(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022026346
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】光ファイバケーブル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
G02B6/44 301A
G02B6/44 331
G02B6/44 301B
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129759
(22)【出願日】2020-07-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】591072330
【氏名又は名称】新光技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 哲司
(72)【発明者】
【氏名】牟田 健一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 慧
【テーマコード(参考)】
2H250
【Fターム(参考)】
2H250AB05
2H250AB10
2H250AD35
2H250AD36
2H250AE71
2H250BA03
2H250BA19
2H250BA32
2H250BB05
2H250BB07
2H250BB14
2H250BB22
2H250BB26
2H250BB33
2H250BC02
2H250BD03
2H250BD05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】保存中の破断を防止しつつ1000℃以上にしても伝送損失の変動を抑えることに貢献することができる光ファイバケーブル及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】光ファイバケーブル1は、線状に延在する光ファイバ10と、光ファイバの外周面に被覆されるとともに、樹脂が硬化した下地層20と、下地層の外周面に被覆されるとともに、セラミックス粒子及びバインダを含むコーティング層30と、を備え、コーティング層の厚さは、1μm以上かつ20μm未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状に延在する光ファイバと、
前記光ファイバの外周面に被覆されるとともに、樹脂が硬化した下地層と、
前記下地層の外周面に被覆されるとともに、セラミックス粒子及びバインダを含むコーティング層と、
を備え、
前記コーティング層の厚さは、1μm以上かつ20μm未満である、
光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記樹脂は、紫外線硬化性樹脂である、
請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記紫外線硬化性樹脂は、ウレタンアクリレートである、
請求項2記載の光ファイバケーブル。
【請求項4】
前記セラミックス粒子は、α-アルミナ粒子である、
請求項1乃至3のいずれか一に記載の光ファイバケーブル。
【請求項5】
前記α-アルミナの粒径は、0.5μm以上かつ20μm未満である、
請求項4記載の光ファイバケーブル。
【請求項6】
前記バインダは、金属アルコキシドの一部ないし全体が縮合したものである、
請求項1乃至5のいずれか一に記載の光ファイバケーブル。
【請求項7】
前記金属アルコキシドは、シリコンアルコキシドである、
請求項6記載の光ファイバケーブル。
【請求項8】
前記下地層の厚さは、1μm~10μm以下である、
請求項1乃至7のいずれか一に記載の光ファイバケーブル。
【請求項9】
前記光ファイバケーブルは、大気中で500℃かつ1時間加熱したときに黒色化するように構成されている、
請求項1乃至8のいずれか一に記載の光ファイバケーブル。
【請求項10】
前記下地層は、前記樹脂の少なくとも一部が炭素化ないし焼失された状態である、
請求項1乃至8のいずれか一に記載の光ファイバケーブル。
【請求項11】
線状に延在する光ファイバの外周面に、樹脂を硬化した下地層を形成する工程と、
前記下地層の外周面に、セラミックス粒子及びバインダを含むコーティング層を形成する工程と、
加熱処理して前記バインダを硬化する工程と、
を含み、
前記コーティング層の厚さは、前記バインダが硬化した後において1μm以上かつ20μm未満である、
光ファイバケーブルの製造方法。
【請求項12】
