IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイダエンジニアリング株式会社の特許一覧

特開2022-26260機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置
<>
  • 特開-機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置 図1
  • 特開-機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置 図2
  • 特開-機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置 図3
  • 特開-機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置 図4
  • 特開-機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置 図5
  • 特開-機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置 図6
  • 特開-機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026260
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   F16N 29/00 20060101AFI20220203BHJP
   C10M 171/00 20060101ALI20220203BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20220203BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
F16N29/00 A
C10M171/00
F16N29/00 B
F16N29/00 C
F16N29/00 D
C10N20:02
C10N20:00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129640
(22)【出願日】2020-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000100861
【氏名又は名称】アイダエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134212
【弁理士】
【氏名又は名称】提中 清彦
(72)【発明者】
【氏名】皆川 隆喜
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 篤史
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104EA02Z
4H104EA06Z
(57)【要約】
【課題】 機械の定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を精度よく監視することができる機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、機械の各部に潤滑油を供給するために定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を監視する機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置であって、潤滑油の圧力に関連する圧力関連情報を取得する圧力情報取得ユニット6と、潤滑油の温度に関連する温度関連情報を取得する温度情報取得ユニット5と、を備え、温度情報取得ユニット5からの温度関連情報に基づいて実際の潤滑油の温度を取得し、当該実際の潤滑油の温度において発生されるべき適正な油圧を演算により取得すると共に、圧力情報取得ユニット6からの圧力関連情報に基づいて実際の潤滑油の圧力を取得して、実際の潤滑油の圧力を前記適正な油圧と比較しながら潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を監視する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械の各部に潤滑油を供給するために定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を監視する機械の潤滑油供給系統監視方法であって、
潤滑油供給系統の潤滑油の圧力に関連する圧力関連情報を取得する圧力情報取得ユニットと、
潤滑油供給系統の潤滑油の温度に関連する温度関連情報を取得する温度情報取得ユニットと、
を備え、
前記温度情報取得ユニットからの温度関連情報に基づいて実際の潤滑油の温度を取得し、当該実際の潤滑油の温度において発生されるべき適正な油圧を演算により取得すると共に、前記圧力情報取得ユニットからの圧力関連情報に基づいて実際の潤滑油の圧力を取得して、当該実際の潤滑油の圧力を前記適正な油圧と比較しながら潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を監視することを特徴とする機械の潤滑油供給系統監視方法。
【請求項2】
前記適正な油圧は、
本潤滑油供給系統をひとつの円管とした場合に、任意の潤滑油の温度における実際の潤滑油の圧力と、当該任意の潤滑油の温度における潤滑油の動粘度と、潤滑油の密度と、潤滑油の流量と、に基づいて演算により取得する配管抵抗係数と、
