(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026290
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】縁部平坦化デバイスおよび該デバイスを含む塗工乾燥システム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20220203BHJP
F26B 5/04 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
H01L21/30 564Z
F26B5/04
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129683
(22)【出願日】2020-07-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000211123
【氏名又は名称】中外炉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100144200
【弁理士】
【氏名又は名称】奥西 祐之
(72)【発明者】
【氏名】福井 慎也
(72)【発明者】
【氏名】横山 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】神戸 寿夫
【テーマコード(参考)】
3L113
5F146
【Fターム(参考)】
3L113AA01
3L113AC08
3L113AC23
3L113AC67
3L113AC76
3L113BA34
3L113CB05
3L113CB15
3L113DA04
5F146JA01
5F146JA21
5F146JA24
(57)【要約】
【課題】膜厚均一性の高い塗工膜を基板に形成する縁部平坦化デバイスおよび該デバイスを含む塗工乾燥システムを提供する。
【解決手段】縁部平坦化デバイス3は、基板7に塗工された塗工液膜8の縁部49を加熱する加熱部30と、縁部49における盛り上がりを測定する盛り上がり測定センサ40と、縁部49における塗工液膜8の表面張力を制御する表面張力制御部32,33と、表面張力制御部32,33を制御する制御部100とを備え、制御部100は、縁部49における盛り上がりを盛り上がり測定センサで測定しながら、表面張力制御部32,33を制御して加熱部30による縁部49への加熱を制御することによって、縁部49における塗工液膜8の表面張力を低下させ、塗工液膜8の縁部49における盛り上がりを抑制する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に塗工された塗工液膜の縁部を加熱する加熱部と、
前記縁部における盛り上がりを測定する盛り上がり測定センサと、
前記縁部における前記塗工液膜の表面張力を制御する表面張力制御部と、
前記表面張力制御部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記縁部における前記盛り上がりを前記盛り上がり測定センサで測定しながら、前記表面張力制御部を制御して前記加熱部による前記縁部への加熱を制御することによって、前記縁部における前記塗工液膜の前記表面張力を低下させることを特徴とする、縁部平坦化デバイス。
【請求項2】
前記加熱部による前記縁部への前記加熱を制御することは、前記加熱部の出力を制御することであることを特徴とする、請求項1に記載の縁部平坦化デバイス。
【請求項3】
前記加熱部による前記縁部への前記加熱を制御することは、前記加熱部を移動可能にして、前記加熱部と前記塗工液膜の前記縁部との間の距離を制御することであることを特徴とする、請求項1に記載の縁部平坦化デバイス。
【請求項4】
前記加熱部が、前記塗工液膜の前記縁部に対応して前記基板の下面に位置する下面側周縁部に接触して加熱することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の縁部平坦化デバイス。
【請求項5】
前記加熱部が、前記塗工液膜の前記縁部に対面して非接触で加熱することを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の縁部平坦化デバイス。
【請求項6】
前記縁部平坦化デバイスが、前記塗工液膜を前記基板に塗工する塗工装置に組み込まれる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の縁部平坦化デバイス。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の前記縁部平坦化デバイスを含むことを特徴とする、塗工乾燥システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、縁部平坦化デバイスおよび該デバイスを含む塗工乾燥システムに関する。
【背景技術】
【0002】
基板に形成された塗工膜の膜周縁部では、膜周縁部よりも内側に位置する膜内周部に比べて盛り上がりする現象(いわゆる、エッジビード:edge-bead)が生じることが知られている。半導体デバイスの分野では、エッジビードが発生すると、基板内でチップとして利用可能な有効面積が縮小し、歩留りが低下する。表示ディスプレイの分野では、エッジビードの存在は、画像品位に直接的な影響を及ぼす。したがって、膜厚均一性の高い塗工膜を基板に形成するための様々な取り組みがなされている。
【0003】
特許文献1は、液送ポンプからの塗工液の吐出とダイヘッドおよび基板の間の相対移動とのタイミングを制御する塗工装置を開示する。特許文献2は、塗布領域の周縁部に対してライン状の塗工膜をあらかじめ形成しておき、ライン状の塗工膜によって面状の塗工膜の広がりを規制する塗工装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-137764号公報
【特許文献2】特開2007-007639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、塗工液の特性(材質や粘度)、所望とする塗工膜の厚みが変わると、その都度、制御を調整する必要があるという問題がある。特許文献2では、ライン状の塗工膜を形成する工程と、面状の塗工膜を形成する工程という2つの膜形成工程が必要になるので、生産時間が長くなるという問題がある。
【0006】