前記バインダを硬化する工程の後、前記加熱処理よりも低温かつ長時間で他の加熱処理を行う工程をさらに含む、請求項11記載の光ファイバケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可撓性を有しつつ高温下でも使用可能な光ファイバケーブルとして、金属コーティング光ファイバケーブル、セラミックスコーティング光ファイバケーブル、シリカ系コーティング光ファイバケーブルがある。
【0003】
金属コーティング光ファイバケーブルとして、例えば、特許文献1には、光ファイバと、該光ファイバの表面に電解メッキ或いは無電解メッキにより金属をコーティングすると共にこれを不活性雰囲気で熱処理を施した金属層とを備えたものが開示されている。特許文献1に記載の光ファイバケーブルによれば、高温下、或いは高温サイクル下でも伝送損失が増加したり強度が低下したりすることがないようにすることができるとされている。また、特許文献2には、光ファイバの外周面に形成された金属膜の外周面に、ケイ素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜を形成したものが開示されている。特許文献2に記載の光ファイバケーブルによれば、金属膜がシリカミクロ多孔体膜により光ファイバに押圧される結果、密着度が上がり、優れた引張強度が得られる、とされている。
【0004】
セラミックスコーティング光ファイバケーブルとして、例えば、特許文献3には、光ファイバを、バインダを含む粉末セラミックスからなる保護層で被覆してなるものが開示されている。特許文献3記載の光ファイバケーブルによれば、緩衝機能及び保護機能を損なわず、高温に耐えることができ、しかも敷設断面積を極めて小さくすることができるとされている。
【0005】
シリカ系コーティング光ファイバケーブルとして、例えば、特許文献4には、光ファイバの外周面に、ケイ素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜を形成したものが開示されている。また、特許文献5には、光ファイバの外周面に形成されたシリカミクロ多孔体膜の外周面に金属皮膜を形成したものが開示されている。さらに、特許文献6には、光ファイバの外周面に形成されたシリカミクロ多孔体膜の外周面に樹脂皮膜を形成したものが開示されている。特許文献4~6に記載の光ファイバケーブルによれば、耐熱性に優れ、高温環境下でも使用できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-300997号公報
【特許文献2】特開2006-349941号公報
【特許文献3】特開平10-186193号公報
【特許文献4】特開2006-47933号公報
【特許文献5】特開2006-64792号公報
【特許文献6】特開2006-98462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以下の分析は、本願発明者により与えられる。
【0008】
近年、燃料電池の分野では、発電効率を高めるためSOFC(Solid Oxide Fuel Cell;固体酸化物形燃料電池)の開発が進められており、800℃以上での水蒸気の濃度の測定が求められている。また、焼却炉の分野では、廃棄物を800℃以上で焼却することが義務づけられており、800℃以上での水蒸気や二酸化炭素の濃度の測定が求められている。水蒸気や二酸化炭素の濃度は、光ファイバケーブルを用いて赤外吸収分光法により測定することができる。燃料電池や焼却炉の分野で光ファイバケーブルを用いて赤外吸収分光法により水蒸気や二酸化炭素の濃度を測定するには、1000℃以上の耐熱性を有する光ファイバケーブルを用いることが望まれる。
【0009】
しかしながら、特許文献1、2に記載の金属コーティング光ファイバケーブルを1000℃以上にすると、金属の熱膨張係数と光ファイバの熱膨張係数との差によりマイクロベンドが発生し、伝送損失が増加する可能性がある。
【0010】
光ファイバの伝達特性や機械特性を考慮すると、光ファイバのコーティング材として、光ファイバに用いられる石英の熱膨張係数に近いセラミックス系(ジルコニア系、アルミナ系、チタニア系等)又はシリカ系コーティング材が好適であるようにも見える。
【0011】
しかしながら、セラミックス系コーティング材を用いている特許文献3に記載のセラミックスコーティング光ファイバケーブルや、特許文献4~6に記載のシリカ系コーティング光ファイバケーブルでは、乾燥(バインダの縮合、シリコンアルコキシドの縮合)によるセラミックスコーティング層やシリカミクロ多孔体膜の体積収縮力が直接的に光ファイバに作用してマイクロベンドが発生するので、光ファイバケーブルを製造してから敷設するまでに伝送損失が増加する可能性がある。また、光ファイバがバインダやシリカミクロ多孔体膜で直接的に覆われていると、水分等のしみ込みによるグリフィスフロー(光学的にとらえることができない光ファイバの破断原因と考えられている微細な傷)の成長があるので、光ファイバケーブルを製造してから敷設するまでの保存中に破断する可能性がある。