実際の潤滑油の温度における潤滑油の動粘度と、
に基づいて取得することを特徴とする請求項1に記載の潤滑油供給系統監視方法。
【請求項3】
前記配管抵抗係数は、任意の潤滑油の温度における実際の潤滑油の圧力と、当該任意の潤滑油の温度における潤滑油の動粘度と、潤滑油の密度と、潤滑油の流量と、さらに当該潤滑油給油系統の揚程と、に基づいて演算により取得されることを特徴とする請求項2に記載の潤滑油供給系統監視方法。
【請求項4】
前記実際の潤滑油の圧力と前記適正な油圧との比較は、前記適正な油圧に基づいて設定する上下限監視値と、前記実際の潤滑油の圧力と、を比較することにより行うことを特徴とする請求項1~請求項3の何れか一つに記載の潤滑油供給系統監視方法。
【請求項5】
前記配管抵抗係数は、
配管抵抗係数 C=ΔP/(ν×γ×Q)
Q:潤滑油の流量 (cm3/sec)
ΔP:実際の潤滑油の圧力(圧力損失) (MPa)
ν :潤滑油の動粘度 (cm2/sec:St)
γ :潤滑油の密度 (kg/cm3)
なる式により取得することを特徴とする請求項2又は請求項4に記載の潤滑油供給系統監視方法。
【請求項6】
前記配管抵抗係数は、
配管抵抗係数 C=(ΔP-h×γ×g×10-4)/(ν×γ×Q)
Q:潤滑油の流量 (cm3/sec)
h:揚程(cm)
g:重力加速度(g=980cm/sec2)
ΔP:実際の潤滑油の圧力(圧力損失) (MPa)
ν :油の動粘度 (cm2/sec:St)
γ :油の密度 (kg/cm3)
なる式により取得することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の潤滑油供給系統監視方法。
【請求項7】
機械の各部に潤滑油を供給するために定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を監視する機械の潤滑油供給系統監視装置であって、
潤滑油供給系統の潤滑油の圧力に関連する圧力関連情報を取得する圧力情報取得ユニットと、
潤滑油供給系統の潤滑油の温度に関連する温度関連情報を取得する温度情報取得ユニットと、
を備えると共に、
前記温度情報取得ユニットからの温度関連情報に基づいて実際の潤滑油の温度を取得し、当該実際の潤滑油の温度において発生されるべき適正な油圧を演算により取得すると共に、前記圧力情報取得ユニットからの圧力関連情報に基づいて実際の潤滑油の圧力を取得して、当該実際の潤滑油の圧力を前記適正な油圧と比較しながら潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を監視する潤滑油供給系統監視制御装置と、
を備えて構成したことを特徴とする機械の潤滑油供給系統監視装置。
【請求項8】
前記適正な油圧は、
本潤滑油供給系統をひとつの円管とした場合に、任意の潤滑油の温度における実際の潤滑油の圧力と、当該任意の潤滑油の温度における潤滑油の動粘度と、潤滑油の密度と、潤滑油の流量と、に基づいて演算により取得する配管抵抗係数と、
実際の潤滑油の温度における潤滑油の動粘度と、
に基づいて取得することを特徴とする請求項7に記載の機械の潤滑油供給系統監視装置。
【請求項9】
前記配管抵抗係数は、任意の潤滑油の温度における実際の潤滑油の圧力と、当該任意の潤滑油の温度における潤滑油の動粘度と、潤滑油の密度と、潤滑油の流量と、さらに当該潤滑油給油系統の揚程と、に基づいて演算により取得されることを特徴とする請求項8に記載の機械の潤滑油供給系統監視装置。
【請求項10】
前記実際の潤滑油の圧力と前記適正な油圧との比較は、前記適正な油圧に基づいて設定される上下限監視値と、前記実際の潤滑油の圧力と、を比較することにより行うことを特徴とする請求項7~請求項9の何れか一つに記載の潤滑油供給系統監視装置。
【請求項11】
前記配管抵抗係数は、
配管抵抗係数 C=ΔP/(ν×γ×Q)
Q:潤滑油の流量 (cm3/sec)
ΔP:実際の潤滑油の圧力(圧力損失) (MPa)
ν :潤滑油の動粘度 (cm2/sec:St)
γ :潤滑油の密度 (kg/cm3)
なる式により取得することを特徴とする請求項8又は請求項10に記載の潤滑油供給系統監視装置。
【請求項12】
前記配管抵抗係数は、
配管抵抗係数 C=(ΔP-h×γ×g×10-4)/(ν×γ×Q)
Q:潤滑油の流量 (cm3/sec)
h:揚程(cm)
g:重力加速度(g=980cm/sec2)
ΔP:実際の潤滑油の圧力(圧力損失) (MPa)
ν :潤滑油の動粘度 (cm2/sec:St)
γ :潤滑油の密度 (kg/cm3)
なる式により取得することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の潤滑油供給系統監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械全般の定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統において、潤滑油の供給状態を監視する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、機械全般(例えば、プレスマシンその他の工作機械、内燃機関など一般的な機械)の各部への潤滑油の供給のために定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統において、その潤滑油の供給状態を監視し、異常があった場合には機械の運転を停止(例えば、インターロック停止)させ、機械の異常状態を回避するための措置を促すことなどを可能とするなど、潤滑油供給系統の維持、管理に貢献可能な監視システムが求められている。