基板に塗工された塗工液膜は揮発性の溶媒を多量に含むので、塗工液膜からは揮発性の溶媒が気化して抜けていく。そのため、揮発性の溶媒の気化が、それ以降の塗工液膜の形状を画定する上で多大な影響を及ぼす。それにもかかわらず、従来は、基板に塗工された塗工液膜の縁部における塗工液の挙動について十分な検討がなされていなかった。
【0007】
そこで、この発明の課題は、膜厚均一性の高い塗工膜を基板に形成する縁部平坦化デバイスおよび該デバイスを含む塗工乾燥システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明の一態様に係る縁部平坦化デバイスは、
基板に塗工された塗工液膜の縁部を加熱する加熱部と、
前記縁部における盛り上がりを測定する盛り上がり測定センサと、
前記縁部における前記塗工液膜の表面張力を制御する表面張力制御部と,
前記表面張力制御部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記縁部における前記盛り上がりを前記盛り上がり測定センサで測定しながら、前記表面張力制御部を制御して前記加熱部による前記縁部への加熱を制御することによって、前記縁部における前記塗工液膜の前記表面張力を低下させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、塗工液膜の縁部における盛り上がりを測定しながら加熱部による縁部への加熱を制御することによって、表面張力が小さい縁部から表面張力が大きい内側部へと向かう塗工液の流れが生じるため、縁部における盛り上がりが抑制されるので、膜厚均一性の高い塗工膜を基板に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る縁部平坦化デバイスを含む塗工乾燥システムの模式図である。
【
図3】第1実施形態に係る縁部平坦化デバイスを説明する断面図である。
【
図4】縁部平坦化デバイスにおける加熱部の斜視図である。
【
図5】第2実施形態に係る縁部平坦化デバイスを説明する断面図である。
【
図6】第3実施形態に係る縁部平坦化デバイスを有する減圧乾燥装置が開放状態にあることを示す断面図である。
【
図7】
図6に示した減圧乾燥装置が閉鎖状態にあることを示す断面図である。
【
図9】濃度差によるマランゴニ対流を説明する図である。
【
図10】温度差によるマランゴニ対流を説明する図である。
【
図11】第1変形例に係る、加熱部による縁部への加熱制御を説明する図である。
【
図12】第2変形例に係る、加熱部による縁部への加熱制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、この発明に係る縁部平坦化デバイス3および該デバイス3を含む塗工乾燥システム1の実施の形態を説明する。
【0012】
〔第1実施形態〕
図1を参照しながら、第1実施形態に係る縁部平坦化デバイス3を含む塗工乾燥システム1を説明する。
図1は、第1実施形態に係る縁部平坦化デバイス3を含む塗工乾燥システム1の模式図である。
【0013】
図1に示すように、塗工乾燥システム1は、塗工装置2、縁部平坦化デバイス3、減圧乾燥装置4、硬化装置5および搬送ロボット9を備える。
【0014】
塗工装置2では、
図2のように、溶質と揮発性の溶媒とを含む塗工液が、基板7の上面に塗工されて、塗工液膜8が塗工される。基板7の上に塗工された塗工液膜8は、塗工液膜8の周縁部に位置する液周縁部(縁部)49と、液周縁部49の近傍であって液周縁部49よりも内側に位置する液内周部(内側部)48とを有する。塗工液膜8が平面視で矩形形状を有する場合、液周縁部49は、矩形の4つの辺に対応した矩形形状を有する。基板7は、基板7を挟んで液周縁部49の反対側において、液周縁部49に対応する下面側周縁部39を有する。
【0015】
塗工装置2は、例えば、塗工液を吐出口から吐出するスリット状のノズルを基板7に対して相対的に走査して塗工液膜8を塗工する、いわゆるスリットコーターである。当該構成によれば、フラットパネルディスプレイや半導体の製造に用いられる大型の基板7に対して、フォトレジスト液などからなる塗工液膜8を均一に塗工できる。もちろん、例えばスピンコートのような他方式の塗工装置を用いることができる。なお、所望厚みを有する塗工膜を形成するには、揮発性の溶媒の気化を考慮して、塗工膜よりも厚い厚みを有する塗工液膜8が形成される。
【0016】
塗工液膜8が塗工された基板7は、搬送ロボット9によって塗工装置2から縁部平坦化デバイス3に搬送される。縁部平坦化デバイス3では、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力を制御することにより、塗工液膜8の液周縁部49で生じている盛り上がりを抑制した塗工液膜8が形成される。なお、縁部平坦化デバイス3の構成および動作の詳細については、後述する。
【0017】
縁部平坦化デバイス3によって塗工液膜8の液周縁部49が平坦化された基板7は、搬送ロボット9によって縁部平坦化デバイス3から減圧乾燥装置4に搬送される。減圧乾燥装置4では、塗工液膜8に含まれる揮発性の溶媒を気化させる(すなわち、塗工液膜8を乾燥させる)ことにより、厚みが薄くなった塗工液膜8が形成される。なお、減圧乾燥装置4の構成および動作の詳細については、後述する。
【0018】
厚みが薄くなった塗工液膜8が形成された基板7は、搬送ロボット9により減圧乾燥装置4から硬化装置5に搬送される。硬化装置5は、熱や紫外線などを用いて、乾燥された塗工液膜8を硬化させることにより、塗工膜を形成する。硬化装置5は、基板7を一枚ごと硬化処理する枚葉式であってもよいし、複数の基板7を一括して硬化処理するバッチ式や連続式であってもよい。
【0019】
次に、
図3、
図4および
図8を参照しながら、第1実施形態に係る縁部平坦化デバイス3の構成および動作について説明する。
【0020】
図3および
図8に示すように、縁部平坦化デバイス3は、支持体14と、加熱部30と、盛り上がり測定センサ40と、表面張力制御部32,33と、制御部100とを備える。
【0021】
図3に示すように、支持体14は、塗工液膜8が塗工された基板7を支持して、載置台38の上面に立設されている。支持体14として、複数(例えば4本)の支持ピンが用いられる。各支持体14の尖端部が基板7の下面に当接することにより、基板7が水平姿勢で支持される。
【0022】
