロッド側大端部102bとキャップ側大端部102cとに破断させる。破断方法は、前記実施形態1で述べたような方法を採用することができる。
【0058】
次に、ステップS22において、制御装置50は、ロッド側大端部102bとキャップ側大端部102cとを破断面処理装置1におけるレーザー光照射位置まで搬送させる。
【0059】
次いで、ステップS23において、制御装置50は、振動装置330により、ロッド側及びキャップ側マンドレル12,22に振動を入力して、ロッド側及びキャップ側大端部102b,102cを振動させる。これにより、比較的粒径の大きい破断粉が、破断面から剥離されて自重により破断粉回収部304に落下する。
【0060】
次のステップS24では、制御装置50は、振動装置330による振動を開始してから所定時間が経過したか否かを判定する。制御装置50は、所定時間が経過したYESのときには、振動装置330による振動を停止させてからステップS25に進む一方で、所定時間が経過していないNOのときには、所定時間が経過するまで振動を入力させ続ける。
【0061】
前記ステップS25では、制御装置50は、レーザー光照射部3により、ロッド側及びキャップ側破断面102d,102eにレーザー光Lをそれぞれ照射する。制御装置50は、レーザー光Lが面全体に照射されるように該レーザー光Lを走査させる。
【0062】
次のステップS26では、制御装置50は、ロッド側破断面102dの面全体及びキャップ側破断面102eの面全体にレーザー光Lの照射が完了したか否かを判定する。ロッド側及びキャップ側破断面102d,102eの各面の全体にレーザー光Lの照射が完了したYESのときには、制御装置50は、破断面処理制御を終了する。ロッド側及びキャップ側破断面102d,102eの少なくとも一方の面が、面全体へのレーザー光Lの照射が完了していないNOのときには、完了していない破断面の面全体へのレーザー光Lの照射が完了するまで、レーザー光Lの照射及び走査を継続する。
【0063】
したがって、本実施形態3では、ロッド側及びキャップ側大端部102b,102cを、それぞれの破断面102d,102eの全体が開放された状態でそれぞれ保持し、保持したロッド側及びキャップ側大端部102b,102cの各破断面102d,102eにそれぞれレーザー光Lを照射する。このため、破断面への物理的な接触を低減しつつ、破断粉を効率的に除去することができる。
【0064】
また、本実施形態3では、振動装置330を用いることで、破断粉をより効率的に除去することができる。特に、振動装置330では、比較的大きな粒径の破断粉が除去されるため、振動装置330による振動が完了した後の破断面102d,102eには、比較的小さな粒径の破断粉が残留している。このため、振動装置330よる振動が完了した後であれば、レーザー光Lの出力は、比較的小さな粒径の破断粉を昇華させることができる程度にすればよい。この結果、レーザー光Lの出力を出来る限り低くすることができ、母材(ここでは、ロッド側及びキャップ側大端部102b,102c)への影響をより効果的に抑制することができる。
【0065】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0066】
例えば、前述の実施形態1~3のそれぞれに、各破断面102d,102eに送風する送風装置を設けてもよい。このとき、送風装置による送風は、レーザー光照射部3,203によりレーザー光Lを照射する前であることが好ましい。また、実施形態3においては、送風装置による送風は、振動装置330により振動を入力している最中若しくは振動が完了した後で、かつレーザー光照射部3,203によりレーザー光Lを照射する前であることが好ましい。これにより、レーザー光Lを照射する段階において、破断面に残留する破断粉を出来る限り少なくできるため、レーザー光の出力を出来る限り小さくすることができ、母材への影響をより効果的に抑制することができる。
【0067】
また、前述の実施形態2において、レーザー光照射部203は、各破断面102d、102eに上側からレーザー光を照射するように構成されていた。これに限らず、ロッド側及びキャップ側大端部102b、102cをそれぞれの破断面102d、102eが側方を向くように保持させて、レーザー光照射部203を各破断面102d、102eに側方からレーザー光を照射するように構成してもよい。
【0068】
また、前述の実施形態3において、振動装置330による振動が完了して、振動を停止させた後にレーザー光Lを照射していた。これに限らず、振動装置330による振動中にレーザー光Lを照射してもよい。また、レーザー光Lの照射前及び照射中の両方の期間で、振動装置330による振動を行うようにしてもよい。
【0069】
また、前述の実施形態1~3では、延性金属製部品としてコンロッド100を例示したが、破断して用いられる延性金属製部品であれば、コンロッド100以外のものを対象とすることができる。
【0070】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0071】
ここに開示された技術は、延性金属製部品を破断方向に破断することにより分割した破断部品のそれぞれの破断面を処理する方法及び装置として有用である。
【符号の説明】
【0072】
1 破断面処理装置
3 レーザー光照射部
10 ロッド側保持部
20 キャップ側保持部
100 コネクティングロッド(延性金属製部品)
102b ロッド側大端部(破断部品)
102c キャップ側大端部(破断部品)
102d ロッド側破断面
102e キャップ側破断面
203 レーザー光照射部
210 ロッド側保持部
220 キャップ側保持部
330 振動装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8