【0003】
ここで、機械の定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統が潤滑油を正常に供給していることを監視するために一般的に用いられている方法のひとつが、所定油圧以上でオンとなる圧力スイッチを用いて油圧が発生していることを監視する方法である。
【0004】
ところが、潤滑油は油温が高い程、その粘性抵抗が小さくなるため、油圧が低くなる。このため、圧力スイッチを用いて監視する方法の場合は、その潤滑油供給系統を運用する温度範囲(正常時)において、異常検出のために圧力スイッチがオンとなる圧力の設定値(設定下限油圧)は、最も高い油温のときに発生する正常時の油圧よりも低く設定する必要がある。
【0005】
一方で、油温が下がった場合には、そのときに発生する油圧と圧力スイッチの下限設定油圧が大きく乖離するために、潤滑油供給系統の破損や詰まり等が生じても検出し難いといった実情がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-285800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、潤滑油供給系統の監視方法として流量計を用いることもある(例えば、特許文献1)。この場合,定容量形ポンプから供給される潤滑油流量は一定のため,温度による影響は少ない。このため,監視すべき流量はその潤滑油供給系統を運用する温度範囲において適切に設定することが可能である。
しかし、潤滑油供給系統において流量計の二次側で支流配管の破損による潤滑油の流出や詰まり等の異常による潤滑油の供給不足が発生した場合でも,流量に変化はないため、その異常を検出することはできない。流量計を必要給油部の末端に複数個取り付けて監視する方法もあるが、流量計の二次側での配管の破損は検出できないうえ、コストが嵩むといった実情がある。
【0008】
本発明は、上述した実情に鑑みなされたもので、比較的簡単かつ低コストな構成でありながら、機械の定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を精度よく監視することができる機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため、本発明に係る機械の潤滑油供給系統監視方法は、
機械の各部に潤滑油を供給するために定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を監視する機械の潤滑油供給系統監視方法であって、
潤滑油供給系統の潤滑油の圧力に関連する圧力関連情報を取得する圧力情報取得ユニットと、
潤滑油供給系統の潤滑油の温度に関連する温度関連情報を取得する温度情報取得ユニットと、
を備え、
前記温度情報取得ユニットからの温度関連情報に基づいて実際の潤滑油の温度を取得し、当該実際の潤滑油の温度において発生されるべき適正な油圧を演算により取得すると共に、前記圧力情報取得ユニットからの圧力関連情報に基づいて実際の潤滑油の圧力を取得して、当該実際の潤滑油の圧力を前記適正な油圧と比較しながら潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を監視することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る機械の潤滑油供給系統監視装置は、
機械の各部に潤滑油を供給するために定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を監視する機械の潤滑油供給系統監視装置であって、
潤滑油供給系統の潤滑油の圧力に関連する圧力関連情報を取得する圧力情報取得ユニットと、
潤滑油供給系統の潤滑油の温度に関連する温度関連情報を取得する温度情報取得ユニットと、
を備えると共に、
前記温度情報取得ユニットからの温度関連情報に基づいて実際の潤滑油の温度を取得し、当該実際の潤滑油の温度において発生されるべき適正な油圧を演算により取得すると共に、前記圧力情報取得ユニットからの圧力関連情報に基づいて実際の潤滑油の圧力を取得して、当該実際の潤滑油の圧力を前記適正な油圧と比較しながら潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を監視する潤滑油供給系統監視制御装置と、
を備えて構成したことを特徴とする。
【0011】
本発明において、
前記適正な油圧は、
本潤滑油供給系統をひとつの円管とした場合に、任意の潤滑油の温度における実際の潤滑油の圧力と、当該任意の潤滑油の温度における潤滑油の動粘度と、潤滑油の密度と、潤滑油の流量と、に基づいて演算により取得する配管抵抗係数と、
実際の潤滑油の温度における潤滑油の動粘度と、
に基づいて取得することを特徴とすることができる。
【0012】
本発明において、
前記配管抵抗係数は、任意の潤滑油の温度における実際の潤滑油の圧力と、当該任意の潤滑油の温度における潤滑油の動粘度と、潤滑油の密度と、潤滑油の流量と、さらに当該潤滑油給油系統の揚程と、に基づいて演算により取得されることができる。
【0013】
本発明において、
前記実際の潤滑油の圧力と前記適正な油圧との比較は、前記適正な油圧に基づいて設定する上下限監視値と、前記実際の潤滑油の圧力と、を比較することにより行うことを特徴とすることができる。
【0014】
本発明において、
前記配管抵抗係数は、
配管抵抗係数 C=ΔP/(ν×γ×Q)
Q:潤滑油の流量 (cm3/sec)
ΔP:実際の潤滑油の圧力(圧力損失) (MPa)