盛り上がり測定センサ40は、基板7の上に塗工された塗工液膜8の液周縁部49の盛り上がりを測定する。言い換えると、盛り上がり測定センサ40は、塗工液膜8の液周縁部49での厚みの変化を測定する。盛り上がり測定センサ40は、例えば、レーザー変位計である。レーザー変位計は、液周縁部49の盛り上がりを非接触で測定して、塗工液膜8の液周縁部49の表面に向けてレーザー光を照射して、液周縁部49の表面で反射したレーザー光を受光するまでの時間を測定する。これにより、盛り上がり測定センサ40は、液周縁部49の盛り上がりを測定する。盛り上がり測定センサ40は、塗工液膜8の液周縁部49の上方(例えば、直上)に配設される。盛り上がり測定センサ40は、筐体41の上筐体42に取り付けられた支持部36によって吊り下げ支持される。なお、盛り上がり測定センサ40の支持構造は、筐体41の側方筐体43に取り付けられた支持部36によって側方から支持される構造にすることもできる。
【0023】
加熱部30は、加熱によって、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力の低下を促進する機能を有する。塗工液膜8の温度が上がると、塗工液膜8の表面張力が小さくなる。第1実施形態に係る縁部平坦化デバイス3では、加熱部30は、接触加熱によって、塗工液膜8の液周縁部49を基板7の下側から加熱する。
【0024】
図4に示すように、加熱部30は、平面視で矩形形状を有しており、熱伝導性の良い金属材料、例えばアルミニウムや銅でできている。加熱部30は、熱容量の大きな材料、例えば樹脂材料から構成することもできる。加熱部30は、基板7の下面に向けて延在する。加熱部30は、例えば外側から内側に向けて斜め上方に延在する。加熱部30の上端である接触端31は、先端が尖ったナイフエッジ形状を有しており、基板7の下面側周縁部39に対して線状に接触するように構成されている。接触時において、加熱部30の接触端31は、基板7を挟んで液周縁部49の反対側にある下面側周縁部39に位置するように構成される。加熱部30は、下面側周縁部39および基板7の厚み部分を介して、液周縁部49の下(例えば、直下)に配設される。なお、
図4では、一体型で構成される加熱部30を図示しているが、加熱部30を4つの別部品の辺部からなる構成にして、それぞれの辺部を独立して加熱制御できるようにしてもよい。
【0025】
加熱部30は、加熱源32を有する。加熱源32は、例えば、加熱部30の下端側に設けられる。加熱源32として、例えば、電熱ヒータが用いられる。加熱源32からの熱は、加熱部30の本体部を伝導して、接触端31に伝導する。加熱源32は、制御部100によって制御される。制御部100からの指令に応じて、加熱源32がONまたはOFFに制御されることにより、加熱部30が所定の温度に加熱される。なお、加熱部30の加熱制御は、ON/OFF制御に限らず、加熱源32の出力を制御する出力制御にしてもよい。
【0026】
加熱部30は、複数のアクチュエータ33および加熱支持部34を介して、載置台38に立設されている。加熱支持部34の上部が、加熱部30に接続される。アクチュエータ33は、例えば、電動アクチュエータである。電動アクチュエータは、ボールネジやラック・アンド・ピニオンなどの機構部品と、電動モータとを備える。制御部100が電動モータの回転を制御することにより、機構部品に接続された加熱支持部34が上下方向に直線運動する。
【0027】
アクチュエータ33は、加熱支持部34を上下方向に駆動することにより、加熱部30を上下方向に変位させる。加熱部30は、アクチュエータ33によって上方に変位すると、基板7の下面側周縁部39に接触する接触状態になる。加熱部30は、アクチュエータ33によって下方に変位すると、基板7の下面側周縁部39から離間した非接触状態になる。
【0028】
所定の温度に加熱された加熱部30の接触端31が、基板7の下面側周縁部39に接触すると、加熱部30の熱が、基板7における下面側周縁部39および厚み部分を介して、塗工液膜8の液周縁部49に伝導する。これにより、塗工液膜8の液周縁部49の温度が上がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が小さくなる。
【0029】
所定の温度に加熱された加熱部30の接触端31が、基板7の下面側周縁部39から離れて非接触状態になると、加熱部30からの熱伝導が無くなる。これにより、塗工液膜8の液周縁部49の温度が下がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が大きくなる。
【0030】
図8に示すように、制御部100には、盛り上がり測定センサ40と表面張力制御部32,33とが接続される。制御部100は、盛り上がり測定センサ40によって測定された塗工液膜8の液周縁部49の盛り上がりの変化に応じて、表面張力制御部32,33とを制御する。制御部100は、例えばコンピュータであり、演算部(CPU:中央演算装置)と、記憶部(ROMやRAMなどのメモリ)とを含む。
【0031】
制御部100は、塗工液膜8の液周縁部49における盛り上がりの変化を盛り上がり測定センサ40で測定しながら、加熱部30を昇降させるアクチュエータ33を制御する。加熱部30が基板7に接触すると、塗工液膜8の液周縁部49が加熱状態になり、液周縁部49での温度が上がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が小さくなる。逆に、加熱部30が基板7から離れて非接触になると、塗工液膜8の液周縁部49が非加熱状態になり、液周縁部49での温度が下がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が大きくなる。したがって、アクチュエータ33は、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力を制御する表面張力制御部として働く。
【0032】
制御部100は、盛り上がり測定センサ40によって測定された塗工液膜8の液周縁部49における盛り上がりの変化に応じて、加熱部30を加熱する加熱源32を制御する。加熱部30の接触端31が、基板7の下面側周縁部39に接触した状態で、加熱源32がONになると、塗工液膜8の液周縁部49が加熱状態になり、液周縁部49での温度が上がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が小さくなる。逆に、加熱部30の接触端31が、基板7の下面側周縁部39に接触した状態で、加熱源32がOFFになると、塗工液膜8の液周縁部49が非加熱状態になり、加熱源32がONのときよりも、液周縁部49での温度が下がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が大きくなる。したがって、加熱源32は、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力を制御する表面張力制御部として働く。