【0012】
本発明の主な課題は、保存中の破断を防止しつつ1000℃以上にしても伝送損失の変動を抑えることに貢献することができる光ファイバケーブル及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の視点に係る光ファイバケーブルは、線状に延在する光ファイバと、前記光ファイバの外周面に被覆されるとともに、樹脂が硬化した下地層と、前記下地層の外周面に被覆されるとともに、セラミックス粒子及びバインダを含むコーティング層と、を備え、前記コーティング層の厚さは、1μm以上かつ20μm未満である。
【0014】
第2の視点に係る光ファイバケーブルの製造方法は、線状に延在する光ファイバの外周面に、樹脂を硬化した下地層を形成する工程と、前記下地層の外周面に、セラミックス粒子及びバインダを含むコーティング層を形成する工程と、加熱処理して前記バインダを硬化する工程と、を含み、前記コーティング層の厚さは、前記バインダが硬化した後において1μm以上かつ20μm未満である。
【発明の効果】
【0015】
前記第1、2の視点によれば、保存中の破断を防止しつつ1000℃以上にしても伝送損失の変動を抑えることに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る光ファイバケーブルの構成を模式的に示した拡大断面図である。
【
図2】実施形態に係る光ファイバケーブルの製造装置の一例を模式的に示したイメージ図である。
【
図3】実施形態に係る光ファイバケーブルの製造方法の一例を模式的に示したフローチャート図である。
【
図4】実施例及び比較例の外観を示した写真であり、(A)比較例1~5の写真、(B)実施例1、2の写真である。
【
図5】実施例1の500℃加熱処理前後の外観の変化を示した写真であり、(A)500℃加熱処理前の写真、(B)500℃加熱処理後の写真である。
【
図6】実施例1の500℃加熱処理前のX線回折パターンとα-アルミナ単体のX線回折パターンのピーク位置との関係を示した図である。
【
図7】実施例1の500℃加熱処理後のX線回折パターンとα-アルミナ単体のX線回折パターンのピーク位置との関係を示した図である。
【
図8】光ファイバケーブルの可撓性シミュレーションのモデルのイメージ図である。
【
図9】光ファイバケーブルの可撓性シミュレーションおいて荷重、光ファイバ直径及びコーティング層厚に変動させて撓み量を計算したとき結果を示したグラフである。
【
図10】光ファイバケーブルの耐熱性試験のイメージ図である。
【
図11】実施例に係る光ファイバケーブルの耐熱性試験による光出力変化量と温度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態について説明する。なお、本出願において図面参照符号を付している場合は、それらは、専ら理解を助けるためのものであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。また、下記の実施形態は、あくまで例示であり、本発明を限定するものではない。
【0018】
実施形態に係る光ファイバケーブルついて、図面を用いて説明する。
図1は、実施形態1に係る光ファイバケーブルの構成を模式的に示した拡大断面図である。
【0019】
光ファイバケーブル1は、離れた場所に光信号を伝送するファイバ状(繊維状)のケーブルである(
図1参照)。光ファイバケーブル1は、光ファイバ10と、光ファイバ10の外周面に被覆された下地層20と、下地層20の外周面に被覆されたコーティング層30と、を備える。
【0020】
光ファイバ10は、離れた場所に光信号を伝送するファイバである(
図1参照)。光ファイバ10は、線状に延在するように構成されている。光ファイバ10は、1又は複数のコア11と、コア11の周囲に配されたクラッド12と、を備える。光ファイバ10は、シングルコア、マルチコアのいずれであってもよい。光ファイバ10として、例えば、コア11にゲルマニウムがドープされた石英を用い、かつ、クラッド12に石英を用いた光ファイバや、コア11に石英を用い、かつ、クラッド12にフッ素をドープした石英を用いた光ファイバ等が挙げられる。光ファイバ10は、プリフォーム(母材)を加熱しながら繊維状に引き伸ばすことによって得ることができる。光ファイバ10の直径は、任意であるが、例えば、115μm、230μm等のサイズで用いられることが多い。
【0021】
下地層20は、樹脂を硬化した層である(