ν :潤滑油の動粘度 (cm2/sec:St)
γ :潤滑油の密度 (kg/cm3)
なる式により取得することを特徴とすることができる。
【0015】
本発明において、
前記配管抵抗係数は、
配管抵抗係数 C=(ΔP-h×γ×g×10-4)/(ν×γ×Q)
Q:潤滑油の流量 (cm3/sec)
h:揚程(cm)
g:重力加速度(g=980cm/sec2)
ΔP:実際の潤滑油の圧力(圧力損失) (MPa)
ν :潤滑油の動粘度 (cm2/sec:St)
γ :潤滑油の密度 (kg/cm3)
なる式により取得することを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、比較的簡単かつ低コストな構成でありながら、機械の定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を精度良く監視することができる機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態に係る潤滑油供給系統監視装置の全体構成を概略的に示すブロック図である。
図2】同上各実施例に係る潤滑油供給系統監視装置が行う配管抵抗係数Cを演算により取得する制御の一例を示すフローチャートである。
図3】同上各実施例に係る潤滑油供給系統監視装置が行う潤滑油供給系統の監視制御の一例を説明するフローチャートである。
図4】潤滑油温に対する機械の潤滑油の圧力曲線及び上下限監視値曲線の一例を示す図(横軸:潤滑油温、縦軸:潤滑油圧)である。
図5】潤滑油の流れを支配する各要素を説明する概略図である。
図6】潤滑油の油温と動粘度の関係の一例を示す図(横軸:油温、縦軸:動粘度)である。
図7】プレス機の潤滑油温と潤滑油圧の関係の一例を示す図(横軸:潤滑油温、縦軸:潤滑油圧)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態について、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施形態により、本発明が限定されるものではない。
【0019】
本発明の一実施形態に係る潤滑油供給系統監視装置は、機械の各部に循環給油をするために定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統において、潤滑油の供給状態の異常の有無を監視するために、実際の潤滑油の圧力(以下、潤滑油の油圧、または単に、潤滑油圧あるいは油圧とも称する)を測定してその測定値を電気的な信号として出力できる圧力センサ等の圧力情報取得ユニットを備え、かつ潤滑油の温度(以下、潤滑油の油温、または単に、潤滑油温あるいは油温とも称する)を測定してその測定値を電気的な信号として出力できる温度センサ等の温度情報取得ユニットを備え、それぞれの信号を演算機能のある制御装置に送ることができるシステムを含んで構成される。ここで、測定された実際の潤滑油の圧力や、後述する演算によって求められる油圧の理論値(適正油圧)は、当該潤滑供給系統における圧力損失である。圧力損失とは、潤滑油が滑油供給系統の配管系統内を流れる際の抵抗(配管内部壁面と潤滑油との間の摩擦抵抗、絞りや曲り等による抵抗、流れの乱れ(渦や乱流)による抵抗等)によるエネルギ損失であり、配管系統の入口(1次側圧力)と出口(2次側圧力)との差圧で示され、ポンプの吐出圧力でもある。
【0020】
本実施の形態に係る潤滑油供給系統監視装置100の一具体例としては、図1に示すように構成され、オイルタンク等の潤滑油貯留部11とオリフィス9、およびオリフィス9から例えば軸受等の給油先1~nを接続する潤滑油通路10を含んで構成され、潤滑油通路10の潤滑油流れの上流側(以下、単に上流側とも称する)の基端部10Aは潤滑油貯留部11の底部に対し所定の高さに設置され、貯留されている潤滑油に浸った状態となっている。
なお、図1中の符号1は、通過する潤滑油の流路を開閉するグローブバルブ(玉形弁)である。
【0021】
潤滑油貯留部11の潤滑油流れ下流側(以下、単に下流側とも称する)の潤滑油通路10には、グローブバルブ1、オイルフィルタ2、オイルポンプ3、オイルフィルタ4、温度情報取得ユニットとしての潤滑油温度センサ(以下、単に温度センサとも称する)5、圧力情報取得ユニットとしての潤滑油圧力センサ(以下、単に圧力センサとも称する)6、圧力ゲージ7(例えば目視用のゲージ)、チェックバルブ(一方向弁)8、オリフィス9(例えば軸受等の給油先1~n)が、潤滑油流れ上流側から潤滑油流れ下流側に向かって、この順番で介装されている。
【0022】
そして、本実施の形態に係る潤滑油供給系統監視装置100の制御を司る制御装置20には、オイルポンプ3の吐出流量、温度センサ5からの潤滑油温度の測定値の電気的な信号、圧力センサ6からの潤滑油圧の測定値の電気的な信号などが入力される。なお、オイルポンプ3の吐出流量はポンプ回転数などに応じて定められている値を利用することができるが、流量計を設け、測定した値を利用してもよい。
ここにおいて、本実施の形態に係る制御装置20が、本発明に係る潤滑油供給系統監視制御装置に相当する。
【0023】
制御装置20は、各種インターフェース、A/D変換器、各種メモリ、CPUなどを含んで構成され、各種の情報の入出力、各種の演算処理、各種のプログラムの実行などを行うことができるように構成されている。
【0024】