【0033】
盛り上がり測定センサ40と接触端31とアクチュエータ33とは、
図3において左側および右側の2箇所に配設されているが、手前側および奥側の2箇所にも配設して、矩形の基板7の各辺での加熱制御を独立して行うようにしてもよい。また、盛り上がり測定センサ40を代表的な1箇所に配設して、矩形の基板7の各辺での加熱制御を同じように行うようにしてもよい。
【0034】
従来技術で説明したように、基板7に形成された塗工膜の膜周縁部では、膜周縁部の内側に位置する膜内周部に比べて膜厚が大きくなる現象(いわゆる、エッジビード:edge-bead)が知られている。当該現象は、十分に解明されていないが、例えば、塗工液膜8を基板7に塗工した段階では、液周縁部49と液内周部48との間で表面張力差が生じることにより、液周縁部49において盛り上がりが形成されると仮定できる。
【0035】
塗工液膜8は、溶質と揮発性の溶媒とから構成されているが、塗工液膜8は揮発性の溶媒を多量に含んでいる。揮発性の溶媒は、塗工液膜8と外界とを隔てる界面を通じて気化するので、界面の面積が大きいほど、揮発性の溶媒の気化量が多くなる。液周縁部49では、液内周部48との比較で、塗工液膜8の膜厚に対応する側方界面8aが加算されるので、液周縁部49によって画定される界面の面積は、液内周部48によって画定される界面の面積よりも大きくなる。したがって、液周縁部49における揮発性の溶媒の気化量は、液内周部48における揮発性の溶媒の気化量よりも多くなる。揮発性の溶媒の気化量が多くなると揮発性の溶媒の濃度が低くなるため、溶質の濃度が相対的に高くなる。溶質の濃度が相対的に高い液周縁部49では、表面張力が大きくなり、溶質の濃度が相対的に低い液内周部48では、表面張力が小さくなる。このように、表面張力差が液周縁部49と液内周部48との間で生じている。
【0036】
ところで、液体において、表面張力差があると、マランゴニ対流と呼ばれる対流が生じることが知られている。マランゴニ対流は、表面張力が小さい方から表面張力が大きい方への液体の流れである。塗工液膜8を基板7に塗工したままの状態で揮発性の溶媒が気化すると、表面張力が小さい液内周部48から、表面張力が大きい液周縁部49へのマランゴニ対流(以下、第1のマランゴニ対流という)が生じることにより、液周縁部49において盛り上がりが形成されると考えられる。すなわち、従来技術では、塗工液膜8に含まれる溶質の濃度差に起因する液内周部48から液周縁部49への第1のマランゴニ対流によって、液周縁部49において盛り上がりが形成されると考えられる(
図9を参照)。
【0037】
これに対して、第1実施形態に係る縁部平坦化デバイス3により、加熱部30による局所的な加熱が行われる液周縁部49では、表面張力が小さくなるのに対して、加熱部30による加熱が行われない液内周部48では、表面張力が大きくなる。加熱による温度差に起因した表面張力差があるので、表面張力が小さい液周縁部49から、表面張力が大きい液内周部48へのマランゴニ対流(以下、第2のマランゴニ対流という)が生じる(
図10を参照)。加熱による温度差に起因した第2のマランゴニ対流は、溶質の濃度差に起因した第1のマランゴニ対流の方向と反対方向を向いている。塗工液膜8の液周縁部49における盛り上がりの変化を盛り上がり測定センサ40で測定しながら、加熱部30による加熱を適切に制御することにより、第1のマランゴニ対流を第2のマランゴニ対流で相殺させることができる。すなわち、本願発明では、塗工液膜8における温度差に起因する液周縁部49から液内周部48への第2のマランゴニ対流によって、液周縁部49で形成される盛り上がりが抑制されて、塗工液膜8の膜厚均一性が向上する。
【0038】
したがって、上記縁部平坦化デバイス3によれば、塗工液膜8の液周縁部(縁部)49における盛り上がりを測定しながら加熱部30による液周縁部(縁部)49への加熱を制御することによって、表面張力が小さい液周縁部(縁部)49から表面張力が大きい液内周部(内側部)48へと向かう塗工液の流れが生じるため、液周縁部(縁部)49における盛り上がりが抑制されるので、膜厚均一性の高い塗工膜を基板7に形成できる。
【0039】
上記実施形態において、加熱部30による加熱制御は、加熱源32のON/OFF制御だけでなく、加熱源32の出力制御としてもよい。加熱源32の出力制御により、精度の高い加熱制御が可能になる。そして、非接触加熱の場合、基板7の下面側周縁部39と加熱部30の接触端31との間の離間距離をアクチュエータ33で制御する離間距離制御を行うことができる。離間距離制御により、塗工液膜8の液周縁部(縁部)49に対する局所的な加熱制御が可能になる。
【0040】
〔第2実施形態〕
図5は、第2実施形態に係る縁部平坦化デバイス3を説明する断面図である。第2実施形態に係る縁部平坦化デバイス3では、非接触式の加熱部30が用いられている。以下、上述した第1実施形態に係る縁部平坦化デバイス3との相違点を中心に説明する。
【0041】
縁部平坦化デバイス3は、支持体14と、加熱部30と、盛り上がり測定センサ40と、表面張力制御部32,33と、制御部100とを備える。
【0042】
加熱部30は、加熱源32を有し、加熱源32は、例えば、加熱部30の上端側に設けられる。加熱源32として、例えば、電熱ヒータが用いられる。加熱源32からの熱は、加熱部30の本体部を伝導して、非接触端37に伝導する。加熱源32は、制御部100によって制御される。制御部100からの指令に応じて、加熱源32がONまたはOFFに制御されることにより、加熱部30が所定の温度に加熱される。
【0043】
加熱部30は、複数の加熱支持部34、アクチュエータ33および支持部36を介して、筐体41の上筐体42に吊り下げ支持される。加熱部30の上部は、複数の加熱支持部34を介して、複数のアクチュエータ33に接続される。各アクチュエータ33の上部は、複数の支持部36に接続される。各支持部36は、筐体41の上筐体42に支持される。
【0044】
