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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026262
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】防潮扉
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
E02B3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129642
(22)【出願日】2020-07-30
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】594107181
【氏名又は名称】三和鋼業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143362
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 謙二
(72)【発明者】
【氏名】板垣 眞輝恵
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA12
2D118AA20
(57)【要約】
【課題】扉本体の走行安定性に優れ、かつ開口部を確実に開閉することができとともに、既設の防潮壁の開口部への取り付けが容易となる防潮扉を提供する。
【解決手段】この防潮扉1は、防潮壁2の開口部201を開閉する横引式のものであって、扉本体101と、扉本体101の下部をレール4上で防潮壁2に沿って移動可能に支持する車輪3と、扉本体101の上部を開口部201まわりで係脱可能に把持するガイドローラ5と、扉本体101が開口部201に対向する位置にきたときに、車輪3をレール4上の当該位置に維持するとともに、ガイドローラ5を開口部201の左右で把持した状態で、扉本体101のみを開口部201に向けて或いは開口部201から離れる向きに移動させる第一、第二の移動手段と、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防潮壁の開口部を開閉する横引式の防潮扉であって、
扉本体と、
前記扉本体をレール上で前記防潮壁に沿って移動可能に支持する車輪と、
前記扉本体が前記開口部に対向する位置にきたときに、前記車輪を前記レール上の当該位置に維持した状態で、前記扉本体を前記開口部に向けて或いは該開口部から離れる向きに移動させる第一の移動手段と、
を備えたことを特徴とする防潮扉。
【請求項2】
前記第一の移動手段は、前記車輪を前記レール上の当該位置に維持した状態で、前記扉本体の移動を許容するように、該扉本体に取り付けられ、かつ、前記車輪を支持する車輪ケースと、前記扉本体との間に介在させる第一の伸縮機構であることを特徴とする請求項1記載の防潮扉。
【請求項3】
前記扉本体の上部を前記開口部付近で係脱可能に把持するガイドローラと、
前記扉本体が前記開口部に対向する位置にきたときに、前記ガイドローラを前記開口部付近の当該位置で把持した状態で、前記扉本体を前記開口部に向けて或いは該開口部から離れる向きに移動させる第二の移動手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の防潮扉。
【請求項4】
前記第二の移動手段は、前記ガイドローラを前記開口部付近の当該位置で把持した状態で、前記扉本体の移動を許容するように、該扉本体の上部に取り付けられ、かつ、前記ガイドローラを支持する支持部材と、前記扉本体の上部との間に介在させる第二の伸縮機構であることを特徴とする請求項3記載の防潮扉。
【請求項5】
前記第一の移動手段は、前記扉本体を前記開口部に向けて押圧可能な扉押圧機構と、前記押圧機構により前記扉本体に押圧力を作用させたときに、該扉本体を前記レールに対して斜め上向きに案内するリンク機構とを備えていることを特徴とする請求項1記載の防潮扉。
【請求項6】
前記防潮壁の防潮部位よりも前記扉本体の上部を高く設定しておき、
前記扉本体の上部に付設された電動モータで駆動されるピニオンを、前記防潮壁の上部に固設されたラックに噛合させた状態で、前記電動モータを回転することにより、前記扉本体を前記防潮壁に沿って移動させる第三の移動手段を備えたことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の防潮扉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建物等を囲む防潮壁の開口部を開閉する横引式の防潮扉に関し、特に大型の防潮扉に好適である。
【背景技術】
【0002】
地震による津波等から、大切な生命・財産を守るために、防潮壁の開口部に横引式の防潮扉が設置されることがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図13は従来の一例における防潮扉の説明図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。ここでは、図13(a)(b)に示すように、扉本体2002が、防潮壁2001の海側に位置して、その開口部2001aと格納部2001bとにわたって地面GLの溝2005内に設けられたレール2003上を車輪2004で走行するように構成されている。そして、万一津波などが襲ってきたときに、扉本体2002を、レール2003上を左右方向(図中のX方向)の左側に走行させて、格納部2001bから開口部2001aに対向する位置まで移動させるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来例におけるような横引式の防潮扉は広く使用されているが、その扉本体2002をスムーズに走行させるためには、扉本体2002と防潮壁2001との間に若干の隙間が必要である。しかし、隙間があると、そこから海水等が大量に入ってしまう。一方、隙間をなくすと、扉本体2002と防潮壁2001とが接触して扉本体2002がスムーズに動かず、しかもいったん閉じられた扉本体2002を開くことが困難となるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みたものであり、その目的とするところは、扉本体の走行安定性に優れ、かつ開口部を確実に開閉することができる防潮扉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記従来例において、扉本体2002が防潮壁2001の格納部2001bから出て、開口部2001aに対向する位置に達した状態で、例えばジャッキにより開口部2001aに扉本体2001を押し付け、或いは離脱させることが考えられる。