ここで、本実施の形態に係る潤滑油供給系統の動作としては、図示しないオイルポンプ駆動制御装置によりオイルポンプ3を所定に駆動すると、潤滑油貯留部11内の潤滑油は潤滑油通路10を介して吸い上げられ、上流側のオイルフィルタ2を経由してオイルポンプ3へ吸入される。吸入された潤滑油はオイルポンプ3にて加圧され、オイルポンプ3の下流側へ吐出される。なお、オイルポンプ駆動制御装置は制御装置20が兼ねてもよい。また、オイルポンプ3としては、定容量形ポンプが採用されている。
【0025】
ここで、定容量形ポンプとは、ポンプ駆動軸が回転した際に、1回転当たりの理論的な吐出流量が所定値に固定されたポンプであり、例えばギヤポンプ、ベーンポンプなどのいずれのタイプであっても定容量形ポンプであれば採用可能である。
【0026】
潤滑油貯留部11からオイルポンプ3によって吸入、吐出された潤滑油は、下流側のオイルフィルタ4を通過して、潤滑油通路10に介装されている温度センサ5、圧力センサ6、圧力ゲージ7、チェックバルブ8を通過した後、オリフィス9へと供給されるようになっている。
オリフィス9へ供給された潤滑油は、例えば軸受等の給油先1~nの各給油先に給油された後、潤滑油貯留部11へ回収されるように構成されている。
【0027】
以上のような潤滑油供給系統において、潤滑油供給系統監視装置100は、以下のようにして、正常に潤滑油が供給されているか否かの監視を実行する。
【0028】
潤滑油供給系統監視装置100の制御装置20では、任意の潤滑油の温度における当該潤滑油供給系統の油圧を測定して、その測定値から潤滑油供給系統の配管抵抗係数Cを演算により取得する。そして、この配管抵抗係数Cと、使用している潤滑油の温度と動粘度の関係から求まる前記任意の潤滑油の温度における動粘度と、に基づいて、潤滑油供給系統の使用温度範囲全域の適正な油圧を演算により取得するように構成されている。
【0029】
また、制御装置20は、温度センサ5の測定値の電気的な信号に基づき取得される実際の油温に対する「当該潤滑油供給系統における適正な油圧(適正油圧)」を演算により取得し、その適正油圧と、予め設定されている異常を検出するための油圧の上限側と下限側の許容範囲と、に基づいて、異常を検出するための上限油圧監視値及び下限油圧監視値を自動的に設定する。
【0030】
そして、潤滑油供給系統監視装置100の制御装置20は、圧力センサ6からの測定値の電気的な信号に基づき取得される実際の油圧を監視し、この潤滑油の油圧の測定値が、前記上限油圧監視値または前記下限油圧監視値の範囲を超えると異常表示を出して警告したり、機械を停止させたりする制御を行うことが可能となっている。
【0031】
例えば、潤滑油供給系統の配管系統に破損などが発生して,潤滑油が所定の給油箇所(ここでは、例えばオリフィス9(例えば軸受等の給油先1~n))に供給されなくなった状態では、圧力損失が減少することによって油圧が下がるため、実際の温度に応じて設定された下限油圧監視値(下限設定値)に基づいて、かかる破損に関連する異常を検出することができる。
【0032】
一方、潤滑油供給系統の配管系統に詰まりなどが発生して、潤滑油が所定の給油箇所に供給されなくなった状態では、圧力損失が増大することによって油圧が上がるため、実際の温度に応じて設定された上限油圧監視値(上限設定値)に基づいて、かかる目詰まりに関連する異常を検出することができる。
【0033】
ここで、潤滑油供給系統監視装置100の制御装置20が行う潤滑油の供給状態を監視する制御を、図2図3のフローチャートに従って、より詳細に説明する。
図2図3で用いる記号を列挙しておく。
Q :ポンプの吐出流量
h :揚程
g :重力加速度
tb :配管抵抗係数C演算時の実測油温
ΔPb :油温tbにおける実測潤滑油圧
νb :油温 tbにおける潤滑油の動粘度
γ :使用する潤滑油の密度
C :配管抵抗係数
t :潤滑油供給系統の監視時の潤滑油温
ΔP :潤滑油供給系統の監視時の潤滑油圧
ΔPc :潤滑油温tにおける潤滑油圧の理論値(適正油圧)
ΔPl :潤滑油温tにおける潤滑油圧の下限設定値
ΔPu :潤滑油温tにおける潤滑油圧の上限設定値
【0034】
図2は、配管抵抗係数Cを取得するためのフローチャートである。なお、当該フローは、例えば、機械の運転中、オイルポンプが作動し油圧や油温が安定した状態などにおいて所定のタイミングで実行することができる。
図2のステップ(図ではSと記す。以下、同様)1では、圧力センサ6からの電気的な信号に基づいて潤滑油の実際の油圧ΔPbを取得する。
【0035】
ステップ2では、温度センサ5からの電気的な信号に基づいて潤滑油の実際の潤滑油温tbを取得する。
【0036】
ステップ3では、操作者により入力或いは予めメモリに記憶されている値や定数など(ポンプ吐出流量Q、潤滑油温tbにおける潤滑油の動粘度νb、潤滑油の密度γ、揚程h、重力加速度gなど)と、ステップ1にて取得した実際の潤滑油圧ΔPb、ステップ2にて取得した実際の潤滑油温tbに基づいて、配管抵抗係数Cを演算により取得する。なお、ポンプ吐出流量Qはポンプ回転数などに応じて定められている値を利用することができるが、図示しない流量計により測定した値を利用する構成とすることも可能である。
【0037】
続くステップ4では、配管抵抗係数Cをメモリに記憶して、本フローを終了する。
【0038】
なお、配管抵抗係数Cは、潤滑油の状態(温度や動粘度)にかかわらず、潤滑油供給系統の構成に依存する固有の値であるため、一度取得すれば、構成を変更しない限り、潤滑油の種類や運転状態を変更しても、再度取得する必要はない。但し、機械を再始動する場合などにおいて、再始動を行う度に、図2のフローを実行し、その都度、取得することも可能である。
【0039】
ここで、本実施の形態では、以下のような方法で、配管抵抗係数Cを演算により取得し、この取得した配管抵抗係数Cに基づいて、潤滑油供給系統における適正油圧を演算により取得する。