図5に示すように、加熱部30の非接触端37は、液周縁部49に対して離間して斜め上方で対面するように構成されている。すなわち、加熱部30は、盛り上がり測定センサ40による塗工液膜8の液周縁部49における盛り上がりの変化の測定を妨げないように、液周縁部49の斜め上方に対面して配設される。これにより、加熱部30と液周縁部49との間に介在する介在部材が無くなり、介在部材の加熱が不要になるので、迅速な加熱制御が可能になる。加熱部30は、例えば、液内周部48を加熱しないように、液周縁部49の斜め上方外側に配設される。
【0045】
加熱支持部34の上部が、アクチュエータ33に接続される。アクチュエータ33は、例えば、電動アクチュエータである。電動アクチュエータは、ボールネジやラック・アンド・ピニオンなどの機構部品と、電動モータとを備える。制御部100が電動モータの回転を制御することにより、機構部品に接続された加熱支持部34が上下方向に直線運動する。
【0046】
アクチュエータ33は、加熱支持部34を上下方向に駆動することにより、加熱部30を上下方向に変位させる。加熱部30は、アクチュエータ33によって上方に変位すると、塗工液膜8の液周縁部49と、加熱部30の非接触端37との間隔が大きくなる。加熱部30は、アクチュエータ33によって下方に変位すると、塗工液膜8の液周縁部49と、加熱部30の非接触端37との間隔が小さくなる。
【0047】
所定の温度に加熱された加熱部30の非接触端37が、塗工液膜8の液周縁部49に近づいて両者の離間距離が小さくなると、加熱部30の熱が、塗工液膜8の液周縁部49に対して非接触で加えられる。非接触式の加熱は、例えば、対流や輻射である。塗工液膜8の液周縁部49が加熱状態になることによって液周縁部49での温度が上がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が小さくなる。
【0048】
所定の温度に加熱された加熱部30の非接触端37が、塗工液膜8の液周縁部49から遠ざかって両者の離間距離が大きくなると、塗工液膜8の液周縁部49が非加熱状態になる。これにより、液周縁部49での温度が下がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が大きくなる。
【0049】
制御部100は、塗工液膜8の液周縁部49における盛り上がりの変化を盛り上がり測定センサ40で測定しながら、加熱部30を昇降させるアクチュエータ33を制御する。加熱部30が基板7に近づくと、塗工液膜8の液周縁部49が加熱状態になり、液周縁部49での温度が上がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が小さくなる。逆に、加熱部30が基板7から遠ざかると、塗工液膜8の液周縁部49が非加熱状態になり、液周縁部49での温度が下がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が大きくなる。したがって、アクチュエータ33は、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力を制御する表面張力制御部として働く。
【0050】
また、加熱部30の非接触端37が、塗工液膜8の液周縁部49に近づいた状態で、加熱源32をONにすると、加熱部30の熱により、塗工液膜8の液周縁部49が加熱状態になることによって液周縁部49での温度が上がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が小さくなる。加熱部30の非接触端37が、塗工液膜8の液周縁部49近づいた状態で、加熱源32をOFFにすると、塗工液膜8の液周縁部49が非加熱状態になることによって液周縁部49での温度が下がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が大きくなる。
【0051】
制御部100は、盛り上がり測定センサ40によって測定された塗工液膜8の液周縁部49における盛り上がりの変化に応じて、加熱部30を加熱する加熱源32を制御する。加熱源32がONになると、塗工液膜8の液周縁部49が加熱状態になり、液周縁部49での温度が上がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が小さくなる。逆に、加熱源32がOFFになると、塗工液膜8の液周縁部49が非加熱状態になり、液周縁部49での温度が下がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が大きくなる。したがって、加熱源32は、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力を制御する表面張力制御部として働く。
【0052】
したがって、上記縁部平坦化デバイス3によれば、塗工液膜8の液周縁部(縁部)49における盛り上がりを測定しながら加熱部30による液周縁部(縁部)49への加熱を制御することによって、表面張力が小さい液周縁部(縁部)49から表面張力が大きい液内周部(内側部)48へと向かう塗工液の流れが生じるため、液周縁部(縁部)49における盛り上がりが抑制されるので、膜厚均一性の高い塗工膜を基板7に形成できる。
【0053】
〔第3実施形態〕
図6は、第3実施形態に係る縁部平坦化デバイス3を有する減圧乾燥装置4が開放状態にあることを示す断面図である。
図7は、
図6に示した減圧乾燥装置4が閉鎖状態にあることを示す断面図である。第3実施形態に係る縁部平坦化デバイス3は、減圧乾燥装置4に組み込まれているとともに、塗工乾燥システム1に含まれる。以下、上述した第1実施形態に係る縁部平坦化デバイス3との相違点を中心に説明する。
【0054】
減圧乾燥装置4は、縁部平坦化デバイス3と、チャンバ6と、支持体昇降部17と、乾燥加熱部12と、減圧排気部20と、復圧部19と、とを備える。制御部100は、縁部平坦化デバイス3、減圧乾燥装置4または図示しない操作盤などに設けることができる。
【0055】
チャンバ6は、基板7を収容して、基板7に対して減圧乾燥処理(減圧処理に加えて、オプションとして加熱処理)を行うための内部空間10を有する耐圧容器である。チャンバ6は、互いに離間可能なベース11と蓋21とから構成される。ベース11は、図示しない装置フレーム上に設置される。
【0056】
縁部平坦化デバイス3は、減圧乾燥装置4に組み込まれており、支持体14と、加熱部30と、盛り上がり測定センサ40と、表面張力制御部としての加熱源32と、制御部100とを備える。