【0007】
その場合、扉本体2002と車輪2004とが一体となって移動するため、レール2003の頭部をフラットにしかつ脱輪防止策を講ずるとともに、開口部2001aまわりにジャッキ反力受けを追設する必要がある。したがって、既設の防潮壁2001には適用しにくい、といった新たな問題が発生することがある。
【0008】
そこで、本発明は、防潮壁の開口部を開閉する横引式の防潮扉であって、扉本体と、前記扉本体をレール上で前記防潮壁に沿って移動可能に支持する車輪と、前記扉本体が前記開口部に対向する位置にきたときに、前記車輪を前記レール上の当該位置に維持した状態で、前記扉本体を前記開口部に向けて或いは該開口部から離れる向きに移動させる第一の移動手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、扉本体と、前記扉本体をレール上で前記防潮壁に沿って移動可能に支持する車輪と、前記扉本体が前記開口部に対向する位置にきたときに、前記車輪を前記レール上の当該位置に維持した状態で、前記扉本体を前記開口部に向けて或いは該開口部から離れる向きに移動させる第一の移動手段と、を備えたので、扉本体の走行安定性に優れ、かつ開口部を確実に開閉することができる。また、レールの頭部をフラットにしかつ走行中の脱輪防止策を講ずる必要がなくなり、既設の防潮壁にも適用しやすいものとなる。
【0010】
請求項2記載の発明のように、前記第一の移動手段は、前記車輪を前記レール上の当該位置に維持した状態で、前記扉本体の移動を許容するように、該扉本体に取り付けられ、かつ、前記車輪を支持する車輪ケースと、前記扉本体との間に介在させる第一の伸縮機構であることが好ましい。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、前記第一の移動手段は、前記車輪を前記レール上の当該位置に維持した状態で、前記扉本体の移動を許容するように、該扉本体に取り付けられ、かつ、前記車輪を支持する車輪ケースと、前記扉本体との間に介在させる第一の伸縮機構であるので、この第一の伸縮機構の動作により、防潮壁の開口部を扉本体で確実に開閉できる。
【0012】
請求項3記載の発明のように、前記扉本体の上部を前記開口部付近で係脱可能に把持するガイドローラと、前記扉本体が前記開口部に対向する位置にきたときに、前記ガイドローラを前記開口部付近の当該位置で把持した状態で、前記扉本体を前記開口部に向けて或いは該開口部から離れる向きに移動させる第二の移動手段と、を備えることが好ましい。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、前記扉本体の上部を前記開口部付近で係脱可能に把持するガイドローラと、前記扉本体が前記開口部に対向する位置にきたときに、前記ガイドローラを前記開口部付近の当該位置で把持した状態で、前記扉本体を前記開口部に向けて或いは該開口部から離れる向きに移動させる第二の移動手段と、を備えたので、扉本体の走行安定性に優れ、かつ開口部を確実に開閉することができる。また、開口部まわりに反力受けを追設する必要がなくなり、既設の防潮壁にも適用しやすいものとなる。
【0014】
請求項4記載の発明のように、前記第二の移動手段は、前記ガイドローラを前記開口部付近の当該位置で把持した状態で、前記扉本体の移動を許容するように、該扉本体の上部に取り付けられ、かつ、前記ガイドローラを支持する支持部材と、前記扉本体の上部との間に介在させる第二の伸縮機構であることが好ましい。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、前記第二の移動手段は、前記ガイドローラを前記開口部付近の当該位置で把持した状態で、前記扉本体の移動を許容するように、該扉本体の上部に取り付けられ、かつ、前記ガイドローラを支持する支持部材と、前記扉本体の上部との間に介在させる第二の伸縮機構であるので、この第二の伸縮機構の動作により、防潮壁の開口部を扉本体でより確実に開閉できる。
【0016】
請求項5記載の発明のように、前記第一の移動手段は、前記扉本体を前記開口部に向けて押圧可能な扉押圧機構と、前記押圧機構により前記扉本体に押圧力を作用させたときに、該扉本体を前記レールに対して斜め上向きに案内するリンク機構とを備えることが好ましい。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、前記第一の移動手段は、前記扉本体を前記開口部に向けて押圧可能な扉押圧機構と、前記押圧機構により前記扉本体に押圧力を作用させたときに、該扉本体を前記レールに対して斜め上向きに案内するリンク機構とを備えたので、この扉押圧機構とリンク機構との動作により、防潮扉の開口部を扉本体で確実に開閉できる。
【0018】
請求項6の発明のように、前記防潮壁の防潮部位よりも前記扉本体の上部を高く設定しておき、前記扉本体の上部に付設された電動モータで駆動されるピニオンを、前記防潮壁の上部に固設されたラックに噛合させた状態で、前記電動モータを回転することにより、前記扉本体を前記防潮壁に沿って移動させる第三の移動手段を備えることが好ましい。