すなわち、本実施の形態に係る潤滑油供給系統監視装置100の制御装置20が行う「演算によって取得した配管抵抗係数Cによる潤滑油供給系統内の油圧の推定方法」について説明する。
【0040】
<潤滑油の圧力損失決定要素>
潤滑油の圧力損失は、主に以下の要素により決定される。
(A)潤滑油の吐出流量:Q
(B)潤滑油の動粘度:ν
(C)配管系統の抵抗値(配管抵抗係数:C )
潤滑油供給系統の配管抵抗を表す配管抵抗係数Cは、次の圧力損失の式から実測値に基づいて演算し取得することが可能である。
【0041】
<潤滑油の流れ要素及び圧力損失の基本式>
潤滑油の流れを支配する各要素を、図5に示すように定義する。
一般的な潤滑油の流れは層流である場合が多い。層流流れの圧力損失は、式(1)により求めることができる。
式(1)の第1項目は円管内の圧力損失を表し、第2項目は揚程による圧力を示している。
ΔP=(128×ν×γ×L×Q)/(π×d4×104)+h×γ×g ・・・(1)
ΔP:圧力損失 (MPa) ν :油の動粘度 (cm2/sec:St)
γ :油の密度 (kg/cm3) L :管長さ (cm)
d :管内径 (cm) Q :流量 (cm3/sec)
h :揚程 (cm) g :重力加速度 (g=980cm/sec2)
t :油温 (°C)
ここで、式(1)における揚程による圧力は、通常、潤滑油供給系統全体の圧力損失に対して占める割合が小さいため省略してもよい。この場合、ΔPは式(1-1)により求めることができる。
ΔP=(128×ν×γ×L×Q)/(π×d4×104) ・・・(1-1)
また、圧力損失ΔPは、図5における1次側圧力P0と2次側圧P1の差圧を示し、一般的に大気圧を基準(「P1」=大気圧)としているため、圧力センサの測定値(図5のP0)とすることができる(ΔP=「P0+P1」-「P1」)。但し、大気圧を基準として扱わない場合には、図5に示した通り、ΔPは、「圧力センサで測定した圧力」(図5のP0)から「基準圧」(図5のP1)を差し引いた値とすることができる。
【0042】
<配管抵抗係数>
個々の配管の圧力損失は式(1)により計算することができるが、潤滑油供給系統全体の圧力損失を計算することは容易ではない。そこで、本発明では、潤滑油供給系統全体をひとつの配管として捉え、式(1)を利用して、複数の個別の配管により構成される潤滑油供給系統全体としてのモデルを構築する。
【0043】
ここで、式(1)を構成する要素を、配管固有の項目と、潤滑油固有の項目と、に分けて考える。
配管固有の項目及び定数:L,d
潤滑油固有の項目 :ν,γ,Q
式(1)を配管系統による因子と潤滑油による因子に分解するために、配管固有の項目及び定数を配管抵抗係数:Cとしてまとめ、式(1)の第1項目から抽出したものを式(2)に示す。
C=(128×L)/(π×d4×104) ・・・(2)
配管抵抗係数Cを式(1)に戻すと
ΔP=C×ν×γ×Q+h×γ×g×10-4 ・・・(3)
変形して
C=(ΔP-h×γ×g×10-4)/(ν×γ×Q) ・・・(4)
ここで揚程による圧力を省略した場合の配管抵抗係数は、式(4-1)により求めることができる。
C=ΔP/(ν×γ×Q) ・・・(4-1)
【0044】
実際の潤滑油供給系統におけるそれぞれの数値(測定した潤滑油の油圧、揚程、測定した油温に基づく潤滑油の動粘度、潤滑油の密度)を式(4)に代入すると、配管抵抗係数Cを計算することができる。なお、式(4)における油の密度は、油の動粘度と同様に油温に応じて変化するが、動粘度と比べて変化の割合は小さく計算結果に与える影響も小さい。このため、(4)式に代入する値は必ずしも測定した油温に基づいた値とする必要は無く、一般的な値でよい。
【0045】
以下に、実際に具体的な数値を式(4)に代入して配管抵抗係数Cを計算した例を示す。ここで計算された配管抵抗係数Cとはまさに実際の潤滑油供給系統の数値モデルである。
ここでは、あるプレス機械の潤滑油供給系統において測定した具体的な数値を入れて計算する。
a)油温:t=21°C
b)使用潤滑油:ISO VG32(油温40°Cにて動粘度が32cStの一般的な作動油)
c)油の動粘度(油温21°CでISO VG32の場合):ν=87.5cSt =0.875 St(cm2/sec) (図6の油温-動粘度線図より)
d)油の密度:γ=0.87×10-3 kg/cm3
e)ポンプ吐出流量:Q=15.0L/min=250 cm/sec
f)ポンプの最高吐出圧力:Pmax=2.5 MPa (ポンプの仕様)
g)ポンプの吐出圧力:ΔP=0.89 MPa
h)吐出配管内径:d=φ12.7mm
i)揚程:h=370cm
j)重力加速度:g=980cm/sec2
C=(ΔP-h×γ×g×10-4)/(ν×γ×Q)
=(0.89-370×0.87×10-3×980×10-4)/(0.875×0.87×10-3×250)=4.511 ・・・(5)
【0046】
上記の計算結果(5)に示す通り、配管抵抗係数 Cを計算することができ、これにより、式(3)を用いて様々なことをシミュレーションすることができる。
例えば、当該配管系統に流れる油の温度が変化した場合、温度と動粘度の関係を調べて(例えば図6等を参照して)、式(3)にそれぞれの温度毎のデータを入力すれば、それぞれの油温における油圧をシミュレーションすることができる。同様に、当該配管系統に流す油の流量及び動粘度(油の番手)を変えた場合に発生する油圧もシミュレーションすることができる。
【0047】
ここで、上で記載した具体的な潤滑油系統の油温40°Cでの管内流れの状態を確認しておく。