図1参照)。下地層20は、水分の浸透及び付着を防止する機能を有する。樹脂には、主骨格に炭素を有するものが用いられる。下地層20は、加熱処理の温度、時間、雰囲気等に応じて、樹脂の少なくとも一部が炭素化(炭化)ないし焼失した状態となる。樹脂の炭素化は、主に下地層20内で起こるが、樹脂の一部がコーティング層30に入ってコーティング層30内で起こることもある。樹脂として、物理的作用(焼き付け、紫外線照射等)によって硬化する硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂)を用いることができる。紫外線硬化性樹脂には、例えば、ウレタンアクリレート、アクリルアクリレート、エポキシアクリレート等の市販品を用いることができる。
【0022】
下地層20の厚さは、光ファイバケーブル1の可撓性、水分の浸透の防止、コーティング層30の体積収縮力に対するバリア、グリフィスフローの成長の抑制の観点に基づいて任意の厚さに設定することができる。下地層20が厚くなるとコーティング層30の断面積が増えて光ファイバケーブル1の可撓性が小さくなるので、光ファイバケーブル1の可撓性を確保するには、下地層20の厚さは、10μm以下であることが望ましく、好ましくは8μm以下、より好ましく6μm以下である。下地層20が水分の浸透を防止するには、下地層20の厚さは、1μm以上であることが望ましく、好ましくは2μm以下、より好ましく3μm以下である。
【0023】
下地層20は、光ファイバ10の表面を保護し、コーティング層30を通過してくる大気中の水分の光ファイバ10への付着を防ぎ、光ファイバ10の折れを防ぎ、光ファイバ10の長期保存性を確保する機能を有する。また、下地層20は、破断の原因となる水の侵入によるグリフィスフローの成長を抑制する機能がある。さらに、下地層20は、光ファイバ10とコーティング層30との間に介在することによって、コーティング層30の乾燥(コーティング層30中のバインダの縮合)によるコーティング層30の体積収縮力が直接的に光ファイバに作用しないようにして、伝送損失の原因となるマイクロベンドを抑える機能がある。下地層20は、樹脂の少なくとも一部が炭素化(炭化)ないし焼失した状態になっても、上記の機能に準ずる機能がある。
【0024】
コーティング層30は、セラミックス粒子及びバインダを含む層である。コーティング層30は、1000℃以上の耐熱性を確保する機能を有する。セラミックス粒子には、光ファイバ10のクラッド12に用いられる材料(例えば、石英)の熱膨張係数(例えば、石英であれば0.48×10-6)に近い低熱膨張係数材料、例えば、石英、チタニア、ジルコニア、アルミナ等の単体又はいずれかの混合物を用いることができ、クラッド12に用いられる材料と同じ材料(例えば、石英)を主成分とすることが好ましいが、グリフィスフローの成長による破断を抑制することを考慮するとα-アルミナを主成分とすることが好ましい。セラミックス粒子には、金属窒化物を用いてもよい。バインダは、セラミックス粒子間を結合する。バインダは、硬化したときに、非晶質ないし多孔質になることがある。バインダは、硬化したときに、金属アルコキシドの一部ないし全体が縮合している。金属アルコキシドには、例えば、シリコンアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシド等を用いることができ、好ましくはシリコンアルコキシドである。シリコンアルコキシドとして、例えば、TMOS(Tetramethyl orthosilicate:オルトケイ酸テトラメチル)、TEOS(Tetraethyl orthosilicate:オルトケイ酸テトラエチル)等のシリコーン樹脂を用いることができる。
【0025】
コーティング層30の厚さは、光ファイバケーブル1の耐熱性、光ファイバ10の直径、可撓性、マイクロベンド抑制、及び、下地層20の炭素化(炭化、黒色化)ないし焼失の観点に基づいて設定することができる。光ファイバケーブル1が1000℃以上の耐熱性を有するには、コーティング層30の厚さが1μm以上であることが望ましく、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上である。下地層20の炭素化ないし焼失を確保するには、コーティング層30の厚さが20μm未満であることが望ましく、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下である。光ファイバケーブル1が十分な可撓性を有するには、光ファイバ10の直径が小さくなるにしたがいコーティング層30を20μm未満の厚さで薄くすることが望ましい。マイクロベンドを抑えるには、光ファイバ10の直径が小さくなるにしたがいコーティング層30を20μm未満の厚さで薄くすることが望ましい。コーティング層30におけるセラミックス粒子の粒径は、コーティング層30の厚さ以下である。セラミックス粒子の平均粒径は、コーティング層30の厚さより小さく、かつ、0.8μm~1.5μmとすることができる。