【0019】
請求項6記載の発明によれば、前記防潮壁の防潮部位よりも前記扉本体の上部を高く設定しておき、前記扉本体の上部に付設された電動モータで駆動されるピニオンを、前記防潮壁の上部に固設されたラックに噛合させた状態で、前記電動モータを回転することにより、前記扉本体を前記防潮壁に沿って移動させる第三の移動手段を備えたので、津波がきたときでも、電動モータは水没しない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、扉本体と、前記扉本体をレール上で前記防潮壁に沿って移動可能に支持する車輪と、前記扉本体が前記開口部に対向する位置にきたときに、前記車輪を前記レール上の当該位置に維持した状態で、前記扉本体を前記開口部に向けて或いは該開口部から離れる向きに移動させる第一の移動手段と、を備えたので、扉本体の走行安定性に優れ、かつ開口部を確実に開閉することができる。また、レールの頭部をフラットにしかつ脱輪防止策を講ずる必要がなくなり、既設の防潮壁にも適用しやすいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態1に係る防潮扉の正面図である。
図2】本実施形態1に係る防潮扉の側断面図である。
図3】本実施形態1に係る防潮扉の車輪まわりを示す説明図である。
図4】本実施形態1に係る防潮扉のガイドローラまわりを示す説明図である。
図5】本実施形態1に係る防潮扉の電動モータまわりを示す説明図である。
図6】本発明の実施形態2に係る防潮扉を備えた構造物の説明図である。
図7】本実施形態2に係る防潮扉の説明図である。
図8】本実施形態2に係る防潮扉のリンク機構まわりを示す正面図である。
図9】本実施形態2に係る防潮扉のリンク機構まわりを示す側面図である。
図10】本実施形態2に係る防潮扉の押圧部まわりを示す説明図である。
図11】本実施形態2に係る防潮扉のレールまわりを示す説明図である。
図12】本実施形態2に係る防潮扉まわりの制御系の一例を示すブロック図である。
図13】従来の一例における防潮扉の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る防潮扉1の正面図、図2はその側断面図であって、図中の符号Xは左右方向、Yは前後方向を示す(以下の図面についても同様である)。図1,2に示すように、本実施形態1に係る防潮扉1は、防潮壁2の開口部201を開閉する横引式のものであって、扉本体101と、扉本体101の下部をレール4上で防潮壁2に沿って左右方向(X方向)に移動可能に支持する車輪3と、扉本体101の上部を開口部201付近で係脱可能に把持するガイドローラ5と、扉本体101が開口部201に対向する位置にきたときに、車輪3をレール4上の当該位置に維持するとともに、ガイドローラ5を開口部201付近で把持した状態で、扉本体101を開口部201に向けて或いは開口部201から離れる向きの前後方向(Y方向)に移動させる第一、第二の移動手段と、を備えている。レール4は、断面I型で、その底部が地面GLに凹設された溝内に適当な方法で固定されている。
【0023】
扉本体101は、耐水性と耐火性との両者に優れた材料からなっており、例えば平鋼板をその裏面からH型鋼等で補強したフラッシュ状のものとしている。そして、扉本体101は、防潮壁2の図示しない防潮部位よりも高く設定されている。
【0024】
図3は本実施形態1に係る防潮扉1の車輪3まわりを示す説明図、図4はガイドローラ5まわりを示す説明図、図5は電動モータ6まわりを示す説明図である。図1に示すように、車輪3は、扉本体101の左下端付近と右下端付近とにそれぞれ設けられており、ガイドローラ5は、扉本体101の左上端付近と、右上端付近と、中間上端付近とに適宜間隔を開けて設けられているが、いずれもほぼ同様のものであるので、以下ではそれらのうちの1対で代表させて説明するものとする。
【0025】
車輪3は、図3に示すように、径方向が縦向きの円筒状の本体の幅方向両側にフランジが形成されており、断面I型のレール4の頭部をこのフランジで挟み込むことで、車輪3は、レール4の長手方向である左右方向には走行するが、幅方向である前後方向には移動しないようになっている。車輪3は、箱状の車輪ケース301内において、横軸301a(図1参照)を中心として回転自在に軸支されている。
【0026】
車輪ケース301は、扉本体101に対して前後方向に移動可能に取り付けられている。さらに、車輪ケース301に固定された車輪側中間部材303と、扉本体101の下部に固定された扉本体側中間部材304との間に、複動式の油圧シリンダ(第一の伸縮機構に相当する。)302が介在されている。
【0027】
説明の便宜上、図3中、車輪ケース301と、車輪側中間部材303とには、右上がりのハッチングを入れるとともに、それらが互いに固定されていることを符号Aで示している。また、扉本体101の下部と、扉本体側中間部材304とには、右下がりのハッチングを入れるとともに、それらが互いに固定されていることを符号Bで示している。そして、車輪側中間部材303の水平部分と、扉本体側中間部材304の水平部との間に介装されたスライド部材305を介して前後方向にスライド移動可能となっている。
【0028】
油圧シリンダ302は、上記図1に示すように、車輪ケース301の左右に一対設けられている。この場合、油圧シリンダ302を、扉本体101の狭幅内に収納可能な程度に小型化できる。油圧シリンダ302の伸縮動作により、レール4上の左右方向の所定位置に維持された車輪3に対して、扉本体101の下部が前後方向に押圧される結果、扉本体101の下部が開口部201に向けて、或いは開口部201から離れる向きに移動するようになっている(第一の移動手段としての機能)。
【0029】