V :管内流速(m/sec)
V=(4×Q)/(π×d2)=(4×2.5×10-4)/(π×(12.7×10-3)2)=1.973 m/sec
ν :油の動粘度 (cm2/s:St) ISO VG32(40°C):ν=32cSt=32×10-6 m2/sec
d :吐出配管内径(m):d =φ12.7mm=φ12.7×10-3 m
Q :流量(m/sec):Q =15.0 L/min= 2.5×10-4 m3/sec
レイノルズ数:Re=(V×d)/ν
=(4×Q)/(π×d×ν)
=(1.973×12.7×10-3)/(32×10-6)
=783 ≦ 2000 (層流)・・・(6)
上記の計算結果(6)より、本例は、レイノルズ数が2000より小さいため層流と判断できる。
従って、層流を前提としている式(1)は成立する。
【0048】
<潤滑油供給系統の油温と油圧の特性>
ここで、前述した<配管抵抗係数>において例示した具体的な例に基づいて、潤滑油供給系統の油温と油圧についてシミュレーションを行ってみる。
まず、各温度における油圧を計算するために、計算結果(5)を式(3)に代入する。
ΔP=4.511×ν×γ×Q+h×γ×g×10-4 ・・・(7)
さらに、式(7)に油の密度:γ、流量:Q、揚程:h、重力加速度:gの数値を入れると、式(8)となり、油圧は動粘度の関数になる。
ΔP=4.511×ν×0.87×10-3×250+370×0.87×10-3×980×10-4 ・・・(8)
【0049】
一方、油温と潤滑油 ISO VG32の動粘度の関係を近似的に表すと、式(9)のように表せる(図6参照)。
ν=39000×(t+19)-ABS(0.0035×t+1.58) (cSt) ・・・(9)
式(8)に式(9)を代入すると、下式(10)となり、図7に示すように、圧力損失ΔPは、油温tの関数となる。
ΔP(ΔPc)=4.511×39000×(t+19)-ABS(0.0035×t+1.58))×0.87×10-3×250
+370×0.87×10-3×980×10-4 (MPa) ・・・(10)
【0050】
このように、実測値に基づき配管抵抗係数Cを取得して、実際の潤滑油供給系統の配管系統をモデル化すると、潤滑油供給系統において油温が変化した場合や、油の動粘度(油の番手)及び流量を変化させた場合の潤滑油の油圧ΔP、すなわち、使用潤滑油のある油温における油圧の理論値ΔPcとして取得することができる。この理論値ΔPcが潤滑油供給系統が正常である場合に得られる適正油圧となる。
【0051】
本実施の形態では、このような考えに基づいて、実際の油温における潤滑油供給系統の適正油圧を取得すると共に、取得した適正油圧に基づいて設定した油圧の上限側と下限側の許容範囲(上限値~下限値の範囲)と、実際の油圧と、に基づいて、潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を監視する。なお、潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を監視することによって異常の有無を検出することが可能となり、異常があれば異常表示を出して警告したり、機械を停止させたりする制御を行うことができる。
【0052】
ここで、図3に示すフローチャートに従って、本実施の形態に係る潤滑油供給系統監視装置100の制御装置20が行う潤滑油供給系統の監視制御の一例を説明する。なお、当該フローは、例えば、機械の運転中、オイルポンプが作動し油圧や油温が所定に安定した状態などにおいて実行することができる。
【0053】
ステップ11では、図2のフローチャートで取得しメモリに記憶されている配管抵抗係数Cを読み出す。
【0054】
ステップ12では、温度センサ5からの信号に基づいて、現在における実際の潤滑油温tを取得する。
【0055】
ステップ13では、温度センサ5から得られる現在における実際の潤滑油温tに応じた適正油圧ΔPcを演算する(式(10)参照)。
なお、配管抵抗係数C、使用している潤滑油の仕様(動粘度)は決まっているので、式(10)により、任意の温度tに対する適正油圧ΔPcを計算により求めることができるため、予め図4の曲線Tに示すような潤滑油温と潤滑油圧の関係(テーブル)を作成しておいて、当該テーブルを参照して、現在における実際の潤滑油温tに応じた適正油圧ΔPcを取得するようにすることもできる。
【0056】
ステップ14では、潤滑油温tにおける適正な油圧範囲の設定下限値(ΔPl)を演算する。
なお、設定下限値(ΔPl)は、例えば、吐出圧力下限値(-15%)(=適正油圧ΔPc×0.85)といった計算式により設定することができる(設定下限値(ΔPl)は、図4に示した曲線Lに相当する)。但し、-15%に限定されるものではない。
この計算式において設定下限値(下限監視値)を適正油圧の何パーセント下側に設定するかなどを、ステップ14Aにて選択する構成とすることもできる。
【0057】
ステップ15では、潤滑油温tにおける適正な油圧範囲の設定上限値(ΔPu)を演算する。
なお、設定上限値(ΔPu)は、例えば、吐出圧力上限値(+15%)(=適正油圧ΔPc×1.15)といった計算式により設定することができる(設定上限値(ΔPu)は、図4に示した曲線Uに相当する)。但し、+15%に限定されるものではない。
この計算式において設定上限値(上限監視値)を適正油圧の何パーセント上側に設定するかなどを、ステップ15Aにて選択する構成とすることもできる。
【0058】
ステップ16では、油圧センサ6からの信号に基づいて、現在における実際の油圧ΔPを取得する。
【0059】