【0026】
コーティング層30は、例えば、ゾルゲル法を用いて、金属酸化物粒子と、バインダの硬化前の成分である金属アルコキシドと、アルコールとを含む無機コーティング剤を下地層20の外周面に塗布して、乾燥ないし加熱処理を施すことによって形成することができる。当該無機コーティング剤は、金属アルコキシドが大気中の水分と反応して加水分解し、水酸基を持った金属アルコキシドが他の分子と縮合反応することによりアルコール又は水を発生しながら重合して、金属酸化物粒子間をバインダによって結合したコーティング層30が形成される。発生した水はアルコールに溶解して、常温でのコーティング層30の硬化が容易となる。水が溶解したアルコールは、沸点が降下するので、加熱処理によって蒸発してコーティング層30から容易に除去することができる。また、加熱処理によって、コーティング層30の重合密度が増加して物理的強度が向上する。ここで、アルコールには、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等を用いることができる。無機コーティング剤の組成は、例えば、金属酸化物:80重量%~90重量%、金属アルコキシド:5重量%~15重量%、アルコール:1重量%~10重量%とすることができる。
【0027】
次に、実施形態に係る光ファイバケーブルの製造方法の一例について、図面を用いて説明する。
図2は、実施形態に係る光ファイバケーブルの製造装置の一例を模式的に示したイメージ図である。
図3は、実施形態に係る光ファイバケーブルの製造方法の一例を模式的に示したフローチャート図である。
【0028】
まず、加熱炉50(例えば、紡糸炉)で加熱されたプリフォーム40から引き出した(紡糸した)光ファイバ10を製造する(
図3のステップA1参照)。なお、紡糸された光ファイバ10の代わりに、ロールから巻き出した光ファイバを用いてもよい。
【0029】
続いて、光ファイバ10の外周面に、樹脂塗布部51(例えば、押出機)で樹脂(例えば、紫外線硬化性樹脂)を塗布し、硬化処理部52(例えば、紫外線照射装置)で樹脂に硬化処理を施して、光ファイバ10の外周面に下地層(
図1の20)を形成した樹脂被覆光ファイバ41を製造する(
図3のステップA2参照)。
【0030】
続いて、無機コーティング剤塗布部53(例えば、押出機)で樹脂被覆光ファイバ41の外周面に無機コーティング剤を塗布し、樹脂被覆光ファイバ41の外周面に、セラミックス粒子及びバインダを含むコーティング層(
図1の30)を形成した無機被覆光ファイバ42を製造する(
図3のステップA3参照)。なお、無機コーティング剤には、例えば、セラミックス粒子、バインダ(金属アルコキシド)、アルコールを含有するものを用いることができる。
【0031】
続いて、加熱処理部54で無機被覆光ファイバ42を加熱処理(例えば、500℃、数秒間、大気中)してコーティング層(
図1の30)中のバインダを硬化して光ファイバケーブル1を製造する(
図3のステップA4参照)。ここで、加熱処理部54での加熱処理では、少なくとも、コーティング層(
図1の30)における表面ないしその近傍のバインダを硬化(金属アルコキシドの一部を縮合)し、それによって生じた水及びアルコールを気化し、コーティング層(
図1の30)の表面の付着性をなくし、張力調整部55及び巻き位置調整部56におけるプーリや、ロール57に光ファイバケーブル1が付着しないようにし、光ファイバケーブル1同士で付着しないようにできればよい。なお、加熱処理部54での加熱処理で、金属アルコキシド全体を縮合したり、下地層の樹脂の少なくとも一部が炭素化(炭化)してもよい。
【0032】
続いて、張力調整部55で光ファイバケーブル1の張力を調整し、張力調整された光ファイバケーブル1を、巻き位置調整部56で巻き位置を調整しながら、光ファイバケーブル1を所定の速度(例えば、40m/min)でロール57に巻き取る(
図3のステップA5参照)。
【0033】
その後、光ファイバケーブル1の巻き取りが終わったロール57を加熱装置58内に移して、加熱装置58において、光ファイバケーブル1に、加熱処理部54での加熱処理よりも低温かつ長時間(例えば、100℃、30分~1時間、大気中)の他の加熱処理を施す(