ガイドローラ5は、図4に示すように、径方向が横向きの円筒状の本体が縦軸503まわりに回転自在に形成されており、断面H型のガイドレール501内に把持されることで、ガイドローラ5は、ガイドレール501の長手方向である左右方向には移動するが、幅方向である前後方向には移動しないようになっている。ガイドローラ5は、ガイドレール501内において、縦軸503を中心として回転自在に軸支されている。
【0030】
ガイドローラ5は、扉本体101の上面に適宜間隔を開けて複数個設けられているが、ガイドレール501は、防潮壁2の開口部201の左右壁にのみ設けられている。さらに、ガイドローラ5の縦軸503に固定されたローラ側中間部材504と、扉本体101の上部に固定された扉本体側中間部材505との間に、複動式の油圧シリンダ(第二の伸縮機構に相当する。)502が介在されている。
【0031】
説明の便宜上、図4中、縦軸503と、ローラ側中間部材504とには、右上がりのハッチングを入れるとともに、それらが互いに固定されていることを符号Cで示している。また、扉本体101の上部と、扉本体側中間部材505とには、右下がりのハッチングを入れるとともに、それらが互いに固定されていることを符号Dで示している。そして、ローラ側中間部材504の水平部分と、扉本体側中間部材505の水平部との間に介装されたスライド部材506を介して前後方向にスライド移動可能となっている。
【0032】
油圧シリンダ502は、上記図1に示すように、ガイドレール501内に把持されるガイドローラ5の左右に一対設けられている。この場合、油圧シリンダ502を、扉本体101の狭幅内に収納可能な程度に小型化できる。油圧シリンダ502の伸縮動作により、ガイドレール501内に把持されたガイドローラ5に対して、扉本体101の上部が前後方向に押圧される結果、扉本体101の上部が開口部201に向けて、或いは開口部201から離れる向きに移動するようになっている(第二の移動手段としての機能)。
【0033】
電動モータ6は、図5に示すように、扉本体101の上部に付設されていて、津波がきたときに水没しないようになっている。この電動モータ6で、例えばチェーン603を介して駆動されるピニオン601を、防潮壁2の上部に固設されたラック602に噛合させた状態で、電動モータ6を回転することにより、扉本体101を左右方向に移動させるようになっている(第三の移動手段としての機能)。電気モータ6には、必要に応じてブレーキが設けられる。
【0034】
シール部7は、耐水性と耐火性との両者に優れたゴム材料などからなり、かつ扉本体101の開口部201に対向する側の底部と左右両端部にそれぞれ配置されたシールパッキンを有している。そして、扉本体101の押圧時におけるシールパッキンが、開口部201まわりの当りを確保して、防潮扉1の耐水性や耐火性を向上させるようになっている。
【0035】
防潮扉1の上部には、電動モータ6と同様の理由により、電気部品を含む油圧ユニット8が設けられており、この油圧ユニット8から油圧シリンダ302,502に圧油が供給されるようになっている。また、電動モータ6、油圧ユニット8には、図示しない配電盤から電力が供給されるようになっており、センサやスイッチも適所に装備されている。
【0036】
油圧シリンダ302,502は、前記スイッチの操作で伸縮動作させるものであるが、停電時には、図示しない操作ハンドルにより、手動操作を優位に行えるようになっている。そして、油圧シリンダ302,502の伸張動作により、扉本体101のシール部7が開口部201まわりに押圧されることで、開口部201が閉止されるようになっている。、このときのシール部7を図3中の符号7aで示している。油圧シリンダ302,502の縮小動作により、扉本体101のシール部7aが開口部201まわりから離れることで、開口部201が開放されるようになっている。このときのシール部7aは、符号7に復帰している。
【0037】
以下、防潮扉1の概略動作を示す。通常、防潮扉1は防潮壁2の格納部202内にあって、防潮壁2の開口部201は開放されており、そこから人間や車両等が出入りしている。いま突然に大地震と津波が発生したとする。すると、近くにいた人間や車両等は、防潮壁2内に避難するが、最後に逃げ込んだ人間が、扉本体101を図1中の左側に走行させる。すなわち、電動モータ6を起動し、チェーン603を介してピニオン601を回転させると、防潮壁2の上部に設けられたラック602に沿って、扉本体101が格納部202から開口部201に対向する位置にまで左側に走行していく。そして、扉本体101が、当該位置に到着したことを前記センサで検出すると、電動モータ6が停止し、扉本体101が停止する。
【0038】
扉本体101が当該位置で停止すると、油圧シリンダ302が伸張される。このとき、車輪ケース301に固定された車輪側中間部材303は、前後方向に移動しないが、その反力を受けて、扉本体101の下部に固定された扉本体側中間部材304はスライド部材305を介して前後方向に移動していき、扉本体側中間部材304aとなる。これにより、車輪3は、レール4上の当該位置に維持されたまま、扉本体101の下部が開口部201に向けて移動して、扉本体101aとなる。
【0039】
そして、油圧シリンダ502が伸張される。このとき、ガイドローラ5は、ガイドレール501に把持された状態であり、その縦軸503に固定されたローラ側中間部材504は、前後方向に移動しないが、その反力を受けて、扉本体101の上部に固定された扉本体側中間部材505がスライド部材506を介して前後方向に移動していき、扉本体側中間部材505aとなる。これにより、ガイドローラ5は、ガイドレール501に把持されたまま、扉本体101の上部が開口部201に向けて移動して、扉本体101aとなる。
【0040】
そして、扉本体101aがシール部7を介して前記開口部201まわりに押圧されて閉止状態とされ、この閉止状態は維持される。
【0041】
やがて、津波が襲ってくるが、防潮壁2内については、防潮扉1の働きにより、この津波と引き波の出入りを阻止することができる。
【0042】