【0057】
蓋21の上部には、蓋21の厚み方向に貫通する測定開口46が形成される。測定開口46は、塗工液膜8の液周縁部49の上方に位置するように配設される。測定開口46を覆うように測定窓44が配設される。測定窓44は、窓取り付け部45によって蓋21の上部外側面に取り付けられる。測定窓44は、盛り上がり測定センサ40から照射されるレーザー光に対して光透過性を有する。盛り上がり測定センサ40は、蓋21の上部外側面に取り付けられた支持部36によって蓋21の外側で支持される。盛り上がり測定センサ40は、塗工液膜8の液周縁部49の上方に位置する。盛り上がり測定センサ40から照射されるレーザー光は、測定窓44を介して、塗工液膜8の液周縁部49で反射され、反射されたレーザー光は、測定窓44を介して、盛り上がり測定センサ40に戻る。
【0058】
蓋21には、蓋21を上下に駆動する蓋昇降機構27が接続される。これにより、制御部100からの昇降指令に応じて蓋昇降機構27が動作することで、ベース11に対して蓋21が上下に移動する。
図7のように蓋21を下降させたときには、ベース11と蓋21とが当接して一体となり、その内部に内部空間10(基板7の処理空間)が形成される。ベース11の上面の周縁部には、Oリング溝11bが設けられている。Oリング溝11bには、シリコンゴムなどの弾性体で構成されたOリング11aが取り付けられる。蓋21の下降時には、ベース11の上面と蓋21の下面との間に介在されるOリング11aにより、チャンバ6の内部空間10が気密状態となる。一方、
図6のように蓋21の上昇時には、チャンバ6が開放され、チャンバ6の内部空間10に対して基板7の出し入れが可能になる。基板7が支持体昇降部17によって持ち上げられる。持ち上げられた基板7は、搬送ロボット9によって減圧乾燥装置4から硬化装置5に搬送される。
【0059】
チャンバ6の内部空間10を減圧するために、減圧排気部20が設けられる。減圧排気部20は、揮発性の溶媒を含むガス(以下「排気ガス」という)を、チャンバ6の内部空間10から排気する排気ポンプ20である。チャンバ6と排気ポンプ20との間は、排気管18によって接続される。排気管18の途中には、排気ガスの排気量を制御する排気バルブ18aが設けられる。
図7に示すように、蓋21を閉じてチャンバ6の内部空間10を気密状態にした状態で、制御部100からの動作指令に応じて排気ポンプ20が作動するとともに制御部100からの開指令に応じて排気バルブ18aを開くと、排気バルブ18aの開度に応じた排気量で排気ガスが排気管18を通じて排気ラインに排気され、内部空間10が所定の圧力に減圧される。内部空間10の圧力を減圧して、塗工液膜8に含まれる揮発性の溶媒を気化させることによって、塗工液膜8を有する基板7の乾燥処理が行われる。
【0060】
減圧された内部空間10を大気圧に復圧するために、復圧部19が設けられる。復圧部19は、外部からのガス(以下、「外部ガス」という)をチャンバ6の内部空間10に導入する復圧管19aと、外部ガスの導入量を制御する復圧バルブ19bとを有する。内部空間10が減圧された状態で、制御部100からの開指令に応じて復圧バルブ19bを開くと、復圧バルブ19bの開度に応じて、外部ガスが復圧管19aを通じて内部空間10に導入され、内部空間10が大気圧に復圧する。
【0061】
乾燥加熱部12は、下支持部13を介して、ベース11の上面に立設される。乾燥加熱部12は、例えば、電熱ヒータであり、制御部100からの加熱指令に応じて内部空間10を所定の温度に昇温し、基板7を加熱する。乾燥加熱部12は、チャンバ加熱部として働き、チャンバ6の内部温度を常温(20℃)よりも高温になるように、温度制御される。当該構成によれば、塗工液膜8の乾燥を促進できる。
【0062】
加熱部30は、乾燥加熱部12を挿通するように、ベース11の上面に立設される。加熱部30は、
図4のように平面視で矩形形状を有する。加熱部30は、基板7の下面に向けて延在する。加熱部30は、例えば外側から内側に向けて斜め上方に延在する。すなわち、接触時において、加熱部30の下端は、塗工液膜8よりも外側に位置し、加熱部30の上端すなわち接触端31は、基板7を挟んで液周縁部49の反対側にある下面側周縁部39に位置するように構成される。加熱部30は、例えば、下面側周縁部39および基板7の厚み部分を介して、液周縁部49の直下に配設される。
【0063】
加熱部30の接触端31は、先端が尖ったナイフエッジ形状を有しており、基板7の下面側周縁部39に対して線状に接触するように構成されている。加熱部30の接触端31の反対側すなわち下端側には、加熱源32として、例えば、電熱ヒータが設けられる。加熱源32からの熱は、加熱部30の本体部を伝導して、接触端31に伝導する。加熱源32は、制御部100によって制御される。加熱部30は、チャンバ6の内部よりも高温に加熱される。制御部100からの加熱指令に応じて加熱源32を所定の温度に加熱すると、加熱部30は、接触端31を介して、基板7の下面側周縁部39を接触加熱する。基板7の下面側周縁部39および厚み部分を介して、塗工液膜8の液周縁部49が、加熱される。これにより、簡単な構成で、液周縁部49を加熱できる。
【0064】
支持体昇降部17は、複数の支持体14と、リンク15と、支持体昇降モータ16とを備える。複数の支持体14として、例えば、4つの支持ピンが配設される。各支持体14の頭部が基板7の下面に当接することにより、基板7が、チャンバ6の内部空間10において水平姿勢で支持される。各支持体14は、ベース11および乾燥加熱部12を貫通してチャンバ6の内部空間10に突出している。複数の支持体14は、チャンバ6の外部に配置されたリンク15によって一体化されている。
【0065】
リンク15には、支持体昇降モータ16が接続される。制御部100からの昇降指令に応じて支持体昇降モータ16が作動することで、リンク15によって一体となった複数の支持体14が上下に移動する。複数の支持体14上に基板7を載置しつつ支持体昇降モータ16を作動させることにより、搬送ロボット9による基板7の受け渡しを可能にするとともに、乾燥加熱部12に対する基板7の高さ位置を調整できる。例えば、