図3のステップA6参照)。ここで、加熱処理部54での加熱処理では、光ファイバケーブル1のコーティング層30におけるバインダ全体を硬化(残りの金属アルコキシド全体を縮合)し、それによって生じた水及びアルコールを完全(ないしそれに近い状態)に除去する。なお、加熱処理部54での加熱処理で、金属アルコキシド全体を縮合したり、下地層の樹脂の少なくとも一部が炭素化(炭化)していれば、ステップA6を省略してもよい。
【0034】
実施形態によれば、光ファイバ10とコーティング層30の間に、樹脂が硬化した下地層20が介在することにより、水分の光ファイバ10への付着を防ぎ、グリフィスフローの成長を抑制し、保存中の破断を防止して光ファイバ10の良好な状態を長期に保存することに貢献し、かつ、1000℃以上にしたときにもコーティング層30におけるバインダの体積収縮力の作用を抑え、マイクロベントを抑えて光ファイバ10における伝送損失の変動を抑えることに貢献することができる。
【実施例0035】
以下、実施例について比較例を用いて説明する。
【0036】
[コーティング層に用いる無機コーティング剤の選定]
実施例及び比較例の各種試験を行う前に、コーティング層に用いる無機コーティング剤の選定を行った。コーティング層に用いる無機コーティング剤の選定では、直径230μmの光ファイバの外周面に、下地層を用いずに、各種市販品(無機接着剤)の無機コーティング剤を塗布し、メーカ推奨硬化条件で加熱処理を施して無機コーティング剤を硬化してコーティング層を形成することによって、コーティング層の厚さが10μmの試料を作製した。作製した試料は、先端部を3cm引き出した末端部で固定し、常温で、試料の先端に0.5%の曲げ歪をかけて、試料の延在方向から見て上下左右に曲げたときに、試料が折れるか否かをテストして、コーティング層に用いる無機コーティング剤を選定した。折れなかった試料は、表1の無機コーティング剤A~Dのうち無機コーティング剤Bを用いた試料のみであった。無機コーティング剤A、C、Dを用いた試料は、全て折れた。無機コーティング剤A、C、Dは、分散媒が水であり、硬化時間が長く、光ファイバケーブルの連続的な製造に適しないことがわかった。以下の実施例及び比較例では、コーティング層に用いる無機コーティング剤に無機コーティング剤Bを選定した。
【0037】
【0038】
[実施例及び比較例の作製条件]
実施例及び比較例に係る光ファイバケーブルの試料は、直径230μmの光ファイバの外周面に、下地層としてウレタンアクリレート(表2の成分表参照)を塗布し、紫外線照射することによってウレタンアクリレートを硬化し、硬化されたウレタンアクリレートの外周面に、コーティング層としての表1の無機コーティング剤Bを任意の厚さで塗布して乾燥処理(室温、1時間、大気中、無機コーティング剤Bの1次硬化)を施し、100℃加熱処理(100℃、1時間、大気中、無機コーティング剤Bの2次硬化)を施すことによって作製した。その後、テストの条件に応じて、試料に500℃加熱処理(500℃、1時間、大気中)を施した。ウレタンアクリレートを硬化した下地層の厚さは、10μmで共通である。なお、ここでの試料の作製においては、無機コーティング剤Bの塗布直後に、
図2の加熱処理部54で行うような表面部のバインダの硬化を目的とする加熱処理(500℃、数秒間、大気中)を行っていない。
【0039】
【0040】
[外観テスト]
コーティング層厚のみ変えた複数の試料を、上記作製条件で作製したときの外観テスト(色の変化、カールの有無)を行った(表3参照)。コーティング層厚が20μm以上の比較例1~5は、500℃加熱処理前では白色で、加工性や可撓性に悪影響を与えるカールが発生し、500℃加熱処理後でも白色のままで、カールが発生したままであった(
図4(A)参照)。また、コーティング層厚が20μm以上の比較例1~5では、コーティング膜厚が厚くなるにしたがい、カールの曲率が大きくなる傾向があった。このことから、コーティング膜厚が厚くなるにしたがい、光ファイバで受けるコーティング層の体積収縮力が強くなることがわかった。また、コーティング層厚が20μm以上で下地層の炭素化ないし焼失が進まないことがわかった。一方、コーティング層厚が20μm未満の実施例1、2は、500℃加熱処理前では白色でカールが無く、500℃加熱処理後では黒色に変化したがカールが無いままであった(
図4(B)参照)。以上のことから、下地層の炭素化ないし焼失を考慮すると、コーティング層厚は20μm未満が適当であるといえる。なお、光ファイバの直径が230μmよりも大きい場合、コーティング層厚20μm以上でもカールが抑えられる可能性があるが、下地層の炭素化ないし焼失が進まないので、コーティング層厚20μm未満が適当であるといえる。
【0041】
【0042】
[実施例1の外観の500℃加熱処理前後の変化]
実施例1(コーティング層厚10μm)の外観について、500℃加熱処理前では白色があったが(