津波が過ぎ去った後、周辺は瓦礫等の山となり、しばらくは孤立してしまうことがある。そして、救援隊がくると建物内から脱出することになるが、このときには例えば防潮壁2内に避難している人間が、上記とほぼ逆の手順で操作することで、防潮扉1を簡単に開くことができる。すなわち、前記人間の操作により、油圧シリンダ302,502が縮小する。すると、扉本体101aが、開口部201まわりから離れて、もとの扉本体101の状態に復帰する。これにより、シール部7も離れる結果、扉本体101が開放される。次いで、電動モータ6が上記と逆向きに回転することにより、扉本体101は、開口部201に対向する位置を離れて、もとの格納部202に復帰する。
【0043】
以上説明したように、本実施形態1に係る防潮扉1は、扉本体101と、扉本体101の下部をレール4上で防潮壁2に沿って移動可能に支持する車輪3と、扉本体101の上部を開口部201まわりで係脱可能に把持するガイドローラ5と、扉本体101が開口部201に対向する位置にきたときに、車輪3をレール4上の当該位置に維持するとともに、ガイドローラ5を開口部201まわりで把持した状態で、扉本体101を開口部201に向けて或いは開口部201から離れる向きに移動させる第一、第二の移動手段とを備えているので、扉本体101の走行安定性に優れ、かつ開口部201を確実に開閉することができる。また、レール4の頭部をフラットにしかつ脱輪防止策を講ずる必要がなくなるとともに、防潮壁2の開口部201の前後に第一の移動手段に対する反力受けが不要となり、既設の防潮壁2の開口部201にも取り付けやすいものとなる。
【0044】
なお、上記実施形態1では、防潮扉1は、鋼板をその裏面から補強したフラッシュ状の扉本体101を備えているが、この扉本体101は津波が襲ってきたときに要求される強度と操作性などに応じたものとされ、いわゆるハニカム構造などであってもよい。
【0045】
また、上記実施形態1では、扉本体101は主に手動操作で閉めているが、津波警報を通信機器で受信すると自動的に閉まるようにしてもよい。ただし、その場合には、手動操作を優先するものとする。さらに、電動モータ6に代えて、油圧モータ等を用いてもよく、油圧シリンダ302に代えて、空気圧シリンダなど、他の種類のアクチュエータを用いてもよい。ただし、当該アクチュエータは水没する位置に配置されることを考慮すると、電動アクチュエータは使用しないのが好ましい。
【0046】
また、上記実施形態1では、防潮扉1が小扉の場合は、すべて手動動作で開閉するようにしてもよい。その場合は、防潮扉1の内部に避難した人間が、扉本体101の図示しない操作ハンドルを手動で操作し、扉本体101を開口部201に向けて引き寄せることにより、扉本体101を開口部201まわりの壁面に押圧して密閉する。しかる後に、人間が、前記操作ハンドルを逆操作することにより、扉本体101を開いて開口部201を全開状態とすることができる。
【0047】
また、上記実施形態1では、シール部7を設けているが、そのシールパッキンは必要な耐火性と耐水性とが得られるものであればなんでもよい。ただし、火災のおそれがない場合などには、必ずしもシール部7に耐火性を持たせる必要性はない。さらに、シールパッキンは扉本体101側に設けているが、これに代えて、シールパッキンを開口部201の壁側に設けてもよいし、両側に設けることとしてもよい。
【0048】
(実施形態2)
図6は本発明の実施形態2に係る防潮扉1006を備えた構造物1004の説明図である。構造物1004は、例えば図6に示すように、1階建でかつ1室だけからなる鉄筋コンクリート構造物であるが、この構造物1004には、それ自体が津波などに耐えうるものであって、例えば上記実施形態1における防潮壁はもちろん、堤防や倉庫等を含む。この構造物1004の人間が出入りする開口部5には防潮扉1006を備えている。
【0049】
また、構造物1004内には、生活必需機器としての、照明器具1041、水や食料の貯蔵庫1042、簡易トイレ1043、空気濾過機や空気清浄機1044、自家発電機1045及び通信機器1046などを備えている。具体的な配置は、室内の広さと各機器の大きさとによって決定される。
【0050】
図7は防潮扉1006の説明図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。防潮扉1006は、主に鋼板等の耐水性と耐火性との両者に優れた材料からなっており、例えば図7(a)(b)に示すように、鉄板をその裏面から補強したフラッシュ状の扉本体1060を、開口部1005の下部に付設されたレール1061に沿って左右方向(図7中のX方向)に走行させるようにしている。そして、扉本体1060でもって開口部1005の下部(地面GL)から所定高さH1(≦開口部5の上部までの高さH2)までの防潮部位1009の開閉を行うとともに、閉じる直前に扉本体1060を前後方向(図7中のY方向)の後側に移動させるとともに上下方向(図7中のZ方向)の上側に移動させることにより、その扉本体1060の構造物1004の内側に向かっての引き寄せを行うようにしている。
【0051】
すなわち、扉本体1060は車輪1064を備えており、この車輪1064をレール1061で案内するようになっている。一般に扉本体を左右方向に走行させて開閉を行うようにした、いわゆる横引き走行式の防潮扉は広く使用されているが、その扉本体をスムーズに走行させるためには、扉本体と構造壁との間に若干の隙間が必要である。しかし、隙間があると、そこから室内に水などが入ってしまう。一方、隙間をなくすと、扉本体と構造壁とが接触して該扉本体がスムーズに動かないことがある。
【0052】