図7に示すように、蓋21を閉じた状態で、各支持体14が下降することにより、各支持体14の上端が基板7の下面から離れるように、支持体昇降部17が制御される。これにより、基板7の下面が、各支持体14とは非接触になる一方で、基板7の下面側周縁部39が加熱部30の接触端31に接触して、基板7は、加熱部30に載置された状態で加熱部30によって支持される。この状態で、加熱源32をONにすると、加熱部30の熱によって塗工液膜8の液周縁部49が加熱されて、液周縁部49での温度が上がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が小さくなる。また、加熱源32をOFFにすると、塗工液膜8の液周縁部49が非加熱状態になることによって液周縁部49での温度が下がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が大きくなる。
【0066】
制御部100は、盛り上がり測定センサ40によって測定された塗工液膜8の液周縁部49における盛り上がりの変化に応じて、加熱部30を加熱する加熱源32を制御する。加熱源32がONになると、塗工液膜8の液周縁部49が加熱状態になり、液周縁部49での温度が上がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が小さくなる。逆に、加熱源32がOFFになると、塗工液膜8の液周縁部49が非加熱状態になり、加熱源32がONのときよりも液周縁部49での温度が下がるので、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力が大きくなる。したがって、加熱源32は、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力を制御する表面張力制御部として働く。
【0067】
縁部平坦化デバイス3によって盛り上がりが抑制された塗工液膜8を形成したあと、減圧乾燥装置4のチャンバ6内の圧力を減圧して、塗工液膜8に含まれる揮発性の溶媒を気化させることによって、塗工液膜8を有する基板7の乾燥処理が行われる。基板7の乾燥処理のときに、乾燥加熱部12による加熱を付加することもできる。
【0068】
下面側周縁部39を加熱部30で加熱するとともに、液周縁部49の斜め上方に設けた加熱部30によって液周縁部49を加熱する構成にすることもできる。
【0069】
よって、これらの実施形態のように、減圧乾燥装置4に組み込まれた縁部平坦化デバイス3によれば、塗工液膜8の液周縁部(縁部)49における加熱部30による液周縁部(縁部)49への加熱を制御することによって、表面張力が小さい液周縁部(縁部)49から表面張力が大きい液内周部(内側部)48へと向かう塗工液の流れが生じるため、液周縁部(縁部)49における盛り上がりが抑制されるので、膜厚均一性の高い塗工膜を基板7に形成できる。加熱部30による加熱制御は、加熱源32におけるON/OFF制御や出力制御、基板7の下面側周縁部39と加熱部30の接触端31との間の離間距離をアクチュエータ33で制御する離間距離制御などが例示される。このような加熱制御により、塗工液膜8の液周縁部(縁部)49における膜厚を所定の膜厚に、言い換えると、塗工液膜8の液周縁部(縁部)49における盛り上がりの高さを所定の高さに、調節できる。
【0070】
この発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【0071】
図示を省略するが、縁部平坦化デバイス3は、塗工液膜8を基板7に塗工する塗工装置2に組み込まれることもできる。これにより、基板7の塗工処理を行ってすぐに、液周縁部49における盛り上がりを抑制でき、
図1に図示されるような、縁部平坦化デバイス3に対する専用スペースを省くことができる。
【0072】
上記実施形態では、盛り上がり測定センサ40によって、塗工液膜8の液周縁部49における盛り上がりの変化を測定しているが、他の態様にすることもできる。例えば、
図11に示すように、縁部平坦化デバイス3は、基板距離センサ40aおよび内周距離センサ40bの少なくとも一方をさらに備えることができる。
【0073】
基板距離センサ40aは、塗工液膜8が塗布されていない基板7の上方であって盛り上がり測定センサ40と同じ高さに配設されて、塗工液膜8が塗布されていない基板7の上面に対する基板距離を測定する。例えば、盛り上がり測定センサ40および基板距離センサ40aが使用される。この場合、盛り上がり測定センサ40で測定された液周縁部49における周縁距離と基板距離センサ40aで測定された基板距離とから、液周縁部49における実際の膜厚が測定される。液周縁部49における実際の膜厚の変化に応じて、上述した加熱部30による加熱制御が行われる。
【0074】
内周距離センサ40bは、塗工液膜8の液内周部48の上方であって盛り上がり測定センサ40と同じ高さに配設されて、塗工液膜8の液内周部48の上面に対する内周距離を測定する。例えば、盛り上がり測定センサ40および内周距離センサ40bが使用される。この場合、盛り上がり測定センサ40で測定された液周縁部49における周縁距離と内周距離センサ40bで測定された液内周部48における内周距離とから、液周縁部49における実際の盛り上がりの高さが測定される。液周縁部49における実際の盛り上がりの高さの変化に応じて、上述した加熱部30による加熱制御が行われる。
【0075】
また、例えば、盛り上がり測定センサ40、基板距離センサ40aおよび内周距離センサ40bが一体化された二次元センサが使用される。この場合、上記と同様に、液周縁部49における実際の膜厚の変化に応じて、加熱部30による加熱制御が行われるか、または、液周縁部49における実際の盛り上がりの高さの変化に応じて、加熱部30による加熱制御が行われる。
【0076】
また、
図12のように、塗工液膜8の液周縁部49が基板7の縁部の近傍まで延在しているとき、液周縁部49の側方界面8a(厚み部分)を加熱する非接触の加熱部を、液周縁部49の側方界面8aに対面して離間配置することもできる。側方からも液周縁部49を加熱することにより、液周縁部49における塗工液膜8の表面張力低下を促進できる。
【0077】
加熱部30は、例えば、赤外線ハロゲンランプによる放射加熱方式や、熱風を吹き出す熱風ヒータ方式にすることもできる。
【0078】
この発明および実施形態をまとめると、次のようになる。
【0079】
この発明の一態様に係る縁部平坦化デバイス3は、
基板7に塗工された塗工液膜8の液周縁部(縁部)49を加熱する加熱部30と、
前記液周縁部(縁部)49における盛り上がりを測定する盛り上がり測定センサ40と、
前記液周縁部(縁部)49における前記塗工液膜8の表面張力を制御する表面張力制御部32,33と、