図5(A)参照)、500℃加熱処理後では金属光沢を呈した黒色であった(
図5(B)参照)。白色から黒色に変化したのは、下地層が炭素化したことが原因である。また、外観が白色の500℃加熱処理前の実施例1のX線回折パターンは、α-アルミナ単体のX線回折パターンのピーク位置と同じ位置にピークがあるので(
図6参照)、実施例1のコーティング層にはα-アルミナが存在するといえる。外観が黒色である500℃加熱処理後の実施例1のX線回折パターンも、α-アルミナ単体のX線回折パターンのピーク位置と同じ位置にピークがあるので(
図7参照)、実施例1のコーティング層にはα-アルミナが存在するといえる。
【0043】
[光ファイバケーブルの可撓性シミュレーション]
光ファイバケーブルの可撓性シミュレーションでは、コーティング層厚の選定のため、材料力学に基づく理論値を用いて光ファイバケーブルの撓み量を計算した。撓み量の計算では、光ファイバケーブルをモデルとし、室温で、
図8のように、光ファイバケーブルを水平に配置し、一端を固定し、一端からファイバ長Lの位置の他端に荷重Pをかけたときの撓み量δを計算した。材料力学に基づく理論値には、表4のように、光ファイバ材料、光ファイバ直径、下地層材料、コーティング層材料、コーティング層厚、ファイバ長、及び、荷重を設定した。計算された撓み量の結果を
図9に示す。光ファイバケーブルの可撓性に関しては、光ファイバの直径が支配的であり、光ファイバの直径が小さいほど撓み量は大きい。同じ直径の光ファイバにおいて、荷重の増加による変位が少ないコーティング層厚では可撓性が少ないためコーティング層厚として適さない。例えば、直径230μmの光ファイバにおいて、コーティング層厚20μm以上では、可撓性が少なく、使用には適さないと予想される。なお、光ファイバの直径は、求める光量により選択される。
【0044】
【0045】
[光ファイバケーブルの耐熱性試験]
光ファイバケーブルの耐熱性試験では、光ファイバを直径230μmとし、下地層を厚10μmとし、コーティング層厚を10μmとし、かつ、ファイバ長2mとした試料(実施例3)を半分の折返部で折り返し、折返部と端部との間の部分(2本)を加熱装置における長さ500mmの加熱管に通して加熱管の両端を封止し、加熱管を、室温から1000℃まで昇温速度500℃/hで昇温し、1000℃で2時間放置し、1000℃から自然降温したときの試料の光出力変化量を、試料の両端部と接続された光出力測定装置で測定した(
図10参照)。室温から1000℃までの昇温過程での光出力変化量(相対量)は0.1dBであった(
図11参照)。また、1000℃にて2時間放置している間の光出力変化量(相対量)は0.2dBであった。さらに、1000℃から400℃付近までの自然降温過程での光出力変化量(相対量)は0.1dBであった。以上のことから、当該実施例は、少なくとも1000℃の高温でも伝送損失を抑えることができる耐熱性を有することがわかった。なお、耐熱性試験後に
図10の加熱装置から試料を出したときに、加熱管内にあった試料の部分は白色(下地層の樹脂が消失した状態)になっており、加熱管外における加熱管近傍にあった試料の部分は黒色(下地層の樹脂が炭素化した状態)になっており、加熱管外における加熱管から遠くにあった試料の部分は白色(下地層の樹脂が炭素化していない状態)になっていた。
【0046】
上記実施形態及び実施例の一部または全部は以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0047】
[付記1]
線状に延在する光ファイバと、
前記光ファイバの外周面に被覆されるとともに、樹脂が硬化した下地層と、
前記下地層の外周面に被覆されるとともに、セラミックス粒子及びバインダを含むコーティング層と、
を備え、
前記コーティング層の厚さは、1μm以上かつ20μm未満である、
光ファイバケーブル。
[付記2]
前記樹脂は、紫外線硬化性樹脂である、
付記1記載の光ファイバケーブル。
[付記3]
前記紫外線硬化性樹脂は、ウレタンアクリレートである、
付記2記載の光ファイバケーブル。
[付記4]
前記セラミックス粒子は、α-アルミナを主成分とする、
付記1乃至3のいずれか一に記載の光ファイバケーブル。
[付記5]
前記セラミックス粒子の平均粒径は、0.8μm以上かつ1.5μm以下である、
付記4記載の光ファイバケーブル。
[付記6]
前記バインダは、金属アルコキシドの一部ないし全体が縮合したものである、
付記1乃至5のいずれか一に記載の光ファイバケーブル。
[付記7]
前記金属アルコキシドは、シリコンアルコキシドである、
付記6記載の光ファイバケーブル。
[付記8]
前記下地層の厚さは、1μm~10μm以下である、
付記1乃至7のいずれか一に記載の光ファイバケーブル。