ステップ17では、設定下限値(ΔPl)≦現在における実際の油圧ΔP≦設定上限値(ΔPu)であるか否かを監視、判断し、True(或いはYes)であれば、ステップ18へ進み、False(或いはNo)であれば、ステップ19へ進む。
【0060】
ステップ18では、現在における実際の油圧ΔPが所定の範囲内に収まっているので、潤滑油供給系統は正常であると判定する。
【0061】
一方、ステップ19では、現在における実際の油圧ΔPが所定の範囲内に収まっていないので、潤滑油供給系統には異常が発生していると判定する。
【0062】
なお、「設定下限値(ΔPl)>現在における実際の油圧ΔP」である場合には、例えば、潤滑油供給系統の配管系統に破損などが発生して、潤滑油が所定の給油箇所に供給されなくなった状態であると判定し、「潤滑油供給系統の破損に関連する異常」というような、故障形態を特定して判定結果を出力させる異常診断機能を有する構成にすることができる。
そして、「現在における実際の油圧ΔP>設定上限値(ΔPu)」である場合には、潤滑油供給系統の配管系統に詰まりなどが発生して、潤滑油が所定の給油箇所に供給されなくなった状態であると判定し、「潤滑油供給系統の目詰まりに関連する異常」というような、故障形態を特定して判定結果を出力させる異常診断機能を有する構成にすることができる。
【0063】
ステップ20では、異常があると判定した場合であるので、異常表示を出して作業者に注意喚起したり、機械を運転停止させたりする制御を行う。異常表示には、文字などの警告表示或いは警告灯など視覚を通じて注意喚起するものや、警告音などの聴覚を通じて注意喚起するものなどが含まれる。
【0064】
ステップ21では、潤滑油供給系統の監視制御を継続するか否かを判断する。
Yesであれば、ステップ12へリターンする。Noであれば、本フローチャートを終了する。
【0065】
このように、本実施の形態に係る潤滑油供給系統監視装置100によれば、実際の潤滑油供給系統を、実測値に基づいて取得する配管抵抗係数Cを用いてモデル化することで、当該実際の潤滑油供給系統の運転状態(油温、油の動粘度、油圧ポンプの吐出流量など)に応じた適正油圧(正常時に得られる油圧(理論値:ΔPc))を推定(取得)することができる。
【0066】
このため、本実施の形態に係る潤滑油供給系統監視装置100では、現在における実際の油温における潤滑油供給系統の適正油圧を取得して、現在における実際の油圧を適正油圧と比較しながら監視することができると共に、適正油圧に基づいて油圧の適正範囲(設定上限値~設定下限値の範囲)を設定し、当該範囲と、実際の油圧と、に基づいて、潤滑油供給系統の異常の有無を判断(検出)することができ、延いては異常があると判断された場合には、異常表示を出して警告したり、機械を停止させたりする制御を行うことができる。
【0067】
このように、本実施の形態によれば、実際の潤滑油の温度に応じて、潤滑油供給系統の適正油圧を演算によって取得して、この適正油圧に対してきめこまやかな上下限の監視値を設定することができるため、実際の油圧を監視して、これと前記上下限監視値とを比較することで、潤滑油供給系統の異常を感度よくかつ精度よく捉えることができ、以って潤滑油の供給異常による機械の重大な故障を未然に防止することができる。
【0068】
また、本実施の形態に係る潤滑油供給系統監視装置100においては、使用している潤滑油ポンプの仕様最高圧力をあらかじめ油圧の上限値として設定し、設定した油圧と実際の油圧を比較しながら監視することにより、実際の油圧が上限値として設定油圧を超えた場合、潤滑油圧力の異常を検出することができ、延いては異常があると判断された場合には、異常表示を出して警告したり、機械を停止させたりする制御を行うことにより、潤滑油ポンプの損傷を回避することができる。
【0069】
なお、本発明を運用する際には,個々の潤滑油供給系統の実測値に基づいて演算によって取得する配管抵抗係数の信頼性を向上させるために,実際に機械を設置する環境での油温及び油圧の実測,また複数温度(油温条件の異なる条件下)における実測データを使用して演算することが望ましい。
【0070】
以上のように、本実施の形態によれば、比較的簡単かつ低コストな構成でありながら、機械の定容量形ポンプを使用する潤滑油供給系統の潤滑油の供給状態を精度よく監視することができる機械の潤滑油供給系統監視方法及び装置を提供することができる。
【0071】
ところで、例えば、機械の再始動を行う毎などの所定サイクルで図2のフローを実行して、その都度、配管抵抗係数Cを取得するようにした場合で、取得した配管抵抗係数Cの値に変化がある場合には、潤滑油供給系統の構成に経時的な変化があるとも考えられるため、配管抵抗係数Cの値の変化を観察して、潤滑油供給系統の経時変化的な異常の有無を診断するといったことも可能である。これにより、本格的に機械を稼動させる前の診断のための運転中などにおいて潤滑油供給系統の経時変化的な異常の有無を診断することが可能となり、機械の大きな損傷の発生などを未然に防止することなどに貢献可能である。
【0072】
以上で説明した実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
3 オイルポンプ
5 潤滑油温度センサ(温度センサ)
6 潤滑油圧力センサ(圧力センサ)
9 オリフィス(例えば軸受等の給油先1~n)
10 潤滑油通路(配管)
11 潤滑油貯留部
20 制御装置(潤滑油供給系統監視制御装置)
100 潤滑油供給系統監視装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7