そこで、防潮扉1006は、図示しない電動モータ等の走行用モータと、この走行用モータを駆動して、扉本体1060を前記開口部1005の防潮部位1009を覆う位置にまで走行させたときに、その扉本体1060を前記開口部1005まわりの壁面に向けて(図示では明らかでないが)車輪1064に対して扉本体1060を斜め上方に案内するリンク機構1065と、このリンク機構1065で案内される扉本体1060を前記開口部1005まわりの壁面にシール部1069を介して押圧する油圧シリンダ等の押圧用アクチュエータ1068と、この押圧用アクチュエータ1068を動作させる扉開閉スイッチ1067と、を備えている。なお、押圧用アクチュエータ1068は、開口部1005の防潮部位1009を覆う位置にあるときの扉本体1060の左右に配置されたH型鋼などの構造体1066で堅牢に支持されている。各要素1065~1068が第一の移動手段に相当する。
【0053】
また、シール部1069についても、耐水性と耐火性との両者に優れたゴム材料などからなっており、扉本体1060の下部から所定高さまでの防潮部位に設けられたシールパッキンを有しており、前記押圧時におけるシールパッキンが、開口部1005まわりの構造壁のうちの前記防潮部位1009に対応する部位における当りを確保して、防潮扉1006の耐水性や耐火性を大幅に向上させるようになっている。レール1061は、浅溝1062内にあって地上に突出していない。
【0054】
図8は本実施形態2に係る防潮扉1006のリンク機構1065まわりを示す正面図、図9は本実施形態2に係る防潮扉1006のリンク機構65まわりを示す側面図であって(a)は初期状態、(b)は動作状態を示す。なお、リンク機構1065は、前記図7に示すように、扉本体1060の前端付近と後端付近とにそれぞれ設けられた車輪1064ごと1対ずつ設けられているのであるが、いずれもほぼ同様のものであるので、以下ではそのうちの1対で代表させて説明するものとする。
【0055】
リンク機構1065は、図8及び図9(a)(b)に示すように、レール1061上に走行可能に載置された状態の車輪1064の上部に設けられ、該車輪1064を横軸まわりに回転自在に支持する車輪側支持部材1641と、この車輪側支持部材1641のさらに上部に設けられ、その手前側と奥側とに縦板が上向きに並設された車輪側中間部材1642と、扉本体1060の下部付近に架設された例えば断面U字状の扉本体側支持部材1601と、扉本体側支持部材1601の下部にあって、前記車輪側支持部材1641に対向する位置に設けられ、その手前側と奥側とに縦板が下向きに並設された扉本体側中間部材1602と、車輪側中間部材1642に対して扉本体側中間部材1602を紙面と平行な面内で揺動自在となるように、横軸1652にて相互を連結する長板状の平行リンク1651とを備えている。
【0056】
このリンク機構1065では、車輪側中間部材1642の縦板間に上向きに垂設された断面フック状の車輪側係合部材1643と、扉本体側中間部材1602の縦板間に下向きに垂設されたこれも縦板状の扉本体側係止部材1603とを備えており、車輪側係合部材1643と扉本体側係止部材1603の係合により、平行リンク1651の倒れ角度を規制するストッパが形成されている。
【0057】
そして、リンク機構1065の初期状態では、図9(a)に示すように、縦軸に対する倒れ角度θ1で平行リンク1651が図中の左側に大きく倒れているが、リンク1065の動作状態では、図9(b)に示すように、縦軸に対する倒れ角度θ2(<<θ1)で平行リンク1651が図中の左側に若干だけ倒れている。このため、扉本体1060に図中の右向きの押圧力が加わると、平行リンク1651の前記倒れ角度はθ1→θ2となり、扉本体1060はその自重に抗してもとの位置から斜め上方に平行移動するが、扉本体1060に押圧力が加わらなくなると、平行リンク1651の前記倒れ角度θ2→θ1となり、扉本体1060は、その自重によりもとの位置に自動的に復帰するようになっている。
【0058】
ここで、本発明者らは、実際の扉本体1060について、リンク機構1065が正常に機能するか否かの評価を行った。具体的には、扉本体1060を模擬したものに付加した錘の重さを変化させるとともに、押圧力を加える向きをも変化させて、リンク機構1065が動作するか否かを評価した。図10は本実施形態2に係る防潮扉1006の押圧部まわりを示す説明図であって、(a)は直線押し出しでの作動テスト、(b)は斜め45°押し出しでの作動テストである。また、図11は本実施形態2に係る防潮扉1006のレール1061まわりを示す説明図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【0059】
まず、図10(a)に示すように、直線押し出しテストを行った。ここでは、図中のF1方向に押し出しているが、錘なしでは、リンク機構1065がスムーズに機能した。これは、車輪1064とレール1061との摩擦抵抗がリンク機構1065の抵抗を大幅に上回っているからであると考えられた。ついで、錘1~2トンを加えてみると、リンク機構1065は一応機能した。これは、車輪1064とレール1061との摩擦抵抗がリンク機構1065の抵抗をわずかに上回っているからであると考えられた。ついで、錘3トンを加えてみると、リンク機構1065は機能しなかった。これは、車輪1064とレール1061との摩擦抵抗がリンク機構1065の抵抗を下回っているからであると考えられた。その結果、実際の扉本体1060について、直線押し出しとしたのでは、リンク機構1065が正常に機能しない場合があることがわかった。
【0060】
引き続いて、図10(b)に示すように、斜め45°押し出しテストを行った。ここでは。図中のF2方向に押し出しているが、錘なしはもちろんのこと、錘1~2トンを加えても、リンク機構1065はスムーズに機能した。これは、車輪1064とレール1061との摩擦抵抗がリンク機構1065の抵抗を大幅に上回っているからであると考えられた。ついで、錘3~4トンを加えてみると、リンク機構1065は一応機能した。これは、車輪1064とレール1061との摩擦抵抗がリンク機構1065の抵抗をわずかに上回っているからであると考えられた。ついで、錘5~6トンを加えてみても、リンク機構1065は一応機能した。これは、車輪1064とレール1061との摩擦抵抗がリンク機構1065の抵抗を下回っているものの、車輪1064の鍔がレール1061に引っかかっているからであると考えられた。その結果、実際の扉本体1060について、斜め45°押し出しとすると、リンク機構1065は正常に機能することがわかった。