[付記9]
前記光ファイバケーブルは、大気中で500℃かつ1時間加熱したときに黒色化するように構成されている、
付記1乃至8のいずれか一に記載の光ファイバケーブル。
[付記10]
前記下地層は、前記樹脂の少なくとも一部が炭素化ないし焼失された状態である、
付記1乃至8のいずれか一に記載の光ファイバケーブル。
[付記11]
線状に延在する光ファイバの外周面に、樹脂を硬化した下地層を形成する工程と、
前記下地層の外周面に、セラミックス粒子及びバインダを含むコーティング層を形成する工程と、
加熱処理して前記バインダを硬化する工程と、
を含み、
前記コーティング層の厚さは、前記バインダが硬化した後において1μm以上かつ20μm未満である、
光ファイバケーブルの製造方法。
[付記12]
前記下地層を形成する工程では、紫外線により前記樹脂を硬化する、
付記10記載の光ファイバケーブルの製造方法。
[付記13]
前記バインダを硬化する工程では、前記加熱処理によって、前記バインダにおける金属アルコキシドの一部ないし全体を縮合する、
付記10又は11記載の光ファイバケーブルの製造方法。
[付記14]
前記バインダを硬化する工程の後、前記加熱処理よりも低温かつ長時間で他の加熱処理を行う工程をさらに含む、付記10乃至13のいずれか一に記載の光ファイバケーブルの製造方法。
【0048】
なお、上記の特許文献の各開示は、本書に引用をもって繰り込み記載されているものとし、必要に応じて本発明の基礎ないし一部として用いることが出来るものとする。本発明の全開示(特許請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択(必要により不選択)が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲及び図面を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。また、本願に記載の数値及び数値範囲については、明記がなくともその任意の中間値、下位数値、及び、小範囲が記載されているものとみなされる。さらに、上記引用した文献の各開示事項は、必要に応じ、本願発明の趣旨に則り、本願発明の開示の一部として、その一部又は全部を、本書の記載事項と組み合わせて用いることも、本願の開示事項に含まれる(属する)ものと、みなされる。
下地層20の厚さは、光ファイバケーブル1の可撓性、水分の浸透の防止、コーティング層30の体積収縮力に対するバリア、グリフィスフローの成長の抑制の観点に基づいて任意の厚さに設定することができる。下地層20が厚くなるとコーティング層30の断面積が増えて光ファイバケーブル1の可撓性が小さくなるので、光ファイバケーブル1の可撓性を確保するには、下地層20の厚さは、10μm以下であることが望ましく、好ましくは8μm以下、より好ましく6μm以下である。下地層20が水分の浸透を防止するには、下地層20の厚さは、1μm以上であることが望ましく、好ましくは2μm以上、より好ましく3μm以上である。
第1の視点に係る光ファイバケーブルは、線状に延在する光ファイバと、前記光ファイバの外周面に被覆されるとともに、樹脂が硬化した下地層と、前記下地層の外周面に被覆されるとともに、セラミックス粒子及びバインダを含むコーティング層と、を備え、前記コーティング層の厚さは、1μm以上かつ20μm未満である。
前記第1の視点に係る光ファイバケーブルの変形として、線状に延在する光ファイバと、前記光ファイバの外周面に被覆されるとともに、樹脂が硬化した下地層と、前記下地層の外周面に被覆されるとともに、セラミックス粒子及びバインダを含むコーティング層と、を備え、前記コーティング層の厚さは、1μm以上かつ20μm未満であり、前記バインダは、金属アルコキシドの一部ないし全体が縮合したものである。
第2の視点に係る光ファイバケーブルの製造方法は、線状に延在する光ファイバの外周面に、樹脂を硬化した下地層を形成する工程と、前記下地層の外周面に、セラミックス粒子及びバインダを含むコーティング層を形成する工程と、加熱処理して前記バインダを硬化する工程と、を含み、前記コーティング層の厚さは、前記バインダが硬化した後において1μm以上かつ20μm未満である。
前記第2の視点に係る光ファイバケーブルの製造方法の変形として、線状に延在する光ファイバの外周面に、樹脂を硬化した下地層を形成する工程と、前記下地層の外周面に、セラミックス粒子及びバインダを含むコーティング層を形成する工程と、加熱処理して前記バインダを硬化する工程と、を含み、前記コーティング層の厚さは、前記バインダが硬化した後において1μm以上かつ20μm未満であり、硬化後の前記バインダは、金属アルコキシドの一部ないし全体が縮合したものである。