前記表面張力制御部32,33を制御する制御部100とを備え、
前記制御部100は、前記液周縁部(縁部)49における前記盛り上がりを前記盛り上がり測定センサ40で測定しながら、前記表面張力制御部32,33を制御して前記加熱部30による前記液周縁部(縁部)49への加熱を制御することによって、前記液周縁部(縁部)49における前記塗工液膜8の前記表面張力を低下させることを特徴とする。
【0080】
上記構成によれば、塗工液膜8の液周縁部(縁部)49における盛り上がりを測定しながら加熱部30による液周縁部(縁部)49への加熱を制御することによって、表面張力が小さい液周縁部(縁部)49から表面張力が大きい液内周部(内側部)48へと向かう塗工液の流れが生じるため、液周縁部(縁部)49における盛り上がりが抑制されるので、膜厚均一性の高い塗工膜を基板7に形成できる。
【0081】
また、一実施形態の縁部平坦化デバイス3では、
前記加熱部30による前記液周縁部(縁部)49への前記加熱を制御することは、前記加熱部30の出力を制御することである。
【0082】
上記実施形態によれば、精度の高い加熱制御が可能になる。
【0083】
また、一実施形態の縁部平坦化デバイス3では、
前記加熱部30による前記液周縁部(縁部)49への前記加熱を制御することは、前記加熱部30を移動可能にして、前記加熱部30と前記塗工液膜8の前記液周縁部(縁部)49との間の距離を制御することである。
【0084】
上記実施形態によれば、塗工液膜8の液周縁部(縁部)49に対する局所的な加熱制御が可能になる。
【0085】
また、一実施形態の縁部平坦化デバイス3では、
前記加熱部30が、前記塗工液膜8の前記液周縁部(縁部)49に対応して前記基板7の下面に位置する下面側周縁部39に接触して加熱する。
【0086】
上記実施形態によれば、簡単な構成で、液周縁部(縁部)49を加熱できる。
【0087】
また、一実施形態の縁部平坦化デバイス3では、
前記加熱部30が、前記塗工液膜8の前記液周縁部(縁部)49に対面して非接触で加熱する。
【0088】
上記実施形態によれば、加熱部30と液周縁部(縁部)49との間に介在する部材の加熱が不要になるので、迅速な加熱制御が可能になる。
【0089】
また、一実施形態の縁部平坦化デバイス3では、
前記縁部平坦化デバイス3が、前記塗工液膜8を前記基板7に塗工する塗工装置2に組み込まれる。
【0090】
上記実施形態によれば、基板7の塗工処理を行ってすぐに、液周縁部(縁部)49における盛り上がりを抑制でき、縁部平坦化デバイス3に対する専用スペースを省くことができる。
【0091】
この発明の別の局面に係る塗工乾燥システム1は、
上述した縁部平坦化デバイス3を備えることを特徴とする。
【0092】
上記実施形態によれば、塗工液膜8の液周縁部(縁部)49における盛り上がりを測定しながら加熱部30による液周縁部(縁部)49への加熱を制御することによって、表面張力が小さい液周縁部(縁部)49から表面張力が大きい液内周部(内側部)48へと向かう塗工液の流れが生じるため、液周縁部(縁部)49における盛り上がりが抑制されるので、膜厚均一性の高い塗工膜を基板7に形成できる。
【符号の説明】
【0093】
1…塗工乾燥システム
2…塗工装置
3…縁部平坦化デバイス
4…減圧乾燥装置
5…硬化装置
6…チャンバ
7…基板
7a…基板上面
8…塗工液膜
8a…側方界面
9…搬送ロボット
10…内部空間
11…ベース
11a…Oリング
11b…Oリング溝
12…乾燥加熱部(チャンバ加熱部)
13…下支持部
14…支持体
15…リンク
16…支持体昇降モータ
17…支持体昇降部
18…排気管
18a…排気バルブ
19…復圧部
19a…復圧管
19b…復圧バルブ
20…排気ポンプ(減圧排気部)
21…蓋
27…蓋昇降機構
30…加熱部
31…接触端
32…加熱源(表面張力制御部)
33…アクチュエータ(表面張力制御部)
34…加熱支持部
36…支持部
37…非接触端
38…載置台
39…下面側周縁部
40…盛り上がり測定センサ
40a…基板距離センサ
40b…内周距離センサ
41…筐体
42…上筐体
43…側方筐体
44…測定窓
45…窓取り付け部
46…測定開口
48…液内周部(内側部)
49…液周縁部(縁部)
100…制御部
【手続補正書】
【提出日】2021-08-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に塗工された塗工液膜の周縁部を全周にわたって加熱する加熱部と、
前記周縁部における盛り上がりを測定する盛り上がり測定センサと、
前記周縁部における前記塗工液膜の表面張力を制御する表面張力制御部と、
前記表面張力制御部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記周縁部における前記盛り上がりを前記盛り上がり測定センサで測定しながら、前記表面張力制御部を制御して前記加熱部による前記周縁部の全周にわたる加熱を制御することによって、前記周縁部の全周にわたる前記表面張力を低下させることを特徴とする、縁部平坦化デバイス。
【請求項2】
前記加熱部による前記周縁部の全周にわたる前記加熱を制御することは、前記加熱部の出力を制御することであることを特徴とする、請求項1に記載の縁部平坦化デバイス。
【請求項3】
前記加熱部による前記周縁部の全周にわたる前記加熱を制御することは、前記加熱部を移動可能にして、前記加熱部と前記塗工液膜の前記周縁部との間の距離を制御することであることを特徴とする、請求項1に記載の縁部平坦化デバイス。
【請求項4】
前記加熱部が、前記塗工液膜の前記周縁部に対応して前記基板の下面に位置する下面側周縁部に接触して加熱することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の縁部平坦化デバイス。
【請求項5】
前記加熱部が、前記塗工液膜の前記周縁部に対面して非接触で加熱することを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の縁部平坦化デバイス。
【請求項6】
前記縁部平坦化デバイスが、前記塗工液膜を前記基板に塗工する塗工装置に組み込まれる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の縁部平坦化デバイス。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の前記縁部平坦化デバイスを含むことを特徴とする、塗工乾燥システム。