【0061】
上記テスト結果を踏まえて、以下の対策をした。まず、断面「く」の字状の押圧部1604を扉本体1060の側面に付設する。そして、その斜め下面から押圧用アクチュエータ1068で押圧することとした。また、レール1061への乗り上げ対策として、車輪1064の鍔を所定寸法よりも大きく設定し、さらに、スライド走行の遊びを考慮して、図11(a)(b)に示すように、車輪部分のみ45°テーパ付きのライナー1611を外側に追設することとした。
【0062】
図12は防潮扉1006まわりの制御ブロック図である。この防潮扉1006の制御系は、例えば図12に示すように、自家発電機1045からバッテリ1451を経由して給電されたパーソナルコンピュータ(以下、パソコンという。)1461を中心としてなっており、このパソコン1461には、アンテナ1462を備えた外部との通信機としての通信機器1046と、キーボードやマウスなどの入力部1463と、液晶画面などの表示部1464と、アラームなどの報知部1465と、走行用モータ1613のドライバ1612と、押圧用アクチュエータ1068のドライバ1614と、防潮扉1006の扉本体1060の開閉状態を検知するセンサ1615と、扉開閉スイッチ1067とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0063】
押圧用アクチュエータ1068は、扉開閉スイッチ1067などで自動的に伸縮動作させるものであるが、扉本体1060付近に設けられた図示しないハンドルによる手動操作を前記押圧用アクチュエータ1068の伸縮動作よりも優位に行うようになっている。
【0064】
そして、押圧用アクチュエータ1068の伸張動作により、扉本体1060のシール部1069が開口部1005まわりの構造壁に押圧されることで、開口部1005の防潮部位1009が密閉され、この密閉状態がセンサ1615で検知されるようになっている。また、押圧用アクチュエータ1068の縮小動作により、扉本体1060のシール部1069が開口部1005まわりの構造壁から離れる。すると、扉本体1060が、その重量でリンク機構1065によって案内されて若干下方の開口部5まわりの構造壁から離れたもとの位置に自動復帰する。その結果、開口部1005の防潮部位1009での密閉状態が解除され、この解除状態がセンサ1615でさらに検知されるようになっている。
【0065】
以下、図12等を参照して、防潮扉1006の概略動作を示す。ある地区に突然に大地震と津波警報とがでたが、もはや高台等に避難する時間的余裕がないものとする。この津波警報を通信機器1046で受信すると、パソコン1461の報知部1465からの報知がなされ、それにより身近にいた人々が避難してくる。すると、パソコン1461の電源が自動的に切り替わる。具体的には、構造物1004内の自家発電機1045が自動起動されるとともに、それまで供給された外部電源からの電力供給が遮断されるとともに、自家発電機1045からバッテリ1451を介して電力供給がなされるようになる。このとき、照明器具1041が点灯して室内照明が確保されるとともに、パソコン1461からの指令により、ドライバ1612を介して走行用モータ1613が駆動可能なスタンバイ状態とされる。
【0066】
そして、例えば最後に構造物4内に逃げ込んだ人間が、図示しない把手をつかんで扉本体1060を図7(a)中の右側に走行させていって、その扉本体1060を開口部1005の防潮部位1009を覆う位置にまで走行させたときに、前記人間が図示しないハンドルを所定向きに操作する。すると、扉開閉スイッチ1067がオンとなって押圧用アクチュエータ1068が伸張されるので、車輪1064に対して扉本体1060が移動する結果、開口部1005まわりの構造壁に向けて若干上り傾斜で案内される。これにより、扉本体1060がシール部1069を介して前記開口部1005まわりの構造壁に押圧されて密閉状態とされ、この密閉状態は容易に維持される。
【0067】
やがて、津波が襲ってくるが、構造物1004内については、防潮扉1006の働きにより、この津波と引き波の出入りを阻止することができる。
【0068】
津波が過ぎ去った後、周辺は瓦礫等の山となり、しばらくは孤立してしまうことがある。そのような場合でも、照明器具1041や簡易トイレ1043が使用できるとともに、水や食料を貯蔵庫1042から取り出して摂取できる。また、空気濾過機や空気清浄機1044で呼吸するための空気が確保されるとともに、通信機器1046で救援を依頼して、この救援隊がくるまで構造物1004内で快適に生活できる。
【0069】
そして、救援隊がくると構造物1004内から脱出することになるが、このときには例えば構造物1004内に避難している人間が、上記とほぼ逆の手順で操作することで、防潮扉1006を簡単に開くことができる。すなわち、前記人間がハンドルを上記したのと逆向きに操作すると、扉開閉スイッチ1067がオフされて押圧用アクチュエータ1068が縮小する。すると、主に扉本体1060の重量により、その扉本体1060がリンク機構1065で案内されて、開口部1005まわりの構造壁から自動的に離れる。これにより、シール部1069も離れる結果、扉本体1060の密閉状態が容易に解除される。しかる後、前記人間が、図示しない把手をつかんで扉本体1060を図7(a)中の左側に走行させていって、扉本体1060を開いて、開口部1005を全開状態とすることができる。
【0070】
以上説明したように、本実施形態2の防潮扉1006によれば、扉本体1060と、扉本体1060の下部をレール1061上で構造物1004の壁面(構造壁)に沿って移動可能に支持する車輪1064と、扉本体1060が構造物1004の開口部1005に対向する位置にきたときに、車輪1064をレール1061上の当該位置に維持した状態で、扉本体1060を開口部1005に向けて或いは開口部1005から離れる向きに移動させる第一の移動手段とを備えているので、扉本体1060の走行安定性に優れ、かつ開口部1005を確実に開閉することができる。また、レール1061の頭部をフラットにしかつ走行中の脱輪防止策を講ずる必要がなくなり、既設の構造物1004の開口部1005にも取り付けやすいものとなる。そして、万一津波が襲ってきたときに、構造物1004の開口部1005の防潮部位1009を密閉してこの開口部1005から水などが流れ込むのを阻止し、そこに避難した人間はもちろんのこと、本実施形態2では触れていないが、構造物1004が工場や店舗等の場合には工場設備や製品等についても、津波の影響がなくなるまで安全に保護することができる。
【0071】
なお、上記実施形態2では、防潮扉1006を備えた構造物1004は、1階建でかつ1室だけからなる鉄筋コンクリート構造物を例示しているが、2室以上でかつ/あるいは2階建以上のものであってもよい。さらに、上記実施形態1における防潮壁はもちろんのこと、堤防や倉庫等であってもよい。
【0072】
また、上記実施形態2では、防潮扉1006は構造物1004の開口部1005の下部から所定高さH1までの防潮部位1009までを覆うものとしているが、構造物1004の開口部1005の下部から上部までの全てを覆うものとしてもよい。その場合には、構造物1004の開口部1005の上部にレールを付設して、触れ止めなどを設けることとしてもよい(例えば図6における開口部1005,1007において、そのような構成をとることができる)。ただし、図13に示したような防潮壁2001の場合は、開口部2001aの下部にしかレール2003を付設することができないことはいうまでもない。
【0073】
また、上記実施形態2では、防潮扉1006は、鉄板をその裏面から補強したフラッシュ状の扉本体1060を備えているが、上記実施形態1と同様、この扉本体1060は津波が襲ってきたときに要求される強度と操作性などに応じたものとされ、いわゆるハニカム構造などであってもよい。また、扉本体1060は主に手動操作で閉めているが、津波警報を通信機器1046で受信すると自動的に閉まるようにしてもよい。ただし、その場合には、手動操作を優先するものとする。さらに、それぞれ水没する位置への配置を考慮すると、走行用モータ1613としての電動モータに代えて、油圧モータ等を用い、押圧用アクチュエータ1068としての電動シリンダ1068に代えて、油圧シリンダ、空気圧シリンダなど、他の種類のアクチュエータを用いるのが好ましい。
【0074】
さらに、防潮扉1006が小扉の場合は、すべて手動動作で開閉するようにしてもよい。その場合は、構造物1004の内部に避難した人間が、開口部1005の下部に設けたレール1061に沿って扉本体1060を走行させることにより、この扉本体1060を開口部1005の下部から所定高さ位置H1までの防潮部位1009を覆う位置にまで走行させる。ついで、扉本体1060内に収容しておいた図示しない仮設ハンドルを、所定位置に装着して手動操作し、扉本体1060を構造物1004の内側に向けて引き寄せることにより、扉本体1060を開口部1005まわりの構造壁に押圧して密閉する。しかる後に、人間が、仮設ハンドルを逆操作することにより、扉本体1060を開いて開口部1005を全開状態とすることができる。
【0075】
また、上記実施形態2では、防潮扉1006を片開きとしているが、これに代えて防潮扉1006を両開きとしてもよいのはもちろんである。
【0076】
また、上記実施形態2では、シール部1069を設けているが、上記実施形態1と同様、そのシールパッキンは必要な耐火性と耐水性とが得られるものであればなんでもよい。ただし、火災のおそれがない場合などには、必ずしもシール部1069に耐火性を持たせる必要性はない。さらに、シールパッキンは扉本体1060側に設けているが、これに代えて、シールパッキンを開口部1005の構造壁側に設けてもよいし、両側に設けることとしてもよい。
【0077】
さらに、本発明の適用範囲は上記実施形態1,2に限定されず、例えば上記実施形態1,2の一部または全部を適宜に組み合わせて適用することとしてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 防潮扉
101 扉本体
2 防潮壁
201 開口部
202 格納部
3 車輪
301 車輪ケース
301a 横軸
302 油圧シリンダ(第一の移動手段、第一の伸縮機構に相当する。)
303 車輪ケース側中間部材
304 扉本体側中間部材
305 スライド部材
4 レール
5 ガイドローラ
501 ガイドレール
502 油圧シリンダ(第二の移動手段、第二の伸縮機構に相当する。)
503 縦軸
504 ローラ側中間部材
505 扉本体側中間部材
506 スライド部材
6 電動モータ(第三の移動手段に相当する。)
601 ピニオン
602 ラック
7 シール部
8 油圧ユニット
1004 構造物
1005 開口部
1006 扉
1060 扉本体
1601 扉本体側支持部材
1602 扉本体側中間部材
1603 扉本体側係止部材
1604 押圧部
1061 レール
1611 ライナー
1064 車輪
1641 車輪側支持部材
1642 車輪側中間部材
1643 車輪側係合部材
1065 リンク機構(第一の移動手段の一部に相当する。)
1651 平行リンク
1652 横軸
1068 アクチュエータ(第一の移動手段の一部に相当する。)
1069 シール部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0079】
【特許文献1】実用新案登録第3075430号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13